イギリスの名門歌劇場「英国オペラハウス」で公演されたバレエ・オペラの人気作品を、全国の映画館で上映する「英国ロイヤル・オペラハウス 2016/17シネマシーズン」が2016年11月25日(金)からスタートしています。◆「英国ロイヤル・オペラ・ハウスシネマシーズン2016/17」予告編ロンドンのコヴェント・ガーデンで上演されたオペラとバレエそれぞれ6作品、計12作品が映画館の大スクリーンで順次上映されます。すべての上映作品には、ナビゲーターたちによる舞台裏でのインタビューや特別映像が追加されており、スペシャルな映像となっています。各作品の上映期間は1週間と短いので、気になる作品はぜひお見逃しなく!世界最高レベルの芸術!上映予定の全12作品をご紹介それでは気になる12作品をご紹介しましょう。11月25日の一作品目公開から順次開幕していくので、公開日もあわせてチェックしてくださいね。●「ノルマ」2016年11月25日(金)公開まずシリーズ第一弾となるのは、ロイヤル・オペラ「ノルマ」。ロイヤル・オペラ音楽監督であるアントニオ・パッパーノ指揮でおくるオールスターキャストによるペッリーニの名作オペラの新演出版です。自らの宗教にそむいて敵である男を愛し、子をもうけた女性ノルマの物語。次第に男の心が離れ、別の女性への心変わりを知った彼女の破滅的な決断とは…。男女の心情を美しい音楽で表現します。●「コジ・ファン・トゥッテ」2016年12月9日(金)公開セミヨン・ビシュコフが指揮する、愛の本質を描くモーツァルトの代表的オペラです。2人の男たちが恋人の誠実さを試すために、互いの恋人を誘惑すする賭けにでるというストーリー。2組のカップルにおこる騒動を、コミカルに描いています。●「アナスタシア」2016年1月13日(金)公開©Tristram Kentonケネス・マクミラン振り付けによる全長版のバレエ「アナスタシア」。ロシア革命に運命を翻弄される皇女アナスタシアが主人公です。死んだはずのアナスタシアを名乗る女性が語る言葉は真実なのか、妄想なのか…映画館の大スクリーンで、役者の繊細な表情に注目して見たい作品です。●「ホフマン物語」2017年1月27日(金)公開フランスの作曲家ジャック・オッフェンバックによるドラマティックなオペラです。詩人ホフマンが自身を主役に書いた小説がもととなっています。豪華絢爛な衣装にも注目したい作品です。●「くるみ割り人形」2017年2月10日(金)公開英国ロイヤル・バレエの中でも人気の高い、チャイコフスキーのバレエです。少女クララがもらったくるみ割り人形が、彼女を不思議な世界へと連れ出します。おもちゃの兵隊の動きや、少女のピュアな表情から目が離せません。●「イル・トロヴァトーレ」2017年3月3日(金)公開罪なき母親を殺された男が復讐にもえる物語です。激しい愛と復讐の連鎖が悲劇にむかっていくオペラの名作。ドラマティックな展開に思わず息をのんでしまいそうです。●「ウルフ・ワークス」2017年公開マックス・リヒターの音楽が、バージニア・ウルフの小説「ダロウェイ夫人」「オルランド」「波」にインスパイアされた3つのバレエをつなぎあわせます。●「眠れる森の美女」2017年公開ロイヤル・バレエでの初演にあたる1946年の「眠れる森の美女」の上演から70年となる記念碑的作品です。邪悪な妖精の呪いいよって眠り続ける王女と、彼女を助けようとする王子の愛の物語です。●「蝶々夫人」2017年公開プッチーノの代表作のひとつである「蝶々夫人」。日本を舞台に描かれた、世界中で愛されつづけるオペラの名作です。アメリカ人士官の夫が任期を終えるのを、幼い息子をともに日本で待ち続ける蝶々。彼女が突きつけられる、あまりに残酷な現実とは…全身で語る悲劇の物語は必見です。●「ジュエルズ」2017年公開タイトルのとおり、宝石をモチーフにしたバレエです。エメラルド、ルビー、ダイヤモンドをそれぞれフォーレ、ストラヴィンスキー、チャイコフスキーの音楽によって構成しています。●「真夏の夜の夢」「シンフォニック・ヴァリエーションズ」「マルグリットとアルマン」2017年公開ロイヤル・バレエが誇る振付師フレデリック・アシュトンの遺産ともいえる3つのバレエです。世界を代表する振付師が魂をこめた踊りを、臨場感たっぷりの大スクリーンで楽しめます。●「オデロ」2017年公開ヴェルディの情熱的なオペラを、オペラ界のスーパースター、ヨナス・カウフマンが演じます。策略により愛する妻の誠実さを疑うようになったオデロ。嫉妬と疑惑がおこすシェイクスピアの悲劇「オセロ」をもとに作り上げています。普段なかなかオペラやバレエに接することがない人も、映画館なら気軽に楽しめそうですね。世界最高レベルの芸術を、ぜひご覧ください。■映画情報名称:英国ロイヤル・オペラハウス 2016/17シネマシーズン期間:2016年11月25日(金)より順次公開配給:東宝東和公式HP:
2016年12月03日ロッシーニで一番有名なオペラ『セビリアの理髪師』がまもなく新国立劇場で上演される。今回はオペラのフィナーレを飾るアルマヴィーヴァ伯爵の超絶技巧アリア「もう逆らうのをやめろ」が歌われると話題になっている。この曲に挑むテノール歌手のマキシム・ミロノフに話を聴いた。新国立劇場オペラ『セビリアの理髪師』チケット情報「このアリアは、例えて言えばレオナルド・ダ・ヴィンチの展覧会に『モナリザ』が入っているようなものなんです。それがなくてもダ・ヴィンチの偉大さに変わりないけれど、やはり『モナリザ』を観られれば感動が違いますよね?」「『セビリアの理髪師』というオペラは今からちょうど200年前に生まれました。でも、そこに書かれている音楽は永遠に不滅です。長年上演されているうちに、時代の影響で音楽が重たくなったり、難しいアリアをカットしたりして本来の姿がゆがめられていましたが、近年のロッシーニ研究でこのオペラの真価を聴くことが出来るようになってきました」「もっとも重要なのがオペラを締めくくるアルマヴィーヴァ伯爵のアリアです。物語は僕が演じるアルマヴィーヴァ伯爵が、様々な困難を乗り越えて愛する人と結ばれるまでを描いています。このオペラは彼の成長物語でもあるのです。初演した歌手が優秀だったのでロッシーニは彼のためにオペラのフィナーレに「もう逆らうのをやめろ」という超絶技巧のアリアを書きました。ところがあまり難しいのでこのアリアはカットされることが多かったんです。最近はロッシーニ歌手の技術が進んで僕を含めてこのアリアを歌う場合が増えてきました。『セビリアの理髪師』という作品の価値をより輝かせる名曲です。日本のお客さんにもぜひ聴いていただきたいです」演出は人気の高いヨーゼフ・E.ケップリンガーだ。「規模が大きく仕掛けがたくさんある、とても良いプロダクションです。カラフルでモダンなのにオペラのストーリーをきちっと伝えているところが素晴らしいと思います」ミロノフはロシア出身だが、今やロッシーニ歌手として世界中で活躍している。「日本に来る前にはウィーン国立歌劇場で『ラ・チェネレントラ(シンデレラ)』を歌っていました。日本の次はイタリア、次はスイス、次はフランスと、来年も僕が歌うオペラはほとんど全てロッシーニです。自分で自分のことを『ロッシーニ大使』と呼んでいます(笑)。」ロッシーニを世界に広めるロッシーニ大使が歌う名アリア、お聴き逃しなく!11月27日(日)から12月10日(土)まで東京・新国立劇場 オペラパレスにて。チケット発売中。取材・文:井内美香
2016年11月21日新国立劇場の2016/17シーズンのオペラ第2弾『ラ・ボエーム』(プッチーニ)が11月17日に初日を迎えた。2003年の新制作以来、これが5度目の上演となる粟國淳演出のプロダクションは、奇をてらわない、音楽に寄り添った正攻法のアプローチながら、第2幕の斬新でダイナミックな転換など、観客の視線を楽しませる要素も盛りだくさん。決定版の呼び声も高い定評の舞台だ。数あるオペラのなかでもトップクラスの人気を誇る作品の高水準の上演。やっぱりオペラはこれだ。新国立劇場オペラ『ラ・ボエーム』チケット情報悲劇のヒロイン、ミミを歌っているのはルーマニア出身の美しいソプラノ、アウレリア・フローリアン。これが初来日でミミも初役とのことだが、『椿姫』のヴィオレッタが当り役というだけあって、押し引き自在な高域のコントロールは見事だし、感情表現の振幅も大きい。ミミの薄幸を、どこか透明な存在感の声で演じてみせた。恋人ロドルフォも初顔のジャンルーカ・テッラノーヴァ。第1幕のアリア〈冷たい手〉では名刺代わりに高音もたっぷり聴かせてくれたが、そのスピントのカッコいい二枚目声もさることながら、ほとばしる感情のままに言葉を繰り出すような第3幕の説得力も圧巻だった。ふたりとも、ヨーロッパで大きく知られ始めてからまだ5年ほどという新鋭だ。高まる評価の理由が納得できるとともに、これからさらに大きな名前になることを予感させる充実の出来栄え。初お目見えをぜひ聴いておいたほうがいい。イタリアのオペラ指揮者パオロ・アリヴァベーニ率いるオーケストラも好演。ミミがこときれる最後、一瞬の総休止のあとの悲劇的な総奏で幕が下りると客席からすすり泣きも。『ラ・ボエーム』のいつもの光景だが、実際、結末がわかっているのに何度観てもじわっと来るのは、ストーリーはもちろんだけれど、きっと音楽の力だ。名作!劇場のエントランスにはツリーやリースも飾られていて、クリスマスの雰囲気も盛り上がる。ミュージカル『RENT』の下敷きにもなった永遠のラヴ・ストーリーはクリスマス・イヴから始まるお話。かねてから、ぜひ毎年12月に上演してくれればいいのにと切望していたのだけれど、やっとクリスマスに近い季節に観ることができた。オペラ通はもちろん、初めてオペラを観るという方にもぜひおすすめしたい作品。音楽史上屈指の極上の音楽とともに、ひと足早いロマンティックなクリスマスを!新国立劇場の『ラ・ボエーム』は11月30日(水)まで。取材・文:宮本 明
