体に不調を感じたとき、ふと頭をよぎる健康診断や人間ドック。ちまたに情報があふれるこのごろ、なんだか自分の身が気になります。そこで、内科医で大阪府内科医会副会長・泉岡医院院長の泉岡利於(いずおか・としお)先生に詳しいお話を伺いました。■健康診断にはない消化器官、がん検査がある始めに、健康診断と人間ドックの違いについて、泉岡先生はこう説明します。「どちらも体に異常がないかを確認するための検査です。『健康診断』は学校や職場、自治体で行われ、法令によって実施が義務付けられています。これに対し、『人間ドック』は任意で行う、つまり、希望する人が自分で医療機関を選んで受けに行く、という違いがあります。人間ドックは、『個人的に、健康診断より一歩踏み込んだより詳しい検査』だと言えます」具体的に、健康診断や人間ドックではどんな検査を行うのでしょうか。「健康診断では、主に心臓病、肺疾患、糖尿病などを対象に7~24項目の検査を行います。血液検査をすることがありますが、それで体のことがすべて分かる、と勘違いをされている方が多いように感じます。分かるのは、貧血、コレステロール値、肝臓や腎機能、糖尿病、痛風についてです。胃や腸などの口から肛門までの消化器官の異常やがんについて、詳しい症状までは分かりません。人間ドックでは、半日、一日、1泊2日など、費用や時間面で選択するコースによりますが、例えば、一日ドックでは約30項目を調べることになります。健康診断には含まれない、胃カメラ検査、腹部のCTやエコーによる検査、膀胱(ぼうこう)のエコー検査などを行います。がんのごく初期を発見するなど、健康診断では見つからない病気が分かる場合もあります。希望に応じて、医師の紹介なども行います」(泉岡先生)■事前に、自分に合う検査を医師に相談する人間ドックの初心者は、医師に何を質問すればいいのか分からないと思いますが。「人間ドックを受ける前に、自分に合っているのはどのような検査なのかを率直に尋ねるといいでしょう。『まあ、いいか』などと思わないで、自分が気になっている症状を細かく伝え、『この検査で不安を解消しよう』という姿勢で受けてください。また、検査結果の説明にはもちろんですが、結果を記した書面には、医療に関する専門用語が羅列されています。分からないこと、納得ができないこと、不安に思うことは、遠慮せずに担当医に質問しましょう」(泉岡先生)費用面の心配もあります。「患者さんから『家族が健康保険で検査を安く受けられたので、私もお願いします』と言われることがありますが、健康保険とは、本来『病気の人』への治療や検査に対して、医療費を保険者が一部負担する制度です。ですから、健康な方が体のチェックを行う場合、健康診断も人間ドックも、保険は適用されません。人間ドックは現在(2012年5月)、半日コースでおよそ3万円ぐらいからでしょう。職場で団体割引などがある場合もあります」(泉岡先生)人間ドックには、いつ、どのようなタイミングで行けばよいでしょうか。「体に異変を感じたら、年齢にこだわらず、より早く自分の体を見つめ直す機会だと考えて受けることをお勧めします。日本人男女の悪玉コレステロールの平均値は、欧米諸国の平均値をすでに上まわっている、という報告をご存知ですか。日本では今、ファストフードや肉食など食事の欧米化によって、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病など、生活習慣病の若年化が急速に進んでいます。また、乳がんや子宮がん、胃がんなどのように20代の女性の発症率が高いがんもあります」(泉岡先生)人間ドックが身近に思えてきました。人間ドックで健康意識が高まった、という声も耳にします。そろそろ考えるべきかもしれません。監修:泉岡利於氏。医学博士。内科医、大阪府内科医会副会長。医療法人宏久会泉岡医院院長。泉岡医院大阪市都島区東野田町5-5-8JR/京阪電鉄京橋駅中央出口から徒歩7分TEL:06-6922-0890岩田なつき/ユンブル)
