名古屋麻酔科クリニック(所在地:愛知県名古屋市)は、ケタミンクリニック in 名古屋麻酔科にて海外における心的外傷後ストレス障害(PTSD)、強迫性障害(OCD)に対してケタミン点滴の有効性とであることを踏まえ、2023年2月より同疾患をケタミン療法の適応に加えることになりました。ケタミンクリニックを知ってますか?■米国からみたケタミン療法近年、海外では治療抵抗性うつ病に対してケタミン療法は効果的であり、よく知られています。併せてPTSDとOCDに対してのケタミン療法も行われ、研究も多くあり、好評を得ています。PTSDとOCDに関しては、いくつかの治療法はありますが、あまり効果が認められず苦しんでいる患者さんも多くいるのが現状です。米国では現在100ほどのケタミンクリニックがありますが、10年以上前からPTSDとOCDに対してケタミン点滴が行われており、安全性はもとより成果を出しています。ケタミン注射薬は、1960年代から使われている代表的な全身麻酔薬で、その安全性も高く現在でも使われています。うつ病やPTSD、OCDへのケタミン点滴は、米国と同様に我が国でも適応外使用となりますが、効果や安全性も含めて20年ほど前からよく研究もされ、臨床データも多くありとくに問題はありません。■ケタミン療法とPTSD・OCD心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ患者さんは、従来の薬物療法や治療法よりもケタミン注入から多くの緩和を得る可能性があります。ケタミン療法は、治療抵抗性の症例でも効果的に機能し、長期的な副作用はありません。ケタミンは、他の従来の治療法とは異なり、脳機能を改善し、独自の方法で治癒を促進します。神経科学に対するケタミンの効果のほとんどは、精神的健康状態を治療するためのまったく新しいアプローチです。強迫性障害(OCD)、全般性不安障害、パニック障害、およびその他の形態の不安障害の患者さんは、ケタミン点滴療法によって効果的かつ迅速に治療されることが期待できます。ケタミン療法は、より健康的な神経化学バランスの回復を助ける独自のプロセスを通じて、患者さんの神経系の落ち着きを促進するのに役立ちます。一部の患者さんでは、従来の処方薬への依存の減少が見られることがあります。多くのの患者さんは、自身と生活について、全体的に健康的な視点を持つことができ楽しい生活を送れるようになります。現在の治療に満足してますか?■ケタミン療法についてケタミン点滴は一般的に3~6回をセットとして2~3週間の短期間に行われます。(1回で調子が良くなり、その後の追加が必要なければそれで終了です。)その後は月に1回程度の維持療法もしくは、調子の悪い時に行われます。点滴時間は、その量や患者症状、副作用の有無などで一概ではありませんが、20分から40分ほどかかります。その後しばらく、個人差もありますが1時間ほど安静の後、問題なければ帰宅となります。■名古屋麻酔科クリニックについて名古屋麻酔科クリニックは、“ケタミンクリニック in 名古屋麻酔科”として治療抵抗性うつ病だけでなく、心的外傷後ストレス障害(PTSD)および強迫性障害(OCD)の治療を自由診療として2023年より開始することとなりました。日本ではじめてのケタミンクリニックです。2010年以来、痛みに対して1,000回以上行ってきたケタミン点滴経験をもとに、革新的でエビデンスに基づく思いやりのある方法を通じて、治療抵抗性の状態に苦しんでいる方々を支援していきます。【クリニック概要】名古屋麻酔科クリニック所在地 :〒464-0837 愛知県名古屋市千種区丘上町2丁目49-4アクセス:名古屋市営地下鉄 東山線 覚王山駅4番出口から南へ徒歩3分診察時間:<10:00~12:00>月曜日・火曜日(往診)・木曜日(往診)・金曜日<10:00~15:00>水曜日(自由診療)<15:30~19:00>月曜日・火曜日・木曜日・金曜日休診日 :土曜日 日曜日 祝日TEL :052-757-3326◆水曜日は自由診療(自費のみ) 10:00~15:00となります。