現代アートの美術館が点在し、アート好きなら一度は巡りたい北東北エリア。青森県弘前市に3年前にオープンした「弘前れんが倉庫美術館」は、かつてシードル(りんごの発泡酒)を醸造していた築100年余りの建物を改装しており、広大な展示空間でこれまでさまざまなアーティストが作品を披露してきた。大巻伸嗣―地平線のゆくえ大巻伸嗣は空間をダイナミックに使ったインスタレーションで知られる。薄いベールが海中の生き物のようにゆったりと上昇、下降を繰り返す「Liminal Air Space‐Time」シリーズや、草花をステンシルで描いたペルシャ絨毯のように美しい「Echoes‐Infinity」シリーズなど。いずれも、体ごと作品の時空間に含まれるかのような体験を作り出す。本展にあたり、作家は県内各地を巡って発見し、体感した風物や自然をシリーズの新作に盛り込んだ。展覧会のはじめと終わりには、弘前市内に現存する柏の古木の葉をモチーフにした作品を展示。これは春に新芽が萌え出るまで古い葉が落ちない柏にちなんで、命の巡りと展覧会の構成を重ねているとか。作品世界を一つ一つ旅した後、柏の葉と同じように、私たちも新しく生まれ変わっているだろうか。高さ15mの吹き抜け空間を極薄のベール状の布が生き物のように舞う。作家が青森県内の浜辺で目にした、力強くも温かく包み込むような波のイメージや音を体感できる新作インスタレーション。大巻伸嗣《Liminal Air Space‐Time》2020年展示風景:「存在のざわめき」関渡美術館(台湾/台北、2020年)Photo:Mind Set Art Center[参考図版]展示室の床一面に敷き詰められた白いフェルトには、青森県内各地の植物や風物を取り入れた、色とりどりの花や紋様が描かれている。大巻伸嗣《Echoes Infinity‐永遠と一瞬‐》2016年展示風景:「あいちトリエンナーレ2016」愛知芸術文化センター愛知県美術館(2016年)Photo:Tetsuo Ito[参考図版]※いずれも画像は過去の参考作品。本展では同シリーズの最新作が出展される。大巻伸嗣―地平線のゆくえ弘前れんが倉庫美術館青森県弘前市吉野町2‐1開催中~10月9日(月)9時~17時(入館は16時半まで)火曜(5/2、8/1は開館)休一般1300円ほかTEL:0172・32・8950©Naoya Hatakeyama※『anan』2023年5月3日‐10日合併号より。文・松本あかね(by anan編集部)
2023年05月07日大人気キャラクター「おぱんちゅうさぎ」の期間限定コラボカフェ「おぱんちゅ食堂」が、ルミネエスト新宿ではじまりました!今回、オープン初日に行われたプレス取材に参加。みんな大好きな「おぱんちゅうさぎ」の世界観がたっぷり感じられるフードメニューや店内の様子など、詳細をレポートします!涙目がかわいすぎ!「おぱんちゅうさぎ」「おぱんちゅ食堂」会場風景【女子的アートナビ】vol. 292「おぱんちゅうさぎ」とは、人気クリエイター「可哀想に!」さんが描く、ピンク色のうさぎのキャラクター。今にも泣きそうな涙目の顔と頭の青いリボン、白いふわふわパンツがトレードマークです。いつも健気にひたむきに生きているのに、なかなか報われない可哀想な姿が共感を呼び、Twitterで大ブレイク。SNSの総フォロワー数は、75万人です。SNSのほかLINEスタンプも人気で、本誌『anan』でも、昨年末に「ネクストブレイクキャラクター」として登場しました。「おぱんちゅうさぎ」が切り盛り!4月20日にオープンした「おぱんちゅ食堂」は、おぱんちゅうさぎが切り盛りする食堂をイメージしてつくられています。まずは、店内の様子からご紹介。お店に入ると、おぱんちゅうさぎワールドが全開です!天井には、いろいろなイラストがデコレーションされ、店の中央では、名シーンを集めた映像も流れています。テーブルにも、さまざまなポーズをしたおぱんちゅがデザインされています。特にカワイイのは、パフェの中に閉じ込められている姿。可哀想だけど、めちゃくちゃキュートです!フォトジェニックなおぱんちゅフード続いて、食堂のメニューをご紹介。フードとデザート、ドリンクが4種類ずつ用意されています。こちらは、フードメニューの「おぱんちゅ定食」HANBAGU。ピンク色がたくさん使われたカワイイ定食で、(SHOGAYAKI、NIKUDANGO、HANBAGU、CHIKIN=NANBAN各税込¥1,760)から選べます。どの定食にも、おぱんちゅうさぎの顔がついたおにぎりがセットされ、また小鉢のフォルムがパンツ型になるなど、細部まで凝っています。デザートもフォトジェニックです。「おぱんちゅと落ちたアイス」(税込¥1,320)は、バニラアイスとチーズクリームがたっぷり入ったソフトクリーム風のデザート。こちらのアイス、試食させていただきました。「おぱんちゅうさぎ」はモナカの皮でできているので、食べられます!ボリューム満点のデザートですが、甘さ控えめでフルーツもたっぷり入っていて、かなりおいしかったです。こちらは、おぱんちゅの「友だちフロート」(税込¥1,089)。ストロベリー味のドリンクに、アイスのおぱんちゅが浮いています。アイスが溶けてくると、おぱんちゅの顔もどんどん崩れて悲しそうになるので、カワイイうちに食べてあげてくださいね。うれしい来店特典も!おぱんちゅ食堂では、事前予約をした上でカフェを利用してメニューを注文すると、「フォトフレーム風クリアカード」が特典でもらえます。6種類あり、ランダムで1枚プレゼントされるので、どれがもらえるかは当日のお楽しみ。このカードは、メニューが提供される前にもらえるので、食べるときにお店で使えます。試しに、スイーツの写真を撮ってみました。おぱんちゅ食堂のフレーム、かわいくて楽しいです!グッズコーナーも充実!また、カフェ店内には、グッズコーナーもあります。今回のオリジナルグッズは、本コラボカフェのために「可哀想に!」さんが描き下ろしたイラストを使用。アクリルキーホルダーやサテンステッカー、缶バッジ、タオルなど、今しか買えないグッズが販売されています。なお、グッズは数に限りがあり、会期中に品切れになるアイテムもあります。「可哀想に!」さんのECサイトやカフェ公式サイトでも販売しているので、気になる方は早めにチェックしてみてください。ルミネエスト新宿の「おぱんちゅ食堂」は6月18日 (日)まで。今後、大阪、愛知、宮城でも開催されます。Information会期:~6月18日 (日)会場:BOX cafe&space ルミネエスト新宿店開館時間:11:10~20:40※80分入れ替え制©KAWAISOUNI!
2023年05月04日国立西洋美術館の常設展示室で、小企画展『橋本コレクション展―指輪よりどりみどり』が開かれています。本展では、カルティエやブルガリなどの高級ブランドから、歯や髪の毛が入ったユニークなタイプまで、約200点の指輪が集結。今回、展覧会を担当された研究員さんに、展示の見どころなどをお聞きしてきました!圧巻の指輪が約200点!『橋本コレクション展―指輪よりどりみどり』展示風景【女子的アートナビ】vol. 291『橋本コレクション展―指輪よりどりみどり』では、国立西洋美術館が所蔵する約760点もの指輪コレクションからセレクトされた約200点の指輪を展示。ダイヤモンドやルビーなどの宝石を使ったゴージャスな指輪や、カルティエやブルガリ、ヴァン クリーフ&アーペルなどの高級ブランド、さらにユニークな素材を使ったものや、彫刻作品のような指輪も見ることができます。これらの指輪は、すべてコレクターの橋本貫志氏が集めたもの。橋本氏は、2012年に約870点もの宝飾品を同館に寄贈し、これらは「橋本コレクション」と呼ばれています。今回、本展を企画された国立西洋美術館の学芸課主任研究員、飯塚隆さんに、見どころや指輪の楽しみ方をお聞きしてきました。きれいな指輪ばかり、ではない!『橋本コレクション展―指輪よりどりみどり』展示風景――まずは、本展開催の経緯について、教えてください。飯塚さん国立西洋美術館の「橋本コレクション」は800点以上もあり、魅力的な作品があるのにもかかわらず、通常の常設展ではほとんど展示できていませんでした。2014年には、寄贈していただいた記念にお披露目の大規模展覧会を開きました。そのときは、300点ほど展示しましたが、その後なかなか指輪に特化した企画展が開けませんでした。そろそろ、きちんと紹介したいと思い、今回200点以上を版画素描展示室で展示しています。過去の展覧会で紹介できなかった作品も、半分以上含まれています。――展覧会のタイトルにある「よりどりみどり」には、どんな思いがこめられていますか?飯塚さん橋本コレクションには、一般的にジュエリーショップで買えるものと比べると、はるかに変化に富んだ、多種多様な指輪がそろっています。時代や素材、技法、様式もさまざま。紀元前2000年頃のものから、現代の作品まであります。世界随一といってもいいぐらい、いろいろな作品が集まっているコレクションなので、「よりどりみどり」。きれいなモノばかりではなく、おもしろい指輪、不思議な指輪、とても指輪には見えない指輪。さまざまな指輪があるのが橋本コレクションの魅力です。どこから見てもOK!『橋本コレクション展―指輪よりどりみどり』展示風景――展示の構成もユニークです。「ウェアラブルデバイス」や「素材なんでもかんでも」など、解説パネルを読むのも楽しく感じました。どのように構成されたのですか?飯塚さん展覧会というのは、たいがい学術的でお堅いものなので、あるテーマを定めて構成するのがふつうです。ただ、橋本コレクションの場合、時代や素材といった特定のテーマを立てると、取りこぼされる指輪も出てきて、かえって本来の魅力が伝わらなくなるおそれもあります。そこで、最初からテーマを立てるのはやめて、純粋に指輪を見たときの驚きや戸惑い、おもしろみなど、私が感じた着眼点を切り取り、トピックを立てていきました。例えば、「ゆびわ動物園」では、学術的あるいは動物学的な意味ではなく、単に動物をモチーフとした指輪を展示しています。各セクションは独立しているので、どこから見ても構わないような構成になっています。乳歯や髪の毛入り、ポイズン・リングも…!左《毛髪の納められた指輪》(18世紀後期)、右《アール・ヌーヴォーの指輪》(おそらく1900年頃)いずれも国立西洋美術館 橋本コレクション――乳歯や毛髪入りの指輪なども展示されています。なぜ、カラダの一部を入れる指輪が作られたのですか?飯塚さん基本的には、大切な人間への深い思いがあり、それに裏打ちされた作品だと思います。例えば現代なら、身近な人の写真を飾ったりしますよね。でも、時代を遡ると写真がない。肖像画はありますが、それを持てるのは一握りの人間だけです。大切な人を身近に感じたいとき、実際に人の髪の毛や歯など、カラダの一部を肌身離さず持ちたいと思い、その持ち運びに適していたのが指輪なのです。容器のついたタイプの指輪は、古くから作られているので、そこに髪の毛などを入れる作業は比較的簡単にできました。裕福な人だけが持つ高価なものではなく、一般の人でも作りやすかったのだと思います。《アメリカ陸軍空挺部隊のバッジが付いたポイズン・リング》1940年頃国立西洋美術館 橋本コレクション――毒を入れられるポイズン・リングや小型カメラつき指輪も飾られています。これらは、実際に使われていたのですか?飯塚さんポイズン・リングは実際に使われていた、という言い伝えがあります。モノを入れるタイプの指輪で、そこに毒を入れたり、薬や香水を入れたりすることもあります。今回展示されているポイズン・リングは、軍人が持っていたものなので、毒の可能性が高いと判断しています。また、ロシアのスパイが使っていたカメラ付きの指輪もあります。カメラで撮った写真もあるので、実際にカメラとして機能していたようです。「えっ!」「あれっ?」「オーッ」と楽しんで!《ダンサーの指輪》(現代) 国立西洋美術館 橋本コレクション――最後に、anan読者のみなさんにメッセージをお願いします。飯塚さん指輪は、非常に身近なものだからこそ、みなさんには一定のイメージがあると思います。でも、橋本コレクションの指輪を見ると、そのイメージをはるかに逸脱した指輪がごろごろあります。それを楽しむためにも、自分の指輪のイメージを忘れて、開かれた心で見ていただければと思います。「えっ!」「あれっ?」「オーッ」と、そんな風に感じることが、橋本コレクションの魅力を味わっていることにほかならないのです。自分の概念が揺さぶられているのを感じて、楽しんでいただきたいです。――貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。レプリカがミュージアムショップに!飯塚さんのお話、いかがでしたか?本記事ではご紹介しきれないほど、会場ではさまざまな指輪を楽しむことができます。また、ミュージアムショップでは、なんと橋本コレクションのレプリカが販売されています!デザインは4タイプ(1点は5月下旬ごろ販売予定)。橋本コレクションの感覚を自分の指で楽しめるなんて、うれしいですね。販売時期や購入方法などの詳細は、ミュージアムショップのInstagramをご覧ください。本展の開催は、6月11日まで。世界遺産に登録されている美術館で、ぜひユニークな指輪をご覧になってみてくださいね!Information会期:~6月11日(日)※休館日は月曜日(ただし、5月1日は開館)会場:国立西洋美術館新館2階版画素描展示室開館時間:9:30~17:30(毎週金・土曜日は20:00まで)※5月1日(月)、2日(火)、3日(水・祝)、4日(木・祝)は20:00まで開館※入館は閉館の30分前まで観覧料:一般 ¥500、大学生 ¥250、高校生以下および18歳未満、65歳以上は無料(入館の際に学生証または年齢の確認できるものをご提示ください)※本展は常設展の観覧券または「憧憬の地ブルターニュ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」展観覧当日に限り同展観覧券でご覧いただけます。※5月18日(木)は本展および常設展は観覧無料(国際博物館の日)