2016年11月18日東京二期会オペラ劇場で11月に上演される《ナクソス島のアリアドネ》(R.シュトラウス)が現行の形で初演されてから今年でちょうど100年。指揮シモーネ・ヤング、演出カロリーネ・グルーバー。二期会の歴史で初めてという、女性コンビによる上演だ。来日したふたりが記者会見に臨んだ(10月27日)。「ナクソス島のアリアドネ」チケット情報ヨーロッパの主要歌劇場で華々しいキャリアを築いているヤングの来日は、2003年にNHK交響楽団を指揮して以来13年ぶり。個性的なキャラクターが次々に登場し、室内規模の36人編成のオーケストラとともに緊密な音楽の流れを紡ぎ出すこの作品を、「オーケストラと歌手とが互いに作り合う、宝石のような音楽。そして芸術の、シリアスなばかりではない、明るい面を提供できる楽しい作品」と評す。また、「一生懸命な若い人たちと楽譜に深く入り込んでゆくのは楽しい作業だ」と、2日前から始まっている歌手たちとのリハーサルの感触を語った。一方のグルーバーも、ドイツのオペラ専門誌で2度にわたって年間最優秀演出家にノミネートされている注目の存在だ。今回の舞台は2008年にライプツィヒ歌劇場で初演したプロダクション。物語はオペラの楽屋裏ばなしで、オペラ上演を巡って主催者の気まぐれに振り回される音楽家たちの困惑をコミカルに描いたプロローグと、劇中劇として演じられるそのオペラ《ナクソス島のアリアドネ》本編から成る。グルーバーは「実に多層的に多くのテーマが隠れている。それをバラバラにではなく、わかりやすくひとつにすることを心がけた」という。プロローグが見すぼらしい殺風景な地下のスペースで演じられるのは、芸術家がいかに粗末に扱われているかを象徴しているのだそう。会見後には立ち稽古の一部が報道陣に公開された。コロラトゥーラの高度な技術が要求される難曲として知られるツェルビネッタのアリア〈偉大なる王女様〉にも、ステージ上を広く使った、そして細かい表情の演技が次々と指示されてゆく。突っ立って歌うだけでも難しそうなのに…。しかし観る側にとっては楽しさ倍増。1か月後に完成する舞台の多彩さを大いに期待させた。折しも来日したウィーン国立歌劇場が同演目を上演したばかり。この作品の異なる演出による舞台を、ひと月と置かずに同じ都市で観られるのは、世界的にもかなりレアな出来事のはずだ。公演は11月23日(水・祝)・24日(木)・26日(土)・27日(日)の全4回(初日のみ17時、他は14時開演)。いずれも東京・有楽町の日生劇場で。(宮本明)
2016年10月28日ウィーン国立歌劇場2016年日本公演最初の演目《ナクソス島のアリアドネ》(リヒャルト・シュトラウス)の初日を翌日に控えた10月24日。出演者らが顔を揃えた開幕会見が、公演会場の東京文化会館で行なわれた。ウィーン国立歌劇場 来日公演 チケット情報ドミニク・マイヤー劇場総裁が「現在あるオペラの中で最も美しいオペラ」と語る《ナクソス島のアリアドネ》だが、歌手には高度な実力が要求される作品だ。既報のように、出演予定だったヨハン・ボータ急逝(9月8日)の悲報を受け、急遽バッカス役に起用されたのはステファン・グールド。つい先日まで新国立劇場の《ワルキューレ》でジークムントを歌っていた彼は、その後10月22日に台湾でマーラーの《大地の歌》を歌ったあとにトンボ返り。23日早朝に羽田に到着したその足で総稽古に直行した。バッカス役は「十分に歌えるテノールは世界に数人だけ」(指揮者マレク・ヤノフスキ)という難役だが、心配は無用。2012年にウィーンで新制作された今回のプロダクションの初演キャストがグールドだったのだ。「悲しい理由で戻ってきた。偉大な友人に代わりはいない」と弔意を表したうえで、「オリジナルは自分。よく知っているプロダクションなのでいつものように歌いたい」と自信を語った。会見には他の主要キャストも出席。音域の広い題名役アリアドネを歌うグン=ブリット・バークミン。難易度の高いコロラトゥーラの技法とカンタービレが要求されるツェルビネッタ役のダニエラ・ファリー。ズボン役の作曲家は、初来日のステファニー・ハウツィール。ヤノフスキはリハーサルに大いに手応えを感じたようで、「みんな、明日の初日まで病気にならないでほしい」と会場を笑わせた。そのヤノフスキといえば、「演出ありきの傾向に嫌気がさした」と1990年代以降はオペラ劇場と決別し、今年のバイロイト音楽祭で実に久しぶりにピットに復帰した、一家言の持ち主。しかし登場人物の心理描写を大切にする今回のベヒトルフ演出は、「舞台で起こっていることに指揮者が責任を持てる」と、彼の厳しいお眼鏡にも適っている様子。盤石の歌手陣も得て、音楽を尊重した充実の上演が繰り広げられるはずだ。《ナクソス島のアリアドネ》は10月25(火)・28日(金)・30日(日)の3公演。日本公演はそのあと11月6(日)・9日(水)・12日(土)《ワルキューレ》(東京文化会館 大ホール)、10日(木)・13日(日)・15日(火)《フィガロの結婚》(神奈川県民ホール 大ホール)と続く。取材・文:宮本 明
2016年10月25日バレエ、オペラともに世界最高の名門歌劇場、英国ロイヤル・オペラ・ハウスの人気公演の舞台映像を映画館で上映する『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2016/17』。このほど、6本のオペラと6本のバレエによる上映作品12本が決定、圧巻の日本版予告映像が到着した。昨シーズンも、オペラ「椿姫」やバレエ「ロミオとジュリエット」「くるみ割り人形」などが上陸し、好評を博した英国ロイヤル・オペラ・ハウスのシネマシーズン。ロンドンのコヴェント・ガーデンで上演されたバレエとオペラを、TOHOシネマズ系列を中心とした全国の映画館で鑑賞できるこの上映は、今シーズンは、オペラ「ノルマ」を皮切りに、オペラ「蝶々夫人」やバレエ「眠れる森の美女」といった人気作品12演目。すべての上映作品には、ロイヤル・オペラ・ハウスで人気の高い案内人による舞台裏でのインタビューや特別映像が追加されており、映画館の大スクリーンと大迫力の音響で、まるでライブ観劇しているような臨場感と、スペシャルな映像を同時に楽しむことができる。<全12演目ラインナップ>【ロイヤル・オペラ】「ノルマ」「コジ・ファン・トゥッテ」「ホフマン物語」「イル・トロヴァトーレ」「蝶々夫人」「オテロ」【ロイヤル・バレエ】「アナスタシア」「くるみ割り人形」「ウルフ・ワークス」「眠れる森の美女」「ジュエルズ」「真夏の夜の夢/シンフォニック・ヴァリエーションズ/マルグリットとアルマン」『英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2016/17』は11月25日(金)よりTOHOシネマズ日本橋、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国10館の劇場にて順次公開。(text:cinemacafe.net)
2016年10月21日ポップスとオペラの歌唱を融合させた“ポップオペラ”の第一人者、藤澤ノリマサ。今年は織田信成、荒川静香らが出演するアイスショー『Fantasy on Ice 2016』で、フィギュアスケートとのコラボレーションに挑戦。8月には4年ぶりとなるオリジナルフルアルバム『MESSAGE』をリリースし、現在は11月16日(水)の新潟まで続く全国ツアー『藤澤ノリマサ CONCERT TOUR 2016』の真っ最中。【チケット情報はこちら】「今回のツアーは、ピアノ、ギター、パーカッションという初のアコースティック3ピースをバックに、歌をじっくり聴いて頂けるスタイルで行っていますが、12月の『Xmas with you』コンサートでは、いつも通りバンド編成でやる予定」というように、全国ツアーが終わるとすぐに、クリスマス・コンサートが控える。編成だけでなく、クリスマスならではの構想も。「昨年歌った、高橋真梨子さんの『for you』の評判がよかったので、昭和の名曲や日本のスタンダード、クリスマスの名曲みたいなものをカバーしようかと思っています。暖かで、クリスマスにピッタリなコンサートを目指しているのですが……」と、選曲に頭を悩ませているところ。クラシック界の12月の風物詩といえばベートーヴェンの『第九』だが、彼の代表曲『希望の歌~交響曲第九番~』はこの曲をモチーフにしたものだ。「年末だけではなく、僕は1年中歌ってますけど(笑)。サビの部分をみなさん一緒に歌ってくださるのが毎回楽しみ」というが、もうひとつ楽しみにしているのが、久々となるオーチャードホールでの公演だそう。「僕にとって特別な場所なんです。長年、オペラからTOTOといったバンドまで見ていますが、独特の雰囲気があるし、音響も素晴らしい会場。憧れの場所だったので、2013年、僕の5周年コンサートで初めてステージに上がったときは、すごく緊張しました。静寂のあとの拍手が爆発するような感じだったのを覚えています。また、あの場所で歌えるのがうれしい。あるファンの方に“フェイクの王様になってください”っていわれたんです。その場の雰囲気で自由に変わるフェイク。オーチャードホールに、どういう舞台の神様がいるかわからないけど、オーチャードらしいフェイクを楽しんでみたいですね」『藤澤ノリマサCONCERT2016~Xmas with you~Vol.2』は、12月2日(金)大阪・森ノ宮ピロティホール、16日(金)東京・Bunkamuraオーチャードホール、24日(土) 北海道・道新ホールで開催。チケットは発売中。取材・文:坂本ゆかり
