昨年、新橋演舞場で上演されたスーパー歌舞伎セカンド「ワンピース」では怪我で休演となった市川猿之助の代役として、主役・ルフィを演じた尾上右近。また今年8月には自身初となる現代劇『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル~スプーン一杯の水、それは一歩を踏み出すための人生のレシピ~』で主演するなど活躍の場を広げている右近だが、「清元」として、今年2月に七代目 清本栄寿太夫という名を襲名していたことをご存知だろうか。【チケット情報はこちら】「清元」とは、語りを担当する太夫と、演奏の三味線方で構成された、歌舞伎舞踊の伴奏等を担当する「清元節」という浄瑠璃の一派。高い音域を持って、歌舞伎の世界を彩る詞章を、語る役割を持つ。その清元の家に生まれ、今年2月には清本栄寿太夫の名前も襲名した右近は、この襲名は歌舞伎俳優との異例の両立となるだけでなく、そして自身も「思っていたよりも早く実現した」と語るとおり、11月の歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」では歌舞伎俳優、清元の二刀流で歌舞伎座に立つことになる。今回の俳優、清元の両出演について右近は「父、菊五郎のおじさん、また諸先輩方の胸を借りて初出演ということになりました。菊五郎のおじさんの舞台で初舞台を踏める喜び、父の横に並べる喜び、そして『十六夜清心』という責任の大きい作品で初舞台を踏める喜び、いろんな喜びが重なりました」と語る。『十六夜清心』では太夫(語り)を務める。演目について、「名曲ですよね。お芝居の曲としての一面が強く、脇が清心の気持ちを歌う。役者として修行をつませていただいた、菊五郎のおじさんの気持ちを語る立場を担えると言うのがすごく嬉しい。こんな日が来るとは思わなかったです」と話す。9月末からすでに稽古をはじめており、その音域にのどを慣らしているという。「清元は、歌舞伎に使われる歌の中でも、ナレーションをかねた歌う役のようなポジション。音楽的にもオシャレで、節回しが細かかったり、高音が多かったり、音として楽しめると思います」昼の部では歌舞伎俳優として『お江戸みやげ』お紺役、清元として『十六夜清心』に、出演。夜の部では歌舞伎俳優として『法界坊』におくみ役で出演する。公演は11月2日(金)から26日(月)まで、歌舞伎座にて。チケットは現在発売中。
2018年10月12日演劇、ミュージカル、伝統芸能など、舞台に関する最新情報やインタビューをお届けするフリーマガジン「ステージぴあ関西版」。10月1日発行の最新号で表紙を飾るのは、11月に新開場する京都・南座で襲名披露を行う市川染五郎。インタビューでは、出演する『勧進帳』、『連獅子』に向けての意気込みや、歌舞伎への思いを聞いた。「當る亥歳 吉例顔見世興行」チケット情報はこちらほか、現代能楽集『竹取』、KERA・MAP #008『修道女たち』、M&Oplaysプロデュース『ロミオとジュリエット』などの脚本・演出家、出演者へのインタビューや、10月6日(土)に開幕する「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」のオススメ公演をピックアップするなど、今号もミュージカルから小劇場、伝統芸能までさまざまなジャンルのインタビューや公演情報をお届け。さらに、松本白鸚、松本幸四郎、市川染五郎の襲名披露興行「吉例顔見世興行」11月公演をはじめ、蒼井優出演の3人だけで繰り広げる濃密な舞台『スカイライト』など、注目公演の読者先行予約も実施!この機会にぜひチケット入手を。「ステージぴあ関西版」10+11月号はチケットぴあカウンター、劇場などで配布中。WEB上(でも全ページ無料でご覧いただけます。
2018年10月02日片岡仁左衛門が、芸術祭十月大歌舞伎で『助六曲輪初桜』で主役・花川戸助六を、東京では仁左衛門襲名以来20年ぶりに演じる。公演に先立って、合同取材会が開かれた。【その他の画像はこちら】蛇の目傘を手に花道から颯爽と登場し、その場にいる全ての花魁たちからキセルを差し出される、江戸一の色男・助六は、顔、声、姿と三拍子揃う仁左衛門にはうってつけの役どころ。かつて上方役者ながら自身の襲名披露にこの演目を選んだのも、自然なことにすら思えてしまう。「立役の役者はほとんどがやりたい役でしょうね」と仁左衛門は語る。「よく、大阪の役者、江戸の役者と言いますが、私は日本の役者。全てやりたかった。だから“新しい仁左衛門はこういう路線を行きますよ”ということで選んだんです。今は私が、助六を演じる最年長かなあ? この歳で勤められるのも有難いし、勤めておかないともう勤められなくなるし。千秋楽を迎えてもまだ課題は残っていると思いますけれども、私としては集大成の心構えで臨みたいですね」「十八世中村勘三郎七回忌追善」と銘打つ今年の十月大歌舞伎。これまで仁左衛門の助六では必ず相手役・揚巻を勤めてきた坂東玉三郎は母・満江役に回り、新たに中村七之助が揚巻役に。実は助六の兄である白酒売新兵衛役には、中村勘九郎が扮する。「中村屋さんの家と『助六』は、私にとって繋がりが非常に深いんです。この演目を私が初演した時(1983年)は中村屋の十七代目のおじ様(中村勘三郎)に教えていただいて、その次にやった時(1991年)には十八代目(勘三郎、当時は勘九郎)が白酒売で出てくれました。十八代目は“自分も助六をやりたい”“やる時には兄ちゃん教えてよ”と。それが実現できなかった残念さ。今回は、勘九郎くんに思いを繋げて、傍で観ていてほしいと思いますし、七之助くんには、大和屋さん(玉三郎)の指導を受けて、ゆくゆくは揚巻役者になってほしい。そう期待しています」仁左衛門といえば、華・様式美とリアルな心理描写の両方を見事に造形する役者。彼はどのようにこの芝居と向き合うのだろうか。「私が台詞において1番大事にしているのは、言葉を伝えるのではなく思いを伝えること。言葉に気持ちを乗せれば、台詞回しも変わってきますから。この助六は心理を深く掘り下げるというものではないけれど、かと言って上辺だけ、華やかさだけではダメ。その兼ね合いが大事ですよね。お客様に楽しんでいただくために、まずは役者が気持ちよく演じることが大事だとも思っています」来年で、初舞台から70年。「短かったような、長かったような。大先輩の域に行き着けていない自分が恥ずかしい」と語るが、瑞々しさを湛えながら豊かな実りを見せるその芸は、いよいよ見逃せないものとなっている。公演は10月1日(月)から25日(木)まで、東京・歌舞伎座にて。取材・文:高橋彩子
2018年10月02日様々な振付家がバレエ化している『シンデレラ』。だが、男性による白鳥・黒鳥によるあのメガヒット作『白鳥の湖』を生んだ振付家マシュー・ボーンによる『シンデレラ』はひと味違う。物語の舞台は第二次世界大戦下のロンドン。ナチス・ドイツがイギリスに対して行った大規模な空襲、「ロンドン大空襲」の中、シンデレラと英国空軍のパイロットの恋が進行するのだ。【チケット情報はこちら】「『シンデレラ』は、1995年に初演した私の『白鳥の湖』の後に振り付けた最初の作品。1997年に初演され、2010年に改訂して今に至るのですが、パーソナルな家族の繋がりを描いている点や、戦時中という設定を、私自身、とても気に入っています」と、マシュー・ボーンは語る。「この作品は、戦時中に家族をロンドンに集めていた私の祖父母に捧げたものです。大空襲を生き延びた私の両親は、あの頃の話をするのが好きでした。当時の興奮、恐怖、そして、友情……。みんな亡くなってしまいましたが、この作品には、私の家族だけでなく、戦時中に犠牲となった全ての人々、そして戦時中に愛を見つけ、あるいは失なった人々の精神が息づいていると思います」ボーンと美術・衣裳のレズ・ブラザーストンはこの作品に、自身の持つ映画愛を込めたという。バレエでしばしばグロテスクに描かれるシンデレラの継母も、このプロダクションでは映画女優並みに華麗でファッショナブルだ。「レズは細かく時代考証を行い、1940年代の日常着と映画スターの衣裳を織り交ぜました。そもそも人の醜さとは、外面ではなく内面から表れるもの。我々が描く継母や義理の姉妹や兄弟は皆、利己的で思いやりがないですが、彼らには変わる力があるのだし、きっとそうなることでしょう!」ボーンもブラザーストンもロンドン出身だけあって、舞台は真に迫る美しさ。シンデレラは、怪我をして彼女の家に避難してきたパイロットと恋に落ち、エンジェルの導きによって舞踏会で再会するのだが、その舞踏会が開かれるのは実在のナイトクラブ、カフェ・ド・パリ。この他、ロンドンの街路やテムズ川など、ロンドンの様々な名所が描かれる。ラストでは、パディントン駅を舞台に、シンデレラ・ストーリーが一回性のものではなく繰り返されるものであることを示す演出も。「私は、この物語が戦時下で繰り広げられたたくさんのエピソードや関係性の一つに過ぎないことを表すために、舞台を鉄道駅に設定しました。エンジェルはここで、夢に近づくために少しだけ助けが必要な孤独な魂の持ち主を、再び探し始めるのです」世界的な振付家が特別な思いを注いだ『シンデレラ』をお見逃しなく。公演は10月3日(水)から14日(日)まで、 東京・東急シアターオーブにて上演。チケットは発売中。取材・文:高橋彩子MATTHEW BOURNE’S CINDERELLA. Andrew Monaghan ’Harry’, Ashley Shaw ’Cinderella’ and The Company. Photo by Johan Persson