2023年05月02日東京・丸の内にある静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)で、特別展『明治美術狂想曲』が開かれています。本展では、明治時代をキーワードにした絵画や工芸品を展示。「腰巻事件」でセンセーションを巻き起こした話題作も登場します!国宝や重要文化財など約50点を展示!特別展『明治美術狂想曲』展示会場【女子的アートナビ】vol. 293日本の西洋化がはじまった明治時代、人々の生活だけでなく、美術の世界でも大きな変化がありました。油彩画が広まり、欧米好みの工芸品が生み出され、また古くからある日本の仏教美術が軽視され、排除されたのもこの時期です。そんな明治時代の社会の変化を軸に、本展では、油彩画や日本画、工芸品など静嘉堂所蔵のコレクションを約50点展示。国宝や重要文化財を含む貴重な作品が紹介されています。「美術」が生まれた!河鍋暁斎《地獄極楽めぐり図》明治2~5年(1869~1872)※前期と後期で場面替えがありますでは、本展の見どころをピックアップしてご紹介します。第一章は「『美術』誕生の時―江戸と明治のあわい―」。1868年にスタートした明治時代、欧米に追いつこうと日本社会の近代化が急激に進んでいきました。「美術」という言葉が生まれたのも、美術館ができたのもこの時代です。そんな時期に描かれたのが、河鍋暁斎の《地獄極楽めぐり図》。江戸と明治の文化がミックスされた作品です。暁斎は、江戸後期の狩野派の技法を身につけた絵師ですが、浮世絵や明治のモチーフも作品に取り入れ、本作には当時は珍しかった汽車も描かれています。(汽車の場面は5月7日まで展示)人気の国宝も展示!左:薩摩焼《色絵金彩麒麟鈕香炉》明治9年(1876)頃、右:薩摩焼《色絵金彩獅子鈕香炉》明治9年(1876)頃続く第二章「明治工芸の魅力―欧米好みか、考古利今か―」では、美しい工芸作品がずらり勢ぞろい。明治時代、日本では外貨獲得のため、欧米人に好まれる華やかなデザインの工芸品が数多く製作されました。「超絶技巧」と呼ばれる細やかな技術を使った作品も多く、海外でジャポニズムブームが盛り上がっていきます。1867年に開催された「パリ万国博覧会」で人気があったのは、薩摩焼。明治以降も人気が続き、欧米に輸出されました。本展で見られる薩摩焼も、とっても華やかです。国宝《曜変天目(稲葉天目)》南宋時代(12~13世紀)この章では、国宝の《曜変天目(稲葉天目)》も展示されています!本作品は、古美術が再評価されるきっかけとなった「第1回観古美術会」(1880年)に出品されました。重要文化財橋本雅邦《龍虎図屛風》明治28年(1895)前期展示次の第三章「博覧会と帝室技芸員」では、橋本雅邦の迫力ある作品《龍虎図屛風》を見ることができます(5月7日まで)。本作は、1895年に京都で開かれた博覧会に出品されたものです。当時の評価はあまりよくなかったそうですが、1955年、重要文化財に指定されました。渡辺省亭原画濤川惣助《七宝四季花卉図瓶》明治時代19~20世紀また、超絶技巧の七宝作品も、見どころのひとつ。《七宝四季花卉図瓶》は、色彩が華やかで、とても美しい作品です。こちらは、フロア中央部にある吹き抜けの空間「ホワイエ」に展示されています。下半身が「布」で隠された…!黒田清輝《裸体婦人像》明治34年(1901)最後の第四章「裸体画論争と高輪邸の室内装飾」では、黒田清輝の《裸体婦人像》が登場!本作品は、近代洋画の父と呼ばれた画家、黒田清輝が渡欧中、白人女性をモデルにして描いたものです。帰国後、1901年の白馬会にこの絵を出品したとき、警察が介入。公共の場で裸体画を展示することが認められず、下半身部分が布で覆われてしまいました。このセンセーションを巻き起こした出来事は、後に「腰巻事件」と呼ばれるようになりました。当時のメディアを賑わせた話題作は、その後、西洋文化を理解していた岩﨑家が購入。高輪にある屋敷に飾られていました。ミュージアムショップで販売中の公式図録も、センセーショナルなデザインです人気の「ぬいぐるみ」は先着で購入可能に!静嘉堂@丸の内ミュージアムショップで販売中。 税込価格¥5,800 ※ お一人様1個のみアートを楽しんだら、ぜひ静嘉堂のミュージアムショップにもお立ち寄りください。以前の記事でもご紹介した、国宝《曜変天目(稲葉天目)》の「ぬいぐるみ」。あまりに人気で、しばらく入手困難でしたが、現在は先着で購入できるようになりました!1日10個限定ですので、ご興味のある方は、10時の開館時間にあわせてお出かけになると、入手しやすいかもしれません。(※最新情報は、公式サイトでご確認ください)展覧会は6月4日まで開催。Information会期:~6月4日(日)[前期]4/8(土) ~ 5/7(日)[後期]5/10(水) ~ 6/4(日)※休館日は月曜日、5月9日(火)会場:静嘉堂@丸の内 (明治生命館1階)開館時間:10:00 – 17:00 (入館は16:30まで)。金曜日は18:00 (入館は17:30)まで。観覧料:一般 ¥1,500、大高生 ¥1,000、中学生以下無料
2023年04月30日上野の東京藝術大学大学美術館で、『買上展』が開催されています。「買上」とは、東京藝大が卒業・修了制作のなかで特に優秀な作品を買い上げる制度のこと。本展では、大学創立時から現代までに買い上げられたハイレベルな作品が紹介されています。今回、展覧会の見どころや買上の歴史などについて、企画を担当された先生にお聞きしてきました!買い上げ作品、約100件を展示!『買上展』展示風景【女子的アートナビ】vol. 290『買上展』では、大学が所蔵する「学生制作品」約1万件のなかから、厳選された約100件を展示。 東京美術学校卒業生の横山大観や菱田春草など、今では巨匠と呼ばれる画家たちのデビュー作から、現在活躍しているアーティストたちの卒業・修了制作まで、多彩な作品が集められています。本展は2部構成で、第1部「巨匠たちの学生制作」では、東京美術学校時代に集められた卒業制作を中心に展示。第2部「各科が選ぶ買上作品」では、東京藝術大学で「買上」を実施している12の学科と専攻(日本画、油画、彫刻、工芸、デザイン、建築、先端芸術表現、美術教育、文化財保存学、グローバルアートプラクティス、作曲、メディア映像)から各科の教員によって選ばれた作品を紹介しています。本展を企画された、東京藝術大学 大学美術館教授の古田亮先生に、展覧会の見どころなどお聞きしてきました。買上金額、最初期は3万円!『買上展』展示風景――まず、『買上展』というタイトルがユニークで、とても興味をひかれました。古田先生そう言っていただけると、うれしいです。「買上」というのは、学内でやっている制度で、大学では当たり前に行われてきました。今回、過去を含めて買上制度を振り返ることで、東京藝大を知っていただくきっかけにもなるかと思いました。――買上制度について、教えていただけますか?古田先生東京藝術大学が今の国立大学になったのが昭和24年ですが、その最初期から「買上制度」がはじまり、今でも続いています。買上となる優秀作品は、大学全体で決めるのではなく、各科がそれぞれ評価する形になっています。前身の東京美術学校時代から、教育の成果を蓄積していこうという意図があり、卒業制作を収集していました。現在では、多くの科が首席という位置づけで作品を買い上げ、社会に出てからもがんばってね、と学生たちを後押しする制度として機能していると思います。――買上制度の最初期と今の買上金額について、教えていただけますか?古田先生昭和20年代の最初期は3万円でした。その後どんどん上がり、最近は各科一律30万円です。物価指数との問題もありますが、金額はともかく、学生を励ます意味はあると思っています。巨匠のハイレベル卒業制作が見られる!横山大観《村童観猿翁》1893明治26年卒業買上――第1部の見どころについて、教えてください。古田先生今では「巨匠」と呼ばれている人でも、卒業以前はみな同じ学生だったわけです。その後、大変活躍した人たちを東京美術学校は大勢排出してきました。そんな巨匠たちの「最初期の出発点」となる作品を集めるのは、本学でしかできないことで、彼らの卒業制作を振り返れるのが見どころです。例えば、横山大観や菱田春草の卒業制作も、つい「巨匠の絵」と思って見てしまいますが、描いたときはみな学生でした。彼らは、卒業制作でかなりレベルの高い作品を残していたことがわかります。『買上展』展示風景より、グローバルアートプラクティスの買上作品――続いて、第2部の見どころを教えてください。古田先生各科が選んだ作品をまとめて見られる展覧会は、今回がはじめてです。今後も、なかなか実施できないかもしれないので、めったにないチャンスだと思います。日本画や油画などは、よく展覧会も開かれますが、例えばメディア映像や作曲科などの買上作品展示は珍しい試みです。東京藝大にさまざまな科がある、ということを知らない方も多いと思いますので、驚かれるかもしれません。各分野で専門を極めた学生たちによる、レベルの高い作品を楽しめる機会になっています。勢いのある作品が見られる!荒神明香《reflectwo》2006-2007平成18年度卒業買上――最後に、anan読者におすすめの作品を教えてください。古田先生たくさん作品があり、ジャンルもバラバラなので、おすすめ作品を選ぶのが難しいですけれど、先端芸術表現科の作品はいかがでしょう。4つの作品があり、そのうち3点は女性が作った作品です。それぞれの訴え方も、インスタレーションであったり映像であったりして、表現の幅がすごく広いというのがわかります。先端芸術表現という科が東京藝大にある、ということも知らない方が多いと思います。読者のみなさんと同じ世代の女性がつくり、作品が買い上げられ、その後アーティストとして活躍しています。勢いのある人たちが選ばれていますので、ぜひご覧になってみてください。――興味深いお話を聞かせていただき、ありがとうございました。連休中も開催!古田先生のお話、いかがでしたか?東京藝大に入ってくる学生さんは、浪人したり社会に出てから入学したりと、年齢もさまざまで、卒業・修了作品を制作する人たちは20代後半も多いそうです。anan読者のみなさんと同じ世代の人たちがつくったエネルギッシュな作品が集まる展覧会、ぜひご覧になってみてくださいね。本展は5月7日まで開催。連休中もオープンしています!Information会期:~5月7日(日)※休館日は月曜日(ただし、5月1日は開館)会場:東京藝術大学大学美術館 本館 展示室1、2、3、4開館時間:午前10時 - 午後5時(入館は午後4時30分まで)観覧料:一般 ¥1,200、大学生 ¥500、高校生以下無料
2023年04月30日日常にすっかり馴染んだデザインとアートという言葉。でも、そもそもその違いとは何で、その境界って一体どこにあるのか?そんな素朴な疑問の答えを探すべく、約100点に及ぶ戦後日本の多彩な作品を時系列で追いながら、デザインとアートの重なりについて発見してゆくのが「開館1周年記念展デザインに恋したアートアートに嫉妬したデザイン」だ。デザインとアート、2つの“境界と重なり”について注目した展覧会。開館1周年を迎えた大阪中之島美術館の活動の両輪であるアートとデザイン。今回はこの2つを併せて紹介する同館初の展覧会となった。会場には1950年代から2010年代まで、総勢70名を超えるアーティストの作品が登場。イサム・ノグチをはじめ村上隆や佐藤可士和、柳宗理、三宅一生、草間彌生、奈良美智などジャンルを問わず、いずれも日本を代表する作家の名作ぞろい。注目は話題の“デザインとアートの境界”についてわかりやすく紹介している点。例えば、デザインが話題となった携帯電話や家具を、様々なジャンルのアート作品と一緒に展示。それらを同じ空間で鑑賞した時、個々で見ていた時とは異なる印象を抱くかもしれない。その心の動きを来場者に体験してもらい、「これはデザイン?」「こっちはアート?」という問いの答えを自分なりに導くことができる仕掛けになっている。戦後と比べると今やその領域を大きく広げているデザイン、また従来の美術からの枠組みを超えてきた現代のアート。歴史に残る作品を用いて、デザインとアートの関係を改めて考えさせる本展は、鑑賞だけにとどまらず、美術界全体の新時代についても考える契機になりそうだ。森村泰昌《肖像(ファン・ゴッホ)》 1985年 大阪中之島美術館蔵 ©Yasumasa Morimuraゴッホに扮する「セルフポートレート」は美術家・森村泰昌の代表作のひとつ。村上隆《Red Rope》 2001年 高松市美術館蔵 ©2001 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.アニメやフィギュアなど日本のオタク文化に近接したアートで有名な村上隆の初期作。ヤノベケンジ《アトムカー(黒)》 1998年 国立国際美術館蔵 ©Copyright KENJI YANOBEチェルノブイリ原発事故をきっかけに発案されたガイガーカウンターを搭載した車・アトムカー。今も現役で動く。深澤直人《INFOBAR》 2003年 KDDI株式会社蔵 ©KDDI CORPORATION20年前に流行したこの携帯電話はMoMAに所蔵されるなど世界で評価された。奈良美智《どんまいQちゃん》 1993年 和歌山県立近代美術館蔵 ©Yoshitomo Nara「受験に落ちたQちゃんを元気づけるために作った」という奈良美智の立体作品。「開館1周年記念展 デザインに恋したアートアートに嫉妬したデザイン」大阪中之島美術館 4階展示室大阪府大阪市北区中之島4‐3‐1開催中~6月18日(日)10時~17時(入場は閉館の30分前まで)月曜(5/1は開館)休一般1600円ほかTEL:06・4301・7285(大阪市総合コールセンター)※『anan』2023年4月26日号より。文・山田貴美子(by anan編集部)
2023年04月24日上野の国立西洋美術館で『憧憬の地 ブルターニュ』が開催中です。本展では、フランス北西部にあるブルターニュ地方をテーマにした作品が集結。モネやゴーガンなど巨匠たちの極上アートを見ながら、フランス旅気分を楽しめる展覧会です。音声ガイドを担当する杏さんのコメントもご紹介!音声ガイドは杏さん!杏さん©Junko Tamaki(t.cube)【女子的アートナビ】vol. 289『憧憬の地 ブルターニュ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷』では、国内外の美術館から集められた、「ブルターニュ」をテーマにした作品約160点を紹介。絵画や版画だけでなく、当時の画家たちが旅先から送った絵ハガキや、旅行トランクなど関連資料も展示され、ブルターニュを旅した気分も味わえます。さらに、本展の音声ガイドナビゲーターは、フランス在住の女優、杏さん。SNSなどでパリの様子を発信され、フランスの雰囲気が漂う杏さんの声を聴きながら、巨匠たちの名画を堪能できます。展覧会に寄せられた杏さんのコメントは次のとおりです。もともと美術展が好きで、時間があるとよく美術館に行きます。今回フランスに渡ったタイミングで、フランスと日本を結ぶ展覧会のアンバサダーをやらせて頂けることをとても光栄に思います。フランスにいて伝えられること、感じられることがあるのかな、と思いますので、それを今回の作品を通じてみなさまと共有できたら嬉しいです。「ブルターニュ」というテーマの中で、同じ時代の同じ場所をさまざまな画家が、どのような視点を持って景色を見ていたのか、何を感じたのか…。当時の画家たちの声が聞こえてくるような作品ばかりなので、展覧会でブルターニュという場所をよく理解し、味わい、いつか私も旅をしてみたいなと思います。なぜブルターニュは人気?展示解説をされている袴田紘代さん19世紀後半から20世紀はじめにかけて、クロード・モネやポール・ゴーガンなど西洋の画家たちや、日本からパリに留学していた黒田清輝や藤田嗣治もブルターニュを訪れ、さまざまな作品を描いています。なぜ、画家たちは、ブルターニュに魅了されたのでしょう?本展を企画された国立西洋美術館主任研究員の袴田紘代さんによると、もともとブルターニュはケルト人が住み、公国として独立した地域だったので、文化的にも特徴がある、とのこと。また、各地に残る巨石遺構や海岸の断崖絶壁など自然の景観も独特なので、フランスのなかでも異郷として認識され、19世紀から画家たちが訪れるようになったそうです。必見!モネのブルターニュ左:クロード・モネ 《嵐のベリール》1886 年 油彩/カンヴァス オルセー美術館(パリ)、右:クロード・モネ 《ポール=ドモワの洞窟》1886 年 油彩/カンヴァス 茨城県近代美術館では、いくつか見どころをご紹介。第一章「見出されたブルターニュ:異郷への旅」での必見作は、モネの美しい絵画2点です。モネは、ブルターニュ地域にある断崖絶壁の島ベリールに滞在し、海岸沿いの風景画を40点近く制作。限られた視点から、同じような風景を何枚も描いていました。この2点について、袴田さんは次のように述べています。袴田さんベリールは荒天の日も多く、嵐の日にはカンバスを岩にくくりつけて描いていたそうです。同じ場所を穏やかな日にも描いていますが、嵐の海と穏やかな海では色彩もタッチも違います。穏やかな天気のときはタッチも穏やかで、嵐のときは荒々しく描かれています。極上のゴーガン10点以上!『憧憬の地 ブルターニュ』展より、ゴーガンの作品が集まる展示室続く第二章「風土にはぐくまれる感性:ゴーガン、ポン=タヴェン派と土地の精神」では、日本でも人気の画家、ゴーガンの作品が10点以上も登場!見ごたえ抜群の展示室です。株式仲買人をしていたゴーガンは、1883年に仕事を辞めて画業に専念。しかし、生活苦に陥り、物価や滞在費の安いブルターニュに移住します。袴田さんブルターニュの民族衣装や素朴な生活、キリスト教の信仰心や人々の精神に関心を寄せたゴーガンは、自分の解釈を加えながら作品にブルターニュの魅力を反映させていきました。最初は印象派風の作品を描いていましたが、次第に精神的なものを表現するようになっていきます。日本の巨匠作品も!『憧憬の地 ブルターニュ』展会場写真第三章では、ブルターニュに別荘やアトリエを構え、土地に根を下ろした画家たちの作品を展示。モーリス・ドニの明るい作品や、シャルル・コッテが描いた重厚な絵画、日本美術を愛した版画家、アンリ・リヴィエールの木版画も見ることができます。最後の章では、黒田清輝や藤田嗣治など日本の巨匠たちが描いたブルターニュ作品も展示。画家が使った旅行トランクも展示され、ブルターニュの風景画とあわせて旅の雰囲気も味わえます。本展は、大型連休中も開催。ぜひ、世界遺産に登録されている美術館で、アートなブルターニュの旅を体験してみてください。Information会期:~6月11日(日)※休館日は月曜日(ただし、5月1日は開館)会場:国立西洋美術館開館時間:9:30~17:30(毎週金・土曜日は20:00まで)※5月1日(月)、2日(火)、3日(水・祝)、4日(木・祝)は20:00まで開館※入館は閉館の30分前まで観覧料:一般 ¥2,100、大学生 ¥1,500、高校生 ¥1,100、中学生以下無料※5月7日までは事前予約制
