2022年2月9日 12:19
毎年『弁当を200個注文する客』を疑う店主 結末に、涙腺が緩む
悲しくて、悔しくて。コロナに胸ぐらがあったら掴んでやりたい。何度も思った。
だがそうもしていられず、店の撤去作業に追われた。自らペンキを塗った看板。何枚も配り歩いたチラシ。分厚い顧客リスト。それらを見ては涙に暮れ、悲嘆に暮れた。
お客様からのFAXをシュレッダーにかける時は、身も心も刻まれるようだった。
そんなある日、店にFAXが届いた。FAXの主は『ふじのさん』だった。見れば『7月3日シャケ弁200食』とある。だがその日にはもう店はない。ないんだ。私は切なさいっぱいに、その旨をFAXで伝えた。
店を立ち退く日。
その日は朝から別れの挨拶に訪れるお客様で賑わった。その中に『ふじのさん』の代理人がいた。大きなダンボール箱を抱え「これはヤッサンから」と差し出した。中身は伊予柑だった。
「いい予感、ってことだそうです。またがんばって下さい」
いい予感、か。私たちは顔を見合わせて笑った。
「そう言えばいつも7月3日にご注文を頂いていたのですが、あの日は何があったんですか」
するとそれまで私を見ていた代理人さんが、すっと目をそらした。
そしてたったひと言。「誕生日だから」と言った。
途端に頭が真っ白になった。