2018年09月28日ももいろクローバーZのジュークボックスミュージカル『ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?』が9月24日に開幕、それに先がけ初日前会見と公開舞台稽古が行われ、会見には百田夏菜子、玉井詩織、高城れに、佐々木彩夏(以上、ももいろクローバーZ)、妃海風、シルビア・グラブ、演出の本広克行が登壇した。【チケット情報はこちら】2015年公開の映画・舞台『幕が上がる』で、ももいろクローバーZ(以下、ももクロ)とタッグを組んだ本広が演出、ラッパ屋の鈴木聡が脚本を手掛ける本作は、ももクロの楽曲をたっぷりと織り込んだジュークボックスミュージカル。ダンス大会を目前に交通事故に巻き込まれた高校生をももクロの面々が、彼女たちを見守る天使を妃海風とシルビア・グラブが演じる。会見ではまず本広が「ミュージカルの演出は初めて。こんなに楽しいものだと思わなかった」とコメント。「どういう物語をつくりだしたら彼女たちが面白くなるかなと試行錯誤した」(本広)という本作について妃海は「ミュージカルのようでライブのような興奮する舞台」、シルビアも「普段やっているミュージカル作品とは全く異なる感覚になる、新ジャンルのミュージカル」と語った。そんなオリジナルな作品の開幕を目前に百田は「今ここに来るまでのエレベーターの中でもずっとダメ出しを受けていました(笑)。それぐらいギリギリまで詰めて詰めて、素敵な作品になるように全力でやっているので、ぜひたくさんの方に楽しんでいただけたらと思います」、玉井は「3年ぶりの舞台、ミュージカル初挑戦ということで、苦戦しながらもシルビアさん、妃海さんに勉強させていただき稽古してきました。たくさんの方に楽しんでもらえる舞台になったらいいなと思います」、高城は「パラレルワールド、夢、死後の世界と出てくるワードはファンタジーですが、実はすごく奥深いテーマになっています。それを感じ取ってもらえるように、私たちもがんばります」、佐々木は「ももクロらしさが出せるシーンとか、いつもと違う私たちが見られるシーンとか、やっていてとても楽しいです。観てくれた皆さんの生活や日々が充実するような舞台になったらいいなと思います」とそれぞれ意気込みを語った。ももクロの楽曲が独特な存在感を放つ本作。4人で歌う曲、ソロで歌う曲、メンバー以外が歌う曲など、この舞台ならではの歌唱そしてダンスは、ももクロの楽曲を聴いてきたファンこそ新たな体験になるはず。どの曲がどんなふうに登場するかもぜひ楽しみに、劇場に足を運んでほしい。10月12日(金)配信開始予定の新曲『天国のでたらめ』も披露される本作は、10月8日(月・祝)まで千葉・舞浜アンフィシアターにて上演中。取材・文:中川實穗
2018年09月25日人気アイドルのももいろクローバーZ(以下、ももクロ)が主演するジュークボックス・ミュージカル「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」。ももクロにとってミュージカルは初挑戦。9月24日(月・祝)に開幕を控えるその稽古場を訪ねた。【チケット情報はこちら】前回の初舞台作品『幕が上がる』は平田オリザ脚本のストレートプレイだったが、今作はももクロ自身の楽曲を劇中にふんだんに使ったジュークボックス・ミュージカル。メンバーの百田夏菜子、玉井詩織、高城れに、佐々木彩夏はそれぞれカナコ、シオリ、レニ、アヤカと自身と同名の役に扮して演じる。物語は、事故によって命を失った4人が、それぞれ別々のパラレルワールドに転生しながらも、強い絆によって再び出会っていく。この日の稽古は、転生した4人がカナコの働きによって再び出会い、ほかの新しいメンバーとともにアイドルとして成長していくシーン。動きの段取りを確認しながら、広い舞台の上でどのように動いていくかを演出の本広克行が全体を見ながら、自分も舞台上に立って役者と近い距離で演出をつけていく。身近な位置にいる本広に対して、メンバーも役の気持ちになって、こうしたほうが気持ちに合わせてセリフを言える、動きができる、といった意見を出しながら、コミュニケーションをとって場面を作っていくのが印象的だ。メンバーをはじめ、若い出演者の多い中、舞台表現の幅を大きく広げているのはシルビア・グラブ、妃海風というふたりの経験豊かなミュージカル女優の存在だ。単に演技が上手いということだけでなく、コミカルに動きながら物語の進行を円滑にしたり、ときに本広を驚かせるよう演技を提示して物語にアクセントをつけていく。ふたりの演技にメンバーも触発されながら、それに負けまいと様々なアイデアをだしていく様子には、これから本番に向けてさらにシーンが練り上げられていくだろうクリエイティブな雰囲気が感じられる。また、稽古場を見回して改めて感じるのは、半円形のオープンステージや、回転舞台といった、会場となる舞浜アンフィシアターならではの様々な仕掛けを利用した演出。ミュージカルでありながらも、まさに仕掛けいっぱいのももクロのライブを連想させる。歌に、演技に、ももクロの4人は、ミュージカルでも私たちを楽しませてくれそうだ。公演は9月24日(月・休)から10月8日(月・祝)まで千葉・舞浜アンフィシアターにて。チケットは発売中。
2018年09月21日落語家・笑福亭鶴瓶の古典落語愛がとまらない。正確に記すと、2年前&3年前の『山名屋浦里』は江戸時代を舞台にしているとはいえタモリ氏原案の新作落語(創作落語)だったし、『青木先生』など、自身の経験を落語化した噺も得意な人ではある。けれど、昨年の『妾馬(めかうま)』に続き、『徂徠豆腐(そらいどうふ)』という古典を今回の落語会のメインに据える笑福亭鶴瓶に、その魅力から話を聞いた。【チケット情報はこちら】「僕が好きだなぁと思う古典落語は、やっぱり情のある噺なんです。『徂徠豆腐』で言えば“ごはんを食べられないよりも辛いのは、自分が心に決めたことを成せずに死んでいくこと”というテーマに情を込められたらなぁと。しかも、説教くさくならずにね。その点で心強いのが大阪弁です。大阪弁って、目線が低いというか、説教くさくなりようがないでしょ。『ほら、あの、それであれやな』みたいなね(笑)。なにを言うてるかわからへんけど、だからこその情も出ると思うんです」稽古でこだわるのは、「観客の頭の中で映像化される落語になっているか否か」。最近では、大河ドラマ『西郷どん』の岩倉具視役が話題となるなど、当代きっての個性派俳優でもあるのだから、そのこだわりにも説得力がある。「大河という縄跳びの輪っかに入れるかどうかというのは、すっごく心配でした。最初の頃は鈴木亮平にもボロっかす言われてましたけど、まぁ、なんとか輪っかには入れてもらえて。仲がよかったり、お世話になってる人から役者の仕事の声をかけられると“やりたい!”って思ってしまうんです。でも、レギュラーの仕事もあって『家族に乾杯』なんて月に2、3回は地方に旅行に出かけるわけで。正直に言うと“さすがに時間ないなぁ”と思う時があることはあるんです。でも、なにかひとつでも中途半端になるのって悔しいでしょ?だから、ある人からは“実は鶴瓶さんって2、3人いるんじゃないかと思っていました”なんてことを真顔で言われながらも、この状況を楽しんどこうと思っています。あ、でもいちおう言うとくと笑福亭鶴瓶はひとりしかいません。未来の人やないんやから、時空は越えられません(笑)」2018年は、師匠(六代目笑福亭松鶴)の生誕100年というメモリアルイヤーでもある。全国各地をまわる今回の落語会では、『徂徠豆腐』をメインに据えつつ、久しぶりの噺も演目に加えられる予定。師匠の十八番である『らくだ』も堪能できるかもしれない。笑福亭鶴瓶落語会は10月25日(木)、大阪・森ノ宮ピロティホールより全国を巡演。取材・文:唐澤和也
2018年09月21日人気アイドルのももいろクローバーZ(以後、ももクロ)が主演するジュークボックス・ミュージカル「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」。初主演舞台『幕が上がる』から3年、今度はミュージカルに初挑戦する稽古中のメンバー、百田夏菜子、玉井詩織、高城れに、佐々木彩夏の4人に話を聞いた。【チケット情報はこちら】前回の舞台と大きくちがうところは何よりも、ももクロの楽曲で物語を紡いでいく“ジュークボックス・ミュージカル”いう点だろう。高城が「今まで歌に対してライブでのイメージしかなかったんですが、物語のつながりの中で歌ってみると、歌そのもの、歌詞の印象がガラッと変わった歌が何曲もあります」と話すように、歌い慣れた楽曲でもミュージカルになって初めて気がつく一面も。また、メンバー4人だけでなく、他出演者を交えてのパフォーマンスもあり「ももクロの楽曲を大勢でダンスするってだけでも全然迫力がちがう。ライブ気分でいらっしゃる方も、ええ!? 普段と雰囲気がちがう!? って思ってもらえたら」(玉井)と、物語だけでなくパフォーマンスとしての期待も覗かせる。それぞれの役柄については、佐々木が「役の4人の関係性と、私たち4人の現実での関係性が似ていて、ファンの皆さんも楽しんでいただけるのでは」と言うように、役柄は4人をイメージした、脚本の鈴木聡によるあて書き。「前作の『幕が上がる』での役をなんとなく匂わせるようなセリフや設定も」(佐々木)あり、ファンが楽しめる要素も盛り込まれている。シルビア・グラブ、妃海風というふたりの経験豊富なミュージカル女優との共演も4人にとっては大きな刺激に。「おふたりが出てくるだけで一瞬で空気が変わる。その側でお芝居させていただけるのがすごく楽しい。私たちの曲をおふたりが歌ってくださるシーンもあるんですが、それがずっと歌い続けてきた私たちよりも完成度が高くて(笑)。自分たちの歌をちがうかたちで歌ってもらえるってとても嬉しいし、感動モノです」(百田)演出の本広克行とのタッグは『幕が上がる』以来。百田が「本広さんってめちゃくちゃ笑いに厳しい」と口火を切ると「『幕が上がる』の反省会も、ウケたか、ウケなかったかだけだったよね?」(玉井)、「わたし達は芸人か!?」(高城)、「笑いのツボはちょっと変わってるよね?」(佐々木)とメンバーから一斉に声が上がるのは良好な関係性があってこそ。いまの稽古でも「お芝居のダメ出しというよりは、笑いのダメ出しが多くなってきている」(百田)と本広の笑いへの厳しさは相変わらずだ。公演はいよいよ9月24日(月・休)より千葉・舞浜アンフィシアターにて開幕。百田は「物語がすごくおもしろくて、セリフを聞いて自分でも考えてしまうような部分も。そういう真面目なシーンをしっかり届けて、そして笑えるシーンでは思い切り笑ってもらえるようにがんばります!」と意気込みを語った。チケットは発売中。
