劇団四季が手掛ける最新ミュージカル『ゴースト&レディ』の稽古場取材会が4月3日(水) に神奈川県・四季芸術センターで行われた。『うしおととら』『からくりサーカス』等のヒット作を持つ藤田和日郎によるコミックス『黒博物館 ゴーストアンドレディ』を原作にした作品で、演出は『ノートルダムの鐘』のスコット・シュワルツ。近年、オリジナル作品創作に力を入れている劇団四季が、オリジナル作品としては初めて海外から演出家を招聘し創作する注目作である。稽古場取材会より、東京公演出演候補の萩原隆匡、金本泰潤(左端から)、真瀬はるか、谷原志音(中央ポスター右から)、演出のスコット・シュワルツ(中央ポスター左)、吉田智誉樹 劇団四季代表取締役稽古披露は、最初にシュワルツが「稽古してきたものを皆さんにお見せできることにとても興奮しています」とコメントし、「中心となる登場人物はフローレンス・ナイチンゲール(フロー)と、ドルーリー・レーン劇場に住み着いたグレイという名のシアターゴースト。ナイチンゲールは1800年代ヴィクトリア朝時代のイギリスに生きた女性で、彼女は西洋において医療というものを大きく変えた、社会的リーダーです。グレイは演劇をこよなく愛するシアターゴーストで、もともと生きていたのは1700年代。決闘士という職業をしていました。ふたりはこの物語の始まりで出会い、一緒に大きな冒険へ旅立ちます。スクタリに行き、戦地をめぐっていきます。究極の話、『ゴースト&レディ』はふたりのラブストーリーです。最初は“自分は人を愛することをしたくない”と思っているふたりの魂が、最終的には深いところで繋がり、お互い影響しあい支え合っていく」とおおまかなストーリーの説明を。その後、稽古風景として3つの場面が披露された。『ゴースト&レディ』演出を手がけるスコット・シュワルツ最初は第一幕第四場「国は責任をとれ」~「走る雲を追いかけて」。新聞の戦場特派員ラッセルが「現地の状況をお伝えしよう」と、「戦場以上に悲惨な状態にある」というスクタリの野戦病院の現状を訴えかけ、ロンドン市民が憤るというナンバーが勇ましく力強く展開。そしてハーバード戦地大臣によりフローが「女性看護要員団 団長」に任命され、フローや看護師たちが「苦しむ人たちを助けに行こう」と決意を歌う楽曲へと繋がっていく。ここでのフローは真瀬はるか。フローを見つめるグレイは金本泰潤。真瀬の清廉かつ力強さが伝わる存在感、金本のワイルドな佇まいが印象的。続いて第二幕第四場「裏切りの人生」。シュワルツ曰く「幕開きからずっとフローに『なぜゴーストになったのか』と聞かれ続けていたグレイが、初めて自分の軌跡を説明する場面。彼は苦労の多い子ども時代を経て育ち、途中で演劇に出会いものすごい演劇好きになる。そして通っていたドルーリー・レーン劇場でシャーロットという女優に出会う。偶然外の道で出会ったグレイに、シャーロットは酒場へ誘います」ということで、グレイが回顧する形で酒場でのシーンが描かれていく。酒場らしい陽気な音楽が奏でられ、グレイとシャーロットが楽し気に酒の飲み比べをし、アイリッシュダンスも組み込まれ……と、見どころの多いシーンの中でふたりの恋が語られる。しかしシャーロットには貴族のパトロンがいる。駆け落ちの約束をするふたりだったが、約束の日、グレイの前に現れたのは彼女のパトロンから代理として決闘するよう頼まれた騎士、デオン・ド・ボーモンだった……。大勢で魅せる迫力のあるダンスに、“ありし日の青春”を無邪気な笑顔で演じる金本のグレイ、デオン・ド・ボーモン役の岡村美南の凛々しくも危険な魅力に目を奪われる。最後に披露されたのは一幕第八場「不思議な絆」。シュワルツによると「一幕の幕切れ」。スクタリの野戦病院の外、フローとグレイが別々の場所で、それぞれの想いを歌う壮大なデュエットナンバーだ。ここではフロー=谷原志音、グレイ=萩原隆匡がお互いへの思いが胸の奥に芽生えているのを自覚したことを、美しい歌声で歌い上げていた。演劇的言語を使って漫画の世界を忠実に表現約45分の稽古場披露ののち、シュワルツ、フロー役の谷原、真瀬、グレイ役の金本、萩原、吉田智誉樹代表取締役による取材会も行われた。以下、その一問一答。――この漫画を舞台化しようと思った理由は。吉田提案してくれたのはオリジナルミュージカルを作っているセクションのメンバーです。私も原作を拝読し、ナイチンゲールという実在の人物の評伝的な形態をとりながら、その彼女がゴーストと恋をする。さらにゴーストは色々な演劇を吸収しており、名作のセリフがポロっと出てきたり、演劇的な目で状況を確認したりする。非常に演劇的な仕掛けを持っています。また、私たちが常に作品に込めている「人生は生きるに値する」というメッセージ性を充分に表現できる物語だと思いました。――キャストの皆さん、漫画を読んだ時の感想を教えてください。金本切り口にびっくりしました。ナイチンゲールという女性が生涯独り身を貫き、これほどの功績を成し遂げるには、近くにこんなゴーストがいたんじゃないかという発想がとても素敵だなと。しかも恋仲というより“バディ”という感じの関係性だというのが、月並みな表現ですが面白いなと思いました。さらに歴史物としても読み応えがありますし、どんな立場の人にもそれぞれに正義があり、当時の人たちも間違えてはいない、でもナイチンゲールはそこを打破したかったんだ、という点も響きました。信じたものを貫くというのは教訓にもなるし、エネルギーをもらえます。素敵な漫画だと思いました。萩原もちろん面白いのですが、やっぱり昔から、何か新しいことをやると色々と文句を言う人がいるんだなって……。一同(笑)。萩原ナイチンゲールという人でさえ、そうだったんだと。でもそれをやり通すと何かが変わる。しかもそのそばにはゴーストがいたというのが面白いし、ゴーストがめちゃくちゃカッコいいんです。男の理想みたいで。まさか自分が演じることになるとは思いませんでしたが(笑)、こんなカッコいい人がいたらいいよなと思った。そんなカッコいい男性と、自分の道を突き進む女性のチーム感に見入ってしまいました。……カッコよくできるように頑張ります。真瀬まず絵の力、線の力がすごい。特にフローは目の描写が特徴的。藤田先生の描かれる線の濃さ、絵の強さとリンクするように、フローレンス・ナイチンゲールという人物は勇敢な魂を持って突き進んでいく。読み始めたらノンストップで一気に読み切ってしまいました。こんなに夢中になって漫画を読んだのは久しぶりと思うくらい衝撃的でした。しかもフローは、勇敢な魂の持ち主であると同時に揺らぎもあり、ひとりの人間なんだなと感じる。度胸と愛嬌の両方があるフローに共感したので、舞台上でも多面性を見せながら演じられるよう頑張ります。谷原もともとあまり漫画を読むのは得意ではないのですが、はるかちゃんが言ったように、この漫画は読み始めたらあっという間に読み終えました。またナイチンゲールというのは本当に有名な歴史上の人物ですが、その方をとても可愛くチャーミングに描いている。もし私がこの漫画ではない作品でナイチンゲールを演じるとなったら、プレッシャーでどうしようとなっていたかもしれませんが、この漫画のナイチンゲールは自分に近い部分もあり、普通の人間なんだと思わせてくれました。普通の女性として共感ができた。舞台でもそう描かれていると思いますので、皆さんにも共感していただける作品になっていると思います。――シュワルツさん、原作の魅力をどう捉えていますか。シュワルツ2019年に四季さんから「また新しいものをやろう」と言われたのですが、その時には何の作品をやるかはまだ決まっていませんでした。ただ打合せの時に「アイディアがある」と英訳された上下巻の漫画を提示されました。私は帰りのフライトの中でそれを開け、気付いたら一気に最後まで読み切っていました。絵の力もありますが、このストーリー、テーマに夢中になったのです。ナイチンゲールの物語をゴーストを通して語る。そして現実とファンタジーをひとつにし、成立させる。これは歌にもできると思ったし、ビジュアル面もスペクタクルでエキサイティング、マジカルなことを舞台上で展開できるぞと思いました。アメリカに着陸し、飛行機を降りた直後にメールで「やりましょう」と返事をしていました。――それを舞台化するにあたり、舞台ならではの描き方をどう考えていますか。シュワルツ我々がやろうとしているのは、物語を舞台上に移植するという作業。藤田先生が描かれたものの高潔性を保ち、名誉を重んじ、演劇化する。演劇化するということは、平面である紙に描かれたものを三次元化し、人間の体を通しお届けするものに変えるということ。藤田さんは稽古場にもいらしていただき、我々が翻案する考え方を支えてくださっています。――漫画を舞台化する時に、スコットさんが大事にしてるポイントは。シュワルツ藤田さんは「漫画というものは二次元です。なぜなら紙の上に描かれているものだから。それは必然です。私が描いた二次元のものを受け取って、三次元にしてください」とおっしゃっていました。それをまさに我々はやろうとしています。もちろん藤田さんの漫画は素晴らしい作品で、次元を超えたものになっているとは思いますが。藤田さんの絵には強く影響を受けていますし、稽古場には漫画のページを貼り毎日それを見ています。私たちはそれを、演劇的な言語に変えていくという作業をしているのです。それはオリジナル性に富み、芸術性の高いものを目指す作業です。漫画の影響は大きいですが、今回の公演は我々のアーティスト、プランナーたちが考えたプランに基づいています。つまり漫画の一コマ一コマを舞台上でやっていくのではない。でも演劇的言語を使って忠実に表現している。漫画ファンの方には「あ、あのコマだ!」「あの触り方だ!」と感じて楽しんでいただけると思いますが、同時に漫画を読んだことのない方も夢中になっていただけるものになっていると思います。――稽古を見たところ、漫画に比べてふたりの愛情をより掘り下げた形になっている印象を受けたが、それが作品のクリエーションにどう影響を与えていますか。シュワルツそれこそがこの公演が辿る旅路、軌跡そのものだと思います。我々は意図的に複雑なラブストーリーを語ろうとしています。これは男性が女性に出会い、恋し、別れ、またくっつくといったシンプルなラブストーリーではなく、複雑なんです。冒頭では両者とも自分が人を愛することにむしろ抵抗してる。そこからスタートし、幕切れまでかけ、ふたりがいかに相手を愛しているか、また自分は人を愛することができるのだと気付く、その旅路を描いている。そして愛というものは人を豊かにし、癒やすことができて、広く大きいものだと自覚する。さらに冒険の物語でもある。とりわけその世界観の構築に腐心しています。観ていただく方にとってスリリングであることを祈っています。これは巨大叙事詩的壮大さをもったラブストーリーで、その中心にいるのがフローとグレイのふたりです。メロディ性に富んだ心に訴える音楽――この作品のメッセージ性をどう捉えていますか。シュワルツ我々はいかに人を癒すことができるか、そして人間はどのように癒されるのか、互いにどのように癒すことができるのかということだと思います。金本僕も最近まで、この作品で何を伝えたいんだ、グレイは何をしにこの作品に出てきたんだと迷っていました。最近わかりはじめたのが、自分の過去を認め、人を信じ、この先を生きていくということであり、僕にとっても学びになっています。どうしても隠したい過去は誰しもにありますが、それも全部受け止め、背負って生きていくグレイ、というのがすごく最近しっくりきている。ちょっと舞台に立ちやすくなったというか、稽古に出やすくなりました(笑)。真瀬スコットさんがおっしゃった「魂が癒される」という部分はもちろんあると思いますが、その上で「信じたいものを信じて人生を歩んでいいんだ」と思います。悪役に見える役でも、“町の男・1”のような役にでもそれぞれの人生を選んでその場所にいて、行動している。そのどのひとりも、選んじゃいけない人生なんてない。みんなその時のベストを尽くして生きている。私も生きていて迷うこともありますし、稽古も迷いながら毎日進んでいますが、この物語からは“肯定感”をメッセージとしてもらい、勇気づけられています。谷原フローは最初に、グレイに「自分を殺してほしい」と言うところから始まります。この芝居の前に彼女は死にたいと思っている。すごく暗いところから彼女はスタートするのですが、作品が終わる時、本当に彼女は変わっている。稽古はもちろん大変ですが、何も考えずに物語の中に入れば、終わる時に自分がすごく(ポジティブに)変わっているということが楽しくて。つまりそういうことだと思います。私が役を演じながらそう感じているということは、ご覧になった方も絶対同じことを感じてくれるだろうと信じながらやっています。萩原フローは厳しい家に閉じ込められていた人で、グレイは劇場に閉じこもっている人。ふたりが出会い、フローが進む中で色々な人が影響され、グレイも影響されていく。そう考えると、人と出会い影響されるということはとてもいいことなんだなと感じます。そういう単純なところを生の舞台で感じていただけたらと思います。――音楽的な面で作曲家の富貴晴美さんにリクエストしたことなどがあれば教えてください。シュワルツ曲の構成は、全体を通して色々な曲調のものに満ちています。富貴さんと私とで話している中でインスパイアされたものですが、当時の大英帝国でイギリス人たちが聴いていたと思われる音楽――民族舞踊や民族的音楽、使っている楽器などを形にできたらいいね、と言ってました。それを現代のミュージカルの曲と組み合わせる。富貴さんの音楽はメロディ性に富み、情熱的で、心に訴えます。――キャッチーな見せ場としてはどういうものがあるか。シュワルツキャッチーな見せ場はたくさんあります(笑)。オープニングを例にとると、最初は不気味な、怪談のようなゴースト的なところから始まります。それが弾け、シアトリカルに、舞台上に観客がいる、という絵になります。そこでフローとグレイが出会います。フローとグレイがケンカし戦ってるような曲もあります。これはふたりが「もしフローが絶望の底に堕ちたらその時にグレイが殺す」という取引をしている曲。これは富貴さんがワイルドでダークで、ちょっと踊りたくなるダンスナンバーのようなものを作ってくれました。また二幕の、当時の英国君主が登場する曲も素晴らしい。すごい曲はいっぱいありますよ(笑)。もうひとつ、高橋知伽江さんの詞がとても重要で、演劇的なスコアになっています。例えばビッグナンバーがあったと想えば、全体的にライトモチーフが何度も揺り戻し奏でられたりと、演劇的に構成されています。――吉田社長に。ナイチンゲールは日本に限らず世界中で有名な人物です。この作品を世界の他の地域にも届けたいという狙いはあるのでしょうか。吉田もちろんそういう気持ちはありますが、まずやらねばならないのは、この作品を日本でしっかりヒットさせ根付かせるということ。その上で先のことを考えていきたいと思いますが、当然そういう願望も持っています。――オリジナルミュージカルを作り続ける意義は。吉田残念ながらまだ日本のミュージカルを中心とした舞台芸術界は、客観的に申し上げて輸入超過だと思います。これからはコンテンツで勝負していくことが大事になる。そのためにもオリジナルミュージカル作りはしっかり進めていきたい。とくにコロナの体験を通し、色々なフレキシビリティ――例えば二次利用や映像などの可能性を持っているオリジナル作品の重要性は改めて感じました。私が現職を拝命し10年目ですが、最大のテーマがオリジナル作りだと思い、担当セクションにも1年に1本新作を作れと言っています。この作品はその第一フェーズの最後、集大成になる。第1フェーズでだいぶ体力がつきました。創作体制もですが、出来上がったものを販売する体制など、総合的な意味で、ひとつの興行をしっかりお客様に届けるということがしっかり身についてきた実感があります。この体力をもって、第2フェーズでは地に足をつけた進め方をしていきたいと考えています。取材・文・撮影:平野祥恵<公演情報>劇団四季オリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』原作:藤田和日郎「黒博物館 ゴーストアンドレディ」(講談社「モーニング」)脚本・歌詞:高橋知伽江演出:スコット・シュワルツ作曲・編曲:富貴晴美振付:チェイス・ブロックイリュージョン:クリス・フィッシャー出演候補(東京公演)フロー(フローレンス・ナイチンゲール):真瀬はるか / 谷原志音グレイ:金本泰潤 / 萩原隆匡ジョン・ホール:瀧山久志 / 野中万寿夫デオン・ド・ボーモン:岡村美南 / 宮田愛アレックス・モートン:ペ・ジェヨン / 寺元健一郎エイミー:木村奏絵 / 町島智子ウィリアム・ラッセル:内田圭 / 長尾哲平ボブ(ロバート・ロビンソン):菱山亮祐 / 平田了祐2024年5月6日(月・休)~11月11日(月)会場:東京・JR東日本四季劇場[秋]チケット情報()公式サイト
