20年以上の毛髪研究の知見に基づき、あらゆる生活者のニーズを満たすトータルヘアケア研究を積極的に進めている大正製薬株式会社。同社はミトコンドリアの中で毛髪に作用する素材を見出し、「老け髪」対策の有用性と可能性について、毛髪最新研究発表会をオンラインで開催した。毛髪サイエンスの最新動向と展望日本毛髪科学協会 理事/毛髪科学研究会 世話人/なごみ皮ふ科 院長 齊藤 典充先生によると、近年加齢による老け髪(白髪・薄毛)の原因として、毛包幹細胞(毛を作り出す)と色素幹細胞(髪色を作り出す)の老化が明らかになったという。細胞にフォーカスした研究が新たな毛髪エイジングを切り開く可能性があり、中でもミトコンドリアを活性させるアプローチが新発想の老け髪予防研究として期待されているそうだ。ミトコンドリア機能異常と老化疾患ミトコンドリアの形態を制御し、品質を管理、正常な働きを保つために欠かせない、ミトコンドリア内の酵素「MITOL(マイトル)」を、世界で初めて学習院大学 理学部 生命科学科 教授 柳 茂 先生が発見。柳先生によれば、加齢に伴いMITOLが減少すると、ミトコンドリアから活性酸素が出て老化へつながるという。実際に研究で、毛髪や皮膚のもとになる角化細胞(ケラチノサイト)のMITOLを欠損させたところ、白髪や脱毛が生じることが明らかになった。また、MITOLを活性化させる成分「ベルベリン」が紫外線によるシワの形成を抑制したり、脱毛を抑制したりすることがマウス実験で判明。細胞の若返りが期待できる、新たな抗老化素材となる可能性に期待を寄せた。MITOLの白髪に関する新発見大正製薬株式会社 セルフメディケーション開発研究所 基盤研究室主任 新井 良平氏は、MITOLを低下させると、色素細胞の増殖抑制やメラニン産生数の低下が起き、さらにはメラニンを角化細胞に受け渡す機能も低下することを発表。色素細胞の維持にはMITOLが極めて重要であることが発表された。またMITOLを高める素材として「ボタンピ」を新たに見出し、ボタンピが毛髪の成長に重要な毛の成長期を延長し、メラニン量を多く維持するなど老け髪予防に有用である可能性を述べた。MITOL×ブラックリバースペプチド1のシナジー効果ネイチャーラボが開発した「ブラックリバースペプチド1」と、MITOL活性化成分のボタンピとの掛け合わせがシナジー効果を生み、白髪や薄毛といった老け髪予防に有用な可能性があるという。こうした知見をもとに、ホームユーステスト*において生活者に「ボタンピエキス」と「ブラックリバースペプチド1」を使用してもらったところ、約40%が「白髪が減少したように感じる」と回答。さらに25%が「髪の毛の量が増えたように感じる」と回答し、そのうち約70%が「白髪が減少したように感じる」と回答した。(*実際に生活者が使用して評価する試験)毛髪も100年時代へ突入し、新たな毛髪サイエンスの進歩から目が離せなくなりそうだ。
2021年07月29日「ケムリ研究室『砂の女』を研究する~リーディング&トーク~」が6月11日(金)にLOFT9 Shibuyaで行われる。この度、イベントの詳細が決定し、5月15日(土)よりチケット発売開始となった。2020年、劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)と、女優・緒川たまきが結成した演劇ユニット「ケムリ研究室」。8月からは第2回公演として安部公房の小説『砂の女』を上演する。本イベントはそれに先駆けて行われるもの。小説『砂の女』から一部抜粋して緒川によるリーディング、KERAと緒川とで『砂の女』について語り合うトークを織り交ぜながら進行していく2時間だ。客席数は新型コロナウイルス感染予防対策のため70席限定だが、同時にツイキャスにて配信も予定されている。そちらでも楽しんでほしい。<ケムリ研究室・コメント>ケムリ研究室ではこの夏、舞台『砂の女』を上演予定です。それはそれはワクワクする演目で、是非ご期待いただきたいのですが、ケムリ研究室としてどの様に手をつけるべきか悩み多き高き山でもあります。安部公房の原作小説をもとに、ああでもない、こうでもない、ああしよう、こうしよう、を地道に繰り返していくその過程を、ちょっとご見学いただくというのはどうだろう、そこから何か、ピリッとしたものが生まれるかもしれない。生まれなければそれはそれでよいではないか。というのがこのイベントの趣旨です。きっと楽しい時間になることでしょう。やがて来る夏に(『砂の女』の上演は夏であることが必須でした)客席から観てくださろうとしている皆様にも小粋な予習になることでしょう。ケムリ研究室、初めての研究会、どうぞ気軽にご見学ください。ケムリ研究室ケラリーノ・サンドロヴィッチ緒川たまき■イベント情報「ケムリ研究室『砂の女』を研究する~リーディング&トーク~」6月11日(金)開場17:00 / 開演17:30(19:30~20:00終了予定)会場:LOFT9 Shibuya※イベント開催時間が開場19:00 / 開演19:30(21:30~22:00終了予定)から変更になりました(5/28追記)会場チケット:前売3,000円 / 当日3,500円(+ドリンク代)70席限定配信チケット:2,000円*6月20日(日)23:59までアーカイブ配信ありチケット発売開始:5月15日(土)10:00詳細: ■公演情報ケムリ研究室no.2『砂の女』8月22日(日)~9月5日(日)会場:シアタートラム(9月兵庫公演あり)東京公演チケット一般発売:7月予定最新情報:
2021年05月12日あまり知られていないが、河野太郎行政改革担当大臣(57)がまたしても研究者たちから喝采されている――。11月27日、河野大臣はツイッターで「研究者の皆さまへ」として下記のようなツイートを投稿。《研究者の皆様へ。競争的資金と運営費交付金の合算使用可能ということを各所管官庁から通知します。令和4年度から科研費の内定通知を2ヶ月前倒しして、2月に採択通知を出します》瞬く間に4,000件を超えるリツイートと1.7万件の「いいね」が押された。ちょっと分かりにくいが、これは前半と後半で2つの別の話をしていると語るのは、全国紙記者。「平たく言うと、前半は、各省庁に申請して審査に通るともらえる『競争的資金』と、文科省から大学を経由して研究者に分配される予算である『営費交付金』という別の2つの資金を合算して使えるようにするという話です。後半部分の『科研費(科学研究費助成事業)』とは『競争的資金』の一つで、これまでは科研費の通知は4月上旬に来ていたのですが、河野大臣はそれを2月に前倒すと宣言したのが後半部分なのです」これが何を意味するか、若手研究者が解説する。「これまでは資金の合算使用ができないために高額機器を導入しにくかったり、年度末の予算消化の調整が難しく、3月末には“大学生協でクリップを買って1円単位の調整をする”という馬鹿らしいことが当たり前にされていました。また、科研費の内定が4月に出るということは、新年度が始まるまでその年に使える予算がわからないということ。ポスドクなどの若手研究者を雇用したくても、4月スタートで雇用できないため、若手研究者の雇用の不安定さも招いていました」今回の河野氏の改革について、前出の全国紙記者は次のように評価する。「実は、こうした改革はこれが初めてじゃないんです。菅政権発足当初、『縦割り110番』が話題になりましたが、河野さんは現政権以前から行革大臣として個人のSNSで意見を吸い上げ、スピーディーに改革していたんです。一般的にはあまり知られていませんが、研究者たちからは絶大な評価を受けています。国会で審議するようなことじゃないけど、まさに縦割りの弊害というような、本当ならすぐに解決できるけど放置されてきた細かな問題を”鶴の一声”で解決してきているんです」研究者たちが「伝説的」と語り継ぐのが、2016年に「Word罫線問題」をあっという間に解決した対応だ。当時、行革担当大臣だった河野氏がツイッターで競争的資金について意見を募集したところ、ある研究者が「科研費申請書のWord罫線が研究者の時間を奪っている」と指摘した。「文科省が指定していたワードの様式がものすごく使いにくかったんです。記入欄の周りを四角く囲った『枠』があり、図などを挿入するたびに罫線がズレるんです……。何か記入する度に様式が崩れては修正を繰り返すという無駄で面倒な作業をずっと強いられてきました。科研費が”当たる”かどうかは、研究者にとって天国と地獄の分かれ道となる死活問題なので、みんな2週間から1ヶ月はかけて必死で作成します。しかし、以前のワードの仕様は明らかな欠陥。研究者の本来の研究の時間と心の健康をかなり奪っていたと思います」(前出の研究者)「Word罫線問題」を知った河野氏は、ツイッターで次のようように質問。《このワードの設定とか罫線とかの話、詳しく教えてください。文科省はシステムの次期更新まで改善できないと言ってますが、ホント?》前出の研究者は次のように話す。「ワードの書式の問題なのに、システムを変更しないとできないってどんなシステムですか(笑)。システムと書式はもちろん別問題です。疑問を呈した研究者に、『罫線などを揃えることで熱意が伝わる』と言い放った役人もいたそうですが、明らかに文科省のやる気の問題です」実際、河野氏は文科省が「できない」と言った、たった6日後に「科研費の申請書の罫線は次回申請から廃止することに決まりました」とツイートし、あっという間に解決してしまったのだ。その後も、SNSで意見を吸い上げ、翌17年にはさらに研究費申請書類にかかる時間の無駄をさらに大きく削減した。「ものすごいページ数を割いて一から作らなければいけなかった共同研究者の業績や経歴欄を、研究者のデータベースを有効利用して、研究者ナンバーをシステムに入力するだけで申請できるように変えてくれたんです。1つの研究費申請書で70ページに及ぶこともあり、作成に200時間以上かかることもザラですが、これでかなり楽になりました」(前出の研究者)今回の改革で研究者たちは大絶賛。《河野さん、ありがとうございます!》《助かります!研究に少しは集中できます!》《3年前に言ってくれてたら研究続けてた》《Mr.Kono, Good job! You are a kind of new type of politician whose Japan really needs for brighter future!!(河野さん、よくやってくれた!河野さんは、日本の明るい未来のために必要な新しいタイプの政治家です!!)》《マジで総理になってください》「これまでの河野さんの改革は、本来の研究に割ける時間が増えただけではなく、若手の安定的な雇用にもつながります。一研究者のためにとどまらず、自由な研究環境があってこそ未来の国益に繋がります。知性を軽んじている現政権の中では珍しく、河野さんは研究の意味と重要性を真に理解していると思います。目立たないところで現場の声に耳を傾け、スピーディーに対応している功績は評価されるべきだし、河野さんに総理大臣になってほしいと思ってる研究者は少なくありません」(前出の研究者)河野氏は、「ハンコ廃止」だけじゃなく、ツイッターでフォローワーの恋愛相談に乗ったり、自らをイケメンと称したり、型破りなところが人気の一因だが、実はすごく良い仕事をしている。(河野大臣、この記事ツイートしてくれないかな)
2020年12月07日当事者研究、仲間たちとの関係についてーー綾屋紗月さん東京大学先端科学技術研究センターで、特任講師として発達障害の当事者研究(※)や、当事者研究の研究などを行っている綾屋紗月さん。幼い頃から家庭や学校で違和感を抱いていましたが、そこにASD(自閉症スペクトラム)の特性が関係していると知ったのは大人になってからだと言います。インタビュー後半では、綾屋さんたちが取り組む「当事者研究」について、また活動を通して出会った仲間たちとの関係について、お話しいただきました。当事者研究とは:一人ひとりが自分自身の困りごとや生きづらさについて研究者となり、周囲の仲間たちと語り合うなかで困りごとへの理解を深めることや、よりよい付き合い方を探していく営みのこと。綾屋紗月さんが主宰する、発達障害当事者による当事者研究活動「おとえもじて」をはじめ、さまざまなテーマ・共通点ごとに当事者研究コミュニティがある。当事者研究を続けるのは、新たな仲間に伝えたいから――綾屋さんは、「当事者研究」をテーマに研究者として活動されていますよね。お仕事についてもお聞きしたいです。綾屋:研究職に就いたのは偶然の重なりのようなもので、わたしはいただいた仕事を一生懸命やってきているだけという感覚があります。自分たちの発達障害当事者としての経験をもとに当事者研究をするだけでなく、専門家の研究にマイノリティ当事者の視点を反映させるための研究をするのが、わたしの主な仕事です。どのようにしたらマイノリティの人たちのニーズや感覚からずれずに研究を進められるのかを突き詰めながら、組織づくりを考えたりしています。Upload By 姫野桂綾屋:学術研究のフィールドでも、自分のマイノリティ特性を研究テーマとして掲げる人はまだまだ少ないので、そういった当事者としての視点も活かせる立場での働きが求められていると感じます。例えば、無理なことはしないとか、「こういう場面では無理をしそうになっちゃうな」ということにちゃんと気づいて記録し、そこにある苦労を細かく拾ったり、普通とは異なるオリジナルの方法で同じ目的にたどりつけるかどうかトライしたりして、発表という形で外に出していくとか。こうしてさまざまな人との人間関係や利害関係が広がっていったことで、当事者研究だけでは対処できない新たな苦労が発生し、当事者研究と同時に、「ソーシャル・マジョリティ」の研究も進んだように感じています。――「ソーシャル・マジョリティ」の研究とは、具体的にはどんな内容なのでしょうか?綾屋:発達障害当事者をはじめとする社会的マイノリティの立場から、多数派社会のルールやコミュニケーションを研究するのがソーシャル・マジョリティ研究です。新しく経験する人間関係の苦労は、わからないことの連続でした。以前であれば怖くなって撤退していましたが、当事者研究で培った研究マインドや、そこで出会った仲間の存在のおかげで、そうしたわからないことに研究的に向き合うことができるようになっていました。