仕事はできるし、人望もある。女にももてるが、男性社員からも一目置かれていた。美形ではないのに、少し厚めの唇や太めの眉が表情豊かで、その顔が屈託なく笑うのを見ると、誰もが嬉しいような気持ちになる、そんな魅力があった。そんな太一が、自分なんかの指を気にしている、ということが、愛美には驚きだった。
翌週、太一に食事に誘われたときは、ただ頷いてしまった。まさか太一が、自分なんかを相手にするわけがない、という気持ちと、太一のような男に誘われて舞い上がる気持ちの両方がこみあげてきて、どういう態度でいればいいのかわからなかった。
上の空のまま、前菜の皿が空き、冷たいポタージュを飲み、メインの肉は、喉を通らないのを無理して半分なんとか平らげた。そして、帰りに当たり前のように、家に誘われた。
愛美は、太一のような男に誘われて、自分に断る理由などないように感じた。タクシーを降りて、家までの細い路地を歩いているとき、太一が不意に愛美を抱き寄せ、キスしてきた。そんなに欲されていることが夢のようだった。
太一は、自分のことが好きなのだろうか。求められ、触れられている最中は、まるで好かれているような気がした。