2023年04月23日14回目の開催となるアートフェア「神戸アートマルシェ2023」が、5月12日(金)から14日(日)まで、神戸メリケンパークオリエンタルホテルにて開催される。「神戸アートマルシェ2023」チケット情報本イベントは、アートギャラリーが一同に会し、選りすぐりの美術作品を展示販売するイベントだ。居住空間に近いホテル客室に作品を展示することで、自宅でのアートコレクションがイメージしやすく、気に入った作品はその場で購入することもできる。アートラバーの方や、アートコレクションに興味のある方のファーストコレクションにもぴったりのアートフェアとなっている。また、会場となる神戸メリケンパークオリエンタルホテルは、海に囲まれたリゾートホテルで、海と山が近い神戸の街の景観を生かした作品展示が行われるのも魅力のひとつ。美しい景観とアート作品のコラボレーションを楽しんでほしい。入場チケット(3日通し券)は発売中。
2023年04月20日上野の東京国立博物館(トーハク)で、特別展「東福寺」が開かれています。紅葉の名所として知られる京都・東福寺は、実は文化財の宝庫。国宝や重要文化財に指定されている作品を数多く所蔵しています。今回、本展で音声ガイドナビゲーターを務める俳優の木村多江さんに、展覧会の見どころなどお聞きしてきました!木村多江さんがナビゲーター!木村多江さん【女子的アートナビ】vol. 288特別展「東福寺」では、京都・東福寺が所蔵する膨大な寺宝のなかからセレクトされた国宝や重要文化財指定のお宝など、約150件をまとめて展示。鮮やかな仏画や巨大な仏像、書画など、日本文化の魅力をたっぷりと味わえます。(会期中、展示替えがあります)東福寺は、鎌倉時代前期に摂政・関白を務めた九条道家(くじょうみちいえ)が発願し、開山として円爾(えんに)を招いて創建された禅宗寺院です。応仁の乱などの戦火を免れた貴重な文化財を数多く所蔵。国宝7件、重要文化財98件、合計で105件もあり、まさに文化財の宝庫といえるお寺です。東福寺初となる大規模展覧会で音声ガイドを務めるのは、木村多江さん。今回、本展の見どころなどをお聞きしてきました。想像を超えた楽しい作品がいっぱい!――展示をご覧になって、いかがでしたか?木村さん禅宗の美術は硬いのかなと思っていたら、想像を超えて楽しいものがいっぱいありました。例えば、《五百羅漢図》のところには四コマ漫画があり、その漫画にタイトルまでついていて、ストーリーもわかりやすく、ポップで楽しくなりました。作品そのものも色彩が豊かで美しく、描かれている羅漢のお顔も近所にいる人のような雰囲気で、身近な感じがします。また、《虎一大字》という書の作品も、虎の絵のような文字のような、あるいはカメレオンにも見えます。禅宗の教えにある「人の心次第」を伝えようとしていたのかもしれないですね。いろいろ自由に解釈ができ、想像が膨らみました。すごく興奮しちゃいます(笑)――木村さんは長年、NHKBSプレミアム「美の壺」でナレーションをされ、日本の文化にも精通されています。日本の美術工芸の楽しみ方を教えていただけますか?木村さん 日本には、すばらしい作家や職人の方々がたくさんいて、世界に誇れる技術があります。今では再現できないような先人たちの技術もあり、そんな方々の技を発見できることが楽しいです。例えば、今回の展覧会で見られる鎌倉時代の《二天王立像》も、あんな大きな仏像を寄木でどうやってつくったのだろうか、とびっくりします。今のようにデジタル技術がない時代、全体像をどのように考えてつくっていくのか、想像するとすごく興奮しちゃいます(笑)。こんなにすごい作品が日本にあるんだよ、と私はみなさんに言いたいです(笑)。昔はどんなふうにつくったのか、どんな人がつくったのか、と想像しながら見ていただきたいですね。――木村さんご自身にとって、美術に触れることで何か影響はありますか?木村さんお芝居は、アウトプットのことが多いので、美術展に行っていろいろ拝見すると、作者の精神や魂に触れられる気がして、それがインプットになり、自分を鼓舞することにもなります。想像力が膨らむような感動を、見ている人に与えることができる美術作品に触れると、私もそうなりたいと目指すものができます。美しいものやびっくりする作品を見ると、刺激になり、活力にもなります。背負い投げされた気分です(笑)――最後に、読者のみなさんにメッセージをお願いします。木村さんこの展覧会は、今まで抱いていた禅宗美術のイメージを覆されて、背負い投げされた気分です(笑)。それくらい楽しかったです。圧倒的で、いろいろなことを想像して、思わず見ながらニヤニヤ笑いました。すごく楽しい気分にさせてくれる展覧会です。どの世代でも、楽しいことが好きと思う方は、ぜひ見に来ていただきたいです。インタビューを終えて…穏やかな優しい口調でお話をしてくださった木村さん。日本の美についてお聞きしたとき、作品や作り手について、とても愛おしそうな表情で話されているお姿が印象的でした。木村さんが優しく語りかけてくれる音声ガイドを聴きながら、ぜひ展示を楽しんでみてください。Information会期:~5月7日(日)※休館日は月曜日(ただし、5月1日は開館)会場:東京国立博物館平成館(上野公園)開館時間:9時30分~17時00分(入館は閉館の30分前まで)観覧料:一般 ¥2,100、大学生 ¥1,300、高校生 ¥900、中学生以下無料京都会場:京都国立博物館 2023年10月7日(土)~12月3日(日)
2023年04月16日精緻な線で描かれた植物の断面、写実的なのはもちろん、羽毛まで丹念に描かれた鳥の姿。一見、「絵」に見えるのに実は「版画」と聞いて驚く人も多いかもしれない。自然という書物 15~19世紀のナチュラルヒストリー&アート展示は17世紀から19世紀にかけて西洋で発行された植物誌や博物誌の挿絵が中心。今でいう図鑑の図版にあたるもので、木版画や銅版画、リトグラフ(石版画)などの技法が用いられている。町田市立国際版画美術館・学芸員の藤村拓也さんは言う。「版画は美術であり、技術でもあります。現在ではアートの分野に括られていますが、絵を写し印刷する複製技術としての役割も担ってきました。写真が発明される以前、何世紀にもわたり、視覚的なコミュニケーションができるメディアとして情報のやりとりを支えてきたのです」版画による印刷物は、聖書や宗教的な寓意を含む物語などが主流の時代から、大航海時代に入ると珍しい動植物や地形を描いたものへ力点が移っていく。顕微鏡が発明されると、肉眼では捉えられなかった世界が観察の対象に。マクロからミクロまで、貪欲な探究心はどこから?「キリスト教圏の西洋社会では、自然物は神に創られたものであるという考え方が支配的でした。そこで神学者が聖書の一字一句を読み解くように、1枚の葉や小さな昆虫にも神の意図を汲み取ろうとする姿勢が生まれたのです。聖書が神の第一の書物とするなら、自然は第二の書物といえるでしょう」この時代、世界を探究することは神を知ることだった。そして世界を見たままに再現しようと、版画の技術もレベルアップしていく。「銅版画では陰影をつけたり、油彩のタッチや水彩の淡い感じを出す工夫が凝らされ、リトグラフになるとより絵に近づくようになりました」初期の木版画に始まり、絵と見まごうばかりの進化を遂げた版画は美しい。真剣な観察に加え、そこに神の存在を感じたいという強い願いが同居する、今の私たちにはない情熱のせいかもしれない。15~16世紀に磨かれた想像力と観察眼。中世ヨーロッパの自然観は主に創造主である神の存在によって形づくられていた。15世紀に入ると観察に基づき自然が描かれ始める。『キリストの生涯注解』より一葉1482年頃刊木版・手彩色町田市立国際版画美術館蔵技術が発展した17世紀。ミクロに、精緻に。17世紀、顕微鏡の発明により植物の細部が明らかに。技法も精緻な表現ができる銅版画が主流になっていく。ネヘミア・グルー『植物解剖学』1682年刊東京大学大学院理学系研究科附属植物園18~19世紀に進んだ世界の分類。18世紀には探検家が世界を巡り、各地の動植物を紹介。博物学の基礎が固まった。多色刷りの技法が進歩し、リトグラフが発明された。フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト『日本動物誌』第1巻1833年刊リトグラフ・手彩色放送大学附属図書館デザインやファンタジーへとつながる自然。15~19世紀の西洋では動植物は紙面を彩る装飾モチーフとしての役割も果たした。植物の花や葉の形を生かした「デザイン」、自然をインスピレーション源とする「ファンタジー」といったキーワードから、自然と「美術」の関わりを読み解く試みにも注目。エレノア・ヴィア・ボイル(画)『終わりのない物語』1868年刊木口木版(多色)町田市立国際版画美術館蔵オーウェン・ジョーンズ『装飾の文法』1856年刊リトグラフ(多色)文化学園大学図書館自然という書物 15~19世紀のナチュラルヒストリー&アート町田市立国際版画美術館企画展示室1 、2 東京都町田市原町田4‐28‐1開催中~5月21日(日)10時~17時(土・日・祝日は~17時30分。入場は閉館の30分前まで)月曜休一般900円ほか(4/19は無料)※前期(~4/16)と後期(4/18~5/21)で一部展示替えあり。TEL:042・726・2771※『anan』2023年4月5日号より。取材、文・松本あかね(by anan編集部)
2023年04月03日東京・竹橋で、東京国立近代美術館70周年記念展『重要文化財の秘密』が開かれています。本展では、重要文化財として指定された「明治以降」の美術作品をまとめて展示。価値あるアートを見られるだけでなく、名品に隠された意外な秘密など、アートの歴史も楽しむことができる展覧会です。オール重要文化財の貴重な展覧会!『重要文化財の秘密』会場入り口【女子的アートナビ】vol. 287『重要文化財の秘密』では、重要文化財として指定された明治以降の作品を展示。日本画や洋画、彫刻、さらに工芸も含めた51件を、会期中に展示替えをしながら紹介しています。そもそも重要文化財とは、なんでしょう?国宝とは、どう違うのでしょうか?重要文化財とは、日本にある有形文化財のうち、「製作優秀で我が国の文化史上貴重なもの等について文部科学大臣が定めたもの」。そのうち、特に優れたものが「国宝」に指定されます。現在、日本にある重要文化財は10,872件。いっぽうの国宝は、906件。1万以上もあるなら、あまり貴重な感じがしない…と思ってしまいそうです。ですが、実は明治以降の近代美術で重要文化財に指定されているのは、わずか68件のみ。そのうちの51件が本展で見られるので、かなり貴重な展覧会だといえそうです。どうしてこの作品が重要文化財に…?萬鉄五郎《裸体美人》1912(明治45)年重要文化財東京国立近代美術館蔵(通期展示)本展を担当された東京国立近代美術館副館長の大谷省吾さんは、「重要文化財だからすばらしい、という受け身の視点ではなく、どうしてこれが重要文化財に指定されたのだろう?という視点から作品を見ていただきたい」とコメント。さらに、重要文化財の指定に関する「秘密」のひとつを教えてくれました。大谷さん萬鉄五郎の《裸体美人》は現代になってから評価された作品です。萬は東京美術学校時代、最初は優等生でしたが、卒業制作で本作品を描いて指導教官たちを驚かせ、成績も19人のうち16番目になったと伝わっています。当時は斬新すぎた作品でしたが、時代を経て「新しい時代を切り開いた作品」として認められ、2000年に重要文化財として指定されました。最短で44年!横山大観《生々流転》1923年(大正12年)重要文化財東京国立近代美術館蔵(通期展示)本展の作品はオール重要文化財なので、すべてが見どころですが、なかでも目を引くのが会場に入ってすぐの細長い展示室で紹介されている横山大観の《生々流転》。長さ40メートルもある大作です。本作品に隠された「秘密」は、明治以降に指定された全68件の重要文化財のうち、「最も制作から短期間で認定された」という点。本作品が描かれたのは、大正時代の1923年。重要文化財に指定されたのは、1967年。つまり、最短でも認定に「44年」もかかるのですから、いかに大変なことかわかります。ちなみに、明治以降に制作された絵画などの美術作品のうち、国宝に指定されたものはゼロ、とのこと。でも、本展で展示されているのは、いつか国宝になるかもしれない作品ばかり。まとめて見られるこの機会をどうぞお見逃しなく!春まつりも開催中!なお、東京国立近代美術館では、4月9日まで「美術館の春まつり」も開催中。鮮やかな花を描いた屛風や現代の日本画が並ぶ展示室が設けられ、また桜が見える前庭には床几台も置かれています。千鳥ヶ淵など近隣の桜と一緒に、ぜひ美しいアートも楽しんでみてください。Information会期:~5月14日(日)※休館日は月曜日(ただし3月27日、5月1日、8日は開館)会場:東京国立近代美術館開館時間:9:30-17:00(金曜・土曜は9:30-20:00)*入館は閉館30分前まで*本展会期中に限り9:30開館(ただし「MOMATコレクション」は10:00開場)*入館は閉館30分前まで観覧料:一般 ¥1,800、大学生 ¥1,200、高校生 ¥700、中学生以下無料
2023年03月26日1994年にロンドンで設立されたヘザウィック・スタジオは、ニューヨーク、シンガポール、上海、香港など世界各地で革新的なプロジェクトを手掛け、世界のデザイナーや建築家から注目されるデザイン集団。彼らが手掛けた仕事といえば、上海万博の英国パビリオンや、ロンドン五輪の聖火台、グーグルの新社屋など、そのいずれも独創的!今をときめく建築界のトップランナーだ。世界が注目するデザイン集団の革新的な仕事術。本展はそのヘザウィック・スタジオの主要プロジェクト28件を、大空間で紹介する日本初の展覧会。創設者トーマス・へザウィックは、自身の信条を「建築という大きな建物や空間にも、魂を込める」と語る。これは人々が集い、対話し、楽しむという空間づくりを見据えてプロダクトや建築物のデザインをするという意味だ。なかでも特徴的なのがバイオフィリアに基づいて生まれた作品の数々。バイオフィリアとは、“人は本能的に自然とのつながりを求めている”という概念で、植物や水、太陽の光など、自然のゆらぎの中に、人は居心地の良さを感じると彼は説明している。自然界のエネルギーや建築物の歴史を取り込みつつ、小さなプロダクトも大規模な都市も創る。革新的なデザインの着想は、人を想う心が原点だと語る。展覧会は、彼らの仕事を〈ひとつになる〉〈みんなとつながる〉〈彫刻的空間を体感する〉〈都市空間で自然を感じる〉〈記憶を未来へつなげる〉〈遊ぶ、使う〉の6つのセクションで構成。日本の暖簾や垂れ幕に着想を得たユニークな展示デザインになっている。また会場では、彼らが手掛けたロンドンバスの高さ4mを超える原寸大模型も展示。さらに彼らがデザインした回転椅子《スパン》に座って、展望台からの眺望を楽しむこともできる。「作品は抽象芸術のようなもの。すぐに理解できなくても、時代や地域を超えて自由な解釈をしてもらえたら」とヘザウィック氏。足を運べば建築の魅力の正体がわかるはずだ。ヘザウィック・スタジオ《上海万博英国館》2010年撮影:イワン・バーン「たんぽぽ」の愛称が付いた上海万博の英国パビリオン。中核を6万本以上の透明なアクリルのポールが覆う。ヘザウィック・スタジオ《リトル・アイランド》2021年ニューヨーク撮影:ティモシー・シェンクNYの《リトル・アイランド》は彫刻風プランターが連なった水上公園。ヘザウィック・スタジオ《スパン》2007年-Courtesy:Magis撮影:スーザン・スマート座ると弧を描きながら360度回転する椅子。ヘザウィック・スタジオ《新ルートマスター(市バス)》2012年ロンドン撮影:イワン・バーンロンドンバスも彼らの手により50年ぶりにリニューアル。ヘザウィック・スタジオ《麻布台ヒルズ/低層部》2023年(予定)東京©DBox for Mori Building Co., Ltd.今秋に誕生する麻布台ヒルズ。低層部の建築は日本初のプロジェクト。Thomas Heatherwick1970年、英国生まれ。マンチェスター工科大学、RCAで3Dデザインを学び、’94年ロンドンに自身のスタジオを設立。以後は建築、空間デザインを軸に、世界10か国30以上のプロジェクトを担う建築界のスター。撮影:ラケル・ディニス※『anan』2023年3月29日号より。文・山田貴美子(by anan編集部)
