2017年第86回日本音楽コンクールを制した若きピアニスト吉見友貴(ゆうき)。2000年生まれの彼が、十代の集大成ともいえるリサイタルを開く(11月24日(日)・トッパンホール)。【チケット情報はこちら】現時点で決まっている演奏曲は、アルバン・ベルクのソナタOp.1、ベートーヴェンのソナタOp.109、そしてショパンのソナタ第3番Op.58。「最近魅力に気づいた」というのがベートーヴェン。交響曲や弦楽四重奏曲など、ピアノ曲以外も熱心に聴き始めた。「もともと、ベートーヴェンはとっつきにくく感じて、弾くのを避けていました。でも《熱情》を弾く機会があって、初めて深く勉強してみたら、彼の頭の良さ、作曲技法の素晴らしさにびっくり。いい機会だから一気に弾いてしまおうと、今回弾く作品109を含む、後期三大ソナタ(作品109、110、111)に取り組んでいます。最後の傑作3曲を続けて勉強するのは大変ですが、前期・後期とは異なるベートーヴェンの真の世界を深く見ることができたような気がします。もちろん今の年齢で完成できるわけではありませんが、これからもずっと向き合いながら深みを増していきたいと思っているところです」ベルクはそのベートーヴェンよりも約100年若い世代の作曲家。しかし、「作品のイデーは通じる」と言い切る。「並べて聞いてもまったく違う音楽に聞こえるとは思いますが、根本的な作風は似ているんです。それが伝えられるといいのですけど」実はベルクを知ったのは、子供の頃に読んだ『のだめカンタービレ』に登場した、ヴァイオリン協奏曲だったのだそう。なるほど、そういう世代だ。「それまでベルクという作曲家を知らなかったのですが、曲を聴いてみて衝撃を受けました。それがきっかけでピアノ・ソナタも勉強して。無調から、ぱっと調性に変わって解決する瞬間がとても好きです。少し難しい曲かもしれませんが、自分の好きな作品をみなさんに知っていただくチャンスにしたいと思います」そしてやはりピアニストはショパンが大好き。なかでもソナタ第3番は、ずっと憧れの作品だった。「ショパンの全作品の中でも、構築美を最も強く感じます。もちろん感覚的なメロディの美しさもありますが、そのうえで、ソナタとして構造的に美しい、素晴らしい作品なのです」この春に桐朋学園高校を卒業し、現在は大学のソリスト・ディプロマ・コースで研鑽中。最近はソロだけでなく、室内楽にも積極的に取り組んでいる。「室内楽は人と合わせるので、テンポなど、制限のある中で自由に弾かなければなりません。そのおかげで、ソロを弾くときも自分勝手にならず、作品全体を、より鮮明に、細かく、そして大きくとらえられるようになってきました」「ピアノでなく音楽を勉強している気がする」と手応えを語る表情は実に頼もしい。成長・進化の真っ只中。今後もさらに大きく羽ばたき続ける彼の「現在」が聴けるリサイタルを聴き逃すな。取材・文:宮本明
2019年06月28日中島美嘉と古屋敬多(Lead)がW主演を務める『イノサンmusicale』の製作発表が行われ、演出の宮本亜門、脚本の横内謙介、音楽監督・作曲の深沢桂子、楽曲提供のMIYAVIのほか、キャスト5人が登壇した。坂本眞一のマンガ『イノサン』『イノサンRougeルージュ』を原作とするこの舞台。18世紀のフランス革命下で国王ルイ16世らを極刑に処した実在の死刑執行人シャルル=アンリ・サンソンと、その妹マリー=ジョセフ・サンソンの壮絶な生き様が描かれる。宮本は、原作を「マンガを超えたアート」と評する一方で「残虐で生々しく、目を覆いたくなるものまで見せる大変チャレンジ精神の強い作品」と紹介する。オファーを受けるにあたって原作者の坂本と対話を重ね、彼の抱える“現代日本における女性差別への怒り”が中島演じるマリーへ投影されていることに触発されたというエピソードを披露。「舞台でもフランス革命のリアルな裏側を立ち上げ、現代人に通じるメッセージを送れたら」と意気込み、これを受けた横内も「原作を再現する2.5次元作品を超えた何かが込められる」と賛同した。MIYAVIは「当時の“生きる”ことに渇望する人々のパッションを自分のギターで表現したい」とコメント。劇中における音楽の役割を問われた深沢は「差別されながらもバンバン男性を斬ったマリーのたくましさが音楽の中で描ければ」と述べ、楽曲はロックが中心になるという構想を覗かせた。ここでシャルル役の古屋、アラン・ベルナール役をWキャストで演じる梶裕貴と武田航平、ルイ16世役の太田基裕、アンヌ=マルト役の浅野ゆう子が壇上に呼び込まれ、それぞれが作品に対する思いを語る。古屋は緊張の面持ちながら、主人公を演じる上で「リアルさを追求すると同時に原作の持つ“美しさ”を意識したい」と真摯にアピールした。会見を欠席した中島からは手紙が届き、表紙に惹かれた原作を“全巻買い”し、対談番組で坂本と共演するなど作品との縁を強調。「初めてのミュージカル挑戦で不安も大きく緊張していますが、全力でがんばります」と気合を見せた。映画『NANA』をはじめとする出演作から受ける中島の印象を、宮本は「音楽を通じてドラマを伝えられる方」と評価。「マリーは本当にぴったりのキャスティング」と話し、笑顔を見せた。公演は11月29日(金)から12月10日(火)まで、東京・ヒューリックホール東京にて。6月27日(木)から7月2日(火)まで、オフィシャル先行二次抽選受付中。取材・文:岡山朋代
2019年06月27日10月に新制作上演される東京二期会の《蝶々夫人》(プッチーニ)は、ザクセン州立歌劇場(ドレスデン)、デンマーク王立歌劇場との共同制作公演。6月12日都内で開かれた制作発表会に、演出の宮本亜門、衣裳を手がける世界的デザイナー高田賢三らが出席した。【チケット情報はこちら】今回、ヨーロッパの名門ザクセン州立歌劇場でも上演されると聞いて、「身体が震えました」と宮本。演出については、あえて「愛」に集中したいと語る。宮本「オペラの中の蝶々夫人は15歳。やや年上のピンカートンとの、若いふたりの純粋な愛を表現したい。ちょっと照れくさいと思われるかもしれませんが、難しくするよりも、あえて、お客さんが『うわーっ、人間ってなんて美しいんだろう!』と感動するような、国を超えた愛の形を世界中に広めたいと思っています」また、上演のたび、着物や所作など「日本」の描き方に過度に敏感になりがちなのも《蝶々夫人》だ。宮本は「僕たちは日本人だけれど、現代の日本で生きているということを思いながら、新たな視点を入れたい」と意気込みを語った。なお、今回のチラシやポスターのヴィジュアルは、2012年に宮本が《蝶々夫人》の物語と音楽をベースに制作した《マダム・バタフライX》と共通だ。その意図やいかに?一方、高田賢三がオペラ衣裳を手がけるのは1999年のパリ・オペラ座の《魔笛》以来2度目。日本国内では初めて。高田「《蝶々夫人》は僕にとってオペラの原点。見方によってシチュエーションがさまざまに変わるので、難しいし面白い。亜門さんにいろいろな話を聞きながら頑張っています」宮本「第1幕で蝶々夫人は、キリスト教に改宗したことを告げます。(ピンカートンと結婚することで)アメリカ人になりたいということから始まっているので、第2幕からは和服ではなく、むしろ洋服でもいいのではないかと」高田「でも、洋服を作るにしても、当時はやはり着物の生地で作った洋服。今回、染めじゃなくて、全部織りでやってもらっています。伝統的なものを守りつつ、モダンなファンタジーに持っていきたい」この日は、宮本亜門が5月に前立腺がんの手術後の初の公の場への登場とあって、テレビ各局のカメラ・クルーも多数訪れ、会見での元気そうな様子が、多くのワイドショーで放送された。東京二期会の《蝶々夫人》は2019年10月3日(木)から6日(日)まで4公演(東京文化会館)。俊英アンドレア・バッティストーニの指揮。出演はダブル・キャストで、蝶々夫人(ソプラノ)に森谷真理と大村博美、ピンカートン(テノール)に樋口達哉と小原啓楼ほか。東京でのワールド・プレミエののち、2020年に共同制作のドレスデンとコペンハーゲンで上演。さらに、すでにサンフランシスコ・オペラでの上演が決まり、他にも申し込みが来ているという。まさに日本が世界に向けて発信するオペラ・プロダクション。今後の成り行きからも目が離せない。文:宮本明
2019年06月24日仲道郁代が芸術監督として主宰する、その名も「仲道郁代ピアノ・フェスティヴァル」(7月14日(日)・東京芸術劇場)は昨年に続く2回目の開催。今年も、仲道郁代、横山幸雄、菊池洋子、實川風、松田華音、藤田真央と、若手からベテランまで、6人の実力派ピアニストたちが、2台&5台ピアノで超絶技巧の妙技を繰り広げる。このメンバーが一堂に会して5台のピアノを鳴らす、その壮観な様子を想像するだけでもわくわくするではないか。「全員がぴたりと揃うキレと、それぞれが絡み合う時の凄みは、ピアニストでもめったに体験できない新しい感覚のサウンド。去年最初に5台で合わせた時は、鳥肌が立ちました」【チケットの詳細はこちら】普段お目にかかる機会がない5台ピアノの合奏。第一線で活躍するピアニストたちにとっても難物なのだそう。演奏するのは《美しく青きドナウ》や《トルコ行進曲》などおなじみの名曲ばかり。しかし、「せっかくこれだけのメンバーが集まるのだから、みんなが本気を出さないと弾けないような編曲を選びました。だから大変で、去年の出演者のひとりは、これは“参加”じゃなくて“参戦”だと言っていました(笑)。ピアニストが技を掛け合わせたとき、これほどまでにエキサイティングなサウンドが生まれるのか! と私たちも驚いています。この面白さをぜひ“体験”していただきたいです」コンサート前半は2台ピアノ。モーツァルトの《2台ピアノのためのソナタ》を、1楽章ずつふたり×3組が交代で弾いたり、《白鳥》(サン=サーンス)や《だったん人の踊り》などの名曲が並ぶが、こちらもまた、よく知った名曲でピアニストによる個性の違いを楽しめる、というだけではない。「2台ピアノならではの複雑な音の妙技。ピアノの音の華麗さ、色気、色彩を堪能してほしい」ピアノという楽器のポテンシャルは、洗練されたピアニズムを持ち寄って2台、5台で奏でると、いったいどこまで広がるのか。その極みに挑戦するのがこのピアノ・フェスティヴァルの意図だという。ピアニストたちの意地とプライドをかけた本気のエンターテインメントだ。開演前には「ピアニスト・クロストーク」があり、6人全員が舞台に出て、あらかじめ募集した同じ質問に答える。「来ていただいて、つまらなかったとは絶対に言わせない」と自信に満ちた意気込みを語る仲道。間違いなくスペシャルなコンサートになりそうだ。取材・文:宮本明