2016年10月19日毎日使える新感覚ルージュイミュ株式会社が展開する化粧品ブランド「オペラ」より、2016年10月14日(金)からティントタイプのルージュ「オペラ リップティント」が新発売された。毎日使えるをコンセプトにあざやかな透け感、さりげないツヤで染まったような質感と、漂うようなピュアな色気が特徴的だ。「オペラ リップティント」はルージュとティントの融合と、さらったしたオイルにより新たな質感を作ることができる”ティントオイルルージュ”だ。時間がたってもキレイティントとは塗ると唇自体が色づいたかのように仕上げるリップのことで、「オペラ リップティント」では唇の水分に反応し血色感が出る処方のため、時間がたっても自然な血色感をキープすることができる。どの色でもそれぞれの唇自体が発色しているかのようになじんでくれる。サラサラのオイルを使用しているので伸び方もなめらかで、ムラになりにくい。価格は税抜1,500円で、色はレッド・ピンク・アプリコット・オレンジ・コーラルピンク・ピンクレッドの全6色。全国のバラエティショップなどで購入可能。これなら飲み会の時や、化粧直しをしにくい時に重宝してくれるかもしれない。(画像はプレスリリースより)【参考】※イミュ株式会社プレスリリース(@PRESS)
2016年10月18日ヴェルディ、プッチーニなどのイタリアオペラを始め、三島由紀夫の小説をオペラ化した『金閣寺』や、軽妙洒脱なオペレッタ『チャールダーシュの女王』、ミュージカル『三銃士』でも、シャープで洞察的な演出が大きな話題を呼んだ演出家・田尾下哲。数多ある演出の可能性から「原典」と「スコア」の分析を重要視し、入念なプランによって全体を構成していく手法は、多くのプロダクションで優れた演劇効果を上げている。モーツァルトの『後宮からの逃走』はテーマ的にもとても難しい、という田尾下さんのコメントからインタビューははじまった。オペラ『後宮からの逃走』全3幕 チケット情報「ドイツ語の翻訳をドラマトゥルクの庭山由佳さんと見ていって、原語をそのまま日本語のセリフに移し換えて上演するのは大変難しいことに気づきました。テーマが、宗教差別や人種差別を扱っているので、いわゆる今日的な状況では『不適切な表現』が数多く出てくるのです。ですから、ドイツ語で理解した上で原作にある偏見を洗い流した台本を編み直しました。演出プラス、上演台本を担当するという形になっています」通のオペラファン以外は、ストーリーを知らない観客も少なくない『後宮からの逃走』。物語の神髄を伝えるために重要な役として浮上してきたのが、黙役であるトルコ太守セリムだという。俳優の宍戸開さんが演じる。「オペラの序曲で、セリムが南アフリカ時代にどういう目にあい、どういう人間関係を経験して今に至るかを、パントマイムや合唱の方の芝居で表現する予定です。モーツァルトのオペラで、これほど黙役が大きい意味をもつものは存在しないんですよ。歌わない役の「赦し」がこのオペラの大きなテーマになっている…だからこそ婚約者への貞節を誓うコンスタンツェの信念の強さが意味をもつんです。セリムが許すことで、心の中で犠牲にしなければならなかったもの…たとえば復讐心といったものを表していかなければと思います。「赦す」って、生ぬるいことではないんですよ」指揮者の川瀬賢太郎さんは、長い間年上の指揮者としか仕事をしてこなかった田尾下さんにとって、一回りも年下世代のマエストロ。川瀬さんからの質問には、こんな答えが。「どこで演出のアイデアを考えるか? というと、場所は関係なく楽譜を見ているときに色々思いつきます。特にオーケストラのフルスコアを見ていると色々なイメージが湧くんですよ。モーツァルトで一番好きなオペラは、『フィガロの結婚』で、次に川瀬さんとやりたいのも『フィガロ』がいいですね。(田尾下さんは天然ですか?の質問には)どちらかというと計算ずくです。アシスタント時代が長かったので、人を言葉で傷つけないように意識的に振る舞うことを心がけています。いつも冷えピタシートを貼っているのは…片頭痛のせいです。脳がオーバーヒートすると頭痛が起こるので…でも、友人のすすめで先日MRIを撮影して、異常がないとわかってから、片頭痛も起こらなくなりました(笑)」11月11日(金) から11月13日(日)まで東京・日生劇場にて。取材・文:小田島久恵
2016年10月12日11月に日生劇場で上演されるモーツァルト作曲『後宮からの逃走』(ドイツ語歌唱・日本語台詞)を振る川瀬賢太郎。1984年生まれの若い世代に属する指揮者である川瀬は、早い時期から実力派のスター指揮者として人気を集めてきた。能舞台を使った日本のオペラを指揮した経験はあるが、ピットに入る本格的なオペラは本作が初挑戦となる。「まだ歌手たちとの関係が初々しい(本人談)」稽古の2日目に、インタビューを行った。オペラ『後宮からの逃走』全3幕 チケット情報「『後宮からの逃走』はモーツァルトが26歳のときに作曲したオペラで、歌手のパートにはすごく難解なものが求められます。器楽的で繰り返しも多く、ひとつのアリアがとても長い。そこにどういう価値を見出していくかがこれからの作業です。音楽家としてモーツァルトというのは避けて通れない作曲家ですし、このオペラを経てシンフォニーやコンチェルトの理解も深まっていくと思いますね。経験があって豊富なアイデアを出してくる歌手たちと、作品に対してほぼ白紙の歌手がいて、後者に関しては僕がしっかりリードしていくつもりです」10年以上前に、日生オペラで『後宮…』が上演されたときも、この作品を見ていたという。指揮は広上淳一氏だった。「広上先生にはリハーサルも何度か見せていただいて、桜新町の稽古場に通ったことを覚えています。当時は大学二年生で、そのときはまさか自分が振るとは思っていなかった。読響さんとは約1年ぶりの共演になりますが、色々ディスカッションしながら、いい緊張感で作っていきたいですね。編成を刈り込んでいって、ティンパニも小さめのものを使う予定なんですよ」ここ何年も多忙なスケジュールが続いていたが、このオペラの稽古に集中するため、一か月間全くオーケストラの本番を入れていないという。「僕が働いている名古屋フィルも神奈川フィルもシンフォニーがメインだから、オペラ指揮者として僕は全くの新参者です。最終的には家族となる歌手やスタッフも含め、皆さんと時間を重ねてひとつのものを作っていきたい。そういう作業が嫌いだったら、オペラの仕事は断わっていますよ。僕は10年単位で自分の将来を考えるので、40歳に向けてオペラを中心的にやっていきたいというプランがあるんです」鞄にはモーツァルト関連の書籍と、アーノンクールのテンポに関する本が入っている。高価なベーレンライター版の布カバーの楽譜も「高価だけど、一生ものだから」と迷わず手に入れた。日々楽譜と睨み合いながら、歌手たちとのクリエイティヴな稽古を続けている。若きマエストロに、期待は募るばかりだ。公演は11月11日(金) から11月13日(日)まで東京・日生劇場にて。なお、チケットぴあでは10月8日(土)午前10時より帝国ホテルラウンジでのドリンク付チケットを販売。また、10月12日(水)には演出の田尾下哲のインタビューを配信予定。取材・文:小田島久恵
2016年10月07日マリインスキー歌劇場の来日公演で『ドン・カルロ』のタイトル・ロールを歌うヨンフン・リー。初来日は2011年で、メトロポリタン・オペラの『ドン・カルロ』でヨナス・カウフマンの代役として見事大役を成功させ、日本の聴衆にその名を知らしめた。その後も破竹の勢いで世界中のトップクラスの歌劇場で活躍を続けている。マリインスキーとの共演は2回目。マリインスキー歌劇場『ドン・カルロ』チケット情報「バーデン・バーデンで『ドン・カルロ』を彼らと上演しました。とても急なオファーでしたが、全力で準備しましたよ。マエストロ・ゲルギエフは僕の声をとても気に入って、終演後『君のレパートリーを全部教えてくれ。これまでにやった役をすべて契約したい』と仰ったんです。マエストロに認めてもらえたと感じ、とても嬉しかったですね」歌手ヨンフン・リーをスターにしたオペラが『ドン・カルロ』だった。「2007年のフランクフルト歌劇場での新制作で、メディアもTVも注目しているプロダクションでしたが、本番の2週間前に主役のテノールが解雇され、急遽僕が歌うことになったんです。それが大成功し、翌年にはバレンシア歌劇場でロリン・マゼールに招かれて同じ役を歌いました。マエストロ・マゼールからのオファーを、僕は最初断っていたんです。カナダの教会で歌う予定を入れていたので…マネージャーから叱られましたが、やはり神様がいたのか、マゼールは最終的に僕との共演を実現してくださったのです」役には全力で取り組む。最近では『アンドレア・シェニエ』をサンフランシスコ歌劇場で成功させ、ドン・ホセ、カヴァラドッシ、イズマエーレも得意とするが、圧倒的に歌ってきた回数が多いのは『ドン・カルロ』。「歌いなれた役とはいえ、本番前には全力で準備します。カルロの役は、文化的な背景も含め色々な歴史文献をあたって解釈を深めてきました。そうすると、演じているときに色々なことを考えずに「役を生きる」ことが出来るんです。演じているというよりも、100%ドン・カルロになり切っている状態です。演技していたのでは説得力はないし、自然な振舞いも出来ません」性格はオープンマインド。指揮者にもオーケストラにも心を開かなければ本物の歌は歌えないと語る。楽屋では衣装やメイクのスタッフともフレンドリーに会話をしていた。努力家で優しく、舞台に立つと別人のような威厳も放つ。優雅で高貴な雰囲気も、彼ならではだ。日本で5年ぶりのドン・カルロに期待は集まる。マリインスキー・オペラ来日公演は東京文化会館にて10月10日(月・祝)・12日(水)は「ドン・カルロ」、15日(土)・16日(日)「エフゲニー・オネーギン」が上演される。ヨンフン・リーの出演は「ドン・カルロ」のみ。取材:小田島 久恵(音楽ライター)
