綾野剛が見た一筋の光「息苦しくなったら、空を見上げてみればいい」
この息苦しさから解放され、もっと伸びやかに呼吸をしていくために、今、必要なものは何だろうか。
「美しいものを見る、ってことじゃないですか。たとえばですけど、最近いつ空を見上げました?」
映画について語る熱っぽい言葉がふっとやわらぎ、綾野の声に優しく穏やかな風が吹いた。
「曇っていてもいいんです。綾野剛に言われたなと思って、10秒ぐらい、ちゃんと空を見てみてください。『やあ、久々』って気分になりますよ。そしたらきっと空も『やあ、久々』って返してくれる。空は誰のことも平等に見つめてくれているんです。
強い人も、強くない人も、人以外の生き物であっても、平等に。どんなに孤独でも、空は見つめてくれていることを忘れないことが大事なんじゃないでしょうか」
インタビューを終えると、切れ長の瞳をくしゃりと綻ばせ、「ありがとうございます。またお願いします」と丁寧にお辞儀をして部屋を出た。クールなマスクとは対照的に、誠実な人だ。
銀幕の中に生きる役はあくまでつくりものでしかない。それでも、綾野が命を吹き込むと、まるで本当に生きている人のように心を吸い寄せられてしまうのは、どこまでもまっすぐ向き合うこの誠実さにあるのかもしれない。
撮影/奥田耕平取材・文/横川良明