2018年09月20日トップライター:中森かなめ東京都の郊外・稲城市を拠点に、地域の子どもたちが活動している〝児童劇団「大きな夢」稲城子どもミュージカル〟。同劇団の25周年記念公演『魔女バンバ』が、8月上旬、府中の森芸術劇場(東京都府中市)で行なわれ、娘(中1)と観劇してきました!稲城子どもミュージカルの出演メンバー笑顔でいることの大切さを説くオリジナルのストーリー今年で創立25周年を迎えた“稲城子どもミュージカル”。この節目の年に上演する演目は『魔女バンバ』。心に闇を抱える子どもたちを捕まえようとする魔女バンバに対し、年老いた天使のポポロが「小さな光さえあれば、どんな暗闇にも負けはしない」と子どもたちに説き、笑顔でいることの大切さを訴えていく、劇団オリジナルの物語です。出演者は保育園児から高校生までの劇団員24名と、一般賛助出演者10名の計34名。メンバーを入れ替えて月組と星組という2組の公演が2日間にわたって計4回行われました。実は、このミュージカルを観に来たいちばんの理由は、娘の友だちが星組・魔女バンバの手下で小魔女のタラーリを演じていたから。タラーリは、魔女バンバの恐ろしさにおびえつつ、悪事をはたらくことに後ろめたさを感じる子魔女のひとり。娘の友だちは、劇団員として小1から活動しており、13歳ながらすでに芸歴7年のベテランです。ときにコミカルに、ときにシリアスにタラーリを演じきり、物語を盛りあげていました。さらに、タラーリの小魔女仲間・ブルルも、娘の小学校時代の同級生。娘には、ちょっぴりおっちょこちょいなブルルの役どころと、彼女の人となりが重なって見えたようで、ブルルが登場するたびにくすっと笑っていました。ちょっとコミカルな魔女バンバの手下・小魔女3人組観客を恐怖に陥れた魔女バンバそんな子魔女を従える魔女バンバが、この物語の主人公です。バンバを演じたのは公演のパンフレットを見る限り、かわいらしい女子高校生なのですが、暗い照明に怖さをあおるような音楽にのせて、見るからに恐ろしい魔女が登場したとたん、会場は恐怖のあまりざわつき、観客席にいた小さな子は思わず「コワイ!」と声を上げ、泣きそうになっていました。濃いメイクをして黒づくめの衣装を着て、ドスのきいた声で演じるバンバは、観客を凍てつかせる怖さを見せていました。悪の権化(ごんげ)・魔女バンババンバのターゲットとなったのは、村の子どもたち。「祭りの夜によそ者が来ると、村に不幸なことがおこる」 という言い伝えを信じる子どもたちが、村に引っ越してきたばかりの姉弟を仲間外れにしようとしていたため、バンバは悪の道へといざなおうとします。そんなとき、「思いやりで人の傷が癒される」こと、「笑顔が人の心に明かりをともす」ことを子どもたちに説く天使が現れます。天使から「小さな光でも勇気になる」ことを教わった子どもたちは、輝かしい笑顔をバンバに見せることで、魔女バンバを退治するのです。笑顔が希望を生むことを説く天使は、闇の世界へ子どもを連れ去ろうとする魔女バンバと対決ステージ上に立っている出演者はプロの指導を受けたとはいえ、保育園児から高校生までの子どものみ。公演に向けてレッスンを積み重ねることで培った演技力は、プロの役者顔負けです。ラストのカーテンコールでは、名演を見せてくれた出演者に大きな拍手と大歓声が送られました。児童劇団「大きな夢」は全国26カ所で活動を展開気づけば終演後、わたしたち親子は「♪さあいっしょに笑いましょう笑えば心が明るくなる笑えば希望が生まれてくる」という『魔女バンバ』のメインテーマを口ずさんでいました。「人を信じられなくなると、誰かのせいにしてしまう」こと、「不安や恐怖、憎しみがあるとあかりが見えなくなる」こと、「うれしくなって笑いたくなれば希望が生まれる」こと。歌と踊りを織り交ぜながら訴えられたこれらのメッセージは、ダイレクトに私たちに伝わっていたのです。来年、〝稲城子どもミュージカル〟がどんな舞台をくり広げるのか、今から娘と楽しみにしています。なお、児童劇団「大きな夢」は、首都圏を中心に札幌、長野県、福岡など、全国26カ所で活動を展開しています。今年12月には各地域の精鋭が集まって『しあわせの青い鳥』が大田区民プラザ(東京都)で上演されることが決まっているそうです。自分と同じくらいの子どもたちが、いきいきと演じている姿を見るのは、娘にも良い刺激になったようです。みなさんもお近くで公演がある際には、ぜひお子さんと観に行ってみてください。問い合わせ稲城子どもミュージカルe-mail: info@inagikm.comホームページ:児童劇団大きな夢e-mail : info@gekidan-bdp.jpホームページ:中森かなめ(なかもりかなめ)東京都在住・40代夫と娘(中1)と3人暮らし。大学卒業後、出版社勤務を経て、渡仏。1年弱遊学した後、フリーランスライターとなる。結婚して出産後、しばらく休業するも、娘が5歳のときに復帰。現在も細々と執筆業に励む。
2018年09月19日今年6月、ロシアの名門マリインスキー劇場バレエの研修生、永久メイがセカンドソリストとして正式入団したというニュースは、多くのバレエファンを驚かせた。230年余の歴史があり、伝統と革新を続けるバレエの殿堂で、日本人がソリストになるのは異例のことだ。11月のマリインスキー・バレエ日本公演で、初めてバレエ団員としての凱旋舞台に立つ永久メイに話を聞いた。【チケット情報はこちら】「バレエ団の秘書の方から“ウェブサイトを見てごらん”と言われ、セカンドソリストのところに私の名前と写真があるのを見て初めて知りました。大々的に貼りだされるわけでもなく、あっさりしているんです。でも突然のことでうれしくて信じられなくて、家族に伝えて泣いてしまいました。練習内容や役は、研修生のときからソロの役をいただいていたので、特に変わらないですね」。指導教師は、プリンシパルのエカテリーナ・コンダウーロワも教えている、元プリマのエルヴィラ・タラソワ。バレエ団からの期待のほどがうかがえる。モナコのプリンセス グレース アカデミーに留学中の2015年、参加していたサマースクールでの踊りがユーリ・ファテーエフ芸術監督の目に留まったことが入団のきっかけ。2017年、17歳でマリインスキー・バレエに研修生として入団後は数多くのソロを踊ってきた。「入団した頃は、ロシアで私のことを知ってる人は誰もいないし、楽しく踊るだけ!と緊張もせずに踊っていましたが、今は知らない間に私の踊りの動画があがっていたりして、誰かが見てると思うと、少しずつ緊張するようになってきました」芸術の都、サンクトペテルブルクに住み、人々のバレエへの関心の高さも肌で感じている。「毎日公演があるのに、毎回客席が満席になるんです。そのことに驚きましたし、常連の方も多いので、拍手する場面も他の国と違います。たとえば『白鳥の湖』では、4幕の幕が開いて、白鳥の群舞の美しいポーズに対して拍手が起きるんです。バレエをよく観て分かっているからこそだなと感じます」。客層も幅広く、老若男女さまざま。「中にはかなりの高齢で、歩くのにサポートが必要なほどの方もいらっしゃって、それでもバレエを観に来たい、と思ってくださることに感動します。そういう方たちのために踊るのは本当にすごいことなんだ、と感じますね」バレリーナになりたかった母に連れられて3歳でバレエをはじめ、気付いたら踊っていた。今は母から託された夢を叶えている。「舞台で踊っているときは、役のことしか考えていないですね。衣装を着て生の演奏で踊ると、稽古場とは違うテンションになり、役になりきれるのが楽しくて」。長い手足に恵まれた美しいライン、天使が舞い降りたかのような輝く舞台姿は、観客から愛される天性のオーラを纏っている。憧れの役は『ジゼル』。「マリインスキーに入ったからには、ロシアンバレエに溶け込み、でも自分の個性は失わずに、ロシアの観客の方たちに納得してもらえるようになりたいですね」公演は11月28日(水)より東京・東京文化会館大ホールにて。チケット発売中。取材・文:郡司真紀
2018年09月14日全世界で2千万人以上の観客が熱狂し、2014年にはクリント・イーストウッド監督による映画版も公開されたミュージカル『ジャージー・ボーイズ』。「シェリー」「君の瞳に恋してる」などで知られるアメリカの伝説的バンド、ザ・フォー・シーズンズの結成から成功への道のり、そしてメンバー間の確執までを彼ら自身のヒット曲で綴っていく内容で、日本では2016年に初演、その年の演劇賞を総なめした。その待望の再演が現在、東京・シアタークリエにて上演されている。チケ情報はコチラキャストは、リードボーカルのフランキー・ヴァリ役に、初演でも絶賛された中川晃教が続投。“天使の歌声”と称されるハイトーンボイスはさらに磨きがかかり、フランキー役に必須の“トワング”の発声は高いだけではない力強さも。フランキーの歌声が60年代当時のアメリカの若者たちを魅了したように、中川の歌声は観客の心をガッチリと掴む。さらに今回は芝居面でも格段の深みが出て、若い頃の無邪気さから、メンバー間のすれ違いが生じてくる物語後半の孤独感や疲労がクリアに伝わり、年月の経過とともに移ろう人生の浮き沈みを表現。中川なくしてはこのミュージカルの成功はありえない、と思う存在感で作品を牽引する。フランキー以外のザ・フォー・シーズンズのメンバーはダブルキャストで、中河内雅貴、海宝直人、福井晶一が出演する<TEAM WHITE>、伊礼彼方、矢崎広、spiが出演する<TEAM BLUE>の2チーム制。初演から全員が続投する<WHITE>は、もともと定評のあるハーモニーの安定感に加え、メンバーの個性がクッキリと際立ち、これぞ日本版ザ・フォー・シーズンズといった説得力。伊礼・spiが作品初参加となる新チーム<BLUE>もまた、ユニークだ。グループとして到底まとまらなそうなワガママな個性を炸裂させている彼らが、ひとたび歌声をあわせると、見ているこちらも嬉しくなるほど楽しそうにハーモニーを作っているのがいい。初日前の9月5日に行われた、ザ・フォー・シーズンズのメンバーと演出の藤田俊太郎による囲み取材では、「WHITEチームは研ぎ澄まされた“白米”のよう」(中河内)、「BLUEはクールでスタイリッシュ」(伊礼)と両チームがそれぞれアピール。藤田は「初演の評価はとても嬉しいが、そこに甘えるつもりはなく、新しい地平へカンパニーでたどり着こうと、WHITEチーム、BLUEチームそれぞれに作品の意義を追求した」と話し、中川も「再演も熱い『ジャージー・ボーイズ』になっている」と自信を語った。その言葉のとおり、音楽の魅力、物語の魅力が最大級に詰まった、最高のミュージカルになった再演版『ジャージー・ボーイズ』。東京公演のチケットはすでに入手困難ではあるが、全国ツアー公演ではまだチャンスはある。ぜひお見逃しなく。東京公演は同劇場にて、10月3日(水)まで。その後秋田、岩手、愛知、大阪、福岡公演を経て、11月10日(土)・11日(日)の神奈川公演まで全国ツアーが続く。
