幼稚園の給食を残した園児 その『理由』に、先生は涙した
私は思い当たったことがあったので、すかさず言いました。
「あっ、先生、あのー、実は、うちの子……コロッケがあまりおいしかったから……妹や私に残してきてくれたんです。おみやげ、おみやげって言いながら帰ってきて……」
私は話しながら、何日も前のおいしいコロッケを思い出していました。そしてなぜか遠慮がちに言っているもう一人の自分に気づきました。先生の直球に、直球で返すのはなぜか抵抗があったからでした。
先生の目は一瞬宙を漂いましたが、突然、大粒の涙がはらはらと落ち、先生の白いブラウスを濡らしました。先生は取り出したハンケチで何度も何度も目頭や頬をぬぐいましたが、涙はとめどなく流れてきました。
私はお姉ちゃんがコロッケを残してしまったことを詫びようとしましたが、言葉をはさむ余地もなく、とうとう言いそびれてしまいました。
私が先生の心の内に分け入る必要はありませんでした。思い違いだったと気づいた若い先生の言葉の代わりに迸った涙の豊かさが、先生の心の内を物語っていました。涙の豊かさは気持ちの深さでもありました。
先生の温かい涙は、それだけで、お姉ちゃんをぎゅっと抱きしめていました。
あの日、先生は思いがけないことを告げられ、私は目の前で予期しない光景に息を呑みました。