2019年06月21日ニューヨークを拠点に活躍するジャズ作曲家・挾間美帆。権威のある米国のジャズ誌『ダウンビート』の「未来を担う25人」に、アジア人で唯一選ばれた注目のアーティストだ。この夏、新たに始まる「ネオ・シンフォニック・ジャズ at 芸劇」をプロデュースする。【チケットの詳細はこちら】シンフォニック・ジャズとは、ガーシュウィン《ラプソディ・イン・ブルー》(1924年)を発端とする、クラシック音楽のオーケストラ編成によるジャズのこと。「とにかくオーケストラが好きで、エレクトーンでオケの曲ばかり弾いているような子供だったので、今でも頭の中で最初に鳴るのはオケの音なんです」大学まではクラシックの作曲を学んでいた。「音楽のジャンル分け自体がもはやナンセンス」と、クラシックとジャズを分けて考えることはないが、ジャズの特徴に「即興演奏」があることはポイントとして挙げる。「私も作曲科の学生時代、ジャズは敷居が高いというか、音符が書かれていない音楽への恐怖心がありました。実際には即興は努力とトレーニングのたまものなのですが、当時は、天才たちが、降って来たものをそのまま演奏していると思っていたんですね」だからクラシック奏者のための作品では、基本的に即興を用いないし、今回も、通常のクラシック・オーケストラ編成で演奏できる曲だけを集めた。ガーシュウィン、バーンスタインから、シンフォニック・ジャズの「中興の祖」的な重要作曲家クラウス・オガーマン(1930~2016)とヴィンス・メンドーサ(1961~)。そして挾間自身の新作《ピアノ協奏曲第1番》の世界初演。「初演から90年以上。でもいまだに《ラプソディ・イン・ブルー》ばかりが演奏されて、シンフォニック・ジャズの発展はストップしている。『その次』として残せるような、スタンダードとして末長く楽しんでもらえる作品を作りたい」と意気込む。独奏者にはイスラエル出身の世界No.1ジャズ・ピアニスト、シャイ・マエストロを迎え、ピアノのカデンツァ部分は彼の即興に委ねる。「ゆくゆくはクラシックのピアニストでも弾けるように楽譜を書きますけれども、今回はジャズ・ピアニストとクラシック・オーケストラのバランスをうまくとって作曲したいと思っています」クラウス・オガーマンも彼女の「推し」。この取材の数日後にあった関連レクチャーでは、オガーマンの紹介に多くの時間を割いていた。アントニオ・カルロス・ジョビン、ビル・エヴァンスらとの仕事で知られる名アレンジャーであり、クラシカルな現代作品も手がけた作曲家。挾間いわく「オガーマン、マジ良い!」ジャズやクラシックに限らず、あらゆる音楽ファンに入り口のあるコンサートだと語る「ネオ・シンフォニック・ジャズ at 芸劇」は、8月30日(金)、東京芸術劇場で。原田慶太楼指揮・東京フィルのクールなサウンドで、シンフォニック・ジャズの歴史を浴びる一夜。取材・文:宮本明
2019年06月21日4月に13年ぶり6回目の欧州公演を成功させた日本フィルハーモニー交響楽団。その帰国報告と、今秋から始まる「ベートーヴェン生誕250年」シリーズの発表会見が行なわれた(6月6日・杉並公会堂)。【チケット情報はこちら】4月2日から14日まで、フィンランド、オーストリア、ドイツ、英国をめぐった欧州公演(全10公演)。最初のフィンランド公演には、日本フィルにとっていくつかの大きな意味があった。日本-フィンランド外交関係樹立100周年の今年は、同時に、楽団の創立指揮者で、フィンランドの血を引く渡邉曉雄の生誕100年でもある。その渡邉が日本での紹介に尽力したシベリウス作品を、日本フィルとして初めて、作曲家の母国で演奏したのだ。そして現首席指揮者ピエタリ・インキネンもフィンランド出身。首都ヘルシンキだけでなく、彼の生地コウヴォラでも公演を行なった。「日本フィルにとっても私自身にとっても、意味のある大きな節目。私が日本フィルと過ごしたなかで、最も集中し、最も密度の高い2週間だった。連日ハード・スケジュールで移動と演奏を重ねたことも、チームとしての結びつきを高め、オーケストラとして大きく成長したと思う」(インキネン/以下同)その成長の証がたとえば帰国後の4月の東京定期演奏会だった。欧州公演の演目で組んだ帰国報告プログラムだったが、インキネンは、知り尽くしたサントリーホールで、それまで日本フィルで経験したことのない響きを実感したという。「メンバー全員サプライズだった。サントリーホールは変わっていない。変わったのは私たちの響きなのだから」その経験と成長を土台に臨む「ベートーヴェン生誕250年」シリーズ。2019年10月から足かけ3年、全9回(10公演)にわたって、9曲の全交響曲と、ピアノ協奏曲4曲(3番を除く)、ヴァイオリン協奏曲、《エグモント》序曲を演奏する。しかもユニークなのは、ベートーヴェンだけでなく、ドヴォルザークのレアな序曲を組み合わせたり、さらにはメイン・プロ自体が、ドヴォルザークやブルックナー、R・シュトラウスだったりする回もあること。発想が自由だ。「そのほうが面白いと思ったから。私自身も楽しみ」インキネンは日本フィルに特有のDNAを「明るく繊細な響き」と定義づけ、「日本フィルとは、これから初めて一緒にベートーヴェンを体験するが、そのDNAは変わらない。そこに、ツアーで得た互いの信頼が生きて、怖れを知らない、エネルギーに満ちた方向に向かうだろう」とヴィジョンを語った。そして最後にインキネンは、「まだ《運命》を聴いたことのない、新しい世代の聴衆のためにも演奏しなければならない」と力を込めた。飾らない発言に漂う、新鮮なベートーヴェンの予感。われわれ聴き手も「知っているつもり」になってはいけない。もう一度襟を正して、インキネンと日本フィルのベートーヴェンに向き合ってみよう。取材・文:宮本明
2019年06月20日主演に池松壮亮、ヒロインに蒼井優を迎え、熱血営業マン・宮本浩の七転八倒を描いた伝説の漫画を映画化する『宮本から君へ』。この度、初映像となる特報映像が解禁となった。連続ドラマからの柄本時生や星田英利、古舘寛治、松山ケンイチなどに加え、井浦新、佐藤二朗ら、真利子哲也監督が「この映画の顔ぶれに微塵も悔いはありません」と語る、ひと癖もふた癖もある役者陣が集結した本作。映画では、原作の後半をベースに、池松さん演じる“宮本浩”と蒼井さん演じる“中野靖子”の前に立ちはだかる“究極の愛の試練”を二人が克服していく姿が描かれる。今回解禁となった特報では、人生負けっぱなしの男・宮本(池松壮亮)が靖子(蒼井優)に、「二人で結婚しよう! けっこん! けっこん!」と迫り、激しい剣幕で「やかましいっ!」と一喝する靖子とのやりとりから始まり、感情を激しくぶつけ合う姿が。“情熱だけは半端ない”宮本は、靖子の心に棲みつく元恋人・裕二(井浦新)からの発言に衝撃をうけながら、靖子から強烈なビンタをくらっても、靖子へまっすぐな思いを向け続ける。映像には、真淵拓馬(一之瀬ワタル)の姿も!何度でも、何度でも、立ち向かっていく宮本の情熱がそのまま焼き付いた激アツの特報は、作品同様に熱量MAX!熱血営業マン・宮本浩が“絶対に勝たなきゃいけないケンカ”に挑む!宮本の暑苦しくも切ない生き様が、すでに溢れる映像となっている。『宮本から君へ』は9月27日(金)より全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:宮本から君へ 2019年秋、全国にて公開予定Ⓒ2019「宮本から君へ」製作委員会
2019年06月18日6月、R・シュトラウス《サロメ》を高いレベルで上演して好評のうちに2018/19シーズンを終えた東京二期会だが、早くも2シーズン先、2020/21シーズンの主催公演ラインアップが決まっており、5月末に発表会見が開かれた。【チケット情報はこちら】まず2020年9月、シーズン開幕を飾るのは、この年が生誕250年のメモリアル・イヤーであるベートーヴェンの唯一のオペラ《フィデリオ》(新国立劇場オペラパレス)。二期会初登場となるダン・エッティンガーの指揮、これが3度目の登場の深作健太の演出。2020年11月の日生劇場でのレハールのオペレッタ《メリー・ウィドー》はフレッシュな顔ぶれで。指揮は、昨年の第18回東京国際音楽コンクールで女性初の優勝者となった期待の若手・沖澤のどか。演出の眞鍋卓嗣は劇団俳優座の所属。自身のバンドでメジャー・デビューの経験もあるというミュージシャン出身で、オペラ演出では、オペラシアターこんにゃく座の《オペラ・クラブ・マクベス》(林光)や《遠野物語》(吉川和夫、萩京子、寺嶋陸也共作)などを手がけている。歌詞も台詞もすべて日本語での上演。年が明けて2021年2月には、フランスのラン歌劇場との提携によるワーグナー《タンホイザー》。指揮はライン・ドイツ・オペラ音楽総監督のアクセル・コーバー。バイロイト音楽祭にも5年連続で出演するドイツ本流の指揮者で、これが日本デビュー。演出は、新国立劇場の「トーキョー・リング」で日本のファンにもおなじみのキース・ウォーナー。本人も来日して直接稽古をつける。2021年5月には、バロック・オペラ・シリーズとして定着した『二期会ニューウェーヴ・オペラ劇場』でヘンデルのオペラを取り上げる。演目は調整中だが、指揮は2015年の『ジュリオ・チェーザレ』、2018年の『アルチーナ』(ともにヘンデル)に続き鈴木秀美。管弦楽も引き続き特別編成のピリオド楽器オーケストラ「ニューウェーブ・バロック・オーケストラ・トウキョウ」。そして2021年7月には、ヴェルディ最後のオペラ《ファルスタッフ》がシーズンの掉尾を飾る。二期会では2001年以来の上演演目。ベルトラン・ド・ビリー指揮、ロラン・ペリー演出。テアトロ・レアル(マドリード)、ベルギー王立モネ劇場、フランス国立ボルドー歌劇場との共同制作公演で、すでにマドリードでは今年4月にプレミエ公演を終えており(ダニエル・ルスティオーニ指揮)、ブリュッセル、ボルドー初演を経て、最後を飾る東京での初演には演出家も来日予定。以上5演目はすべて新制作。出演歌手については後日発表予定。なお会見では、東京二期会の新たなロゴマークも発表された。漢数字の「二」をモティーフに、歌う口の形のようにも、劇場の舞台のようにも見えるシンプルで多義的なデザインは、なんと所属会員から公募したものというから驚き!ホームページなど、すでにこのロゴに切り替わっている。取材・文:宮本明
