「オスカープロモーション2018女優宣言お披露目発表会」が12日、都内で行われ、タレントの岡田結実、「第1回ミス美しい20代コンテスト」審査員特別賞の宮本茉由、「第15回国民的美少女コンテスト」審査員特別賞の玉田志織が、特別ゲストで女優の菊川怜、河北麻友子、田中道子とともに出席した。オスカープロモーションは、スター作りの一環として2000年〜2006年と2016年に同発表会を開催。米倉涼子、菊川、上戸彩、紫吹淳、笛木優子、田中らが女優宣言を行い女優デビューしている。今回、女優宣言を行うと聞いたときの心境を聞かれると、岡田は「率直に『私ですか?』って思ったんですけど、オスカーに入って初めて見た大きなイベントが(2016年の)女優宣言で、"絶対いつかこの舞台に立ってやる"って思っていたので、ここに立っていることはありがたいことで、まだ夢のような、雲の上にいるような感じです」と目を輝かせ、「やったるぞ! って思っています」と笑顔を見せた。同じ質問に宮本は「最初にこみ上げてきたのは、嬉しいという気持ちと、緊張と不安という感情が一気にきて、頑張らなきゃという気持ちになったんですけど、だんだんと実感が湧いてきて、今は一生懸命いろんなことにぶつかってみようという気持ちでいっぱいです」と力を込め、玉田は「幼稚園の頃からテレビを見ていて、ドラマや映画が大好きで、ずっと女優になりたいと思ってきました。こんなに素晴らしいステージの上で、皆さまに宣言していることが信じられないんですけど、これからたくさん努力して素敵な女優さんになれればなと思っています」と期待に胸を膨らませた。さらに、目標の女優を聞かれた岡田は、ドラマ経験があるという草笛光子の名前を挙げ「現場でのチャーミングな立ち居振る舞い、でも女性の強さ、凛とした姿など人としてもそうですし、その場で見た演技と、画面を通して見た演技に違いがあって、演技と人との部分の尊敬が大きすぎて、今、目標にしている女優さんです」と語り、自身はどんな女優になりたいか聞かれると「私は男装することが好きなんですけど、性別を問わずに男性の役もやってみたいですし、アクションを1年前からやり始めたので、アクション系もやりたいので、お話を募集しています(笑)」とアピール。「もちろん、主役をはれる女優さんにもなりたいんですけど、(脇役でも)主役の人を食べちゃうような女優さんにもなりたいです。周りの人に感謝を忘れない、人としても女優としても輝ける女優さんになっていきたいなと思います」と意気込みを語っていた。
2018年09月12日1880年開場のイタリアの名門ローマ歌劇場の4年ぶり4度目の来日公演開幕を目前に控え、指揮者・演出家と主要キャストによる開幕記者会見が開かれた(9月5日・東京文化会館)。今回最もファンの注目を集めているのはふたりの女性演出家の起用、ともに著名な芸術家を父に持つアーティストだ。ヴェルディ《椿姫》は、映画監督フランシス・フォード・コッポラの娘ソフィア・コッポラの演出作品。映画監督として、『マリー・アントワネット』や『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』等、次々にヒット作を生んでいる彼女だが、2016年にこのプロダクションでオペラ演出家デビューを飾った(映画『ソフィア・コッポラの椿姫』として公開された)。大きな話題は主役ヴィオレッタの衣裳を巨匠ヴァレンティノ・ガラヴァーニがデザインしていること。実は演出にコッポラを指名したのも彼。つまりヴァレンティノありきの製作陣とも言える。実際コッポラは、衣裳を軸に演出プランを練ったと述べており、豪奢なドレスはまるでドラマ全体を象徴するかのような強烈な存在感を放つ。ローマ初演時の指揮者でもあるヤデル・ビニャミーニは会見で、「伝統的だが、フレッシュな新しい感覚のプロダクション。素晴らしい作品を日本で再現できるのはうれしい」と語った。主役ふたりもフレッシュな売り出し中の若手。ヴィオレッタ役のフランチェスカ・ドットは初来日。アントニオ・ポーリのアルフレード役で日本でもおなじみだ。彼らふたりもローマ初演時のキャスト。一方、プッチーニ《マノン・レスコー》はキアラ・ムーティ演出。父親は現代の大指揮者リッカルド・ムーティだ。2012年に演出デビューした彼女だが、女優として数々の受賞歴を持つ。幼い頃から劇場で父親の仕事を見て育ったことが彼女の大きなバック・グラウンドになっていることは言うまでもないだろう。今回の《マノン・レスコー》のプロダクションは2014年にローマで初演。指揮は父ムーティだった。彼女は演出コンセプトについて次のように語った。「プッチーニはマノンが最初から自分の宿命を予見しているかのように描いている。私も終幕の砂漠の荒野をモチーフとして、マノンの世界をその砂漠の上に作り上げました」マノンを演じるのは、ヴィヴィッドなピンクのスーツでひときわ華やかに会見に現れたプリマ・ドンナ、クリスティーネ・オポライス。彼女も初来日だ。「現代最高のプッチーニ歌手」と称される彼女だが、キアラ・ムーティが「演技をつけながら私が感動してしまうほど素晴らしい」と激賞する、その演技力にも大いに期待しよう。ローマ歌劇場日本公演は、《椿姫》が9月9(日)・12(水)・15(土)・17日(月・祝)、《マノン・レスコー》が9月16(日)・20(木)・22日(土)に上演(16日(日)のみ神奈川県民ホール、ほかはすべて東京文化会館)。取材・文:宮本明
2018年09月07日9月17日(月・祝) 、東京都と東京都交響楽団が新たなワンデー・フェスティバル「サラダ音楽祭」を立ち上げる。東京芸術劇場を中心に、池袋エリアのさまざまな会場で、コンサートや楽器体験、ダンスのワークショップなど多岐にわたるイベントが一日中繰り広げられる、街を挙げての「祭」だ。「音楽を通してワクワク・ドキドキを!」を合言葉に、コンサートを聴いて楽しむのはもちろんのこと、どんどん参加して一緒に盛り上がろうというのが狙いで、キャッチフレーズの「歌う!聴く!踊る!(Sing and Listen and Dance!!)」の頭文字をとったネーミングが「SaLaD=サラダ」というわけ。普段不足しがちな心の栄養素を補って活力を取り戻すフレッシュ・サラダにもなるだろう。【チケット情報はこちら】フェスティバルの中心は、東京芸術劇場コンサートホールで行なわれる大野和士指揮・東京都交響楽団のふたつのオーケストラ・コンサート。まず午後1時からは、0歳児から入場OKの、その名も「OK!オーケストラ」。TV番組でも活躍中、子どもたちにも人気の小林顕作を司会に迎え、指揮者体験コーナーや、話題の学ラン姿のコンテンポラリー・ダンス・カンパニー「コンドルズ」によるグリンカの歌劇『ルスランとリュドミラ』を用いたダンスコラボも。《ドラゴンクエスト》やディズニー・メドレーとストラヴィンスキーの《火の鳥》が並んでいるのがふるってる。マエストロ大野さすが!チケットは完売していたが、9月8日(土)より追加販売がはじまる。そして熱心なクラシック・ファンも大満足なのが夜7時からの音楽祭メインコンサート「プルミエ・ガラ」。ニーノ・ロータのハープ協奏曲を聴かせる吉野直子の登場や、藤木大地が喜歌劇「こうもり」からオルロフスキー公爵のアリアを唱う前半に続いて、後半は、荒々しいエネルギーが炸裂するオルフの《カルミナ・ブラーナ》が演奏される。ここでもコンドルズが、主宰の近藤良平とともに登場。《カルミナ・ブラーナ》はもともとバレエを伴っての上演が想定された作品なので、この形がいわば完全版だ。いったいどんな演出でどんなダンスが?もちろん声楽曲なので、合唱・独唱には活躍どころ・聴きどころが満載。新国立劇場合唱団、光岡暁恵(ソプラノ)、藤木大地(カウンターテナー)、小林大祐(バリトン)という実力派が揃った顔ぶれが頼もしい。1990年の東京芸術劇場開館でクラシック音楽ファンにも一気に身近になった池袋が、2020年を目前に新たな音楽の街として生まれ変わりつつある。今年はGWの大型音楽祭ラ・フォル・ジュルネも開催されたし、来年には、池袋西口公園の広場が本格的な野外劇場にリニューアル。大型商業施設から、緑豊かな公園、横丁の焼鳥屋まで、多彩な顔を持つ魅惑的な池袋。初秋の1日、池袋を音楽で満喫し尽くそう!取材・文:宮本明
2018年09月07日黒澤明 没後20年記念作品ミュージカル『生きる』が10月に上演される。本稽古に先駆け行われた鹿賀丈史チームのワークショップに潜入した。【チケット情報はこちら】本作は、黒澤明監督の代表作『生きる』を初めて舞台化した作品。市村正親と鹿賀丈史がWキャストで主演を務め、演出は宮本亜門、作曲・編曲はブロードウェイ・ミュージカル『若草物語』や『デスノート THE MUSICAL』のジェイソン・ハウランド、脚本と歌詞は『アナと雪の女王』などディズニー作品の訳詞でも知られる高橋知伽江が手掛ける。ワークショップでは1作通しての読み合わせ(歌唱含む)が行われ、鹿賀をはじめ市原隼人、新納慎也ら出演者が揃って参加した。市村チームは4月に実施済み。毎日同じように淡々と生きてきた主人公・渡辺に不治の病が発覚し、生まれて初めて自分の人生の意味を探し始める物語。どこか静かで重いイメージもある作品だが、読み合わせを見学していて感じたのは「生」の鮮やかさだった。その大きな要素のひとつが楽曲。予想外とも言えるメロディが揃っており、映画のモノクロの世界に音楽で色をつけるような印象を受けた。登場人物ひとりひとりの存在は映画以上に際立っており、なかでも父親の突然の変化に戸惑いぶつかる息子(市原)や、渡辺が1歩踏み出す背中を押す小説家(新納)は、主人公の物語をより深くみせる大切な役割を果たしている。そこに川口竜也が演じる組長や、公園建設を求める主婦たちがのびのびとした演技で笑いを起こし、絶妙なバランスで作品を軽やかにみせていた。そのなかで鹿賀は、死を前にして懸命に生き始める主人公を、繊細に、ときにお茶目に演じ抜き、ワークショップでありながらラストでは思わず涙をこぼすキャストやスタッフも多数。お披露目イベントでも宮本が「市村さんと鹿賀さんがすごい。なにあの歌!なにあの演技!と今の段階で言えます」と絶賛したように、歌声に台詞に、渡辺が背負う“生”そして“死”が滲み出る素晴らしい芝居で、ミュージカル『生きる』の世界を体現する。ワークショップ後、対象チケット購入者を招き行われたイベントには、新納慎也と小西遼生(市村バージョンに出演)、May’n、唯月ふうか、川口竜也、そして演出の宮本が登壇。プロデューサーと宮本による制作裏話や、キャストによる歌唱披露なども行われ、世界初上演のミュージカル『生きる』の一部が公開される貴重な時間となった。ミュージカル『生きる』は10月7日(日)にプレビュー公演、本公演は10月8日(月・祝)から28日(日)まで東京・TBS赤坂ACTシアターにて。取材・文:中川實穗