そして、いろいろな人とのやりとりを観察し、「あの場面ではどんなことが起きていたのか」「こういうときはどこまでなら言ってもいいのか」などを後から教えてもらい、意味付けを介助してもらうことを重ねました。自分がメールの返信を担当しなければいけないときには、失礼がないか一つずつ確認してもらい、さまざまな視点があることを教えてもらいました。そのようにして3年ほどを過ごすうちに、いわゆる定型発達の人が多い社会……わたしは「娑婆(シャバ)」と呼んでいるんですが、その仕組みを頭で理解できるようになり、「怯えていたほど、シャバの仕組みも難しくないかもしれない」と思える程度にはなりました。こうした経験を、多分野の専門家と共に、研究として整理・分析して発表していくのがソーシャル・マジョリティ研究という試みです。――「シャバ」、思わず使いたくなる表現ですね。シャバのルールが自然とわかるわけではなくとも、頭で理解できれば、スムーズになる物事もありそうです。綾屋:そうですね。知識体系があるとわかったことで、重要なポイントをうっかり踏まないように気をつけることができたり、「あのよくわからないルールを使わなければいけなそうだから撤退しよう」と判断できたりと、サバイブには役立ったと思います。Upload By 姫野桂――今の綾屋さんは、自分のことも、自分を取り巻く環境のことも、学生時代に比べれば理解が深まってきているわけですよね。そうなってくると、自分自身の困りごとを起点とする「当事者研究」は一段落ついてもおかしくないように思うのですが、それでも関連活動を続けているのは、何かモチベーションがあるのでしょうか?綾屋:一段落はしましたが、新しい環境や身体の変化に直面するたびに、「今の自分には何が起きているんだろう」という問いが生まれる自分は、あいかわらずなくなりませんでした。現在のわたしは「生きていく態度」として、当事者研究が一生続くのだろうと感じています。また、それとは別に、仲間に伝えていく、という責任も感じています。自分の当事者研究がある程度終わり、生きやすくなってきたときには、これからどうするのだろうとやはり思いました。当時は「自分は一体何者なのだろう」という問いが、終わってしまった感じがして。今後に悩んでいたときに見学参加した薬物依存症からの回復施設のミーティングで、たまたま読んだ文章が、「今まで誰かにしてもらったことをありがたく思っているのなら、新しい次の仲間に返しなさい」といった内容でした。それで、「ああ、そうなんだ」と思ったんですよね。ちょうどその頃、「次はあなたが当事者グループをやる番だよ」と言われていたけれど、わたしはそんなことできないと思っていたんです。でも、そのときに「あ、やらなきゃいけないんだ」と受け入れて。今もその延長線上にいます。わたしは前に出たいタイプでもないし、人づきあいに対する負担も大きくて、当事者グループを続けて10年目になるのに、いまだに「当事者グループの運営なんて、わたしには向いてない!」と、始まる前は緊張して毎回泣きそうになっています(笑)。「みなさんにお世話になったんだし、新しい仲間に返していくんだよな…」という気持ちに動かされ、また、参加してくれる仲間たちに助けられながら、なんとか続けられている感じです。仲間と出会って得られるものがある。ただ、そこはユートピアというわけではない――これまでのお話に、「仲間」という言葉が何度か出てきましたよね。綾屋さんにとって、仲間とはどんな存在ですか?綾屋:ささやかなつながりを感じられたときに泣いてしまうくらいにうれしい存在です。ただ、しょっちゅう仲良く遊びに行くような感じではなく、数ヶ月に一度、ミーティングの中で近況報告を聞くような関係が何年も続くのが、自分にとってちょうどいい距離感の仲間ですね。依存症当事者の人たちの言葉に、「迷惑をかけられたりしても、仲間だから仕方がない」というものがあるのですが、それもすごくしっくりきます。いいことばかりをもたらしてくれるわけではないけれど、大変なときも相手の状態を想像して、受け入れられる人たち。本名も、年齢も、バックグラウンドも全然知らないこともあります。でも、その人の困っていることや考えてきたことなど、内面をわかちあえる関係です。学生時代も含めたシャバでの人間関係というものは、なんだか虚勢を張り合っていて、なかなか自分の弱さは見せられないようだな、という印象を持っています。でも、今の仲間とのつながりは弱さを公開し、自分の恥ずかしくて情けない話からスタートできる。正直すぎるぐらい正直に話しても大丈夫、という基準が共通しているのは、すごく楽ですね。「ああ、人とつながれて、自分ともつながれた」と思えたのは、本当にこの10年ほどのことです。Upload By 姫野桂――近い特性を持つ人同士なら、問題なくつながれることもあるんですよね。わたしも発達障害の当事者ですが、サバイブのためにシャバに対応していく必要性や、それによって楽になる部分があるのを理解しつつも、なぜマイノリティだけがそこに力を割かねばならないのだろうと、やるせなさを感じることがあります。綾屋:それは、本当にそうですよね。わたしはたまたまマイノリティに囲まれた場所を選べているので、職場ぐらいまでなら自分の話も認められるし、恵まれた環境にいる、助かっているなあと思います。でも、わたしの仲間の多くは、それこそシャバで障害者就労等をして、苦労しているわけで。そこにどうやってわたしたちが貢献していけるのかを考えて、今、組織側をマイノリティに合わせて変えていくためのアプローチもし始めたところです。――もし、今後の働き方や生き方に悩む発達障害当事者から相談を受けたら、綾屋さんはどんな話をしますか?綾屋:そうですね……人それぞれですし、難しいですが。先ほど話したような職場環境を変えていくための働きかけには、賛同してくれる企業も少なくはないんです。おそらく、どう対応したらいいか企業側もわかっていないような状況なのだと思います。そんな中で、長期的に考えたときに勧めたいのは、仲間とつながる場を作っていくことです。世代を超えて縦につながることと、若い人同士で横の仲間とつながることの両方が、早めにできたらいいのではないかと思います。――仲間とつながることで、何が起こるのでしょうか?綾屋:当事者研究というやり方にこだわらなくてもいいのですが、自分たちは確かにこうなんだな、ということが、似た身体を持つ人と出会うとわかるようになります。あるあるネタが見つかったり、似た人と集まっても残る違いに気づき、「この部分は障害ではなく、自分のオリジナルなのかな」と思うことがあったり。そういうマイノリティ性に関する共通点や差異は、多数派の中にいては絶対に見つけられないんです。シャバ以外の場所で仲間と出会うことで、「ああ、ここだったら自分の当たり前が、他の人にとっても当然のルールになるじゃん」と感じられることもあります。それが、自分の安心材料になっていくんですよね。例えば、以前、発達障害の当事者が集まっていたとき、準備中にマイクのハウリングが起きたんです。すると、その場にいた人がみんな、耳を塞いだり、しゃがみこんだり、ギャーッと言ったり、大騒ぎになりました。シャバだと多分、「それぐらいで耳を塞ぐの?」と思われるような状況でしたし、わたしも我慢していたかもしれないのですが、そこではわたしも含め、一斉にみんなが耳を塞いだことに何か「文化」のようなものを感じました(笑)。そういう風に仲間同士の空間では、相手と仲がいいか悪いか、相手の性格を好きか嫌いかなどを超えて、身体的な感覚を分かち合い、つながりを感じられるんですね。そんな経験があれば、自分の感じ方に素直に振る舞っても大丈夫な場所が確かにあると思えます。多数派の中だけで過ごしていると、そこのルール以外を知りにくいので、どうしても適応する方向へ動きがちです。でも、仲間と出会えていれば、自分の身体を承認できて、シャバにいるときでもちょっと適応しきらないような、工夫した対応の仕方もできるようになると思うんです。それに、仲間と一緒にいれば、大学選びやきちんと対応してくれる企業に関する情報、生活保護の取り方のルートなど、多数派の間ではなかなか話されないような情報についても、重要情報として交換できるかもしれません。発達障害に関しては、そういったコミュニティが、これからできていくところだと思います。わたしたちの世代では残された時間で達成するのが難しいかもしれないので、そこは若い世代に託したいところですね。Upload By 姫野桂――そのような仲間とのコミュニティを作っていくときに、何か気をつけたほうがいいことはありますか?綾屋:「似たような人たちで集まればユートピアになる」とは限らないのを、認識しておくといいかもしれません。シャバの中では排除されがちな人たちが集まるわけですから、そこで初めて人間関係を結ぶ場合もあるわけですよね。当然、うまくいかないことはたくさん起きます。しかし、そのときようやく、シャバではできなかった、自分たちにとって「わけのわかる」ケンカを初めて経験したり、解決の仕方を学んだりする場にもなりうるわけです。発達障害当事者の集まりでなくとも、そのような人間関係のトラブルは起こりうるものです。上の世代が手助けしたり、気を配れる部分は配ったりして一定の安全を保ちつつも、高校生ぐらいになったら、管理や監視のない空間で、仲間との関係性を味わえるような場所を自分たちで作れるようになったらいいなと思っています。――綾屋さんは、お子さんが2人いらっしゃいますよね。保護者と子の距離感については、どうお考えでしょうか?綾屋:子どもに対する愛情は十分に持ちつつも、手を出し過ぎず、見守るような距離が必要だと思います。親と子では親のほうが当然権力が強かったり、子がマイノリティでも親がマジョリティだったりするので、どんなに親が親切にしようとしても、できることには限界があるんですよね。親が一生懸命、子どもと環境を適応させようと支援することで、本人が学ぶべきことを取り上げてしまい、経験するはずだった苦労を奪ってしまうこともある。一概には言えない、匙加減が難しい話をしていますし、もちろん、マイノリティ性があるかどうかにかかわらず、ひどいいじめに合っている子どもを放っておくのは論外です。ただ、もし親が子どものマイノリティ性に対して「なんとかしてあげなきゃ」と不安に思ったり、熱心に頑張ってしまったりしている場合は、自分と子を切り離して考えて、「子どもが親以外の手を借りて対応していけるようにするためには何をするべきか」を考えることが重要だと思っています。そのときに子どもが頼れる相手として、仲間や、医師・教師・カウンセラーなど親以外の支援者もいますし、介助者を利用する方法もあります。家庭で親がなんでも先回りしてやってあげてしまうと、自分主体で動く力を子どもが養うことはできません。例えば、ある程度、言葉を扱えるお子さんであれば、将来的には本人が主体的に「ご飯作りをお願いできますか」「片付けを手助けしてほしいのですが」と自らのニーズを伝えていけるような関係や距離でやっていけるようになるのが理想かもしれません。周囲の人々の目の厳しさやしがらみ、親としてきちんとやれているのだろうかと不安な気持ちはわかります。わたしも暗中模索で今までやってきました。それでも、仲間とつながるためのサポート等のできることはしながらも、子は子でやっていけるように、親と子を分離していく意識を持っていたいです。(終わり)和やかな語り口で濃厚な話をしてくださった綾屋さん。幼い頃の「自分自身のわからなさ」を、大人になってから時間をかけて受け入れていくまでの、苦労や発見を教えてもらえた気がします。綾屋さんとシャバ(マジョリティ)との関係性も、興味深いものでした。マイノリティの仲間とつながった後には、シャバと交わることで学べるものや新たに知れることもあるかもしれません。Upload By 姫野桂取材・文:姫野桂編集:鈴木悠平・佐藤はるか撮影:鈴木江実子
2020年10月29日香港の研究者が世界で初めて実証した、新型コロナウイルスの再感染。研究者によると、4月に感染した男性が8月15日に再び感染したという。またベルギーやオランダでも相次いで同様の事例が報告されている。その要因として取りざたされているのが、抗体。感染後に多くの人が獲得する抗体だが、時間が経つことで消失し、再感染のリスクが高まるというのだ。元WHO専門委員でハーバード大卒の医学博士・左門新先生は、「抗体が消えていても再感染者は抗体を素早く作れることがある」としつつも、再感染者による感染拡大についてこう指摘する。「再感染した人が別の人にうつす可能性はあります。発症すればもちろんのこと、発症していなくても喉やつばにウイルスがいるということなので人への感染リスクはあります。また2度目の場合、軽症になることも多く、無症状で再感染している場合も多いかもしれません。そうなると無自覚に感染を広げる可能性があるので厄介です」今冬の大規模な感染拡大を懸念するのが大阪健康安全基盤研究所の奥野良信理事長だ。「再感染を含めて、毎年、大小の波はありつつ継続的に感染が起きる可能性は高いと感じています。ウイルスは熱に強いけど、湿度が高ければ下に落ちます。インフルエンザも最初は夏に発生して、冬に感染が爆発的に広がった。これから日本は秋から冬にかけて空気も乾燥しますし、インフルエンザの流行もコロナ感染と同時並行で発生することになります。本番は冬になるでしょう」現時点での日本の累計感染者数は約6万7千人。つまり、この全員が再感染者予備群ということ。無自覚な行動によっては、当然、第3波も起こりうることになる。その抑止力として期待されるのが総力をあげて開発が進められているワクチンだ。政府は28日、来年前半までに国民全員に提供できる量のワクチンを確保すると発表したが、過信は禁物だ。奥野先生は言う。「現状、ウイルス感染症で実用されているのはインフルエンザワクチンだけで、それ以外はうまく進んでいないのが実情です。コロナのワクチンにも期待したいですが、本来なら長い時間をかけて開発するもの。完璧に抑えることはできないでしょう」一度感染してもまったく安心できず、終わりの見えないコロナとの闘い。左門先生は対策として、飛沫感染ばかりでなく、徹底した接触感染への意識が必要だと説く。「感染経路不明者が5割ほどいますが、実際は接触感染の可能性があります。しかし、これらは限りなく自衛できます。スーパーのかごなどには直接手で触れないこと。また消毒液を携帯し、外出先で何か触ったらそのつど、消毒することを徹底すればいいのです」そして、何よりも大切なのは“日常生活での意識”だという。「一度感染したら2~3カ月は再感染する危険性は低いと思いますが、それ以降は油断してはいけません。“2度はかからない”と妄信して、居酒屋を飲み歩いたりしている人は注意が必要です。むしろ、発症してから3カ月以降は、未感染の人と感染する確率は変わらないので、その油断の分だけ感染リスクは高いかもしれません」“一度かかっているから自分は大丈夫”。こうした根拠のない気の緩みが取り返しのつかない事態を招くと意識して、今後も慎重な行動を心がけることが第3波を防ぐ唯一の方法なのかもしれない。「女性自身」2020年9月15日号 掲載
