涙の土地契約【新宿に建売住宅の値段で注文住宅を建てて住んでいます】
を聴きながら恋い焦がれた東京。
その憧れの東京に、狭小地ながらも一国の主となれたのです。
こうして多額のローンを背負う覚悟を決めるまでに、鳥夫もたくさん怖れの感情を越えてきました。
その一方で、いまいち浮かない顔の鳥……。
実は、鳥は「四ツ谷がいい」という本心を鳥夫に話せないままこの日を迎えていたのです。間取図作成・ローン審査・契約締結などなど、それなりに前向きな姿勢がないと進められなかったので、鳥自身も自分の気持ちに蓋をして走り続けてきたのです。
いつも喜怒哀楽のはっきりしている鳥が、いまいち歓喜していない様子を見て、鳥夫が尋ねました。
「どうしたの?嬉しくないの?」
その一言を聞いて、堰を切ったようにぽたぽたと大粒の涙が流れ落ちました。
「四ツ谷に注文住宅を建てる夢が忘れられない……。まさにマリッジブルーという感じ……。大好きな人以外と結婚するのが怖い……。将来が見えない……」
まだ帰宅ラッシュの終わっていない中央線のなかで、鳥は泣きながら告白しました。
(鳥)
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