“上巳(じょうし)の節句”や“桃の節句”とも呼ばれる3月3日の「雛祭り」。雛人形や調度品を飾り、菱餅・白酒・桃の花などを供えることで、女の子の成長と幸福を願う行事として親しまれてきた。そんな雛祭りに合わせて開催される2つの展覧会が注目だ。精緻を極めた技術力の高さは圧巻!種類豊富な雛人形をぜひ見比べて。三井記念美術館では、3年ぶりに「三井家のおひなさま」展が復活。歴代の夫人や娘たちが集めてきた雛人形や道具を楽しむことができる。なかでも注目は、北三井家十一代・高公の長女・久子のために京都の老舗・丸平大木人形店の五世大木平藏に注文して特別に誂えた、幅3mの豪華な雛壇飾り。贅を尽くして作られたおひなさまは一見の価値ありだ。一方、昨年10月に丸の内へ移転した静嘉堂文庫美術館では、「お雛さま ―岩﨑小彌太邸へようこそ」が開催間近。多くは小彌太が孝子夫人のため、丸平大木人形店に特注したもので、白くつややかな丸い顔と幼児姿が特徴だ。また今回、雛人形一式を、初公開となる巨大な「墨梅図屏風」の前に飾り、披露された当時と近い状況を再現。まるで小彌太邸に招かれたような臨場感が楽しめる。脈々と受け継がれてきた雛祭り。今年はぜひ美術館で楽しんでみて。三井家のおひなさま特集展示 近年の寄贈品 ―絵画・工芸・人形など―三井家の夫人と娘たちが大切に集めてきた逸品たち。「内裏雛」三世大木平藏製明治28年(1895)三井記念美術館蔵宮中清涼殿の殿上の間にのぼることを許された雲上人になぞらえた、男女一対の内裏雛。三井記念美術館東京都中央区日本橋室町2‐1‐1三井本館7F2月11日(土)~4月2日(日)10時~17時(入館は閉館の30分前まで)月曜、2/26休一般1000円ほかTEL:050・5541・8600静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展IIIお雛さま ―岩﨑小彌太邸へようこそ愛くるしさ抜群の童子形。伝わるのは当時の高い技術力。五世大木平藏《岩﨑家雛人形》のうち「内裏雛」昭和時代初期(20世紀)静嘉堂文庫美術館蔵こちらの内裏雛は1929年に竣工した小彌太の麻布鳥居坂本邸の大広間で披露された。静嘉堂@丸の内東京都千代田区丸の内2‐1‐1明治生命館1F2月18日(土)~3月26日(日)10時~17時(金曜は~18時。入館は閉館の30分前まで)月曜休一般1500円ほか※来館日時指定予約推奨TEL:050・5541・8600※『anan』2023年2月15日号より。(by anan編集部)
2023年02月14日不思議で怖くて愛おしい。「ヒグチユウコ展 CIRCUS FINAL END」をご紹介。東京での初開催から4年をかけて全国を巡ってきた展覧会「CIRCUS」がついに最終章を迎える。「巡回の開始時はいつまで続くか分からない状態からの船出だったので、団員(展覧会関係者の総称)皆で力を合わせました。思い起こせば、『たった4年だったの!?』というくらい、濃密でありがたい時間でした」と話すヒグチユウコさん。絵本原画や描き下ろしなど、当初500点ほどだった展示作品も回を重ねるごとに増え、今回は約1000点を展示。会場にはサーカステントを設営、哀愁漂う音楽が流れるなど演出にも趣向が凝らされている。「展示会場に入る際に、没入感を出したいと思っていました。映画館で映画が始まるときに感じる、『これから映画を観るんだ』というあの感じです。サーカスは楽しいけれど、どこか物悲しさを感じさせるもの。その雰囲気を伝えたくて、音楽デュオの黒色すみれさんに、『道』という映画の中の『ジェルソミーナ』という曲を演奏してもらいました」また、ぬいぐるみ作家の今井昌代さんとの共作も見どころだ。「全く違うジャンルではありますが、彼女の作品をひと目見てすごく好きになりました。こんなにも吸引力のある作品を作れるなんて、と。一緒に展示を表現できたことが、今回一番達成できたことかもしれません」ヒグチさんの描く生物は、植物と動物が溶け合ったようだったり、少し不思議。彼らはどうやって生まれてくるのだろうか?「幼少期から図鑑や博物画、辞書についている小さいエッチング画などが好きでした。そこには、心惹かれる謎の生物たちがたくさんいて、そういった未知のものへの恐怖や憧れが今も私を魅了してやみません。想像だけで作品を生み出すのは、おそらく無理があるでしょう。意識せずとも、過去に生み出されたたくさんの名画や、滅亡してしまった生物たちの残り香を嗅いで、その跡をたどりつつ、創造しているはずです」極細密な描写を和紙にペン、絵の具で描くのも変わらないスタイルだ。「描くという行為は自分にとって最高の時間。これ以上の喜びはないです。真っ白い紙を前にして、『さあ、描こう!』というときの浮き立つ感覚は何物にも代えがたいです。絵の具を実際に筆に付けて、絵を描いていく。そのときの匂いや感触はやはり物質を触っているからこそ得られるもので、その経験は奥深いもの」手の届かない憧れ、遠い異国、出合ったことのない動植物も、描くことで手にすることができるとヒグチさん。そのペン先から生まれるものは私たちの無意識にある「憧れ」を満たしてくれているのかもしれない。ぬいぐるみ作家の今井昌代さんとヒグチユウコさんが同じテーマでそれぞれ制作した作品。撮影:井上佐由紀息子さんの大切なぬいぐるみがモデルの「ニャンコ」が登場する絵本の一場面。「ふたりのねこ」23ページ原画 2014年 ©Yuko Higuchi心臓と心臓がつながった「二人で一人」の双子を植物と同化させて描いた代表作。双子 2018年 ©Yuko Higuchi少女、かたつむり、ハサミなどをモチーフに。かわいくも不穏なヒグチ流ホラー。鋏 2018年 ©Yuko Higuchi全9会場のメインビジュアルを展示。本会場のために描き下ろした大型作品も。《終幕》2022年 ©Yuko HiguchiWho’s Yuko Higuchi?画家、絵本作家。著書に絵本『せかいいちのねこ』(白泉社)、画集『BABEL Higuchi Yuko Artworks』(グラフィック社)等。GUCCI、ホルベインなど企業とのクリエイションも。ショップ&ギャラリー『ボリス雑貨店』主宰。「ヒグチユウコ展 CIRCUS FINAL END」森アーツセンターギャラリー東京都港区六本木6‐10‐1六本木ヒルズ森タワー52F開催中~4月10日(月)10時~18時(金・土曜は~20時。入館は閉館の30分前まで)会期中無休一般2000円ほか※事前予約制※『anan』2023年2月15日号より。取材、文・松本あかね(by anan編集部)
2023年02月13日東京ステーションギャラリーで、『佐伯祐三 自画像としての風景』が開かれています。パリや東京の街並みなどを描いた作品をはじめ、人物画や静物画なども高く評価されている画家、佐伯祐三(1898-1928)。東京では18年ぶりとなる本格的な回顧展の見どころについて、学芸員さんのお話も交えてレポートします!天才画家の代表作が集結!『佐伯祐三 自画像としての風景』展示風景【女子的アートナビ】vol. 278『佐伯祐三 自画像としての風景』では、約100年前に30歳の若さで亡くなった天才画家、佐伯祐三の代表作が一堂に集結。世界最大の佐伯コレクションを誇る大阪中之島美術館の所蔵作を中心に、日本各地の美術館やコレクターが所蔵する多彩な作品約100点が集まっています。東京ステーションギャラリー館長の冨田章さんは、プレス内覧会で「洋画界のスーパースターといってもいい佐伯祐三の展覧会は、ぜひ開催したいと思っていた」とコメント。「当館の建物は、佐伯と同時代に建てられた。石造りの壁を好んで描いたパリ時代の絵は、赤レンガ壁の展示室に合うと思う」と語りました。なお、本展は2022年にオープンしたばかりの大阪中之島美術館が企画した展覧会の巡回展です。同美術館学芸員の高柳有紀子さんによると、美術館開館のきっかけは佐伯祐三の作品にあるとのことで、次のように語りました。高柳さん大阪の実業家で美術コレクターの山本發次郎さんが、佐伯の才能に一目ぼれして最大150点ほどのコレクションを築きました。そのうち2/3ほどは空襲で燃えてしまったのですが、残った作品を大阪市にすべて寄贈。それがきっかけとなり、美術館をつくる構想ができました。佐伯祐三の展覧会を開くことは、私たちの大切なミッションでした。30歳で亡くなった伝説の画家…『佐伯祐三 自画像としての風景』展示風景佐伯祐三とは、どんな画家なのでしょう?まずは、彼の人生をご紹介します。佐伯は大阪の由緒あるお寺、光徳寺の次男として誕生。従兄の影響で絵を描きはじめ、東京美術学校(現・東京藝術大学)を卒業後、すでに結婚していた妻と生まれて間もない娘を連れてパリに渡ります。実家の支援で不自由なくパリで活動していた佐伯ですが、体があまり健康でなかったため、心配した親族から帰国を促されて留学を中断。日本に戻り、東京・新宿のアトリエで制作活動を続けます。その後、1927年に妻子を連れて再び渡仏。しかし、結核が悪化した佐伯は神経衰弱も進み、パリ郊外の精神病院に入院、1928年に30歳の若さで亡くなりました。その約2週間後、さらに一人娘も病没。娘さんは6歳でした。フランスの画家に罵声を浴びせられて…『佐伯祐三 自画像としての風景』展示風景佐伯は、悲劇的な生涯を送った画家のため、展覧会では画家のドラマチックな人生を作品とともに紹介するパターンが多いのですが、本展では作品そのものに注目して展示構成されています。まず、展覧会の前半では、日本で描かれた作品を中心に展示。アトリエのあった新宿・下落合の風景画や大阪で描いた船の絵、また自画像や家族の肖像画などを見ることができます。高柳さんの話によると、佐伯は画学生時代を中心にたくさんの自画像を制作。その後は、自画像のかわりに風景を描き、その中に自分を没入させていたそうです。『佐伯祐三 自画像としての風景』展示風景展示の後半では、パリ時代の作品をまとめて展示。渡仏した1924年、佐伯は当時フランスで活躍していた画家、ヴラマンクに自分の自信作を見せに行きますが、「このアカデミック!」と罵声を浴びます。これが転機となり、彼の作品は大きく変化。やがて、自分の画風を確立していきます。しびれるアートがいっぱい!『佐伯祐三 自画像としての風景』展示風景パリ時代の約4年間、佐伯は重厚なパリの街並みや、ポスターが貼られた建物の壁、カフェ、プラタナスの並木道などを描き、多くの傑作を生みだしていきます。冨田館長の話によると、佐伯はとても早く描く画家で、現場で見たままの景色をすごい勢いで画面に写し取っていたそうです。あまりに描くのが早いため、線が躍動し、特にパリ時代後半の作品は、生き生きした生命力のある線になっている、とのこと。実際、佐伯の作品は、実物を見ると本当に迫力がありますし、特にパリの街並みを描いた作品群は現地の空気も伝わってくるようで、しびれるほどかっこいいです。また、展示室の赤レンガ壁と作品の相性も抜群。最高に贅沢な空間で絵画鑑賞を楽しめます。本展は4月2日まで。大阪中之島美術館では4月15日から開催予定です。Information会期:~4月2日(日)、月曜休館(3/27は開館)会場:東京ステーションギャラリー開館時間:10:00〜18:00(入館は30分前まで)※金曜日は20時まで開館観覧料:一般¥1,400、大学・高校生¥1,200、中学生以下無料
2023年02月12日展覧会「ちひろ 光の彩(いろどり)」が、ちひろ美術館・東京にて2023年3月18日(土)から6月18日(日)まで開催される。水彩で表現する彩り豊かな光と子ども水彩の柔らかな筆致で子どものいる情景や物語を数多く描いた絵本画家・いわさきちひろ。ちひろは、水彩技法を探求する中で、あえて詳細な描きこみや説明的な描写を省略し、子どもや物語を照らし出す光を用いて心情や情景を表現するようになった。覧会「ちひろ 光の彩」では、まぶしい陽の光、こもれび、ろうそくの灯や月明りなど、光の表現に着目した作品を展示すると共に、水彩技法の変遷も併せて紹介する。『青い鳥』や『にじのみずうみ』など“物語の中の光”ちひろが描いた絵本の中でも、光が印象的に描かれた2冊の絵本に着目。チルチルとミチルの兄妹が、光の精に導かれて青い鳥を探す『青い鳥』や、稲光や湖にきらめく朝の光、輝く虹など、自然を彩る光が印象的に描かれた昔話『にじのみずうみ』をピックアップする。1960年頃から晩年にかけて描いた“月の光”から見る表現の変遷また、1960年代から晩年にかけて、ちひろは月の光を多く描いた。そんな月の光の表現の変遷を辿るほか、にじみや余白として表現した光から、子どもたちの未来や希望を重ね合わせているように感じられる作品を展示する。詳細展覧会「ちひろ 光の彩(いろどり)」会期:2023年3月18日(土)~6月18日(日)時間:10:00~17:00(入場は閉館の30分前まで)※3月は16:00閉館。会場:ちひろ美術館・東京 展示室3・4住所:東京都練馬区下石神井4-7-2休館日:月曜日(祝休日開館、翌平日休館)※ゴールデンウィーク(4月29日(土)~5月7日(日)は無休。出展作品数:約40点料金:大人 1,000円 / 高校生以下無料※団体(有料入館者10名以上)、65歳以上、学生は800円。※障害者手帳提示者、付き添い者1名まで無料。※年間パスポート3,000円。※会期は予告なく変更になる場合あり。■松本猛ギャラリートーク日時:5月14日(日) 14:00~14:30講師:松本猛(ちひろ美術館常任顧問)参加費:無料(入館料別)定員:15名申込:当日受付■ギャラリートーク日時:第1・第3土曜日 14:00~14:30参加費:無料(入館料別)定員:15名申込:当日受付【問い合わせ先】TEL:03-3995-0612
2023年02月08日19世紀後半、ウィーンではルネサンス以来の伝統から逸脱したさまざまな芸術の挑戦が巻き起こった。この「世紀末」と呼ばれるエポックに生きた画家、エゴン・シーレの展覧会「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」が始まった。油彩・ドローイングなど50点に加え、クリムトなど世紀末芸術を代表する画家たちの作品約70点も併せて展示される。夭逝の天才が描き切った真摯で赤裸々な人間の姿。シーレの絵は見る人を戸惑わせるかもしれない。ゴツゴツと骨が浮き出た人体。裸の背中から伝わってくる痛々しいまでの孤独は、たった今描かれたばかりのような臨場感にあふれている。「シーレの魅力の一つはデッサン力。見たものを瞬時に捉え、素早くはっきりした線で描く。空間の中で人物を捉え、平面に落とし込む能力は抜群でした」と学芸員の小林明子さん。その才能は早熟で、弱冠16歳、最年少で美術アカデミーに入学。しかし伝統的な教育内容に飽きたらず退学してしまう。その後、在学中に出会ったクリムトに影響を受けて、仲間たちと芸術集団を立ち上げ、20歳を迎える頃には自らのスタイルを確立する。「シーレは自分自身を掘り下げ、内面と向き合った画家です。西洋美術では伝統的に神話や宗教、歴史を主題として描かれてきましたが、シーレは自分が抱える孤独な気持ち、社会に受け入れられないもどかしさを人間そのものの姿を通して表現しようとしました」シーレの絵には既視感がなく、どこかで見たポーズ、光景が描かれることはない。例えば空中に投げ出されたようにうずくまる女性の姿態。露わな下半身を衣服が辛うじて覆う。顔は見えないが、そこに見えるのは絶望、それとも恐れ、羞恥だろうか。「独特のポーズによって、人体だけで画面を成り立たせるセンスが際立っています。それだけでなく、こうしたポーズや裸を描くのは、そこに人間の本質や真実を見出したから。性器までも描く赤裸々な表現にも挑みましたが、それを描くことで、存在の本質を表現したかったからだと思います」人物画同様、数多く描かれた風景画にも画家の感情や思考が投影されている。ゴッホやムンクらにも通じる「表現主義」と呼ばれる所以だ。シーレは第一次世界大戦に招集され、終戦の年にスペイン風邪によって命を落とした。享年28歳。自らを「永遠の子ども」と称し、本当にそのまま逝ってしまった。稀有な才能が遺した分身ともいえる作品を、ぜひ体感してみてほしい。Who’s Egon Schiele?1890年、オーストリアに生まれ、16歳でウィーン美術アカデミーに入学。1909年、仲間と共に「新芸術集団」を結成。独自の表現主義的な画風を確立した。1918年、スペイン風邪に罹り、28歳の若さで亡くなった。アントン・ヨーゼフ・トルチカ《エゴン・シーレの肖像写真》1914年写真レオポルド家コレクションLeopold Museum, Vienna筋骨隆々とした伝統的な男性裸体像とは異なる骨ばった体、大きな関節が目を引く。とてもリアルだ。エゴン・シーレ《背を向けて立つ裸体の男》1910年グワッシュ、木炭/紙レオポルド家コレクションLeopold Museum, Vienna20代のはじめ、シーレは家出少女を匿い、それをきっかけに逮捕されるという事件に見舞われる。その勾留後に描かれた自画像。「傷ついた姿で視線は挑発的な感じも。若者らしい繊細な雰囲気で、複雑な心境が表れている眼差しが印象的です」(小林さん)エゴン・シーレ《ほおずきの実のある自画像》1912年油彩、グワッシュ/板レオポルド美術館蔵Leopold Museum, Viennaシーレは体を極端にひねったり、うずくまったりしたポーズをモデルにとらせた。立ったり、横たわる姿勢の多い伝統的な裸婦像からは大きく逸脱している。エゴン・シーレ《頭を下げてひざまずく女性》1915年鉛筆、グワッシュ/紙レオポルド美術館蔵Leopold Museum, Viennaモデルはシーレの恋人だったワリー・ノイツェル。黒いスカーフの向こうには、神経質そうな男の顔が描かれている。男は他ならぬシーレ自身であり、彼女の悲しみの原因が暗示されている。エゴン・シーレ《悲しみの女》1912年油彩/板レオポルド美術館蔵Leopold Museum, Vienna「シーレは風景画もよく描きました。風景そのものという描写以上に、そのときの心境、寂しさや孤独が投影されています」。恋人ワリーと住んだ、クルマウの町。伝統的な建築の家々に暗い影が降りているようだ。エゴン・シーレ《モルダウ河畔のクルマウ(小さな街IV)》1914年油彩、黒チョーク/カンヴァスレオポルド美術館蔵Leopold Museum, Viennaレオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才東京都美術館東京都台東区上野公園8‐36開催中~4月9日(日)9時30分~17時30分(金曜は~20時。入室は閉室の30分前まで)月曜休一般2200円ほか※日時指定予約制TEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)※『anan』2023年2月8日号より。取材、文・松本あかね(by anan編集部)