2016年10月07日新国立劇場の2016-17シーズンは、10月2日(日)、昨年から始まった新しい『ニーベルングの指環』の第2弾『ワルキューレ』で幕を開ける。世界レベルの実力派ワーグナー歌手たちが揃った注目の舞台。9月下旬、稽古中の劇場を訪れた。【チケット情報はこちら】第1幕をほぼふたりだけで作るのはジークムントとジークリンデ、禁断の愛で結ばれる双子の兄妹だ。ジークムントのステファン・グールドは、『ラインの黄金』ではローゲを歌い、『ジークフリート』『神々の黄昏』ではジークフリートと、4作すべてに出演する。ジークムントを舞台で演じるのはこれが初めてという。豊かな強い声は、若々しさと甘さも併せ持ち、この悲劇的な役を迫真の歌唱で演じている。ジークリンデのジョゼフィーネ・ウェーバーも堂々と渡り合う。ジークムントの『冬の嵐は過ぎ去り』からの二重唱は聴きどころ。緊迫した歌い合いの中に、禁じられた間柄なのに出会ってしまったふたりの愛の喜びがあふれている。ジークリンデがこれだけ立派だと、もしかしてブリュンヒルデが霞んでしまうのではないかという心配が一瞬でも心をよぎった自分が馬鹿だった。すでに新国立劇場でも同役を歌っているイレーネ・テオリンのブリュンヒルデは、北欧の歌手(スウェーデン生まれ)特有の透明で豊かな声で見事な貫禄。ブリュンヒルデが愛に目覚め、父ヴォータンに背いてゆく葛藤も巧みに演じている。そのヴォータンのグリア・グリムスレイは、ひと声で「神」を感じさせる。第3幕の『告別の歌』が、深く、神々しい。この日のリハーサルは舞台装置も衣装も照明も付けて、音楽だけはピアノ伴奏による通し稽古だった。しかし、歌手たちがほぼフルヴォイスで歌っていたおかげもあって、音楽の密度の濃さは尋常ではなく、5時間超という長丁場を忘れてワーグナーの音楽に没頭した。ピアノ伴奏でオペラを観てこんなに熱中したのは初めてだ。これにあのスペクタキュラーなオーケストレーションが加わったらと思うとゾクゾクする。全幕を通して傾斜ステージが特徴的な舞台はゲッツ・フリードリヒが1996年から1999年にフィンランド国立歌劇場で制作したプロダクション。物語に別の要素を加えたりすることなく、ワーグナーの世界を正面から見せてくれるので音楽に集中できる。ラストで、横たわるブリュンヒルデを炎の結界が囲んでゆくシーンは圧巻だ。公演は10月2日(日)、5日(水)、8日(土)、12日(水)、15日(土)、18日(火)の全6回。上演時間は休憩を含めて約5時間20分。取材・文:宮本明
2016年09月26日男性でありながらソプラノの音域を持つ「ソプラニスタ」(男性ソプラノ歌手)の岡本知高が、10月16日(日)に東京オペラシティで行う“Concerto del Sopranista 2016-2017”に、オーストラリア出身の歌手、ヴァイオリニストのサラ・オレインがゲスト出演することが決まった。「岡本知高Concerto del Sopranista 2016-2017」の公演情報サラ・オレインは、「f分の1のゆらぎ」という聴くものをリラックスさせ、爽やかさと清涼感を与える天性の声の持ち主。また、澄んだ声と強い声を自在に使い分ける「声帯のアスリート」とも呼ばれている。テレビ番組出演、ラジオパーソナリティ、CMソング、フィギュアスケートやアイスショーでのコラボなど、多岐にわたって活躍。ウィーン少年合唱団との共演、名音楽プロデューサー、デイヴィッド・フォスターが手掛けたアルバム「We Love Disney」への参加、アンドレア・ボチェッリの最新アルバムでのデュエットなど、様々なジャンルの音楽家とも共演している。世界で数人しかいないと言われる「ソプラニスタ」の岡本知高は、国内・海外の主要オーケストラとの共演はもちろん、先日行われたブロードウェイミュージカル『シカゴ』宝塚歌劇OGバージョンでニューヨークブロードウェイの舞台を賑わかせ、その圧倒的な歌唱力で観客を虜にしたことも記憶に新しい。彼の歌声は華やかで、それでいて共演者の歌声を決して妨げることなく存在感を出せるのは流石としか言いようがない。老若男女、全てを引き付ける彼の魅力を、思う存分楽しめるコンサートとなるだろう。また、10月12日(水)にニューアルバム『春なのに~想歌(おもひうた)』を発売することも決定しており、新たなレパートリーに期待が高まる。聴くものすべての心を揺さぶる「奇跡の歌声」をもつ岡本知高と、サラ・オレインの癒しの波長が合わさり、骨抜きにされること間違いなしだ。■岡本知高Concerto del Sopranista 2016 - 20172016年10月16日(日) 13:30開場 14:00開演東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル
2016年09月16日劇団四季が上演しているミュージカル『オペラ座の怪人』が来年3月、横浜で上演されることが決定し、5月23日、製作発表会見が行われた。会見には劇団四季の吉田智誉樹代表取締役社長と、黒岩祐治神奈川県知事が出席。4年ぶりとなる四季の横浜公演に対する両者の熱い思いが語られた。名古屋公演 チケット情報『オペラ座の怪人』はパリ・オペラ座の地下に棲み、歌姫クリスティーヌに恋をする“怪人”の悲しい愛の姿が描かれたミュージカル。巨匠アンドリュー・ロイド=ウェバーの美麗な楽曲が全編を貫く、ミュージカル界を代表する傑作であり、全世界で30か国・13言語で上演され、1億4千万人以上が観たというメガヒット作だ。日本ではブロードウェイと同じ1988年に初演、以降現時点で6645回上演されている。首都圏では、東京・電通四季劇場[海]で上演されていた2013年6月以来の登場だ。また、劇団四季の横浜公演は2012年11月まで上演されていた『キャッツ』以来。吉田社長は「あざみ野に本社と稽古場を構える四季にとって、横浜はお膝もと。横浜に更なるマーケットを作り、微力ながら経済に貢献したい」と横浜での上演に気合を入れる。黒岩県知事も「私も『オペラ座の怪人』の大ファン。CATSシアターがなくなったときは、寂しいなと思っていました。神奈川県では“マグカル(マグネット・カルチャー)”の考えのもと、横浜をNYのブロードウェイのようにしたい、とやってきた。“ミュージカルが溢れる神奈川”というものが、一気に広がっていけば」と期待を寄せる。さらには「これをひとつのきっかけとして、劇団四季さんとは長い付き合いをし、色々な形で連携を深めていきたい。本当は劇団四季の全国の劇場を、すべて神奈川に持ってきて欲しいくらいです!」と話すほど、熱いラブコールを四季に送っていた。会場は、KAAT 神奈川芸術劇場 ホール。自主制作公演もさかんな公共劇場を、約5か月ものあいだ劇団四季が使うことになるが、「KAATの創造性ある作品が減るということは、まったくない。むしろ劇団四季さんから大いに刺激を受けたいと思っている」と眞野純館長。黒岩県知事も「KAATにはホール(大劇場)以外にも、スタジオやアトリエといった、公演が出来るスペースがある」と説明。劇団と県(及び横浜市)と劇場、それぞれにメリットがある公演であることを強調していた。『オペラ座の怪人』横浜公演は2017年3月開幕予定。同年8月までのロングランを予定している。なお、同演目は現在、愛知・新名古屋ミュージカル劇場にてロングラン上演中。こちらは8月21日(日)が千秋楽となる。
2016年05月24日“オペレッタの殿堂”ウィーン・フォルクスオーパー。9回目の来日公演が、《チャルダーシュの女王》(カールマン作曲)で幕を開けた。開幕前日の13日、劇場首脳陣が記者会見に臨んだ。ウィーン・フォルクスオーパー チケット情報「私たちの舞台をそのまま持ってきた。これが観られるのはウィーンと東京文化会館だけ」と、クリストフ・ラードシュテッター事務局長が胸を張るように、出演者・スタッフ総勢220人だけでなく、2,700点の衣装や小道具、総量27トンの装置など、劇場が丸ごと東京にやってきた。今回の上演演目は、《こうもり》(J・シュトラウスII作曲)、《メリー・ウィドウ》(レハール作曲)というオペレッタ界不動の3番、4番バッターに、フォルクスオーパーが紹介して以来日本での人気も高くなってきた《チャルダーシュの女王》を加えた強力クリーンナップ。この3本にオペレッタの魅力が全部詰まってると言ってもいい。「オペレッタは人が死なない(笑)。必ずハッピーエンド」とその美点を語った〝オペレッタの神様〟指揮者ルドルフ・ビーブルは、過去の日本公演での好感触にも触れた。「1979年初来日の《メリー・ウィドウ》で、鳴り止まない拍手に応えて急遽カンカンの場面をアンコールして以来、それが劇場の伝統になった。オペレッタをオペラより下に見る人もいるが、歌だけでなくセリフの多いオペレッタのほうが倍も難しい。しかもそのうえ歌手は踊れなければならない。日本の皆さんはそれをよくわかっている」今回の出演者でもある芝居俳優のロベルト・マイヤー総裁は、自身もオペレッタに魅せられた一人だという。「ずっと演劇だけをやってきたが、オペレッタを経験したら、音楽のない芝居はもうできない。歌わないのか?日本ではね(笑)」見過ごしがちだけれど、オペレッタは比較的新しい文化だ。今回の演目も《こうもり》こそ1874年初演の19世紀生まれだが、《メリー・ウィドウ》が1905年初演、《チャルダーシュの女王》が1915年初演と、いずれも20世紀の作品。音楽の響きも案外新しい。これがアメリカに行ってミュージカルになったのだから、構えずにエンタテインメントとして楽しもう。《チャルダーシュの女王》はすでに日程終了。公演はこのあと、《こうもり》(5月19(木)~22日(日))、《メリー・ウィドウ》(5月26(木)~29日(日))と山場を迎える。会場はいずれも東京文化会館。いま、上野の森はウィーンに変わっている。取材・文:宮本明