2019年06月14日櫻井和寿、宮本浩次、Salyu、青葉市子が、アート・音楽・食の総合芸術祭『Reborn-Art Festival 2019』のオープニングを飾る音楽イベント「転がる、詩」に出演することが5日、明らかになった。『Reborn-Art Festival 2019』は、8月3日~9月29日の58日間、宮城県の牡鹿半島・石巻市街地を中心にアート・音楽・食の「総合祭」として開催される。そして「転がる、詩」は、8月3日、4日に宮城・石巻市総合体育館で開催される。バンドメンバーには、小林武史(keyboards)・名越由貴夫(guitar)・TOKIE(bass)・椎野恭一(drums)・四家卯大(cello)・沖祥子(violin)が参加する。また、5日の17時より、各プレイガイドでチケットの先行受付が開始されている。
2019年06月05日注目のオペラ公演が6月5日(水)に初日を迎える。東京二期会オペラ劇場のリヒャルト・シュトラウス《サロメ》。直前の舞台稽古を見た。この《サロメ》は1995年にハンブルク州立歌劇場で制作された、鬼才ウィリー・デッカー演出によるプロダクションで、5月下旬からデッカー自身が来日して稽古をつけている。【チケット情報はこちら】幕が開くと、舞台の間口いっぱいに巨大な階段がそびえる。中央に空いた暗い裂け目が、ヨカナーンの囚われている古井戸だ。30数段はある大階段を、歌手たちは上下左右に激しく動き回り、ときにストップモーションのように静止する。ドラマの流れを演者の動きにタイトにリンクさせて表現するのは、デッカー得意の演出手法だ。その階段や衣装はほぼ白とグレーで統一され、剣やヨカナーンの首が乗せられる銀の皿も含めモノトーンの世界。サロメはじめ登場人物の多くがスキンヘッドなのもインパクト大だ(ただし、サロメ以外はおおむね帽子や王冠などを被って隠している)。この日の稽古は6月5日(水)&8日(土)の出演歌手たちによるもの。序曲なしで始まる冒頭、いきなり歌い出すナラボート(大槻孝志)の力強い声や、古井戸から聞こえるヨカナーン(大沼徹)の朗々とした響きに、すでに好調な舞台の予感が漂う。そしてその期待を裏切らない圧巻の存在感を示すのが、いま最も勢いのあるソプラノのひとりである主役サロメの森谷真里だ。彼女にとってこれが初役。広い音域で強靭な声が求められる難役を見事に演じきっていた。ヘロデの今尾滋とヘロディアスの池田香織も、知的なアプローチを聴かせる。そして新常任指揮者セバスティアン・ヴァイグレ率いる読売日本交響楽団が特筆もの。フランクフルト歌劇場の音楽総監督でもあるヴァイグレが、リヒャルト・シュトラウスの大編成で濃厚なオーケストレーションを、力強く、また官能的に響かせる。オペラ指揮者としての本領発揮といった風情で、音楽の色彩が舞台のモノトーンと対照をなして映える。演出と指揮、歌手、オーケストラがぴったりと噛み合った充実の舞台。実にかっこいい、見ごたえ十分のリヒャルト・シュトラウスだった。東京二期会の《サロメ》は6月5日(水)、6日(木)、8日(土)、9日(日)。上野の東京文化会館で(初日のみ18時30分開演、ほかは14時開演)。(オペラ《サロメ》あらすじ)紀元30年頃のイェルサレムの宮殿。古井戸に幽閉されているヨカナーン(洗礼者ヨハネ)は救世主(つまりイエス)の到来を予言している。その声に魅了された王女サロメは彼を誘惑するが拒絶され、その欲望は徐々に狂気を帯びる。義父のヘロデ王を官能的な踊りで誘惑してヨカナーンの生首を手に入れたサロメは、それを愛撫し口づけをする。その姿を恐れたヘロデ王は兵士たちに娘の処刑を命じる。取材・文:宮本明
2019年06月05日1498年創立。500年以上の歴史を誇るウィーン少年合唱団が今年も、4月から6月の約1か月半にわたって東北から九州まで日本全国をめぐる。ツアー初日を前に、4月26日東京・赤坂のサントリーホールブルーローズにて来日会見が開かれた。今年は日本オーストリア国交樹立150年の記念年であり、日本をよく知る彼らにとっては元号が令和に変わった節目のタイミングであることも大きな意味を持つ。プログラムには、おなじみのクラシックの名曲やウィーンの歌、ミュージカル・ナンバーなどとともに、合唱団芸術監督のゲラルト・ヴィルト作曲による両国友好150年の記念曲《内なる平和》や、皇室にちなんだ《歌声の響》《ねむの木の子守歌》も含まれている。会見後、メンバーの3人、ヤコブ君(12歳)、ネイサン君(13歳)、ティモ君(13歳)に、プログラムの中で1番好きな曲を尋ねると、ヤコブ君はバンキエーリの《カプリッチアータ》。ネイサン君は「全部。すべての曲が生き生きしている」と優等生の答え。ティモ君は、ネタバレになるので控えるがアンコール曲の名を挙げた。逆に難しい曲はあるかと聞いたところ、全員が口を揃えて「日本の曲!」と答えた。やはり日本語の発音は難題のようだ。10歳から14歳まで約100人のウィーン少年合唱団の団員たちはふだん、ウィーン市内のアウガルテン宮殿で、「ハイドン」「モーツァルト」「シューベルト」「ブルックナー」の4つのグループに分かれて全寮制で生活・活動しており、今回来日したのは「ブルックナー組」の26人。彼らを率いるイタリア人カペルマイスター(楽長)のマノロ・カニンは会見で、グループの特徴を問われ、「サッカーが上手いこと」と軽くはぐらかしたが、ヴィルト芸術監督によれば、「各組のカペルマイスターの個性によって、音楽の解釈も練習の仕方も異なる。当然グループごとに特徴が出てくるが、それは『ウィーン少年合唱団』という統一された特徴の中のニュアンスのようなもの」ということだそう。ちなみに芸術監督は、目をつぶって聴いても各組の名前を言い当てられるというが、私たちにもそれが可能かと聞くと、「理想的には、不可能であってほしいですね」と笑った。あくまでも「全体でひとつ」なのだ。「500年の伝統」と聞くと、私たちはつい、脈々と伝わる門外不出の演奏の秘法みたいなものの存在を求めてしまう。音楽の解釈、発声、発音……。でも、ヴィルト監督は「大切なのはそんなことではない」と少しだけ語気を強めた。「国籍や宗教、各自の家庭環境などを超えて子供たちが集まり、500年の間にその輪が世界規模になった。これこそが供たちの人生にとって大事なこと。生活をともにして音楽を作り上げ、生涯続く友情を培うのです」なるほど。その多様性こそが伝統というわけ。まさにダイバーシティ。彼らは、音楽をも超えた、理想の地球の縮図なのかもしれない。取材・文:宮本明
2019年05月17日5月14日、読売日本交響楽団の第588回定期演奏会(サントリーホール)は、今年4月に第10代常任指揮者に就任したセバスティアン・ヴァイグレの披露演奏会として行なわれた。【チケット情報はこちら】令和とともに始まるオーケストラの新しい時代の幕開けを見届けようと集まった聴衆たちがかたずを飲んで見守るなか、ヴァイグレが登場すると、歓迎の意を示すように、ひときわ大きな拍手が湧き起こる。曲目は現代作曲家ハンス・ヴェルナー・ヘンツェの《7つのボレロ》とブルックナーの交響曲第9番という、がっつりドイツ音楽プログラム。そして音楽の振り幅の大きさを示す2曲だ。前半のヘンツェはいきなり、打楽器を含むオーケストラの全奏が咆哮する。オーケストラを気持ちよく鳴らしきって、まずは挨拶代わりの切れ味を印象づけるヴァイグレ。一転、後半のブルックナーでは深い息づかいの歌を丁寧に引き出した。消え入るように全曲が終わったあともホール全体が動けない。長い静寂の持続は、客席が指揮者と緊張感を共有していた証しだろう。その「魔法」が解けた瞬間に大きな喝采がホールを包んだ。感動的な船出だ。ヴァイグレは1961年ベルリン生まれ。ベルリン国立歌劇場の首席ホルン奏者を経て指揮者に転身。2008年からフランクフルト歌劇場音楽総監督を務めるなど、これまでのキャリアでは劇場での活躍が目立つ、現代を代表する名匠のひとり。終演後、ホール・ホワイエで報道陣を招いて行なわれた懇親会で、ヴァイグレは次のように語った。「素晴らしいオーケストラ・聴衆とともに、新しいスタートを切ることができた。常任指揮者として最初のコンサートはもちろん特別なものだけれども、私にとっては、これまで(客演した)読響とのすべての共演が素晴らしい特別な公演だった。だからこそ、読響からの常任指揮者のオファーを即答で快諾した。(ゲストから常任指揮者へ肩書きが変わっても)自分の仕事は変わらない。これまでオペラをたくさん振ってきて、そろそろシンフォニーも充実させたいと願っていたところ。さまざまなアイディアをオーケストラとともにひろげたい。それを実現するためのこのうえないパートナーを得ることができた」読響とはこのあと、5月中に2プログラム(4公演)を指揮。6月には二期会のR.シュトラウス《サロメ》で、ともにオーケストラ・ピットに入る(演出:ウィリー・デッカー、サロメ役:森谷真里/田崎尚美)。昨年の《ばらの騎士》に続いて、シュトラウスの濃厚なオーケストラ・サウンドが公演を支える。オペラ指揮者としての本領発揮だ。そのあとは9月、そして来年3月に読響に帰ってくる。就任初シーズンは、いずれもモーツァルト、ベートーヴェンから、R.シュトラウスに至るドイツ音楽を徹底的に聴かせる、「ドイツの名匠の自己紹介」といった趣きのプログラムを組んだ。新たなチャプターに突入した読響に大きな注目が集まる。取材・文:宮本明