2024年04月08日2024年2月に上演されるミュージカル『Play a Life』の稽古場取材会が、1月23日(火) に開催された。本作は、作・演出:上田一豪、作曲:小澤時史によるオリジナルミュージカル。2014年8月に亡くなった名優、ロビン・ウィリアムズ主演の映画『今を生きる』(1989年)をきっかけに恋に落ち結婚した夫婦と、妻の教え子だった教育実習生が「今を生きる」をテーマに、歌で物語を紡いでいく作品だ。東宝演劇部所属の演出家として知られる上田の主宰する劇団Tip Tapが2015年に初演して以降、再演を重ね、2017年にはラジオドラマ化。2021年のコロナ禍では文化庁収益強化事業のモデル作品として8K映像でのライブ配信など様々な形で上演されてきた。さらに、2023年3月には、フジテレビ初の本格ミュージカルドラマとして、上田が自ら監督を務め、映像作品として放送されるなど、多くの人に愛されている。これまでの公演同様、今回も「白猫」と「黒猫」の2チームで上演。「白猫」チームの「夫」役は、佐藤隆紀(LE VELVETS)、「妻」役は平川めぐみ、「教育実習生」役は屋比久知奈の3名が出演する。一方、「黒猫」チームの「夫」役は相葉裕樹、「妻」役は松原凜子、「教育実習生」役は豊原江理佳と、実力派キャストが揃った。この日の稽古場取材には、「黒猫」チームが登場。まず最初にオープニングナンバーの「今を生きる」が披露された。この楽曲は、それぞれの登場人物の自己紹介的なナンバーで、「教育実習生」が思い出の先生について語り出すところからスタートする。そして、「夫」と「妻」が名画座で出会い、恋に落ちる様子が綴られた。オープニングに続いて、夫婦の生活を見せるM2へ。「夫」と「妻」がどんな生活をしているのか。ふたりの日常が歌に乗せて描かれていく。そして、最後に「教育実習生」が初めて教室で挨拶をするシーンを公開。豊原が生徒たちを前に緊張し、パニックになる様子を面白おかしく歌う姿が印象的だった。この日は、まだ稽古が始まって2日目。キャストたちは台本を片手にミザンスを体に刻み込んでいく。シーンの合間には、上田が「まだ人生2回目だからね」と笑いながらも、それぞれのキャストとともに細かな芝居を確認する様子も見られた。その後に行われた取材会では、相葉は「稽古期間が2週間しかないということもあって、かなりヒリヒリ、ハラハラしている状態ではあります。1回1回を大事に臨まないといけない。ここから本格的に稽古が進んでいくと思いますので、なんとかいい作品を作れるように演じていきたいと思います」と意気込んだ。そして、「誰もが自分の物語の主人公だと感じてもらえる作品になると思います。『生きる』というテーマは日常の中で考えることが少なくなっていると思いますが、この作品を観て、それを感じてもらえたら」と思いを語った。松原も「私をキャスティングしていただいた意味をしっかり考えて、私にしか出せない味を出したいし、それを今、模索しているところです」と稽古を振り返り、「夫役の相葉さんと長年連れ添った夫婦の落ち着いた空気を出すことが重要だと思っているので、そうしたところも頑張っていきたい」とコメント。さらに、「この劇場にこの日、この時間に集まって、このチームを選んで観にきた。そういう偶然が重なって一緒の空間を共有できるのは奇跡だと思いますし、尊いことだと思うので、その時間を共に楽しみたいと思っています」と思いを馳せた。豊原は「今は、毎日頭がパンクしそうなくらいセリフや歌と向き合っていて、私は個人的には作品に対峙するところまでいけてなくて……」と本音を吐露しながらも、「何度も上演されていて、たくさんの方から楽しみにしているとお声をいただいている作品なので、それだけ人の心に残る作品なのだと実感しています。この作品との出会いが生きることに向き合うきっかけになれば」と力を込めた。また、上田は「2015年の初演では、小さな40席くらいの劇場からスタートした作品ですが、こうして色々な方に観ていただいて、素晴らしい出演者の皆さんとまた上演できることが楽しみです」と挨拶。「黒猫」チームについては「この作品にこれまで全く携わっていない人たちなので、新鮮にキャラクターを作れるのかなと思います」と期待を寄せた。一方の「白猫」チームについては「初演で実習生役を演じていた平川めぐみちゃんが今回は妻役を演じるという新しい試みです。また新しい『Play a Life』ができるのかなと楽しみにしています」と語った。稽古はまだスタートしたばかり。これからの稽古でさらなるブラッシュアップを重ね、初日にはどのような物語が描かれるのか。期待が高まる。<公演情報>ミュージカル『Play a Life』作・演出:上田一豪作曲:小澤時史【キャスト】白猫=佐藤隆紀(LE VELVETS)、平川めぐみ、屋比久知奈黒猫=相葉裕樹、松原凜子、豊原江理佳2024年2月7日(水)~12日(月・休)会場:博品館劇場チケット情報:()公式サイト:
2024年01月26日『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』が、2024年2月2日(金)より全国の映画館にて開催される。「柱稽古編」の放映に先駆けワールドツアー上映が開催アニメ『鬼滅の刃』は、集英社ジャンプ コミックス1巻~23巻で累計発行部数1億5000万部を突破した吾峠呼世晴による人気漫画を原作とする作品。家族を鬼に殺された少年・竈門炭治郎が、鬼になった妹の禰豆子を人間に戻すため、《鬼殺隊》へ入隊することから始まる本作は、2019年4月より『テレビアニメ「鬼滅の刃」竈門炭治郎 立志編』の放送を開始した。人気は衰えるところを知らず、2020年10月には『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を公開し、2021年から2022年にかけて、『テレビアニメ「鬼滅の刃」 無限列車編』『テレビアニメ「鬼滅の刃」遊郭編』を放送・配信。さらに2023年2月からは、『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』を開催し、4月より『テレビアニメ「鬼滅の刃」刀鍛冶の里編』を放送・配信した。その続編となる『テレビアニメ「鬼滅の刃」柱稽古編』が、2024年春より全国フジテレビ系にて放送されることが決定。それと同時に、2024年2月2日(金)より『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』を開催することを発表した。「刀鍛冶の里編」第11話の劇場初上映&「柱稽古編」の第1話世界初公開『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』では、刀鍛冶の里を舞台に、炭治郎と上弦の肆・半天狗との激闘、そして禰豆子の太陽克服を描いた「刀鍛冶の里編」第11話の劇場初上映に加えて、鬼舞辻無惨との決戦に向けた柱稽古の開幕を描く「柱稽古編」の第1話を世界初公開する。作品は、劇場で鑑賞した際にダイナミックな体験ができるよう、映像全編を高精細な4K解像度へと再構築(4Kアップコンバート)し、全編の音楽を5.1ch、7.1ch等、フォーマットに合わせて形している。なお、IMAXでの同時公開も行われ全国427館の映画館で幅広く上映。本ワールドツアー上映は、日本以外にも世界140以上の国と地域の映画館にて順次上映される。さらに TOHOシネマズ日比谷では、花江夏樹、鬼頭明里、下野 紘、松岡禎丞ら声優陣が登場する舞台挨拶も実施される。【詳細】『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』開催日:2024年2月2日(金)上映開始場所:全国427館(通常版:377館+IMAX版:50館)■舞台挨拶会場 : TOHOシネマズ日比谷実施日1:2月2日(金)登壇者:花江夏樹、鬼頭明里、下野 紘、松岡禎丞、岡本信彦、高橋祐馬(司会)実施日2:2月3日(土)登壇者:櫻井孝宏、小西克幸、河西健吾、早見沙織、花澤香菜、鈴村健一、関 智一、杉田智和、高橋祐馬(司会)※ライブビューイングの実施を予定【スタッフ】原作:吾峠呼世晴(集英社ジャンプ コミックス刊)監督:外崎春雄キャラクターデザイン・総作画監督:松島 晃脚本制作:ufotableサブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花プロップデザイン:小山将治美術監督:衛藤功二撮影監督:寺尾優一3D監督:西脇一樹色彩設計:大前祐子編集:神野 学音楽:梶浦由記、椎名 豪アニメーション制作:ufotable【キャスト】竈門炭治郎(かまど・たんじろう):花江夏樹竈門禰豆子(かまど・ねずこ):鬼頭明里我妻善逸(あがつま・ぜんいつ):下野 紘嘴平伊之助(はしびら・いのすけ):松岡禎丞不死川玄弥(しなずがわ・げんや):岡本信彦冨岡義勇(とみおか・ぎゆう):櫻井孝宏宇髄天元(うずい・てんげん):小西克幸時透無一郎(ときとう・むいちろう):河西健吾胡蝶しのぶ(こちょう・しのぶ):早見沙織甘露寺蜜璃(かんろじ・みつり):花澤香菜伊黒小芭内(いぐろ・おばない):鈴村健一不死川実弥(しなずがわ・さねみ):関 智一悲鳴嶼行冥(ひめじま・ぎょうめい):杉田智和
2023年12月14日KAAT神奈川芸術劇場プロデュースによる舞台『SHELL』の稽古が進んでいる。初日まで約3週間というタイミングで実施された稽古取材会では、石井杏奈、秋田汐梨をはじめとする俳優たちの、若々しいエネルギーをほとばしらせる姿が強い印象を残した。長塚圭史芸術監督によって掲げられたKAAT2023-2024メインシーズンのシーズンタイトル「貌(かたち)」のもとに実現したのは、作・倉持裕、演出・杉原邦生という注目の初タッグだ。年齢も性別も違ういくつもの人生を、いくつもの顔をもって同時に生きる特異な人々が登場する摩訶不思議な世界を描くというこの作品。倉持と杉原という二つの才能がかけ合わさって、さて、どんな世界が生み出されるのか──。この日公開された稽古は、冒頭から第3場まで。一人、また一人と現れて無造作に置かれた学校椅子に座っていく俳優たち。一人ひとりがその個性をもって、このドラマの担い手であることを表明しているかのようで、ワクワクさせられる。教室での“告白”、突然学校に来なくなった松田先生のことや、この学校の問題について話し合う生徒たちの姿、突然鳴り響く非常ベルの音は、まさに“青春ファンタジー”の始まりらしい甘酸っぱい雰囲気だが、盲目の女性と隣人とのぎくしゃくしたやりとり、ビルから突然落ちてくるマネキン──と、観客に物語の焦点を探らせる時間は実にスリリング。落ちてきたマネキンを手にしたのは、岡田義徳演じる中年男の高木。その場に居合わせた未羽(秋田)には、それが友人の希穂(石井)に見えた。そうしていよいよドラマが動き出し──と思った瞬間、なだれ込むようにして始まるオープニングシーン。観る者を物語の世界へと引き込む、杉原ならではの迫力ある場面だ。音楽を手がけるのは、20歳の新進気鋭の若手音楽家・原口沙輔。その躍動感あふれるサウンドが、心地よく響く。「若き俳優たちの溢れるエネルギーと瞬発力、少しだけ先輩な俳優たちの豊かな発想と安定感、そして、スタッフたちの惜しみない情熱と技術により稽古場は躍動し続け、日々がアッという間に過ぎていきます」とコメントを寄せた杉原。彼のもと、若い俳優たちが生き生きと力を発揮する、魅力的な舞台が期待される。公演は11月11日(土)から26日(日)、KAAT神奈川芸術劇場 ホールにて。チケットは発売中。取材・文:加藤智子
