くらし情報『失恋の残りもの (17) 薔薇』

2015年7月22日 14:00

失恋の残りもの (17) 薔薇

意外なことに、どれもうまく育ち、美波は自分で育てたハーブを使って料理をしたり、どうせ料理に使うならと大葉を育ててみようか、なんて思ったりもした。自分で育てたハーブで料理をしているなんて、嘘みたいだなとぼんやり思うこともあった。

よく眠れず、食欲の落ちた美波の身体には、朝の水やりのときに嗅ぐハーブの香りが唯一食欲をかきたててくれるありがたい存在だった。薔薇は、枯れなかった。これでいいのかな? と思いながら手探りで世話をしていたが、一時的に調子が悪くなることもあれば、また持ち直したりもした。

そして、ベランダに打ち水を繰り返した夏が過ぎ、やっと涼しい風が吹くようになった頃、その薔薇は蕾をつけた。

たった、それだけのことだったが、美波はふいに「自分にもできることがあるのだ」ということを、心から感じることができた。ただ、人に去っていかれるだけの、なんの魅力も取り柄もない女なのではないと、その蕾が証明してくれているように思えた。


蕾が開き、花が咲いたとき、美波はその美しさに引き寄せられた。また、同じことを繰り返すかもしれない。けれど、私にも、もしかしたら、何かを続けることができるかもしれない。

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