マリー・ローランサンはパリに生まれ、生涯のほとんどをパリで暮らした生粋のパリジェンヌ。1920年代、世界各地から芸術家が集まり、多彩な才能がひしめくパリで独自の画風を極め、人気画家に。上流階級の女性たちはこぞって肖像画を描いてもらうことを切望し、かのココ・シャネルもその一人だったとか。自由に美しく女性を描き続けた画家が手にしたものは?本展「マリー・ローランサン―時代をうつす眼」は日本でも広く愛されるローランサンの作品を同時期にパリで活躍したブラック、ピカソ、藤田嗣治らの作品とともに紹介。自作詩の発表や、当時一世を風靡したバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)の舞台美術や衣装を手がけるなど、絵画にとどまらない活動にも迫る。ローランサンが描くのはアーモンド形の瞳に白い肌、パステルカラーのドレスをまとう女性たち。まるで水彩画のような透明感が印象的だ。「初期の作品では伝統的な手法で暗い色彩を厚く塗っていますが、時代を経るに従って薄く絵の具を溶き、下の色が透けて見えるように塗り重ね、軽やかで透明感のある色彩が生み出されています。明るいイメージもありますが、灰色がかった落ち着いた色彩を使い、絵の具の質感もきちんと残っています」とアーティゾン美術館学芸員の賀川恭子さん。“灰色がかった落ち着いた色彩”は、同じ年齢でパリ生まれの画家ユトリロの描くパリの街角や曇り空のアンニュイな雰囲気にも通じるものが。重厚な石造りの街で、花のような衣装をまとう女性たちの姿はいっそう優しく美しい。「それまで女性画家に求められていたのは花、女性、子どもたちの絵。その点でローランサンは伝統に則ったといえます。詩的ではかなげな妖精のような女性像は男性たちからも好意的に受け止められていました」順風満帆に見える人生だが、私生活ではドイツ人男爵と結婚した直後に第一次世界大戦が勃発、国外亡命を余儀なくされる。戦後まもなく離婚、パリに戻った翌年に開いた個展が大成功を収め、第二の人生が始まった。晩年の大作《三人の若い女》に描かれている女性たちはくつろぎ、心から満たされているよう。我が道を貫いたローランサンの心境もまさにこうだったのかも。「女性の活躍が今よりも難しかった時代に、画家だけではなく小説家や詩人とも交流することで活躍の幅を広げ、ある意味したたかに生きて公的な評価を得ることができました。芸術家として生き抜くこと。それがローランサンの追求したことなのかもしれません」マリー・ローランサン《椿姫 第3図》1936年、マリー・ローランサン美術館マリー・ローランサン《プリンセス達》1928年、大阪中之島美術館マリー・ローランサン《椿姫 第9図》1936年、マリー・ローランサン美術館マリー・ローランサン《花を生けた花瓶》1939年、マリー・ローランサン美術館マリー・ローランサン《帽子をかぶった自画像》1927年頃、マリー・ローランサン美術館マリー・ローランサン―時代をうつす眼アーティゾン美術館 6階展示室東京都中央区京橋1‐7‐2開催中~2024年3月3日(日)10時~18時(2/23を除く金曜は~20時。入館は閉館の30分前まで)月曜(1/8、2/12は開館)、12/28~1/3、1/9、2/13休ウェブ予約チケット1800円、窓口販売チケット2000円ほか※日時指定予約制TEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)マリー・ローランサン1883年、パリ生まれ。アカデミー・アンベールで学び、キュビスムの画家として活動をスタート。独自の画風を確立し、2度の大戦を経て亡くなるまで制作を続ける。1956年没。《三人の若い女》を制作中のマリー・ローランサンの1953年頃の写真、マリー・ローランサン美術館※『anan』2023年12月27日号より。取材、文・松本あかね(by anan編集部)
2023年12月22日and media株式会社が運営するMEDIA PRESSは、アートメイク比較メディア「アートメイクの窓口」と共同で、全国の102名を対象に「メンズアートメイクへの意識」に関する調査を実施しました。近年、美容にこだわるのは女性だけではありません。多くのメンズも美容に取り組んでいます。中でも、眉毛の形で顔の印象が大きく変わることから、アートメイクを始める男性は少なくありません。では実際に、どれほどの男性がアートメイクに興味があり、どのような印象を持っているのでしょうか。そこで今回、and media株式会社が運営するMEDIA PRESSは、アートメイク比較メディア「アートメイクの窓口」( )と共同で、全国の男女102名を対象に「メンズアートメイクへの意識」に関する調査を実施しました。■調査サマリー・5割を超える男性がアートメイクに興味があると回答・アートメイクに興味を持った理由、第1位は「自分の眉毛に自信がないから」・眉毛のコンプレックスがある男性が6割以上・メンズアートメイクのイメージ、多かった回答は「費用が高い」「清潔」「スマート」・9割を超える男性がアートメイクに興味を持つことに好印象・眉毛コンプレックスの解消のためにアートメイクを受けることに対しては9割以上の方が『賛成』■5割を超える男性がアートメイクに興味があると回答まずはじめに、「あなたはアートメイクにどれくらい興味がありますか?」と質問したところ、とても興味がある :8.8%やや興味がある :47.1%あまり興味がない :27.5%まったく興味はない:16.7%という結果になりました。メンズアートメイクの調査結果155.9%と半数を超える男性がアートメイクに興味があるとわかりました。■アートメイクに興味を持った理由、第1位は「自分の眉毛に自信がないから」では、アートメイクに興味を持った理由は何なのでしょうか。次に、「アートメイクに興味を持った理由を教えてください」と質問したところ、『自分の眉毛に自信がないから』が20.6%、『清潔感のある自分になりたいから』が12.7%と2つの結果が多く見られました。メンズアートメイクの調査結果2眉毛一つで印象が大きく変わるため、整った眉毛は顔を整え、清潔感のある雰囲気を与えられます。また、男性の美意識の高まりを肌で感じて、自分も興味を持った方もいるようです。■眉毛のコンプレックスがある男性が6割以上眉毛に自信がないという回答が多かったですが、コンプレックスを抱いている方はどれほどいるのでしょうか。次に「あなたは眉毛にコンプレックスはありますか?」と質問したところ、ある:68.6%ない:31.4%という結果になりました。メンズアートメイクの調査結果36割を超える方が眉毛にコンプレックスを抱いていることがわかりました。■眉毛で抱えるコンプレックスとは?・眉毛が薄くて男性らしさがないのがコンプレックスに感じています。(40代)・眉の間がしばらく放置すると薄く繋がる。(40代)・眉毛の濃さや眉毛の形についてコンプレックスがあります。(20代)・量が多すぎてすぐ伸びる。(30代)・太いので気になっているが手入れの仕方がわからないのでそのままです。(50代)眉毛のお手入れのやり方や、再び生えてくる煩わしさにもコンプレックス・悩みがあるようです。■メンズアートメイクのイメージ、多かった回答は「費用が高い」「清潔」「スマート」皆さんは、メンズアートメイクに関してどのような印象を持たれているのでしょうか。次に、「メンズのアートメイクに対してどのようなイメージがありますか?」と質問したところ、『費用が高い』『清潔』『スマート』などといった回答が多い結果となりました。メンズアートメイクの調査結果4メンズのアートメイクに対して非常にいいイメージを持っている方が多いことが確認できました。■9割を超える男性がアートメイクに興味を持つことに好印象では、男性目線でメンズのアートメイクを持つことに対してどのように感じているのでしょうか。次に、「男性がアートメイクに興味を持つことに対してどのように思いますか?」と質問したところ、『良いと思う』という男性が、94.1%と圧倒的多数の結果になりました。メンズアートメイクの調査結果5男性も、アートメイクに対して興味を持つことに肯定的な方が多いようです。■眉毛コンプレックスの解消のためにアートメイクを受けることに対しては9割以上の方が『賛成』では、眉毛のコンプレックス解消に向けてアートメイクを受けることに対しては、どのように感じているのでしょうか。最後に、「眉毛のコンプレックスを解消するためにアートメイクを受けることは良いと思いますか?」という質問をしたところ、『良いと思う』という回答が、97.1%と圧倒的多数の結果となりました。メンズアートメイクの調査結果6今や男性芸能人でもアートメイクを受けた方は多くいます。日々のケアは手間がかかるため、アートメイクを検討される男性もごく一般的になっていくのではないでしょうか。■【まとめ】あなたに合ったアートメイククリニックを探してみませんか?以上、5割以上の男性がアートメイクに興味あり、メンズアートメイクのイメージも『清潔』や『スマート』といった好印象な回答が多く挙げられました。そして、眉毛にコンプレックスがある方は6割と非常に多いこともわかりました。眉毛のアートメイクは、1回の施術で2~3年間は持続するとされています。日頃のケアをせずに毎日かっこいい眉毛を維持できるなら、コスパも良いでしょう。男性こそ眉毛で印象が変わるため、眉毛が気になる方はぜひアートメイクを検討してみてはいかがでしょうか。■メンズアートメイクのことなら「アートメイクの窓口」アートメイクの窓口( )は、アートメイクのおすすめクリニックに特化した比較サイトです。自社検証と専門医の声をもとに40院以上のクリニックから、それぞれのニーズに合ったクリニックを紹介しています。地域ごとにおすすめのクリニックを紹介しており、比較検討できます。特に人気が高いクリニックの評判も紹介しています。「メンズのアートメイクができるクリニックを探したい」「失敗したくないから、人気で評判のいいクリニックを知りたい!」このようなニーズにも応えるコンテンツが充実しています。お悩みやご要望にぴったりなクリニックを見つけるための助けになるでしょう。眉毛のコンプレックスを解消したいメンズは、ぜひアートメイクの窓口をご活用ください。アートメイクの窓口: お問い合わせ : ■調査概要:メンズアートメイクへの意識に関する調査【調査期間】2023年11月21日(火)~2023年11月24日(金)【調査方法】インターネット調査【調査人数】102人■アートメイクの窓口概要 アートメイククリニックのおすすめ比較サイト。■and media株式会社概要 ・代表取締役:鳥越 凌・所在地 :〒151-0062 東京都渋谷区元代々木町27-14■MEDIA PRESS概要 独自のリサーチでユーザーに価値ある情報を届けるメディア。 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2023年12月22日展覧会の企画・運営を行う株式会社アートスペースは、スタジオジブリアニメ『耳をすませば』背景画を手掛けた画家井上直久の個展を2023年12月20日(水)~25日(月)まで銀座三越 本館7階ギャラリーで開催します。心の中にある風景を「イバラード」と名付けた画家井上直久その世界を舞台とした画集や絵本を刊行し、スタジオジブリ制作アニメ『耳をすませば』の挿話『バロンのくれた物語』で井上氏の世界観が紹介され話題になりました。また、『星をかった日』(原作:井上直久)の短編アニメが宮崎駿監督により制作され、三鷹の森ジブリ美術館の「土星座」で上映され、また国内はもとよりパリやニューヨークでも個展を開催し、人気を博しています。本展では、最新作の原画や版画を一堂に展示販売します。会期中は井上氏の来場もあり、購入した展示作品には作家が直接サインをいたします。また、会場ではライブペインティングも実施(不定期)する予定で、目の前で「イバラード」の世界が創られる過程をお楽しみいただけます。■井上直久氏来場会期中毎日午後1時~5時(都合によりイベントの変更または中止の場合もございます)【展覧会概要】イベント名: イバラードの世界井上直久絵画展会期: 2023年12月20日(水)~25日(月)最終日は午後5時終了会場: 銀座三越本館7階ギャラリーお問い合わせ: 03-3562-1111(代表)アクセス: 東京メトロ銀座線・丸の内線・日比谷線「銀座駅」銀座四丁目交差点改札より徒歩1分東京メトロ有楽町線「銀座一丁目駅」(9番出口)より徒歩5分都営浅草線・東京メトロ日比谷線「東銀座駅」銀座駅方面地下通路経由徒歩2分JR「有楽町駅」(中央口・銀座口)より徒歩9分(出典元の情報/画像より一部抜粋)(最新情報や詳細は公式サイトをご確認ください)※出典:プレスリリース
2023年12月21日写真を中心に映像、映画、空間のインスタレーションまで手掛ける蜷川実花。近年はデータサイエンティストの宮田裕章らと共に、クリエイティブチーム〈EiM(エイム)〉としても活動している。そんな彼女が〈EiM〉として挑む本展「蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」は、自身にとっても過去最大規模となる体験型展覧会。地上200m超、総面積が約1500平方メートルのスケールを持つ会場には、桃源郷をイメージした全11の美しい作品が登場する。映画監督の顔も持つ蜷川実花の真骨頂。桃源郷を体験する大規模展。映像は全て本展のために制作された新作&撮り下ろし。どれも幻想的な美しさながら、CGなどを使わずに現実を切り取ったものを、非現実な美しさへと昇華している。展示する作品は、それぞれが建築、音楽、舞台美術など各分野のプロフェッショナルらと共創し、作品ごとに異なるチームメンバーで完成させたもの。どの作品も、展覧会の顔となるクオリティの高さだ。これらの作品は、会場のスペースに合わせて計算して制作された。外光すらも作品の一部として取り入れているので、ゲストは訪れるたびに異なる表情を楽しむことができる。それゆえに、他の施設への巡回などはできない。まさに唯一無二の展覧会なのだ。イントロは、蜷川実花の代名詞ともいえる鮮やかな極彩色のイメージを覆す、漆黒の暗闇から始まる。次に登場する《Flashing Before Our Eyes》は最高天高15mのドーム型天井全面を使った大型のインスタレーション。動と静、生と死、緊張と緩和など対となる概念が走馬灯のように現れる。無意識の状態から、意識を取り戻して再び目覚めるまでをイメージした作品だ。《Intersecting Future》は上下左右、鑑賞者の視界一面を埋めつくす花々の様子を桃源郷のように表現。これは映画のセット技術を活用した迫力のある体験型展示だ。《胡蝶のめぐる季節》は蝶に誘われながら、四季の映像を巡る作品。投影される花々はCGではなく実物。6層ものスクリーンを行き交う鑑賞者も、作品の一部となる仕掛けになっている。「何気ない日常の景色も少し見方を変えるだけで、全く異なる美しさや情感に出合うことができる。本展の核である映像全てに共通するのが、夢のように見える美しい景色であっても、全て現実の映像であること、それらの大半は人々の日常にある、何気ない場所で撮影されている」という〈EiM〉のメッセージの通り、本展を見れば、日常のモノの見方が少し変わるかもしれない。《Flashing Before Our Eyes》イメージ《Intersecting Future》イメージ《胡蝶のめぐる季節》イメージMika Ninagawa1972年、東京都生まれ。写真家、映画監督。木村伊兵衛写真賞ほか多数受賞。『ヘルタースケルター』(2012)、『Diner ダイナー』(2019)はじめ映画を5作、Netflixドラマ『FOLLOWERS』を監督。クリエイティブチーム「EiM:Eternity in a Moment」の一員としても活動中。蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠TOKYO NODE GALLERY A/B/C東京都港区虎ノ門2‐6‐2虎ノ門ヒルズ ステーションタワー 45F開催中~2024年2月25日(日)月・水・木・日・祝日10時~20時(火曜~17時、金・土・祝前日~21時。入場は閉館の30分前まで)年末年始等休館日あり一般2800円ほかTEL:03・6433・8200(トウキョウ ノード インフォーメーション)※『anan』2023年12月20日号より。文・山田貴美子(by anan編集部)
2023年12月20日イルミネーションを見たり、ちょっと遠くの温泉に行ってみたり、冬のおでかけ欲が湧いてくるこのシーズン。東京で、「昭和」へとタイムトリップする旅を楽しんでみませんか?ホテル雅叙園東京の東京都指定有形文化財「百段階段」で開催されている「懐かしく新しい“レトロ”を旅する 古今東西ニッポンの風景」は、昭和らしい風景を追体験できる企画展!今では珍しいネオンや豪華絢爛なフォトスポットなど、見どころ満点です。■架空の旅館「旅亭 雅楼」から始まる、昭和レトロな旅「懐かしく新しい“レトロ”を旅する 古今東西ニッポンの風景」は2023年12月2日(土)~12月24日(日)、2024年1月1日(月・祝)~1月14日(日)に開催される期間限定のイベント。会場となる「百段階段」は1935年に建設された当時のまま保存されているホテル雅叙園東京唯一の木造建築で、東京都指定有形文化財にも指定されています。螺鈿のエレベーターに乗って会場へと向かうと、目に飛び込んできたのは提灯がかけられた「旅館の入り口」。今回の企画展では文化財「百段階段」を1935年に開業した「旅亭 雅楼(みやびろう)」という架空の宿に変身させ、ゲストを昭和レトロな旅へと誘います。家紋も、この企画展のために作ったオリジナル。作り込みがすごい……!文化財「百段階段」は、以前宴会が行われていた全7部屋を99段の階段で繋いでおり、各部屋で「ニッポンの風景」をテーマにした展示を楽しめます。最初の部屋「十畝の間」は「旅亭 雅楼」の客間という設定。広縁に座って外の景色を眺めたり、書斎でくつろいでみたり。昭和の懐かしい旅館を思わせる空間で、自由に写真撮影を楽しめます。ちなみに「旅亭 雅楼」の家紋の元となった牡丹のデザインがこの部屋に隠れているので、ぜひ探してみてくださいね。「漁樵の間」のテーマは「お祭り」と「祝祭」。神事や祈願にも使われている日本酒の菰樽(こもだる)や五穀豊穣を願う米俵など、お正月にぴったりのおめでたい装飾が施されています。「漁樵の間」はそもそも純金箔や彩色木彫があしらわれた絢爛豪華なお部屋。「ここでかつては宴会が行われていたのか……」と昭和時代に想いを馳せたくなる豪華さです。続く「草丘の間」のテーマは「こけし」。絵本や書籍、雑誌を中心に活躍するイラストレーター・佐々木一澄さんの著書『こけし図譜』とコラボレーションし、原画や約200体のこけしがずらりと並んでいます。昭和時代、家庭によく飾られていた「こけし」は東北でしか生産されていない伝統文化。表情がじわるこけしを見ているだけで、なんだか心が穏やかになります。ポップな作品が展示された「静水の間」。京都出身・在住のイラストレーター、中村杏子さんの作品集『郷愁的商店街図集』『家内幸福』より選出した、想像上の商店街や建物を描いたデジタルイラストを大型パネルで展示しています。絵をよく見ると「たばこ屋」や「薬局」など、昭和を感じるお店も。クリームソーダやデパートの動物の乗り物を描いた作品をイメージしたフォトスポットで写真を撮るのもおすすめです!■ガスの揺らめき、見たことある?本物のネオンがエモすぎる「星光の間」はどこか怪しげな暗闇の中に、煌々と光る「ネオン」をテーマにした部屋。アーティスト・デザイナーであるはらわた ちゅん子さんの「ゆのまちネオン」シリーズの作品を、アオイネオン株式会社が実際のネオン管で製作したものが展示されています。昭和レトロを象徴するネオン看板は通常遠目でしか見ることができないことも多く、さらに現在多くの看板がLEDへと切り替わっているため、間近で見られることが貴重です。そもそもネオン管とは、ガスを封入して放電し発光させるもの。近くで見ると、ガスの揺らめきまで見えちゃうんです。エモ……!LEDは直線的な光を放つのに対し、ネオンはガスのふんわりとした光を放つのが特徴。ネオン管は職人の技が詰め込まれた芸術作品で、ガスを封入した時にできるガラスの閉じた痕跡も見ることができるので、ぜひ注目してくださいね。「清方の間」はホテル雅叙園東京の前身となる「目黒雅叙園への旅」がテーマ。昭和初期に誕生した目黒雅叙園時代のパンフレットや絵葉書などが展示されています。当時の広告には「東洋一の割烹店」「我らが誇る三大名所 富士ヤマ 日光 雅叙園」など、昭和らしい自信に満ちあふれたキャッチコピーが書かれ、じわじわくるエモさでした。最上階となる「頂上の間」では文筆家・甲斐みのりさんの著書『日本全国 地元パン』とコラボレーションし、47都道府県の昔懐かしい「地元パン」を紹介しています。ずらりと並んでいるのは、甲斐さんが収集している全国のパンの袋!パッケージを見ているだけで全国を旅したような気分になり、食べたことのあるパンや地元のパンを見つけるのも楽しいですよ。昭和初期に建てられた本物の木造建築で、昭和の文化に触れられる「懐かしく新しい“レトロ”を旅する 古今東西ニッポンの風景」。どこを見ても、「エモい」が止まらない空間や作品だらけでした。友達を誘って、昭和レトロの世界に遊びに行ってみてくださいね!・ホテル雅叙園東京「懐かしく新しい“レトロ”を旅する 古今東西ニッポンの風景」住所:東京都目黒区下目黒1-8-1HP:(撮影・取材・文:小浜みゆ)
