意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「米中貿易摩擦」です。アメリカも中国も譲らない状態がまだまだ続きそう。先日福岡で開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議で、多くの国から、アメリカと中国の貿易摩擦が激化すれば、世界経済に大きなリスクを負わせるのではという意見が出ました。関税を巡る米中の貿易摩擦が表面化したのは昨年からです。トランプ大統領は就任前から、アメリカの貿易赤字を問題視しており、輸入品に高い関税をかけ、自国製品が売れるようにしたいと考えていました。昨年7月、中国製品に高い関税をかけ始めたところ、中国は反発。アメリカからの大豆や牛肉などに高い関税をかけ、対立が加速したのです。今年になり、アメリカは、「中国製の携帯電話はアメリカの技術を盗み取ったもの」と、中国の特定企業との取引を停止させました。対する中国は、半導体の元となる「レアアース」のアメリカへの輸出制限を示唆。アメリカは中国からの輸入品のほとんどの関税を引き上げましたが、さらに3000億ドルに相当する品目も、最大で25%まで引き上げるかどうか、6月末に決めると発表しました。『ウォール・ストリート・ジャーナル』の記者は、両者の勝負はしばらく膠着状態だろうと見立てており、中国研究の第一人者・遠藤誉さんは、「GDPで世界1位になるまで中国は退かないだろう」と話していました。中国外務省は先日、「米国が貿易摩擦を激化させたいのであれば、断固たる決意で対応する」と強い態度を示しました。いま中国は一帯一路構想により、アジア、中東、ヨーロッパ、アフリカまでの巨大貿易ルートを確保しようとしています。各国に巨額の支援や融資を施し、中国側に引き入れようと画策。例えばカンボジアのフンセン政権は、中国の支援に対し、プノンペンに中国人のための街を建設。強制退去させられた地元の人々の不満が募っています。アメリカもまた、中東地域の戦争や、自国内でも不法移民問題で人権を抑圧。人々の不満が積もれば、いつかほころびを見せるのではないでしょうか。いまこそ日本には、目先の利益にとらわれず、人権を守る協調体制が求められます。アメリカや中国、その他の国々との橋渡し役になることが、長期的には自国を守る術にもなるでしょう。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年7月3日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年06月28日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「Brexit(ブレグジット)」です。「Brexit」とは、「Britain」と「Exit」を組み合わせた造語で、「イギリスのEU離脱」を指します。イギリスでは2016年6月の国民投票によってEUからの離脱が決まりました。しかし、EUに提示する具体的な離脱協定案がイギリス国内の議会で承認されず、混迷を極めています。当初の離脱期限は今年の3月でしたが、イギリス政府は2度にわたり、期限延長を申し出て、最大で今年の10月まで延期されることになりました。EU圏内から出るということは、欧州諸国に対して再び国境を作るということです。外国のモノには関税がかかります。これまで企業はEU圏内から優秀な人材を自由に雇えていましたが、ビザが必要になります。「Hard Brexit(合意なき離脱)」といい、条件が整わないまま離脱期限を迎えると、イギリスへの飛行機の乗り入れができなくなる事態も起こりえます。Brexitを受け、いま様々な外国企業がイギリスから撤退を表明しています。日本企業では、ホンダは2021年中にイギリス工場を閉鎖。日産はSUVの次期モデル生産計画を撤回。イギリス工場での高級ブランド車の生産も今年半ばに終了することに。トヨタは合意なき離脱の場合は撤退するとイギリス政府に伝えています。ソニーやパナソニックは欧州拠点をイギリスからオランダへ、みずほ証券や大和証券はドイツに構えることにしました。EU離脱を訴えた人々の中心は白人の貧困層。「移民のせいで、自分たちの仕事は奪われ、生活が苦しくなった。イギリス国内ですべてをまかなえば再び豊かな生活を取り戻せる」という主張です。しかし、現実にはイギリス経済は世界と切り離せない状態にありました。EU離脱が決まり、外国企業が撤退し、働き口はますます減少。モノは高くなり、この先、イギリス経済が落ち込むことは必至。国の財政が困窮すれば、貧困層を支える余力も失います。これは日本の未来像でもあります。ケアをしなければいけない国民の声に耳を傾けず、目先の利益追求を求めると、国民の不満の矛先は外国人に。しかし、どの国も、自国だけですべてまかなえる時代ではないのです。堀潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年6月12日号より。写真・中島慶子題字&イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年06月05日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「令和の時代」です。空気は変わっても、社会を変えるのは私たち自身の力で。元号が「令和」に変わり、約1か月がたちました。新しい元号発表のとき、予想以上に、気持ちが前に突き動かされるのを感じました。平成から令和に変わるときも、世間は年末年始のような盛り上がりでした。改元とともに、ガラリと空気が変わる。これが1300年以上続けられた元号の力なのだとあらためて思います。日本で最初に元号が定められたのは、645年の大化です。以降247回、改元されてきました。そもそも元号は、中国で、その国を治める権力の象徴として使われはじめ、中国の覇権拡張とともに、朝鮮半島や東南アジアの国々に広がりました。日本でも南北朝時代には、南朝と北朝が正統性の証としてそれぞれの元号を用いたことがあります。また、社会の空気を変えるために、災害や飢饉、良いことが続いたときにも改元してきました。明治維新以降は、一世一元。ひとりの天皇につきひとつの元号を用いることになりました。過去に一番長く使われた元号は「昭和」の64年。敗戦の折には、改元論や元号廃止論が起きました。ところが朝鮮戦争が勃発し、議論は立ち消え。昭和54年に初めて、元号についてのルールが法制度化されました。平成から令和への変化も、ほとんどの民間企業では西暦が使われているので、生活の実務には影響はなかったようですが、人々の気持ちをつなぐキーワードにはなっていると思います。令和になり、これから私たちはどういう時代を作っていくべきか?昭和は国民が政府の暴走を防げず、戦争を引き起こしてしまいました。平成は、経済成長一辺倒で、「人」を切り捨てていってしまいました。オウムなど凶悪な事件を生んだのも、個々人の居場所を失わせた社会背景があります。平成最後の統一地方選挙。女性議員が多く誕生したのは良いことですが、投票率は過去最低が相次ぎ、選挙が成り立たない無投票の自治体も多数ありました。「自分たちが社会を作る」という意識はまだ薄いです。時代が変われば自然と景気が良くなるという幻想は、改革に失敗した平成で打ち砕かれました。昭和や平成で積み残した課題を、令和でこそ取り戻したいですね。堀潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年6月5日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年05月29日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「留学生失踪」です。留学生を経営難の私大の水増し要員にしてよいのか?東京福祉大学では、昨年度だけで約700人の留学生が所在不明となり、この3年間で不明者はおよそ1400人に上ることがわかり、問題になりました。正規の留学生には定員があり、試験に合格することが必須です。ところが同大学では2016年度から「研究生」という枠組みで募集、3年間に留学生の定員の約6倍、5700人が入学していました。なかには日本語が全くできない学生も。これにより学費収益は12億円増加。収益を上げるために、受け入れを拡大していた可能性があり、文科省で調査を進めています。少子化により、厳しい経営状態に追いやられている私立学校は増えています。日本私立学校振興・共済事業団によると、大学・短大を運営する660法人の17%・112法人が経営困難な状態であることが判明。そのうち21法人は経営改善をしないと2019年度末までに破綻する恐れが出てきています。昨年から、18歳人口が減少期に入っており、経営環境の悪化が懸念されています。これに対し留学生の数はうなぎ上り。日本学生支援機構によると、2018年5月時点で大学院、大学・短大、専門学校、日本語学校などの留学生は29万8980人。10年前と比べ約2.5倍に膨らんでいます。東京福祉大学の研究生枠は、日本に出稼ぎに来たい外国人にとって、簡単に受け入れてもらえる受け皿になっていたともいえます。ここまで極端でなくても、ほかの私学でも似たケースはあり得ると思います。最初は学ぶつもりで日本に来た留学生も、学費と生活費を稼ぐためにアルバイトに明け暮れ、そのうちに勉強する意欲を失い、学費も支払えなくなり、失踪してしまう。もしかしたら、人手不足のコンビニを支えているのは、こういう学生たちなのかもしれません。しかし、単に労働力のみを求めるのではなく、外国人の若者たちをどのように教育し、コミュニティの一員として機能してもらうかを真剣に考えなければなりません。政府はいま、大学教育の無償化を掲げていますが、経営能力もなく外国人で水増ししているような学校まで無償化となると、大学行政も根本から考え直す必要があると思います。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年5月29日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年05月24日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「景気回復」です。景気実感を得るには、新しい仕事を自分で生み出さないと。政府は、4月の月例経済報告にて、「輸出や生産の一部に弱さも見られるが、緩やかに回復している」と発表。日銀が発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、企業の業況判断指数が、大企業・製造業でプラス12。昨年12月から7ポイント悪化しています。景気の問題が頻繁に取り上げられている理由は、豊かさがなかなか実感できず、不安感が広がっているからです。実質賃金は横ばいかやや下降が続いています。