2018年08月31日「情熱のピアニスト」熊本マリが、秋恒例のリサイタル「熊本マリの夜会」を10月11日(木)東京・東京文化会館小ホールで開催する。【チケット情報はコチラ】長く続けている定例コンサートだが、「親しみやすいから」と、6年ほど前から「夜会」の呼び名で定着している。毎年自分の新しい課題に挑戦する大切な場。今年は「情熱のファンタジー」のキャッチ・フレーズのもと、ショパン、モンポウ、ガーシュイン、アルベニス、そしてシューベルトと並ぶプログラムの底に、「歌」というテーマを潜ませた。「ピアノの詩人ショパンとモンポウから、歌曲王シューベルトまで。言葉の有無にかかわらず、歌の魂によってメッセージ性を伝えたいと思っています。歌というのは人間の本能だし、人によって発音の仕方もスピードも違うから、とても自由な音楽なのです」メイン・プログラムはシューベルトの幻想曲《さすらい人》。その前に置いた〈ます〉(セレナーデ〉などリスト編曲による歌曲のトランスクリプション集も含め、これまで熊本がシューベルトを弾いているイメージはあまりなかった。「そうかもしれません。大好きで学生の頃から結構弾いていたのですが、録音などはしていませんし、『さすらい人』を弾くのも20年ぶりぐらいですから。でもこれを機会に、ピアノ・ソナタなど、もっとシューベルトを弾いてみたいと思っているんですよ。シューベルトというと少し硬いイメージを持たれているかもしれませんが、私はとても自由な作曲家だと思うんですね。とにかく旋律が美しい、ロマンティックな音楽です」「情熱のファンタジー」という今回のキーワードも、実はシューベルトに、特に《さすらい人》に触発されたものだという。「《さすらい人》には、父親に反対されながらも一途に音楽家の道を突き進んだシューベルトの情熱が表れていると思います。私自身も、ピアニストになると決心してジュリアード音楽院で頑張っている頃にこの曲を弾いて、そんな思いがあり、私にとっては『人生一路』という感じの作品です」《さすらい人》には、さらに忘れられないニューヨーク時代の思い出がある。18歳の頃、大好きなピアニストのアンドレ・ワッツがハーレムの教会でこの曲を弾くコンサートに、ボロボロのチラシを握りしめて出かけた。客席はほぼ黒人ばかり。演奏も素晴らしかったが、アフリカ系アメリカ人の血を引くワッツが、リンカーンセンターやカーネギーホールに集まるセレブな聴衆の前で弾くのと同じ心で音楽を届ける姿に感銘を受けた。「ワッツさんの、音楽と人々に対する思いを、作品を通して感じました。その優しさがなければ、どんなに歌をうたっても、音楽の魂は他人につながらないと思います」シューベルトといえば、彼岸から現世を見つめるような悲哀や孤独で語られることが多いが、そこに「自由」「情熱」「優しさ」を感じるのは、熊本自身の中にある同じ思いが共振するからなのだろう。ありきたりでないシューベルト像への彼女らしいチャレンジだ。取材・文:宮本明
2018年08月24日秋の音楽シーズン開幕の先陣を切って、9月初旬に東京二期会が一挙上演するプッチーニの三部作(《外套》《修道女アンジェリカ》《ジャンニ・スキッキ》)が、オペラ・ファンの注目を集めている。プレ・イベントとして、出演歌手たちによるミニ・ライヴ付きレクチャーが8月16日に東京・すみだパークギャラリーSASAYAで行われた。【チケット情報はコチラ】100席ほどの会場は熱心なファンでほぼ満席で、上演への関心の高さをうかがわせる。講師を務めたのは、公演では《外套》の流しの唄うたい役を演じるテノールの高田正人。明るい達者なトークと噛み砕いた内容で立派な講師ぶり。今回のプロダクションへの興味をいっそう掻き立てた。なにより、(歌手だから当然かもしれないけれど)声がいいので聞きやすい。講義内容は、前半がプッチーニの人と作品について、後半が今回の三部作上演についてという構成。多くのファンの興味は、やはり三部作だ。三部作は1918年にメトロポリタン歌劇場で初演されて、今年でちょうど100年目。プッチーニは3演目をまとめて上演することを前提にしているのだが、単純に考えると、舞台装置や衣裳、出演歌手の人数も3公演分になるわけで、上演費用の面からも、実際に三部作として上演される機会は少ない。しかし今回のような三部作一挙上演こそがプッチーニの思い描いた本来の上演形式なのだ。演出を手がけるのは鬼才ダミアーノ・ミキエレット。もともと3作品の間にはストーリーや音楽上の共通点はなく、各物語は時代も場所もばらばらだ。しかしミキエレットは、3作すべてを現代の物語として読み替え、ストーリー的にも共通点を見出して関連づけているという。高田によれば、キーワードは「(死んだ)子供」そして「母性と父性」。さらにもうひとつ三部作を関連づける仕掛けがあって、ヒントとしては、「(ジャンニ・スキッキで)ラウレッタのアリア《私のお父さん》を聞いて、父親ジャンニ・スキッキはなぜ心変わりしたのか」とのこと。三部作に通底するこれらのテーマを可視化するミキエレットの手腕は天才的だと、驚きを語った。ミニ・ライヴでは、高田のほか、公演でラウレッタ(ジャンニ・スキッキ)、ジェノヴィエッファ(修道女アンジェリカ)、恋人たち(外套)の三役を演じるソプラノの新垣有希子と、《外套》のルイージ役のカヴァー・キャストを務めているテノールの菅野敦が、三部作以外のナンバーも含めてプッチーニのアリアや二重唱を披露。間近で聴くオペラ歌手たちの迫力ある歌声に会場は湧いた(ピアノ=三澤志保)。東京二期会の「プッチーニ三部作」は、デンマーク王立歌劇場、アン・デア・ウィーン劇場との提携公演で、東京・初台の新国立劇場で、9月6日(木)、7日(金)、8日(土)、9日(日)の全4公演。取材・文:宮本明
2018年08月23日初の全曲クラシックアルバムをリリースした宮本笑里さん。その名も『classique』。11年目の挑戦は、初のオールクラシックの名曲アルバム。宮本笑里さんはニューアルバムのタイトルに、極めてシンプルに“クラシック”と付けた。というのも、実はこのアルバムは、宮本さん初の全曲クラシックアルバムだから。「わかりやすく“これはクラシックですよ”と、この名前にしました(笑)。意外に思われるかもしれないですが、まだ私はバイオリンの名曲を集めたアルバムを作ったことがなかったんです。それであえてこのタイトルに決めました」クラシックのみならず、J-POPや映画音楽、沖縄民謡まで、幅広く奏でてきた宮本さんの原点回帰、という意味合いのアルバムだろうか。昨年デビュー10周年を迎えたことも、その動機になったよう。「ありがたいことにクラシックの演奏以外にも様々な活動をさせていただいた10年間でした。弾いたことのないような楽曲にチャレンジすることで、自信もついてきたと感じています。では、さらに成長するにはどうする?と考えたとき、全曲クラシックのアルバムを残したいと思いました。とはいえ、どこか避けてきた部分もあったので、とても勇気の要ることでしたね。でも、いまやらなくちゃいけない!って」選ばれた18曲のバイオリンの名曲は、タイトルを見て、すぐにメロディが浮かぶというものではないけど、聴けば、あっ!この曲、と気づくような有名な曲がほとんど。クラシックのコアなファンでなくても、なじみやすく、楽しめる名曲ばかりだ。とくに宮本さんの代表曲ともいえるサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」やエルガーの「愛のあいさつ」など4曲を再録音している。「以前録音したときとは、年齢も人生経験も違うので、同じ曲を演奏しても、時間の積み重ねが音に反映されていると感じますね。とくに4年前に母親になり、いままで経験したことのない道を、日々勉強させてもらっているので、いい刺激をもらっていることもあるし、昔とは全然違う演奏になっています」また6曲の短い曲からなるバルトークの「ルーマニア民族舞曲」は、とりわけ思い出のある作品と言う。「幼いころ、五嶋みどりさんのCDで、この作品集を毎日のように聴いていました。舞曲なので華やかだけど、どこかあやしげでゾクゾクするような楽曲なんです。聴きながら、難しそうな曲だけど、なんか楽しいなって、一緒に踊っていました(笑)。そんな楽しい気持ちを、お子さんたちや大人の方にも感じてもらえたらすごく嬉しいですね」なお、レコーディングは宮本さんとピアニストのふたりで、ホールを3日間借り切って行われた。「普段はスタジオ録音が多いんですが、このスタイルははじめてでした。一発勝負のライブ録音なので、集中力や緊張感が必要で、普段とは違うレコーディングでしたけど、バイオリンの音そのものがスタジオとはまったく違う、ホールでしか出せない生音の響き。それは弾いていてすごく気持ち良かったですね」8th Album『classique』【初回生産限定盤CD+DVD】¥3,50018曲収録。DVDには最新MVやMay J.と共演した「My HeartWill Go On」などライブ映像も収録。【通常盤CD】¥3,000(SONY MUSIC)みやもと・えみり『smile』でCDデビューし、昨年10周年を迎えた。アルバムリリースツアーを8/16大阪・ザ・フェニックスホール、8/25愛知・宗次ホール、8/30東京・サントリーホールブルーローズで開催予定。衣裳協力・DHOLIC(DHOLIC LADIES+TEL:0120・989・002)※『anan』2018年8月1日号より。写真・土佐麻理子文・北條尚子(by anan編集部)
