「日本映画が“映画とは何か”を思い出させてくれた」フランスの鬼才が語る日本映画の魅力
―ということは、本作には実体験もかなり反映されていると。
監督自伝的な作品ではありませんが、自分の経験をそのまま再現したようなシーンはところどころに含まれています。たとえば、アルツハイマーになってしまった母親から息子ではなく夫と間違えられたとか、自宅にいるのに「家に帰りたい」と何度も言い出す母親の様子は、現実と重なっている部分です。そういった母の姿は、見ていてもつらかったですね。
自分も日本映画のような真面目な映画を作りたくなった
―また、本作は先ほど挙げていた『生きる』だけでなく、木下恵介監督の『楢山節考』や篠田正浩監督『心中天網島』にもインスパイアされているとか。監督退院したあと、ロックダウンの影響ですることがなく、最初はパリの街を自転車で走ったりしていました。そのうちに、日本映画を観るようになり、日本の偉大な監督たちのメロドラマな作品を発見するのに何か月も費やすようになっていったのです。
おかげで憂鬱さや残酷さ、美的独創性など、本当に素晴らしい映画とは何なのかを思い出させてもらいました。
それまでの自分は大人向けでも若者向けでもない、中途半端な位置づけの作品が多かったのですが、日本映画を観たことで「僕も溝口健二監督や成瀬巳喜男監督のように真面目な映画を作りたい」