映画『人生の約束』の初日舞台あいさつが9日、都内で行われ、キャストの竹野内豊、江口洋介、西田敏行、優香、髙橋ひかると石橋冠監督が出席した。全国公開中の本作は、テレビドラマの演出を手掛けてきた石橋冠の映画初監督作品。IT関連企業CEOで仕事人間の中原祐馬(竹野内)は、かつて共に起業するも決別した親友の死を知る。彼の故郷・富山県新湊を訪れた祐馬は、自身の人生を見つめ直していく――というヒューマンドラマだ。観客の温かい拍手で迎えられた石橋監督は、「映画をなんとか1本撮ることが、僕にとっての"人生の約束"だった。少しでもみなさんの心に届くものがあればうれしい」とあいさつ。主演の竹野内は、「非常に晴れ晴れとした気持ちと同時に寂しい。今度は監督といつ会えるのか」としんみりしながら、「石橋監督の第1作に出演できて本当に光栄。モノづくりとしての情熱、作り手はハートが大事なんだということを学ばせてもらいました」と感謝した。また、1980年のテレビドラマ『池中玄太80キロ』シリーズ以来、幾度もタッグを組んできた西田は、「石橋冠と人徳で“冠徳”と呼ばせて」と初日を祝福。「撮影中も敏ちゃんがいるだけで、すごく励まされた。ありがたいコンビを組ませてもらってます」と振り返る石橋監督に、竹野内は、「子どもの頃から『池中玄太80キロ』を見ていたので、まさか今日のこの場があるとは思っていなかった。世の中の人に、石橋監督の情熱が真っ直ぐ届いたらうれしい」と感慨深い表情を浮かべた。イベント最後は、キャスト全員が石橋監督に"約束"を花言葉に持つ白いバラを手渡すサプライズも。「新人なんだから、これからも勉強して。2年に1回くらいのペースで映画を作れば、世の中に残る監督になるんじゃない?」(西田)、「キャストやスタッフに愛される冠さんを見て、こんな大人になりたいと思いました。まだまだ2作、3作と作って、私を出してください!」(優香)と激励された石橋監督は、「照れくさくて死にそう。葬式の棺桶に入ってるみたい」とジョークを言いながら大感激していた。
2016年01月09日米メジャーリーガー・川崎宗則選手が7日、都内で行われた映画『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016年3月25日公開)の応援団就任イベントに出席し、自身の去就について語った。ブルージェイズをFAになった川崎選手は、バットマンのコスプレで登場。自身の去就について、「決まってないですね。早く報告したいんですけど」と明かし、「僕が探せないので、代理人に今日電話しておきます」と話した。そして、元旦も休まず練習していると言い、「自主トレとか休んだことない。毎日野球やっています。大好きです」と笑顔を見せた。また、ドジャース入りが決まったと報じられている前田健太選手について、「マエケンはいいピッチャーだからぜひ対戦したい」とコメント。「日本でも打った記憶がない。それくらいやられまくっているのでマエケンを研究したい。秘策はあります!」と語った。さらに、映画にちなんで、野球界での自身にとってのヒーローを聞かれると、「イチロー選手」と即答し、「イチロー選手の大ファンで、彼が僕の中のバットマンです。それくらいイチロー選手のことを尊敬しています」と相変わらずのイチロー愛を炸裂させた。「チェスト!」とつづった書き初めもお披露目。「出身の鹿児島の言葉で、『頑張れよ』『明日からも前を向いてしっかり頑張ろう』という意味が込められています。今年の僕の決意です!」と力を込めた。(c) 2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC AND RATPAC ENTERTAINMENT, LLC
2016年01月07日米メジャーリーガー・川崎宗則選手と浦和レッズ所属のサッカー日本代表・槙野智章選手が7日、都内で行われた映画『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016年3月25日公開)の応援団就任イベントに登場。川崎選手はバットマン、槙野選手はスーパーマンのコスプレを披露した。川崎選手は、メジャーリーグで数々の苦難に立ち向かう姿がバットマンと重なることから、槙野選手は、肉体とルックス、七三分けの髪型がスーパーマンに似ていることから、応援団に抜てき。イベントでは、それぞれのキャラクターのコスプレで登場し、初対面にも関わらず、終始息の合ったかけあいで盛り上げた。本作でバットマンとスーパーマンのどちらが勝つと思うか聞かれると、2人とも自分がコスプレしたキャラクターだと主張し、川崎選手が「バットマンはみんなが知らないところで頑張っている」とアピールすると、槙野選手は「川崎さんの普段と一緒ですね」とコメント。自身についても「実は悪役なんじゃないかという声が聞こえる中でも自分を貫き通すのは、ちょっと僕に似ている」と語り、「ぴったりの2人を用意してくれた」と今回の抜てきを喜んだ。また、劇中、スーパーマンの七三の髪型が崩れないことにちなみ、同じく七三ヘアの槙野選手がヘディングを実演。「この髪に出会って5年。雨にも、風にも、ヘディングの摩擦にも、水にも負けない…そんじゃそこらのボールをヘディングしても崩れることはない」と自信満々の槙野選手は、力強いヘディングを見せ、「崩れてない」と証明した。さらに2人は、書き初めで新年の抱負を発表。川崎選手は「チェスト!」と披露し、「出身の鹿児島の言葉で、『頑張れよ』『明日からも前を向いてしっかり頑張ろう』という意味。今年の僕の決意です!」と熱く語った。槙野選手は「MVP」と発表し、「僕のMVPは、宗則・ブルージェイズ・プレーヤー」と笑いを誘った上で、「槙野・ビクトリー・パートナー」と訂正し、「今年は良いパートナーを見つけたい。ピッチ外でも結果を残したい」と気合。川崎選手に「今いないんだよね?」と聞かれると、「いない」と答えた。最後に川崎選手は「バットマン着させてもらってパワーをもらいました。このパワーを今シーズンにつなげる! 今年はバットマンになる!」と爆笑宣言。槙野選手に「Who are you?」と言われると、再び「バットマン!」と答え、会場を沸かせた。(c) 2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC AND RATPAC ENTERTAINMENT, LLC
2016年01月07日●「数を売る」テレビの終焉東芝の経営状態が苦しく、再建が急務であることの是非は、今回の記事では置いておこう。単に厳しくなったのではなく、問題をごまかしたうえでよりひどい状態にもっていったことについて、経営陣には、経営施策上だけでなく、道義的にも責任を取る必要がある、と思うが、それはまた別の話だ。今回考察したいのは、「東芝のテレビ事業がどうなるか」だ。東芝、5500億円の赤字で無配 - PC関連では青梅事業所の閉鎖や人員削減(12月22日掲載)結論から言えば、開発拠点である青梅事業所は閉鎖になり、海外でのビジネスは事実上終息に向かい、国内向けに60万台程度のビジネスを目標とした、比較的小さなビジネスとして存続することになる。こうなることは、2013年後半から明らかだった。東芝は、海外の大規模家電イベントにも積極的に出て行って、テレビの拡販と「REGZA (レグザ)」ブランドの定着に努めていたが、ドイツで開かれる「IFA」からも、アメリカ市場向けの「CES」からも手を引いた。海外では撤退戦の途上であり、その内容を改めて発表した、というのが正確なところだ。そもそも東芝は、テレビをできるだけ「自社工場で生産しない」こと、液晶パネルを中心とした高コストだが差別化が難しいパーツについても「他社から供給を受ける」体制で成功したメーカーである。2012年頃、ソニーとパナソニックが「自社製造」ゆえの高コスト体制に苦しんでいる頃から、PCのノウハウを生かした「アセットライト戦略」で効率良くテレビ事業を展開している……とされていた。だが、結果はみての通りだ。○「数を売る」テレビの終焉その背景には、テレビビジネスの構造変化がある。ほんの4年前まで、テレビは家電の花形だった。家庭には「一家に一台」どころか、「一部屋に一台」の勢いでテレビが普及しており、単価が高いにも関わらず数が売れる家電であった。だが、今はそれが変化した。世界中で「個室向け」のテレビ需要が落ち込み、小型低価格なものは売れにくくなった。また、少々大型でも、低価格な製品については、中国メーカーなどとの安売り競争が厳しくなっている。結局労働力や生産コストの低い国のメーカーに勝てず、かといって先進国では、スマートフォンやタブレットの普及により、個室ではテレビが求められなくなっていた。「数を売る」ことに最適化したやり方では、もはやテレビビジネスは立ち行かなくなったのだ。だが、「テレビが売れなくなった」「テレビがいらなくなった」と考えるのは早計だ。日本においても、2013年後半以降、大画面・4Kテレビは好調に売れている。リビングで家族とテレビ番組を見たり、映画を楽しんだり、スポーツに一喜一憂したり、というニーズは失われていない。「一部屋に一台」から再び「一家に一台」に回帰した、と結論づけてもよい。●「一家に一台」のテレビに求められる条件となると、売れるテレビの条件も変わる。一家に一台しかなく、それを5年から10年使い続けるのであれば、「とにかく安いものでいい」なんていう買い方はしない。若干高くとも良いものを、という発想になる。特に、現在テレビを買っているのは、2000年代後半、地デジ移行のための薄型テレビをいち早く購入した層だ。すでに大画面テレビを体験しているから、「今持っているものと同じスペースに置けて、さらに大きくて画質の良いものを」というニーズを持っている。技術の進歩により、8年前に比べると、同じスペースで2ランク大きなテレビが置けるようになっているので、「大画面4Kテレビ」が売れやすい環境になっているのだ。これは別の言い方をすれば、「画質の良いテレビを作れるメーカーだけが、日本などの先進国市場で生き残れる」ということでもある。テレビはもはや家電の王様ではない。そこまで数が出る製品ではなくなったが、毎年一定の数、付加価値の高いものが売れていく市場になったわけだ。日本でいえば、高級炊飯器と同じフェーズに立った、というと言い過ぎだろうか。○「小さいビジネス」の可否は2017年に現れる!?画質の良いテレビは、パーツをあつめてくるだけでは作れない。映像に合わせてバックライトをコントロールするLSIや、映像の色合いをディスプレイデバイスの特性に合わせてチューニングして表示する仕組みも必要である。もちろん、低解像度の映像を「超解像」する機能や、ゲーム向けに映像の遅延を抑える機能も必要だ。こうしたことは、ひとつひとつやってみないと身につかない、ノウハウの塊である。東芝はデジタル放送スタートの初期から、「テレビ開発のキモはエンジンにあり」と見切り、それらのノウハウを蓄積してきた。日本にREGZAファンが多いのは、そのノウハウを信頼してのことだ。事前の報道では「研究開発も終息」との記事も見かけた。実際、社内ではそういう検討もなされたのだろう。だが、東芝のテレビチームにある知見は、とても貴重なものだ。これを捨ててしまうのはもったいない。日本はいまだ世界有数の市場であり、数を追わない前提に立てば、ビジネスは可能だ。別の言い方をすれば、テレビはすでに「がんばって市場に残った、ノウハウを持つ企業が残存者利益を得るフェーズにある」といえる。ソニーやパナソニックは、外野からいろいろ言われつつも、テレビ事業を捨てなかった。まだ大きな利益を生む段階ではないが、「良いものを求める人に届ける」やり方をしていけば、健全なビジネスが見込めることだろう。他方、いかに数を追わない時代がやってきたとはいえ、大規模調達を行う企業のほうが、コスト的に有利になるのは事実だ。世界規模で高画質テレビを売るメーカーは、ソニー、パナソニック、サムスン電子、LG電子の4社だけ、という時代になった。世界でビジネスをするのは厳しいが、調達力ではソニーやパナソニックのほうが、東芝より優位である。東芝は、「国内市場の小ささ」に根をあげず、どこまでじっくりと、自社のノウハウを育てながらテレビビジネスを展開・継続できるだろうか?おそらく、今年や来年の製品に影響はあるまい。チームがコンパクトになった影響は、良い方向であったとしても悪い方向であったとしても、2017年頃に顕在化するのでは、と予想している。
2015年12月22日映像コンテンツメーカーや映像機器メーカーが一体となり、次世代のデジタルエンターテイメント市場のさらなる成長を目的に活動を行う業界団体DEGジャパンが12月8日に、東京・スペースFS汐留で『映像コンテンツデジタル配信セミナー2015』を開催した。その他の写真本セミナーは“映像デジタル配信サービス”の普及促進を行うことを目的に開催された。三宅洋一郎氏(株式会社 野村総合研究所 コンサルティング事業本部)は国内の現状について、「モバイルの視聴環境が整備されたことにより、若年層による有料VOD(ビデオオンデマンド)利用者は増加、市場が拡大している」との調査結果を報告。一方で、テレビのネット接続については、環境は整っているものの接続率が未だ1割強と普及率が低いことを挙げ、「サービス以上に利便性が高いという点が広まっていないのではないか」と普及活動を課題に挙げた。土屋隆司氏(ワーナーエンターテイメントジャパン株式会社)は、「米国をみてもEST(ダウンロード動画販売)、VOD(都度課金型動画配信)、SVOD(定額制動画配信)の伸長が推進力となるだろう」とホームエンターテイメント市場の伸びを期待した。パネルディスカッションでは、モデレーターにジャーナリストの西田宗千佳氏を迎え、パネリストには、小西貴明氏(バンダイビジュアル株式会社 執行役員 事業本部 営業部 部長)、吉川広太郎氏(20世紀フォックス ホームエンターテイメント Head of Digital Sales.Japan)、吉村文雄氏(東映株式会社 コンテンツ事業部長代理 企画開発室長)らが参加。dTV(Dビデオ)、hulu、UULA、ビデオパスなどのSVODによる影響について、「映像配信入門として良いが価格については今後の課題」(小西)と挙げた。よく観られている作品について「シリーズが展開されている名作」(小西)、「連続性のあるドラマ」(吉川)、「30分程度の作品や、アクション系」(吉村)と特徴を挙げた。今後のデジタル配信活性化策について、「劇場に行く前にも活用してもらいたい。スピード感を活かし、初の試みとして『機動戦士ガンダムサンダーボルト』を12月25日正午よりEST配信する」(小西)、「啓蒙活動をしていきたい」(吉川)、「パッケージ化されていない作品や、廃盤になってしまった作品をデジタルなら提供できる。オリジナル作品を提供していくことにもチャレンジしたい」(吉村)とそれぞれ語った。取材・文・写真:小杉由布子
2015年12月08日東京都・二子玉川の静嘉堂文庫美術館は、俵屋宗達・尾形光琳・酒井抱一にまつわる書画工芸を一堂に展示する「金銀の系譜 ― 宗達・光琳・抱一をめぐる美の世界」を開催している。会期は12月23日まで(月曜休館、ただし11月23日は開館し、翌24日休館)。開館時間は10:00~16:30。入館料は一般1,000円、大高生700円、中学生以下無料。同展は、修理を終えた国宝・俵屋宗達「源氏物語関屋・澪標図屏風」、重要文化財・尾形光琳「住之江蒔絵硯箱」(後期展示:11月25日~12月23日)の2点を公開するとともに、宗達・光琳・抱一にまつわる書画工芸の数々を一堂に展示するもの。「源氏物語」の第十四帖「澪標」と第十六帖「関屋」を題材とした同作は、宗達の作品中、国宝に指定される3点のうちのひとつとなる。絵具の剥落や画面の亀裂等の損傷がみられたため修理が行われ、約10年ぶりに公開されるということだ。また、重美の尾形光琳「鵜船図」、酒井抱一「波図屏風」をはじめとする同館所蔵の琳派の名品が一堂に展示され、「波図屏風」付属書簡・自筆句稿『軽挙館句藻』など、門外不出の抱一自筆資料をはじめ、関連版本もあわせて公開される。そのほか、制作から約300年を経て劣化がすすんでいた重要文化財・尾形光琳「住之江蒔絵硯箱」が修理後初公開される(展示期間:11月25日~12月23日)。「住之江蒔絵硯箱」は、本阿弥光悦作の硯箱を模して制作したものと知られており、光悦の特色をよく受け継ぎながらも独自の創意を加えた光琳蒔絵の頂点を示す名作と言われている。また期間中、自然光によって様々な表情を見せる国宝「曜変天目(稲葉天目)」重要文化財「油滴天目」や、松花堂昭乗「勅撰集和歌屏風」や重文の野々村仁清「色絵吉野山図茶壺」、原羊遊斎「雪華蒔絵印籠」など、琳派の画家たちを取り巻く同時代の優品もあわせて紹介される。また、関連企画として、京都美術工芸大学学長・河野元昭氏による講演会「これであなたも琳派通!」が開催される。開催日時は11月21日13:30~。参加費無料、ただし当日有効の鑑賞券が必要となる。
2015年11月19日2016年1月期のTBS日曜劇場にて「家族ノカタチ」の放送がこのほど決定。主演を香取慎吾が務めるほか、ヒロインに上野樹里、西田敏行、風吹ジュンが出演することが明らかとなった。「MONSTERS」以来3年ぶりに同枠の主演を務める香取さんが演じるのは、39歳独身、結婚できないいわゆる“こじらせ”男子。決してモテないわけではないが、本気で「一人がいい」と考え、この年でわざわざ自分の生活圏内に他人を迎え入れるリスクを犯したくないと考えている。多趣味でこだわりが強く、毎日のようにジムに通い、トレーニングの自己ノルマは必ず達成し、健康にも気を遣って毎朝のスムージーは欠かせない。話題のビジネス本や映画にも目を通し、自分磨きが大好きな文具メーカー勤務で、文具をこよなく愛しているが、こまかすぎる性格に同僚たちが困惑することも。そして“結婚しないヒロイン”を演じるのは、コメディからシリアスまで幅広い演技で個性を放つ上野さん。今年1月期に放送された「ウロボロス~この愛こそ、正義。」以来約1年ぶりのTBS連続ドラマ出演となる上野さんが演じるのは、大手商社に勤務する32歳独身OL・熊谷葉菜子。彼女もまた、一人身である事に明確な意思をもつ“こじらせ女子”だ。老後の生活もすでに準備しており、自らの仕事に対する責任が強く、ハードワークをこなす一方で他人に対しても厳しいクレーマー気質の持ち主でもある。そんな主人公の2人は、出会った直後から何故か喧嘩が絶えないが、実は似た部分も多くある。さらに大介の父親・永里陽三役には、抜群の存在感と深みのある演技で幅広い世代から愛される西田さんが配役。5年ぶりに突然息子のもとに現れ、半ば強引に家に転がり込み、息子の“ひとりきり”の聖域に土足で踏み込み、優雅なはずの独身ライフをひっかきまわしていくが、やがて大介に“家族”を持つことの素晴らしさを伝えてゆく。本作でしか見られない「香取×西田」の“親子バトル”は必見だ。一方、愛する娘・葉菜子の将来を優しく見守る母親・熊谷律子役には、エイジレスな魅力と独特なスタイルで多くの女性を魅了し続ける風吹さんが決定。“自分の人生を謳歌するため”にリタイアし、軽井沢暮らしを始めた夫と別居生活を始め、誰にも相談せず、すぐさま行動に移してゆく生き方は、時として“本当の家族の在り方”を真っ直ぐに伝えてゆく。今作の出演に際して主演の香取さんは「この作品の主人公は“僕”そのもの。僕も(大介と)同じく、結婚できない男。ただ、今回の役作りに関して言うと、僕の周りにはいい資料がたくさんいます。中居正広しかり、草なぎ、稲垣…それぞれのタイプの結婚できない男たちをたくさん身近で見てきましたので(笑)、メンバーの皆のそれぞれの要素を役立てられたらと思います!」と、SMAPのメンバー含め自虐(?)混じりのコメントで意気込みを語った。香取さんがどんなこじらせっぷりを披露するのか、放送を楽しみに待ちたい。「家族ノカタチ」は、2016年1月毎週日曜日21時よりTBSにて放送予定。(text:cinemacafe.net)