2023年02月06日フィンランドの伝統的織物リュイユの色彩表現に迫る展覧会「リュイユ―フィンランドのテキスタイル:トゥオマス・ソパネン・コレクション」をご紹介します。リュイユとはフィンランドの毛脚の長い織物のこと。その歴史は古く、1000年以上前にはバイキングたちが船で使用していたという歴史もあるほど。湾岸地域で使われていたリュイユは、内陸の裕福な農民たちへと伝わり、その後、教会や一般家庭でも使われるようになった。世界の織物の中でもとりわけリュイユは、敷物やラグ、ソファのカバー、タペストリーなどデザインや用途を時代に合わせて変化させながら、長年にわたって受け継がれてきたことが特徴。けれど伝統工芸としてのリュイユは、18世紀末~19世紀中頃に最盛期を迎えたのち、産業革命以後その勢いは失われていった。そんなリュイユの転機となったのが1900年のパリ万博。フィンランドがまだロシア帝国の支配下にあった当時、画家アクセリ・ガッレン=カッレラがデザインを手がけたリュイユ《炎》がフィンランド館を彩り、ロシアからの独立を視野に入れた民族の芸術運動の一翼を担うことに。その動きは世界から注目された。以後リュイユは現代の生活にもマッチした新しいデザインを生み出し、’50年代にはミラノ・トリエンナーレで数多くの賞を受賞するなど、ガラスや陶芸と同様にフィンランドを代表するデザインのひとつとして評価を高めていった。現在では、デザイナーと織り手の協業に加え、作家自らが手がけた作品も多く、造形や素材もますます多様化が進んでいる。本展には、リュイユの個人所蔵家として著名なトゥオマス・ソパネン・コレクションが日本に初上陸。主に1950年代以降に手がけられた重要な作品約40点を展示する。なかにはエヴァ・ブルンメルや、ウフラ=ベアタ・シンベリ=アールストロム、リトヴァ・プオティラなど、リュイユが国際的な評価を得た時期に活躍したデザイナーの代表作も。作品はすべて手織りのもの。特に色彩の美にこだわって集約されているため、一本一本の色糸が点描のように組み合わさった美しいテキスタイルは、まるで北欧の風景を描いた絵画のよう。細部を見て初めてわかる精密な仕事にも圧倒されるはずだ。アイノ・カヤニエミ《おとぎの国》 2015年 トゥオマス・ソパネン・コレクション緻密な線の作品で知られる作家カヤニエミの鳥の羽をモチーフにした作品。エヴァ・ブルンメル《聖霊降臨祭のたきび》 1956年 トゥオマス・ソパネン・コレクション砂時計をアレンジしたデザイン。砂時計は限られた時間を真面目に生きるという意味で婚礼時などによく用いられた。ウフラ=ベアタ・シンベリ=アールストロム《採れたての作物》 1972年 トゥオマス・ソパネン・コレクション糸を使い分けて微妙な色の変化を表現したリュイユの魅力を凝縮したような作品。アクセリ・ガッレン=カッレラ《炎》 1899年(デザイン)/1983年(再制作) トゥオマス・ソパネン・コレクション曲線的で左右非対称のモチーフを配した革新的なデザインは、ベンチ用のラグとして作られた。メリッサ・サンマルヴァーラ《紅葉》 2020年 トゥオマス・ソパネン・コレクション質感の異なる素材を組み合わせた、不定形なフォルムが印象的な現代の作品。イルマ・クッカスヤルヴィ《ファサード》 1986年 トゥオマス・ソパネン・コレクション新しいテキスタイル・アートに取り組む作家クッカスヤルヴィの立体感のある作品。リュイユ―フィンランドのテキスタイル:トゥオマス・ソパネン・コレクション京都国立近代美術館京都府京都市左京区岡崎円勝寺町26‐11月28日(土)~4月16日(日)10時~18時(2/3、2/10、4/14を除く金曜は~20時、入館は閉館の30分前まで)月曜休一般430円ほかTEL:075・761・4111※『anan』2023年2月1日号より。文・山田貴美子Photo:Katja Hagelstam(by anan編集部)
2023年01月30日東京ステーションギャラリーで開催される「佐伯祐三 ―自画像としての風景」展をご紹介します。速く、熱く駆け抜けた夭折の画家が掴んだオリジナリティ。約100年前のパリ。華やかな通りを外れた路地裏で、何の変哲もない建物の壁や、剥がれかけたポスターを一心に描く日本人画家がいた。「佐伯祐三はパリの有名な場所をほとんど描いていません。それより裏町のさびれたようなところがモチーフとして面白かったのでしょう。そういう場所を求め、パリ中を歩き回ったのだと思います」と、東京ステーションギャラリー館長の冨田章さん。佐伯が描くパリの風景は、これまで多くの人を魅了してきた。しかし実は本格的な画家としての活動期間は5年に満たず、その間に一時帰国をはさんで2度渡仏し、パリに暮らした。本展ではあまり注目されることのなかった大阪、東京の一時帰国中に描いた風景作品と、パリ時代の作品を併せて公開する。画家人生の全てを俯瞰する試みだ。厚く絵の具を塗り重ね、その上に速書きの線というスタイルは、日本から戻った第2のパリ時代に完成したとされる。ポスターの文字に見る、油絵の具で描いたとは思えないキレのよいカリグラフィーに書道を連想する人もいるかもしれない。「こうした線描写が、重厚な画面に生き生きとした活気を与えています。一時帰国中は電信柱や電線、船の帆柱など、線のモチーフを繰り返し描いていますが、このときの探究が晩年のスタイルに働きかけたと考えられています」パリに着いたばかりの頃、フォービスムの巨匠ヴラマンクに絵を見せたところ「アカデミック!」と一喝されたという有名なエピソードがある。同じ頃に描かれた自画像の顔の部分は消され、未完のままだ。その後は突き動かされるように、雨の中でさえ絵を描き続けた。「佐伯はパリで自分の全てを注ぎ込んだ絵を描きました。一枚の絵を本当に苦しみながら描いているのが感じられて、見ていると切なくなるほどです。そしてそれが佐伯の絵の魅力なのだと思います」一枚一枚に魂の全てを込めた。佐伯にとって風景画こそ「自画像」だったのかもしれない。壁・文字・線のパリ。「晩年の絵の線の描写をぜひ見ていただきたい」。塀を覆うポスターを躍動的な文字が覆う。こうした線描を佐伯は非常に速いスピードで描いた。1日に何枚も絵を仕上げることもあったとか。佐伯祐三《ガス灯と広告》1927年東京国立近代美術館住んでいたアパートの近所にあった靴屋は、幾度も描いた愛着ある場所。「壁」も佐伯の重要なモチーフの一つだった。「重厚な石造りの壁を表現しようと試みた作品です」佐伯祐三《コルドヌリ(靴屋)》1925年石橋財団アーティゾン美術館一時帰国:大阪と東京。自宅兼アトリエのあった東京・下落合の風景を描いた作品。電信柱と空を横切る電線など、風景の中の「線」の描き方を研究していた。大阪では港に停泊している帆船をよく描いた。佐伯祐三《下落合風景》1926年頃和歌山県立近代美術館絶筆となった3作品も。亡くなる半年ほど前、郵便配達夫にモデルを頼んで描き上げた。そのほか絶筆の2作品も展示。「結核に侵されながら、絵が輝いているよう。絵の神様に描かされたような絵だと思います」佐伯祐三《郵便配達夫》1928年大阪中之島美術館かきとられた自画像。「パリに行って間もなくヴラマンクに会い『アカデミック』と言われ、なんとか脱却しようと苦労しているときに描いたもの」。顔の部分はおそらくうまくいかずに消してそのままに。佐伯祐三《立てる自画像》1924年大阪中之島美術館「佐伯祐三 ―自画像としての風景」東京ステーションギャラリー東京都千代田区丸の内1‐9‐1JR東京駅 丸の内北口 改札前1月21日(土)~4月2日(日)10時~18時(金曜は~20時。入館は閉館の30分前まで)月曜(3/27は開館)休一般1400円ほかTEL:03・3212・2485※『anan』2023年1月25日号より。取材、文・松本あかね(by anan編集部)
2023年01月24日CMソングやジブリ映画、人気ドラマの主題歌など数多くの名曲を生み出してきたユーミンこと松任谷由実さん。シンガーソングライターとして活躍し続けているユーミンの魅力をたっぷり味わえる展覧会、『YUMING MUSEUM』が六本木の東京シティービューで開かれています。世代を超えて愛されるJ-POPの女王はいかにして生まれたのか、その軌跡をたどれる展覧会です。ユーミンの世界へ!【女子的アートナビ】vol. 277『YUMING MUSEUM』では、音楽シーンのトップランナーとして走り続けているユーミンの直筆歌詞や楽譜、ステージ衣装、映像などを展示。これまで、ほとんど公開されることのなかったユーミン自身のコレクションなども見ることができます。会場は、六本木ヒルズ52階にある東京シティービュー。まず、エントランスの吹き抜けギャラリーに入ると、ユーミンの楽曲づくりを象徴するグランドピアノとたくさんの歌詞や譜面の複製が美しく散りばめられています。ユーミンが青春時代に刺激を受けた東京の街を一望できる最高のロケーションで、日本を代表する歌姫の世界観に触れられます。なぜかウィッグが…!今から50年前の1972年、18歳のユーミンは『返事はいらない/空と海の輝きに向けて』でデビュー。当時は、旧姓の「荒井由実」さんでした。実家は、東京・八王子の「荒井呉服店」。大正元年に創業した老舗の呉服店で多感な幼少期を過ごしたユーミンは、立教女学院中学・高校を経て多摩美術大学に進学します。会場では、荒井由実時代から作曲に使っていたグランドピアノや美大時代の絵画、当時読んでいた書籍など、ユーミンをつくった大切なものたちが展示されています。なかでも目を引くのが、ボブスタイルのウィッグ。青春時代、ユーミンは夜に実家を抜け出し、都心の繁華街に遊びに来ていました。そのとき、自室のベッドに仕込んでおいたのが、このウィッグ。親が部屋に来ても、寝ているように偽装していたそうです。呉服屋のお嬢さまだったユーミンが、親の目を盗んで夜遊びしていたというエピソード、ほほえましいですよね。ちなみに、青春時代のユーミンについては、山内マリコさんの著書『すべてのことはメッセージ 小説ユーミン』でも詳しく紹介されています。小説では、このウィッグの話も登場。読んでから行くと、展示をさらに楽しめます。圧巻のコンサート衣裳も!また、コンサートの衣装を展示したコーナーも見どころのひとつ。ユーミンのステージは、まるでオペラの舞台のような豪華セットや衣装、華やかな演出、そして圧巻のパフォーマンスで知られています。伝説となっているのは、1979年の全国ツアー。本物の小象に乗ったユーミンが、ステージに登場しました。会場では、当時の象に乗ったユーミンをイメージした展示もあり、迫力満点。また、ライブの映像も流れているので、さまざまなステージの興奮を体感できます。ユーミンの音声ガイドも!本展では、無料の音声ガイドも楽しめます。こちら、なんとユーミン自身が展示をナビゲートしてくれるのです!ユーミンといえば、ラジオの名パーソナリティとしてもおなじみですよね。話す言葉のひとつひとつが大切なメッセージに感じられ、ラジオを聴いてファンになった人も多いと思います。さらに、羽生結弦さんやビートたけしさんなど、各界の著名人15人以上の方が音声ガイドに登場。好きなユーミンソングの思い出などを語っています。なお、音声ガイドを利用したい人は、ぜひスマホとイヤホンをご持参ください。ユーミンの魅力を100%体感できる本展は、2月26日(日)まで開催。ぜひ、足を運んでみてくださいね!Information会期:~2月26日(日)会期中無休会場:東京シティービュー開館時間:10:00〜22:00(入館は21:00まで)観覧料:一般¥2,500、大学・高校生¥1,700、4歳~中学生¥1,200、シニア(65歳以上)¥2,200
2023年01月15日昨年7月に代々木公園、8月に隅田公園で空に巨大な顔が浮かんでいるという謎の光景が話題を呼んだ。その仕掛け人こそアーティストの荒神明香(こうじん・はるか)さん、ディレクターの南川憲二さん、インストーラーの増井宏文さんの3名からなる現代アートチーム・目[mé]。彼らが企画したプロジェクト《まさゆめ》は、東京都心の空に巨大な誰かの顔を予告なく浮かべ、それを見た人がさまざまな反応を起こす作品となっている。見たままの風景を人がどう解釈するかにかけた作品です。「作品を見た人は立ち止まって『これは何だろう』って思うでしょ。スマホで撮影する人もいたりして。実はこの作品が登場した瞬間を一番体験したかったのは僕たちなんですね。でも作者である以上、制作過程を見てしまうのでそれは叶わない。だから見た人の反応を通じて、自分たちも作品を見ているんです」(南川)彼らの作品には単なる驚きではなく、どこか不思議な夢のような感覚が宿る。それもそのはず、作品は、荒神さんが幼い頃に見た夢や記憶をもとに、南川さんが作品の方向性を示し、増井さんが形にしている。決して難しくない彼らの作品は、普段美術に縁がなかった人も虜にし、ユニークな視覚的体験を提供してきた。彼らが共に活動を始めたのは10年前。大学で知り合った3人だが、当時から既に荒神さんは海外でも活躍するアーティストだった。そんな彼女の才能に南川さんは嫉妬心を抱いていたと語る。ただお互いに興味はあった。ならばクリエイティビティを分配し、力を合わせていい作品を作りたいと目[mé]は結成された。「とはいえ集団でのモノ作りは上手くいかないことが多い。気持ちのズレを解消するために、3人で月2回ほど、5~6時間かけたメンタルトレーニングを約5年続け、互いを理解するコツを掴んできました。今ではきょうだいのようで周りから見ると少し気持ち悪いかも(笑)」(南川)そんな彼らが年始に企画展を開催する。場所は地上229m、360度の景色を眺めることができる会場だ。〈都市の運動から抜け出し「ただ、眺める」。〉がコンセプトの今作は、都市活動の一部になっている鑑賞者がそこから抜け出し、違う視点で街を見ることを提案したものだ。「会場には渋谷を撮影した写真や映像はありますが、それを説明する文章は一切ありません。“わからない”ことを、わからないままに見せたい。文字よりも感性で見てもらえたらと。ただそこにある風景を、何かに縛られることなく眺められるような機会を作れたらと思っています」(荒神)目 [mé]の過去作品緑のトンネルを進んだ先にあったのは、実は継ぎ目のない鏡面の池。鑑賞者はこの池のような鏡面に降り立ち、反転した世界に身を置いて、そこから現実に再び帰還する。この一連の動きのすべてが作品に。「Elemental Detection」(さいたまトリエンナーレ2016)Photo:Natsumi Kinugasa年齢や性別、国籍を問わず世界中から顔を募集し、選ばれた実在する一人の顔を東京の空に浮かべた話題のプロジェクト。2021年夏に実施。「まさゆめ」(Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル 13、2019‐21年)Photo:TakahiroTsushimaギャラリー空間をホテル(の廊下)に変容させた作品。突き当たりの部屋に入るとそこには意外な仕掛けが…。個展「たよりない現実、この世界の在りか」(資生堂ギャラリー、2014年)Photo:Ken KATOアーティストの荒神明香(中央)、ディレクターの南川憲二(左)、インストーラーの増井宏文(右)によるアーティストチームとして2012年より活動。手法やジャンルにこだわらず、空間や観客を含めた状況、導線を重視。この世界をもう一度新しい目で見るような作品をチーム・クリエイションで展開。’23年開催のさいたま国際芸術祭のディレクターに就任。Photo:TakahiroTsushimaSKY GALLERY EXHIBITION SERIES vol.5『目 [mé]』SKY GALLERY東京都渋谷区渋谷2‐24‐12 渋谷スクランブルスクエア SHIBUYA SKY46F1月13日(金)~3月24日(金)10時~22時30分(入場は21時20分まで)無休一般2000円ほかTEL:03・4221・0229※日時指定WEBチケットあり※『anan』2023年1月11日号より。取材、文・山田貴美子(by anan編集部)