2023年12月14日大胆な構図と斬新な作風で有名な日本絵画の鬼才・伊藤若冲(じゃくちゅう)や長沢芦雪(ろせつ)。そんな従来のイメージを一新する、ゆるくてユーモアあふれる作品を紹介しているのが、特別展『癒やしの日本美術―ほのぼの若冲・なごみの土牛―』。まるでゆるキャラのような若冲の《布袋図》や、もふもふの描写がたまらない芦雪の《菊花子犬図》など、希少な個人所有品も数多く登場する。その可愛らしさに、きゅんとする。思わず笑みがこぼれる日本美術。また奥村土牛(とぎゅう)の《兎》や竹内栖鳳(せいほう)の《鴨雛》といった、ふわふわの動物画、愛らしい子供画など、キュートなモチーフが集まっていて、日本画初心者も気軽に楽しめるはずだ。伊藤若冲《伏見人形図》1799(寛政11)年紙本・彩色山種美術館伏見稲荷の土産物として知られる素朴な伏見人形は、若冲が長年好んで取り上げた絵のモチーフ。伊藤若冲《布袋図》18世紀(江戸時代)紙本・墨画個人蔵特にふくよかな姿の布袋さん。吉祥画題でおなじみの、このテーマの作品も数多く残っている。長沢芦雪《菊花子犬図》18世紀(江戸時代)絹本・彩色個人蔵子犬の絵でも有名な円山応挙の弟子・長沢芦雪。彼の犬の絵は師匠譲りで写実的だったが、次第にゆるくなり、キュートなフォルムの子犬画は江戸時代にも大ブレイクした。特別展『癒やしの日本美術―ほのぼの若冲・なごみの土牛―』山種美術館東京都渋谷区広尾3‐12‐36開催中~2024年2月4日(日)10時~17時(入場は閉館30分前まで)月曜(1/8は開館)、12/29~1/2、1/9休一般1400円ほかTEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)※『anan』2023年12月13日号より。文・山田貴美子(by anan編集部)
2023年12月12日多種多様な民間仏に込められた、人々の祈りとは?仏像展「みちのく いとしい仏たち」をご紹介します。みちのく いとしい仏たち「仏」という言葉から連想される一般的な姿とは微妙に異なる愛らしい表情やぎこちないフォルム。それなのに不思議と親近感が湧いてくるこれらの仏像は江戸時代、みちのくの地で作られた“民間仏”。大工や木地師(きじし※ろくろを用い、主に木工品などを作る職人)が製作した民間仏は小さなお堂や祠に祀られ、人々の心の拠り所、そして日常のささやかな祈りの対象として大切にされてきた。しかし、当時は上方や江戸で修練を積んだ仏師が、立派で端正な姿の仏像を製作し、全国に広がっていった時代。そんな時代に、なぜみちのくでは民間仏が浸透していた?「立派な仏像・神像は大変ありがたい存在ではありますが、厳しい風土を生きる東北の人々は、生活のなかの小さな愚痴やちょっとした日々の心配ごとなどを聞いてもらう対象として、もっと親しみやすい存在を必要としていたのでしょう。それは必ずしも立派な姿である必要はなく、やさしい姿かたちのお像で十分だったのだと思います。むしろそうしたお像だから悩みを打ち明けやすかったのでは」(東京ステーションギャラリー学芸員・柚花文さん)民間仏の造形は、シンプルさを追求したようなものから、装飾性のあるもの、立像から坐像までさまざま。「立派なご本尊も目にしているはずなので、大工さんも仏像の造形の基本を知らなかったわけではないはず。その上で仏像作りのルールに忠実に従うよりも、依頼主の気持ち、たとえば疫病、飢饉、災害などで命を落とした人々への鎮魂などに寄り添い、できる技術の範囲のなかで心を込めて作った結果、生まれた造形なのだと思います」「笑みをたたえる」「ブイブイいわせる」といったユニークな8つのセクションで構成され、約130の民間仏が展示される本展。歴史ある東京ステーションギャラリーならではのレンガ壁の展示室とマッチした風景も、見どころのひとつになりそう。「難しい話は抜きにして、人々が民間仏にどのような祈りを込めてきたのかについて、思いを馳せながら楽しんでいただければ」と柚花さん。似ている誰かを想像したり、お気に入りのひとつを見つけたり。仏像展初心者も、ぜひ足を運んでみて。《六観音立像》江戸時代宝積寺/岩手県葛巻町良質なカツラの木に彫られたあっさり顔の六観音立像。顔とは対照的に衣のひだからは手が込んでいることがわかる。6体並んだときの祈りの静けさと装飾性を帯びた造形が秀逸。《山神像》江戸時代兄川山神社/岩手県八幡平市本展のメインビジュアルにも選ばれた、林業に携わる人々に今なお厚く信仰されている山神様。狭い肩、バランスのとれた3頭身、控えめな合掌ポーズが魅力的。《不動明王二童子立像》江戸時代洞圓寺/青森県田子町腰をくねらせた不動明王と、やんちゃそうな筋肉もりもりの童子たち。山深い土地で生まれた味わいあるトリオ。《鬼形像》江戸時代正福寺/岩手県葛巻町地獄で亡者の罪を責め苛む鬼が、左手に女性を引きずり得意満面な表情を見せる。楽しそうな表情からは、つらい現世を笑い飛ばしたいという願いも見受けられる。《童子跪坐像》右衛門四良作江戸時代(18世紀後半)法蓮寺/青森県十和田市丸みを帯びた像の底が前後に揺れる可愛らしい仏像。十和田にはこうした武骨で優しい像が多く残されている。みちのく いとしい仏たち東京ステーションギャラリー東京都千代田区丸の内1‐9‐1(JR東京駅 丸の内北口 改札前)12月2日(土)~2024年2月12日(月)10時~18時(金曜~20時。入館は閉館の30分前まで)月曜(1/8、2/5、2/12は開館)、12/29~1/1、1/9休一般1400円ほかTEL:03・3212・2485※『anan』2023年12月6日号より。写真・須藤弘敏(by anan編集部)
2023年12月06日舞台や映画、小説、コントなど、あらゆる分野で独自の世界観を生み出している松尾スズキさん。還暦を機に人生初の個展を開く。その名も「生誕60周年記念art show『松尾スズキの芸術ぽぽぽい』」。わかりやすいものを描いたら負け(笑)。ポエムも添えました。「コロナ禍で時間が空いてしまった時に、部屋に飾る絵が欲しいなとキャンバスに描き始めたんです」小さい頃から絵が好きで漫画家を目指した時期もあり、美大のデザイン科に進学した。表現のスタートは絵なのだが、演劇の道に進んでから、仕事を離れ、純粋に作品を描いたのは久々の体験だった。「数年前からiPadで描くことを覚えて、連載しているメールマガジンにイラストを発表したりしていました。そして、自分は絵を描くのが好きだったと思い出したんです。ただ、アクリル絵の具で描きだしてからは、デジタルで描こうという気にならなくなってしまって」iPadと、紙やキャンバスに描くのでは肉体的な感覚が全く異なる。「紙の上にペンを走らせる時のカリカリカリというASMR的な気持ちよさ(笑)。はみ出さずに色を塗れた快感や、パレットと紙の上に載せた色が変わって見える驚き。アナログの『失敗できない』という緊張感は、舞台と似ているところがあるのかもしれません」還暦のイベントとして展示するのはどうか、とスタッフの発案で本展の開催が決まった。2年間ひたすら描き続け、大小合わせて約250点以上の作品が展示される。描く中で気づいたのは、背景よりもキャラクターを描きたいということだった。「『シン・ヒョットコ』のフォルムを見つけた時は興奮しました」花瓶のような輪郭の「シン・ヒョットコ」や、ぶ厚い唇の怪獣(?)「トゲくちびる」など、独自のキャラクターがたびたび登場する。「モンスターのモチーフは多いですね。勝手に頭の中で、松尾の中のアベンジャーズがポーズを決めている感じ(笑)。僕自身、俳優としても動いていたいタイプなので、絵の中でも普通には立たせたくないんです」横尾忠則さんや岡本太郎さんの作品に惹かれるという松尾さん。「描かずにいられなかったんだろうと思わせる、己が出ている作品が好きですね。わかりやすいものを描いたら負けだなと思って(笑)」ただ、意識しているのは「どこか可愛げのある絵」。ポップな色調の自画像や屏風のようなものなど、作品もバラエティに富んでいる。また、本展では作品ごとにポエムのような小さな文章を添えるらしい。「読み物としても楽しんでもらえたらと、図録にも全て収録します。めちゃくちゃ大変でしたが、自分はやっぱり言葉の人間でもあるのだなと思いました」豪華ゲストを迎えたトークセッションのほかに、映像や立体作品なども展示する。自ら台本を書き、吉田羊さんとのかけ合いで構成する本人による音声ガイドは必聴だ。タイミングが合えば、会場で松尾さん本人に会えるかも?人を楽しませることにこだわってきた松尾さんらしいart showになる予感。「花とおじさん」アクリル/キャンバスボード 横240mm×縦300mm「トゲくちびる・発射」アクリル/画用紙横242mm×縦350mmまつお・すずき1962年、福岡県生まれ。作家、演出家、俳優。’88年に大人計画を旗揚げ。2020年よりBunkamuraシアターコクーン芸術監督、’23年より京都芸術大学舞台芸術研究センター教授に就任。著書に『人生の謎について』『矢印』『ツダマンの世界』など。「生誕60周年記念art show『松尾スズキの芸術ぽぽぽい』」絵と作品に添えた文章、音声ガイドの情報から想像を膨らませて、立体的に楽しんでほしい、と松尾さん。作家の脳内探索ができるような展示を目指している。作品の複製画(ジグレー)、銅版画(エッチング)をサイン入りで販売するほか、Tシャツやクリアファイル、豆皿などグッズ展開もある。スパイラルホール(スパイラル3F)東京都港区南青山5‐6‐2312月8日(金)~15日(金)11時~17時(8日は13時~20時、9・10日は11時~20時)。日時指定予約制。前売り1900円ほか。松尾スズキさん本人による音声ガイド付き入場券も。当日券あり。大人計画 TEL:03・3327・4312(平日11時~19時)※『anan』2023年12月6日号より。写真・小笠原真紀インタビュー、文・黒瀬朋子(by anan編集部)
2023年12月03日今月24日に開業する麻布台ヒルズの一角に、麻布台ヒルズギャラリーがオープンする。その開幕を飾るのが注目のアーティスト、オラファー・エリアソンの展覧会だ。光と水、幾何学形態が描く、自然が秘める美をこの目で。「本展のねらいは、敷地内にある森JPタワーのオフィスロビーで公開されるパブリックアート、《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》のコンセプトを探求することにあります。ぜひパブリックアートを観賞してからご来館ください」と森美術館アソシエイト・キュレーターの德山拓一さん。本作は小さな11面体が連なる作品で、リサジュー曲線と呼ばれる数式が導き出す図形を立体にしたもの。環境問題を扱ったテーマで知られるエリアソンだが、幾何学的な形態の研究を長年続け、その集大成ともいえる。会場ではこの作品が生まれたバックグラウンドとして、新作を含む日本初公開の15点が展示される。エリアソンの名を一躍有名にしたのは、2003年、ロンドンのテート・モダンで発表した大型のインスタレーション《ウェザー・プロジェクト》だ。「夕焼けを再現した作品で、それ以降も身の回りにある自然現象や光、水などを使い、見る、聞くといった知覚に訴えかける作品を制作しています。非常にシンプルですが、強いインパクトを与えるのが特徴です」今回も水を使った大規模なインスタレーションや光の反射を用いた作品が展示されるほか、ドローイングマシンを体験できるコーナーも。「美しさとは人の感覚に直接訴えかけるもので、美しさが人の意識を変えることができると信じている」とは、德山さんが作家にインタビューした際に印象に残った言葉だとか。「彼の作品は、光はこんなにきれいなんだ、水でこんなに複雑な表現ができるんだと、その本質的な姿を出現させてくれます。そうした個々の気づきを意識の変革につなげるのが素晴らしい。本展もそういう観点から観てもらえれば嬉しいです」《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》(部分)2023年展示風景:麻布台ヒルズ森JPタワーオフィスロビー、2023年撮影:木奥恵三小さな11面体の特定の面と面をつなぎ合わせることで、リサジュー曲線を描く立体作品。1つでも面がずれると全く異なる形になってしまうとか。《蛍の生物圏(マグマの流星)》2023年撮影:Jens Ziehe3重に重なるガラスの多面体を通過した光の乱反射が七色に変化する。イマーシブル(没入型)な体験ができる美しい作品。《瞬間の家》2010年撮影:Christian Uchtmann展示会場の半分を占める、水を使った大型インスタレーション。自在に形を変えられる水の特性を生かした表現に注目を。スタジオ・オラファー・エリアソン キッチンでの昼食の様子(2017年)撮影:Maria del Pilar Garcia Ayensa会期中、麻布台ヒルズギャラリーカフェでは、ベルリンにあるスタジオ・オラファー・エリアソン キッチンとのコラボレーションメニューを味わえる。麻布台ヒルズギャラリー開館記念 オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期麻布台ヒルズギャラリー東京都港区虎ノ門5‐8‐1麻布台ヒルズガーデンプラザA MB 階11月24日(金)~2024年3月31日(日)10時~19時(火曜~17時、金・土・祝前日~20時。入館は閉館の30分前まで)1月1日休一般1800円ほかazabudaihillsgallery@mori.co.jp※『anan』2023年11月29日号より。取材、文・松本あかね(by anan編集部)
2023年11月28日ポスターや商品のパッケージといった、平面の媒体に用いられるグラフィックデザイン。写真やイラスト、文字などを配して、必要な情報を伝達するデザインのことだが、とくに“文字”に注目すると、日本のグラフィックデザインのバリエーションは非常に豊か。漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベット、縦組み、横組みと表現方法が多岐にわたり、文字をレイアウトするうえで様々な選択肢があるからだ。日本の“文字”によるデザインの多様さを体感しよう。21_21 DESIGN SIGHTで開催される「もじ イメージ Graphic展」は、そんな日本のグラフィックデザインを、文字とデザインの関係からひもとく企画展。近年のグラフィックデザインの歴史を探りながら、とくにパソコン上でデータ制作を行うDTPが主流となった、1990年代以降のデザインにスポットを当てる。展覧会ディレクターを務めるのは、グラフィックデザインに関する著書を手がける編集者の室賀清徳と、グラフィックデザインの研究を行う後藤哲也、グラフィックデザイナーの加藤賢策の3人。展示は、佐藤可士和、祖父江慎+コズフィッシュ、立花ハジメ、平林奈緒美ほか、国内外の約50組のグラフィックデザイナーやアーティストによるクリエイションが中心となる。ポスターや書籍、看板の実物展示、壁面を使った大型出力展示など、その数250点以上。街で見かけたことがある作品にも出合えるかも。ディレクターの一人である室賀は、バリエーション豊かな日本の文字について、「図像と自在に融合するレイアウトデザインにもつながっている」と言う。そんな視点を持つと、普段は何気なく見ていたグラフィックデザインの遊び心や奥深さ、多様さを、改めて感じられるはずだ。大日本タイポ組合「トイポグラフィ」(2007)BALCOLONY.「『魔法少女まどかマギカ』1完全生産限定盤 Blu‐ray」(2011)©MagicaQuartet/Aniplex・Madoka Partners・MBS寄藤文平「東京メトロ マナーポスター『家でやろう』」(2008)大島依提亜映画「ヒッチコック/トリュフォー」(2016)イラストレーション:和田 誠投票ポスタープロジェクト「投票ポスター」(2022・抜粋)山田和寛書籍「作字百景 ニュー日本もじデザイン」(2019)もじ イメージ Graphic展21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2東京都港区赤坂9‐7‐6東京ミッドタウンミッドタウン・ガーデン11月23日(木)~2024年3月10日(日)10時~19時(入場は閉館の30分前まで)火曜(ただし12/26は開館)、12/27~1/3休一般1400円ほかTEL:03・3475・2121※『anan』2023年11月29日号より。文・保手濱奈美(by anan編集部)
