一筋縄ではいきそうもない役について、こともなげに語る香川。そこには今年6月、46歳で初めて歌舞伎の舞台に立ったことも大きく影響しているのだという。「肚は据わりましたね。あんなにキツいことはないです。でもそれを通過して、なんとか生き延びた。そのことで演技に影響があるとすれば、たいていの役を飲みこめる立場にはなりました」。これまで積み上げてきた経験。そして歌舞伎というものと対峙し、乗り越えたこと。
香川の演技を支えるのは、どうやら人生そのものらしい。
「映画や演劇のような“ごっこ”を、“夢を与える”なんてきれいごとの上でやらせてもらっている。ならば真剣に、自分の味わってきたことを架空の人物に入れてみる。それが好きなんです。好きというか、それしかできない」と語る香川。ここまで全身全霊で役にぶつかる役者も、そのことをさらけ出す役者もそうそういるものではない。「とかくこの仕事はプライドが積み上がりやすいんです。でもある時、自分は100人いたら100番目、200人いたら200番目だと心底思えた。
プライドを捨てたらどんな演技でも、いや、どんな生き方でもできると思う」。香川自身の生き方が注ぎ込まれた演技を見届けたい。