2023年01月10日東京・日本橋の三井記念美術館で、『国宝 雪松図と吉祥づくし』が開かれています。本展では、きらびやかで華やかな国宝《雪松図屏風》をはじめ、七福神や子孫繁栄などおめでたいテーマの作品を展示。新年にぴったりの「縁起物づくし」の展覧会をご紹介します!ハッピー気分になれる!【女子的アートナビ】vol. 276『国宝 雪松図と吉祥づくし』では、三井記念美術館のコレクションを代表するお宝作品、国宝《雪松図屏風》を中心に、長寿や子孫繫栄など「吉祥」をテーマにした作品や、福の神にまつわる三井家ゆかりの品々など、新年を迎える時期にぴったりの美術工芸品を展示。作品を見るだけでハッピーな気分になれる、ありがたい展覧会です。プレス内覧会では、三井記念美術館の学芸員、藤原幹大さんが作品について解説。各作品の見どころや、テーマなども教えていただきました。藤原さんの解説をもとに、「吉祥モチーフ」の由来もご紹介していきます。吉祥クイズ1:なぜ「牡丹」はおめでたい?《青磁浮牡丹文不遊環耳付花入》南宋〜元時代・13〜14世紀 三井記念美術館本展の第1章では「富貴の華」と題して、牡丹が描かれた作品が展示されています。ここで、吉祥クイズ!なぜ牡丹は、おめでたいモチーフなのでしょう?牡丹の花は、唐の皇帝・玄宗と楊貴妃が愛した花で、中国の貴族たちにも好まれていました。その伝統が日本にも持ち込まれ、牡丹は縁起の良いおめでたい花として美術品にも多く描かれています。この展示室でひときわ目を引くのが、美しい青磁の花入れ。牡丹の図柄が大きくあしらわれています。本作品は、三井家の前には福井のお殿さまが持っていたもので、藤原さんは次のように解説しています。藤原さんこの花入れは、福井藩の重要な宝物として大切に保管されていた由緒ある品です。大坂城に伝わっていたもの、という言い伝えがあり、福井藩のご先祖が大坂の陣での働きにより得られたもので、栄光を象徴する品でもあります。牡丹という花は、栄光や権力の象徴として重要視されていたという歴史も垣間見えます。吉祥クイズ2:なぜ「猫」はおめでたい?『国宝 雪松図と吉祥づくし』展示風景第2章「長寿と多子」では、長寿や子宝、立身出世などの願いがこめられた作品を展示。長生きの象徴である鶴や亀などの縁起物が描かれた掛け軸などを見ることができます。ユニークなのが、猫の絵が描かれた掛け軸です。なぜ、猫がおめでたいのでしょう?藤原さんによると、中国語で長寿を意味する言葉と猫の発音が近いので、「猫は長寿を願う生き物」として捉えられていたそうです。吉祥クイズ3:なぜ「松」はおめでたい?国宝《雪松図屏風》 円山応挙筆18世紀 三井記念美術館同じく第2章に、本展のハイライト、円山応挙作の国宝《雪松図屏風》があります。この「松」もおめでたモチーフのひとつ。なぜ、縁起が良いのか、ご存じですか?松は、四季を通じて緑の葉が茂っていることから、永久で不変、つまり長生きの象徴として捉えられています。きらびやかな金が使われ、目にも鮮やかな本作品には、松が大きく描かれ、まさに「おめでたい」の極地。藤原さんは、この絵の作者である円山応挙が「空間そのものを縁起の良いものに変える、ということも意識して制作したのかもしれない」と話していました。吉祥クイズ4:なぜ「ライチ」はおめでたい?『国宝 雪松図と吉祥づくし』展示風景先ほどご紹介した「猫」のほかに、もうひとつ、中国由来のユニークな吉祥モチーフをピックアップ。それが、「ライチ」です。本展でも、ライチが描かれた掛け軸が展示されています。甘くてジューシーな白い果肉のライチ、なぜおめでたいのでしょう?ライチは、虫害を受けず、樹齢100年以上の老木も実を結ぶという言い伝えから、長寿のイメージがあるとのこと。また、ライチを意味する中国語「茘枝」が「立子」の発音と似ているため、子孫繁栄の意味も重なるそうです。吉祥クイズ5:なぜ「キジ」はおめでたい?『国宝 雪松図と吉祥づくし』展示風景第3章「瑞鳥(ずいちょう)のすがた」では、おめでたいイメージのある鳥をモチーフにした作品が登場。鶴や鳳凰などが表された美術工芸品が展示されています。では、最後の吉祥クイズです。瑞鳥のなかには、キジ(雉)も含まれています。なぜキジがおめでたいのか、わかりますか?キジは、古くは古事記や日本書紀、万葉集にも出てくる鳥で、別名は「妻恋鳥」。夫婦円満のイメージがあるため、縁起物となりました。ほかにも、キジには「焼け野の雉(きぎす)」という言葉もあります。親のキジは野を焼かれたとき、火の中にいるひな鳥を救い出そうとして、自分が焼かれても子どもを守るということから、「子思いの鳥」というイメージもあるそうです。ちなみに、キジは日本国産の鳥で、日本の「国鳥」にも指定されています。古くから日本とご縁の深い鳥なのですね。年内は25日まで、新年は1月4日からおめでたいモチーフづくしの展覧会、いかがでしたか。本展は、新年は1月4日からスタートです。ぜひ、ハッピーな気分になれる「縁起物づくし」の美術品をご覧になってみてくださいね!Information会期:2023/1/28(土)休館日:月曜日(ただし1/9は開館)、年末年始12/26(月)〜1/3(火)、1/10(火)会場:三井記念美術館開館時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)観覧料:一般¥1,000、大学・高校生¥500
2022年12月31日江戸時代、百人一首は一般教養として庶民の間に広まり、人気絵師たちがこぞって題材として取り上げた。葛飾北斎もその一人で〈百人一首乳母かゑ(え)とき〉は北斎最後の大判錦絵シリーズにあたる。「乳母が絵解きをする」という題名通り、大人が子どもに歌の意味を説明するという意図で企画された。しかし実際に制作されたのは27図のみ。そのうち本展「北斎かける百人一首」で展示されるのは23図だという。100図に及ばなかったのはなぜ?「27図の錦絵のほか、60図以上の版下絵が知られていますが、全図での出版に至らなかった理由は色数が多く、手の込んだ技法も多いことから、採算がとれなかった点が考えられます。もう一つは、北斎が独自の世界観を存分に表現したため、一般には簡単には読み解けず、期待通りの人気を得られなかった可能性も」と、すみだ北斎美術館・学芸員の千葉椎奈さん。例えば有名な小野小町の《花の色はうつりにけりないたつ(ず)らにわか(が)身よにふるなか(が)めせしまに》の場合。「平安時代に詠まれた歌が、江戸時代の農村に置き換えられています。毎年咲いては散る儚い桜と、年老いていく小町の姿との対比を描き、《色はうつりにけり》から染め物をする職人の姿も描かれています」一見風景画のようでも、さまざまな「絵解き」のポイントが潜む。「〈冨嶽三十六景〉〈諸国名橋奇覧〉の錦絵でも、北斎は風景や人々の暮らしをそのまま描くのではなく、対象物の多様な見え方、変化の過程、構図の面白さに重きを置いています。本作でも構図の面白さや言葉遊び、歌人を思わせる人物を登場させるなど、絵の面白さを重視しています」北斎の謎かけに挑戦するには?「まず、絵の中で不思議に思うところを探してみてください。一番に気になったものが絵を読み解く鍵になっている可能性が高いです。歌や歌人のイメージと照らし合わせ、自由に想像しながら鑑賞すると、より楽しんでいただけると思います」北斎最後の大判錦絵シリーズ23図が集結!《千早振神代もきかす龍田川からくれなゐに水くゝるとは》が主題。竜田川の景観を楽しむ人々の表情や動きに焦点をあてて描く。葛飾北斎「百人一首乳母か絵説在原業平」すみだ北斎美術館蔵(後期)《花の色はうつりにけりないたつらにわか身よにふるなかめせしまに》が元に。桜の花に手の込んだ技法が使われているのにも注目。葛飾北斎「百人一首うはかゑとき小野の小町」すみだ北斎美術館蔵(前期)百人一首が大衆に広まった理由とは?ポルトガルから伝わった「カルタ」と結びつき「百人一首かるた」が誕生。美人もかるた取りに熱中。葛飾北斎「美人カルタ」すみだ北斎美術館蔵(後期)当時、百人一首の注釈書も数多く出版された。歌人や歌意について挿絵とともに解説。溪斎英泉『日用雑録婦人珠文匣秀玉百人一首小倉栞』すみだ北斎美術館蔵(頁を替えて通期展示)「北斎かける百人一首」すみだ北斎美術館 3階企画展示室東京都墨田区亀沢2‐7‐2前期:開催中~2023年1月22日(日)後期:1月24日(火)~2月26日(日)※前後期で一部展示替えあり9時30分~17時30分(入館は17時まで)月曜(1/2、1/9は開館)、12/29~1/1、1/4、1/10休一般1000円ほかTEL:03・6658・8936※『anan』2022年12月28日‐2023年1月4日合併号より。取材、文・松本あかね(by anan編集部)
2022年12月30日映画のさまざまなジャンルの中でも、無声映画以来の歴史を持つ「恐怖映画」。古くはフランケンシュタインや吸血鬼から現在のJホラーまで、およそ100年にわたる歴史をポスターでたどる試みが「ポスターでみる映画史 Part 4 恐怖映画の世界」だ。「怖いもの見たさ」を満たす古今東西のポスターの祭典。「ポスターは映画の顔。どういう作品かを伝える役割と同時に、宣伝媒体としての表現も楽しみたいところ。恐怖映画の場合、いかにもおどろおどろしい惹句も魅力の一つです」と国立映画アーカイブ・主任研究員の岡田秀則さん。恐怖映画は映画の発展と歩みを同じくしながらも、「人を怖がらせる」ことに特化し、花開いたジャンル。エポックメイキングな作品がいくつもあり、それには必ず印象的なポスターがあると言っていいほど。例えば、動物パニック映画の代表作『ジョーズ』。「海を泳ぐ人の真下に迫るサメを描いた有名な一枚。これを見ただけで映画を観たような気分になれます」と特定研究員の藤原征生さん。会場には1910年代から現代までの約120点を展示。グロテスクな外見の「怪人・怪物」が登場する古典に始まり、内面からわき起こる恐怖を描くサイコホラー、動物や未知なるものに襲われるパニック映画、流血描写など残酷表現を追求したスプラッターへと時代を追って展示。また「日本の恐怖映画」と題して、日本独自の進化も紹介。江戸時代の怪談を映像化する流れや、特撮を駆使したSFホラー。横溝正史、江戸川乱歩原作のミステリー映画の隆盛を経て世界に知られるJホラーへと発展していく歩みを見ることができる。それにしても「恐怖映画」はなぜこれほど人を惹きつける?「『見たくないけれど見たくなる』という人間の根源的な欲望を、ダイレクトに満たしてくれるからではないでしょうか」(藤原さん)ホラーは苦手という人も、人間の想像力が生み出した多様な「恐怖」をポスターから覗き見してみては?怪談からJホラーまで。「貴重な戦前のポスター。化け猫と化け猫役の女優のポーズなど、絵力を楽しんで」(藤原さん)『怪猫赤壁大明神』(1938年、森一生監督)国立映画アーカイブ所蔵怖く哀しき怪人・怪物の登場。怪人が真っ赤な衣装で登場する場面を描く。2m近くあるサイズが圧巻の100年近く前のポスター。「ぜひ現物を見てください」(岡田さん)『オペラの怪人』(1925年、日本公開同年、ルパート・ジュリアン監督)国立映画アーカイブ所蔵心の闇と狂気を描く、サイコホラー。《サイコ‐異常心理‐》と補足入り。初めて聞く人が多かったせい?監督自身が登場し《物語の秘密をお友達に話さないで下さい》とお願いも。『サイコ』(1960年、日本公開同年、アルフレッド・ヒッチコック監督)国立映画アーカイブ所蔵超常現象に震撼。オカルト映画。暗闇にぼうっと浮かび上がる車のヘッドライト。「おどろおどろしさより静謐な雰囲気がかえって気味の悪さを感じさせます」(藤原さん)『クリスティーン』(1983年、日本公開1984年、ジョン・カーペンター監督)国立映画アーカイブ所蔵ジョーズ襲来。広がるパニック。「簡にして要。これを見ただけでどんな映画かわかります。これ以上何も足せない、何も引けない、非常にすばらしいビジュアル」(藤原さん)『ジョーズ』(1975年、日本公開同年、スティーヴン・スピルバーグ監督)国立映画アーカイブ所蔵「ポスターでみる映画史 Part 4 恐怖映画の世界」国立映画アーカイブ 展示室(7階)東京都中央区京橋3‐7‐6開催中~2023年3月26日(日)11時~18時30分(1/27、2/24は~20時。入室は閉室の30分前まで)月曜、12/27~1/3休一般250円ほかTEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)※『anan』2022年12月28日‐2023年1月4日合併号より。取材、文・松本あかね(by anan編集部)
2022年12月29日東京、丸の内の三菱一号館美術館で『ヴァロットン―黒と白』が開催中です。19世紀末のパリで活躍した画家、フェリックス・ヴァロットン(1865-1925)。抜群のデザインセンスをもった彼のモノクローム版画は、今の時代に見ても驚くほどクールです。さらに、本展では音声ガイドに最新の音響技術が使われ、ユニークな鑑賞体験も可能。展示風景と一緒に見どころなどをレポートします!約180点を一挙に見られる!『ヴァロットン―黒と白』展示風景【女子的アートナビ】vol. 275『ヴァロットン―黒と白』では、三菱一号館美術館が所蔵する世界有数のヴァロットン版画コレクション約180点を一挙に公開。黒と白でつくられたヴァロットンの独特な版画世界を、心ゆくまで楽しむことができます。スイスに生まれ、19世紀末のパリで活躍したヴァロットンは、独自の視点で生み出したモノクロームの木版画で名声を獲得。本展では、希少な連作〈アンティミテ〉や〈楽器〉などを揃った形で見ることができます。『ヴァロットン―黒と白』展示風景また、同時代に活躍したトゥールーズ=ロートレック(1864-1901)の作品も特別展示。こちらは、三菱一号館美術館と姉妹館提携しているフランスのトゥールーズ=ロートレック美術館から来日した作品で、ヴァロットン作品と比べて鑑賞できる貴重な機会になっています。音声ガイドもミステリアス!また、本展の音声ガイドもユニークです。ナビゲーターは、声優・俳優で映画監督などもされている津田健次郎さん。今回のガイドの一部コンテンツには、最新の空間音響技術「Re:Sense™」が導入され、AR(拡張現実)音声ガイドを体験できます。音の臨場感や人の気配感がリアルに再現されているので、津田さんが背後にいたり、近づいて耳元でささやいたりといった感覚、錯覚を楽しめます。謎めいた雰囲気が漂うヴァロットンの作品にあわせ、音声ガイドの構成もちょっとミステリアス。不思議な「ネコ」も出てきます。(このネコは、展示室にも出没しているので、見つけてみてください!)大人の色気を感じる津田さんの声にゾクゾクしながら見るアートは、本当に格別。特におすすめは、薄暗くなった平日夕方の閉館前の時間帯です。人の少なくなった館内で、ひとり静かにガイドを聴けば、ヴァロットンの謎めいた世界にどっぷりひたれます。なお、この音声ガイドはスマホなどのアプリに一度ダウンロードすれば、配信期間中に何度でも聴くことができます。作品もミステリアス!『ヴァロットン―黒と白』展示風景もちろん、作品そのものもミステリアスです。画面の半分以上が黒で覆われた斬新な構図や、あやしい雰囲気が漂う男女の絵など、見れば見るほどヴァロットンのつくりだす不思議な世界に惹きこまれていきます。特に、連作〈アンティミテ〉は必見。本作品は、1898年に限定30部で刊行されたもので、男と女の親密さや不穏な空気感などが黒と白の世界で表現されています。フェリックス・ヴァロットン《お金(アンティミテV)》1898年絵は大胆に単純化され、さらにヴァロットンは暗示的なものを画面に潜ませているので、見ていると想像力を掻き立てられます。小説家・江國香織さんは、公式図録のエッセイに、「ヴァロットンの絵はとても小説的だ」と書かれています。実際、ヴァロットンは、35歳と42歳のときに小説も執筆していたそうで、江國さんは、この画家のことを「日常生活のなかに不可避的に物語を見てしまう人」と記述。特に〈アンティミテ〉の連作については、「小説的の極致だと思う」と述べています。まさに、上質な小説のように、想像力を刺激してくれるヴァロットンの版画を180点も見られる機会はなかなかありません。ぜひ、音声ガイドを聴きながら、小説的なアートの世界を楽しんでみてください。「丸の内イルミネーション2022」も開催中!なお、三菱一号館美術館のある丸の内エリアでは、現在「丸の内イルミネーション2022」も開催中です!( 2023 年 2 月 19 日まで)丸の内エリアにある340本を超える街路樹が、シャンパンゴールド色の LED 約 120 万球で彩られています。アートを見たあとは、ぜひステキなイルミネーションもお楽しみください!Information会期:~2023/1/29(日)休館日:月曜日、12/31、1/1※但し、12/26、1/2、1/9、1/23は開館会場:三菱一号館美術館開館時間:10時~18時(金曜と会期最終週平日、第2水曜日は21時まで)※入館は閉館の30分前まで観覧料:一般¥1,900、大学・高校生¥1,000、中学・小学生 無料
