わたしが魅了されるのは、ほとんどがその「色」だった。
ひと口に「赤」と言っても、濃いのから薄いの、ちょっと黄味がかったものまでいろいろあるし、毛糸の赤と、綿の赤と、ベロアの赤も全然違う。
「今日は、つるっと光った赤が着たい」
「今日は、シトッとしたグリーンがいい」
布団の中で目覚めるとき、わたしはいつもそんなことを思う。
前の晩から用意するようなことはしない。その日、どんな色が着たいかは朝になってみないとわからないからだ。
そんなわたしにとって、一番の苦痛は「これを着なさい」と格好を決められることだ。
「制服」とはその最たるもので、中学から高校の6年間は毎日違った髪飾りを結ぶことで、なんとか気持ちを保っていた。
そんなこともあって大学生になると、なにかが爆発でも起こしてしまったように、派手な色合いの洋服ばかりを好むようになる。
そして就職を控えた、大学4年生の冬のことだ。
母と出かけたデパートで、わたしはショッキングピンクの春物のコートを惚れぼれと眺めていた。わたしが見ても「これは明らかに、とんでもなく派手だ」ということがよくわかるそのコートは、500円玉よりも大きなボタンのついた膝までのロング丈で、撥水加工をしたようにパリッと美しかった。