2020年09月04日毎年の夏休みの自由研究、保護者のみなさんはどこまで手助けしていますか?子どものやりたいこと、やる気を引き出しながら、親としていかにうまくサポートできるか…なかなか難しいですよね。今回は、手伝いすぎて大失敗したわが家の例も交えながら、ベストな方法を探ってみましょう。手伝いすぎて大失敗、わが家の例◆小1、学童で作った簡単な工作で選出、本人やる気スイッチオン娘が小1のとき、本人はもちろん、私自身も親として何をしていいのかわかりませんでした。なので、夏休み明けには、本人が夏休み中に学童で作ってきた簡単な工作を提出しました。すると、それがなんと市の作品展に展示されることに!初めてのことに子どもは大喜び!「来年は賞をとる」と気合いが入りました。◆小2、こんなの作りたい!手伝いのパパやる気スイッチオンそして小2のとき。子どもがこんなのを作りたいとアイデアを出したので、パパが担当でお手伝いをすることになりました。純粋に子どもが「こうしたい」と言うのをサポートする感じで、材料集めやひとりではできない部分を少し手伝っていました。この年は、市の作品展に出展、なんと入賞しました。◆小3、子どものやる気を完全に奪ったパパやる気全開小2の入賞後は、俄然、パパのやる気がヒートアップ。小3の夏休みになると、娘に「次はこんなのを作ろうか」と勝手にアイデア出しをして、どうやって作れるのかの詳細をネットで調べ、「こうやったら作れるよ」と提案。盛り上がるパパに言われるがままに、娘は作業を実行。かなり大がかりな作品ができあがりました。大きな作品だったので、夏休み明けは作品を運ぶためにパパも一緒に登校。娘は、自分が作った自慢の作品という思いもないようで、そんな大きな作品を持っていくのもちょっとはずかしいという感じでした。大満足なパパでしたが、その年は、市の作品展に出品されることはなく、教室内での展示にとどまりました。子どもらしい発想の作品がベスト娘が小3のときに作ったものは、金のこをつかって金属を切ったり、電池を使って電気がついたりするものでした。材料も普段目にすることもないものを、パパがお金をかけて用意していましたし、小3が学校で習っている知識のレベルでできるものではなかったので、どう考えても子どもの発想ではないですね。子どもが自分で作れるものではないような作品を作り、結果、子どものやる気を奪ってしまいました。賞をとることが目的ではないですが、子どもの発想と子どもの知識の中でできる作品でないと、評価という面でもマイナスになるんだなと改めて思い知らされました。子どもにやらせなければいけない点、親が手伝うべきこと◆何をするのか、どうやったらそれができるのか子どもが何か言い出す前に、親から「こんなのどう?」と言うのはNG。まずは子どもの意見を尊重しなければなりません。親のアイデアを先に言葉にすると、子どもの発想がそこでストップしてしまうので、子どもがどんなことをしたいのかをうまく聞き出しましょう。そして、それが明確になったら、どうやったらそれができるのかを一緒に考えます。「こうしたい」けれど「どうやったらできるかわからない」ということであれば、少しアイデアを足してあげるといいですね。◆準備するものへの考え方何をするか決まったら、何が必要か一緒に考えて準備しましょう。家にあるもので使えるものはないかを考えたり、買う必要のあるものは、親が買ってくるのではなく、できれば一緒に買いに行きましょう。そして「身近なもので作ることができる」「お金をかけすぎない」ということも頭に入れておいた方がいいと思います。親がつい必要以上にやる気になったり、わが子によりよいものを創作してほしいという気持ちになるのは、よくわかります。ただ、あくまでも「自由研究は子どもの宿題」ということを肝に銘じて、子どもが自分自身でこれをやりたいと思ったものを、どうしたら実現できるのかを一緒に考え、サポートすることが大切だと思います。適度なアドバイスで子どもらしい作品づくりを手助けできるといいですね。<文・写真:ライター鳥山由紀>
2020年08月18日あれもイヤ、これもイヤ。2歳前後から始まるとされる「イヤイヤ期」。出かける直前に子どものイヤイヤが始まってしまった日には、ママもパパも途方に暮れますよね。イヤイヤを乗り越えるためのいい方法はあるのでしょうか? 脳研究者で下のお子さんがまさにイヤイヤ期の真っただ中という脳研究者の池谷裕二先生に、ご自身の経験も交えたお話をうかがいました。池谷裕二先生 プロフィール研究者、薬学博士。東京大学・薬学部教授。専門は神経科学および薬理学で、脳の成長や老化について研究している。『海馬』(新潮文庫)、『進化しすぎた脳』(講談社ブルーバックス)など著書多数。近著に『パパは脳研究者』(クレヨンハウス)がある。プライベートでは二児の父。■子どものイヤイヤ「脳内の成長の証!?」―― イヤイヤをする時に子どもの脳内ではどんなことが起きているのでしょうか?池谷裕二先生(以下、池谷先生):そうですね。イヤイヤをするのは、願望がかなわなくてイライラしている状態といえます。「自分のやりたいこと=近未来像をイメージして、現状がそれにそぐわない、できないことを「認知」しているんですね。2歳くらいにして時間軸が心の中にあるんです。―― イヤイヤと付き合うのが大変な一方で、ものすごい成長も感じられます。池谷先生:とはいっても、そこまでの論理性はまだないんですね。大人にとって当たり前なことは通用しませんからね。例えば、おもちゃを取り上げるとイヤイヤが始まって、なだめようとお菓子をあげてもイヤイヤ、世の中を全否定するような勢いでイヤイヤしますよね。でも、そのイヤイヤは長続きしなくて、しばらくするとケロッとしています。1分後は無理でも、あとになってお菓子を受け取ったりしますよね。■子どものイヤイヤ「原因を取り除いておくのが鉄則」―― たしかにそうですね。「あれ? もういいの?」ってなります。そして、多くのママたちがイヤイヤ期の対処法に困っています。どうすればスムーズにいくのでしょうか?池谷先生: 朝、出勤前にイヤイヤされるともうお手上げ状態ですよね。おそらく「早くしなくては」という親のイライラも伝わっているのでしょう。一度始まったイヤイヤを止めるのは難しいですから、そもそも「イヤイヤさせない」ことが大前提です。お弁当作り、片づけや洗濯、朝はやることがいろいろとありますが、優先順位の最上位が「イヤイヤさせないこと」と認識しておくといいですね。―― 例えば、子どもがおもちゃを持ってきたら、イヤイヤさせないために忙しくても付き合ってあげたほうがいいということでしょうか?池谷先生:いえいえ、朝はお気に入りのおもちゃも目に入らない場所にしまっておくのです。おもちゃが置いてあると、出かける時間になっても遊ぶのをやめなかったり、保育園などに「持って行きたい」と言い出したりして、イヤイヤの原因になりますよね? イヤイヤの原因となるものを取り除いておくことが大切なんです。玄関に子どもの靴を2足、3足と置いてあるから「こっちじゃなきゃイヤ」となってしまう。1足だけを置いて、選択肢を与えないようにします。ほかにも、リモコンが好きな子なら、リモコンは目の届かない場所に置くとか。朝、子どもが起きてくるまでに、子どもが気にしそうなイヤイヤの原因となり得るありとあらゆるものを取り除いておくことがポイントです。うちのイヤイヤ期の子にもそうしています。それでも完璧ではない時があって、子どもが遊び始めると「あ、そこにまだあったか~」となりますけどね(笑)。■子どものイヤイヤ「それでも始まってしまったら?」―― 何よりも優先してイヤイヤの原因を取り除くことが大事なんですね! それでもイヤイヤが始まった場合はどうすればいいのでしょうか?池谷先生: イヤイヤが始まってしまったら、以前にもお伝えしましたが、機嫌を直せるのは親ではなく子どもだけです。子どもはほかの子どもの言うことはよく聞きますよね。顔から火が出るくらい恥ずかしいですが、誰も見ていない家の中では思い切って親も2歳児になりきりましょう! 遊ぶのをやめなかったら、2歳の子になりきって「ぞうさん、いた~!」などと一緒に遊び、「あっち、行こう!」と玄関に誘ってみてはいかがでしょう。―― 2歳児になりきる…! 衝撃です(笑)。池谷先生:仲間だと認識してもらえれば、子どもは心を開いてくれるはずです。イヤイヤに真正面から付き合うと10分、15分…と本当にハードなので、2歳児になりきることがおすすめです。もちろん、本当に時間がない時にそんな余裕はないので、子どもを抱えて走ります。走りながら、2歳児になりきって話しかけてみるといいですよ。ただ、これまでお伝えしてきた「イヤイヤさせない」ことはあくまでも「親都合」の話です。イヤイヤさせないことはイヤイヤすることの機会損失ともいえるわけです。イヤイヤすることが成長過程で必要なのかどうか研究ではわかっていません。同様に、イヤイヤさせないことがいいかどうかもデータがないので、わかっていません。気になるようであれば、「朝だけはイヤイヤさせない」と割り切って、その分、夕方や休みの日にイヤイヤに付き合ってあげるといいですね。
2018年07月30日2人目、3人目…と下にきょうだいができると、遊んだり食事をしたり、ふとした瞬間に「上の子と違うかも?」と思うことはありませんか? 上の子は真面目、下の子は自由奔放など、幼児や小学生になる頃には、きょうだいの性格の差もはっきり。なぜ、同じ親から生まれ、同じ屋根の下で暮らしているのに、きょうだいで性格はこうも異なるのでしょうか? きょうだいと一緒に育つ子どもの脳内では、どんなことが起こっているのでしょうか?脳研究者でご自身も子育て真っ最中の池谷裕二先生にお話をうかがいました。池谷裕二先生 プロフィール研究者、薬学博士。東京大学・薬学部教授。専門は神経科学および薬理学で、脳の成長や老化について研究している。『海馬』(新潮文庫)、『進化しすぎた脳』(講談社ブルーバックス)など著書多数。近著に『パパは脳研究者』(クレヨンハウス)がある。プライベートでは二児の父。■きょうだいの性格「先天的な違い」はごくわずか!?―― 同じ環境で過ごしているのに「きょうだいで性格が違う」と感じるママパパは多いようです。それはどうしてなのでしょうか? 生まれ順も影響していますか?池谷裕二先生(以下、池谷先生): 生まれ順による心理的な影響は確かにあるでしょうね。でも、科学の目から見ると、きょうだいの性格にほとんど違いはないはずです。同じ親から生まれたきょうだいであれば、遺伝子も半分は同じですから。―― そうなんですか!? わかるような、わからないような…。池谷先生:きょうだいといえども、半分の遺伝子は同じですが、もう半分は違うわけです。きょうだいで片方だけが身長が高いなど、身体的な特徴と同じように、性格がまるで違うケースも中にはあります。でも、周りにいるきょうだいのお子さんたちを思い浮かべてみてください。顔や体つきなどの外見が似ていることのほうが多いですよね? それなのに、どうして性格だけがまったく異なるといえるのでしょう? 性格を作り出している脳も体の一部ですから、本来はそっくりのはずなのです。二卵性の双子にも同じことがいえます。 ■脳が「子どもの違い」をあえて見いだそうとしている―― なるほど。では多くの親が「うちの子たちは本当に性格が違うのよね」と感じてしまうのはどうしてなのでしょうか?池谷先生:それは、脳の元来の目的が「差分検出器」だからだと思います。「差分検出器」とは共通しているものではなく、違いを見いだすこと。脳にはそういうクセがあるのです。極端ですが、カエルを例にあげてみましょう。カエルには止まっているものはよく見えていません。動くものが小さければ虫だと思って舌を出し、大きければヘビだと思って逃げます。ヒトも視界の片隅で動くもの、すなわち違いがあれば、それを見ようとしますよね。「違いを見いだす」という意味では、人もカエルも同じなんです(笑)。―― なんと、カエルと同じとは…! 衝撃が走りました。池谷先生:さらにいうと、脳は違いを細分化しようとするんですね。ライオンから見れば、ヒトは全部同じですよね。でも、人間はそうは思わない。日本に住む私たちからすればアメリカ人と日本人は違うし、韓国人と日本人も外見は異なります。もっといってしまえば、隣の子とわが子は違いますよね。そうやって細かいところにどんどん目がいくように脳はできているので、きょうだいの違いばかりに目が向くのです。本来の違いはごく一部であって、共通していることのほうが多いはずなのに。■「性格が正反対」と感じるのは子どもをよく見ている証拠―― 違いばかりに目がいくようにできているとは驚きました!池谷先生:きょうだいの性格を正反対に感じるというのは、親としてお子さんたちをよく見ている証拠ともいえます。毎日頑張って子育てしているからこそ、見えてくるものですね。ただ、気をつけてほしいのは、違いを見つけることが「アラ探し」になってしまうこと。例えば、出かけるときに上の子はさっさと用意するのに、下の子はマイペースで時間がかかるなど、きょうだいを見比べると、人はどうしても悪いほうに目がいきがちです。「弟はできているのにどうしてあなたはできないの?」などと、きょうだい間での差別に結びつけないよう、その点だけは注意してほしいなと思います。