安倍政権はデフレから脱却するため、物価を上げたいと思っていますが、日銀が設定した2%の物価上昇率は達成されず、賃金は下降。世界的に、原材料や資材価格は高騰。人手不足で人件費も上がり、企業は収益を給与に反映できずにいます。このまま進むと、賃金は上がらないにもかかわらず、物価は上昇する「スタグフレーション」という最悪の事態を引き起こしかねません。しかし、企業からすれば、リーマンショックのように突発的に景気が悪くなることに備え、資金を会社に留保しておきたいのです。空前の人手不足だから、そのうち賃金も上がるだろうと楽観視する人もいますが、日本はこの春から外国人材の受け入れを拡大しています。日本に働きに来る外国人が増えれば、賃金が抑えられた状況は続くでしょう。いま、景気を底上げしているのは、株や為替など金融資産を持つ人たちです。金融取引により蓄財を増やしていますが、それができる人は一部。SMBCコンシューマーファイナンスの意識調査によると、30~40代で貯蓄額が0万円の人は23.1%。1万~50万円の人が24.6%。約半数の人たちが、投資を始める余裕がありません。与野党も、納めた税金が社会保障として還元される仕組みを作ろうと言っていますが、具体策は見えてきません。私たちが実感を得られるような景気回復は、待っていても起こりません。誰も気づいていないニーズを掘り起こし、新しい仕事を開拓していかないと厳しいでしょう。一つの勤め先だけに頼るのではなく、あちらこちらで仕事をしていく。一人一人が自分自身で新たな付加価値を生み出す、創造的な働き方が求められています。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年5月22日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年05月17日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「薬物依存症」です。徹底した警鐘と、依存症者には支援。この両輪が必要。著名人が麻薬取締法違反容疑で逮捕、起訴されるニュースが流れました。最も急務なのは、どういう経路でコカインや大麻を入手したのかを解き明かすことでしょう。また、社会的責任を負う立場であるのに、やめられなかったのはなぜか?どんな気持ちで続けていたのか?そこに目を向けることが大事だと思います。主に南米で採取されているコカインの原料は、希少性が高いことから、世界的に高価で取引されており、セレブのドラッグと呼ばれています。アメリカでは、トランプ大統領が不法移民を入国させないために壁の建設に固執したり、すでに入国している不法移民の子供を本国に強制送還するなど、厳しい措置をとっていますが、アメリカを目指す移民のほとんどは中南米からです。麻薬カルテルが横行して自国の治安が悪化し、安定した職を得られない、安心して暮らせないので、やむを得ずアメリカに逃げようとしているのです。その麻薬を実際に買っているのは先進国の人たち。つまり、日本でコカインや大麻を使用することは、中南米の人たちの平和な生活を脅かす一因になっているかもしれないのです。売人は心の隙間を狙い、日常に簡単に入り込もうとします。パチンコ店の入り口で張り込み声をかけ、主婦が軽い気持ちで使ってしまい抜けられなくなるというケースも多くあります。誰にも相談できず、金もなく困っているところに、「客を連れてきたら分けてやる」と、芋づる式に団地ごと汚染させようとした売人も。依存性の高い薬物は、自分を傷つけるだけでなく、家族や友人、周囲にも影響を及ぼしますから、絶対に手を出してはいけません。違法薬物の怖さを徹底的に伝える一方で、依存症になってしまった人に対しては糾弾ではなく、立ち直りの支援が必要です。各都道府県には、「精神保健福祉センター」があり、ここでは警察に通報することなく、薬物依存症の人や家族の相談に乗ってくれます。また、NPO法人「東京ダルク」では、薬物依存に苦しむ人の回復支援を行っています。他人事ではありませんから、違法薬物に対する正しい知識を持つことも必要なのかもしれません。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年5月15日号より。写真・中島慶子題字&イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年05月09日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「コンビニの時短営業」です。コンビニの問題から自身の働き方もぜひ振り返ってみて。セブン‐イレブンの東大阪南上小阪店が、スタッフを確保できず夜中の営業を中断したところ、本部から契約解除と違約金1700万円を請求されました。メディアで問題視され、請求はすぐに取り下げられましたが、コンビニエンスストアの時短営業について、各所で議論されるようになりました。現在、コンビニスタッフの人手不足は深刻な問題になっています。結果、オーナー家族に負荷がかかり、心身を壊すという事態が起きているのです。いまやコンビニは、モノを売るだけの場所ではありません。ATMがあり、公共料金の支払いや宅配便の窓口でもあり、各種チケットの発券、コピーやプリンターなど行えることは多岐にわたります。地方では、夜間の町の防犯の意味でも大事な存在になっています。とても便利で私たちの生活は助けられていますが、本当に24時間営業が必要なのかどうか。ヨーロッパなどで、ほとんどの店が日が暮れたら閉まる光景を目にすると、日本の経済活動の過剰さを痛感します。24時間店を開けるということは、商品や電力、資源もそのぶん消費しているということです。ローソンの統計によると、2017年度の売れ残り食品は1店舗あたり1日9.2kgでした。食品廃棄物のうち40%以上はリサイクルをしているそうですが、それでも少なくはない数字です。コンビニ大手も人手不足対策を相次いで打ち出しています。セブン-イレブンとローソンでは、「セルフレジ」を年内に全店で導入することにしました。時短営業もセブンの一部の店舗で実験的に行われています。ただ、「24時間営業」が前提の経営スタイルなので、簡単には時短営業店舗が広がっていくという流れにはならない模様です。4月5日には経済産業省がコンビニ8社に対し、オーナーの不満を解消する行動計画を出すよう指示。今回の件は、オーナーによる訴えに対してメディアが反応し、企業側も反応し、社会が問題を注視するようになった、示唆に富む出来事でした。無理を強いられているのはコンビニに限りません。働き方改革は様々な形があります。自分の働き方を見直し、権利を守ることに意識が向けばいいなと思います。堀潤ジャーナリスト。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年5月1日‐8日合併号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年05月02日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「頻発するデモ活動」です。世界各地で不満が爆発。格差を是正することが必須。いま、世界各地で政権への不満を訴えるデモが起きています。ベネズエラでは、マドゥロ政権が経済政策に失敗し、国内のインフレ率が229万%に。物価が上がりすぎて、国民の生活がままならなくなりました。マドゥロ大統領に反対するデモが続き、野党指導者のグアイド国会議長が自ら暫定大統領に就任すると宣言。大統領が2人という異常事態が続いています。欧米諸国はグアイド氏を支持していますが、中国やロシアはマドゥロ大統領を支持。シリアのように、国を分断する状態に陥らないか、不安が高まっています。スーダンでは、昨年12月に政府がパンの価格を3倍に引き上げ。スーダン貨幣は大きく下落し、現金が底を尽き、給料が振り込まれても引き出せなくなりました。闇マーケットでは現金貨幣が倍以上の価格で取引され、混乱を来しています。人々は30年間圧政を続けるバシル大統領の辞任を求め、反政府デモが行われました。大統領は非常事態宣言を発令し、緊迫した状態が続いています。アルジェリアでは、長期政権による腐敗政治への不満から、5期目を目指した82歳のブーテフリカ大統領の退陣を求めて大規模デモが頻発。大統領周辺の企業や政府要人に富が偏り、若者たちの失業率は29.1%に。多くの国民が貧困に喘いでいました。そして先日、ついに大統領は辞任しました。これらのデモの頻発は、2010年暮れから中東~北アフリカ諸国に広がった民主化運動「アラブの春」の延長にあるともいわれています。長期独裁政権により富が偏り、苦しむ国民が事態を打開する唯一の術がデモだったのです。長期政権ではありませんが、デモは先進国のフランスでも起きています。昨年11月から続く、マクロン大統領への抗議デモ、「黄色いベスト運動」が最近再び活発になりました。市民デモに便乗した過激派グループが暴力行為を起こし、観光名所が一時閉鎖される事態にも。すべての根源は経済格差です。それは日本にも広がりつつある深刻な問題。シリアのような悲劇を二度と起こさないためにも、いま世界各地で起きているデモの背景を、正しく知ってほしいと思います。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年4月24日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年04月23日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「震災への備え」です。熊本地震から3年。震災への備えはできていますか?4月14日で熊本地震から丸3年になります。政府の地震調査委員会によると、今後30年以内のM7~7.5規模の地震の発生率は、青森県東方沖・岩手県沖北部で90%以上、宮城県沖が90%、茨城県沖は80%。M7の地震が発生する確率が50%以上の海域には、房総半島沖や相模湾も含まれます。また、南海トラフではM8~9の地震が起きる確率が70~80%といわれています。日本全国北から南まで、大地震が起こる可能性が高いのですが、みなさん備えはできていますか?東京都は、直下型地震が起きた際は、会社にとどまるようにという「帰宅困難者対策条例」を出しています。交通インフラが止まり、多くの人が移動すると混乱が起き、二次災害が起きたり、緊急車両が通れなくなるのを防ぐためです。しかし、東京商工会議所が会員企業を対象に調査したところ、1127社から回答があり、この条例を認知している企業は62.9%、従業員数10~29人の会社では43.9%でした。会社にとどまるからには、全従業員分の3日以上の備蓄が必要になりますが、それを備えている企業は半分にも満たないことがわかりました。東日本大震災時の数から推定すると、約380万~490万人の帰宅困難者が発生するといわれています。