2012年08月18日毎日疲れることばかり、何かと否定的、悲観的に考えてしまう日々において、少しでも前向きな考え、発想を持つことはできないものでしょうか。心身医学専門医で心療内科医の野崎京子先生にお話を伺いました。■人間は悪い出来事の方を多く記憶する習性がある物事を否定的にとらえる思考の傾向について、野崎先生はこう説明します。「『人間の感情記憶とは、自分にとって良い出来事より、悪い事象の方を多く記憶してしまうものだ』と複数の医師、学者、芸術家たちが言っています。人間は幼いころから、誰かに見下された、悪態をつかれた、いじめられたなどマイナスイメージが記憶に残りやすい習性があると言えます」思いあたります。「そのつらい思いが膨らんだり、マイナスの記憶に支配されたりすると、職場や家族、親しい人との人間関係にまで影を落とすことも多いでしょう。それを乗り越えて少しでも生きている充実感を高めるには、あらかじめ、『人は誰しもマイナス面を多く記憶してしまう習性がある』ことを知っておき、かつ、思考を前向きに持って行くように意識をすることから始めましょう」と、野崎先生は、その方法について次のように続けます。「医療現場で心理療法として実践されている思考法を一つ紹介しましょう。まずは、自分が幼いころ、親や身近な人に『してもらったこと』を思い出してみてください。誰しも、人に育てられたから今があります。たとえ親や誰かからひどい仕打ちを受けた記憶があるとしても、思い起こせば、与えられてきた衣食住教育を始め、何かしら『誰かにしてもらったこと』はあるはずです」(野崎先生)■「自分がして返したこと」を思い出す「してもらったことがどうも思い浮かばない」、「悪いことも連想してしまう」という場合はどう考えればいいでしょうか。野崎先生は、「『してもらった』人に対し、『自分がして返したこと』を思い出してください。例えば母親であれば、母の日にプレゼントをしたなど、相手が喜んでいたことを考えます。始めは、面倒だったりつらい作業だったりするかもしれませんが、3分も考えていたら、続けて考えることができるでしょう」(野崎先生)実践すると、「してもらったこと」より、「して返したこと」の方が圧倒的に少ないことに気付きました。野崎先生は、こう話します。「たいていはそうなんです。あらためて考えると、よくしてもらった人に対して、『自分がして返したこと』はあまりありません。これも人間の習性であること、また、自分の負の意識の思い込みに自ら気付いたとき、人への感謝の気持ちが生まれます。そのとき、自らの内にある憎しみやうらみを、少しずつプラス発想に変える機会を得たといえるでしょう」さらに、「職場の人間関係などでも同様に考えましょう」と野崎先生。「上司や同僚にしかられて傷ついた、家族や恋人、パートナーともめごとが絶えないなど、身近な人と感情的なトラブルを抱えているとき、その人に『してもらったこと』と、『して返したこと』を思い起こします。紙に書き出すと、よりわだかまりの解消につながりますが、通勤時間やバスタイムなど、ちょっとした時間に少し考えてみるだけでもかまいません。習慣化すると、何かマイナスの出来事があったとき、条件反射的にプラス思考ができるようになっていきます。何事にも否定的にとらえてしまうときは、自分を見失い、ささやかでも幸せを感じるような感性を持てないでいるでしょう。『してもらったこと』を自分の中で人生の輝く出来事としてクローズアップし、人の良い面、人から受けた恩に注目する練習を積みましょう。やがて、プラス思考につながるでしょう」つらいことがあれば、誰かにしてもらったこと、愛されたこと、それに対して自分がして返したことを思い起こす――。すぐに取り組みたい思考法です。監修:野崎京子氏。心身医学・ペインクリニック・麻酔科専門医。京都大学医学部卒。国立京都病院、大阪赤十字病院などをへて、現在、心療内科・ペインクリニックの野崎クリニック院長。著書に『心療内科女医が教える人に言えない不安やストレスと向き合う方法』(マガジンハウス1,365円)がある。野崎クリニック:大阪府豊中市新千里南町2-6-12北大阪急行桃山台駅から徒歩7分TEL: 06-6872-1841海野愛子/ユンブル)