2018年09月13日この夏、萩尾望都原作、野田秀樹共同脚本の名作舞台『半神』に主演した、乃木坂46キャプテン桜井玲香。中屋敷法仁のハイスピードな演出、コンドルズメンバーでもあるスズキ拓朗のユニークな振付にも食らいつき、美しい妹と腰でつながった醜い結合双生児の姉を好演。華やかな容姿に高い身体能力、滑舌の良さも際立ち、舞台女優としての可能性を強く印象づけた。そんな彼女がオーディションを経てゴシックロマン・ミュージカル『レベッカ』のヒロインに大抜擢。大塚千弘、平野綾とのトリプルキャストで東宝ミュージカルに初登場する。ミュージカル「レベッカ」チケット情報『レベッカ』は女流小説家ダフネ・デュ・モーリアの同名長編小説が原作。アルフレッド・ヒッチコックの映画版でも知られるスリリングな男女の愛憎劇だ。舞台版は『エリザベート』『モーツァルト!』の人気脚本家&音楽家コンビ、ミヒャエル・クンツェ&シルヴェスター・リーヴァイが2006年、ウィーンでミュージカル化。日本版の上演は8年ぶり3回目(大阪公演は2回目)。不遇な幼少期を過ごした「わたし」(桜井玲香)は年上の上流紳士マキシム(山口祐一郎)と運命的に出会い結婚、彼の邸宅で新婚生活を始める。しかし、事故死した先妻レベッカに長年仕えていた家政婦頭ダンヴァース夫人(涼風真世・保坂知寿)からの視線は冷たい。そんなある日、レベッカの死に関する新事実が浮上して……。昔から困難に立ち向かうヒロインが大好きで、ディズニーなら『シンデレラ』よりは『ポカホンタス』をよく見ていたという桜井。今回の「わたし」も「純粋でどんどん強くなっていく」憧れの役柄だ。「台本では暗く感じられたお話も、舞台になると衣装が華やか。音楽も柔らかく、明るい印象に変わりました」。トリプルキャストは先輩に学び、技を盗めるチャンスと捉える。「普段はアイドルとして活動しているので、そのときの音楽活動をひとつの武器と考え、自分らしいアプローチで役の個性を出せれば。この舞台はヒロインの歌から物語が始まるので、震えずに第一声を発することができるのか不安ですが、しっかりと期待に応えたい」。女優の現場は「ある意味リラックスして取り組める」という。「負の感情や醜い部分も隠さず、人間らしさを解放できるので。舞台は生き物みたいに毎日感情が変化するのが快感です」。将来はアイドルと並行して、映像も舞台もこなせる役者になるのが夢だ。「大舞台ですが、自分なりに頑張って楽しみたい。すばらしい初演を追いつつ、今回ならではの良さを上乗せしてお届けできればと思います」公演は、東京・THEATRE1010でのプレビュー公演を経て、12月20日(木)から28日(金)まで大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、2019年1月5日(土)から2月5日(火)まで東京・シアタークリエにて上演。地方公演あり。チケットは順次一般発売開始。一般発売に先駆け、9月10日(月)11:00まで、大阪公演のプレイガイド最速先行を受付中。取材・文:石橋法子
2018年09月03日映画音楽の作曲家として活躍する岩代太郎が、企画・原作・音楽を担当し、全編音楽を書き下ろした、奏劇「『ライフ・コンチェルト』ある教誨師の物語~死刑執行までのカウントダウン」が東京・紀伊國屋ホールにて8月29日に開幕した。プレビュー公演前のゲネプロに潜入した。【チケット情報はこちら】死刑囚たちが刑の執行までの残された日々と向き合い、死を語り合うという役目を担う教誨師(きょうかいし)。國村隼演じるベテラン教誨師(きょうかいし)の牧師・元村由紀夫が、自分の後任に、高田翔(ジャニーズJr.)演じる塩野智嗣を選ぶところからはじまる本作。最初こそ死刑囚とのやり取りもぎこちなかった塩野だが、大森博史演じる死刑囚・古戸健治、また長谷川京子演じる死刑囚・大島玲子との交流を重ねることで、教誨師という役割の難しさに気づいていく。そして元村、塩野が出会う、黒川智花演じる死刑囚・大島の娘である瑠璃。大島玲子と瑠璃が抱えるある秘密が、元村、そして塩野の人生についての根幹を揺るがしていく。國村演じる元村は終始静かな口調ながら、塩野、死刑囚ら、瑠璃に語りかけるセリフには、現行の死刑制度、そして自身の死生観までをも考えさせられる。その國村演じる元村から、教誨師の後任に選ばれる塩野という難しい役割を与えられた高田は、演出の深作健太から話し方やタイミング、目線についても細かい指導を受け、体を動かしながら確認し、自身が演じる塩野に落とし込もうとする姿が印象的だった。またこの日、原作の代弁者という立場の語り役を担ったのは、舞台を中心に多岐に活躍する染谷俊之。客席と舞台上をつなぐナビゲーターとしての役割に真摯に取り組んでいた。本作、「奏劇」は今までに無い舞台創造のかたちへの挑戦として岩代が提案する、演奏と演劇を合わせたスタイル。舞台上にはグランドピアノ、また東京フィルハーモニー交響楽団のメンバーによるカルテット(弦楽四重奏団)がシーンにあわせて豊かな音色を響かせるのも見所だ。公演は9月3日(月)まで、東京・紀伊國屋ホールにて。語り役は、8月30日、31日、9月3日(月)を染谷俊之、9月1日(土)13時30分、2日(日)13時30分を伊東健人、9月1日(土)17時30分を石川界人が務める。チケットぴあでは各公演の前日23時59分まで当日引換え券を発売中。
2018年08月31日トップスター・珠城(たまき)りょう率いる宝塚歌劇月組公演『エリザベート-愛と死の輪舞(ロンド)-』が8月24日、兵庫・宝塚大劇場にて開幕した。宝塚歌劇月組 三井住友VISAカード ミュージカル『エリザベート-愛と死の輪舞(ロンド)-』チケット情報1992年にウィーンで誕生した本作は、オーストリア=ハンガリー帝国皇妃エリザベートの数奇な生涯を、彼女を愛する黄泉の帝王トート(死)との愛憎を軸に描いたミュージカル。観劇後も耳に残る楽曲の数々も魅力で、1996年に宝塚歌劇団雪組が日本初演し、宝塚歌劇では今回が10回目の上演となる人気作だ。“死”を擬人化した黄泉の帝王トートは、常にエリザベートの近くに存在する。父の自由な生き方に憧れを抱き、活発だった少女時代。綱渡りに挑戦しようとしたエリザベートは足を滑らせて落下し、意識不明の重体に陥る。その生と死の狭間で出会ったのが、黄泉の帝王トートだ。トートは死の口づけをしようとするが、エリザベートの生命力あふれる瞳に心を奪われ、愛されたいと願う。そして彼女がトート=“死”を求めるまで、どこまでも追い続けようと、元の世界へと帰すのだった…。歴代のトップが演じてきたトートは、それぞれで印象がまったく異なる。今回演じる珠城も、自身の持ち味を活かしながら表現。妖しく冷ややかなオーラを漂わせながら、時には不敵な笑みを浮かべ、時には内包する熱を激しくあらわにしてエリザベートの愛を求めるなど、繊細に作り上げている。作品世界を包み込むような存在感を感じられるのも、珠城トートならではだろう。エリザベートを演じるのはトップ娘役・愛希(まなき)れいか。無邪気な少女時代から、皇妃となった後の苦悩、孤独、もろさ、強さ、気品など、年老いていくまでを丁寧に表現している。1幕ラストから2幕前半にかけての、生きる意味を見出したエリザベートの自信に満ちた表情、凛とした美しさにも目を奪われる。トップ娘役就任から約6年半。集大成らしい円熟した演技、歌唱で魅せている。皇帝フランツ・ヨーゼフを演じるのは美弥(みや)るりか。終始感情を抑えた役ではあるが、エリザベートを真っ直ぐに愛する思い、見守る優しさ、皇帝としての葛藤などを滲ませながら演じている。エリザベート暗殺犯ルイジ・ルキーニ役の月城(つきしろ)かなとは、表情や眼差し、声色でルキーニの狂気を表しながら、狂言回しとして物語をリズムよく展開していく。皇太子ルドルフは暁千星(あかつき・ちせい)と風間柚乃(かざま・ゆの)の役替わり。この日演じた暁は儚げな雰囲気をまとい、ルドルフを好演。歌唱力も高く、『闇が広がる』でのトートとのハーモニーも美しく響いている。兵庫・宝塚大劇場公演は10月1日(月)まで。チケットぴあでは9月14日(金)13時公演のプレリザーブを9月3日(月)11:00まで受付中。東京宝塚劇場公演は10月19日(金)から11月18日(日)まで。9月16日(日)より一般発売開始。取材・文:黒石悦子