現状では、帰宅はできず、会社にとどまっても備蓄がないケースがほとんどになるでしょう。自分の身は自分で守るしかありません。水や非常食、充電器などは通勤時にも常備しておいたほうが安心です。リサーチ会社によると、災害の備えについて、20代の女性の3割は何もしておらず、逆に60代女性では準備をしていないのは1割のみでした。とにかく、自宅には1週間分の食料と飲料水、電気(電池や電源)、トイレの確保が必須です。また、家族や大切な人との連絡手段、落ちあう場所を決めておきましょう。携帯はしばらく繋がらなくなると思っておいたほうがいいです。直接落ちあえる場所を必ず確認しておきましょう。また、自宅からだけではなく、職場からの避難場所も確認しましょう。普段使っている道が使えなくなる可能性もあるので、3つくらいのプランを考えておくことも大事です。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年4月17日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年04月16日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「新聞読者減少」です。進むウェブ移行。海外への発信を期待したい。毎年10月に日本新聞協会は新聞の発行部数を発表しています。2018年は約3990万部で、前年よりも約223万部減り、14年連続の減少となりました。電子版の契約者数を公表している大手新聞社は2社のみで、全体でどのくらいウェブに移行したのかは不明ですが、日経新聞電子版の有料会員数は昨年60万人を超えました。紙の新聞はコンパクトにまとまっていて、情報を端的に得るのには便利です。ただ、紙面が限られているため情報量は少なく、深く知りたい場合は電子版のほうが適しています。読者が減ることで新聞が衰退すると、ジャーナリズムの力が弱まるのではと懸念する声も。なぜなら紙と電子版では広告料金に大きな差があり、それが取材者の原稿料にも反映し、ウェブは紙の1/3~1/4とか。その結果、深く掘り下げた取材ができず、情報の質や多様性に影響を与えるのではというのです。そんななか、ニューヨーク・タイムズでは、数年前に購読料収入が広告収入を上回ったことがあります。デジタルプロパーを経営陣に入れ、大規模な経営改革をしたからです。電子版なら世界で読まれます。英語ということもありますが、ニューヨーク・タイムズもウォール・ストリート・ジャーナルもワシントン・ポストもローカルメディアにもかかわらず、世界中で読まれています。これは、記者が世界中の読者に向けて記事を書いているからです。日本の新聞をそのまま英訳しても、日本国内の読者を対象に取材・執筆しているため、海外の人は関心を示しません。新聞に限らず放送も含めて、日本のメディアはグローバル化が必要だと思います。ジャーナリズムとして生き残り、自分たちの言論で世界を変えたいのなら、海外と日本をシームレスにつなぐ、そんな目線をもった取材者の育成が急務なのではないでしょうか。多言語化対応も必須です。ロイター、AP、AFPなどの通信社やCNN、BBCなどの放送局は既に日本語でも発信しています。それらのニュースが日本に関係ないかというと、そんなことはありません。世界の政治や経済、最新科学の情報も、将来の私たちの生活に関わってくる大事な事柄なんです。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年3月27日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年03月25日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「原発輸出政策」です。輸出は実質ゼロに。今後は中露が、世界に広げる?イギリスで日立製作所が進めてきた原発建設計画が中断されることになり、日本の海外への原発輸出計画は実質、すべてストップすることになりました。原子力発電の輸出政策は民主党政権のころから推し進めていました。水道や鉄道(超高速鉄道)など、インフラ技術を売ることが輸出の重要な鍵になるといわれており、そのひとつが原発だったのです。当時の鳩山首相は、温室効果ガスを2020年までに25%削減すると国際的に公約。そのためのクリーンなエネルギーとして、原発を増やそうとしていました。新興国では、しばしば電力が足りなくなり工場で停電が起きます。アジアや南米などに原発を輸出しようとしていた矢先、2011年に福島で原発事故が起きました。それ以降、安全対策にコストがかかり、原発の建設費用が1基5000億円以下だったのが、1兆円以上に跳ね上がりました。また、原発は、稼働し続けて初めて利益が回収できるもの。トラブルや災害で止めなければならない状況になると、収益も見込めません。これまでにも1979年にアメリカ・スリーマイル島、1986年にチェルノブイリ、2011年に福島と10数年に一度、世界で大きな事故が起きていますし、小さなトラブルは無数にあります。輸出先で事故が起きると、その損害賠償はメーカーが負わなければいけません。これはとても大きなリスクです。さらにいまは風や熱、光、潮など再生可能なエネルギーが増えました。信用を落とした日本の原発に、投資家たちはなかなか投資をしてくれません。福島第一原発事故が起きたのは、日本の技術が劣っていたからではなく、耐用年数が40年だったにもかかわらず、1960年代の古い型の原子炉を使い続けていたからです。最新型の原発ではそんなことにはなりません。そんななか、いま、原発の開発に力を注いでいるのは、ロシアと中国。国が開発資金をつぎ込み、輸出後のトラブルも国が補償。アメリカやフランス、イギリスなどが原発に後ろ向きになっているのに対し、ロシアや中国など強権な国が、アジアやアフリカに輸出をし、核を扱うアライアンスを世界中に広げていくというのは脅威でもあるのです。堀潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年3月20日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年03月15日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「ザータリ難民キャンプ」です。内戦が終結しても難民キャンプの課題は山積みです。今年の初めに僕はヨルダンにあるザータリ難民キャンプに行ってきました。シリア国境に近い広大な敷地に、8万人近い人が暮らしています。2011年から始まったシリアの内戦。昨年、トランプ政権は、シリアからアメリカ軍を撤退させると決め、軍事的には現アサド政権の勝利で終わろうとしています。内戦後の復興の話も出てきており、中国の企業が名乗りを上げているとか、海外から投資を呼び込んでいるなどと報道されていますが、「戦争が終わってよかった」という単純な話ではありません。反政府軍の拠点である北西部のイドリブではまだ激しい戦いが続いていますし、ザータリ難民キャンプのシリア人難民はさまざまな理由で行き場を失っています。難民キャンプは難民の一時的な保護の場なので、内戦が収束に向かっているのであれば自国に帰るよう促すことが、難民条約には書かれています。しかし、シリアの内戦は、政府が反政府側の市民を弾圧して激化しました。難民として国外へ逃げた人の中には、国に戻れば不当に逮捕される恐れのある人もいます。また、現政権は徴兵制を敷いているため、男性は帰国すると兵にとられ、参加したくもない戦争に駆り出され、同胞に銃口を向けなければいけない状態になるかもしれません。アメリカからの国連への拠出金も引き下げられ、予算は縮減。キャンプ内の学校でも資金が打ち切りになり、シリア人の先生は解雇されていきました。子どもたちの教育の機会は縮小され、診療所も閉鎖。遊んでいて額から血を流した子どもが、救急箱目当てにNGO「国境なき子どもたち」に集まってきているのを目の当たりにしました。日本では中東のニュースはほとんど流れません。シリアも難民キャンプも遠い存在です。でも、現地で僕は「ヤバーニ(日本人)!」と大歓迎されました。アメリカと戦い、原爆を落とされた不幸な歴史を背負っているが、中東のために経済力を役立ててくれる尊敬する国、という意識でいるのです。日本政府や民間がこれまでODAで積み重ねてきた功績の結果です。絶え間ない支援活動が、日本の安全保障につながることを改めて感じました。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年3月13日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年03月11日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「バラマキ戦略」です。企画の裏にある意図を想像して、参加を決めよう。年末年始は、PayPayの「100億円あげちゃうキャンペーン」やZOZOTOWNの前澤友作社長の「1億円お年玉企画」が話題を呼びました。PayPayのキャンペーンは、電子マネーのPayPayを使って支払えば、支払額の最大20%がポイントにて還元され、40回に1回の確率で全額還元(上限10万円相当)という内容。1人月額5万円相当までと高額だったため、10日で100億円に達して終了し、現在第2弾が開催されています。前澤社長のお年玉企画は、前澤さんのTwitterをフォローし、企画をリツイートすればエントリーできるというもので、これによりフォロワー数を550万人増やすことができました。どちらもバラマキ型のPR戦略。現金やポイント還元という、人々の欲望を直接的に刺激する手法で、過剰にPRに力を入れるということは、裏を返せば、それだけ企業側も背に腹は代えられない状況なのだろうと思います。Twitterでは、その後似たようなキャンペーンが出現し、フォローをしてみたら、マルチ商法に誘い込むツイートだったなど、トラブルも発生しました。いずれにせよ、理念や信念もよくわからない人を不用意にフォローしたり、リツイートするのは、危ないのでやめておきましょう。お祭りなんだから、深く考えず参加すればいいじゃないかという意見もありますが、僕自身は、貨幣本来の適正な価値を逸脱しているような気がして、こういう戦略には抵抗があります。ちょうど「平成の大合併」を思い出します。2005年3月末までに合併した市町村には優遇措置を与えると、熟考する間もなく、せき立てられるように合併した自治体には、のちに様々な弊害も生じました。どうしても思考停止になってしまうんですね。自分の身の丈に合わないスピードで、過剰な利益を追求するあまり、森林を破壊したり、河川を汚染したり、人権を侵害したりという結果をもたらす構造と同じなのではないかと思います。目の前のお金に飛びつくのではなく、それらの企業の理念に共感するのか、応援したいと思うのか、先の未来を見据えて参加を考えてみてはいかがでしょうか。