11月、ズービン・メータとやってきて、相変わらずのスーパー・サウンドで日本のファンを圧倒していったベルリン・フィル。かねてより、2020年6月にも日本公演を行なうことが告知されていたが、今回の訪日中に、その「ベルリン・フィル in Tokyo 2020」の概要の発表会見が開かれた。(11月22日・東京文化会館)。「ベルリン・フィル in Tokyo 2020」は、毎春の「東京・春・音楽祭」の特別公演。東京2020オリンピック・パラリンピックに向けた文化の祭典「東京2020 NIPPONフェスティバル」の共催プログラムとして実施される。東京のみ4公演の開催で、指揮はすべてグスターボ・ドゥダメル。開催趣旨を反映して、プログラムは「日独の友好と民族の多様性の象徴」というコンセプトで選ばれた。まず、6月24日(水)~26日(金)の東京文化会館での3公演。6月24日(水)は「東京2020大会のためのスペシャル・コンサート」と題して、ベートーヴェン、ラヴェル、ストラヴィンスキーから、ジョン・ウィリアムズ、メキシコのアルトゥロ・マルケス、日本の早坂文雄と、まさに多様・多国籍。そして25日(木)はマーラーの交響曲第2番《復活》、26日(金)はベートーヴェンの《第九》と、「東京・春・音楽祭」でも主役の一翼を担う東京オペラシンガーズが活躍する合唱付きプログラムだ。大きく注目されるのが、6月27日(土)に新宿御苑で行なわれる無料の「1万人の野外コンサート」だ。曲目は《第九》。ベートーヴェンの生誕250年に、緑豊かな広々とした庭園の特設ステージで、ドゥダメルとベルリン・フィルの《第九》が無料で聴けるスペクタクル!(ただし新宿御苑の入園料が別途必要)出演合唱団は、世界各国から集まる約300人の「2020 One World Choir」。300人のうち100人はホール公演と同じ東京オペラシンガーズががっしりと固め、残りの200人を、ドイツ、スペイン、南アフリカ、オーストラリア、中国、そして日本など世界中のアマチュアによってあらかじめ組織される(公募ではない)特別編成合唱団だ。心配なのは梅雨の東京の天候。荒天の場合は翌日に順延されるが、多少の雨なら、開催されるというから、それも一興かも。いずれにしても悪天候による中止の可能性はかなり抑えられそうだ。応募方法は2020年3月上旬に特設サイトで発表される予定。定員は1万人だが、それはイス席の用意されたエリアの収容人数。周辺スペースでの「立ち聴き」はとくに制限しないというのはうれしい太っ腹。ちなみに初夏のベルリン・フィル恒例のヴァルトビューネの野外コンサートは、この来日直前の6月20日(土)。あの興奮が東京でも!取材・文:宮本明
2019年11月25日ミナ ペルホネン(minä perhonen)のデザイナー皆川明とT-SITEがセレクトしたもの・ことが集まるフェア「フューチャー アンティーク(FUTURE ANTIQUE)」が開催。2019年11月19日(火)から、東京の代官山T-SITE、広島T-SITE、神奈川の湘南T-SITEの3か所を巡回する。“未来のアンティーク”を展示販売「フューチャー アンティーク」は、今の時代に生み出された新しい“もの”や“こと”の中で、未来の人々にも親しまれていくに違いないものを、“未来のアンティーク”として提案するフェア。セレクトには、東京都現代美術館での展覧会「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」でも注目を集めるミナ ペルホネンのデザイナー皆川明が携わっている。訪れた人はグッズの購入や、展示品の鑑賞、ワークショップなどを楽しむことが可能だ。代官山、広島、湘南の3か所共通で、「ミナペルホネン皆川明の フューチャー アンティーク(FUTURE ANTIQUE)な逸品」として展開されるのは、イタリアの老舗陶磁器ブランド「リチャード ジノリ(RICHARD GINORI)」のプレートや、鳥居明生の陶磁器、上治良充による革の器など。ミナ ペルホネンの余り布をパッチワークした座面と、節やシミといった個性ある木目を活かしたマルニ木工の「HIROSHIMA アームチェア」を組み合わせた椅子「ふしとカケラ」も展示、数量限定販売される。その他、レスポートサック(LeSportsac)による「ソリッド(無地)」シリーズの販売や、皆川が特別なデザインを施したルノー・ジャポンの車「トゥインゴ」の展示なども行う。トークショーやワークショップもまたフェア開催期間中は、皆川によるトークショーや、「ミナ ペルホネンのあまり布で作るクリスマスオーナメント ワークショップ」なども実施される。【詳細】「フューチャー アンティーク」・代官山T-SITE日程:2019年11月19日(火)~12月9日(月)住所:東京都渋谷区猿楽町16-15・広島T-SITE日程:11月29日(金)~12月31日(火)住所:広島県広島市西区扇2丁目1−45・湘南T-SITE日程:2020年1月2日(木)~31日(金)住所:神奈川県藤沢市辻堂元町6丁目20−1■イベント情報<代官山 T-SITE>・代官山蚤の市~フランスの蚤の市の雰囲気を代官山で再現~日程:2019年11月19日(火)、20日(水)・minä perhonen のハギレでつくるオーナメント日程:11月26日(火)、27日(水)、28日(木)、12月4日(水)、12月5日(木)・皆川明×ナガオカケンメイ トークショー/「FUTURE ANTIQUE」というテーマで二人が対談するスペシャルトークショー日程:12月7日(土)・FUTURE ANTIQUE presents WINTER MARKET DAIKANYAMA日程:12月7日(土)、8日(日)<広島 T-SITE>・minä perhonen の余り布で作るクリスマスオーナメント ワークショップ日程:11月29日(金)~12月25日(水)・皆川明トークショー minä perhonen のハギレで作る、パッチワークぬいぐるみ日程:12月21日(土)、22日(日)<湘南 T-SITE>・皆川明トークショー/minä perhonen のハギレで作るオーナメント(日程調整中決定後HPにて告知。)※日時など変更する場合がある。詳細は各店舗HPのイベント情報を確認。
2019年11月21日東京二期会のオペレッタ《天国と地獄》(オッフェンバック)が11月21日(木)に幕を開ける。本番を翌週に控えた稽古場では、ピアノ伴奏による通し稽古が行なわれていた(11月12日・東京都内のリハーサル・スタジオで)。【チケット情報はこちら】これ、めちゃくちゃ面白い。誤解を恐れずにいうなら、同じオペレッタでも、《こうもり》や《メリー・ウィドウ》のような、こじゃれた喜劇ではない。体を張った全力勝負の吉本新喜劇の世界。出演者全員が迷いなく振り切った演技と歌で笑わせにかかるからたまらない。これをしかめっ面で見ることができるのはよほどの精神力の持ち主にちがいない。その証拠に、すでに細部までネタを知っているはずの制作スタッフや出番を待つ歌手たちを含めて、稽古場にいる全員が、つねに笑顔がデフォルトになっていた。日本語上演が効いていて、笑いの反応速度がちがう。そのうえ歌唱部分には日本語字幕も出るから、予習なしで聴いてもまったく問題なく理解できる。(でもじつは日本語の歌詞もとても聴きやすい。)セリフ部分には、ラグビーW杯の日本チームの活躍で流行語になった「ワン・チーム」など、直前まで台本に改訂を加えているからこその時事ネタも組み込まれている。かなり楽しい。公演はWキャストで、この日は初日・3日目のキャストによる通し稽古。ヒロインのユリディスに愛もも胡。神々を虜にする色気と高音の鮮やかな超絶技巧は魅力たっぷり。持ち前の甘いテノールに、今回ばかりは相当な暑苦しさも全開の又吉秀樹のオルフェ。あらわな下心のもと、輝かしいバリトンの美声が最高神としての威厳を示す大川博。そして超高いテンションの上原正敏のプルートが、このプロダクションの喜劇の性格を象徴していた。芸達者たちが多士済々。1858年にパリで初演された『天国と地獄』(地獄のオルフェ)は、グルックのオペラ『オルフェオとエウリディーチェ』(1762年)のパロディ。原作はギリシャ神話で、17世紀初めのオペラ誕生期から、何十人もの作曲家がオペラ化してきた人気の題材だ。オッフェンバックはこれを徹底的に茶化して喜劇に作り変え、命がけの美しい夫婦愛は、倦怠期の夫婦の化かしあいにすり替わった。地獄の王プルートと浮気して、全能の神ジュピターの誘惑にもなびく多情な妻ユリディス(エウリディーチェのフランス語よみ)。彼女を救いに行くオルフェも、世論に負けてしぶしぶ地獄へやってきただけなので、「いとしさのあまり彼女を振り向いて地獄へ逆戻り」という有名な結末も、彼にとっては願ったり叶ったりの大喜びでめでたしめでたしという具合。でも、実際の世の中は案外こんなものかもと思わせる風刺に満ちている。東京二期会の《天国と地獄》は11月21日(木)から24日(日)まで東京・日比谷の日生劇場で全4公演。指揮:大植英次。演出:鵜山仁。オーケストラは東京フィルハーモニー。理屈抜きにオペラを楽しむ絶好の機会。取材・文:宮本明