2023年10月27日土田英生(MONO)が書いた戯曲を和田雅成主演で送る『燕のいる駅-ツバメノイルエキ-』の稽古場取材が某所にてに行われた。1997年に京都で初演された本作は、普遍的なテーマ性が高く評価され、その後、様々な劇団・プロデュースにより繰り返し上演され、2005年には宮田慶子演出、相葉雅紀主演で再演。2012年には土田英生自らが演出し、新たな改変を加えて決定版として上演された名作だ。今回の上演では、作者の土田が大幅に脚本をブラッシュアップし、さらに演出も手掛け、和田をはじめとして、高月彩良、小沢道成、奥村佳恵、佐藤永典、尾方宣久、久保田磨希と個性あふれる実力派を揃えた。主演の和田雅成は「自分としては、今までにはない演劇、芝居感を稽古場で感じています。いい意味でそれに苦しみつつも楽しんでいる状況です」と稽古を振り返った。これまでエンタメ性の強い作品にも数多く出演してきた和田だが、「もともと、会話劇は好きなんです」と話す。そして、「エンタメ要素の強い作品の中でも、会話のシーンでは相手のものを受け取ることを意識して演じています。なので、今回が特別だというわけではないですが、土田さんが金言を僕たちにくれるので、今までと違った演劇の会話を楽しんでいます」と本作への思いも明かした。最後に和田は、「この作品には“世界の終わりの日”というテーマがありますが、僕自身は“いつでも世界は終わる”と思っています。それは、いつ世界が終わってもいいように生きていたいから。演劇やエンタメで少しでも皆さんに元気を与えながら、明日、世界が終わってしまってもいいように日々を一緒に生きられたらと思っています」と熱く語ると、「今回、僕自身も新しい感覚を手に入れようと思っていますし、それをお客さんにも味わってもらいたいと思います。お客さんに寄り添うこの作品を1人でも多くの方に観ていただきたいと思います」と呼びかけて、取材を締めくくった。【公演概要】タイトル:『燕のいる駅-ツバメノイルエキ-』作・演出:土田英生(MONO)出演:和田雅成、高月彩良、小沢道成、奥村佳恵、佐藤永典、尾方宣久(MONO)、久保田磨希<東京公演>2023年9月23日(土)~10月8日(日) 会場:紀伊國屋ホール<大阪公演>2023年10月14日(土) 会場:松下IMPホールチケット好評発売中。
2023年09月15日TVアニメ化でも注目を集めたダーク・ファンタジー『チェンソーマン』初の舞台、「チェンソーマン」ザ・ステージ(2023年9月・10月上演)の稽古現場を取材した。『チェンソーマン』2018年より「週刊少年ジャンプ」(同社)にて連載が開始され、2022年7月からは第二部が「少年ジャンプ+」(同社)にて連載中、2022年10月から放送されたTVアニメは大きな話題となった人気コミック。初の舞台化となる本作で脚本・演出を手掛けるのは、『2.5 Escape Stage 甲鉄城のカバネリ』、『機動戦士ガンダム00 -破壊による再生-』、MANKAI STAGE『A3!』シリーズなど、多くの大型2.5次元舞台を成功させてきた松崎史也。音楽は「僕のヒーローアカデミア」The “Ultra” Stageシリーズなど、数多の舞台音楽を手掛けてきた和田俊輔が担当する。8月中旬、9月~10月の東京・京都公演に向け、初の通し稽古が行われた。主人公・デンジを演じるのは、土屋直武。今年4月から上演された脳内クラッシュ演劇「DRAMAtical Murder」フラッシュバックで主演を務め、複雑な物語の中で二面性のある難しい役どころを見事に演じきってみせた。その等身大の繊細さと演技力で今後に大きな期待がもてる役者だと観客に感じさせたが、今回の大型舞台でさらなる存在感を見せつけそうだ。ゆるくナチュラルなデンジの雰囲気や、自分ではどうにもできない境遇によるもどかしさ、生に対する感情や執着を、印象的な強い眼差し、声色などで体現していた。人気ヒロイン、マキマを演じるのは声優としても活躍する平野綾。凛とした声と佇まい、所作でミステリアスさを醸し出し、デンジやアキを魅了していく。この日は初めての通し稽古ということもあり、小道具が上手く作動しないなどのトラブルでは、思わず素の笑顔が漏れてしまう場面も。何が起こるかわからない生の舞台では、様々な表情のマキマさんが見られるかもしれない。平野の色香漂うマキマも楽しみが増すばかりとなった。甲田まひる演じるパワーは、松崎が「すべてが可愛い」と稽古段階から高評価。座り方や歩き方など、パワーの自由奔放な振る舞いを全身で表現していた。早川アキ役は数々の舞台で活躍する梅津瑞樹。まさに変幻自在とも言えるほど、シリアスからコミカルな役柄まで演じ分け様々なキャラクターを生み出す梅津が、デンジとの少しクスッとする掛け合いや、アキの冷静な中にも高ぶる感情をぶつけていく。また殺陣経験も豊富な梅津の安定したアクションは戦闘シーンを盛り上げていた。さらに、デンジの相棒とも言えるポチタはパペットで登場。キッキィが操る躍動感溢れるポチタに、松崎は稽古ですら「素敵すぎる」と絶賛した。他にも、姫野に佃井皆美、荒井ヒロカズに鐘ヶ江洸らアクションに定評のあるキャスト、岸辺に谷口賢志、東山コベニに岩田陽葵、圧倒的な強さでチェンソーマンに敵対する重要なキャラ・サムライソードにオレノグラフティがキャスティングされている。この日の稽古でも、コベニが大きな行動を起こす重要なシーンで鬼気迫る演技に、稽古場の空気が一気に引き締まり、物語の熱が増した。そして今回、舞台化として特徴的なところが、デンジが変身する『チェンソーの悪魔』の姿・チェンソーマンにスーツアクター(演:夛田将秀)とダンサー(演:仲宗根豊)の2名がキャスティングされていること。アクションシーンでは、頭と両腕にチェンソーの歯を装着したチェンソーマンがステージ上を飛び跳ね駆け回り、敵対する悪魔たちをなぎ倒していく。稽古ではまだ50%程のアクションということだったが、アニメの迫力さながら、わらわらと群がる悪魔たちを蹴散らす爽快さと、チェンソーマンの少しゾッとするおぞましさに目が離せなくなる。さらにそこから、滑らかにダンサーに入れ替わる場面もあるため、チェンソーマンがどんなダンスで心情や世界観を表現するのか、この舞台化ならではの演出は必見だ。ミュージカル作品を多く手掛けてきた松崎が、「チェンソーマン」ザ・ステージをどのように芝居とアクション、さらにダンスで彩るのか。ただの実写化ではない、舞台版ならではの『チェンソーマン』にさらに期待が高まった。舞台「チェンソーマン」ザ・ステージは、9月16日(土)から10月1日(日)に東京・天王洲 銀河劇場、10月6日(金)から10月9日(月・祝)まで、京都・京都劇場にて上演。取材・文:能一ナオ<公演情報>「チェンソーマン」ザ・ステージ原作:藤本タツキ(集英社「少年ジャンプ+」連載)脚本・演出:松崎史也音楽:和田俊輔振付:HIDALI出演:デンジ:土屋直武早川アキ:梅津瑞樹パワー:甲田まひる姫野:佃井皆美東山コベニ:岩田陽葵荒井ヒロカズ:鐘ヶ江 洸岸辺:谷口賢志チェンソーマン:夛⽥将秀/仲宗根 豊サムライソード:オレノグラフィティ/吉岡将真マキマ:平野 綾船木政秀三枝奈都紀阿瀬川健太新原ミナミ古屋敷 悠山咲和也キッキィ啓ゴリキングCharlieポチタ井澤詩織(声の出演)【東京公演】2023年9月16日(土)~10月1日(日)会場:天王洲 銀河劇場【京都公演】2023年10月6日(金)~10月9日(月・祝)会場:京都劇場チケット情報公式サイト藤本タツキ/集英社・「チェンソーマン」ザ・ステージ製作委員会
2023年09月04日9月から10月にかけて東京・大阪で上演されるミュージカル『アナスタシア』の稽古場レポートが到着した。2020年の“幻の上演”から3年。メインキャストもほぼそのままに、ミュージカル『アナスタシア』が帰ってくる!期待に胸を膨らませながら広い稽古場に足を踏み入れると、そこには30名ほどの出演者と、同じくらいの人数のスタッフが。ここ数年の状況下ではめっきり珍しくなった大所帯の稽古場に、ブロードウェイ発の大作ミュージカルならではのスケール感が漂う。8月中旬に訪れたこの日は、歌の抜き稽古からスタート。第一幕から、記憶喪失のアーニャ(葵わかな/木下晴香とWキャスト)が、ディミトリ(内海啓貴/海宝直人・相葉裕樹とトリプルキャスト)からもらったオルゴールの音色を聴いて歌う「Once Upon A December(遠い12月)」。幻想のように舞踏会の男女が現れて踊る中、必死に記憶を辿ろうとする葵アーニャを、内海ディミトリがじっと見つめる。複雑な心情をにじませるナイーブな表情が印象的だ。続いて、両親を亡くし、ペテルブルクの街が俺を育てたというディミトリ(海宝)が、アーニャ(葵)に語って聞かせる「My Petersburg(俺のペテルブルク)」。つらい過去にも負けず力強く歌い上げる海宝ディミトリに、初めは軽く流しながらも次第に聞き入っていく葵アーニャ。寒い公園で過ごす夜、それでも未来を信じて顔を輝かせる2人に目を奪われた。次は、懸賞金を目当てに、ディミトリ(相葉)が小悪党のヴラド(大澄賢也/石川禅とWキャスト)と共に、アーニャ(木下)を“皇女アナスタシア”に仕立て上げようとするシーン。ブロードウェイらしい明るく前向きな「Learn To Do It(やればできるさ)」に乗って、本を読み、ダンスを習うアーニャ。初めは2人を詐欺師と呼んでうさんくさげに見ていた木下アーニャだが、どこか誠実さを感じさせる相葉ディミトリや、地頭の良さを垣間見せる大澄ヴラドと過ごすうち、だんだん笑顔を見せるようになってゆく。歌の抜き稽古の最後は、政府事務所に呼ばれたアーニャ(木下)に、ボリシェビキの将官グレブ(堂珍嘉邦/田代万里生・海宝直人とトリプルキャスト)が歌う「The Neva Flows(ネヴァ川の流れ)」。夢に惑わされるなとアーニャに助言しつつ、任務と過去の記憶の狭間で揺れ動くグレブ。沈鬱な曲調の中、感情を押し殺すようにして歌う堂珍グレブと、強い意思を瞳に宿す木下アーニャの対峙は、波乱の物語を予感させる。歌の抜き稽古だけなのに、その世界観にすっかり引き込まれてしまった。第二幕の稽古が始まる前に、ヴラド役の大澄と石川、アナスタシアの祖母・マリア皇太后に仕えるリリー役の朝海ひかるとマルシア、堀内敬子(トリプルキャスト)のシーンを、本国ブロードウェイから来日した演出補、サラ・ハートマン氏が細かくアドバイス。“ワケあり”な2人だけに、ソーシャルダンスが盛り込まれたくだりはコミカルな描写もあり、石川の奮闘にマルシアが思わず噴き出してしまうひと幕も。ダンス経験が豊富な大澄と朝海が、石川とマルシアに身体の角度を助言し、それを堀内がチェックするなど抜群のチームワーク。実力派のベテランが揃った和やかな雰囲気に、カンパニーの盤石ぶりが伝わってきた。その後はいよいよ、第二幕の通し稽古がスタート!冒頭は、冬のペテルブルクからやってきたアーニャ(葵)とディミトリ(相葉)、ヴラド(石川)が、明るいパリの春に心浮き立つ場面だ。作家、画家、詩人……たくさんの芸術家が集い、自由に生きている花の都パリ。石川ヴラドはおっとりとした温かい人柄がにじむ役づくりで、新しい未来に挑もうとする葵アーニャを優しく見守っていた。場面は一転して、皇太后マリア(麻実れい)のパリの邸宅。皇太后の財産を狙おうとやってくる貴族を追い払い、ひと息つくリリー(マルシア)とマリアの会話から、寂しげな生活ぶりが伝わってくる。偽のアナスタシアが何人もやってくることに心を乱され、疲れ切っているマリアだが、麻実はそれでも品格を損なわず、現実に対峙する皇太后として表現。ひそかに嘆きながら古い写真を抱きしめる姿に、稽古場の演者たちも思わず見入っていた。終幕まで続けられた第二幕の通し稽古は、他にも見逃せない場面が続く。アーニャたちを追う将官グレブの苦悩や、詐欺のくわだてのつもりが、いつのまにかアーニャの幸せを祈るようになったディミトリの想い――。二幕の中盤、バレエが上演されている劇場で、マリア皇太后とアーニャが初めて目を交わすシーンは圧巻だ。バレエの進行と共に、麻実マリアと葵アーニャは葛藤の中でお互いの存在を認め、見つめながら、膨らんでゆく想いを歌い継いでゆく……。その後の展開は、ぜひ実際に舞台を観て、確かめてほしい。歴史の波に翻弄されたとしても、いつの世も変わらず人は人を想い、勇気をもって行動し、人生を選び取ってゆくのだと、ミュージカル『アナスタシア』は教えてくれるようだ。社会情勢が変化を見せる今、皇太后マリアが口にしたセリフの1つひとつは、3年前よりさらに重い。アーニャと皇太后マリアが、そしてディミトリやグレブが選んだ道を思うとき、本作の持つ力の大きさと最高のキャストで演じられる幸運を、さらに実感する稽古場取材となった。取材・文:藤野さくら併せて、稽古場の模様を収めた映像が到着した。ミュージカル『アナスタシア』稽古場映像<公演情報>ミュージカル『アナスタシア』【東京公演】2023年9月12日(火)~2023年10月7日(土)会場:東急シアターオーブ【大阪公演】2023年10月19日(木)~2023年10月31日(火)会場:梅田芸術劇場メインホールチケット情報公式サイト:
2023年08月25日ミュージカル『ラグタイム』の公開稽古が8月23日に都内稽古場にて行われた。『ラグタイム』は1998年トニー賞で13部門にノミネートされ、最優秀脚本賞・最優秀オリジナル楽曲賞をはじめ4部門を受賞した傑作ミュージカル。20世紀初頭、多くの移民が渡ってきたニューヨークを舞台に、ユダヤ人、黒人、白人、それぞれのルーツを持つ3つの家族が固い絆で結ばれ、差別や偏見に満ちた世界を変えていこうとする物語である。日本初演となる今回の上演は藤田俊太郎が演出を手掛け、石丸幹二、井上芳雄、安蘭けい、遥海、川口竜也、東啓介、土井ケイト、綺咲愛里、舘形比呂一、畠中洋、EXILE NESMITHらが出演。この日の公開稽古では4つの場面が披露された。まず演出の藤田が「こういう(稽古場披露という)時間を持つことができて幸せです。カンパニー一同、作品の深いテーマを追い求めて稽古をしています」と挨拶を述べたのち、楽曲披露へ。最初に紹介されたのは、カンパニー全員が登場する幕開けの『Ragtime』。まさに“ラグタイム”なオシャレなリズムに乗せた壮大なナンバーだ。実際は10分ほどある楽曲の後半部分の披露だったが、石丸幹二らが演じるユダヤ人たち、井上芳雄らが演じる黒人たち、安蘭けいが演じるら白人たちという3つの人種があること、その人種が時にくっきりと分かれ、時に混ざり合うことがダンスフォーメーションから視覚的にも伝わってくる。異なる階級、人種が交差しタペストリーのように織りなされる物語が展開されていく予兆が、この一曲の中にギュッと濃縮されている。2曲目は、井上演じる気鋭の若き黒人ピアニスト、コールハウス・ウォーカー・Jr.が、彼のもとから去っていってしまった恋人サラへの思いを歌い、同胞たちが彼を励ますダンスナンバー『The Getting’ Ready Rag』。振付のエイマン・フォーリーからキャストたちへ「椅子を出す時は急がずにエレガントに」といったような気を付けるべきポイントが語られたのち、場面の披露へ……となったものの、井上が出だしの台詞を噛み「……もう一回行きましょう!」とやり直しを要求すると、共演者たちがドッと盛り上がるというひと幕も。カンパニーの和やかな雰囲気も垣間見れたところで改めて披露されたナンバーは、こちらもシンコペーションのリズムも心地良く、ブラックたちの躍動感あふれるダンスが魅力的なシーンとなっていた。続いてもコールハウス役の井上と、サラを演じる遥海が登場。緊張のそぶりを見せる遥海に「何度でもやり直せるから!」と1曲前の自身の姿を例に(?)、優しく声をかける井上。そしてふたりの間に生まれた息子の輝く未来と幸せを願い「この子の時代は幸せで自由だ」「もう差別させない」と理想の世界を歌うデュエットソング『Wheels Of a Dream』を披露。