くらし情報『泣き顔と真冬のスプリングコート』

2020年4月14日 19:00

泣き顔と真冬のスプリングコート

天気とは関係なく、気分は毎日、今にも雨が漏れしたたりそうなほど、どんよりと曇り、とても重たい。

打ち合わせで発言をすると「まだ早い」と帰り道にたしなめられる。公募の研修を受けたいと申し出ると「入社6年目までは無理だ」と笑われる。「メールをしました」と席まで伝えに行かなければ、非常識だと30分以上叱られたりもした。

毎晩のように取引先との飲み会が続き、苦手な紹興酒もたくさん飲まなければならなかった。お酒の席で年齢を聞かれ「27です」と答えると、「なあんだ、つまらない」と言われ、毎回「ひどーい」とカラカラと笑わなければいけない。

限界だった。

「外国だと思うしかないよ」と恋人は慰めてくれるけれど、わたしは海外こそ蛍光イエローのバナナようなワンピースや、ハッと目の覚めるようなグリーンのノースリーブが着たい。
だけどもう、そんなに遠くへ出かける元気もなかった。

「なにが一番嫌だ?」彼に尋ねられ、「もう……スーツなんて着たくない」とわたしはおいおい泣いた。スーツの胸ボタンのように、もうなにかもが苦しい。彼は眉をハの字にして「辞めてもいいよ」と真面目に言った。

「わたし、文章が書きたい」とつぶやくと、うんうんと頷きながら、「それに……洋服はピンク色が似合うと思う」

関連記事
新着くらしまとめ
もっと見る
記事配信社一覧
facebook
Facebook
Instagram
Instagram
X
X
YouTube
YouTube
上へ戻る
エキサイトのおすすめサービス

Copyright © 1997-2024 Excite Japan Co., LTD. All Rights Reserved.