2019年11月20日2020年の夏、子供たちを対象とした新たなクラシック音楽祭「こども音楽フェスティバル」が、サントリーホールを中心に行なわれる。次世代を担う未来の聴衆を育てるフェスティバル。11月12日、東京・赤坂のサントリーホール ブルーローズにて概要の発表会見が行なわれた。「こども音楽フェスティバル」は、関東の公立小中学校の夏休みが始まる時期にあたる7月17日(金)~21日(火)の5日間開催。サントリーホールの大小ふたつのホールを中心に、周辺施設にも輪を広げて、同時多発的に行なわれる数々のコンサートで構成される。主催者は、5日間で5万人の動員を目標に掲げており、子供のための音楽祭として「世界最大級」と意気込む。企画は、若年層向けのプロジェクトに長年にわたって取り組んできたソニー音楽財団とサントリー芸術財団が初めて手を携えて実現するもの。会見には、両財団のトップである、加藤優・ソニー音楽財団理事長と堤剛・サントリー音楽財団代表理事兼サントリーホール館長が揃って登壇した。「若い世代に感動体験を持ってもらえる機会を多く提供したい。子育てでコンサートから足が遠のいている親の世代も含めて、子供と家族をターゲットにした、世界的にも珍しいクラシック・フェスティバルになる」(加藤)「幼い頃から本物を聴くことは、創造性をふくらませ、豊かで幅広い人生を歩めると確信している。何かを池に投げて水の輪が広がるように、先べんとなるものを作って社会に貢献したい」(堤)ともにグローバル・カンパニーを母体とする両財団。名バリトン歌手から実業家に転身し、レコード会社CBSソニーの初代社長も務めた元ソニー会長の大賀典雄、サントリーホールを作ったサントリー2代目社長の佐治敬三という、日本のクラシック音楽文化発展にも大きく寄与した先人たちの夢と情熱を受け継ぐ。フェスティバルは、両財団がこれまでに実践してきた種々の企画を統合した盛りだくさんな内容になる模様。まだお母さんのお腹のなかにいる赤ちゃんから、0歳児・乳幼児はもちろん、高校生に至るまでの広い年齢層の「子供」をターゲットに、オーケストラやオルガン、参加型のオペラ企画、さらにはサントリー美術館とのコラボによる芸術体験プログラムなど、さまざまな企画が用意される。入場料は1,000~2,000円程度の安価に設定される予定だ。会見時点で参加アーティストとして発表されたのは、小林研一郎(指揮)、小山実稚恵(ピアノ)、堤剛(チェロ)、原田慶太楼(指揮)、宮田大(チェロ)の5人。そうそうたる顔ぶれだが、さらに世界中から一流アーティストが集って、子供たちに華やかでゴージャスな音楽体験を提供してくれるはず。出演者や演目などコンサートの詳細は、公式サイトで随時発表予定。対象となるお子さんのいるご家族はとくに、こまめにチェックしたい。取材・文:宮本明
2019年11月19日ファッションブランド「ミナ ペルホネン」と、そのデザイナーである皆川明のクリエイションに焦点を当てた展覧会『ミナ ペルホネン/皆川明 つづく』が、東京都現代美術館にて11月16日(土)に開幕。2020年2月16日(日)まで開催される。デザイナーの皆川明が設立した「ミナ ペルホネン」。流行に左右されず、長年着用できる普遍的な価値を持つ「特別な日常服」をコンセプトとしたファッションブランドで、オリジナルの生地からプロダクトを生み出す独自のものづくりで知られている。1995年に「せめて100年続くブランドに」との思いでファッションからスタートした活動は、その後、インテリアや食器など次第に生活全般へと広がり、デザインの領域を超えて幅広い展開を続け、2020年で25周年を迎える。同展は、そんな「ミナ ペルホネン」と皆川明の創作を、「つづく」をキーワードに読み解こうとするもの。生地や衣服、インテリア、食器などのプロダクトに加えて、デザインの原画、映像、印刷物、皆川明の挿絵など創作の背景を浮き彫りにする作品群や資料をあわせて展示する。『ミナ ペルホネン/皆川明つづく』()
2019年11月19日「ドン・パスクワーレ」舞台写真よりじつに楽しく、面白く、そして素晴らしい、出色の出来栄えの上演だ!【チケット情報はこちら】新国立劇場の《ドン・パスクワーレ》が11月9日に初日を迎えた。ドニゼッティ晩年のオペラ・ブッファ(喜劇オペラ)。人気や知名度でこそ、《愛の妙薬》や《ルチア》に一歩譲るかもしれないが、魅力的な旋律が、これでもかとばかりに惜しげもなく次々に繰り出される、完成度高い音楽。ドニゼッティの作品のなかでも破格の傑作なのだ。「悪人」はひとりも出てこない。大金持ちだが家族のない老人ドン・パスクワーレは、主治医のマラテスタが連れてくる花嫁候補を待ちかねている。甥のエルネストに、高貴で裕福な女性と結婚するのなら財産を譲ると申し出ていたのだが、ノリーナという若い未亡人の恋人がいるエルネストが拒んだため腹を立て、自分で結婚して跡継ぎを作ることにしたのだ。ところがマラテスタが自分の妹と称して連れてきたのが、そのノリーナ。若いふたりの恋を成就させるためのマラテスタの計略だ。貞淑な女性を装うノリーナにたちまち夢中になったパスクワーレは結婚を即決。しかしその途端、ノリーナは贅沢三昧の浪費を始めるわ暴力をふるうわ、挙句は浮気するわの悪妻に豹変。これはたまらぬと、彼女を追い出すため、パスクワーレがふたりの結婚を認め、正体を明かしたノリーナも許して、めでたしめでたし。悪女となったノリーナに振り回されるパスクワーレは、気の毒なのだけれど抱腹絶倒の喜劇の見せどころ。歌手たちはいずれも水準が高い。そしてそれだけでなく、キャスティングの巧みさに唸らせられる。パスクワーレ役のロベルト・スカンディウッツィのノーブルで深いバスは、ちょっと頑固だけれど悪意はない金持ち老人の孤独な悲哀を巧みに表現する。まじめな人がまじめに騙されるからこそ喜劇。コケティッシュな魅力を振りまきながら、高音の超絶技巧をこともなげに繰り出す新星ハスミック・トロシャンのノリーナには誰もが夢中になるはず。そしてエルネスト役のマキシム・ミロノフの甘いベルカント・テノール、マラテスタ役のビアジオ・ピッツーティの輝かしい声と切れ味ある演技。主要人物たちのキャラクターが声質でも明確に描き分けられているから、各アリアはもちろん、重唱の魅力や面白さが際立って聴こえてくる。ステファノ・ヴィツィオーリの演出は、1994年にスカラ座で初演された定評あるプロダクション。機械仕掛けの舞台転換を目の前で見せる趣向で、ノリーナの登場シーンで、彼女が座るソファが音もなく迫り出てくる仕掛けはイリュージョン。細部まで念が入っている。第3幕で、戸外から(つまり舞台裏から)聴こえてくるエルネストのセレナータのギター伴奏のひとりは、なんと人気ギタリストの村治奏一。ほんの5分ほどの、しかも舞台裏での出番に、なんて贅沢な起用!いいなあ。新国立劇場の《ドン・パスクワーレ》は11月17日(日)まで。絶対におすすめ。取材・文:宮本明
2019年11月11日今年もウィーン・フィルがやってきた!東京の秋の音楽界恒例の「ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン」が開幕。この来日に合わせて、ウィーン楽友協会が所蔵するさまざまな音楽史料を集めた展覧会「音楽のある展覧会」が、11月2日、ホテルオークラ東京で始まった(主催:サントリーホール、協力:ウィーン楽友協会ほか)。一般公開に先立って行なわれた開会セレモニーと内覧会に訪れた。【チケット情報はこちら】今年は日本オーストリア友好150周年という節目の年。開会セレモニーには、ウィーン楽友協会総裁のトーマス・アンギャン氏や同アルヒーフ室長のオットー・ビーバ博士はもちろん、在日オーストリア大使のフーベルト・ハイッス氏や在オーストリア日本大使の小井沼紀芳氏も出席して、この企画が両国にとって大きな意義のあるものであることをあらためて感じさせた。楽譜や写真、絵画など、展示されているさまざまな史料は、150年前からの両国間の音楽面での交流や、当時のウィーンの音楽界の様子を身近に感じさせるものばかり。1869年、外交関係が結ばれて初めて来日したオーストリア使節団が持参した贈り物の中に、ベーゼンドルファーのグランドピアノがあったことが当時のカタログでわかる。両国の交流には、最初から「音楽」があったのだ。そして音楽ファンならやはり大作曲家たちの自筆譜には目が釘付けになる。ブラームスのクラリネット五重奏曲、ブルックナーの交響曲第8番、リストのピアノ4手のための「エレジー」、ヴォルフの歌曲「炎の騎士」、マーラーの交響曲第2番「復活」、ヨハン・シュトラウスII世のオペラ「騎士パズマン」。もちろんすべてオリジナルの本物だ。マーラーの「復活」は、数年前にサザビーズのオークションで、楽譜としては史上最高額の6億円超で匿名の入札者が落札したというニュースが大きな話題になったが、ということは、落札者はやっぱりウィーン楽友協会?また、日本人として初めてウィーン楽友協会音楽院(現ウィーン国立音楽大学)に留学したヴァイオリニスト幸田延の在籍簿など、この展覧会ならではの展示もじつに興味深い。期間中には会場内で、ビーバ博士らによるギャラリートークや、ウィーン・フィル・メンバーによるギャラリーコンサートも開かれるので(有料)、詳細は展覧会のサイトでご確認を。なお同時開催の特別写真展「素顔のウィーン・フィル」は、写真家の市川勝弘氏が10年間にわたってサントリーホールのバックステージで撮り続けた団員たちのポートレート展。ステージ上でおなじみの面々がリラックスした様子でとらえられていて、その豊かな表情にこちらも思わず笑顔になる幸せなショットの数々。ダイワハウス スペシャル「音楽のある展覧会」は11月17日(日)まで。ホテルオークラ東京・別館地下2階アスコットホールで。観覧券1,000円。取材・文:宮本明
