マーティン・スコセッシ監督(75)が、批評サイトが映画業界に悪影響を及ぼしていると非難した。『グッドフェローズ』『タクシードライバー』『レイジング・ブル』など、映画史に残る数々の傑作を生み出した大御所監督のスコセッシが、映画レビューを掲載するサイトの数々に苦言を呈している。マーティン・スコセッシ(C)BANG Media Internationalスコセッシはドラマや映画の予告編、テレビCMや『アラビアのロレンス』のような過去の作品までなんでも閲覧できる世の中になったことを挙げ、その一方でその作品に関連する重要な感覚が捉えられていないままで次のコンテンツへと移り変わるような状況になっていると指摘した。そしてそのわずかな時間での判断をネット上で広められているとして、「それによって推進されるひどいアイデアというのは、全ての映画や画像がそこで瞬間的に判断され、観衆に見るチャンスを与えることなく片付けられてしまうということなんだ」「よく考えたり、自分たちで判断する機会があるべきだよ」と続けた。そしてターナー・クラシック映画祭の場では観衆に、YouTubeと素晴らしいアメリカ芸術のかたちの違いを理解し、その場に足を運ぶことで、劇場と映画の価値の引き下げに反対の意を表してくれていると称賛した。(C)BANG Media International
2018年05月09日ミュージカル界のトップスターたちとフルオーケストラの共演が楽しめる『ミュージカル・ミーツ・シンフォニー』。その第8弾が、6月7日(木)と8日(金)、東京・オーチャードホールにて開催される。そこで出演者のひとりであり、本シリーズへの参加は初となる柿澤勇人に話を聞いた。【チケット情報はこちら】この取材前に行われていたのが、海外からのゲストであるノーム・ルイスと柿澤の対談。ルイスは『レ・ミゼラブル25周年記念コンサート』のジャベール役で注目された、ミュージカル界のトップスターだ。「すごくお茶目で、優しくて、心のあったかい人でしたね。今やっている『メリー・ポピンズ』(※6月5日(火)まで上演中)もそうですが、考え方も文化も違う外国の方とご一緒すると、自分がいかに小さい人間だったかを思い知らされる瞬間があって…(笑)。すごく刺激になりますし、励みにもなるんです」ミュージカル経験は豊富だが、ミュージカル系のコンサートにはこれまでほとんど出演してこなかった柿澤。今回そんな彼の背中を押したのは…。「まずはフルオーケストラとやれるってことですよね。しかもブロードウェイの第一線で活躍されている大先輩方と一緒に!ノームさんとのデュエットは一生の思い出にしたいですし、そこから何かひとつでも学べたらいいなと思います」柿澤はこれまでの出演作『デス・ノート The Musical』や『紳士のための愛と殺人の手引き』のほか、今秋9月に開幕する『シティ・オブ・エンジェルズ』からのナンバーも披露する予定。「『デス・ノート』はあえて僕が演じた夜神月のではない曲を選びました。その方が自分自身楽しめるんじゃないかなと。『紳士~』の曲は、コンサートで歌うのはもちろん初めて。そもそもコンサートでの歌い方というのがまだどんなものか全然わかっていないので、『メリー・ポピンズ』の休演日にしっかり練習しようと思います!」柿澤の言葉にもあるように、今彼は名作ミュージカル『メリー・ポピンズ』のバート役として大奮闘中。役者として新たな一面を開花させている。「バートにはタップのビッグナンバーがあるので、それこそ泣きながらタップの練習をしました(笑)。ただあそこまで自分に負荷をかけて必死にやった経験っていうのは、今後何かしらに繋がっていくと思いますし、役者としてすごくいい経験をさせてもらえたなと。このコンサートもそういったもののひとつで、自分にとって次へのエネルギーになればいいなと思います」チケットは発売中。取材・文:野上瑠美子■『ミュージカル・ミーツ・シンフォニー2018』6月7日(木)オーチャードホール(東京都)6月8日(金)オーチャードホール(東京都)6月9日(土)フェスティバルホール(大阪府)
2018年05月02日世界中から作曲委嘱が引きも切らない人気の現代作曲家・藤倉大。この秋東京で、彼に関連するコンサートが3本、続けざまに催される。英国から一時帰国中の藤倉本人が出席して記者懇談会があり、概要が発表された。【チケット情報はこちら】1977年生まれの藤倉大は、中学卒業後に英国に留学して作曲を学んだ。彼の音楽は、けっして耳当たりのよい柔和な響きの作風ではない。いわゆる現代音楽でありながら、多くの演奏家がその作品に魅せられ、聴衆の絶大な支持を得ている現実こそが、その魅力を示す凄みだと言えるだろう。一連のコンサートは、まず9月24日(月・祝)、昨年に続いて行なわれる東京芸術劇場の「ボンクリ・フェス2018」から。アーティスティック・ディレクターを藤倉が務める。「ボンクリ」とは「ボーン・クリエイティヴ(Born Creative)」の略。「人間は生まれながらにクリエイティヴだ」というコンセプトのもと、「赤ちゃんからシニアまで誰もが、朝から晩まで、新しい音楽を面白く聴ける」(藤倉)という複数のイベントによる1DAYフェスティバルだ。フェス全体は、坂本龍一や大友良英の作品などが演奏される17時半開演の「スペシャル・コンサート」と、その出演者たちが、子供たちにもわかりやすく説明を交えながら演奏する複数のワークショップ・コンサートを中心とする「デイタイム・プログラム」で構成される。「いろんな聴き方ができることをやりたくて、好きな奏者に声をかけたら、みんな乗り気で来てくれちゃった(笑)」と藤倉が言うように、ワークショップ部分は昨年から大幅に拡大された。細部については当日決まる部分もあり、藤倉は「クラシックのコンサートって、きっちり決まっていることが多いけど、わざとぼんやり、やわらかく作ってます」と、フレキシブルな自然体を強調した。続く10月20日(土)の「藤倉大個展」(Hakuju Hall)と、10月31日(水)の藤倉作曲のオペラ《ソラリス》の演奏会形式日本初演(東京芸術劇場)では藤倉作品をたっぷり聴ける。前者は委嘱作品初演を含む室内楽作品の個展。ホールの開館15周年記念公演でもある。一方の《ソラリス》は、2015年にパリで初演された藤倉の初オペラ。タルコフスキーによる映画化でも知られる、SF作家スタニスワフ・レムの小説『ソラリス』が原作だ。「いつかオペラの依頼が来たら『ソラリス』と決めていた」という藤倉だが、原作のSFとしての興味からではなく、すべての登場人物の内面の感情が描かれるこの文学作品を表現するのに、オペラこそが最適と考えたのだという。話題のオペラがいよいよ日本でヴェールを脱ぐ!藤倉は自身のホームページ上でスコアを公開しているから、閲覧してみると(たとえ眺めるだけでも)作曲家と作品への興味は、さらに掻き立てられるはず。今年の秋は藤倉大に注目。チケットの一般発売に先がけて、プリセールを実施。受付は4月21日(土)昼12時から27日(金)午後11時59分まで。取材・文:宮本明
2018年04月20日マジンガーZにサンバルカン、ギャバン……。アニメ・特撮音楽の巨匠、渡辺宙明(わたなべ・ちゅうめい)が生み出した“宙明サウンド”を、水木一郎、堀江美都子、串田アキラの三大アニソン歌手の歌声と、壮大なオーケストラで存分に堪能する贅沢なコンサート「渡辺宙明特集ヒーローオーケストラ~昭和の子どもたちへ~」が4月21日(土)に文京シビックホール大ホールで開催される。開催に先立って、17日に東京・浜離宮朝日ホールにてリハーサルが行われた。【チケット情報はこちら】総勢31名によるオーケストラ・トリプティークによって、『野球狂の詩』『あかるいサザエさん』『ローラーヒーロー・ムテキング』『時空戦士スピルバン』『マジンガーZ』と、昭和の子供たちを育てた数々の名曲が現代に蘇っていく。指揮を務める齊藤一郎は、的確な指揮で情熱的でノリの良い音楽を作っていた。その横で譜面を手にした渡辺宙明は、「とても良いメンバーが集まって嬉しいですね」と笑顔で優しく語りかけていた。『宇宙刑事シャリバン』の主題歌で現在もカラオケ人気の高いロックナンバー『強さは愛だ』では渡辺が「ここでドラムのフィルを入れてください」と指示を出し、『宇宙刑事ギャバン』では、シンセによって再現される琵琶のヴォリュームを調整。“宙明サウンド”といえば“マイナーペンタトニックスケール”が代名詞であることは間違いないが、『おれはグレートマジンガー』のイントロのティンパニや『太陽戦隊サンバルカン』のコンガなど、ビートの組み立てや打楽器のポジションなどにも細心の注意が払われていることがわかるリハーサルだった。何より驚かされたのは、92歳になる渡辺が全てのリハーサルに参加していることだ。リハーサルでは渡辺が自ら指揮をとり指導をする場面もあった。アニメ『ふたりはプリキュア』のヴォーカルアルバムにも参加するなど、今なお、現役の作・編曲家として現場で活躍している。そんな渡辺は、リハーサルを終えて、「40年前の曲だけど、自分で聞いてもちゃんとやってるなと感じましたね。僕はやっつけ仕事はやらないから、BGMもちゃんとしてますよね」と笑顔で語り、本番に向けて、「今日、オケではやってない掛け声とかは、黙っていても聴衆がやってくれると期待しています。お客さんも演奏に参加してもらえたら嬉しいですね。そして、盛り上がった最後に、皆さんで歌えたらいいなと思っています。そうなったら僕が指揮を振ろうかな」と、サプライズでの登壇も匂わせた。チケットは発売中。取材・文:永堀アツオ■渡辺宙明特集ヒーローオーケストラ~昭和の子どもたちへ~日時:4月21日(土)開演15時会場:文京シビックホール大ホール(東京都)出演者:渡辺宙明 / 水木一郎 / 堀江美都子 / 串田アキラ指揮:齊藤一郎演奏:オーケストラ・トリプティーク司会:西耕一
