2021年12月5日 06:00
89年間ゲイを隠して西成へ カムアウトし見つけた「家族」たち
それで突然『自分はゲイですが入れてもらえますか?』って。『え~、こんなとこでカミングアウトする人、いてるんや!』と、たいそう驚いたのを覚えてます(笑)」
89歳のカミングアウトだった。
長谷さんは噛みしめるように、でも心なしかうれしそうにこう、つぶやいた。
「僕にはむすびしか、あらへん。ここが僕の生きる場所や」
■父には別に本妻がいた。小学校を卒業後、戦時下の満州に。帰国後は職を転々とした
長谷さんは1929年、香川県川東村(現・高松市)で生まれた。
「父親は村の医者で、地主やった。
そんで、母親は元看護婦見習い。年が20歳ぐらい離れとった。父親が『お、若い看護婦が来た』言うて、お妾さんにしよったわけや」
そう、長谷さんの父には、母とは別に本妻がいたのだ。
「そやから僕はね、父親とはほとんど会うたことないの。いっぺんだけ小学生のころ、母親が留守するとき、父親が手伝いに来たのは覚えてるわ。ええ父親やったと思うよ。そんときは、なんて呼んだかな……、姉も一緒やったと思うけど、たぶん『お父さん』って呼んだん違うかな(笑)」
笑顔でサラリと話す長谷さんだが、出生時の環境は、その後の彼の人生に濃い影を落としていく。