2018年08月02日国内外の4つのオーケストラ公演からなる「NHK音楽祭2018」。ハンブルクのNDRエルプフィルハーモニー管弦楽団(旧北ドイツ放送交響楽団)を率いるのは、来シーズンから楽団の首席指揮者に就任するアラン・ギルバートだ。ニューヨーク生まれ。昨年まで8シーズンにわたってニューヨーク・フィルの音楽監督を務めた。7月の来日時、新たな手兵について聞いた。【チケット情報はこちら】「NDRは昨年、新しくできたコンサートホールに本拠を移しました。ハンブルクの街全体を変える、象徴的な建物です。オーケストラが新しいフェイズに入っていく中での首席指揮者就任をうれしく思います。ターボ・エンジンをかけて、新しい時代にふさわしい、国際的なオーケストラとして活動していきたいですね」その新ホール「エルプフィルハーモニー」は昨年1月にオープン。音響設計を豊田泰久が手がけた。本拠移転を機に楽団名も変更。ギルバートの首席指揮者就任は2019年シーズンからだが、実質的にこの秋から新体制がスタートする。NHK音楽祭での公演のメインはブラームスの交響曲第4番。ハンブルクは作曲家の生まれた街だ。“本場のブラームス”と決めつけるのは短絡的だろうか。「それについてはふたつの言い方ができるよね。もちろん世界のどのオーケストラも、素晴らしいブラームスを奏でることができます。一方でNDRには本当に特別な伝統があるのも事実です。彼らのDNAの中にある、オーケストラとしての“記憶”がこのオーケストラのブラームスを特別なものにしていると感じます。ハンス・シュミット=イッセルシュテット、ギュンター・ヴァント、トーマス・ヘンゲルブロック……。歴代の指揮者たちがブラームスに取り組んできました。私もNDRと、静かな誇りを持ってブラームスを演奏したいと思います」すでに2004年から2015年まで首席客演指揮者を務め、互いを知り尽くした関係だ。「ブラームスの音符には、楽観も悲観も、喜びも悲しみも、すべての感情が含まれています。そのさまざまな感情に何を見出して表出するか。それが面白みであり、音楽を作るうえで大切なことです。そして名曲というのは、どんな解釈にも耐えうるのです。解釈が作品を破壊するということはありません」プログラムには、エレーヌ・グリモーとのラヴェルのピアノ協奏曲も。ニューヨークを本拠とするグリモーとは長年の友人だ。「ラヴェルの協奏曲は初めてですが、彼女とはこれまでにたくさんの協奏曲を演奏してきました。でも実は1番思い出深いのは、ニューヨーク・フィルの楽屋で彼女と弾いたシューマンのヴァイオリン・ソナタなんですよ。誰かに聴かせるためにではなくね(笑)。素晴らしい体験でした」音楽が楽しくてしょうがないという風情のギルバート。新たなスタートを切る、しかし長年の相棒を率いてのNHK音楽祭登場は、11月8日(木)・NHKホール。取材・文:宮本明
2018年08月01日街づくりのテーマとして「音楽のまち」を掲げる川崎市。夏を彩るオーケストラの祭典「フェスタサマーミューザKAWASAKI」(7月21日(土)~8月12日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール)が終わると、秋の川崎はにわかにジャズに染まる。「ジャズは橋を架ける」をキーコンセプトに4回目の開催となる「かわさきジャズ」は、市内全域をステージに行なわれる都市型フェスティバル。。7月、山田長満実行委員長(川崎商工会議所会頭)、顧問の福田紀彦川崎市長、そして出演者を代表して宮本貴奈(ピアノ)、斉田佳子(ヴォーカル)、福本純也(ピアノ)が出席して発表会見が開かれた(9日・ミューザ川崎)。フェスの中心は、11月8日(木)から18日(日)まで11日間の本会期に行なわれる12のコンサート「MUSIC BRIDGE 音楽公演プログラム」。会場は、川崎駅周辺に位置するミューザ川崎、カルッツかわさき、ラゾーナ川崎プラザソル、クラブチッタ、市北部の新百合トウェンティワンホールと昭和音楽大学、市中部の洗足学園音楽大学と、南北に長く伸びる川崎市を縦断。巨匠から若手まで幅広い世代のプレーヤーたちが熱いパフォーマンスを繰り広げる。佐藤允彦(ピアノ)とボーカロイド「初音ミク」「巡音ルカ」との共演(!)や、大御所デイヴ・グルーシン(ピアノ)がリー・リトナー(ギター)ら凄腕ミュージシャンを率いての「バーンスタイン生誕100周年特別プロジェクト」など、目の離せないスペシャルな公演が満載だ。こうしたコンサートだけでも十分満足なのに、「かわさきジャズ」はさらに盛りだくさん。フェス全体は、上記の「MUSIC BRIDGE」のほか、市民や地元企業とタッグを組む「PEOPLE BRIDGE 地域連携」、音楽を愛する人々をサポートする「FUTURE BRIDGE 人材育成」の、3つの「ミッション」で構成されている。「PEOPLE BRIDGE」は、9月から始まるプレ会期も含めて2か月間たっぷり、市内35か所のさまざまな会場で約60の公演が予定されている。フェスの冠レース開催とともにライヴが楽しめる「川崎競馬ジャズナイト」、生演奏とともに海から人気の工場夜景を眺めるロマンティックな「ジャズクルーズ」、川崎駅周辺の店舗やストリートをまるごとジャズで染める「ジャズ・ジャック・デー!」など今年新たに開催されるイベントが注目されるところ。「FUTURE BRIDGE」の軸となる「ジャズアカデミー」は、ミュージシャンや評論家など5人のエキスパートたちがそれぞれの視点でジャズの歴史や楽しみ方を語り尽くす全5回のレクチャーだ。会見で挨拶に立った福田市長は、こうした広がりを持つフェスのあり方を、「川崎という街の歴史、多様性が形になったもの」と位置づけた。地元市民はもちろん、すべてのジャズ・ファンは、夏から秋へと移ろう季節の巡りを、「音楽のまち・かわさき」で、珠玉のプレイとともに感じてみてはいかがだろう。取材・文:宮本明
2018年07月26日今年も恒例の全国リサイタル・ツアーに挑戦中のピアニスト外山啓介。9月1日(土)には東京オペラシティでの東京公演を控える。昨年デビュー10周年を終え、次の10年へ向けての新たな1歩を踏み出した今年。〈月の光〉で有名なドビュッシーの《ベルガマスク組曲》とシューマンの《謝肉祭》を軸に、「音が紡ぎ出す情景」をテーマにしたプログラムを組んだ。「まず《謝肉祭》を弾きたい!一方で《ベルガマスク組曲》を全曲弾いてみたい!というところから選曲を始めました」【チケット情報はコチラ】実は芸大に入って最初のレッスンに持っていったのが、《ベルガマスク組曲》の中の〈メヌエット〉だった。「幼い頃からCDを聴くのが好きで、ジャック・ルヴィエだとかウェルナー・ハースだとか、ドビュッシーをすごく聴いていた時期があったんです。独特のしゃれた和声の中に少し毒がある。子供心に、そんなところに魅力を感じていたのだと思います。今年はドビュッシー没後100年。これまであまりまとめて取り上げたことがなかったのですが、どんどん弾いていきたいです」そして、シューマンが《謝肉祭》に添えた「4つの音符による面白い情景」という副題から、「情景」というキーワードが浮かんだ。それに導かれたのが、ドビュッシーと「月の光」つながりになる、ベートーヴェンのソナタ《月光》だ。ベートーヴェンは「今後、長い時間をかけて勉強して、あらためて取り組んでいきたい」という。そしてメインとなる《謝肉祭》は、まさにさまざまな「情景」の連なりだ。「実は最近まで、自分がシューマンを弾くイメージがありませんでした。あの独特のとりとめのなさ。ある意味直観的な音楽の表情の移り変わりに根拠がないように感じて、ついていけないと思っていたんです。ところがなぜかある時期からすごく弾きたくなってきた。《謝肉祭》も、1曲ごとに題名がついているように、キャラクターの移り変わりがとても面白い作品です。でもたぶんそこに自分が入り込み過ぎてしまってはダメ。個々のキャラクターを自分の中で整理しておかなければなりません。とりとめないように聴こえるからこそ、緻密な計算が必要なのです。ただ好きなように弾いて終わってしまう危険があるのが怖いところで、シューマン、面白いけれど難しい作曲家です」つまり、子供の頃から弾きたかったドビュッシーと最近目覚めたシューマンを中心に、11年目の新しい外山啓介が聴ける充実のプログラムなのだ。「内容がたっぷりなので弾くのは大変(笑)。頑張ります。新しい出発の年ということで、東京のリサイタルも、10年続けたサントリーホールではなく、東京オペラシティにしました。デビューのきっかけになった日本音楽コンクール(2004年優勝)の会場ですが、リサイタルで弾くのは初めて。少し流れを変えて、新しいステップアップのためのいろいろな可能性を探ってみたいと思っています」公演は9月1日(土)東京・東京オペラシティコンサートホール:タケミツメモリアルにて。チケット発売中。取材・文:宮本明
2018年07月24日美しきディーヴァ、ソプラノの森麻季がデビュー20年を記念して、愛唱歌を集めた記念CDをエイベックスからリリース。9月16日(日)東京・東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアルにて記念リサイタルも開催する。【チケット情報はこちら】「アルバムのコンセプトは、私自身がリラックスしたい時に聴きたいなと思うような音楽です。美しくて、寄り添えるような作品。寝る前に聴いて安らかに眠れそうな音楽を集めました」。イタリア、ドイツ、フランスを中心に、古典から近現代までの歌曲集。キャリアと年齢を重ねるごとに、歌の意味がよりわかってきたという。「たとえばイタリア歌曲は声楽の勉強を始めた17~18歳の頃から歌っていますけれど、その頃は辞書を引いて勉強しても表面的な意味しかわかりませんでした。“愛”と言っても、いろんな愛がある。そんな深さがだんだんわかってきて、やっと歌曲を表現できる土台ができたのかなという気がしています。オペラは役柄を通しての言葉ですが、もっと自分に近い感覚から訴えられるのが歌曲です。これからたくさん取り組んでいきたいですね」。9月のリサイタルもCDの収録曲が中心となるが、ホールでは、目の前のマイクに向かって録音するよりも大きな表現も求められるから、CDとはまた異なるバランスの表現になるのだと教えてくれた。われわれファンはどちらも聴き逃せない。来年1月に同じオペラシティで行なわれるアフタヌーン・コンサートでは、鈴木優人のオルガン&ピアノと共演する。昨秋には鈴木が指揮するとモンテヴェルディ《ポッペアの戴冠》の題名役で、バロック・オペラがけっして古楽を専門に歌う歌手だけのものではないのだということを示し、圧倒的な成功を収めた。「鈴木優人さんもどんどんマエストロになっているので、ますますお忙しいでしょうけれど、いろんな公演でご一緒できたらうれしいです」。バッハ、ヘンデルからデュパルク、そして彼女が歌ったNHKドラマ『坂の上の雲』のメイン・テーマ(久石譲)まで、平日午後の公演ということもあり、気軽に楽しめる多彩なプログラムが組まれている。1998年、プラシド・ドミンゴが主宰するコンクール「オペラリア」で第3位に入賞し、ドミンゴの紹介で、日本人として初めてワシントン・ナショナル・オペラに出演(モーツァルト《後宮からの逃走》ブロンデ役)してから20年。節目の今年、次へ向かう新たな一歩が、今回のCDとリサイタルだ。ずっと第一線で息長く歌い続けていきたいと語る。「今までやってきたものも温めつつ、新しいことにも挑戦しながら。まだ歌ったことのない《ルチア》なども歌ってみたいですし、バロック・オペラもどんどん歌ってみたい。歌曲にも素晴らしい曲がたくさんありますし。若い時の高い声も保ちながら、年齢とともに低音も出てくるので、歌えるものを増やしていけたらいいですね。グルベローヴァさんのように、ファンのニーズもありつつ、いつまでもチャレンジできる立場でいられたら素晴らしいです」9月16日(日)公演のチケットは発売中。取材・文:宮本明