◆当院は予約制となっております。お電話にてご予約をお願いします。※混雑状況・他患者様の治療内容によりどうしても待ち時間が発生してしまう可能性がございます。安静時間が必要な注射をする場合もございます。お時間に余裕を持ってご来院くださるようお願い申し上げます。<ケタミンクリニック in 名古屋麻酔科> <名古屋麻酔科クリニックHP> <名古屋麻酔科クリニックInstagram> 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2023年01月30日PTSDとは心の外傷体験に対する反応が長期的に続いている状態PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)は、心の外傷体験に対する反応が長期的に続いている状態です。通常、外傷への反応は一過性で時間とともに改善しますが、災害・事件・事故など自分や身近な人の生命に関わるような重大な外傷体験の場合、症状が重く、長期化することがあります。このように症状が長期化した状態を、PTSDと呼びます。症状の代表例には、心の外傷体験を再体験するフラッシュバック、気分障害、睡眠障害などがあげられます。また、PTSDと関係が深い病名に、急性ストレス障害がありますが、急性ストレス障害は外傷体験の直後から1ヶ月以内に発症し、1ヶ月以内に収束するのが特徴です。一方で、外傷体験から3~6ヶ月以内に発症し、症状が1ヶ月以上続くのがPTSDです。(外傷後何年も経ってから発症するケースもあります。)※このページは「心の外傷とその対応|文部科学省」と各参考資料を基に作成されています。参考:心の外傷とその対応|文部科学省子どものPTSDの原因・症状・診断基準PTSDは大人・子ども問わず発症する病気ですが、大人に比べて精神的機能が未発達な子どもの場合、その外傷体験の影響が深刻になることがあります。そのため、子どものPTSDは大人よりも細やかな注意が必要です。どのようなストレスでも外傷体験となる可能性はありますが、子どものPTSDの原因になりやすい外傷体験は以下の3つと言われています。1.自分の生命や身体に対する深刻な脅威具体例:暴力、性的な虐待、人質にとらわれる、戦争、ガンなどの重い病気など2.他者が重症を負ったり、殺害されたりした出来事を目撃すること具体例:事件事故・暴力・天災・テロ・戦争など3.身近な他者に対する深刻な脅威具体例:家族の死、暴力、性的な虐待、人質にとらわれる、戦争、ガンなどの重い病気など個人差があるため、外傷体験に晒された全ての子どもがPTSDを発症するわけではありません。また、子どもが直接外傷体験に遭遇していなくても、他者の体験を目撃することで発症するケースがあるため、注意が必要です。※幼児のPTSDで多い原因のひとつに「ドメスティックバイオレンス(家庭内暴力)」が挙げられます。子どものPTSDの症状は主に「侵入症状」「回避症状」「認知および/または気分に対する悪影響」「覚醒度および/または反応性の変化」「解離症状」の5つがあり、いくつかの症状を併発することがほとんどです。1.侵入症状心の外傷体験を連想させるものを目にしたあとなどに、意図せずその体験を思い出したり、悪夢を見たりします。(6歳未満の場合、悪夢と外傷的な出来事の関連性は不明)心の外傷体験を再体験するフラッシュバックがよく見られますが、幼児の場合、遊びを通して外傷体験を再演するケースも多いです。2.回避症状心の外傷体験の記憶や感情を思い出さないように回避し続けます。その体験を連想させる物事も回避対象です。3.認知および/または気分に対する悪影響心の外傷体験を思い出せなかったり、その体験に対する考え方に歪みが生じたりする場合があります。考え方の歪みの例には「自分が悪いのではないか」「自分が何か対処をすれば避けられたのではないか」などがあり、自責的な考え方になる傾向が見られる場合もあります。また、心の外傷体験は気分にも悪影響を及ぼし、以下のような症状として表れます。