2015年11月12日存在感はとてつもなく大きいのに、一度口を開けば、小粋なトークが次々と。共演する若い俳優たちが“男惚れ”する俳優・西田敏行さん。その魅力は、これを読めばわかります。おもしろいと評判のドラマや映画には、必ず重要な役で出演している…と言っても過言ではない、俳優・西田敏行さん。あるときはドスの利いたヤクザ、またあるときは腹に一物ありそうな会社員…。政治家、医者、徳川家康など、西田さんに演じられない役は、もはやこの世にはないような気がします。――例えば『アウトレイジ ビヨンド』のヤクザ役や、ドラマ『アイムホーム』で演じた、事件の黒幕だった小机部長など。“悪い役”って、楽しいですか?西田:役としてはおもしろいですね。ただヤクザ役って、日本の俳優だったら誰でもできるんですよ。――え?!西田:“型”が決まってるんです。ダミ声にして「ウスッ!」とか言えば、ヤクザっぽくなる。その要素は男だったら誰でも持ってるものだから、そんなには難しくはない。そもそも男って、「悪い男になってみたい」という気持ちが、どっかにあるんですよ。憧れみたいな。だから悪役のオファーは、そういう意味でもモチベーションが上がります。僕みたいな、ホント、ピュアな青春時代を送ってきたような男にとっては、特にね。――ピュア…で、いらしたんですか?先日、西田さんの親友・松崎しげるさんに取材でお話を伺った(1966号)ときには、「昔は二人で六本木でナンパしまくってた」っておっしゃってました。聞き間違いでしょうか…?西田:あの、六本木では、女性に会ったら声をかけるのが礼儀だったんですよ、当時は。イタリア男を気取ってましたから。ま、それはそれとして(笑)、個人的にはホントピュアでしたよ。好きな女の子ができても、だいたいちょいワルな男に持っていかれちゃうっていう。僕が好きになる子は、「あんな男ダメだよ、やめとけよ」って僕が言っても、「大丈夫」とか言って、そっち行っちゃうんですよ。邪険にされたり、大事に扱ってもらってなかったりするのに、「幸せよ」って。そっちがいいって…。「オレのほうが、こんなに純粋に愛してるのに…!!」って言っても、「西田くんはいい人なの。でも、ごめんなさいね、それだけなのよ」って(笑)。もうね、腹たちまっせ。そういうことが何度あったかわからない、20歳前後の頃。女の人って、全然理解できないやって思ってました。でも今振り返ると、単に自分がMだったのかとも思いますけどね。――その方々、今幸せに暮らしていらっしゃいますでしょうか…。西田:どうですかね、その後の消息は知りませんけど、まぁ私が呪いをかけてますから(笑)。それは冗談ですが、そういう経験もあって、悪い男になってみたいっていう気持ちはありましたね。あと、21歳くらいのときは結婚願望がものすごく強くて。確か当時、4回くらい恋をしたんですけれど…。――なかなか恋多き男で(笑)。西田:ハハハ(笑)。それで、その4回とも、結婚を申し込んだんです。でも見事に全部フラレました。「結婚みたいなこと、考えてるんだけどさぁ…」とか言うと、「あ、結構で~す!」ってみんな去っていく。ようやく27歳のときに、今の妻と入籍できました。でも最近の若い人は、あんまり結婚しないよねぇ。うちの娘2人も、全然その気がないみたい。――元・恋多きイタリア男からしたら、信じられない?西田:ホントですよ(笑)。昭和とは価値観が変わってきたなと、実感することは多いですね。でも、自分と違う価値観に対して、イヤな感じは持ちませんし、むしろおもしろいと思いますよ。現場で一緒になる若い世代の俳優さんやクリエイターと話をしていると、新しい発見がたくさんあるんです。こういう人たちがこれからの世の中を作っていくわけですし、それはいったいどんな社会になるのかなって想像すると、結構楽しいですよ。今回ドラマ『釣りバカ日誌 新入社員 浜崎伝助』で、僕が映画で演じていた浜崎伝助役を、まだ20代の濱田岳くんが演じるんですが、彼もすごくおもしろい価値観を持ってる。それは僕ら世代とは全然違うものなんだけど、だからこそ、カッコいいなって思います。――共演なさった若い世代の俳優さんが、インタビューなどで“尊敬する役者は西田敏行さん”と発言なさる方が多い印象があるのですが、若い世代からそう言われるご気分は?西田:いやぁ、それはもう、本当に嬉しいことです。そんなふうに見ていただけているなんて…。彼らは今の時代のリズムを持ち、今の空気を吸いながら生きている世代で、そういう人たちの声は、僕にとってはすごく貴重で、大事なものなんです。若い世代と一緒に仕事ができるありがたさを、噛みしめてますよ。「昔は良かった、昔は良かった」って言ってるような先輩には、なりたくないですからね。◇映画では22 作も続いた名作が、10/23よりシリーズ初の連続ドラマ化。金曜8時のドラマ『釣りバカ日誌新入社員 浜崎伝助』は、テレビ東京系で放送。共演に広瀬アリス、吹越満ら。三谷幸喜氏が脚本&監督を務める出演映画『ギャラクシー街道』が全国東宝系で10/24より公開。◇にしだ・としゆき’47年生まれ、福島県出身。明治大学を中退、’70年劇団青年座に入団し、初舞台を踏む。数々のドラマ、映画、舞台で活躍。最近ではドラマ『釣りバカ日誌新入社員 浜崎伝助』『民王』、映画『マエストロ!』『ラブ&ピース』などに出演。歌手としてもその歌声には定評が。※『anan』2015年10月28日号より。写真・内田紘倫
2015年10月26日●視力矯正がいらない人にもメガネを売る直近のニュース記事をピックアップして、「家電的な意味で」もうちょい深掘りしながら楽しい情報や役に立つ情報を付け加えていこう……という趣向で進めている当連載。今回の題材は以下の記事だ。眠気や疲れを可視化できるアイウェア「JINS MEME」、11月5日に一般販売(10月15日掲載)こういうスマートグラスは、Google GlassのようにAR技術などを組み合わせた「ベターディスプレイ」としてのアプローチが多いのだが、「JINS MEME」(ジンズ・ミーム) はまったく異なる。ディスプレイとしての機能はなく、センサーを使って身体の情報をモニタリングすることに特化した「ベターセンサー」アプローチのスマートグラスと言える。Googleが一時的に計画をスローダウンさせたこともあって、スマートグラスの行方は混沌としている。だがその中で、メガネメーカーが独自のアプローチで市場参入を目指すのは、世界的にもまだあまり例がなく、痛快な出来事でもある。JINS MEMEのコンセプト作りや商品企画は、JINSの運営元であるジェイアイエヌが担当するものの、ハードウエアとしての開発と設計は、デバイス設計ではトップメーカーの一角にいるアルプス電気である。得意な部分を持ち合ってコラボレーションする形でJINS MEMEの開発は続いている。○視力矯正がいらない人にもメガネを売るジェイアイエヌの狙いは明確。メガネ市場の拡大だ。メガネは基本的に視力矯正が必要な人にしかニーズがない。サングラスやファッション用の伊達メガネといったニーズもあるが、その割合はかなり小さい。人口が減る=視力矯正が必要な人の数も減る、という日本の市場は、JINSのようにメガネを薄利多売していくビジネスモデルの企業には魅力が薄くなっている。かといって、国が違えばメガネに関するニーズや慣習も異なるため、簡単に国際展開することも難しい。そこで海外展開とともに重要になってくるのが、「そもそもメガネを欲しいと思う人を増やす」というアプローチだ。2010年からJINSはこの戦略を拡大している。もっとも大きな成功例が、LEDのブルーライト成分をカットして眼精疲労を防ぐ、という触れ込みの「JINS PC」である。PCやスマートフォンで目を酷使する人に、視力矯正でなく「目を守るためのメガネ」を売る、というアプローチだ。JINS MEMEはJINS PCよりも多くのテクノロジーが注入された製品ではあるが、狙うところは同じである。体や眼球の動きをトラッキングすることで、人の体と心の状態を「かけている人自身」に伝え、生活を改善するツールとして使ってもらおう、というわけだ。ジェイアイエヌの田中仁社長は、「2010年に、メガネをかけていない人にもメガネを、というコンセプトを打ち出し、メガネの国内市場を1兆円規模にするという目標を掲げた。JINS MEMEはそのためのキラープロダクト。デバイスの小型化が必要だが、5年後にはJINSのすべてのメガネに入れられるようになる」と話す。その田中社長の計画を実現するには、何よりも重要なことが二つある。●バリエーションを広げるための秘策○実は「プラットフォーム」になっている!一つは、「メガネとしてかけたくなる」ことだ。ディスプレイ型のスマートグラスと違い、センサー型のスマートグラスは、四六時中かけて、大量のデータを得られてはじめて価値が出る。また、JINSが狙うように「メガネ」として大量に売れるには、メガネとして自然であることが求められる。その点では、JINS MEMEはかなり成功している。ウェリントンタイプのクラシックな外見だが、かけてしまえばメガネとしてはごくごく普通のもの。スマートグラスという「ITガジェットらしさ」はほとんど感じられない。デザインを担当した工業デザイナーの和田智さんは「普通であることがコンセプト。正面から見て違和感がないことを目指した。いつもかけていられるものでないといけない」と話す。外観ではわからないが、デザイン上の工夫はいくつもある。「実は、ハードウエアはプラットフォームになっている」と和田さんは言う。メガネはファッションに紐付いている。人の個性を演出するものであり、本質的には「一人一人違うものをつける」ことが望まれる。JINSが成功したのも、低価格かつ膨大なバリエーションのあるメガネを供給したところにある。JINS MEMEは現状、スポーツ向けと一般向けの2バリエーションしかなく、ファッション性という面では厳しい。和田さんの考える「プラットフォーム化」とは、メカ部とメガネ部をうまく切り分ける構造を指す。電池やBluetoothモジュールはメガネの「ツル」に入っていて、レンズフレームは別に作れる。眼電位センサーはノーズパッドにあるため、レンズ側のフレームに配線を仕込む必要があるのだが、実はフレームが上下に分割した構造になっていて、配線が絡む作りになるのは片方だけ。半分を変えることで、デサインバリエーションは広げやすい。「仕組みとしてはバリエーションを作れる構造にある。ただし、その構造を使うかどうかは別の話」と和田さんは釘をさす。現状のJINS MEMEでデザインバリエーションを広げる計画はないが、準備は進んでいるようだ。プラットフォーム化とメカ部の小型化を進めることで、最終的には「すべてのメガネに入れられる世界」を目指すのだろう。●わかりやすい指標とアプリ作りに1年半をかける○わかりやすい指標とアプリ作りに1年半をかけるJINS MEMEを普及させる上でのもう一つの課題は「何に使うと便利なのか」を周知させることだ。体のデータを取れる、と言っても、そのままでは難しい。体の傾きがデータとしてわかっても、生活に活かせないからだ。そこでJINSは開発初期から、東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授に協力を依頼し、取得したデータから「心と体の状況」を客観的かつ簡単に把握するための指標づくりを行ってきた。その指標が「カラダ年齢」「ココロ年齢」と名付けられた数値だ。体幹のブレや眼球の動きから、身体・精神の疲れを把握し、「年齢」として表示する。川島教授は「実際には、医学的には意味のない数字」と断った上で、「行動によってどう変わるかを把握し、行動の指針としてほしい」と話す。数値一つに一喜一憂するのではなく、行動によって数値が変わることを把握し、低い数値になるように行動することでより健康な状態を保つ、という考え方だ。この他にも、運転時の居眠り防止やランニングのフォーム確認と矯正など、わかりやすいアプリケーションを揃えている。JINS MEMEは2014年5月に発表されたが、製品化には1年半の時間を必要とした。その理由は、こうしたアプリケーションの開発にある。実際にセンサーから取れるデータには、首の向きや動きに応じたノイズがつきもので、適切な処理をしないと、普通の人にわかりやすいデータにはならない。たくさんの被験者からデータを集め、そういう計測手法を確立してアプリを作りやすくすることが求められる。JINS MEMEはハードを作っただけでは売れない。生かすための環境づくりこそが、JINSがコストと時間をかけたところであり、そこに本質がある。そのくらい、彼らは「メガネ市場の拡大」に本気だ、ということでもある。
2015年10月17日●歩行するロボット型のスマートフォン直近のニュース記事をピックアップして、「家電的な意味で」もうちょい深掘りしながら楽しい情報や役に立つ情報を付け加えていこう……という趣向で進めている当連載。今回の題材はこれだ。シャープ、人のココロに働きかけるロボット型携帯電話「RoBoHoN」発表 (10月6日掲載)CEATECからはソニーが去り、日立が去り、東芝も去った。大手家電メーカーがパナソニックとシャープくらいになり、三菱電機はNECなどと同じくくりにいる。「家電技術の展示会」としてはなんとも寂しい状況にあるのだが、スタート前日の10月6日に突如発表され、その愛くるしい姿から記者団をメロメロにし、話題をさらったのが、シャープが発表したモバイルロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」だ。中身をまだご存じない方はとりあえず、シャープが公開しているコンセプトムービーをご覧いただくのがいいだろう。初めて見る人は、十中八九あっけに取られることを保証する。ムービー内で行われていることは絵空事ではなく、「基本的には、すべて製品版で実現できること」とシャープ側も説明している。○課題は「脱・液晶一本足打法」そもそも、シャープはなぜRoBoHoNのような製品を作ろうとしたのだろうか? それは、家電メーカーとして「脱・液晶ディスプレイ一本足打法」という中長期戦略に基づく。シャープはずっと液晶パネルのクオリティとコストで勝負してきた。シャープのAV機器、そしてモバイル機器の評価は、「美しいディスプレイを備えている」ことがまず大きかった。しかし、である。パネル技術は陳腐化する。最先端の一部の製品向けではまだ差別化ができても、一般的に流通する価格帯のパネルの品質が上がってくると、「美しいディスプレイ」はシャープ製品の差別化ポイントではなくなる。また、シャープの最高級パネルを「他社の大ヒット製品」が一番先に使うことも増えてきて、シャープの製品部門としてはますます厳しい状態に置かれていく。そして、液晶パネル事業そのものの収益性も問題になったことが、現在のシャープの苦境の一つの本質だったりするのだが、今回そこは本論ではないので割愛する。液晶に頼らず、シャープ自身が企画した商品の魅力で戦おうというのが、同社の今の合言葉だ。考えてみれば、他社はなかなか「自社優先で作られたハイクオリティな液晶ディスプレイありきの製品」を作れるわけではないのだから、「当たり前の状態に戻った」ともいえる。●「ココロエンジン」でAIoTに突き進むシャープ○「ココロエンジン」でAIoTに突き進むシャープでは、そこでなにをやるのか? 今までと同じジャンルで、同じように製品のクオリティを高くしていくことはできるが、その手法では「そこそこのヒット」は出せても、「見たこともない大ヒット」にはなりにくい。今までにない要素を持ち、独自の進化の余地が大きいものは何か……。そんな観点で生まれたのが「ココロボ」である。ルンバの登場により、家庭用ロボット型掃除機の市場は一気に立ち上がった。シャープはそのフォロワーという立場である。だが、ココロボがちょっと違っていたのは、音声での操作及びコミュニケーションの機能を持っていたことだ。家庭用ロボット型掃除機の動きはかわいい。それをより生かすように、音声によって「キャラ付け」して特徴としたのだ。ロボット型掃除機の命は掃除の能力だが、そこで明確な差別化をするのは、意外なほど難しい。だから、視点をずらして「かわいさを強調」する形で商品性をアピールしたわけだ。同時に、スマートフォンでは「エモパー」というアプリケーションを展開した。これはシャープ製スマートフォンにのみプレインストールされるもので、スマートフォンを「擬人化」し、ユーザーとコミュニケーションを行うことができる。双方で使われているのは「ココロエンジン」という技術。これはいわゆる人工知能技術とされているが、場所・時間・人の反応と、機器側に用意された機能や情報のデータベースを照合し、適切なものを提示するシステム、と考えていい。家電をネットワークに接続し、ネットワークの向こうにあるサーバーに構築した「ココロエンジン」と連携して価値を高める、という仕組みである。ココロボやエモパーなど、ココロエンジンを搭載した機器がスマッシュヒットしたことを受けて、シャープは同社の家電製品により広くココロエンジンを使う方針を決めた。シャープの家電部門、シャープ コンシューマーエレクトロニクスカンバニーの長谷川祥典社長は、これからの同社のビジョンとして「AIoT」というキーワードを掲げた。これは、人工知能の「AI」と、家電にとって重要な要素となりつつある「IoT」を組み合わせた造語であり、中核となるのはココロエンジンである。AIの能力を家電にうまく溶け込ませることを差別化要因とする、と定めたわけである。●技術だけでなく「演出」も重要○技術だけでなく「演出」も重要RoBoHoNは、ロボットをスマートフォンにしたものである。OSはAndroidをコアとしたものだが、画面操作よりも音声操作を軸にしていること、ロボットの動きを反応に生かす要素があることなどから、かなり中身が異なっている。ここで軸になるのもココロエンジンで、RoBoHoNはシャープのAIoT戦略の象徴となる。ココロエンジンはネットワークの向こうに本質があり、そういう意味では、画面だけだったエモパーが体を持った、とも言えるだろう。他方で、RoBoHoNの存在は、別の意味でココロエンジンを象徴するものでもある。RoBoHoNは、シャープとロボットクリエイターの高橋智隆氏のコラボレーションによって開発されているものだ。高橋氏は、パナソニックが乾電池・エボルタのプロモーション「エボルタ・チャレンジ」に使っている「エボルタ・ロボット」や、ディアゴスティーニから発売された「週刊Robi ロビクルをつくる」などのデザインと開発を手がけた、世界有数のロボットクリエイターである。高橋氏が評価されているのは、「ハイテクのロボットを開発するから」ではない。むしろ彼の開発するロボットは、大企業や研究機関がつくるものに比べ、ずっとシンプルだ。だが、技術的に高度なロボットより、「リアル」な部分が評価されている。外観や動作、仕草などのコンセプトをトータルで作る能力に長けており、結果として良いロボットになる。実は、ココロエンジンのようなAIも似たところがある。AIとはいえ、人間の感情や反応を完璧に再現することは、現状不可能である。データベースに合わせた反応を積み重ね、人間の側には「リアリティがあるように思える」「かわいいと思える」演出を積み重ねるしかない。別の言い方をすれば、家電におけるAIの価値は「賢く働く」ことだけではなく、「人からシンパシーを感じてもらえるように演出する」ことも重要になるわけだ。ココロエンジンでソフト的な演出に長けたシャープと、ロボットという物理的に動く機器での演出とコンセプトワークに長けた高橋氏のコンビによって、小さなロボットが「通信機能を持つ人のコンパニオン」になるよう、開発されていくのである。試行錯誤が必要なものであり、一朝一夕な開発は困難だ。こうした部分でシャープは先行を狙う。高橋氏も「他社に5年は先行しているのでは」と自信を見せる。RoBoHoNは価格も未定で (おそらく、そんなに安くはならないだろう)、ヒットするかは未知数だ。しかし、CEATECでのRoBoHoNへの注目は大変な大きなものであり、ヒットへの第一段階をクリアーしつつある、と期待したい。