2018年04月19日エモーショナルな「歌」で心を揺さぶる豊かな表現意欲を、松田理奈はおそらくナチュラルに持っているヴァイオリニストだ。そんな彼女の今回のリサイタルのテーマは「愛」。「今まで組んできたプログラムとはまったく違うえぐり方。トライしてゆきたいです」と抱負を語る。【チケット情報はこちら】曲目は、前半にフォーレとエルガーの愛の小品と、イザイの結婚祝いのために書かれたフランクの《ヴァイオリン・ソナタ》。後半は、シューマンの小品とブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番《雨の歌》を組み合わせた。クララを巡るシューマンとブラームスの愛の歌たちだ。核となる2曲のソナタのカップリングでCDもリリースする。「ブラームスのソナタ全3曲を録音してゆく予定ですが、3曲それぞれに別のストーリーをフィーチャーしたいと考えました。その第1弾として第1番をフランクと組み合わせたのも、『愛』がテーマなのです」末子フェリックスが早世して悲しむクララのためにブラームスが捧げたとされるのがヴァイオリン・ソナタ第1番。「悲しく暗い第3楽章の、最後の一段に出てくる主題にすべてがかかっている。それを聴いて、どれだけあたたかい気持ちになっていただけるかが自分に課した課題です。そこに向けてしっかり歌い込めるようにしてゆきたい」数年前まで、ブラームスの盟友ヨーゼフ・ヨアヒムが使用していたガダニーニを弾いていたことで、さまざまな気づきを得た。「楽譜に不自然に弱音の指示がある箇所が、ヨアヒムの楽器だと特別によく鳴る音なんです。ブラームスがヨアヒムの演奏を聴いて、鳴りすぎと感じて書き加えたのかもしれませんね。それを実際の楽器を通して感じることができた経験はとても貴重でした」CDのレコーディング中には、フランクのソナタで不思議な体験をしたという。「第4楽章を弾いていたら突然、今まで苦手だった人のイメージが、感謝のイメージと一緒にわーっと浮かんできたんです。そうか、感謝の気持ちを忘れずにというメッセージが込められた曲なのかと感じました。10年以上弾いてきて、結婚祝いにしては、あのドロドロした第3楽章はなんだろうと、ずっと疑問だったんです(笑)。“感謝”を感じてからは、若い勢いで弾きがちな第4楽章にも、ぬくもりが出てきたような気がします」最近「クラシック音楽が楽しくて仕方がない」という。「あらためて“あれ?なんて素敵な世界なんだろう”と感じています。音楽に触れる時間が昔よりも貴重になったのがよかったのかも。ひとつの曲にいろんな解釈があって、正解がないからこそ楽しい。聴いてくださる方の解釈もそれぞれ。私がトライするのは、最後にホッとして帰っていただくこと。相手を思いやるあたたかい気持ちになっていただけるように。それが願いです」リサイタルは5月18日(金)東京・浜離宮朝日ホールにて開催。チケットは発売中。取材・文:宮本明
2018年04月18日東京交響楽団の2018/19シーズンが、第659回定期演奏会(4月14日(土)サントリーホール)と川崎定期演奏会第65回(4月15日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール)で幕を開ける。タクトをとるのは音楽監督のジョナサン・ノット。マーラーの交響曲第10番アダージョとブルックナーの交響曲第9番という、ふたりの大作曲家が、人生の最後に未完のままのこした遺作の組み合わせだ。【チケット情報はこちら】「作曲家の遺作は、迫り来るあの世の気配を感じさせる。そこに興味を惹かれるのです」(昨秋行なわれたシーズン・ラインナップ発表会見でのノットの発言から。以下同)マーラーとブルックナーはしばしば比較して語られる存在でもある。「面白いもので、指揮者はマーラー派かブルックナー派か、好みが分かれることが多い。その両者を同じプログラムに乗せるとどうなるのか。私にとっても初めての試みです」(ノット)ノットと東響はこれまで、マーラーの交響曲第2、3、8、9番を、ブルックナーの交響曲第3、5、7、8番を演奏している。ノットは言う。「マーラーの《アダージョ》は第9番の経験がなければ演奏できない。過去の演奏経験によって作品を照らす光は違って見える。だからこそ、作品の背景や前後関係にはいつも気を配っています」新シーズンは、さらにこのあとも意欲的なプログラムが並ぶ。まず5月は、飯森範親によるウド・ツィンマーマン(1943~)の歌劇《白いバラ》日本初演(演奏会形式)。1943年、反ナチ運動で逮捕・処刑されたミュンヘンの学生、ハンスとゾフィーのショル兄妹の物語だ。彼らが所属した非暴力レジスタンス・グループの名前が「白いバラ」だった。作品は1967年に作曲されたのち、1985年に台本も差し替えて全面改稿された。この第2稿は1986年のハンブルク州立歌劇場での初演以来、すでに100以上の異なる演出で上演されている20世紀オペラの成功作。待望の日本初演が実現する。6月のシューマンの未完成交響曲《ツヴィッカウ》を挟んで、7月には再びノットが登場してエルガーの《ゲロンティアスの夢》を振る。合唱王国イギリスを代表する宗教オラトリオだが、日本での演奏はこれでまだ6度目。東響としては13年ぶりの演奏となる。イギリス人ながら、「これまでイギリス音楽はあまり演奏していない。身近すぎるのかも」というノット。実は少年時代、エルガーの故郷ウスターの大聖堂聖歌隊で歌っていた。「子供の頃から非常に興味深く何度も聴いた作品。私は歌があまりうまくなかったので指揮者になってしまったが(笑)、東京交響楽団には東響コーラスという素晴らしい合唱団があるので、そろそろ腹をくくってエルガーに挑もうと思います」(ノット)レアな作品が次々に登場する春~夏の東響定期に大きな注目が集まりそうだ。未知の作品を生で共有する体験は、音楽を聴く大きな喜びのひとつ。貴重なチャンスを見逃すな!取材・文:宮本明
2018年04月02日14回目を迎える「フェスタサマーミューザKAWASAKI」2018。概要の発表会見が、3月28日に主会場となるミューザ川崎シンフォニーホール内で開かれた。「奏(so)クール!」をキャッチフレーズに、首都圏のプロ・オーケストラが今年の夏も川崎に勢ぞろいする。プログラムをざっと見てみよう。ミューザを本拠とする東京交響楽団が、ホスト・オーケストラ役としてオープニング(7月21日(土))とクロージング(8月12日(日))に登場、生誕100年のバーンスタイン作品を含む祝典プログラムを聴かせる。前者の、大西順子、中川英二郎、本田雅人らトップ・ジャズ・ミュージシャンたちの共演は聴き逃せないし、後者の、かつて舞台上演でも主役を演じた幸田浩子、中川晃教の二人が歌う《キャンディード》(バーンスタイン)からのナンバーにも注目だ。7月22日(日)新日本フィルと7月29日(日)は東京シティ・フィル、2公演で「正統派ドイツ音楽 I&II」。前者では横山幸雄のモーツァルト第20番、後者ではシュテファン・ヴラダーによるベートーヴェン《皇帝》と、定番の名ピアノ協奏曲も楽しめる。一方、平日の7月24日(火)と8月3日(金)の2公演は、期待の若手ロレンツォ・ヴィオッティが指揮する東京フィルのラヴェル&ドビュッシーと、川瀬賢太郎/神奈川フィルのサン=サーンス特集による「絶品フレンチ I&II」を形成する。こちらも、小山実稚恵のラヴェル(7月24日(火))、サン=サーンスでは神尾真由子のヴァイオリン協奏曲第3番、4月からミューザのホール・オルガニストに就任する大木麻理の交響曲第3番と、共演者も楽しみな陣容。ほかにも、現在パーヴォ・ヤルヴィの助手を務める1992年生まれの熊倉優が振るNHK交響楽団(8月4日(土))、鬼才マルク・ミンコフスキが都響を率いる《くるみ割り人形》(8月5日(日))、反田恭平がラフマニノフの《ピアノ協奏曲第5番》(交響曲第2番の編曲)を日本初演する藤岡幸夫/日本フィル(8月9日(木))、客席の投票でNo.1を決める東京ニューシティ管の「灼熱のアリアバトル」(8月10日(金))、もはやおなじみ新百合ヶ丘テアトロ・ジーリオ・ショウワでの「出張サマーミューザ@しんゆり」(7月29日(日)&8月4日(土))など、例年にも増して魅力的なラインナップがずらり。オーケストラ公演以外にも、恒例の「サマーナイト・ジャズ」(7月28日(土))や、鈴木雅明のオルガンによる「真夏のバッハ」(8月11日(土・祝))など、日程を眺めているだけで食指が動く。いつものように、プレトークや公開リハーサル、出演者による室内楽など、開演前のうれしい「おまけ」もチェックしたい。「フェスタサマーミューザKAWASAKI」2018は7月21日(土)から8月12日(日)まで全19公演。会期後半には、昨年逝去した音楽写真家・堀田正矩さんの追悼写真展「音楽へのまなざし」も併催される(7月31日(火)~・ミューザ川崎企画展示室)。取材・文:宮本明