2018年07月12日新国立劇場2017-18シーズンオペラの最後を飾るのはプッチーニの人気作《トスカ》。アントネッロ・マダウ=ディアツ演出による舞台は、2000年9月の新制作初演以来、繰り返し上演されている、劇場の看板プロダクションのひとつだ。公演の指揮者には、「天才」の呼び声も高いローザンヌ出身の28歳の俊英ロレンツォ・ヴィオッティが起用された。【チケット情報はこちら】実は2000年のこのプロダクションの初演指揮者マルチェロ・ヴィオッティは彼の父親。その父が2005年に50歳で早逝した時、彼はまだ14歳だった。「そこで私の人生は1度終わり、そして始まったのです。というのは、もし父が生きていたら、今こうして指揮者になっていたかどうか。父が亡くなったことで、自分の道を自分で選んで決断する自由を与えられたと思っています。今回、父と同じ演目を指揮することは、時を超えて父とつながるようで幸せです。しかし一方で興味深いのは、私たちの解釈がまったく異なるということ。昨晩、2000年の映像を見せてもらいました。そこで聴いたのは、非常に伝統的な、歌手のために誇張されたカリカチュアのような《トスカ》でした。いたるところにルバートがあり、それはトゥーマッチです。プッチーニはチョコレートのように甘い音楽を書いたわけではありません」よりスコアに忠実にというアプローチは、師のジョルジュ・プレートルから大きな示唆を受けている。「プレートルの《トスカ》は、スコアにとても忠実で、歌手に余計なスペースを与えていません。勝手に『解釈』するのでなく、作曲家の書いたスコアのしもべとなったうえでマジックを起こす人でした」今回《トスカ》を初めて指揮するにあたって、スコアをゼロから見直した。「歌い上げるのではなく、ほとんどが会話で成立しているようなオペラです。だから無理に盛り上げず、抑えたほうが効果があるのです。すべてはスコアに書いてあるのですから」そういうと彼は《トスカ》のドラマ構造を、調性や音程関係から分析してくれた。詳細は割愛するが、たとえばオペラ冒頭の3つの和音の連結(変ロ長調-変イ長調-ホ長調)は、多くの解説が「スカルピアの主題」と論じるところだが、彼はそうではないという。また、「神」という単語に対応する変ロ長調の使用を重要と指摘する、新鮮な、しかし非常に興味深い解釈は彼独自のものだ。真面目に静かに語る知的な口調はとても魅力的。何か新しいものを見せてくれそうな予感に満ちている。観客にも、「オペラには伝統的な約束ごとなどない。ぜひ予期せぬ体験をしてほしい」と語る。その言葉どおり、予期できない、新しい《トスカ》が見たい。新国立劇場《トスカ》は7月1日(日)・4日(水)・8日(日)・12日(木)・15日(日)の5公演。また、提携公演として、7月21日(土)・22日(日)に滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールでも公演が行われる。取材・文:宮本明
2018年06月29日あの感動が帰ってくる!レナード・バーンスタイン生誕百年の今年、最後の愛弟子・佐渡裕渾身のオーケストラ・サウンドによって鮮烈に蘇る最高傑作。8月、佐渡が指揮する『ウエスト・サイド物語』シネマティック・ フルオーケストラ・コンサートが東京と大阪で6年ぶりに上演される。【チケット購入はこちらから】デジタル音声処理により、音楽部分だけを消した映画全編に、オケの生演奏をシンクロさせるコンサート。「映像や歌にぴったり合わせるのはものすごく大変。職人技の連発です。でもね、ただ合わせるだけではなく、『ここは勢いで行って多少ズレてもいい部分』とか、オケとそういう瞬時のやりとりもあって、映画とライブ感がちゃんと共存するのが面白い」『ウエスト・サイド』の音楽の魅力を、「あんなに印象に残るナンバーばかりなのに、それが実は非常に理屈で書かれていること」という。たとえば、「ソ-ド-ファ#」という音程関係が、全編を巧みに貫く。それが「どこか不良っぽくて人を惹きつける」と同時に、その不協和な音程が、トニーの死によって抗争が収まったかに見えるラスト・シーンでは、そんな安直な平和の到来に疑問を投げかけるかのように鳴り響く。「でも、そんな理屈を知らなくても虜にさせるのがすごい。バーンスタインの音楽にはさまざまなジャンルの音楽が共存している。ジャズの自由さ、クラシックの重厚さ、ラテン音楽のノリ。それをオケをフル活用して聴かせてくれる。欲張りバーンスタインのなせるわざですね」。『ウエスト・サイド』は、まさにそんな魅力が凝縮した、バーンスタインの最高傑作だ。1990年の夏、来日中に体調を崩して帰国するバーンスタインを佐渡は空港に見送った。「ついにユタカにビッグ・グッバイを言わなければならない時が来た」と言う師に、なぜかどうしても別れを言えなかったという。その3か月後、バーンスタインは急逝する……。6年前の前回公演。「音楽=レナード・バーンスタイン」というエンドロールに、客席から静かな拍手が自然に湧き起こったのは、小さな奇跡のようで感動的だった。会場のライヴ・スクリーンに大写しされた佐渡も感極まっているように見えた。「そりゃ、映像に合わせるの、めちゃくちゃ大変でしたから」と笑うが、けっしてそれだけではなかったはずだ。1987年にタングルウッド音楽祭でバーンスタインに師事。翌年から3年間、アシスタントを務めた。「あの頃の僕の興味は指揮者としてのバーンスタインだったし、彼の作品について直接教わったのは実はほんの少し。今にして思えばつまらない自分でした。でもだからこそ今、バーンスタインのいろいろな作品を紹介したいし、初めて聴く人にも興味を持ってもらえる道筋を作らなきゃいけない。それが、最後にそばにいたことへの恩返しであり、使命だと思っています」バーンスタインの魂を、佐渡裕というひとりの音楽家を通して共有する。それを味わえるのが、佐渡が振る東京と大阪のこのコンサートだ。クラシック界最後のカリスマの生誕百年を、佐渡とともに噛み締めたい。取材・文:宮本明
2018年06月18日1998年6月。世界三大コンクールのひとつ、チャイコフスキー国際コンクールの声楽部門を制したソプラノの佐藤美枝子。優勝に限らず、3位以内に入賞した日本人声楽家はいまだに彼女だけだ。10月1日(月)に東京・紀尾井ホールで優勝20周年記念のリサイタルを開く(ピアノ=河原忠之)。【チケット情報はこちら】コンクール参加を決めたのは、開催のわずか半年ほど前。「松本美和子先生からやっとお許しが出て、それから受験できるのはチャイコフスキーだけでした」。急遽ロシア語の発音を学ぶところから始めた。おそらくは短すぎる準備期間。しかし一次予選で大きな手応えを得る。今回の演奏曲にもあるチャイコフスキーの歌曲《子守歌》のあと、客席の大拍手が鳴り止まず、次の曲を歌い始めることができなかった。「実はこの曲の最後の高いラ♭の弱声を克服できたのは、モスクワに入ってから。それからは、いくらでも長く延ばせるぐらい自信を持って歌えました」。そこで喝采を浴びて気持ちも乗った。ところが予期せぬ困難も。二次予選通過後、事務局の不手際で、事前に登録済みの本選の2曲のうち1曲を変更させられたのだ。代わりに指定されたリムスキー=コルサコフのアリアを中1日の急ごしらえで暗譜。それでも栄冠を獲得したのだからすごい。もう1曲の本選曲《ルチア》の狂乱の場の圧巻の素晴らしさは、当時発売された実況CDでも聴くことができる。彼女の代名詞とも言えるコロラトゥーラの超絶技法を駆使するこの難曲は、もちろん秋のリサイタルでも聴ける。今回の選曲は、自分の表現、自分の声の色に徹底的にこだわった。「叙情だったり、激しさだったり、自分が今できることを最も出せる曲を選びました」。声の色やニュアンスだけで情景が浮かぶような表現者になりたい。高校時代にマリア・カラスのレコードで衝撃を受けて以来、その思いは変わらない。「ずっとそれを追い求めて、できることの幅も広がって自信もついて来たけれど、まだまだ勉強。たぶん歌手人生が終わっても、自分の生徒たちにそれを求めてゆくことになるのだろうと思います」もうひとつ、今回の大きな挑戦だというのが声質とレパートリーの拡大だ。彼女が最も得意とするのは、ソプラノの中でも一番軽いレッジェーロの声質のレパートリーだが、年齢とともに声はふくよかに、重くなってゆく。今回はその重い声のための曲も加えた。「レッジェーロが歌えなくなってレパートリーを変えるのではなく、常に両方を歌えるような歌手でいたい。今年、オペラ《夕鶴》を歌わせていただいて、そのイメージが具体的に見えて来ました」つまり、《ルチア》や《ラクメ》のようなレッジェーロの歌と、《ノルマ》や《エフゲニー・オネーギン》のような少し重いソプラノの歌の両方が並ぶ。両者をどう歌い分けるのか、あるいはどう共通の表現で聴かせるのか。20周年の集大成のリサイタルはまた、さらなる円熟に向けての新たな地平を拓く機会にもなりそうだ。取材・文:宮本明