2015年10月09日宮城県大崎市の岩出山中心商店街で9月12日~13日、同地域で若かりし頃過ごした伊達政宗にちなむ「第52回 政宗公まつり2015」が開催される。○「伊達武将隊」も登場同イベントは、戦国大名・仙台藩主の伊達政宗公が仙台城へ移る前の12年間、同地域に住んだことにちなみ、また、昭和39年(1964)に仙台城の「政宗公平和像」が岩出山城跡に移されたことを契機に始められた。12日に開催される「宵まつり」では、スポーツ少年団、伊達神輿会による「みこしパレード」や岩出山地域女性団体、遊美YOSAKOIおどり隊などが参加する「おどりパレード」などが行われる。13日に開催される「本まつり」では、同地域各団体による神楽、太鼓演奏、豊年田の草踊りのほか、同祭りのみどころである騎馬武者・甲冑武者隊・若武者隊・自前甲冑隊が街を練り歩く「伊達武者行列」が行われる。なお、行列には奥州・仙台おもてなし集団「伊達武将隊」が参加し、祭りを盛り上げる。開催時間は、12日が12時から21時(宵まつりは18時30分~21時)、13日は13時10分から17時(伊達武者行列は14時~16時)までとなる。
2015年09月09日●「First Flight」でクラウドファンディング開始今回はちょっと、いつもとは違うフォーマットで始めたいと思う。写真の製品、なんだと思うだろうか?○「First Flight」でクラウドファンディング開始ソニーは同社のクラウドファンディング・プロジェクトを公開する「First Flight」にて、8月31日11時から新しい募集を開始した。それがこの写真、正確にはその製品の「一部」である。8月25日から、同社はクラウドファンディングの開始に向けてティザーを公表しており、ここでも部分的にチラ見せされていた。要はこれ、時計のバンドの部分なのだ。今回First Flightでクラウドファンディングが行われるのは腕時計。その一部が公開されいた、ということになる。腕時計の名は「wena」。もちろん、普通の腕時計ではない。価格は39,800円から69,800円。最初のキャンペーンとして数量限定で、5,000円引きの34,800円で販売されるものも用意される(全て税込)。●「通知」「活動記録」「決済」をバンドの中に○「通知」「活動記録」「決済」をバンドの中にwenaは、いわゆるスマートウオッチである。だが、一般的なスマートウォッチとは異なり、時計のムーブメントの部分にはIT関連の機能は一切入っておらず、バンドの側にまとめられている。サイズの制約もあってシンプルにまとめられているが、スマートウォッチとしてのwenaの機能はなかなかに充実している。スマートウォッチといえば、スマートフォンからの「通知」機能が基本。wenaの場合にも、振動とカラーLEDの発光で知らせてくれる。また、活動量計の機能もあり、こちらは、wenaのバンド内にある振動センサーで、歩行量などの計測ができる。そして、一番の特徴は「FeliCa内蔵」ということだ。決済系のサービスが、腕から利用できるようになる。他のスマートウォッチ同様、各機能はBluetooth LEでスマートフォンと連携することで動作する。○将来的にはポケットの中を空っぽにしたいwenaのプロジェクトを統括する、ソニー 新規事業創出部 wena事業準備室 統括課長の對馬哲平さんは、開発の狙いを次のように説明する。「とにかく持ち物を減らしたかったんです。将来的にはポケットの中を空っぽにしたい。でも、複数デバイスを腕につけるのは不自然ですし、スマートウォッチもほとんどが、いかにもスマートウォッチだとわかる外観をしています。ですので、最高に自然なものを作るにはどうしたらいいか、と考えてこの形にしました」。wenaは時計のバンド部に全ての機能が入っているが、サイズが若干厚めであることを除くと、一般的なバンドと変わりない。メタルバンドとしての素材はステンレスで、時計一般に期待される耐水性・防塵性を持ち(IPX5/7相当を想定)、自然に曲げることもできる。サイズは一般的な男性用時計バンドと同じ。取付方法も同じだ。だから、時計側を自由に交換することもできる。これは、「愛着のある時計を使える」という側面と、「機能アップがあった場合には、バンドの側だけを変えればいい」という二つの側面から考えられたものである。今回のプロジェクトでは、一体性を持たせたデザインを重視し、時計部とのセットでのみ販売されるが、時計部には色と機能で4つのバリエーションが用意される。時計部分はシチズンからのOEMであり、機能面では問題ない。デザインはソニー側でバンドに合わせて作ったオリジナルのものだが、過去に長く時計のデザインを手がけた経験のあるスタッフが担当したという。●「おサイフケータイ ジャケット」の仕組みを活用○「おサイフケータイ ジャケット」の仕組みを活用機能面で気になるのは、やはりFeliCaとしての利用だろう。現在のwenaは、FeliCa部分の機能に、NTTドコモの「おサイフケータイ ジャケット01」と同じソフトウエア・フレームワークが使われているという。おサイフケータイ ジャケット01は、FeliCaとBluetoothを内蔵したカードサイズの機器。iPhoneのようにFeliCaを内蔵しないiOS機器で、FeliCa決済を実現するものだ。iD・QuickPay・ヨドバシカメラゴールドポイントカード・ANA SKiPサービスに対応しており、今後、楽天Edyへの対応を予定している。形状こそ異なるが、wenaは同じ仕組みを使うため、これらのFeliCa対応サービスに対応する予定だ。小型かつステンレスのボディで非接触IC機能を実現するため、アンテナなどはソニーがwena向けに独自開発を行い、ソフトとサービスの部分は、フェリカネットワークスが開発しているおサイフケータイ ジャケット01のものを使っている、という形になる。おサイフケータイ ジャケット01と同じ仕組みであるということは、現時点では、もっともニーズの大きなFeliCa系サービスである交通系決済、例えばSuicaには対応していない、ということでもある。この点は留意しておく必要がある。ただし、スマートウォッチとしての機能がバンド側にある、というwenaの性質上、今後技術が進歩した場合にも、バンド側の変更で対応できる可能性が高い。現在は明確な予定はないということだが、FeliCaではなくNFCに対応したものや、FeliCa対応の幅をより広げたものも考えられる。「世界展開時には、マスターカードが進めている非接触決済である『PayPass』、VISAカードが進める『payWave』への対応を検討している」という。○入社2年目の新人がプロジェクトリーダーこのプロジェクトを指揮する對馬さんは入社2年目で、まだ非常に若い。元々ソニーに入社する前から、ウェアラブル機器の開発を考えており、その時に持っていたアイデアのひとつがwenaだった。その後、研修中にアイデアを熟成させ、数人の同期とともに、ソニー社内で動き始めていた「新規事業推進プロジェクト」に応募する。この段階ではまだ当然、社会人1年生である。「実は、もう少し簡単にできるものと思っていたんですが、とんでもない。社内のプロフェッショナルの力を借りなければ、とてもできませんした」。對馬さんはそう笑う。部材調達やマーケティング、デザインに機構設計など、プロの能力が必要な部分では、ソニー社内の人材が力を貸し、ともにプロジェクトを進めた。wenaはまだスタートしたばかりで、正式に事業化が決定しているわけではない。そもそも「First Flight」という仕組みが、クラウドファンディングによって市場性を検討し、事業化とそのスキームを決めるためのものだ。とはいえ、半年程度でまだ経験の少ない人材が中心となってこの種のプロジェクトを立ち上げるのは大変なことだ。ソニーとしては、ベンチャーのスピード感や発想力に近いものを生かしつつ、同社が長く培ってきた製造力でカバーしてスムーズな事業化を実現しよう、という狙いがある。すでに3つの商品が同じ枠組みで世に出ているが、今後も継続して展開する予定であるという。
2015年08月31日●4K・HDR映像をサポートする次世代ディスク規格直近のニュース記事をピックアップして、「家電的な意味で」もうちょい深掘りしながら楽しい情報や役に立つ情報を付け加えていこう……という趣向で進めている当連載。今回の題材はこれだ。4K対応の次世代「Ultra HD Blu-ray」、2015年の年末商戦には対応製品が登場 (8月6日掲載)Ultra HD Blu-rayは、2014年から規格策定が進められ、2015年1月のインターナショナルCESの段階では、おおむね中身も決まっていたものだ。最終的な規格策定は6月に完了し、現在はライセンス提供を開始する段階に入った。Ultra HD Blu-rayの旗振り役であるパナソニックは、CESの段階ですでに試作機を展示しており、年末に向けた製品化も順調と見られている。「Blu-rayも普及し始めたばかりなのに、もう次の規格なの?」。そんな風に思う人もいそうだが、今のBlu-rayの規格策定が完了してから、すでに9年が経過しており、DVDビデオからの移行期間が10年程度だったことを思うと、さほど短くはない。むしろこの9年に起きた変化を思えば、ディスクメディア技術としてのジャンプアップは小幅である。登場の背景にあるのは、ディスクメディアに求められるものの変化と考えていい。○物理メディアとしてのジャンプアップは小さいUltra HD Blu-rayは、ディスクの物理的性質としては、既存のBlu-rayと大差ない。3層までのメディアが想定されており、各層の容量は25GBもしくは33GBとなっている。だから、メディア容量としては25GBから100GBまでとなる。これは、現在記録用に使われている「BDXL」そのもの。Ultra HD Blu-rayは記録用ではなく配布用(ROM)規格なので、ディスクメディアとしての性質は異なるものの、技術的にはある意味で枯れたものである。DVDからの技術的なジャンプアップが大きく、いろいろなハードルが存在したBlu-rayの頃とは大きく異なる。映像を収録するためのコーデックや音声規格などはBlu-rayと異なるものの、そうした部分はソフトウェアでカバーすることも可能である。とはいえ、Blu-rayに対応していても、Ultra HD Blu-rayを読み込めるドライブを搭載している機器は、世界レベルで見ると意外なほど少ない。海外では録画機のニーズがほとんどなく、BDXLは実質的に日本国内でのみ使われていたためだ。国内で流通している機器でも、PlayStation 3やPlayStation 4、XboxOneといったゲーム機はどれもBDXLに対応していない。もともとBlu-rayはディスクを大容量化して、より高画質・高音質な映像を収録することを想定して開発されており、9年前の規格策定時期には「将来のより高度なディスクも想定する」との話があった。だから、CDからDVD、DVDからBlu-rayに比べると技術的な変更点は少なくて済んでいる。そういう意味では、当時の想定は正しかったのだ。しかし、世界中に普及している機器でそのまま再生できるわけではないので、わかりやすくここで一区切りが必要。というわけで、Blu-rayの発展規格として、Ultra HD Blu-rayが登場することになる。●高付加価値型テレビの力を生かす規格へ○高付加価値型テレビの力を生かす規格へUltra HD Blu-rayの最大の特徴は、収録可能な映像の最大解像度が2K(1,920×1,080ドット)から4K(3,840×2,160ドット)になることだ。また、そこにHDRの情報が加わることで、明部・暗部の表現がより自然になる。色情報も、テレビのデジタル化以降標準的に使われてきた「BT.709」ベースから「BT.2020」ベースになり、特に緑・シアン方面での表現力が高まる。HDRと色情報の拡大は、表示される映像の純度に大きな影響を及ぼすだろう。暗い部屋から夏の海に出た時のきらめきや、澄んだ空・海の再現は、Ultra HD Blu-rayがもっとも得意とする分野になるだろう。ただ、4KにしろHDRにしろ色域拡大にしろ、Ultra HD Blu-rayが率先して引っ張る領域とは言えない。高付加価値型のテレビやプロジェクターで開拓が進んでいるジャンルであるからだ。今の高付加価値型映像機器では、Blu-rayに入っている映像の情報を解析し、映像補正技術によって「解像感がある」「色が豊かな」映像を作り、最新のディスプレイデバイスで見せることができる。それは「ありもしないデータを作っている」のではない。本来、映像には非常に多くの情報が含まれていて、人間がどう映像を感じるのかを分析したノウハウと組み合わせると、まだ画質向上の余地はある、ということだ。そこで、データをさらにリッチなものにすれば、画質はもっと上がるし、今のデバイスの能力を生かすには、9年前と同じでは足りない。というわけで、4K+HDR+高色域+高音質が、Ultra HD Blu-rayに必須の要件となった。○「映像の所有」にこだわる人には「高画質」をだが、ここで一つ重要な、別の変化もある。9年前と違い、現在はディスクメディアの重要性が落ちつつある。記録メディアを使う頻度も減ったし、単に映像を見たいのであればネット配信でいい。日本ではまだディスクメディアが売れているように見えるが、海外、特にアメリカ市場では、広く一般向けに映像を配布するメディアとしては、ネットを使うのが当たり前になっている。登場から9年経ってもBlu-rayが普及していないのは、ネットメディアとのバッティングがあるからだ。実際、4Kもディスクよりネットメディアが先行している。9月2日に日本でもスタートする映像配信サービス「Netflix」は、4Kでの配信を積極的に進める。また、HDRについても対応を予定している。規格策定を待ったり、多数のメーカーでハード開発をするのを待つ必要がない分、ネットのプラットフォーマーは素早く動ける。単純に「映像を見る」なら、今後はディスクよりネットという時代になるだろう。それは4Kでも変わらないどころか、さらに加速する可能性がある。●Ultra HD Blu-rayの存在価値とは○Ultra HD Blu-rayの存在価値とはでは、Ultra HD Blu-rayに意味はないのか? もちろんそんなことはない。その理由は「高品質」にこだわることにある。4Kでのネット配信は、ビットレートが15Mbpsから30Mbps程度しかない。コーデックの進化により、それでも解像感を味わえるようになっているものの、Blu-rayの最高ビットレートにも届かないわけで、本質的には決して「高画質」ではない。しかし、Ultra HD Blu-rayではメディアとしての最高転送レートが129.7Mbpsとなり、映像にもっと多くの帯域を割り当てられる。一般的な映画の場合でも、40Mbps程度にはなると想定される。となると、ネット配信よりはるかに高画質になるわけだ。わざわざ映像ディスクを買う人は、作品に強いこだわりがある人だ。ネット配信、特にサブスクリプション型のサービスでは、映像をいつでも見ることはできても「所有」することはできない。映像を所有することを望む人には現時点で最高級のものを、というのがUltra HD Blu-rayの考え方と言える。一方、映像のコンテンツを制作するフォーマットやプロセスについては、画質が異なっても共通の部分が多い。そのため、家電メーカーやコンテンツメーカーは、Blu-rayアソシーエーションとは別に作られた「UHD Alliance」を組織し、コンテンツ制作の円滑化を進めている。こちらにはNetflixも参加しており、ディスクメディアに限った団体ではない。今後、映像の世界は、手軽さや便利さ」と「こだわる人向けの高品質」が分かれ、費用や機材によって住み分けが進む。物理メディアであるUltra HD Blu-rayは明確に後者のためのものであり、DVDやBlu-rayとは役割を少し変えて行くことになりそうだ。