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年3月6日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年03月02日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「中枢中核都市」です。地方の都市に集中させる目論見だが、理想通りには…。昨年12月18日に内閣府は82の市を“中枢中核都市”に選びました。人口が東京、神奈川、千葉、埼玉の東京圏に集中するのを抑えるためになされた地方創生政策のひとつです。2018年に東京圏に転入したのは約14万人。2020年時点で、東京圏と地方の転入・転出が均衡を保てるようになることを目標にしています。選ばれたのは、北海道ならば、札幌、函館、旭川。福島県では福島、郡山、いわきの3市。1県に1市のみのところも数多くあります。東京圏以外の、政令指定都市や県庁所在地、中核市。つまり、ある程度大きな街です。自治体の財政が厳しいいま、地方全体を活性化させるのは難しい。そこで、“地方創生推進交付金”の上限を引き上げ、企業誘致や住宅団地の再生などを支援し、地方のなかで、潜在的な成長が見込める都市に、人も仕事も集めて活性化させようという計画なのです。しかし、日本には792の市、東京都の特別区が23、743の町、183の村の合計1741の自治体があります。そのうち東京圏を除いた約1500からたった82市に絞り込んだわけですから、将来的には、数多くの田舎町が切り捨てられることになるでしょう。しかし、この政策を成功させるのは難しいのではないかと僕は思います。同じ県内でも、習慣や言葉、文化が異なります。いくら交付金を出し、「さあ、ここに集まってください」とお膳立てしても、あくまで東京目線。地方創生は、地方発信で進めないかぎり、壁にぶち当たるのではないでしょうか。平成の中頃までは地方分権の機運があり、地方は自分たちで支え、国と県とは対等の立場で緊張関係を持とうとしていました。そんななか、大阪府では橋下徹知事が出てきました。しかし、安倍政権になり霞ヶ関の中央官庁出身の配下を地方の知事に据えたため、地方と国のパイプが強くなり、中央主導が基本の関係になってしまいました。各州が独立して独自の法を持ち、その土地の文化を守っているアメリカのように、北海道や九州が独立して、“日本合衆国”になるくらいドラスティックに変わらないと、本当の意味での地方創生は実現しないのかもしれません。堀潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年2月27日号より。写真・中島慶子題字&イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年02月26日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「水道民営化」です。水道管の再整備が必要な時期。不透明なところも。昨年12月に「改正水道法」が成立しました。これにより、上下水道事業が民営化されやすくなります。改正の動きは数年前からありました。地方の自治体の財政基盤が弱っており、全国隅々まで水道インフラを維持するには、効率よく経営できる民間に任せたほうがいいという判断からです。日本の水道インフラは、主に高度成長期に整備を進めていきました。水道管の耐用年数は約40年のため、いままさに再点検が必要な時期なのです。昨年6月に起きた大阪北部地震では、老朽化した水道管が破裂し、高槻市や箕輪市で約9万戸が一時期断水に追い込まれました。今後こういう被害は増えていくだろうといわれています。実は水道料金は全国一律ではありません。破損した水道管を修理するにも、住民の数により負担額は変わります。平成28年4月の水道料金を見ると、全国平均は月額3227円。最も安いのは兵庫県赤穂市の853円で、最も高いのは北海道夕張市の6841円と、約8倍の格差があります。水道法の改正により、「コンセッション方式」といい、水道施設の所有権は自治体にあり、運営権のみを民間に売却できる仕組みを取り入れることになりました。民営化した場合の問題は、水道料金が高くなること。フランスは1980年代にコンセッション方式で水道民営化を実施しましたが、3か月後には水道料金が値上がりし、25年間で倍以上に高騰したため、2010年に公営化に戻りました。民営化でもうひとつ懸念されるのは、インフラの維持・管理。災害などが発生した場合に復旧されるのか?日本には、水メジャー(上下水道事業を担う巨大な国際企業)はありませんから、フランスのヴェオリア社やスエズ社、アメリカのGE社などが参入することになるでしょう。それらの海外企業が、災害で水道管が破損した際の費用負担をするのか。そもそも老朽化した水道管をまず整備しないことには、商売も始まらないのでは?という疑問も。ヨーロッパでは公営化に戻す動きが主流ななか、日本のこの、水道民営化に移行しようとする流れは、実は不透明なところもあるのです。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年2月20日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年02月15日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「移民キャラバン」です。先進国の搾取が生んだ問題。人道的な解決策を。ホンジュラスやグアテマラなど中米諸国から、数千kmを歩きアメリカをめざす移民たちの集団「キャラバン」が、昨年11月以降、メキシコの国境の町・ティフアナにおしよせ、その数は1万人を超えました。彼らが着の身着のままで母国から逃げ、アメリカを目指す大きな理由は麻薬にあります。麻薬組織の活動がギャング化し、治安をひどく悪くしているのです。そのため安定した仕事がなく、貧困が深刻化、国内にとどまるならギャングになるしか道がない。警察も麻薬組織と結びついて機能しない。犯罪や暴力、飢えと貧困から逃れるためアメリカをめざす人々の呼びかけが、SNSにより広がり、みるみる膨れ上がったのでした。しかし、トランプ政権は移民の受け入れを拒み、メキシコ国境に兵士を7000人超配備。違法入国を試みて拘束された人は2600人。難民申請を待つ人は2500人を超えましたが、ほとんどが却下されています。移民の受け入れに強く反対している人たちの中には、すでに移民としてアメリカに入国している人たちも。自分たちの仕事が奪われることを恐れているんです。これまで中米は安い労働力、農作物の生産などでアメリカ経済を支え、自国の成長を阻害されてきました。自らの手で豊かさを手に入れるための教育や技術を持つことができず、麻薬に手をそめるしか道がなかった人々も少なくありません。この状況を打破するには、キャラバンの人たちが自国で安定した暮らしができるよう、国際社会が動かないといけません。国連ではSDGsといって、持続可能な開発目標を掲げ、各地域の貧困や紛争、人権を踏みにじる行為に、世界中が協調して取り組みましょうと、先進国側に呼びかけています。NPO法人「アクセプト・インターナショナル」がアフリカで行ってきた活動も、参考になるかもしれません。ギャングの若者に道徳的観念を伝え、社会復帰を促す支援を草の根的に行っています。かつて中東諸国に行ったように、苦しむ中米に対して人道支援をするのが日本の役割なのではないかと思います。そうして日本のシンパを増やすことが、安全保障にもつながるのではないでしょうか。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年2月13日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年02月07日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「黄色いベスト運動」です。格差社会の膿が噴出するフランス。将来、日本でも?フランスでは、昨年11月から9週連続で、毎週土曜日にマクロン政権に反対するデモが開かれ、参加者は8万4000人にのぼりました。発端は、燃料税の値上げ。アメリカはトランプ政権になり、パリ協定を離脱するなど、環境問題に後ろ向きの姿勢を示しています。先進国として、フランスは率先してCO2の排出量を減らす対策を立てようと、燃料税を上げ、国民に電気自動車への乗り換えを促そうとしたのです。ところが、多くの国民にとって電気自動車は高額なため買えません。そこで、黄色いベストを着て、政策に反対の声を上げました。参加した人たちは、月収25万円前後の労働者や年金生活者。毎月ギリギリの生活を送っている、パリ近郊に住む人たちでした。彼らが政権を非難した理由はもう一つ。フランス政府が高額資産者に対して課していた富裕税を取り払ったからです。しかし、政府からすれば、富裕層がタックスヘイブンに逃げ、多額の税収を取り損ねないためには、ある程度の優遇もやむを得ないんですね。黄色いベストの人たちにイデオロギーの対立はなく、左派も右派もお金がないという点で団結しています。11月末にはシャンゼリゼ通りでデモ隊が暴徒化する場面がニュースになり、世界を震撼させました。壊し屋専門の部隊が出動しており、一部の極端なグループが黄色いベスト運動に便乗して起こしたともいわれています。12月に政府は燃料税の引き上げの延期を発表しましたが、その後もデモは続いています。フランス国民は、市民革命によって独裁王政を倒し、民主主義を勝ち取りました。幼少期から、「生きやすい社会とは自ら手に入れるもの」という教育を受け、デモは国民の当然の権利として認められています。しかし、これほどデモが続くということは、庶民の生活はかなり追い込まれているということでしょう。暴徒化するパリの映像を見たとき、僕は、これは5年後、10年後の日本の姿なのではないかと思いました。所得の格差はますます開き、今後は外国から賃金の安い労働者も入ってきます。仕事の奪い合いになり、国民の不満が溜まっていったら…。日本も決して他人事とはいえないのです。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年2月6日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年01月31日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「漁業法改正」です。日本の食を支えた魚がいま、大変な状況になっている。昨年12月、70年ぶりに漁業法が改正されました。四方を海に囲まれた日本は、瀬戸内海などの内湾も含め、魚が豊富に獲れていました。魚は日本の食文化を支え、日本人にとって大切なカルシウムやタンパク源。