2019年05月17日池松壮亮が主演、蒼井優がヒロインを務める映画『宮本から君へ』の新キャストが発表された。映画では原作の漫画の後半をベースに、池松さん演じる宮本浩と、蒼井さん演じる中野靖子の前に立ちはだかる「究極の愛の試練」を克服していく姿が描かれる。そんな2人の関係をつなぐ重要なキャラクター、風間裕二役を、今年は『こはく』『嵐電』と2本の主演作が控える井浦新。裕二は、どうしようもない遊び人で、靖子の心に棲みつく元恋人だ。井浦さんは「撮影時、この作品が放つ生命感溢れる熱量に吹き飛ばされまいと、全身全霊で現場にしがみついていた。その中心で熱苦しいほどのエネルギーを生み出している池松君と蒼井さんのぶつかり合いは、正に鬼神の如く、その凄まじさを余すことなく味わえたことが、大きな喜びでした」と撮影をふり返り、「関わったシーンでの撮影では毎回がクライマックス、しかし初号を観たら始まりから終わりまで全編がクライマックスに漲っていた。なんてべらぼうな映画だ」と絶賛している。また、本作では“高層マンションの階段での決闘シーン”も描かれる。その注目のシーンで、宮本が立ち向かう怪物・真淵拓馬を演じるのは、元格闘家の一ノ瀬ワタル。ラグビー部に所属する巨漢にして怪力の持ち主で、紳士的な表と欲望に忠実な裏の2つの顔をもつ役どころだ。今回一ノ瀬さんは、体重を33kg増量し、撮影に挑んだそう。「僕が原作に出会った直後にこの役をやれるチャンスを頂き運命的なものを感じました。真淵拓馬は絶対に自分にしか出来ないという自信と強い想いがあります。この作品を撮り終わったら死んでも良いと覚悟して挑んだ作品です」と力強く語っている。さらに、真淵拓馬の父で宮本の得意先の部長・真淵敬三をピエール瀧。真淵敬三の親友・大野平八郎を佐藤二朗が演じることも発表された。原作漫画の大ファンであることから出演を即決したという佐藤さんは「僕が新井英樹作品を大好きな理由の1つが、何かを引きかえに描いてるとしか思えない、壮絶で豊饒なキャラクターたちだ。今回、そのキャラクターの1人を演じられることに悦びと畏れを感じつつ、皆で渾身の思いで拵えた作品です」と出演できたことへの喜びを語っている。なお、本作の製作委員会は“映画「宮本から君へ」の公開に際してのお知らせ”と題して、ピエール瀧の出演に関して説明する文書も発表した。以下、発表文書本作品には、麻薬取締法違反容疑で逮捕、同法違反罪で起訴されたピエール瀧氏が本作に出演をしております。尚、本作品の撮影は昨年9月29日~10月30日の期間に完了しております。事件発覚後、映画「宮本から君へ」製作委員会は幾度となく協議を重ねてまいりました。その結果、ピエール瀧氏は、今後も法律に従って裁定が下されることになり、それ以上の措置について、本作品が関与するものではないという結論に至り、製作委員会の総意として、本作品の改編・追加撮影を行わないまま、劇場公開することと致しました。議論を経ての結論であることをご理解頂ければ幸いに存じます。引き続きのご支援・ご鞭撻をお願い申し上げます。『宮本から君へ』は今秋、全国にて公開予定。(cinemacafe.net)■関連作品:宮本から君へ 2019年秋、全国にて公開予定Ⓒ2019「宮本から君へ」製作委員会
2019年05月16日俳優・池松壮亮が主演を務める映画『宮本から君へ』(今秋公開)の追加キャストが16日、明らかになった。同作は1990 年から1994年まで講談社「モーニング」にて連載され、1992年に第38回小学館漫画賞青年一般部門を受賞した新井英樹のコミックを実写化。文具メーカー「マルキタ」の新人社員、恋にも仕事にも不器用な宮本浩(池松)の物語を描く。2018年4月にテレビ東京で連続ドラマとして放送され、第56回ギャラクシー賞テレビ部門「奨励賞」を受賞するなど大きな反響を呼んだ。この2人の関係をつなぐ重要キャラクター・風間裕二を井浦新が演じる。どうしようもない遊び人だが、靖子の心に棲みつく元恋人で、宮本と靖子の間で、奔放に振る舞いながらも2人の距離を近づけていく大切な役割を担っている。井浦は「撮影時、この作品が放つ生命感溢れる熱量に吹き飛ばされまいと、全身全霊で現場にしがみついていた。その中心で熱苦しいほどのエネルギーを生み出している池松君と蒼井さんのぶつかり合いは、 正に鬼神の如く、その凄まじさを余すことなく味わえたことが、大きな喜びでした。関わったシーンでの撮影では毎回がクライマッ クス、しかし初号を観たら始まりから終わりまで全編がクライマックスに漲っていた。なんてべらぼうな映画だ」とコメントした。同作では、原作が支持される一因ともなっている“高層マンションの階段での決闘シーン”も描かれるが、その決闘シーンで、宮本が立ち向かう怪物・真淵拓馬を一ノ瀬ワタルが演じる。ラグビー部に所属する巨漢にして怪力の持ち主で、紳士的な表と、欲望に忠実な裏の2つの顔をもつ難しい役柄となった。体重を33kg 増量し「絶対に勝てそうにない体」を作り上げた一ノ瀬はは「映画『宮本から君へ』がいよいよ公開します。僕が原作に出会った直後にこの役をやれるチャンスを頂き運命的なものを感じました。真淵拓馬は絶対に自分にしか出来ないという自信と強い想いがあります。より拓馬に近付く為2カ月間で 30kg以上の増量もしました。この作品を撮り終わったら死んでも良いと覚悟して挑んだ作品です。ありったけの魂を込めました。この映画、観てください!!!!!!!!」と気合を表した。また真淵拓馬の父で、宮本の得意先の部長である真淵敬三をピエール瀧被告が演じている。麻薬取締法違反容疑で逮捕・起訴された瀧だが、撮影は昨年の9月〜10月に行われており、製作委員会は議論の上、劇場公開を決定したという。また、真淵敬三の親友・大野平八郎は佐藤二朗が演じた。○真利子哲也監督 コメントついに実写化の舵が切られ、分厚くて重たい定本を握りしめ、ボロボロになるまで読み込み書き込み、かなり手強いこの原作をどうやったら映画にできるか、み んなで真剣に向き合いました。やがて一癖も二癖もある役者たちが集まってきて、現場はより一層の執念と活気で溢れました。 今、このタイミングにしか映画にできない自負がありました。ここで失敗したらもう誰も映像化できないという勝手な責任感もあり ました。宮本に負けず劣らず、這いつくばって完成させた映画をでっかいスクリーンで観たときの、理屈抜きで気持ちが開放され たあの感触。子供に返ったみたいに老いも若きも男も女も、みんな一緒になって朝まで語らって歌ってました。この映画の顔ぶれ に微塵も悔いはありません。○製作委員会 コメント本作品には、麻薬取締法違反容疑で逮捕、同法違反罪で起訴されたピエール瀧氏が本作に出演をしております。尚、本作品の撮影は昨年9月29日~10月30日の期間に完了しております。事件発覚後、映画『宮本から君へ』製作委員会は幾度となく協議を重ねてまいりました。その結果、ピエール瀧氏は、今後も法律に従って裁定が下されることになり、それ以上の措置について、本作品が関与するものではないという結論に至り、製作委員会の総意として、本作品の改編・追加撮影を行わないまま、劇場公開することと致しました。議論を経ての結論であることをご理解頂ければ幸いに存じます。引き続きのご支援・ご鞭撻をお願い申し上げます。
2019年05月16日人気ピアニスト三舩優子がデビュー30周年を迎えている。シャープなタッチから繰り出される色彩に富んだ華やかな表現が魅力。6月2日(日)に東京・富ヶ谷のHakuju Hallで開く記念リサイタルはオール・リスト・プログラム。《巡礼の年~第1年:スイス》と《巡礼の年~第2年:イタリア》の全曲を弾く。【チケット情報はこちら】《巡礼の年》は4集まであり、《第1年:スイス》と《第2年:イタリア》は、20代のリストが恋人マリー・ダグー伯爵夫人とともに訪れた旅の印象を書き留めた作品。若いリストらしい技巧的なピアニズムと、文学や絵画から多くのインスピレーションを受けて表現しているのが特徴。三舩は1994年のCDデビューにも《イタリア》を選んでいた。「大学の卒業試験も《イタリア》の終曲の〈ダンテを読んで〉でしたから、デビュー盤もあまり迷わず《イタリア》に決めました。リストのピアノ曲というとやはり、『技巧的』という言葉が第1に出てきますが、私はむしろ叙情的というか、激しさと静けさの対比みたいなところに非常に魅力を感じていました。どっしりした構築の中に繊細なものがたくさん詰まっていて、それらをひとつひとつひも解いていく楽しみがあります。彼の音楽の流れにも気持ちを乗せやすく、自分の手にも1番しっくりくる感覚もあります」技巧より表現。その感じ方は、より深化している。「それでも若い頃はやはり、いかに速く弾けるか、いかに間違いなく弾けるか、ということに捉われていましたけれども、今はもっと物語を語りたいというか、“音を弾く”ということからすごく離れることができるようになってきたように思います」リストとの出会いは、ニューヨークで暮らしていた小学生時代にさかのぼる。父親に連れられて出かけたカーネギーホールで、当時ようやく西側での演奏活動を開始したラザール・ベルマンの演奏を聴いて鮮烈な印象を受けた。強靭なタッチで知られる20世紀のロシアの巨匠のひとりだ。「とにかく深い音。直接的な音というよりは、うゎーんという全体的な響きが新鮮でした」。そんな、音に「耳をすます」という聴き方は、正式にピアノを習い始めるよりも前に、音を探りながら自分ひとりで弾いていた幼い日からの、ピアノとの向き合い方のようだ。ずっと変わらない原点。だから表面的な技巧の華やかさではなく、その音の導く、奥底の「表現」を自然に捉え、そこに寄り添おうとするのだろう。6月のリサイタルには作家の神津カンナがゲスト出演する。「お父様の神津善行先生の音楽会に出演させていただくようになって以来、10数年間、家族ぐるみのお付き合いです」。演奏の合間にふたりの対談を交え、また、リストの作品の源流となった詩を神津の訳で朗読するコラボレーションも。「とにかく博識で楽しい方なので、うかがいたいことがたくさん。長くなりすぎないように気をつけます(笑)」。30周年に花を添えるプレゼントといったところ。あたたかな音楽会になりそうだ。取材・文:宮本明