2018年06月06日2019年4月からドイツ人指揮者セバスティアン・ヴァイグレが第10代常任指揮者に就任する読売日本交響楽団。昨年のメシアンの大作オペラ《アッシジの聖フランチェスコ》全曲日本初演に象徴されるように、現職のシルヴァン・カンブルランが、フランス音楽や近現代音楽で成果をあげていただけに、ワーグナーやR・シュトラウスなど、オペラを中心にドイツ・ロマン派音楽を得意とするヴァイグレが、今度はどんな方向に舵を切ってゆくのかが注目だ。5月28日、ヴァイグレ本人が出席して就任発表会見が開かれた。【チケット情報はこちら】「これまでオペラを多く指揮してきた。フランクフルト歌劇場の音楽総監督を10年。もう少しコンサートも指揮したいと思っていたところ。だから仕事というよりも、楽しみであり喜びだ」。すでに2016年8月に初登場して4公演を指揮、昨年は東京二期会《ばらの騎士》のピットでも振った読響の印象を、「メンバーがいつも100パーセントの力を出して向かってくる。こちらの言うことも、ひと言も洩らさずにスポンジのように吸収してくれるオーケストラ」と語った。気になる就任シーズンのプログラムについて。この日知らされた一部曲目は、ベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブルックナー、ブラームス、マーラー、R・シュトラウスなどのドイツ音楽が並ぶ。「彼を紹介することは自分の使命と考えている」という夭折の作曲家ハンス・ロットの名前もあるが、今後加わる協奏曲のソリストの人選などとともに、「もう少し時間がほしい。ドイツ音楽以外も含めて、さらに色とりどりになる可能性もある」という。10月上旬に予定されている詳細発表を待ちたい。将来的にはフランクフルト歌劇場とのコラボレーションなども視野にあるようだから楽しみ。ヴァイグレは1961年ベルリン生まれ。ベルリン国立歌劇場のホルン奏者としてキャリアをスタートし、バレンボイムの勧めで1990年代から指揮者に転身した。現在音楽総監督を務めるフランクフルト歌劇場がオペラ専門誌『オーパンヴェルト』の「年間最優秀歌劇場」に選ばれるなど、その手腕が高く評価されている。1980年代にホルン奏者として初来日。以来、今回が21度目の来日というが、いつも1番楽しみにしているのは和食だそうで、「世界一の料理」と語る。記者たちの質問にひとつひとつ丁寧に答える。そこに垣間見える誠実な人柄にも、過去の客演ですでに楽団員から厚い信頼を得ているという理由の一端がうかがえる。新常任指揮者の任期は2022年までの3シーズン(退任するカンブルランは、「桂冠指揮者」として今後も指揮者陣にとどまる)。来シーズン、新体制となった読響は、どんなプログラムを、どんなサウンドで聴かせてくれるだろう。新たな旅立ちに期待しよう。取材・文:宮本明
2018年05月31日この秋、サントリーホールで新たな室内楽フェスティバルが始まる。【チケット情報はこちら】2011年から続く「ARK Hills Music Week」(昨年まで「アークヒルズ音楽週間」)は、サントリーホールのあるアークヒルズを中心に、周辺のホテルや美術館、大使館、教会、レストランなど、さまざまなスペースを会場にコンサートが開かれる「まちの音楽祭」。今年も10月5日(金)から13日(土)まで開催されるが、そこに、新たなコンテンツとして加わるのが、「サントリーホール ARKクラシックス」だ(サントリーホール、エイベックス・クラシックス・インターナショナル共催)。サントリーホール大ホールと同ブルーローズ(小ホール)を使って行なわれる室内楽フェスティバルで、10月5日(金)から8日(月・祝)の4日間に全9公演が予定されている。そして、このイベントのプロデューサー役に当たる「アーティスティック・リーダー」として、ヴァイオリンの三浦文彰とピアノの辻井伸行という、人気・実力ともに現代の日本を代表するふたりのアーティストがタッグを組むというから超強力。5月14日に開かれた発表会見にも、ふたりが揃って出席して抱負を語った。「室内楽のアンサンブルは音楽の原点。10年前ぐらいから、日本でももっと室内楽を広めていきたいと思い始めた。それがサントリーホールで実現できるのはうれしい。この東京のど真ん中で、室内楽を演奏して皆さんで盛り上がるのが楽しみ。ヨーロッパの仲間たちもすごく楽しみにしている」(三浦)「昨年初めて三浦さんとフランクのヴァイオリン・ソナタを演奏して、それまであまり経験のなかった室内楽にはまっている。互いに音を聴き合い、音で対話しながら、それぞれがどう弾きたいかを考え、またぶつかり合って音楽を作っていくのが大事。そんな室内楽の魅力を伝えたい」(辻井)初共演以来意気投合したふたり。プライベートでも食事をしたりカラオケに行ったりという間柄なのだそう。このふたりのカラオケは何を歌うんだろうという興味は措くとして、こちらが勝手に、あまり接点がないんじゃないかと思い込んでいたふたりが、互いの音楽を信じて真摯に向き合いながら本格的な室内楽の祭典を先導してゆくのは、なんともうれしく頼もしい。それぞれのファンも多いふたり。室内楽に新たなファンをいざなってくれるだろう。参加アーティストは三浦、辻井以外に、ユーリ・バシュメット(指揮、ヴィオラ)&モスクワ・ソロイスツ、ヴィキングル・オラフソン(ピアノ)、川久保賜紀(ヴィオラ)、遠藤真理(チェロ)、三浦友理枝(ピアノ)ほか。全9公演は、休憩なし1時間と、休憩含めて2時間という2種類のプログラムで構成されている。取材・文:宮本明
2018年05月24日1999年にスタートしたサントリーホールの「ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン」。世界最高峰のオーケストラ、ウィーン・フィルの豊麗な響きを、ほぼ毎年、東京にいながらにして直に聴くことのできる機会がうれしい。2年ぶり16回目の開催となる今年は、「ウィーン・フィル オペラを謳う」と題した、オーケストラ・メンバーによる室内楽のスペシャル公演で開幕する(11月19日(月)・サントリーホール大ホール)。5月下旬の段階で、出演者詳細は未発表だが、曲目(編成)は次のとおり。【チケット情報はこちら】●R.シュトラウス:弦楽六重奏のためのカプリッチョ●ワーグナー:歌劇《ローエングリン》より前奏曲(ヴァイオリン・アンサンブル)●モーツァルト:ハルモニームジークによるオペラ・メドレー 《フィガロの結婚》より(木管アンサンブル)●ワーグナー:《ヴェーゼンドンク歌曲集》より〈夢〉、ジークフリート牧歌(管楽アンサンブル)●ウェーバー:歌劇《魔弾の射手》より「狩人の合唱」(ホルン四重奏)●バーンスタイン:《ウェストサイド・ストーリー》よりシンフォニック・ダンス(打楽器アンサンブル)ほかコンサート・タイトルどおり、オペラに関連した曲目によるプログラムだ。ご承知のように、ウィーン・フィルは、ウィーン国立歌劇場管弦楽団員として、毎晩のように劇場のオーケストラ・ピットで演奏している奏者たちで構成されている。団員たちに話を聞くと誰もが、オペラの大切さを、また日常的に歌とともに演奏している経験が彼らの音楽作りに大きく寄与していることを教えてくれる。いわばウィーン・フィルの基盤を聴かせましょうというプログラムなわけだ。しかも編成を見ると、弦楽六重奏曲から管楽アンサンブル、打楽器アンサンブルまで、ウィーン・フィルの名技を、パートごとに代わる代わる楽しめてしまう贅沢な内容だ。むろん、小編成の室内楽が、オーケストラのアンサンブル能力を研ぎ澄ますうえでも基盤になっていることはいうまでもない。曲目とオペラの関係について少しだけ補足しておこう。最初の弦楽六重奏は、シュトラウス最後の歌劇《カプリッチョ》の導入の音楽。モーツァルトのオペラ・メドレーの「ハルモニームジーク」は、当時流行した管楽アンサンブルのこと。録音のなかった時代、劇場外でオペラの音楽を楽しむために、この編成用の編曲は人気だった。ワーグナーの歌曲〈夢〉の旋律は、同じ時期に書かれた楽劇《トリスタンとイゾルデ》にも用いられている。《ジークフリート牧歌》は、妻コジマへの私的なプレゼントとして書かれた。「ジークフリート」は彼らの息子の名前だが、曲中の素材が、後年書かれた楽劇《ジークフリート》にも転用されている。という具合に、オペラとの関係もひとひねり効いたプログラム。なんとも粋な、ウィーン・フィルの室内楽スペシャルだ!チケットの一般発売は5月26日(土)午前10時より。なお、一般発売に先がけて、プリセールを実施。受付は5月23(水)午前10時より。文:宮本明
2018年05月21日池松壮亮演じる新米営業マン、宮本浩の成長を描くヒューマンドラマ「宮本から君へ」。テレビ東京にて来週5月25日(金)深夜に放送される第8話で、宮本が坊主になることが明らかになり、この度、その衝撃シーンの場面写真が公開された。■ストーリー大学を卒業して都内の文具メーカー・マルキタの営業マンになった宮本浩(池松さん)は、未熟で営業スマイルひとつできず、自分が社会で生きていく意味を思い悩んでいた。そんな宮本は通勤途中、代々木駅のホームで一目ぼれしたトヨサン自動車の受付嬢・甲田美沙子(華村あすか)に声をかけるタイミングを伺っていた。何度かチャンスはありながらもなかなか声をかけられずにいる宮本は、同期の田島薫(柄本時生)にヤイヤイ言われながらも決死の思いで声をかけるが…。そこから始まる甲田との恋模様、仕事での数々の人間模様の中で、宮本は成長し、自分の生き方を必死に見つけていく――。5月から、主人公・宮本が仕事で成長する様子を描く後半話に突入した本作。5月18日(金)本日深夜に放送される第7話では、先輩の神保(松山ケンイチ)が独立のため退職することになり、宮本と最後のコンペに向けて奮闘する…というストーリーが展開される。■自らバリカンで坊主に!そして、翌週5月25日(金)に放送される第8話では、なんと宮本が坊主に!大手製薬メーカーの取引をめぐり、ライバル会社の営業マンに思わず掴みかかってしまった宮本が、同僚・田島の家で反省の念から頭を丸める、本作にとって重要なシーンのひとつだ。第7話放送終了後の5月18日(金)深夜1時23分に、そのシーンの予告編が解禁となる。■5月18日(金)第7話あらすじ宮本浩(池松さん)と神保和夫(松山さん)は、仲卸業者であるワカムラ文具の島貫部長(酒井敏也)を訪ねた。しかし島貫部長は、コンペの競合相手である業界最大手のニチヨン営業マン・益戸景(浅香航大)に肩入れしている。昔からライバル視していた益戸に見下され、火がついた神保は、退職前の最後のコンペに力が入るが、打開策がなかなか見つからない。宮本も神保の想いを感じるが、時間だけが過ぎていき…。ドラマ25「宮本から君へ」は毎週金曜、深夜0時52分~テレビ東京、テレビ大阪ほかにて放送中。(text:cinemacafe.net)