2023年11月27日2023年11月24日、日比谷線「神谷町駅」と南北線「六本木一丁目駅」の間、“麻布台エリア”に新たなコンパクトシティ「麻布台ヒルズ」が開業しました。「森JPタワー」、「タワープラザ」「ガーデンプラザ」「レジデンス」で構成される麻布台ヒルズには、グルメやファッションなどの商業施設はもちろん、ホテルにギャラリー、オフィスに住宅、さらには教育機関や医療機関など、多様な都市機能が集まります。そんな今話題の「麻布台ヒルズ」に編集部が潜入。いったいどんな施設なのかいち早く体験してきました!■人と自然が調和したコンパクトシティ「麻布台ヒルズ」のコンセプトは、「”Modern Urban Village~緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街~”」。人々が自然と調和しながら、心身ともに健康で豊かに生きることを目指す街なのだそう。そのコンセプトの通り、ヘザウィック・スタジオのデザインによる低層部のダイナミックな建築物と緑が美しく調和し、街全体が緑に包まれた空間を体験することができます。地上64階、高さ330mという日本一の超高層ビル「森JPタワー」の前に広がる中央広場には、菜園や果樹園が設けられ、都会の真ん中にいながらも人の営みを感じることができますよ。■充実のアート施設で文化的な休日が過ごせる建築物としても魅力たっぷりな「麻布台ヒルズ」ですが、気になるのはどんな施設やショップが入っているかですよね。まずはアートや文化に触れられる施設をご紹介!昨年8月に惜しまれつつも閉館となったお台場の「チームラボボーダレス」が、新しい作品を引き下げ、2024年2月上旬に麻布台ヒルズにオープンします。無数のシャボン玉のような球体に埋め尽くされた空間が楽しめる新作「Bubble Universe」は、球体の中の光が“ぷるんぷるん”ときらめき、まるで宇宙空間に迷い込んだかのような感覚が体験できます。アートを楽しめるのは「チームラボボーダレス」だけではありません。ガーデンプラザAには、「麻布台ヒルズギャラリー」がオープン。開館記念展として、世界的にも注目されているデンマーク生まれのアーティスト・オラファー・エリアソンの展示が開催されます。「麻布台ヒルズギャラリー」と同じ、ガーデンプラザAには、初のリアル店舗となる「集英社マンガアートヘリテージ」が開業。出版社である集英社が手がける「マンガアート」のギャラリーで、人気マンガの「ONE PEACE」や「BLEACH」などの作画を、マンガ家と版元が監修し、最良のマテリアルと技術によって、妥協のないアートプリントとして施された作品を鑑賞・購入することができるスペースとなっています。中央広場や森JPタワーには、六本木の森美術館がキュレーションを手掛けたパブリックアートが登場。作品を眺めながらショッピングの休憩をしたり、購入したグルメを堪能したり……なんて楽しみ方もできそうです。■ランチにカフェ、ディナーまでを網羅する飲食店アートや文化に触れた後は、少し一休みしたいもの。麻布台ヒルズには、グルメやスイーツを楽しめる飲食店やカフェも盛りだくさん!京都発のスペシャリティーコーヒーショップ「%ARABICA(アラビカ)」が東京に進出。なんとガーデンプラザBとタワープラザに2店舗オープンします。ドリンクメニューの他、スイーツなども楽しめるので、ショッピングやアート施設を楽しんだ後の休憩にもぴったりです。タワープラザ3階にある「ラシーヌ」は、女子会やデートにおすすめのレストラン。ランチ、カフェ、アペロ、ディナーと時間帯によって、それぞれの空間と料理が楽しめるそう。麻布台ヒルズのオープンに合わせた限定メニューも登場するので、気になる方はぜひ足を運んでみてくださいね。■雑貨店に書店、ライフスタイルショップも盛りだくさんアートにグルメときたら、ショッピングも欠かせない休日の過ごし方。タワープラザには、大型ライフスタイルショップや書店、フラワーショップなど衣食住を彩るショップが立ち並びます。タワープラザ2階には、「セオリー」や「ユナイテッドアローズ ウェメンズストア」など、最新トレンドをキャッチできるファッションショップが勢揃い。オープン記念や麻布台ヒルズ限定のオリジナルアイテムも登場するので、ぜひチェックしてみてくださいね。■今話題の「麻布台ヒルズ」を満喫しよう!今回紹介したエリアの他にも、アマンが手掛ける新ブランド「JANU(ジャヌ)」の世界第一弾となるラグジュアリーホテル「ジャヌ東京」や、世界トップクラスのデザイナ―が手掛ける住居スペースなど、衣食住が揃うコンパクトシティとなっています。来月12月9日からは、中央広場で「AZABUDAI HILLS CHRISTMAS MARKET2023」が開催されます。クリスマス気分を盛り上げる7店舗の雑貨店と麻布台ヒルズ内の店舗を含む10店舗の飲食店が、ここでしか買えない限定商品やメニューを用意しているそうですよ。このクリスマスは、今話題の「麻布台ヒルズ」に足を運んでみてはいかがでしょうか?(マイナビウーマン編集部)
2023年11月24日東京・上野にある東京都美術館で、2024年1月27日から「印象派モネからアメリカへウスター美術館所蔵」がはじまります。本展のオフィシャルサポーターは、俳優の鈴鹿央士さん。音声ガイドにも初挑戦された鈴鹿さんに、展覧会への熱い思いを語っていただきました!鈴鹿央士さんがオフィシャルサポーターに!鈴鹿央士さん【女子的アートナビ】vol. 319本展では、アメリカ・ボストン近郊にあるウスター美術館のコレクションを中心に、モネやルノワール、ピサロ、カサットなど印象派を代表する画家たちの油彩画約70点が集結。そのほとんどが初来日作品です。さらに、日本ではなかなか見ることができない「アメリカ印象派」の作品も多数展示されます。この展覧会が開催される2024年は、第1回印象派展から150周年を迎える記念の年。フランスで生まれた印象派が、アメリカ各地でどのように広がっていったのか、その影響を本展でたどることができます。本展のオフィシャルサポーターを務めるのは、鈴鹿央士さん。記者発表会に登壇した鈴鹿さんにインタビューも行い、展覧会への思いについて、お聞きしてきました!ワクワクしています!クロード・モネ《睡蓮》1908年油彩、カンヴァスウスター美術館Museum Purchase, 1910.26/Image courtesy of the Worcester Art Museum――まず、オフィシャルサポーターに選ばれて、いかがでしたか?鈴鹿さんはじめて展覧会のオフィシャルサポーターを務めさせていただくので、非常にワクワクしています。みなさんに気軽に楽しんでいただけるよう、また僕自身も楽しみながらやってみたいと思っています。――印象派については、どんなイメージをお持ちでしたか?鈴鹿さんあまり美術の知識はなかったので、今回のお話をいただいてから、学ばせてもらいました。それまでのイメージは、はっきりした絵というより、淡い色合いの風景を描いた作品が多いのかな、という感じで、モネの睡蓮ぐらいしか知りませんでした。――今回、印象派を勉強されたとのことで、何かイメージが変わりましたか?鈴鹿さん変わりました。印象派の歴史的背景を学んで、おもしろいと思いました。印象派が出てくる前は、風景画であっても戸外では下絵を描き、アトリエに持って帰って油彩画を仕上げる手法でしたが、印象派の画家たちは、その場で見た色やありのままの風景を描くのです。その一瞬を切り取るのがすごくステキだと思いました。すごく印象に残った言葉は…――今回、音声ガイドにも初挑戦されました。スペシャルトラックとして収録されたそうですが、いかがでしたか?鈴鹿さん収録のとき、たくさん噛みました(笑)。自分はこんなにしゃべれなかったかな、と思いながら収録しました。でも、ウスター美術館は地域と距離感が近い美術館だそうで、絵画以外にもいろいろな作品が展示されていて、地域の人たちが気軽に立ち寄る美術館とお聞きしました。その気軽な雰囲気を僕の声で出せたらな、と意識しながら収録していたので、楽しく録ることができました。――収録を終えて、印象に残っているセリフはありますか?鈴鹿さん画家の黒田清輝さんの言葉が印象に残っています。彼は、印象派を日本に持ち込むうえで大きなお仕事をされた方ですが、僕の言葉で要約すると、印象派というものがほかの土地に行ったときに、その土地のものになる、というようなことを仰っていたのです。フランスで生まれた印象派がアメリカに行ったら、それはアメリカの印象派になる、ということですよね。それは今にも通じることだと思いました。僕は、いろいろ無駄なことを考えるのが好きで、例えばお寿司は、日本では生のお魚ですけど、アメリカに行ったらカリフォルニアロールになって、それが寿司になっています。僕らもそれを受け入れる心が大事なんだな、と思いました。黒田さんの言葉がすごく大切な言葉だと感じながら収録しました。この部分のセリフは、ぜひ音声ガイドで聴いてみてください。気になる作品は…デウィット・パーシャル《ハーミット・クリーク・キャニオン》1910-16年油彩、カンヴァスウスター美術館Museum Purchase, 1916.57/Image courtesy of the Worcester Art Museum――今回、アメリカ印象派の作品も多く展示されます。作品を資料でご覧になって、気になる作品はありましたか?鈴鹿さんアメリカならではの広大な自然が描かれている作品が印象に残っています。特に気になる作品は、デウィット・パーシャルさんの《ハーミット・クリーク・キャニオン》です。グランド・キャニオンを描いたもので、太陽の光に淡いピンクやオレンジを使い、全体的に明るい印象を受けました。この絵が好きな理由は、エピソードがおもしろいのです。パーシャルさんが、この絵を描いてくださいといわれたとき、グランド・キャニオンまで目隠しをされて連れて行かれ、目隠しをとって見た景色がこの絵になっているそうです。なんでそんなことしたんだろう?と思ったのですが(笑)、そんな話を知ると、おもしろい絵だなと感じました。また、今回は北欧の人が描いた印象派作品も展示されるそうで、土地ごとの違いを見比べるのも楽しそうです。――フランスからはじまった印象派は、アメリカや北欧、日本など世界に影響を与えたのですね。鈴鹿さんでも、当時の絵画はきれいに描くというのが重要視され、印象派の粗いタッチは評価されなかったらしいのです。印象派の画家たちは、一瞬の自然や草の色は緑だと決めつけず、いろいろな色で表現していましたが、そのような絵を当時の社会で発表するのは勇気がいるものだと思いました。それでも、彼らの絵は世界中に広がる力と勢いがあった。やはり、印象派の技法とか、すごい衝撃だったのだろうと思います。僕も、よくカメラで風景を撮るので、一瞬を切り取るというのは通じるような気がします。――写真を撮るのがお好きなんですね。印象派の作品とつながる部分がありそうですね。鈴鹿さん僕はフィルムで風景の一瞬を撮るのですが、現像して振り返ってみると、撮ったその場所の空気感とか匂い、温度を思い出します。きれいにその場所を切り取るのではなく、そのときの自分の感覚を含めてその一枚を大切にするという思いがあります。例えば、モネの睡蓮は連作になっていますが、同じ場所の睡蓮でもいろいろな色や水面があり、写真とも似ているのかなと思いました。その風景の「一瞬」を追っているのだと思います。どんどん印象派にのめりこんだ!――ところで、本展のオリジナルグッズにウスターソースが出るそうですね。鈴鹿さん美術館の名前がウスターだからウスターソースを作ったそうで…ちょっと「そうなんですか」としか僕も返せなかったのですけど(笑)、そういうおもしろさもある展覧会ですね。僕の岡山の実家には、ウスターソースは常備していなかったので、これを機にウスターソースを使って料理してみたいです。――最後に、メッセージをお願いします。鈴鹿さん展覧会には初来日の作品も多く展示されるので、美術が好きな方も来ていただいて価値のあるものだと思います。僕自身、あまり美術の知識がなかった人ですけど、どんどん印象派の絵にのめりこんでいきました。その魅力を、まだあまり美術を知らない人にも、ぜひ楽しんでいただきたいです。たくさんの方に気軽に足を運んでいただきたいと思います。――ありがとうございました!取材を終えて…優しい笑顔がとてもステキだった鈴鹿さん。オフィシャルサポーターに選ばれてから印象派について学んだと仰っていましたが、本当にのめりこんでしまったそうで、その魅力について熱く語ってくれました。鈴鹿さんは、お声もソフトで優しいので、スペシャルトラックとして収録された音声ガイドを聴くのが楽しみです。音声ガイドではクイズの企画もあるそうなので、ぜひガイドを聴きながら展覧会を楽しんでみてください。Information会期:2024年1月27日(土)~4月7日(日)会場:東京都美術館(東京・上野公園)開室時間:9:30〜17:30金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)休室日:月曜日、2/13(火)※ただし2/12(月・休)、3/11(月)、3/25(月)は開室観覧料:一般¥2,200 (¥2,000)、大学生・専門学校生¥1,300(¥1,100) 、65歳以上¥1,500(¥1,300)・()内は前売料金。・高校生以下無料。※土日・祝日及び、4月2日(火)以降は日時指定予約制(当日の空きがあれば入場可)問い合わせ先:050-5541-8600(ハローダイヤル)※本展は、東京都美術館で開催したあと、郡山市立美術館、東京富士美術館、あべのハルカス美術館に巡回します。This exhibition was organized by the Worcester Art Museum
2023年11月22日1960年代以降のデザイン界で、世界的に高い評価を受けたデザイナー倉俣史朗。彼は当時、一世を風靡した飲食店や服飾店の店舗デザインを手がけ、独創的な家具も発表。その作品は日本以上に、ヨーロッパで広く注目された。しかしキャリアの絶頂期だった’91年に、56歳の若さで、心不全により突如亡くなってしまう。その早すぎる死のため「伝説のデザイナー」とも呼ばれた彼の、作品と人物像に迫る展覧会が始まる。倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙倉俣は、父の勤務先である本郷の理化学研究所内の社宅で9歳まで育つ。当時の理研は研究棟から工場、テニスコートも完備されたひとつの街で、建物内には当時珍しかった洋式トイレや大理石のエントランスホールがあり、実験用のガラス瓶や金属も身近だった。倉俣と聞いてアクリルやガラスなどの素材を思い浮かべる人も多いが、それには幼少時代が大きく影響していると考えられる。本展では独立前のアパレル会社「三愛」時代の仕事に始まり、後の年代を4パートに区切り、彼の仕事をテーマごとに紹介する。なかには「倉俣史朗の私空間」として、愛蔵の書籍やレコードなども展示。エピローグでは、イメージ・スケッチとあまり公開されてこなかった夢日記や言葉をまとめて紹介し、倉俣史朗のデザインとその神髄を検証する。デザイン黎明期の日本にあって、なぜ倉俣は色褪せることのない名作をこれほど数多く残せたのだろうか。本展を見れば、その頭の中も覗くことができるかもしれない。倉俣史朗イメージスケッチ「ミス・ブランチ」 1980年代クラマタデザイン事務所蔵©Kuramata Design Office倉俣史朗スケッチブック「言葉 夢 記憶」より1980年代クラマタデザイン事務所蔵©Kuramata Design Office貴重なスケッチ画も。上は〈ミス・ブランチ〉構想中のスケッチ。下は夢の記憶が記されたもの。ポエティックな文章も魅力的。倉俣史朗《引出しの家具》1967年富山県美術館蔵©Kuramata Design Office椅子か収納かを問う「引出しの家具」シリーズの1作目。倉俣史朗ショップ「スパイラル」1990年撮影:淺川敏©Kuramata Design Office六本木のAXISビルにあったインテリア店もこの内装で有名に。倉俣史朗《ミス・ブランチ》1988年富山県美術館蔵撮影:柳原良平©Kuramata Design Office映画『欲望という名の電車』のミス・ブランチへのオマージュとして作った倉俣の代表作。倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙世田谷美術館 1階展示室東京都世田谷区砧公園1‐211月18日(土)~2024年1月28日(日)10時~18時(入場は閉館の30分前まで)月曜(1/8は開館)12/29~1/3、1/9休一般1200円ほかTEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)※『anan』2023年11月22日号より。文・山田貴美子(by anan編集部)
2023年11月21日東京・新宿のSOMPO美術館で、「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」が開かれています。本展では、日本でも人気の高い画家、フィンセント・ファン・ゴッホ(1853~1890)が描いた静物画に焦点をあて、国内外から油彩画が集結。彼が影響を受けた画家たちの作品も見ながら、ゴッホの変遷をたどることができる展覧会です。静物画を見なければ、ゴッホは語れない!「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」展示室入り口※本記事の写真は、プレス内覧会で許可を得て撮影しています。【女子的アートナビ】vol. 318本展では、ゴッホの画業のなかでも静物画にフォーカスして、彼の初期作から晩年の大作まで25点の油彩画を紹介。さらに、ヨーロッパにおける静物画の歴史のなかで、ゴッホが影響を受けたドラクロワやマネ、モネなど、著名な画家たちの作品もあわせて展示。出展作品全69点を通して、彼が何をどのように学んでいったのか、画業の変遷をたどることができます。展覧会を担当されたSOMPO美術館上席学芸員の小林晶子さんは、次のように述べています。小林さんゴッホは、当初、人物を描く画家になりたかったので、静物画に対してそれほど興味をもっていませんでした。絵を学ぶ鍛錬のためのものが静物画でした。鍛錬しているうちに自分の芸術を確立し、静物画のなかでも「ひまわり」が自分の代表作であると思うようになりました。本展のキャッチコピーは「静物画を見なければ、ゴッホは語れない」です。ゴッホがどんなふうに鍛錬して、代表作を描くまでに至ったのか、静物画の歴史もあわせてご覧いただけます。ハーグ時代の初期作からスタート!フィンセント・ファン・ゴッホ《麦わら帽のある静物》1881年クレラー=ミュラー美術館蔵、オッテルロー © 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands最初の章では、まずゴッホが油彩画に取り組み始めたハーグ時代の初期作からスタート。《麦わら帽のある静物》は1881年に描かれたものです。その前年、27歳のときに、ゴッホは画家になることを決意。ブリュッセルの王立美術アカデミーに通い、その後、オランダ南西部のハーグで、画家マウフェから指導を受けました。「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」展示風景1章の前半では、17世紀のオランダ絵画もあわせて展示。ヨーロッパ絵画史のなかで、静物画というジャンルが確立したのは17世紀ごろといわれています。当時、市民階級が豊かになったネーデルランド(現在のオランダ)では、身の回りの事物や工芸品などをリアルに描いた小さな静物画が流行。市民たちは、それらを自宅に飾り楽しんでいました。静物画について、はじめは油彩を描くための修業としてとらえていたゴッホは、瓶や壺、鳥の巣など伝統的なモチーフを描いていました。ゴッホ、ドラクロワに学ぶ!「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」展示風景1章の後半では、19世紀の静物画を展示。ドラクロワやピサロ、ルノワールなどの華やかな作品が並んでいます。ゴッホは、特にドラクロワ作品の色彩に感銘を受け、弟のテオに手紙で作品や制作姿勢について語っています。ドラクロワは、ゴッホの作品に大きな影響を与えた画家のひとり、といわれています。1886年、パリに移住したゴッホは、印象派の明るい作品からも影響を受け、初期のころと比べると、色彩も描き方も大きく変化しました。会場に展示されているパリ初期時代の花作品は、驚くほど色彩が鮮やか。ゴッホの画風の変化がよくわかります。ゴッホ、モンティセリに学ぶ!