連載小説「眠らない女神たち」 第三話 『グレープフルーツのユウウツ』(前編)
いるだけでも邪魔だと思う巨体だが、クマさんだから仕方ないのだ。
「パパ、遅いねえ」
お風呂上がりにクリームを塗ってあげているときに里依紗は言った。
「そうねえ」
私はため息交じりに肯定した。今から帰るというメールが入らないから、今夜も遅くなるのだろう。仕事なのか飲みに行ったのか分からないが、ここのところろくな会話を交わしていない気がする。
里依紗と私の髪を乾かしたらもう寝る時間だった。でも私はまだ眠らない。里依紗が寝付いたら私はキッチンでお弁当の準備をしなければいけないから。
時刻は9時をいくらか過ぎていた。オフィスでは誰かが残業しているに違いない。妙な申し訳なさに感じながらも、私は里依紗の隣に横になった。小さなルームランプをベッドサイドでともしながら、里依紗と私は寝る前に少しだけおしゃべりする。みずきちゃんが廊下でころんで泣いたことや先生の昔のあだ名がゆっこだったこと。
明日はピンクの靴下がはきたい、と話したあたりで急に静かになった。私は里依紗が寝付いたと思ったがそうではなかった。
「里依ちゃんね、パパとお風呂入りたかったの」
ぱっちりとした目が今は眠そうに半分閉じかけている。