力強いメッセージとロマンチックさが同居する珠玉のナンバーを、抜群の歌唱力を持つふたりが美しく響かせた。最後は石丸幹二が演じるターテと安蘭けいが演じるマザーが運命的な出会いから数年後に再会し、それぞれの子どもたちが仲良く遊ぶ姿を見ながら歌う『Our Children』。3拍子の優雅なメロディの中、子どもの姿に未来を見るような感動的なナンバーを、石丸と安蘭が柔らかな笑顔で情感豊かに歌い上げる。場面の披露が終わると「4人でお辞儀をしよう」と石丸が子役たちを呼び寄せ、報道陣に向かって礼をする姿まで、作品世界が続いているような美しい光景だった。30分弱の短い時間ではあったが、実力派揃いのキャストと、物語の時代背景と丁寧に向き合っていく藤田俊太郎の演出が光り、『ラグタイム』という珠玉のミュージカルの日本初演に大いに期待感が高まった公開稽古であった。公演は9月9日(土) から30日(土) まで東京・日生劇場、10月5日(木) から8日(日) まで大阪・梅田芸術劇場 メインホール、10月14日(土)・15日(日) に愛知県芸術劇場 大ホールで行われる。チケットは発売中。取材・文・撮影:平野祥恵<公演情報>ミュージカル『ラグタイム』脚本:テレンス・マクナリー歌詞:リン・アレンズ音楽:スティーヴン・フラハティ演出:藤田俊太郎【キャスト】石丸幹二:ターテ井上芳雄:コールハウス・ウォーカー・Jr安蘭けい:マザー遥海:サラ川口竜也:ファーザー東啓介:ヤンガーブラザー土井ケイト:エマ・ゴールドマン綺咲愛里:イヴリン・ネズビット舘形比呂一:ハリー・フーディーニ畠中洋:ヘンリー・フォード&グランドファーザーEXILE NESMITH:ブッカー・T・ワシントン新川將人、塚本直井上一馬、井上真由子、尾関晃輔、小西のりゆき、斎藤准一郎、Sarry、中嶋紗希、原田真絢、般若愛実、藤咲みどり、古川隼大、水島 渓、水野貴以、宮島朋宏、山野靖博【上演日程】2023年9月9日(土)~30日(土) 東京・日生劇場2023年10月5日(木)~8日(日) 大阪・梅田芸術劇場 メインホール2023年10月14日(土)~15日(日) 愛知・愛知芸術劇場 大ホールチケット情報公演公式サイト
2023年08月24日6月24日(土) にいよいよプレビュー公演初日を迎える『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』より、稽古場オフィシャルレポート&稽古風景写真が到着! 三つのシーンから見えてきた日本版ならではの魅力とは……?劇場に一歩足を踏み入れた瞬間、そこは絢爛豪華な別世界──。“観劇”の概念を覆す規格外の超大作にして、トニー賞14部門ノミネート・作品賞含む10部門受賞作、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル(以下MRTM)』の日本での上演が発表されてから実に2年余り。プレビュー公演開幕までついに1カ月を切り、いよいよカウントダウンが始まった。佳境を迎えた稽古場を訪れると、そこにはオーストラリアから来日したクリエイティブスタッフ及び日本側スタッフと共に、作品に息を吹き込むべく奮闘する日本版キャストの姿が。見学できた三つのシーンから見えてきた、本作ならではの、そして日本版ならではの魅力をレポートする。振付、パフォーマンス、ダブルキャスト!1899年のパリを舞台に、ナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」の花形スター・サティーンと、アメリカからやってきた作曲家志望の青年クリスチャンの燃え上がる恋模様を描く本作。そのオープニングを飾るのは、クラブの支配人ジドラーと踊り子たちが観客を一気に物語世界へと引き込む、まさに目を見張るようなビッグナンバーだ。本番の舞台では、セットと照明と音楽によって別世界へと作り変えられた劇場に足を踏み入れた観客が、いよいよ本格的に“『MRTM』マジック”にかかる瞬間でもある。そんなオープニングシーンの稽古から見えてきた本作の魅力は、何よりもダンス! そもそも官能的でアクロバティックでクリエイティビティに満ちたソニア・タイエの振付を、踊り子役の俳優たちがつま先から顔の筋肉まで、すべてを最大限に動かしながら、凄まじいまでのエネルギーで踊って“ダンスの力”を見せつけていく。絢爛豪華という言葉では片付けられないほど壮大なセットや照明の力は確かに大きいが、それに決して負けない人間のパフォーマンスがあるからこそ“マジック”はかかるのだと、実感させられた思いだ。サティーンとクリスチャンの出会いの場となるのもこのクラブだが、その初対面は少々トリッキー。サティーンは彼を、クラブの経営危機を救ってくれるパトロンのデューク(モンロス公爵)だと勘違いして楽屋に招き入れるのだ。二人が良い雰囲気になったところに本物のデュークが現れて……というコミカルなシーンは、稽古場での通称「エレファント・チーム(望海風斗、井上芳雄、橋本さとし、上川一哉、伊礼彼方、中井智彦)」と「ウィンドミル・チーム(平原綾香、甲斐翔真、松村雄基、上野哲也、K、中河内雅貴)」の両方で観ることができた。となるともちろん、見えてきた魅力はダブルキャストの面白さ。ややこしい状況にひたすら翻弄されている様子の望海サティーンと、どこか楽しんでいるようにも見える平原サティーン。少年のように素直で少しやんちゃな井上クリスチャンと、等身大の青年らしさが光る甲斐クリスチャン。まだ稽古段階の、ひとつのシーンだけでこれだけ印象が異なりながら、しかしどちらも成立しているのだから、この魅力は底知れない。組み合わせを変えて何度か観ることで、『MRTM』を多角的に味わうことができそうだ。ヒット曲、マッシュ・アップ、日本語歌唱!見学できた三つ目のシーンは、「エレファント・ラブ・メドレー」と呼ばれる一幕のクライマックス・ナンバー。本作に登場する音楽はすべて既存のヒット曲で、しかもほとんどのナンバーにおいて、複数の楽曲がフレーズ単位でつなぎ合わされている。物語の流れや人物の心情を細やかに表現しながら、耳馴染みあるフレーズが次々に飛び出す快感を観客にもたらす効果もある、このマッシュ・アップという手法。オープニングでも楽屋のシーンでも用いられている手法だが、その効果がより鮮明に感じられたのがこのシーンだった。その理由は、ここで登場する楽曲がどれも──具体的な曲名のネタバレは避けるが──、日本でも誰もが知る“超特大”のヒット曲だから。英語詞の響きと共に馴染んでいるフレーズが日本語で、しかも抜群の歌唱力を誇るキャストによって歌われると、音も意味も新鮮かつダイレクトに届いてくる。その上その日本語詞を手掛けているのは既報の通り、日本を代表するミュージシャンやアーティストなのだから、美しさもまた折り紙付き。マッシュ・アップによる心躍る音楽は本作の、その日本語歌唱は日本版の、間違いなく最大の魅力のひとつだ。三つのシーンとも、すでに十分な見応えだったが、稽古場の面々はさらなるブラッシュアップに余念がない様子。シーンを当たり終える度に豪日の演出・振付・音楽スタッフからあちこちで、同時多発的にノート(ダメ出し)があり、またキャスト側からも活発に質問が飛んでいた。この熱量ならば、音楽とダンス、キャストの魅力はさらに磨き上げられていくことだろう。そこにセットと照明、さらにはバンドや衣裳の魅力も加わる日本版『MRTM』が観劇できる──いや、“マジック”にかかれる日が、心の底から待ち遠しい!文=町田麻子<公演情報>『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』2023年6月29日(木)~8月31日(木) 帝国劇場※プレビュー公演:6月24日(土)~28日(水)チケット情報はこちら:
2023年06月19日6月に東京と京都で上演される舞台『DOLL』の稽古場レポートが到着した。原作の玉梨ネコによる『リタイヤした人形師のMMO機巧叙事詩』は、小説から始まり、コミカライズ、さらにニコニコ漫画で100万回再生を果たすなど、メディアの枠を超え幅広い支持を集める人気作。今回初の舞台化にあたり、脚本を『ウルトラマン』『プリキュア』シリーズをはじめ特撮やアニメ、ノベライズで活躍する小林雄次が、演出を劇団『エムキチビート』主宰の元吉庸泰が手がけ、小説を原作にまた新たな世界を作り出している。冒頭繰り広げられたのは、人形師世界一を決めるワールドカップ。世界一に選ばれたのは、室町時代から続く人形師の16代目・佐倉いろは。天才人形師だった祖父の薫陶を受け、将来を嘱望される若き人形師だ。しかし、いろはの成功を快く思わない者もいた――。主人公の佐倉いろはを演じるのは林翔太。何者かによる放火による火事で人形師として致命的なケガを負ってしまう。VRマシンで現実世界を離れVR世界に誘われ飛び込んだ先で、人形制作に改めて向き合い、ドールを完成させ、数々の冒険とバトルを経て、人形師としての自身の在り方を見つめ直すことになっていく。林の舞台人としてのキャリアは長く、これまでミュージカルからストレートプレイまで数々の作品で主演を務めてきた。しかしここまで役者として直球の芝居を求められる演劇作品はそうはないだろう。現実世界ではケガに絶望する若き人形師に扮し、VR世界では仮の姿で改めて人形と対峙する、その演じ分けも必要だ。林が演じるいろはは、繊細で心優しく、世界での戸惑いを精妙に表現。それでいて物語と共に徐々に逞しさを宿し、キャラクターに奥行きを与えている。松本幸大が演じるのは、VR世界でいろはと対決する人形師・ズィーク。林と松本はジャニーズ事務所に入所した頃から切磋琢磨してきた間柄。今回久しぶりの共演だというが、作中はいろはとズィークの闘いが繰り広げられ、そこでの熱演、演技バトルも見所の一つ。ズィークはなぜかいろはに執着し執拗に追う、いろはの敵役。松本自身「今まで演じたことのない役への挑戦」と言う通り、笑顔のイメージが強い素顔とは一転、ふてぶてしくも大胆に憎まれ役を体現。狂気の面持ちで自身のドールをぞんざいに扱い、同時に内に抱える闇と苦悩を滲ませている。林翔太、松本幸大いろはがついに完成させたドール・ミコト役の西葉瑞希とズィークに使役するドール・9号役の搗宮姫奈が激しく戦闘するシーンにも注目!いろはとズィークとの戦いは彼女たちドールを使う戦いでもあり、彼女たちがアクションへの果敢な挑戦をしつつ、現実世界ではまた違った顔を披露している。VR世界に飛び込んだいろはを導くナビドール役の山下朱梨は、丁寧に場を展開しつつも時にズィークの暴走に対し、冷静に場を動かす役割を果たし、戦闘シーンを盛り上げている。搗宮姫奈西葉瑞希、山下朱梨いろはが親近感をもっているドール工房の主人・レトロ役の陰山泰は、彼らの戦闘を見守りながらも「人形つくりとは何か」を問いかけ諭し、やがては癒しをもたらす重要な役割を担っており、ベテランらしい安心感と放つ台詞が心に響く。可憐さと高飛車な少女・サラ役の岩田陽葵は、いろはやズィークを見守りながらも、自身もドールとともに戦闘に参戦。声優やアーティストとしても活躍する彼女の可憐さも目を惹くものがある。そして、VR世界で最強プレイヤーのディアベル、現実世界では刑事を演じる藤田玲が重要な場面で登場し、芝居に厚みを加えている。陰山泰藤田玲岩田陽葵本作の演出も実に面白い。VR世界の物語というと、映像やCGといった最新技術を駆使した演出がまず思い浮かぶだろうが、いい意味で裏切るものになっている。本作の演出は技術の類に一切頼らず、ダンスとアクション、パントマイムなど、身体表現を最大限に駆使し人形たちの世界を描き、場面転換はアンサンブルが手持ちで額縁を操り、表現の自由度も高いステージングとなっている。額縁はときに現実世界とVR世界を行き交う扉に、ときに心象風景を切り取る窓となり、舞台の景色をさまざまに変え、観る者のイマジネーションをかき立てていく。なぜズィークはいろはに執着し、憎むのか。戦いを経て、いろはとズィークはこの先何を選択していくのか。そしていろはの背負う真の現実とは?謎が全て解けたとき、彼らの想いが胸にグッと迫りくる。舞台は6月1日(木) 〜5日(月) まで渋谷区文化総合センター大和田 さくらホールにて、6月16日(金) 〜18日(日) まで京都劇場にて上演。人形作りにかける人形師たちと、それにかける役者たち、彼らの行方を見届けてみたい。取材・文:小野寺悦子撮影:立川賢一<公演情報>『DOLL』原作:玉梨ネコ『リタイヤした人形師のMMO機巧叙事詩』(TOブックス刊)脚本:小林雄次演出:元吉庸泰出演:林翔太松本幸大/西葉瑞希/搗宮姫奈山下朱梨/陰山泰/岩田陽葵、藤田玲(アンサンブルキャスト)大澤信児小熊樹郡司敦史/川村理沙渡邊彩乃明部桃子神目聖奈野田冴音【東京公演】6月1日(木)~6月5日(月)会場:渋谷区文化総合センター大和田さくらホール【京都公演】6月16日(金)~6月18日(日)会場:京都劇場■チケット料金全席指定:9,800円(税込)チケットはこちら:公式サイト:公式Twitter:玉梨ネコ・TOブックス(C)『DOLL』製作委員会
2023年05月26日女優で声優の平野綾が22日、都内で行われたミュージカル『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』の公開稽古および取材会に出席。自ら追加稽古を提案したことを明かした。同作は19世紀半ば、アメリカ北部で女性の権利を求めて労働運動を率いた実在の女性サラ・バグリーと、ハリエット・ファーリーの活動を基にしたミュージカル。全米ベストセラーとなった作家ルーシー・ラーコムの回想記『A New England Girlhood (=ニューイングランドでの少女時代)』の時代に、劣悪な工場の環境の中で働かされていたサラとハリエット、そして仲間の女性達が自身の尊厳と労働環境の向上を求め、理想をぶつけ合いながらもペンと団結力を武器に闘い、世の中を動かしていく姿を描く。アメリカ・ブロードウェイで活躍する新進気鋭の作曲家コンビクレイトン・アイロンズ&ショーン・マホニーによって作られたパワフルでソウルフルなロックサウンド満載の原案をもとに、日本で活躍する板垣恭一氏をはじめとする豪華クリエイティブチームが集結し、日米クリエイターの共作というかたちで2019年に上演された本作。女性たちの闘いと連帯の物語が大きな話題となり、2019年読売演劇大賞優秀作品賞を受賞し、今回約4年の時を経て再上演が決定した。取材会には、平野のほか主演の柚希礼音をはじめ、ソニン、実咲凜音、清水くるみ、演出家の板垣氏が参加。登壇者の中で唯一再演からの参加となった平野は、「ものすごいプレッシャーありました……」と出演が決定した当時を振り返り、「もともと初演のときの素晴らしい土台があったからこその再演なので、そこをすごく大事にリスペクトしつつ、新作のような感覚で一緒に作らさせてもらってます」と意気込んだ。また、稽古中に印象的だったエピソードを聞かれると、平野は「M3:『機械のように』という楽曲はこの作品でまず最初にインパクトを残さなきゃいけない大事な曲」と前置きをしつつ、「この曲は振り付けもフォーメーションもすごく難しいので、これはチームワークが大事だなと思って、『1日1M3やりませんか?』と提案させていただいて……」と明かす。この話を聞いた清水から「あれ? ニンニン先輩(ソニン)は?」と水を向けられると、ソニンは「私出てません! 出てないんですけど、ハリエットも同じ工場で働いているということで、今、M3を絶賛覚え中です……今日までに覚えられたらよかったんですけど、千穐楽までには!」と練習中であることを告白。すると、清水から「初日までにがんばりましょう! 今日から! 今日からがんばりましょう!」とスパルタ発言で追い打ちをかけられ、ソニンは「がんばります……」とか細い声で返事をし、笑いを誘っていた。同舞台は、6月5日~6月13日に東京国際フォーラム ホールC、6月24日~6月25日に福岡・キャナルシティ劇場、6月29日~7月2日に大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホールにて上演される。