2023年03月24日三菱一号館美術館で『芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル』が開催中です。幕末から明治にかけて活躍した人気浮世絵師、落合芳幾(おちあいよしいく)と月岡芳年(つきおかよしとし)。「最後の浮世絵師」とも呼ばれた彼らのゾクゾクする作品をご紹介します!「最後の浮世絵師」たちのアートが集結!『芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル』展示風景【女子的アートナビ】vol. 286本展では、歌川国芳(1797-1861)の門下で腕を磨いた浮世絵師、落合芳幾(1833-1904)と月岡芳年(1839-1892)の浮世絵を中心に、さまざまな作品を展示。幕末~明治の浮世絵を多く所蔵する「浅井コレクション」をはじめ、貴重な個人コレクションをもとに、彼らの画業が紹介されています。芳幾と芳年は、ともに江戸生まれ。ほぼ同じ時期にともに10代で、国芳に入門して教えを受けました。二人は、残酷な血みどろ絵を共作し人気を博しますが、30代で明治維新を迎え、それぞれの道を歩んでいきます。浮世絵が衰退をはじめた明治時代に、二人の絵師がどう生き残ったのか。本展では、人気浮世絵師たちの新たな活躍の場も紹介されています。血みどろ絵でブレイク!『芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル』展示風景本展のプロローグで登場するのは、芳幾と芳年がブレイクするきっかけとなった共作の作品集《英名二十八衆句》。江戸後期の歌舞伎や講談で知られている殺戮シーンを集めた全28枚の作品で、会場ではそのうち8枚を展示しています。絵の上部には、戯作者による場面解説が記載され、芳幾と芳年がそれぞれ半数ずつ図版を手がけました。幕末の不穏な風潮も反映させ、血みどろの場面はかなりリアル。例えば、芳年の《英名二十八衆句高倉屋助七》は、歌舞伎『助六』の主人公「花川戸助六」を描いたもので、倒した駕籠に足を掛けて睨む姿の手足には生々しい血の跡が。血みどろ絵、無惨絵を代表する残酷な作品です。かっこいい!師匠、国芳の絵『芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル』展示風景続く第1章では、二人の師匠である国芳の作品を展示。彼らが入門したとき、国芳は50代前半で、武者絵や役者絵、美人画、風俗画などさまざまな作品を手がけていました。たびたび幕政批判を匂わす作品を描き、奉行所からにらまれていた国芳ですが、江戸の庶民たちからは大人気。また、面倒見もよかったため、弟子たちからも慕われていました。会場では、国芳の《甲越川中島大合戦》をはじめ、ダイナミックでかっこいい作品が並んでいます。ゾクゾクする肉筆画も!『芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル』展示風景第3章では、芳幾と芳年らの貴重な肉筆画を紹介。浮世絵版画とはまた異なる趣があり、絵の巧さ、筆さばきなど技法のすばらしさもダイレクトに伝わります。例えば、芳幾の《幽霊図》は、格子の間から顔を出している幽霊の姿を描写。こけた頬やくぼんだ目など、おどろおどろしい雰囲気で、脚も描かれていません。薄暗い展示室で見ていると、ゾクゾクします。いっぽう、芳年の《幽霊図うぶめ》(3月14日~26日展示)は赤子を抱く母親の後ろ姿を描いたもの。うぶめとは、妊娠中に亡くなった女性の妖怪で、血だらけの赤ん坊を人に抱かせようとする……と伝えられています。しかし本作からは、怖さというより母親の切なさ、悲しさが伝わってきます。新聞錦絵で生き残る!『芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル』展示風景第5章では、新聞錦絵を紹介。明治になると、さまざまな新聞が刊行されはじめ、芳幾は東京初の日刊紙「東京日日新聞」の発刊に携わります。さらに、庶民の好奇心を刺激するセンセーショナルな事件を錦絵にして刊行し、人気を獲得。需要がなくなりつつあった浮世絵師ですが、新聞や雑誌という新しいメディアに挿絵を描き、活躍を続けました。ライバルの芳年は、「郵便報知新聞」の新聞錦絵に起用され、こちらもブレイク。ただ、彼は浮世絵制作にもこだわり、晩年も版画を出版するなど最後まで浮世絵師として活動を続けました。休館前にぜひ!なお、三菱一号館美術館は、本展のあと設備入替および建物メンテナンスのため休館いたします。再開館は2024年秋頃を予定。休館前に、ぜひ足を運んでみてくださいね!Information会期:~4月9日(日)※展示替えあり※休館日は、3月20日(月)会場:三菱一号館美術館開館時間:10時~18時(金曜日と会期最終週平日、第2水曜日は21時まで)※入館は閉館の30分前まで観覧料:一般 ¥1,900、大学・高校生 ¥1,000、中学生以下無料
2023年03月23日東京都現代美術館で、『クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ』が開かれています。フランスを代表するデザイナーのひとり、クリスチャン・ディオール(1905-1957)。日本を愛したデザイナーが手がけたドレスやスケッチなど、魅力的な作品と展示風景をご紹介します!ディオールと日本の絆が伝わる!『クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ』展示風景(筆者撮影)【女子的アートナビ】vol. 285『クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ』は、パリ、ロンドン、中国、ニューヨークなどで人気を博した世界巡回展。70年以上にわたるディオールの軌跡が、約1,100点以上もの作品とともに紹介されています。本展は、日本のために再考案されたもので、建築家の重松象平氏が会場をデザイン。キュレーションは、フロランス・ミュラー氏が手がけ、ディオールが影響を受けた芸術や、日本文化の魅力、庭園に対する愛などにもスポットがあてられています。さらに、東京都現代美術館が所蔵するアート作品や、日本人写真家・高木由利子氏の魅力的な写真作品もあわせて展示。ディオールと日本がコラボした夢のような空間になっています。子どものころから日本文化に憧れて…『クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ』展示風景(筆者撮影)ディオールは、フランス・ノルマンディー地方の裕福な家庭で誕生。両親が日本美術を愛好していたことから、家の中には北斎や歌麿などの絵が飾られ、子どものころから日本文化に憧れながら成長しました。芸術を愛する青年となったディオールは、2つのアートギャラリーを経営。ピカソやマティス、ダリ、ジャコメッティなどさまざまな芸術家たちの作品を展示していました。しかし、1929年からはじまった世界恐慌の影響を受けてディオールの実家が破産。また、彼自身も苦境に陥り、ギャラリーも閉鎖しました。その後、生活のために描いていたドレスのデザインが評判となり、デザイナーとしてデビュー。1946年に、パリのモンテーニュ通り30番地にメゾン「クリスチャン・ディオール」を創業しました。本展の会場を入ってすぐ、最初に見ることができる作品が、ムッシュ ディオールのデビュー作となった“Bar(バー)”ジャケットです。美智子さまのウエディングドレスも制作!『クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ』展示風景(筆者撮影)クリスチャン・ディオールは、日本で最初に進出した西洋のファッションブランドで、1953年には帝国ホテルでファッションショーを開催。そのとき発表された5着が、会場に展示されています。ドレスにつけられた名前にも、ぜひ注目してみてください。「サツマ-サン」や「コージ-サン」など日本を連想するような名前も見つけられます。また、「羅生門」と名づけられたコートには、京都の龍村美術織物の生地が用いられ、ディオールと日本の深い絆を感じることができます。ディオールは、1957年に心臓発作で急逝。まだ52歳という若さでした。しかし、その後もメゾンのクリエイティブ ディレクターたちは、引き続き日本の芸術や文化に関心を持ち続けました。1959年には、当時の明仁親王殿下(現・上皇陛下)と正田美智子さま(現・上皇后陛下)の結婚式用ドレス3着をメゾン・ディオールが制作。生前のディオールがデザインしたドレスを、弟子であるイヴ・サンローランが完成させました。会場デザインや写真にも注目!『クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ』展示風景(筆者撮影)また、本展では各展示室の空間演出や、写真やアートとのコラボも見どころのひとつ。例えば、歴代デザイナーのドレスが展示されている部屋の壁には、高木由利子氏の写真が一面にかかっています。ファッションの仕事に携わったあと写真家になった高木氏は、本展のためにディオールのドレスを撮影。園芸を愛したディオールに敬意を表し、花を手にしたモデルの姿なども見ることができます。『クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ』展示風景(筆者撮影)(右)牧野虎雄《朝顔》1945年頃東京都現代美術館蔵、(左)牧野虎雄《鹿の子百合》1925年頃東京都現代美術館蔵また、「ミス ディオールの庭」と題された展示室は、日本庭園をイメージした空間で、花や植物がデザインされたドレスが並んでいます。東京都現代美術館が所蔵する作品も一緒に展示され、ドレスとアートのコラボも大変美しいです。『クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ』展示風景(筆者撮影)(左奥3点)アンディ・ウォーホール《マリリン・モンロー》1967年東京都現代美術館蔵ちなみに、本展は撮影OK。どの展示室もため息が出るほど美しい雰囲気で、間違いなく映える写真が撮れます。ただ、大変人気のある展覧会のため、4月までの日時指定チケットはすべて完売。当日券も、販売枚数に制限があります。5月以降のチケットについては、4月上旬に美術館の公式サイトでアナウンスされますので、観覧ご希望の方はそちらをご確認ください。会期は5月28日まで。Information『クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ』ポスター(筆者撮影)会期:~5月28日(日)月曜休館会場:東京都現代美術館開場時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)観覧料:一般 ¥2,000、大学・専門学校生・65歳以上 ¥1,300、中高生以下無料
2023年03月19日六本木の国立新美術館で、『ルーヴル美術館展愛を描く』がはじまりました。本展のプレス内覧会と開会式に、展覧会の案内人を務める俳優の満島ひかりさんが登壇。開会式の模様を取材してきましたので、レポートします!満島ひかりさんが案内人!満島ひかりさんNTV【女子的アートナビ】vol. 284『ルーヴル美術館展愛を描く』では、フランスのルーヴル美術館が所蔵する絵画コレクションのなかから、「愛」をテーマにした名画73点を展示。西洋社会では、古代の神々やキリスト教の愛、恋人や家族、官能的な愛まで、さまざまな愛が表現されてきました。本展では、おもに16世紀から19世紀半ばに活躍したヨーロッパの巨匠たちによる傑作、名作の数々を堪能できます。プレス内覧会では、満島ひかりさんがフランソワ・ジェラールが描いた《アモルとプシュケ》の前に登場!春色のワンピース姿がとってもステキです!ロケでルーヴル美術館を体験!NTVまた、開会式では満島さんが本展の案内人として、ルーヴル美術館や作品の魅力について、語ってくれました。――本展のロケで、はじめてルーヴル美術館の中に入られたそうですが、いかがでしたか。満島さんとても良い絵を見る体験ができました。もともと王宮だった建物を補修しながら美しく保ち、そこにさまざまな時代の絵が並んでいました。特に感動したのは、ナポレオンの戴冠式を描いた作品です。絵の中に、私と同じぐらいの大きさの人間がたくさん描かれていて、思わず拍手をしてしまいました。自分もその戴冠式に参加しているかのような気分になれたので、驚きました。ルーヴルならではの鑑賞体験ができました。一枚の絵に30分以上は必要…?『ルーヴル美術館展愛を描く』展示風景――本展の展示はいかがでしたか。満島さん本展を担当された国立新美術館主任研究員の宮島綾子さんと一緒に、拝見させていただきました。解説を聴きながら見ていると、一枚の絵に対して、30分以上は必要ですね。絵の中に、「愛」にまつわるさまざまなヒントがあり、その絵が描かれた背景があり、知れば知るほど絵を鑑賞する時間が長くなります。別に宣伝ではないのですが、一度見るだけでは足りないですね(笑)。すごく良い展示です。――本展で音声ガイドの収録をされてみて、いかがでしたか。満島さんはじめて、音声ガイドを担当しました。先輩の森川智之さんと一緒に、愛にまつわる話や恥ずかしくなるような言葉、怒りなどをお芝居のようにして話してみたり、恥じらいをセリフにして話してみたり。森川さんと私だからこその音声ガイドになっていると思います。盟友である三浦大知くんと一緒に…NTV――本展のテーマソング『eden』も配信されました。満島さんが作詞をされたそうですね。満島さんありがたいことに、世界的なジャズバンドSOIL&“PIMP”SESSIONSのみなさんと、私の27年来の盟友である三浦大知くんと一緒に、今回のテーマソングをつくらせていただきました。美術の世界をあまり崩さないようにと思いながら、幻想的で神秘的な感じになればいいと思って詞を書きました。美術展とあわせて、聴いていただければうれしいです。――最後に、展覧会をご覧になる方にメッセージをお願いします。満島さんこの数年、たくさんの人がいろいろな環境になり、どんどん世界が変わるなかで、改めて見直したこと、愛を感じること、触れられないことのさみしさ、触れられるものへの愛おしさなど、日々感じている最中かと思います。「愛を描く」というこの展覧会にぜひ足を運んで、日常にもたくさん愛を描いてほしいなと思います。私も愛を描きたいです。音声ガイドで楽曲も聴けますなお、満島さんと森川さんが担当する音声ガイドは、650円で貸し出されています。作品解説のほか、テーマソング『eden』や、満島さんと森川さんの特別対談も収録。ぜひガイドを聴きながら、作品をご覧になってみてください。本展は、東京のあと京都に巡回予定です。Information会期:~6月12日(月)休館日:毎週火曜日※ただし3月21日(火・祝)・5月2日(火)は開館、3月22日(水)は休館会場:国立新美術館企画展示室1E開場時間:10:00-18:00※毎週金・土曜日は20:00まで※入場は閉館の30分前まで観覧料:一般¥2,100、大学生¥1,400、高校生¥1,000、中学生以下無料