2022年12月25日六本木のサントリー美術館で、『京都・智積院の名宝』が開かれています。本展では、桃山時代に活躍した絵師、長谷川等伯とその一門が手がけたゴージャスな金碧障壁画が集結。京都に行かなければ見られなかった国宝《楓図》と《桜図》が、都内で同時公開されています。作品を所蔵されている智積院の方のお話などもまじえ、見どころをレポートします!名宝がテンコ盛り!【女子的アートナビ】vol. 274『京都・智積院の名宝』では、桃山時代の絢爛豪華な障壁画群をはじめ、貴重な書や仏画、近代の襖絵など智積院が所蔵する作品73件を展示。そのうち、国宝が6件、重要文化財が4件も含まれ、まさに名宝がテンコ盛りの展覧会です。智積院は、もとは和歌山県の根来寺(ねごろじ)内にあり、真言宗の学問寺として発展。しかし、戦国時代に根来寺が豊臣秀吉の焼き討ちにあい、智積院を含めた多くの寺が焼け落ちました。その後、徳川政権の時代になると、智積院は家康より寄進を受け、かつて秀吉が建立した祥雲禅寺を、寺内にある長谷川等伯の障壁画も含めて下賜されました。プレス内覧会では、真言宗智山派教化部長の服部融亮僧正が登壇。等伯の障壁画群について、次のように語りました。服部僧正秀吉に焼き討ちにあった智積院が、祥雲禅寺を賜る、という数奇なめぐりあわせではありますが、それ以降、祥雲禅寺の障壁画も大切に保護されてきました。途中、火災や盗難などの被害にあいながらも、そのたびに僧侶たちにより救出され、現在でも絢爛豪華な姿を保っています。これらの作品が、寺外で同時公開されるのは、今回がはじめての機会です。しびれる…!等伯プロデュースの作品が集結!『京都・智積院の名宝』展示風景会場展示は、五章で構成されています。第一章では、真言宗の宗祖、弘法大師空海の肖像画をはじめ、江戸時代に記録された智積院の財産目録なども展示。目録には、長谷川派の障壁画についても記載されています。名宝が形成されてきた背景などもわかる、大変興味深い資料です。『京都・智積院の名宝』展示風景続く第二章では、長谷川等伯とその一門による障壁画が登場!この展示室、本当にゴージャスすぎて、圧倒されます。国宝《楓図》は長谷川等伯、同じく国宝の《桜図》は、等伯の息子、久蔵の作。まさに桃山時代を代表する華やかな作品です。これらの障壁画群が飾られていた祥雲禅寺は、もともと秀吉が1591年に3歳で夭折した息子、鶴松の菩提寺として京都・東山に建立。秀吉から、室内を絢爛豪華な障壁画で埋めつくすよう命じられた長谷川等伯は、秀吉好みの金色をふんだんに使い、力強い樹木や美しい植物を描きました。この障壁画を仕上げたあと、久蔵は26歳の若さで亡くなります。(病死説のほか、長谷川派のライバル、狩野派に暗殺されたという説もあります)左:国宝《楓図》 長谷川等伯 桃山時代 16 世紀 智積院 【全期間展示】、右:国宝《桜図》 長谷川久蔵 桃山時代 16 世紀 智積院 【全期間展示】ちなみに、筆者は昔、安部龍太郎さんの小説『等伯』を読んだあと、どうしても等伯の障壁画群を見たくなり、京都・智積院まで出かけていきました。同書には、今回展示されている《楓図》や《桜図》、《松に黄蜀葵(とろろあおい)図》の話もクライマックスの部分に出てきます。小説を読んだあとに障壁画群を見ると、しびれるくらい感動します。ふだんは非公開の襖絵も登場!『京都・智積院の名宝』展示風景第2展示室では、長谷川等伯らの障壁画に影響を受けた近代画家たちの作品を展示。特に、京都画壇の大家、堂本印象が67歳のときに描いた色鮮やかな襖絵《松桜柳図》は必見です。等伯たちの描いた《楓図》や《桜図》のイメージにも重なり、智積院の美が近代にまで受け継がれていることが伝わってきます。これらは智積院宸殿(しんでん)の室内を飾るもので、通常は見ることができません。『京都・智積院の名宝』展示風景ちなみに、本展の音声ガイドでナビゲーターを担当されているのは、俳優の栗原英雄さん。現在放送中の『鎌倉殿の13人』では、大江広元役で出演されています。本展では、鎌倉時代の重要文化財《童子経曼荼羅図》(展示期間:11/30~12/26)や《孔雀明王像》(展示期間:12/28~1/22)など貴重な作品も展示。これら鎌倉時代の作品解説を大江殿の声で聴けるのは、なんとも贅沢です。ぜひ、ガイドもお聴きになってみてください。1月22日まで開催!智積院の名宝の数々、いかがでしたか。等伯の障壁画をはじめ、古い時代に描かれた繊細な日本画を、今でも美しい状態で愛でることができるなんて、本当に幸せなことだと思います。火災や盗難、戦争を乗り越え、お寺の方々が大切に守ってこられたおかげだと、今回の展示を見て改めて実感しました。都内でこれほど豪華な桃山絵画を見られる機会は、めったにありません。ぜひ、本物の美しさを美術館でご覧ください!Information会期:~2023/1/22(日)※会期中展示替えを行います。休館日:火曜、12/30(金)~1/1(日・祝)(1/17は開館)会場:サントリー美術館開館時間:10:00~18:00(金・土および1/8は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで観覧料:一般¥1,500、大学・高校生¥1,000
2022年12月18日イギリスで最も愛されているデザイナー、マリー・クワント。現在92歳の彼女は、ミニスカートやタイツなどを世の中に広め、「ミニの女王」とも呼ばれるファッション界のレジェンドです。現在、Bunkamura ザ・ミュージアムで、マリー・クワントのすてきなファッションを紹介する展覧会『マリー・クワント展』が開かれています。今回、マリー・クワント本人とゆかりのある方々にお会いし、当時のファッションや展覧会の見どころなどを聞いてきました!女性のファッションを一変!マリー・クワントの破壊力右:ヘザー・ティルベリー・フィリップスさん、左:ウルリカ・ヘインズさん【女子的アートナビ】vol. 273『マリー・クワント展』では、服や下着、コスメ、インテリアなどライフスタイル全般をデザインし、世界的なブランドにまで成長させたマリー・クワントの歩みを紹介。英国・ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(略称V&A)が所蔵する約100点の衣服を中心に、小物や写真、映像なども展示されています。本展はロンドンを皮切りに、スコットランド、オーストラリア、ニュージーランド、台湾でも開催されている世界巡回展。イギリスでは、約40万人も訪れたという人気の展覧会です。マリー・クワントは、1930年ロンドン生まれ。25歳の若さで若者向けのアイテムを揃えたブティック「バザー」をロンドンに開き、それまでの伝統的な価値観を打ち破って時代を先導。今では当たり前のミニスカートやタイツ、ジャージー素材のアイテムを浸透させ、当時の女性たちのファッションを一変させました。本展の開幕に合わせ、マリークワント社元取締役のヘザー・ティルベリー・フィリップスさんと、元モデルのウルリカ・ヘインズさんが来日。ヘザーさんは、1970年からマリークワント社で広報・マーケティングを担当されたあと経営に携わり、マリーさんとも家族ぐるみのお付き合いをされています。また、ウルリカさんは、1974~75年までマリークワント社のモデルとして活躍。その後、大手ブランドや日本でもモデルを務めていた方です。お二人に、展覧会の見どころやマリー・クワントさんの魅力などをお聞きしてみました!なぜ今も人気?マリー・クワントの魅力――まずは、お二人にお聞きします。日本での展示をご覧になって、いかがでしたか。ヘザーさんカラフルで遊び心があり、マリー・クワントらしさを効果的に見せていると思います。もともとオリジナルの展覧会をやっていたヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の基本を踏襲しながらも、日本ながらの解釈を加えて、すべての世代の方々にアピールできる内容になっていると思います。ウルリカさん私はこの展覧会が好きです。すばらしいと思いました。私たちがロンドンで見たのと同じくらい、日本の方々がこの展覧会を楽しむことができるのか、当時の若々しい刺激的な現象や雰囲気を、日本の方々も感じることができるのか、知りたいですね。私のドレスを見て!――この展覧会では、1955年から75年にかけてのマリー・クワントの活動に焦点を当てています。anan読者の若い女性たちには知らない時代だと思いますが、そんな女性たちでも楽しめますか?ウルリカさん私が着ているマリークワントのドレスを見てください!ほら、今でも新鮮でしょ。ミニスカートは、今でも若い世代にうけると思いますよ。ロンドンで開かれた展覧会では、実際に若い世代のモデルさんたちに当時のドレスを着てもらったのです。ヘザーさんその若いモデルの子たちは、マリークワントのドレスをおしゃれに着こなしていました。当時のドレスにドクターマーチンのブーツを合わせてみたり、白いソックスを履いたり、スニーカーを履いたりして、いろいろ組み合わせていました。今の時代に着ていても、まったく変に見えないし、居心地よく着られるドレスだと思います。ロンドンで展覧会が開かれていたとき、会場でお客さんたちの話を聞いていたのですが、18歳の女性は「このドレス着たい!」と言ったのです。マリークワントの服は、タイムレスな存在になっているのだと思いました。ファッションを手に届く存在に…――マリー・クワントさんは、ファッション界への多大な貢献を認められて、英国王室から2度も勲章を授与されています。イギリス人にとって、彼女はどんな存在ですか。ヘザーさん今は主に、起業家のロールモデルとしてみなされていると思います。衣服だけでなく、ライフスタイルのクリエイターとして認められている存在です。変革を起こしたいとき、彼女のように強い思いや自信をもって取り組めば、どんな人でもやりたいことを実現できるのではないか、と思わせてくれる存在です。ウルリカさん彼女を特別な人にしたのは、ファッションを低価格にした、という点です。大量生産することにより、ファッションを手に届く存在にした人だと思います。当時、デザイナーの服というのはオートクチュール(高級仕立服)で、お店ですぐ買うことができるものではなかったのです。ファッションを多くの人に届けることができたのがマリー・クワントです。専属モデルに求められていたのは…『マリー・クワント展』展示風景――マリー・クワントさんは、ご自身もスタイルが良く、ミニスカート姿でメディアに出られてファッションアイコンのような存在になっていました。当時、モデルとして活動されていたとき、マリーさんからは、どんなことを求められましたか?ウルリカさんfun(楽しさ)を求められていましたし、性格の良さも求められました。ポジティブで熱心に仕事をする、いわゆるプロフェッショナリズムを持っている人をマリー・クワントは求めていました。モデルのチームのなかに、ディーバ的な存在、例えばケイト・モスのような人はいなくて、常にチームワークで物事が進んでいたと思います。チームで仕事をして自らを解放し、楽しく仕事ができる人を彼女は求めていました。ヘザーさんそれに、インテリジェンス、賢さも求められていたと思います。マリー・クワントのデザインを理解してカラダを動かせる人、デザインを身につけることによる高揚感を伝えることができるような人を求めていました。――マリー・クワントさんの服を着ると、どんな気分になりましたか?ウルリカさん気分は良かったですよ。新鮮なデザインで、常に楽しさを与えてくれた洋服で、モデルたちはみな「着る」ということに誇りを持っていました。着心地がよくて堅苦しくなくて、軽く動きやすい服でしたので、本当に着ていて気分が良かったです。――展覧会では、当時のファッションショーの映像も見ることができます。ステージに踊りながら登場したり、ドラマティックなポーズをとったりして、今の時代に見てもとても刺激的です。ウルリカさんファッションショーは仕事ですから、当然、みんなまじめに取り組んでいましたけれど、常に同じモデルたちと仕事をしていたので、いい雰囲気でした。さらに、モデルの数は何十人もいたわけではなく、5、6人という選ばれた数人だけでした。選ばれているということ自体が、モデルの喜びにつながっていたと思います。人数が少なかったので、着替えは急いでしなければならなかったですけどね(笑)。それも楽しかったです。なぜマリー・クワントは日本好き?『マリー・クワント展』展示風景――マリー・クワントさんの回顧録を読むと、日本についての記述がたくさん出ています。彼女は日本の女性たちについてどう思っていたか、ご存じですか。ヘザーさんマリー・クワントは日本が大好きで、日本人のライフスタイルに感銘を受けていたようです。日本女性の着こなしのセンスにも感銘を受け、上品でありながらファッションを賢明な形で解釈しているというのが彼女の感想でした。また、日本人が自分たちの文化を大事にするという点も感激していました。マリーは息子を一時期日本で働かせていたほど、日本人と日本の文化を愛していました。日本人のお嫁さんが来てくれるといいな、と思っていたほど日本が好きでしたよ。――ウルリカさんは、モデルとして日本のブランドや百貨店ともお仕事をされていました。日本の印象はいかがでしたか。ウルリカさん私も日本が大好きで、来る機会があればすぐにでも行きたいと思うほどです。日本から大きな影響を受けていましたし、文化的にも違う部分が多いのでワクワクします。日本では細かい部分まで気配りがされていて、すばらしいと思っています。エキサイティングな場所ですね。――興味深いお話を聞かせていただき、ありがとうございました。インタビューを終えて…マリー・クワントさんと一緒に華やかな時代を過ごされてきたお二人。鮮やかなピンクのジャケットを羽織ったヘザーさん、ミニスカートとタイツ姿で颯爽と歩くウルリカさん、どちらも美しくキュートに服を着こなされ、見とれてしまいました。色あせないマリー・クワントブランドの底力をお二人が体現されているようでした。多くの刺激とインスピレーションを与えてくれるマリー・クワントの展覧会、ぜひ足を運んでみてくださいね!Information会期:~2023/1/29(日)※12/6(火)、1/1(日・祝) 休館会場:Bunkamura ザ・ミュージアム開館時間:10:00-18:00(入館は17:30まで)毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)※状況により、会期・開館時間等が変更となる可能性があります。※12/31(土)は18:00まで(入館は17:30まで)観覧料:一般¥1,700、大学・高校生¥1,000、中学・小学生 ¥700※学生券をお買い求めの際は、入館時に学生証(小学生を除く)のご提示をお願いします。お問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)※本展は会期中すべての日程で【オンラインによる事前予約】が可能です。予約なしでも入場できますが、混雑時にはお待ちいただく場合があります。予約方法等の詳細は展覧会HPにてご確認ください。撮影:堀口宏明