2018年03月30日上岡敏之の音楽監督3年目となる新日本フィルハーモニー交響楽団の2018/19シーズン定期演奏会ラインナップが決定、上岡やソロ・コンサートマスター崔文洙らが出席して発表会見が開かれた(3月26日・すみだトリフォニーホール)。【チケット情報はこちら】宝石の名前を冠した3つのシリーズ、「トパーズ」(8プログラム16公演)、「ジェイド」(8プログラム8公演)、金曜と土曜に開かれる、午後のシリーズ「ルビー」(8プログラム16公演)で構成される新日本フィル定期。「はっきりした色ではなくグレー系で統一した」(上岡)という「トパーズ」は、楽団の柱とも言える、本拠地すみだトリフォニーホールでのシリーズだ。上岡は、9月のシーズン開幕を飾るR・シュトラウス・プロ(第593回定期)、ラヴェルとその同時代の作曲家アルベリク・マニャールが並ぶスパイスの効いたフランス・プロ(第601回)、そして恒例のお楽しみ、年間の来場者アンケートをもとに選曲するリクエスト・コンサート(第608回)を振る。マグヌス・リンドベルイのフィンランド独立百年の祝典曲《タイム・イン・フライト》(2017年)日本初演や(第595回/ハンヌ・リントゥ指揮)、フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮のメンデルスゾーン&シューマン(第606回)も注目。上岡が「発散だけではない、音楽を深めたスケール感」を考慮したと語ったのは、サントリーホールでの「ジェイド」。ブルックナーの「遺言」どおりに未完の交響曲第9番と《テ・デウム》を並べた第596回、マーラー《復活》(第602回)、《運命の歌》《哀悼の歌》《ドイツ・レクイエム》というブラームス合唱曲三昧の第607回と、合唱の入ったプログラムに目を惹かれる(第596回は新国立劇場合唱団、ほかは栗友会合唱団)。名曲シリーズ「新・クラシックへの扉」を前身とする「ルビー」は、リーズナブルな価格設定は踏襲しつつ、「名曲」の概念を聴衆と一緒に広げていきたいという上岡の意志のもと、聴きごたえある真の「名曲」がずらり。現シーズンに続き海外から話題の女性指揮者を招くのも、今後の特徴のひとつになりそうだ。来季は、スウェーデンの合唱指揮者ソフィ・イェアンニン(2019年2月/ハイドン《四季》)と、ニューヨーク生まれのメキシコ美人指揮者アロンドラ・デ・ラ・パーラ(2019年7月/ヒナステラ&ファリャ)のふたりが登場する。「オーケストラがさらに一歩、音楽の中に入っていけるような、それが聴衆のみなさんに伝わるような3年目にできたら」という上岡。会見でコンサートマスターの崔も語っていたが、どんなに繰り返し演奏した作品でも上岡とともに丁寧にスコアを読み直してゆくような念入りなリハーサルによって、オーケストラの音も音楽も確実に変化している。楽団創設以来の持ち味である際立った個性に、さらなる磨きをかける上岡シェフ。その3年目シーズンも目が離せない。取材・文:宮本明
2018年03月28日2018年10月、北海道から九州まで日本を縦断する壮大なオペラ・プロジェクトが始動する。札幌文化芸術劇場hitaru、神奈川県民ホール、兵庫県立芸術文化センター、iichiko総合文化センター(大分)と、東京二期会、東京フィルハーモニー交響楽団、札幌交響楽団の7団体が提携して、ヴェルディのグランド・オペラ『アイーダ』の上演が決まった。指揮はイタリアの若手マエストロ、アンドレア・バッティストーニ。アイーダには国際的プリマの木下美穂子、ラダメスには日本を代表するテノールの福井敬、アムネリスには活躍目覚ましいメゾ・ソプラノの清水華澄らがキャスティングされ、オリジナル演出(ジュリオ・チャバッティ)でのツアーが行われる。「この『アイーダ』は札幌文化芸術劇場hitaruのこけら落し公演となります。新しい劇場が世界から愛されるようにつとめたい」(札幌文化芸術劇場hitaru 専務理事畠山茂房氏)バッティストーニは2016年から東京フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者を務めているが、昨年の9月には札幌交響楽団との共演も果たしている。「新しい劇場のこけら落し公演に出演することは大きな名誉です。劇場とは、単なるエンターテイメントの場ではなく、人々の内面を教育し、感情を分かち合い、お互いをリスペクトしあう場で、札幌市民のみなさんにとって新しい劇場は大きな贈り物です。私自身にとっては、日本で友情を育んできた二期会、東京フィルというプロフェッショナルとの大きな達成を聴いていただく機会になると思います。『アイーダ』は規模の大きな歴史劇であると同時に、人間の内面を深く描いた名作で、私自身も故郷のヴェローナで初めてこのオペラを見たとき、大きな感動に包まれました」(アンドレア・バッティストーニ)「ヴェルディは『イル・トロヴァトーレ』もそうですが、中期のオペラで戦闘シーンをほとんど描いていないのです。『アイーダ』は、これぞイタリア・オペラ、というグランド・オペラですが、本質にあるのは「人間は究極的には愛に生きる」という深い真理なのではないかと思います」(テノール福井敬)「2011年に震災が起こった時、私は自宅でアムネリスの稽古をしていました。テレビで津波の映像を見て、何もできない自分の無力さに打ちひしがれ、その日から公演を行えること自体が奇跡なのだと思うようになりました。オーケストラの響きを愛しているので、札幌交響楽団さんとの初共演が楽しみでなりません。全身全霊で演じて、お客様に喜びを与えられればと思います」(メゾソプラノ清水華澄)日本中にアイーダの嵐が吹き荒れる10月になりそうだ。取材・文:小田島久恵
2018年03月23日高校1年生だった2016年に、国内最高峰「日本音楽コンクール」に最年少15歳で優勝した戸澤采紀(とざわ・さき)。昨年はスイスのティボール・ヴァルガ国際ヴァイオリン・コンクールでも海外初挑戦で見事最高位(1位なしの2位)に輝き、その現在進行形の躍進に音楽ファンが注目する期待の新人音楽家だ。9月21日(金)に行われる東京・浜離宮朝日ホールでのリサイタルは、その実績を携えての本格プロ・デビューと言ってよいだろう。【チケット情報はこちら】モーツァルト、ベートーヴェンから、イザイ、プーランクに至るヴァラエティ豊かなプログラムを組んだ。フランスの名手ジェラール・プーレに師事していることもあり、プーランクなどのフランス音楽は得意のレパートリー。「プーランクのヴァイオリン・ソナタは、日本音楽コンクールの課題曲の一曲でした。スペイン内戦で殺された詩人ガルシア・ロルカに捧げた、ものすごく重い内容の、力のある曲なので、意味のない歌い回しやニュアンスがあってはなりません。感じたことを音楽にできるだけ直結させて、自分の中で消化して発展させたものを、コンクールからの2年分の成長としてお客さんに届けられたら」取材中、彼女はこの「意味」という言葉を繰り返した。「意味のある演奏」「意味のある表現」。これ見よがしで表面的な技術の誇示ではない、ニュアンスひとつひとつに理由のある表現と言えばよいだろうか。「他人の真似をしようと思わない」というが、「すごい」と感じるのが、気鋭レオニダス・カヴァコスだそう。「彼の音楽には無駄がありません。音楽の組み立て方が立体的で、ものすごく考えられている。どんなに長い時間聴いていても飽きません」。かといって、いつも理屈を考えて弾くのをよしとするのではない。「意味」は練習で作り上げて身体に染み込ませ、本番では共演者の息づかいや客席の雰囲気を感じながら弾く。そのバランスが大事だと語る。両親ともヴァイオリニスト。父親は東京シティ・フィルの現コンサートマスター。最初ピアノを習ったが、家庭にはいつもオーケストラ音楽があった。6歳の時、両親が出演したマーラーの交響曲第7番《夜の歌》に震えた。「ピアノではあそこに入れない!」。だから今も、ヴァイオリンを弾いているのはオーケストラに入るためだと言い切る。「日本だと、ソリストがオーケストラを?と少し意外に思われるかもしれないですが、私が考える一流演奏家は、オケもソロも室内楽もできる人。それを目指しています」「意味」へのこだわりとともに、2月に17歳になったばかりの少女の、ぶれない音楽観がなんともまぶしく、頼もしい。今後数年間はコンクール挑戦を続けるというから、近いうちに私たちは、いくつかの大きな成果を知らされることになるのだろう。まずはその洋洋たる前途を確信させられるはずの9月のリサイタル。待ち遠しい。取材・文:宮本明
2018年03月16日手さげバッグやくつ袋にお弁当袋など、お子様の新生活には、準備しなくてはいけないグッズがたくさん!入園・入学にむけての準備は万全ですか?今回は、デザイン性と機能性を兼ね備えた、ハンドメイドの入園・入学グッズを紹介します。どこに行くにも持っていきたくなちゃう、手さげバッグ▲くまのレッスンバッグくまのシルエット型バッグです。両サイドには耳、後ろにはしっぽが付いていて、どこから見てもキュート。鼻の部分がポケットになっているので、機能性もバッチリです。▲レッスンバッグ ストライプイエロー 「lecon」背の部分に星やハートが描かれた本と、フランス語で授業やおけいこを意味する「leçon」の文字がペイントされたバッグ。習いごとに行くのが楽しくなりそうな、明るい配色が魅力的です。A4もすっぽり入るサイズなので、いろいろなおけいこのバッグとして活用できそう。くつのプリントがファニーでかわいい、くつ袋▲うわばきプリントのシューズケース名前入りシューズをプリントしたシューズケースです。ぜひ「上履き入れ」として使いたい!お昼休みがもっと楽しみになる、お弁当袋▲お弁当袋・コップ袋 セット『 ポロンちゃんのジャム作り ♪ 』お弁当・コップ袋のセットです。洗えるフェルトが使われているので、手洗いが可能だそう。絵本の1ページのようなアップリケがかわいい!手さげバッグ・くつ袋・均宅袋をセットで揃えたい!学校や習い事で使うバッグや袋を、同じデザインで統一してもかわいいですね。▲クラシックスイーツ×ネイビーストライプのレッスンバッグ3点セットレッスンバッグ・シューズバッグ・巾着袋の3点セット。パステルカラーのパイピングとリボンのデザインが、モノトーンのなかで映えます。習い事に行くのも、もっと楽しくなりそう!▲しましまラメラメ王様の巾着・シューズ入れ・レッスンバッグこの巾着袋は、体操服や着替えを入れるのにぴったり。ストライプ柄×ゴールドラメの王冠がクール!ついセットで揃えたくなりますね!お子様と一緒に、お気に入りの入園・入学グッズを探してみてくださいね。ハンドメイドマーケット「minne」はこちら※掲載された内容やアイテムは2018年3月時点の情報です。