2018年05月18日新国立劇場開場20周年記念公演として新制作上演されるベートーヴェン《フィデリオ》がいよいよ開幕する。飯守泰次郎が新国立劇場芸術監督として指揮する最後の公演。演出は作曲家リヒャルト・ワーグナーの曽孫であり、バイロイト音楽祭総監督を務めるカタリーナ・ワーグナーだ。初日を5日後に控えた5月16日、新国立劇場内で記者懇談会に出席した。【チケット情報はこちら】《フィデリオ》は、政治犯として捕らえられた夫フロレスタンを助けるために、男装した妻レオノーレが刑務所に潜入するという救出劇。レオノーレの男性としての偽名が「フィデリオ」である。筋書き上は、敵もフィデリオが男だと信じきっているわけだが、オペラを観ている観客の全員が、それが女性であることを知っているという、ちょっとしたジレンマがある。演出上もそこはひとつのポイントと考えているようで、「男装についてみんなが私に質問する。よほど真実味に欠けると受け取られているのだと思う」と笑った。今回は、レオノーレが変装してフィデリオとなるプロセスを見せるという。ワーグナーだけの独創というわけではないが、観客にわかりやすく認識させる一助と受け取ってよさそうだ。昨秋の制作発表会見でも「大きなテーマは、いかに認識するか」だと述べていた彼女。ほかにも、多用されている台詞を最小限にカットすることで、物語の認識をスムーズにするように配慮するという。その一方で、物語を特定の時代や場所には設定しない。作品のテーマである「夫婦愛」や「自由の獲得」には、いつの時代でも、どの場所でも起こりうる普遍性があるからだ。「すべてに具体性を用意しているわけではなく、ご覧になる皆さんに示唆を与える、考える方向を提案するような演出要素を散りばめてある。最後は間違いなく、皆さんひとりひとりが何かしらを考える余地があるような、オープンな結末になっているので、ぜひ考えていただきたい」主役を演じるのは、リカルダ・メルベート(ソプラノ/レオノーレ役)とステファン・グールド(テノール/フロレスタン役)という、すでに新国立劇場でもおなじみの実力派のふたり。しかしワーグナーが唯一名前を挙げたキャストは、なんと合唱団だった。作品のどこに一番惹かれるかという問いに対して、「もちろんレオノーレやフロレスタンのアリアも素晴らしいけれども、とりわけ合唱のシーンが好き。そして、この劇場の合唱団はとても素晴らしい。本当に素晴らしくて、合唱シーンがよりいっそう好きになった」と語った彼女。第1幕の〈囚人の合唱〉やフィナーレの合唱など、《フィデリオ》は合唱の役割もとても重要なオペラだ。バイロイト音楽祭総監督を虜にした新国立劇場合唱団。なんとも頼もしい!新国立劇場の《フィデリオ》は、5月20日(日)、24日(木)、27日(日)、30日(水)、6月2日(土)の全5公演。取材・文:宮本明
2018年05月17日「宮本浩はひとことでいうと星。男だから感じるのかわからないけど、みんなが本当はこうしたいって思うことをやっていて、これだけ純粋なまま生きていける人は、僕が会ってきた人の中にはいなかった。この作品には生きるということが詰まっています」 放送中のドラマ『宮本から君へ』(テレビ東京ほかにて毎週金曜深夜0時52分~)で主人公のサラリーマン・宮本浩を演じる池松壮亮(27)は、作品の魅力をこう語る。 「傲慢ですけど、みんながずっと映像化しようとしてきた作品で、誰かが決着をつけなきゃいけないし、自分ができたらいいと思い続けてました」(池松・以下同) 作品への出演を決める際には、こだわりがあるそうだ。 「自分が面白いと思えるか、誰か大切な人に見せたいと思えるかで決めます。今回も自分が面白いと思ったし、視聴者に『宮本ファンです』って言われたら『いや僕のほうがファンです』と言えるから」 誰よりも宮本が好きな池松にとって、作品との出合いはどんなものなのだろうか。 「物語のいいところは、ごくまれに、ひょっとしたら自分の物語かもしれない、これは自分のためにあるのかもしれないという錯覚を起こすような出合いがあることなんです。僕にとって『宮本から君へ』はまさにこれは自分の物語かもしれないと思えた、思わせてくれた作品です。原作ファンにはそういう人がいっぱいいて、だからこそ何かをギリギリまでやって提供できる情熱が僕にもあったので、演じられると思いました」
2018年05月14日世界中から作曲委嘱が引きも切らない人気の現代作曲家・藤倉大。この秋東京で、彼に関連するコンサートが3本、続けざまに催される。英国から一時帰国中の藤倉本人が出席して記者懇談会があり、概要が発表された。【チケット情報はこちら】1977年生まれの藤倉大は、中学卒業後に英国に留学して作曲を学んだ。彼の音楽は、けっして耳当たりのよい柔和な響きの作風ではない。いわゆる現代音楽でありながら、多くの演奏家がその作品に魅せられ、聴衆の絶大な支持を得ている現実こそが、その魅力を示す凄みだと言えるだろう。一連のコンサートは、まず9月24日(月・祝)、昨年に続いて行なわれる東京芸術劇場の「ボンクリ・フェス2018」から。アーティスティック・ディレクターを藤倉が務める。「ボンクリ」とは「ボーン・クリエイティヴ(Born Creative)」の略。「人間は生まれながらにクリエイティヴだ」というコンセプトのもと、「赤ちゃんからシニアまで誰もが、朝から晩まで、新しい音楽を面白く聴ける」(藤倉)という複数のイベントによる1DAYフェスティバルだ。フェス全体は、坂本龍一や大友良英の作品などが演奏される17時半開演の「スペシャル・コンサート」と、その出演者たちが、子供たちにもわかりやすく説明を交えながら演奏する複数のワークショップ・コンサートを中心とする「デイタイム・プログラム」で構成される。「いろんな聴き方ができることをやりたくて、好きな奏者に声をかけたら、みんな乗り気で来てくれちゃった(笑)」と藤倉が言うように、ワークショップ部分は昨年から大幅に拡大された。細部については当日決まる部分もあり、藤倉は「クラシックのコンサートって、きっちり決まっていることが多いけど、わざとぼんやり、やわらかく作ってます」と、フレキシブルな自然体を強調した。続く10月20日(土)の「藤倉大個展」(Hakuju Hall)と、10月31日(水)の藤倉作曲のオペラ《ソラリス》の演奏会形式日本初演(東京芸術劇場)では藤倉作品をたっぷり聴ける。前者は委嘱作品初演を含む室内楽作品の個展。ホールの開館15周年記念公演でもある。一方の《ソラリス》は、2015年にパリで初演された藤倉の初オペラ。タルコフスキーによる映画化でも知られる、SF作家スタニスワフ・レムの小説『ソラリス』が原作だ。「いつかオペラの依頼が来たら『ソラリス』と決めていた」という藤倉だが、原作のSFとしての興味からではなく、すべての登場人物の内面の感情が描かれるこの文学作品を表現するのに、オペラこそが最適と考えたのだという。話題のオペラがいよいよ日本でヴェールを脱ぐ!藤倉は自身のホームページ上でスコアを公開しているから、閲覧してみると(たとえ眺めるだけでも)作曲家と作品への興味は、さらに掻き立てられるはず。今年の秋は藤倉大に注目。チケットの一般発売に先がけて、プリセールを実施。受付は4月21日(土)昼12時から27日(金)午後11時59分まで。取材・文:宮本明
2018年04月20日マジンガーZにサンバルカン、ギャバン……。アニメ・特撮音楽の巨匠、渡辺宙明(わたなべ・ちゅうめい)が生み出した“宙明サウンド”を、水木一郎、堀江美都子、串田アキラの三大アニソン歌手の歌声と、壮大なオーケストラで存分に堪能する贅沢なコンサート「渡辺宙明特集ヒーローオーケストラ~昭和の子どもたちへ~」が4月21日(土)に文京シビックホール大ホールで開催される。開催に先立って、17日に東京・浜離宮朝日ホールにてリハーサルが行われた。【チケット情報はこちら】総勢31名によるオーケストラ・トリプティークによって、『野球狂の詩』『あかるいサザエさん』『ローラーヒーロー・ムテキング』『時空戦士スピルバン』『マジンガーZ』と、昭和の子供たちを育てた数々の名曲が現代に蘇っていく。指揮を務める齊藤一郎は、的確な指揮で情熱的でノリの良い音楽を作っていた。その横で譜面を手にした渡辺宙明は、「とても良いメンバーが集まって嬉しいですね」と笑顔で優しく語りかけていた。『宇宙刑事シャリバン』の主題歌で現在もカラオケ人気の高いロックナンバー『強さは愛だ』では渡辺が「ここでドラムのフィルを入れてください」と指示を出し、『宇宙刑事ギャバン』では、シンセによって再現される琵琶のヴォリュームを調整。“宙明サウンド”といえば“マイナーペンタトニックスケール”が代名詞であることは間違いないが、『おれはグレートマジンガー』のイントロのティンパニや『太陽戦隊サンバルカン』のコンガなど、ビートの組み立てや打楽器のポジションなどにも細心の注意が払われていることがわかるリハーサルだった。何より驚かされたのは、92歳になる渡辺が全てのリハーサルに参加していることだ。リハーサルでは渡辺が自ら指揮をとり指導をする場面もあった。アニメ『ふたりはプリキュア』のヴォーカルアルバムにも参加するなど、今なお、現役の作・編曲家として現場で活躍している。そんな渡辺は、リハーサルを終えて、「40年前の曲だけど、自分で聞いてもちゃんとやってるなと感じましたね。僕はやっつけ仕事はやらないから、BGMもちゃんとしてますよね」と笑顔で語り、本番に向けて、「今日、オケではやってない掛け声とかは、黙っていても聴衆がやってくれると期待しています。お客さんも演奏に参加してもらえたら嬉しいですね。そして、盛り上がった最後に、皆さんで歌えたらいいなと思っています。そうなったら僕が指揮を振ろうかな」と、サプライズでの登壇も匂わせた。チケットは発売中。取材・文:永堀アツオ■渡辺宙明特集ヒーローオーケストラ~昭和の子どもたちへ~日時:4月21日(土)開演15時会場:文京シビックホール大ホール(東京都)出演者:渡辺宙明 / 水木一郎 / 堀江美都子 / 串田アキラ指揮:齊藤一郎演奏:オーケストラ・トリプティーク司会:西耕一