2018年06月06日子どもが友だちと遊べるようになると気になり始めるのが、わが子や周りの子の性格。観察していると「おとなしく友だちと遊んでいる」のは女の子が多いと思ったことはありませんか? 一方で「走り回ってやんちゃばかりする」と思えるのは男の子が多いかも!?ママ友や保育園・幼稚園の先生からも言われると、ますます気になりますよね。そもそも、子どもの頃から男女の性格に差はあるのでしょうか? 脳研究者の池谷裕二先生に教えていただきました。池谷裕二先生 プロフィール研究者、薬学博士。東京大学・薬学部教授。専門は神経科学および薬理学で、脳の成長や老化について研究している。『海馬』(新潮文庫)、『進化しすぎた脳』(講談社ブルーバックス)など著書多数。近著に『パパは脳研究者』(クレヨンハウス)がある。プライベートでは二児の父。■「男の子はやんちゃ、女の子はおとなしい」周囲の大人が決めつけている!?―― 今回は「男女の性格に差があるか」についてです。男の子らしさ、女の子らしさというのは生まれつきあるのでしょうか?池谷裕二先生(以下、池谷先生):生物学的に見ると、性成熟する前の9歳くらいまでの男女には、性格の差がほとんどないといわれています。でも、自分の子や周りの子を見渡してあらためて考えてみても、やはりそうは思えない時がありますよね。かくいう私自身もその一人です(笑)。「確証バイアス」がかかっているのではないでしょうか。「確証バイアス」とは、自分の考えに合うものについては取り入れ、合わないものは無視してしまう傾向で、多かれ少なかれ誰にでもあることです。「男の子はやんちゃ、女の子はおとなしい」と考える人だったら、それに合う子ばかりを見ようとしてしまう。つまり、「見る側の問題」ともいえます。―― 自分側に男女差のフィルターがかかってしまっているということなんですね。池谷先生:そうですね。例えば、女の子がやんちゃをしてテーブルの上に乗ったら、周囲の大人はあわてて止めようとしますが、男の子だったらどうでしょう。もしかしたら、「もうやんちゃなんだから」と危険がなければ放っておく人もいるかもしれません。人生経験わずか数年でも、親や周囲の大人が男女の差があるような接し方をしていると、自然と子どもにも伝わっていくものです。言葉だけでなく、無意識のうちにそういう環境を作り上げているかもしれませんね。男女の性格の差を感じる理由として、環境による影響は大きいと思います。 ■親の与える環境が男の子らしさ・女の子らしさを作っている!?―― なるほど。環境を作り上げているとはどういうことでしょうか?池谷先生:例えば、男の子の親が「男の子=乗り物好き」と思い込んで、積極的に乗り物の絵本を買い与えることはありませんか? でも、女の子の親だったら、子どもが乗り物に興味を示していても、「そっか、好きなんだね」と受け流してしまうかもしれません。一方でプリンセスに興味を示したら「やっぱり好きなんだね」と積極的にテレビ番組を見せる人もいるでしょう。―― すごく思い当たります(笑)。洋服も女の子らしい色やデザインのものを選ぶことがあります。池谷先生:まさしく。そういう環境を作り出していくことを「ニッチ構築」といいます。それもあってか、海外の研究でお見合いサイトの写真を調べたら、特に指定はしていないのに、女性は上からのアングルで従順そうなイメージに、男性は下からのアングルで強そうなイメージに撮影されたものが多い傾向にありました。■外見だけではない「親から子へ性格も遺伝する」―― 子どものころから親や社会の影響を受けてきたということですね。池谷先生:そうですね。ただ、各ご家庭の方針もあるでしょうから、一概に男の子らしさ・女の子らしさがあるのを良い悪いとは言えません。―― 「うちは男の子なのにすごくおとなしくて…」と気にするママもたまに見かけます。池谷先生:もしかしたら、親のどちらかが子どもの頃、そうだったのかもしれません。外見だけではなく性格にも遺伝はありますからね。昔はおとなしかったけど大人になって社交的な性格に変わって、親自身が忘れてしまっている可能性もあります。男の子らしく育てたければそういう環境を与えればいいのでしょうが、その子の個性を尊重してあげてもいいのかなと思いますね。―― 「女の子のほうがしっかりしている」といわれることもありますよね。それも大人側の思い込みでしょうか。池谷先生:たしかに私自身も女の子のほうがしっかりしているように感じます。ただし、厳密に科学的な見地からは、それが真実かはわかりませんが、そう感じてしまうのは見る側のフィルターと環境によるところが大きいと思いますよ。
2018年05月29日赤ちゃんが生まれると、育児に家事に奔走するママたち。悪気がないのはわかるけれども、そこに追い打ちをかけるのが、夫の行動ですね。「子どもを早く寝かせたいのに、仕事から帰ってくるなりテレビをつけてしまう」「家事をしたいのに、子どもの面倒を見てくれずスマホばかり見ている」などママたちのイライラは募る一方…。つい文句を言ってしまって夫婦げんかになることはありませんか?子どもが生まれる前はけんかをしない仲良し夫婦だったのに、なぜ産後はけんかが増えるのでしょうか? 脳研究者で自身も子育て中の池谷裕二先生にお話をうかがいました。池谷裕二先生 プロフィール研究者、薬学博士。東京大学・薬学部教授。専門は神経科学および薬理学で、脳の成長や老化について研究している。『海馬』(新潮文庫)、『進化しすぎた脳』(講談社ブルーバックス)など著書多数。近著に『パパは脳研究者』(クレヨンハウス)がある。プライベートでは二児の父。■育児で脳がスタミナ切れ!? ママの脳内で起きていたのは…―― 仲の良かった夫婦が、産後、急にけんかが増えたという話を聞きます。なぜそのようなことが起きるのでしょうか?池谷裕二先生(以下、池谷先生):まず、考えられることとして、脳の「自我消耗」があります。自我消耗とは何かひとつのことにパワーを費やすと、別のことにパワーを使えなくなることを指します。言い換えれば、「精神力のスタミナ」を使い果たしてしまうこと。ママたちは初めての育児だと特に精神面での負担が大きく、育児で精神力が尽きてしまった結果、夫婦関係にまで気が回らなくなってしまっているのではないでしょうか。―― たしかに、一日の生活の中で子ども優先に考えるようになるので、夫のことはつい後回しにということはあるかもしれません。池谷先生:自我消耗は産後に限った話ではなく、あらゆる人に起こります。たとえば、気力の充実している午前よりも、疲れの出てくる午後のほうが、人はウソをつきやすくなる傾向にあります。海外旅行でお金をドーンと使ってしまうのもそう。初めての場所で極度の緊張状態からそうなってしまうのです。「対ストレス」という意味では、一般的に人生経験が少なく若い人ほど自我消耗しやすいといわれています。多くのママがそれに当てはまり自我消耗しやすいため、けんかが多くなると言えるでしょう。■産後のイライラ、実は「子どもを守るため」―― よく聞かれるのが、産後のママはホルモンバランスが変わってイライラするということ。やはりホルモンの影響はあるのでしょうか?池谷先生:そうですね。イライラとはちょっと違うかもしれませんが、「オキシトシン」の影響が大きいと思います。「オキシトシン」とは、子育て中に出るホルモンで、別名「愛情ホルモン」とも言われるので聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。生物学的に見て、産後すぐから1年間くらいまでがピークです。オキシトシンの影響で子どもに対して無償の愛情を注ぐ一方で、わが子を守るがゆえに他者に対して攻撃性が増すという側面もあります。人間がまったく同じとはいえませんが、赤ちゃん連れの猫や猿が攻撃的になっている姿を思い浮かべていただければわかりやすいかと思います(笑)。―― 同じ家族なのに攻撃されてしまうパパが気の毒になってきました(笑)。池谷先生:いえいえ、オキシトシンは何も女性だけに出るものではないんですよ。子育てへの参加率が高い男性からもオキシトシンが出ていることがわかっています。パパもぜひ育児に積極的に参加してみてはいかがでしょう。 ■「自分ばかり家事育児をやっている」は単なる思い込み!?―― ママたちの間でよく話題になりがちなのが、「夫が家事をしてくれない」「家にいる自分ばかりがやっている」ということですが、それについて先生はどう思われますか?池谷先生:物理的にパパのほうが仕事で外にいる時間が長く、家事をやる時間が短くなる傾向はあるでしょう。ただ、ママのほうに「セルフ・サービング・バイアス(自己奉仕バイアス)」がかかっている場合もあるといえます。セルフ・サービング・バイアスとは、何か問題が起きて原因を考える際に、自分を高く評価し、外部に原因を追究してしまうこと。自分の手柄ばかりに注目して、他人を怠慢と思い込んでしまうのです。そうすると、「もう、いつも私ばかり食器を洗っている!」なんていうことになってしまいます。―― そうなんですか!? 世の中のママたちから反論を受けそうです。池谷先生:ここはパパの立場として弁解させてください。パパたちも言わないだけで家のことや子どもの面倒をみていることだってあるんですよ。よく思い起こしてみたら、「実はお風呂上がりにお風呂掃除をしてくれていた」「たまっていた段ボールを捨ててくれていた」なんてことがあるかもしれません。冷静に判断してみるといいですね。■夫婦円満…それって必要? 産後は“防御と割り切り”で乗り切る―― なるほど。最後に、夫婦円満になるための秘訣を教えてください。池谷先生:円満になる必要はないですよ。産後すぐの時期はオキシトシンの影響もあって、なかなかうまくいかないもの。ここは、産後をどう乗り切るか考えてみるといいでしょう。―― ええ!? どうすればいいのでしょうか?池谷先生:パパはママから攻撃されない工夫をしましょう。産後、イライラしているママにあれこれ言うだけムダです。パパは具体的に指示されたほうが動きやすいので、ママが何をしてほしいのか率先して聞いてみるのもいいですね。一方のママは、「イライラしている自分」にイライラしないことが大切です。「なんだか私イライラしているな。でもホルモンのせいだから仕方ないか」などと割り切れるといいですね。ママ自身もパパになるべく具体的にやってほしいことを言うといいでしょう。ちなみに、夫をたてようとして、ママたちの輪の中で「うちの夫は家事も育児もよくやってくれて~」みたいな話をするのはやめたほうがいいでしょう。ママ同士で「夫自慢大会」をすると、かえって自分の夫に足りない部分に目がいってしまう傾向があります。実際に「妻が不満に思うかどうかは、友人の夫の手伝いぶりで決まる」というデータがあるのです。夫の良いところはわかっていても、「あそこの家は〇〇やってくれるのに、うちは…」みたいに“あら”が見えてくるようになり、かえって夫婦仲が悪化してしまっては大変です。「自慢も愚痴もなるべくなら言わない」のが一番ですね。
2018年05月20日夏休みも半ばに差しかかってくると、たまっている宿題が気にかかるもの。特に、自由研究や自由工作の大物がまだ片付いてないと焦りますよね。そこで、「子どもがまだ何をやるかも決めてない!」という方のために、このテーマの強~い味方である東急ハンズに、低学年におすすめの自由工作&自由研究を聞いてきました。世界にたったひとつ!自分だけのオリジナル作品を作ろう1. 時計の勉強を先取り! 時計工作文字盤にいろいろなカタチのパーツを自由に貼り付けたり、好きな絵を描いたりして、自分だけのオリジナルの時計が作れます。もちろん、作った後は部屋の壁にかけて楽しむことも。小学2年生くらいから学校で時計の読み方を習うので、ちょうどいい勉強にもなりますね! 2. 組み立て心をくすぐる、太陽電池搭載のプラモデル式ロボット工作プラモデルなのでモノ作りの過程も楽しめ、作った後は動くロボットとしても遊べます。モーターの力を伝えるギアの仕組みが丸見え構造なので、どうして動くのか? という子どもの疑問を解くヒントにもなりそう。 3. 今も昔も根強い人気! どろ団子作り「小学生になってまで、どろ団子?」と思うかもしれませんが、意外に子どもは大きくなってもどろ団子作りが大好き。いかに美しく作るか? に燃えていたりします。自然の砂と粘土を使った「コロピカどろだんご」は、転がすほどに輝くツルツルの団子に。乾燥したらシールを張ったり、油性ペンで絵を描くことも可能なので、世界にひとつだけのオリジナルどろ団子が作れます。 子どもの好奇心をかき立てる!自由研究で不思議実験にトライ 4. 「水がつかめる」って本当? 不思議体験ができる実験キット実際に触ってみると、「水がスライムみたいに固まるのかな?」というおおかたの予想をくつがえす感触にびっくり。オブラートのような薄い膜の下は、液体のまま。ぷにぷにの感触を楽しんだり、中にビー玉を入れたり、タピオカみたいな細かい水の粒々を作ったり、いろんなバージョンを作って楽しめます。 5. 昆虫の不思議に迫る! 飼育セットを利用した観察日記例えば、アリの巣を立体的に観察できる「アリ飼育観察セット」。最初に、アリの巣の材料となるアリゲルを作り、公園などで捕まえたアリをゲルの入ったケースの中に入れるだけ。普段、土の下で見ることのできないアリの巣の中を観察するできるなんてワクワクしますね! 6. サイエンスプロデューサーの米村でんじろう先生のサイエンスキットは不動の人気プリズムを使って7色の光を観察する「レインボープリズム」や、感光紙を使って太陽の光で写真を焼く「わくわく日光写真」など、子どもには目新しく、親世代にはちょっと懐かしい実験が楽しめそうです♪ 7. 身の回りのミクロ世界を携帯顕微鏡で観察しよう「ハンディ顕微鏡Petit」は倍率20倍もあるのに、キーホルダーサイズの小ささと軽さで、ポケットに入れても邪魔になりません。持ち歩いていつでもどこでも気軽に観察ができます。 さらに、スマートフォンで撮影もできるので、プリントアウトしてファイルにまとめれば、立派な自由研究に! プロのカメラマンが子どものために購入するほどのクオリティーです。いろいろなミクロの世界を撮って「これは何でしょう?」のクイズ形式で自由研究をまとめるのもおもしろいですね。子どものワクワクや好奇心をかき立てるような自由研究や自由工作を、ぜひ親子でトライしてみてください!