アドルフ=ジョゼフ・モンティセリ《花瓶の花》1875年頃 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー © 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands2章では、花の静物画に焦点を当てて紹介。ここで注目したいのが、ゴッホと同時代の画家、アドルフ=ジョゼフ・モンティセリ(1824-1886)の作品《花瓶の花》です。彼は、肖像画や静物画などを手がけ、筆跡が残るタッチや絵具を厚塗りする描き方など、当時としては珍しい表現をしていた画家です。ゴッホは、モンティセリの作品を収集し、表現方法や技法も参考にしたといわれています。モンティセリ作品に似たようなゴッホの絵も、近くに展示されています。ゴッホがモンティセリからどう学んだのか、描き方など比べてみるとおもしろいです。ゴッホの代表作が登場!フィンセント・ファン・ゴッホ、左:《アイリス》 1890年 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)Van Gogh Museum, Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation)、右:《ひまわり》 1888年 SOMPO美術館本展のハイライト、ゴッホの代表作《ひまわり》と《アイリス》は2章で登場!さまざまな画家の作品から影響を受け、静物画を通して修業していたゴッホが、いよいよ自身のスタイルを確立。《ひまわり》は1888年、《アイリス》は1890年に描かれています。強烈な色彩、荒々しいタッチ、厚塗りの絵具などは、ゴッホの代名詞ともいえる表現法ですが、本展を見ていくと、彼が独自に生み出したのではなく、さまざまな作品から学んでいたことがわかります。画風を確立したゴッホですが、《ひまわり》を制作した1888年に、画家仲間のゴーギャンと口論して、自分の耳を切り、アルルの病院に入院。その後、サン・レミ・ド・プロヴァンスにある病院で精神科の治療を受けました。《アイリス》を制作した後、1890年の7月に37歳で死去。銃で自らを撃ったと伝わっています。ゴッホに影響を受けた画家たちの作品も!「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」展示風景最後の章では、ゴッホ、ポール・ゴーギャン、ポール・セザンヌなど「ポスト印象派」と呼ばれた画家たちの作品や、ゴッホから影響を受けたモーリス・ド・ヴラマンクの作品などを紹介。新しい静物画のスタイルを切り拓いていった画家たちの、自由で革新的な作品を楽しめます。静物画を通してゴッホの変遷をたどることができる展覧会は、2024年の1月21日まで開催。人気の展覧会なので、ぜひ日時指定予約をしてお出かけください。Information会期:~24年1月21日(日)会場:SOMPO美術館時間:10時~18時(ただし11月17日(金)と12月8日(金)は20時まで)※最終入場は閉館30分前まで休館日:月曜日(ただし1月8日は開館)、年末年始(12月28日~1月3日)観覧料:一般¥2,000(¥1800)、大学生¥1,300(¥1100)※()内は日時指定料金問い合わせ先:050-5541-8600(ハローダイヤル)
2023年11月19日今や外国人観光客の多くが「日本の最大の魅力」と答えるほど、世界中が注目している和食。その本質に迫る特別展「和食~日本の自然、人々の知恵~」では、日本列島の自然が育んだ食材や、人々の知恵によって生み出された技術、和食の成り立ちなどを、バラエティ豊かな標本や資料とともに、科学や歴史など多角的な視点から全6章で解き明かしていく。知れば知るほど食べたくなる!和食が進化した理由。まず注目したいのは食材の豊富さ。食の基本となる水をはじめ、キノコ、山菜、野菜、海藻、魚介類と、恵まれた環境にある日本列島。この地がもたらす食材について、会場では実物大模型やレプリカ、標本などで紹介する。例えば、日本の野菜は実はほとんどが外国原産。その野菜がどうやって日本に渡ってきたのか、品種改良によってどれだけの種類が生まれたか、その系譜から驚くべき事実がわかる。また、昨今注目されている発酵の技術や、出汁についても、科学的な視点から解説する。もうひとつ、和食の発展を知る上で重要なのが歴史。会場では卑弥呼や徳川家康など、歴史上の偉人たちの食卓を再現模型で紹介するほか、江戸時代のファストフード・寿司、天ぷら、そばの屋台も再現。さらに、古代から発展し続けてきた道具と料理人の技術、そして四季折々の風景と美しい料理の映像インスタレーションも楽しめる。未来へと続く和食の展望紹介も、見どころのひとつだ。いつの時代も、日本の伝統食の基本にあったのはおもてなしの心。そんな心温まる事実を読み取ることができるのも本展の魅力だ。織田信長が徳川家康をもてなした本膳料理の再現模型 奥村彪生監修 御食国若狭おばま食文化館蔵信長が家康に用意した宴席では5つの膳に24種もの料理が並んだ。奈良時代の貴族の宴会料理の再現模型 奥村彪生監修 奈良文化財研究所蔵奈良時代の貴族の食事は米、海の幸、山菜など15品目も。多彩な地ダイコンのレプリカ(2020年の展示風景) 国立科学博物館蔵日本に流通する代表的な大根の種類を紹介。各地に固有種も。マグロの実物大模型(2020年の展示風景) 国立科学博物館蔵魚の多彩さは世界屈指。イワシからマンボウまで実物標本も。特別展「和食~日本の自然、人々の知恵~」国立科学博物館東京都台東区上野公園7‐20開催中~2024年2月25日(日)9時~17時(入場は閉館の30 分前まで)月曜(12/25、1/8、2/12、2/19は開館)、12/28~1/1、1/9、2/13休一般2000円ほかTEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)※『anan』2023年11月8日号より。文・山田貴美子(by anan編集部)
2023年11月06日東京・上野にある東京都美術館で、「永遠の都ローマ展」が開かれています。本展では、ローマの観光地としても人気のカピトリーノ美術館から多くの作品が来日。古代彫刻の傑作をはじめ、油彩画や版画、貨幣など多彩な作品を楽しめる展覧会です。歴史あるカピトリーノ美術館から来日!カンピドリオ広場のカピトリーノ美術館©Roma, Sovrintendenza Capitolina ai Beni Culturali【女子的アートナビ】vol. 317イタリアの首都、ローマにあるカピトリーノ美術館は、世界でもっとも古い公共美術館のひとつ。1471年に、時の教皇シクストゥス4世が《カピトリーノの牝狼》などの古代彫刻4点をローマ市民に寄贈したことからはじまり、その後、1734年にローマの古代遺物や彫刻、名家が所蔵していた美術品などが一般に公開されるようになりました。カピトリーノ美術館が建つカンピドリオ広場は、あの有名なミケランジェロが構想。美しい敷石のデザインなどが目を引く観光客にも人気のスポットです。そんな由緒ある美術館から、貴重な彫刻や絵画、版画など古代から近代までの作品が数多く来日。ほかにもローマ美術館など国内外の作品をあわせた約70点の展示作品を通して、ローマの芸術を堪能できます。ローマの建国者はオオカミに育てられた…?!《カピトリーノの牝狼(複製)》 20世紀(原作は前5世紀) ローマ市庁舎蔵本展は、5章構成。第1章、「ローマ建国神話の創造」では、ブロンズや大理石像、貨幣などの作品を通して、古代ローマ建国を伝える有名なエピソードを知ることができます。まず展示室に入ると、ローマのシンボルともいえる作品《カピトリーノの牝狼(複製)》が出迎えてくれます。古代ローマ神話によると、ローマの建国者ロムルスと弟レムスは、軍神マルスと巫女レア・シルウィアの間に生まれた双子。しかし、王位をめぐる争いに巻き込まれてローマのテヴェレ川に捨てられ、その後オオカミに乳を与えられて育ったと語られています。この伝説から、ローマ建国のシンボルとして、双子に乳を与える牝狼の姿が描かれた作品が多くつくられるようになりました。会場には、オオカミと双子がデザインされた紀元前の貨幣や鏡なども展示されています。高さ約1.8メートルの巨大な顔!「永遠の都ローマ展」展示風景第2章「古代ローマ帝国の栄光」では、頭部だけで高さが約1.8メートルもある巨大彫刻《コンスタンティヌス帝の巨像》の一部を原寸大で複製した作品が登場!この像は、先述したカピトリーノ美術館が誕生するきっかけとなった古代彫刻のひとつ。ローマ帝国の繁栄がダイレクトに伝わる迫力ある作品です。同じ展示室にある《コンスタンティヌス帝の巨像の左手(複製)》も、大きくて見ごたえ抜群。この左手がもっている球体は、ボールではないようです。本展公式サイト内の「ローマクイズ」によると、「地球・真珠・たまご」のうちのどれかが正解。ヒントは、支配者の象徴です。詳しくは、下記Information欄に載せた公式サイトでご確認ください。美しすぎる…!門外不出のヴィーナス初来日!《カピトリーノのヴィーナス》 2世紀カピトリーノ美術館蔵次の展示室に進むと、本展のハイライト作品《カピトリーノのヴィーナス》が登場!本作品は、ミロのヴィーナス(ルーヴル美術館)、メディチのヴィーナス(ウフィッツィ美術館)と並ぶ古代ヴィーナス像の傑作のひとつ。前かがみの姿勢で、手で胸元などを隠す“恥じらい”のしぐさが特徴的で、ドキドキするほどの美しさです。その美しさから、1797年、ナポレオンがローマに遠征した際、フランス軍により接収され、ルーヴル美術館に収蔵されてしまいました。ナポレオン敗北後はローマに返還され、1834年からカピトリーノ美術館に展示されています。その後は同館から出たことがほとんどなく、今回がなんと2回目とのこと。まさに門外不出の作品です。ちなみに、筆者は数年前にローマを訪れた際、カピトリーノ美術館で本作品を見てきました。八角形の「ヴィーナスの間」に展示されていたのは、本作品だけ。でも、その展示室には特に多くの観光客が集まり、みなさん熱心に鑑賞されていました。そんな美術館の顔ともいえる人気作品を、イタリアから遠く離れた日本に貸してくれるなんて、本当に奇跡。おそらく二度とないチャンスだと思います。見ごたえある絵画も!「永遠の都ローマ展」展示風景続く第3章「美術館の誕生からミケランジェロによる広場構想」では、カピトリーノ美術館の起源やミケランジェロの広場設計などについて紹介。カンピドリオ広場の設計を担当したミケランジェロのアイデアが伝わる版画作品などを見ることができます。絵画好きな人が特に楽しめるのは、第4章「絵画館コレクション」の展示室。16世紀から18世紀に活躍した画家たちによる見ごたえある油彩画が並んでいます。なかでも、イタリア・バロックの巨匠、ピエトロ・ダ・コルトーナが描いた《教皇ウルバヌス8世の肖像》は必見作のひとつ。教皇が着ている服やレースの質感などが驚くほど緻密に表現されています。「永遠の都ローマ展」展示風景第5章「芸術の都ローマへの憧れ─空想と現実のあわい」では、ナポレオンなどの為政者や多くの芸術家たちを魅了したローマ美術について、版画や模型などで紹介。イタリアの古代建築や風景などを数多く描いた画家、ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージによる3メートル近い細密版画《トラヤヌス帝記念柱の正面全景》などが展示されています。最後の「特集展示カピトリーノ美術館と日本」では、カピトリーノ美術館と日本とのつながりを紹介。1873年、明治政府が派遣した岩倉使節団がカピトリーノ美術館を視察し、彼らの経験は日本の博物館政策や美術教育に影響を与えました。意外なつながりを知ることで、よりカピトリーノ美術館が身近に感じられます。レストランとのコラボも!本展の開催を記念して、レストランとのコラボも実施されています。アトレ上野EAST1階にある「ブラッスリー・レカン」では、「永遠の都ローマ展」特別コラボレーションメニューを展開。古代ローマ時代から食されていた食材を使用したり、出品作品からインスピレーションを受けたシェフ特製のオリジナルコースがあったりして、展覧会の余韻にたっぷりひたれそう。「ブラッスリー・レカン」は、上野駅の旧貴賓室を利用した優雅な雰囲気の店内が大人気。おしゃれな空間でおいしい料理を味わいながら、古代ローマの芸術に思いをはせてみるのもよさそうです。「永遠の都ローマ展」の会期は12月10日(日)まで。Information会期:2023年9月16日(土)~12月10日(日)会場:東京都美術館休室日:月曜日開室時間:9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)観覧料:一般¥2,200 、大学生・専門学校生¥1,300 、65歳以上¥1,500※土日・祝日のみ日時指定予約制(当日の空きがあれば入場可)問い合わせ先:050-5541-8600(ハローダイヤル)
2023年11月05日東京のアートシーンを牽引する美術館とギャラリーなど50の参加施設を無料のシャトルバスでつなぐ現代アートの祭典「アートウィーク東京」が、11月2日(木)から5日(日)まで、4日間にわたって開催される。「アートウィーク東京(略称:AWT)」は、一般社団法人コンテンポラリーアートプラットフォームと世界最高峰のアートフェア「アートバーゼル」が提携して実施する国際的なアートイベント。日本の現代アートの創造性と多様性、そしてそのコミュニティを国内外に発信するプロジェクトとして発足し、今年は昨年よりもさらに規模が大きくなった。参加する39のギャラリーは、日本の現代アートの草分けとして歴史を紡いできた老舗やアート界に新風を吹き込む新進ギャラリー、海外に拠点をもつギャラリーやアーティストが運営するスペース、さらに企業が運営するインスティテューションなど、その多彩さが目を引く。参加美術館も、東京国立近代美術館や東京都現代美術館、森美術館など、国公立から私立まで個性あふれる11館が名を連ねる。今回新たに開始する「AWT FOCUS」では、アート市場の活性化を目指す“買える展覧会”として、歴史ある大倉集古館において『平衡世界日本のアート、戦後から今日まで』と題した展覧会が開催される。滋賀県立美術館ディレクター(館長)・保坂健二朗をアーティスティックディレクターに迎え、64名の作家による100点を超える作品を通して日本の近現代美術のキーワードを再考する同展は、参加ギャラリーを介して出展作品を購入できるユニークな企画となっている。そのほか、子供向け展覧会の開催や、建築と食とアートを五感で味わえる期間限定のコミュニティスペースの設置、映像作品の上映、シンポジウムやラウンドテーブルの開催、レクチャーのオンライン配信など、様々なプログラムが予定されている。アート通からビギナーまで、幅広い層に向けた盛りだくさんの内容だが、来場者の足を支えるのが無料のシャトルバスAWT BUSだ。各施設を結ぶ7つのルートで、午前10時から午後6時まで約15分おきに巡回し、どの停留所からでも乗り降り自由。いつもより気軽に、美術館やギャラリーをはしごして、東京のアートシーンを堪能したい。<開催情報>「アートウィーク東京」会期:2023年11⽉2⽇(⽊)〜11⽉5⽇(⽇)時間:10:00〜18:00会場:都内50の美術館/インスティテューション/ギャラリー大倉集古館(AWT FOCUS)、AWT BAR、ほか各プログラム会場公式サイト:
2023年10月30日東京・六本木のサントリー美術館で、「激動の時代幕末明治の絵師たち」が開かれています。本展では、近年人気を集めている歌川国芳や河鍋暁斎、「血みどろ絵」で注目されている月岡芳年が手がけた個性的な作品などが集結。学芸員さんのお話や見どころなど、詳しくご紹介!迫力アートが集結!「激動の時代幕末明治の絵師たち」会場入り口※本記事の写真は、プレス内覧会で許可を得て撮影しています。【女子的アートナビ】vol. 316本展では、江戸後期から明治に移り変わる激動の時代に活躍した絵師たちに着目。江戸時代の伝統を受け継ぎながら、洋風の新たな表現なども取り入れた多彩な作品約170件が紹介されています。展覧会を担当されたサントリー美術館学芸員の内田洸さんは、次のように述べています。内田さん江戸後期は、天保の改革や流行り病、地震や災害、黒船来航、討幕運動など混沌とした時代でした。そのなかで、美術の世界では、劇的で迫真的な描写や怪奇的な画風が生まれ、西洋画の画法を本格的に取り入れた作品も出てきました。この時代に活躍した絵師は全国各地にいますが、本展では特に江戸・東京で活躍した絵師たちを特集しています。極彩色のアートからスタート!「激動の時代幕末明治の絵師たち」より、手前:狩野一信「五百羅漢図」百幅のうち六幅嘉永7~文久3年(1854-63)大本山増上寺所蔵【全期間展示】では、おもな見どころをご紹介。「第1章幕末の江戸画壇」では、19世紀の江戸で活躍した絵師たちの作品を展示。会場に入ると、鮮やかな極彩色で描かれた「五百羅漢図」が出迎えてくれます。これは狩野一信が描いたもので、増上寺が所蔵する全百幅のうち、選び抜かれた六幅が展示されています。伝統的な仏画ですが、洋風の陰影表現が取り入れられ、とてもインパクトのある作品です。江戸画壇で中心的な存在だった狩野派は、江戸後期になると、伝統を守るだけでなく、やまと絵や琳派、西洋画法なども幅広く取り入れるようになりました。その門下からは、狩野一信のように、従来の狩野派とは違う独創的な作品を描く絵師も出てきます。また、1章では、幕末の江戸で活躍していた谷文晁(たにぶんちょう1763~1840)一門の作品も展示。弟子のなかのひとり、「蛮社の獄」で捕らえられ、二年後に切腹した渡辺崋山の作品も出品されています。独特な洋風画も!「激動の時代幕末明治の絵師たち」展示風景「第2章幕末の洋風画」では、西洋画法を取り入れた絵師たちの作品を展示。葛飾北斎に学び、独自の洋風表現を確立した安田雷洲(やすだらいしゅう)の肉筆画などを見ることができます。当時の絵師たちについて、内田さんは次のように解説されています。内田さん江戸時代は、鎖国状態で海外の情報は限られていましたが、19世紀になると銅版画や洋書が流入し、陰影法や遠近法を取り入れた多彩な絵が描かれるようになります。当時の絵師たちは、それらを見ながら独特な洋風表現を生み出していきました。人気の国芳作品が登場!「激動の時代幕末明治の絵師たち」フォトスポット「第3章幕末浮世絵の世界」では、人気浮世絵師たちの作品が登場!19世紀になると、浮世絵の世界にも新たなジャンルが出てきます。それまでは役者絵や美人画が中心でしたが、葛飾北斎や歌川広重による名所絵や花鳥画が人気となり、さらに歌川国芳の武者絵も流行。彼らの弟子たちも含めて、多くの絵師たちが活躍しました。会場では、国芳が手がけた三枚続きのワイドな画面で構成された大判錦絵も楽しめます。さらに、国芳の人気作品《相馬の古内裏》がデザインされたフォトスポットもあります!遺体を観察して…「激動の時代幕末明治の絵師たち」より、左から、月岡芳年「風俗三十二相しなやかさう天保年間傾城之風俗」大判錦絵明治21年(1888)サントリー美術館蔵【展示期間:10/11~11/6】、月岡芳年「魁題百撰相菅谷九右ヱ門」大判錦絵慶応4年(1868)町田市立国際版画美術館【展示期間:10/11~11/6】最後の「第4章激動期の絵師」では、幕末明治期の作品を紹介。残酷な流血場面などを描いた「血みどろ絵」で人気を博した月岡芳年や、狩野派で学んだあと幅広い作品を描いた河鍋暁斎、幕臣として鳥羽伏見の戦いに参戦したあと浮世絵師となり、新しいスタイルの浮世絵「光線画」を生み出した小林清親など、近年注目を集める絵師たちの作品が集まっています。月岡芳年の作品について、内田さんは次のように解説。内田さん芳年は、歌川国芳の系譜を受け継ぎながら、幕末から明治に活躍した人です。今回展示している作品「魁題百撰相(かいだいひゃくせんそう)」は、彰義隊と新政府軍との間におこった上野戦争をモチーフにしたシリーズです。現実の戦争を描くことはできないので、歴史上の人物に重ねて表現しています。芳年は、実際に戦争のあと上野を訪れて、遺体が並ぶ様子を観察していたといわれています。12月3日まで開催本展では、作品保護のため、会期中に展示替えが行われます。「出品作品リスト」(PDF)は公式サイトでダウンロード可能。リストで展示期間なども確認できますので、気になる作品があればぜひご活用ください。会期は12月3日(日)まで。Information会期:2023年10月11日(水)~12月3日(日)会期中展示替を行います。休館日:火曜日※11月28日は18時まで開館開館時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)※11月2日(木)、22日(水)は20時まで開館※いずれも入館は閉館の30分前まで会場:サントリー美術館観覧料:一般¥1,500 / 大学・高校生¥1,000
