おばあちゃんは89歳の靴磨き職人 5人の子供を育て上げた半生
それを思うと、今、家族が私の仕事を認めてくれているのは、本当にありがたいことなんです」
家族の存在があったから、どんな苦労も我慢できた。
「お金を払わずに立ち去る人もいたし、脇に置いた売り上げの4万円をそっくり盗まれたことも。でも、人生、いいことのほうが多いというのも、本当」
近所の中小企業の社長は常連の一人だが、かつて靴を磨いてもらいながらこんなことを言った。
「おばさんに靴を磨いてもらったおかげで、社長になれたよ。おばさんの名前の“幸”は、人を幸せにする幸なんですね」
そして、今年春のこと。
「その社長さんが、部下の若い人に社長命令で『おばさんのところで靴でも磨いてシャキッとしてこい』なんて言ったそうなの。ほら、今、コロナで営業の人もなにかとたいへんだから」
実際に、その若者はやってきた。丹念に靴を磨き終えると、中村さんは彼に向かって言った。
「頑張ってね。私も、まだまだ頑張るから。靴もきれいになったし、うん、大丈夫!」
また来ます、と笑顔で立ち去るフレッシュマン。中村さんが靴磨きの最後に必ず添える「大丈夫」の声に、この半世紀、多くのサラリーマンたちが励まされ続けてきた――。
(撮影:田山達之)
「女性自身」2021年4月20日号 掲載
女性管理職割合の平均は10.9%、女性登用に対する企業の意識調査