ところが長年の乱獲により、日本近海で魚が獲れなくなってしまいました。昨年開設した豊洲新市場も、最新設備の整った広大な市場にもかかわらず、取扱量は、築地市場と変わりません。漁獲量の減少は、深刻な問題になっているのです。たとえば居酒屋の定番メニューのホッケは、この20年で激減。紋別で、かつては1kg約70円で取引されていたものが、いまでは2500円にまで跳ね上がっています。そのためホッケの代わりに、ロシアやアラスカ産のマホッケが使われるようになりました。このように、日本で獲れなくなった魚の代わりに、似たような魚を他の海から獲ってきて「代用魚」にするということは実は数多くなされているんです。寿司ネタのエンガワは、ヒラメやカレイの代わりにオヒョウという1mを超える巨大な魚。マグロやカツオのたたきにはアロツナス(細ガツオ)、アナゴの代わりにクロアナゴ、アワビの代用はチリ産のアワビモドキ(ロコ貝)が食されています。日本近海で魚が獲れなくなった理由の一つに、成長前の小魚まで獲っていたことが挙げられます。そのくらいこれまでは漁業に関して規制が緩かったんですね。日本国内で取引される魚は約500種類ほどありますが、獲りすぎていないか、魚の生態を観測しているのは84魚種。魚の乱獲を制御し、持続可能な漁場を作るために、今回の漁業法改正に至りました。資源としての魚をどれだけ守るかということには、世界的に注目が集まっており、養殖業の技術も向上しています。オーストラリアなどでは天然マグロよりも養殖マグロのほうが、脂ののったトロがとれるようになりました。日本は、魚の価格高騰とともに、消費量も落ち込み、平成18年ごろからは肉が魚を上回っています。漁業従事者の人数も減る一方。彼らの生活を守りつつ、食卓から魚が消えないよう、長期的な対策を練る必要があるでしょう。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年1月30日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年01月25日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「平成の30年間」です。改革を目指したけれど、失敗の連続だった。昨年の「今年の漢字」は「災」、災害の目立った一年でした。それも、自然災害だけでなく、人災の要素も孕んでいました。台風や豪雨で川が氾濫し、家を破壊していったのは、山の管理がなされていなかったのも一因です。国の財政が、社会保障や国防などに多く投入され、地方の公共事業に回らなくなったことに起因しています。岡山県や広島県でも被害が集中したのは、市の周辺の山あいの地域でした。人口減少により、コンパクトシティ化を進め、宅地開発されたエリア。きちんと都市計画がなされていれば、被害を最小限にとどめられたかもしれません。平成の30年間には、たくさんの改革がなされましたが、ことごとく失敗しています。自民党と社会党の「55年体制」が崩れ、新党がたくさん生まれて、首相が頻繁に変わっていきました。行政改革、省庁再編、選挙制度改革をしましたが、政治離れは一層進行。人口減少による税収不足を補うため、平成とともに消費税をスタートさせましたが、社会保障費は膨らむばかりで国の借金は一向に減りません。実質賃金は下がる一方。労働市場は正規雇用と非正規雇用の格差が広がりました。第2次安倍政権以降は長期政権になり、安定しているといわれますが、政治と金の問題は解決せず、アベノミクスで恩恵を受けたのは一部の人にすぎません。福島の原発事故も、平成の大惨事でした。日本は原発の輸出を計画していましたが、フランスやトルコは反原発体制に舵を切り、エネルギー政策は転換期を迎えています。この30年の間に、世界で戦っていた日本の家電や車産業も、いつの間にか中国や韓国に追い抜かれてしまいました。その背景には、国も企業も既得権益に固執し内向きになっていったこと、デジタル分野など新しい産業、若い起業家を後押しする姿勢になかったことが挙げられます。昨年は企業不祥事、パワハラ、#MeTooなども表出しました。そんななか、失敗を払拭するかのように、平成最後に打ち上げたのが、東京オリンピックと大阪万博。昭和と同じ手法です。いまこそ平成の問題をきちんと検証し、膿を出しきり、次の改革へ踏み出せたらと思います。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年1月23日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年01月17日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「TPP11」です。安くてよいものが入ってくる半面、危機感も否めない。2018年12月30日にTPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的)協定が発効しました。日本やオーストラリア、チリ、東南アジア各国など、太平洋を取り囲む国々で関税を取り払い、サービスや投資の自由化をめざすという経済連携協定です。12か国で交渉を進めていましたが、トランプ政権になり、アメリカが離脱し、「TPP11」となりました。関税は、自国の産業を守るための防波堤です。外国から入るモノに対して高い税金をかければ、消費者を安い国産品に誘導できます。それが、自由貿易に向かう流れになったのは、関税を取り払うことで競争が生まれ、より質のいい製品が作られるようになることや、また、他国の消費者を取り込むチャンスにもなると考えたからです。TPP11協定で、日本のコメは関税を維持。オーストラリア米だけ13年目以降年間8400tの輸入が決まりました。他にも、牛肉は現行の38.5%から段階的に引き下げ、発効から16年目に9%とすることに。小麦はカナダやオーストラリアからの輸入ものの売買差益を9年目までに45%削減。チーズではチェダーやゴーダ、クリームチーズなどの関税が16年目に撤廃に。日本から輸出する際の関税は大半の撤廃が決まり、日本酒や醤油、水産物の輸出が増えることになるでしょう。工業製品は、日本から輸出する品目の99.9%で撤廃されることになります。TPP11発効に伴い、貿易や投資が拡大し、日本経済は拡大向上。新たに46万人の雇用が生まれ、GDPをおよそ8兆円、1.5%押し上げる効果があると政府は公表しています。しかし、そう楽観視はできないと思います。自由貿易により競争が激しくなれば、安いモノが売れますから、国内では生産コストを削減しなければいけなくなります。人件費をおさえるため、機械化や国外での生産になり、雇用が奪われるかもしれません。また、国産品が海外に売れるというのは、世界中の人が欲しいと思う「いいモノ」であることが大前提です。企業の不祥事が次々に起きているいま、日本のモノづくり産業そのものが崩れかけています。危機感を持って対処するべきでしょう。堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年1月16日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年01月14日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「軽減税率」です。増税負担を軽減するために開始。生活にも変化?2019年10月からの消費増税にともない、日本で初めて「軽減税率」が導入されます。消費税が8%から10%になるということは、100円のものが108円から110円になります。低所得者にとっては2円でも痛く、これが日々積もれば負担は大きくなります。社会保障の財源を確保するために消費税を充てようとしているのに、社会保障が必要な人たちにさらに負荷がかかるのは困る。そこで、日々購入するような食料品などの税金は安くし、煙草や酒などの嗜好品や、高級品は税率を高くする仕組みを取り入れることにしました。ヨーロッパでは既に導入されているシステムです。いまのところ決まっているのは、酒や外食を除く飲食料品は8%のまま。また、民主主義にとって言論は必要なものとして、定期購読契約が結ばれた週2回以上発行される新聞も据え置くことになりました。いま、最も議論がなされているのは、どこまでを外食とするかという問題です。牛丼も店内で食べれば外食扱いで10%ですが、テイクアウトの場合は8%。コンビニのイートインコーナーは外食扱いになってしまうので、今後は「休憩所」という扱いにしようとするなど、線引きが揺れています。これまで日本に軽減税率が導入されてこなかった背景には、「税の三原則」というものがありました。税金は「公正」「中立」「簡素」であることが必須とされてきたんです。モノによって税率が変わるのは、簡素とは言い難いですし、日用品の税率を据え置きにしましたが、お金持ちも日用品は購入するので、公平と言い難い部分もあります。いま様々な分野で税率据え置きの陳情がなされており、それらが決まるには時間がかかるでしょう。多少の混乱は避けられませんが時間をかけて制度が定着していくのだと思います。これまではどちらかというと、個の消費が推進され、お一人様用の商品が充実したり、外食の環境が広がってきていました。軽減税率が始まれば、外食は高くなりますので、家族や友達と家に集まって、みんなで食事を摂るなど、お茶の間の“シェア消費”が増えていくのかもしれませんね。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2019年1月2・9日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年01月07日2019年、日本はどうなるの?政治や経済、時事問題についてわかりやすく解説してくれる、ジャーナリスト・堀潤さん&イラストレーター・五月女ケイ子さんの連載「社会のじかん」のスペシャル版をお届けします!アジアがひとつになる。→堀さんの分析:日本には、中国とアジア各国の間で、調和を図る役割が期待されています。五月女:夏に展覧会を開いたので、台湾に行ってきたのですが、日本文化が浸透していて、受け止められ方も東京とほとんど差がない感じでした。堀:僕もこの間、韓国に行きましたが、韓国と日本双方の文化が融合している印象でした。政治はこれまで対立が目立ちましたが、10月には日中首脳会談があり、日本と中国は共に歩む姿勢が明確になりました。韓国や北朝鮮も2019年は友和ムードを具体化する調整期に入ると思います。五月女:ご近所同士、みんなで仲良くできるのはいいですね!堀:いま、RCEP(アールセップ)(東アジア地域包括的経済連携)という大きな貿易圏を作ろうとしていて、それは、日本や東南アジアだけでなく、中国、インド、韓国、オーストラリア、ニュージーランドを含めて、関税を取っ払い、人やモノやサービスを行き来しやすくしようとしているんです。五月女:EUのような形を目指しているのですか?