2019年11月05日ミナ ペルホネン(minä perhonen)のデザイナー皆川明がデザインを手掛けた、イタリアの老舗陶磁器ブランド「リチャード ジノリ(RICHARD GINORI)」のテーブルウェアが登場。2019年11月14日(木)から12月8日(日)までパスザバトン表参道店内にて開催されるエキシビション「スペランツァ(SPERANZA) 〜希望〜 皆川 明」にて発売される。皆川明を専属デザイナーに迎え「スペランツァ(SPERANZA)」「フロレンティア(FLORENTIA)」などのテーブルウェアコレクションを展開してきたリチャード ジノリ。今回の「スペランツァ 〜希望〜 皆川 明」では、向かい合う2羽の鳩を配した「スペランツァ」、知恵と平和を象徴するオリーブを描いた「オリーヴァ(OLIVA)」、萌え出る新芽をモチーフにした「ジェルモリオ(GERMOGLIO)」の3柄のテーブルウェアを展開。日本の厳しい製品基準をクリアできなかった器をキャンバスに、それぞれのモチーフからイメージされる景色やストーリーを皆川が言葉に変え、手書きで綴ったテキストをオーバープリントした。1つ1つ異なる表情をもった、温かみのある器を展開する。【詳細】エキシビション「スペランツァ 〜希望〜 皆川 明」会期:2019年11月14日(木)〜12月8日(日)時間:月〜金 11:00〜21:00、日祝 11:00〜20:00会場:パスザバトン ギャラリー住所:東京都渋谷区神宮前4-12-10 表参道ヒルズ西館 B2F パスザバトン表参道店内TEL:03-6447-0707展開アイテム:・スペランツァ、オリーヴァ発売日:11月14日(木)・ジェルモリオ発売日:11月23日(土)※数量限定※一部オンラインでも同時販売
2019年11月04日10月の東京に、冬を飛び越えて、楽しみな春のニュースが届いた。日本一のお花見どころの上野に、桜とともに音楽で春の訪れを告げる「東京・春・音楽祭」。2020年の開催概要が決まり、10月28日に東京文化会館にて発表会見が開かれた。参加した海外演奏家たちから、「仲間に再会できた」「思わぬアーティストの公演が聴けた」などの喜びの声も多数聞かれるという、すでに国際的なフェスティバルに発展している「東京・春・音楽祭」。3月13日(金)~4月18日(土)の5週間、約200超の公演が繰り広げられる。幕開けはムーティの《マクベス》(3月13日(金)、15日(日))。巨匠リッカルド・ムーティが、若手指揮者へのマスタークラス形式でヴェルディの魂、イタリア・オペラの真髄を伝える白熱のライフワーク、「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」の一環だ。受講生のひとり、沖澤のどかのブザンソン国際指揮者コンクール優勝でも注目を集めた。来年は新たに、受講生たちが指揮する公演(3月14日(土))も。ワーグナーにも巨匠登場。「東京春祭」名物、NHK交響楽団による「ワーグナー・シリーズ」は、主要作で唯一残っていた《トリスタンとイゾルデ》がいよいよ(4月2日(木)、5日(日))。しかも現代屈指のドイツ・オペラ指揮者マレク・ヤノフスキが「東京春祭」の指揮台に帰ってくる。題名役にはアンドレアス・シャーガー(トリスタン/テノール)とぺトラ・ラング(イゾルデ/ソプラノ)。とびきりのワーグナー歌手ふたりが並んだ。そして新企画として、読売日本交響楽団の「プッチーニ・シリーズ」が、《外套》《修道女アンジェリカ》《ジャンニ・スキッキ》の「三部作」で音楽祭のフィナーレを飾る(4月18日(土))。指揮は躍進中の女性オペラ指揮者スペランツァ・スカップッチ。もちろんオペラだけではない。オーケストラからリサイタルまで、幅広い充実のラインナップが用意されている。2020年はベートーヴェンの生誕250年なので、当然ながらその関連コンサートも。円熟の巨匠エリーザベト・レオンスカヤの後期三大ピアノ・ソナタ(4月4日(土)、8日(水)。クレメンス・クラウスと河村尚子のチェロ作品全集(4月9日(木)、10日(金)。聴きながら歴史を学べる恒例のマラソン・コンサート(3月29日(日))。目玉はヤノフスキの指揮する《ミサ・ソレムニス》だろう(4月12日(日))。作品の規模や美しさ、声楽の充実度は「第九」をはるかに上回ると言っていい名曲。日本の誇るプロ合唱団、東京オペラシンガーズに豪華海外勢の独唱。想像するだけでも鳥肌が立つ。新たに、国の重要文化財である旧東京音楽学校奏楽堂も会場に加わわるし、博物館や美術館でのミュージアム・コンサート、ホールを飛び出した「桜の街の音楽会」など、特別な場所での公演も楽しみのひとつ。聴きたいものに丸をつけていると、春のカレンダーが真っ赤になってしまうのが悩ましい。当然人気公演はチケット争奪必至。早めの計画が必要だ。取材・文:宮本明
2019年10月30日2020年のバイロイト音楽祭で《ニーベルングの指環》新演出上演の指揮者に抜擢されるというセンセーショナルな知らせが飛び込んできた指揮者ピエタリ・インキネン。その2020年はベートーヴェンの生誕250年のメモリアル・イヤーでもある。首席指揮者を務める日本フィルとともに、2シーズンをかけて交響曲全曲演奏を軸とする「ベートーヴェン・ツィクルス」をスタートさせた、いま最もホットな指揮者に、ツィクルスの展望を聞いた。【チケット情報はこちら】「私自身のテイストで作り上げていくツィクルスにしたい。それにオーケストラがどう対応するのか、私のテイストとオーケストラがどういう相性なのかを聴いていただけるのはじつに面白いことです」ベートーヴェンの交響曲は、創作初期の29歳から晩年の53歳まで、生涯を通じて作曲されているため、全曲を見渡すことは、ベートーヴェンの作風の変遷を俯瞰することにもなる。「初期の第1~3番を見ても、かなり異なる様式で書かれています。そして第3番から第9番に向けて、オーケストラがどんどんロマン派的に変わっていく。その変化を表現したいのです。初期の作品に関しては弦の数を減らしますし、バロックのティンパニを使います。でも私たちはモダン楽器を使っていますし、ピリオド・アプローチを試みるわけではありません。健康的な現代オーケストラのパフォーマンスが持つ力強さを感じていただきたい。最終的にその大きなパワーの可能性が手元にあるのは、とてもドキドキすることです」たとえばベートーヴェンの時代には用いていなかった弦楽器のヴィブラートに関しても、ありかなしかの二者択一ではなく、音色を引き出すパレットの一つとして、オーケストラと一緒に時間をかけながら、そのポテンシャルを最大限に引き出すことが大切だという。「イマジネーションが必要ですが、ツールのひとつなので、まったく使わないというのは自分にとってはあり得ません」こういう交響曲全曲演奏のようなプロジェクトが、コアなクラシック・ファンのための、マニアックな視点だけで捉えられがちなことには注意をうながす。「とくに第5番(運命)。有名な作品ですが、初めて生演奏で聴く人もつねにいます。その方たちに、ベートーヴェンの当時の聴衆が、初めて聴いて椅子から転げ落ちるほどびっくりしたのと同じインパクトを感じてもらわなければいけません。もちろん、そのためにはオーケストラもフレッシュでエキサイティングな感覚で演奏しなければならないのですが、それは簡単ではありません。今までの経験を忘れることはできませんから。でも、もしかしてこれが自分の最後の演奏になるかもしれないという気持ちで演奏すれば、なにか特別な演奏になるのではないかなと思っています」私たち聴き手にもまったく同じことが言えるだろう。インキネンと巡るベートーヴェンの旅を、フレッシュにエキサイティングに体験したい。取材・文:宮本明
2019年10月25日音楽監督の英国人指揮者ジョナサン・ノットが任期7シーズン目を迎える2020年度の東京交響楽団(東響)。すでに9月に発表されていた来季ラインナップについて、ノットも出席して記者会見を開いた(10月8日・ミューザ川崎)。【チケット情報はこちら】「これまでのシーズンを振り返り、そしてこれからの7年間を見据えて、私にとって大事なものをミックスして、ひとつに結晶させたようなプログラムを組んだ」(ノット)そのハイライトは2020年10月のワーグナー《トリスタンとイゾルデ》で決まりだろう。昨年まで3年連続で上演して好評を得たモーツァルトのダ・ポンテ三部作に続く、演奏会形式でのオペラ上演となる。東京定期(サントリーホール)と川崎定期(ミューザ川崎)で、第1幕と第2&3幕に分け、それぞれ中5日で上演する。じつはノットは息子さんに「トリスタン」と名付けたというほど、思い入れの強い作品なのだ。ノットは、この演奏会形式というスタイルが大好きなのだと語る。「オーケストラと歌手がステージ上でやり取りしてひとつの音楽を作り出せるのはとてもエキサイティング。ひとつだけ問題は音量。ピットよりも抑えて演奏しなければならないので、難しい技術が求められる。しかし東響は、深みのあるmfやmpで、見事に歌手と対峙することができる。そこから生まれる、音量ではないパワーをを楽しんでいただけると確信している」題名役のトリスタンにブライアン・レジスター(テノール)、イゾルデにリサ・リンドストローム(ソプラノ)という、ワーグナー歌手として注目を集めるふたりを招聘する。演出がカウンターテナーの彌勒忠史というのも注目ポイント。声楽ファンには、2020年4月のウォルトン《ベルシャザールの饗宴》も見逃せない。合唱はノットが「この合唱に自信がある」と信頼を寄せる東響コーラス。日英交流年(UK in JAPAN 2019?2020)のスペシャル・プログラムで、十八番の英国音楽に、いまや日本を代表する藤倉大を組み合わせた。藤倉は英国在住。ノットとも周知の友人だ。同じ4月には、継続中のベートーヴェン交響曲シリーズが完結する。交響曲第2番にストラヴィンスキー《カルタ遊び》と、酒井健治のヴァイオリン協奏曲(独奏=辻彩奈)を組み合わせたプログラムも、ノットの面目躍如。邦人作曲家でいえば、ノットが矢代秋雄のピアノ協奏曲(独奏=小菅優)を振るのは実にうれしい(2020年11月/ブルックナーの交響曲第6番と)。客演指揮者陣も多彩。イタリア若手三羽烏のひとりミケーレ・マリオッティや、昨年東響で日本デビューのマキシム・エメリャニチェフ、2度目の定期登場のリオネル・ブランギエ、そして今年9月のブザンソン国際指揮者コンクールの覇者・沖澤のどかなど、中堅から新人まで若い力の積極的な起用も、近年の東響の勢いを感じさせる。楽しみなラインナップの全貌は、ぜひ楽団のホームページでご確認を。取材・文:宮本明