2018年04月19日エモーショナルな「歌」で心を揺さぶる豊かな表現意欲を、松田理奈はおそらくナチュラルに持っているヴァイオリニストだ。そんな彼女の今回のリサイタルのテーマは「愛」。「今まで組んできたプログラムとはまったく違うえぐり方。トライしてゆきたいです」と抱負を語る。【チケット情報はこちら】曲目は、前半にフォーレとエルガーの愛の小品と、イザイの結婚祝いのために書かれたフランクの《ヴァイオリン・ソナタ》。後半は、シューマンの小品とブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番《雨の歌》を組み合わせた。クララを巡るシューマンとブラームスの愛の歌たちだ。核となる2曲のソナタのカップリングでCDもリリースする。「ブラームスのソナタ全3曲を録音してゆく予定ですが、3曲それぞれに別のストーリーをフィーチャーしたいと考えました。その第1弾として第1番をフランクと組み合わせたのも、『愛』がテーマなのです」末子フェリックスが早世して悲しむクララのためにブラームスが捧げたとされるのがヴァイオリン・ソナタ第1番。「悲しく暗い第3楽章の、最後の一段に出てくる主題にすべてがかかっている。それを聴いて、どれだけあたたかい気持ちになっていただけるかが自分に課した課題です。そこに向けてしっかり歌い込めるようにしてゆきたい」数年前まで、ブラームスの盟友ヨーゼフ・ヨアヒムが使用していたガダニーニを弾いていたことで、さまざまな気づきを得た。「楽譜に不自然に弱音の指示がある箇所が、ヨアヒムの楽器だと特別によく鳴る音なんです。ブラームスがヨアヒムの演奏を聴いて、鳴りすぎと感じて書き加えたのかもしれませんね。それを実際の楽器を通して感じることができた経験はとても貴重でした」CDのレコーディング中には、フランクのソナタで不思議な体験をしたという。「第4楽章を弾いていたら突然、今まで苦手だった人のイメージが、感謝のイメージと一緒にわーっと浮かんできたんです。そうか、感謝の気持ちを忘れずにというメッセージが込められた曲なのかと感じました。10年以上弾いてきて、結婚祝いにしては、あのドロドロした第3楽章はなんだろうと、ずっと疑問だったんです(笑)。“感謝”を感じてからは、若い勢いで弾きがちな第4楽章にも、ぬくもりが出てきたような気がします」最近「クラシック音楽が楽しくて仕方がない」という。「あらためて“あれ?なんて素敵な世界なんだろう”と感じています。音楽に触れる時間が昔よりも貴重になったのがよかったのかも。ひとつの曲にいろんな解釈があって、正解がないからこそ楽しい。聴いてくださる方の解釈もそれぞれ。私がトライするのは、最後にホッとして帰っていただくこと。相手を思いやるあたたかい気持ちになっていただけるように。それが願いです」リサイタルは5月18日(金)東京・浜離宮朝日ホールにて開催。チケットは発売中。取材・文:宮本明
2018年04月18日"ホリエモン"こと実業家の堀江貴文が6日、池松壮亮主演のテレビ東京系新ドラマ25『宮本から君へ』(4月6日スタート 毎週金曜24:52~)を視聴し、コメントを寄せた。同作は1990 年から1994年まで講談社「モーニング」にて連載され、1992年に第38回小学館漫画賞青年一般部門を受賞した新井英樹のコミックを実写化。文具メーカー「マルキタ」の新人社員、恋にも仕事にも不器用な宮本浩(池松)の物語を描く。監督・脚本は映画『ディストラクション・ベイビーズ』で注目を集める真利子哲也監督が務める。原作のファンだという堀江。「宮本から君へ。もう20年以上前の作品をどうやって現代的な文脈で描くのかなと思ったら、スマホなどは使われてるものの、原作のまんまのガチまっすぐな青春群像劇的に描かれててビビった」と語った。第5話には、原作者の新井が宮本の父親 宮本武夫役として出演することも明らかに。「真利子くん、この実写化を考えた時からずいぶん長い期間"悩んでる""どうなるかわからない"と聞かされていて、やれることは全部協力するって言った手前、出演の話が来た時に、『何の冗談だ? 何の罰ゲームだ?』と思った」と心境を明かした。実際に撮影し、池松の姿を見た新井は「彼の宮本としての表情を見た時に"あ、完全にいける!"って」と確信したという。「なんか本当にまだ何も知らない男の子っていう感じが、すごくその表情にも出ていて、かなり楽しみですね」と期待を寄せた。
2018年04月06日東京交響楽団の2018/19シーズンが、第659回定期演奏会(4月14日(土)サントリーホール)と川崎定期演奏会第65回(4月15日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール)で幕を開ける。タクトをとるのは音楽監督のジョナサン・ノット。マーラーの交響曲第10番アダージョとブルックナーの交響曲第9番という、ふたりの大作曲家が、人生の最後に未完のままのこした遺作の組み合わせだ。【チケット情報はこちら】「作曲家の遺作は、迫り来るあの世の気配を感じさせる。そこに興味を惹かれるのです」(昨秋行なわれたシーズン・ラインナップ発表会見でのノットの発言から。以下同)マーラーとブルックナーはしばしば比較して語られる存在でもある。「面白いもので、指揮者はマーラー派かブルックナー派か、好みが分かれることが多い。その両者を同じプログラムに乗せるとどうなるのか。私にとっても初めての試みです」(ノット)ノットと東響はこれまで、マーラーの交響曲第2、3、8、9番を、ブルックナーの交響曲第3、5、7、8番を演奏している。ノットは言う。「マーラーの《アダージョ》は第9番の経験がなければ演奏できない。過去の演奏経験によって作品を照らす光は違って見える。だからこそ、作品の背景や前後関係にはいつも気を配っています」新シーズンは、さらにこのあとも意欲的なプログラムが並ぶ。まず5月は、飯森範親によるウド・ツィンマーマン(1943~)の歌劇《白いバラ》日本初演(演奏会形式)。1943年、反ナチ運動で逮捕・処刑されたミュンヘンの学生、ハンスとゾフィーのショル兄妹の物語だ。彼らが所属した非暴力レジスタンス・グループの名前が「白いバラ」だった。作品は1967年に作曲されたのち、1985年に台本も差し替えて全面改稿された。この第2稿は1986年のハンブルク州立歌劇場での初演以来、すでに100以上の異なる演出で上演されている20世紀オペラの成功作。待望の日本初演が実現する。6月のシューマンの未完成交響曲《ツヴィッカウ》を挟んで、7月には再びノットが登場してエルガーの《ゲロンティアスの夢》を振る。合唱王国イギリスを代表する宗教オラトリオだが、日本での演奏はこれでまだ6度目。東響としては13年ぶりの演奏となる。イギリス人ながら、「これまでイギリス音楽はあまり演奏していない。身近すぎるのかも」というノット。実は少年時代、エルガーの故郷ウスターの大聖堂聖歌隊で歌っていた。「子供の頃から非常に興味深く何度も聴いた作品。私は歌があまりうまくなかったので指揮者になってしまったが(笑)、東京交響楽団には東響コーラスという素晴らしい合唱団があるので、そろそろ腹をくくってエルガーに挑もうと思います」(ノット)レアな作品が次々に登場する春~夏の東響定期に大きな注目が集まりそうだ。未知の作品を生で共有する体験は、音楽を聴く大きな喜びのひとつ。貴重なチャンスを見逃すな!取材・文:宮本明
2018年04月02日上岡敏之の音楽監督3年目となる新日本フィルハーモニー交響楽団の2018/19シーズン定期演奏会ラインナップが決定、上岡やソロ・コンサートマスター崔文洙らが出席して発表会見が開かれた(3月26日・すみだトリフォニーホール)。【チケット情報はこちら】宝石の名前を冠した3つのシリーズ、「トパーズ」(8プログラム16公演)、「ジェイド」(8プログラム8公演)、金曜と土曜に開かれる、午後のシリーズ「ルビー」(8プログラム16公演)で構成される新日本フィル定期。「はっきりした色ではなくグレー系で統一した」(上岡)という「トパーズ」は、楽団の柱とも言える、本拠地すみだトリフォニーホールでのシリーズだ。上岡は、9月のシーズン開幕を飾るR・シュトラウス・プロ(第593回定期)、ラヴェルとその同時代の作曲家アルベリク・マニャールが並ぶスパイスの効いたフランス・プロ(第601回)、そして恒例のお楽しみ、年間の来場者アンケートをもとに選曲するリクエスト・コンサート(第608回)を振る。マグヌス・リンドベルイのフィンランド独立百年の祝典曲《タイム・イン・フライト》(2017年)日本初演や(第595回/ハンヌ・リントゥ指揮)、フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮のメンデルスゾーン&シューマン(第606回)も注目。上岡が「発散だけではない、音楽を深めたスケール感」を考慮したと語ったのは、サントリーホールでの「ジェイド」。ブルックナーの「遺言」どおりに未完の交響曲第9番と《テ・デウム》を並べた第596回、マーラー《復活》(第602回)、《運命の歌》《哀悼の歌》《ドイツ・レクイエム》というブラームス合唱曲三昧の第607回と、合唱の入ったプログラムに目を惹かれる(第596回は新国立劇場合唱団、ほかは栗友会合唱団)。名曲シリーズ「新・クラシックへの扉」を前身とする「ルビー」は、リーズナブルな価格設定は踏襲しつつ、「名曲」の概念を聴衆と一緒に広げていきたいという上岡の意志のもと、聴きごたえある真の「名曲」がずらり。現シーズンに続き海外から話題の女性指揮者を招くのも、今後の特徴のひとつになりそうだ。来季は、スウェーデンの合唱指揮者ソフィ・イェアンニン(2019年2月/ハイドン《四季》)と、ニューヨーク生まれのメキシコ美人指揮者アロンドラ・デ・ラ・パーラ(2019年7月/ヒナステラ&ファリャ)のふたりが登場する。「オーケストラがさらに一歩、音楽の中に入っていけるような、それが聴衆のみなさんに伝わるような3年目にできたら」という上岡。会見でコンサートマスターの崔も語っていたが、どんなに繰り返し演奏した作品でも上岡とともに丁寧にスコアを読み直してゆくような念入りなリハーサルによって、オーケストラの音も音楽も確実に変化している。楽団創設以来の持ち味である際立った個性に、さらなる磨きをかける上岡シェフ。その3年目シーズンも目が離せない。取材・文:宮本明