2017年08月10日小学校の夏休みとともにやってくる、宿題の定番・自由研究。イベントやワークショップの参加を検討したり、図書館やインターネットなどで情報収集をしたり、テーマ決めに向けた行動を開始している家庭もあることでしょう。子どもが興味をもてるテーマが見つけられずに困り果てているお母さんにオススメしたいのが、 『夏休み! 発酵菌ですぐできるおいしい自由研究』 (あかね書房)です。味噌や納豆、ヨーグルトなどの発酵食品のつくり方をわかりやすい文章やイラスト・写真で教えてくれます。著書の小倉ヒラクさんは、発酵デザイナーという不思議な肩書きの持ち主。微生物学の研究や一般向けの麹づくりワークショップなど、目には見えない菌を見えるようにする活動を広く行っています。そんなヒラクさんに発酵食品のおもしろさやポイントを聞きました。■見えない菌を育てる! 発酵食品をつくるメリット菌の働きによっておいしさがアップすることに加え、保存性を高められるといいことづくしの発酵食品。自由研究のテーマとどう結びつくのでしょうか。「発酵食品は、料理とサイエンスという二つのジャンルにわけられます。僕の専門は微生物学のため、本書は料理よりも菌を育てることに重点を置いているんです。発酵食品づくりの魅力は、生き物の反応がわかること。観察していると、菌が魔法のように食べ物をおいしくする過程を楽しめます。たとえば、パンをふくらませるための酵母をつくる場合、瓶の中に果物と水と砂糖を入れて酵母菌を呼び込みます。発酵が進むと酵母がシュワシュワしてくるので、菌が元気に育っている様子を実感できます。『ここに菌がいるんだ!』と子どももワクワクしてくれますよ」とヒラクさん。目に見えない菌の存在を言葉だけで説明しても、子どもはうまく想像できません。実践を伴うことにより、菌の存在や自然の力に対するイマジネーションを育てられる。ワークショップを通じて多くの子どもたちと接するなかで、ヒラクさんが感じたことだそうです。もうひとつ、発酵食品づくりで得られるものがあるそうです。「現在の学校教育は、出題者の意図を汲み取って答えを出す力を要求されることが多く、『よく観察すること』を教えてもらえる機会が少ないと感じています。人の予想を大きく上回る現象が起こりうる生物学では、主観は邪魔になることも多い。発酵食品づくりは、“ただ観察をして目の前に起こっている事実を受け止める”トレーニングになります。つまり、生物学の基本を学ぶことができるんです」■思い通りにいかないのが菌の魅力 失敗も楽しんでしまおう!本著で紹介している発酵食品は、比較的簡単にできるヨーグルトから少しレベルの高い麹まで、難易度もさまざまです。しかし、学年や年齢の設定はとくにないそうです。「年齢で区切るよりも、子ども一人ひとりが持つ好奇心の度合いによってできる範囲が変わってくるからです。それから、親の関わり方も大きい。発酵が進む過程で見た目や匂いが変わると、不安になる子どももいます。親が『それでいいんだよ』と声をかけて一緒におもしろがってくれると、子どもも先に進める。親と楽しみながらだと、5歳くらいでも難易度の高い味噌づくりに挑戦できるんですよ」本著で紹介する味噌は、夏休み中に完成できるように麹を多めに使ったアレンジレシピ。仕込みから40日で完成します。手前味噌を使ってお味噌汁をつくれば、嫌いな野菜も食べてくれるかも?「食べ物を自分でつくることって大事ですよね。現在、絶賛イヤイヤ期で汁物を拒否している僕の娘も、一緒につくったスープならたくさん食べてくれる。発酵食品は最高の食育になるんじゃないかな」菌をうまく育てられるか、ばい菌にしてしまうかのカギを握るのが温度管理。夏は、発酵商品を仕込むのに適した季節だとヒラクさんはいいます。「菌が元気になるのは、30℃前後の温度です。冬場に仕込んだら4、5日くらいかかるヨーグルトも、真夏なら翌日にできます。一方、放置しすぎると腐ってしまうので、本に書かれた時間を守ってつくってくださいね」直射日光の当たる場所やジメジメした場所には置かないことも腐らせないためのポイントです。ヒラクさんのオススメは、オープンシェルフや本棚の一番上の段。風通しがよく、空気がよどんでいない場所を「発酵棚」にするといいそうです。とはいえ、生きている菌が人間の思い通りになるとは限りません。ときには菌がうまく育たずに腐ってしまうこともあります。「失敗も失敗で楽しいんですよ。発酵がうまくいかないと、臭くなったり、ドロドロしてしまったりするけど、子どもは『くせえ!』とかいいながら意外とよろこんでいる。僕のワークショップでも、失敗すると逆に盛り上がることもあるくらいです」「食べ物がくさるとはどういうことなのか」「失敗から発見できることもある」など、事前に本を読み失敗したときの対処法を親が把握しておくことも大切です。見えない生き物との生活を親子で楽しめれば、うまくいっても失敗しても学びの多い自由研究になりそうです。目に見えない菌たちの働きを実感できる発酵食品づくり、ぜひ親子で観察してみませんか?\発酵って楽しそう! と興味が湧いた方に、ぴったりのイベントが開催/夏休み!歌って踊る手前みそ〜『発酵菌ですぐできる おいしい自由研究』出版記念イベント〜『発酵菌ですぐできる おいしい自由研究』の出版を記念して、小倉ヒラクさんがイベントを開催! はじめての人でもカンタンにできる手前味噌づくりをはじめ、オリジナルアニメ『てまえみそのうた』を使ったダンスワークショップ、発酵レクチャーなど、盛りだくさん! 夏休みの自由研究に、思い出に、ぜひ親子で参加してみませんか。日時:2017年8月11日(金) 10:00開場 10:30スタート料金:¥3,500(手前みそキット1kg付き)詳細ページ: 『夏休み! 発酵菌ですぐできるおいしい自由研究』 小倉ヒラク (著)/あかね書房 1,000円(税別)小倉ヒラク プロフィール1983年東京生まれ。発酵デザイナー。自身の体調不良を機に発酵食品に出会い、東京農業大学の醸造学科研究生として醸造学を学ぶ。全国各地の醸造家たちと商品開発や絵本、アニメの制作やワークショップを行うと同時に、自由大学や桜美林大学等の一般講座で発酵学の講師もつとめる。著書に、「てまえみそのうた」「おうちでかんたん こうじづくり」(農山漁村文化協会)、「発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ」(木楽舎)。一児の父でもある。
2017年08月02日夏休みといえば、海にプール、花火、旅行に帰省、そして…子どもたちにとってはたっぷりの宿題。なかでも、つい後回しになりがちなのが、「自由研究」ではないでしょうか。わが家でも「今年は何しよう?」の初期段階でブレーキがかかり、夏休みも終盤になってあわてて着手する…という家族マンガあるあるのようなシーンを毎年くり広げていました。そんななかでもおぼろげながら見えてきた、わが家流「自由研究をやっつけっぽくみせない」ポイントをお伝えしたいと思います。■脱・「やっつけ自由研究」の2つのポイントわが家の自由研究との格闘(?)歴は、上の子のときから数えて今年で10年目に突入!ローテンション&スロースターターなふたりの子、そして年々尽きてくるネタ。夏が来るたび「今年の自由研究はどうするんだろう…」とやきもきが止まりませんでした。私の理想は、「子どもが自力で自由研究を仕上げる」こと。さらに欲をいえば、やっつけ感が透けて見えるよりは、「楽しく取り組みました!」が感じられるもの。こんな思いを抱えながら、子どもたちの自由研究につきあってきました。<わが家の自由研究おさえポイント>・その子らしいテーマ・まとめかたに工夫が感じられるこの2つをおさえれば、「宿題だからしぶしぶやりました…」的な印象が薄まり、それなりのでき栄えになるんじゃないか! と気づきました。実際、この2つをポイントをおいたら、子ども自身がわりと楽しみながら進められるようにもなり、親子そろって自由研究プレッシャーから解放! …は言い過ぎですが、それでもちょっぴりラクにはなりました。では、具体的にどうしているのかをお伝えしていきます。■「なんでだろうリスト」大活躍! わが家流テーマの探しかたわが家の場合、最初の高い壁が「テーマ決め」です。実験でも観察でも工作でも調べ学習でも、「自由にやってくださいね」とふわっとした課題なだけに、子どもが「なにしよっかな~」と迷っている間に時がたちます。そこで私は、日々の何気ない会話で子どもが口にした疑問や気づきを、スマホにメモするようにしました。たとえば、こんな具合です。<なんでだろうリスト>・ゾウをさいしょに「ゾウ」って呼び始めたひとはだれなのか・なんでも乾燥させればお茶になるの?・へびは寒いところにも住んでいる?・「無色透明」って、無色も透明も同じ意味なのになんで重ねるの?・こちょこちょされると、くすぐったいのはなぜ?・納豆ってもともと腐っているなら、賞味期限なくてもいいんじゃないの?・毒キノコはなんでカラフルなの? キノコ自身に意思があるの?このリストのなかから子どもがやりたいことを選ぶようにしはじめたら、最初の「テーマ決め」はクリアに。ある年は、リストから「なんでも乾燥させたらお茶になるの?」を取り上げ、家にあるいろんな食材でお茶をつくる実験をしました。衝撃的な味のお茶が量産されて「まずい!」連呼の実験でしたが、それでも楽しそうに取り組んでいました。■コレをするだけで、「ちょっと工夫した感」がプラスできる!実験などの中身さえできれば、あとはまとめて仕上げるだけなのですが、ここもいざとなると作業が進まない難所。これまでの子どもの様子を観察してくると「苦手なこと」が見えてきて、それを克服する方法を編み出していきました。<子どもの苦手を克服するまとめ方>x子どもの様子から、「文字をいっぱい書く」ことが苦手↓○イラストや写真、図解などをメインにして、文字は少なめでまとめることを提案○子どもが「読みやすい、面白い」と思えるページ構成を考える このとき参考にするのが、雑誌や図鑑の構成参考にする本のページ構成に自由研究の内容をあてはめる方式にしたら、スムーズに進められるように。これまでにやってみたまとめかたは、「解体新書風」「プロフィール帳風」など。これらは好きなマンガの作者のおまけページから着想を得ていました。先に例に挙げた「お茶の実験」は、まとめる用紙自体をお茶にちなんできゅうす型にカットしました。味、色、におい、飲んだ感想だけのごく簡潔な内容ですが、「紙をきゅうす型に切ったこと」で、本人の満足度は上がったようでした。まとめかたの工夫で視覚的にメリハリがつくと、それだけで「ちょっと工夫してみた感」と「子どもが楽しく取り組んだ感」がかもし出せる…ような気がしています。今回ご紹介したのはあくまでわが家のケースで、きっと親の手を借りず全部自分でできるお子さんもいらっしゃると思います(うらやましい!)。それでも、「今年の自由研究どうしよう?」と考えているみなさんにとって、少しでもヒントとなる部分があればうれしいです。■どうしてもテーマが決まらないときのお助けアイテムどうしてもテーマが決まらない、初めての自由研究でどうすればいいのかわからない。そんな子どもからテーマを引き出す時間がない場合には、WEBサイトが展開している子ども向けのコンテンツをのぞいてみると、ヒントが得られるかもしれません。<自由研究参考サイト>【イベント】・ 「夏休み2017 宿題★自由研究大作戦」 小学生と保護者のためのイベント東京会場 2017年7月21日(金)~23日(日)仙台会場 2017年7月28日(金)・29日(土)大阪会場 2017年8月3日(木)・4日(金)【自由研究特集サイト一覧】・キッザニア東京: 「わくわく自由研究」 ・ベネッセ 「夏休みの自由研究カンタン解決策特集」 ・学研キッズネット: 「夏休み自由研究プロジェクト2017」 ・パナソニック: 「パナソニックキッズスクール」 ・ヤマハ: 「楽器解体全書」 ・カシオ: 「電卓アドベンチャーアイランド」
2017年07月07日発達障害支援の研究は日進月歩。最新の研究はどうなっているの?出典 : 発達障害の原因や治療法、支援技術に関する研究は、世界各地、様々な分野の専門家が取り組んでいる領域です。私たちが日常生活するなかでも、メディアに掲載されるニュースなどを通して、その研究成果の一部にふれることがあります。実際に発達障害のある子どもを育てている保護者や、その周辺の支援者にとって、最新の研究成果は今と未来の生活にどのような影響をおよぼすのでしょうか?そんな疑問に応えるシンポジウムのお知らせです。11月5日、「うちの子、少し違うかも・・・~発達障害に対する適切な療育・支援のための研究開発~」と題されたシンポジウムが、東京都江東区青梅にある、日本科学未来館にて開催されます。主催団体である「社会技術研究開発センター(RISTEX)」からいただいたシンポジウムの概要をご紹介します。ご興味のある方はぜひ参加してみてください。11月5日(土)「うちの子、少し違うかも・・・~発達障害に対する適切な療育・支援のための研究開発~」シンポジウム概要Upload By 発達ナビ編集部1. 趣旨落ち着きがない、こだわりが強い、人見知りが激しい、などで子育てが難しいと感じられる子どもに発達障害※があると診断されることがあります。しかし、発達障害は早期に発見し適切な療育を行うことで子どもの将来の可能性が広がり、周囲の支援によりご家族の困難を軽減することが期待できます。JST社会技術研究開発センター※※では、発達障害に関する研究開発プロジェクトを支援しています。本シンポジウムでは、その中で活動した研究者からの最新の研究報告と有識者によるパネルディスカッションを行い、早期発見、療育、ご家族への支援の大切さへの理解を深めることをねらいとします。※発達障害は、生まれつき脳の発達が通常と違っているために、幼児のうちから症状が現れ、通常の育児ではうまくいかないことがあります。成長するにつれ、自分自身のもつ不得手な部分に気づき、生きにくさを感じることがあるかもしれません。(厚生労働省 みんなのメンタルヘルス HPより)※※社会技術研究開発センター(RISTEX)では、「社会のなかの科学・社会のための科学」の理念のもと、社会の具体的な問題の解決を目指す研究開発を推進しています。2. 日時平成28年11月5日(土)開場12:30開演12:45~14:45(2時間)3. 場所日本科学未来館(東京都江東区青海)7階未来館ホール(定員300名)4. 対象ご家族、教育・保育に携わる方、子育て支援に関わる民間団体の方、地方自治体の方、など注:主に、以下の方を対象とします。・情報収集がインターネットや親同士の情報交換に限られ、クリニックの検診まで踏み出せないご家族・子どもが発達障害との診断を受けたがその後の子育てに不安を持つご家族・発達障害がある子、もしくは、気になる子を持つご家族が親戚や友人にいる方5. プログラム12:30受付開始12:45開会挨拶12:50講演①神尾 陽子 氏(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童・思春期精神保健研究部 部長)『一人ひとりの発達特性にあった子育てとそれを支える地域社会』②船曳 康子 氏(京都大学大学院人間・環境学研究科 総合人間学部 准教授)『MSPA(Multi-dimensional Scale for PDD and ADHD)による発達特性の理解と今後』③山野 則子 氏(大阪府立大学大学院 人間社会システム科学研究科 教授/スクールソーシャルワーク・評価支援研究所 所長)『発達障害を抱える児童・生徒の学校における支援と課題~スクールソーシャルワークの視点から~』13:35パネルディスカッションモデレーター:熊 仁美 氏 (特定非営利活動法人ADDS 共同代表)パネリスト :上記講演者3名、山﨑 順子 氏(東京都発達障害支援センター(TOSCA) センター長)14:25フロアとの対話(質疑応答)、まとめ14:45終了Upload By 発達ナビ編集部京都大学医学部卒業、ロンドン大学付属精神医学研究所児童青年精神医学課程終了、京都大学医学部精神神経科助手の後、米国コネティカット大学(フルブライト研究員)で自閉症研究に従事した後、九州大学大学院人間環境学研究院助教授を経て、2006年より国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所児童・思春期精神保健研究部部長、2010年より山梨大学客員教授を併任。