2018年08月31日ピンクのドレスを身にまとい、漫才、コント、コーラスといったネタで楽しませる阿佐ヶ谷姉妹。今年は『キングオブコント2018』準決勝に進出。7月には初のエッセイ本『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』も出版し、ふたりの“別居”も話題になった。10月、大阪・味園ユニバースと神戸・クラブ月世界で単独ライブ3『ドアーを開けて』を開く。「阿佐ヶ谷姉妹 単独ライブ3」チケット情報大阪、神戸とも昭和のナイトクラブの趣を残す会場だ。「どちらもとても雰囲気のある会場を借りることができました。あの中で、お客様と一緒に新たな扉を開く覚悟でライブをできたら」と“姉”の渡辺江里子(以下、えりこ)。今回はドリンク片手にステージを楽しめる。また、ファンは同世代が多く、年齢層も高めなことから、「お手洗い休憩はちゃんと設けますので、安心して来ていただけると思います」(えりこ)といざなう。ライブは漫才・コントのネタと歌のコーナーを予定している。今年は特にコントに力を注ぐ。「今年は『キングオブコント』の準決勝にギリギリ滑りこむことができました。切磋琢磨して、もう1段階、2段階パワーアップしたコントをお見せしたい」とえりこ。また、“妹”の木村美穂(以下、みほ)も「等身大のおばさんのコントがひとつ、できました。それもブラッシュアップして皆様にもお披露目できたら」と意気込む。歌は生演奏だ。「前回の大阪公演は3ピースバンドでしたが、今回はおそらくそれ以上になると思います。会場の雰囲気に合う形で演奏も豪華にできたらなと思っています」とえりこ。衣装も考え中で、「七変化をお楽しみください」と本人たちも嬉しそうだ。「おばさんのおばさんによるおばさんのためのライブを開きたい」とえりこ。そして「まだまだおばさんも奥深いので、おばさんの多様性も掘り下げてネタを作れたら。ふたりの関係性も、同居からお隣同士になって変わってきているところもあると思うので、漫才にも生かせたらと思います」とみほ。続けて「新しく“みほコーナー”ができるかもしれません!」と新提案も。この時初耳だったえりこも「“みほコーナー”、いいわね!」と意欲を見せた。公演は、10月3日(水)・4日(木)東京キネマ倶楽部、9日(火)愛知・ボトムライン、11日(木)・12日(金)大阪・味園 ユニバース、14日(日)兵庫・Live Hall クラブ月世界にて。チケットは発売中。取材・文:岩本和子
2018年08月29日バンドや音楽の魅力をフィーチャーしたゲーム・アニメファン向けのサンリオキャラクターであり、スマートフォン向けソーシャル音ゲーアプリは350万ダウンロードを突破、いま大注目の『SHOW BY ROCK!!』。そのミュージカルプロジェクト〈Live Musical「SHOW BY ROCK!!」〉も、昨年10月の舞台化第1弾『―深淵のCross Ambivalence―』と、今年6月の『~THE FES 2018~』を経て、ますます盛り上がりを見せている。そしていよいよ舞台化第2弾である『-狂騒のBloodyLabyrinth-』が、8月30日(木)より東京・天王洲 銀河劇場にて開幕。8月中旬、都内のスタジオで行われた公開稽古に足を運んだ。【チケット情報はコチラ】音楽を制する者が王として君臨できる “MIDI CITY”。弱小音楽事務所BRRに所属する中二病全開V系ロックバンド〈シンガンクリムゾンズ〉(通称シンガン)のフロントマン、クロウ(米原幸佑)は、夢と現実の狭間で揺れていた。夢銀河☆アイドルバンド〈トライクロニカ〉(通称トラクロ)や、お金持ちの新人NAMAIKIバンド〈アルカレアファクト〉(通称アルカレ)らが所属する大手レーベル、ジューダス主催のライヴに出演できたものの、新たなバンド〈フカシギミック〉の接近により、物語はおかしな方向に……。公開稽古は第8場、売れ始めた“シンガン”のクロウ(米原)とアイオーン(輝馬)、ヤイバ(鳥越裕貴)が、BRRの社長・有栖川メイプル(今 拓哉)に、浮かれた態度をとる場面から。真面目なロム(郷本直也)にいさめられるものの、米原や鳥越らのアドリブが炸裂し、スタッフ席からも笑いが漏れる。演出を担当する斎藤栄作は、ロムとクロウのすれ違いなどシリアスなシーンでは何度も稽古を繰り返す一方で、笑いのシーンでは細かな部分をキャストに一任。「なにかやってくれる?(笑)」という斎藤の言葉に、輝馬が焦った顔で「なにかって!?」と返し、周りが吹き出してしまうひと幕も。次は第9場、フカシギミックのメンバーであるマロ(健人)とゲ・フロッチ(畠山 遼)、シャッキー(吉村駿作)が、ある計画を話す場面だ。畠山と吉村は楽器を持ったまま話していたが、会話と動きのテンポをスムーズにするために、斎藤が楽器を持たないことを提案。すぐに対応してみせる3人の姿に、本作への意気込みが伝わってくる。続くLIVEパートでもリアルなプレイが展開され、アップテンポな曲調もあいまって、いつのまにかライヴ会場にいる気持ちに。対して先ほどの第8場のラストでは、クロウの心情が“トラクロ”や“アルカレ”と共にエモーショナルに歌われ、ミュージカルとしての魅力も発揮。バンドとミュージカル、両方の楽しさを見せてくれるキャストたちに、本番への期待がますます高まった。公演は9月9日(日)まで、東京・天王洲銀河劇場にて。その後、9月14日(金)から17日(月・祝)まで、大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演。取材・文/佐藤さくら
2018年08月29日世界中で人気を博している少女漫画『美少女戦士セーラームーン』のパフォーマンスショー“Pretty Guardian Sailor Moom”The Super Liveが、8月末に東京プレビュー公演を迎える。トリプルキャストで、ほぼダンスと歌で繰り広げられるステージ。8月31日(金)から9月9日(日)まで、東京・AiiA 2.5 Theater Tokyoで上演後、11月3日(土)・4日(日)にはジャポニスム2018公式企画としてフランスのパレ・デ・コングレ・ド・パリ劇場で上演される。セーラームーン/月野うさぎ役の3名を筆頭に、かなり個性の違う3チームになりそうだ。【そのほかの画像はコチラ】『♪(音符)チーム』の河西智美は「年齢層が少し高くて大人っぽい。安心感はあると思います」と笑う。『セーラームーン』の長年の大ファンであり、小学校低学年の頃にひとりで山梨から高速バスに乗り『セーラームーン』の舞台を観に東京へきたことがあると言う。最年少で二十歳の古賀なつきは『◆(ダイヤ)チーム』。「年齢層が低いので“フレッシュだなー”と言われる」そうだ。選ばれた時は「嬉しさと不安の両方がありました。それから、お月様に毎晩語りかけています」と、月の守護を受けるセーラームーンらしく月の存在を身近に感じるようになったと語る。夢宮加菜枝は、オーディション合格が信じられなかったそうで「絶対に落ちたと思っていたので、嬉しすぎました!」。河西と古賀に「『●(ハート)チーム』はスタイルがいいよね」と言われると「いえいえそんな!」と謙遜し、「3チーム全然違います。ひとりひとりの個性が違うので、チームごとだけでなく3チーム一緒に支え合っています」と答えた。「チームごとに色や雰囲気が違う。5人の戦士が揃ったそれぞれのチームを見ると、“ああ”としっくり来るんです」と河西。パフォーマンスショーであることが、大きな見どころだ。「戦士だからアクションがあり、それにダンスが加わる」(古賀)、「パフォーマンスパートと、歌と踊りのライブパートが分かれている構成。お客さんも一緒に歌って踊って盛り上がってもらえたら」(河西)、「3チームのダンスの雰囲気が全然違うんです!」(夢宮)構成・演出・振付を欅坂46 の振付などで人気のTAKAHIRO(上野隆博)、音楽をヒャダインが手がけているのにも、期待が高まる。3人は口を揃えて「見るところがたくさんあって目が足りないですよねー!」と盛り上がった。取材・文:河野桃子
2018年08月28日舞台『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』が8月24日東京・TBS赤坂ACTシアターで開幕した。公演初日前、ゲネプロが公開され、出演するアイドルグループ「けやき坂46」のメンバー10人による取材が行われた。【そのほかの画像はコチラ】本作は、人気アニメ『魔法少女まどか☆マギカ外伝』の世界観を体感できるスマートフォンゲーム『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』の舞台版。主人公の環いろは(柿崎芽実)が、姿を消した妹・うい(國分亜沙妃)を追って新興都市の神浜市にて手がかりを探し始める。そこへ見滝原市の魔法少女・鹿目まどか(丹生明里)もやってきて…というストーリー。けやき坂46のメンバー10人が、芝居・歌・ダンスはもちろん、殺陣にも初挑戦し、メインキャラクターとなる魔法少女たちを演じている。環いろは役を演じる、けやき坂46の柿崎は「私はアニメの『魔法少女まどか☆マギカ外伝』が大好きだったので、今回『マギアレコード』のいろは役を演じるということはとても嬉しくあり、同時に不安もありながらの稽古でした。ゲームファンの皆様からも支持していただけるよう、いろはになりきって演じたいと思います」と意気込む。七海やちよ役の佐々木美玲は「素晴らしい作品に関わらせていただき、すごく光栄です。やちよ役は、いつもの私と真逆なのですが、千秋楽まで一生懸命演じられたらいいなと思います」とコメントした。けやき坂46のメンバーたちは、本物そっくりな本格的な衣装に身を包み、キャラクターの特徴を思い思いに体現。更に、実力派の出演者が脇を固めており、2.5次元ミュージカルとしてしっかりと成立していた。また、映像技術を多用した演出も斬新で、特に戦闘シーンは迫力があった。けやき坂46のファンはもちろん、原作ファンも満足出来る作品に仕上がっている。柿崎、佐々木のほか、富田鈴花(由比鶴乃役)、潮紗理菜(二葉さな役)、渡邉美穂(深月フェリシア役)、丹生明里(鹿目まどか役)、河田陽菜(暁美ほむら役)、齊藤京子(佐倉杏子役)、金村美玖(美樹さやか役)、加藤史帆(巴マミ役)らが出演。9月9日(日)まで。チケット発売中。文:五月女菜穂
