2017年8月1日 21:15
「男の欲」を受け入れる女|12星座連載小説#130~蠍座 10話~
ただひとり、真田会長の乾いた心を救えたら。
『構いません。倫子を返して下さい』
「言うたな、お前! 吐いた唾は飲めんぞ!」
会長の気色がみるみる変わり、怒気を帯びる。
でも、私にとっては……。まるで、玩具を取り上げられそうになっている子どものようにしか見えない。
『あなたは、子どもです。小さい頃に満たされなかったものを、こうして不健全な形で今、満たそうとしている。でも、それは間違っています。
私は……私たちは人形じゃない!』
「何を言うかぁぁぁッ!」
怒号と共に会長が立ち上がる。
『倫子は連れて帰ります』
“恐れ”に勝る感情は、“愛”なのだろう。この人になら殺されても、私はそれで良いと思った。
「では、このおなごを連れて帰るといい。ただし、お主は今から“ただの女”じゃ。今日以降、どの店でも働くことはできん。二度とな……」
『承知の上です……』
唇を噛む。
悔しいからじゃない。
悲しいから。
分かって欲しいから。
「おい、下ろせ」
会長の号令とともに、吊るされていた倫子が床に崩れ落ちる。
『倫子、帰ろう……?』
息も絶え絶えな彼女に駆け寄り、声を掛ける。
しかし、彼女から帰ってきた返事は予想外のものだった。