堀:そうですね。これまで日本はアメリカを最大の同盟相手国にしていましたが、2019年以降はご近所の国々ともっと仲良くしていくことになるでしょう。距離的にも行き来しやすいですし、アジアには山も海も畑もありますから、連携すれば食料を融通しやすくなります。RCEPでは夏冬両方の季節のモノを同時に手に入れられる利点もある。五月女:南半球のオーストラリアも入っていますもんね。堀:日本は少子高齢化が進んで平均年齢は50歳近いですが、東南アジアには平均年齢が30歳くらいの若い国がたくさん。若くて元気でガンガン稼ぐ国々に、おじいちゃんになる日本が支えられながら、先輩として、民主主義のジレンマや法律問題など、経験や知恵を伝えていくという良好な関係は築けるんじゃないかと。五月女:おじいちゃんですか!堀:アジアのなかでは、一帯一路構想を持った中国が覇権を広げています。カンボジアは中国の影響を強く受けて、経済的支援を受ける代わりに反政府的な勢力を抑えつけるなど、民主化が揺らいでいるんです。そんなカンボジアと中国の間に日本が入り、調整役をすることも世界的には期待されています。現場を見守る顧問のような存在として。五月女:現役選手ではないんですね。堀:素晴らしい立ち位置だと思いますよ。ただ中立的な立場で調整役に立つには、日本国内が安定していることが必須。残念ながら日本は格差が広がり、経済成長も横ばい。足りない労働力を海外からただ安く入れようとしたらいずれ分断を生み、社会は荒れてしまいます。外国人と共存できる環境を整えることが先決でしょうね。2019年の日本は踏ん張りどきだと思います。五月女:外国人労働者は、おもてなしの気持ちで迎えるべき?堀:いえ、そういうお客さん扱いではなくて、「一緒に働く仲間」として対等に支え合う関係を築けるのが理想ですね。日中首脳会談日本と中国は、競争から協調へ。’18年後半、首脳会談を3度も行った安倍首相と習近平国家主席。9月に、ロシアで開かれた東方経済フォーラムの場で。10月には総理大臣として約7年ぶりに訪中。11月末にもG20サミットが行われたアルゼンチンで。日中の関係改善に向けて一気に加速!©新華社/アフロRCEPとTPP11アジアに巨大な貿易圏が生まれる。RCEPは、’11年にASEANが提唱。日中韓印豪NZの6か国がASEANと結んでいる5つの自由貿易協定を統合し、東アジアでの共同体作りを目指す。TPP11は環太平洋地域の国々の経済の自由化を目的とする協定。アメリカが離脱し11か国で12月30日に発効する。一帯一路構想中国は西へ!現代版シルクロード。一帯とは、中国西部から中央アジアを経由し、欧州へと続く「シルクロード経済ベルト」を指す。一路は、中国沿岸部から東南アジア、アラビア半島沿岸部、アフリカ東岸を結ぶ「21世紀海上シルクロード」のこと。中国主導を警戒していた日本も、現在は協力を表明。堀 潤さん(写真左)ジャーナリスト。「8bitNews」代表。「GARDEN Journalism」主宰。『モーニングCROSS』(TOKYO MX)ほか、レギュラー多数。五月女ケイ子さん(写真右)イラストレーター。ツイッターは@keikosootome。楽しいグッズ満載のオンラインストア「五月女百貨店」は@sootomehyakka。※『anan』2019年1月2・9日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年01月03日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「社会のじかん」。今回はイラストレーターの五月女ケイ子さんと共に、消費税について考えます!消費税が10%になる。→堀さんの分析:高い税金、高いキャッシュバックの制度作りに向けた議論が始まりそうです。堀:30年前にスタートした消費税。2019年10月には、8%から10%になります。五月女:最初は3%でしたよね?当時、中学生だったので、すごく痛かったです。堀:少子高齢化の進む日本では稼ぎ手が減るので、税収も減って、将来、国の財源が足りなくなる。そこで始まったのが消費税です。国は将来的には20~30%くらいまで上げたいと思っているんです。五月女:そんなに上がるんですか!?堀:段階的に上げてきましたが、税率が上がるたびに消費が落ち込んで景気が悪くなってしまう。そこで国は、いくつかの増税対策を検討中で、そのうちの一つが、「軽減税率」です。五月女さんは普段、どんなものを買いますか?五月女:なんだろう?食料品とか服とかでしょうか。堀:あまり買わないものは?五月女:宝石とか家とか車とか…飛行機?(笑)堀:軽減税率とは、米やパンなど日常的に必要な食料品は8%の据え置きにして、酒や煙草などの嗜好品や、経済的に余裕のある人しか買わない高価なものは、税率を10%にするという仕組みなんです。正確には据え置きなので、「軽減」ではないのですが。五月女:本当だ!名前がずるい!堀:ものによっては複雑になります。たとえば、スーパーのお惣菜は買って帰れば8%ですが、イートインコーナーで食べると「外食」扱いになり10%になるんです。五月女:えー!それは混乱しそう。堀:増税対策はほかに、一定期間、中小小売店でのキャッシュレスでの支払いにはポイントを還元するとか、低所得者と0~2歳児のいる子育て世帯には、購入額以上の買い物ができる「プレミアム付き商品券」を発行するなど、全部で9項目が予定されてます。五月女:お店のポイントとかも、私は活用するのが苦手で、本当に得になっているのかな?と思ったりします。堀:僕もポイントはあまり活用できていません(笑)。ただ、日本の社会保障をこれからも支えていくには、消費税は上げていかないともたないんですよね。北欧やヨーロッパの一部の国では、消費税が30%台と高い代わりに、学校や病院を無償にしています。五月女:日本はそういうふうにはできないんですか?堀:日本は長らく、政治家たちが人気取りのために選挙のたび「減税」を謳う時期が続いて、消費税の制度設計がうまくいっていませんでした。五月女:何のために増税が必要なのか、わかるように説明してくれれば私たちも納得できるんですけど。堀:高い税を支払う代わりに、子どもの教育費、奨学金、介護や医療費などで高いキャッシュバックが得られる制度作りに向けた義論が、2019年は本格化すると思います。生活の向上につながる還元策になっているか、私たちは見守ることが大事になりますね。堀 潤さん(写真左)ジャーナリスト。「8bitNews」代表。「GARDEN Journalism」主宰。『モーニングCROSS』(TOKYO MX)ほか、レギュラー多数。五月女ケイ子さん(写真右)イラストレーター。ツイッターは@keikosootome。楽しいグッズ満載のオンラインストア「五月女百貨店」は@sootomehyakka。※『anan』2019年1月2・9日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2019年01月03日2019年、日本では何が起こりそうか?意外と知らない社会的な問題についてジャーナリスト・堀潤さんが解説する連載「社会のじかん」のスペシャル版として、イラストレーター・五月女ケイ子さんと共にAIについて迫ります!生活の中にAIが浸透する。→堀さんの分析:2019年を描いた昔のSF映画の世界が、本当に始まるかもしれません!五月女:娘が寝室で「OK!グーグル、パパをどかして」と、CMの真似をするんです(笑)。家にAIスピーカーはないし、そんなことまで頼めないと思うんですけど。堀:できるようになるかもしれませんよ。「いますぐ処理しないと問題になる緊急のメールが入っています」と、パパを書斎に行かせたり(笑)。五月女:うわぁ、もし、そうなったらすごいですね!堀:AIに一番期待されているのは、集めたデータを解析して、未来を予測してくれることです。たとえば、過去の医療データを統合させて、健康診断の結果から、特定の病気の20年後の発症率を予測するなど。僕はいま「カロリーママ」というAI管理栄養士のアプリを愛用しています。五月女:「食べすぎよ!」とか叱ってくれるんですか?堀:はい、叱られます(笑)。健康関連でいうと、中国では最近、AIドクターが登場して話題になりました。AIが問診をしてくれるんです。最近はセンサーが発達して、体温や脈拍も測れますから、スマホのアプリやApple Watchなど、健康分野での活用は増えていくでしょうね。AIは、データを多く集めるほど、あるとき飛躍的に賢くなります。AIの翻訳機能も、自然な日常会話ができるようになりましたよね。五月女:じゃあ、人間は勉強しなくてもよくなるのですか?堀:AIは、計算や記録は任せられますが、ゼロから何かを生み出すことはできないんです。これからの教育は、何かを生み出す人を育てることが主になっていくでしょう。五月女:この間、AIが描いた絵を見てびっくりしました!人間をテーマに描いているけど、なんだか不気味な絵で…。堀:人間を神経回路として捉えているからでしょうね。そこが、いまのAIの限界なのかも。将来的には、人の頭にAIを埋め込むことができるかもしれないといわれています。五月女:人間なのかAIなのかわからなくなりそう。堀:レプリカント(アンドロイド)と人間が混在した、映画『ブレードランナー』の世界ですね。あの映画の設定は2019年だったんです。中国では人間そっくりのAIアナウンサーも登場しましたし、もう、商売あがったり(笑)。AIを使う側に回りたいです。五月女:私もイラストはAIにやらせて、遊びたいです(笑)。堀:問題は、AIをコントロールするのが限られた巨大IT企業だけということです。2019年は、世界中でデータ規制のような議論が活発になっていくと思います。AIが人間の能力を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」が来るのが2045年といわれていましたが、AIの成長が予想以上に目覚ましいので、もっと早まるかもしれません。五月女:どうなるんですか?堀:AIに命令した途端、「イヤです」と反抗されるかもしれませんね(笑)。無人クリニック初診はAIドクターが診る時代へ!11月、中国で開催された世界インターネット大会で、無人診療所が登場。まず証明写真ボックスほどの診療ブースで、AIドクターが問診し初期診断。それを実在する医師が確認し、処方箋を出す。併設された自動販売機で薬を購入する仕組み。なんと数分で完了だとか!©平安健康医療科技有限公司AI絵画AIが人間の絵を描いたら…。これが、10月にNYで開かれたクリスティーズのオークションで約4900万円で落札された、AIが描いた絵画「エドモンド・デ・ベラミーの肖像画」。いまのところAI絵画は輪郭が曖昧にとろけ気味になるのが特徴で、AIには人間はこういう感じに見えている!?©Christie’s 2018AIアナウンサーリアルすぎるAIアナウンサーが登場。中国の国営メディア・新華社通信で、CGで作られた、AIを使ったアナウンサーがお披露目に。