2015年08月21日●アップルは「擬似垂直統合」ビジネスモデルだ!直近のニュース記事をピックアップして、「家電的な意味で」もうちょい深掘りしながら楽しい情報や役に立つ情報を付け加えていこう……という趣向で進めている当連載。今回の題材はこれだ。アップル、第6世代iPod touch - iPhone 6と同様のA8チップ搭載 (7月16日掲載)ご存知の通りiPod touchは、「携帯電話網への接続機能を持たないiPhone」のようなものだ。前回にリニューアルしたのが2012年9月のことだから、3年近く刷新されていなかったことになる。3年間のブランクはとくにハードウェア面で大きく、新型と2012年モデルでは性能面で大きな差が生まれている。昨今のアプリを使うのであれば、ずっと快適な体験になることだろう。しかも、サイズは過去のものとほぼ同じ。128GBのフラッシュメモリーを搭載したモデルも用意されたから、なかなかお買い得なモデルと言える。○アップルは「擬似垂直統合」ビジネスモデルだ!そもそもiPod touchの存在は、アップルのiOSデバイス戦略と密接に紐付いている。他社製品とiOS機器の違いは、アップルが自ら設計したり、他社に特別なパーツをオーダーして調達するものが多い、ということにある。中核となるSoC(※)である「Aシリーズ」は自社開発の上、パートナーに製造を委託しているもので、他のメーカーは使えない。性能を数字でみれば、iPhoneもiPadも、Android端末に比べ特段優れた点はない。iOSとの一体設計がなければ、ここまで快適な製品にはならない。※システム・オン・チップ。CPUやGPUと周辺LSIを一つにまとめたものそして、アップルのiOS機器、特にiPhoneの特徴は、とにかく利益率が高いことだ。パーツコストは販売価格の3割程度と言われている。ただし、ここに宣伝や流通、在庫、研究開発などのコストが乗ってくるので、実際の営業利益率は3割、というのが定説だ。とはいえ、他社の倍近い利益率と言われており、アップルは圧倒的に商売がうまい。高い利益率を支えているのは、部材調達コストのコントロールである。アップルが自社独自のパーツを調達しているのは、そうするのが、もっとも価格を安く、安定的に調達する方法であるからだ。アップルは工場を持たず、生産委託の形でビジネスをしている。しかし実際には、半導体やボディの生産について、かなり初期設計の段階から関わり、独自に生産機械を調達し、生産委託工場に配置していたりする。工場を持たず、他社から供給されるパーツを組み立てて最終製品を製造するビジネスモデルを「水平分業型」という。そして、アップルは水平分業の代表、と言われることが多いが、筆者は間違いだと考える。工場こそ持っていないが、「バーチャルな垂直統合型」だと思っている。自社製品に特化した部品を一気に製造し、ソフトもそこに合わせてチューニングする。そうやって無駄を排除することが、利益率を高めるためには重要なのだ。思えば、アップル製品はバリエーションが少ない。スマートフォン製品においては、サムスンやソニー、LG電子に対して、数分の一のバリエーション数しかないのだ。それは、同社が少ないバリエーションで顧客をつかみ、利益率を高める戦略であることを示している。●「マイファーストiPhone」としてのiPod touch○「マイファーストiPhone」としてのiPod touch前置きが長くなったが、ここで話をiPod touchに戻そう。iPod touchでは、iPhoneに使われているSoCのうち、一世代前もしくは性能が劣るものが使われる。2012年秋のモデルではiPhone 4Sに使われていた「A5」が利用され、今年のモデルではiPhone 6に使われている「A8」が搭載されている。ともに、1年前に登場したiPhoneのSoCを低クロックで使っている。低クロックにしているのは、製造上その方が有利であり、コストダウンにもつながるからだ。新iPod touchと2012年モデルのパフォーマンスの違いは、ほぼSoCの進歩と歩調を合わせている、と考えて差し支えない。だが、ここで一つの疑問が浮かぶ。なぜ、2013年と2014年にはiPod touchの新モデルがなかったのだろう? 正確には、2013年には1モデルのみ、2012年版の廉価版が用意されたのだが、本格的な新モデルはなかった。ここで、アップルにおけるiPod touchの位置づけを理解しておく必要がある。iPodといえばアップルの音楽機器のブランドだが、ことiPod touchについては、必ずしもそうとは言いかねる。iPhoneの登場以降、アップル製品の魅力は「iOS向けのアプリ」になっていった。アプリ、特にゲームの市場は急拡大した。アップルとしても、この機会に巨大市場であった「携帯ゲーム機」へチャレンジしたい、という意志が強く働いていた。家庭で楽しめる低価格版iPhoneとして登場した、という側面がある。その性格が強く現れていたのが、2012年版のiPod touchだった。当時、アップル関係者は筆者にこう話した。「子供が最初に持つアップル製品がこれになる、と思っている。ネット機器としても、カメラとしてもこれを最初に触れる。だから本物じゃなきゃいけない」。iPhoneと同じ要素を持ちつつ、低価格な「マイファーストiPhone」としての位置づけが重要だったわけだ。そうした要素がもっとも強く、「一般市場への拡大」を意識していた製品だと言える。例えば、2012年版には専用ストラップの「iPod touch loop」があった。これが用意された理由は「カメラならストラップがあるのが当たり前だろう?」(アップル関係者)ということだった。しかし、その状況は2013年から2014年の間に、変化した。スマートフォンは高価格モデル一辺倒ではなくなり、Androidを中心に低価格製品が増えていく。長期契約に伴う割引などを使えば、ハイエンドスマホでも安く入手できるようになる。市場がアップルに求めているのは低価格iPhoneであり、iPod touchではない、という状態だった。そこで、アップルは一世代前のiPhoneを生産し続け、低価格機種として併売したり、プラスチックボディでシンプルな外観の「iPhone 5c」を製品化したり、というアプローチを採った。その製造にかかるコストと販売戦略を中心軸とした場合、iPod touchの新モデルを用意する意味は薄れていた。●久々に「音楽が軸足」のiPod touchに○久々に「音楽が軸足」のiPod touchにが、今年は違う。アップルはストリーミング・ミュージック・サービスである「Apple Music」を軸に、音楽ビジネスの再構築を行う。過去のiPodは「オフラインで音楽を聞くもの」だが、Apple Musicを軸にするなら「オンラインで常に使い続けることもできる機器」、すなわちスマートフォン的なものが必要になる。iPod touchは「ストリーミング時代の音楽プレイヤー」としての存在になるというわけだ。現在、多くの人が音楽をスマートフォンで聴いている。以前に比べれば専用機の必要性が低下しているのは間違いない。一方、スマートフォンは電話・ネットに関するライフラインとしての価値が高く、音楽などのエンターテインメント要素は切り分けたい、というニーズもある。iPod touchであれば、そのニーズに対応するにはぴったりだ。アップルは2014年に「低価格スマートフォン路線」からは一歩退く判断をしている。低価格iPhoneとiPod touchの共食いを気にする必要もなくなった。ならば、より音楽市場に向けたチューニングでiPod touchを出そう、という発想も頷ける。大量の音楽を貯めこむ人のために128GBモデルが用意され、コスト的に厳しい割にニーズが薄いストラップは削除された。アップルは例年、音楽系製品のリニューアルを秋に行っていたのだが、今回はApple Musicとの関係を強調する必要もあり、夏の発表になっている。現在、音楽シーンではストリーミングやアプリベースでの配信に軸足が移りつつあり、単品の音楽プレイヤーでは立ちいかなくなりつつある。ハイレゾに対応するにしても、アプリなどがあればより簡単になる。そういう存在の受け口としても、iPod touchは重要だ。Androidにおいても、同じようなものがあればそれなりに市場はできると思う。だが、スマートフォンそのものが低価格化していること、音楽などの「サービス連携」を考慮できる企業が限られていることなどから、AndroidでiPod touchのような存在を作るところは稀だ。国内で目立つのはソニーのウォークマンくらいだろうか。アップルとしては、音楽プレイヤー市場をテコに、AndroidユーザーにもiOS機器を買ってもらいたい、と思っているようだ。そういう存在として、iPod touchはかなり戦略的な意味合いのある製品、と言えそうだ。
2015年07月27日●追求するのは画素数にあらず直近のニュース記事をピックアップして、「家電的な意味で」もうちょい深掘りしながら楽しい情報や役に立つ情報を付け加えていこう……という趣向で進めている当連載。今回の題材はこれだ。ソニー、4K動画撮影が可能な「RX100 IV」 - 1型センサー進化した高級小型機 (6月26日掲載)RX100シリーズは、ソニーが自社で製造・開発している1インチサイズのCMOSセンサーを搭載したコンパクトデジタルカメラだ。2012年に発売された初代モデルは「1インチセンサーを使った高級コンデジ」の市場を拓いた存在といっていいだろう。今回話題にしたいのは、「RX100 IV」で第四世代になるRX100シリーズがヒットを続けている、ということではない。「デジカメの撮像素子 (イメージセンサー)」はどのような進化を遂げつつあるか、という点である。○高級コンデジ、ヒットの背景RX100シリーズはすべて「1インチ・有効画素数 約2000万画素」のイメージセンサーを採用している。画素数を指針とするならば進歩していない。その裏にあるのは、現在のカメラ用イメージセンサーのトレンドが「画素から光量を重視するものに変わってきている」ということだ。写真のクオリティを上げるためのアプローチとして、解像度を重視するやり方は一段落している。一方で、1ピクセルあたりの光量をより正確に把握することが、写真のクオリティを高めることにつながり、そこが差別化点になる。特にスマートフォンとの差別化を考えた場合、デジカメの優位点は「サイズに余裕がある」ということが大きい。大型のセンサーとレンズを使うRX100のコンセプトはここを突いたものといえる。その分、価格も高くなるわけだが、対象は「スマホに満足できない人」なわけだから、そこは致命的な問題とはならない。ソニーはRX100を同じコンセプトで改良し続けている。第二世代のRX100 IIではセンサーを裏面照射型に変えた。裏面照射型は受光能力が高く、対応ISO感度が最大6400から12800にアップした。そして、第三世代のRX100 IIIでは同じセンサーでレンズを変え、望遠でのレンズの明るさを上げている。デザインもほとんど変わらないが、方針にもぶれがない。●低照度撮影とスロー撮影は表裏一体○低照度撮影とスロー撮影は表裏一体今回、第四世代のRX100 IVにおいてはセンサーを大きく変えた。ポイントはセンサーの性能そのものではない。センサーに付け加えられた「機能」だ。RX100 IVでは、最大960fpsのスーパースロー撮影が可能になった。静止画ではなく動画が軸になり、いきなり飛躍したように見えるが、テクノロジーの進化の方向性としては、同じ軸になる。スロー撮影では、1コマを記録するための時間が短くなる。ということは、それだけ少ない光量で映像を構成する必要がある。暗いところでもきれいに撮れるカメラと、スロー撮影ができるカメラは、技術的にいえば表裏一体なのだ。正直なところ、「静止画をきれいに撮影したいカメラ」に「動画の機能を充実させていく」ことは、製品価値として受け入れられるのだろうか……という印象もある。しかし、4Kテレビが好調に売れつつある現在、4Kの映像をスマホよりもきれいに、しかも手軽に撮影する機器として、高級デジカメにフォーカスが当たるのは理解できるところだ。ライバルであるパナソニックは、高級カメラによる4K撮影において、機能面でも画質面でも、ソニーよりも先を走っている。パナソニックの製品でも、使われているのはソニーのセンサーだ。センサーのトップメーカーであり、昨今のトレンドを作った企業という自負もあるソニーとしては、4K動画について、この辺でしっかりと追いついておきたい、という考えもあるのではないだろうか。そうした部分は特に、RX100 IVと同時発表された高倍率ズーム機「RX10 II」から見えてくる。24-200mm・全域F2.8のスペックが評価された前モデルと、レンズ面では変わりがない。しかし、ズーム動作音をより小さくしたり、オートフォーカス速度を速めたりと、動画向けの機能改善点が多い。●ソニーのセンサー事業を支える「発想」○ソニーのセンサー事業を支える「発想」今回、高画質スロー撮影が実現できた背景には、新たに開発したセンサーの特殊な構造がある。ソニーはCMOSセンサーのブランドに「Exmor」という名称を使っている。Exmorには主に3つのカテゴリーがあるが、コンパクトデジカメに広く使われているのは、裏面照射型である「Exmor R」だ。だが今回の新製品、RX100 IVとRX10 IIに採用されたのは「Exmor RS 」。Exmor RS は主にXperiaなどのスマートフォンで使われることの多かったブランドである。じゃあ、RX100 IVにはスマホ向けセンサーが使われているのか、というと、もちろんそうではない。「Exmor RS 」の「RS」は、スマホ向けという意味ではないからだ。この辺の事情を知るには、裏面照射型センサーの構造を知るのが近道だ。裏面照射型センサーとは名前の通り、半導体基板の「裏」から光を照射して検知するものだ。従来のCMOSセンサーは回路面の奥に受光部が存在する構造になっている。その構造は、穴の奥で光を受け取るのに近い。光子のサイズからみれば、「まるで井戸の底で光を受け取るようなもの」(ソニー・技術者談)だという。それでも、一眼レフに搭載するような大型センサーでは、構造面の不利は小さかったという。だが、コンデジやスマホに使われる小型センサーの場合、「井戸の底で光を受け取る」構造は不利で、暗所撮影には弱い、という時期が続いた。そんな状況を一変させたのが「裏面照射型」という発想だ。半導体基板の裏を可能な限り削り、裏から光を受け取るようにしたのである。その結果、スマホやコンデジの暗所撮影性能は劇的に改善された。裏面照射型はソニーの専売特許ではないが、他社に先駆けて「高画素・高画質」の裏面照射型センサーを量産し、Exmor Rブランドで広めたことが、現在の「センサーにおけるソニーの強み」を生んだ。○裏面照射型センサーがさらに進化一方で、裏面照射型センサーは基板を削る関係上、センサーが載った基板が薄くなりすぎる。実際の製品では、センサー基板の裏に「保持基板」を貼り付けて剛性を確保する。さらにセンサーの周囲には、センサーから得た情報を処理して動画・静止画にするための回路がある。その面積は馬鹿にならないものだ。そのため、基板の全面積を「光を受け取るセンサーそのもの」に与えるわけにもいかなかった。ソニーはそこに、さらにコロンブスの卵をもち込んだ。処理回路をセンサー面ではなく、保持基板側に持っていったのだ。裏面照射型センサーには、保持基板は必須。だかこれまで保持基板は単なる板で、特別な機能はなかった。そこに処理回路を持っていけばセンサーサイズを稼ぎやすくなるし、処理回路そのものも大規模化しやすい。一石二鳥である。これが、ソニーが2012年夏に発表した「Exmor RS」だ。Exmor RSは、まずはスマホ向けに使われた。スマホの写真において、ノイズ除去などの機能を実装するには有利な構造であったからだ。だが今回、RX100 IVなどに使われた1インチサイズのExmor RSの処理回路には、映像処理系ではなく、大容量の高速DRAMが搭載された。センサーの近くで映像データを一時的に貯め込み、スロー撮影や高速シャッター撮影を実現するためだ。撮影後の処理速度を上げるにも効果的で、カメラ全体のレスポンス向上にも一役買っている。もともとの計画では、Exmor RSは画像処理機能を一体化したセンサー向け、と言われてきた。例えば、センサー画素をRGB+「白」にして輝度を上げる4色画素撮影や、低ノイズ撮影などが挙げられる。しかし、処理用LSIは別途搭載することもできるし、4色画素の技術開発は難しい。メリットがはっきり出やすい用途として、DRAM搭載型に舵を切ってきたのでは……。筆者はそんな風に予想している。
2015年07月21日●欧米のゲーム機市場は2年で変わった直近のニュース記事をピックアップして、「家電的な意味で」もうちょい深掘りしながら楽しい情報や役に立つ情報を付け加えていこう……という趣向で進めている当連載。今回の題材はこれだ。[小野憲史のゲーム時評]E3に見る業界のトレンドVR向けの展示でしのぎ削る (6月11日掲載)筆者も6月13日から19日の間、ロサンゼルスに滞在していたのだが、その目的は世界最大のゲームイベント「Electronic Entertainment Expo(E3)」の取材だった。筆者はE3を取材しはじめて、そろそろ干支が一周しようか……というところなのだが、今年のE3は、過去に例を見ないほどの盛り上がりを見せていた。いや、その言い方は正確ではあるまい。実際には、過去10年以上の間に、今年よりも盛り上がったE3はあったかもしれない、と思う。だが一方で、特に2008年からこっち、ゲーム業界に元気がない時期が長かったこともあり、今年の盛り上がりが特別なものに見えた、という部分は否定できない。昨年から盛り上がりつつあったのだが、今年は明確に変わった。ゲームといえばスマホゲーム、という印象が強くなった日本から見ると、今ひとつピンとこないかもしれない。だが、欧米のゲーム業界は確実に拡大のフェーズを迎えている。○欧米のゲーム機市場は2年で変わったE3が盛り上がっている理由は、まちがいなく「ゲームが売れているから」だ。2013年のE3取材時は、サンフランシスコやロサンゼルスのゲーム専門店をのぞいても、店頭は寂しい感じだった。ゲーム機よりも中古のタブレットが目立つありさまだったのだ。日本のゲーム専門店から携帯ゲーム機を取り除いたような姿、というとわかりやすいだろうか。それが、今年はまったく変わっていた。店頭にはゲームがあふれ、ゲーム機の箱が山と積まれていた。そうした変化をもたらしたのは、2013年末に欧米で発売され、日本では2014年に発売になった「PlayStation 4(PS4)」と「Xbox One」、2つのゲーム機である。PS4とXbox Oneは、PS3世代に比べ性能が高く、開発も容易な構造である。そのため、PCまで含めた「今時のリッチな環境」に向けて開発したゲームを動かせる。PCでも同じ事はできるが、汎用機であるがゆえに、ゲームにこだわったスペックにするとコスト的には不利だ。15万円を越えるゲーム用PCを用意し、逐次メンテナンスをしていくのは苦しいと思う。「濃いゲームはプレイしたいがコストはかけなくない」、なんとも絶妙な領域を家庭用ゲーム機がカバーしていることになる。文字だけで見るとその領域は狭そうに思えるが、蓋をあけてみたら、そこに巨大な市場があった。PS4は今年の3月に、全世界で2,020万台が売れた。SCE側はいまも「過去に発売したPlayStationよりも早い勢いで売れている」(SCEのアンドリュー・ハウス社長)としている。日本市場は3月の段階で120万台程度と、人口に相当する市場規模から見るといかにも小さい。「最近のトレンドにあったゲーム」が欧米を中心としたムーブメントであり、日本人の琴線に触れるタイトルが少なかった、ということもあるだろう。だが、「日本のコンテンツを世界が求めていなかった」かというと、そうではない。それが特に顕著だったのが、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のプレスカンファレンスだった。