2023年10月27日浮世絵以降、最も愛された版画家「世界のムナカタ」の大回顧展。「生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ」をご紹介します。ドキュメンタリー映像に残る、板に額をすりつけるように一心不乱に彫る姿は一度見たら忘れられない。現代を代表する版画家・棟方志功の大回顧展が始まる。故郷・青森、疎開先の富山、芸術活動の中心地・東京と、各地域との関わりを軸に、1956年のヴェネチア・ビエンナーレの大賞受賞作をはじめ、ゴッホに憧れた若き日の油彩画、生涯取り組んだ「倭画(やまとが)」(自作肉筆画の呼称)、名デザイナーの一面が覗く装丁まで「世界のムナカタ」の全容を紹介。子どもの頃から強度の近視で後に左目を失明。わずかに見える右目を頼りに創作を続けた棟方は、「板の声を聞き、板の生命を彫り起こす」という信念から自作の版画を「板画(はんが)」と称した。版木に残る鋸目(のこぎりめ)を生かした墨色の面、丸刀で彫った白い線というスタイルを確立。公共建築の壁画を手がけたことで浮世絵以来、本のように眺めて楽しむものだった版画の可能性を拡大した立役者とも。ドラマや戯曲の主人公として繰り返し演じられ、愛用の眼鏡や彫刻刀が「ムナカタ・モデル」として販売されるなど本人への注目度も高かったよう。幸福な作家人生の秘密はどこに?本物の熱量から感じて。棟方志功《飛神の柵》(とびがみのさく)1968年棟方志功記念館棟方志功《ホイットマン詩集抜粋の柵》「Perfections」》1959年(1961年摺)棟方志功記念館棟方志功《華厳松》1944年躅飛山光徳寺むなかた・しこう1903年、青森県に生まれる。1928年、油画《雑園》で帝展初入選。1932年以降、版画に道を定め、文士や民藝運動のメンバーと交流を深める。1956年、第28回ヴェネチア・ビエンナーレ国際版画大賞受賞。1970年、文化勲章受章。1975年没。撮影:原田忠茂生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー東京都千代田区北の丸公園3‐1開催中~12月3日(日)10時~17時(金・土曜は~20時。入館は閉館の30分前まで)月曜休一般1800円ほかTEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)※『anan』2023年10月25日号より。文・松本あかね(by anan編集部)
2023年10月24日世界屈指の温泉地として知られる、大分県別府市。温泉を目指して市街を歩くと、至る所にアートがちらほら。そこは知る人ぞ知る、熱々の〈アートと温泉〉のまちでした。沸々と盛り上がる、まち全体のアート文化。近年、地方での芸術祭開催が活発化する中、地域性との親和を図りながら、地に足の着いたアート文化を発展させてきた大分県別府市。今や当たり前のようにアートが息づくまちづくりは、実は2005年から約20年もの年月をかけて行われ、その中心に、NPO法人「BEPPU PROJECT」の存在がある。「別府には(第2次世界大戦の)空襲を免れた歴史的背景があります。戦前からの古い路地や街並みが多く残るまちに、温泉を中心としたコミュニティや文化が受け継がれてきました。このまちをアーティストがどう捉え、表現するのか見てみたかったというのが活動のきっかけです。近年は温泉だけでなくアートのまちでもあるというイメージが浸透しつつあり、面白い活動やお店も増え、印象が大きく変わりました」(「BEPPU PROJECT」代表理事・中村恭子さん)また、移住者や留学生が多いことも特徴の一つ。移住支援を行う施設「TRANSIT」や、アーティストの居住・制作環境に活用されている元下宿アパート「清島アパート」をはじめ、移住者のサポートが充実している印象だ。「港町であり、観光地として発展してきた別府は、多様なものを受け入れることに慣れています。古くから、さまざまな国籍やバックグラウンドを持った人たちが共に暮らしてきたまちなので、アーティストも馴染みやすいのだと思います。昨今は移住してきたアーティストが地域で活躍する機会も増え、彼らの新たなものの見方や活動が、地域や社会に面白い影響を及ぼすことも。アーティストの移住・定住を促進することによって、彼らが地域に根差しながら小さな変化を起こし続けてくれることを願っています」さらに今年からは「Art Fair Beppu」もスタート。そんな別府の文化を全身で体感できるスポットを「BEPPU PROJECT」、「HAJIMARI Beppu」、編集部のリサーチでセレクトし、別府駅から徒歩圏内のエリアでおすすめします。ALTERNATIVE‐STATE[Onsenbouquet]/浴衣と、温泉などに用いられるタイルから着想を得た柄が、別府市内の至る所に出現。「ALTERNATIVE‐STATE」は、半年ごとに1組のアーティストを招聘し、4年間で8つの作品を制作するアートプロジェクト。現在までに3作品が公開。写真は、生活に根ざす柄や模様をモチーフに巨大絵画を生み出すアーティスト、マイケル・リンの作品。別府市元町4‐13ブルーバード会館の巨大壁画(別府市北浜1‐2‐12)ほか市内各所末広温泉/アート作品を通じて、別府の原風景を知る。地元の方々に愛され、休業を経て’21年に有志で営業を再開した、戦前からの歴史を誇る味わい深い公共温泉。別府市の「清島アパート」出身でもある画家、大平由香理さんが風呂場の壁面に直接ペイント。柔らかくも鮮やかなカラーで、由布岳(女湯、写真)、鶴見岳(男湯)が描かれている。入浴料1回¥200別府市末広町4‐20山田別荘/記憶を継いだステンドグラスが輝く内風呂。古き良き邸宅の雰囲気が残る温泉旅館「山田別荘」の建物はなんと1930年建造。なかでもひときわ華やぐのは女湯(写真)。かつて別府市鉄輪にあった大衆演劇場「ヤングセンター」のステンドグラス補完計画の一環で、当館に引き取られた。立ち寄り湯も可能(¥500/不定休)。別府市北浜3‐2‐18TEL:0977・24・2121青山珈琲舎/ランチは一面のサンドイッチに見惚れたい。うっとりしてしまう『青山珈琲舎』の名物「サンドイッチバイキング」。お皿にびっしり、テーブルいっぱいの陳列はもはや芸術。味は日替わり、常時30~40種類が揃うので飽きる心配もご無用。リピーターの多いコーヒーのドリップパックもお見逃しなく。50分¥1,300別府市青山町7‐58TEL:0977・25・8098(予約不可)@aoyamacoffeebeppuALTERNATIVE‐STATE[Watertower 10:Beppu City, 2023]9月22日に公開された「ALTERNATIVE‐STATE」3作目は、ブルックリン発のアーティスト、トム・フルーインの代表的なシリーズの最新作。カラフルな素材には、大分県内で集めたアクリルが再利用されている。プロジェクトは今後も順次拡大予定。北浜公園(別府市北浜1)夜間点灯は日没~23:00※『anan』2023年10月25日号より。写真・山口 明(by anan編集部)
2023年10月24日東京・上野にある東京国立博物館 平成館で、特別展「やまと絵 ―受け継がれる王朝の美―」が開かれています。本展では、245件もの日本美術の名品が集結。そのうち、7割以上が国宝・重要文化財という大変ゴージャスな展覧会です。見どころや展示風景、グッズ売り場の様子など、詳しくご紹介します!夢のような展覧会!特別展「やまと絵 ―受け継がれる王朝の美―」展示風景※本記事の写真は、プレス内覧会で許可を得て撮影しています。【女子的アートナビ】vol. 315特別展「やまと絵 ―受け継がれる王朝の美―」では、平安時代から室町時代までに制作されたやまと絵の名品、優品を展示。特に、日本絵巻の最高傑作といわれる「四大絵巻」が10月22日まで30年ぶりに東京国立博物館に集結したことが話題となっています。平安時代前期に成立したやまと絵は、平安時代から鎌倉時代頃は日本の人物や風景を描いた作品を指していました。中国由来の唐絵(からえ)や漢画(かんが)との交渉を繰り返しながら、やがてそれぞれの時代の最先端のモードを取り入れ、変化し発展していきました。本展について、東京国立博物館 学芸研究部調査研究課 絵画・彫刻室長の土屋貴裕さんは、次のように述べています。土屋さんやまと絵は、日本の美術史のなかでメインストリームとも呼ぶべき主題。やまと絵の歴史を見ることは、日本美術の歴史そのものを追うことになります。今回は、平安から室町時代までに限ってご紹介しているので、密度の濃い内容になっています。日本美術全集や教科書で見るようなものがほぼそろう、夢のような展覧会です。やまと絵の歴史をざっくり特別展「やまと絵 ―受け継がれる王朝の美―」展示風景より、手前は国宝《山水屛風》鎌倉時代・13世紀京都・神護寺所蔵展示期間:10月11日(水)~11月5日(日)では、見どころをピックアップしてご紹介。最初の「序章伝統と革新―やまと絵の変遷―」では、やまと絵の歴史をざっくりと捉え、屛風作品を中心に展示されています。ここでの必見作は、現存最古のやまと絵屛風といわれる国宝《山水屛風》(京都・神護寺蔵)。美しい山の景色のなかに、日本の貴族や庶民の営みなどが描かれている作品です。この章では、室町時代に描かれた重要文化財《浜松図屛風》(東京国立博物館蔵)も展示。金銀の色彩を使って浜辺と松の絵を描いたダイナミックな作品で、先述の国宝《山水屛風》と比べてみると、やまと絵が時代とともに変化したことがわかります。日本絵巻の最高傑作が登場!特別展「やまと絵 ―受け継がれる王朝の美―」展示風景より、国宝《鳥獣戯画》甲巻平安~鎌倉時代・12~13世紀京都・高山寺所蔵展示期間:10月11日(水)~22日(日)続く「第1章やまと絵の成立―平安時代―」では、平安時代末に制作された「四大絵巻」が登場!四大絵巻とは、《源氏物語絵巻》、《信貴山(しぎさん)縁起絵巻》、《伴大納言(ばんだいなごん)絵巻》、《鳥獣戯画》のことで、すべて国宝に指定されています。国宝《源氏物語絵巻》は、愛知・徳川美術館と東京・五島美術館が所蔵。紫式部の「源氏物語」を絵にしたもので、12世紀前半に制作されました。王朝貴族の雅な暮らしが伝わる美しい絵巻物です。国宝《信貴山縁起絵巻》は、平安時代末期作。奈良の信貴山朝護孫子寺が所蔵するもので、信貴山に毘沙門天をまつった僧、命蓮(みょうれん)の奇跡のストーリーを描いた絵巻です。米俵が空を飛んだり、村人たちの動きや表情がユーモラスに描かれていたりして、細部まで楽しめます。東京・出光美術館が所蔵する国宝《伴大納言絵巻》も、平安時代末期作。866年に起きた応天門の放火事件をめぐる物語を描いたもので、応天門が炎上する場面や、火事場に集まってくる人々の姿などが生き生きと描かれています。みんな大好きな国宝《鳥獣戯画》(京都・高山寺蔵)は、ウサギやカエルが出てくる甲巻が一番有名。擬人化された動物たちが水遊びをしたり、相撲をとったりする場面などが描かれています。なお、二週間ごとに展示替えがあり、何度も通えば次々と違う場面を楽しむことができます。第1章では、ほかに貴族たちの美意識が込められた美しい調度経本や能書たちによる貴重な書の作品、工芸品なども展示されています。紫式部や妖怪の絵巻も!特別展「やまと絵 ―受け継がれる王朝の美―」展示風景より、重要文化財《紫式部日記絵巻断簡》鎌倉時代・13世紀東京国立博物館所蔵「第2章やまと絵の新様―鎌倉時代―」では、鎌倉時代の新しいやまと絵を紹介。武家社会になり、写実的なものも好まれるようになった時代といわれますが、平安時代を懐かしむ作品も見ることができます。ここでの必見作は、来年のNHK大河ドラマで注目を集める紫式部に関する作品です。そのうちのひとつ、重要文化財《紫式部日記絵巻断簡》(東京国立博物館蔵)では、藤原道長と、その娘の彰子などが色彩豊かに描かれ、見ごたえがあります。特別展「やまと絵 ―受け継がれる王朝の美―」展示風景より、重要文化財《百鬼夜行絵巻》伝土佐光信筆室町時代・16世紀京都・真珠庵所蔵会期中、展示替えあり「第3章やまと絵の成熟―南北朝・室町時代―」では、成熟期のやまと絵を展示。金銀を使ったキラキラと輝く華やかな作品や、妖怪が出てくるユニークな絵巻《百鬼夜行絵巻》(重要文化財、京都・真珠庵蔵)も楽しめます。「第4章宮廷絵所の系譜」では、天皇の近くで絵を描いていた宮廷絵師の仕事を紹介。さらに「終章やまと絵と四季―受け継がれる王朝の美―」では、桜や柳、田園風景などを描いた美しい作品《日月山水図屛風》(重要文化財、東京国立博物館蔵)をはじめ、室町時代の屛風などが展覧会の最後を華やかに飾ります。長場雄さんとのコラボグッズが超クール!本展は、オリジナルグッズもゴージャスです。特に注目したいのは、人気アーティスト・長場雄さんと展示作品のコラボグッズ。国宝《鳥獣戯画 甲巻》(京都・高山寺蔵)と、重要文化財《土蜘蛛草紙》(東京国立博物館蔵)をモチーフに長場さんが描き下ろしたアートワークがTシャツやトートバッグなどのグッズになって登場しています!長場さんのシンプルな線で描かれた鳥獣戯画のウサギやカエルたちのイラストは、めちゃくちゃクール。ここでしか買えない貴重なグッズです。本展は、12月3日まで開催。一部作品の展示替えや絵巻の場面替えも多いので、ぜひ何度も足を運んでみてください。Information会期:2023年10月11日(水)~12月3日(日)会期中、一部作品の展示替えおよび巻替えあり休館日:月曜日(ただし本展のみ11月27日(月)は開館)開館時間:9時30分~17時00分※金曜・土曜は20時00分まで開館(総合文化展は17時00分閉館、ただし11月3日(金・祝)より、金曜・土曜は19時00分閉館)※最終入場は閉館の60分前まで会場:東京国立博物館 平成館観覧料:一般¥2,100 / 大学生¥1,300 / 高校生¥900 /中学生以下無料※土・日・祝日のみ事前予約制(日時指定)
2023年10月22日東京・江東区にある東京都現代美術館で、「デイヴィッド・ホックニー展」が開かれています。日本で27年ぶりとなる大型個展は、開幕当初から大人気。世界のファンが欲しがる画家公認グッズも注目されています。本展の見どころや会場の様子など、詳しくご紹介!86歳の現役アーティスト!「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景、東京都現代美術館、2023年© David Hockney※本記事の写真は、プレス内覧会で許可を得て撮影しています。【女子的アートナビ】vol. 314デイヴィッド・ホックニーは、1937年イングランド北部のブラッドフォード生まれ。86歳の現役アーティストです。ロンドンの王立美術学校を首席で卒業したあとアメリカに拠点を移し、西海岸の陽光あふれる情景を描いて人気を博します。その後、ロンドンやパリ、ロサンゼルスなどで制作を続け、現在はフランスのノルマンディーに拠点をおいて新作を発表しています。世界で高い評価を受けているホックニーは、これまで欧米を中心に大規模な個展を開催。ロンドンのロイヤルアカデミーやパリのポンピドゥー・センターで開かれた展覧会では、来場者がそれぞれ60万人を突破。まさに、現代を代表するスター画家のひとりです。ホックニー作品の特徴について、本展の担当学芸員、楠本愛さんは次のように解説しています。楠本さんホックニーは、具象絵画を中心に制作を続けてきた画家です。目の前の世界をどのように見て、それをどのように描くのか。「見る」と「描く」というのは、絵画において根源的な探求です。また、近年の特徴のひとつは、iPadでの制作です。ホックニーは、2010年のiPad発売後すぐに入手して、制作に使っています。もうひとつの特徴は、デジタル写真を使った作品制作です。本展でも、これらの作品を見ることができます。感動的な花の作品からスタート!「デイヴィッド・ホックニー展」東京都現代美術館、2023年左:《花瓶と花》1969年東京都現代美術館所蔵、右:《NO.118、2020年3月16日「春の到来ノルマンディー2020年」より》2020年作家蔵© David Hockney展覧会は8章構成で、最初の1章は、二つの花の作品からはじまります。ひとつは、東京都現代美術館のコレクション。1969年のエッチング作品で、花瓶に入ったラッパ水仙とその影が描かれています。もうひとつは、2020年にiPadで描かれたラッパ水仙です。この小さな作品を最初に展示した理由について、楠本さんは次のように述べています。楠本さんこれらは、二つの意味において象徴的な作品です。ひとつは、本展のコンセプトとして、ホックニーの60年以上にわたる制作の根底にある一貫性をご紹介したいという思いがありました。彼の作品は、一見するとさまざまな表現、画材、技法を使っていますが、実は描いているモチーフは、目の前にある身近なモノです。ラッパ水仙や親しい友だち、家族や風景など、同じモチーフを異なる表現で描いているのです。そのことをお示しするために、50年前と現在のラッパ水仙の絵を並べて展示しています。もうひとつの意味は、2020年に制作されているという点です。2020年3月、コロナが始まった時期にノルマンディーでこの絵を描き、そのあとすぐオンライン上に作品が公開されました。そのときのヘッドラインが、本展最初の章タイトル「春が来ることを忘れないで」になっています。これは、ホックニーからのメッセージです。当時、毎日不安なニュースが流れるなかで、これからどうなるのか、世界がどうなるのか、とみなが思っていた時期に、非常に鮮やかな色彩で、すっくと伸びる花の絵を描きました。これを見た方々は、非常に励まされたと思います。小さな作品ですが、強い感動を見る人に与えてくれると思います。西海岸の作品は必見!「デイヴィッド・ホックニー展」東京都現代美術館、2023年左:《スプリンクラー》1967年東京都現代美術館所蔵、右:《ビバリーヒルズのシャワーを浴びる男》1964年テート所蔵© David Hockney続く前半の章は、おもに時系列で作品が並び、最近の作品も数点展示されています。ここでの必見作は、《スプリンクラー》。アメリカ西海岸にいる中産階級の日常を描いた作品のひとつです。鮮やかな緑の芝生の上でスプリンクラーが水しぶきを上げている場面を描写した作品ですが、人物は描かれておらず、少しミステリアスな雰囲気も漂っています。ロンドンからアメリカに移住したホックニーは、開放的な西海岸で明るい色彩の作品を次々と生み出し、脚光を浴びます。本作品《スプリンクラー》は、東京都現代美術館が所蔵する作品です。