2022年12月11日有名なデイジーマークとともに世界にその名を知られる『マリー・クワント』。今年92歳を迎えたファッションデザイナーの功績をたどる展覧会「マリー・クワント展」がロンドンからやってくる。「大人たちと同じ服は着ない」、革新者の宣言。伝統と階級にしばられた英国社会で若者が初めて自由を謳歌した1960年代。ビートルズやローリング・ストーンズが相次いでデビュー、ミニスカートをはいた女の子が闊歩し、細身のスーツに身を包んだモッズがスクーターを乗り回す。“スウィンギング・ロンドン”と呼ばれるムーブメントの真っただ中にいたのが、マリー・クワントその人だ。今回の展覧会で特筆すべきは1950~’70年代までのアーカイブを幅広く見られること。会場には、大学の美術専攻を卒業後、ロンドンにブティック『バザー』をオープンした当初のアイテムに始まり、紳士服や制服をソースにした新しい英国トラッドというべき一連のシリーズが並ぶ。「コール・ヒーバー(石炭担ぎ)」と名付けられたアンサンブルをまとった当時のスーパーモデル、ジーン・シュリンプトンのファッションフォトは最高にキュートだ。そしてミニスカート旋風。会場に並ぶさまざまな「ミニ」を見ていると、大人たちが眉をひそめる中、女の子たちのファッションを楽しみたい気持ちが炸裂、一大トレンドが生まれた当時の様子が伝わってくる。ファッショナブルであることがパリのオートクチュールを着ることだった時代に、《誰にでも手が届くおしゃれな服を作ること、それがファッションの使命》と言い切ったマリー。後に世界的な拡大路線へ舵を切るのもそうした信条の表れのはず。大英帝国勲章受勲の際には、自身が手がけたジャージー素材のミニドレスで式典に挑んだ。慣習に迎合せず、自分を貫く姿に憧れる女性も多かったとか。そんな生き方の部分にも共感できそうだ。脚は見せるためにある!?カラフルだったりレース模様だったり、さまざまなタイツをデザインし、ミニ&タイツが一つのスタイルに。ツイッギーというアイコンが生まれ、ミニスカートは世界的な流行へ。マリー・クワントのタイツと靴1965年ごろImagecourtesy Mary Quant Archive/ Victoria and Albert Museum, Londonベストとショートパンツのアンサンブルを着るツイッギー1966年©Photograph Terence Donovan, courtesy Terence Donovan Archive. The Sunday Times, 23 October 1966“スウィンギング・ロンドン”を牽引。ロンドンが最先端だった。人気モデルのパティ・ボイドとローリング・ストーンズの1ショット。ドレス「ミス・マフェット」を着るパティ・ボイドとローリングストーンズ1964年Photograph by John French©John French / Victoria and Albert Museum, Londonファッションは皆のもの。左・ビートルズがかぶり一躍人気となったベレー帽をカラフルに展開。マリー・クワントのカンゴール製ベレー帽の広告1967年Image courtesy of The Advertising Archives右・『ジンジャー・グループ』はオレンジやイエローを中心にコーディネートしやすいアイテムを揃え、支持を集めた。ジンジャー・グループのために作られたピナフォア「スノッブ」とストライプのアンサンブルを着るロス・ワトキンスとポーリン・ストーン1963年©John French / Victoria and Albert Museum, LondonWho’s Mary Quant?1930年、イギリス・ロンドン生まれ。英国を代表するファッションデザイナー。自身の名を冠するブランドは、洋服、下着、コスメ、インテリアまでグローバルに展開。マリー・クワントと、ヘアスタイリングを担当していたヴィダル・サスーン1964年©Ronald Dumont/Daily Express/Hulton Archive/Getty Images「マリー・クワント展」Bunkamura ザ・ミュージアム東京都渋谷区道玄坂2‐24‐1開催中~2023年1月29日(日)10時~18時(金・土曜は~21時。入館は閉館の30分前まで)12/6、1/1休一般1700円ほかTEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)※オンラインによる事前予約可※『anan』2022年12月7日号より。文・松本あかね(by anan編集部)
2022年12月05日大阪万博のシンボル《太陽の塔》や渋谷駅のパブリックアート《明日の神話》、さらに「芸術は爆発だ」など多くのアートや名言で知られる岡本太郎。彼の大回顧展が、上野の東京都美術館で開かれています。カラフルでパワフルな会場の様子や東京展での見どころなど、学芸員さんの話もまじえてレポートします!「本職は人間!」岡本太郎のすべてを紹介【女子的アートナビ】vol. 272『展覧会 岡本太郎』では、今なお人気を誇り、特に若い世代にも愛されている芸術家、岡本太郎(1911-1996)の絵画や立体作品、生活用品なども含め、初期から絶筆までの多彩な作品が一堂に集結。亡くなるまでアートを描き続けた彼の人生のすべてを紹介する、過去最大規模の展覧会です。この展覧会のポスターやチラシには、「本職?人間だ。」という文字が大きくプリントされています。これは、アート制作だけでなく、本の執筆やプロダクト製造、テレビ出演などさまざまな活動をしていた岡本が、「本職は何か」と問われたとき、「人間――全存在として猛烈に生きる人間」と答えた言葉からとられたもの。本展では、猛烈に生き抜いた彼の人生を、作品を通してガッツリ体感できます。作品とぶつかり合う…!『展覧会 岡本太郎』展示風景では、展示の様子をご紹介。会場の入り口を抜けるとすぐに、強烈な作品群に囲まれます。最初のフロアでは、初期から晩年までの代表作が集められています。本展を担当された東京都美術館学芸員の藪前知子さんによると、岡本太郎は「常に現在と自分の作品をどうぶつけるか、どう対峙するかと考えていた」とのこと。最初の展示室では、時代やテーマにしばられずに作品が並べられ、作品同士がぶつかり合う構成で順路もありません。まず、ここで岡本太郎の作品との強烈な出合いを味わえます。パリ時代の謎が明らかに…『展覧会 岡本太郎』展示風景続く第1章からは、時系列に作品が紹介されています。1929年、家族でヨーロッパに渡った岡本は、その後ひとりでパリに残り芸術家を目指します。大学で学問を学びながら、絵画を制作。しかしドイツ軍がパリに侵攻し、やむなく帰国します。その後、徴兵されて出征し、終戦後は長安で俘虜生活を送った後、1946年から活動を再開。20代のときにパリで描いた作品は戦時中に焼失していたため、岡本は戦後すぐに自身で再制作しました。今回の展覧会では、パリ時代の貴重な再制作作品4点すべてを展示。今まで、明らかにされていなかったパリでの創作活動を知ることができ、本展の見どころとなっています。ドキドキ…!坐ることを拒否する椅子『展覧会 岡本太郎』展示風景第4章「大衆の中の芸術」では、油彩画だけでなく、椅子や時計、ネクタイなどのプロダクトも登場。カラフルでかわいいグッズが展示され、ワクワクする展示室です。1950年代になると、岡本は前衛的な新しい絵画を創作するのと並んで、外側への発信も開始。パブリックアートなども手がけるようになります。『展覧会 岡本太郎』展示風景より《坐ることを拒否する椅子》なかでも、目を引くのが《坐ることを拒否する椅子》。めちゃくちゃかわいいです!れっきとした作品ですが、座ってもいいそうです。大きな目玉の上に座るなんて、ドキドキします。この章の作品について、藪前さんは次のように解説しています。藪前さん岡本太郎は、生涯作品を売りませんでした。なぜなら、売ったら一部の金持ちだけのものになってしまうから。「芸術は大衆のもの」という考えを持ち、1954年に立ち上げた現代芸術研究所で大衆に作品を広めていく方法を研究するいっぽうで、彼らが手に入れることができるようなプロダクトを作りました。ゆかたやネクタイ、スカーフなど、どれも岡本太郎の作品なのです。《坐ることを拒否する椅子》も、椅子はゆったりくつろぐものではなく、椅子そのものが人間に挑んでくるような雰囲気。椅子は、「戦いの連続である人生のちょっとした休息のためだけのもの」という彼らしいメッセージが込められています。超有名な作品も登場!『展覧会 岡本太郎』展示風景第5章では、岡本太郎の代表作、《太陽の塔》と《明日の神話》にフォーカス。日本万国博覧会(大阪万博)のシンボル《太陽の塔》は、1/50サイズの立体作品と内部模型、さらに構想スケッチが展示されています。いっぽう、《明日の神話》は、渋谷駅コンコースにあるパブリックアートの1/3サイズの下絵。岡本は、この2つの作品を同時並行的に制作していました。渋谷駅で、《明日の神話》を目にしている方も多いと思いますが、作品に何が描かれているか、テーマまで知っている方は少ないかもしれません。藪前さんは次のように解説しています。藪前さん《明日の神話》は、原爆と水爆をめぐる人類の関わりを描いています。人間の進歩に対して警鐘するかのように、ビキニ環礁での水爆実験で被ばくした第五福竜丸や、中心には原爆の火に焼かれている人間もいます。ただ、警鐘だけではなく、異なる力がぶつかり合うなかで悲劇を越えて人類が新しく生まれ変わるのだ、というメッセージも込められています。東京展は12月28日まで!岡本太郎のエネルギーをたっぷり浴びられる展覧会は、12月28日まで開催。その後、愛知に巡回します。ぜひ会場で、彼の力強い作品と対峙してみてください。Information会期:~12月28日(水)※日時指定予約制休室日:月曜日会場:東京都美術館開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)夜間開室金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般¥1,900、大学・専門学校生¥1,300、65歳以上 ¥1,400作品はすべて岡本太郎記念現代芸術振興財団
2022年12月04日俳優でクリエイターとしても活動している元乃木坂46の伊藤万理華さんが、3度目の個展を開催。2022年12月2日から、渋谷のGALLERY X BY PARCOで、『MARIKA ITO LIKE A EXHIBITION LIKEA』がはじまります。今回、プレス向けに行われた取材会に伊藤さんが登場!個展への思いや今までの活動について、語ってくれました。かわいい!伊藤万理華さん登場!【女子的アートナビ】vol. 271取材会に登場した伊藤さん。グレーのジャケットとミニを組み合わせたスタイルがとってもクールです!乃木坂46を5年前に卒業した伊藤さんは、2017年に初個展『伊藤万理華の脳内博覧会』を開催。2020年には『伊藤万理華 EXHIBITION “HOMESICK”』、そして今回3度目の個展、『MARIKA ITO LIKE A EXHIBITION LIKEA』で展覧会三部作の最終章を飾ります。今回の個展は、伊藤さんと10組のクリエイターが創作した書籍『LIKEA』をベースに展開。ananにもコラムを連載されている劇作家・根本宗子さんの脚本をもとにしたラジオドラマのインスタレーションや、アーティストNAZEさんと生花アーティストのアレキサンダージュリアンさんとのコラボなどで同書籍の世界観を立体的に表現。空間設計は、CEKAIの福田哲丸さんが担当されています。また、会場では書籍『LIKEA』も先行販売もされるほか、オリジナルグッズやアパレルブランド「BODYSONG.」とのコラボアイテムなど、展覧会の開催を記念したグッズも多数販売される予定です。不親切な本にしたかった(笑)では、ここから個展準備中の伊藤さんが取材会で語ってくれたコメントをご紹介します。――まずは、書籍『LIKEA』をつくろうと思われたきっかけについて、教えてください。伊藤さん本を本格的につくろうと思い始めたのは、一年前くらいです。きっかけは、その時期に、同世代の活躍するクリエイターさんや、会いたいと思っている方に会う機会が多く、周りの人たちと衝動的に何か雑誌みたいなものをつくりたいなという思いが大きくなりました。制作していく過程で、自分の集大成になりそうなくらい大きな本になりました。――書籍『LIKEA』の見どころは?伊藤さん表紙だけ見ると「何の本やねん」という感じなのですが(笑)、写真集やフォトブックではないものにしたいと思って、カテゴライズするときに、どこに置けばいいのかわからないという「不親切な本」にしたかったのです(笑)。それで、こんなにサイズが大きくなりました。過去の展示でやってきたものづくりのやり方が書籍になるといいな、と思ったので、個展が本になったような感じかもしれません。――書籍タイトルの『LIKEA』とは、どんな意味ですか?伊藤さん LIKEAは、英語like aからつくった造語です。基本的に、何かをモノをつくるときは、自分の好きなものとか、憧れている人と一緒にするのがメインなのですが、ただそれは「好き」という距離感ではなく、もっとあいまいな「like a」という「~のような」という感じなのです。「~が好き」とはっきりしづらい言葉の表現が良かったのと、造語がいいなと思ったので『LIKEA』となりました。自分が救われたのは…――展覧会についての思いを聞かせてください。伊藤さん最初は本だけをつくろうと思っていたのですが、その過程で、パルコさんでやるなら、ちゃんと個展をしたいと思いました。自分がいつもモノづくりをする過程で、どんなふうに構想して表現しているのかを見せたいなと。根本宗子さんに書いていただいたストーリーをラジオドラマにしたりして、体験型の展覧会にしたいと思いました。――創作のインスピレーションは、どうやって得られたのですか?伊藤さんある一つのきっかけでした。本にも載せましたが、たまたま友だちが小さいギャラリーでポップアップをやっていたのを見に行ったとき、そこで人と出会い、ある本に出合い、とてつもない感銘を受けました。ファッションやモノづくりの興味の幅が広がり、私はこういう空間が好きなんだなーと気づき、自分もつくる側になりたいと思いました。何か完璧なモノを発表するのもすごくステキだと思いますが、その生まれる過程みたいなことが過去に活動してきて一番救われた部分なので、モノをつくる過程が好きです。以前は忙しすぎて、そういう部分を大切にできなくて、おろそかにしていました。なぜこういうモノが生まれたのか、という過程を知りたかったので、それを本で表現できたらいいなと思いました。――展覧会は最終章とされていますが、その理由を教えてください。伊藤さん最終章と言ってはいるのですけど…(笑)。たぶんデビュー10年で区切りがいいから。それに、自分がここまで過去を振り返る機会は、今後あったとしても、ここまでモノにすることはないと思います。本をつくるのは大変だったから、もうつくりたくない(笑)、それぐらいやりきったので、最終章と言っています。ライブで恩返し…――2022年はデビューされて10年で、乃木坂のライブにもサプライズ出演されて話題になりました。10年を振り返り、いかがでしたか。伊藤さん今年は振り返る機会が多くありました。なかでも大きかったのが、乃木坂10周年のライブに出させていただいたこと。それ以外でも、映画やドラマですごく自分の肌に合う作品に出合い、表現方法が今までと全然変わりました。個展だけでなく、ドラマや映画、演劇でも自分を消化できるようになったのが、この10年で一番大きなことだったと思います。――5月のライブは盛り上がっていましたね。伊藤さん自分があの場に立てるとは想像していなかったので、活動していた人間として、あの場で一曲でも自分を見せることができてうれしかったです。ずっと見てくださった方や、今でもお世話になっているスタッフさんへの恩返し、親孝行みたいな気持ちでした。――最後に、ファンのみなさまにメッセージをお願いします。伊藤さん今まで、自分がやりたいことをやってきて、ファンのみなさんは私のその意思をくみ取って、静かに見守ってくださいました。そんなふうに応援してくださる方が私の周りにいると思えるから、私もあきらめずに何か伝えたいことを発信していこうと思えました。今回、一冊、形になっています。みなさんにとっての大切な一冊になるとうれしいです。個展は12月2日からスタート!――まっすぐな眼差しでクリエイターとしての思いを話してくれた伊藤さん。つくる過程が好き、という彼女のこだわりと魅力が詰まった書籍は、本というよりもまさにアートワークそのもの。『LIKEA』というタイトルもクールで、ファンの方はもちろん、ファッション好き、アート好きな方も刺激を受ける内容だと思います。展覧会とあわせて、ぜひ書籍もチェックしてみてください!Information『 MARIKA ITO LIKE A EXHIBITION LIKEA 』概要会期:2022年12月2日(金)~12月19日(月)会場:渋谷PARCO B1F 「GALLERY X BY PARCO」営業時間:11:00~21:00 ※入場は閉場時間の30分前まで入場:¥700 ※小学生以下無料12月2日(金)から展覧会会場で書籍を先行発売撮影 : 岩澤高雄