2019年10月09日ファッション・テキスタイルブランドのミナ ペルホネン(minä perhonen)と、デザイナーの皆川明にクローズアップした展覧会「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」が、11月16日から2020年2月16日まで、東京・清澄白河の東京都現代美術館にて開催。デザイナーの皆川明が設立したブランド、ミナ ペルホネン。流行に左右されず、長年着用できる普遍的な価値を持つ「特別な日常服」をコンセプトとし、日本各地の生地産地と深い関係性を紡ぎながら、オリジナルの生地からプロダクトを生み出す独自のものづくりを続けてきた。皆川がミナ ペルホネンの前身となる「ミナ」を立ち上げたのは1995年。「せめて100年つづくブランドに」という思いでファッションからスタートした活動は、その後、インテリアや食器など次第に生活全般へと広がり、現在ではデザインの領域を超えてホスピタリティを基盤にした分野へと拡張。展覧会の会期中である2020年には25周年を迎える。今回の展覧会「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」では、作り手と使い手の双方に価値を生み出すデザインを基本とする皆川とミナ ペルホネンの思想や活動を紐解きながら紹介していく。“pur”2018-19→AW photo: Mitsuo Okamoto展覧会の「つづく」というタイトルは、文字通りブランドの時間的な継続性を示すものだが、それだけでなく、つながる・連なる・手を組む・循環するなど、モノや人が連鎖し何かを生み出していく生成のエネルギーを想起させる言葉でもある。多義的な意味をもつ「つづく」をキーワードに、会場では、生地や衣服、インテリア、食器等のプロダクトに加えて、デザインの原画、映像、印刷物、皆川の挿絵など創作の背景を浮き彫りにする作品群や資料も併せて展示される。建築家・中村好文と皆川による新たな「宿」のプロトタイプも展示される他、現代美術家・藤井光がミナ ペルホネンの世界を撮り下ろした映像作品が誕生。展示構成は田根剛、グラフィック・デザインは葛西薫が担当する。会期中には、各界で活躍するクリエイターやアーティストと皆川によるクロストークを多数開催。詳しい情報は展覧会特設サイト()にてチェック。“one day”原画 2018-19→AW photo: sono (bean)前売券は、10月1日より販売中。皆川が朝日新聞のコラム「日曜に想う」のために描いたイラストのポストカード(非売品)3枚がセットになった「ポストカードセット前売券」も数量限定で販売されている。私たちの日常生活やその先にある社会の仕組みについて新たな視点と示唆をもたらしてくれる「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」 にぜひ足を運んでみては。【展覧会情報】ミナ ペルホネン/皆川明 つづく会期:11月16日~2020年2月16日会場:東京都現代美術館 企画展示室 3F住所:東京都江東区三好 4-1-1時間:10:00~18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)料金:一般1500円(1300円)、大学生・専門学校生・65歳以上1000円(800円)、中高生600円、小学生以下無料 ※( )内は前売券料金。身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方と、その付添いの方(2名まで)は無料。20名以上の団体購入は当日券料金から2割引(東京都現代美術館で購入の場合のみ)休館日:月曜日(2020年1月13日は開館)、12月28日~2020年1月1日、1月14日
2019年10月07日「ぴあ」調査による2019年9月27日、28日公開のぴあ映画初日満足度ランキングは、『宮本から君へ』が第1位になった。本作は人一倍正義感が強い不器用な男“宮本”の生き様を描いた新井英樹の漫画が原作。上映後の出口調査では原作ファンから「最高だった!」「熱量がすごい!」と熱い声が続々と届いた。映画は、文具メーカーで営業マンとして働く宮本浩が、愛する人との間に立ちはだかる“愛の試練に”全身全霊で挑んでいく姿が描かれる。原作の前半部分“サラリーマン篇”は2018年4月にドラマ化されており、池松壮亮が引き続き宮本を演じ、ドラマを手がけた真利子哲也が監督を務めた。観客からは「ドラマを見ていたので、宮本の成長にはかなりグッときた」「とても熱い映画で、ひとりの男の成長を目撃できる素晴らしい映画!」「“人間”を感じたい人にはうってつけ。熱量がすごい作品だった」「宮本賛歌というか、スタッフみんなが宮本を全力で愛しているような作品で圧倒された」など絶賛の声が相次いだ。本作は特に原作ファンから絶大な支持を集めており、観客の中には「僕、原作の大ファンなんですが、原作の大ファンとして言うなれば、もう完璧!ですね。主役ふたりの鬼気迫る演技が原作通りで素晴らしかったです。原作の人物をあんなふうに表現できるなんて!っていう感じです。付き合いの長いカップルにオススメの映画です。なんか熱くなります!」と話す人も。原作ファンをとにかく熱くする内容になっているようだ。(本ランキングは、9/27(金)、28(土)に公開された新作映画9本を対象に、ぴあ編集部による映画館前での出口調査によるもの)
2019年09月30日映画『宮本から君へ』(公開中)の公開記念舞台あいさつが28日、都内で行われ、池松壮亮、蒼井優、一ノ瀬ワタル、真利子哲也監督、原作の新井英樹、宮本浩次が出席した。公開2日目となったこの日は、主演の池松壮亮らが登壇して舞台あいさつ。池松は「こんなに作品で"俺"って主語を使った作品はありませんでした。このご時世、"俺"って使う人は宮本浩次さんかローランドさんしかいませんから」と笑いを誘った。蒼井は「初めて週休6日で撮影したいなと思いました。基本的に馬車馬のように働いた方がノリやすく、パンチドランカー的に撮影が進んだ方が好きなタイプなんですけど、今回は3日目で体力や気力を使った感覚があり、ペース配分を間違えたと思いました」とハードな撮影に苦労したようだが、「スタッフさんやキャストの皆さんに助けられ、鼓舞して最後までやりました」と周囲の人々に感謝した。舞台あいさつ後半には主題歌「Do you remember?」を手掛けた宮本浩次も登壇し、キャスト陣らにバラの花束を贈呈して「本当に感動しました。何気なく心を揺さぶるシーンが随所に散りばめられていて本当に素晴らしい映画でした」と絶賛。すると池松は「今日まで2年半、宮本と対峙していましたが、すごく手強い人で、ずっと今日の今日まで宮本に試されているような気分でした。昨日、撮影以来台本を開くと面白いことが書いてあって、池松壮亮や宮本の人生なんてどうでもいいと、突っ切った先に振り向いたら宮本が浮かび上がればいいと思いました」と苦闘した自分を振り返り、涙ぐんだ。新井英樹の同名漫画を真利子哲也監督が実写映画化した本作。人生負けっぱなしの男・宮本(池松壮亮)が愛する靖子(蒼井優)の笑顔を取り戻すため、一世一代の勝負に挑む姿を感動的に描き出す。
2019年09月29日恒例の秋のリサイタル「夜会」を、今年も開催する熊本マリ(10月8日・東京文化会館小ホール)。今回は「ちょっと早いバースデーパーティ」というテーマが掲げられた。じつはこの「夜会」、毎年彼女の誕生日(10月15日)前後に行なわれるので、つねにバースデーパーティではあるのだけれど、今回あえてそう銘打った理由は、ふたりのゲストの存在。カウンターテナーの米良美一と、ギターの荘村清志という、やや異色の顔合わせでバースデーを祝う。【チケット情報はこちら】「このふたりと同時に共演できるなんて、今までにないぐらい、弾くのが自分自身でも楽しみなコンサートです」。ともに長い付き合いの音楽仲間だが、じつは米良との共演は今度が初めてなのだそう。「レコード会社の担当ディレクターが同じだったのでデビュー前から知っていて、ずっと仲がよかったんですけど、なかなか一緒に演奏する機会はなくて」つまりこの初共演が、特別なバースデー・プレゼントだ。もちろんおなじみの《もののけ姫》も聴かせてくれるが、音楽通にはモンポウの歌曲《君の上には、ただ花ばかり》も大きな注目ポイントだろう。熊本マリといえば、日本にモンポウを紹介した伝道師的存在でもある。「以前、モンポウの歌曲を彼と録音しないかという話があったのですが、結局実現しなかったんです。今回は1曲ですが、彼の声でそれを披露できるのがなによりもうれしいです。彼の繊細でやさしい声はモンポウにぴったりなんです」一方、荘村清志とはもう20年以上の共演歴がある。「何度も伴奏していますから、荘村さんの息づかいがわかります。一緒に弾いていて安心できますね。東京文化会館の小ホールは、ギターにもとても適した広さだと思います。ホールが大きすぎると、ギターの生の音の良さをちゃんと受け取ることができませんから。米良さんのモンポウも、サロンのような、小ホールの親密な空間で歌ってほしい。ふたりの音色をじっくり味わうには絶好のシチュエーションだと思います。おふたりにも、ぜひ自由に楽しくやっていただきたいです」プログラム全体は、叙情的なしっとりとした音楽を軸に、最後はお得意のスペインものも交えて賑やかに盛り上がる。リラックスした気分で楽しめる、まさに夜会、まさにパーティ。でも、慣れ親しんだ有名小品の数々のなかに、たとえばドビュッシーの《バラード》など、比較的聴く機会の少ない佳曲もさりげなく滑り込ませる。「美しい曲を楽しく聴いていただくなかにも、本物を味わってもらいたい。いつもそう意識して選曲しています」その絶妙なバランス感覚が、クラシック初心者からベテランまで、すべての聴き手の気持ちをつかむ熊本マリ流だ。もちろん二次会(=アンコール)にもじっくりと趣向を凝らしている模様。例年どおり、ヒロココシノのあでやかなドレスもパーティを花を添える。秋の夜長の華やいだ夜会。ピアニストのおもてなしに、あたたかい拍手で応えたい。取材・文:宮本明