2018年03月13日カフェ風の明るい内観が魅力「パティスト」の店内は、ウッド調の優しい色合いでまとめられた内観が特徴です。まるでカフェにいるようなラフさで、気軽に本格的なクラシックフレンチを楽しむことができます。それぞれの席の空間が広く取られており、圧迫感がないところも大きな魅力のひとつ。カウンター席でシェフと会話を楽しむもよし、ソファで友達とトークに華を咲かせるもよしの隠れ家レストランです。知って納得。「パティスト」の由来とは?「パティスト」の開業は2013年。気になる店名の由来は、お店のコンセプトである「パーティ・ストーリー」からきているそうです。「多くの人に楽しんで集まってもらえる、パーティのような場所でありたい」「おいしい料理やワインと出会えるストーリーを作り上げていきたい」このような願いが込められています。心地よい空間づくりと本場仕込みの料理が人気を集め、一躍地元に愛されるお店に。おすすめの一品は「鮮魚のポワレブイヤベース仕立て」何を食べてもおいしいと評判ですが、特に一度は食べておきたいおすすめメニューは「鮮魚のポワレブイヤベース仕立て」(2,000円)。バターでさっと炒めた具だくさんの野菜と、パリッとした魚の皮目の食感がたまらない一品です。魚の種類は仕入れによって変わるので、「今日はどんな魚かな?」と楽しみにできるところも魅力といえます。食事の後はスペシャリテの「ヌガーグラッセ」をどうぞまた、ほどよく食事を楽しんだ後に是非食べておきたいのが、こだわりのスペシャリテ「ヌガーグラッセ」(700円)。ドライフルーツとアーモンドキャラメリゼを使用した、フランスの伝統的なアイスケーキです。フランボワーズのソースと日向夏のコンポートがよく合うオトナな味わいはもちろん、キュートな盛り付けはインスタ映え間違いなし。ついつい自慢したくなる一品です。親しみやすいフレンチが食べたい時はここで決まりフレンチはマナーや格式の高さがネックになりがちですが、「パティスト」はカフェ風の内装やスタッフのきめ細やかな接客もあいまって、フレンチ初心者でも通いやすいお店となっています。特にランチタイムは、リーズナブルな日替わりランチなどのメニューが中心となっているので、最初はランチタイムに「パティスト」を訪れてみるのもおすすめです。「パティスト」は、JR武蔵小杉駅から徒歩5分、JR向河原駅から徒歩2分の立地にあるマンション「セントラルガーデン」の2階にあります。子連れ、カップル、サラリーマンなど、幅広い年代層が気軽に入ることができる隠れ家風レストランで、おいしいクラシックフレンチを味わってみてはいかがでしょうか。スポット情報スポット名:Patiste住所:神奈川県川崎市中原区下沼部1762 セントラルガーデン 207電話番号:050-5593-5915
2018年03月09日近年、着実にキャリアを重ねている注目の若手バリトン、大西宇宙。NYの名門ジュリアード音楽院の主催する声楽オーディションで最優秀賞を受賞して同学院に入学。在学中には《フィガロの結婚》や《エフゲニー・オネーギン》などに主要キャストとして抜擢されたほか、学内オーディションを経てリサイタル・デビューも飾った。大西宇宙 リサイタル チケット情報「多様性に富んだ複雑な文化的背景を持ち、世界中から才能が集まるアメリカでなら、様々な国のオペラを本格的に学べると思った。4年間で声楽専攻の日本人は結局、自分だけだったので英語力もかなり鍛えられました!」卒業後の欧州での足掛かりをドイツで模索していた頃、今度はシカゴ・リリック・オペラにスカウトされる。「リリック・オペラは1954年の創設ですが、最初のシーズンにマリア・カラスが伝説的なアメリカ・デビューを果たして以来、数多くのスターを輩出してオペラ・ファンを魅了してきた。劇場が大きく、定番の人気作品から現代ものまでレパートリーも幅広い。スタッフや聴衆の耳も肥えているので鍛錬の場所としては最高です。基本はアンサンブル・キャストですが、カヴァー役も務めます。最初の大きな役はオネーギン。途中降板した歌手に変わって終幕だけの出演でしたが、それで信頼を得て、いろんな役をやらせて貰えるようになりました」2015年には同歌劇場の世界初演オペラ《ベル・カント》に出演。1996年の在ペルー日本大使公邸占拠事件をヒントに書かれた小説を原作とする同作でペルー人神父を好演し称賛を得た。「主にスペイン語やラテン語歌唱の役ですが、日本人役のキャストの語学指導も担当しました(笑)」大西は今年6月には日本でプレトニョフ指揮、ロシア・ナショナル管によるチャイコフスキーの歌劇《イオランタ》(演奏会形式)にロベルト公爵役で出演。その1週間後には待望の本格的なソロ・リサイタルにも臨む。「チャイコフスキーのオペラでバリトンはいつもどこかクセのある役。イオランタの許嫁なのに別の女性に恋している公爵には情熱的なアリアなどもあって、とても魅力的なのでどうかご期待下さい。一方のリサイタルはアメリカでの8年に及ぶ修業時代の集大成になるようなプログラムを組みました。フランス歌曲からシェイクスピアのテキストによる英語の歌に、イタリアものからロシアものまで盛り沢山ですが、どれも想い入れのある作品ばかり。こちらもお楽しみに!」ロシア・ナショナル管弦楽団の歌劇「イオランタ」は6月12日(火)に東京・サントリーホールにて。リサイタルは6月19日(火)に東京・浜離宮朝日ホールにて開催。チケットは3月25日(土)発売。取材・文:東端哲也
2018年03月07日リーボック クラシック(Reebok CLASSIC)から、1993年に誕生したアウトドアサンダル「ビートニック(BEATNIK)」が復刻。2018年3月9日(金)より、リーボック クラシックストアなどで発売される。歴代の名作を中心に展開するリーボック クラシックから復刻されるのは、アッパーやソールなど独創的なデザインで、発売当時に話題を呼んだアウトドアサンダル「ビートニック」だ。真ん中をつまんで縫ったようなアッパーのデザインに加え、シャークソール、調整可能なベルクロストラップを施した。当時のスペック、ディテールを忠実に再現したファン待望の一足に仕上がっている。
2018年03月05日オペラ界の最前線で活躍するテノール歌手たちが一堂に会する、輝く声の競演「藤原歌劇団トップ・テナーズ」が、昨年に続いて東日本大震災遺児支援チャリティ・コンサートとして3月20日(火)東京・新宿文化センターで開催される。村上敏明、笛田博昭、藤田卓也、西村悟、4人の出演者のうち、西村に意気込みを聞いた。【チケット情報はこちら】「この4人の共演はまれ。僕もダブルキャストで組んだ以外には経験がありません」。通常、オペラの主役級テノールは1演目にひとりなので、彼らがそこで共演することはまずありえない。「でも、お互いにライバル心をむき出しにして、ということはないんです。テノールって実は医学的にも無理があると言われるぐらい過酷なパートで、最後に高音をピタッと決めないとお客様に満足していただけない。だからこそ聴き手の心を掴むことができるのだとも思いますが、精神的にも追い込まれることが多いので、互いの演奏を聴いていても手に汗握るというか(笑)。他人事ではないんですよ。笛田さんがドラマティコ、村上さんがスピント、藤田さんがリリコ・スピント、僕がテノール・リリコ。このコンサートだけで、四者四様のテノールをお聴きいただけます」歌うのはひとり3~4曲前後。西村自身は、マイヤベーヤの歌劇《アフリカの女》より〈おお、パラダイス〉、フロトーの歌劇《マルタ》より〈夢のように〉、福島民謡〈会津磐梯山〉、ミュージカル《回転木馬》より〈ユール・ネヴァー・ウォーク・アローン(人生ひとりではない)〉を歌う。「復興支援のテーマに沿って選曲しました。〈おお、パラダイス〉はヴァスコ・ダ・ガマが新航路を発見して辿り着いたインドの美しさを歌うアリア。震災で失われた景色を、時間がかかってもいいから取り戻してほしい。そこに少しでも協力できればという思いを込めて。《回転木馬》は最近好きなんです。嵐のあとには必ず黄金の空が見える。君はひとりじゃない。コンサートの趣旨にもぴったりです」両親が仙台と福島の出身。7年前の3月11日は、イタリアから一時帰国中だった。「最初は、音楽家ってなんて無力なのだろうと感じていました。でも、音楽を通して安らぎや元気を届けることはできる。心の問題はこれから何十年ずっと続いていくことなので、僕らもまだまだこれから必要なんだなと思い始めています。しっかり準備してベストを尽くして歌うことが、お客様に対しての感謝でもありますし、被災地への思いにもつながると思っています」終演後には出演者ら自身も募金活動に協力する。テノールたちの熱い歌声と志に、われわれ聴衆もぜひ、それぞれに善意で応えたい。共演は田中祐子指揮の東京シティ・フィル。司会にミュージカル俳優の田代万里生。取材・文:宮本 明
