意外なことに、どれもうまく育ち、美波は自分で育てたハーブを使って料理をしたり、どうせ料理に使うならと大葉を育ててみようか、なんて思ったりもした。自分で育てたハーブで料理をしているなんて、嘘みたいだなとぼんやり思うこともあった。
よく眠れず、食欲の落ちた美波の身体には、朝の水やりのときに嗅ぐハーブの香りが唯一食欲をかきたててくれるありがたい存在だった。薔薇は、枯れなかった。これでいいのかな? と思いながら手探りで世話をしていたが、一時的に調子が悪くなることもあれば、また持ち直したりもした。
そして、ベランダに打ち水を繰り返した夏が過ぎ、やっと涼しい風が吹くようになった頃、その薔薇は蕾をつけた。
たった、それだけのことだったが、美波はふいに「自分にもできることがあるのだ」ということを、心から感じることができた。ただ、人に去っていかれるだけの、なんの魅力も取り柄もない女なのではないと、その蕾が証明してくれているように思えた。
蕾が開き、花が咲いたとき、美波はその美しさに引き寄せられた。また、同じことを繰り返すかもしれない。けれど、私にも、もしかしたら、何かを続けることができるかもしれない。