2012年08月11日体のだるさが取れない、太りやすい、風邪をひきやすい……。そんなとき、「低体温症では?」という言葉をよく耳にします。内科医で大阪府内科医会副会長・泉岡医院院長の泉岡利於(いずおか・としお)先生に、その真相と要因や改善法について伺いました。■筋肉がついてなくて、ぽっこりお腹体型は要注意――低体温症の定義はあるのでしょうか。泉岡先生○○℃以下は低体温だという明確な定義はありません。20~30代の成人男女の正常な体温の目安は、36℃前後です。体温は、生まれたばかりの赤ちゃんは37℃程度あり、年齢とともに下がります。ですから、例えば35℃台なら低体温だとは、一概には言えません。ただし、若い世代を中心に、低体温による弊害が叫ばれているという事実はあります。また、家庭用の体温計は汗や室温の影響で低く表示されやすいので、気になったときは環境を整えてもう一度計り直しましょう。このとき、高く表示された方がより実際の体温に近いと考えてください。――どうして低体温になるのでしょうか。泉岡先生原因には運動不足、食事のバランスが悪い、無理なダイエットなどが挙げられます。低体温の場合、正常な体質の人より基礎代謝が低い傾向にあります。基礎代謝とは、人が動かずにじっとしていても、呼吸や内臓の動き、体温を保つことなどに消費するエネルギーのことです。エネルギーの大部分は、筋肉によって消費されます。そのため、同じ体重でも脂肪が少なく、筋肉量が多い人の方が基礎代謝は高くなり、消費するエネルギー量も多くなります。ですので、運動不足による筋肉量の低下、偏食やダイエットで筋肉のもととなるタンパク質の摂取不足の場合、基礎代謝が低下し、低体温となりやすいでしょう。特に、筋肉の中で大きな割合を占める、太ももの前と後ろの両側、胸、背中の4カ所の筋肉があまりついていない、でもお腹はぽっこりという方は、基礎代謝の低下が考えられます。■体がだるい、しんどい、風邪をひきやすい――低体温が原因で起こりうる症状について教えてください。泉岡先生基礎代謝の低下は、自己免疫機能の低下や循環の悪化につながります。ですので、体がだるい、しんどい、寒い、風邪をひきやすい、太りやすくやせにくいなど、さまざまな症状につながります。――低体温かもしれないと思ったときは、どのようにすればいいですか。泉岡先生基礎代謝を高めると、体温も上がりやすくなります。まずは、筋肉量を増やすことを考えてください。適度な運動をする、筋肉のもととなる肉や魚介類、卵、大豆製品、乳製品などのタンパク質をバランスよく摂取しましょう。また、基礎代謝が高くなると消費するエネルギー量が増え、脂肪の燃焼につながります。健康的なダイエットとなるでしょう。「低体温かも」と思い当たるようであれば、まずは生活の状況を見直してください。運動不足、朝食抜き、スナック菓子ばかり食べる偏った食生活、極端なダイエットなど、不規則な習慣に心当たりはありませんか。低体温は乱れた生活習慣が引き起こします。低体温に気付いたら、それは生活を見直すよいきっかけだととらえて、改善しましょう。――ありがとうございました。低体温の原因は、自らの日常生活にあることが分かりました。低体温だけではなく、鏡で自分の姿を見て、「基礎代謝の低下!?」と不安がよぎったときは、日々の習慣を見つめ、改めたいものです。監修:泉岡利於氏。医学博士。内科医、大阪府内科医会副会長。医療法人宏久会泉岡医院院長。泉岡医院大阪市都島区東野田町5-5-8JR/京阪電鉄京橋駅中央出口から徒歩7分 TEL:06-6922-0890岩田なつき/ユンブル)