2019年04月22日映画の話になると、会話が止まらなくなる役者家族。家族の危機を救うのも映画だった。柄本明さん(70)がロケで家を空けることが多かった時期、長男の佑さん(32)が中学2年生で反抗期になり、妻の故・角替和枝さん(享年64)が手を焼いた。しかし、オーディションに受かって初主演した佑はロケの厳しさで“更生”して帰ってきたのだ。その後、次男の時生(29)も後を追って俳優に。年間500本の映画を見る長女は映画製作スタッフに。「子どもには興味ない」といいながら、父は映画の力を信じて子どもを育ててきた――。ドキュメンタリー映画『柄本家のゴドー』(4月20日、東京・渋谷ユーロスペースにて公開)。カメラは’17年1月、下北沢・ザ・スズナリで上演された舞台『ゴドーを待ちながら』の稽古初日から上演直前までを淡々と追う。演じるのは柄本明さんの長男・佑さんと次男・時生さんの兄弟で組むユニットET×2。明さんが演出を務める。『ゴドーを待ちながら』は、アイルランド出身の劇作家、サミュエル・ベケットによる有名な戯曲だ。2人の老人(佑さん演じるウラジミール、時生さん演じるエストラゴン)が、ゴドーという人物をひたすら待ちながら、とりとめのない会話を繰り返す。「退屈」「難解だ」などといわれる一方で、不条理演劇の傑作として演劇史にその名を残すこの作品は、多くの劇作家、俳優たちに強い影響を与えてきた。初演は’53年、パリ。日本では’60年に文学座で初上演され、明さんも’00年、石橋蓮司さんと組んで、エストラゴンを演じている。その舞台を当時13歳の佑さんが見ていた。ET×2でこの作品を初めて演じたのは、兄弟そろって人気俳優に成長した’14年のことだ。父に演出を依頼した理由を、佑さんは映画のなかで、こう話していた。「初めて2人で演じたとき、一生、時生と2人で付き合っていける戯曲と出合ったなという手応えを感じていて。だからこそ、早いうちに親父の演出でやってみたいなっていうのがあった」明さんは、家族のことを話すのが照れくさい。《世間的にみっともないよね。僕の演出で彼らが演じるってことだけでも》(映画『柄本家のゴドー』より)そんな明さんに代わって、『柄本家のゴドー』を監督・撮影した山崎裕さんが補足する。「映画の撮影中も、よく、下北沢の喫茶店で、家族でお茶を飲んでいました。もちろん角替さんも一緒です。そんなときは仲のいい親子です。ところが、いざ芝居となると、柄本さんは一線を引く。“芝居の鬼”になるんです」“芝居の鬼”の厳しさは、東京乾電池の女優でもあった角替さんにも向けられた。昨年2月、「座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル」でのインタビューで、佑さんは、こんなエピソードを披露している。「(乾電池の公演後)親父の顔が、目が、怖くなっているんです。母ちゃんは『怒られるぅ』って、顔が青くなっているし。それで、俺は、(自宅に)親父と2人だけの密室を作らないように、母ちゃんから人質に取られたんです。『一緒にいて』って(笑)」時生さんの思い出話も面白い。「幼いころは、学校から僕が悪いことをしたという内容の文章を受け取ると、親父が読み上げるんです。そして、それを急に渡されたと思ったら、2~3時間、声に出して読まされた。陰湿なんです」叱るというより、まるでセリフの練習ではないか。日常生活のなかで、兄弟は知らず知らずのうちに芝居の稽古をしていたようだ。明さんとて無意識だったことだろう。とはいえ、明さんは放任ではなく、むしろ繊細に、息子たちの成長を見守っている。「佑も時生も学芸会に積極的に出るタイプではないね。でも、下のガキは、一度、ジャンケンか何かで演出になっちゃって。学芸会に行って、見ましたね。パソコンのトラブルか何かで、たしか原稿がおかしくなった。それで手伝わなきゃいけなくなった」原稿直しだけで終わらず、舞台を見に行くところが、明さんだ。息子2人が俳優になったことについてはこう語る。「長男が中学のときに、事務所マネージャーがオーディションに出したいということで、出したら通っちゃった。下のガキもそんなことです。『お父さん、俳優になりたいんだけど……』なんてあらたまった話はなかったです、うちはね。ダラダラ、ダラダラと」それでも、子育てをするなかで、映画の仕事をしていてよかったという思いもある。佑さんがオーディションに通ったときのことだった。「佑は中2で、反抗期だったんです。俺も長期ロケで、家を空けることが多く、カミさんが手を焼いていた時期でした。で、夏休みの2カ月間、『美しい夏キリシマ』(’03年)の主役の少年役で、映画の現場に放り込んだんです。映画の世界は縦社会。周りは大人ばっかりでしょ。寂しくて、ひとりの部屋で泣いて電話をかけてきたりした」明さんは心配になって、撮影現場まで様子を見に行っている。「みっともない親でね。監督に迷惑かけましたけどね。(故・原田)芳雄さん、石橋蓮司さん、僕が尊敬する先輩がいるなかで『佑、佑』と呼ばれて、もまれてね。すっかりいい子になって戻ってきました」他人のなかに入る。社会人の枠のなかで生きていく。映画の現場での経験が、佑さんを大きく成長させ、“家族の危機”を救った。「その流れで、時生にもオーディションを受けさせて。うちは皆、姉ちゃんもそうだけど、映画というもの、映画館、撮影現場、それら映画に関する何かに触れて、学んでいって、反抗期を免れたって感じかなぁ。なんですかね、その『映画の力』というものは」
2019年04月22日ステージ2の前立腺がんを患っていることを公表した演出家の宮本亜門氏(61)が12日、自身がプロデュースする「Hibiya Festival」オープニングショー(4月26日・27日)の稽古前に囲み取材に応じ、演出家としての思いを改めて語った。宮本氏は「自分に自信がない男で、自分こそ生きる価値がないと思って自殺するべきだと思っていたくらい自信がなくて」と打ち明けた上で、「演出家になって、みなさんが喜んでくれたり、感動したと言ってくれると、『ああ、俺は生きている価値があるんだ』ってやってきた30年間があった」と演出家になって生きている価値を感じられたと告白。だからこそ「今ここで終わらせたくないという思いがあります」と語った。また、2年前に受けた検査の結果でPSAの数値が高く、「もしかしたら前立腺のがんなどの可能性もあります」と書かれていたことを告白。だが、緊急を要するものではないと思い、「稽古の始まりのほうで中断したら舞台が上演されなくなるんじゃないか」と舞台のほうが心配だったという。「3年先まであって、いつも演出のことを考えていて、病院に行く時間は僕にはないと思っていた」と話した。がんと診断されてからも演出家として大忙しの宮本氏だが、「全然大丈夫」ときっぱり。「みなさんに救われて演出家をさせていもらってきたなとわかったので、その恩返しをますますしないといけない」と言い、「でも検査はちゃんと受けます」とにっこり。さらに、「人生二度なし。こんな幸せな国に生まれて、僕みたいなものが演出家になれて、人が喜んでくれるなんて、こんな幸せない。死ぬ瞬間まで演出をしたい」と演出家としての強い思いを語った。宮本氏は、TBS系『名医のTHE太鼓判!』で受診した人間ドックで前立腺がんが発覚した。番組では、前立腺の全摘出手術を受けることに合意、5月下旬を予定しているが、会見では、セカンドオピニオンを検討していることを明かした。
2019年04月12日15回の節目を迎える「フェスタサマーミューザKAWASAKI」。7月27日(土)から8月12日(月・祝)まで、ミューザ川崎シンフォニーホールを主会場に全20公演が行われる。キャッチフレーズは「15年目の熱狂へ!」。3月27日、ミューザ川崎内で発表記者会見が開かれた。【チケット情報はこちら】今年変化があったのは、首都圏のオーケストラが一堂に会するフェスティバルとして始まった「サマーミューザ」に、今年は首都圏外から初めて、仙台フィルハーモニーが出演すること。また、一昨年に続いて札幌からPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)オーケストラが特別参加するなど規模を拡大。「日本のオーケストラの祭典」へとグレードアップしつつある。各オーケストラの特色を最大限に発揮してもらおうと、音楽祭全体に特定のテーマを設けないのはいつもどおりだが、ちょっとした色分けはあって、お得なセット券はその色で括られている。平日夜セットの3公演は各オーケストラの定期会員も満足できる、正統派クラシック音楽プログラム。7月29日(月)アラン・ギルバート&都響によるレスピーギの《ローマの噴水》《ローマの松》などイタリア・プログラム。7月31日(水)ザ・クラシック・オブ・クラシック!井上道義と読響のブルックナー8番。8月6日(火)カリスマ人気チェロ奏者ジョヴァンニ・ソッリマがソロを弾くシティ・フィルのドヴォルザークのチェロ協奏曲。いっぽう平日昼セットの2公演は、気軽に楽しめるファミリーやシニア層を意図したプログラム。7月30日(火)スーパー・ギタリスト渡辺香津美が名曲《アランフェス協奏曲》を弾く神奈川フィル。8月7日(水)79歳の「炎のコバケン」小林研一郎が20歳の天才・藤田真央と築き上げる壮大なチャイコフスキー:ピアノ協奏曲。また、休日の公演にロシア音楽がさりげなく多めなのは、今年の隠し味だ。7月28日(日)上岡敏之&新日本フィルのラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番(ピアノ小川典子)、プロコフィエフ《ロメオとジュリエット》。8月4日(日)満を持して乗り込む高関健&仙台フィルによるチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン郷古廉)と交響曲第4番。8月11日(日)ダン・エッティンガー&東京フィルのチャイコフスキー:交響曲第6番《悲愴》。8月12日(月・祝)フィナーレを飾る尾高忠明&東響のショスタコーヴィチ:交響曲第5番《革命》。コンサートによって、公開リハーサルやプレトーク、開演前のロビー・コンサートなどがあるので、ぜひ併せて楽しみたいもの。そして期間中は近隣の店舗と提携したさまざまな来場者サービスも用意されており、街をあげて来客をもてなす態勢も、いっそう充実してきた。暑い夏、オーケストラが熱い火花を散らすKAWASAKIへ!取材・文:宮本明
2019年04月12日ステージ2の前立腺がんを患っていることを公表した演出家の宮本亜門氏(61)が12日、自身がプロデュースする「Hibiya Festival」オープニングショー(4月26日・27日)の稽古前に囲み取材に応じ、心境を語った。TBS系『名医のTHE太鼓判!』で受診した人間ドックで前立腺がんが発覚した宮本氏。「緊張するな~」と笑顔を見せながら会見場に登場し、報道陣が元気な姿に驚くと「落ち込んでいる場合じゃない。1人でいるときは落ち込むときもあるんですが、だからってプラスになることはないので元気に。むしろ今まで以上に充実しているというか生きている感じがします」と語った。そして、「まさか、腫瘍があると聞いたときの驚きと、それが自分の耳に入ったときに『えっ』という感じで、先生の深刻な顔、そのあとにがんだと言葉にしたときに、きたかーと思いました」と告知されたときの心境を告白。「番組でやっていたこともあって、表情を絶対暗くしないぞという気持ちがあった」と言い、「心の中は一瞬めまいがするような。思わなかったですからね、自分がね」と振り返った。また、転移していなかったと聞いたときの心境も「なんて幸せ者なんだって。自分なんかがまだ生きていていいんだと言われたみたいな」と告白。「がんになったというよりもそれ以上にもっと幸せで、いろいろ感じることができた。感謝しかない」と語った。番組では、前立腺の全摘出手術を受けることに合意。5月下旬を予定しているが、会見では、セカンドオピニオンを検討していることを明かした。