実は、同美術館は1995年の開館に合わせてホックニーの作品をまとめて所蔵し、現在150点ものコレクションがあります。これは国内だけでなく、世界の美術館のなかでも特別なことで、コレクションを通じて作家とも良い関係を構築。1996年にホックニーの版画展を開催し、今回の展覧会は2回目の大型個展となっています。(なお、本展のチケットで見られる「MOTコレクション」展の会場にも、現在ホックニーの作品が展示されています)幅90メートルの絵画も登場!「デイヴィッド・ホックニー展」東京都現代美術館、2023年<春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年>より© David Hockney後半の章では、2000年代以降に制作された作品が紹介されています。近年の作品は、すべて日本初公開。見ごたえある作品がそろっています。後半の必見作、ひとつは<春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年>。2011年冬の終わりから夏のはじめにかけて、移り行く季節を描いたシリーズです。このなかには、iPad作品のほか、油彩で描かれた絵も含まれています。油彩画は、32枚のカンヴァスを組み合わせた大きな絵画で、鮮やかな自然の中に没入できるような迫力ある作品です。「デイヴィッド・ホックニー展」東京都現代美術館、2023年《ノルマンディーの12か月》(部分)2020-2021年作家蔵© David Hockneyもうひとつの見どころは、横幅が90メートルもある風景画《ノルマンディーの12か月》です。長年、東洋の絵巻物に関心を持っていたホックニーは、コロナによるロックダウンが続くなかで身近な自然を見つめ、横長の壮大な絵巻風の作品を完成させました。展覧会のクライマックスを飾るこの大作は、写真撮影もOK。画家が見つめ続けた自然の世界を、ぜひ会場で体感してみてください。公式グッズも大人気!「デイヴィッド・ホックニー展」東京都現代美術館、2023年ホックニー展ショップ© David Hockney本展では、公式グッズも注目されています。ホックニー公認のグッズは、世界でも手に入れるのが難しいといわれているそうです。また、展覧会の公式カタログも、表紙がかわいいと大評判!サイズも手ごろな大きさで、展示作品のほか、ホックニーの対談なども収録されていて、読みごたえがあります。© David Hockney世界のホックニーファンが憧れる各種グッズを、ぜひ特設会場でご覧になってみてください。なお、グッズは品切れになっている場合もありますので、あらかじめご了承ください。Information会期:2023年7月15日(土)~11月5日(日)休館日:月曜日(10/9は開館)、10/10開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)会場:東京都現代美術館企画展示室 1F/3F観覧料:一般¥2,300 / 大学生・専門学校生・65歳以上¥1,600 / 中高生¥1,000 / 小学生以下無料
2023年10月13日東京・上野の東京国立博物館の本館 特別5室で、特別展「京都・南山城の仏像」が開かれています。本展で仏像大使を務めているのは、イラストレーターのみうらじゅんさんと作家・クリエイターのいとうせいこうさん。大人気の展覧会オリジナルグッズを開発したお二人に、グッズ誕生話などを語っていただきました!仏像大使は、みうらじゅんさんといとうせいこうさん!左:いとうせいこうさん、右:みうらじゅんさん【女子的アートナビ】vol. 313特別展「京都・南山城の仏像」では、京都最南部に位置する南山城(みなみやましろ)地域にある浄瑠璃寺(じょうるりじ)や海住山寺(かいじゅうせんじ)、禅定寺(ぜんじょうじ)などに伝わるさまざまな仏像を紹介。平安時代につくられた国宝の《阿弥陀如来坐像(九体阿弥陀のうち)》や重要文化財の《十一面観音菩薩立像》など、平安から鎌倉時代までの貴重な名作仏像ばかりが集められています。本展で仏像大使を務めるのは、みうらじゅんさんといとうせいこうさん。展覧会のオリジナルグッズも開発されたお二人に、グッズ制作の秘話などを語っていただきました!Tシャツに込められた気持ちは…――今回、5つのグッズを開発されたとのことで、まずは神々しい阿弥陀如来坐像の絵がプリントされたTシャツについて教えてください。みうらさんこれは、僕が最初のグッズ企画会議のとき持ち込んだ絵。頼まれてもいないのに、描いてきたものです。先に開催された奈良国立博物館での展覧会でも、東京のほうでも好評と聞いていますよ(笑)。いとうさんそう、はやっているみたいだよね、みうらさんの絵。男性でも女性でも着やすいデザインだし、みうらさんと僕の後ろ姿も入っているので、宗教色だけにならずいい感じで、ばっちりでしたね。みうらさん絵の左下、“見仏”してるのがいとうさんの後ろ姿だとわかったうえで着ると、また気持ちが上がるんじゃないかな?いとうさんえ!?(笑)。どういうこと?みうらさんつまり、Tシャツを着ている人々のお腹のあたりにいとうさんがいるわけで、効力として胃腸を守ってくれてるわけで(笑)。いとうさんなるほど(笑)。ある種のおめでたさと、みなさんの健康を祈るという気持ちが入ったTシャツなんですね。爆売れ「おくすり手帳」誕生秘話――薬師如来坐像が表紙にデザインされたおくすり手帳も、奈良博のときに数千冊も売れたそうで、ネットでも話題になっていました。この企画は、どんなきっかけで生まれたのですか?いとうさん二人でやっている自主ラジオ番組の『ラジオご歓談!』で、あるとき、おくすり手帳の話になったんだよね。この「おくすり手帳」という名前自体が、妙齢の自分たちにはこそばゆい感じがした、とかそんな話になって。みうらさんそうそう。既製のものはいろいろあるけど、僕らが使えそうなグッとくるおくすり手帳がない。ちょうど展覧会にも薬師如来の仏像がお出ましだから、そりゃ薬師如来のおくすり手帳が欲しいよ、とね。いとうさん薬師如来は、手に薬壺を持っていて、そのなかに誰でも治せる万能の薬が入っている、というのが昔から伝わる信仰なんですよ。それで、ラジオでおくすり手帳の話をしたあと、薬剤師の人がメールをくれて、おくすり手帳のデザインに決まりはない、と教えてくれたんですよ。みうらさんだってね。だったら自由につくれると思ったんだよね。薬剤師さんも納得のデザインだと自負しています(笑)。いとうさん 誰でも使うものだから。家族みんなが必要ですよね。みうらさんこれなら、“見仏”の旅にも持っていけますね。急に病気になったとき、便利ですよ。朱印帳代わりにはなりませんが、このお弁当についているシール、ちょっとかわいいな、と思ったら、貼ってもいいですよね、思い出として。いとうさん思い出はやめてください(笑)。それは、高校生の女の子がやるようなものでしょ。これは薬剤師さんが見るものだから、違うシールが貼ってあったら困りますよ。みうらさん承知しました(笑)。お薬のシールだけにしてください。いとうさんでも、本当におくすり手帳は大好評だね。今後、おくすり手帳のマーケットを変える可能性がある商品でしたよね。みうらさん僕ら、仏像大使ではなく、結局グッズ大使ですからね(笑)。牛頭天王キャップのこだわりポイント――牛頭天王のワッペンがついたキャップも、人気があるそうですね。いとうさん当初から、牛頭天王を使いたいと思っていて。牛頭は、あやしい力を持つので、ぜひキャップにつけたいという想いが強くあったし、みうらさんはGOZUという文字を入れたいというこだわりがあったよね。みうらさんそう、ヘビーメタル感を入れたかったもんで(笑)。そもそも、キャップだけでも高いですから。お得だと思いますね、GOZUキャップ。いとうさん高いから、そんなに売れないと思っていたら、奈良では売り切れていたんだよね。みうらさんだってね。世の中、変わりましたね(笑)。ずいぶん前から、展覧会のグッズ企画を出してきましたけどね。僕ら下町ロケットはさ。いとうさん下町ロケット!?(笑)みうらさんいやいや、仏像ロケットですか(笑)。なかなかヒットは飛ばせなかったけど、今回は、こんな宣伝までさせてもらって本当、ありがたいですね。アクリルスタンドの使い方は…――不動明王立像のアクリルスタンドも、奈良では一時完売になったそうですね。いとうさんアクリルスタンドの時代がきていますね。この不動明王は、神童寺にあるもので、僕の“推し仏”のひとつです。不動明王は、邪悪なものに打ち勝つ炎を後ろに背負っています。このお寺の不動は、一般的なスタイルと少し異なり、童子のように膝小僧を出していて、昔、そのあたりを走っていた村の小僧のような雰囲気があるのです。これがアクリルスタンドになって、売れているのがうれしいですね。みうらさんこのアクリルスタンド、おしゃれなスイーツと一緒に写真を撮るといいですよ。僕、この前、はじめておしゃれなカキ氷を食べて、それがメロン1個まるごと入っているような感じで、まるで仏様の螺髪(らほつ)みたな状態でメロンが載っていて。このアクリルスタンドと一緒に写真を撮ってインスタに乗せるといいなぁって思いました(笑)。あとは、手のひらに収まるちょうどいい大きさだから、JRの改札もこれをピッとすれば通れるんじゃないかな?いとうさんSuicaじゃないですから(笑)。十一面観音の見分け方は…――定番グッズの光仏シリーズ、今回は十一面観音が光る仏様になっています。いとうさん光仏シリーズは、電気を消すと仏の姿が浮かび上がるのですが、今回はペンになっています。光る十一面観音が導いてくれます。みうらさん十一面観音は、頭に十の面がついていて、手には水瓶(すいびょう)を持っておられます。もし、街で水瓶を持っている人を見かけたら、「あっ、十一面観音だ!」と思いがちですが、違いますから(笑)。いとうさんそれは、ただ水瓶を持っている人なんですね(笑)。みうらさんですね。いとうさんじゃあ、もし、その人の頭上に十のお面がついていたら?みうらさんそれは、確実に十一面観音です。現世にお出ましになられたということになります。いとうさん救いがあるということですね(笑)。とにかく見てください!――最後に、仏像初心者の人に向けて、この展覧会の楽しみ方を教えていただけますか。いとうさん初心者の方は、仏像について、いろいろ知らなければとプレッシャーに感じるかもしれませんが、それは取り払って、とにかく見てください。仏像って、訳がわからないんですよ。なんで頭の上にたくさん顔があるんだろう、なんで手が千本もあるんだろうって、そのことにいちいち驚けばいいと思うのです。驚いてショックを受けたあと、本を読んでみてもいいし、千本もある手がすごいなと悪夢を見てもいい。美術として驚き続けることもできますし、信仰の気持ちがあってもいい。美術と信仰、片方でも両方でもいいんです。みうらさんこの展覧会のメインは、浄瑠璃寺の阿弥陀如来坐像です。今回、その仏像の修復が終わったことを記念して展覧会が開かれています。東京には一体が展示されていますが、実際現地に行くと、九体の阿弥陀如来が横並びにずらりと、ロイヤルストレートフラッシュ状態におられます。だから、この展覧会を見られた方は、ぜひ浄瑠璃寺に足を運んで、お堂ごと体感してほしいですね。おすすめです。――ありがとうございました!仏像大使は音声ガイドにもゲスト出演!仏友同士であるお二人のトーク、いかがでしたか。難しそうな仏像の話も、お二人が語ると身近で親しみやすく感じられます。本展の音声ガイドでも、みうらさんといとうさんの仏像トークを楽しめます。(音声ガイドナビゲーターは、俳優・タレントの横山由依さんです!)ぜひ、音声ガイドを聴きながら展覧会を楽しみ、見終わったあとはオリジナルグッズもご覧になってみてください。Information会期:2023年9月16日(土)~11月12日(日)会場:東京国立博物館本館特別5室開館時間:9時30分~17時00分(入館は閉館の30分前まで)※11月3日(金・祝)、4日(土)、10日(金)、11日(土)は19時00分時まで休館日:月曜日、10月10日(火)※10月9日(月・祝)は開館観覧料:一般 ¥1,500、大学生 ¥800、高校生 ¥500※本展は事前予約不要です
2023年10月08日東京・六本木にある国立新美術館で、「イヴ・サンローラン展時を超えるスタイル」がはじまりました。本展の音声ガイドナビゲーターは、声優・俳優の津田健次郎さん。今回、サンローランの服をステキに着こなされた津田さんに、展覧会のご感想やファッションのことなど、お聞きしてきました!津田健次郎さんが音声ガイドに!津田健次郎さん【女子的アートナビ】vol. 312本展は、“モードの帝王”と呼ばれ、ファッション界の第一線で活躍してきた天才デザイナー、イヴ・サンローラン(1936-2008)の没後日本ではじめて開催される大回顧展です。1958年、21歳の若さでディオールのデザイナーとしてデビューしたイヴ・サンローランは、1962年に自身のブランドを発表。2002年に引退するまで、世界のトップデザイナーとして走り続けました。彼の40年にわたる活動を、ルック110体を中心に、アクセサリーやドローイング、写真も含めた262点で紹介。イヴ・サンローラン美術館パリの全面協力を受けて開催される、眼福かつゴージャスな展覧会です。本展の音声ガイドナビゲーターを務めるのは、津田健次郎さん。本展の内覧会に登壇した津田さんにインタビューも行い、展覧会やファッションのことなど、いろいろお聞きしてきました!尖ったぶっ飛んだスタイルも!――まず、サンローランの服がとてもお似合いですね。着られてみて、いかがですか?津田さんスタイリッシュな感じがします。それに、ラインがきれいです。前から、サンローランはラインがきれいだと思っていましたが、着ると改めて実感しました。スタイルをよく見せてくれる洋服だと思います。――今回の展覧会をご覧になって、全体のご感想を教えていただけますか。津田さんすごくバリエーションが豊かです。12章立てになっているのですが、章ごとに雰囲気が違い、本当に豊かな世界が広がっているのです。現代でも着られるような洋服もかなり展示されていて、1点1点とてもステキでしたね。「イヴ・サンローラン展時を超えるスタイル」展示風景――お気に入りのルックはありましたか?津田さん展覧会のポスターにもなっている、モンドリアンの絵をモチーフにした作品は、かっこいいなと思いました。イヴ・サンローランのアートシリーズは、ほかにもゴッホなど芸術家の作品からインスピレーションを得て、再構築して洋服にされたものがあり、彼はアレンジャーとしてもすばらしい方だと思いました。また、男性のタキシードをアレンジして女性バージョンにしたものとか、その隣にあったジャンプスーツとかも本当にすばらしいと思います。尖ったぶっ飛んだスタイルもたくさんあり、楽しかったですね。「バブーシュカ」ウエディング・ガウン 1965年秋冬オートクチュールコレクション――ぶっ飛んだスタイルというのは、どのルックですか?津田さんマトリョーシカからインスピレーションを受けたウエディング・ガウンです。インスピレーションが爆発しているな、と感じました。かわいいのだけれど、きれいでもあるし、恐ろしく手が込んでいます。あのデザインを思いついて、本当に服にしてしまうというのがすごいし、パンチ力がありますね。ファッションは、商業ベースに絶対に乗せていかなければならない世界。彼は、商業思考の脳みそを持ちつつ、芸術家でもあり、このバランスが、いわゆる画家などのアーティストとはまた違う部分なのかな、と思います。また、彼は、フランスを中心としたファッション界でオートクチュール(仕立服)を成功させただけでなく、アメリカの大量消費社会でプレタポルテ(既製服)も受け入れられました。ヨーロッパだけでなくアメリカでも受け入れられたというのが、彼のすごいところのひとつだと思います。もうリスペクトしかない…――音声ガイドを担当されていますが、おすすめポイントはありますか。津田さん音声ガイドは、ナレーションがメインのものが多いですが、今回のガイドはナレーションだけでなく、サンローランの名言も出てきます。そこは声の雰囲気を変えているので、ぜひ多くの方に聴いていただきたいですね。まず、作品を見て、ご自分のインスピレーションでいろいろ感じていただいて、そのうえで作品にまつわる音声ガイドを聴いていただけると、また情報量が増えて、世界が深くなったりするので、その順番がおすすめです。「イヴ・サンローラン展時を超えるスタイル」展示風景――音声ガイドで、イヴ・サンローランの人生にも触れられていますが、彼の生き方についてはどう思われましたか。津田さん21歳でディオールを継ぐ、というのは驚異的だと思います。それで自身のメゾンを開いて、すごいスピードでファッション界に躍り出る。彼の才能が開花するスピードに衝撃を受けました。華やかな世界で、華やかな作品をたくさん世に生み出して、しかもトレンドの最前線で戦っていた人ですが、この方はめちゃくちゃ静かな方なのではないか、と音声ガイドをしていて思いました。恐ろしくナイーブな方なのだな、と。本展でも、「想像上の旅」という章がありますが、彼は頭の中で旅をするという作業が一番好きで、それがクリエイティブの根源にあったのではないかな、と思いました。あとは、ご本人がかっこいい。スーツとメガネが本当にステキですよね。あのメガネ売っていないかな(笑)買いたくなっています。――イヴ・サンローランは、仕事に対して完璧主義だったと伝わっていますが、その姿勢についてはどう思われますか?津田さんもう、リスペクトしかないですね。そこまで到達できる表現者は、やはりなかなかいないと思います。まずは、そういう仕事の環境を獲得できるのがすごいことです。あとは、尽きない情熱。最後の最後まで追い込んでいく、という姿勢です。特にファッションは、ひとりの作業でつくれるものではないので、職人さんとともに、もしくはカンパニーとして、ひとつひとつの洋服を本当に極限まで追い込んでつくっていく。その姿勢と、折れない表現の力、強い信念、すごく学ぶべきものがありますよね。今回、音声ガイドの仕事で彼のことを詳しく知り、今日、実際に作品を見せていただいて、「すごいっ!」とひれ伏したくなりました。表現というものは、時代とともについえていくものでもあるのですが、サンローランの服は残る気がします。地域や時代を超えて、残っていくすごみを感じました。感動して拍手したくなる「イヴ・サンローラン展時を超えるスタイル」展示風景――今回はファッションの展覧会ですが、アートの展覧会などにも行かれますか。津田さん芝居の仕事をするなかで、できるだけ自分のなかから出てくる独自のものを表現していきたいと思っているので、いろいろインプットするように心がけています。そのひとつが、美術館に行くことです。――どんな美術展に行かれましたか?津田さん今年は、マティスやシーレ、佐伯祐三などの展覧会に行きました。どれもすばらしかったですね。例えば、マティスは表現を突き詰めていった末、晩年に切り絵のスタイルになりますが、その切り絵が超ハッピーな感じなのです。おじいちゃんになって、新たにドーンと飛び出したような感じで。そんなポップな切り絵を展示室で見たとき、本当に感動して、拍手喝さいしたくなりました。ブラボーで、スタンディングオベーションしたくなるほどの気持ちでした。その後、最晩年にマティスはロザリオ礼拝堂の設計を手がけますが、切り絵で爆発したポップが教会のデザインに着地していくのです。美術館に行くと、キュレーターさんの想いも伝わり、それらも含めてすごく感動します。――津田さんの感動が伝わってきます。ほかにも、記憶に残る展覧会はありますか?津田さん以前見たゲルハルト・リヒター展は、特にすごかったです。なかでも、《ビルケナウ》という有名な絵がある展示空間は、本当にすばらしかったです。展示室内に4つの絵画作品が並び、その作品の複製が向かいに並び、その横には横長の鏡の作品があり、鏡の反対側にはアウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所の写真があるのです。この空間自体がアートだな、と思いました。現代美術というのは、どんな角度で物事をとらえるのかが大事だと思うのですが、その部分をリヒターの作品で深く体験できました。リヒターという作家は幅が広くて、手法をどんどん変えいくのです。自分がやってきたものが膠着しそうになると、また技法を変えて試していく。絵画とは、アートとは何か、という彼の表現に対する恐ろしいほどの探究心に圧倒されました。――ありがとうございます。では、最後に、展覧会に来られる方にメッセージをお願いいたします。津田さん今回の「イヴ・サンローラン展時を超えるスタイル」、本当に写真だけでは伝わらない作品が多数ありますので、ぜひ実物を見に来ていただけたらと思います。刺繍やスパンコールのすごさとかも実物を見ていただきたいですし、超一流の職人さんが一年がかりでつくっている作品もあります。そして、ぜひ音声ガイドとともにご覧いただけたらうれしいです。――ありがとうございました!取材を終えて…上品なサンローランのスーツがとてもお似合いだった津田さん。イヴ・サンローランの才能や、好きなアートについて語るときの熱量が非常に高く、表現者としてさまざまな人や作品をリスペクトされているお姿に感銘を受けました。そんな津田さんの美しく魅力的なボイスがたっぷり聴ける音声ガイドとともに、展覧会を楽しんでみてください。©︎ Musée Yves Saint Laurent ParisInformation会期:~2023年12月11日(月)休館日:毎週火曜日会場:国立新美術館企画展示室1E時間:10:00〜18:00※毎週金・土曜日は20:00まで※入場は閉館の30分前まで観覧料:一般¥2,300大学生¥1,500高校生¥900音声ガイド貸出価格:¥650(税込)※お一人様一台につき