Upload By 発達ナビ編集部H8年京都大学医学部卒業。京都大学医学部付属病院、京都市立病院にて研修後、京都大学大学院医学研究科に入学し、認知症の臨床研究を行った。H12年からは、カリフォルニア工科大学行動生物学教室に留学し、小鳥の歌を用いた音声発達の臨界期の研究に従事。H15年に帰国し、こころの発達、発達障害の分野の臨床と研究に従事。日本学術振興会特別研究員、京都大学医学部付属精神科助教を経て、H27年より現職。Upload By 発達ナビ編集部関西学院大学社会学研究科後期博士課程修了、博士(人間福祉)。スクールソーシャルワーク評価支援研究所所長内閣府: 子どもの貧困対策検討委員会委員・有識者会議委員、文部科学省:中央教育審議会生涯学習分科会委員、企画調整部会委員、家庭教育支援の推進方策に関する検討委員会座長、教育相談等に関する調査研究会議委員、ほか国の委員多数。大阪府子ども施策審議会会長、子どもの貧困部会部会長、大阪府スクールソーシャルワーク配置事業スーパーバイザー、ほか多数。Upload By 発達ナビ編集部2010年、慶應義塾大学大学院社会学研究科修士課程修了。2011年、自閉症児に効果的な早期療育が届くことを目指し、NPO法人ADDS設立。2013年、同大大学院後期博士課程を単位取得退学、同大先導研究センター研究員。自閉症児のコミュニケーション研究や、早期療育の実践研究に携わる。NPO法人では、保護者が家庭療育に取り組むためのペアレントトレーニング、セラピスト認定制度等を実施し、現在までにセラピストを約100名養成、ペアレントトレーニングを約200家庭に提供してきた。Upload By 発達ナビ編集部東洋大学社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程修了、元国際医療福祉大学医療福祉学部教授。前清瀬市子どもの発達支援・交流センターセンター長、東京都発達障害者支援体制整備委員会委員、東京都要保護児童対策地域協議会代表者会議委員、東京都若者の自立等支援連絡会議委員 等を歴任。障害やソーシャルワーク関連の著書多数。イベント申し込みはこちら参加申込フォーム
2016年10月24日夏休みの自由研究、今年も悩みの種になっていませんか? 自由研究のテーマをなかなか決められないという子には、調べ学習の基本を教えてあげると、スムーズに進められるかもしれません。今回は、夏休みの自由研究のテーマ選びに役立つ、図書館での下調べのやり方について紹介します。図書館は知りたい情報を調べられる学術機関まず、調べもの用のノート一冊と、筆記用具を持って、近くの図書館に行ってみましょう。たとえば、宇宙について調べたいと思ったら、まずは宇宙の本のコーナーに行って、目についたものを数冊めくってみますよね?実は、宇宙のコーナーに行くより先に、格段に調べ物がやりやすくなる場所があるのですが、どこだかわかりますか? それは、子ども向けの百科事典のコーナーです。意外と思われるかもしれませんが、百科事典を活用すると、とても効率的に調べていくことができます。子ども向けの百科事典のコーナーがわからなければ、図書館の人に聞いてみましょう。百科事典を活用して、知りたいテーマをしぼろう(1) 言葉の「定義」をおさえよう百科事典は分冊になっているものと、一冊でまとまっているものがあります。普通の事典と同じようにあいうえお順に言葉が並んでいるので、「う」のページから「うちゅう」を探します。すると宇宙の意味=定義が分かるのです。定義は、その言葉の意味が簡潔にまとめられているエッセンスなので、ここをしっかりおさえるとぐっと理解が深まります。(2) 知らない言葉をどんどん調べて解説文を理解しよう定義のあとは詳しい解説が続きます。文章が理解できないときは、サポートしましょう。わからない言葉、もっと知りたい言葉があれば、また百科事典でひいていきます。たとえば「銀河系」をひい、次に「銀河」を読んだら、その中で出てきた「うずまき銀河」という言葉が気になったので…。といったように、次々に言葉をひいていくと、「銀河系」とは何なのか、だんだん理解が深まって具体的な情報が集まっていきます。(3) 調べものノートを作ろう調べた言葉とその意味は、ノートに書きためていきましょう。長い解説文や図解などのページは、図書館のコピー機でコピーをしてノートに貼り付けるといいでしょう。始めての場合は、申請のやり方なども教えてあげましょう。だいたいノートに情報がまとまったら、解説文をよく読んで、気になる言葉をマークしていきます。たとえば、「宇宙」の解説のページには、星団、星雲、宇宙のはじまり、宇宙ステーション、宇宙探査機といったさまざまなテーマがならんでいます。このように百科事典は、ひとつの事柄についての大まかな重要項目が見渡せるので、研究のテーマを選ぶのにとても便利なのです。たとえば、星座について調べようと思えば、星に関する本を当たってみる、やっぱり、宇宙のはじまりが気になる、と思えばそれについて書かれた本、というように、テーマを絞って本から情報を探すことができます。百科事典のあとは、詳しい本で情報を集めよう百科事典で調べた後は、より詳しく調べるために、専門的に書かれた本から詳しい情報を探します。ほしい情報がどの本に書かれているかわからない場合は、図書館の職員の方に聞いてみましょう。そこにない場合は取り寄せてくれたり、より詳しくわかる施設を教えてくれたり、いろいろな情報を提示してくれますので、ぜひこの機会に活用しましょう。時間のある夏休み、一日じっくり図書館で過ごすつもりで、ネタ探しに行って見ませんか。
2016年08月01日脱毛症の共同研究契約を締結京セラ・理化学研究所・オーガンテクノロジーズは、再生医療分野の「毛包器官再生による脱毛症の治療」での共同研究契約を締結し、技術・製品の開発を共同で行うと2016年7月12日に発表。毛包再生医療の開発が望まれている脱毛症は、男性型脱毛症や先天性脱毛や瘢痕(はんこん) 、熱傷性脱毛や女性の休止期脱毛などがあり、日本全国で現在1,800万人以上患者がいるといわれる。様々な治療技術があるが、全症例に有効ではなく、自家単毛包移植術の外科的処置でも毛包数を増やすことは不可。毛髪を生み出す器官が毛包で、次世代器官再生医療の先駆けである毛包再生医療の開発が望まれていることが締結の背景にある。これまでの研究の経緯理研多細胞システム形成研究センター器官誘導研究チームは、歯や毛包、唾液腺、涙腺など多くの器官を再生できることを実証してきた。ほとんどの器官の形成は胎児期にあり器官再生のための幹細胞は胎児組織から採らなければならないが、毛包は出生後に再生を繰り返す器官。2012年に成体マウスのひげや体毛の毛包器官から、上皮性幹細胞と毛乳頭細胞 を分離して研究チーム開発の「器官原基法」を用いて毛包原基を再生する技術を開発。再生毛包原基を毛が無いマウスに移植すると、再生毛包へと成長して毛を再生できることを証明した。再生毛包原基移植による器官再生は、周囲組織の立毛筋や神経とつながり、機能的な器官を再生することが可能。色素性幹細胞を組み込めば毛髪の色や再生する毛包器官数も制御できる。2016年にはiPS細胞 から毛包器官・皮脂腺・皮膚組織を含む機能的な皮膚器官系の再生にも成功。これまでの毛包再生技術をヒトの脱毛症治療へ広げるため、京セラ・理化学研究所・オーガンテクノロジーズが共同研究する運びとなり、2020年の実用化を目指す。3者で役割を分担し開発を進める場所は神戸市の理研融合連携イノベーション推進棟が拠点。京セラは、自社が持つ微細加工技術や生産技術を応用し、細胞加工機器の技術開発などを担当。理研とオーガンテクノロジーズは、毛包由来幹細胞の培養や増幅技術・ヒトへの臨床応用に向け細胞操作技術の開発や製造工程の確立、動物での前臨床試験などの技術開発を担当する。毛包再生医療は、患者自身の毛包から幹細胞を採取・加工し移植する自家移植が中心。患者数が最も多い男性型脱毛症では、医療機関で毛包を少数採取し、受託製造会社が幹細胞を分離・培養して増やし、器官原基法で再生毛包原基を製造。出来上がった再生毛包原基を医療機関へ送り、医療機関で患者に再生毛包原基を移植治療する。京セラは、今回の2年間の共同研究でヒトでの臨床応用実用化へ目処を立て、受託製造のビジネスモデルを作り上げていく。(画像はプレスリリースより)【参考】※京セラ株式会社プレスリリース
2016年07月17日国立がん研究センター(国がん)は3月28日、多目的コホート研究から婚姻状況の変化と脳卒中発症リスクとの関連について検討した研究の成果を発表した。既婚者は非婚者(離別・死別)と比較して健康状態が良く、婚姻状況の変化が循環器疾患の発症リスクを上昇させることが報告されている。しかし、脳卒中発症リスクとの関連、特に、脳卒中タイプ別の検討はほとんど行われていなかった。今回の研究では、1990年に開始した多目的コホート研究において、研究開始時に既婚であった40~69歳の男女約5万人を平均約15年間追跡した調査結果にもとづいて、婚姻状況の変化と脳卒中発症との関連を調査。研究開始5年前に配偶者と同居していた人のみを対象とし、研究開始時の婚姻状況から婚姻状況変化(既婚(配偶者と同居)から非婚(配偶者と同居していない))の有無を特定し、その後の脳卒中発症のリスクを算定した。その結果、2134人の脳卒中発症が平均約15年間の追跡期間中に確認され、調査開始時期に婚姻状況変化がある人ほど、脳卒中を発症するリスクが高い傾向が確認された。特に、男女問わず脳出血で強い関連が見られた。婚姻状況の変化が脳卒中発症リスクを上昇させる理由について研究チームは、配偶者を失うことによる生活習慣や精神状態の変化を挙げ、飲酒量の増加、野菜や果物の摂取量の減少、心理的ストレスレベルが上昇するなどの変化がリスクを上昇させていると推測している。同居する子供の有無別にみると、婚姻状況の変化を経験し、子どもと同居する男女の脳卒中発症リスクが高い傾向が見られた。また、同居する親の有無別にみた場合、男性では配偶者を失うことによる脳卒中発症リスクへの影響が親との同居により軽減されていたが、女性では逆に影響が加重される傾向が見られた。また、婚姻状況の変化の脳卒中発症リスクへの影響を就労の有無別にみると、無職の女性の脳卒中発症リスクは高く、特に婚姻変化があった無職の女性のリスクは婚姻変化のない有職の女性の約3倍だった。一方、男性では無職者が少なく、統計学的に意味のある結果を導くことができなかった。同研究チームは今回の研究結果について「脳卒中発症におけるハイリスク者を把握する際には、人をとりまく社会環境も考慮する必要があることを示している」とコメント。また、今回の研究では、ベースライン時の婚姻状況、居住形態、就労状況等が人によっては研究期間中に変化している可能性があるが、その点について考慮できておらず、注意を払う必要があるとしている。
2016年03月28日キュリオシティは24日、東京大学 竹内研究室の研究内容である「細胞組織の人工的構築」と、研究がもたらす未来像について楽しく学べるiOS向け無料ゲームアプリ「Cell Dolls」をリリースした。「Cell Dolls」は、ERATO竹内バイオ融合プロジェクトの成果を元に、東京大学竹内昌治教授とキュリオシティが共同開発したiOS向けゲームだ。「遠い宇宙のとある星」の体を持たない魂のみの存在である住民たちに、「細胞を点・線・面に加工する竹内研の技術」で細胞人形の体を与え、様々な問題を克服していく…というストーリー。「細胞組織をつくる」で住人の身体を作るところから物語は始まり、さらに「培養肉」や「サイボーグの開発」などのシーンも登場する。それぞれの研究に必要な細胞の種類や、考えられる問題について学んでいく。操作自体はタップで細胞を集めるというシンプルなものだ。キャラクターのコレクション機能や、オンラインで得点を競うランキングも用意されている。なお、同ゲームは、日本科学未来館にて開催された「サイエンスアゴラ2015 竹内研究室ブース」にて公開したインタラクティブゲームを、機能追加した上でアプリ化したものとなっている。
2016年03月24日山梨大学や北海道大学、熊本県立大学などの研究者で構成される研究チームは2月11日、野生の竹がなぜ節をもつのか、その謎を科学的に解明したと発表した。同成果は、山梨大学 環境科学科の島弘幸 准教授、北海道大学の佐藤太裕 准教授、熊本県立大学の井上昭夫 教授などによるもの。詳細はアメリカ物理学会発行の学術雑誌「Physical Review E」に掲載された。竹は中身が空洞で、ところどころに節を持つことが知られているが、多くの植物の中で竹だけがこうした特徴を有していた。今回、研究チームは、野外調査で得た測定データと、構造力学理論に基づく数理解析を活用して調査を行った結果、互いに隣り合う節と節の間隔が、ある一定のルールに従うよう絶妙に調節されており、結果として、野生の竹が「軽さ」と「強さ」を併せ持つ理想的な構造を「自律的に」形成していることを突き止めたとする。なお、今回の論文は、同誌の注目論文(Editor’s Suggestion)に選ばれているが、島准教授によると、「同じような推論は過去にも提案されたことがあったが、竹林の測定データと、理論的な考察をもとに、『定量的に』その推論を検証したのは我々の成果が初となるはず」とのことで、そうした研究の視点のユニークさと、物理学・工学・森林科学を跨ぐ学際的な研究手法が高く評価された結果によるものだといえる。
2016年02月13日研究者とは疑問に感じたことをそのままにせず、解明できるまでとことん調べ尽くす人たち。彼らの類いまれなる好奇心によって、これまでも未知の世界は切り開かれてきました。今回紹介するのは、睡眠に関する新発見です。最新の睡眠研究結果今年1月上旬、理化学研究所は、マウスを使った実験によって新たな睡眠遺伝子「Nr3a」を発見したと発表しました。マウスのNr3a遺伝子を無効化したところ、睡眠時間が短くなったそうです。哺乳類の睡眠時間と覚醒時間が一定の割合でキープされていることはわかっていても、その理由は現在もよく解明されていないといわれています。Nr3aの発見によって、哺乳類の睡眠のメカニズムが明らかになっていく可能性があると、期待を集めています。この実験の結果はアメリカの科学雑誌「Cell Reports」1月26日号に詳しく掲載されていました。日本人が睡眠に関する新たな発見をしたというのは、私たちにとっても誇らしいことですね!同じ哺乳類でも異なる睡眠時間哺乳類の睡眠のメカニズムは、Nr3aの発見によって今後明らかになっていくことと思いますが、私たち人間と他の動物では、同じ哺乳類でも大きく睡眠時間が異なることが、現段階でもわかっています。例えば、最も長い時間眠るといわれるナマケモノは、1日のうち約20時間眠るそうです。1日の8割以上を寝て過ごすナマケモノ……まさに名前通りの動物ですね。一方で、肉食動物という天敵が存在する草食動物は、2~3時間しか眠らないといわれています。ナマケモノのように1日中寝ていたら、天敵にガブッとやられてしまうのは明らかですしね。さらに、草食動物は消化に時間のかかる草をたくさん食べるため、眠っている時間が少ないという理由もあるそうです。研究者の好奇心が睡眠の世界を切り開く!哺乳類には、人間と全く異なるタイプの睡眠をとる動物もいます。それはクジラやオットセイ、イルカなどで、彼らは「半球睡眠」と呼ばれる睡眠法をとっています。半球睡眠とは、左右2つに分かれている脳のうち片方を数時間交代で眠らせるという器用な方法で、それに伴い、片目だけを開けて泳ぐこともあるそうですよ。ずいぶん、変わっていますよね。半球睡眠は、1970年代にロシアの研究者がイルカの脳波を調べることで発見したといわれています。イルカの脳波を測定しようと考える研究者もまた変わっていますよね。でも、今回のNr3a遺伝子のように、新たな発見は“研究者の好奇心”から生まれるもの。これからもさらに睡眠に関する新たな発見を期待したいですね!photo by サンサン