2016年05月16日4月3日、新国立劇場(東京・初台)にてオペラ『ウェルテル』が開幕した。原作は、文豪ゲーテの代表作『若きウェルテルの悩み』。誰もが知る古典的悲劇を、フランスの作曲家マスネが「人間ドラマ」として鮮やかに描き出す。新国立劇場オペラ「ウェルテル」チケット情報ある夏の日、ウェルテル(ディミトリー・コルチャック)とシャーロット(エレーナ・マクシモワ)は出会う。しかし彼女には許婚アルベール(アドリアン・エレート)がいた。ウェルテルと惹かれあいながらも、決められた結婚をしたシャルロット。その年のクリスマス、ふたりは一度だけ愛を告白しあうが、「永遠にさようなら」と告げられたウェルテルは死を選び、シャーロットは慟哭のなかで彼を看取る――筋はごくシンプルだ。しかし、マスネの音楽にこめられた感情の、なんて鮮やかなこと!たとえば、第2幕でシャーロットに拒絶されたウェルテル。神様に自死の許しを請うが、祈るような囁きから叫びまでの振れ幅で、絶望を見事に表現する。シャーロットの揺れる心もアルベールの冷酷さも、言葉よりメロディが雄弁に伝えてくれる。一方で、作品の故郷フランスからやってきた指揮者エマニュエル・プラッソンと演出家ニコラ・ジョエルが紡ぎ出す今回の舞台には、抑制のエレガンスが漂う。東京フィルの艶やかな音や、コローの絵画のような色彩、若々しい歌手たちの見た目もあいまって、終始うっとりさせられた。そんななか、苦悩するごとに増していくウェルテルの輝きは、第3幕で頂点に達する。「愛だけが真実なんだ。それ以外は無意味だ!」――3幕分、抑えに抑えてきた感情が爆発。ふたりが口づけしたときの快感と言ったらなかった。この日一番の歓声が上がったし、ウェルテルの歌声と、まっすぐな感情の美しさに涙がボロボロあふれた。ウェルテルは破滅型で、ヒーローとはかけ離れた人物に見える。しかし、彼の死の後味は決して悪くない。ある意味、マスネのもうひとつの代表作『マノン』のヒロインにも似ている。悩める青年と小悪魔女子は正反対にも見えるが、自分をごまかさないという一点においてとてもよく似ていて、私にはどちらもすがすがしい。カーテンコールで喝采に応えるコルチャックには気のいいナイスガイの雰囲気があふれていて、そんな歌手本来の朗らかさも功を奏したのかもしれない。また、マノンに振り回される騎士デ・グリューがいい男であるように、シャーロットもいい女だと思う。ズボン役もこなすメッゾソプラノだけあって、どこか凛々しく毅然とした態度がカッコいいマクシモアなら、悲しみを乗り越えて強く生きていくだろう。そんな気がした。公演は4月16日(土)まで。取材・文:高野麻衣
2016年04月04日今年10月に4年ぶり9回目となる日本での引っ越し公演を行なうウィーン国立歌劇場。ドミニク・マイヤー劇場総裁、同行する指揮者のひとりであるマレク・ヤノフスキが出席して会見を開いた(3月30日)。ウィーン国立歌劇場 チケット情報R.シュトラウス「ナクソス島のアリアドネ」を指揮するヤノフスキの発言が、記者会見とは思えない興味深い内容だった。もともと歌劇場を中心にキャリアを積んできたと言ってもいいヤノフスキだが、1990年代からは歌劇場を離れ、オペラは演奏会形式でしか振っていない。そのきっかけが「ナクソス島のアリアドネ」だったのだという。「10数年前に、あるドイツの劇場でこのオペラを観て、オーケストラ・ピットを去る決心をした」(ヤノフスキ)演出優位の上演に嫌気がさしたのだという。その時の演出の具体的な中身は明かさなかったが、「歌手は客席に向かって歌うもの。しかしそうではない演出もある」と語る。そのヤノフスキが今夏、バイロイト音楽祭で久々にピットに入るのを知ったマイヤー総裁がオファーしたのが今回の「ナクソス島のアリアドネ」だった。実は最後に劇場で振ったオペラもこの作品で、「運命を感じる」という。となると気になる演出は、ベヒトルフによる2012年制作の舞台。同年夏にはザルツブルク音楽祭でも上演されて好評を博した。他の演目はワーグナー「ワルキューレ」(指揮:アダム・フィッシャー)とモーツァルト「フィガロの結婚」(指揮:リッカルド・ムーティ)。「ワルキューレ」を含む「ニーベルングの指環」全4部作はウィーンでも毎シーズンのように上演される重要なレパートリーだが、日本に持ってくるのはこれが初めて。マイヤー総裁によれば、本当は全4演目を披露したいが規模が大きくなりすぎて引っ越し上演は不可能なのだという。「フィガロの結婚」は4年前の来日公演でも上演したプロダクションだが、ムーティたっての希望で今回もプログラムに加わった。そしてこれもムーティの意向で、若手イタリア人歌手中心の布陣。ムーティは、「フィガロ」を含むダ・ポンテ3部作は言葉が大切で、それは上手に発音すればいいというレベルではない、細かいニュアンスの理解が必要なので、イタリア人歌手の起用が理想だと語っているそう。ムーティが認めた歌手たちによる上演に期待が高まる。S席からD席の一般発売は6月4日(土)。E席・F席の一般発売は4月24日(日)から。至福の時間は厳しい争奪戦を勝ち抜いた先にある。取材・文:宮本明
2016年04月01日年間820万人が訪問するオーストラリア最大の観光地であるシドニー・オペラハウス。シドニーの北側、ポートジャクソン湾に突きだした絶景が展望できる場所に、白いヨットの帆が幾重にも重なるような近代的な建物が水面に浮かぶように立つ。世界遺産にも登録されている、このオーストラリアを代表するシドニー・オペラハウスがAdobeと2年にわたるパートナーシップを組み、デジタル化を促進していくことが3月1日(現地時間)に発表された。このシドニー・オペラハウス。コンサートホールには世界最大級のパイプオルガンを備え、オーケストラやオペラ、ミュージカルやバレエなど数々の催し物が開かれるが、ユーザーは実際に現地に訪れるユーザーだけではない。オフィシャルサイトの「Events」タブには、オペラ、ダンス、手品、シアターなど13種類の分類が設けられており、週に"40回"は開かれるという各種イベントのページに紹介文、スケジュール、数種類の座席シートごとに購入ボタンが設置してある。ほかにも、PDFで用意されたモバイルマップにアクセシビリティマップ、ディナーメニューを配信してくれるメールサービス。夜景をバックにした美しいオペラハウスの写真から建築中の状態を記録した歴史的な写真までがアーカイブされているフォトギャラリーや、イベントを含む映像の数々と豊富なコンテンツを持つWebサイトを構築している。Adobeが提供するAdobe Marketing Cloudは、分析からコンテンツ管理、ターゲットへの適切なキャンペーン施策とクロスチャネルでユーザーに最適な体験を提供するクラウドソリューション。デジタルコンテンツの充実したシドニー・オペラハウスとの提携は、シドニー・オペラハウスにかつてない"デジタル変容(Digital Transformation)"をもたらす可能性がある。今回の提携について、シドニー・オペラハウスのCEO、Louise Herron AM氏は、「イノベーションはシドニー・オペラハウスのDNAの一部です。このパートナーシップは、ただ単に新しいマーケティングソリューションの実行ではなく、Adobeのテクノロジーの潜在能力を代表するようなコラボレーションになり得るでしょう。リニューアルは、建物自体やステージで上演されている経験と同様に、進化し続ける人類の創造性を守るこの世界遺産を確実にするものです」と述べている。また、Adobe Asia Pacific PresidentであるPaul Robson氏は、「シドニー・オペラハウスは、創造性(Creativity)の象徴であり、Adobeはクリエィティブカンパニーであるが故に、私たちのブランド間に生じるシナジーは特別なものになります。私たちは、ブランドが"物質"と"デジタル"の双方が作用する時代に生きています。特別なカスタマーエクスペリエンスをすべての顧客接点において作り出すことは、重要でAdobeプラットフォームは、観衆やビジターをかつては実現できなかったレベルへ誘います。創造性に添ったこの新しいデジタルイノベーションの体験が、オーストラリアの中だけではなく世界の人々に届けられることを楽しみにしています」とコメントしている。
2016年03月03日話題の新国立劇場《イェヌーファ》(ヤナーチェク作曲)が2月28日、初日の幕を開けた。コアなオペラ・ファンならずとも、これは観ないと後悔する舞台だ。新国立劇場オペラ「イェヌーファ」チケット情報演出はドイツの歌劇場を中心に辣腕をふるうクリストフ・ロイ。幕が上がると、舞台中央に箱状の真っ白な部屋。演出サイドはこれを「テラリウム」と表現している。生物飼育の観察のごとくに人間模様を覗くという意図だろう。全幕がこの切り取られた空間の中で展開する。シンプルながら観る側の集中力を高める装置で、舞台両端での演技を多用する演出プランにも、目と耳が自然に対応する(ちなみにこの部屋。左右の壁が可動式なのだけれど、とてもゆっくりじわじわ動くので、歌や芝居に集中していると気づかないうちに間口が倍ぐらいに拡がっていて、だまし絵のような摩訶不思議。その操作の巧みさにも注目だ)。無人のこの部屋に最初に登場するのは、あとでイェヌーファの赤ん坊を殺してしまう継母のコステルニチカ。警官らしき女性に連れられているので、ここは取調室なのか。これは台本にはない黙劇で、物語全体が彼女の回想という仕掛け。原作のタイトルが『彼女の養女』であるように、物語の実質的な中心人物はイェヌーファと、このコステルニチカなのだ。そのふたり、イェヌーファ役のミヒャエラ・カウネとコステルニチカ役のジェニファー・ラーモアが圧巻。特に第2幕で、それぞれの長いモノローグを軸に嬰児殺しが進行していく場面の迫真の歌唱にはぞくぞくした。イェヌーファの相手役ラツァを歌ったヴィル・ハルトマンも、鋭利な輝きと説得力を兼ね備えたテノール。そして70歳超のベテラン、ハンナ・シュヴァルツがイェヌーファの祖母役で、脇役ながらものすごい存在感を示していて驚く。なんといっても音楽が圧倒的に印象的だ。音楽ありきで歌をひけらかすようなアリアを連ねるタイプのオペラではなく、音楽はあくまでドラマに寄り添った存在。でもそれなのに実に雄弁で、この2時間を超えるオペラの主役はやはり音楽なのだ。特にオーケストラ(チェコ出身のトマーシュ・ハヌス指揮/東京交響楽団)。けっしてカラフルなオーケストレーションではないのだけれど、伴奏という枠を超えて物語の内実に迫る。もし芝居の筋を追うのに集中するあまりにピットの音を聴き流してしまったら、もったいない。公演は3月11日(金)まで。東京・初台の新国立劇場 オペラパレスで。取材・文:宮本明