2023年05月22日トニー賞10冠のミュージカルの日本版公演となる「バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊」の稽古場の模様が報道陣に公開され、濱田めぐみが歌う「オマーシャリフ」をはじめ、合計3曲が披露された。カンヌをはじめ、各国の映画祭で話題を呼んだ映画『迷子の警察音楽隊』を原作にミュージカル化し、2018年のトニー賞では作品賞を含む10部門を受賞。イスラエルへの演奏旅行に招かれるも、別の街に到着してしまったエジプトの警察音楽隊が、街の人々と交流するさまを描いており、森新太郎が演出を担当。風間杜夫、新納慎也、濱田めぐみらが出演する。この日、最初に公開されたのは、第1場から第2場にかけてのシーン。空港からバスで目的地に向かうも、一字違いのベト・ハティクヴァという街に到着する楽団。街の住人たちが歌うのが「待ってる/Waiting」である。舞台中央の円形の舞台装置を回転させて、辺境の街で暮らす人々の姿を映し出し、変わらぬ日常を過ごしつつ、新しい何かが起こるのを待ち続けている人々の心情が歌い上げられる。そこへ、変化をもたらす存在として到着するのが楽隊長・トゥフィーク(風間)率いるアレクサンドリア警察音楽隊である。目的地の“アラブ文化センター”はどこかと尋ねるトゥフィークに対し、食堂の女主人ディナ(濱田)は「ここには文化なんてない」と答え、従業員のパピ(永田崇人)、常連客のイツィク(矢崎広)と共に「何もない町/Welcome to Nowhere」を歌う。歴史的な因縁を抱える異国の地での遭難に困惑する楽団員たち。そんな彼らにディナらは手を差し伸べるが…。続いて、披露されたのは、第7場の「オマーシャリフ」。街で一晩を過ごすことになり、トゥフィークはディナに連れられレストランを訪れる。彼女が好きだったエジプトの映画や音楽を介し、打ち解けていく2人。同曲は映画『アラビアのロレンス』『ドクトル・ジバゴ』などの名作で知られるエジプト出身のハリウッド俳優の名を冠し、ディナの西の隣国(エジプト)の文化への憧憬を歌った楽曲。濱田がどこか切なく異国情緒を感じさせるようなしっとりとした歌声を響かせる。その後、警察音楽隊による「Haj-Butrus」の生演奏が始まるが、バイオリンやチェロといった馴染みの楽器に加え、ウードやダルブッカといったアラブ音楽で使われる楽器による生演奏も本公演の大きな見どころである。また、この日は披露されなかったが、風間が濱田と歌うシーンもあるとのこと。“戦乱”がいまなお現実の世界を覆う中で、エジプトの楽団とイスラエルの辺境の街の人々の一夜の物語は我々にどんな希望を見せてくれるのか?完成を楽しみに待ちたい。「バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊」は日生劇場にて2月7日より開幕。取材・文:黒豆 直樹
2023年01月19日2月から3月に東京・大阪・愛知で上演されるミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』の稽古場レポートが到着した。2007年に公開された映画『迷子の警察音楽隊』(カンヌ国際映画祭ある視点部門・国際批評家連盟賞、ジュネス賞、一目惚れ賞/東京国際映画祭・最優秀作品賞)を原作に、ミュージカル『ペテン師と詐欺師』の作曲家デヴィッド・ヤズベックが作曲と作詞を手がけた本作。歴史的に対峙してきたエジプトとイスラエル二国の国民同士が国境を越えて心を通わせるという、人間の本来あるべき姿を描いたメッセージが時勢に即して人々の心に刺さり、2018年トニー賞の作品賞を含む10部門を独占した。稽古場で最初に披露されたナンバーは、ベイト・ハティクヴァの住人たちによる「♪待ってる/Waiting」。退屈な町で暮らす彼らが、それでも"何か"を待っている様子が歌われる。「待ってる/Waiting」左から)イツィク夫妻:エリアンナ、矢崎広「待ってる/Waiting」左から)電話を待ち続ける電話男:こがけん、サミー夫婦:友部柚里、渡辺大輔「待ってる/Waiting」食堂の女主人ディナ:濱田めぐみそこに警察音楽隊一行が到着し、町の食堂に立ち寄り隊長を務めるトゥフィーク(風間杜夫)が演奏会場への道を尋ねる。しかし食堂の女主人ディナ(濱田めぐみ)が、「この町にそんな場所はない」と返す。エジプトとイスラエルではそれぞれアラビア語とヘブライ語を使用するため、警察音楽隊と住人たちのやり取りは共通言語である英語で行われる。本公演ではカタコトの日本語を使用して表現されており、たどたどしくも必死なやり取りに、思わず笑いがこみ上げる。左から)風間杜夫、矢崎広、永田崇人、濱田めぐみ続いてディナ、食堂の常連客・イツィク(矢崎広)、食堂の店員・パピ(永田崇人)の3人でのナンバー「♪何にもない町 / Welcome to Nowhere」が披露された。それぞれのコミカルな表現も秀逸だ。行先を間違えたことを知ったトゥフィークは激高しカーレド(新納慎也)を責め立てるが、行き場もない彼らはディナの計らいにより、一晩泊めてもらうことになる。左から)トランペット奏者カーレド:新納慎也、風間杜夫セット転換を挟んで、本作の見せ場の一つであるカフェのシーン。幼き日々を懐かしむ、ディナのソロナンバー「♪オマー・シャリフ /Omar Sharif」は、濱田の甘く柔らかみも帯びた歌声と、曲調も相まって稽古場全体が中東の香りに包まれるようであった。この曲は既に濱田の歌唱映像も先行して公開されているが、シーンの中で歌われることで、歌が表す情感が倍増されている。「オマー・シャリフ /Omar Sharif」「オマー・シャリフ /Omar Sharif」「オマー・シャリフ /Omar Sharif」カフェに妻子を連れた、サミー(渡辺大輔)がやって来る。彼とディナはただならぬ関係にあり、先ほどまでの空気が一変し、緊張感漂う中、ヘブライ語での言い争いが行われる。言葉は分からないが、俳優陣の表現によって内容が伝わってくる。左から)渡辺大輔、濱田めぐみ、風間杜夫場面転換の際に警察音楽隊の演奏が挟まれる。太田惠資(バイオリン)、梅津和時(マルチリード)、星衛(チェロ)、常味裕司(ウード)、立岩潤三(ダルブッカ)による演奏は、中東の雰囲気がありながらもどこか聞き馴染みが良く、何よりオンステージによって演奏されることでの迫力は、他作品では味わえない魅力の一つとなっている。中央に設置された回転盆と組み合わせた演奏の演出も非常に効果的であった。おかしみと上質な雰囲気が漂う大人のミュージカル。どこか愛さずにはいられない人々の姿、そのやり取りには笑いどころが随所にあり、森新太郎の細やかな演出が光っていて、本番が待ち遠しくなる披露となった。撮影:渡部孝弘<公演情報>ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』メインビジュアル【東京公演】期間:2023年2月7日(火)~23日(木・祝)会場:日生劇場【大阪公演】期間:2023年3月6日(月)~8日(水)会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティお問い合わせ:梅田芸術劇場TEL:06-6377-3888(10:00~18:00)【愛知公演】期間:2023年3月11日(土)・12日(日)会場:刈谷市総合文化センター大ホールお問い合わせ:メ~テレ事業TEL:052-331-9966(平日10:00~18:00)【出演】風間杜夫:トゥフィーク(指揮者)濱田めぐみ:ディナ新納慎也:カーレド(トランペット)矢崎広:イツィク渡辺大輔:サミー永田崇人:パピエリアンナ:イリス青柳塁斗:ツェルゲル中平良夫:シモン(クラリネット)こがけん:電話男岸祐二:アヴラム辰巳智秋:警備員山崎 薫:ジュリア高田実那:アナ友部柚里:サミーの妻太田惠資:カマール(バイオリン)梅津和時:警察音楽隊(マルチリード)星衛:警察音楽隊(チェロ)常味裕司:警察音楽隊(ウード)立岩潤三:警察音楽隊(ダルブッカ)【スタッフ】原作:エラン・コリリンによる映画脚本音楽・作詞:デヴィッド・ヤズベック台本:イタマール・モーゼス翻訳:常田景子訳詞:高橋亜子演出:森新太郎チケット情報はこちら:<番組情報>NHK『あさイチ』1月27日(金) 8:15~プレミアムトークゲスト:新納慎也番組HP: FMサンデースペシャル『バンズ・ヴィジットRADIO』第1回:1月15日(日) 20:00出演:風間杜夫、濱田めぐみ、新納慎也第2回:1月18日(水)12:00出演:濱田めぐみ、矢崎広、永田崇人第3回:1月25日(水) 12:00出演:新納慎也、こがけん第4回:2月1日(水) 12:00出演:こがけん、警察音楽隊の皆さん第5回:2月8日(水) 12:00出演:新納慎也、翻訳:常田景子TOKYO FM放送版をradikoで聞き逃し配信中上記には入りきらなかったトークがAuDeeにて配信中関連リンク公式HP:公式Twitter:
2023年01月18日開幕を11月19日(土) に控えた、屋良朝幸主演オリジナルミュージカル『りんご』の公開稽古がオンラインで開催された。披露されたのは作品の冒頭部分、3つのナンバーを含む15分程度。主演・木村秋則役の屋良朝幸とその妻・木村ミチコ役の梅田彩佳によるしっとりと聴かせるナンバーや、秋則の兄・ハルヒコ役のMicro(Def Tech)による軽快なラップ、ミュージカルらしいラインダンスなど、多彩な楽曲やダンスに加えてテンポの良いコミカルな掛け合いも混ざり、自然と笑顔が込みあがるシーンが公開された。公開稽古の後には、屋良、梅田、Microによる取材会も行われ、オリジナルミュージカル『りんご』の魅力について、屋良は「木村秋則さんの人生を描く物語ですが、これからの地球にとって大切なメッセージを“サラッと”描いています。なぜ“サラッと”かというと、エンターテインメント要素がとても強い中でも“サラッと”いいこと言ってるんです。これからの人類のために知らなければいけないことを押し付けるわけではなく、エンターテインメントだからこそ楽しく魅せることができて、地球のために何ができるか・次の世代にどのように伝えていけばいいかということが込められているところが、オリジナルミュージカル『りんご』の魅力です。」と語った。屋良朝幸梅田は、「おもちゃ箱がどんどん開いていくみたいに物語が次々へ進んでいって、最終的には感動しているというミュージカルになっています。」とワクワク感を表現し、Microは「様々な音楽に歌を乗せていくことができるミュージカルだからこそ伝えられることがあるので、それに乗せて想いを伝えていくことが今回の使命だと感じています。一回じゃ見きれないと思う! 内容も2度、3度と見て深まっていきます。何度もぜひ見てください!」と熱く語った。梅田彩佳見どころについて問われると屋良は「音楽の幅が幅広い。ラップやカントリー調など、こんな幅広い音楽のジャンルを使うミュージカルは見たことないし、ミュージカルというカテゴリーをぶち壊していると思う。」と新たな挑戦を披露することを心待ちにしている様子。そんな屋良座長率いるカンパニーの雰囲気について梅田は「こんなに笑いが絶えない稽古場は初めてです。屋良さんが舞台裏の様子を撮影して自らナレーションを入れたり編集してくれていて、HPなどに上がっているので、この仲のいい雰囲気が伝わればいいなと思います。」と笑顔で話した。Microも「自分は音楽の畑でやってきたので舞台の現場は慣れ親しんでいませんでしたが、垣根を取っ払って、みんなによくしていただいています。感謝しかないです。」と話し、インタビュー中も終始リラックスした雰囲気で、笑いが起こる場面があるなど、和気藹々としていた。Micro(Def Tech)最後に、屋良は「次の世代に残していけるものはなんだろう? と考えさせられる作品になっています。それをエンタメとして昇華させることで、お客様が観終わった後に身近でできることを考える一つのきっかけになれば。」と取材会を締めた。オリジナルミュージカル『りんご』は、誰も知らない答えを探して“りんご”に人生の全てを賭けた男と、その家族の実話をもとにした物語。出演者には、屋良、梅田、Microのほか、細貝圭、林アキラ、上川一哉、加藤良輔、川原一馬、斎藤准一郎、白木原しのぶ、大倉杏菜、岸祐二、吉沢梨絵、そして、松澤一之ら実力派が名を連ねる。11月19日(土)から12月7日(水) まで東京・自由劇場にて上演される。<公演情報>オリジナルミュージカル『りんご』2022年11月19日(土)~12月7日(水) 全24回公演会場:東京・自由劇場監修:木村秋則演出:荻田浩一脚本:青木豪音楽:奥村健介【出演】屋良朝幸梅田彩佳 / Micro(Def Tech)細貝 圭 / 林アキラ / 上川一哉加藤良輔 / 川原一馬 / 斎藤准一郎 / 白木原しのぶ / 大倉杏菜岸祐二 / 吉沢梨絵 / 松澤一之【チケット料金】全席指定:9,500円 ※未就学児入場不可チケットはこちら:問合せ:サンライズプロモーション東京0570-00-3337(平日12:00~15:00)公演HP:
2022年11月11日8月30日(火) の開幕に向けて稽古が進んでいる、ミュージカル『ピピン』稽古場レポートをお届けする。本番仕様の仮セットが組まれた稽古場に入ると、そこはまさにサーカス小屋のよう。至る所でトレーニングが行われている。息を吸うように繰り広げられるアクロバット。サーカス・レプリケーターのKai Johnson-Peadyが中心となって、技がブラッシュアップされていく。最初に行われたのは、クリスタル・ケイが演じるリーディングプレイヤーのソロナンバー「SIMPLE JOYS」。サーカスチームによるバランスボールとフラフープを使ったアクロバットを、クリスタルの歌に併せて確認していく。クリスタルは、「体が覚えていて結構スムーズに進んでいる」と余裕がありそうな様子。次は、戦闘場面をナイフ投げと殺陣などで表現する「CAPERS」。ピピンを演じる森崎ウィンら全員で鼓舞しあい集中してスタート。ナイフ投げの間に入っていくタイミング、位置、順番を確認する。この場面の大技は人間縄跳び。プレイヤーのひとりが縄のようにぐるんぐるんと回されていて、それを別のプレイヤーが飛び越える。森崎も飛ぶ側のひとりだ。技が見事成功すると、全員でハイタッチ!見ているだけで心拍数が上がる。森崎が自分の稽古以外に、腕立て、逆立ち、懸垂など、常に体を動かしている姿も印象的。「待っている時間がもったいなくて、何かしていないと落ち着かない」という。続いて、音楽スーパーバイザーのRyan Cantwellによる歌稽古。「Magic to Do」など全員コーラスのディレクションを行った。国王になったピピンを迎える「Morning Glow」について、Ryanは「みんなが一体になる、一番美しく歌えるナンバー。天国から降りてくる声のような」と説明。森崎の柔らかくしなやかな歌声と、コーラスの美しさと力強さがひとつになる。次の稽古は、演出補Mahlon Kruseを中心にステージングが進められた。リーディングプレイヤーに見せられた新聞記事をきっかけに、父チャールズに反旗を翻す場面。ピピンは農民たちを鼓舞して、革命へと促していく。「農民はひとり100人分演じると思って」とより熱量を求められる。続く場面は、ファストラーダがチャールズとピピンが対立するように企む場面。大きなBOXを使ったイリュージョンや、ナイフ投げも見どころで、よりスムーズに展開してメリハリがつくように、ブラッシュアップしていく。最後の稽古は、ピピンとキャサリンの場面のステージング。森崎とキャサリンを演じる愛加あゆは新キャストなので、初めての場面を一から作っていた。ふたりから生まれてくる芝居がとてもナチュラルで引き込まれる。初演の芝居から変化する箇所もあり、どんなピピンとキャサリンになるのか楽しみになった。稽古を終えた森崎は「楽しい!一番体を使う舞台かもしれない!」と高揚していた。「今はパートごとにバラバラにやっているので、はやくみんなで一緒にやりたい。クリスタルさんとはいい関係性も出来てきているし、これからいい意味で、いろいろと仕掛けていきたい」と意気込んだ。一方、クリスタルは、「ウィンピピンは可愛くて、ナチュラルにピュアさが出ていて、遊び心があるから本当にぴったり」と太鼓判を押す。「ピピンが変わることは、私にとっても大きく、リーディングプレイヤーの見え方も変わるかも」と期待が高まる分析だ。二週間後の開幕が待ち遠しい。取材・文:岩村美佳<公演情報>ブロードウェイミュージカル『ピピン』ブロードウェイミュージカル『ピピン』メインビジュアル【東京公演】8月30日(火)~9月19日(月・祝) 東急シアターオーブ(全25公演)【大阪公演】9月23日(金・祝)~27日(火) オリックス劇場(全6公演)脚本:ロジャー・O・ハーソン作詞・作曲:スティーヴン・シュワルツ演出:ダイアン・パウルス振付:チェット・ウォーカー(in the style of Bob Fosse)サーカス・クリエーション:ジプシー・シュナイダー(Les 7 doigts de la main)【出演】ピピン:森崎ウィンリーディングプレイヤー:Crystal Kay(クリスタル ケイ)チャールズ:今井清隆ファストラーダ:霧矢大夢キャサリン:愛加あゆルイス:岡田亮輔バーサ(Wキャスト):中尾ミエ / 前田美波里テオ(Wキャスト):高畑遼大 / 生出真太郎加賀谷真聡、神谷直樹、坂元宏旬、茶谷健太、常住富大、石井亜早実、永石千尋、伯鞘麗名、妃白ゆあ、長谷川愛実、増井紬【スペシャルゲスト】ローマン・ハイルディン、ジョエル・ハーツフェルド、オライオン・グリフィス、モハメド・ブエスタエイミー・ナイチンゲールチケット購入リンク:お問い合わせ:キョードー東京TEL:0570-550-799(平日11:00-18:00 / 土日祝10:00-18:00)公式HP:
2022年08月16日柿澤勇人とウエンツ瑛士が“双子”に扮するミュージカル『ブラッド・ブラザーズ』。初日を約1ヵ月後に控える稽古場では、マスク姿のキャスト・スタッフによる気迫のこもった一幕の立ち稽古が行われた。1983年に英ロンドン・ウエストエンドで初演され、ローレンス・オリヴィエ賞を獲得した本作。日本でも1991年以降に繰り返し上演されている。二卵性双生児として生まれたミッキー(柿澤)は実の母親と貧しさの中で暮らし、エドワード(ウエンツ)は裕福な家庭に引き取られた。正反対の環境で育った二人は互いに双子であることを知らないまま幼少期に出会い、厚い友情を育む。成長した両者を待ち受ける運命とは──。カンパニーを率いるのは、ミュージカル初演出の吉田鋼太郎。1991年の日本初演を含め、3度サミー(ミッキーの兄)役として参加していた彼は、当時をヒントにしながらも決して過去にとらわれることなく、この数奇な人間ドラマをより魅力的に立ち上げようとキャストに熱く語りかける。最たる例が、ミッキーとエドワードが出会うシーンに表れていた。野生味あふれる“悪ガキ”に成長した柿澤ミッキーに対して、育ちのよいウエンツエドワードはどこまでも素直で行儀正しい。こう受け止めている二人に、吉田は「エディを一瞥したミッキーは“俺の方が強えぞ”って感じで前に出るの」「エディも意に介さずミッキーに近づいて」と指示。「人見知りしないのがジョンストン家の血だよ」と二人のルーツを改めて認識させる。すると次のターンで柿澤とウエンツは人物造形を磨き上げ、緩急あふれた魅力あるシーンに仕上がった。こうした説得力ある芝居の積み重ねが、引っ越してしまうエドワードを思い浮かべ、喪失感まじりにミッキーが歌うM18〈長い長い日曜日〉に活きる。互いに欠けているものを挙げ、「ミッキーになりたい」「エディになれたら」と憧れる両者の想いを知ると、彼らを待ち受ける二幕ラストが切ない。母親同士の“芝居合戦”も注目だ。夫に捨てられ生活に困窮し、楽な暮らしをしたい一心のミセス・ジョンストン(堀内敬子)と、子宝に恵まれないミセス・ライオンズ(一路真輝)は、M6〈我が子〉でそれぞれの思惑を見せる。堀内は「こんなお屋敷で育てばご飯の心配はいらない」と子どもを手放すことで生まれる可能性をしたたかに歌い、一路は「おもちゃは独り占め」と環境のよさをアピール。煩悩の根底に母性愛を覗かせるのも、結局はエゴなのか。議論したくなった。公演は3月21日(月・祝)~4月3日(日)に、東京・東京国際フォーラム ホールCにて。その後、愛知・福岡・大阪と巡演する。チケット販売中。取材・文:岡山朋代
2022年03月02日実話をベースにしたイギリス発のミュージカル『ジェイミー』が、ついに日本上陸。開幕まで1か月となったある日、『ジェイミー』の稽古場にカメラが潜入し、一部のファンとマスコミに向けた「のぞき見会」が行われた。中央)ジェイミー役:森崎ウィン撮影:田中亜紀まず披露されたのはM1の「誰も知らない」。高校の教室を舞台に、ジェイミーと同級生がエネルギッシュなダンスと歌で魅せる冒頭のシーンだ。タイトルロールのジェイミーをWキャストで演じるのは、森崎ウィン。ドラァグクイーンという夢に向かう、ジェイミーの前向きな想いを熱く歌い上げる。日本版の演出と振付を手がけるのは、アメリカ人のジェフリー・ペイジ。ナンバーの終わりには、“ノート”と言われる演出家からのアドバイスの時間も取られ、振りの微調整などが行われた。左)演出・振付のジェフリー・ペイジ撮影:田中亜紀M7の「乗り越えるもの」は、夢に一歩踏み出すも不安に襲われたジェイミーを、先輩のドラァグクイーンたちが勇気づけるシーン。もうひとりのジェイミー役である高橋颯とともに現れたのは、伝説のドラァグクイーン、ロコ・シャネル役の石川禅だ。さらに曲中には今井清隆、泉見洋平、吉野圭吾というベテラン陣も圧巻のドラァグクイーン姿で加わり、稽古場にひと際大きな拍手が巻き起こった。左から吉野圭吾今井清隆泉見洋平撮影:田中亜紀続くM9の「噂のジェイミー」は、再び高校の教室が舞台。この日の生徒たちの話題は、ドラァグクイーンデビューしたジェイミーのことで持ち切り。そのセリフのような歌詞の応酬が非常に楽しいシーンとなっている。M10「限定モノ」にはジェイミーと母のマーガレット、さらにふたりを支える友人のレイが登場。左から森崎ウィン保坂知寿撮影:田中亜紀保坂知寿演じるレイとジェイミーのノリノリのデュエットで、ドラァグクイーンとしてのジェイミーの自信が全編に漲る。最後に披露されたのは、M15の「我が子、あなたの子」。安蘭けい演じるマーガレットとジェイミーによる終盤のナンバーで、ふたりの絆の深さが表現された、切なく、印象的な1曲だ。左から安蘭けい髙橋颯撮影:田中亜紀最後にはキャスト陣からコメントが寄せられ、「伝えたいメッセージを伝えにいきますので、気軽に、そして余裕のある方は覚悟を持って観に来てください」と髙橋。髙橋颯撮影:田中亜紀また森崎からは、「今エンターテインメントが出来ていることが本当に幸せです。キャスト、スタッフ一丸となって『ジェイミー』という作品を届けにいきますので、ぜひこの世界に飛び込んでいただき、この一瞬だけでも日常を忘れて、エンターテインメントを感じてもらえたら嬉しいです」と語った。森崎ウィン撮影:田中亜紀ミュージカル『ジェイミー』は20201年8月8日(日)から8月29日(日)まで東京建物ブリリアホールにて上演。その後大阪、愛知をまわる。左から髙橋颯森崎ウィン撮影:田中亜紀個性溢れる生徒たち撮影:田中亜紀ミュージカル『ジェイミー』全キャスト撮影:田中亜紀取材・文:野上瑠美子ミュージカル『ジェイミー』チケット情報
2021年07月16日「稽古がめちゃくちゃ面白くて、お金を払って観たいくらいなんです」。開口一番、キラキラした瞳で語ってくれた北乃きいさん。現在、舞台『真夏の夜の夢』の絶賛稽古中。シェイクスピアの名作を野田秀樹さんが翻案した戯曲を、ルーマニアを代表する演出家であるシルヴィウ・プルカレーテさんが手がける。日欧演劇界のトップが初タッグ。「そこに立ち会えてすごく刺激的です」日欧を代表する演劇界の巨匠同士の初タッグだが、楽しくて仕方がない様子。「プルさん(プルカレーテさんの愛称)が来日できないため、稽古場はZoomで繋いでおこなわれているんですね。毎日課題を渡されて、それぞれが家に持ち帰って考えて、翌日お昼にキャスト同士で合わせたものを最終的に見ていただくのですが、みなさんのお芝居がすごいんです。言われたことをやるのに精一杯の私と違い、先輩方は同じ場面でも何通りもやってみせるし、そこに自分なりのアイデアも付け足される。勉強になることばかりで、自分のシーン以外の場面も台本にいろいろ書き込んじゃっています」嬉しそうに開いた台本には書き込みと付箋がびっしり。「書きすぎて、何が大事かわからなくなっちゃうんですけれど…」と苦笑い。「学生時代、仕事で忙しかったのもあって勉強の仕方があんまりうまくないんです。でも好きなものに関して勉強するのは好きなんですよね。台本はオフの日も持ち歩いていて、普段何気なくスマホを見る感覚で台本も気づいたら開いているくらい」今作は、原作の複雑に絡み合った恋模様に、人間が深層に隠し持つ嫉妬や憎悪を重ね合わせ、野田さんらしい遊びを交えた喜劇。しかし、プルカレーテさんはコメディではなく、「人間の抱えるセクシュアルでダークな部分を描きたいんだそう」。「プルさんと我々で戯曲についてディスカッションすることも多いんです。野田さんがプルさんを全面的に信頼しているからできるんでしょうけれど、いまの時代に合わせて言い回しをどう変えるかとか、書かれた当時のギャグや歌をもじったセリフをどこまでカットするかとか。普段、そこまで役者が携わる現場ってないので、そこに立ち会えてすごく刺激的です。しかもプルさんが、私にはまったく想像もつかなかったような解釈の仕方で戯曲を読まれていたりする。いろんな解釈ができる野田さんの脚本もすごいと思いますし、別の演出家がやるからこその違う魅力もあるんじゃないかなと思います」舞台『真夏の夜の夢』老舗割烹料理屋の娘・ときたまご(北乃)は板前のデミ(加治)という許婚がいるが、ライ(矢崎)との恋を諦められず駆け落ちを決行。二人を追いかけるデミと彼を愛するそぼろ(鈴木)に妖精たちが絡み…。10月15日(木)~11月1日(日)池袋・東京芸術劇場 プレイハウス原作/ウィリアム・シェイクスピア(小田島雄志訳「夏の夜の夢」より)潤色/野田秀樹演出/シルヴィウ・プルカレーテ出演/鈴木杏、北乃きい、加治将樹、矢崎広ほか全席指定S席8500円A席6500 円サイドシート5000 円ほか(すべて税込み)東京芸術劇場ボックスオフィス TEL:0570・010・296新潟、松本、兵庫、札幌、宮城公演あり。きたの・きい1991年3月15日生まれ。神奈川県出身。14歳より女優として活動する傍ら、2014~‘16年には『ZIP!』でMCなども務めた。主演映画『戦国ガールと剣道ボーイ』の公開も控える。ワンピース¥169,000(アクリスプント/アクリスジャパン TEL:0120・801・922)イヤリングはスタイリスト私物※『anan』2020年10月21日号より。写真・小笠原真紀スタイリスト・コンテンポラリーコーポレーション チーム西インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2020年10月15日「男ばかりの稽古場はむさ苦しいですよ。でも、それがいいのかな。女子がいると、カッコいいところを見せなきゃとか変に意識しちゃうでしょ、男って(笑)」そう語るのは、舞台『泣くロミオと怒るジュリエット』(2月8日〜3月4日、東京・渋谷Bunkamuraシアターコクーンにて上演)に出演する橋本淳(33)。シェークスピアの『ロミオとジュリエット』を題材にしているが、出演者は全員男。戦後の港町を舞台に、対立する2つの愚連隊の抗争と若者たちの純愛を描く。橋本はロミオの親友、ベンヴォーリオを演じる。「柄本時生が演じるジュリエットは、正直、化け物です(笑)。でも、不思議とかわいく見える瞬間がある。時生の芝居を見ていると女子より女子というか、仕草は可憐だし、ロミオとのやりとりもけなげで応援したくなる(笑)。お客さんは最初ジュリエットが出てきただけで笑っちゃうと思いますが、だんだん見慣れてきて、最後は間違いなく感動します!」作・演出は、自作の戯曲を映画化した『焼肉ドラゴン』で高い評価を得た鄭義信。関西圏の作品を得意とする鄭氏が挑む、関西弁のロミジュリも見どころの一つだ。「僕は東京出身で、どっぷり関西弁の芝居もこれが初めて。大変ですが面白さも感じています。まず、関西弁というだけで人との距離が近くなる。標準語では言いづらいことも、関西弁だと包み隠さずスパッと言えちゃう感じとかいいなあって。人間くさくて好きです」「女性自身」2020年2月18日号 掲載