2018年08月27日劇作家・末満健一が展開する「TRUMP」シリーズ、その最新作であるミュージカル「マリーゴールド」が、8月25日、東京・サンシャイン劇場にて初日を迎えた。2019年に10周年を迎える本シリーズは、ヴァンプ=吸血種の始祖TRUMP(TRUE OF VAMP)の伝説を軸に、「永遠の命」に翻弄されるキャラクターたちの悲哀を描くゴシックファンタジー。作品を超えてリンクする伏線、綿密に練られた脚本で、熱狂的なファンを生み続けている。【チケット情報はこちら】10周年アニバーサリー企画の第一弾でもある本作「マリーゴールド」は、母・アナベル(壮 一帆)と娘・ガーベラ(田村芽実)を中心に展開する。小説家であるアナベルは、娘ガーベラに「外に出てはならない」と言い聞かせて、マリーゴールドの花に囲まれた屋敷でふたりきりで暮らしている。屋敷を訪ねるのは、アナベルの妹エリカ(愛加あゆ)、担当編集者コリウス(東 啓介)、そしてガーベラの主治医ヘンルーダ(吉野圭吾)だけ。だが、ある日、アナベルの熱狂的なファンである少年ソフィ(三津谷亮)とウル(土屋神葉)が街にやってきたことから、運命の歯車が回りだす――。初日を迎え、主演の壮は「カンパニーの力が凝縮された最高の舞台を皆様にお届けいたします!」と完成度の高さをアピール。また本作が4作目のシリーズ出演となる田村は「今回も世界観に圧倒されました。これぞ、≪圧倒的美演劇≫だと思っています。皆様の心をえぐります」と意気込みを語った。また、作・演出の末満は「稽古をしながら思ったことは、愛には即効性と遅行性のものがあり、また致死量があるということ。壮一帆さんと田村芽実さんの演じる母と娘が、その致死量の愛の物語を身震いするような震度で体現してくれています。どうか、死ににきてください」とコメントした。10周年を前に、アニバーサリー企画がつぎつぎ展開していく「TRUMP」シリーズから目が離せない。東京公演は、8月25日(土)から9月2日(日)まで東京・サンシャイン劇場にて、9月7日(金)から9月9日(日)まで大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて上演。8月28日(火)にはライブビューイングの上演も全国映画館にて実施。
2018年08月27日8月下旬、舞台『新・6週間のダンスレッスン』の製作発表会見が行われた。2006年の初演以来、通算194回上演されてきた人気のふたり芝居が、新演出で蘇る。まず、音楽監督、ギター&ヴォーカルを務める大嶋吾郎が、劇中のナンバー「God Only Knows」を披露。会場を豊かなメロディで染めた。【チケット情報はこちら】演出の鈴木勝秀は「草笛さんが新たな形での上演を提案。よりエンターテイメント性の高い作品にしたいという気合いに押され、お引き受けしました。誰もが経験する老いへの不安、孤独な個人同士がどう結びついていくのか。今、日本が直面するテーマをはらんだ作品です。今回、音楽は生演奏、衣裳と美術も一新。伝統を守りつつ、新たな切り口で現代に通用する作品に仕上げたい」と意気込みを語った。2006年の初演以来、未亡人リリー・ハリソンを演じてきた草笛光子は、「初演のように、心配しています(笑)。前からの残像を払拭して、新しく生まれ変わりたい。あと何年女優生活ができるのかわからないですが、死んでもいいから頑張っちゃおう!という気持ちです」。新たに14歳のダンス・インストラクターであるマイケル役に挑む松岡は「今までのマイケルを忘れさせて、俺色に染めてみせます」と意気込んだ。今回の松岡の出演は、草笛からのラブコールだったそう。草笛は「『ロスト・イン・ヨンカーズ』で共演した際、松岡君が私の息子役。あ!ここにマイケルがいた!と思いましたが、気持ちを隠しておりました。前回、観ていただいたら、楽屋で「俺に観せた意味がわかった。俺にやれという意味だろう?」と、自信満々(笑)。本当にマイケルそのものですね」と松岡に太鼓判。その話を聞いた松岡は「馴れ初めではないので」と笑わせた後、「プレイヤーとしては舞台を拝見すると、自分だったらこう演じると考えるもの。楽屋で感想を聞かれて、“僕ならこう演じたい”と話しまして。それからママと何度かデート重ね、“本当にできる?”と聞かれ、即答しました」と語る。すると草笛は、「私のこと、ママと呼ぶので困るんです。リリーとマイケルと呼び合って!喧嘩するところは情け容赦なく」と、宣言した。劇中では6種類のダンスを披露するが、好きなダンスを問われ、草笛は「ワルツ。曲線を描く体の動きは、易しいように見えて難しい」、松岡は「どれも踊ったことがなくて。ダンス自体、25年踊っていない(笑)。でもふたりで呼吸を合わせるのは楽しい」と稽古を楽しんでいる様子。草笛が、「ダンスにもアドリブが出たりする。そんなライブ感を狙いたいの!」と言うと、松岡が「ほら、急にスイッチが入った!」とツッコミを入れる松岡。草笛の心を掴む方法を聞かれて、「顔じゃないですか!」とドヤ顔。草笛も「もう掴まれています」と、息の合ったところをみせた。公演は9月29日(土)から10月21日(日)まで、東京・よみうり大手町ホールにて。その後、石川、福岡、大阪を巡演。取材・文:三浦真紀
2018年08月27日9月6日(木)より東京・池袋 サンシャイン劇場で本番を迎える『おおきく振りかぶって 夏の大会編』、舞台初日を3週間後に控えた稽古場を取材した。【チケット情報はコチラ】今作は、2月に上演した『おおきく振りかぶって』の第二弾。甲子園を目指す高校野球部を舞台にした原作マンガは、これまでのスポ根ものとは違い、気弱で卑屈な少年ピッチャーを主人公にし大ヒットしている。脚本・演出は前作に続き演劇集団キャラメルボックスの成井豊。長年、小説原作の舞台化に力を入れてきた成井が得意とする、演劇的な感動あふれる舞台になりそうだ。この日は前半の山場の稽古。野球の試合シーンでは、同時に20人以上が登場する。実際の試合を早回しにしたように、次々と選手がバッターボックスに立ち攻守交代していく。舞台に人が入り乱れめまぐるしいが、そんな中でもそれぞれの人物にドラマがある。誰が誰を意識しているのか、誰の台詞を観客に届けるかなど、整理していく。成井は気になる俳優をひとりひとり呼び「今、君の役の盛り上がりが作れていないのがわかる?」「ここは君の役にとってはこんな意味があるシーンだよね。調節できるかな?」と穏やかに問いかける。中でも前半の鍵となる役を演じる白又敦や大村わたるは、真剣に頷く。俳優それぞれに自分の役の全体像を理解させ、組み立てさせていく。同時に、ほかの俳優も自主的に円陣を組み「あのシーンはこうしてみないか?」と相談する。主人公・三橋役の西銘駿は、気弱で自信がないがみんなが目を離せないエースを演じている。震えながらも高くまっすぐな声が、芯の強さを感じさせる。前回よりも役が馴染み、より体温のある三橋となるのではと期待させる。バディでもある阿部役は今回ふたり。この日の稽古では大橋典之が演じ、精悍な顔立ちと直情的な表現が西銘と良いバランスだ。Wキャストの猪野広樹との違いも楽しみ。ほか、初参加の一色洋平は抜群の運動神経で、チーム一の実力者という説得力を持たせる。また各自、短いシーンでそれぞれのキャラクターを見せる。野球部を支える役どころとして、成井の演出を知るキャラメルボックスの劇団員らが出演。監督役の渡邊安理は今シリーズ初参戦ながら、強い声と安定した立ち姿でチームの土台となる。多田直人は場の空気に合ったアドリブを連発し、その自然さに周囲の俳優たちの笑いがこぼれ、目が輝く。成井らしい青春の音楽に彩られ、まもなく、青い夏の幕が開く。東京公演は9月17日(月・祝)まで。その後、28日(金)・29日(土)・30日(日)には大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ で上演。取材・文:河野桃子
2018年08月24日9月2日(日)まで、東京国際フォーラムホールCで上演中の『ワンピース音宴』。最高に楽しいので、おすすめだ。まず、参加感が半端ない。開演前には観客と一緒に“クラップ”、つまり手拍子の練習。キャラクターはもちろん、楽器を演奏するキャストもガンガン客席に降りてくる。舞台と客席が仕切られた劇場の感覚を超えて、四方八方から生演奏の洪水!まるで、自分がルフィの冒険に参加しているような気分になった。【チケット情報はコチラ】その上、演奏が著しく上手い。日米で活躍するブラス・パフォーマンスの選りすぐりの精鋭ミュージシャンが集まっただけあり、ある時は役となって演じ、ある時は動きながらも演奏にブレがない。その音の素晴らしさに浸れる喜びといったら!奏者が動くことで音の遠近が楽しめるところも、マーチングの醍醐味。とにかくこの音楽を聴くだけでも幸せなのに、そこに物語性と華やかなパフォーマンス、映像など様々な仕掛けが加わり、満足感でいっぱいになった。一部では、イーストブルー編として、ルフィと仲間たちとの出会いが綴られる。子供時代のルフィが赤髪のシャンクスから、麦わら帽子を渡されて、泣きながら海賊になることを誓うシーンは、胸熱のひと言。そこから大人になり、ウソップ、サンジ、ゾロ、ナミとのエピソードが綴られる。印象深かったのは、サンジの料理シーン。コック姿の演奏隊が大勢で現れ、フライパンやリズムを奏でながらパフォーマンス。ビッグバンドを思わせるジャジーでノリノリの曲に合わせて、サンジが包丁でリズムをとり、HIPHOPのフロア技、ストリートダンスを披露。最後には、サンジを中心にキッチンがグルグル回るという、舞台ならではのマジックで魅了した。打って変わって、ゾロ対、鷹の目のミホークの戦いは、1対1の真剣勝負。殺陣で剣が合わさる音を楽器で表現し、そのシリアスさに鳥肌が立った。見ているこちらも手に汗握る迫力で、ゾロの「俺はもう二度と負けねえ」が胸に迫った。一部ラストでは5人が揃い「海賊王に俺はなる!」。この先の物語を壮大な予感させ、たまらない気持ちになった。二部は“宴”という名の通り、まさにお祭り。ワンピースの名曲の数々が披露される。ナミのバトントワリングをはじめ、キャラクターの得意技が盛り込まれるのが面白い。この曲をこの楽器で?!こんなアレンジで?!と、意外なアプローチもこのステージならでは。音が生きている、粒立っているのを、肌で味わえた。ワンピースを知っていても知らなくても、楽しめることをお約束する!今までにないブラス・エンターテイメント、ぜひ目撃してほしい。取材・文:三浦真紀