放送した内容からさらに自分で学習し、読み間違いも一切なし。表情や仕草、声や外見は実在する本物のキャスターをモデルに作られているとか。まばたきもする芸の細かさ!©AFP/アフロ堀 潤さん(写真左)ジャーナリスト。「8bitNews」代表。「GARDEN Journalism」主宰。『モーニングCROSS』(TOKYO MX)ほか、レギュラー多数。五月女ケイ子さん(写真右)イラストレーター。ツイッターは@keikosootome。楽しいグッズ満載のオンラインストア「五月女百貨店」は@sootomehyakka。※『anan』2019年1月2・9日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年12月31日政治や経済、時事問題についてわかりやすく解説してくれる、ジャーナリスト・堀潤さん&イラストレーター・五月女ケイ子さんの連載「社会のじかん」。今回はスペシャル版をお届け!キャッシュレス化が進む。→堀さんの分析:小銭、口座からの引き出し、手数料。電子決済でそれらから解放されます。堀:SuicaやモバイルSuicaなど電子マネーの登場で、小銭を出す必要もなくなり、だいぶ便利になりました。五月女:私はまだ、カードタイプのSuicaを使っています。堀:いままでは、いちいちカードに現金をチャージするという手間がかかっていましたが、これからはスマホ一つで、自分の銀行口座やクレジットカード会社から直接決済する仕組みが進むでしょうね。僕なんかは最近、財布に現金はほとんど入っていません(笑)。五月女:さすが!時代に乗ってますね!やはり便利ですか?堀:たとえばタクシー。タクシー配車アプリをまず起動し、自分のいるカフェに15分後に来てもらうように頼みます。カフェの支払いもスマホのクレジットカードか交通系の電子マネーでピッ!タクシーはアプリで呼んだ時点で自動的に決済されるので、目的地に着いたらそのまま降りればいい。これまで道で空車を探したり、店やタクシーの会計に使っていた時間をまるまる有効に使えます。五月女:すごいですね!でも、それって、スマホを落としたら大変なことになるのでは?堀:それは、財布を落とすのと同じです。ただ、財布の場合は現金を抜き取られたら戻ってきませんが、スマホなら電子化されているので悪用されにくいです。自分が決済していないことが証明できれば引き落とされませんし。五月女:逆に安全なんですね。堀:キャッシュレスの究極の形は無人化店舗。アメリカでスタートした「Amazon Go」では、Amazonのアプリを起動して、無人の店舗に入り、自分が欲しい商品を袋に入れてそのまま出れば、自動的に決済されるんです。五月女:なんだか、万引しているみたい(笑)。なぜそんなことができるんですか?堀:店内に何台もカメラが設置されていて、どの商品を取ったかがわかるんです。商品は、Amazonでレビューの高いものを陳列していますから、売れるものばかり。日本にはまだありませんが、きっと世界中に出店するでしょう。人手不足が解消されますし、人工知能が販売動向を調べて、仕入れを無駄のないように調整することも可能になります。無人店舗は、実験的にJR赤羽駅ホームのキオスクでも導入されたんですよ。五月女:お話を聞いていると、キャッシュレスってすごく便利だと思うんですが、「お金を使う」という意識を子どもにきちんと教えられなくなる気がして、心配になります。堀:お金の価値観は変わるでしょうね。これまではお金に固執させられていたんだと思います。でも、今後は単に取引のための契約のサインのようなものに。お金よりも信用や人脈のほうが重要になるでしょうね。支払い能力や実績はすべて明快になりますから。五月女:確かに。データ化されて嘘やごまかしが利かなくなるし、秘密がなくなっちゃいそう!Japan Taxi & LINE Payタクシーもスマホでピッ!が主流に。タクシーの手配や予約、キャッシュレス払いのできる配車アプリの先駆け「Japan Taxi」。決済機付きタブレットも現在、都内で5500台のタクシーに導入されている。12月から「LINE Pay」での支払いも可能になり、より便利に。年内は最大500円還元キャンペーン中。写真提供・LINE PayAmazon Go商品を手に取り、店を出るだけ!ゲートにスマホをかざして入店。店内にレジはなく会計に並ぶ必要もない。現在、Amazon本社のお膝元、シアトルに3店舗とシカゴ、サンフランシスコにもオープン。ニューヨークやアメリカの主要な空港への出店も計画中とか。残念ながら日本での展開は未発表。©Newscom/アフロJR赤羽駅無人決済店舗日本版無人店舗はSuicaで決済。’17年11月の大宮駅に続き、’18年10月17日~12月14日に赤羽駅5、6番ホームで、AI無人決済システム「スーパーワンダーレジ」を導入した特設店舗の実証実験が行われた。Amazon Goと違い、アプリの事前登録不要。入店と決済を交通系電子マネーで行う。©ZUMA Press/アフロ堀 潤さん(写真左)ジャーナリスト。「8bitNews」代表。「GARDEN Journalism」主宰。『モーニングCROSS』(TOKYO MX)ほか、レギュラー多数。五月女ケイ子さん(写真右)イラストレーター。ツイッターは@keikosootome。楽しいグッズ満載のオンラインストア「五月女百貨店」は@sootomehyakka。※『anan』2019年1月2・9日号より。写真・小笠原真紀イラスト・五月女ケイ子取材、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年12月27日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「ふるさと納税と災害支援」です。ふるさと納税の制度が始まって10年。近年は、返礼品がしばしば問題になっています。ふるさと納税が作られた背景には、東京を筆頭に大都市に人が集まり、税収も都市に集中したこと。人口減少の進む地方にも税収を分配できる方法をと、故郷や自分の好きな町に納められる制度として創設されました。そして、税を納める代わりに、返礼品として地域の特産物が贈られたのです。やがて数々のクラウドファンディング事業者が参入、ふるさと納税の申込窓口を請け負うようになりました。すると自治体ごとに競争が生まれ、返礼品を競い合うようになり、土地の特産品といえないものまで贈るようになりました。本来の趣旨からかけ離れていったため、総務省が音頭をとり、寄附額の3割を超える返礼品を出す自治体は税優遇から外す方針を掲げました。しかし、実は今年、ふるさと納税は大活躍しました。豪雨や台風、地震などの災害で被災した自治体が、復興にかける資金を調達するのに、ふるさと納税のしくみが大きく貢献したのです。寄附には、義援金もありますが、被災地に公平に割り当てられますし、届くまでに時間がかかります。ふるさと納税ならば、送りたい町にすぐさま届けられ、救命・復旧活動に使ってもらうことができます。また、「代理寄附」という制度も生まれました。ふるさと納税は、納税者が税の控除を受けるために、納税証明書の発行が必要になるなど、煩雑な事務処理が発生します。被災直後の自治体にとっては、その作業が負担になってしまう。そこで、別の自治体が事務手続きを代行し、手続きを終えたお金だけを被災地に送るという仕組みが生まれました。これは、熊本地震のときに、その前年に豪雨災害にあった経験を生かし、茨城県境町が名乗り出てスタートしました。2008年の開始当初には想定していなかったことです。ふるさと納税には批判もあり、見直す必要がある一方で、災害支援としてはとても有効な仕組みです。ネットで検索すれば、各災害ごとに納税先を選ぶこともできます。税額控除にもなりますし、みなさんもぜひ、活用してみてはいかがでしょうか?堀 潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2018年12月19日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年12月17日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「自己責任論」です。仕掛けられた議論。大衆の意識の低さにも問題が。3年4か月にわたり、シリアで武装勢力に拘束されていた、フリージャーナリストの安田純平さんが無事解放されました。ところが帰国後、テレビやネットなどの日本のメディアで多くとりあげられたのは、シリアの情勢や安田さんがどんな取材活動をしてきたのかよりも、“自己責任論”でした。危険な地域での人道支援やジャーナリストの取材に対して、“自己責任”という言葉が使われるようになったのは2004年、3人の日本人の若者が、イラクで武装勢力の人質になったときです。「危ないといわれているところにあえて行くのは、自分自身の責任の部分が多い」と、当時の小泉政権の閣僚が言い、広まっていったのです。自衛隊のPKO派遣と重なった時期で、3人の行動により国の政策を変えるわけにはいかず、政府批判が高まらないように政府が作った官製用語でした。安田さんの帰国以降、日本のメディアでは主に、「自己責任なのだから、危険地帯に行った人は死んでも仕方がない」という話か、それゆえ「危険な地域には行くな」という2元論しかされていません。しかし、「危ないから取材には行かない」ということだと、日本にとって情報の空白地帯が生まれてしまいます。「シリアなんて遠い国の話は日本に関係ない」と思う方がいるかもしれませんが、それは違います。中東が混乱し、石油が手に入らなくなったら、私たちの生活は根底から覆される可能性があります。また、日本は貿易国。輸出で収益を得ており、世界中とつながっていますから、情勢を知らなくていい地域などないと思います。自己責任論のなかには、「国に迷惑をかけるな」という意見も挙がりましたが、国が邦人を保護するのは当たり前の話。それは、急性アルコール中毒で倒れた人を“自己責任”だからと、救急車が乗車拒否をすることはないのと同じことです。今回の自己責任論は、メディアによって仕掛けられた議論でした。本来伝えるべきシリア情勢よりも、感情に訴えかける大衆受けのするコメントを流し、議論をショーアップしていきました。しかし、メディアは社会を映す鏡です。メディアにそうさせたのは、果たして誰なのでしょうか。ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2018年12月12日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年12月05日靴下とアートが出会ったら? 過去に浅野忠信やドノヴァン・フランケンレイターとのコラボソックスを発売した「TabioARTS」プロジェクト。さまざまなアーティストをゲストに迎え、靴下というキャンバスにグラフィック・写真・イラスト等を自由にデザインしてもらうことで、靴下を通してアートに触れてもらいたいという思いから生まれたコラボレーションレーベルです。