【立川志らくインタビュー 後編】10回目となった語り納めの独演会で「芝浜」を
あるまじき美談の「芝浜」は、されど「芝浜」だった。落語家は、自分がこの噺を演じる価値を、ついに発見する。
「わたしの中では、一番遊べる落語なんです、「芝浜」は。どういうことかと言うと、その場でアドリブができるということ。登場人物が、基本ふたりっきゃいないから、そのときの気分で、アドリブが本当にやりやすい。高座に上がったそのときの気分と、観客席の雰囲気と、自分が思っていることとが、ピタッと合ったとき、いいものになる。アドリブの「芝浜」をやり続けることで、自分の変化や進化もわかる。今年なんか特に、1年間、これだけ自分がいろんなものを仕入れたわけだから、こんな「芝浜」になりました、という、自分のバロメーターにもなる。
そう気づいたことで、「芝浜」が好きになっていった。師匠が亡くなってから後のことです」
コロナ禍は世界的には悲劇だけれども落語家の人生としては自分を見直すいい機会
立川志らく/撮影:山田雅子
少し質問の回り道をして、この演者が、現下のコロナ禍をどうとらえているのかを訊こう。
「コロナの影響で、ノリの落語会がやりづらくなってきているな、という肌感覚はあります。ソーシャルディスタンスがあるから、会場によっては、席数の制限いかんにかかわらず、満席での上演はむずかしいと判断するケースもある。