2012年06月03日便秘や下痢のときになってしまう痔(じ)……。事前に防ぎたいけれど、なかなか人には相談しにくいものです。そこで、内科医で大阪府内科医会副会長・泉岡医院院長の泉岡利於(いずおか・としお)先生に、痔(じ)の原因と予防法についてお尋ねしました。■便秘や下痢は肛門に大きな負担がかかる――便秘や下痢のときに痔(じ)になりやすいのは、どうしてでしょうか。泉岡先生痔(じ)は、一言で言うと血流障害、血管のトラブルです。便秘や下痢になると肛門の血流、血管に大きな負担がかかり、痔(じ)になる確率も高くなります。例えば、便秘などで便が硬くなると、排便のときに肛門に圧力がかかり、出口が切れて「きれ痔(じ)(裂肛)」になります。下痢の場合は粘膜に便がたまっている状態なので、普段より肛門が刺激されて細菌感染を起こしやすくなります。また、肛門付近にある静脈叢(じょうみゃくそう)と呼ばれる毛細血管が集まった部分がうっ血してはれ上がり、「いぼ痔(痔核)」になることもあります。■アルコールや香辛料は痔(じ)の大敵――痔(じ)の予防法を教えてください。泉岡先生痔(じ)の症状が出るかどうかは、普段の生活習慣が大きくかかわります。薬や手術で治ったとしても、生活習慣を見直さなければ同じ症状を繰り返してしまいます。薬を使うことも大切ですが、何より「生活習慣を改善すること」が基本となります。また、アルコールや辛い食べ物をとりすぎると下痢や腸の炎症悪化につながることがあります。痔(じ)が気になる人は、過度の飲酒や香辛料の強い食べ物を控えるようにしましょう。ほかに、立ちっぱなし、座りっぱなしなど長時間同じ姿勢でいると肛門に圧力がかかり、血行不良を招くことから痔(じ)になりやすいと言えます。同じ姿勢を避け、血流をよくするために軽い運動やストレッチなどを心がけるようにしましょう。予防の方法を整理すると、次の6つです。痔(じ)予防のための6か条1.便秘や下痢にならないようにする2.適度な運動をする3.大量の飲酒は控える4.辛いものを頻繁にとらない5.立ちっぱなし、座りっぱなしなどの同じ姿勢を続けない6.規則正しい生活をする■痔(じ)と大腸がんでは、血の色が違う――痔(じ)と間違えやすい病気はありますか。泉岡先生痔(じ)というと、「痛い」、「血が出る」といったイメージを浮かべる方も多いのですが、実は出血もなく、痛みもない痔(じ)というものもあります。「ご本人に痛みなどの自覚症状がなく、排便時に突然、大量の血が出た。何か重大な病気かと思いあわてて来院されたが、検査の結果、体の内側にできるいぼ痔(内痔核)だった」というケースもありました。ただ、出血、腫れ、痛みなど、痔(じ)と思うような症状のなかには、大腸のトラブルが原因となって起こっている場合もあります。例えば、肛門からの出血は、「いぼ痔(じ)」や「きれ痔(じ)」のときに多い症状ですが、大腸ポリープや大腸がんの可能性もあります。それらの病気でも肛門からの出血や血便が見られることから、痔(じ)と間違いやすい疾患です。見分ける目安として、血の色があります。痔(じ)は肛門近くで出血するために採血をしたときのような鮮血になります。大腸がんなどのケースは内臓での出血のために暗い赤色になります。――ありがとうございました。痔(じ)を肛門の問題と考えるのではなく、自分の生活の根本的な生活の問題としてとらえることが、完治への近道と言えそうです。監修:泉岡利於氏。医学博士。内科医、大阪府内科医会副会長。医療法人宏久会泉岡医院院長。泉岡医院:大阪市都島区東野田町5-5-8JR/京阪電鉄京橋駅中央出口から徒歩7分TEL:06-6922-0890岩田なつき/ユンブル)【関連リンク】【コラム】ドキドキ、汗、便秘、頭痛……ストレスと疾患の境目は?【コラム】漢方医が教える。便秘プラス「ほかの何か」を治す方法【コラム】からし、ワサビ、ショウガ、ネギ。薬味には「腹やせ」効果が!
2011年12月31日