SCEは、2009年にPS3向けに発表されたものの、開発難航により凍結されていた「人喰いの大鷲トリコ」をPS4向けに発売すると発表した。また、スクウェア・エニックスは、PS1で大ヒットした「ファイナルファンタジーVII」をPS4向けに完全リメイクすると発表した他、セガがDreamcastでヒットさせたゲーム「シェンムー」の続編を、オリジナルの開発者である鈴木裕氏が開発することもアナウンスされた。これら「日本のコンテンツ」に関する展開については、アメリカの聴衆もスタンディングオベーションで迎え、プレスカンファレンスの中でも最高の盛り上がりを見せた。日本のコンテンツが注目されるということは、それだけ日本のメーカーがPS4に開発投資をし始めた、ということでもある。とすると、日本人が好むゲームはこれから出てくる……と期待できそうだ。E3はあくまでアメリカ市場向けのイベントなので、純粋に日本向けのゲームは発表されない傾向にある。日本メーカーのPS4に対する開発投資の状況は、秋の日本向けゲームイベント「東京ゲームショウ」前後に見えてくることになるだろう。●対決でなく「協力」しあうVRメーカー○対決でなく「協力」しあうVRメーカー、大きく変わった業界構造もう一つ、今年のE3の話題は「バーチャルリアリティ(VR)」だ。VRといえば、今やFacebook傘下の企業であるOculus VRの「Oculus Rift」が昨今の熱狂をもたらしたのは間違いない。2012年のE3でプロトタイプが発表されてから3年、いよいよ2016年第1四半期の製品出荷に向けて、コンシューマ市場向け製品版(通称CV1)が発表され、E3でも大々的にデモが行われた。もうひとつの話題は、SCEが同じく2016年上半期に発売を予定している「Project Morpheus」だ。こちらはOculusとは異なり、PS4専用の機器。ゲームに特化しているだけに、E3会場には20を超えるVR専用ゲームが用意され、体験プレイができた。さて、となると「Oculus対Morpheusか」「どこのHMDが勝利を収めるのか」的な話になりがちだ。だが現状、動きはちょっと異なる。OculusとSCEをはじめとして、VRに関わる技術者達は横のつながりが強く、良いVR機器を作るためにまずは販売競争より協力、という体勢にある。さらにそれだけでなく、もう一つ、現在のゲーム業界を象徴する状況を理解しておく必要がある。過去、家庭用ゲームとPCゲームは地続きではなかった。特に、1980年代から2000年代までは、家庭用ゲームとPCゲームはソフトも開発体制も大きく異なっており、違う市場という色合いが強かった。日本では現在もそうだろう。だが、高度なソフト開発が必須になり、PC上でのプロトタイピングが重要になったこと、そして、高性能なGPUはまずPCに搭載される流れが当たり前になったことで、ゲームはまず「PC」で開発されるようになってきた。さらに、小規模なインディ系ゲーム会社も、ネットワークを介して小さなリスクでビジネスを始められるようになってきた。OculusがPCからスタートしているのも、そうした背景に基づく。PCでプロトタイプを作り、販売に向けた体勢を整えていく。そこでMorpheusやPS4はどのような役割を果たすのかといえば、「数を背景にした販売経路」としての役割だ。PCとPS4で同じタイトルが出た場合も、プレイの手軽さもあり、販売量ではPS4の方が有利になる。宣伝でもSCEの協力を得られる可能性があり、有利になる。PCで作り、さらに数を売ろうと思った時にゲーム機メーカーの出番、というのが、PS3後期の2010年以降、特にPS4・Xbox One世代での特徴といえる。そうした構造は欧米から生まれたものであり、古典的な「ゲームメーカーモデル」が強い日本では、また違った流れがある。同人ゲームやインディー系ゲームが日本でも広がりはじめているものの、欧米ほど浸透しているとは言い難い。家庭用ゲームにしろVRにしろ、今後、日本で普及していくには、そうした「欧米で生まれた産業構造」が、日本流にアレンジされて取り込まれる必要がある。日本の市場に受け入れられる新しいソフトの登場には、現在の開発環境やソフト流通にふさわしい体勢が必要であるからだ。ゲームプラットフォーマーも、既存のゲームメーカーを支援するだけでなく、そういった「新秩序の上でのビジネス」を助ける活動を活発化することが求められている。
2015年06月23日●「持っていない曲も聴きたい」直近のニュース記事をピックアップして、「家電的な意味で」もうちょい深掘りしながら楽しい情報や役に立つ情報を付け加えていこう……という趣向で進めている当連載。今回の題材はこれだ。Apple、定額制の音楽配信サービス「Apple Music」発表 - 月額9.99ドル (6月9日掲載)定額制音楽配信サービス「LINE MUSIC」 - 8月9日まで無料で聴き放題 (6月11日掲載)筆者は現在、取材でアメリカにいる。先週はWWDCでサンフランシスコにおり、Apple Musicの発表を目の前で見ていた。また、LINE MUSICについては渡米前に詳細な取材を行い、他誌に記事を書いている。今回は、これら「ストリーミング・ミュージック」がどのような状況にあるか、改めて整理し、サービスの内容について分析してみたい。○「持っていない曲も聴きたい」ニーズが拡大中ストリーミング・ミュージックは、音楽をダウンロードせず、すべてストリーミングで楽しむもの。月額の固定料金であり、会員である限りは、サービスが提供する膨大な楽曲が聴き放題になる。これまでのダウンロード配信は、ディスクを購入する代わりにデータをダウンロードして「所有する」ものだったが、所有している音楽以外は再生できない。ストリーミング・ミュージックは楽曲を所有できない代わりに、巨大なライブラリーへの入場パスを手に入れるようなものである。この種のサービスはすでに海外では定着しており、世界的に人気な「Spotify」と、アメリカを中心に人気の「Pandora」が有名なところだ。Spoifyについては先日、全世界でアクティブユーザー数が7,500万人、有料会員数が2,000万人を突破した、との発表があったところだ。ストリーミングというと「音質が悪い」というイメージを持ちそうだが、現在主流のサービスはそうではない。最高音質設定の場合、Apple MusicがACC・256kbps、LINE MUSICがAAC・320kbpsで配信を行う。ダウンロード配信もおおむねこの値に近く(ハイレゾ配信を除く)、もはや両者に音質上の差は小さいと考えていい。ストリーミング・ミュージックの最大の特徴は、音楽の聞き方が変わってしまう点だ。これまで我々は、持っている音楽だけを聴いていた。気になる音楽があったら、買う必要があった。1980年代はFMラジオのエアチェック、1990年代以降はCDのレンタルという手段もあったが、それは「安価に楽しむための補助手段」とも言えた。1990年代末から2000年代になり、音楽の違法ダウンロードなどが問題視されることもあったが、結局、手軽なダウンロード販売が定着することで、ある程度の沈静化を見た。だが、そうした状況がさらに大きく変わったのは、YouTubeやニコニコ動画によって、無料で音楽を楽しむ人々が増えてきたことだ。特に10代・20代までの若年層では、スマートフォンを使い、無料で音楽を楽しむ人が増えている。現在、携帯電話事業者にとっての「ヘビーなパケット利用者」は、固定回線の代わりに使って、データを大量にダウンロードする人々だけでなく、「スマホでYouTubeをジュークボックス代わりにする学生」も多くなっている。そのくらい、音楽の聴き方が変わっているのだ。YouTubeでは「無料で音楽が聴ける」だけではない。「自分が持っていない音楽が聴ける」ことが、これまでとの大きな違いだ。友人・知人から教えられたり、どこかで見聞きしたりした音楽を、買わずに何度も聴けるという点で、YouTubeは優れた音楽プラットフォームだ。だが、音楽関係者はそれを良くは思っていない。「海賊版」という話ではない。今はプロモーションのために公式にアップロードされた曲も増えているので、聴くことは問題ではない。問題視されているのは、広告がベースになった収益体系では、音楽出版社やアーティストへの還元額が増えにくく、収益に結びつきづらい、という点だ。だからこそ、「無料で聴き放題」がすでにある現状でも、別の「聴き放題プラットフォーム」を準備する必要が出てくる。それが、ストリーミング・ミュージックなのである。●使い勝手で「YouTube」との差別化を図る○使い勝手で「YouTube」との差別化を図るストリーミング・ミュージックには、音楽をラジオのように「流しっぱなし」にする「ラジオ型」と、プレイリストや検索結果に応じて1曲ずつ流す「オンデマンド型」がある。実際問題、ラジオ型のストリーミングは10年以上の歴史があり、まったく珍しいものではない。日本でも、ラジオのネット配信プラットフォームである「Radiko.jp」は、広告で運営されたストリーミング・ミュージックと言えなくもない。今時のラジオ型は、楽曲のジャンルやチョイスに応じて大量のチャンネルを用意する、オンデマンド型とネットラジオの中間のようなもの、といっていい。オンデマンド型の方が使い勝手は良いが、音楽業界の慣習として、ラジオ型の方が楽曲資料料や許諾へのハードルが低く、先行している部分がある。無料のYouTubeに対して、有料のストリーミング・ミュージックはどう戦うのか? 答えは「使い勝手」だ。プレイリストやレコメンド機能の充実によって楽曲に出会いやすくし、さらには連続再生もしやすくすることで、「いちいちYouTubeを使うよりも楽で快適な音楽環境」を用意するわけだ。Apple Musicはそこで、「一体感」と「レコメンド能力」を推す。Apple Music事業の責任者であるジミー・アイオヴォンは、WWDCの基調講演でこう話した。「音楽について知る・楽しむ場所は、ネットの中で分散してしまっていて、どこから楽しんでいいかわからない。Apple Musicでは一つの場所で、オール・イン・ワンで楽しめる」「音楽を発見するには、音楽を知る人々の能力が重要。アルゴリズムだけではない」Apple Musicの場合は、これまでiTunesで管理していた「自分が持っている音楽」とストリーミング・ミュージックが一体化される。また、ネットラジオやアーティストのSNSも一体化された「一つのアプリである」。使い勝手を価値にする。また、音楽のレコメンドについてはソフトウエア処理だけでなく、音楽の知識を持っている人々を大量に雇用し、かれらの判断に基づいて最終処理を行うという。アップル関係者は「BPMが同じだからといって、スカとハワイアンが一緒になったら興ざめだろう?」と話していた。確かにそうだ。LINE MUSICはそれに対し、「LINEというコミュニケーションプラットフォーム」で戦う。LINEやTwitter、Facebookなどに音楽をシェアしやすい作りにして、「音楽を会話の要素として使ってもらう」ことを考えている。LINE MUSICの場合、会員以外にも30秒分の「視聴曲」は無料でシェアされるようになっていて、会話のネタとしては十分使える。その上で、他社より安い価格を打ち出し、LINEの支持層である学生を取り込む作戦だ。この他にも、ストリーミング・ミュージックは、今年の後半に向けて積極的なビジネス展開が進むとみられる。音楽出版社の関係者は、「よほど条件が悪くない限り、どこかに権利を提供したら、他にも提供することになる。そうすれば、売り場が増えてビジネス機会が拡大するからだ」と話す。去年まではストリーミング・ミュージックに消極的だった日本の音楽出版社も、CDやダウンロードビジネスの環境悪化に伴い、「これ以上の牛歩戦術は意味がない」と考えるようになっている。ジャニーズ系など、一部いまだ楽曲提供に消極的な例をのぞき、日本でも今年後半には、「ストリーミング・ミュージックでも、CD販売とさほど変わらないタイミングで新譜が聴ける」時期がやってくるだろう……と筆者は予想している。
2015年06月16日●日本で数を出すためには……直近のニュース記事をピックアップして、「家電的な意味で」もうちょい深掘りしながら楽しい情報や役に立つ情報を付け加えていこう……という趣向で進めている当連載。今回の題材とするニュースはこれだ。日本MSのWindowsタブレット「Surface 3」、個人向けはLTEモデルのみ提供(5月19日掲載)Surface 3は、マイクロソフトが3月31日にアメリカで発表済みであり、製品の販売も、日本では発表前の5月5日からスタートしていた。だが、海外で販売されたのはWi-Fi版だけであり、LTE内蔵モデルは「近日発売」とされていた。今回、日本国内では、日本マイクロソフトがソフトバンクと戦略的なパートナーシップに基づき、世界で最初にLTE版を発売することになった。海外ではLTE版の販売予定はまだ公開されておらず、当面「日本独自」となる。一方で、日本ではWi-Fi版は企業向け市場のみに提供され、個人が買うのは難しい状況が続きそうだ。○「通信バンドルのほうが日本では数が出る」ちょっとわかりにくいところがあるので、ここで整理しておこう。今回、日本で個人向けにSurface 3を販売するのは、主にソフトバンク傘下のワイモバイルになる。家電量販店でも、PC売り場よりワイモバイルのカウンターで売られる場合が多くなり、当然、同社の通信プランとセットでの販売形態が準備される。だが、一般的な携帯電話などとは異なり、契約しないとSurface 3を買えない、というわけではない。「SIMを契約せず、本体だけを一括で買う」こともできるし、家電量販店やマイクロソフトのウェブ通販からは、本体だけを普通に購入できる。Wi-Fi版は当面日本市場に投入しないで、LTE版だけを扱い、LTE版+SIMカードのセットをワイモバイルが中心となって販売する、という形である。日本マイクロソフトの樋口泰行社長によれば、LTE版を中心に販売することになったのは、次のような作戦があったからであるようだ。「タブレットにおいて、日本では通信をバンドルしたものの売り上げが多い。だとすれば、フォーカスしないと台数を広げていくのは難しいので、決断した。マイクロソフトはチャレンジャー。あまねくチャネルを広げて売るよりも、同じ気持ちでブレイクに向かってやってくれるパートナーがいれば、そこにフォーカスをあてる方がいい戦略、と思っている。商品計画を立てたのち、ワイモバイルに話をした結果、パートナーシップを組むことになった」すなわち、「タブレット」という観点で見ると、通信事業者が音頭をとる形で販売したほうが数が伸びるであろう……、という分析からとられた戦略であることがわかる。Surface 3は安い製品ではない。キーボードとペンまで含めてフルセットで買うと10万円を超える場合もある。少しでも安く……と思う消費者心理としては、Wi-Fi版が欲しいとも感じる。一方で、マイクロソフトとしては、1ドル=120円という円安の状況で、相対的に高く見えるSurface 3について、モバイルのパートナーを見つけ、セット販売での割引きや割賦販売を併用することでハードルを下げようとしたのでは、とも予想できる。ワイモバイルのエリック・ガン社長も「命を賭けて売っていく」と強い意気込みを見せている。それはもちろん、彼らにとって顧客獲得の大チャンスとなるからだ。とはいえそこで、SIMロックをかけてしまうとさすがに顧客が狭くなるし、良い印象も与えない。LTE版にはSIMロックはなく、他社のSIMカードも使える。ただし、LTEの通信に利用する帯域としては、ワイモバイルが使っている2.1GHz(Band1) / 1.7GHz(Band3) / 900MHz(Band8)だけが公式サポートされる。機器としては、技術基準適合証明 (通称・技適)はこのバンドでだけ申請されており、他のバンドは「海外での利用時向け」とされている。だから、他社のSIMを挿して通信をすることもできるだろうが、日本国内では電波法違反となる可能性がある。実質的に国内では「ワイモバイル向け」のLTEとしており、なんとも歯切れが悪い。●Surface 3で狙うは「iPadとの直接対決」この辺を考えると、マイクロソフトがSurface 3を「戦略的なタブレット商品」と考えていることも明らかになってくる。PCユーザーから考えるとSurfaceはWindowsが動く「PC」だ。タブレットモードで動く魅力的なアプリケーションが少ない点も「SurfaceはPCである」という印象を後押しする。だが、ことWindows 10の時代になると、話は大きく変わってくる。「iOSのアプリも取り込めるので、他社の環境をテコにできる状況が整った。後追いの我々もチャンスが出てきた」と樋口社長も期待する。Windows 10で導入される「Universal Windows Platflorm (UWP)」では、Android用のアプリやiOS用のアプリを、ほとんど工数をかけることなく移行させられる。これまでiPad用アプリでビジネスをしていた人々をWindowsタブレットへ振り向かせて、アプリ不足を解消できる、と期待しているわけだ。マイクロソフトでSurface事業を統括するブライアン・ホール氏は、筆者に対し、Surface 3の位置付けを次のように説明した。「Surface 3 Proとは、ちょっと違います。3 Proは、タブレットの代わりにもなるラップトップとして設計したものです。しかし、Surface 3は『The Best of a Tablet』として設計しました。タブレットとして最高であり、ラップトップとしても快適である。そして重要なのが価格。薄さと重量、性能を含めたバランスも、そういう観点で決断しています」世の中では「タブレット退潮の兆し」と言われるが、筆者の見立てはちょっと違う。iPad以外のタブレットが伸びず、iPadが「買い替えユーザー中心」の市場になってきたが故に縮小しているのだ。コンテンツビュワーとしてのタブレットの優位は揺るいでいないし、同時に、「タッチして使うコンピュータ」には、道具としての価値がある。マイクロソフトはペンの操作とPCとしての使い勝手を持ち込むことで、タブレットの可能性を拡張しようとしている。そのあたりは10年以上前からずっと試みていたが、Windows 8以降さらに積極展開が始まり、同社の独自ハードウエアであるSurfaceでは明確に「ペン+タッチ+キーボード」の路線を指向している。これまでは、重量・薄さの点でiPadと直接競合する製品とは言えなかったが、Surface 3は明確に「iPadとの競合」を意識している。アメリカの場合、公式サイトで「直接比較」を掲載しているくらいだ。またSurface 3は「Instant Go」に対応していることも、マイクロソフトがLTE版を推したい理由だろう。Instant Goは、スリープ中でも一定時間毎に通信を行い、情報を最新に保てるようにする機能。通常、PCはスリープ解除後にあらためて通信を接続し、最新の情報をとってくるという挙動になるが、スマートフォンではいつでもメールや電話が着信し、スケジュールなども最新の状態が保たれている。それと同じことをPCで実現する仕組みといっていい。LTE版ならば、移動中であっても問題なく情報がやりとりできるので理想的だ。こうした部分は、iPadやAndroidタブレットではできていることであり、Windowsタブレットの多くでも可能だが、ノートPCやデスクトップPCでは使えないものも多い。LTE内蔵も、そうした観点で見ると別の風景が見えてくる。すなわち「強いタブレットであるiPadと正面から戦える製品だから、より売りやすい環境を整えたい」と考えた、ということなのだろう。また、ホール氏は冗談めかして次のようにも話す。「日本のLTEネットワークはとにかく速くて快適ですからね。アメリカではこうはいかない。本当にうらやましいです。快適さにおいて、Wi-Fi環境とLTEが逆転してしまっているんですから」だからWi-Fi版が不要、とは思わない。しかし確かに、日本のLTE環境は、LTEモデルを中心に勧めたくなるだけの快適さを備えており、それが世界に対して誇れる事実であることは明らかだ。