2023年10月07日デュア・リパやSexy ZoneのMVを手掛けるNOSTALOOK。’70~’90年代に放送されていた“セルアニメ”の質感を追求するアニメーション制作集団に、その創作のコンセプトを語っていただきました。ラブコメの要素が詰め込まれたオリジナル作品『ロマンティックアンモナイト』のキービジュアル。【NOSTALOOK】セル画にロマンを求める架空のアニメーション制作。コロナ禍であまり楽しいニュースがないとき、レトロなものが好きだった’90年代生まれのメンバーが集まって結成されたNOSTALOOK。彼女たちは架空のアニメのロゴやキャラクター、グッズを制作するところからスタートし、実際にアニメの予告編まで作り上げた。「幼い頃に見ていた懐かしいアニメの話で盛り上がるうちに“こんなアニメ、あったかもね”と、先にタイトルから着想したのが『ロマンティックアンモナイト』で。そこから設定がどんどん膨らんで、予告編まで作ってしまいました」彼女たちが描くのは、’70~’90年代を中心とした、少し懐かしいテイストのアニメーション。CGも使い、デジタルで描画される現代のアニメ制作とはそもそも手法が異なる、“アナログ”で味のあるセルアニメの世界に強く惹かれた。「デジタルの時代になって、使える色の数も増えましたし、エフェクトや処理なども言ってしまえば無限にできるようになりました。一方で、手作業が主だったアナログ時代は、絵の具や使える色の数も決まっていて、背景もすべて手描き。様々な制約があるなか、“引き算”の演出で作られている映像にリスペクトがあります」NOSTALOOKとして制作する上でのテーマは、セルアニメ時代の技術や絵柄、演出を、デジタル環境で再現すること。参照する作品やシーンのイメージをチームで共有し、その時代やジャンルの魅力を現代に持ち込むことを意識している。「ファッションやメイクと同じように、絵柄にも流行り廃りがあって、瞳の大きさや幅、骨格の描き方も時代によって違います。“’80年代のこの絵柄”とか、“’90年代のこの演出”というふうに、過去のセルアニメで描かれた細かな違いや変遷を再現しながら、その素晴らしさを今の人たちに伝えたいと思っています」そのありそうでなかった“懐かしさ”が話題となり、グラミー賞を受賞した世界的ポップシンガーであるデュア・リパや、Sexy ZoneのMVなどを手掛けるように。ファンタジーの世界やバブリーな都会の風景を、懐かしいアニメーションで描き出してきた彼女たちがこれから目指す映像とは?「可愛い女の子をたくさん描いてきたので、これからはカッコいい男性キャラや、暑苦しい男を描いてみたいですね。あとは、小さい動物が出てくるアニメや、’90年代初頭のギャグアニメを詰め合わせたような作品を制作して、子供にも楽しんでもらいたいです」セルアニメ手作業で作画・撮影されたアニメーションの制作手法。セルとはセルロイドの略で、かつて絵をトレース・撮影するための透明なシート(セル)の材質として用いられていたことからこの名前が付いた。アニメ黎明期から’90年代中盤まではセルアニメが主流であったが、2000年代になると大半がセルを用いず、コンピューター上で絵をつなぎ合わせるデジタル制作に移行。ちなみに、日本のテレビアニメでは、2013年までセルアニメを続けていた『サザエさん』が最後のセルアニメ作品。最新アニメーションをananで初公開!SNSにアップされる最新作は、’90年代ギャグアニメをモチーフにした内容。キャラクターの頭身が伸び縮みしたり、目に炎が描かれていたり、“アニメらしい”デフォルメ表現が満載となっている。ノスタルック’90年代生まれのメンバーが集まった、日本のアニメーションアートプロジェクト。’70~’90年代に流行したアニメを彷彿とさせる、懐かしい世界観を特徴としている。※『anan』2023年10月4日号より。取材、文・森 樹(by anan編集部)
2023年10月02日“テルマエ”とは「熱い」という意味のギリシャ語「テルモス」に由来する言葉。狭義には古代ローマの皇帝らによって建設された大規模公共浴場を、広義には古代ローマの公共浴場全体を指す言葉だ。4世紀に記された2種類の『ローマ市総覧』によれば、当時ローマ市内には大規模な公共浴場は11軒、小規模な公共浴場は856~951軒もあったというから馴染み深いのもうなずける。古代ローマ人も日本人も大好きだった風呂の真実に迫る。©ヤマザキマリ「テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本」は、そんなテルマエを愛した古代ローマの人々の生活を、絵画や彫刻、考古資料など100点以上の作品や、映像や模型でひもとくもの。会場では、実写映画化もされたヤマザキマリによる漫画『テルマエ・ロマエ』の主人公ルシウスが案内人となり、古代ローマのテルマエと、日本の入浴文化についても紹介。そもそも、なぜ古代ローマで公共浴場は広く浸透していたのか?公共浴場はローマ人の発明ではなく、そのルーツは古代ギリシャ発の施設にあった。ただ、それを大衆の娯楽へと発展させたのはローマ人だった。帝政初期、特権階級と大衆の格差はかつてないほどに広がっていた。下層民が住むのは高層の集合住宅で、住空間は極めて狭く、水道もなければ台所や風呂の設備もなかった。皇帝たちは貧困にあえぐ大衆のストレスを解消すべく、娯楽を提供する。そのひとつであるテルマエは、大衆からの人気を得るのに大いに役立ち、何人もの皇帝がローマに巨大なテルマエを建設した。一方、日本の風呂が清めの場として仏教とともに寺院に広まったのが6世紀頃。江戸時代には町中に湯屋が誕生し、現代の入浴スタイルが定着する。本展では日本の入浴に関する美術品や資料も展示。古代ローマ人に劣らない日本人の風呂好きの歴史も見どころのひとつだ。大規模なテルマエには、皇帝や浴場の建設者の肖像のほか、神々の像や古代ギリシャの有名作品のコピーなど数多くの大理石彫刻が飾られていた。《恥じらいのヴィーナス(ウェヌス・プディカ)》1世紀 ナポリ国立考古学博物館蔵 Photo©Luciano and Marco Pedicini古代ローマ時代の富裕層の暮らしを描いている。饗宴を催すことができたのは、家に台所があり奴隷がいる者だけだった。《ヘタイラ(遊女)のいる饗宴》1世紀 ナポリ国立考古学博物館蔵 Photo©Luciano and Marco Pedicini豊富に温泉の湧く日本では、古くから地域の温泉が住民に利用されてきた。本展では山梨の温泉の資料も展示し、地域の魅力を伝える。三浦宏《湯屋模型》1980年代 個人蔵 撮影:石﨑幸治健康や医療とも直結する入浴。ギリシャのイスキア島ニトローディの温泉では、泉の精たちが疫病を祓う神アポロと共に祀られる。《アポロとニンフへの奉納浮彫》2世紀 ナポリ国立考古学博物館蔵 Photo©Luciano and Marco Pedicini「テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本」山梨県立美術館山梨県甲府市貢川1‐4‐27開催中~11月5日(日)9時~17時(入館は閉館の30分前まで)月曜(10/9は開館)、10/10休一般1000円ほかTEL:055・228・3322※『anan』2023年9月27日号より。文・山田貴美子(by anan編集部)
2023年09月24日東京・上野の森美術館で10月20日から「モネ 連作の情景」がはじまります。本展のナビゲーターは、俳優の芳根京子さん。今回、モネゆかりの地フランスを訪れた芳根さんに、モネやアートの魅力について、語っていただきました!芳根京子さんがナビゲーター!芳根京子さん【女子的アートナビ】vol. 311印象派の巨匠、クロード・モネ(1840-1926)の人生に影響を与えた第1回印象派展が開かれたのは1874年。それから150年の節目を迎えることを記念して開かれる「モネ 連作の情景」では、フランスやアメリカ、ドイツなど世界各地や日本の美術館などからセレクトされた代表作60点以上が展示されます。本展では、特にモネの「連作絵画」にスポットをあてて紹介。同じ場所やモティーフを異なる時間や季節で描いた「連作」という表現手法は、画家の代名詞にもなっています。有名な〈睡蓮〉や〈積みわら〉をはじめ、ノルマンディー地方の景勝地〈エトルタ〉などの作品も展示される予定。初来日作品もあり、新たなモネの世界を発見できる展覧会になりそうです。そんな芸術の秋にぴったりの展覧会でナビゲーターを務めるのが、俳優の芳根京子さん。本展の記者発表会に登壇した芳根さんにインタビューも行い、モネやフランス旅のことなど、いろいろお聞きしてきました!私で大丈夫かな、と…クロード・モネ《睡蓮の池》1918年頃 油彩、カンヴァス 131.0×197.0cm ハッソ・プラットナー・コレクション © Hasso Plattner Collection――まず、ナビゲーターに就任されたご感想を教えてください。芳根さんアートはそれほど詳しくないので、私で大丈夫かな、と思いました。でも、母が美大出身なので、母と一緒に美術館に行く機会はこれまで何度もありました。「アートをもっと知りたい」という気持ちはあったので、このお仕事に飛び込ませていただきました。私のようにアートに詳しくないけど興味がある、という方などが、今回の展覧会に足を運ぶきっかけになったらうれしいです。――この夏、本展特別番組撮影のためフランスに訪れたそうですね。どんな場所に行かれましたか?芳根さんモネの故郷であるフランスで、彼の人生をたどる旅をしてきました。モネが見てきた世界、描いてきた景色や作品も見ましたし、後半生を過ごした自宅も訪れました。――フランスでご覧になったモネの作品で、印象に残っているものはありますか?芳根さんインパクトが強かったのは、オランジュリー美術館にあった睡蓮の作品です。360度モネの作品に囲まれるので、ステキでした。また、ずっと見入ってしまった作品は、マルモッタン美術館にあった《印象、日の出》です。本物の景色を見ているような不思議な気持ちになり、ずっと見ていられる感じでした。実際に、モネが見たであろうリアルな日の出もル・アーヴルで見せていただいたのですが、その場所は特に印象的な建物があるわけではなく、きれいな日の出が見やすい場所でした。モネは、そんな日常の自然の景色を魅力的に切り取る力が高かったのだな、と感じました。まさか私の人生で行けるとは…――モネは日本好きとしても知られていますが、今回の訪問で日本を感じられる場所はありましたか?芳根さんモネが後半生に住んでいたジヴェルニーの家を訪問したとき、家の中に浮世絵がたくさん飾られていました。また、庭には日本風の橋がかかっていて、全体的に「和」を感じました。その庭園は、派手ではないけれど美しさがあり、モネは日本のことがお好きだったのだな、と感じました。――日本とは遠く離れたフランスで、日本を感じられる庭園をご覧になっていかがでしたか。芳根さんすごくうれしかったです。モネの庭は、アートについて詳しくない私でも知っているような場所でしたが、まさか私の人生で行けるとは思っていませんでした。そこでは、庭を手入れされている庭師の方ともお話をさせていただいたのですが、高知にある「モネの庭」にも関わっていらっしゃると聞いたので、さっそく高知行きの飛行機を予約しました(笑)。「モネの黒」を見てみたいクロード・モネ《昼食》1868-69年 油彩、カンヴァス 231.5×151.5cm シュテーデル美術館© Städel Museum, Frankfurt am Main――今回の展覧会で、注目している作品はありますか?芳根さんフランスで睡蓮の池を見てきたので、やはり睡蓮の作品です。国内外から集められた睡蓮の絵がまとめて見られるというので、とても楽しみです。また、今回はじめてフランスに行ったので、パリの街並みを描いた作品も見てみたいです。実際にパリを見てから絵を見ると、「そうそう、パリはこんな感じ」と思えそう(笑)。あとは、初来日の《昼食》も楽しみです。モネが黒い色を使うのは珍しいそうなので、「モネの黒」を自分の目で見たいです。――モネ作品、どんなところがお好きですか?芳根さん光もすばらしいと思いますが、五感で楽しめる絵のような感じがします。実際に、そんなことないのですが、絵から香りがするような気がするのです。また、絵によってそこに流れている空気が違う気がして、体験型みたいな、目だけではない楽しみ方があるなと思いました。――展覧会では音声ガイドも担当されます。これから収録があるそうですが、意気込みを教えてください。芳根さん音声ガイド収録ははじめてなので、とにかく絵を見ている方のお邪魔にならないよう、寄り添えるものになるよう心掛けたいと思います。またモネにあまり触れたことがない方も、モネの絵を見て音声ガイドを聴いて、「モネ好きだな」と思ってもらえたらうれしいです。実際にフランスに行く前と行った後では、モネに対する思いが本当に違うので、そんな私だから表現できる音声ガイドになればと思います。モネに親近感――モネの人生は平坦ではなく、いろいろあって一流の画家になっていきますが、そんな彼の人生をどう思いますか?芳根さんモネは、一人前の画家になるために、悩んで葛藤して、いろいろなものを乗り越えてきました。ただの天才ではなく、ちゃんと悩んで前に進んだ人なのだなと思い、同じ人間のような感じがしてホッとしますし、親近感がわきます。あれだけの作品を生み出しているので、自信家であってもおかしくないと思うのですが、そうではなく、人間味があります。目を患いながらも絵を描き続け、傑作を生み出しているというのがすごいです。――ちなみに、モネは美食家としても知られていますが、芳根さんがフランスで食べて印象に残っているものはありますか?芳根さん毎日食べていたのは生ハムでした。朝からホテルで食べて、昼も夜も食べて(笑)。もともと生ハムは好きでしたけれど、これほど毎日3食全部食べていたのは、本当においしかったからだと思います。全然飽きないのです(笑)。フランスらしいお料理では、ガレットもよかったです。母に解説してあげたい――あまりアートに詳しくないと仰っていましたが、今回のお仕事で何か変わりましたか?芳根さん今まで、アートは知識がないと楽しめないのかな、と自分の中で勝手にハードルを上げてしまう部分があったのですが、このお仕事をきっかけに母と美術館回りをはじめ、フランスに行く前に、はじめて「一人美術館デビュー」もしました。――どの美術館で、デビューされたのですか?芳根さんちょうど松岡美術館(東京・港区)で印象派の展覧会が開かれていたので、チャンスだと思って駆け込みました。とてもよかったです。事前に、モネは光に注目するといいと教わったので、その点を意識して見てきました。何かに注目してアートを見るという経験が、これほど楽しいとは思わなかったです。記念にポストカードも買いました。――お母様は美大出身ですので、ご一緒に美術館に行かれるときは、お母様が作品解説をしてくれるのですか?芳根さん母もそんなに詳しいわけではないのです。きっと、モネに関しては私のほうが詳しいと思います(笑)。母も父も、「モネ 連作の情景」に行きたいといっていて、一回目に行くときは音声ガイドを聴いて、二回目は私を連れて行きたいと話していたので、そのときは隣で解説してあげるね、といいました(笑)。今回、モネのことを集中して学びましたが、とても楽しくて。一気にアートのことをすべて知ろうとすると、範囲が広すぎて難しいと思いますが、美術館にあまりご縁がない方でも、モネは入りやすくて飛び込みやすい世界かなと思います。――では、最後に展覧会を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。芳根さん私もアートは難しいのかな、と思い込んでいたのですが、全然そんなことはなくて、絵を見たときにあふれてくる感情に間違いはないし、否定されることはないと今回のフランス旅で思いました。絵を見ているだけで、パワーやエネルギーがダイレクトに感じられて、4日間のフランス旅でしたが、人生が豊かになった気持ちになりました。今までモネに触れたことがなかった方も、音声ガイドでサポートさせてもらうので、安心して足を運んでいただけたらと思います。今回は、世界中からモネの作品だけが集められた「100%モネ」の展覧会になっていますので、モネが好きな方、美術館やアートが好きな方も、絶対楽しめる展覧会になっていると思います。ぜひ、みなさんもお越しください。――いろいろお話しいただき、ありがとうございました!取材を終えて…キラキラと目を輝かせて、モネやフランス旅のことを楽しそうに語ってくれた芳根さん。ナビゲーターのお仕事をきっかけに、モネやアートに興味をもち、とても多くのことを学ばれて努力しているお姿にも感動しました。芳根さんのモネへの愛が100%詰まったものになりそうな音声ガイドも、聴くのが楽しみです。なお、芳根さんが出演される「モネ 連作の情景」の特別番組は、11月11日(土)にフジテレビ(関東ローカル)で放送される予定。展覧会とあわせて、こちらもご覧ください。Information会期2023年10月20日(金)〜2024年1月28日(日)会場上野の森美術館時間9:00〜17:00金・土・祝日は〜19:00※入館は閉館の30分前まで休館日2023年12月31日(日)、2024年1月1日(月・祝)入館料日時指定予約推奨平日(月〜金)一般 ¥2,800/大学・専門学校・高校生 ¥1,600/中学・小学生 ¥1,000土・日・祝日一般 ¥3,000/大学・専門学校・高校生 ¥1,800/中学・小学生 ¥1,200※会期中は、上野の森美術館チケット窓口にて当日券を販売。混雑時は入場をお待ちいただく場合がございます。※本展は大阪に巡回します。【大阪展】2024年2月10日(土)~2024年5月6日(月・休)大阪中之島美術館※東京展と大阪展は一部展示作品が異なります。
