「今の時代に能楽は絶対に必要」観るのは“舞台”ではなく、“自分の人生”だ
では最新のサウンド・ビジュアルエフェクトを利用し、能『小鍛冶』をダイジェストで上演
──アンビエントな芸能というのはどういうことでしょうか。
もともと能楽は屋外で上演されていたこともあって、自然の力による演出が得意な芸能でした。決まったセットや人間の手によって演出されるのではなく、太陽の光や、そこに生える草花の香りなどによって、人間の五感を奮い立たせていた。
ところが現代になって、能楽堂という建物の中に入ってしまった。これは能楽にとって、ひとつの悲劇なんです。どのようにしてそれを取り戻していくかということが、僕にとっての課題のひとつです。
──でも、宝生さんは最新の技術をどんどん能楽に取り入れていますよね。能楽の魅力が「自然の力による演出」なら、むしろ反対のことをしているような気がするのですが……。
そんなことはないんですよ。
技術が急速に進化している現代だからこそ、失ったものを科学技術で補っても良いと思っています。
実は、能楽は最先端技術ととても相性が良いんです。まわりの環境に溶け込むことが得意なので、それを彩るものがなんであれ、本来の味は失われない。技術に頼りきるのではなく、心を鎮めるための芸能である能楽を演出する要素のひとつとして溶け込ませていくことが大切だと考えています。