2015年05月21日●期せずして同じ日に……直近のニュース記事をピックアップして、「家電的な意味で」もうちょい深掘りしながら楽しい情報や役に立つ情報を付け加えていこう……という趣向で進めている当連載。今回の題材は以下の2つのニュースだ。ソニー、Android TV搭載「4Kブラビア」ハイエンド - 55Vで42万円前後から(5月13日掲載)ドコモ、通話機能にこだわったAndroid搭載「ARROWS ケータイ」6月中旬発売(5月13日掲載)前者は4Kテレビ、後者は二つ折りケータイだが、共通項が一つある。OSがどちらもAndroidである、ということだ。テレビも二つ折りのフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)も、ちょっと前まで、日本のデジタル家電の象徴のような存在だった。OSも、それぞれが独自のものを採用していた。しかし今回、期せずして同じ日にAndroidをOSに採用した製品が登場した。家電のOSとして、Androidがすっかり主流になった証でもある。テレビは「Android TV」になり、二つ折りケータイはガラケーから「ガラホ」になった。○「アプリ対応」だけが目的じゃない?!Androidになることで、どちらの製品もUIや使い勝手が若干変化する。設定画面はAndroidでおなじみのものになり、Android用アプリも動くようになる。ブラビアではAndroid用のゲームが動くし、ARROWS ケータイではLINEがよりスムーズに使えるようになる。そうしたことから「アプリを使うためにOSを変える」と思われそうだ。実際、そうした側面はある。フィーチャーフォンではスマホほど自由にLINEが使えないことが難点となっていたし、過去のデジタルテレビでは、新しい映像配信サービスに対応するのが面倒だった。そこでAndroid用アプリが流用できるようになれば、今日的なサービスを組み込むことがより容易になる。例えば、Android TVでは、いままでの「テレビ放送」や「録画機能」「番組表」はアプリとして搭載される。従来、テレビの上にそれらの機能がくっついていた構造であったものが、Androidタブレットにテレビチューナーがのっかているような構造に近くなるわけだ。だから、動画配信サービスを使う場合にも、「動画配信用アプリに切り換える」感じに近い。ネット上で生まれるサービスに柔軟に対応するには、スマホやタブレットに近いOS構造であるほうがいいし、使い勝手も上がる。とはいうものの、ブラビアにしろARROWS ケータイにしろ、メインの機能である「テレビ」や「電話とメール」を使っている限りは、過去の製品との差はかなり小さいものに感じられる。特にブラビアの場合、高画質化機能などは過去のテレビより進化しており、「Android TVだから劣化した、という部分はない」とソニー関係者も話している。リモコンで電源を入れれば、通常はまず、いままで通り「テレビ画面」が表示される。Androidのホーム画面に移動しないと、Androidで動いていると強く意識することはないだろう。実際のところ、そういう風に作っているからだ。多くの人にとって、テレビはテレビであって「タブレットっぽいもの」を使いたいわけではない。今の時期にフィーチャーフォンを選ぶ人も、スマホっぽい操作体系を求めているわけではない。だから、基本的な使い方をする場合には操作方法にあまり変化を加えず、「アプリを使う」という新しい世界に行く時に「Androidらしさが出る」ようになっている、と考えていい。すなわちどちらの製品も、Androidを使うことが目的なのではなく、あくまで「Androidで従来型の家電を進化させた」という建て付けになっている。●なぜ、今Androidなのか?○従来型ではコストが合わない、スマホ基盤で作り直しが必須にでは、なぜ今Androidなのか? 答えは両者とも同じ。「コスト」だ。家電はそれぞれ、専用のSoC(System on Chip)を使って開発される。いままでは、フィーチャーフォンではフィーチャーフォン向けの、テレビではテレビ向けのSoCが使われていた。機能アップはそれぞれで行うのが当然でもあった。フィーチャーフォンやテレビに大きなニーズがあり、それらが独自の価値をもっていた時代は、それでも良かったし、うまくいっていたともいえる。だが、いまや時代は変わった。スマートフォンは年間に最低でも数億台生産される。半導体の技術開発も、それに付随するソフトウエア開発も、すべてスマートフォンを基準に進む。他の家電向けは圧倒的に不利な状況だ。しかも、以前と異なり、「純粋な電話に近い機器」であってもSNSやリアルタイムメッセージングの機能は必要だし、「テレビという放送を受信する機器」においても、表示する映像はインターネット経由でやってくるものが増えた。とすると、そうした新しい環境に対応できるOSを準備する必要があるが、こちらも、もはや独自に開発を続けていくのが難しくなる。世の中には、スマホ向けに作られたモダンなOSがきちんとある。AndroidやFirefox OSなどがそれだ。そうしたものは、スマホ向けのSoCを使って効率的に動作する。ならば、製品そのものも「求められる姿や使い勝手を実現したまま」スマホの技術をベースに作るほうが有利、という結論に至る。スマホの技術が未熟な頃は、そこから「スマホとは操作性が異なる機器」を作るのが大変だったが、今はそれも可能だ。とくにGoogleは、Android 5.0以降、スマホ・タブレット以外へのAndroid応用を進めており、Android TVはその成果である。ARROWS ケータイの中身はスマホそのもので、形が二つ折りでUIがちょっと違うだけだ。新ブラビアは、スマホ・タブレット用SoCメーカーであるMediaTekと協業で作った「メインSoC」と、4Kの高画質化・高解像度化を担当するソニーオリジナルのLSIである「X1」を組み合わせて使っている。高画質化はX1が担当するので「ソニーのテレビ」としての独自性を保ち、Androidとしてのアプリの動作や開発の容易さはMediaTekと協業で作った「スマホライクなSoC」でカバーする構造になっている。スマホアーキテクチャによる二つ折りケータイ(ガラホ)はKDDIからも登場しているし、今後、日本で一定の数量を占める存在になるのはまちがいない。またテレビについては、今年登場する4K製品は大半が、2K製品でも低価格モデルをのぞけば多くがスマホ由来のモダンOSになっていく。日本メーカーとして、新しい器にいままでの良さ「だけ」をどう盛りつけられるかが、商品作りのキーになってきそうだ。
2015年05月15日●Huluの自主制作ドラマ第一弾から考察する直近のニュース記事をピックアップして、「家電的な意味で」もうちょい深掘りしながら楽しい情報や役に立つ情報を付け加えていこう……という趣向で進めている当連載。今回取り上げる記事は以下のものだ。唐沢寿明久々の"がさつな役" 独ヒットドラマのリメイク版で破天荒な刑事に (4月22日掲載)家電の連載でなんで芸能ネタ!? と思われそうだが、注目はドラマの内容などではなく、このドラマが「Hulu」の自主制作ドラマ第一弾ということである。Huluは月額933円(税抜き)で見放題の「サブスクリプション型ビデオンデマンド(SVOD)」と呼ばれるサービスだ。日本参入は2011年9月だが、昨年4月に日本テレビに買収され、その子会社化となった。3月末には会員が100万人を突破したことも公表している。Huluはこれまで、コンテンツを外部調達に頼ってきた。要は、レンタルビデオと同じように、映画会社やテレビ局から、すでにあるコンテンツの提供を受けてきたわけだ。だが今回、親会社にあたる日本テレビと共同で、新作ドラマの制作に着手する。Huluでの配信は初夏。その後、日本テレビでも放映される予定だ。この他にもバラエティ番組の制作が発表されており、今後は同社内のオリジナル番組制作部門の手で、継続的に「Hulu制作の番組」を配信していくという。○SVOD各社が「オリジナル作品」に注力レンタルビデオ的なモデルであったHuluが、ここにきてオリジナル番組の制作に乗り出してきたのは、もちろん訳がある。ライバルが強くなってきており、サービスの魅力を強化する必要があるからだ。レンタルビデオ的であるということは、コンテンツの供給元はどの「店」でも同じになりやすく、差別化が難しい、ということでもある。まだ他では配信されていない番組を調達し「独占先行配信」する例も増えているが、これも差別化のひとつだ。「自分達のサービスでしか見られないオリジナル番組」を作れば、当然ながら、さらに強力な差別化策になり得る。Huluの船越雅史社長は「日本テレビの買収以前より(オリジナル番組の制作について)検討はされてきた」としつつも、「買収後に加速した」と説明する。日本においてSVODの業態では、携帯電話事業者の存在感が強い。ユーザー数トップであるNTTドコモの「dTV」(4月22日よりdビデオから改称)は約460万人、ソフトバンクの「UULA」は約141万人とHuluよりさらに多い。これらのサービスはエイベックスとの合弁事業であり、携帯電話事業者以上にエイベックスが主体となって運営されている。契約者は多いものの、特にdTVについては、過去2年間にわたって伸びが止まっており、サービス利用率も高くはない、と言われている。Huluとの競争は、数字の差ほど楽観できる状態ではない。エイベックスの方針もあり、特にdTVでは、前身であるBeeTV・dビデオの時代から、オリジナルコンテンツの制作に力を入れている。4月2日に開かれた会見では、夏に公開が予定されている実写版『進撃の巨人』のスピンオフ作品を、同時期にdTVで展開することが発表された(写真)。現在も、いくつものオリジナルドラマ・バラエティが公開中だ。これまでは残念ながら、オリジナルコンテンツがサービス加入の強い誘因力を持たなかった。しかし、dTVからはスマホ視聴に加え、テレビでの視聴機能が強化され、より「テレビ的」なサービスになる。となると、「見知った映画やドラマ」だけではなく、新たなコンテンツへの誘因効果が高まるのではないか……という期待があるようだ。そしてもちろん、「独自コンテンツ」が注目を集める理由は、世界最大のSVOD事業者であるNetflixが今年秋に日本参入を予定しており、活発に独自コンテンツ作成を行っているからでもある。これまでに40以上のオリジナルコンテンツを制作しており、日本でのビジネススタートの時点から、「Marco Polo」「Sense8」「Daredevil」といった新作・4K制作ドラマを配信する。また、日本国内でも独自コンテンツの作成をすでに始めている。世界的な巨人の参入を前に、国内で先行しているSVOD事業者が対抗策を準備しようとしているのだ。●本質はウインドウ戦略における「ネットの地位向上」だこれまで「番組」は、基本的にテレビのために制作されてきた。Vシネマやオリジナルビデオ・アニメは、その外で生まれたビジネスモデルだが、例外的にうまく行っているジャンルとも言える。それでもディスク販売の数量が減ってきた現在、配信を活路に見いだす人々は多い。ネット発信の動画というと、短尺で予算も少ないもの……というイメージが強かったが、テレビやディスクビジネスからの脱却・拡大を考えている企業にとっては、新たなビジネスチャンスといえる。一方で、ネット配信業界にお金がうなっているのか……というと、そういうわけでもないのが実情だ。Netflixのように資金が豊富なところは例外として、結局他の事業者は、「既存のコンテンツビジネスの延長線上」に存在する人々が、お金の出しどころを変えているに過ぎない。テレビや映画に割いていた予算がネットに回ってきただけなのだ。ここで重要なのは、「ネットという金づるができた」という発想をするのでなく、「映像をどの順番で出すのか、という戦略が変わった」という発想だ。映像の世界には「ウインドウ戦略」という言葉がある。例えば、映画として世に出た映像作品は、まず映画館で上映され、次にディスクメディアとして販売され、次に有料のネット配信に流れ、衛星放送などの有料放送で流れ、最後に無料の地上波で流れる。同じ映像で何回も収穫するわけだ。これがテレビドラマなら、一番最初のウインドウは地上波になる。ネット配信のオリジナルコンテンツが増えるということは、ネット配信が「最初のウインドウになる」と思えばいい。地上波や映画と同じ地位をネットが得た、ということなのである。さらに、「オリジナルの独占配信」でない場合も、ウインドウ順の変化と思えばいい。ディスクより前に来るのが「先行配信」であり、さらに他のSVODより前に来れば「独占先行配信」だ。映画が映像の王であった時代から、テレビが王の時代になり、さらにはネットの時代になっている。一見排他に見えるが、実は「すべてを使うのが前提」であるのが、今の映像ビジネスの巧みさといえる。我々にとっては、そうしたサービスの登場は、基本的に「自由度の拡大」こそが本質。映像配信のニュースも、そういう視点で見ると、ちょっと違った風景に感じられる。
2015年04月27日大人気の刀剣育成シミュレーションブラウザゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』より、フィギュア『ねんどろいど 三日月宗近』の予約受付が、現在「GOOD SMILE ONLINESHOP」にて実施中。予約締切は4月22日21:00で、同サイト限定の予約特典として『ねんどろいどぷらす ラバーストラップ 三日月宗近 のほほんVer.』も用意されている。『ねんどろいど 三日月宗近』は、平安貴族を思わせるような優美な衣服、月の満ち欠けを意匠化したような鞘乃デザインなど、デフォルメサイズながらもしっかりと造形。ゲーム内では、見られない背面のデザインも堪能することができる。流麗な造形の髪の毛は、グラデーションのかかった彩色で仕上げられている。表情パーツには、妖艶な「通常顔」や凛とした「戦闘顔」のほか、"おじいちゃん"の愛称からイメージした「のほほん顔」を用意。愛刀は納刀・抜刀状態を再現でき、月の満ち欠けをイメージした鞘も忠実に再現されている。さらに穏やかな一時を思わせる「湯呑み」のほか、刀剣男士の手入れには欠かせない「打粉(うちこ)」も付属。「手入」の疑似体験も楽しめるという、ゲーム外でも審神者気分を楽しめる「ねんどろいど」となる。商品価格は3,889円(税別)で、「GOOD SMILE ONLINESHOP」の予約締切は、2015年4月22日21:00。商品の発売および発送は、2015年8月を予定している。さらに、本商品を収納して持ち歩くことができる『ねんどろいどおでかけポーチ 寝袋 三日月宗近Ver.』も2015年8月に発売され、価格は1,500円(税別)。商品名のとおり「ねんどろいど」シリーズを入れて持ち歩くことができる寝袋型のポーチで、「三日月宗近」をイメージした和風のデザインに。キーホルダーのように取り付けられる金具もついているため、鞄などいろいろなところに取り付けることができる。こちらも現在「GOOD SMILE ONLINESHOP」にて予約受注で、価格は1,500円(税別)。(C)2015 DMMゲームズ/Nitroplus