2023年03月18日自身の私生活を深く見つめる作風で、1960年代以降の日本の写真表現に独自のポジションを築いていった写真家・深瀬昌久。彼の作風は’70 年代には「私写真」と呼ばれ、後の写真家たちの主要な表現のひとつとして広まってゆく。「私写真」のパイオニア深瀬昌久の日本初、大回顧展。1934年、北海道の写真館の長男として生まれた深瀬。3代目になることを期待され、6歳の頃から暗室でプリントの水洗仕事を手伝わされるなど、幼少期から写真と縁深い生活を送る。日本大学藝術学部写真学科を卒業後は、日本デザインセンターや河出書房新社などの勤務と並行し、カメラ雑誌を中心に写真作品を多数発表。’68年に独立すると、妻や家族、飼い猫など、身近な存在にカメラを向け、自分の内面へと意識を向けてゆく。彼の作品は、被写体に対する愛ある眼差しと、ユーモラスな軽やかさが混在しているのが特徴。明るさの中にも、どこか不気味な雰囲気をたたえた作品は、不思議といつまでも見る人の記憶に残る。本展は、深瀬昌久の全貌を紹介する日本初の大回顧展。初期作品「遊戯」から、家族を撮影した「家族」、晩年に手がけた「私景」や「ブクブク」など、主要な作品を一堂に集め、活動の足跡を時系列に辿ってゆく。なかでも注目は妻・洋子を被写体に、約10年の歳月をかけて撮影されたシリーズ「洋子」だ。深瀬は、’60年代には二人が暮らした埼玉の草加松原団地を舞台に、’70年代には旅先の北海道や金沢、伊豆などで洋子を撮影。本展では《無題(窓から)》など15点を本邦初公開。そこには被写体への愛ばかりでなく、どこか過剰な演出も入り交じっている。深瀬がプライベートを晒しながら表現したかったものは何だったのか。彼は猫と過ごす日々を振り返り、「私はみめうるわしい可愛い猫でなく、猫の瞳に私を映しながら、その愛しさを撮りたかった。だからこの写真は、サスケとモモエに姿を借りた私の『自写像』といえるのかもしれない」と書き残している。’92年6月、深瀬は行きつけのバーの階段から転落。重度の後遺症を抱え、以降は特別養護老人ホームで介護を受けながら過ごし、二度とカメラのシャッターを切ることなくこの世を去った。本展は、彼の活動の全貌とともに、「不遇の作家」とも呼ばれた彼の生き様から、写真の原点についても考える機会になりそうだ。《無題(窓から)》〈洋子〉より1973年勤め先の画廊に出勤する洋子の姿を毎朝4階の自室から望遠レンズを使って撮り続け、「洋子」と題して1973年に誌上で発表。夫婦は’76年に離婚した。©深瀬昌久アーカイブス《無題》〈サスケ〉より1997‐1998年個人蔵’77年に友人の紹介で譲り受けた深瀬の猫・サスケ。©深瀬昌久アーカイブス《屠、芝浦》〈遊戯〉より1963年東京都写真美術館蔵解体される家畜と当時は恋人だった洋子。©深瀬昌久アーカイブス《91.11.10 November 10th 1991》〈ブクブク〉より1991年東京都写真美術館蔵’91年、深瀬は自宅の湯船に潜った自分の姿を約1か月間写し続けた。©深瀬昌久アーカイブス《昌久と父・助造》〈家族〉より1972年東京都写真美術館蔵’71年、帰省した際に撮影した父との写真。©深瀬昌久アーカイブス深瀬昌久 1961‐1991 レトロスペクティブ東京都写真美術館東京都目黒区三田1‐13‐3恵比寿ガーデンプレイス内開催中~6月4日(日)10時~18時(木・金曜は~20時。入館は閉館の30分前まで)月曜(5/1は開館)休一般700円ほかTEL:03・3280・0099※『anan』2023年3月15日号より。文・山田貴美子(by anan編集部)
2023年03月13日海岸線の美術館・館長の髙橋窓太郎(そうたろう)さんが初めて雄勝(おがつ)を訪れた当時、防潮堤は建設中だった。町のアイデンティティを取り戻す、“もう一つの海岸線”。「景色の半分は壁で半分は海。海岸線と地続きだった土地が変貌していく様子が衝撃でした」宮城県石巻市雄勝町は東日本大震災で甚大な津波の被害を受けた。現在は高さ10m、距離3.5kmの防潮堤が海と町とを隔てている。ここで髙橋さんはある経験をしたという。「防潮堤の前に立つととても静かで波の音が聞こえない。その空間性が美術館みたいだと思ったのです」このある種啓示めいた経験が「見えなくなった風景をアートの力で取り戻す」プロジェクトとして始動したのは2020年のこと。「しかし、地元では防潮堤の建設に反対する声も多くありました。だから壁をよくしようという発想自体、受け入れられない人がいるのも事実。一方で子どもたちに聞いてみると、『安心する』という声も。防潮堤はネガティブとポジティブを孕むものと気づいたとき、元々あった営み、風景を描くことでもう一つの海岸線を作っていこうと思ったのです。その向こうの本当の海岸線とともに」『THEORIA|テオリア』は、作者の安井鷹之介さんが「あなたの好きな雄勝の風景はどこですか?」という住民へのヒアリングをもとに描いた風景画がソースだ。一つの絵の中を春夏秋冬が巡り、夜明けから暗くなるまでの光がグラデーションのように移り変わる。この壁画を見た町の人は皆、自分の知る風景だと感じるだろう。そして壁の向こうの海に思いを馳せるだろう。今後は「海沿いに生まれる大壁画群」をイメージに規模を広げていく。「年1~2作品、制作を進めていきたいし、いろいろなコラボレーションを考えています。例えば壁画の前に移動式サウナを設置したり、美術教室をやったり。ここが盛り上がったら日本の地域の面白さ、豊かさに多くの人が気付くはず。そんな唯一無二の場所にしていきたいですね」『THEORIA|テオリア』(安井鷹之介)クレーンに乗り、小さな刷毛1本で2か月余りで描き上げた。「美術館のように一定の光量ではないのが野外ならではの面白さ。空の色と続いているようだったり、雪が積もったり、東北らしい光景も」(髙橋さん)撮影・KYON.J『A Fisherman|漁師』(安井鷹之介)撮影・KYON.J制作中の安井さんが「あっちの壁には描かないの?」と地元の人に声をかけられたことがきっかけで生まれた作品。朝焼けに浮かぶ漁師の背中を描いたポートレート。2つの絵は昨年11月に完成、お披露目された。海岸線の美術館宮城県石巻市雄勝町上雄勝2‐22みうら海産物店裏防潮堤0時~24時(野外美術館につきいつでも観覧可能)無休無料seawallclub@gmail.com※『anan』2023年3月15日号より。取材、文・松本あかね(by anan編集部)
2023年03月12日日本橋髙島屋S.C.の本館8階ホールで、北欧家具やインテリア、食器などを集めた展覧会『ていねいに美しく暮らす北欧デザイン展』が開かれています。会場では、北欧の部屋をリアルに再現した美しい展示空間も登場。プレス内覧会と開会式を取材してきましたので、レポートします!北欧デザイン300点以上が集結!『ていねいに美しく暮らす北欧デザイン展』展示風景【女子的アートナビ】vol. 283日本橋髙島屋開店90年記念『ていねいに美しく暮らす北欧デザイン展』では、椅子研究家の織田憲嗣さんが長年かけて収集・研究してきた、世界的にもかなり貴重な「織田コレクション」が集結。北欧デザインの椅子やテーブルなどの家具から、照明やインテリアアクセサリー、さらに食器などの日用品まで、総勢70名以上のデザイナーによる300点以上の作品が紹介されています。洗練された作品だけでなく、展示空間も見どころのひとつ。北欧の建材メーカーによる窓枠や床材を使い、リアルなリビングルームやダイニングルームが再現されています。照明も北欧のもので演出され、現行商品の名作椅子には座ることもできます。美が人生を豊かに…!『ていねいに美しく暮らす北欧デザイン展』日本だけでなく、世界でも北欧デザインは人気があります。なぜ、これほど魅力を感じるのでしょう?北欧家具やインテリアなどの有機的で美しいデザインには、日常の暮らしや思想が強く影響しているそうです。開会式に登壇された織田さんは、北欧デザインができた背景について、次のように語りました。織田さん北欧では、19世紀末にスウェーデンの社会思想家、エレン・ケイが「美が人生を豊かにする」という思想をとなえ、さらに美術史家のグレゴール・パウルソンが、「暮らしの中にもっと美しいものを取り入れていこう」と提唱し、今日の高い生活文化が築かれていきました。現在、日本はジェンダーや環境などさまざまな問題を抱えています。北欧では、1960年代からそれらの問題に取り組み、解決してきた実績があります。モノだけをご覧になるのではなく、美しいモノたちが生まれてきた背景や歴史にも思いをはせていただければうれしいです。人生の節目に椅子を買う!『ていねいに美しく暮らす北欧デザイン展』では、会場の見どころをいくつかご紹介していきます。まず、第1章「椅子と生きる」では、北欧各国の名作椅子を展示。北欧の人たちは、長い人生をともにする椅子の存在をとても大切にし、美しいフォルムだけでなく、座り心地も徹底的に追求しています。また、初任給をもらったときや結婚したときなど人生の節目に椅子を買うこともあるそうです。椅子が人生のパートナーって、ステキですね。『ていねいに美しく暮らす北欧デザイン展』第2章「デザインの源泉」では、北欧を代表するデザイナー10名による多くの作品を展示。イッタラのデザイナーとして知られるフィンランドの巨匠、タピオ・ヴィルカラのガラス作品をはじめ、アルヴァ・アアルトやカイ・フランク、デンマークのフィン・ユールなどの作品とともに、デザイナーについても紹介されています。織田さんは、「北欧デザイナーの多くは、自然界からインスピレーションを受けてデザインに生かしている」と解説。例えば、タピオのガラス作品《ウルティマツーレ》は、最北のラップランドでのとけゆく氷をイメージしたデザインになっています。世界で唯一現存する椅子!『ていねいに美しく暮らす北欧デザイン展』また、第3章「心の居場所」では、北欧建材でつくられた部屋に家具や食器などを展示。照明も、北欧の光の変化を考えて演出されています。本展で展示されているダイニングセットは、ふだん織田さんが自宅で使っているものを運んできたそうです。「良いモノほど、よく使うべき」と語る織田さんは、現在北海道の森の中にある自宅で、美しいデザイン家具や日用品に囲まれて過ごされています。また、リビングルームに展示されているベント・ヴィンゲ《イージーチェア》は、スツールとセットになったもので、世界で唯一現存する貴重な作品。本展には、ほかにも「世界に2点しかない」ハンス J・ウェグナーの《ザ・チェアプロトタイプ》や、アルヴァ・アアルトの最初期モデルなど希少な作品があり、近代デザイン史に残る学術的にも重要な名作を見ることができます。織田さんが語った「美しい暮らしは人を幸せにする」という言葉を、まさに実感・体感できる展覧会です。ぜひ、現地でご覧になってみてください。本展はこの後、ジェイアール名古屋タカシマヤと大阪髙島屋に巡回予定です。Information会期:~3月21日(火・祝)会場:日本橋髙島屋S.C.本館8階ホール入場時間:午前10時30分〜午後7時(午後7時30分閉場) ※最終日3月21日(火・祝)は午後5時30分まで(午後6時閉場)観覧料:一般 ¥1,000、大学・高校生 ¥800、中学生以下無料
2023年03月12日Bunkamura ザ・ミュージアムで、『マリー・ローランサンとモード』展が開催中です。本展で音声ガイドナビゲーターを務めるのは、俳優の浦井健治さん。内覧会で展示をご覧になった浦井さんに、本展の見どころやアートについてお聞きしてみました!浦井健治さんがナビゲート!『マリー・ローランサンとモード』展浦井健治さん【女子的アートナビ】vol. 282本展では、ともに1883年に生まれたマリー・ローランサンとココ・シャネル、そして時代を彩った人々に注目し、美術とファッションを軸に、1920年代のパリの芸術界を紹介。女性的な美を追求したローランサンの優美な絵画を中心に、活動的でモダンな女性服を創作したシャネルのファッションなども展示され、約90点の多彩な作品を楽しめます。本展で音声ガイドを担当した浦井健治さんは、ミュージカルや映像などで活躍。これまで、さまざまな王子や伯爵などの役を演じ、最近までミュージカル『キングアーサー』で主演のアーサー王役を務められ、注目を集めています。そんな貴公子の風格が漂う浦井さんに、展覧会の感想やお好きな作品などをお聞きしてみました。二人の女性に魅せられて…――はじめて音声ガイドを担当されて、いかがでしたか?浦井さん光栄でうれしかったです。美術館は、自分自身や当時の時代とも向き合えて、「学びのある場所」と個人的に思っています。ですから、見ている方の邪魔にならないよう、抑揚などを考えて、優しく包むようなイメージで収録しました。また、今回はナレーションをしながら、自分自身もローランサンとシャネルという二人の女性のすばらしい志や芸術、生きざまに魅せられていきました。こんな贅沢な経験をさせていただき、うれしいです。――二人の女性について、特にどんな点に魅力を感じられましたか?浦井さん社会的に新しい感じがお二人にはあると思います。ローランサンの絵画は、淡い色彩で描かれていて女性らしさがあり、ステキだと思います。彼女の絵には、犬や周りにいる大切な人たちが描かれていて、優しさに包まれています。絆や人間を大切にしていることが絵から伝わります。シャネルは、女性たちが活躍できるよう、いろいろなことにトライされています。今は当たり前のことですが、当時の女性が権利を勝ち取っていくのは大変だったと思います。風潮や常識にあらがい立ち向かう様子は、まるで騎士のように見えます。二人とも、美術やファッションという枠を超えて、これから女性がどうやったら活躍できるのかを呈示しているような方々。だからこそ、みなさんに支持されて、今の時代も憧れの存在になっているのだと思います。美への探究心を感じる――会場をご覧になって、特にどの作品に興味をもたれましたか?浦井さんローランサンの作品に、恋人とのツーショットを描いた絵画があるのですが、二人の色味がグレーと色鮮やかな色で対照的に表されていて、印象的でした。また、自画像もよかったです。身につけている装飾品も工夫されていて、こう見せたいという彼女の思い、美への探求心を感じました。また、シャネルの衣装も興味深く思いました。自分は役者なので、いつも衣装を着させていただくのですが、衣装担当の方が凝った素材をパリから選んで持ってきてくれたり、役者の動きに合わせて制作してくれたり、工夫してくださるのです。いつも衣装担当の方から聞く言葉が、そのまま今回の展示物にリンクしている部分もありました。例えば、お腹を圧迫しないけどスレンダーに見えるファッションなど、今は当たり前のことですが、まさに当時、本展で見たところが始まりだったというのがわかり、すごいなと思いました。――本展は、美術とファッションを一緒に見られますが、その点はいかがですか。浦井さんとても豊かな展示構成だと思いました。説明がひとつひとつ書かれていて、見やすくなっているので、二人の女性の生きた証がよくわかります。まるで進行形のように、今でも彼女たちが生きているような感触があるくらい、見ていて清々しく生命力がありました。何度見ても、きっと発見があると思います。アートは学びの連続――浦井さんにとって、アートはどんな存在ですか?浦井さん情報の宝庫で、学びの連続です。描かれた当時のことを知ることができ、例えば戦争や疫病、生活スタイルなど時代の移り変わりをアートで見て知ることができます。また、自分の職業にも生かされています。実在の人物を演じるとき、書物や写真集などで学ばせていただくのですが、そこに必ずアートが入っています。例えばパリが舞台のとき、パリには行けないけれど美術作品を見ると、そこから服装や装飾品、人々の距離感などアートで語られていて勉強になります。また、知識だけでなく、インスピレーションも得られます。演じるのは、その場で生きて反応していくこと。アートは視覚で見て体感できるので、例えば教会の中の空気感とかが作品から伝わると、演じるときの助けになります。――よく美術館に行かれるとのことですが、印象に残る展覧会や作品はありますか。浦井さんいろいろありますが、以前、一部屋すべてモネの作品が飾られているのを見たときはすごいと思いました。やはり、本物はすごいですね。本物に触れると、自分の感性も変わっていき、研ぎ澄まされたインスピレーションが得られます。その空間に身を置くことでリセットでき、自分自身とも向き合えます。こんな贅沢な時間をリーズナブルなお値段で買えるのですから、美術館はもっとみんな行っていい場所だと思います。どんな方でも楽しめます!――最後に、読者の方にメッセージをお願いします。浦井さん二人の女性の心意気や志、生きた証に触れることができる展覧会で、見ると世界が広がります。男性も学ぶことが多く、渋谷の真ん中にあるのでカップルで来ていただいてもいいと思います。ぜひ、この贅沢な空間を体感していただきたいです。音声ガイドも、みなさんと一緒に街を歩いているような雰囲気になれるよう心がけました。どんな方が来ても楽しめるすごくステキな芸術空間で、心に潤いをもたらしてくれます。ぜひ一度といわず、何度も足を運んでいただければと思います。インタビューを終えて…終始穏やかなトーンで、とても丁寧にお話をしてくださった浦井さん。アートから知識やインスピレーションを得て、役作りにも生かされているなど、言葉の端々から演劇に対する真摯な思いが伝わってきました。ぜひ、浦井さんの優しく寄り添うような声で収録された音声ガイドを聴きながら、展覧会を楽しんでみてください。Information会期:~4月9日(日)休館日:3月7日(火)会場:Bunkamura ザ・ミュージアム開場時間:10:00-18:00(入館は17:30まで)毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)※金・土の夜間開館は、状況により変更になる場合があります。観覧料:一般¥1,900、大学・高校生¥1,000、中学生・小学生¥700撮影・松本理加
