奥田民生が「たったひとり」で描く無限の開放感 有観客&生配信の『ひとり股旅 2020』最終日レポート
そのもののように観客をその歌世界へと惹き込んでいく。
Photo by Kenji Miura
“何と言う”(2004年シングル曲)や“羊の歩み”(『GOLDBLEND』収録)、“股旅(ジョンと)” (1998年アルバム『股旅』)と自らのキャリアの時系列を自在に行き来したり、曲の合間にグラスの酒をぐびりと飲んだり、客席最前列に配置されたバルーン人形「ハバレロくん」を紹介したり、「配信のみなさま、こんばんは!」とカメラ越しに「外野席」「パネル席」の観客に挨拶したり……といった具合に、MCも演奏もマイペースで進んでいくこの日の『ひとり股旅』。焦燥感や爆走感とは一線を画した奥田民生のライブでも、『ひとり股旅』での時間は心地好くゆるやかで、それでいてその随所に確かな歌の底力を感じさせる。
「久々な曲をやったりして、『いいね』と。『このご時世にも合ってるね』っていうのもあったんだ」という前置きとともに歌い始めたのは“カイモクブギー”(2008年アルバム『Fantastic OT9』)。予測不能な時代を《いまや何もかんもゼッするぜ まさにこれ小説よりキナリ》のフレーズで指し示しながら、ギターのボディをコンコンと叩いて会場のクラップを誘ってみせる。