2016年02月29日話題の新国立劇場《イェヌーファ》(ヤナーチェク作曲)が2月28日、初日の幕を開けた。コアなオペラ・ファンならずとも、これは観ないと後悔する舞台だ。新国立劇場オペラ「イェヌーファ」チケット情報演出はドイツの歌劇場を中心に辣腕をふるうクリストフ・ロイ。幕が上がると、舞台中央に箱状の真っ白な部屋。演出サイドはこれを「テラリウム」と表現している。生物飼育の観察のごとくに人間模様を覗くという意図だろう。全幕がこの切り取られた空間の中で展開する。シンプルながら観る側の集中力を高める装置で、舞台両端での演技を多用する演出プランにも、目と耳が自然に対応する(ちなみにこの部屋。左右の壁が可動式なのだけれど、とてもゆっくりじわじわ動くので、歌や芝居に集中していると気づかないうちに間口が倍ぐらいに拡がっていて、だまし絵のような摩訶不思議。その操作の巧みさにも注目だ)。無人のこの部屋に最初に登場するのは、あとでイェヌーファの赤ん坊を殺してしまう継母のコステルニチカ。警官らしき女性に連れられているので、ここは取調室なのか。これは台本にはない黙劇で、物語全体が彼女の回想という仕掛け。原作のタイトルが『彼女の養女』であるように、物語の実質的な中心人物はイェヌーファと、このコステルニチカなのだ。そのふたり、イェヌーファ役のミヒャエラ・カウネとコステルニチカ役のジェニファー・ラーモアが圧巻。特に第2幕で、それぞれの長いモノローグを軸に嬰児殺しが進行していく場面の迫真の歌唱にはぞくぞくした。イェヌーファの相手役ラツァを歌ったヴィル・ハルトマンも、鋭利な輝きと説得力を兼ね備えたテノール。そして70歳超のベテラン、ハンナ・シュヴァルツがイェヌーファの祖母役で、脇役ながらものすごい存在感を示していて驚く。なんといっても音楽が圧倒的に印象的だ。音楽ありきで歌をひけらかすようなアリアを連ねるタイプのオペラではなく、音楽はあくまでドラマに寄り添った存在。でもそれなのに実に雄弁で、この2時間を超えるオペラの主役はやはり音楽なのだ。特にオーケストラ(チェコ出身のトマーシュ・ハヌス指揮/東京交響楽団)。けっしてカラフルなオーケストレーションではないのだけれど、伴奏という枠を超えて物語の内実に迫る。もし芝居の筋を追うのに集中するあまりにピットの音を聴き流してしまったら、もったいない。公演は3月11日(金)まで。東京・初台の新国立劇場 オペラパレスで。取材・文:宮本明
2016年02月29日新国立劇場で初めてのヤナーチェク作品上演となるオペラ《イェヌーファ》が、2月28日(日)に幕を開ける。18日、ピアノ伴奏による舞台での通し稽古中の同劇場を訪れた。新国立劇場オペラ『イェヌーファ』チケット情報《イェヌーファ》は、チェコの作曲家レオシュ・ヤナーチェク(1854~1928)の代表作。まぎれもなく傑作だ。まず何といっても音楽が、美しく、かつ雄弁。1904年初演の20世紀の音楽だけれど、けっして晦渋ではない。調的な音の重なりを失うことのない濃厚な響きには、しかし自由なふるまいが与えられていて、私たち現代人にとっては、「ちょうどいい緊張感」の音楽だ。しかも、美声を誇示するためだけのアリアのような、19世紀オペラ的な「見得」がないぶん、演劇としてのリアリズムが担保されているのだ。今回の舞台は、2012年にベルリン・ドイツオペラで上演されたプロダクション(クリストフ・ロイ演出)。2014年にも同じ顔ぶれで再演され、ライヴ映像も発売されている評判の演目だ。今回はその主要キャストがほぼそのまま来日したので、稽古と本番を重ねて細部まで練り込んだチームによる、理想の舞台になるはず。それでもこの日の全体稽古の開始直前、ひとりでステージに現れたイェヌーファ役のミヒャエラ・カウネが、指揮者とピアニストにリクエストして、ある箇所の入りのタイミングと音程を念入りに確認しながら繰り返していた。準備を怠らないのは一流の証だろう。そのカウネの演じるイェヌーファは聡明な村一番の美人。資産家の跡取り息子シュテヴァの子を身ごもりながら、図らずもその義弟ラツァをも虜にする。カウネのセクシーな歌声を聴けば、男たちが魅かれるのも無理がない気がしてくる。そのラツァ役はヴィル・ハルトマン。このオペラの成功の鍵を握る重要な役だ。説得力ある深めのテノールは、劣等感ゆえに逆上して暴力さえ振るい、それでもイェヌーファに無条件の愛を捧げる男の、内面の移ろいや多面性を見事に表現している。そしてイェヌーファの継母コステルニチカにジェニファー・ラーモア。原作戯曲のタイトルが『彼女の養女』であることでわかるように、物語の実際の主役だ。後妻ながらイェヌーファを実の子のように愛し、その幸せを望むあまり彼女が産んだ赤ん坊を殺してしまう。厳格な道徳家が堕ちていく狂気に、ラーモアが屈指の表現力で迫っている。質の高い上演となるのは間違いない。公演は2月28日(日)から3月11日(金)まで東京・新国立劇場 オペラパレスにて。取材・文:宮本明
2016年02月22日新国立劇場の2016/2017シーズンのラインナップ発表会見が1月15日に開催。オペラ部門に関しては、同劇場のオペラ芸術監督を務める指揮者の飯守泰次郎から、新制作作品3本を含む計9演目の説明がなされた。「新国立劇場オペラ」各公演のチケット情報2014年9月に飯守氏が芸術監督に就任し、来シーズンで3期目を迎える。ここまでの2シーズンを振り返り、1期目は「オーソドックスな作品群」、2期目は「あまり上演されないけれど、『上演してくれ』という声の多い作品」を上演してきたと説明。勝負の来シーズンについては「哲学的なドイツ作品とイタリアの作品のコントラストを強調するラインナップ」になっていると明かす。新制作となる作品は3作品。注目は2017年の同劇場開場20周年に向け、今シーズンより3年がかりで上映される運びとなっているワーグナーの『ニーベルングの指環』四部作。すでに序夜『ラインの黄金』が上演され、大きな反響を呼んだが、来シーズンは第1日『ワルキューレ』が10月のオープニングに、第2日『ジークフリート』がシーズンの終わりを飾る6月に上演される。昨年10月の『ラインの黄金』に引き続き、2作とも指揮は飯守氏、演出はゲッツ・フリードリヒとなるが、管弦楽に関しては『ワルキューレ』では東京フィルハーモニー交響楽団が、『ジークフリート』では東京交響楽団が務める。なお、残る第3日『神々の黄昏』は、2016/2017シーズンの上演となるが、こちらは読売日本交響楽団が管弦楽を務める予定であることも発表された。『ワルキューレ』のジークムントおよび『ジークフリート』のタイトルロールは、新国立劇場では『ラインの黄金』に加え、『トリスタンとイゾルデ』、『オテロ』などでおなじみのステファン・グールドが演じる。『ワルキューレ』のジークリンデ役は注目の新星ジョゼフィーネ・ウェーバーが務め新国立劇場初お目見えとなる。この2作に挟まれる形で3月に上演される新制作の作品はドニゼッティのイタリアオペラ『ルチア』。難役のタイトルロールをロシアの注目の新鋭で新国立初登場となるオルガ・ペレチャッコが演じ、日本からはライモンド役で妻屋秀和もキャスト陣に名を連ねている。上記3作以外のレパートリーで注目は2月『蝶々夫人』。栗山民也の演出で、同劇場の研修所出身の安藤赴美子が蝶々夫人を演じる。飯守氏は「やっと日本人の蝶々夫人が見つかった!」と満足そうにうなずく。このほか、『ラ・ボエーム』、『セビリアの理髪師』『カルメン』『オテロ』『フィガロの結婚』と定番のタイトルが並んでおり、飯守氏は「新鮮なスター、信頼の置けるベテランがキャスティングされており、世界レベルの劇場として高いクオリティを楽しんでいただけると思っています」と来季に向けて自信をのぞかせた。取材・文:黒豆直樹