2018年03月05日「クラシックの演奏会には0歳児は入れない」が常識。しかし、これを覆すコンサートがある。東京交響楽団が2007年より開催している「キッズプログラム ~0歳からのオーケストラ~ズーラシアンブラス meets東京交響楽団」だ。【チケット情報はこちら】小さいこどもがいるクラシック・ファンにとっての悩みは「生でクラシック音楽を聴きたくても、こどもが小さくて行けない」、託児サービスのあるコンサートは増えているものの、「せっかくコンサートホールまで一緒にきたのだから親子でクラシック音楽を楽しみたい」といった要望はいままで数多く聞かれてきた。0歳から入場できるコンサートと言えば、童謡やアニメの音楽などをピアノや小編成のアンサンブル、歌のおねえさん・おにいさんと一緒というものが多く、今までコンサートホールでクラシック音楽を聴いてきた層には物足りなく感じる方もいたことだろう。その中でこの東京交響楽団とこどもたちを魅了する動物たちの金管五重奏団「ズーラシアンブラス」が出演するこのコンサートはその路線とは一線を画し、今年はワーグナー:『ローエングリン』第3幕への前奏曲や、ボロディン:ダッタン人の踊りなど、およそこども向けコンサートには演奏されないような多彩なオーケストラの曲がプログラミングされ、本格的なクラシックの名曲をこどもと一緒に楽しめるようになっている。また、このコンサートは見た目の演出にも工夫があり、コンサートの中で“フルオーケストラ” “ズーラシアンブラスと東京交響楽団のアンサンブルとのお楽しみコーナー”、“オーケストラの中にズーラシアンブラスのメンバーが入って一緒に演奏する”など場面展開があり、こどもたちが飽きないよう構成されている。全体の時間も休憩なしの約70分。休憩時間でこどもたちが走り回る心配もなく、むしろ集中して聴ける時間と言えよう。小さいこどもを連れての外出の際に心配になるのはベビーカーやおむつなどの問題だが、これについても「ベビーカー置き場」、「おむつ交換室」、「授乳室」などを会場に準備するなどしっかりと配慮がなされ安心できる。会場となるミューザ川崎シンフォニーホールはJR川崎駅中央西口から直結で大人の足で3分程度。また2月に川崎駅のエキナカがオープン。ラゾーナ川崎とともにコンサート前後のアクテビティも楽しめそうだ。実はこのコンサート、小さなこどものいる楽団員もできることなら客席で自分のこどもと一緒に聴きたいと思うほど充実した内容だそうだ。プロの音楽家がそう思うのだから、小さな頃から本格的なクラシックで音楽デビューなど情操教育にもきっと良いに違いない。公演は4月8日(日)神奈川・ミューザ川崎シンフォニーホールにて。チケット発売中。
2018年03月05日クラシック音楽家の登竜門、日本音楽コンクール。昨年の第85回では、ピアノ、バイオリン、チェロ、声楽、ホルン、作曲の6部門で675人が腕を競った。来たる3月、各部門の1位に輝いた俊英たちの演奏会が行われる。【チケット情報はこちら】優勝者たちの中で、初出場・最年少ながらピアノ部門本選でプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番という難曲を弾き、見事優勝したのが、17歳の吉見友貴。その堂々たる演奏姿が印象的だったが、本人はひたすら冷静だったのか、それとも見えない力に引っ張られるような感覚があったのだろうか?「どちらも感じました。3次予選まではラウンドが進む毎に調子が上がり、気持ち良かったですね。プロコフィエフを本格的に練習したのは3次が終わってからでしたが、必死で頑張りました」この本選で、吉見は初めてオーケストラと協奏曲を弾いた。「最初、オケに合わせようとしたらどんどんテンポが遅くなってしまい(笑)、指揮者の梅田俊明さんから『ソリストが引っ張っていくように』と助言をいただいて。でも、指揮者の方のもと、大勢のオケの方々と一緒に音楽を作るのはすごい快感で楽しかったです。本番は正直、無我夢中で何も覚えていません。とにかく音楽に全てを捧げるような気持ちで、1音1音心を込めて弾きました。ああいう気持ちになることは今までなかったかもしれません」まさに1音1音、豊かに鮮やかに響いていた吉見のピアノ。「同じ高さの同じ音でもそれぞれ感情が違う。どんな響き、どんなハーモニーなのかということには、かなり気を使って練習しています」とするその響きは今後、彼の強みになりそうだ。一般家庭に生まれた吉見がピアノと出会ったのは、5歳の時、友達の家にあったピアノを見て「習いたい」と言ったという。以来、他の習い事には見向きもせず、ピアノひと筋。「演奏会やコンクールを聴きに行くと、同じピアノでも人によって鳴らす音が違い、音楽が違う。そこが魅力だと思うんです。今の僕の課題は“深み”を出すこと。それが何なのかは難しいところですが、ひとつの手がかりとして勉強もしていますし、色々な曲や作曲家に触れながら、人間的な部分を含め成長していきたいです」まずは3月の演奏会を聴衆は待っている。吉見が弾くのはチャイコフスキーの協奏曲第1番の1楽章。「チャイコフスキーはプロコフィエフと同じロシアではあっても全然違う作曲家。ロマンティックですし、民謡のメロディや土臭さも表現しなくてはなりません。何か演奏に繋がればと思い、バレエの映像も観ました。コンクールまでは結果を出すために完璧を目指して弾いていましたが、今は音楽そのものを追究したい。チャイコフスキーの魅力を自分なりにお客様に伝えたいと思います」「第86回日本音楽コンクール受賞者発表演奏会」は3月2日(金)東京・東京オペラシティコンサートホール:タケミツメモリアルにて開催。チケットは発売中。取材・文:高橋彩子
2018年02月19日ゴールデン・ウィークのクラシック・イベントとしてすっかり定着したフランス生まれの音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ」。13回目の今年も5月3日(木・祝)・4日(金・祝)・5日(土・祝)の3日間にわたって開催されるが、毎年数十万人の聴衆を集めるモンスター音楽祭が今年、大きく変わろうとしている。これまで有楽町の東京国際フォーラムを中心に、丸の内一帯で行なわれてきたが、今年、池袋が新たに加わることに。2月16日、音楽祭アーティスティック・ディレクターのルネ・マルタンや、高野之夫・豊島区長らが出席して、概要の発表会見が開かれた。【チケット情報はこちら】新たに加わる池袋エリアの会場は、東京芸術劇場、西口公園、南池袋公園の3か所。有料公演は東京芸術劇場内のコンサートホール、シアターイースト、シアターウエストの3つのホールを使って、53公演が行なわれる。丸の内エリアの有料公演は昨年とほぼ同数の125公演なので、池袋エリアの分、まるまる拡大した格好だ。この日の会見は2015年に落成した豊島区の新庁舎で行なわれたが、旧庁舎の跡地には、2019年秋、さまざまな目的別の8つの劇場で構成される「Hareza(ハレザ)池袋」がオープン予定で、高野区長の口ぶりからは、将来的にはその新施設の活用も視野に入れている模様。東京芸術劇場前の池袋西口公園も野外劇場として再整備される予定だから、さらなる新展開の予感も含めての新参入ということになりそうだ。ルネ・マルタン・ディレクターは、ビジネス街・丸の内と比べて、池袋の若者の多さに注目しているようで、「両方の聴衆に混ざってほしい」と希望していた。実際、東京国際フォーラムと東京芸術劇場は東京メトロ有楽町線なら19分。しかもどちらも駅直結。もし雨が降っても濡れずに移動できる。ぜひとも両エリアを股にかけて楽しんでしまおう。今年のテーマは「モンド・ヌーヴォー新しい世界へ」。新たな旅立ちを迎える音楽祭にふさわしいテーマとも言えるが、実はベースとなっているコンセプトは「Exile=亡命」で、20世紀に政治的な理由で祖国を離れた亡命作曲家たちをはじめ、中世から現代まで、さまざまな理由で母国を旅立って新しい世界に飛び込んだ作曲家たちにスポットを当てる。例年どおり、世界的な大物から、マルタンの目と耳が選りすぐった新たな才能まで、多彩なアーティストたちのハイ・クォリティなパフォーマンスが繰り広げられる3日間だ。なお今回の新局面を迎えるのに伴って、音楽祭名が「ラ・フォル・ジュルネTOKYO」に改称(旧称「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」)、佐藤可士和による新デザインのロゴも発表された。進化する「ラ・フォル・ジュルネ」。いっそう目が離せない存在になりそうだ。チケットは3月17日(土)より発売開始。なお、一般発売に先がけて、3月2日(金)より先行を実施。取材・文:宮本明
2018年02月19日都響の新シーズンは、音楽監督・大野和士によるマーラーの大作「交響曲第3番」で幕を開ける。2016年11月にマーラー第4交響曲を手掛けた大野が、本公演で第3交響曲を取り上げるのは自然の流れだ。声楽作品を得意とする大野が都響のマーラー演奏の新境地を拓く、象徴的な演奏となるだろう。大野和士に本作品の聴きどころを聞いた。都響 チケット情報交響曲第1番、第2番での人間の生死の葛藤に続く作品として、交響曲第3番はそれらの苦悩を内包するかのように自然賛歌をテーマとした作品として知られている。「マーラーは、交響曲の中にすべてを書き尽くさなければならないと言っています。交響曲のなかにミクロコスモス、宇宙があります」と語る大野。弟子の指揮者ワルターがシュタインバッハのマーラーを訪れた際に、「君はもうこの風景を見る必要はない。あれは全て曲にしてしまったから」と語ったという逸話があるが、大野はこのマーラーの言葉に複雑なメッセージが込められていると感じるという。「この作品の作曲当時から、マーラーは先の時代を予感していました。第4楽章では、ニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』から、『この世の痛みは深い』という一節を用いています。自然を謳歌し、鳥が鳴き、天上の喜びといった楽章の中に、絶望的な4楽章が存在します。マーラーはこの先の時代に人類皆が肉体的にも精神的にも疲弊していくことを予言していたのではないでしょうか」大野の考えるこの作品の聴きどころとは。「第1楽章から第2楽章への橋渡しが重要と考えています。第2楽章が上手くいけば、この交響曲は上手くいくんですよ。演奏者もお客様も皆集中し、30分かけて第1楽章が終わります。続く第2楽章最初の和音をどう想像して入っていくのか、そこが非常に難しい。作曲当初、マーラーは各楽章に『花々が私に語ること』『森の動物たちが私に語ること』などの標題を与えていました。お客様にはこれから『私たちの時代が語ること』という章を作るような気持ちで聴いていただくことが、この交響曲の予言に応える意味で大事だと思います」東京都交響楽団≪マーラー(交響曲第3番ニ短調)≫は4月9日(月)東京文化会館 大ホール、4月10日(火)サントリーホール大ホールにて。