2019年04月12日4月7日に初日を迎えた新国立劇場の《フィレンツェの悲劇》(ツェムリンスキー)と《ジャンニ・スキッキ》(プッチーニ)の2本立て上演。劇場のレパートリー拡充を課題に掲げる大野和士芸術監督が提唱する「ダブルビル」(1幕ものの比較的短いオペラを2本組み合わせて上演するプログラム)の第1弾だ。新国立劇場の平成最後のオペラ公演は「ひと粒で2度美味しい」ダブルビルで幕を開けた。【チケット情報はこちら】今回の2作品は悲劇と喜劇と対照的だが、どちらもフィレンツェを舞台とした物語という共通点がある。ともに20世紀初頭の作品という点も同じだ。《フィレンツェの悲劇》は1917年に初演された、上演機会の少ないレア作品。登場人物は3人だけで、妻を寝取られた亭主が浮気相手を殺してしまうという陰惨なストーリー。ひとりが時間を止めて朗々と歌う、いわゆるアリアはない。ふたり以上が同時に歌う重唱もなく、各自の台詞が連綿とつながって物語が進むのはワーグナー風だし、耽美的な音楽はリヒャルト・シュトラウスを彷彿とさせる。3人が出ずっぱりで音楽を作っていくだけに、歌手たちが背負う役割は大きい。亭主シモーネ役の世界的バリトン、セルゲイ・レイフェルクスはさすがの貫禄で、ほぼ半分は彼の出番という重要な主役を余裕で歌い切っていた。それに勝るとも劣らない見事な存在感を示したのが、女房ビアンカ役の、新国立劇場初登場のソプラノ齊藤純子。フランスを拠点にヨーロッパで活躍する彼女。これからもどんどん聴きたい人だ。一方の《ジャンニ・スキッキ》は1918年初演。死んだ富豪の遺産を自分たちに有利に残そうと企む親戚たちが策士ジャンニ・スキッキに相談するが、逆に彼に全財産を騙し取られてしまうという喜劇。主役ジャンニ・スキッキには、こちらも世界のトップ・バリトン、カルロス・アルバレスが登場して、軽妙な役どころを鮮やかに(最後には日本語も駆使して!)楽しませた。演出(粟國淳)が面白い!物語はすべて、巨大な書斎机の上で進む。1950~60年代風のポップな衣裳の登場人物たちは全員小人のようで、巨大なペンやインク瓶、ビスケットや天秤ばかりの間を動き回って、なんとも賑やか。子供が見ても楽しめそうだが、不倫殺人の物語とセットでは無理か?こっちも遺言状詐欺だし……。こちらは登場人物が総勢15人と多く、砂川涼子(ラウレッタ)、村上敏明(リヌッチョ)ら、アルバレス以外は日本人キャスト。超有名アリア〈私のお父さん〉から重唱の精緻なアンサンブルまで、屈託なく楽しんだ。性格の異なる2作品だが、20世紀の作品だけに、どちらも管弦楽が芳醇で濃厚。特に《ジャンニ・スキッキ》は、喜劇に気を取られて見過ごしがちだけれど、オーケストレーションの鮮やかさは強烈だ。沼尻竜典指揮東京フィルハーモニーの多様な響きが舞台を美しく彩った。公演は4月17日(水)まで、残りあと3回。取材・文:宮本明
2019年04月11日今年2019年は日本とフィンランドの国交樹立100周年。関連の音楽公演も数多く催されるが、メインイベントが5月、記念年の親善大使を務めるピアニスト舘野泉とラ・テンペスタ室内管弦楽団の来日公演だ(東京、札幌など全国5都市)。開催に先立ち、3月に東京・南麻布のフィンランド大使館で、舘野らが出席して、概要発表の記者懇親会が行われた。【チケット情報はこちら】舘野は現在82歳。50年以上もヘルシンキに住み、フィンランド政府から終身芸術家給与を授与された、まさに両国の文化交流を象徴する音楽家。「両国は音楽での繋がりが強い。シベリウスはじめフィンランドの音楽を早くから日本に紹介した指揮者の渡邉暁雄さんも今年が生誕100年。運命的なものを感じる」(舘野)5月25日(土)東京オペラシティでの東京公演は、舘野が弾く左手のピアノための協奏曲2曲を軸に、フィンランドの4曲と日本の1曲で構成されたプログラム。2002年、舘野は脳溢血で倒れた。右半身に麻痺が残ったが、2年後に「左手のピアニスト」として復活を遂げる。以降、彼のために、10か国の作曲家から100曲を超える左手用のピアノ作品が捧げられてきた。その一連の作品の中で最初に書かれた協奏曲が、今回も演奏されるペール・ヘンリク・ノルドグレンの「左手のためのピアノ協奏曲第3番~小泉八雲の『怪談』による《死体にまたがった男》」。舘野が2004年に初演したタイトルどおり小泉八雲の怪奇文学に基づく作品。「恐怖や絶望を深く表現しながら、最後は静かに、平和が何もかも飲み込んでゆくような美しい音楽。人間の持つさまざまな力を感じる」(舘野)もう1曲、熊本を拠点に活動する光永浩一郎の「左手ピアノと室内管弦楽のための《泉のコンセール》」は2017年初演。「とてもピアニスティックな作品を書く人。ピアノに惚れ込んでいて、まるでピアノが彼の人生の一部。熊本の震災の直前に依頼し、震災を挟んで完成した作品には、混乱や苦痛、絶望も描かれるが、最後には明るい、生きる希望に変わる。それが見える音楽」(舘野)弦楽オーケストラ『ラ・テンペスタ』は3度目の来日。舘野とともに会見にも出席した息子ヤンネ舘野が、1997年にヘルシンキ音楽院の同級生たちとともに創設。卒業後も各自の仕事の合間を縫って活動を続けているが、今回のツアー資金をクラウドファンディング Readyfor.jpで募るなど苦労も多い。そんな彼らに「若い人たちの心意気を感じる」とうれしそうに語る舘野は父親の顔だ。舘野が館長を務める南相馬市民会館で、東日本大震災後に外来オーケストラとして初めて公演したのは彼らだったという。今回、光永作品のみ日本の管楽器奏者10人が加わる。なお、4月14日(日)には、この日の会見が行なわれたフィンランド大使館が初めて一般公開されるイベント「Feel Finland」(要事前登録)がある。公演ともども、100年の友好を体感するチャンス!取材・文:宮本明
2019年04月05日演出家・宮本亜門(61)が4月2日、前立腺ガンであると公表した。勇気ある発表にネットではエールが上がっている。宮本は自身のTwitterで《先日、人間ドックで前立腺ガンと診断されました》と報告し、《宣告されたとき「なんで自分が」と目の前がクラっときました。この年齢で演出がますます面白くなり、100歳まで続けると考えていただけにショックでした》と心情を吐露。いっぽう《仕事に影響無く治療できるようです》と明かし、《僕を支えてくれた全ての人に感謝しつつ、生きている喜びを噛み締め、日々精一杯生きていきます》とつづった。宮本の発表にTwitterでは《うちの父も同じ前立腺ガンになりましたが、重粒子線治療で完治しました!めっちゃ元気になりました!応援してます!》《無理なさらずに、どうか亜門さんらしく、日々ご自愛ください》といった声が上がった。また先月30日に千秋楽を迎えたミュージカル「プリシラ」に出演したLead・古屋敬多(30)からも《亜門さんとの出会いは僕にとっての宝です。いつも明るくエネギッシュな亜門さんが大好きです。回復を心よりお祈りしております》と応援のリプライが。他にも宮本にゆかりのある俳優たちから多数エールが上がった。「宮本さんは俳優たちからの信頼が特に厚い。というのも『そういうキャラクターじゃないから』と、稽古場で宮本さんは絶対に怒らないんです。かつてある俳優に叱ってほしいといわれたそうですが、『悪いけど、僕は最後まで怒らないよ』といったほど。ギスギスした雰囲気のなかでの稽古より、1人1人とのコミュニケーションを大事にしたいと考えているそうです。宮本さんの舞台には演技経験の少ない俳優も出演します。ですが、そうした“宮本メソッド”に触れることで皆さん最終的には『参加してよかった』といいます」(舞台関係者)宮本といえば01年バンコクで交通事故に遭ったこともあった。16年11月に出演したテレビ番組では当時を回想し、頭を50針縫ったと発言。さらに「パッカリ頭割れて血を噴いて……。完全に意識なくなって、すごいキレイな白い世界を見た」「こんなに悩みがなくて幸せならこのまま逝っちゃおうかと思った」とも明かしていた。「事故から生還した宮本さんは『なんで僕は生きてるんだろう』と自問するようになったといいます。しかし仕事で訪れたチベットで仏教徒の少年の祈り続ける姿や美しい自然に触れ、『生きていていいんだ。生きている全ての人に価値があるんだ』と悟ったそうです。前立腺ガンも当然ショックが大きいでしょうが、彼ならきっと新たな生きるヒントを見つけてくれるはず。そしてそのヒントを、また素晴らしい舞台作りへと繋げてくれると思います」(前出・舞台関係者)4月26日に開幕する「Hibiya Festival」のプロデュースや、7月の「氷艶 hyoen2019―月光かりの如く―」と10月のオペラ「蝶々夫人」の演出を控えている宮本。自分のペースで体と向き合ってほしい。