2023年03月11日「六本木アートナイト2023」が、2023年5月27日(土)、28日(日)に開催される。六本木をアートで彩る「六本木アートナイト」2009年にスタートして以来、今回で12回目を迎える「六本木アートナイト」は、六本木の街を舞台にしたアートイベント。会期中は、美術館をはじめとする文化施設、大型複合施設、商店街など、六本木エリア全体をアートが彩る。2023年は「都市のいきもの図鑑」がテーマ「六本木アートナイト2023」では現代アーティストの栗林隆+Cinema Caravan、鴻池朋子をメインアーティストに迎え、「都市のいきもの図鑑」をテーマにした多様な繋がりを感じられる作品を展開する。現代アートの展示をはじめ、デザインや映像、パフォーマンスなどの作品が、様々な形式で披露される。栗林隆+Cinema Caravan、鴻池朋子がメインアーティストメインアーティストの栗林隆+Cinema Caravanは、東西統合から間もないドイツに滞在した活動初期の頃から継続して「境界」をテーマに大がかりなインスタレーションなどを制作している栗林隆と、「第一回逗子海岸映画祭」のメンバーを中心に発足したグループ・Cinema Caravanがタッグを組んだユニット。タンカーが座礁し捨てられている“船の墓場”から着想を得た「タンカープロジェクト」などを手がけており、2022年にドイツで開催された「ドクメンタ15」に参加。作品「蚊帳の外」を拠点に様々なイベントを行い、《元気炉四号機》が芸術選奨文部科学大臣賞を受賞している。一方、もう1人のメインアーティストである鴻池朋子は、絵画、彫刻、パフォーマンスといった多様な表現方式と、旅によるサイトスペシフィックな表現を通して“芸術の根源的な問い直し”を続ける作家。各地を巡回する個展「みる誕生 鴻池朋子展」では、作品を通して鑑賞者の内に眠っていた感覚を呼び覚ますことを試みた。「六本木アートナイト2023」開催にあたって鴻池朋子は、“動物の言葉”を軸に、自然の不明さや人と動物、自然の境界に着目。「私たちはどこまで人間でどこから動物なのかな。虫なのか、鳥なのか、風なのか、草なのか、土なのか。六本木アートナイトは境界線や分類が曖昧になり “どうぶつのことば”が飛び交うトポスになるかもしれない」とコメントしている。【詳細】六本木アートナイト2023開催期間:2023年5月27日(土)~ 28日(日)場所:六本木ヒルズ、森美術館、東京ミッドタウン、サントリー美術館、21_21 DESIGN SIGHT、国立新美術館、六本木商店街、その他六本木地区の協力施設や公共スペース入場料:無料(但し、一部のプログラム及び美術館企画展は有料)【問い合わせ先】六本木アートナイト実行委員会 ハローダイヤルTEL:050-5541-8600(9:00~20:00)
2023年03月06日家具から日用品まで幅広いプロダクトの中から、世の中に深く影響を与えるデザインを見極め、選抜した展覧会「The Original」が始まる。オリジナルとは、モノづくりのルーツや起源を指すのではなく、今回は“多くのデザイナーを触発する魅力を備え、その影響力が今も受け継がれているデザイン”と捉えている。そんな究極のデザインは一体どのようにして選ばれたのか?本展のディレクターである土田貴宏さんにお話を伺った。「発端はプロダクトデザイナーの深澤直人さんからの提案でした。深澤さんといえば〈スーパーノーマル〉など普通さの魅力を提唱し、廃れないデザインを考え続けてきた方。廃れないものの本質とは一体何かを考える中で、今回こうしたテーマが浮上してきたのだと思います」土田さんは本展の準備に際して、独創性やオリジナリティをキーワードに、今まで自分が見てきたデザインを改めて調べ、膨大なリストを作成。そこから企画協力の田代かおるさんと共に300以上の候補を出し、深澤さんも交え選定会議を重ね、今回紹介する約150点まで削り落とす作業を繰り返した。「何をもって独創性やオリジナリティというか?それを明言するのは難しいですが、今回はフォルム、アイデアの斬新さ、従来はなかった機能を生み出しているなど、いくつかの方向から考えていきました。印象的なデザインから環境問題への取り組みまで、時代によって基準は変わるけれど、どの作品にも明確な理由がある。本展には、時代を超えて色褪せない魅力をたたえた作品が並んでいると思います」例えばポスト・イット。見た目はシンプルなメモだが、貼ってはがせる画期的な機能は作り手の予想を超えて重宝されてきた。今では単なる文房具にとどまらず、新しいコミュニケーションツールとして、色や形も増え、ますます進化している。会場には、そうしたプロダクトを、実際に体感できるような工夫が凝らされている。会場は導入部分を過ぎるとまず、作品を設えた実物大の部屋が登場。実際にプロダクトのある日常空間を体感することができる。続いて、写真家ゴッティンガム氏が撮影した商品写真がレイアウトされたグラフィックとともに膨大な数のプロダクトが並ぶ展示空間が広がる。実際とはひと味違った商品の表情が楽しめる趣向だ。作品は大半が時系列で並び、誕生の時代背景を同時に知ることも。さらに終盤には椅子やドアノブなど触って体感できるコーナーも登場する。「現代って、ワンクリックで情報がたくさん集まる複雑な時代。けれど人が実際に使うものの意義はあまり変わっていなくて、そのシンプルな関係性の大切さに改めて光を当てたい。本展をきっかけに、オリジナルの意味や視点がもっと広がるといいな、と。そして先々、これが新しいオリジナルを生むことに繋がれば、もっと理想的だと思いますね」オリジナリティの本質を問うプロダクトの数々。接着剤の研究者であるスペンサー・シルバーが開発した弱い接着剤は、はがすことができる性質を持ったメモに搭載され、思いも寄らぬヒット作へと発展する。スペンサー・シルバー、アート・フライ「ポスト・イット(R)ノート」(1980、3M)PHOTO:“UNTITLED(THE FORMS THAT DESIGNERS FIND OUT #624)”, 2022 © GOTTINGHAMIMAGE COURTESY OF 21_21 DESIGN SIGHT AND STUDIO XXINGHAMFSC認証のリサイクル紙1枚で作ったゴミ箱。折り曲げているため強度が高く、遊び心あるカラフルさも魅力。紙ならではのデザイン性で収納箱としても人気。クララ・フォン・ツヴァイベルク「ペーパー ペーパー ビン」(2020、ヘイ)PHOTO:“UNTITLED(THE FORMS THAT DESIGNERS FIND OUT #585)”, 2022 © GOTTINGHAMIMAGE COURTESY OF 21_21 DESIGN SIGHT AND STUDIO XXINGHAMニッチなスペースに特化し多くのデザインを生んだカスティリオーニの隠れた名作。部屋の空きスペースについて熟考した結果、このサイドテーブルが誕生した。アキッレ・カスティリオーニ、ジャンカルロ・ポッツィ「トリオ」(1991/2017、カラクター)PHOTO:“UNTITLED(THE FORMS THAT DESIGNERS FIND OUT #325)”,2022 © GOTTINGHAMIMAGE COURTESY OF 21_21 DESIGN SIGHT AND STUDIO XXINGHAM視認性が高く、めくってもバランスが崩れることがない美しいグラフィックのカレンダーは、誕生から半世紀以上が経っても世界中に多大な影響を与えている。エンツォ・マーリ「フォルモサ」(1963、ダネーゼ・ミラノ)PHOTO:“UNTITLED(THE FORMS THAT DESIGNERS FIND OUT #489)”, 2022 © GOTTINGHAMIMAGE COURTESY OF 21_21 DESIGN SIGHT AND STUDIO XXINGHAM仏語で“海藻”を意味するこちらは、先端の穴をピンで連結させることで、光や風を通すグリーンカーテンのようなパーティションを自由に作ることが可能に。ロナン&エルワン・ブルレック「アルギュ」(2004、ヴィトラ)PHOTO:“UNTITLED(THE FORMS THAT DESIGNERS FIND OUT #664)”, 2022 © GOTTINGHAMIMAGE COURTESY OF 21_21 DESIGN SIGHT AND STUDIO XXINGHAMつちだ・たかひろデザインジャーナリスト、ライター。1970年、北海道生まれ。コンテンポラリーデザインを主なテーマに家具、インテリア、日用品について執筆。著書に『デザインの現在 コンテンポラリーデザイン・インタビューズ』(PRINT & BUILD)がある。「The Original」21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2東京都港区赤坂9‐7‐6東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン3月3日(金)~6月25日(日)10時~19時(入場は~18時半)火曜休(3/21は開館)一般1400円ほかTEL:03・3475・2121※『anan』2023年3月8日号より。写真・小笠原真紀取材、文・山田貴美子(by anan編集部)
2023年03月05日アーティゾン美術館で、国内外で活躍するアーティスト集団、ダムタイプの展覧会が開かれています。先日開かれたプレス内覧会では、4名のアーティストも参加。作家のコメントや会場の様子、さらに同時開催中の展覧会もあわせてご紹介します!かっこよすぎる展覧会!『第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展ダムタイプ|2022: remap』展示風景【女子的アートナビ】vol. 281現在開催中のダムタイプの展覧会、とにかく会場の雰囲気がクールです。展示されているのは、視覚言語とサウンドを組み合わせてつくられたインスタレーション作品。暗い展示室の壁や天井方向、床にも映像が表れ、心地よいノイズのようなサウンドも響きわたり、とても不思議でかっこいい空間になっています。本展の正式タイトルは、『第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展ダムタイプ|2022: remap』。ヴェネチア・ビエンナーレとは、2年に1度開催されている現代アートの国際美術展です。1895年から続く歴史ある美術展で、作品の展示会場となっている「日本館」は、石橋財団創設者の石橋正二郎氏が建設寄贈。そんな縁などもあり、アーティゾン美術館で帰国展が開催されています。ダムタイプって、どんなグループ?左から、濱哲史さん、古舘健さん、高谷史郎さん、南琢也さんそもそも、ダムタイプとはどんなアーティストグループなのでしょう?活動を開始したのは、1984年。ビジュアル・アートや映像、コンピューター・プログラム、音楽などさまざまなジャンルのアーティストによって構成されているグループです。国内外で活躍され、これまでメルボルン国際芸術フェスティバルやリヨン現代美術館、シカゴ現代美術館、アムステルダム市立劇場など、各地で上演や作品展示をされています。また、ダムタイプはプロジェクトごとにメンバーが変わり、今回の作品制作にはミュージシャンの坂本龍一さんも参加。プレス内覧会には、本プロジェクトメンバーの高谷史郎さん、古舘健さん、濱哲史さん、南琢也さんが登壇されました。作品にこめられたメッセージは…『第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展ダムタイプ|2022: remap』展示風景展示作品について解説を求められた高谷史郎さんは、「最初に答えを言うことはできないし、作品の説明をするのは野暮なのですが…」と言いながらも、少し鑑賞のヒントを教えてくれました。高谷さん何をつくろうかと話し合いをしているなかで、時間と空間がメインテーマになりました。会場に入るとわかりますが、ジオグラフィカルな質問や地図などの情報が散りばめられている展示になっています。コロナや戦争で分断があったので、お互いつながり合って共存するような社会を創造しないといけない、と考え直す機会になればいいと思いました。我々は作品にメッセージを込めていますが、それが届くかどうかは本当にその人のタイミングによると思います。もしおもしろくないと思っても、また見に来てもらえれば、次に来たときに何か受け取れるかもしれない。時間を使ってゆっくりと滞在してもらい、体験してもらえるとありがたいです。同じチケットで見られる!2つの企画展『アートを楽しむ ―見る、感じる、学ぶ』展の入り口アーティゾン美術館では、ダムタイプの展覧会だけでなく、同時開催中の2つの企画展も同じチケットで見ることができます。5階の展示室では、アートにより深く親しめる企画展『アートを楽しむ ―見る、感じる、学ぶ』を開催。「肖像画のひとコマ ― 絵や彫刻の人になってみよう」、「風景画への旅 ― 描かれた景色に浸ってみよう」、「印象派の日常空間 ― 近代都市パリに行ってみよう」の3つのセクションにわけられ、ピカソやモネなどの名画が紹介されています。『アートを楽しむ ―見る、感じる、学ぶ』展示風景作品だけでなく、画家の再現アトリエや、フランス製エラール社の貴重なピアノなども置かれた楽しい展示構成になっています。さらに4階では、『石橋財団コレクション選特集コーナー展示|画家の手紙』を開催。石橋財団コレクションの中から、画家の手紙にまつわる作品などが展示されています。ダムタイプを含む3つの展覧会は、5月14日まで開催。見どころ満載ですので、ぜひゆっくり時間をとって訪れてみてください。Information会期:~5月14日(日)休館日:月曜日会場:アーティゾン美術館開場時間:10:00ー18:00(5月5日を除く金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで観覧料:日時指定予約制ウェブ予約チケット ¥1,200、当日チケット(窓口販売)¥1,500、大学・専門学校・高校生は無料(要予約)、中学生以下無料(予約不要)*当日チケット:ウェブ予約チケットが完売していない場合のみ販売*この料金で同時開催の展覧会をすべてご覧いただけます