2022年12月01日子供の頃から北の自然に憧れ、極北の大地アラスカで活動した写真家・星野道夫。取材中に事故で亡くなり、25年以上経った現在も、大自然や動物の心打つ写真と美しい文章で多くのファンを魅了し続けている。本展「星野道夫 悠久の時を旅する」は、20歳のときに初めて足を踏み入れたアラスカの村の記録から、亡くなる直前まで撮影していたロシアのカムチャツカ半島での写真まで、貴重な資料を交えながら、彼のライフワークを一望し、星野道夫の足跡を辿る内容となっている。19歳のある日、星野は神田の古書店でとある海外の写真集に出合い、そこに掲載されたエスキモーの村・シシュマレフの航空写真に強く魅せられる。住所も分からない村の村長宛てに手紙を書いた彼は、半年後に届いた返事をきっかけにアラスカに渡り、念願のシシュマレフ村でひと夏を過ごすことに。この村での経験が、後に彼が写真家として再びアラスカへ向かう大きなきっかけとなった。アラスカ大学に入学してからも1年の大半は旅に費やし、自然写真家として歩み始めた星野。彼は極北の動物を獲り、独自の文化を育んできたエスキモーや北米先住民、アラスカの自然を愛する多くの人々に出会い、次第に旅行者ではなく住民として、この地に関わってゆくことを決意。1990年にはフェアバンクスの森に家を建て、暮らし始める。「動物や自然だけではなく、人と自然の関わりが星野の一番大きなテーマでした。彼はいろんな被写体と向き合いながら、その先にある命と向き合っていた気がします。動物の写真でも、その奥にアラスカ全体があり、命のつながりがある。最終的には、私たちはどこから来て、どこへ行こうとしているのか、ということをずっと考えながら旅していたと思います」と語るのは星野道夫事務所代表・星野直子さん。生誕70年にあたる今年開催される本展では、未完の作品群も交え、星野の旅を紹介する。アラスカという過酷な自然の中で生きる動物、先住民族や開拓時代にやってきた白人たち。彼らの生き様を写真に収めてきた星野は、生と死が隣り合わせの彼らを見つめ、どんなことに人生の豊かさを見出したのか。本展を見ればその答えがきっとわかるはずだ。ドールシープはアラスカの山岳地帯や高地に生息する野生ヒツジ。雄は大きくカーブした角を生やす。ホッキョクジリスはほとんどアラスカ全域に生息。1年のうち8か月を眠って過ごす。多くの肉食動物の獲物に。エスキモーの伝説には多くの人格化されたホッキョクグマの話が出てくる。写真はカナダのハドソン湾にて撮影。森での狩猟で生計を立てていたウォルター。アルペングロウ(山頂光)に染まる夕暮れのデナリ(マッキンレー山)。北米の最高峰で、標高6190m。手前はワンダーレイク。撮影はデナリ国立公園にて。日没直前にドレスアップして来てくれたミシャの一家。ロシア領チュコト半島にて。ほしの・みちお1952年、千葉県生まれ。慶應義塾大学卒業後、動物写真家・田中光常の助手を経て’78年にアラスカ大学野生動物管理学部に入学。以後アラスカをテーマに作品を発表。’96年、取材中にヒグマに襲われて急逝。アニマ賞、木村伊兵衛写真賞受賞。「星野道夫 悠久の時を旅する」東京都写真美術館 地下1階展示室東京都目黒区三田1‐13‐3恵比寿ガーデンプレイス内開催中~2023年1月22日(日)10時~18時(木・金曜は20時まで。入館は閉館の30分前まで)月曜(祝休日の場合は開館、翌平日休館※1/3は開館)、12/29~1/1、1/4休一般1000円ほかTEL:03・3280・0099※『anan』2022年11月30日号より。取材、文・山田貴美子撮影・星野道夫©Naoko Hoshino(by anan編集部)
2022年11月28日350年以上も前から、華やかなバレエやオペラが上演されてきたパリのオペラ座。舞台、音楽、美術などが一体となった「総合芸術」の殿堂には、どんな魅力があるのでしょう?アーティゾン美術館で開催中の展覧会、『パリ・オペラ座―響き合う芸術の殿堂』の内覧会を取材してきましたので、レポートします!パリ・オペラ座の魅力を体感!【女子的アートナビ】vol. 270『パリ・オペラ座―響き合う芸術の殿堂』では、17世紀から現代まで続いているパリ・オペラ座の魅力を、絵画や彫刻、自筆譜などの資料により「総合芸術」的な観点で紹介。フランス国立図書館やオルセー美術館など国内外から多彩な作品約250点が集められ、マネやドガ、ルノワール、シャガールなど巨匠たちの見ごたえある絵画も展示されています。本展を担当されたアーティゾン美術館学芸員の賀川恭子さんは、「オペラ座とは、絵画・音楽・彫刻・バレエなどさまざまな芸術が一堂に会した場所。それを総合的にお見せするのが今回の展覧会」と解説。パリ・オペラ座と諸芸術とのつながりをテーマに極上のアートを楽しめる、大変贅沢な展覧会です。バレエは国王が踊っていた…!『パリ・オペラ座―響き合う芸術の殿堂』展示風景では、展示の様子を見ていきます。序盤から、華やかな絵画や彫刻が並び、とてもゴージャスな雰囲気。さすが、パリ・オペラ座の展覧会。心が躍ります!展示構成も、オペラのように序曲からはじまり、第Ⅰ幕、第Ⅱ幕から第Ⅳ幕へと続き、最後はエピローグで終了。いつもの展覧会とは違う趣向が凝らされています。パリ・オペラ座は、1669年に太陽王ルイ14世が創立したアカデミーが起源。もともとオペラ自体はイタリアで誕生したもので、ルイ14世の宰相がローマで見たオペラに感銘を受け、フランスに持ち込みました。第Ⅰ幕の展示室では、ルイ14世が踊っている場面を描いた作品などを展示。バレエは女性が踊るイメージですが、もともとは宮廷で男性が踊っていたもの。宮廷バレエでは国王自身も舞台に出演していました。公式図録に記載されている舞踊史研究家・芳賀直子さんの解説によると、当時は、「踊りがうまいことがそのまま権力につながった」とのこと。ルイ14世の「太陽王」という呼称も、バレエの役名にちなんだものだそうです。この展示室では、ほかに、ブーシェやヴァトーなどロココ芸術の作家による作品も展示。オペラ座の舞台から影響を受けた華やかな絵画を楽しめます。マネ・ドガ・ルノワールに興奮!『パリ・オペラ座―響き合う芸術の殿堂』展示風景絵画好きの人におすすめしたいのは、第III幕の展示室。ハムレットを演じている歌手を描いたマネの大きな作品2点をはじめ、バレエダンサーを描いたドガ作品やルノワールの絵画など、見ごたえある作品を堪能できます。『パリ・オペラ座―響き合う芸術の殿堂』展示風景特におもしろいのは、ヴァーグナーのコーナー。印象派の巨匠ルノワールが描いたヴァーグナーの肖像画や、オペラ『タンホイザー』の場面を描いた絵画などを見ることができます。前出の賀川さんによると、ルノワールは大のヴァーグナーファンだったとのこと。イタリア滞在中のヴァーグナーに会い、緊張しながら彼の肖像画を描いたものの、大作曲家の反応はイマイチだったようです。実際、ルノワールが描いたヴァーグナーの顔は、ふつうの気難しそうなおじさんの雰囲気。音楽室に飾ってあった威厳のある堂々とした姿とはだいぶ違います。意外と、素顔に近かったのかもしれません。マーク・ジェイコブスの衣裳デザインも!『パリ・オペラ座―響き合う芸術の殿堂』展示風景第IV幕では、20世紀と21世紀の芸術家たちによる舞台デザインや衣装デザインなどを展示。マーク・ジェイコブスやカール・ラガーフェルトなど現代の有名デザイナーによる衣裳デザイン画も見ることができます。また、現在のパリ・オペラ座ガルニエ宮に飾られているシャガールの天井画の最終習作も展示。実際にオペラ座で実物をご覧になった人もいると思いますが、現地では高い場所に飾られているので、細かいところなどはよく見えません。『白鳥の湖』や『カルメン』、『魔笛』など有名な舞台作品が随所に散りばめられたこの絵画、近くでじっくりと見られるのはうれしいですね。本展は、オペラやバレエファンはもちろん、音楽好き、ファッション好き、パリが好きな人など幅広い人が楽しめる展覧会です。ぜひ、華やかな世界を体感してみてください。Information会期:~2023年2月5日(日)休館日:月曜日(1月9日は開館)、12月28日ー1月3日、1月10日会場:アーティゾン美術館開館時間:10:00 ー 18:00(毎週金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:ウェブ予約チケット(税込)¥1,800円、当日チケット(窓口販売)¥2,000円、学生無料(要ウェブ予約)※当日チケット(窓口販売)はウェブ予約枠に空きがある場合に販売※中学生以下の方はウェブ予約不要※この料金で同時開催の展覧会をすべてご覧頂けます。※開催情報は予告なく変更となることがあります。同時開催:石橋財団コレクション選特集コーナー展示Art in Box ーマルセル・デュシャンの《トランクの箱》とその後
2022年11月27日ロックバンドASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDジャケットや、『夜は短し歩けよ乙女』『謎解きはディナーのあとで』の書籍カバーなどでお馴染みのイラストレーター中村佑介さんの20年の活動を振り返る展覧会『中村佑介20周年展』が始まった。ボリューム満点、いわばすき家的な展覧会です。「今回は僕が20年間携わってきた仕事のほぼ全てが一堂に会する大規模な試みです。CDジャケット、本の表紙などイラスト作品と原画をカテゴリーごとに紹介します。とにかくボリューム満点にして美術ファンや僕を知らない人でも、これだけ見れば十分お腹いっぱいになる。すき家的な発想なんです(笑)」会場で驚くのはその仕事の幅広さ。「イラストレーターになってずっと幅広い世代に向けて描きたいと思ってきました。例えば教科書。僕自身、何年も教科書を使っていたはずなのに、いま表紙を思い出せるものは一冊もない。当時は学生よりも学校向けに、きっと無難な表紙が重視されたのでしょう。でもそれじゃ学んだことも記憶に残りにくいはず」そう考える彼の教科書は、学生の記憶に強烈なインパクトを残す。他にもさだまさしや浅田飴など、年配ファンが中心だったアーティストや企業からも注目されている。なぜこれほど多くの人の心に響くのだろう。「子どもの頃から従来の広告やパッケージ写真にずっと違和感があったんです。例えば有名人が商品を手に満面の笑みでこっちを見ている。それって、“私のこと知っているならこの商品買ってよね”と言わんばかりの威圧感で、引いていた」匿名性を重視し、あえてセーラー服や目線のない横向きの女の子の構図を採用。不自然な笑顔も必要としないフラットな絵は、都会的なのにどこか懐かしい。その根底に流れるのは観る人を想う気持ちだ。「例えば、男性が描く女性キャラクターは、体のラインや露出度を強調したものも多い。デフォルメだとしても不快に思う人もいますよね。僕も女の子のモチーフを多用しているからこそ、誰が見ても心地よく感じられる作品を作りたいんです」2004年リリースの『ソルファ2004ver.』の再編集ジャケット。「芯が太くなった彼らの演奏をそのまま表現するように描きました」ASIAN KUNG-FU GENERATION『ソルファ(2016)』©Ki/oon Music2010年放送のTVアニメ『四畳半神話大系』から進化させた本作は「以前と同じ印象を大切にしながら、さらに進化したデザインに」。©2022 森見登美彦・上田誠・KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」制作委員会2013年から高校音楽教科書の表紙画を担当。「この教科書を使っていた学生は、いま僕の作品を見て懐かしさを感じるそうです」「高校生の音楽1(平成29年~)」(教育芸術社)明治20年創業「浅田飴」から2020年に登場したのど飴。これまでのイメージを払拭したポップな缶で、販売先には問い合わせが殺到した。浅田飴糖衣P(白桃)〈指定医薬部外品〉『中村佑介20周年展』東京ドームシティ Gallery AaMo東京都文京区後楽1‐3‐61東京ドームシティ クリスタルアベニュー沿い開催中~2023年1月9日(月)11時~19時(金曜は20時まで。入場は閉場の30分前まで)月曜(12/26・1/2・1/9は開館)休一般1200円ほかTEL:03・5800・9999なかむら・ゆうすけ1978年、兵庫県生まれ。大阪芸術大学卒業。アニメのキャラクターデザイン、ラジオ制作、エッセイ執筆など多方面で活躍。CDジャケット全集『PLAY』(飛鳥新社)発売中。※『anan』2022年11月23日号より。取材、文・山田貴美子(by anan編集部)
2022年11月21日現代日本を代表するアーティストとして国内外で活躍している大竹伸朗さん。彼の作品およそ500点を集めた大規模な回顧展が、現在、東京国立近代美術館で開かれています。プレス内覧会に登壇した大竹さんのコメントとともに、展覧会の様子をレポートします!美術館が宇和島駅に…?!【女子的アートナビ】vol. 269『大竹伸朗展』では、1980年代初めにデビューして以来、絵画や彫刻、映像、インスタレーション、巨大な建造物など幅広いジャンルで多くの作品を手がけてきたアーティスト、大竹伸朗さんの作品約500点を展示。16年ぶりの大回顧展となります。大竹さんは、1955年東京生まれ。武蔵野美術大学を卒業後、1982年に初個展を開催。その後、ドイツ・カッセルで開かれている世界最大級の国際美術展・ドクメンタ(2012年)や、120年以上の歴史を持つヴェネチア・ビエンナーレ(2013年)など、さまざまな国際展に参加。アートの島として有名な直島に多くの作品が展示されているほか、「東京2020 公式アートポスター展」にも参加するなど、半世紀近くもの長い間、多方面で活躍されています。プレス内覧会に登壇した大竹さんは、次のように述べました。大竹さん本展は挑戦要素が多い展覧会で、今までにないものになっていると思います。世界は破壊が続いていますけど、モノをつくる力、つくりだすパワーを少しでも感じていただければとてもうれしく思います。5回ぐらい来て、見てください(笑)。大竹伸朗展2022年11月1日(火)~2023年2月5日(日)東京国立近代美術館展示風景より《宇和島駅》(1997年)また、大竹さんは、美術館のテラスに設置された作品《宇和島駅》についてもコメントしました。大竹さん宇和島は、僕が制作拠点にしている場所です。宇和島駅が新しくなるとき、駅名の文字を廃棄するというので、納得がいかなくて入手しました。駅舎に乗って、ひとつずつ焼き切ったのです。東京国立近代美術館と宇和島駅が交差するのは、ある種のコラージュ。赤い色は僕が創造したもので、夜はライトアップされて見え方が変わります。圧が強すぎ…!7つのテーマで体感大竹伸朗展2022年11月1日(火)~2023年2月5日(日)東京国立近代美術館展示風景より手前:《男》(1974-75年)富山県美術館では、展示の様子をご紹介。会場では、テーマに合わせて7つのセクションに分けられています。ただ、テーマに沿って作品をつくっているのではなく、また、制作時代順にも並んでいないので、自分の好きなところから自由に見ていけばいいようです。最初の展示室から、けっこう圧が強め。ちょっと怖い感じの人形のような作品が立っていたり、天井からぶら下がっていたりして、もし照明が暗いとお化け屋敷と思ってしまいそうな雰囲気です。大竹伸朗展2022年11月1日(火)~2023年2月5日(日)東京国立近代美術館展示風景より手前:《スクラップブック #71/宇和島》(2018-2021年)本展を担当された東京国立近代美術館の主任研究員、成相肇さんによると、大竹作品の特徴は「貼り付けること。貼ってからはがして、重ねて量を増やして密度を増していき、ほとんどの作品がコラージュ作品になっている」とのこと。その密度の濃さを体験してほしいそうです。もっとも密度を感じられるのは、スクラップブックと題された作品たち。もはやスクラップブックの面影もないような、大きな塊です。展示室に巨大な小屋が…!大竹伸朗展2022年11月1日(火)~2023年2月5日(日)東京国立近代美術館展示風景より《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》(2012年)本展でもっとも目を引く作品は、ドイツの国際展にも展示された《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》。ネオンサインやトレーラー、ギター、巨大なスクラップブックなどが凝縮されたパワフルなインスタレーションです。展示室の空間に巨大な小屋が置かれ、かなり迫力があります。小屋の中をのぞくと、いろいろなものが詰まっていて、こちらも圧が強め。音も鳴る作品で、大竹さんの集大成のひとつといわれています。人気のニューシャネルも…!また、本展はグッズも充実。大竹さんは、文字の作品も多く手がけていて、本展の「大竹伸朗展」という文字も今回の新作です。そんな「大竹文字」のひとつが《ニューシャネル》(1998年)。スナックの看板をモチーフにしてつくられたもので、Tシャツなどのグッズが大人気です。今回のためにつくられた新作グッズもあるので、ぜひ特設ショップものぞいてみてください。本展は2023年2月5日(日)まで開催。その後、愛媛県美術館と富山県美術館に巡回予定です。Information会期:~2023年2月5日(日)休館日:月曜日(ただし1月2日、9日は開館)、年末年始(12月28日~1月1日)、1月10日(火)会場:東京国立近代美術館開館時間:10:00-17:00(金曜・土曜は10:00-20:00)(入館は各閉館時間の30分前まで)※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般 ¥1,500、大学生¥1,000、高校生以下および18歳未満は無料お問合せ: 050-5541-8600(ハローダイヤル 9:00~20:00)