2015年04月20日●クリック感を振動で再現?今回取り上げる記事は以下のものだ。アップル、オンラインのApple Storeで新しい「MacBook」の販売を開始 (4月10日掲載)アップルは4月10日に新しいMacBookを発売した。実はこの原稿も、その新しいMacBookで執筆している。といっても、現状ではレビュー用の貸出機材であり、自前のものが到着するのはまだ先の話だ。さて、新しいMacBookは薄型・軽量ということで注目を集めている。実際には日本のPCメーカーからは、同クラスのプロセッサーを使った、もっと軽い製品がリリースされているのだが、これだけの薄さと軽さ、そして美観を並立させた製品はなく、実にアップルらしい製品といえる。さらに、周辺機器と電源を接続するコネクターを1つにまとめてしまう、という荒技もアップルらしい。○新しいMacBookに秘められた「マジック」もし、周囲にMacBookを買った人がいたら、ぜひ試していただきたいことがひとつある。今春に発売されたMacBook Proでも同じ技術が使われているので、そちらでもかまわない。まず最初に、動いているMacBookのタッチパッドをクリックしてみていただきたい。まあ、普通だ。特に驚きはないだろう。その後、マックの電源を落とし(スリープでなく、完全にシャットダウンしてほしい)、同じようにタッチパッドをクリックしてみよう。予備知識がなければ、まるでクローズアップマジックをかけられたように、驚くはずだ。クリックできたはずのタッチパッドが「まったく動かない」ことに気づくからだ。実はこの春から、アップルはタッチパッドの構造を変えた。ボタンを仕込むのではなく、スマートフォンのパネルと同じ静電センサーに切り替えた上で、「クリックした」感触を「TAPTIC Engine」と呼ばれる振動機構でまねるようにしたのである。この仕組みには利点がいくつもある。まず第一に薄くなること。これはまあ、元々ストロークもないボタンだから、たいした意味はない。第二に、どこを押しても「クリックになる」こと。通常、タッチパッドのボタンは下半分に取り付けられるため、クリックするためには指を下の方へ移動する必要がある。しかしアップルが採用した仕組みの場合、どの場所でも一様にクリックが働くため、ホームポジションから指をあまり動かさなくてもクリックができる。第三に、クリックに加え「深いクリック」ができるようになったことが大きい。押し下げ感のない板のはずなのに、さらに「深い押し下げ感のあるクリック」とは、どうにも矛盾しているように思える。しかし、そもそもこのタッチパッドにおけるクリックは「感覚の詐称」であり、通常のクリックに加え「深く押した感覚もマネしている」と思えば、納得できるだろうか。深いクリックは、タッチパッドに新しい操作の可能性を与える。現在は、従来「三本指でのタップ」で行っていた単語からの辞書引きのほか、動画再生用のQuickTime Playerで再生速度調整に使われている程度だが、今後APIが開発者に広く公開され、アプリの中で自由に使えるようになるという。マジックのような驚きという意味で、MacBookのタッチパッドはおもしろい。だが、アップルは別に「一発芸」としてこの機能を搭載したわけではあるまい。深いクリックに似た「プレス」という要素はApple Watchにも採用されている。こちらも、ディスプレイ面はへこむわけではないのだが、押し込んだような感触がわかる。ポイントは、アップルが「平らな面を押す、という操作に感触を与えたい」と考えているらしい、ということだ。●押した感覚を振動で「まねる」技術の可能性ここからは筆者の想像である。今のスマートフォンやタブレットのキーボードにおける難点は、物理的なキーボードと違い「押した感触」がないことだ。ディスプレイの一部が液体で盛り上がる機構などを提案するベンチャー企業もあったが、採用例はない。しかし、今回アップルが使った「振動で押したと感じさせる」技術が使われるとしたらどうだろう?物理的なキーボードと同じレベルになる、ことはないだろうが、今までのソフトウエア・キーボードより、入力位置がわかりやすい製品が生まれる可能性がある。もちろん、思いつく難点はいくつもある。キーを1つ1つ判別できるほど、振動する位置を正確に制御するのは難しい。だから、かなり「おおまか」な感触になるはずだ。また、スマートフォンに求められる振動機能との同居がどうなるかもわからない。だから、上記の「想像」がまったく的外れである可能性も否定はしない。しかし、ここで重要なのは、いままで「操作にとって重要」と思われていた感覚が、実際には別の感覚で代替可能であり、そうした要素を加味すれば、これまで当たり前とされてきた制限を乗り越えていくことが可能かもしれない、という点である。現在、我々は機械との接点として「視覚」を多用する。人間は視覚に頼って生きているから、視覚重視になるのも当然といえる。しかし、それだけで過ごせるわけではない。視覚のほかに、聴覚や触覚にも頼っている。物理キーボードを好むのは触覚による「押した」というフィードバックが存在するからだし、道を歩く際には、どちらから音が聞こえてくるかが重要な情報となる。特にIoTの時代がやってくると、視覚以外でのフィードバックは重要なものになるだろう。小さな機器には満足なディスプレイを搭載できないし、通知する情報によっては振動だけで十分、ということもあるからだ。振動による錯覚を使ったデバイスは「ハプティック(力覚)デバイス」などと呼ばれ、バーチャルリアリティの分野でも広く研究されている。ペンに触覚を与えて「ものの堅さを感じさせる」ことに使ったり、方向を指示したりといった使い方が検討されている。それらに比べると、アップルのやり方はシンプルなものに思えるが、「本来搭載できないユーザーインターフェースをハプティックで代替する」と思えば、使い方としては正しい。Oculus RiftのようなVRデバイスで目を覆い、ハプティックデバイスで触覚をカバーすると、人間の感覚は容易にだませる。もちろん、画質・触覚の質はまだまだ本物にはほど遠いが、リアリティをあげるには十分すぎる効果を持っている。また、視覚に頼れないシーン、例えば自動車の運転中などのための通知用として、振動や音は非常に有用だと考えられている。携帯電話にバイブレーターが搭載されるようになってかれこれ15年。ゲーム機のコントローラーにバイブレーターが乗るようになって、こちらもだいたい15年ほどだ。比較的荒い「通知」のために使われることが多かったが、今後は触感の再現も含め、より精緻なコントロールを伴った技術が広がっていくことになりそうだ。アップルはそうしたトレンドに対し、一歩先んじたといえそうだ。
2015年04月16日すみれはこのほど、同社が販売しているアイケアサプリ「鮑の光プレミアム」の親善大使にメジャーリーガー・川崎宗則選手を起用したことを明らかにした。それに伴い、4月13日にテレビCMも放映開始した。「鮑(あわび)の光プレミアム」は、あわびを配合したアイケアサプリメント。あわびは、目のショボショボ感をケアするビタミンB群、くっきり成分のためのカルシウムや亜鉛、内側からサポートするタウリンやアルギニンなどの機能性成分を豊富に含んでいる。川崎選手は、アメリカメジャーリーグ「トロントブルージェイズ」に所属し、"ムネリン"の愛称で親しまれている。マイナー契約の10倍以上の契約金を日本で提示されたにもかかわらず、あえてマイナー契約の困難な道を選んだ。川崎選手は目のトレーニングに加え、内側からのアイケアとして「鮑の光プレミアム」を使用している。今回、川崎選手が同商品を愛用していることはもちろん、マイナー契約で挑むという向上心が同社のチャレンジスピリットとマッチしていることから、商品の親善大使に起用された。テレビCM放映に合わせ、川崎選手の独占インタビューを公開する特設サイトもオープンした。サイトで川崎選手は、「大リーグのマウンドから繰り出される球は150~160キロ。瞬時に球種を見極めるために、重要なのは視力です。目の衰えは筋力の衰えよりもずっと怖い」と、アイケアの重要性を語っている。と同時に、サプリメントの効果を実感しつつも「(「鮑の光プレミアム」を飲むことは)ダサくて恥ずかしかった」という、ムネリンならではの爆弾発言もしている。特設サイトは、川崎選手のオフィシャルサイトで公開している。TVCMは、川崎選手の生まれ故郷である鹿児島県から、4月13日に放送開始する。※川崎宗則選手の正式名称は「崎」の右側が、「立」と「可」
2015年04月13日●国内メーカーに先駆けて有機ELテレビを投入今回の題材は以下の記事だ。LG、有機ELテレビを日本で発売 - 55型で4K対応の曲面パネル (3月25日掲載)有機ELテレビは「次世代のテレビ」として期待されつつも、なかなか世に出ない不遇の技術だった。それが、日本でもいよいよ「実用的なサイズで手が届く範囲の値段」で登場する。各社がなぜ「大画面として有機ELテレビ」を商品展開できていないか、そして、ここでLGが商品化に至った経緯を解説してみたい。○「カラーフィルター + 白」の有機ELを採用今回LGが発表した有機ELテレビのパネルには、同社独自の特徴がある。それは、「基本的に白発光のパネル」である、という点だ。液晶と有機ELの最大の違いは、有機ELが「自己発光デバイスである」ということだ。液晶はバックライトが光り、それを通ってきた光を見る「透過型」。透過型は明度と暗部のコントラストが弱くなり、色が濁りやすいという欠点を持っている。それに対し、自発光型はコントラストに優れる。今回の発表でも、「黒の黒さ」がアピールされていた。LG以外がテレビ用として開発してきた有機ELパネルは、赤・緑・青の画素毎にその色で発光するものだ。そうすれば、当然色の純度は上がり、より画質は上がる。しかし、LGが採ったアプローチは違う。白い発光体の上に赤・緑・青のカラーフィルターを乗せ、さらに、色をつけない「白」を加えた「RGBW」方式を使った。フィルターを使うということは、自発光の良さを一部捨てるということでもある。コントラストと明るさを維持するため、白の画素を加えている。これは一見、大きな技術的後退に思える。しかしLGとしては、経済合理性を追求した結果といえる。3色の画素と1色の画素では、パネル製造上の技術的難易度が大きく異なる。特に有機ELでは、画素を発光させる発光材料によって、耐久性・生産性が異なることが知られている。日本ではソニーやパナソニック、韓国ではサムスンが3色の画素で構成するテレビパネルの製造を競っていたが、現在に至るも事業化はできていない。問題は、液晶が十分に安く、画質向上を果たしてしまったという点だ。液晶はテレビに使う上でたくさんの問題を抱えていた。そのため初期のテレビは、決して画質が良いわけではなかった。しかし、生産性の高さと用途の広さは、他のディスプレイの比ではなかった。そのため、技術開発も活発化し、発色や反応性、コントラスト改善も相当のレベルに達している。かつてのライバルであったプラズマディスプレイが負けたのは、その総合力ゆえだ。有機ELは理想的な存在ではあるが、製造が大変だ。製造工場の立ち上げには相応のコストがかかり、すでにコストメリットが発揮されている液晶と戦うのは非常に困難である。テレビがどんどん売れ、技術開発や製造に湯水のように費用をかけられる時代なら話は別だが、いまやテレビは成長産業ではない。だからこそ、LGは当初からある種の割り切りを見せた。画素構造を複雑にしなければ、製造はシンプルになる。発色の面では他社が開発中のパネルに劣るが、有機ELと液晶の間で起きる「スタートの不利さ」をカバーしやすくなる。という話になると、「じゃあ、LGの有機ELテレビの画質はたいしたことがないのか」という印象を持つだろう。だが、それはちょっと違う。●先行逃げ切りを狙うLG、日本メーカーは対抗できるか有機ELという自発光技術を使う以上、コントラストの高さは、やはり液晶の比ではない。LGの有機ELテレビではフィルターを使うため、色の純度は落ちるが、そもそもコントラスト性能が高いため、液晶に比べ不利、というレベルでもない。液晶テレビで培われた色補正技術を組み合わせれば、少なくとも液晶に比べ不利な点は出てこない。まだ製品において、デモ映像以外の「普通の映画」「普通のテレビ番組」「普通のスポーツ」の画を見ていないため、筆者としての最終判断は保留としておくが、新しいデバイスらしい画質になってきている、と感じる。ここにきてLGが他社に先駆けて日本で有機ELテレビ市場を作ろうとしているのは、日本が高画質製品にうるさい市場であり、そこでの支持をテコに広く展開したい……という思惑がある。同社は日本でテレビ市場に本格参入して5年が経過した。シェアは低く、大きなビジネスになっているとは言い難いが、画質などに関する研究所を日本に設置し、かなり地道な活動を続けている。普及型から高画質モデルへとシフトチェンジする背景には、日本のLGの組織変更や体制変更といった社内事情もあったようだが、「自分達が持つ技術を軸に攻めるべき」という分析があったのは間違いない。LGは、自社の白 + カラーフィルター型の有機ELディスプレイ・パネルについて、かなり積極的な投資を行ったとみられている。元々シンプルであることに加え、リスクを先行してとったことなどから、各画素発光式の他社パネルよりも、生産量が安定してきているのでは……との観測もある。実はLGは、このパネルの外販も積極的に展開する。1月のCESでパナソニックが展示した有機ELディスプレイの試作品は、自社製のパネルではなく、LG製のパネルを使って開発されたものだった。画質面ではまだまだチューニング中、とのことだが、それでも液晶とは別次元の美しさだった。LG純正よりも良いテレビセットが、日本メーカーから出てくる可能性もある。となると、LGは量産を起動に乗せつつ他社に先行するため、できる限り多くの有機ELテレビを、市場へと素早く送り込む必要があるのだ。他社がLG製パネルを使った製品を市場投入するまでには、最低でも1年くらいの時間が必要と見られている。そのタイムラグを生かしたい、という戦略とみられる。LGエレクトロニクス・ジャパンの慶甲秀社長は、「テレビがHD(720p)からフルHDに移行した時、価格差が1.5倍程度になると加速した。今回も(有機ELと液晶では)そうなるとスピードは上がる。今すぐとはいわないが、将来的には目指したい」と会見で説明した。いまは55型4Kで約68万円と、液晶の同クラス製品に対し7割から8割高い。1年後を見据えると、「有機ELと液晶の価格差は1.5倍以内」というのは、あり得ない話ではない。韓国メーカーというと、まだ「後追い」と思っている人がいる。それはまちがいだ。彼らはすでに中国に追い立てられる立場にある。積極的にリスクをとっていかないと、すぐに入れかわってしまう可能性が高い。事実スマートフォンやスマートフォン向け部材では、そんな状況も見えてきた。LGは、テレビの開発プラットフォームを変え、スマートフォン由来のOSに変えることでも、他社に先行した。サムスンのような派手さはないが、技術面では日本メーカーの手強いライバルになりつつある。画質向上や最終的な作り込みにおいて、日本メーカーはまだ強い。だが、すでに強みはそこにしかない。だから、「全世界に対して大々的にテレビを売る日本メーカー」は減ってきている。シャープと東芝が世界戦略にブレーキをかけており、パナソニックとソニーが残る……という状態だ。その両社ともに、技術面では他社と協力のうえ、シュアなビジネスを志向することを明言している。世界のテレビ市場のトップグループに残れるか否かは、ここから数年の戦略で決まってしまうだろう。
2015年04月02日●NVIDIAがディープラーニングに燃える理由今回の題材は以下の記事だ。GTC 2015 - Googleが「ディープラーニング」に対する取り組みを紹介 (3月20日掲載)最近、「ディープラーニング」という言葉を耳にする機会が増えている。多くの人にとってはまだ縁遠く、生活に関連しないものに感じられるだろう。だが、現在その活用は急速に広がっており、製品に必須の要素となるのは間近だ。今回は、その影響と製品への組み込みの可能性について考えてみよう。○NVIDIAが燃える「ディープラーニング」とは件の記事で話題になっている「GTC」とは、GPU Technology Conferenceの略で、毎年、GPUのトップメーカーであるNVIDIAがこの季節にサンフランシスコで開催しているイベントである。その内容は、毎年少しずつ違う。単純にNVIDIAのGPUをアピールするイベントというわけではなく、その時々に、NVIDIAが考える「GPUの重要な使い方」「GPUとコンピューティングの未来」について考えるイベント、という色合いが強い。そんな中、今年の軸となっていたのが「ディープラーニング」だ。ディープラーニングとは、巨大なコンピュータシステムを使って、複雑なデータから必要な情報を収集するための手法であり、データの内容からある程度自律的に情報を整理する手法といっていい。ざっくりと説明しよう。ディープラーニングでは、脳機能を数学モデルで再現する「ニューラルネットワーク」が使われる。これ自体は、PC普及以前の1960年代まで、コンピュータで問題解決を目指す手法として注目されていたのだが、現在一般的な「データベース的人工知能」に競争で負けた。ニューラルネットワークは、人間が自ら学習して知識や認識を強化していくように、自ら認識を高めていくのが特徴なのだが、その学習よりも、人がパラメータ設定を行って認識に利用するほうが、パラメータ製作の手間を含めても効率がよかった。そうした状況をひっくり返したのが、ディープラーニングという手法だ。ニューラルネットワークでの学習プロセスを多層化して「深く」するから「ディープ」なのだが、色やディテールなどに分割したり、エリアを分割したりして学習層を多層化し、グルグルとフィードバックすることで、機械学習によるパラメータ構築が、人の手によるパラメータ構築を超える速度と効率を実現した。そのためには小規模な演算を多層的に、大量に並列に回せるコンピュータが必須になる。そうした仕組みはGPUでの演算に向いており、GPUを使ったスーパーコンピュータの用途拡大を狙うNVIDIAにとっては格好の題材である……というのが、GTCでディープラーニングが脚光を浴びる理由である。○パトカーとRVを見分ける自動運転車ディープラーニングはどのような価値をもたらすのだろう? 現在も音声入力や顔認識は、ディープラーニングの成果が生かされ、精度アップにつながっている。しかしここでは、もう少し目で見てわかりやすく、インパクトも強い例を挙げたい。GPUによるスーパーコンピューティングとともに、NVIDIAが現在力を入れているのが「自動車」だ。1月のCESでは、アウディと共同で自動運転車「Jack」を開発、シリコンバレーからラスベガスまで「完全自動走行」するデモを行った。画像はCESに展示されたものだが、注目は道を走る自動車の種別が正確に認識されている点である。Jackにはカメラが搭載され、そこからの映像をディープラーニングによる画像認識で分析し、人や車を避け、パトカーに特に気をつけ(笑)、まるで普通の車のように走行してきた。人間が持っている「白黒模様でこんなデザインの車はパトカーに違いない」という認識をディープラーニングの繰り返しによって会得し、自動運転の精度と技術を向上させたことが注目に値する。自動車側に搭載されるロジックボードである「Drive PX」には、多数の外部ポートが用意されている。これは、車のいたるところに搭載されるカメラやセンサーとのコミュニケーションを行うためのものだ。NVIDIAジャパン・シニアソリューションアーキテクトの馬路徹氏は、こうした機構の使い方を、筆者に次のように説明してくれた。「クラウドの向こうのディープラーニング・ネットワークに、常に接続していては間に合いません。ですから、ディープラーニングの結果得られたパラメータだけが手元に蓄積されます。そして、それを使い、ローカルにあるTegraが画像認識を行って、コントロールに使います。しかし、実際に運行している際には、これまでの学習結果からずれた情報も得られます。たとえば、とても変わっているけれどこれは自転車である……といったようなものに出会うこともある。そうした情報は車ごとに存在するわけですが、運転していない時などに、ネットワークを介し、ディープラーニングにかけられます。結果、パラメータ精度はさらに高まる。そして気がついてみると、日々認識精度は上がっていくのです」それぞれの自動運転車は、ディープラーニング情報を集めて全体で精度を上げるための「端末」でもあるわけだ。●「次に見るビデオ」まで推測する世界へディープラーニングは未来のものではない。今回紹介した記事では、Googleの担当者が自社内のサービスに広く活用している例を紹介している。Googleでの画像検索やAndroidの音声認識、果ては広告の最適な配置方法の検討に至るまで、幅広くディープラーニングでの解析結果が使われているという。特にアメリカでは、大手IT系企業のほとんどがディープラーニングの活用に力を注いでおり、NVIDIAにとっても大切なパートナーとなっている。画像は、NVIDIAのページから抜粋したパートナー企業の例である。IBMやfacebook、Microsoftがパートナーに名を連ねていることに違和感はないだろうが、ちょっと注目の企業の名もある。それが「Netflix」だ。Netflixは世界最大のビデオオンデマンドサービスの運営元で、日本にも今秋参入が決まっている。ビデオサービスの提供元がディープラーニングとは、ちょっと意外な感じもする。Netflixはこれまで、ディープラーニングの使い道について明確に説明をしたことがない。しかし周辺事情を聞くと、今の用途がおおむね見えてきている。Netflixは、番組に多量の付加情報をつけている。同じ恋愛ドラマでも「男性向きか女性向きか」はもちろん、「ハッピーエンドかどうか」「コメディ性はあるのか」といった、ジャンルを越えた情報をデータ化している。分類総数は7万以上と言われており、日々進化している。そうした情報は、「顧客がどんな映像作品を好むのか」という趣味趣向のデータベースとして活用されている。たとえば、あるハリウッド・アクションを、金曜の深夜(すなわち疲れている時)に途中で見るのを止めた40代男性が、次に見ると満足してくれる可能性のあるコンテンツはなにか……という推測まで行うわけだ。サービス開始当時は、そうした「サジェスチョン」の精度は高くなかったが、現在はサジェスチョンの精度の高さが、顧客のサービスからの離脱率の低さにつながっている。Netflixの従業員の4割はITシステムを担当しているが、さらにその多くがデータ分析に関わるエンジニア。どれだけ力を入れているかわかる。ディープラーニングは、こうした分析の他に、「分析のソースになる付加情報の決定」に使われているのでは……と予測できる。画像認識や自動運転のような未来的でわかりやすいものだけでなく、我々がなにげなく行う「選択を助けるサジェスチョン」にも、ディープラーニングは使われる。だからこそ、家電は常にネットワークにつながっていて、サーバーと情報をやりとりする存在でなくてはいけないのである。