2023年03月04日日本橋の三井記念美術館で、『三井家のおひなさま』が開かれています。三井家の夫人や娘たちが大切にしてきたひな人形やひな道具を集めた本展について、レポートします!眼福の「おひなさま」が集結!『三井家のおひなさま』展示風景【女子的アートナビ】vol. 280本展では、三井家の4人の女性たちが所有していた豪華な「おひなさま」を一堂に展示。三井家の注文によってつくられた人形類をはじめ、嫁入り道具として実家から持参した由緒ある品々なども楽しむことができる眼福の展覧会です。「ひなまつり」が女性のおまつりとして盛んに行われるようになったのは、江戸時代初期。京都御所や幕府の大奥で開かれるようになり、次第に民間にも広がっていきました。18世紀になると、ひなまつりには人形だけでなく道具や調度品なども飾られるようになり、人形などを売る雛市も登場。どんどん豪華なものになっていきました。江戸時代から豪商として発展し、日本最大の財閥だった三井家の女性たちに愛された「おひなさま」は格別に豪華。本展では、江戸時代初期から昭和初期までの多彩な「おひなさま」を堪能できます。超高級な銀製ひな道具!『三井家のおひなさま』展示風景では、いくつか見どころをご紹介します。まずは、段飾りで展示されている《銀製ひな道具》。旧富山藩主前田家から三井家に嫁がれた三井苞子(もとこ)氏の旧蔵品です。ひな道具とは、おひなさまが生活するのに必要な化粧道具や茶道具、文房具などの道具一式のことで、婚礼調度のミニチュア版です。かわいいのはもちろん、近くで見ると線刻で細かな文様が入っていて、ひとつひとつがとても優美に仕上げられています。このような銀製のひな道具は大変高額で、ほかに所有しているのは徳川宗家や公家の近衛家、大名の鍋島家など錚々たる名家ばかり。そんな貴重な品を間近で見られるなんて、ありがたいことです。初期のおひなさまは…『三井家のおひなさま』展示風景続いての見どころは、《立雛》です。本作品について、三井記念美術館の学芸員、小林祐子さんは次のように解説しています。小林さん最初期のおひなさまは、立った姿で着物は紙や布でつくられた素朴な姿でした。雄雛のほうは、神社のおはらいのときに使われる形代(かたしろ)に似ています。本作品は江戸時代後期のもので、衣装に描かれているモチーフにも意味があります。松は男性、藤は女性、その下に描かれているナデシコは子どもを象徴し、子孫繫栄の願いが込められています。家一軒買える「超高額」おひなさま!『三井家のおひなさま』展示風景本展でもっとも目を引くのは、幅3メートルもある豪華なひな段飾りです。こちらは、北三井家(十一代)の長女、浅野久子氏の寄贈品。昭和8年、北三井家の一人娘として生まれた久子氏の初節句用のために、京都の老舗である丸平大木人形店・五世大木平藏(1885–1941)に注文してつくられたものです。当時の金額で家が一軒買えるほどのお値段だったそうで、さすが名門の三井家。ひな道具には、三井家の家紋が蒔絵で表され、細部にわたるまで豪華なつくりになっています。ほかにも、さまざまな人形や道具類がありますが、どれも当代一流の名職人がつくったものばかり。ひとつひとつ手が込んだ精巧なもので、見ていて飽きません。眼福のおひなさまを愛でられる展覧会は4月2日まで開催中。ぜひ本物をご覧になってみてください!Information会期:~4月2日(日)休館日:月曜日、2/26(日)会場:三井記念美術館開場時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)観覧料:一般¥1,000、大学・高校生¥500、中学生以下無料
2023年02月26日上野の東京都美術館で、『レオポルド美術館エゴン・シーレ展ウィーンが生んだ若き天才』が開かれています。19世紀末のウィーンを代表する画家、エゴン・シーレ(1890-1918)。28歳で亡くなった画家の貴重な作品が、ウィーンの美術館から多数来日しています。本展の見どころや画家の生涯について、ご紹介します!ウィーンから名画が来日!エゴン・シーレ《ほおずきの実のある自画像》1912年レオポルド美術館蔵【女子的アートナビ】vol. 279本展では、ウィーンのレオポルト美術館が所蔵する作品を中心に、シーレの油彩画やドローイングなどを多数展示。さらに、クリムトやココシュカなど同時代の画家たちの作品もあわせ、約120点の作品が紹介されています。ウィーンの中心地にあるレオポルト美術館は、ウィーン世紀末コレクションを中心に、オーストリアの美術作品約6000点を所蔵。なかでも、シーレ作品は約220点も収集し、「エゴン・シーレの殿堂」として知られています。そんな美術館から来日したシーレ作品を、本展では間近でたっぷり楽しむことができます。才能に恵まれすぎた天才画家!『エゴン・シーレ展』会場風景シーレが生まれたのは、オーストリアの古い町トゥルン。6歳ごろから絵の才能を発揮し、16歳のとき、学年最年少で名門のウィーン美術アカデミーに合格します。しかし才能に恵まれすぎたシーレは、伝統的なカリキュラムや厳格な教師の指導に満足できず、最終的にはアカデミーを退学。当時、ウィーン画壇の中心的な存在だったクリムトに才能を認められていたため、仲間と「新芸術集団」をつくり、独自の表現を追求していきます。会場では、シーレがアカデミー時代に描いた作品や、新しい表現を模索していく過程の作品も見ることができます。自画像の意味は…『エゴン・シーレ展』会場風景本展では、シーレの自画像が大きな見どころのひとつになっています。メインビジュアルとして使われている《ほおずきの実のある自画像》も、シーレの代表作となっている作品です。短い生涯で、約200点もの自画像を制作したシーレは、作品を描くことで自分のアイデンティティを探究し、自身の苦悩や葛藤も表現。特に裸体自画像では自分のカラダを徹底的にさらけ出し、挑発的で攻撃的にも思える視線をこちらに向けています。エゴン・シーレ《吹き荒れる風の中の秋の木(冬の木)》1912年レオポルド美術館蔵また、シーレは風景画も多く描いていますが、こちらも単なる写生ではありません。本展を担当された東京都美術館学芸員の小林明子さんによると、風景画にもシーレの内面や感情、そのときの心象が映し出され、象徴的な風景になっているそうです。わいせつ画と批判され…エゴン・シーレ《悲しみの女》1912年レオポルド美術館蔵若く才能あふれる画家は、性をテーマにした表現にも挑み、また制作スタイルも過激でした。先鋭的すぎて、批判されることもしばしば。戸外でヌードモデルを描き大問題となって街を追い出されたり、わいせつ画を制作して公にしたことで刑務所に留置されたりしたこともあります。また私生活では、当時16歳だった女性ワリーと同棲。4年も一緒に暮らし、彼女の姿を描いていました。ワリーは、刑務所にいたシーレのことも献身的に支えていました。本展で見られる《悲しみの女》もワリーがモデルです。献身的な彼女を捨て…エゴン・シーレ《縞模様のドレスを着て座るエーディト・シーレ》1915年レオポルド美術館蔵刑務所から出た後、暮らしも困窮していたシーレですが、その後パトロンとなる支援者たちが表れて生活も一変。アトリエも構えて、創作活動も活発になります。ところが、社会的に認められはじめたシーレは、自分の妻としてワリーはふさわしくないと判断。アトリエの向かいに住むブルジョア階級の娘と結婚してしまいます。ただ、ワリーに対しても未練があったため「毎年休暇は一緒に過ごそう」と提案しますが、彼女から拒絶されました。その後、ワリーは従軍看護婦に志願し、1917年に病没します。会場では、妻のエーディトを描いた作品も見ることができます。28歳で生涯を閉じるエゴン・シーレ《横たわる女》1917年レオポルド美術館蔵25歳で結婚したシーレは、第一次世界大戦に召集されますが、戦時下でも作品が発表され、国際的な評価も高まっていきます。ウィーンに帰還した後も、素描集が出版されたり、展覧会で作品が多数売れたりと絶好調。また、私生活でも妻が妊娠し、幸せの頂点に立っていました。ところが、1918年、流行していたスペイン風邪により妊娠6か月の妻が死去。その3日後に同じ病でシーレも亡くなりました。28年の生涯でした。刺激的で心に刺さるアート不安や恐れ、絶望などを描く表現主義的な手法で、多くの刺激的な絵画を残したシーレ。今の時代に見ても結構きわどい絵もありますが、画家の内面にあるものを赤裸々に出したアートは心に深く突き刺さります。シーレの作品が日本に集まるのは約30年ぶり。しかも巡回展はありません。ぜひこの貴重な機会に、シーレ作品を間近でご覧になってみてください。Information会期:~4月9日(日)※日時指定予約が必要です休室日:月曜日会場:東京都美術館開室時間:9:30~17:30※金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)観覧料:一般¥2,200、大学・専門学校生¥1,300、65歳以上 ¥1,500
2023年02月23日“上巳(じょうし)の節句”や“桃の節句”とも呼ばれる3月3日の「雛祭り」。雛人形や調度品を飾り、菱餅・白酒・桃の花などを供えることで、女の子の成長と幸福を願う行事として親しまれてきた。そんな雛祭りに合わせて開催される2つの展覧会が注目だ。精緻を極めた技術力の高さは圧巻!種類豊富な雛人形をぜひ見比べて。三井記念美術館では、3年ぶりに「三井家のおひなさま」展が復活。歴代の夫人や娘たちが集めてきた雛人形や道具を楽しむことができる。なかでも注目は、北三井家十一代・高公の長女・久子のために京都の老舗・丸平大木人形店の五世大木平藏に注文して特別に誂えた、幅3mの豪華な雛壇飾り。贅を尽くして作られたおひなさまは一見の価値ありだ。一方、昨年10月に丸の内へ移転した静嘉堂文庫美術館では、「お雛さま ―岩﨑小彌太邸へようこそ」が開催間近。多くは小彌太が孝子夫人のため、丸平大木人形店に特注したもので、白くつややかな丸い顔と幼児姿が特徴だ。また今回、雛人形一式を、初公開となる巨大な「墨梅図屏風」の前に飾り、披露された当時と近い状況を再現。まるで小彌太邸に招かれたような臨場感が楽しめる。脈々と受け継がれてきた雛祭り。今年はぜひ美術館で楽しんでみて。三井家のおひなさま特集展示 近年の寄贈品 ―絵画・工芸・人形など―三井家の夫人と娘たちが大切に集めてきた逸品たち。「内裏雛」三世大木平藏製明治28年(1895)三井記念美術館蔵宮中清涼殿の殿上の間にのぼることを許された雲上人になぞらえた、男女一対の内裏雛。三井記念美術館東京都中央区日本橋室町2‐1‐1三井本館7F2月11日(土)~4月2日(日)10時~17時(入館は閉館の30分前まで)月曜、2/26休一般1000円ほかTEL:050・5541・8600静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展IIIお雛さま ―岩﨑小彌太邸へようこそ愛くるしさ抜群の童子形。伝わるのは当時の高い技術力。五世大木平藏《岩﨑家雛人形》のうち「内裏雛」昭和時代初期(20世紀)静嘉堂文庫美術館蔵こちらの内裏雛は1929年に竣工した小彌太の麻布鳥居坂本邸の大広間で披露された。静嘉堂@丸の内東京都千代田区丸の内2‐1‐1明治生命館1F2月18日(土)~3月26日(日)10時~17時(金曜は~18時。入館は閉館の30分前まで)月曜休一般1500円ほか※来館日時指定予約推奨TEL:050・5541・8600※『anan』2023年2月15日号より。(by anan編集部)
2023年02月14日不思議で怖くて愛おしい。「ヒグチユウコ展 CIRCUS FINAL END」をご紹介。東京での初開催から4年をかけて全国を巡ってきた展覧会「CIRCUS」がついに最終章を迎える。「巡回の開始時はいつまで続くか分からない状態からの船出だったので、団員(展覧会関係者の総称)皆で力を合わせました。思い起こせば、『たった4年だったの!?』というくらい、濃密でありがたい時間でした」と話すヒグチユウコさん。絵本原画や描き下ろしなど、当初500点ほどだった展示作品も回を重ねるごとに増え、今回は約1000点を展示。会場にはサーカステントを設営、哀愁漂う音楽が流れるなど演出にも趣向が凝らされている。「展示会場に入る際に、没入感を出したいと思っていました。映画館で映画が始まるときに感じる、『これから映画を観るんだ』というあの感じです。サーカスは楽しいけれど、どこか物悲しさを感じさせるもの。その雰囲気を伝えたくて、音楽デュオの黒色すみれさんに、『道』という映画の中の『ジェルソミーナ』という曲を演奏してもらいました」また、ぬいぐるみ作家の今井昌代さんとの共作も見どころだ。「全く違うジャンルではありますが、彼女の作品をひと目見てすごく好きになりました。こんなにも吸引力のある作品を作れるなんて、と。一緒に展示を表現できたことが、今回一番達成できたことかもしれません」ヒグチさんの描く生物は、植物と動物が溶け合ったようだったり、少し不思議。彼らはどうやって生まれてくるのだろうか?「幼少期から図鑑や博物画、辞書についている小さいエッチング画などが好きでした。そこには、心惹かれる謎の生物たちがたくさんいて、そういった未知のものへの恐怖や憧れが今も私を魅了してやみません。想像だけで作品を生み出すのは、おそらく無理があるでしょう。意識せずとも、過去に生み出されたたくさんの名画や、滅亡してしまった生物たちの残り香を嗅いで、その跡をたどりつつ、創造しているはずです」極細密な描写を和紙にペン、絵の具で描くのも変わらないスタイルだ。「描くという行為は自分にとって最高の時間。これ以上の喜びはないです。真っ白い紙を前にして、『さあ、描こう!』というときの浮き立つ感覚は何物にも代えがたいです。絵の具を実際に筆に付けて、絵を描いていく。そのときの匂いや感触はやはり物質を触っているからこそ得られるもので、その経験は奥深いもの」手の届かない憧れ、遠い異国、出合ったことのない動植物も、描くことで手にすることができるとヒグチさん。そのペン先から生まれるものは私たちの無意識にある「憧れ」を満たしてくれているのかもしれない。ぬいぐるみ作家の今井昌代さんとヒグチユウコさんが同じテーマでそれぞれ制作した作品。撮影:井上佐由紀息子さんの大切なぬいぐるみがモデルの「ニャンコ」が登場する絵本の一場面。「ふたりのねこ」23ページ原画 2014年 ©Yuko Higuchi心臓と心臓がつながった「二人で一人」の双子を植物と同化させて描いた代表作。双子 2018年 ©Yuko Higuchi少女、かたつむり、ハサミなどをモチーフに。かわいくも不穏なヒグチ流ホラー。鋏 2018年 ©Yuko Higuchi全9会場のメインビジュアルを展示。本会場のために描き下ろした大型作品も。《終幕》2022年 ©Yuko HiguchiWho’s Yuko Higuchi?画家、絵本作家。著書に絵本『せかいいちのねこ』(白泉社)、画集『BABEL Higuchi Yuko Artworks』(グラフィック社)等。GUCCI、ホルベインなど企業とのクリエイションも。ショップ&ギャラリー『ボリス雑貨店』主宰。「ヒグチユウコ展 CIRCUS FINAL END」森アーツセンターギャラリー東京都港区六本木6‐10‐1六本木ヒルズ森タワー52F開催中~4月10日(月)10時~18時(金・土曜は~20時。入館は閉館の30分前まで)会期中無休一般2000円ほか※事前予約制※『anan』2023年2月15日号より。取材、文・松本あかね(by anan編集部)
