音楽に青春というプロローグを。〈ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール〉【洒脱なレディ論】
すぐにジェームズは彼女を名ばかりのアシスタントに命名し、教え子キャシーの元へと訪れる。私立学校に通う生粋のお嬢様であるキャシーは、大した才能もないのに歌を作りたい情熱はジェームズを個人レッスンを依頼するほど。こうして集まった3つの才能は、1つのバンドとして開花する。…と、ここまで読んだ方は、音楽を通じてヒロインが自己発見をするなんてきっとわたしたちはハイスクール・ミュージカルでお腹いっぱいだと仰るかもしれない。たしかによくあるといってしまえばそれまでのあらすじだろう。それが新鮮なのは終始曇り空で展開される物語の色合いと、それを助長させる全編16mmフィルムで撮影された映像の果たす役割は大きい。そもそもこの映画は構想から数えると10年もの月日をかけて作られた映画。ベル・アンド・セバスチャンのフロントマンであるスチュアート・マードックがランニング中に思いついたフレーズから端を発したこの作品は、彼自身が引きこもり生活を経験していたこともあり、イヴはどこまでも繊細で詳細に、そして物語は常に優しいトーンで紡がれていく。
唯一の救いは、歌うことバンドのサクセスストーリーでもなければましてや恋愛映画にすら属さない。