2020年02月09日2017年に日本初演され人気を博したミュージカル『フランケンシュタイン』が2020年1月に開幕する。その稽古場に抽選で当選した参加者20名が“潜入”するという企画が開かれた。【チケット情報はこちら】ラフな稽古着のキャスト達が揃う稽古場。まず鈴木壮麻と相島一之が登場し、参加者に「こんにちは!」と声をかけると、参加者より先にキャスト陣が「こんにちはー!」と大盛り上がりで応答。初演からの続投キャストが多いカンパニーならではの和やかさだ。早速、演出の板垣恭一が稽古の進め方などを解説し、「初演をご覧になった方は見覚えがあるかと思います」とセットを紹介すると、参加者は興味津々な様子に。「後でこのセットに皆さんをご案内します」と発表されると、「ひゃー!」と声が上がった。さらに小道具の紙幣を実際に触るなど、『フランケンシュタイン』の世界を体感する機会が多く用意されていた。そして遂に実際の稽古へ。披露されたのは、2幕のとある場面。板垣が「ダンスと歌と殺陣が同時進行する、かなり忙しいシーンです」と紹介した通り、動きが入り組んでいるため、まずは遅めのテンポで動きや殺陣を確認し、その後に本番同様の速度で通すという流れ。遅いテンポでも迫力を感じたが、本番の速度だと何倍にも膨らむのが面白い。加藤和樹と小西遼生がWキャストで演じる怪物も登場するシーンであったため2パターンで披露されたが、Wキャストの芝居を立て続けに観ると、それぞれの個性の違いがクッキリと感じられて楽しい。さらにこのシーンでは、今作からの参加そして初ミュージカル出演となる露崎春女による『欲と血の世界』の歌唱も。直前に露崎は「ひえー」と緊張を見せながらも、強く美しい歌声を響かせた。稽古後は、中川晃教、柿澤勇人、加藤和樹、小西遼生、音月桂、鈴木壮麻、相島一之、露崎春女から挨拶も。今回の稽古では出演がなかった主演の柿澤は「皆さんの前でやりたかったな」とつぶやきつつ「個人的には1年ぶりのミュージカルなので体力面と精神面、そして歌も必死で練習して、正月にピッタリな(笑)作品をお届けしたいと思います!」とコメント。柿澤と共に主演を務める中川は参加者に「いかがでしたか?」と話しかけ「今はミュージカルが身近になっていっている最中。稽古場に足を運んでくださった皆さんがいろんなことを感じて、ミュージカルがさらに盛り上がっていく要素になったら本当に幸せです」と笑顔で語った。最後に参加者はセット内部へ!キャスト達に話しかけられながら、セットに立つ役者の気分を味わった。ミュージカル『フランケンシュタイン』は2020年1月8日(水)から30日(木)まで東京・日生劇場で上演後、愛知、大阪を巡演。取材・文:中川實穂
2019年12月25日11月1日(金)開幕のハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」“飛翔”の公開稽古が行われた。2015年の初演以来大人気の本シリーズだが、シリーズ8作目となる今回は主役校・烏野高校メンバーらメインキャストを一新。期待が高まるなか公開された稽古では、新たな演劇「ハイキュー!!」の魅力が十分に感じられ、さらに楽しみが増した。【チケット情報はこちら】まず登場人物達のスピーディーなダンスによるオープニングシーン。演出・脚本のウォーリー木下がマイクを片手に変更点を指示し、それぞれ真剣な表情で耳を傾ける。「やってみよう」と始まると、中央奥の台上から烏野高校メンバーが登場。音楽に乗せ、短い間にそれぞれの関係性が表される。ウォーリーに「もっとキャラクターを出したら」と言われ、それぞれの立ち姿、声の大きさなどでより役の特徴を表現していく。そして、烏野高校の両壁として立ちはだかるように、左右の大きな壁から他校の生徒らが登場。烏野が挑む大きな敵との対峙を感じるオープニングシーンだ。過去作とは違うダンス構成や舞台美術で、鋭さや力強さが増した。次に披露されたのは、伊達工業高校との練習試合シーン。構え、跳び、走り……目まぐるしい動きが重なり、全体がひとつの生き物のようにダイナミック。その中でそれぞれの思いや対立が見え、ぐいぐい引き込まれていく。囲み取材には、主人公・日向翔陽役の醍醐虎汰朗、影山飛雄役の赤名竜之輔、演出・脚本のウォーリーが出席。醍醐演じる日向は、血気盛んで明るく、喜怒哀楽をまっすぐ表現する様子に自然と目線が向く。まさに“小さな巨人”だ。本人は「少し焦っています」と不安はあるようだが「しんどいという理由で『できない』とはまだ言っていません」と前向きだ。一方、赤名は表情をあまり変えずに影山のクールさを出しつつ、視線や動きの緩急で内心の情熱が燃えたぎるのがよく伝わる。激しいダンスに「こんなにキツいんだ」と言いつつ「新しい烏野で、(ふたりが)影山と日向でよかったね、11人が(この)11人でよかったね、と言えるように」と意気込む。ウォーリーは「(烏野が)大きな舞台に立つことになって、悩んで、飛び立つ。その姿と新キャストがやろうとしていることはシンクロする」とコメント。俳優達と「ハイキュー!!」の物語が交差する、“新生烏野”の1度しかない初演を目撃したくなる。取材・文・撮影:河野桃子
2019年10月25日4月20日(土)に開幕する舞台『銀河鉄道999さよならメーテル~僕の永遠』の公開稽古が4月7日、都内稽古場にて行われ、中川晃教らキャスト陣が熱の入った稽古の様子を披露するとともに、意気込みを語った。『銀河鉄道999』チケット情報原作者である松本零士自身が総監修を務め、名作と名高い劇場版アニメをもとにオリジナルストーリー交え舞台版として展開する今作。主人公・星野鉄郎と、最大の敵プロメシュームの対決が軸になるが、プロメシューム役にキャスティングされていた浅野温子が体調不良により降板、松下由樹が新たに出演することも先日、発表になったばかりだ。この日の稽古場で披露されたのは2つのシーン。プロローグでは、クイーン・エメラルダス役の凰稀かなめと、その母親であるプロメシュームの確執という、物語の大きな核が描かれる。凰稀、松下とも抑えた動きの中、言葉以上にその心で思いをぶつけあうような演技で、緊張感あるシーンを創出していた。続けて披露されたのは『999で行こう』と名付けられた楽曲のシーン。このシーンは999号の内部であるようで、鉄郎役の中川の伸びやかな歌声も楽しげで、メーテル役木下晴香、クレア役の美山加恋らも原作キャラクターの存在感をまとっていて期待が高まる。汽車の座席ごとフォーメーションを変えていく魅せ方なども華やかで、昨年の初演より“ミュージカル度”が増した印象だ。公開稽古に続いて行われた囲み取材では、「昨年も上演しましたが、今回はその続編なのでまったくの新作。僕は昭和生まれですが、平成、そして令和という新たな年号を迎えようとしているこのときに『999』をやる意味をすごく感じています。お客さまと一緒に999号に乗って旅が出来る、そんな舞台になっています」と中川がアピール。また急遽の登板となった松下に、松本零士が描き下ろしたイラストが贈られる一幕も。これには松下も素直に「嬉しい!」と喜び、「皆さんの中にイメージされる像があると思うので、名作の中の人物を(リアルな)姿として見せなくてはいけないことにプレッシャーはある。でも一番大事にしたのはエメラルダスとメーテルの母親であるということ。生身の人間が演じるからこその機微をみせられるプロメシュームになれたら」と意気込みを語る。なお、この日の稽古でも松下と対峙した凰稀は「対面するシーンは、ハンパない圧。でも、昔のお母さんの優しさがすごく含まれているのを感じる。複雑な気持ち」と話し、キャプテン・ハーロック役の平方元基も「松下さんが稽古で初めてセリフを発したときに見入っちゃって、自分の出番を忘れそうになるくらいでした」と絶賛していた。公演は4月20日(土)から29日(月・祝)まで東京・明治座で上演。その後5月には大阪でも上演される。チケットは発売中。
2019年04月09日11月28日夜の『ドン・キホーテ』で華やかに開幕したマリインスキー・バレエ日本公演。その本番を前に、28日午後、東京文化会館で舞台稽古が公開され、本番さながらの熱のこもったステージが繰り広げられた(衣装付きの稽古は一幕のみ)。舞台リハーサルを行ったのは、29日(木)のキャストで、キトリ役はレナ―タ・シャキロワ、バジル役がティムール・アスケロフという新鮮なコンビ。エスパーダにロマン・ベリャコフ、街の踊り子はプリンシパルのエカテリーナ・コンダウーロワが華を添える、サプライズのような豪華さだ。シャキロワは強靭な足と柔らかな上半身で踊りが大きく、明るくお茶目なキトリのキャラクターがぴったり。跳躍はフワッと軽く、回転もスピード感があり、三幕のグラン・フェッテでは扇を持った手を上げる超絶技巧を見せていた。アスケロフは美しいつま先、長い足がノーブルな雰囲気で、シャキロワを献身的にサポート。リハーサル中もよく声をかけ、確認しあっている場面が見られた。街の踊り子のコンダウーロワは、ポンパドール風に盛り上げたヘアスタイルの効果もあり、うっとりするほど艶やか。コケティッシュな踊りで場をさらう。ベリャコフは、男性陣の中でもひときわ長身のスタイルと大きな手が魅力的。マントを翻してフェロモンたっぷりにエスパーダを踊った。花売り娘(キトリの友人)には石井久美子が登場し、チャーミングな笑顔に溌剌とした踊りで場面を盛り上げる。登場シーンも多く大活躍だ。作品の肝となるドン・キホーテ、サンチョ・パンサ、ガマーシュもそれぞれが愛すべきキャラクターで目が離せない。ファテーエフ芸術監督は、列の並び、音楽のテンポなどを細かくチェックしながら客席からマイクで指導をし、時には立ち上がって指示をだす熱の入れよう。群舞の場面は繰り返して行い、ダンサーたちも疲れを見せずにそれに応えていた。二幕では、アムール(キューピッド)に永久メイ、森の精の女王には今年入団し、ソリストとなったマリア・ホーレワ、ドルシネア(キトリ)のシャキロワという今後のマリインスキーを背負う若手が並んだ。永久はひときわ細く可憐なスタイルでキューピッドの愛らしさを表現し、個性を発揮していた。マリインスキーがゴールスキー版『ドン・キホーテ』を日本で上演するのは実に22年ぶり。舞台装置や衣装も美しく、二幕の夢の場面の満開の桜のような装置、三幕のランタンが灯る奥行きのある背景は、どこか日本的な情緒を感じさせるのが不思議だ。またマリインスキー歌劇場管弦楽団が層の厚い演奏を聞かせ、バレエがとびきり贅沢な総合舞台芸術であることの喜びを改めて感じさせてくれる。目の肥えた日本の観客にとっても新しい発見に満ちた公演となりそうだ。マリインスキー・バレエ日本公演は12月9日(日)まで上野・東京文化会館にて行われる。取材・文/郡司真紀
2018年11月30日谷賢一が脚本・演出を手掛ける舞台『光より前に~夜明けの走者たち~』が11月14日(水)に開幕する。その稽古場に潜入した。【チケット情報はこちら】本作は、1964年の東京五輪で銅メダルを獲得するも次のメキシコ五輪を目前に自殺した円谷幸吉と、東京五輪での挫折を乗り越えメキシコ五輪で銀メダルを獲得した君原健二という、ふたりのマラソンランナーの物語を初めて作品化する舞台。円谷選手を宮崎秋人、君原選手を木村了、スポーツライター・宝田を中村まこと、君原のコーチ・高橋を高橋光臣、円谷のコーチ・畠野を和田正人が演じる。この日まず行われていたのは、東京五輪での自分の走りに失望した君原が高橋コーチに退部届を出すというシーンの稽古。頑なな態度で退部を押し通そうとする君原と、それを軽妙にかわそうとする高橋コーチという10分ほどの場面だ。しかしそのやりとりで、共に曲者である君原と高橋コーチの会話は、心の底を隠しあったまま続けられていることがしっかりと伝わってくる。木村と高橋の緻密で濃密、そして予想外ともいえる芝居作りが堪能できるシーンとなっていた。次は、メダリストになったことでサイン会や講演会に時間が取られ練習できないことに苛立つ円谷と、その気持ちを受け止めながらも??咤激励する畠野コーチのシーン。先ほどの君原&高橋コーチとは正反対とも言える素直で信頼に満たされたやり取り、宮崎と和田のまっすぐな球を投げ合うような芝居は温かく、芝居面でも各ペアでの違いを感じるのが面白い。ただ、「自分ひとりでは走れません!」と言う円谷、それを受け止め「ひとりにしない」と言う畠野コーチの関係性は理想的で美しいが、同時に、円谷の結末を知っているためにどこか不安な気持ちにもさせられるものであった。次は、マラソンと距離を置いた君原のもとに宝田記者が訪ねてくるシーン。君原の言葉をすべて適当に返しているかと思えば、わずかな態度の変化を逃さずサッと懐に入る宝田の姿は観ていて楽しい。中村の芝居に自由さを感じるが、稽古中は例えばどのタイミングで君原の変化に気付くのかなど、かなり詳細に谷と話し合う姿が多く見られた。観ていて常に感じさせられたのは“人の心”。ありとあらゆる関わりに見え隠れする感情は生々しく、人の心が丁寧に描かれているからこそ、我々とは違う時代・環境にいる登場人物たちに心が揺さぶられるのだと感じた。稽古場は活気があってこれからどんどん進化していきそうな雰囲気。どのような作品になるのか期待して開幕を待ちたい。公演は11月14日(水)から25日(日)まで東京・紀伊國屋ホール、11月29日(木)から12月2日(日)まで大阪・ABCホールにて。お得なパンフレット付きチケットは11月11日(日)午後11時59分まで発売。取材・文:中川實穂