2023年02月13日東京ステーションギャラリーで、『佐伯祐三 自画像としての風景』が開かれています。パリや東京の街並みなどを描いた作品をはじめ、人物画や静物画なども高く評価されている画家、佐伯祐三(1898-1928)。東京では18年ぶりとなる本格的な回顧展の見どころについて、学芸員さんのお話も交えてレポートします!天才画家の代表作が集結!『佐伯祐三 自画像としての風景』展示風景【女子的アートナビ】vol. 278『佐伯祐三 自画像としての風景』では、約100年前に30歳の若さで亡くなった天才画家、佐伯祐三の代表作が一堂に集結。世界最大の佐伯コレクションを誇る大阪中之島美術館の所蔵作を中心に、日本各地の美術館やコレクターが所蔵する多彩な作品約100点が集まっています。東京ステーションギャラリー館長の冨田章さんは、プレス内覧会で「洋画界のスーパースターといってもいい佐伯祐三の展覧会は、ぜひ開催したいと思っていた」とコメント。「当館の建物は、佐伯と同時代に建てられた。石造りの壁を好んで描いたパリ時代の絵は、赤レンガ壁の展示室に合うと思う」と語りました。なお、本展は2022年にオープンしたばかりの大阪中之島美術館が企画した展覧会の巡回展です。同美術館学芸員の高柳有紀子さんによると、美術館開館のきっかけは佐伯祐三の作品にあるとのことで、次のように語りました。高柳さん大阪の実業家で美術コレクターの山本發次郎さんが、佐伯の才能に一目ぼれして最大150点ほどのコレクションを築きました。そのうち2/3ほどは空襲で燃えてしまったのですが、残った作品を大阪市にすべて寄贈。それがきっかけとなり、美術館をつくる構想ができました。佐伯祐三の展覧会を開くことは、私たちの大切なミッションでした。30歳で亡くなった伝説の画家…『佐伯祐三 自画像としての風景』展示風景佐伯祐三とは、どんな画家なのでしょう?まずは、彼の人生をご紹介します。佐伯は大阪の由緒あるお寺、光徳寺の次男として誕生。従兄の影響で絵を描きはじめ、東京美術学校(現・東京藝術大学)を卒業後、すでに結婚していた妻と生まれて間もない娘を連れてパリに渡ります。実家の支援で不自由なくパリで活動していた佐伯ですが、体があまり健康でなかったため、心配した親族から帰国を促されて留学を中断。日本に戻り、東京・新宿のアトリエで制作活動を続けます。その後、1927年に妻子を連れて再び渡仏。しかし、結核が悪化した佐伯は神経衰弱も進み、パリ郊外の精神病院に入院、1928年に30歳の若さで亡くなりました。その約2週間後、さらに一人娘も病没。娘さんは6歳でした。フランスの画家に罵声を浴びせられて…『佐伯祐三 自画像としての風景』展示風景佐伯は、悲劇的な生涯を送った画家のため、展覧会では画家のドラマチックな人生を作品とともに紹介するパターンが多いのですが、本展では作品そのものに注目して展示構成されています。まず、展覧会の前半では、日本で描かれた作品を中心に展示。アトリエのあった新宿・下落合の風景画や大阪で描いた船の絵、また自画像や家族の肖像画などを見ることができます。高柳さんの話によると、佐伯は画学生時代を中心にたくさんの自画像を制作。その後は、自画像のかわりに風景を描き、その中に自分を没入させていたそうです。『佐伯祐三 自画像としての風景』展示風景展示の後半では、パリ時代の作品をまとめて展示。渡仏した1924年、佐伯は当時フランスで活躍していた画家、ヴラマンクに自分の自信作を見せに行きますが、「このアカデミック!」と罵声を浴びます。これが転機となり、彼の作品は大きく変化。やがて、自分の画風を確立していきます。しびれるアートがいっぱい!『佐伯祐三 自画像としての風景』展示風景パリ時代の約4年間、佐伯は重厚なパリの街並みや、ポスターが貼られた建物の壁、カフェ、プラタナスの並木道などを描き、多くの傑作を生みだしていきます。冨田館長の話によると、佐伯はとても早く描く画家で、現場で見たままの景色をすごい勢いで画面に写し取っていたそうです。あまりに描くのが早いため、線が躍動し、特にパリ時代後半の作品は、生き生きした生命力のある線になっている、とのこと。実際、佐伯の作品は、実物を見ると本当に迫力がありますし、特にパリの街並みを描いた作品群は現地の空気も伝わってくるようで、しびれるほどかっこいいです。また、展示室の赤レンガ壁と作品の相性も抜群。最高に贅沢な空間で絵画鑑賞を楽しめます。本展は4月2日まで。大阪中之島美術館では4月15日から開催予定です。Information会期:~4月2日(日)、月曜休館(3/27は開館)会場:東京ステーションギャラリー開館時間:10:00〜18:00(入館は30分前まで)※金曜日は20時まで開館観覧料:一般¥1,400、大学・高校生¥1,200、中学生以下無料
2023年02月12日展覧会「ちひろ 光の彩(いろどり)」が、ちひろ美術館・東京にて2023年3月18日(土)から6月18日(日)まで開催される。水彩で表現する彩り豊かな光と子ども水彩の柔らかな筆致で子どものいる情景や物語を数多く描いた絵本画家・いわさきちひろ。ちひろは、水彩技法を探求する中で、あえて詳細な描きこみや説明的な描写を省略し、子どもや物語を照らし出す光を用いて心情や情景を表現するようになった。覧会「ちひろ 光の彩」では、まぶしい陽の光、こもれび、ろうそくの灯や月明りなど、光の表現に着目した作品を展示すると共に、水彩技法の変遷も併せて紹介する。『青い鳥』や『にじのみずうみ』など“物語の中の光”ちひろが描いた絵本の中でも、光が印象的に描かれた2冊の絵本に着目。チルチルとミチルの兄妹が、光の精に導かれて青い鳥を探す『青い鳥』や、稲光や湖にきらめく朝の光、輝く虹など、自然を彩る光が印象的に描かれた昔話『にじのみずうみ』をピックアップする。1960年頃から晩年にかけて描いた“月の光”から見る表現の変遷また、1960年代から晩年にかけて、ちひろは月の光を多く描いた。そんな月の光の表現の変遷を辿るほか、にじみや余白として表現した光から、子どもたちの未来や希望を重ね合わせているように感じられる作品を展示する。詳細展覧会「ちひろ 光の彩(いろどり)」会期:2023年3月18日(土)~6月18日(日)時間:10:00~17:00(入場は閉館の30分前まで)※3月は16:00閉館。会場:ちひろ美術館・東京 展示室3・4住所:東京都練馬区下石神井4-7-2休館日:月曜日(祝休日開館、翌平日休館)※ゴールデンウィーク(4月29日(土)~5月7日(日)は無休。出展作品数:約40点料金:大人 1,000円 / 高校生以下無料※団体(有料入館者10名以上)、65歳以上、学生は800円。※障害者手帳提示者、付き添い者1名まで無料。※年間パスポート3,000円。※会期は予告なく変更になる場合あり。■松本猛ギャラリートーク日時:5月14日(日) 14:00~14:30講師:松本猛(ちひろ美術館常任顧問)参加費:無料(入館料別)定員:15名申込:当日受付■ギャラリートーク日時:第1・第3土曜日 14:00~14:30参加費:無料(入館料別)定員:15名申込:当日受付【問い合わせ先】TEL:03-3995-0612
2023年02月08日19世紀後半、ウィーンではルネサンス以来の伝統から逸脱したさまざまな芸術の挑戦が巻き起こった。この「世紀末」と呼ばれるエポックに生きた画家、エゴン・シーレの展覧会「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」が始まった。油彩・ドローイングなど50点に加え、クリムトなど世紀末芸術を代表する画家たちの作品約70点も併せて展示される。夭逝の天才が描き切った真摯で赤裸々な人間の姿。シーレの絵は見る人を戸惑わせるかもしれない。ゴツゴツと骨が浮き出た人体。裸の背中から伝わってくる痛々しいまでの孤独は、たった今描かれたばかりのような臨場感にあふれている。「シーレの魅力の一つはデッサン力。見たものを瞬時に捉え、素早くはっきりした線で描く。空間の中で人物を捉え、平面に落とし込む能力は抜群でした」と学芸員の小林明子さん。その才能は早熟で、弱冠16歳、最年少で美術アカデミーに入学。しかし伝統的な教育内容に飽きたらず退学してしまう。その後、在学中に出会ったクリムトに影響を受けて、仲間たちと芸術集団を立ち上げ、20歳を迎える頃には自らのスタイルを確立する。「シーレは自分自身を掘り下げ、内面と向き合った画家です。西洋美術では伝統的に神話や宗教、歴史を主題として描かれてきましたが、シーレは自分が抱える孤独な気持ち、社会に受け入れられないもどかしさを人間そのものの姿を通して表現しようとしました」シーレの絵には既視感がなく、どこかで見たポーズ、光景が描かれることはない。例えば空中に投げ出されたようにうずくまる女性の姿態。露わな下半身を衣服が辛うじて覆う。顔は見えないが、そこに見えるのは絶望、それとも恐れ、羞恥だろうか。「独特のポーズによって、人体だけで画面を成り立たせるセンスが際立っています。それだけでなく、こうしたポーズや裸を描くのは、そこに人間の本質や真実を見出したから。性器までも描く赤裸々な表現にも挑みましたが、それを描くことで、存在の本質を表現したかったからだと思います」人物画同様、数多く描かれた風景画にも画家の感情や思考が投影されている。ゴッホやムンクらにも通じる「表現主義」と呼ばれる所以だ。シーレは第一次世界大戦に招集され、終戦の年にスペイン風邪によって命を落とした。享年28歳。自らを「永遠の子ども」と称し、本当にそのまま逝ってしまった。稀有な才能が遺した分身ともいえる作品を、ぜひ体感してみてほしい。Who’s Egon Schiele?1890年、オーストリアに生まれ、16歳でウィーン美術アカデミーに入学。1909年、仲間と共に「新芸術集団」を結成。独自の表現主義的な画風を確立した。1918年、スペイン風邪に罹り、28歳の若さで亡くなった。アントン・ヨーゼフ・トルチカ《エゴン・シーレの肖像写真》1914年写真レオポルド家コレクションLeopold Museum, Vienna筋骨隆々とした伝統的な男性裸体像とは異なる骨ばった体、大きな関節が目を引く。とてもリアルだ。エゴン・シーレ《背を向けて立つ裸体の男》1910年グワッシュ、木炭/紙レオポルド家コレクションLeopold Museum, Vienna20代のはじめ、シーレは家出少女を匿い、それをきっかけに逮捕されるという事件に見舞われる。その勾留後に描かれた自画像。「傷ついた姿で視線は挑発的な感じも。若者らしい繊細な雰囲気で、複雑な心境が表れている眼差しが印象的です」(小林さん)エゴン・シーレ《ほおずきの実のある自画像》1912年油彩、グワッシュ/板レオポルド美術館蔵Leopold Museum, Viennaシーレは体を極端にひねったり、うずくまったりしたポーズをモデルにとらせた。立ったり、横たわる姿勢の多い伝統的な裸婦像からは大きく逸脱している。エゴン・シーレ《頭を下げてひざまずく女性》1915年鉛筆、グワッシュ/紙レオポルド美術館蔵Leopold Museum, Viennaモデルはシーレの恋人だったワリー・ノイツェル。黒いスカーフの向こうには、神経質そうな男の顔が描かれている。男は他ならぬシーレ自身であり、彼女の悲しみの原因が暗示されている。エゴン・シーレ《悲しみの女》1912年油彩/板レオポルド美術館蔵Leopold Museum, Vienna「シーレは風景画もよく描きました。風景そのものという描写以上に、そのときの心境、寂しさや孤独が投影されています」。恋人ワリーと住んだ、クルマウの町。伝統的な建築の家々に暗い影が降りているようだ。エゴン・シーレ《モルダウ河畔のクルマウ(小さな街IV)》1914年油彩、黒チョーク/カンヴァスレオポルド美術館蔵Leopold Museum, Viennaレオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才東京都美術館東京都台東区上野公園8‐36開催中~4月9日(日)9時30分~17時30分(金曜は~20時。入室は閉室の30分前まで)月曜休一般2200円ほか※日時指定予約制TEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)※『anan』2023年2月8日号より。取材、文・松本あかね(by anan編集部)
2023年02月06日フィンランドの伝統的織物リュイユの色彩表現に迫る展覧会「リュイユ―フィンランドのテキスタイル:トゥオマス・ソパネン・コレクション」をご紹介します。リュイユとはフィンランドの毛脚の長い織物のこと。その歴史は古く、1000年以上前にはバイキングたちが船で使用していたという歴史もあるほど。湾岸地域で使われていたリュイユは、内陸の裕福な農民たちへと伝わり、その後、教会や一般家庭でも使われるようになった。世界の織物の中でもとりわけリュイユは、敷物やラグ、ソファのカバー、タペストリーなどデザインや用途を時代に合わせて変化させながら、長年にわたって受け継がれてきたことが特徴。けれど伝統工芸としてのリュイユは、18世紀末~19世紀中頃に最盛期を迎えたのち、産業革命以後その勢いは失われていった。そんなリュイユの転機となったのが1900年のパリ万博。フィンランドがまだロシア帝国の支配下にあった当時、画家アクセリ・ガッレン=カッレラがデザインを手がけたリュイユ《炎》がフィンランド館を彩り、ロシアからの独立を視野に入れた民族の芸術運動の一翼を担うことに。その動きは世界から注目された。以後リュイユは現代の生活にもマッチした新しいデザインを生み出し、’50年代にはミラノ・トリエンナーレで数多くの賞を受賞するなど、ガラスや陶芸と同様にフィンランドを代表するデザインのひとつとして評価を高めていった。現在では、デザイナーと織り手の協業に加え、作家自らが手がけた作品も多く、造形や素材もますます多様化が進んでいる。本展には、リュイユの個人所蔵家として著名なトゥオマス・ソパネン・コレクションが日本に初上陸。主に1950年代以降に手がけられた重要な作品約40点を展示する。なかにはエヴァ・ブルンメルや、ウフラ=ベアタ・シンベリ=アールストロム、リトヴァ・プオティラなど、リュイユが国際的な評価を得た時期に活躍したデザイナーの代表作も。作品はすべて手織りのもの。特に色彩の美にこだわって集約されているため、一本一本の色糸が点描のように組み合わさった美しいテキスタイルは、まるで北欧の風景を描いた絵画のよう。細部を見て初めてわかる精密な仕事にも圧倒されるはずだ。アイノ・カヤニエミ《おとぎの国》 2015年 トゥオマス・ソパネン・コレクション緻密な線の作品で知られる作家カヤニエミの鳥の羽をモチーフにした作品。エヴァ・ブルンメル《聖霊降臨祭のたきび》 1956年 トゥオマス・ソパネン・コレクション砂時計をアレンジしたデザイン。砂時計は限られた時間を真面目に生きるという意味で婚礼時などによく用いられた。ウフラ=ベアタ・シンベリ=アールストロム《採れたての作物》 1972年 トゥオマス・ソパネン・コレクション糸を使い分けて微妙な色の変化を表現したリュイユの魅力を凝縮したような作品。アクセリ・ガッレン=カッレラ《炎》 1899年(デザイン)/1983年(再制作) トゥオマス・ソパネン・コレクション曲線的で左右非対称のモチーフを配した革新的なデザインは、ベンチ用のラグとして作られた。メリッサ・サンマルヴァーラ《紅葉》 2020年 トゥオマス・ソパネン・コレクション質感の異なる素材を組み合わせた、不定形なフォルムが印象的な現代の作品。イルマ・クッカスヤルヴィ《ファサード》 1986年 トゥオマス・ソパネン・コレクション新しいテキスタイル・アートに取り組む作家クッカスヤルヴィの立体感のある作品。リュイユ―フィンランドのテキスタイル:トゥオマス・ソパネン・コレクション京都国立近代美術館京都府京都市左京区岡崎円勝寺町26‐11月28日(土)~4月16日(日)10時~18時(2/3、2/10、4/14を除く金曜は~20時、入館は閉館の30分前まで)月曜休一般430円ほかTEL:075・761・4111※『anan』2023年2月1日号より。文・山田貴美子Photo:Katja Hagelstam(by anan編集部)
2023年01月30日