おばあちゃんは89歳の靴磨き職人 5人の子供を育て上げた半生
「2度目の結婚をするときに思い描いていた、エプロン姿で台所に立つお母さんにはなれなかった。あるとき、子供たちを連れて故郷の浜名湖に行きました。頭のどこかでは心中するつもりだったんでしょう。すると、勘のいい下の娘が、その日に限って、『お母さん、おなかすいた、寒いよ、帰ろう』と、しきりに私の手を引くんです。それでハッとして、思いとどまりました」
また私が働くしかないと、新橋に通い始め、今に至る。8年ほど前、料金が現在の500円に定着した。今後も値上げするつもりはないと言う。
「靴を磨きにくるサラリーマンの人も、住宅ローンを抱えていたり、子供の教育にお金がいちばんかかる大変な時期でしょう。
私はもう年だし。お金を墓場までは持っていけないしね。子供が5人で、孫は8人。先日も、その孫の一人が、ここ新橋まで来て、私の仕事ぶりをじっと見てるんですよ」
その孫は言った。
「おばあちゃんは、元気だから、働いてるのがいいね」
中村さんは、心からうれしそうに言う。
「その子の親たちは、私が靴磨きをしてることで、学校でもイヤなこともあったと思います。私自身、『新橋へは来るな』と言い聞かせていました。