2019年09月27日毎年海外の名門オーケストラを招いて開催される「東芝グランドコンサート」。39回目となる2020年は、スウェーデンのエーテボリ交響楽団が、1985年生まれの新鋭指揮者サントゥ=マティアス・ロウヴァリとともに来日する。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番で共演するのが、パリを拠点に世界で活躍するピアニスト児玉麻里だ。「めったにない、素晴らしいアンサンブルで演奏するオーケストラです」【チケット情報はこちら】じつは児玉とエーテボリ交響楽団のつながりは密接だ。というのは、彼女の夫である指揮者ケント・ナガノが、2013~2017年に首席客演指揮者と芸術顧問を務めていたから。彼女自身も3年ほど前に、20世紀初頭に楽団の首席指揮者でもあった作曲家ヴィルヘルム・ステンハンマルのピアノ協奏曲を共演している。「海辺の街らしい、とても明るく勢いのある街です。その雰囲気はオーケストラにも通じていて、スカンジナビアらしい深みに、明るい勢いも持ち合わせたオーケストラです。そしてホールが素晴らしいんです。音響が良いだけでなく、バックステージに、楽員がアットホームに過ごせる環境が整っています。無料のカフェやバー、そしてたくさんのとてもきれいな練習室。みんないつもそこに入り浸って、大家族みたいな感じなんですよ。だから音も全員で一緒に作っているという感じで、和気あいあいとしたアンサンブルを聴かせてくれるのです」今回来日する指揮者ロウヴァリとは初共演。「とても楽しみです。よい噂しか聞きません。若くて勢いを持っているうえに、とても真面目で、すでに成熟した音楽家だと話題ですね。日本公演の前に2月にスウェーデンで同じプログラムを弾く予定です」ベートーヴェンの初期作品であるピアノ協奏曲第2番は、じつは第1番より先に作曲された、実質的には最初のピアノ協奏曲だ。「よくハイドンみたいで軽いと言われるんですけど、私はどちらかというと、すごく芯のある作品だと思っています。とても男性的。若いベートーヴェンの、理想と元気と夢が全部混ざった、とても機嫌のよい曲です。もちろんショパンみたいにフレキシブルに動いてはいけませんが、でも動かないと面白くない。動かないようで動いているような「間」。そのタイミングを、オケのひとりひとりと指揮者とソリストでやりとりして、同じ言葉で会話できれば、毎回舞台の上でちょっと違うことができます。そうなると、大きな室内楽みたいで、お客様も楽しいですね」思い入れがあるというこの曲。フォルテピアノで弾くために時代楽器の巨匠アンドレアス・シュタイアーにレッスンを受けたり、協奏曲全曲プロジェクトのときには、かねてからの師であるアルフレート・ブレンデルに夫婦で教えを受けたりと、すでに十分なキャリアを重ねてなお、謙虚に学ぶ誠実な姿勢を崩さないのは素敵なことだ。児玉が出演する公演は2020年3月に広島、東京、仙台で。楽しみでしかない。取材・文宮本明
2019年09月26日池松壮亮と蒼井優が共演する、バブル崩壊直前の日本で最も嫌われた伝説の漫画の実写化『宮本から君へ』(真利子哲也監督)から、宮本浩次が横山健をギターに迎えた主題歌「Do you remember?」が長尺で聞くことができる90秒の予告編が到着した。今回到着した主題歌「Do you remember?」が流れる予告編では、池松さん演じる人生負けっぱなしの男・宮本が、愛する靖子(蒼井さん)の笑顔を取り戻すため、一世一代の勝負に挑む姿が映し出される。幸せそうな宮本と靖子の姿から一転、拓馬(一ノ瀬ワタル)が登場し、2人の関係を打ち砕く“衝撃の事件”が起こってしまう!涙を流す宮本と靖子や、宮本が叫びながら拓馬に向かっていくも一瞬でやられてしまうシーンなど、宮本の全力で立ち向かう様子が覗ける。そして映像の最後では、スタントなしで挑んだ注目の宮本と拓馬の“非常階段の決闘シーン”の新たな映像が収録されている。なお、本作をいち早く鑑賞した著名人からは「原作を知っているのに涙が溢れてくる」(堀江貴文)、「がんばれ!宮本!」(向井秀徳)などと絶賛とエールを送るコメントが到着している。『宮本から君へ』は9月27日(金)より全国にて公開。(cinemacafe.net)■関連作品:宮本から君へ 2019年9月27日より全国にて公開Ⓒ2019「宮本から君へ」製作委員会
2019年09月21日10月1日(火)、新国立劇場の2019/2020シーズンは、チャイコフスキーの『エウゲニ・オネーギン』で開幕する。刺激的な演出が話題のモスクワ・ヘリコン・オペラの創設者ドミトリー・ベルトマンによる新制作のプロダクションだ。リハーサルは9月初旬にスタート。その初日、ベルトマンが、スタッフ・キャストに演出コンセプトを説明する機会に立ち会った。【チケット情報はこちら】『エウゲニ・オネーギン』を手がけるのはこれが9回目だというベルトマン。「若い頃はとにかくみんなを驚かせようとしてばかり。氷の世界の物語にしたり、タチヤーナとオネーギンのベッド・シーンがあったり。でも年齢とともに、そういうものは必要ないのだとわかってきました」と笑う。チャイコフスキーというと、叙情豊かでメランコリックな音楽が特徴だが、彼は、チャイコフスキーはもっと情熱的なのだと力説する。「わたしの目指すチャイコフスキーの音楽は、情熱的な真っ赤な色をしています。この作品も情熱にあふれたオペラだということを伝えたいと思います」そしてストーリーを追いながら、登場人物のキャラクター分析やドラマの背景を彼自身の視点から説明する。「最初のシーンだけちょっと説明して、すぐ稽古に入りますから」と言って始まったのが、ときに一人二役でオーバー・アクションで歌ってみせるなどの「熱演」を交えながらたっぷり40分以上。熱い人だ。「結末は血がほとばしるような悲劇です。幕開けはコミカルに始まって最後はものすごい悲劇で終わる。そういうコントラストをつけて演出したいと思います」今回、舞台上には、全幕を通して、古代ギリシャ風の4本の円柱が置かれている。これは、モスクワ芸術座の創始者で、ロシアの現代演劇の礎を築いたコンスタンチン・スタニスラフスキー(1863~1938)の自宅内にあった、「オネーギン・ホール(オネーギンの間)」と呼ばれる小劇場を再現したもの。スタニスラフスキーはそこで1922年に『エウゲニ・オネーギン』を上演しているのだ。この上演こそが、ロシアのオペラ演出の先駆けと位置づけられているそうで、その1922年版をモチーフに、「時代に合わせ、わたしたちの演出を自由に行う」という、新たなプロダクションとなる。題名役オネーギンには、世界の主要劇場でこの役を当たり役にしているワシリー・ラデューク(バリトン)。そして題名役以上に重要なヒロイン、タチヤーナには、 2017年に、センセーショナルなザルツブルク音楽祭デビューを飾った注目のエフゲニア・ムラーヴェワ(ソプラノ)。制作チームにもロシアから来日したスペシャリストたちが揃った。ロシア・オペラを知り尽くした彼らが、そのノウハウを結集して作り上げる舞台。充実のシーズン開幕が待ち遠しい。取材・文:宮本明
2019年09月20日作曲家・林晶彦がデビュー30周年記念コンサートを開く(11月13日(水)・東京オペラシティ・コンサートホール)。なかなかにたくましい、波乱の音楽人生を歩んできた人だ。【チケット情報はこちら】1989年に、京都・丹波高地の山村で行なわれた京北国際芸術祭というイベントで自作曲を弾いたのがデビュー。「世界的打楽器奏者のツトム・ヤマシタさんがプロデュースした音楽祭です。無名の僕にヤマシタさんは45分のステージを与えてくれました」その前年、面識もなかったヤマシタを突然訪ねて交流が生まれたのがきっかけだった。残念ながら詳述する余裕はないのだけれど、そのバイタリティや、まるで奇跡のような出会いのエピソードはちょっとドラマティックだ。林は1955年生まれだから、当時すでに34歳。かなり遅咲きのデビューだ。それまで何をしていたのか。「管弦楽組曲だったと思うんですよ」ロックバンドでベースを弾いていた林少年が、ある日突然クラシックに目覚めたのは、ラジオから聴こえてきたバッハだった。そこから2年間ピアノを猛練習。しかし日本の音楽大学を目指すことなく、いきなり高校を中退して17歳で単身パリへ。アカデミズムとは無縁で、往年の名ピアニスト・作曲家のミロシュ・マギンにプライベートで師事した。「黒板の前で勉強するのは僕の音楽ではないと思った。体験したことが音になるから。ただ、僕は体験したことがはちゃめちゃなんですけどね(笑)。ある音楽家の方に、どんなシステムで作曲しているのかと聞かれたことがあったのですが、システムはないんです。出会った人にインスパイアされて作るので。理論では作っていないんです」20歳のとき、今度は突然イスラエルへ。中東に一触即発の空気が漂っていた1970年代半ばだ。「パリで病気で入院して死にかけて、しんどくてどんな音楽も聴けなくなってしまったときに、ガールフレンドがくれた、イスラエルの歌の入ったテープだけは聴くことができたんです。それでどうしても行ってみたくなった。何のツテもなくテルアビブへ行きました」そこでも音楽は独学。イスラエル・フィルのリハーサルを覗き、楽旅で当地を訪れたピアノのウラディーミル・アシュケナージに飛び込みでレッスンを受けるなど、さまざまな武勇伝。1年後に帰国。芦屋のライヴハウスでピアノを弾いたり、新婚旅行で訪れたインドで2か月暮らしたり。「いろいろやってたけど、思い出せません」と笑う。10年以上フリーランスの音楽家として食いつないだのちに訪れたのが上述のデビューの機会だった。コンサートも、そんな彼の音楽人生の中で、さまざまな縁で出会った仲間たちが集う。ヴァイオリン、チェロ、オーボエ、ソプラノ、能管、打楽器、そしてジャズ・ベース。新曲も3曲。「やったことないようなことばかりで大変なんですけど、僕もワクワクしてます」彼の作品を初めて聴く人にも楽しい、多彩なコンサートになりそうだ。取材・文:宮本明