2015年03月25日現在爆発的な人気を誇るブラウザゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』に登場する「三日月宗近」が、2.5頭身のデフォルメフィギュア「ねんどろいど」シリーズで立体化され、2015年8月に発売されることが决定した。現在「GOOD SMILE ONLINESHOP」にて予約受注で、価格は3,889円(税別)。「三日月宗近」は、『刀剣乱舞-ONLINE-』天下五剣の中でも最も美しい刀剣男士。今年2月に開催された「ワンダーフェスティバル2015[冬]」にて「ねんどろいど」化がアナウンスされ、1月14日にサービスインしたばかりの『刀剣乱舞』の立体化は大きな話題をもって迎えられた。『ねんどろいど 三日月宗近』は、平安貴族を思わせるような優美な衣服、月の満ち欠けを意匠化したような鞘乃デザインなど、デフォルメサイズながらもしっかりと造形。ゲーム内では、見られない背面のデザインも堪能することができる。流麗な造形の髪の毛は、グラデーションのかかった彩色で仕上げられている。表情パーツには、妖艶な「通常顔」や凛とした「戦闘顔」のほか、"おじいちゃん"の愛称からイメージした「のほほん顔」を用意。愛刀は納刀・抜刀状態を再現でき、月の満ち欠けをイメージした鞘も忠実に再現されている。さらに穏やかな一時を思わせる「湯呑み」のほか、刀剣男士の手入れには欠かせない「打粉(うちこ)」も付属。「手入」の疑似体験も楽しめるという、ゲーム外でも審神者気分を楽しめる「ねんどろいど」となる。商品価格は3,889円(税別)で、「GOOD SMILE ONLINESHOP」の予約締切は、2015年4月22日21:00。商品の発売および発送は、2015年8月を予定。なお「GOOD SMILE ONLINESHOP」の予約特典には、『ねんどろいどぷらす ラバーストラップ 三日月宗近 のほほんVer.』が用意されている。(C)2015 DMMゲームズ/Nitroplus
2015年03月24日●一種の炎上状態になった背景にマイナビニュースで新しい連載を始めることになった。狙いは「ニュース解説」。といっても、シンプルなものではない。ニュースの中で「家電的な意味で」もうちょい深掘りして、楽しい情報や役に立つ情報を付け加えていこう……という趣向で進めていく。ご愛顧いただければ幸いだ。さて、第1回の題材とするのは以下の記事だ。VAIO Phoneがついに登場! - ユーザーニーズの“ど真ん中”を狙う (3月13日掲載)VAIO Phoneは、そのありようも含め、非常に多くの議論を巻き起こした。要は「VAIO Phoneの名前から想像していたものとは違う」という反応から、一種の炎上状態になったわけだ。筆者も様々な課題があると考えているが、述べたいのはそういう話ではない。皆さんの反応を見ると、「ODMが悪い」「パナソニックのELUGA U2にそっくりだから悪い」といった論調が多いように見受けられるが、本当にそうだろうか。背景には、現在のOEM・ODMを活用したものづくりについての誤解もあるように思う。今回はVAIO Phoneの話題を軸に、「ODMを活用してモノを作るとはどういうことか」を解説してみたい。○優秀なODMがいるから「今の家電」が生まれるかつて、製品を「作る」といえば、大手企業の場合、自社傘下の工場で製造するのが基本だった。他国で製造したり、製造専門の会社に委託したものは一級品ではない……、そんなイメージもあったろう。しかし、もちろん今は違う。製造を担当する企業は、単に低価格化を担当する部門ではない。効率的な開発と製造を助ける「専門家」といったほうがよく、ODMはそうした手法の一つを指す用語となっている。ODMとは「Original Design Manufacturing」の略で、本来は「生産委託を受けて、相手先のブランドのための製品を作る」ということを指す。たとえば、ある企業Aがスマートフォンを開発したいとしよう。しかし、企業Aには機器の開発についても、製造についてもノウハウが不足している。そうした場合に、生産委託を受けた企業Bが設計から生産までを手がけ、委託した企業Aのロゴを製品につければ、ノウハウのない企業Aでも「メーカー」になれる。なんか、どっかで聞いた話だ。だが、である。ODMはそんなにシンプルなものではない。やり方には色々あって、そこに委託する企業とODMメーカーの関係が表れてくる。●VAIO Phoneの悲劇を呼んだ要因は……たとえば、最近増えているハードウエアスタートアップが、実際に製品を作って出荷したい、としよう。彼らは彼らなりに、新しい発想で企画した奇抜な製品を提示する。その際には、デザインや発想だけでなく、技術的な特徴を備えていることも少なくない。だから、彼らの元に技術がないわけではない。しかし、「量産のノウハウ」に欠けていることは容易に考えられる。商品のコアパーツでない部分での部品の選び方や、生産をスムーズにするためのちょっとした設計のコツといったものは、やはり、日常的に「量産」している人々でないと持っていないものだ。意欲的な製品の多くは、ODM・OEMメーカーと、企画元企業のコラボレーションがあって、はじめて世に出て行く。名前を聞くことも多い「Foxconn」や「Quanta Computer」は、そういうノウハウを多数持っている超一流のODMメーカーだ。彼らの能力なしに、今の家電の量産は難しい。設計などを持ち寄って生産してもらう形は、いわゆる「OEM」の一形態であり、現在はODMとOEMの境目もあいまいであるが、量産に至る設計や製造プロセスまで含め、どこがイニシアチブをとるかで、生産の形はずいぶん違ってくる。たとえばアップルの場合、設計から生産方法まで徹底的にコントロールする。生産委託先は労働力と物流拠点を提供する相手、といっていい。アップル以外でも、各メーカーのフラッグシップ・スマホはかなりそうした色合いが強い。だが、ミドルクラス以下のスマホのように設計や製造がそこまで難しくない製品については、人件費が安く、リーズナブルなモノ作りのノウハウに長けたODMと組むにしても、「ほどほど」で済ませる。開発の段階で関与度を高めれば高めるほど、製造にかかるコストや期間は長くなってしまうためだ。その関与のさじ加減こそが重要なポイントで、Quanta Computerのような企業は、そこで企業とユーザーの要望をうまく満たすすべをよく知っている。今回、VAIO Phoneにおいて、パナソニックが台湾市場向けに供給している「ELUGA U2」に似ている……、という話が出てきたのは、Quanta Computerが持つ生産パターンの中から、日本通信がそのモデルを選んでカスタマイズしたからだろう、と予測できる。日本通信とVAIOは元々、商品性として「ハイエンドではなく、手に取りやすい価格で十分な性能」のスマホを求めていたようだ。その観点で見れば、VAIO Phoneも、ELUGA U2も決して悪い製品とはいえない。そこに「期待アゲアゲ」になるような事前プロモーションを仕掛けて、ユーザーの期待との乖離を生んでしまったことが、今回の悲劇につながる。●デザインや梱包は「注文次第」、ブランド維持には努力が必要一方で、ODMのもうひとつの価値を考えると、VAIO Phoneのやり方はやっぱりよろしくなかった、と感じる。ODM・OEMは「バッジビジネス」と言われることが多いが、現在、バッジを付けるだけで成立している製品は少なくなっており、きちんとしたブランドコントロールが重要視されている。ここでいうブランドコントロールとは、質感や「梱包」の点だ。デザインを大きく変えられない場合、素材や仕上げを変えて付加価値を付けることは多い。VAIO Phoneの場合も背面のカバーを変えているが、「ブランドの名前を全面に立てた製品」の割には、カスタマイズ幅が小さすぎる。ODMでは製造だけでなく、手間のかかる梱包までも担当することが多い。VAIO Phoneにしても、オリジナルの「箱」が用意されていて、そこではブランド価値向上の試みがなされている。だが、スマホの梱包に使うビニール袋や、同梱品まではあまり気をつかっていないようだ。箱を開けた時の高級感を演出するため、でき合いのビニール袋を使わないメーカーもあるし、同梱品のケーブルやヘッドホンなどに、より良質なものをチョイスする企業もある。デザインや箱を開けた時の感覚などは、「Out of the Box Experience」などと呼ばれ、商品性のうちとする声は大きい。アップル製品はその代表格だし、ハイエンドスマホでも、そうした部分での価値を追求するものは増えている。ODMと一緒に製品を作るということは、そういうところにも気をつかって管理するということなのだ。そのため業界には、ODMとの折衝や生産管理を専門とするプロフェッショナルがいる。彼らに頼らなかったせいで余計な期間やコストがかかったメーカーも少なくない。ODMは優れた存在だが、任せてしまえば彼らの論理で品物を作られる。そこで交渉し、「より自社の求める製品」を作るよう交渉を重ねることが、今の家電作りの一つの形といえる。今回のVAIO Phoneは、筆者も商品性に問題があると思う。課題はELUGA U2に似ていることでも、ハイエンドでないことでもない。「ブランドを重視したモノ作りを、ODMとともに行った」ように見えないことが問題なのだ。VAIOに人々が抱く期待がその程度だと思っているなら残念だし、そうでないなら、もっともっとやることはあっただろう。
2015年03月19日映画『マエストロ!』のヒット御礼舞台挨拶が2月15日(日)、都内劇場で開催され、松坂桃李、西田敏行、小林聖太郎監督が出席した。さそうあきらの漫画を原作に、解散したかつての名門オーケストラが謎の天才指揮者に率いられて復活を遂げていくさまを描き出す。松坂さんは、こうしてヒット御礼舞台挨拶として観客の前に立てることに感慨深げ。「非常に嬉しいです。僕らは作り手側で、どれだけ多くの人に伝えられるかという思いでやって来て、こうして作品を手渡してますが、温かい感想が返ってくると作ってよかったと思います」と嬉しそうに語る。西田さんは開口一番「モーゼの映画(※『エクソダス:神と王』)に行くつもりだった方、スパイの方(※『ジョーカー・ゲーム』)に行くおつもりだった方、重ねて御礼申し上げます」と他作品を挙げて感謝の思いを語り、会場は笑いに包まれる。さらに「特にモーゼの方に行くつもりだった方のために歌でお慰み申し上げます」と語り、「海が割れるのよ道ができるのよ」とモーゼの逸話に合わせて、天童よしみの「珍島物語」の一節を熱唱し喝采を浴びる。これには松坂さんも「これ聴けただけで今日は満足です!」と笑顔で西田さんを称えていた。サービス精神旺盛の西田さんだが、実は4日ほど前まで風邪で寝込んでいたそう。「暑かったり、寒かったりと季節が変で、鬼の霍乱で…」と明かす。幸いにもすでに復調しているようで「ようやく社会復帰を果たしましたが、みなさんの顔を見て、どんな薬より効果があると感じています。これから立派に役者の道を邁進していくことを決意しました!」とユーモアたっぷりの口調で語り、会場は温かい拍手に包まれた。この日は、未来の音楽家であるちびっ子バイオリニストが集まり、バイオリンを習う上での基礎曲であり、松坂さん自身、役作りでバイオリンを習う際に最初に挑戦したという「きらきら星」を生で演奏!松坂さんは子どもたちの演奏に耳を傾け「素晴らしいと同時に、『きらきら星』を弾いていた僕の悪夢が浄化されました(笑)!」とつらかった練習の日々をふり返りつつ、嬉しそうに語った。この日のヒット御礼舞台挨拶で『マエストロ!』に関わる仕事は最後となる予定だが、松坂さんは「寂しい気持ちもある」と胸の内を明かし、「もう僕たちの作品ではなくみなさんの作品だと思います。僕の中でこの作品は、何年か後にふり返っても『やってよかった』と思える作品になりました。みなさんのおかげです」と最後まで感謝の思いを口にし、舞台挨拶は幕を閉じた。『マエストロ!』は全国にて公開中。(text:cinemacafe.net)■関連作品:マエストロ! 2015年1月31日より全国にて公開(C) 2015『マエストロ!』製作委員会(C) さそうあきら/双葉社
2015年02月16日映画『マエストロ!』が1月31日(土)に公開。都内劇場にて初回上映後の舞台挨拶が行われ、主演の松坂桃李をはじめ、miwa、西田敏行らが登壇。サプライズで西田さんからは松坂さんに対し、1年8か月におよぶ苦労を労う温かい言葉が掛けられ、会場は感動に包まれた。さそうあきらの人気漫画を映画化。かつての名門ながらも解散の憂き目にあったオーケストラのメンバーが、謎めいた老指揮者によって再結集し、復活コンサートに向けて成長を遂げていくさまが描かれる。この日は、松坂さん、miwaさん、西田さんに加え、楽団のメンバーを演じた古舘寛治、大石吾朗、河井青葉、池田鉄洋、モロ師岡、村杉蝉之介、小林且弥、中村倫也、嶋田久作、そして小林聖太郎監督も登壇。一同、ラストのコンサートシーンの時と同じ正装で登場し、会場は拍手に包まれた。松坂さんは、演奏の手などの動きに関して、一切の吹き替えなしだった点に触れ「全員揃ってないと、監督のOKも音楽(監修)チームのOKも出ないので、何度も繰り返しました」と苦労をふり返る。プライベートでの練習の時間も多く、撮影も緊張感に包まれていたようだが、それでも現場でキャスト陣は和気あいあいと接していたよう。映画初出演となったmiwaさんは「楽屋で、みんなで私の『ヒカリヘ』という曲をセッションしました!」と、それぞれのメンバーたちが楽器を手に“エア”演奏によるセッションを行なったと明かす。小林さんは、その模様をスマホで撮影したそうで「すごく良いですよ。みんな(演奏は)マネですけど(笑)。DVD特典に入れてほしい」と語り、他のメンバーも楽しそうに述懐。これに対し、松坂さんは怪訝な表情で「それは僕と西田さんは撮影している時のことですね…?」と仲間外れになったことに不満そう。西田さんは「いいなぁ、スマホ」とポツリとつぶやき会場は笑いに包まれた。松坂さんは、以前の舞台挨拶で時価数億円のストラディヴァリウスの演奏を披露しているが、この日、正装での舞台挨拶となったことで「いきなり、演奏させられるんじゃないかとビビりました(笑)」とやや疑心暗鬼の様子。そんな松坂さんのためにもちろん、サプライズを用意!原作者のさそうさんが来場し、演奏する松坂さんの姿を描いたイラストをプレゼントした。さらに、“指揮者”西田さんから楽団のメンバー、スタッフにサプライズで労いの言葉が。特に“コンサートマスター”を務めた松坂さんに対し「この映画のコンマスは松坂桃李でした。完成まで1年8か月を要しましたが、素晴らしい努力と情熱と集中力で、片時もバイオリンを離さない姿に胸が締めつけられました。いま26歳ですが、人間の気力と体力のピークは37歳と言われてますからあと10年あります。キャリアを積んで日本映画を牽引するビッグな俳優として成長を続けてほしい」と心のこもったメッセージを送った。いつも、冗談ばかりの西田さんからの温かい言葉に、松坂さんは感激の面持ち。「サプライズと聞いて、楽器が出てきて弾くのかと思ったらまさか西田さんの言葉で…嬉しいです。頑張ります!」と大先輩を前にさらなる飛躍を誓った。最後に改めて「音楽は人間が作り上げた最高の栄養剤であり、エネルギーを与えてくれます。この作品はエネルギーが詰まった純度100%の映画です」と力強くアピールした。『マエストロ!』は全国にて公開中。(text:cinemacafe.net)■関連作品:マエストロ! 2015年1月31日より全国にて公開(C) 2015『マエストロ!』製作委員会(C) さそうあきら/双葉社
2015年02月01日公開初日を迎えた映画『マエストロ!』の初日舞台あいさつが1月31日、東京・有楽町の丸の内ピカデリーで行われ、松坂桃李、miwa、西田敏行、古舘寛治、大石吾朗、河井青葉、池田鉄洋、モロ師岡、村杉蝉之介、小林且弥、中村倫也、嶋田久作、小林聖太郎監督、原作のさそうあきらが出席した。本作は、謎の指揮者と負け組楽団員が巻き起こす笑いと涙の本格的音楽エンタテインメント。この日は、キャスト陣と小林聖太郎監督が劇中で演奏する時に着用した正装姿で登場し、主演の松坂は「いや~、いきなり演奏させられるのかとビビってましたが、何事もなくうれしいです」と安心した表情を見せながら「やはり全員の動きが揃ってないとOKが出ないので、何べんも繰り返しました」と撮影エピソードを披露。本作で演技初挑戦となったmiwaは「今日初めて初日に映画館にお邪魔し、『映画に出たんだな~』と実感しました」と感慨深げ。「楽屋で私の『ヒカリヘ』をみんなでセッションしました。それが一番の思い出です」と振り返った。今回登場したキャスト陣を指揮者として束ねるのが西田敏行。「僕は孤独にみんなと距離を置いてました。みんなも目を合わせてくれないんだもん…」といじけるも、主演の松坂には「素晴らしい努力と情熱、集中力を結集して今日に至るまでに1年8カ月を要したことを申し上げたいです。撮影から離れても、片時もヴァイオリンを離さずに練習している姿を見ると胸が締め付けられました」と大絶賛。さらに「彼は若干26歳。人間の気力と体力は37歳がピークです。それまでいっぱいキャリアを積んでいただいて、日本映画を牽引する俳優として成長して欲しいと心から思います」とエールを送り、大先輩の金言を受けた松坂は「楽器が出てきて弾くのかと思いましたが、西田さんのメッセージはすごくビックリしました。本当に嬉しいです。ありがとうございました」と恐縮しながらも「頑張ります!」と更なる活躍に意欲を見せていた。
2015年02月01日