2016年01月18日狂言とオペラ、日本とヨーロッパの伝統的な芸能を結びつけ、高い芸術性と無類の面白さで好評を博している狂言風オペラ。その最新作『狂言風オペラ モーツァルト“コジ・ファン・トゥッテ ”』が来年2月上演される。狂言風オペラシリーズは、京都の大蔵流狂言師、茂山千之丞らを中心に2002年にスタート。モーツァルトのオペラを換骨奪胎し、クラシックの名門、ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン管楽ゾリステンの演奏に乗せて、狂言師たちが物語を演じるというユニークなスタイルが話題を呼び、『ドン・ジョヴァンニ』(02年)、『フィガロの結婚』(06年)、『魔笛』(09年)と順調に回を重ねて来た。11年には『魔笛』を携えてドイツ公演も行い、7ヵ所のステージを成功させるなど高い評価を得ている。『コジ・ファン・トゥッテ』の製作に際しては、ウィーン在住の気鋭の演出家、伊香修吾が新たに参加。京の都を舞台にオペラの主人公フェランドとグリエルモを太郎冠者、次郎冠者に置き換えた脚本も書き下ろす。また茂山一門に加え、今回、特別出演として名を連ねるのが落語家、桂米團治。オリジナルにはない、語り手という意表を突いたポジションから物語に絡んでゆく。9月に行われた記者会見には出演の茂山正邦、茂山茂、茂山童司、網谷正美、桂米團治ほか、伊香修吾らが出席。席上、米團治は「年来のモーツァルトファンですが、オペラの語り手というのは初めて。伊香さんのアイデアで、僕らは自分たちが思っていたところとはどんどん別のところに連れて行かれる」と面白さを語った。また出演のほか、監修も行う茂山童司は「『狂言風オペラ』は亡き祖父、千之丞が描いたイメージを引き継いで今まで続けて来たもの。この度、新しい演出、新しい出演者を迎えるのを機に、改めて緊張感を持って僕らの『狂言風オペラ』を作っていきたい」と語った。公演は2016年2月20日(土)、愛知・豊田市コンサートホールを皮切りに、2月21日(日)、福岡・宗像ユリックスハーモニーホール、2月23日(火)、岡山・津山文化センター、2月24日(水)、大阪・NHK大阪ホール、2月25日(木)、東京・すみだトリフォニーホール、2月27日(土)、滋賀・ひこね市文化プラザグランドホールの6会場にて。チケットは宗像ユリックスハーモニーホールが11月14日(土)発売。その他は発売中。
2015年10月19日10月に二期会が上演するR.シュトラウスのオペラ《ダナエの愛》は幻の傑作。上演機会の滅多にないレア作品だ。国内では2006年に若杉弘が演奏会形式で初演したが、舞台上演は今回が日本初演となる。公演初日まで10日を切った9月23日、都内の稽古場を訪れた。東京二期会オペラ劇場「ダナエの愛」jチケット情報この日はオーケストラが入る前の最終の通し稽古。題名役の佐々木典子ら、10月3日のキャストによる稽古だった。すでに基本的な演出は完成しており、いくつかの場面の動きを詰めたあと、全幕をピアノ伴奏で通してゆく。幕ごとの休憩の間に演者に駆け寄って細部を確認するのは、これがオペラ初演出となる深作健太。映画監督・深作欣二を父に持ち、自身も映画監督、舞台演出家として活躍する気鋭のクリエイターだ。「こんなに楽しい現場は初めて。映画も演劇も、セリフとセリフの間を埋めて作っていく作業なんですけど、オペラの場合はそれがすでに音楽としてスコアに書き込まれている。それを発見していくのが非常に楽しいです。それに、新劇からアイドルまでさまざまな経歴の俳優さんが集まる演劇の現場では、1か月の稽古の間にそこから共通言語を探していかなければなりません。でもオペラは、伝統をベースにした約束事を共有している方たちばかりなので、いきなりすごく高いところから入っていける。芸術文化としての専門度の高さを感じました」スコアに対する全面的なリスペクト。演出優位のプロダクションも少なくない中、こういう立ち位置のオペラ演出家がまたひとり誕生したのは実に頼もしい。といってもアグレッシブな仕掛けもありそう。この日は衣装も装置もまだ本番のものではなかったのでディテールは定かではないものの、「ん!?」と目を見張るような独自の解釈がいくつも施されていた。《ダナエの愛》はギリシャ神話の世界を舞台にした、そのままバロック・オペラになっていても違和感のないような物語だが、音楽はまさにR.シュトラウス。ドラマティックで色彩豊かなオーケストレーションをバックに、歌手たちにはかなりドラマティックな声と表現が要求されていて聴きごたえがある。主役の3人(ダナエ、ミダス、ユピテル)以外の役にも歌いどころ・聴かせどころが満載で、「歌」を存分に楽しめるオペラだ。これを逃すと、次はいつ観られるかわからない。チェック済みだけど行こうか行くまいか迷っているアナタ。観ないと絶対後悔します。今すぐ購入サイトへ!取材・文:宮本明
2015年09月25日人気テノール、錦織健のプロデュースで2月22日(日)より上演されるモーツァルトのオペラ「後宮からの逃走」。先日行われた通し稽古は、このオペラの普遍性と個性が生き生きと伝わってくる画期的なものだった。錦織健プロデュース・オペラ vol.6 モーツァルト「後宮からの逃走」の公演情報モーツァルト・オペラは、声楽的には大変几帳面できっちりしており、オーケストレーションも端正(モーツァルトによる直筆譜も大変綺麗)。その一方で、オペラそのものはとても奇抜でセンセーショナル、という性格を持っている。特に「後宮…」は形式的には厳密でありつつ、ストーリーと登場人物のキャラクターはとてもユニークなのだ。錦織自身がこのオペラに愛着をもっているのは、「古典的な世界を愛し、なおかつ精神は新しくありたい」というスピリットが、このオペラには渦を巻いているからではないだろうか。トルコ太守の後宮(ハーレム)に捕らわれた恋人を取り戻そうとするスペインの貴族ベルモンテを演じる錦織健と、太守の家臣オスミンを演じる志村文彦の掛け合いは、冒頭からモーツァルトの魅力全開で、音楽はロココな優美さと端正さを湛えながら、設定はシリアスなのに、お腹がよじれるほどおかしい。吉本新喜劇に実際に足を運んでコメディの研究しているという錦織とベテラン志村の呼吸感には、オペラ歌手としての極意を感じる。「芸術的に価値のある古典を、生き生きと鮮烈に新しく演じる」という使命感。型崩れさせることなく、面白くする、これはいつ何時でも美しく保たれる錦織健の歌唱法にも通じている。恋人コンスタンツェを演じる佐藤美枝子は正統派中の正統派ソプラノ。超難役として有名なドニゼッティのオペラ「ランメルモールのルチア」のルチア役を完璧に歌える佐藤美枝子だからこそ、今回のコンスタンツェ役での超絶技巧も光っていた。コケティッシュなブロンデ役の市原愛、愉快な召使ペドリロ役の高柳圭も大活躍し、台詞のみで歌わないトルコ太守の役にバス・バリトンの池田直樹が配役されるという豪華さも見逃せない。そして、太守の寛大さによって平和がもたらされるというエンディングには、戦いなき公平な世界を目指す芸術家の理想が託されている。困難な社会情勢の中、「タイムリーに」イスラム教の寛容さが描かれているのは偶然なのだが、この作品の上演が今行われることは、とても大きな意味をもつはずだ。◆錦織健プロデュース・オペラ vol.6 モーツァルト「後宮からの逃走」2月22日(日) サンシティ越谷市民ホール2月25日(水) 静岡市民文化会館3月1日(日) 栃木県総合文化センター メインホール3月7日(土) 神奈川県民ホール3月13日(金) 東京文化会館3月15日(日) 東京文化会館3月22日(日) フェスティバルホール3月24日(火) アクロスフ福岡 福岡シンフォニーホール
2015年02月20日人気テノール歌手・錦織健がプロデュースし、自らも出演する「錦織健プロデュース・オペラ」の第6弾として、モーツァルト《後宮からの逃走》が、2~3月に全国7都市で上演される(全8公演)。「錦織健プロデュース・オペラ」は、ビギナーも気楽に楽しめるエンタテインメントとしてのオペラ上演を理想に掲げて2002年にスタートした、彼曰く「旅まわりの一座」。抵抗なくオペラに入るためには笑いが一番と、毎回喜劇を題材にした作品を採り上げている。何事も同じだと思うけれど、初体験にはなるべく上質なものを勧めたい。「オペラは初めて」という観客も重視しているからこそ上演クオリティにはこだわっている。日本のトップクラスの歌手たちに「座長」の錦織自身が声をかけて集めるキャストはいつも豪華な顔ぶれ。加えて、稽古の質の高さと内容の濃さは、オペラ歌手たちの間でも評判になっているほどだという。若い頃からテレビのバラエティ番組でロックやポップスを熱唱したりと、オペラを囲む垣根を取り払って広い層のファンを獲得してきた錦織ならではの経験と熱意と本気が結実したプロジェクトと言ってよいだろう。《後宮からの逃走》は「ジングシュピール」と呼ばれ、歌と歌をつなぐたくさんのセリフによって物語が進行してゆくタイプの作品。今回は歌の部分は原語のドイツ語だが(日本語字幕つき)、セリフは日本語で上演するからわかりやすい。わりに単純な物語なので、特別な予習なしでも理解できるはずだ。筋さえわかってしまえばあとは歌芝居。モーツァルトの軽快で美しい音楽と声の魅力を、耳が感じるままに楽しもう。実は歌い手にとってはかなり技巧的で難しい曲も多いのだけれど、観る側としてはそれも大きな楽しみのひとつだ。オペラの筋は、公演タイトルに添えられた錦織発案の「ハーレムから助け出せ!」というキャッチコピーのとおり、スペイン貴族の青年ベルモンテが、誘拐された恋人コンスタンツェを奪還すべく、トルコの後宮(ハーレム)に単身乗り込むという、恋と冒険の物語。最後には大どんでん返しのハッピーエンドが待っている!文:宮本明