2018年08月24日1960年代にザ・ビートルズと並ぶほどの人気を誇った、アメリカの4人組男性ポップスグループ「フランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズ」。彼らの栄光と挫折を描いたブロードウェイ発、ジュークボックス・ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』の日本版が、一部キャストを替え2年ぶりに再演される。2016年初演では全日完売に沸いた大ヒット作だ。ブルーとホワイト、2組での交互上演。再演では東京に加え、大阪ほか全国5か所に初登場する。「音楽を扱う作品はライブに限る。生命力に溢れていました」と、日本版初演を観劇しスタンディングオベーションを送ったという伊礼彼方が、トミー役で初出演する。ミュージカル「ジャージー・ボーイズ」チケット情報本作は4人のメンバーが四季ごとにひとりずつ、それぞれの経歴や音楽を語り継ぐ構成。『シェリー』、『君の瞳に恋してる』など劇中で披露される大ヒットナンバーの完成度の高さでも称賛を集めた。5月のコンサートイベントで一足先に歌声を披露した伊礼は、初演メンバーの意識の高さに感銘を受けたという。「作品に対する愛情の深さや責任感の強さはスタッフ陣からも感じられた。なんて幸福な現場なんだと感動した」。同時にレベルの差も痛感。「負けてなるものか」と、本稽古を前に歌の“陰練”に励む日々だ。トミーとニック、2役でのオーディションだったが、出演するならトミーと決めていた。「これまで作品の冒頭から物語を立ち上げるという役の経験がなかったので、春を担うトミー役は絶対でした」。マフィアとも通じるトミーとの共通点は「ちょいワル気質」と即答する。「工業地帯育ちなので僕も10代の頃には、多少やんちゃなことも経験した。ダブルキャストの中河内雅貴くんも似たように熱い気質ですが、トミーは一見すると真面目にも見える。僕は自分でいうのもなんですが、甘いマスクで品があるらしいので貴族とか偉い人の役が多いんです(笑)。そういう部分も活かしつつより人物像に近づけられたら」。ミュージカルと異なり「役の感情で歌に入らないところ」にも魅力を感じている。「それまで険悪だったのに、キューが入ると突然アイドルチックに歌いだすとか。物事の“裏側”まで垣間見れるのが面白い。どんな人間も表と裏があるから魅力的だし、曲の意外な成り立ちも知れる。舞台上ではシーンの裏側の風景がモニターに写し出されるので、お客さんも僕らと同じ目線で4人の成長を見守るような感覚になると思う」。ブルーかホワイトか。「迷ったら、ぜひブルーへ!ブルーには僕とSpi、ふたりのハーフがいるのでより海外版の雰囲気を、ホワイトは日本版としてより腑に落ちる部分があるんじゃないかな。公式の見解かって?僕はそう思っています(笑)」公演は、9月7日(金)から10月3日(水)まで東京・シアタークリエにて、10月24日(水)から28日(日)まで大阪・新歌舞伎座にて上演。地方公演あり。チケット発売中。取材・文:石橋法子
2018年08月22日初代中村吉右衛門の芸と精神を受け継ぐべく、2006年に始まった「秀山祭」が今年も開催される。初代の孫で養子でもある二代目吉右衛門を囲む合同取材会が開かれた。歌舞伎座秀山祭九月大歌舞伎 チケット情報「今回で秀山祭は11回目。初心に戻って1から始めようという気持ちで、播磨屋ゆかりの『俊寛』と『天衣紛上野初花』を選ばせていただきました」と吉右衛門は語る。『俊寛』は、鬼界ヶ島に流された僧都・俊寛の物語。都から赦免船が来て、俊寛、康頼、成経ら流人は船に乗るが、成経の恋人である島の娘・千鳥だけ乗船を許されない。俊寛は罪人として島に残る道を選んで千鳥を船に乗せ、去っていく彼らを見送る……。吉右衛門にとって「初代が練り上げ、魂を込めた作品。もしスポンサーが出てくだされば、パリ、ローマ、ロンドンなどにもって行きたい。いずれも流刑地がありますから、よく分かっていただけることでしょう」と語るほど思い入れの深い作品だ。「近松の名作だと私は思います。播磨屋は(原作である)文楽も竹本(義太夫節)も大事にしておりますが、竹本に乗って、踊りではないけれども踊りのように体を動かさねばならないところが多いお芝居です。その一方で、心理描写は現代的。島に残って千鳥を乗せるために上使を殺さなければならない場面などは、その心理を竹本や三味線と息が合わせて表現する型になっております。今回、(竹本)葵太夫さんが通して語ってくださるので、とても有難く嬉しい気持ちです」本作に主演し、これまで数々の名演を見せている吉右衛門だが、20年ほど前、演じながら特別な体験をしたという。「最後、船を見送っていると、上の方から(仏・菩薩が人々を苦役から救って彼岸に送る)弘誓の船のようなものが降りてくるのが見えたんです。弘誓の船が来るということは、そのまま死んでいくこと。私は、この芝居での俊寛は息絶え、解脱して昇天していくのではないかと思いました。以来、幕が閉まる寸前に上方を見上げるようにしています」一方、『河内山』は、松江侯に妾となるよう強要され、屋敷から帰してもらえずにいる質店上州屋の娘のお藤を、お数寄屋坊主の河内山宗俊が見事に奪還するまでを描く、爽快な物語だ。「庶民の味方である悪人の、巨悪に対する生き様を描いたお芝居でです。お客様に喜んでいただいて、最後は溜飲を下げていただく。講談だったものを舞台として立体的にお見せするわけですから、それでつまらないものになるなら私は役者としてやっていけません(笑)。初代がもっと面白くやっていたのは分かっているのですが、少しでも近づけたらと。楽しんで演じたいですね」他にも魅力ある演目が並ぶ秀山祭を「多彩な顔ぶれ、多彩な狂言」と表現した吉右衛門。中村福助の5年ぶりの舞台復帰についても、「誠に慶事」と喜びを表した。「秀山祭は私が生きている理由。今後20回、30回と続けていけたらと思っています」9月2日(日)から26日(水)まで東京・歌舞伎座にて。取材・文:高橋彩子
2018年08月22日ドイツの名門バレエ団、シュツットガルト・バレエ団が11月の日本公演開催を前に記者会見を行った。かつて同団のスター・ダンサーとして活躍し、この9月に芸術監督に就任するタマシュ・デートリッヒをはじめ、まさにこの日も公演日となっていた世界バレエフェティバルに参加中の同団のアリシア・アマトリアン、エリサ・バデネス、フリーデマン・フォーゲル、ゲストのパリ・オペラ座バレエ団エトワール、マチュー・ガニオが登壇、意気込みを語った。シュツットガルト・バレエ団 チケット情報冒頭、「芸術監督就任後初のツアー、日本で公演ができることをとても嬉しく思う」と挨拶したデートリッヒ。同団の日本公演は1973年以来、今回で何と11回目となるが、芸術監督着任を前に、カンパニーの創設者で20世紀を代表する振付家、ジョン・クランコのバレエを継承しながら、新プロジェクトにも意欲的に挑戦していく姿勢をアピールした。今回上演するのは『オネーギン』と『白鳥の湖』の2作品、いずれもクランコの代表作である。「世界でもっともポピュラーな『白鳥の湖』と、私たちの十八番である『オネーギン』を皆さんにお見せできることに、感謝して踊りたい」と語ったのはカンパニーを代表するスター、フォーゲル。アマトリアンも、「この『白鳥の湖』の第4幕は、私の知るすべてのテクニックを駆使しないと演じることのできない、非常に美しく感動的な幕。すべてを捧げて踊ります」という。往年の大スター、ナタリア・マカロワが「これを踊らずして引退したのが残念だと話すほど、素晴らしい、クランコならではの幕」とデートリッヒも自信たっぷりだ。いっぽうの『オネーギン』は20世紀ドラマティック・バレエの不朽の名作として知られるが、ヒロインのタチヤーナ役について、「夢見ていた役柄。細かなところまで配慮しないと踊れない、成熟した女性像、描けるかどうかチャレンジ」とバデネス。そのパートナーを務めるガニオは「(原作の)プーシキンの詩の世界を身体の動きで表現する素晴らしい作品。オネーギンは神話的ともいえる特別な役柄、もっと深めていきたい。偉大なカンパニーと共演でき、とても楽しみ」と満面の笑顔を見せた。『オネーギン』にはマリインスキー・バレエのディアナ・ヴィシニョーワも客演予定、華やかな競演が期待される。シュツットガルト・バレエ団日本公演は11月2日(金)から4日(日)が『オネーギン』、9日(金)から11日の(日)が『白鳥の湖』、いずれも東京文化会館。チケットは発売中。取材・文:加藤智子
2018年08月21日ブロードウェイミュージカルの名作『コーラスライン』の来日公演が、8月15日に東京・渋谷の東急シアターオーブで開幕した。ブロードウェイミュージカル『コーラスライン』来日公演2018 チケット情報『コーラスライン』は1975年に初演され、翌1976年のトニー賞で最優秀ミュージカル賞・演出・振付賞・脚本賞・楽曲賞など計9部門に輝いた名作ニュージカル。1985年にはハリウッドで映画化されている。初演版は約15年の大ロングランの末、1990年に閉幕したが、2006年に初演版の演出・振付を踏襲したリバイバル版が開幕。トニー賞最優秀ミュージカルリバイバル賞にノミネートされている。このリバイバル版は2009年と2011年に来日しており、今回7年ぶりに来日公演を行う。脚光をあびることのないアンサンブルダンサーたちの物語。その苦悩や挫折、年齢・容姿・人種といった自分らしさと向き合いながら、夢に向かって邁進するダンサーたち。彼らのひたむきな姿が観客の胸に迫る。東京公演は8月26日(日)まで同劇場にて。その後、横浜、浜松、大阪公演を経て、東京凱旋(東京国際フォーラム ホールC)、9月9日(日)まで上演。