2018年02月13日発達障害を抱えるピアニスト・野田あすか初の全国ツアー『野田あすかピアノ・リサイタル ~全国ツアー2018~』が3月から開催される。野田あすかピアノ・リサイタル チケット情報昨年、「金スマ」(TBS系)でも紹介され話題を呼んだ野田。22歳で生まれつきの脳の障害・発達障害と診断されるまで、人とコミュニケーションをうまくとれないことに本人も家族も苦しんできた過去を持つ彼女が奏でるピアノは、その温かくやさしい響きで多くの人の心を掴んでいる。初の全国ツアーへの想いを聞いた。ツアーが決定しての感想を尋ねると「全国ツアーってテレビで見るような人がやるものだと思ってた」と笑う野田。「去年は、私がしあわせな気持ちで弾いて、お客さんもしあわせになってくれるといいなと思ってやっていました。だけど最後の浜離宮朝日ホール(東京凱旋公演)では『私がいっぱい希望をもらったリサイタルだったな』と思ったら泣いちゃって。そういう気持ちを東京や大阪の大きな街だけじゃなくて、いろんなところに届けられるのはすごくしあわせだし、楽しみです」リサイタルは第一部はクラシック曲、第二部は自作の曲を披露する二部構成。第一部の曲は「光」をテーマに選んだと言い、「去年、お客さんに希望をもらったから、その希望が出す“光”をテーマにした曲を弾きたくて」と、『月光ソナタ(ピアノソナタ第14番)』全楽章(ベートーヴェン)や『月の光』(ドビュッシー)を披露するという。中でも『月光』への挑戦は野田にとって大きく、「今まで私はソナタ全楽章を人前で弾いたことがなくて。ソナタの全楽章を人前で弾くのはすごく大きなチャレンジなんです。と語り、「だけど温かい気持ちで見守って下さい!」とニコリ。第二部では『心がホッとするCDブック』収録曲のほか新曲『木もれびの記憶』も披露予定。これも「光」にまつわる曲で「小学生の頃、昼休みに先生が『みんな外で遊びなさい』と言うんだけど、私は『遊びなさい』だけじゃ何をしていいかわからなくて。大きな楠の木の下に45分座って、みんなを眺めていました。楠の木に寄りかかっていると、木と話しているような気がして。上を見ると楠の木は緑が薄いから、太陽が当たると緑色の光になって私を照らして。自分を守ってくれてるような気がしていたのを思い出して、タイトルにつけました」。「来たときより少しだけにっこりして帰ってくれるような演奏会になると思います」という全国ツアーは3月21日(水・祝)にスタート。島根、新潟、高知、静岡、愛知、大阪、兵庫、宮崎とまわり、東京では紀尾井ホールにて7月13日(金)に開催。取材・文:中川實穂
2018年02月08日東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の、今年4月から始まる2018~19シーズンの定期演奏会ラインナップは、すでに昨秋速報で伝えられていたが、2月5日、東京都内であらためて発表会見が開かれた。東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 チケット情報「飯守泰次郎桂冠名誉指揮者の素晴らしいドイツ・ロマン派の真髄を軸に、それとのバランスを考えながら、私や他の客演指揮者たちが、なるべく多彩な作品を聴いていただけるようにプログラムを組んできた。それは来シーズン以降も変わらない」2015年から常任指揮者を務め、新たに2021年まで契約を延長した常任指揮者の高関健は、年間プログラムの基本的な骨組みをそう説明した。そして、新シーズンの一番の特徴は、東京オペラシティ定期演奏会と、ティアラこうとう定期演奏会の全13公演を全部まとめて一体化したプログラムを組んだことだという。これまでのティアラ定期は、どちらかといえば名曲コンサートが多く、それは幅広い聴衆にオーケストラ音楽に親しんでもらおうという意図からだったが、最近は客層もかなり変わり、入門プログラムだけでは満足してもらえなくなったのだと理由を語った。「とはいっても《新世界》も《田園》もやる。その中で、さらにもうちょっと(クラシック音楽の世界に)入ってほしいという願望です」高関は群馬交響楽団の音楽監督時代、一度演奏した作品は10年間は取り上げないことを自らとオーケストラに課していたそうで、そうすることで一曲一曲と真剣に対峙してきた。その姿勢は今も変わらないという。「東京の複雑なオーケストラ・シーンの中で、どう生き残るか。なんとか這い上がっていきたい」個々のコンサートは、公演ごとに作曲家、国、時代などのテーマで切り取られており、全体で通して見ると、ハイドンから武満まで、有名曲からレアな作品まで、幅広いレパートリーがバランスよく配置されていて、どれもこれも興味を引かれる魅力的なラインナップとなっている。会見ではさらに、2019年4月から新たに藤岡幸夫の首席客演指揮者就任が発表されたのも大きな話題。故渡邉暁雄の最後の愛弟子。慶應大学卒業後、日本フィルの指揮研究員を経て英国王立ノーザン音楽大学指揮科で学び、英国を本拠に活動していた藤岡は、英国音楽のスペシャリスト。現在BS放送で音楽番組の司会を務めるなど華やかな存在だ。この日もさっそく、「こういうのは言ったもん勝ち」と、2019年シーズンの自分の2回のコンサートに、ウォルトンの交響曲第1番と伊福部昭の舞踊曲《サロメ》を振らせてほしいと公開アピールして個性を披露、隣席の高関らを苦笑させた。学究肌の高関と外向的な藤岡、そしてドイツ音楽の重鎮・飯守と、かなりタイプの異なる3人の指揮者が揃った強力かつ強烈な陣容。これまで以上に目が離せない、楽しみなシティ・フィルだ。取材・文:宮本 明
2018年02月07日滝千春が、大好きなプロコフィエフの作品で、デビュー10周年記念リサイタルを行う。滝千春(vl) チケット情報「語り掛けてくる旋律、独創的で誰も思いつかない音楽の展開がとても好き。彼が作るリズムも、私に合っているみたいです」作曲家に向き合うとき、多くの場合は意識して心がけることがあるという滝だが、プロコフィエフに関してはそんな努力を必要とせず、「唯一意識することがあるとすれば、どう弾けば自分が楽しいか、聴く人に楽しく聴こえるか」だと話す。「高校2年生で初めてソナタ第2番に取り組んだときから、自然で何の無理も感じませんでした。近代ロシアの作曲家に親しみを感じることが多いようです。スターリン体制下で思い通りの活動ができない葛藤のなか生まれた、美しいだけでない音楽に共感するのかもしれません」今回は原曲がヴァイオリンの作品と、バレエ音楽の編曲ものなどを取り上げる。「まず、ヴァイオリニストだからこそ表現できるプロコフィエフの魅力を伝える意味で、ふたつのヴァイオリンソナタは欠かせません。加えて、彼が大切にしていた物語というものが存分に表現できる作品を取り上げます。彼は自ら短編小説も書いていて、例えば『ピーターと狼』はそれを音楽に置き換えて表現したものだと思います。ユーモアもあり、小さな作品の中に彼の想いが詰まっていると感じるのです。ピーターのテーマは有名ですし、聴いていて心がウキウキする、楽しい場面をリサイタルの中に盛り込みたいと思いました」物語を創作するような感性の持ち主だったプロコフィエフ。それだけに、「シンデレラ」や「ロミオとジュリエット」というバレエ音楽においても「登場人物のキャラクターを際立たせる旋律を創ることが上手。それにより物語に立体感が生まれる」と滝は話す。共演は、高校時代の同級生でモスクワ音楽院で学んだピアニストの沼沢淑音。「3年間ともに学んだ仲間ですが、卒業後、実は一度も会っていないんです。その後のご活躍は見聞きしているので、共演が楽しみ。お互い遠慮も妥協もない音楽づくりができるのではないかと期待しています」デビューからの10年を振り返ると、自身の中に多くの変化があった。「自分がどこまでこの楽器を弾きこなせるようになるのか、先生を変える経験も経て、上手になりたいという想いで走り続けた10年でした。そんな中、ヴァイオリンを弾くことでその先に何があるのかを考えるようになりました。東日本大震災が起きたこと、ベルリンで難民支援活動に参加した体験などを経て、考えが変化していきました。今は個性あるヴァイオリニストとして存在を確かなものにしたいと同時に、社会のために何かができる人間でありたいと思っています」公演は東京・紀尾井ホールにて3月8日(木)19:00開演。チケットは発売中。取材・文:高坂はる香
2018年01月31日開場20周年の記念シーズン真っ只中の新国立劇場。早くも来季2018/19シーズンの公演ラインアップが決定し、発表会見が開かれた(1月11日・新国立劇場)。オペラ部門では大野和士新芸術監督が登壇。施政方針ともいうべき5つの目標を掲げた。(1)レパートリーの拡充(新制作を現状の1シーズン3演目から4演目に増加)(2)日本人作曲家委嘱シリーズ(隔年)の開始(3)1幕物オペラ×2本のプロダクション《通称:ダブルビル)、あるいはバロック・オペラをシーズンごとに交代で制作(4)旬の演出家・歌手の起用(5)国内外の劇場と積極的にコラボ、東京から新たなプロダクションを発信。つまり、魅力的なレパートリーを拡充し、それを東京から世界のオペラハウスに輸出しようという構想だ。大野によれば、今後のプログラムの組み替えを考えると、現状の制作ペースではレパートリーが足りなくなるという問題がある。たとえば海外の劇場のプロダクションをレンタルする場合、契約上再演に制限があるので、今後は上演権ごと買い取って、いつでも上演可能な新国立劇場のレパートリーとすることも検討していく。大胆な大盤振る舞いのようにも聞こえるが、それによって制作コストが高騰するとは限らず、劇場の財産たる自由に上演できるレパートリーが蓄積されるプラスのほうが大きいという。海外の劇場とのコラボ構想も含めて、このあたりは、世界各地のオペラハウスで豊富な実績を持つ大野ならではの人脈とノウハウがあってこその戦略だろう。大きく期待が膨らむ。オペラ・ラインアップ(*印は新制作)10月モーツァルト《魔笛》*11月~12月 ビゼー《カルメン》12月 ヴェルディ《ファルスタッフ》1~2月 ワーグナー《タンホイザー》2月 西村朗《紫苑物語》(委嘱作品世界初演)*3月 マスネ《ウェルテル》4月 ツェムリンスキー《フィレンツェの悲劇》&プッチーニ《ジャンニ・スキッキ》*5月 モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》6月 プッチーニ《蝶々夫人》7月 プッチーニ《トゥーランドット》*大野が特に力を入れて語ったのは、日本人作曲家委嘱シリーズ第1弾の西村作品。《紫苑物語》は石川淳の小説が原作。作曲の西村、台本を担当する佐々木幹郎とともにすでに2年前から検討を重ねてきた。そして、大野が「現在世界で最も認められているオペラ演出家」と信頼を寄せる笈田ヨシを起用。《魔笛》は話題のウィリアム・ケントリッジの演出。映像を大胆に活用し、世界中で大人気のプロダクション。《フィレンツェの悲劇》《ジャンニ・スキッキ》は新機軸のダブルビル・シリーズの第一弾。《トゥーランドット》は、東京2020オリンピック・パラリンピックへ向けての東京文化会館との共同企画「オペラ夏の祭典2019-20」の一環。国と都が、文化創造でもタッグを組む。世界中の目がトーキョーに集まる2020年を、そしてその先の新国立劇場の未来を見据えて、大野体制はもう動き始めている。取材・文:宮本明