2023年09月24日1960~’70年代にはグラフィックデザイナーとして、’80年代以降は美術家として世界的に評価されている横尾忠則さん。現在87歳、「自分は飽きっぽい」と語るその理由とは?ポップでセンセーショナルなデザインで昭和を駆け抜け、その後は現代美術家として世界中から引く手あまた。令和の今は若手ミュージシャンからも「ジャケットを描いて!」という熱烈なオファーが届く横尾忠則さん。87歳になった今もまだ絵を描き続けるモチベーションはなんなのか。緑がひろがる大きな窓が印象的なアトリエにお邪魔して、お話を伺いました。――毎日アトリエに通っていらっしゃるんですか?そうだね。僕は目が覚めるのが早くて、8時にごはんを食べて、その後自転車でアトリエに来る。絵を描いたりゴソゴソ散らかしたりしているうちに夕方になって、家に帰って晩ごはんを食べてお風呂に入ってすぐ寝ちゃいます。あ、でも今日は2時に起きた。大谷の試合を観たかったから。――?大リーガーの、大谷翔平さんですか?そうそう。ホームラン打つかなと思って期待して見ていたんだけど、三振ばかりするので二度寝しちゃった。大谷が活躍すると、その日は一日気持ちいい。別に親戚でもなんでもないんだけど、なんか嬉しいよね(笑)。――惹かれる理由はなんですか?彼は次から次へと新しいルールを開拓していくじゃないですか。大谷のそういった在り方や精神はアートの精神と近いんですよ。既成のルールをどんどん壊して、新しい道を作る。僕はその辺が好きなんです。――横尾さんの作るアートや活動にも、そういった“既存を壊して新しいルールを作る”感覚を感じる人は多いと思いますが…。あ、そうですか?でも、僕自身は新しいものを作りたいとは全然思ってないんです。飽きちゃうんですよ。今日描いた絵の延長を明日描こうとは絶対に思わない。だって明くる日になったら、別の気分や発想が出てきますから。だから僕の絵には、統一したテーマや様式がない。――“横尾忠則の作風”的なものはない、ということですか?そう。一般的には画家は自分の統一したアイデンティティを持っていて、それを持続継続していくものだけど、でも僕は、自分が描いた絵に飽きちゃう。食べ物と同じですよ。毎日食べて飽きないのは白米くらいなもんで、おかずは別のものが食べたくなるじゃないですか。僕にとって創作は、食事と同じくらい肉体的なもので、頭で考えるよりも身体的な生理が優先されるんです。まあ、飽きっぽいんですよ。――飽きっぽい性格は昔から?子どもの頃からですね。だから87歳になった今も、子どもの頃の延長で絵を描いてる感じです。寒山拾得の顔つきには自由を感じるんです。――現在、東京国立博物館で展覧会が開催されていますが、今回のテーマは“寒山拾得(かんざんじっとく)”。中国、唐の時代に生きた伝説的な2人の詩僧、寒山と拾得だそうですが、展覧会の資料を拝見すると、先ほどのお話のとおり、全く異なる作風の絵がズラッと並んでいて、驚きました。そうでしょう。今回は1年2か月の間に描いた100点くらいを展示するんですが、毎日コロコロ作風が変わっていったから、並べてみると、もはやどれが僕の作品なのかよくわからないけれど、僕が描いたんだから全部僕の作品だ。僕はコンセプチュアルアートのような観念や言葉を、脳の中から廃除して、極力、考えないことに徹している。自由になるためには観念は邪魔だからね。だから僕は、描きたいものを描くだけ。あとは見た人が勝手に評価してくれればいい。今回来てくれる人には、100枚のスタイルの変化を見て、僕の頭の中の複数の小さい僕と出合ってくれれば、それでいい。――今回の作品は、コロナ禍にアトリエで描かれたものだと伺いました。どういうきっかけで“寒山拾得”を描くことに?あのね、江戸時代の日本の画家のほとんどが、寒山拾得を描いてたんですよ。というか、描かない人がいないくらいポピュラーな題材だった。中国からの影響が大きい時代だったんでしょう。ところが明治時代になってからは、一切誰も描かなくなったんです。――え、その理由は…?知らない(笑)。おそらく明治になると西洋近代主義が導入されて、そうすると中国的な土壌や文化が絵のテーマにならなくなったんじゃないですかね。――その間、“寒山拾得”は忘れ去られたテーマだったんですね。そう。その、“誰もやっていないことをやる”に、僕は興味があるわけ。非常に“大谷的”じゃない(笑)。会ったこともない未知のものに興味を持って、挑んでいく。それってアートへの姿勢だけではなく、生き方そのものにも通じるところがあると思うんですよ。――寒山と拾得という2人の僧自体にも興味がありましたか?この2人についてのちゃんとした伝記や書物はゼロに近いくらい何もなくて、“唐の時代の禅僧”ということくらいしか情報はないんですが、その奇行ぶりから“風狂の僧”と言われていて。いつもボロボロのものを着て、わけもなくニタニタ笑っていたらしいんですよ。どちらかといえば、阿呆の“相”。でも僕は、阿呆の相こそが悟った人間の最終的な面相だと思っていて。現代社会では本を2万冊も3万冊も読んで何かを悟った人間を“知の巨人”とか言いますが、僕は悟った人間の知的な表情になんて興味はない。“寒山拾得”の阿呆の相に、惹かれるんです。人間は愚者になることによって、天と通じるんです。つまり知性ではなく霊性にね。――そこに何を見るんですか?自由、じゃないですかね、やっぱり。彼らはルールのない世界に住んでいて、霊的なものと交流しながら生きていたと思う。いわゆる知識人とは全く違う。彼らが対話していたのは、宇宙なんですよ。――やはり自由に憧れますか?最終的に…というと変だけど、同じ道を行くならば、そこを目標にはしたいです。だけどね、人間の一生は短すぎて、なかなか寒山拾得のような境地には到達できない。そこに行くためには何度も何度も輪廻転生を繰り返さなければならない。――1回の人生ではとても無理?そんなの絶対無理(笑)。キリストやブッダだったら2回くらいで行けるかもしれないけれど、我々みたいな人間は100回か200回繰り返してもまだ無理かもしれない。――今の現世で、自分はどのくらい自由になったと思われますか?いや、まだ階段の真下にいるくらいなもんですよ。階段の先は全然見えない。その階段が三次元的ではなく、四次元的階段であることを願いたいね。――絵を描くことは、自由になることに繋がりますか?僕の場合は絵を描くことでしか、そういった世界にはたどり着けない。絵しかないなって思うんです。僕は幼児の頃から絵を描いていて、今87歳なんだけど、それでもまだ到達点が見えない。だけどこの寸善尺魔の現世での生は最後にしたい。不退転に行くために、ただ描きむしるだけです。できれば現世で輪廻を打ち止めにしたいですね。――次の人生があったら、絵を描きますか?次?絵描きなんてもう結構。今だってもう飽きちゃってるんだから(笑)。ただこれはさ、僕を司っている運命的な力が僕に描かせているわけだから、しょうがないんですよ。運命には従うしかない。「嫌だなぁ」と思いながら、絵を描く。「嫌だなぁと思いながら描いた絵ってどんなもんなんだろう、それを見てみたい」っていう。今は運命と、その好奇心によって描かされている感じで、世のため、人のためには描いていません。――誰にでも運命はあると思いますか?生まれてから人はいろんな運命に出合うわけで、それを100%受け入れて生きようとする人と、「この状況は嫌だ、違うものが欲しい」と運命に抵抗する人の2種類に分かれると思うんです。僕は、与えられた運命に従って生きてきたと思う。ていうかね、そのほうが便利がいいんです。努力する必要がないから。だって運命どおりのことをやればいいんだもん(笑)。別のものを求めるから、努力をしたり、競争したり、戦ったりしなきゃいけなくなる。怠け者の僕にはそれは合わなかったんだよね。――なるほど(笑)。でも一方で、運命に従うってことはどこに連れていかれるかわからないわけ。ただ僕はそこに興味を持ったんです。変なことになったなぁとか、おかしなところに連れてこられたなぁと思っても、「それも運命」と思って身を投げ出せばいいだけです。その結果が画家にさせられたんだから。――その思考が構築されたきっかけはあるのでしょうか?そうねぇ…。もともと僕は別の家に生まれて横尾家に養子に行ったわけなんだけど、僕が望んでそうなったわけではないんですよ。つまり運命なの。「行きたくない」とか「こっちの両親がいい」みたいな選択肢はなくて、「あ、そうですか」と行くしかなかった。まあそもそも2つか3つの僕に判断力なんてないですけどね(笑)。横尾家のおじいさんとおばあさんは僕を猫可愛がりしてくれて、僕が求める前にいろんなものを用意してくれた。それで19歳くらいまで過ごした結果、与えられたものに従って生きるのが一番いいんだな、というところにたどり着いて、今までずっと来てるわけ。――ご自分から「これをやりたい!」みたいな気持ちは…。ないない。来たものに乗る。あ、でも今ちょっと面白いことをやっていて。前衛音楽家のテリー・ライリーさんという人がいるんだけど、ちょっとした偶然で出会った彼と2人でグループを作ったの。テリーさんが音楽を演奏する後ろで僕が絵を描いたり、展覧会の会場で僕の絵をイメージした曲を演奏してもらったり、そういうことをいろいろやろうって。でも、僕は87歳で、彼は88歳だから、おじいさんグループなんだよね(笑)。しかもグループ名は、2人の年齢を足した数字なんだけど、毎年変わるわけ。だからなかなかグループ名が思い出せない(笑)。――めちゃくちゃ楽しそうです。でしょう。あのね、どんな運命でも面白がるしかないんです。与えられたものを受け入れて、楽しみに変えて生きていく。人生ってそういうものだと思いますよ。独自の解釈で描いた“寒山拾得”の作品を102枚一挙公開する展覧会「横尾忠則寒山百得」展が、上野の東京国立博物館 表慶館で12月3日まで開催中。また来年には上海の美術館で大規模な回顧展が予定されており、「まだ言えないけれど、その後も展覧会がいろいろあるんですよ」(横尾さん)とのことです!よこお・ただのり1936年生まれ、兵庫県出身。20代よりグラフィックデザイナーとして活動し、独立。広告やポスター、エディトリアルなどを手掛け、また寺山修司や三島由紀夫とも多数仕事をした。’72年にニューヨーク近代美術館で個展を開催。’80年代以降は美術家として世界的に活躍。兵庫県神戸市と香川県豊島には自身の美術館も。※『anan』2023年9月27日号より。写真・八木 咲(by anan編集部)
2023年09月23日能登半島の先端に位置する珠洲(すず)市を舞台とする奥能登国際芸術祭。2017年にスタートし、3年に一度開催される本祭は、アーティストが珠洲という場所に根差した表現をすることで注目を集めてきた。卓球はコミュニケーションツールだと考えた作家による一枚石の卓球台。浅葉克己〈日本〉「石の卓球台第3号」Photo:Kichiro Okamura珠洲市は三方を海に囲まれた、まさにさいはての地。奈良時代には日本を訪問した異国の渤海使(ぼっかいし)が到来。また江戸時代には、北前船の発祥地としても知られる日本海の海上交通の要所でもあった。かつて日本海に開かれた“先端”だった歴史があり、祭りや食をはじめとする豊かな文化が今も残されている。培われてきた歴史や文化に視点を向ければ、未来を開く場所になるという発想が、この芸術祭の出発点になっている。3回目となる今回は、世界の14の国と地域から59組のアーティストが参加。会場には10のエリアがあり、それぞれが持つ独自の祭りや文化、歴史にちなんだアートが展示される。例えば、日本海の荒波に侵食された岩礁が多く存在する大谷エリアは、揚げ浜式製塩が500年以上前から継承されてきた。そのエリアには塩田用の砂を運ぶために使われた砂取舟を置き、赤い糸を空間いっぱいに張り巡らし、職人たちの歴史や記憶を紡いだ塩田千春の作品が設置されている。さらに今年は劇場型歴史民俗博物館「スズ・シアター・ミュージアム」の敷地内に「潮騒レストラン」など新施設も登場。また演劇や舞踏、朗読劇の他、木工、絵本作りなどのワークショップなど、イベントが多いのもこの芸術祭の特徴のひとつ。これは、珠洲の文化を五感で体感することができるという新趣向だ。本祭は、アートを入り口に地域文化のファンを増やす、画期的な地方創生ともいえそうだ。過去の歴史や文化を大切にした作品何度も消滅の危機を乗り越えた揚げ浜式塩田の逸話を作品化。塩田千春〈日本/ドイツ〉「時を運ぶ船」©JASPAR,Tokyo,2023 and Chiharu ShiotaPhoto:Kichiro Okamura珠洲の自然や風土を楽しめるレストランの設計は建築家・坂茂。パフォーミングイベントも充実ひびのこづえ×島地保武×小野龍一×スズによるダンスパフォーマンスも。「踊りの起源」への調査とこだわりを追求する田中泯による即興の踊りも。田中泯〈日本〉「場踊り」撮影:平間至《村のドン・キホーテ》(東京)2020年奥能登国際芸術祭2023石川県珠洲市全域9月23日(土)~11月12日(日)9時30分~17時木曜休作品鑑賞パスポートは一般3300円ほか。TEL:0768・82・7720(奥能登国際芸術祭実行委員会)※『anan』2023年9月27日号より。写真・奥能登国際芸術祭実行委員会提供文・山田貴美子(by anan編集部)
2023年09月23日世界中に名を馳せる、モード界の帝王イヴ・サンローラン。1958年にクリスチャン・ディオールのデザイナーとしてデビューしてから引退までの約40年間、世界のファッションシーンをリードし続けた彼の偉業をたどる大規模回顧展「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」が始まる。本展ではイヴ・サンローラン美術館パリの全面協力を得て、約半世紀にわたる彼の足跡を、110体のルックや、アクセサリー、ドローイング、写真を含む約300点で紹介する。「モードの帝王」と呼ばれた男の偉業を知る、没後、日本初の大回顧展。カクテル・ドレス-ピート・モンドリアンへのオマージュ1965年秋冬オートクチュールコレクション©Yves Saint Laurent©Alexandre Guirkinger幼い頃から絵を描くことが好きだったイヴ・サンローランは、絵本の装丁や挿絵を手掛けた後、1953年、17歳でパリに渡り、コンクールのドレス部門で入賞したことをきっかけに、クリスチャン・ディオールのアシスタントに。1957年にディオールが急逝した後、彼はチーフデザイナーに抜擢され、ディオールの新しい顔として成功を収める。1961年に彼は自身のオートクチュールメゾン「イヴ・サンローラン」を設立。翌年に発表されたコレクションでは、船乗りの作業着に着想を得たピーコートなどを発表し、大きな注目と称賛を浴びた。以来、彼は美術作品や舞台芸術、そして日本にも影響を受けながら独自のスタイルを確立。モード界を席巻し続けた。全12章で構成された本展の中でも、特に注目したいのはサンローランの代名詞的存在となったマスキュリンスタイルだ。彼はタキシードやジャンプスーツ、サファリ・ルック、トレンチコートなど紳士服をヒントに、その快適さ、実用性を兼ね備えつつ、シンプルで優雅な女性らしいシルエットを生み出していった。単なる流行の服ではなく、当時の社会問題までも糧に、美しい作品へと昇華させてしまうのがイヴ・サンローランの先進性。服装によるジェンダー問題が叫ばれる現代だからこそ、なぜ今、彼の仕事が見直されているのか、本展を見ればよくわかる。【Check 1】紳士服からヒントを得た、新たな女性服のスタイル。イヴ・サンローランは、1960年代にパンツスタイルを自身のデザインに積極的に取り入れた。当時パンツスタイルはまだ男性のものという認識が根強かったが、服装が持つジェンダー意識を超越してデザインすることで、時代が求める新たな女性らしさ、エレガンスを生み出した。この頃、彼がプレタポルテ(既製服)へ参入したこともあり、サンローランが提案したスタイルは急速に拡大。他にもピーコート、パンツスーツ、トレンチコート、タキシードなど、紳士服を女性向けに改良したほか、ボーダーや紺のブレザー、ネイビールックなども女性らしくアレンジ。現代ではすっかり女性の定番アイテムとなっているこれらの服は、サンローランの普遍性を物語っている。ファースト・サファリ・ジャケット1968年春夏オートクチュールコレクション©Yves Saint Laurent©Sophie Carreイヴニング・アンサンブル1984年秋冬オートクチュールコレクション©Yves Saint Laurent©Nicolas Matheus【Check 2】芸術、歴史への愛を反映したルック。イヴ・サンローランはモンドリアン・ルックに代表されるような美術作品とファッションの融合を提案することで、伝統的なオートクチュールモードの世界に新風を吹き込んだ。また彼は読書や美術品の収集によって想像し、モロッコ、アフリカ、ロシア、スペイン、アジアなど遠い土地のイメージをデザインに織り込む。鮮やかな色彩や独特な形で表現された異国情緒は、サンローラン作品にとって不可欠な要素となっていった。アンサンブル1989年春夏オートクチュールコレクション©Yves Saint Laurent©Alexandre Guirkingerイヴニング・ガウン1995年秋冬オートクチュールコレクション©Yves Saint Laurent©Alexandre Guirkinger【Check 3】生涯をかけた舞台衣装。少年時代から演劇や舞台など生きた芸術に夢中だったイヴ・サンローランは、カトリーヌ・ドヌーヴ主演の映画『昼顔』やジャン・コクトーの演劇『双頭の鷲』、ローラン・プティが芸術監督を務めたミュージックホールなど、生涯を通して様々な演劇や映画の衣装を手掛けた。衣装に刺繍やフェザー、金&銀細工など豪華な素材を施し、色彩を駆使したのが特徴。展示されたスケッチを見れば彼の画家としての才能にも驚くはずだ。ジャケット1977年に行われたジジ・ジャンメールのショー『ローラン・プティのショーに登場するジジ』のためのデザイン©Yves Saint Laurent©Sophie Carre女王のドレス(第1幕)1978年に行われた演劇『双頭の鷲』のジュヌヴィエーヴ・パージュのためのデザイン©Yves Saint Laurent©Sophie CarreWho’s Yves Saint Laurent?イヴ・サンローラン1936年、フランス領アルジェリア・オラン生まれ。保険会社で働くフランス人の中産階級の家庭に生まれる。25歳の時にパートナーであるピエール・ベルジェと共に自身のメゾンを立ち上げてから、経営はベルジェが、創作はサンローランが担う共同体制でブランドを運営。2002年、引退を発表。ポンピドゥー・センターで最後のショーを開催。’08年、ガンで死去。享年71歳。オフィスでのイヴ・サンローラン、パリのマルソー大通り5番地のスタジオにて、1986年©Droits reserves「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」国立新美術館 企画展示室1E東京都港区六本木7‐22‐29月20日(水)~12月11日(月)10時~18時(金・土曜~20時、入場は閉館の30分前まで)火曜休一般2300円ほかTEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)※『anan』2023年9月20日号より。文・山田貴美子(by anan編集部)
2023年09月18日