2022年11月19日芸術の都・パリが最も華やぎ、芸術家を惹きつけてやまなかった19世紀末。その彩り豊かな街でただ一人、黒と白の境地を突き詰めた作家がいる。名はフェリックス・ヴァロットン(1865~1925)。この秋、生涯にわたる彼の作品のうち、三菱一号館美術館所蔵の約180点が「ヴァロットン―黒と白」展で一挙に初公開される。黒と白で描く光と闇、理性と本能の狭間のドラマ。画家として教育を受けたヴァロットンが、初めて木版画の手ほどきを受けたのは25歳のとき。翌年にはすぐに雑誌で紹介され、木版画家として活動が本格化したというから、その才能は最初から際立っていた。木版画は15世紀に活版印刷が発明された当初に多用された技法で、ヴァロットンの時代には多色刷りができるリトグラフ(石版画)を手掛ける作家の方が多かったという。古くシンプルな技法をあえて選んだのはなぜだろう?作品を見ると、黒の領域の存在感、含蓄するものに圧倒される。連作〈アンティミテ〉では、白いドレスをまとった主人公に闇が迫り、今にも飲み込もうとしているかのよう。別の作品で描かれる人殺しの場面では、真っ白に彫り抜いた室内で、被害者に襲いかかる下手人(げしゅにん)の背中だけが不気味に黒く残る。こうした「黒」の表現について、「黒い染みが生む悲痛な激しさ」(芸術評論家タデ・ナタンソンの言葉 1899年)という評も。墨だけで描かれた水墨画がその濃淡で豊かな表情を見せる一方、ヴァロットンの色のない世界は、時に一途なまでの思いを秘めているように見えてくる。第一次世界大戦が勃発すると、52歳にして従軍画家として前線に赴く。その前年に制作された連作〈これが戦争だ!〉では、触手のような鉄条網に搦めとられた人間の体(死体)が描かれる。若かりし頃、辛辣さやブラックユーモアと解されてきた精神は、年齢を重ね、達観した表現へと至ったようにも。愛しくも哀しい人間界のドラマは、黒と白で描くからこそ美しいのかもしれない。フェリックス・ヴァロットン《お金(アンティミテV)》1898年木版、紙三菱一号館美術館フェリックス・ヴァロットン《フルート(楽器II)》1896年木版、紙三菱一号館美術館フェリックス・ヴァロットン《怠惰》1896年木版、紙三菱一号館美術館フェリックス・ヴァロットン《有刺鉄線(これが戦争だ!III)》1916年木版、紙三菱一号館美術館ヴァロットン―黒と白三菱一号館美術館東京都千代田区丸の内2‐6‐2開催中~2023年1月29日(日)10時~18時(金曜と会期最終週の平日、第2水曜は21時まで。入館は閉館の30分前まで)月曜(11/28、12/26、1/2、1/9、1/23は開館)、12/31、1/1休一般1900円ほかTEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)※『anan』2022年11月16日号より。取材、文・松本あかね(by anan編集部)
2022年11月15日その物の魅力をさらにアップさせる、組み合わせやコラボレーション。世の中にはさまざまな物と物が組み合わさっていますが、今注目したいのが建物とアートの融合です。ビル×アートでつくる、新しい街の価値2022年11月、渋谷区神宮前に開業した「1/1 32117」もそのひとつ。“建物から地域の付加価値を高めバリューアップする”ことをコンセプトに掲げるサンフロンティア不動産株式会社が立ち上げた、新ビルブランド「1/1(ONE)」の記念すべき第1号ビルとして誕生しました。「1/1」は、前述のコンセプトのもと、街づくりという視点で建物とアートを融合させる新たな試み。そこにしかない唯一無二のアート作品を設置し、その街で働く人、訪れる人、住まう人すべてに刺激を与え、街をさらに活性させていくことを目指しています。渋谷から世界へ!人と街を笑顔にするアートビルトークセッションでは同社代表取締役社長の齋藤清一氏と、リプランニング事業部長の小田修平氏が登壇しました。第1号ビルの場所として渋谷を選んだ理由について、「最先端で流行発信地である渋谷神南エリアは多くの人が行き交う場所。必然的に活気があることから新ブランドの発信拠点に選びました」と話す齋藤社長。また、印象的なビルの名前「32117」について小田氏は「◯◯ビルという名前はよくあるので、住所をそのまま名前にしてしまいました」と説明。ユニークさに加えて覚えやすさもある一方で、世界共通の数字を使用することで「世界基準の東京にしていきたい」という思いも込められていると言います。そして、新ビルブランド「1/1(ONE)」の今後については「2号、3号ビルの建築を予定している」と話す齋藤社長。また、同プロジェクトへの思いについて「事業を通して人々を笑顔にしたい。アートの魅力をビルに融合させることで人を、街を笑顔にし、元気を与えていきたい。人と街の共創を目指している」と語りました。世界的グラフィックアーティスト初来日、日本初個展イベントには、「1/1 32117」を象徴するアート作品を手掛けたフランス人現代アーティストCyril Kongo(シリル・コンゴ)氏が初来日。コンゴ氏はブランドや企業とのコラボレーションも多く、2011年のエルメス、2018年のCHANELは大きな話題を呼びました。デモンストレーションにて、会場の壁にスプレーでメッセージを描くCyril Kongo氏。したたるペンキもアートの一部となり、ビルの内装に華をそえました。また、ビル1階にはこの他にもCyril Kongo氏の作品がずらり。2022年11月5日(土)〜27日(日)の期間、日本初個展となる「CYRIL KONGO’s POP-UP STUDIO "FROM PARIS TO TOKYO”」が開催中。同ビル開業を記念した特別展なのでこちらも要チェックです。【参考】※サンフロンティア不動産株式会社※CYRIL KONGO’s POP-UP STUDIO "FROM PARIS TO TOKYO”
2022年11月15日上野の国立科学博物館で、「毒」をテーマにした特別展が開かれています。オフィシャルサポーターは、クイズ王の伊沢拓司さん。内覧会に登壇した伊沢さんのトークとあわせて、展示の様子をレポートします!伊沢拓司さんがオフィシャルサポーター!伊沢拓司さん【女子的アートナビ】vol. 268特別展『毒』では、自然界に存在するあらゆる毒について、国立科学博物館(通称:科博)のスペシャリストたちが徹底的に掘り下げ、わかりやすく解説。動物、植物、菌類、鉱物、人工毒などあらゆる毒について、標本や模型、資料など約250点の展示物を見ながら、毒の奥深い世界を楽しめます。本展のオフィシャルサポーターは、東大クイズ王としておなじみの伊沢拓司さん。子どものころから科博に通っていたという伊沢さんは、「大好きな科博のサポーターになれて子ども時代の自分に自慢したい」とうれしそうな様子。さらに、展覧会の魅力を次のように語りました。伊沢さん毒のイメージは、子どものころから図鑑で見て、怖いし危ないと思いながらも、知りたくなる要素もある。刺激的で、興味をそそられ魅かれてしまう存在です。会場の展示は非常に重厚で、幅広いジャンルの先生方が集まり、毒についてありとあらゆるものが語られています。たくさんの標本やモデルもあって、子どもから大人まで楽しめるギミック(仕掛け)がある。僕は展示を見るのに3~4時間はかかると思う(笑)。毒クイズも楽しめる!また、会場では、伊沢さんが率いる東大発の知識集団QuizKnock【クイズノック】が作成した毒クイズも楽しめます。クイズについて、伊沢さんは次のようにコメントしました。伊沢さん毒クイズは、展示を見ながら解けるので、答えを探してみようという目線で見ていくと興味がわくと思います。毒展は、もしかしたら、子どもに見せたくないと思う方がいるかもしれませんが、大事なのは正しく知って正しく恐れること。展示の中では、毒も薬になるという要素だとか、毒の利用、人間と生物の毒の付き合い方の話もあります。ただ何となく知らずに恐れるのではなく、毒について魅力的な要素から入り、正しく知る。毒から逃れられないからこそ、うまく付き合う知識を入れていただきたいです。かなり役立つ!毒知識特別展『毒』展示風景では、展示のなかから、いくつかピックアップして見てみます。前半の第2章「毒の博物館」で個人的に一番興味を引いたのは、身近な植物の毒。ふつうに食べるインゲンマメやビワなどが並び、それらの持つ毒について説明が書いてあります。例えば、インゲンマメの果実については、「熟した豆は十分に火を通さないと中毒する」と記載。また、ウメやビワなどの果実は未熟だと毒性があり、いっぽうモロヘイヤの種子は熟すと有毒になるそうです。毒知識、役に立ちます。特別展『毒』展示風景菌類のコーナーでは、もちろん毒キノコも登場。「派手な色のキノコは毒キノコ」、「虫食いのあるキノコは食べられる」などの迷信はすべてウソ、とのこと。地球上には推定10万種以上のキノコが存在し、そのうち大半は食毒不明で、食毒があるか見分ける方法もないそうです。気をつけましょう。人間が作った「毒」…特別展『毒』展示風景さらにショッキングだったのが、人間が作った毒のコーナー。海洋中に漂う殺虫剤やダイオキシンなどの汚染物質が、自然界で分解されないプラスチックの小さな粒「マイクロプラスチック」に吸着し、それらを海洋生物が誤食。食物連鎖の過程で毒が濃くなり、最終的に化学物質が体内に蓄積された魚を人間が食べるという結果になっています。レジ袋などのプラスチックゴミも、殺虫剤もすべて人間が作ったもの。レジ袋は環境によくない、とわかっていたつもりでも、科学の視点できっちり解説されると改めて恐ろしいことだと実感します。正しく知ってうまく付き合う、という伊沢さんのコメントが身に沁みました。役に立つ毒も!特別展『毒』展示風景最終章では、役に立つ毒も紹介されています。例えば、アオカビの一種から発見されたペニシリンは、バクテリアの生育を抑える物質。人間にとっては薬でも、バクテリアにとっては「毒」になります。本展の監修者で国立科学博物館の植物研究部長、細矢剛さんは「毒と向き合う姿勢は科学そのもの。毒とうまく付き合うのが我々に求められるもの」と語っていました。迷信やウソにだまされず、科学的な視点できちんと理解することの大切さを本展で体感できました。特別展『毒』は2023年2月19日まで開催。Information会期:~2023年2月19日(日)休館日:月曜日、12/28~1/1、1/10(ただし、1/2、1/9、2/13は開館)会場:国立科学博物館開館時間:9:00-17:00(入館は16:30まで)※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般・大学生 ¥2,000、小・中・高校生¥600※日時指定予約制
2022年11月13日アートアクアリウム美術館 GINZAは、秋イベント「生命の宿る金魚アート」を開催。「アートアクアリウム美術館 GINZA」で金魚アートを鑑賞「アートアクアリウム美術館 GINZA」は、“百華繚乱~進化するアート~”をテーマにした、金魚アートの常設施設だ。色とりどりの金魚とともに、光や音、香りの演出を施した、幻想的な空間を楽しめる。館内では、様々な色合いで輝く個性豊かな水槽作品を多数展示。光と色が交錯する水槽のなかで、金魚たちが優雅に泳ぐ、非現実的な美しい景色を堪能することができる。金魚×デジタルのアート作品秋イベント「生命の宿る金魚アート」では、芸術の秋に向けて、金魚をテーマにしたアートや伝統工芸作品を複数展示する。中でも注目なのは、「女性と金魚/鯉」をモチーフにしたデジタルアートだ。新進気鋭の様々なアーティストとコラボレーションした、幻想的なアート作品を間近で鑑賞できる。チョークで描いた金魚作品また、チョークアーティスト・Moecoによるチョークで描かれた金魚作品や、歌川国芳による金魚や鯉を描いた作品20点余りを集めた「歌川国芳コレクション」なども取り揃えている。日本の伝統を感じらえる作品そのほか、日本の伝統工芸である江戸切子の中で金魚が優雅に泳ぐ「金魚の飾り棚」や、京都の伝統的な織物・西陣織、日本の伝統芸能である能のお面、盆栽など、日本の伝統美に触れることのできる作品も用意している。とらやとのコラボ羊羹もさらに、アートアクアリウム美術館 GINZAのミュージアムショップでは、とらや(TORAYA)とコラボレーションした「小形羊羹」を販売。とらやを代表する小倉羊羹「夜の梅」を含む5種類の羊羹を、アートアクアリウムオリジナルのパッケージで提供する。【詳細】アートアクアリウム美術館 GINZA「生命の宿る金魚アート」開催日程:2022年11月1日(火)~場所:銀座三越 新館8階住所:東京都中央区銀座4-6-16営業時間:10:00~19:00(変更になる場合あり)休館日:銀座三越の休館日に準ずる ※不定期で休館の場合あり料金:WEBチケット 2,300円、当日券 2,400円【問い合わせ先】銀座三越TEL:03-3562-1111(代表番号)
2022年11月05日10月1日、東京の丸の内に静嘉堂文庫美術館が移転・開館しました。現在、開館記念展Ⅰ『響きあう名宝―曜変・琳派の輝き―』が開催中です。この新しい美術館は、なんと建物も重要文化財!内装も展示物もステキで、見どころがいっぱいの展覧会をレポートします。名建築の中にオープン!【女子的アートナビ】vol. 267これまで東京都世田谷区にあった静嘉堂文庫美術館が、東京・丸の内にある重要文化財「明治生命館」の1階にギャラリーを移転。そのオープニングを飾る展覧会では、国宝《曜変天目(稲葉天目)》をはじめ、所蔵するすべての国宝7件を前・後期に分けて公開しています。美術館が入る明治生命館は、1934年に竣工した古典主義様式の最高傑作。日本を代表する近代洋風建築といわれています。戦時中、東京大空襲による被害は免れましたが、戦後はGHQが接収。1945年から1956年までは、アメリカ極東空軍司令部として使用されていました。1枚目の画像は、静嘉堂文庫美術館の中央部にある吹き抜けの広い空間「ホワイエ」です。大理石が多く使われた大変美しい場所で、そこを取り囲むように4つの展示室が配置されています。日本の宝を守った…!静嘉堂の感動ストーリー『響きあう名宝―曜変・琳派の輝き―』展示風景まずは、静嘉堂の歴史をざっくりご紹介。130年もの歴史をもつ静嘉堂は、岩﨑彌之助 (三菱第二代社長)が創設。その息子、岩﨑小彌太 (三菱第四代社長)がコレクションを拡充し、現在では国宝7件、重要文化財84件を含む多くの古典籍と美術品を所蔵しています。岩﨑父子は、廃仏毀釈により文化財が海外に流出していくなかで、日本の宝を守るために美術品や古典籍の収集を開始。さらに彌之助は、静嘉堂の創設当初からビジネス街に美術館を建て、作品を多くの国民に見てもらいたいと考えていました。130年ぶりに創設者の夢が実現した新しい美術館は、まさにビジネス街の中心部にあり、東京駅からも徒歩5分で行くことが可能。丸の内にお勤めの人なら、ランチタイムに立ち寄ることもできそうです。前期の必見作は、国宝の屛風!国宝 俵屋宗達 《源氏物語関屋澪標図屛風》澪標図江戸時代・寛永8年(1631)(展示期間10月1日~11月6日)本展は4章で構成。静嘉堂が誇る名品を見ながら、コレクションの歴史やストーリーも楽しめるようになっています。前期展示の必見作は、俵屋宗達の国宝《源氏物語関屋澪標図屛風》。光源氏と女性たちが偶然出会う場面を描いたきらびやかな作品です。デフォルメされた橋などの各モチーフもユニーク。近くでじっくりと鑑賞したい名宝です。ちなみに、ギャラリーに入ったら内装もぜひチェックしてみてください。例えば、ギャラリー2の入口にはレトロなエレベーターがあります。米国オーチス社製のもので、扉には銅板に木目模様が手描きされ、シックな雰囲気。現在は動いていませんが、当時は1階と地下階の連絡用として使われていました。国宝が意外なグッズに…!国宝 《曜変天目 (稲葉天目)》南宋時代(12〜13世紀)最後の展示室では、静嘉堂の至宝、国宝《曜変天目 (稲葉天目)》が登場。現存するのは世界で3つしかないといわれている曜変天目は、深い瑠璃色が大変美しいお茶碗です。まるで満天の星のようで、永遠に見ていたくなります。曜変天目は偶然に焼きあがったもので、再現も不可能といわれる名宝ですが、ミュージアムショップで見事に再現(?)したグッズを発見。まさかの「ぬいぐるみ」です!すでにSNSでも話題沸騰の人気商品。国宝のぬいぐるみをモフモフすると癒されそうですね。(※11月3日現在、生産が追いつかないため、予約販売受付を中止しています。詳細はミュージアムショップへお問い合わせください)開館記念展Ⅰ『響きあう名宝―曜変・琳派の輝き―』は12月18日まで開催。(※国宝7件が揃うのは前期展示11月6日まで。後期は国宝4件を展示)Information会期:~12/18(日)途中展示替えがあります休館日:月曜日、11/8(火)、11/9(水)会場:静嘉堂文庫美術館開館時間:10:00 – 17:00 (入館は16:30まで)金曜日は18:00 (入館は17:30)まで※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般 ¥1,500、大学生、高校生¥1,000※日時指定予約制(空き枠がある場合のみ当日券も販売)