2019年04月03日仲道郁代が昨年から10年計画で進行中の壮大なプロジェクト「Road to 2027 ベートーヴェンと極めるピアノ道」。その第2回が5月26日(日)に東京・サントリーホールで開催される。【チケット情報はこちら】「ベートーヴェンが音楽で問うたものを、これから10年間の自分の進む道として、私自身にも問い直していきたい」。これまで幾度かベートーヴェンのソナタ全曲演奏に取り組んできた彼女。今回は各回ごとにテーマを定め、ベートーヴェンのソナタを軸に、他の作曲家との関連の中で、ベートーヴェンの音楽、そこに描かれた哲学を見つめ直す。「Road to 2027」を冠としたプロジェクトは、並行して毎秋に開く、ピアニズムを極めることを目的とするリサイタル・シリーズとの2本を柱としている。「2027年」はベートーヴェン没後200年であり、仲道の活動40周年でもある。5月はピアノ・ソナタ第8番《悲愴》を軸に、ブラームスの8つの小品Op.76とシューベルトのソナタ第19番を弾く。テーマは「悲哀の力」。「悲哀」だけなく、「力」と入れたのには理由がある。「悲哀は、作曲家から生み出される時、ただ“悲しい”では終わらないんです。彼らの作品が、私たちにとっては次なる生きる力になる。強い意志や、シューベルトのように悲哀の先にある透明な美しさを感じさせてくれる。それらを受け入れることで、悲哀が力に変わるのです」ベートーヴェンは彼女のライフワーク。きっかけは2002~2006年、彩の国芸術劇場で行なったソナタ全曲リサイタルだった。作曲家の故・諸井誠とのレクチャー・コンサートという形式の中で、彼女自身、諸井から計り知れないほど多くのことを学んだ。「音符を読むということの本当の意味、それをどう生きた音にしていくのかを教えていただきました。あの経験がなかったら、今頃、私というピアニストがいたかどうか」「ピアノ道を極める」といっても、ストイックな修行ではない。「ストイックというと、ピアノを弾くこと以外を振り払うようなイメージ。私の人生はそれと逆で、諸井先生に学び、ピリオド楽器に興味を持ち、演劇の表現芸術からも刺激を受けてきた。自分の音につながると思うあらゆることを好奇心旺盛に吸収してきました。それらの蓄積の上で、音楽家としてこれからはどうありたいのか。それを見据えながら演奏活動をしていきたいというのが、この10年です」7月14日(日)には、やはり昨年から始めた「仲道郁代ピアノ・フェスティヴァル」の第2弾も(東京芸術劇場)。仲道と、横山幸雄、菊池洋子、實川風、松田華音、藤田真央という日本のトップ・ピアニスト6人が勢揃い。超絶技巧編曲による名曲の数々を、前半は2台ピアノ、後半は5台ピアノ(!)で弾きまくる。「昨年の第1回は、出演したピアニスト全員、もう、戦いのようでしたよ。参戦、という感じです。かっこいいコンサートですよ。すごく楽しいと思います!」というピアノの夏祭り。こちらも見逃せない!取材・文:宮本明
2019年03月25日宝塚歌劇団月組のグランステージ『夢現無双 -吉川英治原作「宮本武蔵」より-』、レビュー・エキゾチカ『クルンテープ 天使の都』が3月15日、兵庫・宝塚大劇場で開幕した。宝塚歌劇月組 グランステージ『夢現無双 -吉川英治原作「宮本武蔵」より-』/レビュー・エキゾチカ『クルンテープ 天使の都』チケット情報『夢現無双』は吉川英治のベストセラー小説をもとに、天下無双を誇る剣豪・宮本武蔵の生き様を、彼を慕い続けるお通との恋を交えて描いた物語。関ヶ原の戦に勝利した徳川家による治世が始まった頃…。作州宮本村に生まれた新免武蔵は、“天下無双”の剣豪を目指す猛々しい若者であった。己の強さに奢り、殺める剣しか知らぬ武蔵の行く末を案じた僧侶の沢庵は、名を宮本武蔵と改め、心身を研鑽する旅に出るよう諭す。旅に出た武蔵が、さまざまな人と出会い、剣の腕はもちろん人間としても成長していく姿が描かれている。武蔵を演じるトップスター・珠城りょうの、どっしりとした存在感がぴったり。見た目も心も粗野で血気盛んな武蔵が徐々に洗練されていく様を、丁寧に作りこんでいる印象だ。美弥るりかが扮する佐々木小次郎も、匂い立つような美しさと繊細さがイメージ通り。キャラクターの対比が際立っているのも、珠城と美弥のふたりならでは。武蔵と小次郎が対峙するラストシーンも見ものだ。お通を演じる新トップ娘役・美園さくらも、武蔵を想い続ける一途で愛らしい女性を好演。互いに想い合いながらも近づけない様がもどかしい。さらに、月城かなとが演じる武蔵の幼なじみ・又八のダメっぷり、暁千星(あかつきちせい)が演じる武蔵と手合わせする吉岡道場の当主・吉岡清十郎の貫録ある佇まいなど、多彩なキャラクターを、月組生が個性を活かしながら演じている。第2幕の『クルンテープ』は、南の楽園・タイの首都バンコクを舞台にしたエキゾチックなレビュー。きらびやかで神秘的、オリエンタルなムードのシーンが次々と展開されていく。公演は4月15日(月)まで兵庫・宝塚大劇場、東京公演は5月3日(金)から6月9日(日)まで東京宝塚劇場にて上演。東京公演のチケットは3月31日(日)発売開始。取材・文:黒石悦子
2019年03月22日およそ280年の歴史を持つイタリアの老舗磁器ブランド、リチャード ジノリ(Richard Ginori)は、皆川 明デザインによる新コレクション「フロレンティア(FLORENTIA)」を5月15日より発売する。Photo_Norio Kidera Styling_Fumiko Sakuhara「フロレンティア」は、2017年に発表した「スぺランツァ(SPERANZA)」、2018年の「ガイア(GAIA)」に続く、皆川 明デザインによるグローバルコレクション。フィレンツェの語源にもなった“花の女神の都”の意味を持ち、リチャード ジノリを代表するベッキオシェイプに、新しいジノリブルーで皆川が描いた枝と小花の可憐なデザインが施されている。中心から外側に向かい開いていく空間は、料理が盛られた時の景色を想定して描かれ、筆先から生まれた濃淡の繊細さが温もりを感じさせてくれる。Photo_Norio Kidera Styling_Fumiko Sakuhara皆川氏は、「今回のテーマ『Florentia』ではまさにリチャード ジノリのある街フィレンツェをイメージして、花がお皿の中に泉となって湧き出るような世界を創りました。お皿ごとに料理を盛り付ける位置を想像しながら、食の空間をやわらかな躍動感や爽やかな風を感じさせるように絵柄を配置していきました」とコメント。主なアイテムの価格は、マグカップ 350cc(税込8,100円)、フタ付きコーヒーカップ&ソーサ―(税込1万2,960円)、ティーカップ&ソーサ―(税込1万800円)、ティーポット 600cc(税込2万4,840円)、シュガーポット 120cc(税込1万9,440円)、クリーマー 110cc(税込1万4,040円)、プレート 22cm(税込6,480円)、フルーツソーサー 15cm(税込4,320円)、サラダボール ラウンド(税込1万6,200円)。エレガンスの中に爽やかな風を感じさせる新たなコレクションで、食卓を彩ってみては。
2019年03月21日夏のロンドンを彩る音楽の風物詩といえば「プロムス」(Proms)だ。日本でもほぼ毎年放映される最終日「ラスト・ナイト」の熱狂ぶりはおなじみ。なんとあの「お祭」が今秋、「BBC Proms JAPAN 2019」(特別協賛:大和証券グループ)として日本にやってくる。PRアンバサダーを務めるヴァイオリニストの葉加瀬太郎らが出席して概要発表会見が行なわれた。【チケット情報はこちら】「BBC Proms JAPAN 2019」は10月30日(水)~11月4日(月・祝)開催。軸となるのは、東京・オーチャードホールでの5公演と大阪ザ・シンフォニーホールでの1公演だ。首席指揮者トーマス・ダウスゴー率いる、初来日のBBCスコティッシュ交響楽団をホスト・オーケストラとして、ユリアンナ・アヴデーエワ(ピアノ)、ワディム・レーピン、三浦文彰(以上ヴァイオリン)、宮田大(チェロ)、ジェス・ギラム(サックス)、森麻季(ソプラノ)といった豪華なソリストたちが顔を揃える。リー・リトナー(ギター)とデイヴ・グルーシン(ピアノ)というジャズの大御所ふたりも。10月30日(水)●プロム1:ファースト・ナイト・オブ・プロムス(チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番、マーラー:交響曲第5番ほか)10月31日(木)[大阪]●プロム2:BBCプロムス・イン・大阪(同上)11月1日(金)●プロム3:ジャズ・フロム・アメリカ(リー・リトナー&デイヴ・グルーシンのユニット、および挾間美帆"m_unit"によるジャズ・ナイト)11月2日(土)●プロム4:ロシア・北欧の風(チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲、シベリウス:交響曲第2番ほか)11月3日(日・祝)●プロム5:日本を代表する次世代のソリストたち(エルガー:チェロ協奏曲、ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番ほか)11月4日(月・祝)●プロム6:ラスト・ナイト・オブ・ザ・プロムス(有名曲オンパレードのガラ・コンサート)誰もが気軽に音楽に親しめるようにという本家プロムスの精神に従い、どの公演にも1,000円という安価な特別席が用意されている。また、11月2日(土)~4日(月・祝)には、渋谷エリアの複数会場で、そうそうたる顔ぶれによる無料公演も。ハロウィンのあとの渋谷は音楽に染まる。そしてプロムスといえばラスト・ナイト。あちらでは会場ロイヤル・アルバート・ホールのアリーナ部分は立ち見席。Tシャツ&ジーンズは当たり前。フェイス・ペイントや奇抜なコスプレでキメた若者たちが盛り上がる、文字通りのお祭り騒ぎだ。そして最後は会場一体で《威風堂々》の大合唱。日本ではいったいどうなるだろう。ちなみに今回の「BBC Proms JAPAN 2019」は全席指定の着席制だけれど、ぜひ、歌う気満々の前のめりで出かけて、クラシック音楽の新しい楽しみ方に積極的に参加してしまおう。本来は控えめな英国人が、あれだけやっちゃってるのだから。取材・文:宮本明(C)BBC Proms JAPAN 2019
