連載小説「眠らない女神たち」 第三話 『グレープフルーツのユウウツ』(前編)
「そっかあ、残念だったね」
里依紗のサラサラの髪をなでながら答える。里依紗は私の胸に顔をうずめた。パパに会えなくてさびしいのだろう。
里依紗の気持ちを考えると胸の深いところがキュゥッとなる。パパもさびしがってくれているかな。クマさんクマさん、早く帰ってきてよ。里依紗がさみしがっているよ。里依紗が大人になってしまう前に、早く、早く。
里依紗の規則正しい寝息を聞きながら、私もいつしか眠っていた。
はっと目が覚めるとベッドサイドのランプは消えていた。私はあわてて時計を確認する。10時30分。ああよかった。私は里依紗を起こさないようそっとベッドを抜け出す。さっきからリビングからテレビの音がしている。パパが帰ってきたのだろう。
「第三話『グレープフルーツのユウウツ』(後編)」に続く
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