2017年7月27日 21:15
「突然のキス」に不機嫌になる男|12星座連載小説#127~天秤座 10話~
そう言って彼は、PCに向かって修復作業を始めた。
『あの……ごめんなさい』
「どうして謝るんです?」
PCから目を離さずに彼が答える。
『突然、あの……』
「謝るようなことなら、しなけりゃいいじゃないですか……」
『…………』
エンターキーをパチンと叩いた音が、“終わりの合図”だった。
「修復、終わりました。一応チェックもしてあるので大丈夫かと思います」
『……ありがとうございます』
「それでは、私はこれで……」
薫さんがスクッっと立ち上がって、バッグを肩にかける。
「次からは、こんな夜遅くにお邪魔するのは、控えさせて頂きますね」
そう言って玄関へ向かう。
今の私には彼を引き止めるだけの理由も気力もない。ただ、黙って見送ることしかできない。
『あ……下までお送りします……』
「いえ、ここで大丈夫ですよ。それではお邪魔しました」
見送りすら拒否された私は、ドアの隙間から彼が見えなくなるのをただ見ているだけ。
ドアがカチャンと音を立てて閉まった後には、物音ひとつしない空虚な部屋にひとり。
ティーカップに彼は口をつけていなかった。
『何よ……!』
これまでオトコからこんな対応をされたことはなかった。