2018年01月12日昨年9月から始まった、人気ピアニスト・及川浩治の毎年恒例の全国リサイタル・ツアーがいよいよ大詰めを迎える。今回のツアー・テーマは、ずばり「名曲の花束」。文字通り、J.S.バッハ、シューマン、ベートーヴェン、ショパン、リストの有名曲が衒いなく並ぶ、うれしいプログラムだ。【チケット情報はこちら】「より多くの人たちにクラシックの素晴らしさを伝えるためには、まずは、聴いたことのある曲、少なくともなんとなくタイトルは見たことがある名曲を。僕だってオペラ・アリアのコンサートへ行ったら《誰も寝てはならぬ》を聞きたいですもん。そして名曲の1曲1曲を花にたとえれば、生け花のようにコンビネーションがとても大事。ただ名曲を集めましたではなく、全体がひとつの素敵な花束になるようなイメージです。組み合わせ次第でそれぞれの曲のキャラクターも違って聴こえます。実際、これを通して弾いていると、すごく幸せなんですよ。それをみなさんと共有したいですね」さまざまな色や大きさの「花」が並ぶ構成。たとえば、ピアノを習う子供たちにも人気の《エリーゼのために》と、ベートーヴェンのピアノ・ソナタを代表する1曲である《熱情》が並んだプログラムは珍しいだろう。「《エリーゼのために》はベートーヴェンが愛する女性に捧げた曲。自信のない駄作を贈るわけがない。それ以前に書いたピアノ・ソナタ、《熱情》や《テンペスト》のテイストが、つまりベートーヴェンの個性、哲学、意志が凝縮されている。まさに名曲だと思うんですよ」実によく歌う人だ。比喩でなく、実際に自分の声で。「ピアニストは鍵盤だけじゃなくて、実際に歌えないとダメだと思うんですよ」この取材中も、音楽作品に関わる話題のほとんどを歌いながら説明してくれた。その「歌」がとても味がある。きれいな声だとかいうのではない(失礼!)。それはちょうど、良い指揮者がオーケストラにニュアンスを伝えるために歌って聴かせるような。2年後、ベートーヴェン生誕250年イヤーの2020年に、五大ピアノ・ソナタ(《悲愴》《月光》《テンペスト》《ワルトシュタイン》《熱情》)のコンサートを構想中(今回の《熱情》はその準備の一環でもあるという)。ではピアノ協奏曲全曲弾き振りなんていうのはどうですかと水を向けると、「もちろんやりたいですよ!」と目を輝かせて即答した。それが2020年に実現するかどうかはわからないけれど、弾き振りにとどまらず、この人はいつか絶対にオーケストラを指揮する人だと思うし、指揮すべきだと思う。話しぶりからも豊かな音楽をひしひしと感じる、幸せな取材だった。そんな彼が見立てた特製の「花束」が私たちを待っている。及川浩治ピアノ・リサイタル『名曲の花束』は2月25日(日)に東京・サントリーホール大ホールで開催。チケット発売中。取材・文:宮本明
2018年01月11日平昌オリンピックを2か月後に控える今冬、スタースケーターたちが滑ってきた名曲を楽しむコンサート「SKATING MUSIC CONCERT」が行われる。出演は、ヴァイオリニストのSONGiL、ソプラノ歌手のチョン・ウォルソン、ピアニストの追川札章。このうちのSONGiLに、スケートと音楽への思いを訊いた。【チケット情報はこちら】「フィギュアスケートには音楽が不可欠。名曲揃いなので、テレビでよく見ます。ヴァイオリンの弓と弦は、スケート靴の刃と氷の関係に少し似ていますね。スケートはレベルが高い選手でも転ぶ可能性がある競技ですけれども、ヴァイオリンも、指が1ミリでもズレれば音程がズレますし、緊張で硬くなると弓が弦の上をまっすぐ滑らずスリップする危険性がある。ちょっとしたことで音色が変わるため、同じヴァイオリンでも弾く人によってまるで違うのですが、浅田真央さんとキム・ヨナさんもそうですよね。僕は作曲をしたりピアノを弾いたりもするので、その意味では王道というよりオンリーワンなスケーターにも惹かれます」SONGiLは今回、浅田真央の弾むような演技が思い出される『チャルダッシュ』や、高橋大輔・荒川静香・鈴木明子がそれぞれドラマティックに演じた『オペラ座の怪人』などを演奏。「『チャルダッシュ』は今年、北海道の定山渓でボリショイ・サーカスの人達と共演した『華麗なるベネチアンサーカスショー』でも弾きました。クラシック曲として有名ですが、もともとジプシーの音楽なので、様々なアプローチで演奏できる曲です。『オペラ座の怪人』は普段からiPodに入れて聴いたり映画を見たりしている、大好きなミュージカル。昨年リリースしたアルバム『EXOTOPIA』では、ファントムが歌う曲を自分でアレンジしてメドレーにして入れました。どの曲も、好きな選手の場面を思い浮かべ、色々なことを思い出しながら、聴いていただけるのではないでしょうか」ヴァイオリンを「人間として気づいたらやっていた(笑)」と語るSONGiL。練習が嫌でたまらない時期もあったが、中学生の途中から作曲を手がけるようになり、楽しくなったという。「僕がヴァイオリンで、ピアノやドラムやベースなどとバンドを組み、自分の曲を演奏したり知っている曲を編曲したり。熱中すると同時に、これが自分のやるべきことだと思うようになりました」SMAPや東方神起、IL DIVO、Bjorkなどのサポートミュージシャンを経て、現在、自身の演奏活動を展開しながら音楽プロデュースもこなすなど、多彩な活躍を見せる。「スポーツや音楽は政治よりも簡単で、良いものは良いという世界。コリアンとして生まれ、日本で育った身としては、音で両国を繋ぎたいという気持ちがあります。音に全てを込めて表現し、プレミアムなコンサートにしたいですね」「SKATING MUSIC CONCERT」は1月26日(金)東京・音楽の友ホールで開催。チケット発売中。取材・文:高橋彩子
2017年12月27日X-girl(エックスガール)は、リーボック クラシック(Reebok CLASSIC)とのコラボレーションスニーカー「フリースタイル ハイ XGIRL(Freestyle Hi XGIRL)」を、2018年1月1日(月)より全国店舗にて発売する。「フリースタイル ハイ」は、リーボックのレディースシューズの中でベストセラーのモデル。元々フィットネス専用に作られた、足首周りをホールドするデザインやベルクロが特徴的だ。今回発売される「フリースタイル ハイ XGIRL」は、モノトーンのカラーリングがスタイリッシュなデザイン。かかとには型押しのロゴをあしらい、ミッドソールには「XGIRL」のロゴをプリントすることでポップに仕上げている。シューレースは、ブラック、ホワイト、ロゴリピートの3種類が付属されているため、気分に合わせて使い分けることができる。【詳細】X-girl×リーボック クラシック フリースタイル ハイ XGIRL発売日:2018年1月1日(月) ※店舗により異なる。価格:12,000円+税サイズ:23.5cm、24cm、24.5cm、25cm、25.5cm、26cm【問い合わせ先】X-girl storeTEL:03-5772-2020
2017年12月25日沼尻竜典指揮、佐藤美晴演出で18年6月に上演されるNISSAY OPERA『魔笛』。日生劇場開場55周年を記念し、オペラ4演目を全てモーツァルト作品でそろえる「モーツァルト・シリーズ」の一環として上演される注目作だ。公演に先駆けて、関連企画「オペラ・オードブル・コンサートvol.6 『魔笛』」が、日生劇場のピロティにて開催された。オペラ「魔笛」チケット情報この日のピアノ伴奏と進行を担ったのは、本番でタクトを振る指揮者・沼尻竜典。『魔笛』序曲はその沼尻に加え、指揮者・園田隆一郎も登場し、ふたりのマエストロが連弾するという豪華さ。なんでも園田が「今日聴きに行きます」と沼尻に話したところ、沼尻から出演を依頼されたのだという。華やかな幕開きに続いて、出演歌手たちによる『魔笛』の歌唱へ。まず最初は、パパゲーノのアリア「私は鳥刺し」。パパゲーノ役の青山貴がパンフルートを持って登場。客席エリアにも入るなど、所狭しと動き回って陽気に歌う。通常の劇場では考えられない至近距離で、歌やパフォーマンスを楽しむことができるのも、このコンサートの特長だ。普段と違う作品の味わい方により、作品への興味や理解も一層深まっていく。続いて、王子タミーノのアリア「なんと美しい絵姿」。のちに結ばれる姫パミーナの絵姿に思いを寄せる歌だ。未だ見ぬ女性への恋心を表す調べはロマンティック。さらに、二重唱「愛を感じる男の人たちには」。パミーナ役の砂川涼子ととパパゲーノ役の青山の二重唱だ。砂川の清らかな歌声と青山の伸びやかな歌声がどこまでも広がる。沼尻マエストロは気さくに楽しく、時にはカリスマ実演販売士のように(?)セット券情報なども織り交ぜながら、軽妙に進行。高音が散りばめられた夜の女王のアリア「復讐の炎は地獄のように我が心に燃え」では、中江早希が迫力満点の歌唱を披露。また、沈黙の修行中のタミーノが口を聞いてくれずパミーナが悲嘆に暮れるアリア「ああ私にはわかる、消え失せてしまったことが」を砂川がしっとりと歌い上げ、沼尻がユーモアたっぷりに「これを歌えば少子化問題も解決でございます」と紹介したコミカルな二重唱「パパパの歌」では、パパゲーナの今野沙知恵とパパゲーノの青山が、ロビーはもとより階段まで使って活き活きと歌った。改めて、『魔笛』が個性豊かな歌・キャラクターでいっぱいであることを実感するひとときに。全員でのフィナーレに続いてクリスマスソングメドレーも披露され、コンサートは大盛況のうちに幕を閉じた。オペラ「魔笛」は6月16日(土)・17日(日)東京・日生劇場にて上演。チケットの一般発売は2月13日(火)午前10時より。取材・文:高橋彩子