2019年03月20日3月19日に開幕する新国立劇場のマスネ《ウェルテル》は、2016年新制作で好評を博した、重厚かつ美しい舞台だ(ニコラ・ジョエル演出)。大きな話題が、目下世界中で引っ張りだこの新世代の注目テノール、サイミール・ピルグ(37)が新国立劇場に再登場、主人公ウェルテルを演じること。声でも演技でも、繊細さと情熱の両面が必要な複雑な役だ。【チケット情報はこちら】「非常に難しい役です。誤解を怖れずに言えば、《愛の妙薬》や《リゴレット》あるいは《椿姫》などは、若いテノールでも歌えます。でもウェルテルは違う。喉だけで歌うのではなく、頭で歌うことも要求される役です。つまり、キャラクターをしっかりと作ることが必要。さらに、声楽的にも非常にドラマティックでヘビーなので、十分に準備をしなければなりません」有名な第3幕の〈オシアンの歌〉は、しばしば単独でも歌われる、聴きどころの名アリアだが、ウェルテル役にとって、より難しいのは第2幕なのだそう。「ふたつのアリアや二重唱があり、高音もあるので声もヘビーです。あの第2幕だけで、普通のオペラの全幕分に匹敵するほどです」パヴァロッティの愛弟子。22歳の若さでザルツブルク音楽祭にデビューし、キャリアの初期はモーツァルトを中心に活躍していたが、近年はベッリーニやドニゼッティなどのベル・カントもの、そしてフランス・オペラ、特に今回のウェルテルのような、ヴェリズモ的な性格も孕む重めのテノールの役にレパートリーを広げている。「声のキャラクター的にも心理的にも、いまの私はそれが歌える成熟期に入っていると思います」と手応えを語るように、取材後に見学した舞台稽古でも、美しい声はもちろん、人妻への破滅的な愛に突き進む激しい感情を表現しきって、まさにハマり役と思わせる熱演だった。今回、彼以外は全員日本人キャスト。「唯一の外国人だというのは、たまらなく気に入ってますよ。テノールはみんな目立ちたがり屋ですから(笑)。素敵な経験を楽しんでいるところです。稽古の間に、音楽全体のクォリティが非常に高く作り上げられてきたのも強く感じます。美術・演出も含め、トータルに高いレベルで、アジア屈指の劇場にふさわしいプロダクション。必ず気に入っていただける、とても素敵な舞台ですので、ぜひお越しください」取材を終え謝意を述べると、「もう少しいい?」と続けてきた。出身のアルバニア共和国のこともぜひ聞いてほしいのだという。バルカン半島の小国は、1991年に民主化を遂げ、経済的に大きく発展中であること。多宗教が共存してきた歴史を誇る、平和な人々の国であること。そして美しい海と山のこと。彼自身はイタリアの国籍も持つが、バカンスは必ず祖国に帰り自然の中で過ごすという。まだ観光客も少なく、旅行費用も安価なので穴場だよと教えてくれた。次代を担うスター・テノールは、故郷への愛と誇りにあふれる誠実な好人物だった。取材・文:宮本明
2019年03月20日首席指揮者ファビオ・ルイージとともに来日中の北欧の名門デンマーク国立交響楽団による「東芝グランドコンサート2019」。ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番を弾くアラベラ・美歩・シュタインバッハーに話を聞いた。【チケット情報はこちら】作品は、ヴァイオリニストなら誰もが幼い頃から学ぶ、このジャンルの定番曲だ。「たくさんの思い出の詰まった、人生をともに歩んできたような曲です」初めて弾いたのは11歳の時。第2楽章で彼女がソロを聴こうと会場が静寂に包まれた瞬間、会場の教会の鐘が鳴った。「だから今でも、そこで耳の中に鐘が響きます(笑)」バイエルン国立歌劇場のコレペティートルだった父と、日本人声楽家の母との間にミュンヘンで生まれた。指揮者ファビオ・ルイージは父の劇場ピアニスト仲間として、彼女がまだ14歳の頃から顔見知りだった。「当時からとてもあたたかくてチャーミングな方でした。父は亡くなったけれど、自分の家族を知っている人とツアーをするのは格別なこと。とてもいい友情だと思っています」彼の指揮者としての魅力は、その豊富なオペラ経験にあるという。「父もよく、歌手は自由に歌うので、伴奏が難しいと言っていました。彼は一緒に『呼吸』してくれるので、私はとても自由に弾けるのです」彼女自身も「歌」の中で育った。「ピアノを弾く父の膝の上で、たくさんの歌手たちの歌い方や呼吸を聴いて育ちました。演奏家はみんな、歌の真似をしているのだから、私にとっては歌が先生です」幼い頃から夏休みは、葛飾区柴又の帝釈天近くの祖父母の家で過ごした。「親と離れて、祖父母に可愛がられて過ごすのだからパラダイスです(笑)!東京の蒸し暑い夏も大好き。やわらかい空気や言葉、食べ物。すべてが大切な思い出です」子供時代に1番好きだった日本食は、「カッパ巻き!(笑)その頃はお刺身が食べられなかったから。納豆だって食べられますよ!」帝釈天といえば「寅さん」だ。現在彼女が暮らすウィーンには、葛飾区と友好都市関係を結ぶフロリズドルフ区があり、そこには「寅さん公園」もあると伝えると、「今度行ってみるわ!」と目を輝かせた。公演の聴きどころを、「カラフルなコンビネーション」と語る。「デンマークのオケ、イタリア人指揮者、ドイツと日本の血を引く私。いろいろなバックグラウンドがミックスされるコンサートです。私が大好きなデンマーク家具のデザインを見てもわかるように、彼らはとてもクリエイティブ。すべてのものをシックに居心地よく作るのが得意で、全体を明確に構築して、その中に奇を衒わずにいろんなものを調和させることができるのです。今回も、音楽の中に調和を感じていただけると思います」3月19日(火)サントリーホール大ホール公演の後は、21日(木・祝)兵庫・22日(金)宮城を周る。取材・文:宮本明
2019年03月18日三島由紀夫原作・黛敏郎作曲のオペラ《金閣寺》を宮本亜門が演出する注目公演が、いよいよ目前に迫った。このプロダクションはフランス国立ラン歌劇場と二期会の共同制作で、フランスではすでに昨年3~4月に初演された。都内の稽古場で、直前のリハーサルの様子を取材した。【チケット情報はこちら】オペラの中心となる登場人物は、全幕を通してほぼ出ずっぱりの主人公・溝口(バリトン)と、そのネガティヴな分身のような柏木(テノール)。この日は、ダブルキャストのうち、溝口を与那城敬、柏木を山本耕平が演じる、2月23日(土)公演の出演キャストたちによるピアノ伴奏の通し稽古だった。溝口は、すべての場面で深層を吐露するような、内面的な難しい役だ。与那城のノーブルな声が真摯に役と向き合い、舞台に緊張感をみなぎらせている。一方の柏木役の山本は、テノールとしては珍しい悪役。いつもの甘い美声が、なんとも言えず憎々しげに響いて悪魔的な魅力を放つ。今回の演出には、宮本亜門が新たに創造した役がある。黙役のダンサーが演じる「ヤング溝口」がそれ。父親から「金閣寺こそが最高の美である」と教え込まれて育った少年時代の溝口を象徴する彼が、大人になった溝口と常に対峙し、並行して溝口の内面を表現する。演じる中学生の少年ダンサー(この日は木下湧仁)の動きがキレキレだ。溝口のもうひとりの分身とも言える友人・鶴川(高田智士)や、父(小林由樹)、母(林正子)、道詮和尚(畠山茂)がそれぞれに存在感を示すなか、非常に限られた出番ながら強烈なインパクトを残すのが、若き日の溝口が好意を寄せていた有為子(嘉目真木子)と、溝口がその生まれ変わりと感じた女(冨平安希子)だ。嘉目と冨平は、ダブルキャストの一方の公演では、それぞれの役を入れ替えて出演する。これはオペラ台本にはない、原作の意図を巧みに反映したキャスティング側のファインプレイと言えそうだ。そして、このオペラのもう一方の主役とも言えるのが合唱(二期会合唱団)。古代ギリシア劇のコロスのような物語の進行役であり、群衆であり、この作品の音楽上の特徴のひとつでもある経文も唱える。終幕の最後、禅宗の経文である「楞厳呪(りょうごんしゅう)」が導くクライマックスには鳥肌が立った。その音楽全体をシュアにまとめる指揮者は、フランソワ=グザヴィエ・ロトの秘蔵っ子、1985年生まれのフランスの新鋭マキシム・パスカル。これが日本でのオペラ・デビューとなる。稽古場なので、「金閣寺」がどのように出現するのかなど、演出の全貌はまだ見えず、そこは本番のお楽しみ。フランス初演の記事などを見ると、映像を用いたり、色によるキャラクター分けなどもあるようで、おそらくは音楽の輪郭を際立たせ、聴衆の理解を助けるたくさんの仕掛けがあるはずだ。開幕はもうすぐ。公演は2月22日(金)から2月24日(日)まで東京文化会館大ホールにて上演。チケットは現在発売中。取材・文:宮本明※高田智士の「高」ははしごだか
2019年02月18日作曲家・西村朗のオペラ《紫苑物語》が、2月17日に世界初演の幕を開けた。初日直前の2月15日、ゲネプロが報道陣らに公開された。【チケット情報はこちら】《紫苑物語》は、今シーズンから新国立劇場オペラ芸術監督に就任した大野和士の肝入り企画「日本人作曲家委嘱シリーズ」の第1弾。石川淳の同名小説を原作に、佐々木幹郎が台本を、笈田ヨシが演出を手がけた。芸術監督として初めて指揮するこの作品を、大野は「日本オペラの革命」と公言している。最初から緞帳が上がっている舞台は、照明装置を吊るしたバトンも降りたまま、聴衆に晒されている。そしてそのまま、客席の日常と物語空間をシームレスにつなぐように前奏曲が始まる。平安時代、先祖代々の和歌の家に生まれた国の守・宗頼は、歌よりも弓の道に関心を示すが、それを許さない父は、権勢の家の娘・うつろ姫との婚礼を用意して弓から遠ざける。こうした前段が前奏曲の間に無言劇で示されたあと、照明バトンが上がり、舞台はいきなり華やかな婚礼の宴のシーンに変わって、いよいよ本編が始まる。合唱が舞台いっぱいに広がった動的な空間の中で、うつろ姫が肉欲と権力欲の歌を歌い、音楽は高揚してゆく。やがて姫の「き・ら・い!」のひと言をきっかけに、なんとインドネシアのケチャが始まり舞台は興奮に包まれる。原作小説で石川淳が「鬼のうた」と書いた終幕の静かな旋律に至るまで、濃厚なエネルギーが渦を巻いて立ち昇ってくるような音楽の連続に息を飲む。西村の色彩豊かで官能的なオーケストレーションはもちろん健在。しかしそれが歌をマスクするようなことはなく、歌手の声ははっきりと聴こえる。かねて大野がこだわってきた重唱も効果的に多用されている。二重唱から四重唱まで、各人物が別々の思いをパラレルに歌うという、音楽劇だからこそ可能な手法が、ドラマツルギーをスピーティにし、音楽を豊かに広げる。歌手陣では、まず何と言っても主役の高田智宏(バリトン)。ほぼ出ずっぱりの宗頼役を渾身の熱演。うつろ姫役・清水華澄(メゾ・ソプラノ)の、欲望あらわなギラギラとしたインパクトもすごい。そのギラつきと対照をなす清廉な声(しかし存在は艶っぽい)が、小狐の化身で宗頼の愛人・千草役の臼木あい(ソプラノ)。超絶技巧満載の〈狐のカデンツァ〉は圧巻だ。奸臣・藤内の、原作よりも強調された「へたれ」具合を演じる村上敏明(テノール)も巧みだ。シリアスなばかりではない。たとえば「鼻から煙が出るほどに」という歌詞(うつろ姫)や、合唱のコミカルな動きには笑った。西村、佐々木、笈田と、関西出身の制作陣ならではのサービス精神と言えそうだ。ぐいぐい引き込まれる日本のオペラの新たな金字塔。必見だ。オペラ『紫苑物語』は、2月20日(水)、23日(土)、24日(日)。東京・新国立劇場オペラパレスで。取材・文:宮本明※高田智宏の「高」ははしごだか
2019年02月18日