2016年02月12日その道を極めた研究者ならば、きっと愛してやまないお気に入りのものがあるはず――。本連載ではさまざまな分野で活躍されている研究者の方々に、ご自身の研究にまつわる“好きなもの”を3つ、理由とともにあげていただいています。今回は本誌インタビューにご登場いただいた、謎の深海生物「テヅルモヅル」を研究する分類学者 岡西政典さんお気に入りのテヅルモヅル3種をご紹介します。研究者プロフィール岡西政典 (Masanori OKANISHI)1983年生まれ。変な生き物好きが高じて、珍しい生き物に触れられる分類学を志す。東京大学大学院理学系研究科にて、テヅルモヅル類を含むツルクモヒトデ目の研究をテーマに学位取得。その後京都大学瀬戸臨海実験所を経て、茨城大学理学部に所属。現在はクモヒトデ類に研究対象を広げ、系統分類学的研究を軸に、行動、生態、形態学的な研究も行いつつある。深海生物を採集するため、調査船で日本中の海を回っており、最近はダイビングも行う。飲酒の際は記憶をなくさないように注意している。○1. ヒメモヅル(Astrocharis ijimai Matsumoto, 1911)ヒメモヅルは、腕が分岐しないテヅルモヅルです。テヅルモヅルの多くは体が皮に覆われてぶよぶよしていますが、本種は堅い鱗で身を覆っているのが特徴です。クモヒトデ研究の大家の松本彦七郎氏が発見者であることもポイントです。その名のとおり体長数ミリと小さく、深海300mよりも深い海域で、希少なサンゴに絡んで生活しています(図1)。見た目も生態も珍しい種ですが、詳しいことはわかっていません。分布域は八丈島沖から四国沖。○2. サキワレテヅルモヅル(Astroclon propugnatoris Lyman, 1879)通常、テヅルモヅル類の腕の分岐は腕の根元からはじまりますが、サキワレテヅルモヅルは、その名の示すとおり、腕の先っちょしか分岐しません(図2)。腕を広げると体長30~40cmほどに達する大型の種で、世界的に見ても公的な記録はほとんどありません。沖縄の美ら海水族館で飼育されていたのを発見して、とても驚きました。その個体のDNA解析を行い、これまでの分類とは違うグループにすべきであることがわかりつつあります。本種も生態などに関しては謎だらけです。分布域は東シナ海、沖縄周辺。○3. ユウレイモヅル(Euryale aspera Lamarck, 1816)比較的浅いところ(水深10m~)に生息しています。が、夜行性なので簡単にはみられません。こちらも大型の種で、夜になると岩場から這い出してきて、潮通しの良い場所で長い腕を広げて餌を採ります。その様から「ユウレイ」と名付けられたのではと想像しますが、詳しいことはわかりません。以前、タイで調査をしたときに、昼間にサンゴに絡んでいる小型の個体を見つけたことがあり(図3)、ひょっとすると日本でみられる夜行性の種とは別種かもしれないと考えています。分布域はインド-西太平洋海域。
2016年01月29日睡眠の研究は日々行われていて、新たな事実が気鋭の研究者によって解明されています。今回紹介するのは、スウェーデンの大学の研究者が昨年6月に発表した最新情報。睡眠時無呼吸症候群とはどんな病気か読み解きながら、治療に効く意外なアイテムについてご紹介します。睡眠時無呼吸症候群の改善に効いたのはアレ今年6月の頭に論文で、「軽度から中度の睡眠時無呼吸症候群の患者を対象にマウスピースの有用性を調べたところ、効果は限定的で日中の眠気は改善しない」と発表されたそうです。ただ、患者の口の形に合わせて調整可能なマウスピースの場合、睡眠時無呼吸症候群が改善する傾向がみられたそうです。それでも、日中の眠気には効果がなかったと報告されています。一般的に睡眠時無呼吸症候群の治療で使われているCPAPと呼ばれるものは、有効性は高いものの、順守不良になりやすいそうです。一方でマウスピースは順守性が高く、いびきや無呼吸指数の改善には効果が認められたそうです。自分では気づきにくい病気睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に呼吸が止まってしまう病気ですが、当の本人は自覚症状がなく、病気に気づきにくいと言われています。呼吸が止まっているのも一時的なので、それで目を覚ます人もいれば、そのまま寝続ける人もいるのだとか。また、自覚症状はなくても、身体には大きな負担がかかっています。というのも呼吸が止まっている間は、体内に必要な酸素が供給されないからです。そうすると、血液中の酸素濃度が低下して、それを補おうと心臓がいつもより激しく動きます。その結果、高血圧になったり、動脈硬化が進んだり、脳梗塞や心筋梗塞などの疾患を引き起こす場合もあると言われています。予防はできるの?「いつも大きないびきをかいている」と言われたことがある方は、注意が必要です。なぜなら、「いびきは無呼吸の前兆である」と言われているから。日中の眠気が原因で病院へ行くという方もいるそうですが、それが異常だと自覚できる人は患者の半数程度だという医師の声もあります。本人が自覚しにくい病気なので、「家族や同居者の声」はとても重要なものだそう。睡眠時無呼吸症候群の予防法としては、生活習慣の改善、肥満にならない、過度の飲酒を避けるなどがあります。いびきをよくかくと言われたことがある方は、早速今日からこの予防法をスタートしてみてはいかがでしょうか?photo by pixabay
2016年01月28日ロームは1月12日、大学や高等専門学校、公的研究機関に所属する若手研究者を対象にした研究公募制度を創設し、募集を開始すると発表した。対象となるテーマは、センサやパワーデバイス、無線通信など6つの分野。研究費は内容に応じて決定されるが、1件あたり200万円/年が上限で、合計20件程度を採択するとしている。2015年度内に採択し、研究期間は2016年4月に研究開始で、1~2年以内を想定している。研究テーマは以下の通り:光エレクトロニクス・フォトニクス研究分野パワーエレクトロニクス研究分野異種接合研究分野MEMS研究分野省エネLSI研究分野無線通信研究分野研究契約は単年度契約となるが、1年目末時点の状況により1年延長するかどうかが採択される。また、採択テーマの中から研究内容に応じて、研究費の増額や期間の延長などを含む発展共同研究とする精度も準備しているとのこと。採択された場合、半年に1回の研究報告会の実施と、各年度末に研究報告書の作成が求められる。なお、応募用紙は同社Webサイトより応募用紙をダウンロード、必要事項を記入の上、Eメールで提出する。書面による1次審査を通過したテーマについて応募者とローム担当者が面談の上、最終審査を実施する。応募の締め切りは2016年2月29日。
2016年01月12日ヤフーは11月26日は、2015年10月より博士号を持つ修了者などを対象とした「サイエンスプロフェッショナルコース」と、博士研究員(ポスドク)などを対象とし、自身の研究をより深めるためにYahoo! JAPAN研究所で任期付きで研究ができる「特任研究員コース」を新設し、毎年20名程度の博士号取得者とポスドクの採用を目指すと発表した。研究分野は、自然言語処理、画像処理、音声処理、機械学習、情報検索、レコメンデーション、コンテキストアウェア、ヒューマン・コンピュータ・インタラクション、大規模分散処理、統計モデリング、セマンティックウェブの11文野採用された場合、Yahoo! JAPAN独自のマルチビックデータを活用して、「自然言語処理」や「機械学習」など11分野の研究に携わり、研究成果は、自社の人工知能技術やIoT、広告技術などへの導入に加えて、研究成果を積極的に国内外の主要な学会で発表していくことで、他の企業や研究機関との技術分野での連携拡大にもつなげていくという。
2015年11月26日インターネットを通して研究者に直接資金提供を行うだけでなく、情報やマンパワーの提供、さらには研究者同士のコラボレーションを促し、“第二次オープンサイエンス革命”を起こしたい――こう語るのは、学術研究に特化したクラウドファンディングサイト「academist」を運営するアカデミスト 代表取締役の柴藤亮介氏だ。「オープンサイエンス」とは、書籍『オープンサイエンス革命(紀伊國屋書店)』において理論物理学者であるマイケル・ニールセン氏が提唱したもので、インターネットやオンラインツールなどの活用により、研究の過程で得られた情報や知識を共有することで科学を発展させていく試みのことをいう。同書のなかでニールセン氏は、資金提供を行うパトロンたちが17世紀に科学論文という文化を作ったことで「第一次オープンサイエンス革命」が生じたとしている。「インターネット技術が発達した現在は、第二次オープンサイエンス革命の時期。研究成果をオープンにすることが“第一次”であるのなら、“第二次”では科学研究のアイディアやプロセス自体をオープンにしていきたい」(柴藤氏)しかしながら閉鎖的なイメージのある学術界で、果たして柴藤氏の言う「第二次オープンサイエンス革命」を起こすことはできるのだろうか。11月14日に行われた「サイエンスアゴラ 2015」内のトークイベント「オープンサイエンス革命 ~オンライン・コラボレーションによる研究推進の可能性~」では、さまざまな分野の若手研究者たちがオープンサイエンスの可能性について議論した。○オンラインコラボレーションで一般市民でも研究に参加できる慶應義塾大学 先端生命科学研究所の特任講師 堀川大樹氏は「クマムシ博士」として知られており、書籍・有料メルマガの執筆やグッズ販売などで得られた資金をもとに、極限環境への耐性を持つ生物「クマムシ」の研究を行っている。研究においては、とにかくクマムシの数が必要だというが、その飼育には手間が掛かる。そこで堀川氏は学校や科学教育機関などとコラボレーションを行い、理科教育の一環としてクマムシの飼育観察をしつつ、その数を増やしてもらうという取り組みを提案した。クマムシの飼育にはある程度の技術が必要となるため、堀川氏はそのノウハウを提供するというわけだ。研究者と教育機関とのコラボレーションは、比較的多くの分野の研究で実践できるものではないだろうか。またクマムシを「増やす」手伝いだけでなく、「発見する」手伝いもできる。「クマムシ学会最大の謎」であるという「オンセンクマムシ」は、1937年に長崎県・雲仙で発見されたといわれているが、標本がなく、さらに発見場所の温泉が干上がってしまい、いまだ再発見できていないという。そこで堀川氏は「ボランティアを募ってオンセンクマムシを探すミッションをできないか」と提案。たとえば、クラウドファンディングの見返りとしてこのミッションへの参加権を提供すれば、マンパワーも研究資金も得られる一石二鳥の取り組みとなる。同じ生物学分野でのオープンサイエンスの事例として、京都大学大学院農学研究科 博士課程の末広亘氏は、アリ研究における取り組みを紹介した。アリは日本だけでも約300種が存在しているうえに、どこにどの種類のアリがいるかはわからない。研究者だけで完全なモニタリングを行うことは不可能だといえる。そこで解決策となるのが、オンライン上での一般市民の研究参加だ。アメリカではすでに成功事例があり、一般市民の協力によって1年半のあいだに全米500地点で107種類のアリを見つけることができたという。アメリカに侵入した外来種「オオハリアリ」の侵略メカニズムを研究する末広氏は「自分は3年間のうち40カ所でしか調査できていないので、これはすごい数だ」と評価する。研究手法を統一させて即座に情報共有できるのは、オンラインでしかありえない。現在は研究者がそれぞれに情報共有のプラットフォームを作っているが、末広氏は「さまざまな分野で共通のプラットフォームがあれば、よりオープンサイエンスの試みが促進されるのでは」と、一般市民と研究者のオンラインコラボレーションにおける今後の課題をあげていた。生物系だけでなく、宇宙物理の分野にも一般市民のオンラインコラボレーション事例がある。理化学研究所 基礎科学特別研究員の湯浅孝行氏は、『オープンサイエンス革命』でも取り上げらている「Galaxy Zoo」の事例を紹介した。Galaxy Zooは、一般市民がWebブラウザ上で銀河の形状を分類できるサービスだ。このサイトからはすでに、48本もの論文が出版されているという。また、ここから発展したサービス「Zooniverse」では、野生生物や化石、惑星調査に対し、100万人以上の市民が参加している。また湯浅氏は自身でも、オンラインコラボレーションの場を提供する。後述するように湯浅氏は、雷雲におけるガンマ線放射現象のメカニズムを解明したいと、研究費のクラウドファンディングを行った。この研究に対して我々一般市民は、研究資金の提供という形だけでなく、マンパワーという形で協力することができる。具体的には、Webブラウザ上に表示されたある時間帯のガンマ線の検出データを見て、ユーザーが数値の増えている部分の判別を行うというものだ。この判別結果と、同じ時間帯の雷雲の様子を見比べ、湯浅氏らはその関係性を調査する。同サイトは2015年度末に公開することを目標に開発されているという。○クラウドファンディングで得られるのは研究資金だけではない!?湯浅氏とともにクラウドファンディングにチャレンジした京都大学 白眉センター 理学研究科 特定准教授の榎戸輝揚氏は普段、宇宙X線望遠鏡による天体の研究を行っているが、修士課程の学生のころには雷雲から発生するガンマ線を手作りの検出装置で検出するという研究で論文を執筆した。この装置を再び活用し、ガンマ線と雷雲がどういう相互作用をするか調査したいと数年前に科研費に応募したが、残念ながら採用されなかった。このとき、知り合いの研究者からacademistを紹介され、研究費クラウドファンディングへのチャレンジを決意したという。結果としては、目標金額の160%となる約160万円を集めた。これは、academist史上最高の達成率となっている。しかし得られたものは、研究資金だけではなかった。検出装置の設置に適した金沢の大学や高校から「うちの学校に検出装置を設置してはどうか」というメッセージがきたというのだ。現在、榎戸氏らは合計4校と具体的な話を進めている。さらに榎戸氏は「研究者たちでスタートアップをやっているような感覚にワクワクした。研究費としては微量かもしれないが、直接応援をもらうことで研究費の大切さを肌で感じ、研究の推進力をもらうことができた」とコメントした。クラウドファンディングは資金だけでなく、多くの“副産物”を生んでいることが伺える事例だ。○オープン化が進む情報科学分野特有の文化とはソースコードを公開し、プログラマやエンジニアたちが共同でソフトウェアを開発していく「オープンソースソフトウェア(OSS)」の文化が根付いている情報科学分野。最近ではコラボレーションツール「GitHub」を利用したソフトウェア開発が主流になっており、オンラインコラボレーションの流れはますます加速している。湯村翼氏は、情報通信研究機構に技術員として勤務しながら北陸先端科学技術大学院大学 情報科学研究科にて研究を行っている、いわゆる社会人学生だ。もともと大学では宇宙プラズマの研究をしていたが、就職後に情報科学の分野へ進み、AR(Augmented Reality:拡張現実)の技術開発や、ホームネットワークの研究を行ってきた。ITエンジニアたちのあいだでは知識やノウハウ共有のために、カンファレンス、勉強会、ハッカソンなどが頻繁に行われており、日によっては1日に全国で40件以上開催されていることもある。自分のソースコードやノウハウをオープンにしてしまうというと、他分野の研究者は抵抗を感じてしまうかもしれない。これについて湯村氏は「情報科学の分野では、誰かが作ったものをもう一度作る『車輪の再開発』をなるべく行わないようにするという文化があるためでは」と分析する。さらに同分野では、Youtubeなどの動画サービスが研究者の発表の場になりつつある。国際会議の投稿時に義務付けられたり、査読対象になったりすることもあるという。湯村氏自身も、動画での研究発表を推奨する「ニコニコ学会β」を運営。なかでも「研究してみたマッドネス」は、誰にでもオープンな「ユーザー参加型研究」を実践することを目的としたセッションで、インターネット上で活動しているアマチュアの研究者と、ビジネスやアカデミアで活躍するプロの研究者とが一緒になって発表し、討議を行う。ユーザー参加型研究の世界を湯村氏自らが作り上げているのだ。個人PCのスペックが向上し、またAWS(Amazon Web Services)などのクラウドサービスにより高性能なリソースを手軽に利用することが可能になってきたため、最近ではコンピュータひとつあればさまざまなことができるようになってきた。「情報科学の分野では、オープンサイエンスがより進みやすくなってきている」(湯村氏)***研究費クラウドファンディングや、研究者と一般市民のコラボレーションは、科学コミュニケーションとしての意義もある。まだまだ課題は多いが、まずは情報科学分野における豊富なオンラインコラボレーションの事例を他分野へ展開していくことが今後、第二次オープンサイエンス革命を起こすためのヒントを見出す鍵となるのではないだろうか――第一線で活躍する若手研究者たちの熱いトークセッションを聞き、そう感じた。