2022年11月03日東京・上野の国立西洋美術館で『ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』が開催中です。ベルリン出身のコレクターが選び抜いた究極の20世紀美術コレクションがドイツから来日。そのうち、半数以上が日本初公開作品という今秋必見の展覧会をご紹介します!超豪華!世界遺産でピカソを満喫!【女子的アートナビ】vol. 266『ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』では、ピカソやクレー、マティス、ジャコメッティという4巨匠の作品を中心に、ベルクグリューン美術館が所蔵する20世紀美術の作品群を展示。同館コレクション97点に、日本の国立美術館が所蔵する作品を加えた合計108点が紹介されます。特にピカソは、有名な「青の時代」をはじめ、各時代を代表する名作が集結。なんと40点以上ものピカソ作品をひとつの展覧会で見ることができます。この展覧会は、ベルクグリューン美術館が大規模改修を行うなかで企画された世界巡回展。その最初の地として、日本が選ばれました。プレス内覧会に登壇した本展キュレーターのヨアヒム・イェーガー博士は、「ヨーロッパの近代芸術は、日本から大きな影響を受けている」とコメント。さらに、「世界遺産にも認定されている国立西洋美術館で、最初の世界巡回展をスタートできることをうれしく思う」と語っていました。ベルクグリューンって?『ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』展示風景作品を見る前に、コレクターのベルクグリューンをご紹介。ベルリンのユダヤ人家庭に生まれたハインツ・ベルクグリューン(1914-2007)は、ナチス政権時代に政治的事情でドイツを追われてアメリカへ移住。そこで美術館勤務などをしていましたが、戦後はパリに渡り画廊を経営。ピカソやマティスなどの芸術家や作家、詩人と交流を深め、自らのコレクションを築き上げました。ベルクグリューンが集めた作品は、1996年に故郷ベルリンのシャルロッテンブルク宮殿に面した由緒ある建物「シュテーラー館」で公開され、その後ドイツが彼の所蔵品をまとめて購入。2004年、コレクターの90歳の誕生日を記念して、彼のコレクションを展示していたシュテーラー館が「ベルクグリューン美術館」と改名されました。見たことないピカソがいっぱい!『ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』展示風景本展の見どころは、何といってもピカソ。コレクターのベルクグリューンがピカソに心酔し、また画家本人と親交も深かったので、かなり質の高い作品が揃っています。しかも、展示されているピカソ作品のうち35点が日本初公開です。特に圧巻なのは、女性をモデルにした作品が集まる展示室。展覧会のメインヴィジュアルに使われている《緑色のマニキュアをつけたドラ・マール》をはじめ、ベルクグリューン美術館の顔ともいえる作品《黄色のセーター》、2メートル近くある大作《大きな横たわる裸婦》など、素晴らしい作品が並んでいます。著作権の関係でアップの写真は載せられませんが、名コレクターが厳選して購入したピカソの絵はどれも見ごたえ抜群。しかも、ベルクグリューンは絵を入れる「額」にもこだわり、自分で絵に合った額を選んでいました。あえて、アンティークの額をピカソの斬新な絵に合わせており、例えば《黄色のセーター》には、17世紀前半につくられた金塗りのスペイン製額が使われています。会場では、作品と一緒にぜひ額もご覧になってみてください。クレーやマティスも充実!『ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』展示風景ベルクグリューンは、画商としてさまざまな画家の作品を扱っていましたが、コレクターとして自分のために購入したのは敬愛する少数のアーティストたちの作品でした。ピカソのほか、クレー、マティス、ジャコメッティの作品を多く収集。本展でも、彼らの作品が多数展示されています。『ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』展示風景ピカソやマティスらは、伝統的な表現形式を壊してから作品を創造する革新的なアーティストでした。そのため、古典的な美術様式を好むヒトラーから嫌われ、ナチス政権時代、彼らの作品は「退廃芸術」として迫害されていました。特に、占領下のパリにいたピカソは要注意人物としてゲシュタポ(ナチスドイツの秘密国家警察)から監視を受け、当時は作品発表も禁じられていました。そんな芸術家たちの作品が、過酷な時代を乗り越えたユダヤ人の名コレクターによって集められ、今ではドイツを代表する20世紀美術コレクションのひとつになっています。ベルクグリューンや芸術家たちの軌跡に思いをはせながら作品を見ると、また違う味わいを感じられるかもしれません。本展は、2023年1月22日まで開催。その後、大阪に巡回します。Information会期:~2023年1月22日(日)休館日:月曜日、12月30日(金)~2023年1月1日(日)、1月10日(火)※ただし、2023年1月2日(月・休)、1月9日(月・祝)は開館会場:国立西洋美術館開館時間:午前9時30分~午後5時30分(金・土曜日は午後8時まで)※入館は閉館の30分前まで※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般 ¥2,100、大学生 ¥1,500、高校生¥1,100※日時指定予約制
2022年10月26日《太陽の塔》や《明日の神話》などで知られる芸術家・岡本太郎。彼は海外で前衛表現に影響を受け、芸術家としてのアイデンティティを確立。帰国後は前衛芸術運動を開始し、戦後には「芸術は爆発だ!」のCMが流行語にもなり、TV番組でも人気者だったことを知る人も多いだろう。破天荒、革命児などと語られる岡本太郎の生き方に、いま注目が集まっている。そんな彼の全貌を紹介する過去最大規模の展覧会『展覧会 岡本太郎』が始まった。最高傑作は岡本太郎自身。その生涯に迫る展覧会。展覧会は川崎市岡本太郎美術館と岡本太郎記念館、海外の美術館からの全面協力のもと、代表作や重要作が集合。太郎が中学2年のときに描いた水彩画から、晩年に描いた絵画まで約300点が一堂に集められた。また、残っていないと思われていた若き日の太郎がパリで描いたとみられる3点が展示されるのも朗報だ。全6章で構成された展示からは、太郎の表現領域が驚くほど広いことに気づかされる。絵画はもちろん、日用品、スカーフからこいのぼり、お寺の鐘、時計、飛行船、近鉄バファローズのシンボルマークまで!こうした作品を太郎が手掛けたのは「芸術は大衆のもの」という信念から。芸術とは生活の中にあり、金持ちやエリートのものでなく、民衆のもの、社会のものだと考える太郎は、絵画を売らない生涯を貫いた。「今日の芸術は、うまくあってはいけない。きれいであってはならない。ここちよくあってはならない」という彼の名言通り、作品から感じられるのは不気味な熱。すべてを生命体として描いた彼の表現は、猛烈なその生き様をも伝えてくれるはずだ。芸術家・岡本太郎の誕生19歳の冬に家族とヨーロッパに渡った太郎は、ピカソの作品に衝撃を受け、前衛芸術家や思想家たちと深く交わり、自身も最先端の芸術運動に邁進するようになる。パリ大学では民族学を学び、自身の土台となる思想を深めていった。岡本太郎《傷ましき腕》1936/49年川崎市岡本太郎美術館蔵力を入れた前衛美術芸術運動日本美術界の変革を目指し、太郎は「夜の会」を結成。また抽象と具象など対立要素が生み出す「対極主義」を掲げ前衛運動を開始する。さらに著書『今日の芸術』がベストセラーとなり文化人としても注目される。左・岡本太郎《森の掟》1950年川崎市岡本太郎美術館蔵右・岡本太郎《夜》1947年川崎市岡本太郎美術館蔵魅了されてきた呪術的な世界観前衛芸術を推す一方、日本文化にも目を向けた太郎。1951年に出合った縄文式土器をはじめ、日本各地に残る神事など現地調査を実施し洞察。民族学から日本文化の新しい価値を提唱。この見聞が《太陽の塔》へと繋がってゆく。左・岡本太郎《イザイホー》(沖縄県久高島)1966年12月26‐27日撮影川崎市岡本太郎美術館蔵右・岡本太郎《縄文土器》1956年3月5日撮影(東京国立博物館)川崎市岡本太郎美術館蔵大衆芸術への眼差し芸術とは生活そのもの。そう考える太郎の表現は画廊や美術館を飛び出し、壁画や屋外彫刻などパブリックアートから、時計や植木鉢、生活用品にまで広がった。左・岡本太郎《光る彫刻》1967年川崎市岡本太郎美術館蔵右・岡本太郎《犬の植木鉢》1955年川崎市岡本太郎美術館蔵ふたつの太陽1970年の大阪万博。そのテーマ館として太郎が手掛けた《太陽の塔》は、生命の根源的エネルギーの象徴。これと並行して描かれたのが現在、渋谷駅に設置されている巨大壁画《明日の神話》。太郎が残したドローイングや資料とともにこの2作品の意味を紹介する。上・【参考図版】岡本太郎《太陽の塔》1970年(万博記念公園)下・岡本太郎《明日の神話》1968年川崎市岡本太郎美術館蔵『展覧会 岡本太郎』東京都美術館東京都台東区上野公園8‐36開催中~12月28日(水)9:30~17:30(金曜~20:00、入室は閉館の30分前まで)月曜休一般1900円ほか日時指定予約制TEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)画像はすべて、©岡本太郎記念現代芸術振興財団おかもと・たろう1911年、神奈川県生まれ。人気漫画家の岡本一平、歌人で小説家のかの子の長男。東京藝大を半年で中退し、10年間渡仏。現地の画廊で出合ったピカソの作品に衝撃を受け、抽象画を志す。『今日の芸術』ほか、著書も多数。※『anan』2022年10月22日号より。文・山田貴美子(by anan編集部)
2022年10月25日東京国立博物館で、特別展『国宝東京国立博物館のすべて』が開催中です。本展は、日本で一番多く国宝を所蔵する東京国立博物館(通称:トーハク)が2022年に「創立150年」を迎えたことを記念して開催。全89件の国宝を公開する“トーハク史上初”の展覧会です。プレス内覧会で取材した見どころや会場風景をご紹介します!トーハクのすべてが見られる!国宝《松林図屏風》長谷川等伯筆安土桃山時代16世紀(展示期間:10月18日~10月30日)【女子的アートナビ】vol. 265特別展『国宝東京国立博物館のすべて』では、約12万件もの文化財を所蔵するトーハクのコレクションから、全国宝89件と重要文化財27件、さらに関連資料をあわせた150件を展示。日本で一番歴史の長い博物館として、これまで多くの文化財を保存・公開してきた東京国立博物館の「すべて」を見ることができます。今回のように全国宝89件をひとつの展覧会で見せるのは、トーハク史上初。でも、なぜ今まで実現できなかったのでしょう?本展を担当した東京国立博物館研究員の佐藤寛介さんは、次のように述べました。佐藤さん文化財は、保存と公開を両立させるため、展示期間に制限を設けて数年間のサイクルで少しずつ公開しています。一度にまとめて出すには、数年前から数年先まで調整する必要があるのですが、今回は150年という節目だから実現できました。ただ、絵画と書跡分野を中心に展示替えがあり、作品によっては展示期間が2週間のものもあります。国宝は、常時60件程度は一定して出しており、「いつ来たら損」というのはないのでご安心ください。奇跡の空間!オール国宝の展示室特別展『国宝東京国立博物館のすべて』展示風景では、展示室の様子をご紹介。第1部の空間にあるのは、すべて国宝です!一般的な展覧会では、多くの作品が並ぶなかで1点でも国宝が見られればラッキーという感じなのですが、本展第1部に展示されているのは全部国宝。絵画や書跡、漆工、考古など8つのジャンルから国宝に指定された作品が並び、展示室によっては360度国宝に囲まれる部屋も。まさに奇跡の空間を体験できます。この展覧会の最初の展示室でトップを飾るのが、長谷川等伯の《松林図屏風》。毎年お正月の時期に短期間公開されている国宝で、トーハク所蔵品のなかで一番人気ともいわれる作品です。湿った空気の中に浮かび上がる松林が美しく描かれた本作品は、日本における水墨画の最高傑作のひとつ。10月30日までの限定公開なので、お好きな方はお急ぎください。絵画のジャンルでは、今後も展示替えで狩野永徳や岩佐又兵衛の有名な屛風が登場します。奇跡の書跡と刀剣も…!国宝《古今和歌集(元永本)上帖》平安時代12世紀また、書跡のコーナーも見逃せません。平安時代の優れた能書家の小野道風や藤原行成の美しい書が展示されています。現存最古の《古今和歌集(元永本)上帖》も必見作。当時の装幀のまま完本として残っているのは本作品のみで、これまで尾張徳川家や加賀前田家などの錚々たる方々が所有し、最後は三井家からトーハクに寄贈されました。本作品は、文字だけでなく紙もすごいです。料紙の表には、雲母摺り(きらずり)と呼ばれる技法で美しい文様が施され、裏面には金や銀の箔が散り、とにかく豪華。平安時代から令和の現代まで、これだけの美しい状態で残っていることも奇跡だと思います。特別展『国宝東京国立博物館のすべて』展示風景さらに、「国宝刀剣の間」も見どころのひとつ。トーハクが所蔵する19件の刀剣が集結するというのも史上初の試み。しかも通期展示なので、本展開催中にいつ訪れても貴重な刀剣を見ることができます。「より美しく見せるために展示ケースや照明にもこだわりました。日本刀の美しさをじっくりと見てください」と佐藤研究員も力説していた刀剣ルーム。こちらも、ぜひ現地で実物をご覧ください。なぜかキリンが…!《キリン剝製標本》明治41年(1908)国宝を楽しんだあとは、第2部でトーハクの歴史を体感できます。こちらの展示室に国宝はありませんが、明治から令和までの150年を3期にわけ、各時代に収蔵された重要文化財指定の作品などが展示されています。皇室にゆかりのある品や写楽の浮世絵版画などいろいろありますが、異色なのがキリンの剥製標本。トーハクは、誕生した当時、博物館だけでなく植物園、動物園、図書館の機能も備えた総合博物館を目指し、美術工芸品だけでなく、動植物の標本や剥製も集めて公開していました。展示されているキリンは、1907年、日本にはじめて生きたままやってきて、上野動物園で飼育されていたオスの「ファンジ」。死後、剥製標本にされてトーハクの自然史資料として展示されていました。このキリンなどの自然史資料は、関東大震災後、今の国立科学博物館に譲渡され、やがてトーハクは歴史と美術工芸品をメインとした博物館となりました。国宝をコンプリート!貴重な美術工芸品と、日本初の博物館150年の歴史を体感できる展覧会は12月11日まで開催しています。ぜひ何度か足を運んで、89件の国宝すべてをコンプリートしてみてください!Information会期:~12月11日(日)休館日:月曜日会場:東京国立博物館平成館開館時間:9時30分~17時00分※金曜・土曜日は20時00分まで開館(総合文化展は17時00分閉館)※最新情報などの詳細は展覧会公式HPをご覧ください観覧料:一般 ¥2,000、大学生 ¥1,200、高校生¥900※日時指定予約制
2022年10月23日