2017年8月1日 21:15
「男の欲」を受け入れる女|12星座連載小説#130~蠍座 10話~
「余計なことしないでよっ!」
縄でギツギツに縛られた彼女は、キッと私を睨みつけ、そう言い放った。
『え……?』
「私は、今、会長の寵愛を受けているの……! 私から望んでやってることに、あんたからどうこう言われる筋合いはないわ!」
―――ああ。もう全てが狂っているんだ
私はその時、思った。
“会長の欲”と“倫子の欲”。
……それらはグズグズになって癒着し、ひとつの醜い肉塊として、ここに在るのだ。
「……分かったかぁ! 帰れぃ!」
『会長!』
会長の最後の言葉と共に、黒服が私を囲む。勝ち誇ったような倫子の眼差し。
そうか。
最初から全てが狂っていたんだ。
これが“標準”ってこと。もしかしたら私も、狂っているのかもしれない。黒服に促され“人形部屋”から追い出される。
きっと今の私は、泣き笑いのような顔をしているのだろう……。
『あはは……』
マンションの廊下で、ひとり乾いた笑い声が響く。
泣かない。
泣くもんか……。
泣けば、会長の思うツボ。
―――私は奥歯をギリと噛んで、エレベーターに乗りこんだ。
占いで出た“ストレングス”のカードが思い浮かぶ。
凛とした女性が、獅子を手懐けているあのカード。