2015年11月19日●選ばれし5名のアンバサダーたちの研究成果とは日本科学未来館(未来館)は11月15日、ワールド・バイオテクノロジー・ツアー(WBT)の一環として4月より実施している「WBT アンバサダー・プログラム」の最終プレゼン審査および表彰式を、科学コミュニケーションイベント「サイエンスアゴラ 2015」にて開催した。WBTは、科学館の活動をとおしてバイオテクノロジーやその社会との関係性の理解を深めることを目的とした国際プロジェクト。2015年~2017年に世界の12の科学館で開催される予定で、未来館は1年目の開催館のひとつとなっている。今回、WBT アンバサダー・プログラムに選出された高校・大学生の5名のアンバサダーたちは、未来館の科学コミュニケーターとそれぞれペアを組み、約8カ月かけて研究テーマの立案から文献調査、実験、考察、プレゼンテーションまで、バイオテクノロジーに関する研究の流れをひととおり経験してきた。そのほかにも、未来館ユーザーや研究者への取材、学会への参加、ポルトガルやベルギーのアンバサダーたちとのオンラインでの交流など、多角的な視点からバイオテクノロジーに触れてきたという。ではここでさっそく、5名のアンバサダーたちの研究成果を紹介しよう。○緑茶成分カテキンの機能と新しい活用法「脂肪燃焼や除菌、風邪予防といったイメージはあったが、その効果や根拠がわからなかった」と、緑茶に含まれる「茶カテキン」の体脂肪低減効果や抗菌効果について研究を行ったのは、高校2年生の東野昌伸氏だ。茶カテキンの性質について研究を行っている静岡県立大学や花王などに取材をしたうえで、その抗菌効果を調べるために、茶カテキンを染み込ませた紙を培地に置き、黄色ブドウ球菌の増殖の仕方を観察するという実験を実施。この結果、茶カテキンを含ませなかったものと比較して、茶カテキンを含ませたものは黄色ブドウ球菌の繁殖を抑えていることが明らかになり、また茶カテキン濃度の高いもののほうがその効果が高いという結果になった。この結果について東野氏は「茶カテキンは細菌の細胞膜を破壊する性質と、細菌を殺す働きを持つ過酸化水素を発生させる性質を持っているため」であると考察する。東野氏はさらに、ほかの食材との相乗効果を狙った実験も行い、梅干しのエキスと混ぜることで、より少ない茶カテキンの量で抗菌効果が得られることも明らかにした。○インフルエンザワクチンに関する情報の伝え方の研究インフルエンザの予防接種を受けよう/受けないと思うのはどうしてなのか――週末に未来館でボランティアをやっているという高校2年生の柳田優樹氏は、インフルエンザの情報の伝わり方について調査研究を行った。「予防接種を受けたのにインフルエンザにかかってしまった経験が、研究のきっかけだった」(柳田氏)インフルエンザワクチンは主に「重症化を防ぐ」ためのものであり、インフルエンザの感染自体に必ずしも効果があるものではない。インターネットで文献を調査した際にインフルエンザワクチンの接種を否定する「反ワクチン」の情報が目立ったことが気になったという柳田氏は、朝日新聞の編集委員や国立保健医療科学院の研究者、子どもを持つお母さんたちといった、さまざまな立場の人たちに対して取材を行った。特にお母さん方に対する取材で行ったアンケート調査では、3人に1人がインフルエンザの予防接種に消極的だったという。予防接種を受けない理由としては「予防接種後にアレルギー反応が出るため」という回答が一番多かったが、次いで「お金がかかるため」「時間がかかるため」だった。また、お母さん自身が予防接種に消極的で、さらに子どもに受けさせることに対しても消極的な人は「どうせ効かないから」という意見を持っていることがわかった。この結果について、柳田氏は「インフルエンザワクチンで本人の感染を防げるという誤解があるからではないか」と考察。また、お母さん方から「もっと予防接種を受けやすい環境を作って欲しい」という声があったことから、自由な接種環境および情報環境が必要であると結論づけた。●最も優秀な10代のサイエンティストは誰?○スピルリナを使った肥料でエチオピアの栄養不良を解決したい高校2年生の蒲朋恵氏は、この夏、腰のあたりまであった長い髪の毛をばっさり切り、医療用のウィッグ製作用に髪の毛を寄付する「ヘアドネーション」を行ったという奉仕の精神あふれる心の持ち主だ。そんな蒲氏はエチオピアの食糧問題に着目した。栄養不良は2種類に分けられる。生命維持に関わるエネルギー自体が不足しているものと、エネルギー源となる炭水化物は足りていても、ビタミン、ミネラル、タンパク質が不足しているというもの。後者では、身体や知能の発育に影響を及ぼし、病気にかかりやすくなるという問題がある。エチオピアの5歳未満の子どもの栄養不良の割合は約50%といわれている。この原因について蒲氏は、作物の生産性が低く野菜の量が少ないためであると分析。高価な化学肥料ではなく堆肥などの安い肥料を用いることで、野菜の生産性を向上すればよいのではと考えた。しかし堆肥には、肥料として必要な窒素・リン・カリウムのうち、窒素の量が少ないとされている。この窒素を補うため、蒲氏はエチオピアに自生する窒素分が豊富な藻「スピルリナ」に注目。実際にスピルリナを堆肥に混ぜ肥料として利用し、コマツナを育てる実験を行ったところ、堆肥にスピルリナを分施した際には、水を吸いにくいといった課題はあったが、化学肥料と同じ程度のコマツナの成長が見られたという。「農業は広くさまざまな分野に関わっていること、農業視点のみからでは栄養問題を解決するのは難しく、バイオテクノロジーが必要であることがわかった。この経験を今後の進路選択に生かしていきたい」(蒲氏)○水処理との付き合い方の調査研究2020年の東京オリンピックでは、お台場海浜公園にてトライアスロンが行われる予定となっている。しかし現状のお台場の海水浴場では2日しか遊泳が解禁されず、しかも顔付けは禁止。その水質が問題視されている。今回の参加者のうち唯一の大学生である明田悠祐氏は「下水道処理場があるのに、なぜお台場の海は汚れているのか」という疑問を持ち、今回の研究テーマを選んだ。水の汚れを表す指数として、一定量の水を44.5℃で培養した際の大腸菌とそれに似た性質を持つ細菌の数である「糞便性大腸菌群数」と、水中の有機物を酸化させるのに必要な酸素量である「科学的酸素要求量(COD)」が知られている。お台場の海は日によって、これらの指数の基準値を大幅に超すことがあるという。明田氏は、下水の配管方式や海底に溜まったヘドロが水質汚染に影響していることを、東京都水道局などへの取材や文献調査で明らかにした。下水の配管方式には、生活排水と雨水が同じように処理される「合流式下水道」と、生活排水を処理センターで処理し、雨水は海へ流す「分流式下水道」の2つがあるが、古い設備である合流式は、大雨が降ると処理量が増えてしまい十分な処理を行えないまま放流してしまうという問題がある。東京都23区では、2020年までに1400万m3の下水を貯蓄できる設備を整備するなどといった対策を打ち出しているが、明田氏はすでに横浜市で実験が行われているという「水中スクリーン」を用いて、汚濁水から物理的に競技会場を仕切ることを提案した。○腸内環境と健康の関係ここのところ「腸内細菌叢(腸内フローラ)」という言葉がテレビや新聞などをにぎわすようになった。我々の腸内には多くの細菌が住んでおり、その種類は約300種、数にして約100兆個にも及ぶとされている。腸内細菌叢とは、この膨大な数の腸内細菌の生態系のことを指す。腸内細菌叢は食物の消化を助けたり、栄養素を作ったりするほか、大腸がんや糖尿病などにも関わっているとされている。高校2年生の服部真央氏は、新聞で腸内細菌叢の特集記事を読んだことで「薬に頼らずに腸から病気の予防ができれば」と感じ、今回の研究をスタート。研究者や大学生に混ざって学会へ参加し腸内細菌について情報収集をしたうえで、自身や家族の便を次世代シーケンサーで解析するという実験を行った。実験では、1週間のあいだ服部氏の家族が肉、魚、納豆を主菜とした食事をそれぞれ取り、これにより腸内細菌叢に変化があるかどうかを調べたが、はっきりとした違いは見られなかった。これについて服部氏は「実験の実施期間が短かった可能性がある。また主菜だけ変えても腸内細菌叢に影響しないのでは」と考察。また、腸内細菌の構成が祖父母、母で類似していた結果から、長期に渡る生活習慣や食事内容が影響している可能性についても説明した。服部氏は発表の最後に「研究者の方に取材した際に、すぐに結論を求めてしまったり、テレビの情報を鵜呑みにしてしまっていたりすることを指摘され、自分で調べ考察する大切さを学んだ」と今回の研究経験を振り返った。○最優秀アンバサダーに選ばれたのは?今回の審査は「創造性」「研究の手法と構成」「プレゼンテーション」「社会への影響」の4つの軸を基準に行われた。この結果、最優秀アンバサダーには腸内環境の研究を行った服部氏が選ばれた。受賞理由について未来館館長の毛利衛氏は「ユニークな研究であると同時に、腸内細菌叢の重要性について自ら実験を行い、自分の仮定と異なり自然はもっと複雑であるということに気づいたこと。最先端の手法を取り入れたこと」がポイントであるとしている。またこの結果を受けて服部氏は「群馬県から何回も通っていたので大変だったが、将来は研究職に就くことが夢だったので、とても貴重な体験になった」と感想を述べている。服部氏は最優秀アンバサダーとして、2017年に開催される世界科学館サミットの場でプレゼンテーションを行う予定となっている。未来館から生まれた若き科学者の卵に、ひきつづき期待したい。
2015年11月16日国立がん研究センターはこのほど、多目的コホート(JPHC)研究において受動喫煙と歯周病のリスクとの関連を検討した研究結果を発表した。同研究により、男性の非喫煙者でも受動喫煙で歯周病のリスクが高まる可能性が示されたとしている。JPHC研究の一環として実施されている歯科研究には、1990年に秋田県横手保健所管内に在住していた40~59歳の男女1,518人が参加している。2005~2006年に歯科医院において歯科健診を行い、歯の健康状態について調査を実施。その結果にもとづいて、今回、受動喫煙と歯の健康との関連について調査を行った。1990年の喫煙状況から、同研究の分析対象となった参加者1,164人(男性552人、女性612人)を受動喫煙と喫煙状況別に6つのグループに分けた。歯の健康調査の結果、6ミリ以上の歯周ポケットが1歯以上ある場合を重度の歯周病と定義し、喫煙状況と歯周病との関連を解析した。その結果、男性では、喫煙者の歯周病のリスクは受動喫煙経験のない非喫煙者の約3.3倍になることが明らかとなった。家庭のみで受動喫煙経験のある非喫煙者では約3.1倍、家庭および家庭以外の場所で受動喫煙経験のある非喫煙者では約3.6倍、重度の歯周病になるリスクが高まることも判明したという。同センターによると、たばこのニコチンは歯周病をひき起こす細菌(歯周病菌)の発育を促進し、その病原性を高めるとのこと。「喫煙は全身の免疫力を低下させ、歯を支えている組織の破壊を助長するので、歯周病菌に感染しやすくなる。その結果、喫煙者は歯周病にかかりやすく、受動喫煙についても同様のメカニズムが推察される」と解説している。なお、女性では喫煙状況と歯周病との間にはっきりとした関連は認められなかった。「理由は不明であり、今回の研究でみられた男女差についてはさらなる研究で明らかにする必要がある」としている。※同研究結果は国立がん研究センターによる多目的コホート研究HPより引用しています
2015年10月28日防衛省は9月25日、装備品への適用面から着目される大学、国立研究開発法人などの研究機関や企業などにおける独創的な研究を発掘し、将来有望な研究の育成を目指して2015年度より開始した安全保障技術研究推進制度において9件の研究課題を採択したと発表した。募集期間は2015年7月8日から8月12日で、応募総数は109件。大学などから58件、独立行政法人などの公的研究機関から22件、そして民間企業などから29件の応募があったという。なお、今回採択された9件の研究テーマと研究代表機関は以下の通り。
2015年09月26日国際電気通信基礎技術研究所(ATR)は6月15日、国立循環器病研究センター(国循)が9月から実施する予定の肺がん手術後の転移を抑える臨床研究に関する付随研究を実施する共同研究契約を締結したと発表した。高リスク肺がん手術に対して、術中より3日間、心臓から分泌されるホルモンであるヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(hANP)を持続投与することによって、術後急性期における心肺合併症を有意に軽減でき、術後慢性期における肺がんの再発を有意に軽減することが国循によって報告されている。これは、hANPが血管内皮細胞に働き、血管接着分子を抑制することで、がん細胞の血管への接着を防ぎ、がん転移を防いでいると考えられており、国循は9月から肺がん手術後の転移を抑える臨床研究を開始する予定だ。ATR佐藤匠徳特別研究所の河岡主任研究員の研究グループが実施する予定の研究では、臨床研究で得られた肺がん病理組織を用い、網羅的遺伝子解析を実施することで、hANPの作用機構を解明することを目指す。また、同研究によって、新たな予後マーカーや創薬ターゲットが発見されることも期待される。
2015年06月16日障がい者雇用の調査・研究機関「障がい者総合研究所」は、20~60代の就業経験のある障がい者684名に「就職・転職時の情報に関するアンケート調査」を実施した。調査期間は3月25日~31日。○就職・転職時にもっとも重視する情報は「障がいへの理解・配慮」就職・転職する企業を選ぶうえで、もっとも重視する情報について尋ねたところ、1位は「障がいへの理解・配慮」(25%)、2位は「仕事内容」(18%)だった。求人票の内容だけで必要な情報を入手できたか聞くと、57%が「得られなかった」と、半数が応募時点では情報が不十分であることがわかった。入社前までに必要な情報を得られたか尋ねると、「得られた」「得られなかった」の回答がそれぞれ50%だった。選考過程においても半数が十分な情報を得られていないようだ。入社前までに得られた情報量と会社への満足度との関係について調べると、入社前に得られる情報量が少なくなればなるほど、入社後の会社への満足度は低下していることがわかった。入社前に情報がほとんど得られなかったと回答した人の75%は「会社に満足していない」と回答している。入社前までに、もっと知りたかった情報は何か尋ねたところ、最も多い回答は「仕事内容」(34%)だった。次いで「社風・職場の雰囲気」(17%)、「障がいへの理解・配慮」(16%)となっている。
2015年05月25日