2018年03月28日高校1年生だった2016年に、国内最高峰「日本音楽コンクール」に最年少15歳で優勝した戸澤采紀(とざわ・さき)。昨年はスイスのティボール・ヴァルガ国際ヴァイオリン・コンクールでも海外初挑戦で見事最高位(1位なしの2位)に輝き、その現在進行形の躍進に音楽ファンが注目する期待の新人音楽家だ。9月21日(金)に行われる東京・浜離宮朝日ホールでのリサイタルは、その実績を携えての本格プロ・デビューと言ってよいだろう。【チケット情報はこちら】モーツァルト、ベートーヴェンから、イザイ、プーランクに至るヴァラエティ豊かなプログラムを組んだ。フランスの名手ジェラール・プーレに師事していることもあり、プーランクなどのフランス音楽は得意のレパートリー。「プーランクのヴァイオリン・ソナタは、日本音楽コンクールの課題曲の一曲でした。スペイン内戦で殺された詩人ガルシア・ロルカに捧げた、ものすごく重い内容の、力のある曲なので、意味のない歌い回しやニュアンスがあってはなりません。感じたことを音楽にできるだけ直結させて、自分の中で消化して発展させたものを、コンクールからの2年分の成長としてお客さんに届けられたら」取材中、彼女はこの「意味」という言葉を繰り返した。「意味のある演奏」「意味のある表現」。これ見よがしで表面的な技術の誇示ではない、ニュアンスひとつひとつに理由のある表現と言えばよいだろうか。「他人の真似をしようと思わない」というが、「すごい」と感じるのが、気鋭レオニダス・カヴァコスだそう。「彼の音楽には無駄がありません。音楽の組み立て方が立体的で、ものすごく考えられている。どんなに長い時間聴いていても飽きません」。かといって、いつも理屈を考えて弾くのをよしとするのではない。「意味」は練習で作り上げて身体に染み込ませ、本番では共演者の息づかいや客席の雰囲気を感じながら弾く。そのバランスが大事だと語る。両親ともヴァイオリニスト。父親は東京シティ・フィルの現コンサートマスター。最初ピアノを習ったが、家庭にはいつもオーケストラ音楽があった。6歳の時、両親が出演したマーラーの交響曲第7番《夜の歌》に震えた。「ピアノではあそこに入れない!」。だから今も、ヴァイオリンを弾いているのはオーケストラに入るためだと言い切る。「日本だと、ソリストがオーケストラを?と少し意外に思われるかもしれないですが、私が考える一流演奏家は、オケもソロも室内楽もできる人。それを目指しています」「意味」へのこだわりとともに、2月に17歳になったばかりの少女の、ぶれない音楽観がなんともまぶしく、頼もしい。今後数年間はコンクール挑戦を続けるというから、近いうちに私たちは、いくつかの大きな成果を知らされることになるのだろう。まずはその洋洋たる前途を確信させられるはずの9月のリサイタル。待ち遠しい。取材・文:宮本明
2018年03月16日ゴールデン・ウィークのクラシック・イベントとしてすっかり定着したフランス生まれの音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ」。13回目の今年も5月3日(木・祝)・4日(金・祝)・5日(土・祝)の3日間にわたって開催されるが、毎年数十万人の聴衆を集めるモンスター音楽祭が今年、大きく変わろうとしている。これまで有楽町の東京国際フォーラムを中心に、丸の内一帯で行なわれてきたが、今年、池袋が新たに加わることに。2月16日、音楽祭アーティスティック・ディレクターのルネ・マルタンや、高野之夫・豊島区長らが出席して、概要の発表会見が開かれた。【チケット情報はこちら】新たに加わる池袋エリアの会場は、東京芸術劇場、西口公園、南池袋公園の3か所。有料公演は東京芸術劇場内のコンサートホール、シアターイースト、シアターウエストの3つのホールを使って、53公演が行なわれる。丸の内エリアの有料公演は昨年とほぼ同数の125公演なので、池袋エリアの分、まるまる拡大した格好だ。この日の会見は2015年に落成した豊島区の新庁舎で行なわれたが、旧庁舎の跡地には、2019年秋、さまざまな目的別の8つの劇場で構成される「Hareza(ハレザ)池袋」がオープン予定で、高野区長の口ぶりからは、将来的にはその新施設の活用も視野に入れている模様。東京芸術劇場前の池袋西口公園も野外劇場として再整備される予定だから、さらなる新展開の予感も含めての新参入ということになりそうだ。ルネ・マルタン・ディレクターは、ビジネス街・丸の内と比べて、池袋の若者の多さに注目しているようで、「両方の聴衆に混ざってほしい」と希望していた。実際、東京国際フォーラムと東京芸術劇場は東京メトロ有楽町線なら19分。しかもどちらも駅直結。もし雨が降っても濡れずに移動できる。ぜひとも両エリアを股にかけて楽しんでしまおう。今年のテーマは「モンド・ヌーヴォー新しい世界へ」。新たな旅立ちを迎える音楽祭にふさわしいテーマとも言えるが、実はベースとなっているコンセプトは「Exile=亡命」で、20世紀に政治的な理由で祖国を離れた亡命作曲家たちをはじめ、中世から現代まで、さまざまな理由で母国を旅立って新しい世界に飛び込んだ作曲家たちにスポットを当てる。例年どおり、世界的な大物から、マルタンの目と耳が選りすぐった新たな才能まで、多彩なアーティストたちのハイ・クォリティなパフォーマンスが繰り広げられる3日間だ。なお今回の新局面を迎えるのに伴って、音楽祭名が「ラ・フォル・ジュルネTOKYO」に改称(旧称「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」)、佐藤可士和による新デザインのロゴも発表された。進化する「ラ・フォル・ジュルネ」。いっそう目が離せない存在になりそうだ。チケットは3月17日(土)より発売開始。なお、一般発売に先がけて、3月2日(金)より先行を実施。取材・文:宮本明
2018年02月19日布施明が毎年行っている、恒例の秋春ツアー。年をまたいで継続中である、この『AKIRA FUSE LIVE 2017-2018ROUTE 70 -来し方行く末‐』の終盤戦を飾る東京公演が、来る3月10日(土)、Bunkamuraオーチャードホールにて開催される。すでに10年以上も毎年行っているという、この恒例の秋春ツアーの意味について、彼はこんなふうに語っている。【チケット情報はこちら】「やっぱり、自分にとっては、ライブがメインなんですよね。テレビとか音源とかいろいろ活動はあるけど、もともとジャズ喫茶と言われた場所から出てきた男なので(笑)。お客さんを前にして歌うっていうのが、やっぱり好きなんです。あと、ライブっていうのは、本当に“生き物”なんですよね。同じ曲を歌っていても、その年、その月で、どんどん変わっていく。そこが自分で歌っていても、すごく面白いところなんです」“ROUTE 70 -来し方行く末-”とサブタイトルのつけられた今回のツアー。そこには、彼のどんな思いが込められているのだろうか。「実は、このツアーの最中に70歳になりまして。で、そういうのをうたったほうがいいって、スタッフは言うんだけど、自分の年齢なんて声高に言いたくないじゃないですか(笑)。なので、“ROUTE 70”……“国道70線”みたいな言い方にさせてもらって。で、“来し方行く末”っていうのは、まさに今まで来た道と、これから行く先みたいなものです。今まで来た道は、もう変えることはできないけれど、それを全部認めた上で真似しないことが大事というか。やっぱり、僕ら団塊の世代の人間は、1ミリでもいいから前に行きたいみたいな思いが、すごく強いんですよね」2015年に、デビュー50周年を迎えた布施。その伸びやかで圧倒的な歌声は、今も健在だ。『君は薔薇より美しい』、『霧の摩周湖』、『シクラメンのかほり』、『My Way』など、ヒット曲や人気曲を披露することが、あらかじめ告知されているこのライブ。しかしそれは、50周年のときのような、いわゆる集大成然としたライブとは、少々趣が異なるようだ。「50周年のコンサートで、ひとつ集大成みたいなものをやったから、今回もそういうことをちょっとは意識しようと思ったんだけど……結局そうはならなかったね(笑)。僕自身、やっぱり歩み続けているわけだから。今年は、新しいアルバムを出せるよう、今いろいろと準備をしているので、今回のライブでは、そのあたりの変化を見てもらえたら嬉しいです。あと、今回のツアーは、去年の8月の終わりから同じメンバーでずっとやっているので、この春のライブは間違いなくいいものになると思います」チケットは発売中。取材・文:麦倉正樹
2018年02月14日開場20周年の記念シーズン真っ只中の新国立劇場。早くも来季2018/19シーズンの公演ラインアップが決定し、発表会見が開かれた(1月11日・新国立劇場)。オペラ部門では大野和士新芸術監督が登壇。施政方針ともいうべき5つの目標を掲げた。(1)レパートリーの拡充(新制作を現状の1シーズン3演目から4演目に増加)(2)日本人作曲家委嘱シリーズ(隔年)の開始(3)1幕物オペラ×2本のプロダクション《通称:ダブルビル)、あるいはバロック・オペラをシーズンごとに交代で制作(4)旬の演出家・歌手の起用(5)国内外の劇場と積極的にコラボ、東京から新たなプロダクションを発信。つまり、魅力的なレパートリーを拡充し、それを東京から世界のオペラハウスに輸出しようという構想だ。大野によれば、今後のプログラムの組み替えを考えると、現状の制作ペースではレパートリーが足りなくなるという問題がある。たとえば海外の劇場のプロダクションをレンタルする場合、契約上再演に制限があるので、今後は上演権ごと買い取って、いつでも上演可能な新国立劇場のレパートリーとすることも検討していく。大胆な大盤振る舞いのようにも聞こえるが、それによって制作コストが高騰するとは限らず、劇場の財産たる自由に上演できるレパートリーが蓄積されるプラスのほうが大きいという。海外の劇場とのコラボ構想も含めて、このあたりは、世界各地のオペラハウスで豊富な実績を持つ大野ならではの人脈とノウハウがあってこその戦略だろう。大きく期待が膨らむ。オペラ・ラインアップ(*印は新制作)10月モーツァルト《魔笛》*11月~12月 ビゼー《カルメン》12月 ヴェルディ《ファルスタッフ》1~2月 ワーグナー《タンホイザー》2月 西村朗《紫苑物語》(委嘱作品世界初演)*3月 マスネ《ウェルテル》4月 ツェムリンスキー《フィレンツェの悲劇》&プッチーニ《ジャンニ・スキッキ》*5月 モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》6月 プッチーニ《蝶々夫人》7月 プッチーニ《トゥーランドット》*大野が特に力を入れて語ったのは、日本人作曲家委嘱シリーズ第1弾の西村作品。《紫苑物語》は石川淳の小説が原作。作曲の西村、台本を担当する佐々木幹郎とともにすでに2年前から検討を重ねてきた。そして、大野が「現在世界で最も認められているオペラ演出家」と信頼を寄せる笈田ヨシを起用。《魔笛》は話題のウィリアム・ケントリッジの演出。映像を大胆に活用し、世界中で大人気のプロダクション。《フィレンツェの悲劇》《ジャンニ・スキッキ》は新機軸のダブルビル・シリーズの第一弾。《トゥーランドット》は、東京2020オリンピック・パラリンピックへ向けての東京文化会館との共同企画「オペラ夏の祭典2019-20」の一環。国と都が、文化創造でもタッグを組む。世界中の目がトーキョーに集まる2020年を、そしてその先の新国立劇場の未来を見据えて、大野体制はもう動き始めている。取材・文:宮本明
2018年01月12日