2018年11月06日伊坂幸太郎の小説が原作の舞台『死神の精度 ~7 Days Judgement』が8月30日(木)に開幕する。その稽古場に潜入した。【チケット情報はこちら】伊坂作品初の舞台化でもある『7Days Judgement ─死神の精度─』(2009年)の再演。死神である千葉が、自身が「死」を実行すべきか判断するやくざ・藤田と、藤田を慕う阿久津と共に過ごす時間を描く。今回は死神を萩原聖人、藤田を初演に続きラサール石井、阿久津を植田圭輔、死神や藤田と敵対する男など複数役を細見大輔が演じる。脚本・演出は初演に続き和田憲明。この日は稽古が始まって3週間という頃。稽古場に入ってみると演出の和田と俳優が、段取りから心情の変化までじっくりと話し合っていた。隣に座り、かなり細かいところまで意見を交換する姿から、開幕に向けかなり丁寧に詰めている段階であることがわかる。和田自身が稽古場を歩き回り、俳優からスタッフまで修正点や確認点を伝えた後は、芝居の稽古に。物語の冒頭から始まった。真っ黒な傘を差し、登場する死神役の萩原。死の対象であるやくざ役の石井に気付き、みせる表情には、死を悲しむような存在ではないはずなのにいくつもの色を感じ、そこで一気にこの世界に引き込まれる感覚があった。細見が演じる死神は千葉とはまた違ったタイプ。死神にも色々いることや彼らのスタンスそのものを、CDショップでのわずかなやり取りで感じさせる鮮やかさはさすが。同様に、石井と植田の演じるやくざも、植田が石井演じる藤田の懐の大きさを、石井が植田演じる阿久津の粗暴だが憎めない感じを互いに引き立て合っており、さらに藤田と阿久津の間に流れる愛情が感じられる。ひとつのシーンを終えると和田からは確認とダメ出しがある。それは例えば「今までは布団を2回持ち上げていたが、なぜ今回は3回だったのか」や「あの言い方はなぜ変わったのか」など細かいもの。一挙手一投足のすべてに意味があることを改めて感じるダメ出しだ。実際見ていてこちらが引っかかることは、それが回収される瞬間が必ず訪れる。その緻密さは和田ならではのもの。このように積み重ねられ迎える本番で見られる世界が楽しみだ。また、伊坂作品の特徴のひとつでもあるが、随所に散りばめられた音楽も印象的。ストーリーに絡む楽曲はもちろん、CDショップで死神たちが聴いている楽曲など、ぜひ注目して聴いてみてほしい。公演は8月30日(木)から9月9日(日)まで東京・あうるすぽっとにて上演後、岡山、愛知、兵庫、山形、宮城、岩手を巡演。
2018年08月28日アミューズ所属の若手俳優で結成した劇団プレステージの第13回本公演『ディペンデントデイ~7人の依存症~』が8月1日(水)に開幕する。その稽古場に潜入した。【チケット情報はコチラ】今回、演出を手掛けるのは劇団員の風間由次郎。本公演を劇団員が演出するのは、劇団史上初となる。脚本は劇団創設時を支えた森ハヤシが3年ぶりに手掛け、7人の依存症とテロリストが対決する“ハイスピードアクション依存症コメディ”となっている。出演は、石原壮馬、岩田玲、太田将熙、大村まなる、風間由次郎、株元英彰、小池惟紀、向野章太郎、坂田直貴、秀光、園田玲欧奈、髙頭祐樹、長尾卓也、原田新平。主演は株元が務める。稽古場にセットが建てられたこの日、まずはスタッフからセットの説明が行われた。その際、メンバーたちが確認していたのは、使い方はもちろん、セットに色を塗るタイミング。稽古前なのか後なのか、一度塗りでいいのか二度塗なのかなど、彼らの公演は基本的には表も裏も自分たちでやるため、そういった部分も大切な確認事項だ。その後は、床を拭いて滑りにくくしたり、立ち位置の目安のテープを貼ったり、小道具を移動させたり、全員で“稽古を始めるための準備”をテキパキと行う。冒頭、演出の風間から前日の稽古のダメ出し、そして演出助手を務める向野からも「台詞合わせは常にやるように」などアドバイスがあり、早速稽古開始。“ハイスピードアクション依存症コメディ”と銘打つ本作は、これまで劇団プレステージではあまり見られなかったアクションも満載。ポップな音楽&振り付けなどもあり、稽古はそのひとつひとつの見え方を丁寧に調整しながら進んでいく。物語を動かす依存症患者たちの芝居は、それぞれが個性的。多くの人が一度は耳にしたことがあるものから、想像もつかないものまで、さまざまな依存症をコメディとして軽やかに、けれどその内にある苦しさもしっかりとみせていく。なかでも大村演じる○○依存症の女子はインパクト大。大村のシーンがくると、稽古場でも笑いが起きていた。そんな賑やかな患者たちのなかで、株元が演じる主人公は黙々と任務を遂行するクールな役どころ。ツッコミに回ることも多く、会話のテンポや間(ま)も、あれこれ試しながら詰められていく。キャスト達は自分の役の台詞合わせなどもしつつ、出番でないシーンのダメ出しなども熱心に聞いている。「全員でつくりあげる」という空気が伝わってくる稽古場だった。劇団員による演出やアクションなど、13年目の劇団プレステージの新たな一面が楽しめる本作は8月1日(水)から12日(日)まで東京・CBGKシブゲキ!!にて上演。チケットは発売中。取材・文・撮影:中川實穗
2018年07月27日真田十勇士を題材にした霜月かいりのアクション漫画を原作にした舞台「BRAVE10~燭(ともしび)~」が7月26日(木)に開幕する。その稽古場に潜入した。【チケット情報はコチラ】昨年6月に第一弾が上演され、今回第二弾となる本作。漫画の続編シリーズ『BRAVE10 S』のエピソードにオリジナル要素が加わったストーリーが描かれ、主人公の霧隠才蔵を演じる中村優一をはじめ初演キャストから11名が続投、新たに伊佐那海役の伊藤優衣らが加わり、アンサンブル含め総勢29名で届ける。脚本・演出・映像は初演に続きヨリコジュン。この日、行われていたのは殺陣稽古。アクションシーンたっぷりの本作だが、武器となるのは大きな刀や鉄砲、くさりがま、クナイなど漫画原作ならではの特殊な形状のものばかり。大きさや長さがバラバラの武器を使った戦闘シーンは華やかで、初演でも見どころのひとつとなっていたが、稽古場ではひとつひとつの動きを繊細に積み上げる作業が行われていた。このときは中村演じる才蔵と大崎捺希演じる猿飛佐助が手を組み、敵と2対2で戦うというシーン。中村の大きな刀と大崎の小さなクナイで敵を倒していくのだが、当然武器によって距離感も違えば戦い方も変わってくるため、おのずと本人はもちろん対戦相手の動きも細かくなっていく。それを何度も何度も繰り返し確認しながら動きを詰め、戦う相手と組む相手、両方と息を合わせ、リズムを合わせ、だんだんとスピードを上げ、本作ならではの華やかで迫力ある殺陣シーンが出来上がっていった。汗だくになりながらも「もう1回やろう!」と繰り返すキャスト陣はストイック。稽古後半には、中村(才蔵)、宮城紘大(海野六郎)、鷲尾修斗(筧十蔵)、大崎(猿飛佐助)、護あさな(アナスタシア)、辻諒(由利鎌之介)、小波津亜廉(根津甚八)、新井 將(三好清海)、遊馬晃祐(服部半蔵)がズラリ登場するシーンも。各キャストがヨリコに動きを細かく確認したり、アイデアを出したりと、積極的にひとつのシーンをつくりあげていく姿が印象的だ。和やかで賑やかな稽古場は、真ん中でシーンをつくっている最中も、出番でないキャストがあちこちでアクションを確認し合う姿や、楽しそうに話し合う様子が見られた。今作は、前作よりさらにアクションシーンが増え、登場人物それぞれの見せ場も増えているそうだが、息の合った芝居が見られそうだ。舞台「BRAVE10~燭(ともしび)~」は7月26日(木)から29日(日)まで東京・なかのZERO 大ホールにて上演。チケットは発売中。取材・文:中川實穗
2018年07月25日芸人のバカリズムが初めて2.5次元作品の脚本を手掛ける舞台「ひらがな男子」が7月20日(金)に開幕する。その稽古場に潜入した。【チケット情報はこちら】「ひらがな男子」は、2次元キャラ育成バラエティー『アイキャラ』(日本テレビ)で誕生した、“ひらがな”の1文字1文字を擬人化したキャラクター作品。原案はバカリズムで、今年5月には映画化もされた。初の舞台化となる本作は、脚本をバカリズム、演出を川尻恵太、出演は、主人公「あ」役の佐奈宏紀をはじめ、高橋健介や長江崚行、宇野結也ら2.5次元作品を中心に活躍する男性キャストが揃う。この日は稽古開始から約2週間というタイミング。稽古に参加していたのは、「あ」役の佐奈宏紀、「う」役の高橋健介、「た」役の稲垣成弥、「ち」役の武子直輝、「の」役の後藤大、「ふ」役の中村太郎、「よ」役の星乃勇太、そして子役である「ぁ」役の春日レイ、「ぃ」役の春日結心で、バラバラになったひらがな達を再び集めるために旅をする「あ」一行に、「た」や「よ」、「ふ」が仲間として加わるシーンをつくっているところだった。ポップでどこかのんびりした世界観だが、芝居はコメディ作品ならではの繊細さ。タイミングの確認、動作の整理などをしながら、絶妙なテンポと間(ま)をつくりこんでいく。印象的だったのは、キャスト達が積極的にアイデアを出す姿。「こうしたほうが面白い?」「こういうことしたらどう?」など、演出の川尻を中心に、キャスト同士もどんどん提案し合い、ブラッシュアップしていた。17人ものひらがな男子が登場するが、どのキャラクターも見た目、そして言動もインパクト抜群。ひとりひとりの個性が際立っていて、賑やかだ。そんななかで、小さい「ぁ」「ぃ」のふたりは癒しの存在。ふたりが台詞を喋ると空気がふんわり和み、大人のキャスト陣は思わず笑顔になっていた。芝居について話し合うキャスト達は楽しそうで、笑い声も多い稽古場。休憩中も「あのシーンって…」と意見を出し合っていた。そこから生まれる、舞台ならではの「ひらがな男子」をぜひ味わってほしい。また、舞台は2部構成で、1部は本編、2部では芝居仕立てのライブが披露される。2部では、本編にはない楽曲が披露されるそう。ぜひペンライトを振って楽しんで!公演は7月20日(金)から29日(日)まで、東京・AiiA 2.5 Theater Tokyoにて上演。取材・文:中川實穗
2018年07月13日6月より上演されている松坂桃李の主演舞台『マクガワン・トリロジー』。同作の稽古場に潜入した。【チケット情報はこちら】今日の稽古は1部「狂気のダンス」。地下の酒場を訪れたIRA(アイルランド共和軍)の内務保安部長ヴィクター(松坂)は同胞アハーン(小柳心)に情報漏洩の疑いを持ち、司令官ペンダー(谷田歩)とバーテンダー(浜中文一)を巻き込みながら尋問する…。イギリスのポップスが流れて、ヴィクターが馬鹿にした様子で踊る。振付のアドバイザー・本間憲一が「ノリでいいんじゃない?」と言うが、演出の小川絵梨子が「ちょっとした振りが欲しい」と要望。そこで本間が、縄跳びみたいな連続ジャンプや、細かいステップを提案した。意外なことに、そのステップに松坂が苦戦。「あー、苦手だったんだ!」「意外!」と稽古場は笑いに包まれ、本人も苦笑い。本間が「じゃあボックスステップにしよう」とシンプルにすると良い塩梅に。稽古場後方で趣里が一緒に踊っているのが可愛い。他にも銃を取りに行く動作ひとつにスライドを入れるなど、音楽と台詞、動き、感情がシンクロする様は、このシーンの肝と言えそう。革ジャンを着た松坂は汗だくになって取り組んだ。ひととおり振りが決まると、休憩を挟んで、各シーンの返し稽古に。休憩の間も浜中はカウンターから離れず、ボトルやスナックを並べていた。その自然な様子は長いことここで働いているかのよう。ヴィクターがおどおどするバーテンダーにいちゃもんをつけるシーンでは、松坂は歌い、叫び、時には嘲笑するように恫喝。小川は松坂に「本当は(テーブル席に座っている)アハーンに向かいたいのに、なぜお前とやりとりしなきゃいけない?と苛立っている」、小柳に「ヴィクターが何かやりそうだと気になっている」と、役の心情を説明した。小川の演出は、常に誰に対してどのように意識が向かっているのかが明快だ。ヴィクターがドラム缶を叩きエキサイトする様子に、小川は「アハーンはヴィクターの話に乗らない。あまり聞いていなくていい。空気を感じて」と、指示した。ペンダーが来て、3人の激しいやりとりが始まる。小川は「ペンダーとアハーンはハグしてから出て来てください。今日こそふたりでヴィクターに勝ちましょう!」と喝を入れた。丁々発止のやりとりが迫力を増し、見る者は手に汗握ってしまう。が、小川は台詞ひとつひとつを考査し、各自の沸点がどこで上がるのかを組み立ててゆく。迫力に流されない、その緻密さが芝居を膨らませる。演劇の醍醐味が詰まった今作、必見だ。舞台『マクガワン・トリロジー』は7月8日(日)まで、兵庫・兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール、13日(金) から29日(日)まで、東京・世田谷パブリックシアターにて上演。取材・文:三浦真紀
2018年07月05日成河がひとり芝居で全38役を演じる『フリー・コミティッド』が6月28日(木)に開幕する。その稽古場にて成河に話を聞いた。【チケット情報はこちら】本作は、マンハッタンの超人気レストランで予約電話受付係をする売れない俳優・サムが、その応対でてんてこ舞いになるという、アメリカで1999年に初演された傑作コメディ。サムと電話の相手計38役を成河が演じ、演出は千葉哲也が手掛ける。どう見ても大変そうな作品だが、実際に稽古に入っての感想を聞いてみると「ふふふ」と笑い、「やってみなきゃわからない苦労がたくさんありました」と明かす。「この作品、モノローグ(独白)がないんです…。国内外を見てもそんなひとり芝居はほとんどないでしょ。つまり、スタンダップコメディ(アメリカの漫談のようなスタイルの芸)なんだと思う」。だからと言って「スタンダップコメディ的にはできない」と成河。「だから本国とはまた違うものになっています。ちゃんと演劇として成立させられたらなって。千葉さんもずっと言ってくださっていることですが、“すごい芸だったね”を忘れてもらえたらいい。落語家さんもそうでしょうけど、観ているうちにそういうのを忘れて、演劇にみえるようにしたい。でもそこまではまだ全然…!」。経験豊富な成河が「声を大にして言いますよ。前例、ないんじゃないですか!?」と断言する本作。「“役を生きる”などいろんな言い方はありますが、(通常は)芝居ってある“型”に押し込まれていくものでしょ。でもこの作品を成立させる“型”はどこにもないんです。やっぱり落語とも全然違いますし」。それを稽古場で「何度もちゃぶ台をひっくり返すことを、千葉さんはずっと一緒にやってくださるので、体当たりし続けています」。結果、今見えているのは「とにかく僕は“38人”ではなく“サム”を演じるだけだということ。他の人たちを使ってサムを表現することができたらいいのかなと思っています」。取材後の通し稽古では、とにかく笑った約2時間。俳優から煙が出そうな芝居ではあるが、成河の言った通り、気付けばその苦労は透過し、サムの行方に夢中になっていた。「都会で生きる僕たち自身の話としてすごくリアリティがある。なんでそんなにしてまで電話に出なきゃいけないの?ということなのですが、それって僕たちの生活そのものですから。ただ、そこを感じていただくためには、僕が苦しんで“見てられない”と思われないと。願わくば、“僕が”じゃなくて“サムが”ですけどね!」「オペラグラスで覗くのではなく、全身で感じ取ってほしい!」(成河)という本作は、6月28日(木)から7月22日(日)まで東京・DDD AOYAMA CROSS THEATERにて上演。取材・文:中川實穂
2018年06月26日