2019年09月11日1979年の初来日以来、これが6度目となる英国ロイヤル・オペラの日本公演がまもなく始まる。今回の演目は、2004年に新制作されたグノー《ファウスト》(デイヴィッド・マクヴィカー演出)と、2017年新制作のヴェルディ《オテロ》(キース・ウォーナー演出)。奇しくもゲーテとシェイクスピア、二人の文豪の作品を原作とするオペラでもある。9月6日に都内で開かれた開幕会見に、音楽監督・指揮者のアントニオ・パッパーノと主要キャストが出席した。「英国ロイヤル・オペラ日本公演」のチケット情報「日本公演はロイヤル・オペラ唯一の海外公演。素晴らしい場所で、素晴らしい2作品を観ていただけるのは幸せです」と、パッパーノ。「歌手が充実していないと実現できない演目」として、それぞれの作品に出演する歌手たちへの期待と信頼を語った。2002年からロイヤル・オペラの音楽監督を務めるパッパーノ。すでに昨年、契約を2023年まで延長することが発表されている。その長いパートナーシップの秘訣を「オペラを愛し、歌を愛し、言葉を愛し、劇場を愛すること」と語る。「歌い手を心から愛し、理解して、真摯に音楽作りをすれば、聴衆も信頼してついてきてくれます」今回、その「愛」で結ばれた歌手陣には実力派が揃った。本格的なオペラ出演としてはこれが日本デビューとなるヴィットリオ・グリゴーロは、ファウスト役を十八番とするスター・テノール。「パッパーノは、信頼してすべてをまかせることのできる指揮者。人々に喜びを与えるという喜びを私たちに教えてくれる。私たちは彼のマジックの駒のひとつでもまったく構わないのです。指揮者はF1でいえばタイヤのようなもの。どんなに優れたドライバーが良いエンジンを操っても、性能の高いタイヤがなければマシンは正しい方向に進みません」と、大好きだというF1になぞらえてパッパーノへの信頼を熱弁した。この絶妙なたとえに思わず「そのとおり!」と膝を叩いたグレゴリー・クンデは、今年だけでも5つの劇場でオテロを歌う予定があるという、現在最高のオテロ歌いだ。今回のキース・ウォーナーのプロダクションにも、2017年の初演時に出演している。「テノールにとってオテロは夢のような役。テノールの目指す頂点にある役のひとつだと思っています」と語る。会見には他に、《ファウスト》のメフィストフェレス役のイルデブランド・ダルカンジェロ、《オテロ》のヤーゴ役のジェラルド・フィンリーの2人の「悪役」、そして《オテロ》のデズデモナ役のフラチュヒ・バセンツも出席。パッパーノが「私自身が家長のようなものなので、自ら模範を示さなければなりません」と語ったのに呼応するように、みな口々に「家族同然」「素晴らしい仲間」と、チームとしての結束の強さをうかがわせた。世界トップレベルの実力に信頼という「鬼に金棒」。今回もまた充実の舞台を繰り広げてくれるはずだ。文:宮本明
2019年09月10日「“あのイ・ムジチ”という存在ですよね。光栄ですし楽しみです」キャリア十分のヴェテランがそう言って目を輝かせるのは素敵なことだ。天羽明惠は日本の声楽界を牽引するトップランナーのひとり。この秋、イタリアの老舗アンサンブル、イ・ムジチ合奏団と共演する(10月2日(水)・サントリーホール)。「イ・ムジチ合奏団 with 天羽明惠」の公演・チケット情報イ・ムジチといえば《四季》。誰もが知る有名曲だが、実は、音楽史で忘れられていたこの作品が再発見されたのはなんと20世紀半ばのこと。そしてそれが世界的な人気を獲得するのに大きな役割を果たしたのが、1952年結成のイ・ムジチなのだ。繰り返し録音した彼らの《四季》は、この曲の定番中の定番。《四季》といえばイ・ムジチ。両者はもはやほとんど同義語といっても過言ではない。「もちろんメンバーが変わっているとはいえ、60年以上もずっと弾き続けている作品なのに、まるでたったいま生まれてきた音楽であるかのように、いつも新鮮に演奏するのは素晴らしいことですよね」指揮者なしのアンサンブルとの共演。大事なのは息づかいだという。「彼らは絶対に私の息を聴いているはず。だから細かいテンポのニュアンスも、息でちょっと仕掛ければわかってくれるし、彼らの音で私の声も変わります。身体中にアンテナを張り巡らせてそのやり取りをするのは刺激的です」天羽が歌うのは、ヘンデルのオペラ《ジュリオ・チェーザレ》のクレオパトラのアリア〈この胸に息のある限り〉や、モーツァルトの《エクスルターテ・ユビラーテ》など3曲。「《ジュリオ・チェーザレ》のアリアは内面的で深い歌。それをイタリア語の音楽劇として、まずはイタリア人の彼らに伝えられるかどうか。丁寧に歌っていこうと思います。そしてモーツァルトは、彼らとの化学反応で、どんなきれいなレガートが生まれて、それをコロラトゥーラでどのように歌えるのか、とても楽しみにしています」ヘンデルやモーツァルトは、歌手にとって、声楽的にも必要不可欠なレパートリーなのだと教えてくれた。「たとえばヴェルディのオペラを歌ったあとでも、すぐに楽屋でモーツァルトを歌って、身体や筋肉がやわらかく使えているか、確認することが大事です。常にどちらも歌える状態、ニュートラルな状態に戻すということを考えながら歌手を続けています」来日を目前にコンサートマスターのアントニオ・アンセルミが急死したため、代役としてマッシモ・スパダーノが出演。公演後半の《四季》のソロも彼が弾く。「驚きました。残念ですが、彼らにとっても毎回が新しい演奏になるわけですから、そこは楽しみですね。私は東京と福井で歌うのですが、その間にもどんな変化が起こるか。彼らに負けずにフレッシュな演奏ができるように、私もしっかりと準備しなければ。なにより、彼らの音は絶対的に明るいでしょうから、その明るさと天羽明惠の明るさで、おおらかでのびやかに羽ばたきたいと思っています!」文・宮本明
2019年09月10日発達障害のピアニスト野田あすかが、昨年につづいて公演を行なう。前半はクラシック作品、後半は自作という構成だ。【チケット情報はこちら】前半で弾くヒナステラの《アルゼンチン舞曲集》(全3曲)についてこんな話をしてくれた。「1曲目は〈年老いた牛つかいの踊り〉という題名なんだけど、私が聴く限りはものすごくキレがいいんです。“年寄りじゃないだろう!”ってツッコミたくなる(笑)。3曲目は〈はぐれ者のガウチョの踊り〉。みんなとはぐれてどこかに走って行っちゃうカウボーイのお話なんですけど、ちょっと行き過ぎ(笑)。みんなの元に戻れたのかなって心配しちゃいます」視点が面白い。どんな音楽でも、このようにストーリーを考えながら弾いているのだそう。「作曲家がどう考えたのかをちゃんと調べて再現するのが大事だということを、知識としては知っているんだけれども、それをわかったうえで、私は自分の色を入れるほうが、弾きやすいし伝えやすいんです」でも、音楽学的な知識と同じぐらい、あるいはそれよりずっと、楽譜に向き合ってたどり着いた解釈が大事なはず。その意味で彼女は正統的だ。障害のせいで図形の認識が苦手。だから譜読みにとても時間がかかる。「ものすごく時間がかかってしまうから、耳で覚えて弾いてみたこともあるんですけど、それだと音色まで耳で聴いたように弾いてしまって、もう直せないんです。だから、どんなに時間をかけても、自分で譜読みするほうが、結局仕上がりは私らしい。大変だけど、今もその方法を続けています」そして自作曲。どのように作曲しているのだろう。「楽譜に書いた時点では自分がどんな曲を書いたのかわかりません。クラシックの作品と同じように一から譜読みして、“あっ、私、こういう曲を書いたんだ”って(笑)」どういうことかというと、彼女はまず、描こうとする風景や表現のイメージを点と線でスケッチする。見せてくれた作曲ノートには、ちょうど北斗七星のような図形がいくつも並んでいた。そしてその図形を、タブレットの楽譜アプリで、なぞるように音符を置いていくのだ。それが主題のモティーフとなり、展開し、和声づけしながら曲を完成していく。一見ユニークだが、最初の工程に視覚的な線画を用いているだけで、肉付けしていく過程は非常にオーソドックスな作曲法だともいえる。障害のあるピアニストとして報道されることをどう感じているのだろう。「最初はそれが嫌だと思って頑張っていたのですが、障害のある人もない人も、いろいろ悩みがあることに気づきました。そういう人たちが私のピアノを聴いて、悲しい気持ちや悔しい気持ちを少しでも涙として流せるとしたら、それは障害のためにいろんな悔しい思いをしてきた私だからこそできることかもしれない。私は障害を乗り越えたとは思っていなくて、これからも一緒に生きていこうと思っています。今回のコンサートでは、自作の新曲を何曲か発表する予定です。演奏を聴いて、来たときと違う気持ちで帰ってくれたらうれしいです」公演は12月22日(日)東京・トッパンホールにて。取材・文:宮本明
2019年09月02日池松壮亮演じる熱血営業マン・宮本浩の暑苦しくも切ない生き様を描いた極限の人間讃歌エンターテインメント映画『宮本から君へ』。この度、本作の主題歌入り本予告映像が到着した。今回到着したのは、宮本浩次が横山健とコラボした主題歌「Do you remember?」の楽曲が流れる予告編。楽曲に合わせて、幸せそうな宮本と靖子(蒼井優)が映し出されるがそれは一瞬。拓馬(一ノ瀬ワタル)が登場すると、“究極の愛の試練”に直面した宮本と靖子が涙、そして靖子は「守ってくれるんじゃなかったの」と責めるシーンも。しかし、歌声に背中を押されるかのように、人生負けっぱなしの男・宮本が、愛する靖子と一緒に試練を乗り越えるため奮闘!まるで楽曲に宮本が呼応するかのような映像となっている。またラストでは、「本当に映画化できるのか?」と注目されている、宮本と拓馬の“非常階段の決闘シーン”も。実在する高層マンションの非常階段でスタントなしで挑んだ必見の場面だ。『宮本から君へ』は9月27日(金)より全国にて公開。(cinemacafe.net)■関連作品:宮本から君へ 2019年9月27日より全国にて公開Ⓒ2019「宮本から君へ」製作委員会