毎回どんなアーティストが登場するのかワクワクさせてくれるのですが、今回も個性豊かなラインアップが集まっています。 TabioARTS × Ivana Helsinki 各¥2,800 フィンランドのデザイナーによるパターンが魅力 最初にご紹介するのは、フィンランドを代表するファッションブランド・イヴァナヘルシンキ。1988年にデザイナーであるパオラ・イヴァナ・スホネンと姉のピリヨ・スホネンによって設立され、“現代のマリメッコ”と呼ばれる色鮮やかなパターンのアイテムが人気を集めています。 アイテムは左から、2002年の秋冬コレクションで発表したクラシックなフィンランドの小鳥プリント、子供時代の思い出から湧き上がってきたというスラブ風デザイン、フィンランドで最も有名なウォッカのためにデザインされた柄をアレンジしたもの、そしてポップアートから連想した70sサイケデリックプリントの4種類。どれもクラシックでありながら攻めたデザインです。 TabioARTS × 五月女ケイ子 左から「80’S POP」各¥2,100、「靴下愛」 各¥1,400 カラフル&シュールなイラストに注目 独学で絵を学んだというイラストレーターの五月女ケイ子は、テレビ、広告、雑誌、LINEスタンプなどさまざまなメディアで活躍する売れっ子アーティスト。どこかで見かけた方も多いのでは?原色を多用したシュールな世界観で、見た人を笑顔にさせてくれるのです。 アイテムは左から、「80’S POP」をテーマにしたシンプルな線画デザイン。「onaka suita!」などのローマ字プリントされており、「なんでもローマ字にしていたあの頃を思い出す」という説明にもぐっときます。「靴下愛」と名づけられた右のソックスは、LINEスタンプでおなじみのキャラクターが幸福の靴下を身につけているデザイン。刺繍糸にもこだわった珠玉の一品とのこと! TabioARTS × 長場雄 左から「Crusing」「Left Right」各¥2,800、「Boy and Girl」¥1,800 長場雄さんのアイコニックな線画をソックスに雑誌や広告、書籍のカバーなどで見ない日はないほどの人気イラストレーター、長場雄を迎えたアイテムは、ホワイトを基調にしたシンプルな仕上がり。映画のキャラクターやさまざまな著名人の特徴をとらえた線画を得意とする長場さんらしい一足になっています。 アイテムは左から、スケートボードに乗ったカエルが町をクルージングしている様子を描いた「Crusing」、左右を履き間違えないように右にはRight、左にはLeftの文字を入れたファニーな一足「Left Right」、両足を揃えたときに男の子と女の子が会話をしているようなデザインになった「Boy and Girl」の3種類。どれもほっこり幸せな気持ちになるイラストです。 TabioARTS × 千代の富士「chiyonofujiTOKIDOKIwolf」各¥2,800 まさかの千代の富士!な意外性を楽しんで 第58回大横綱として、通算勝ち星1045勝を誇った昭和最後の大横綱・千代の富士。1989年には角界初の国民栄誉賞を受賞し、2016年に亡くなったときは多くの人に惜しまれた偉大な力士でした。今回のコラボでは、パターンアーティストのmonanas(モナナ)さんによりデザインされています。 タイトルは「chiyonofujiTOKIDOKIwolf」。ソックスの中に、千代の富士の愛称であったウルフのシルエットが「ときどき」隠れているというファンにも嬉しいデザインになっています。ホワイト、レッド、ブラックの3色が揃うので、セットで手に入れておくのもおすすめ! TabioARTS × 森山大道 左から「Lips」「Tights」各¥2,800 ※予約販売、12月上旬お届け予定 森山大道による官能的な作品世界 最後にご紹介するアーティストは、言わずと知れた写真家・森山大道。サンフランシスコ近代美術館、国立国際美術館、テートモダンで行われたウィリアム・クラインとの合同展ほか、国内外で大規模な展覧会が開催され、国際写真センターInfinity Award功労賞を受賞するなど、世界的に高い評価を受けているフォトグラファーです。 アレ・ブレ・ボケと呼ばれる荒れた粒子や、焦点がブレた不鮮明な写真、ノーファインダーによる傾いた構図など、これまでの「写真」の基準を覆してきた彼らしいデザインになっています。「女性の唇はエロティックで好きです」「網タイツを履いた女性の足はエロティックで好きです」とは本人のコメントより。ファッションアイテムとしてエッジィに着こなせるアイテムです。 多方面で活躍するアーティストたちの自由な感性をそのままソックスにしたような「TabioARTS」のプロジェクト。好きなアーティストで選んでもよし、ワードローブに合うデザインを選んでもよし。日用品として使うことで見えてくるアートの新たな魅力を楽しんでください! TabioARTS0120-655-691tabio.com/jp text:坂崎麻結
2018年11月28日意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「パワーハラスメント」です。職場のパワーハラスメント(パワハラ)とは、同じ職場で働く人に対して、地位や人間関係などの優位性を使い、適正な範囲を超えた精神的・身体的苦痛を与える行為をさします。2010年からの5年間で、過労が原因でうつ病などの病気を発症して労災が認められたケースが2000人。そのうちの368人は過労自殺でした。2000人のうち、30代が3割以上。20代も加えると5割以上になります。少子高齢化で労働不足になっている日本にとって、若い世代が心を病んだり自殺に追いやられているというのは、もはや国難です。2017年度に「心の病」が労災認定された506人のうち、パワハラが原因の人は88人。前年度より14人増え、2年連続で原因別の最多となりました。パワハラは、起こしている本人にその自覚がないケースが多く、トラブルになっていますが、受ける側もそう捉えていないことに根深い問題があります。僕自身、今にしてみれば、上司からパワハラを受けていたと思うことがあります。しかし、当時の僕は、「厳しく指導してもらったおかげで成長できた」と思い込んでいたのです。手に震えが出るなど、体に変調を来していたのに、上司も自分も、それが問題だとは感じていませんでした。上司の失点になってはいけないと、部下が自らタイムカードを適度な時間に打刻し、帰社したことにして、会社に申請せずに長時間残業をする。部内全体で、それを無言のうちに強いるというのも、一種のパワハラです。「受けている本人がパワハラと認識しなければ、パワハラではない」とされていますが、それは違います。業績を上げることや効率を最優先する会社の価値観に染まり、知らないうちに負担を強いられ、心を病むこともあります。あなたの会社の常識は、世の中の常識とは違うかもしれません。厚生労働省は、企業にパワハラ防止措置を義務付ける、法の整備を検討し始めました。嫌だなと思うことに、NOと言える環境や、その職場に問題があれば、我慢せずに、20代30代でもほかの職に移ってもいいという風潮も、広げていく必要があると思います。堀潤ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN※『anan』2018年11月28日号より。写真・中島慶子イラスト・五月女ケイ子文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2018年11月24日どこか昔を思わせるレトロな雰囲気と、ビビッドな色彩が印象的な五月女ケイ子さんの絵。弊誌の堀潤さんの連載「社会のじかん」の挿絵でもおなじみの五月女さんが、このたび個展を開催することに。「雑誌のイラストだったり、広告に使う絵だったり…。仕事で頼まれて描く絵はあらかじめテーマが決まっているので、それに沿って、さらに相手が何を望んでいるかを考えつつ描くもの。でも個展のために描く絵は、“私が何を言いたいか”が大事になってくる。まずはテーマ、絵を通して発信したいことを決める。そして自分の内面を探り、追求する作業があるところが、仕事で描く絵とのいちばんの違いでしょうか」個展のために自身と向かい合い、考え、ペンを走らせることで、自己に対する新たな発見や驚きと出合える。その時間が楽しいと語ります。「私ってこんなことを考えてたんだ、とか、こんなふうに世間を見て、感じていたんだということが、徐々に見えてくるのがおもしろいですね。絵を通して、世の中と自分を繋げていくような感じ。まさに今、その作業の真っただ中なので、日々自分と向き合ってる感じです」今回のテーマは、日本人にとってとても大きな存在である、富士山。もともと好きで、今までも幾度となく描いてきたモチーフです。「富士山は、私が思う“ザ・昭和”の象徴みたいな存在で、美しく素敵、愛らしさもありますよね。私自身は平成になってから仕事を始めて今に至るのですが、なぜかよく私の画風は、“昭和レトロ”と言われることが多くて(笑)。もうすぐ平成が終わる中で、あえてその“昭和の象徴”的なものを描くことに、なにか意味があるような気がしています」本来は、そんなに主義主張を掲げるようなタイプの作家ではない、と自らを分析する五月女さん。しかし、ここ数年変化があるようで…?「たぶんアンアンで、『社会のじかん』の挿絵を描いてることが、結構大きい気がします。あのコーナーに関わっていることで、いろんなことに興味が出てきて、少しずつ“伝えたいこと”みたいなものも出てきたというか…。一つの時代が終わる今、この先、時代や日本、世の中、そして私自身、どうなっていくのかなと、ふと思うことがよくあって。昭和という過ぎた時代をテーマにしつつ、この先の未来に繋がるような作品を作り出せたらいいですね」あえて最後に無粋な質問を。個展では絵を販売するそうですが、売れたらやりたいことはありますか?「えー!?じゃあ自動運転の車を買うべく、貯金しようかな。なんか明るい未来っぽくないですか?あと私、免許持ってないし(笑)」今回展示する作品は、すべて販売するそう。富士山仕様の角隠しをかぶった淑女の絵が、今回のイメージビジュアル。その他の画像は順に、年賀状に使いたいくらいおめでたい絵、富士山クリスマスツリー仕様…。そおとめ・けいこイラストレーター。タレントやコラムニストとしても活動中。今年は台湾でも大規模な個展を開催し、大好評を得たそう。『五月女ケイ子の富士山展』GALLERY HOUSE MAYA東京都港区北青山2-10-2611月19日(月)~12月1日(土)11:30~19:00(土曜~17:00)日曜休無料TEL:03・3402・9849©keiko sootome※『anan』2018年11月21日号より。写真・内田紘倫(The VOICE)インタビュー、文・河野友紀(by anan編集部)
2018年11月14日