スターダムへの戸惑いと苦悩……「久保田早紀」は引退、音楽伝道師の道へ
「私自身は、もともと曲作りが楽しいだけで、当初は『異邦人』も、歌うのは誰か別の人がやってくれると思っていたほどでした。ですから、正直、売れたという喜びもなく、自分の実力とは別物のように感じていました」
あるとき、旬のアイドルが表紙を飾ることで知られる月刊芸能誌の撮影に出向いたときのこと。
「超有名な男性アイドルの方がいて、カメラマンが『頬と頬をもっとくっつけて』と。注文には応じながら、胸の内では“私がやりたかったのはこんなことじゃない”と悔しさをこらえていました」
私は、どこへ向かっているんだろう……。虚像と実像のギャップを少しでも埋めようとしたとき、久米さんが試みたのは、自分の音楽のルーツに立ち返ることだった。
「本来、音楽は楽しいものだったはず。それで好きだったユーミンさんからガロ、ビートルズ、フォークソング、グループサウンズとさかのぼっていって、たどり着いたのが賛美歌だったんです」
都内のプロテスタントの教会で洗礼を受けたのは、デビューからちょうど2年目。