2015年02月05日新国立劇場2015/2016シーズンラインアップが発表された。オペラ部門は全10演目。例年同様、新制作3・再演7(内、邦人作品1)となる。新国立劇場オペラの公演情報飯守泰次郎オペラ芸術監督が「新国立劇場は、世界の主要歌劇場として、国際的に高いクオリティを保ち、さらに発展させていくべき存在。そのためには国際的な水準・技量をもったキャスト、そしてレパートリーが重要」と語るように、充実のスタッフ・キャストが揃うラインアップとなった。新制作1本目は、シーズン開幕公演。ワーグナーの超大作「ニーベルングの指環」(4部作)から『ラインの黄金』を取り上げる。ドイツの名演出家ゲッツ・フリードリヒが晩年にフィンランド国立歌劇場で作り上げたプロダクションを上演する。指揮は、ワーグナーの聖地、バイロイト音楽祭で長年キャリアを積んだ飯守オペラ芸術監督が自らタクトを振る。新制作2本目は、同劇場初上演となるヤナーチェクの『イェヌーファ』。世界の主要歌劇場では必ず取り上げられるヤナーチェクだが、日本での上演機会は少ない。演出にはドイツの権威あるオペラ専門誌『オーパンヴェルト』で「年間最高の演出家」を受賞したクリストフ・ロイを迎える。新制作3本目はマスネの『ウェルテル』。演出にはフランスのベテラン、ニコラ・ジョエルを迎える。飯守芸術監督は「(ジョエル)は1976年のバイロイト百年祭で苦楽を共にした仲。久々の再会が楽しみ」と期待を寄せる(同音楽祭で飯守はピエール・ブーレーズの助手、ジョエルはパトリス・シェローの助手を務めた)。再演演目もこれまで好評を博してきた人気作が並ぶ。壮大で華麗な舞台・衣装が魅力の『トスカ』。ヴェルディ最後のオペラで唯一の喜劇『ファルスタッフ』。大人から子どもまで楽しめるファンタジー『魔笛』はオール日本人キャストで。『サロメ』は、ウィーン、パリ、ベルリンでも同役を演じて聴衆を虜にした世界的ソプラノ、ニールントが登場。イタリアのヴェリズモ・オペラの名作からは『アンドレア・シェニエ』を。飯守オペラ芸術監督がタクトを振る『ローエングリン』は、2012年上演時に大好評を博したクラウス・フロリアン・フォークトが再登場。邦人作品は和製オペラの傑作『夕鶴』を上演する。■新国立劇場オペラ2015/2016シーズン2015年10月ワーグナー/楽劇「ニーベルングの指環」序夜ラインの黄金【新制作】11月プッチーニ/トスカ12月ヴェルディ/ファルスタッフ2016年1月モーツァルト/魔笛2・3月ヤナーチェク/イェヌーファ【新制作】3月R.シュトラウス/サロメ4月マスネ/ウェルテル【新制作】4月ジョルダーノ/アンドレア・シェニエ5・6月ワーグナー/ローエングリン7月團伊玖磨/夕鶴
2015年01月23日東京都新宿区の東京オペラシティは10月2日~4日、「オペラシティフェスティバル」を開催する。○音楽やパフォーマンスを無料で観賞同フェスティバルは、芸術の秋にちなんださまざまな催しを開催するイベント。10月2日、3日には「ミュージック&パフォーマンス」と題し、ミュージシャンやパフォーマーが出演する無料観覧イベントを開催。出演アーティストは、2日の18時30分~、19時30分~、20時30分が、ボーカル、ギター・バンジョーの姉妹とバイオリンの女性3人組「Tinysun」によるジャズライブ。同日18時~21時が、「PEPPI THE CLOWN」によるパントマイムのパフォーマンス。3日の18時30分~、20時~が「SANBA NOVA」によるサンバショー。同日18時~21時が「笑太夢(しょうたいむ)」によるマジック+パントマイムパフォーマンス。その他、2日、3日の17時~21時には、東京オペラシティレストラン&ショップの屋台が登場するビアガーデン「オペラキッチン」、射的やスマートボールなどが登場する「オペラ縁日」を開催する。4日の11時~17時には、「MOTTAINAI手づくり市」「楽器体験や手づくり教室などのワークショップ6種」(一部有料)、「アート輪投げ」「謎解き探検ゲーム」などを開催。有機野菜などの宅配サービスを行う「らでぃっしゅぼーや」によるマルシェ「元気市」も開かれる。場所は東京都新宿区西新宿3-20-2東京オペラシティ。
2014年09月30日芸術監督・飯守泰次郎の任期1年目となる新国立劇場オペラ2014/2015シーズンのオープニング公演『パルジファル』が、10月2日(木)に開幕を迎える。新国立劇場オペラ『パルジファル』の公演情報ワーグナー最後のオペラ『パルジファル』は、聖槍と聖杯をめぐる壮大で深淵な物語を、神秘的で荘厳、そして官能的な響きに満ちた音楽が描く。指揮は芸術監督・飯守泰次郎自らが執り、歌手陣には、ジョン・トムリンソン、クリスティアン・フランツ、エヴェリン・ヘルリツィウスなど世界的なワーグナー歌手が集結。また、バイロイト音楽祭ほかで数々の名舞台を手がけてきた巨匠ハリー・クプファーが新演出を担うことも話題のひとつだ。舞台神聖祝典劇と名付けられた『パルジファル』は、宗教色、特にキリスト教的作品としての面が強調されるが、これまでベルリン州立歌劇場ほか一流オペラハウスで幾度も本作を手がけてきたクプファーは、作品の中にある仏教的要素も見逃せないと語る。「ワーグナーは敬虔なキリスト教徒でしたが、生涯を通じて仏教に興味を持ち、仏教という宗教にも取り組んでいました。ワーグナーは本来相容れることのない哲学をミックスして自らの哲学を導くことが出来た人なのです。この作品に登場するクンドリーという女性を例に挙げてみましょう。彼女は、十字架にかけられたキリストを嘲笑したために呪われ、何度も生まれ変わって苦しい人生を歩まなければならない運命にありますが、これはまさに仏教の輪廻の考え方に基づくものです」登場人物の在り方や関係性、物語の結末に至るまで、多様な解釈が成り立つのが本作の大きな特徴だが、今回の演出では、何が善悪かをきっぱりと分けることはしないとクプファーは言う。「登場する人物はそれぞれが“道”を探しています。辛い人生の苦しみからの解放、救済と言い換えても構わないでしょう。その道の先にあるのは“神”であり、キリストかもしれないしブッダかもしれない。それはそれぞれが決めればいいことではないでしょうか」作品の結末はあえて提示せず、観客ひとりひとりに委ねるというクプファー。ワーグナーが描いた壮大な世界観と同様に、あらゆる可能性を内包した演出で、どのような舞台を見せてくれるのか注目だ。新国立劇場オペラ『パルジファル』は、10月2日(木)から14日(火)まで開催(全5回)。◆新国立劇場オペラ『パルジファル』10月2日(木) 16:00開演10月5日(日) 14:00開演10月8日(水) 14:00開演10月8日(水) 14:00開演10月14日(火) 16:00開演新国立劇場 オペラパレス
2014年09月26日神でなく人の手が創造したもので、一番美しいものと言われると何が思い浮かびますか?音楽、美術、文学、映像…、芸術と呼ばれる中にもいろいろありますが、やはりバレエではないでしょうか。素材である肉体を過酷なまでに鍛錬し、緻密に限定された伝統の中で完成度を競う世界は「人間の肉体は美しい!」と認識させてくれる、他に類を見ない美の殿堂だと思うのです。両親ともに著名なバレエ・ダンサーという恵まれた資質を持ち、現在、30歳の若さでオペラ座の顔となったマチュー・ガニオ。世界最高峰のバレエ団パリ・オペラ座で、20歳でエトワールという最高位に昇進し、今年で10年。その美しさの魅力に迫ります。テクニックだけではNG 王子役を踊るため必要なもの「ダンスール・ノーブル」という言葉をご存じですか?これは美しい容姿と高貴な雰囲気を兼ね備えた、いわゆる「王子」役が似合うダンサーのこと。技術的に優れていても、ワイルド過ぎる容姿では王子役は務まりません。最近、2015年末の引退を表明して話題になったシルヴィ・ギエムをかつて取材した時、かなり長身で驚いたのですが、彼女は25歳でオペラ座のエトワールを辞めてしまいました。それもやはり長身を生かしたダイナミックなダンス、つまり「ボレロ」などを踊るためだったのか、と納得したものでした。王子は王子らしく、王女は王女らしく(小柄で)というのは、厳然たるクラシック・バレエの掟です。そして、まさに「ダンスール・ノーブル」を体現しているのがマチューなのです。彼の日々行っているレッスンを紹介している「パリ・オペラ座エトワール マチュー・ガニオのノーブル・バレエ・クラス」というDVDがあるのですが、これがとても感動的です。それは、彼ほどのスターが、あくまで基本に忠実に丁寧にレッスンを課しているのがわかるから。男性舞踊手は、高いジャンプなどの大技以外に、女性の身体を支えるリフトといわれる命にかかわる技も必要です。先日「エトワール・ガラ2014」の舞台で観たマチューは、フィッシュ・ダイブという技で、逆さになったままエビ反るバレリーナの身体をほぼヒザだけで支えながら、顔は役柄のままにシャイで爽やかな笑顔をキープしており、至芸だと思いました。マチューの「清潔なテクニック」のピュアさに癒される映画「ブラック・スワン」の振りつけをして主演であるナタリー・ポートマンと結婚したバンジャマン・ミルピエが、2014/15シーズンから芸術監督に就任したことでも話題となっているオペラ座。このDVDでは、前任者ブリジット・ルフェーブルやオペラ座バレエ学校校長エリザベット・プラテルも、マチューの容姿の美しさを褒めています。同時に、技術の高さ、練習熱心な姿勢、性格の良さ、謙虚さなどを口々に言及しています。まるでバレエ・ダンサーは顔が命!とばかりに、美貌だけを話題にしてはいけないかのようです。とはいえ、以前、英国の2つのロイヤル・バレエ団でプリンシパルを勤めた吉田都さんをインタビューした時、渡欧当初の頃、容姿の違いにものすごく悩んだと伺いました。また、オペラ座初の日本人バレリーナ、藤井美帆さんは「アン・ドゥオール(両脚全体が付け根から足先まで外側に開いている状態)が難しくて苦労しました」とも仰っていました。バレエとはもともと西洋人のための踊りなので、東洋人では肉体の違いを克服するだけでも大変なようです。マチューは、生まれ持った肉体に慢心せず、さらに磨き抜いていると考えると感慨深いものがあります。彼のバレエは、DVDの中で「清潔なテクニック」と評されていました。気負いがなく気品がある王道で正統派な美しさは、壮観ですがとてもピュアなのです。その姿は、リクツでなく生きる力と癒しを与えてくれる気がしています。DVDや写真集で、その一端に触れてみてはいかがでしょうか。・ マチュー・ガニオ DVD ・ マチュー・ガニオ写真集
2014年09月12日