2018年08月17日KOKAMI@network vol.16『ローリング・ソング』が開幕、それに先がけマスコミ向けに一部シーンの公開と囲み会見が行われ、会見にはトリプル主演を務める中山優馬、松岡充、中村雅俊と、作・演出の鴻上尚史が登壇した。【チケット情報はコチラ】本作は、作家で演出家の鴻上尚史が書き下ろし、森雪之丞が作詞・音楽監修を手掛けた新作オリジナル音楽劇。夢に翻弄される20代・40代・60代という三世代の男たちを、中山、松岡、中村が演じる。公開されたのは3つのシーン。まずは元バンドマンで父の納豆の会社を継いだ雅生(松岡)が、母親(久野綾希)から「結婚しようと思うの」と実は結婚詐欺師の小笠原(中村)を紹介されるシーンだ。久野と中村による『恋をしたの、私』の歌唱では、雅生を置いてけぼりにして熱唱するふたりがチャーミング。鴻上が「雅俊さんの役は結婚詐欺師ですが、本人、非常に楽しそうです」と明かし、さらに松岡についても「作業ジャンパー姿で、髪を切り、黒くしていただきました!ありがとうございます!」と紹介した。次に公開されたのは、娘(森田涼花)に頼まれ、雅生が良雅(中山)と会うシーン。3人のテンポのいい会話、コミカルな芝居は観客の笑いを誘う。中山・松岡・森田によるポップな楽曲『夢と才能』では、20代と40代が描く“夢”の変化を歌う中山と松岡のハーモニーも印象的だ。そして最後に公開されたのは、小笠原が良雅に「僕が20代のときはこんな歌に助けられた」と歌い励ますシーン。楽曲は、鴻上が「雅俊さんとやるときに、この曲を歌ってもらいたいとリクエストした」「歌詞がこの作品のテーマと合致している」と語った中村の『あゝ青春』。全7曲中唯一の既存曲となる名曲を、中村と共に中山も熱く歌い上げた。囲み会見で中山は念願だったという鴻上作品への出演に「本当に楽しいです」と笑顔。今回、ギター初挑戦だが「優馬がギターを弾き出すとふたり(松岡・中村)が寄ってくる」(鴻上)という稽古場だったそうで、松岡に「食べてしまいたい」と溺愛されるなど和やかな空気が漂う。松岡は作品について「自分の人生がもうひとつあったら、こういう作業服を着て一生懸命現実の事情を背負いながら生きる男になっていたかもしれないと思う。(芝居のなかで)新たな人生を歩ませていただいてる」と語った。最後に中村が「どんなに素敵な舞台も歌も、観てもらわないと聴いてもらわないと始まらない。ぜひ足を運んでいただきたい!」と言い、賑やかに会見を後にした。公演は9月2日(日)まで東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて上演後、9月5日(水)・6日(木)に福岡・久留米シティプラザ、9月14日(金)~16日(日)まで大阪・サンケイホールブリーゼを巡演。取材・文:中川實穗
2018年08月14日八月納涼歌舞伎が開幕。初日に先駆けて、一部演目の舞台稽古が公開された。【チケット情報はコチラ】中でも第一部の『心中月夜星野屋』は、上方落語『星野屋』をもとに小佐田定雄が脚本を書いた注目の新作。元芸者のおたか(中村七之助)は青物問屋の照蔵(市川中車)に囲われているが、照蔵から、相場で失敗したとして別れ話を切り出され、思わず心中の約束をしてしまう。実際には死ぬ気などさらさらないおたかは母・お熊(中村獅童)の入れ知恵で、照蔵だけ橋の下に身投げさせるが……。照蔵は芝居好きの旦那という設定ゆえ、様々な歌舞伎の型が取り入れられ、文字通り芝居っ気たっぷり。おたかと照蔵の、狐と狸の化かし合いさながらの演技合戦も見もの。また、照蔵のおたかへの愛想づかしは、青物問屋だけに「きゅうり」や「ねぎ」などの名が次々飛び出す“野菜づくし”。落語のサゲとはまた違う、歌舞伎ならではの幕切れにも注目だ。このほか、第二部からは、中村扇雀扮する俳諧師・宝井其角が中村歌昇扮する船頭の漕ぐ舟に乗って隅田川で遊び、坂東彌十郎扮する大尽らと交流したり、雨乞いの句を詠んで見事に雨を降らせたりと、夏らしさあふれる『雨乞其角』、第三部からは、松本幸四郎の源五兵衛と中村七之助の小万と中村獅童の三五郎の愛憎劇に四谷怪談や忠臣蔵の要素が絡む『盟三五大切』が披露された。囲み会見では、扇雀が「新しい作品、珍しい作品も目白押しで面白いお芝居が並んでおりますので、ぜひ、足を運んで納涼気分になっていただきたい」、彌十郎が「皆で一丸となり、猛暑が涼しくなるくらいの“熱さ”で頑張ります」と爽やかに意気込んだところで、幸四郎が「一部二部三部の全てに出させていただきます。オジサン達に負けずに我々“若手”も頑張ります!」と笑いを誘い、市川猿之助が「『東海道中膝栗毛』をまたやりますが、今回は初めて幸四郎、猿之助のふたつの名前で弥次さん喜多さんができることを嬉しく思っています」と笑顔を見せた。また、獅童は「納涼歌舞伎といえば(中村)勘三郎のお兄さん、(坂東)三津五郎のお兄さんがお作りになり、歌舞伎ブームを巻き起こした公演。我々も負けずに全身全霊で勤めたい」、七之助は「一部二部三部ともに違ったかたちの良い狂言立てになったと思っておりますので、ぜひ会場に足をお運びください」、中車は「『東海道中膝栗毛』で初めて早替りを致します。人がいないので早替りをと言われ、蓋を開けてみると舞台が大渋滞するくらい人がいました(笑)」。市川右團次は「納涼歌舞伎は一昨年初めて出させていただき、まだまだ新参者。長い歴史の納涼歌舞伎を支えてこられた先輩方の足を引っ張らないように頑張ります」と、それぞれ思いを語った。公演は8月27日(月)まで、東京・歌舞伎座にて。取材・文:高橋彩子
2018年08月13日全10話からなる三遊亭白鳥作の「任侠流れの豚次伝」を柳家三三が五か月連続で披露する。大阪は8月9日(木)から大阪・ナレッジシアターでスタート。埼玉県秩父の養豚場で生まれた子ブタの豚次が、出会いや別れ、戦い、そして友情に支えられ、おのれの運命を切り開きながら任侠の道を生きていく。流れ着くのは香川・金毘羅。秩父から金毘羅までを縞の合羽に三度笠で旅をする、任侠・豚次の壮大な成長物語だ。またたびさんざ 柳家三三 四都市 五ヶ月連続独演会 三遊亭白鳥作「任侠流れの豚次伝」チケット情報昨年、大阪、名古屋、福岡で初の6か月間連続独演会を行った三三は、一話完結ではない、続き物の落語の楽しみ方を提供することができたという。「今年は続き物でも違うパターンを。三遊亭白鳥師匠の新作落語で、一言でいえば豚が男を磨く物語です」。毎月1回、二話ずつ口演。一話だけでも、途中からでも楽しめる内容になっているが、毎回、あらすじや相関図を記した自作のパンフレットも用意し、噺の世界へといざなう。「登場するのは動物だけですが、キャラクターが多彩なので、各回とも飽きずに見ていただけると思います。任侠ものなので闘うシーンもあるのですが、ブタ対サルとか、ブタ対ネコとか。ブー!とかキー!とか呻いているだけの時間もあって、どんな感じか想像していただけるとさらに面白いと思います」。作者の三遊亭白鳥は創作落語の名手でもある。その魅力を問うと、「設定はハチャメチャですが、物語が実に緻密にできていて、セリフも無駄なものがないんです。出てきた要素を全部、回収していきます。演じていても“ああ、なるほど”と。笑いの要素も多いです」と三三。一方の白鳥は「三三が演じると物語の形が整う」と話しているようで、白鳥が生んだ物語を三三が成長させると、その様はまるでカッコウの托卵だと笑う。「白鳥師匠の落語は味付けが濃いですし、朝昼晩と濃厚なラーメンを食べるような感じですが、そこも楽しんでいただけたら。落語会の醍醐味はお客様が笑ったり、手を叩いたりして生まれる空間があることです。お客様のリアクションによって次にどう表現しようか変わってくる。この連続独演会も毎回違ったライブになることを楽しみにしています」と三三。「任侠流れの豚次伝」は12月まで続く。取材・文:岩本和子
2018年08月08日村上春樹が翻訳して日本に送り出し、今でもカルト的人気を誇る作家・レイモンド・カーヴァーの短編小説が、リーディング公演『レイモンド・カーヴァーの世界』として9月1日(土)、2日(日)に兵庫県立芸術文化センターで上演される。日によって朗読作品と俳優が異なる本公演で、1日に出演する水夏希に話を聞いた。「レイモンド・カーヴァーの世界」チケット情報シンプルで乾いた大地のような力強い文体が特徴のカーヴァーは短編小説の名手として知られ、今年で没後30年を迎える。「私は初めて読んだのですが、描写がワンクッションあってストレートじゃない。文体も変わっていて何回も読み直しました」と話す。水が朗読するのは『足もとに流れる深い川』という短編。アメリカで平凡な生活を送る主婦のクレアは、夫のスチュアートが、ある死体遺棄事件に遭遇したことを知る。そこで取ったスチュアートや友人たちの奇異な行動は、夫婦間に大きな溝を作り出す。「作品の背景は、男性が絶対的な存在で、女性の地位が低かった時代。例えるなら、スチュアートは『欲望という名の電車』に出てくるスタンリーで、田舎のマッチョな労働者というイメージです。クレアは子どももいて家族を大事にするあまり、彼には何も言えない。でも彼のしたことは、彼女にとってどれだけ衝撃的だったか。私だったらはっきり言うんですが(笑)、『言いたいけど、これ言ったら関係が壊れちゃうかな』というクレアの気持ちは分かりますね」。物語が淡々と進み、これといったオチがないのもカーヴァー作品の特徴だ。水も「えっ、これで終わり?と驚きました」と笑う。しかし、読後にはザラリとした感覚が残り、頭から離れない。「『こんなにたくさんの水が流れているんだもの、何も聞こえはしない』という言葉があって、すごく好きです。私はクレアの存在の薄さを表すような言葉なのかなと思います。クレアの不安を、タイトルにもあるように水の音がかき消してくれる。お客さまも自由に発想してもらい、言葉だけで、言葉だけだからこそ、脳を刺激する世界を楽しんでほしいです」。演出は劇作家でもある新進気鋭の谷賢一が手掛ける。谷は「水さんの持つ知性と芯の強さ、たおやかさ。カーヴァーを読みこなすための資質のすべてを彼女は持っています」とコメントを寄せる。「谷さんはロックな作品も書きますが実はマニアックで、オチがなくて話が盛り上がらない作品が好きなのだそうです(笑)。アイデアが泉のように湧き出てくる方なので、楽しみです」と言う。公演後には水と谷、『コンパートメント』を朗読する渡辺いっけいとのアフタートークが行われる。また、9月2日は山路和弘が『愛について語るときに我々の語ること』、手塚とおるが『ダンスしないか?』『もうひとつだけ』を朗読する。チケットは発売中。取材・文:米満ゆうこ
2018年08月08日