2019年08月12日ピアニスト清塚信也が、邦人クラシック系男性ピアニストとしては初めてとなる、日本武道館での公演「KENBANまつり」を8月16日(金)に開催する。東京2020に向けて長期改修に入る日本武道館での、これが改修前最後の公演でもある。【チケット情報はこちら】「うれしいし、気合いも入っているんですけど、ぼくは性格的に、業界を背負ったりする人じゃないので(笑)。武道館で弾くのも10人のサロンで弾くのも、人前で弾くという心構えはそんなに変わりません。ただひとつあるとすれば、“武道館なんだからいいじゃん”って言えば大抵のことは通るかなって思ってます(笑)。ぼくは今までわりとアコースティックなバラード調の曲を求められていたんですけれども、“ロックとかやってもいいよね?武道館なんだから!”ってね」そう。ジャンルにこだわらない音楽活動を続ける清塚だが、今回はそれをさらに突き詰めたチャレンジになりそう。予定曲目も、公演に合わせて7月にリリースした「完全にロックです」というバンド編成のミニ・アルバム『SEEDING』の収録楽曲はもちろん、オリジナルのソロ曲、クラシック、さらにはなんとピアノ10台による《第九》!実に多彩。こだわっているのは「インストゥルメンタル(インスト)」だ。「日本って、インストがヒット・チャートに入ってこないじゃないですか。それがすごい残念で。欧米だとヴォーカル曲の中にインストが、がんがんランク・インしてくるんですよ。だからインスト・ファンをゼロから獲得していきたいという思いがあって、アルバム・タイトルも『種まき』という意味の『SEEDING』。かれこれ10年以上やりたかったんです。でも、一緒にやりたいと思うメンバーがなかなか集まらなかった。それが去年から福ちゃん(福原将宜・ギター)たちと急接近して仲良くなって、最後のピースがはまった。縁ですね」武道館にはその「SEEDING」のバンド・メンバーはもちろん、スペシャル・ゲストとして、バラエティ番組での共演でもおなじみ、「あらたまって言うのが恥ずかしいぐらい公私ともに仲が良い」というヴァイオリニストのNAOTOも出演する。「一生に1度聴けるかどうかというサウンドになると思います。とくに、10台以上のピアノが一斉に鳴る空間って、生きてるうちにそうは出会えないですから、楽しみにしてほしいですね」「イベントでスタンディング・オベーションを強要される雰囲気とか、嫌ですよね」と笑う清塚。だからこそ、「一見(いちげん)さんにやさしいコンサート」を約束してくれた。その誘いに乗せられて、「初めてのインスト」を8月16日(金)からスタートするのは、絶対に楽しい。取材・文:宮本明
2019年08月07日「炎のコバケン」のニックネームで多くのファンに愛される指揮者・小林研一郎。来年80歳の誕生日を迎える巨匠の節目を記念する「祝祭演奏会」シリーズが、早くも今年9月、ハンガリー放送交響楽団の来日でスタートする。いわば前祝いだ。【チケット情報はこちら】ハンガリーは、小林にとって、1974年の第1回ブダペスト国際指揮者コンクール優勝で国際的に飛躍した思い出の地であり、それ以来ヨーロッパでの拠点となってきた第二の故郷。いまも1年に計2か月ほどはブダペストに滞在する。「愛されているんですね。ありがたいことです。ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団の桂冠指揮者や、ハンガリー・ブダペスト交響楽団でも名誉指揮者のタイトルがあります。ハンガリー放送交響楽団は、1974年のコンクールで、二次選考から本選までを指揮したオーケストラで、毎年2度ぐらいは必ず指揮して、良い関係が続いています。当然ですが、45年前の楽員の方々はもういなくなりましたが、伝統的に受け継いでいるものはあると思います。放送局のオーケストラということもあってか、熱烈です。いつでもテレビやラジオの放送が付いてまわりますから、人間の緊張力が独特な形で現れてきますでしょ。それがいいのかもしれません」公演では、チェコの作曲家ドヴォルザークのチェロ協奏曲(独奏:宮田大)と交響曲第8番を指揮する。チェコ・フィルでも重要な仕事を重ねてきた小林のキャリアを象徴するような組み合わせということになる。「ハンガリーのオーケストラというのはカメレオンみたいに変幻自在なんですね。ドヴォルザークの8番でも、随所に聴こえてくる切なさ、葬送行進曲、それから甘くて甘くてしょうがないメロディ。すっとしゃれた音楽。それから瞬間に前に進むような変化というのが随所に現れてきます。ですからぜひ、ここでしか聴けない、わたしたちの音楽に耳を傾けてください。必ず聴いてよかったと思っていただけると確信しております」チェロ独奏の宮田大については、「心血を注いだ音を出すチェリスト」と高く評価する。「前から素敵でしたけど、ある瞬間からすごく大きくなったんです。たくましく美しく、とても豊かになりましたね。それから、たとえば、こちらがオーケストラに、ここは実は葬送行進曲なんですとお願いすると、途端に彼、それまで朗々と弾いていたのを、音を変えてくれますよ。素晴らしいですね」80歳祝祭演奏会は、もちろん来年にピークが来る。全貌は発表を待たなければならないが、どうやらチャイコフスキーの交響曲を(マンフレッド交響曲まで含めて)まとめて聴かせてくれるらしい。そしてもちろん、「1番好きな世界」という、2020年がメモリアル・イヤーのベートーヴェンも、シリーズ以外の機会でたくさん聴くことができるにちがいない。「傘寿」を迎えてますます意気軒昂なわれらがコバケン。その楽しみなメモリアルを、まずは9月、客席で祝おう!取材・文:宮本明
2019年07月23日「音楽のまち」を街づくりのテーマに掲げる川崎市。「ジャズは橋を架ける」を合言葉に5回目の開催となる「かわさきジャズ」は、9月から11月にかけて市内全域をステージに行なわれる、有料無料あわせて約50公演を核とする都市型フェスティバルだ。7月8日にミューザ川崎にて、出演者の国府弘子(ピアノ)、文梨衛(ふみなしまもる・サックス)と、顧問の福田紀彦・川崎市長らが出席して概要の発表会見が行われた。【チケット情報はこちら】フェスは3つのミッションを軸とする。「音楽公演」「地域連携」「人材育成」。人気ミュージシャンが名を連ねる音楽公演が音楽の架け橋なら、商店街や企業とのコラボによるさまざまな地域連携企画が街と人に橋をかけ、学校や公共の広場などで行なわれるワークショップやレクチャーは、音楽の未来へ橋をかける人材育成だ。フェスのメインとなるのは11月7日(木)~17日(日)に開かれる9つの音楽公演。公共ホールやライブハウス、ショッピングモール、市内の音楽大学などを会場に、スタンダードからボーカロイドまで、個性的な公演が目白押しだ。今年は若手奏者や女性アーティストが多数出演するのが目を引く特徴で、幅広い世代のファンが楽しめるラインナップとなっている。ミューザ川崎の「佐山雅弘メモリアル・コンサート」(11月16日(土))は、昨年急逝したジャズ・ピアニスト佐山雅弘の追悼コンサート。彼が発掘した若手プレーヤーたちや、特別編成のトリビュート・バンド(ゲスト・ヴォーカル:May J)が集まり、誰からも愛された佐山の人柄を偲ばせる一夜になるにちがいない。かつてミューザで、佐山が仕掛け人となって実現した「ジャズピアノ6連弾」からの4人のメンバー、国府弘子、小原孝、塩谷晢、佐藤允も出演。会見に出席した国府弘子は次のように語った。「なんとも酔狂でゴージャスなコンサートに、佐山アニキに呼んでもらった。その同じステージの上で、4人で6人分の気持ちを込めてプレイしたい」一方、昨年スタートした、冠レース開催とともにジャズ・ライヴが楽しめる「川崎競馬ジャズナイト」(9月6日(金))や、生演奏とともに海から人気の工場夜景を眺める「ジャズクルーズ」、川崎駅周辺の店舗やストリートをまるごとジャズで染める「ジャズ・ジャック・デー!」(11月16日(土))などの好評企画はもちろん今年も。これらの地域連携プロジェクトを盛り上げるのが、「キーアーティスト」に任命されている若手サックス奏者で、会見のもう一人の出席ミュージシャンの文梨衛だ。地元川崎出身。祭りに若い力は欠かせない。街に出ればジャズと出会える。川崎の秋は今年も熱い。取材・文:宮本明
