コロナで職を失った派遣社員 ある社員の『ひと言』に、息をのんだ
進む道を後押ししてくれる優しさは、どんな言葉よりも強く、心から私のことを思って応援してくれている人がいるという真実は、きっとこれからも、私を支えてくれるだろうと思った。
記憶というのは不思議なもので、ずっと覚えているような言葉や誰かとのシーンがある。覚えている日々と、覚えていない日々は何が違うのだろう。自分にとって大切な思い出や、誰かからの言葉を、人は多かれ少なかれ、心の中の宝箱とでもいうような場所に、そっと大事にしまっているのだろう。
そしてその宝箱から時折取り出して、ありがとうとつぶやくのだ。そう言った作業が、私はとても好きだし、出会いを豊かにしてくれる。そしてそんな宝物が増えたというだけで私はここに勤められて本当に良かった。
出勤最終日を迎えた。
「絵が上手だ」と褒めてくれたその人に絵を書いた手紙を渡した。今度は思わず涙が溢れた。
「大人になると人はなかなか泣けなくなる。でも、泣けるほどの人と出会えたというのは本当に素晴らしいことだよ。ありがとね」
そう言ってくれた。
何のために生きているのかわからない20代前半だった。誰がほんとうなのかも、何が正しいのかもわからなかった。