2017年12月21日ソロ・リサイタルや室内楽で頻繁に来日公演を行っているピアニストのニコライ・ホジャイノフ。2018年1月のワルシャワ・フィルとの共演で再び日本の地を踏む。チケット情報「ワルシャワ・フィルとは何度も共演していますが、何と言っても一番強烈だったのはショパン国際ピアノコンクール(2010年)のファイナルです。演奏の途中に電気が消えてしまって…あのような経験は初めてでした(笑)。しかし、指揮者とオーケストラと非常にいい関係が築けていましたから、あのアクシデントは何の妨げにもなりませんでした。1月に共演する指揮者のヤツェク・カスプシック氏とは初共演になりますが、サンクトペテルブルクでの白夜祭でマリインスキー歌劇場管弦楽団の指揮をされている映像を見て非常に感銘を受けました。ルトスワフスキの協奏曲でしたが、音楽をとても生き生きと活気づかせていたのです」忘れ難いコンクールのファイナルでワルシャワ・フィルと弾いたショパンの『ピアノ協奏曲第1番』を再び演奏する。「ショパンのコンチェルトは今でも1番、2番とも頻繁に演奏しますし、そのたびに新しい発見があります。偉大な音楽ですから、イントネーションにしてもフレーズにしても、つねに新鮮なものが見つかるのです」語学も達者で、YouTubeでの日本語でのトークが毎回話題になっているホジャイノフ。その国の文化と言語は、音楽とも密接に関係していると語る。「ある作曲家の作品を演奏するときは、必ずその時代や文化について学びます。どのような背景があってその作品が生まれたのか…その国の文化を知る必要があります。そして文化が一番反映されているのが言語です。日本の作曲家を演奏するときは、もっと日本語を学ぶことになるでしょうね。なぜ日本でこれだけショパンが人気なのかは…『平家物語』に端を発しているのではないかと思います。武士は切腹をする前に「辞世の句」を読みますが、あれほど激しい行為の前に詩を読むというのは、日本人の両極端の性格を感じます。ショパンにもそうした極端な要素がありますし、日本人が非常に高い美意識を持っているように、ショパンも高い美意識を持っている。ショパンのセンシティヴなまでに心に染み入る美が、日本人の感性に合うのでしょう」絵画にも詳しいホジャイノフは、彼の教師であるアリエ・バルディに招かれて、テルアビブのテレビでムソルグスキーの肖像と彼の音楽について語ることもあるという。「作家と音楽家、詩人と画家と作曲家はかつて、みんな同じ場所に集まって芸術について語っていました。音楽を掘り下げていこうとすると自然と他の芸術に関心を持つようになるのではないかと思います」言語と詩と絵画と音楽…ホジャイノフの頭の中には膨大な美のイディオムが蓄えられている。1月のコンチェルトでも聴衆を啓発してくれそうだ。公演は東京・サントリーホール 大ホールにて、1月15日(月) 19:00開演。チケット発売中。取材・文小田島久恵
2017年12月20日ヴァイオリニスト奥村愛が、デビュー15周年記念企画として、来年2月、2日間のリサイタルを行う。【チケット情報はこちら】「15年間、本当に色々な経験をさせていただきました」と奥村は振り返る。「初めは弾くのに精一杯でしたが、共演者の方達から刺激をいただき、MCも鍛えられ、プログラムも幅をもって選曲できるようになって。有名だと思っていた曲が一般的にはそうでもなかったり、ヴァイオリンの何が難しいのかという、ヴァイオリン弾きには当たり前のことが知られていなかったりすることも改めて実感しました。発見を積み重ねてお客さん目線に立てるようになってきた一方、クラシックには絶対に崩してはいけない壁もあるので、その壁を前に、どこまで登れるか試行錯誤中です」今回のリサイタルの1日目には、ピアニスト・三輪郁との共演で、バッハのパルティータ第1番、モーツァルトのヴァイオリンソナタ26番、フォーレのヴァイオリンソナタ第1番ほかを演奏。2日目には、バッハのヴァイオリン協奏曲、ホルストのセントポール組曲をはじめ、ピアソラ、カルロス・サンタナなどの名曲を、ゲストであるギタリストの渡辺香津美や、奥村が信頼するメンバーからなるスペシャルストリングスと共に送る。「1日目は古典物を入れたかったので、まずバッハとモーツァルトを決め、後半は少しゆったりと聴いていただけるフォーレなどを選びました。2日目はガラリと変わって賑やかなコラボレーション。渡辺香津美さんとは以前共演した時、私が普通に演奏しているところにカッコよく乗ってきてくださり、音色に全く違和感がなかったことを覚えています。両方の公演にバッハを入れたのは、バッハがジャズやロックなど色々なジャンルの原点でもあるから。私自身にとってはコンクールの課題曲でした。20年ほど前、先生から“ここはこう弾きなさい”と細かく言われて弾いたバッハと、大人になってからのバッハでは何かが変わっているかもしれない。どちらの日程も、その場で感じることを大切に、楽しんで演奏したいですね」15周年を経て、彼女はどのようなヴァイオリニストを志向していくのだろうか。「私は割とさっぱりした性格で、いつもポジティブに過ごしていて、同級生などは“音を聴くとすぐ愛の演奏だとわかる”と言うのですが、それだけではなく、例えば重く渋い音など、もっともっと多彩な音を出したいんです。昔見た映像での、あるチェリストが晩年にお弾きになったカザルスの『鳥の歌』が忘れられなくて。そこには、技術うんぬんではなく、その時その年齢のその人にしか出せない音がありました。私も38年間、それなりに苦労もし、感情も増えているはずなので、そうした経験を音色に反映させたい。今の年齢でこそ出せる音色を、精一杯に表現していきたいと思っています」公演は2018年2月3日(土)・4日(日)に東京・浜離宮朝日ホールにて。チケット好評発売中。取材・文:高橋彩子
2017年12月14日ゴールデンウィークの東京の風物詩としてすっかり定着したフランス生まれの音楽祭ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンは過去に類のないクラシック音楽のモンスター・イベントだ。安価な入場料ながら、世界のトップ演奏家による趣向を凝らしたプログラムが楽しめるとあって、同時多発的に繰り広げられる320公演に、GW3日間で42万人が詰めかける(2017年実績)。これまで有楽町の東京国際フォーラムを中心に丸の内エリアで開催されてきたが、14回目となる次回は、東京芸術劇場など池袋エリアを加えて並行開催。名称も「ラ・フォル・ジュルネTOKYO」に変更される。2018年2月に予定されている詳細発表に先立ち、報道陣を招いてテーマ発表と懇談会が行なわれ、音楽祭アーティスティック・ディレクターのルネ・マルタン氏と、制作のKAJIMOTO代表取締役社長・梶本眞秀氏が出席した(11月30日・東京芸術劇場)。「TOKYO」への舵取りは、もちろん東京オリンピック・パラリンピックも意識しているのだろう(東京国際フォーラムも東京芸術劇場も東京都が関連する施設)。池袋エリアの新たな会場として発表されたのは、東京芸術劇場内の「コンサートホール」「シアターイースト」「シアターウエスト」「シンフォニー・スペース」と、池袋西口公園、南池袋公園の6会場。有楽町と池袋は東京メトロ有楽町線が約19分で結ぶ。東京芸術劇場も東京国際フォーラムも駅直結なので、もし雨が降っても濡れずに行き来できる位置関係。その手があったか!梶本氏によればマルタン氏は目下「池袋」を猛勉強中だそうで、すでに昨年から街中を巡り、隈研吾氏監修の豊島区新庁舎や、丸の内に比べて若者が多い人の流れに興味津々だという。原則的に丸の内エリアの開催規模は従来のまま、池袋エリアの新規公演がそのまま公演数増につながる予定。主催者によれば、来場者の9割をリピーターが占めるというラ・フォル・ジュルネ。人気が定着している証しだが、裏を返せば新しい聴衆が参入しづらいという側面でもあるかもしれない。新たな試みはその解消にも効果を発揮するはずだ。ラ・フォル・ジュルネが始まる2005年まで、東京国際フォーラムの5000席の大ホールがクラシック音楽の中心的な役割を果たす場所になるとは誰も想像できなかったはず。池袋という街が、これまで以上にどのように音楽にフィットしてゆくのかも、注目されるところだ。新生ラ・フォル・ジュルネTOKYO2018のテーマは「モンド・ヌーヴォー 新しい世界へ」。政変や圧政を逃れてなかば強制的に、またはさまざまな理由から自らの意思で、祖国を離れ、異国へ渡った作曲家は多い。ラフマニノフ、プロコフィエフ、ストラヴィンスキー、バルトーク、シェーンベルク、クルト・ヴァイル、あるいは19世紀のショパン。「亡命」と「移住」をめぐり、異文化との接触から生まれた彼らの音楽に光を当てる。2018年5月3日(木・祝)~5日(土・祝)の3日間に、両会場併せて約400公演(無料公演を含む)が予定されている。取材・文:宮本明
2017年12月04日