2019年07月16日「オペラ夏の祭典2019-20 Japan⇔Tokyo⇔World」が、いよいよ7月12日、東京文化会館で幕を開ける。オペラ・ファン注目の《トゥーランドット》。東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて、新国立劇場と東京文化会館、つまり国と東京都がタッグを組んで新たな芸術を発信するという、史上初の、行政的にも画期的なオペラ・プロジェクトだ。初日を前に行なわれたゲネプロ(最終の舞台リハーサル)を見学した。【チケット情報はこちら】演出に起用されたのはアレックス・オリエ。1992年バルセロナ五輪開会式の演出を手がけた演出家で、今回のプロジェクトとは「五輪つながり」ということにもなる。舞台装置は壮観だ。天井までそそり立つ壁。その壁に張り付くように無数に巡らされた階段。オリエによれば、舞台全体は、権力構造の象徴であるピラミッドを逆さにしたもの。舞台面が、すり鉢の底というわけだ。やがて、その底に這いつくばる民衆を押しつぶすかのように、巨大な舞台に乗った最高権力者トゥーランドット姫が、神のように降りてくる。オリエは今回の造形イメージのヒントを得たものとして、ブラジル人写真家セバスチャン・サルガドの、露天掘り金鉱山の写真や、有名な「エッシャーのだまし絵」の階段、退廃的な近未来を描いた映画『ブレードランナー』などを挙げていた。なるほど、その感じ、わかる。この日は初日キャストによるリハーサル。なんといってもトゥーランドット役のイレーネ・テオリンがすごい。舞台の奥寄りで歌っても、オーケストラを突き抜けて聴こえてくる強い声。「現代最高のドラマティック・ソプラノ」の呼び名は伊達ではない。それでいて、カラフとの謎解き勝負に敗れて動揺する様子や、リューの死で変わってゆく内面の心理描写も巧みだ。主要キャスト以外では、ピン、パン、ポンに主役級の歌い手を配しているのも、なんとも贅沢(この日は桝貴志、与儀巧、村上敏明の3人)。実は大変に出番の多いこの重要な道化役を、普段より存在感増量の個性とアンサンブルで楽しませてくれる。また合唱も約90人と大規模で、見た目も声量も圧巻の迫力だった。プロジェクトの総合プロデューサーでもある大野和士が音楽監督を務めるバルセロナ交響楽団が、24年ぶりに来日してピットに入っている。まずは万全のパフォーマンス。実は5月下旬のバルセロナでの定期演奏会に、演奏会形式で《トゥーランドット》をかけて来日に臨んでいるのだ。準備万端。このあたり、大野のマネジメントも冴える。オペラは最後、真実の愛に目覚めたトゥーランドット姫がカラフとの愛を宣言して終わるのだが、演出のオリエはかねてから「男たちを次々に処刑してきた彼女に、ハッピーエンドがあり得るのだろうか」と疑問を投げかけており、今回はちょっと刺激的なエンディングを用意した。音楽が鳴り終わる一瞬まで、舞台から目を離してはいけない。取材・文:宮本明
2019年07月12日「個性と協調」「ソロとアンサンブル」。一歩間違うと水と油になりそうな要素同士が絶妙にバランスして、独特の魅力を醸し出すのがピアノ三重奏の世界。そこにこの冬、とびっきりの若いトリオが誕生する。戸澤采紀(ヴァイオリン)、西川響貴(ピアノ)、泉優志(チェロ)。今年19歳を迎える3人が、クリスマス・イヴに「トリオ・クレスコ」として産声をあげる(12月24日(火)・浜離宮朝日ホール)。【チケット情報はこちら】3人は現在東京芸術大学で学ぶ1年生の仲間同士。さらに、3月まで附属高校時代の3年間も同じ教室で過ごした。カフェでネットを検索して探したという、「成長」の意味のエスペラント語「クレスコ(kresko)」には、これまで3年間の成長と、これからの成長、両方の意味が込められている。「ピアノ三重奏の魅力は音域の広さ。そして、鍵盤楽器と弦楽器という、異なる種類の楽器が一緒に演奏することで、弦楽器だけのアンサンブルなどとは違う壮大なイメージがあります」(西川)「そのスケールの大きさを、この3人で、深い音楽で表現できたらと思います。尊敬できる同世代の仲間と一緒に勉強することが憧れだったので楽しみです」(泉)「単にソリスト3人が集まって弾くのではない、全員が寄り添った時の音が必要だと思います。3人の音。そういう意味でのアンサンブルの醍醐味を、でもお互いに寄せていくのではなく、遠慮なくぶつかり合って作っていきたいです。私たちにしかできない演奏、私たちにしか出せない音が絶対に見つけられると思っています」(戸澤)デビュー公演には、「今の自分たちにしかできないピュアな音楽を感じてほしい」という彼らの願いに沿って、フレッシュなプログラムを選んだ。メインとなる後半にはドビュッシーとラヴェルのピアノ三重奏曲。「最初に決めたのがドビュッシー。今の私たちより若い、18歳の作品に親近感を覚えます」(戸澤)「若いからこそ表現できるものがある作品です」(西川)ドビュッシーとくればラヴェルだが、その三重奏曲は、このジャンルの最高峰。難度も高い大作に挑む新生トリオに注目だ。一方、前半はピアソラのタンゴ、ロシアのジャズ・クラシックの作曲家カプースチン、そして映画音楽(パイレーツ・オブ・カリビアン)と、多彩なジャンルへの挑戦だ。カプースチンは原曲のフルートをヴァイオリンに置き換えての演奏。お楽しみ的な構成の中にも、他では聴けない彼ららしさがしっかりと織り込まれているのがいい。3人での公演の1か月前には戸澤のソロ・リサイタルも(11月9日・岡山県立美術館ホール、11月23日(土)・東京・トッパンホール)。2016年の日本音楽コンクール最年少記録優勝者。同じ年のピアノ部門覇者・樋口一朗との「念願の共演」で、こちらも若いエネルギーが溢れる。シューマンの傑作ソナタ第2番や、彼女が連続して取り組んでいるイザイのソナタ第2番、ラヴェル晩年のソナタ第2番など、レンジの広い楽しみなプログラム。取材・文:宮本明
2019年07月04日2017年第86回日本音楽コンクールを制した若きピアニスト吉見友貴(ゆうき)。2000年生まれの彼が、十代の集大成ともいえるリサイタルを開く(11月24日(日)・トッパンホール)。【チケット情報はこちら】現時点で決まっている演奏曲は、アルバン・ベルクのソナタOp.1、ベートーヴェンのソナタOp.109、そしてショパンのソナタ第3番Op.58。「最近魅力に気づいた」というのがベートーヴェン。交響曲や弦楽四重奏曲など、ピアノ曲以外も熱心に聴き始めた。「もともと、ベートーヴェンはとっつきにくく感じて、弾くのを避けていました。でも《熱情》を弾く機会があって、初めて深く勉強してみたら、彼の頭の良さ、作曲技法の素晴らしさにびっくり。いい機会だから一気に弾いてしまおうと、今回弾く作品109を含む、後期三大ソナタ(作品109、110、111)に取り組んでいます。最後の傑作3曲を続けて勉強するのは大変ですが、前期・後期とは異なるベートーヴェンの真の世界を深く見ることができたような気がします。もちろん今の年齢で完成できるわけではありませんが、これからもずっと向き合いながら深みを増していきたいと思っているところです」ベルクはそのベートーヴェンよりも約100年若い世代の作曲家。しかし、「作品のイデーは通じる」と言い切る。「並べて聞いてもまったく違う音楽に聞こえるとは思いますが、根本的な作風は似ているんです。それが伝えられるといいのですけど」実はベルクを知ったのは、子供の頃に読んだ『のだめカンタービレ』に登場した、ヴァイオリン協奏曲だったのだそう。なるほど、そういう世代だ。「それまでベルクという作曲家を知らなかったのですが、曲を聴いてみて衝撃を受けました。それがきっかけでピアノ・ソナタも勉強して。無調から、ぱっと調性に変わって解決する瞬間がとても好きです。少し難しい曲かもしれませんが、自分の好きな作品をみなさんに知っていただくチャンスにしたいと思います」そしてやはりピアニストはショパンが大好き。なかでもソナタ第3番は、ずっと憧れの作品だった。「ショパンの全作品の中でも、構築美を最も強く感じます。もちろん感覚的なメロディの美しさもありますが、そのうえで、ソナタとして構造的に美しい、素晴らしい作品なのです」この春に桐朋学園高校を卒業し、現在は大学のソリスト・ディプロマ・コースで研鑽中。最近はソロだけでなく、室内楽にも積極的に取り組んでいる。「室内楽は人と合わせるので、テンポなど、制限のある中で自由に弾かなければなりません。そのおかげで、ソロを弾くときも自分勝手にならず、作品全体を、より鮮明に、細かく、そして大きくとらえられるようになってきました」「ピアノでなく音楽を勉強している気がする」と手応えを語る表情は実に頼もしい。成長・進化の真っ只中。今後もさらに大きく羽ばたき続ける彼の「現在」が聴けるリサイタルを聴き逃すな。取材・文:宮本明
2019年06月28日中島美嘉と古屋敬多(Lead)がW主演を務める『イノサンmusicale』の製作発表が行われ、演出の宮本亜門、脚本の横内謙介、音楽監督・作曲の深沢桂子、楽曲提供のMIYAVIのほか、キャスト5人が登壇した。坂本眞一のマンガ『イノサン』『イノサンRougeルージュ』を原作とするこの舞台。18世紀のフランス革命下で国王ルイ16世らを極刑に処した実在の死刑執行人シャルル=アンリ・サンソンと、その妹マリー=ジョセフ・サンソンの壮絶な生き様が描かれる。宮本は、原作を「マンガを超えたアート」と評する一方で「残虐で生々しく、目を覆いたくなるものまで見せる大変チャレンジ精神の強い作品」と紹介する。オファーを受けるにあたって原作者の坂本と対話を重ね、彼の抱える“現代日本における女性差別への怒り”が中島演じるマリーへ投影されていることに触発されたというエピソードを披露。「舞台でもフランス革命のリアルな裏側を立ち上げ、現代人に通じるメッセージを送れたら」と意気込み、これを受けた横内も「原作を再現する2.5次元作品を超えた何かが込められる」と賛同した。MIYAVIは「当時の“生きる”ことに渇望する人々のパッションを自分のギターで表現したい」とコメント。劇中における音楽の役割を問われた深沢は「差別されながらもバンバン男性を斬ったマリーのたくましさが音楽の中で描ければ」と述べ、楽曲はロックが中心になるという構想を覗かせた。ここでシャルル役の古屋、アラン・ベルナール役をWキャストで演じる梶裕貴と武田航平、ルイ16世役の太田基裕、アンヌ=マルト役の浅野ゆう子が壇上に呼び込まれ、それぞれが作品に対する思いを語る。古屋は緊張の面持ちながら、主人公を演じる上で「リアルさを追求すると同時に原作の持つ“美しさ”を意識したい」と真摯にアピールした。会見を欠席した中島からは手紙が届き、表紙に惹かれた原作を“全巻買い”し、対談番組で坂本と共演するなど作品との縁を強調。「初めてのミュージカル挑戦で不安も大きく緊張していますが、全力でがんばります」と気合を見せた。映画『NANA』をはじめとする出演作から受ける中島の印象を、宮本は「音楽を通じてドラマを伝えられる方」と評価。「マリーは本当にぴったりのキャスティング」と話し、笑顔を見せた。公演は11月29日(金)から12月10日(火)まで、東京・ヒューリックホール東京にて。6月27日(木)から7月2日(火)まで、オフィシャル先行二次抽選受付中。取材・文:岡山朋代
2019年06月27日