・陽性感情の減少と陰性感情(恐怖・罪悪感・悲しみ・羞恥心・錯乱・疎遠感・孤独感など)の増加・物事に関心が持てなくなる・ひきこもり・感覚が麻痺していると感じる・自分が若くして死ぬと予測する4.覚醒度および/または反応性の変化心の外傷体験の前には見られなかった、過剰な覚醒状態やそれに伴う症状が表れます。ちょっとした音や変化にドキドキしたり、常に緊張している状態になったりもします。5.解離症状自分の意識が体から離れているように感じたり、現実が非現実に感じたりします。参考:小児および青年における急性および心的外傷後ストレス障害 (ASDおよびPTSD)|MSDマニュアル プロフェッショナル版PTSDは、重度の恐怖をもたらした心の外傷体験があり、その体験を再体験しているかどうかや、感情麻痺や過覚醒の病歴をもとに診断されます。PTSDと診断されるには、機能障害や精神的苦痛を引き起こすほど重度な症状があり、その症状が1ヶ月以上続く必要があります。症状が3日以上1ヶ月未満のものは急性ストレス障害と判断され、PTSDの診断にはなりません。また、PTSDには、急性ストレス障害が持続したケースや、心の外傷体験後しばらくしてから発症するケースなどがあり、発症までの経過はさまざまです。(急性ストレス障害やPTSDの具体的な基準はわずかに異なることがあります。)子どものPTSDは、年齢によって症状の表れ方に特徴があります。ご家庭でできる応急処置の方法にも違いがあるので、幼児・小学生・中高生に分けて説明します。幼児(主に小2くらいまで)これまで「安全であった世界」がそうでなくなったと感じており、安全であることを確認しようとします。そのため、家族への依存が強くなり、赤ちゃん返りなどの症状が表れます。ぼーっとしている、ものごとに関わりたがらない、危険が去ったことを理解できない、ぐずる、眠るのを怖がる、両親から離れられない、退行症状や不安感などの症状が見られる場合もあります。Upload By 発達障害のキホン・大人にできる支援「大丈夫だよ」と繰り返し伝える、スキンシップの頻度を増やす、一緒に寝るなど、安心・安全であることを思い出してもらうよう心がけましょう。また、無理に心の外傷体験を思い出させたり、大切な人と引き離したりなど、心の負担になるような刺激は避けてください。できるだけ日常生活を今まで通り続けることが大切です。心の外傷体験を再現する遊びをしたときは、ぬいぐるみなどのおもちゃや画用紙などを用意して、気持ちを表現しやすい環境をつくるといいでしょう。小学生(主に小3から小5くらいまで)このくらいの年齢になると、ストレスを受けたときの反応は不安や恐怖が中心になります。しかし、幼児期や低学年の子どもと違い、恐怖がより現実的な内容を持っています。イライラ、怒り、言うことを聞かないなどの行動や、吐き気、腹痛、頭痛などの身体症状、不眠、悪夢などが引き起こされることも多く見られます。自分の行動が気になる、苦しい思い出に関連する物事に恐怖を示す、体験したことを繰り返し話す、体験したことを再現する、集中力や学習意欲の低下、両親に心配をかけさせなくないので、不安感を告げることに戸惑う、などの症状が見られる場合もあります。Upload By 発達障害のキホン・大人にできる支援幼児期の対応と同様に、安心安全を感じられる環境を作り、心の負担となる刺激を避け、通常通りの生活を心がけましょう。ある程度大きくなったお子さんでも赤ちゃん返りをすることがありますが、からかったりやめさせようとしたりせず、受け止めることが大切です。また、成績が下がってしまった場合は、一時的なものであると伝えて、自信を喪失させないように配慮しましょう。自分の衝動をコントロールする努力をさせてみる(行動する前に、何をしたいかを言葉にさせてみる)ことも有効だと言われています。趣味や友達と遊ぶ時間を作ったり、お手伝いを頼んだりなど、気分転換を促すことも効果的です。小学6年生から中高生(主に18歳くらいまで)この年齢の子どもの場合はストレスを受けたときに、より複雑な反応を示します。引きこもり、抑うつ、自殺念慮、非行、身体症状の産出などもよく見られる症状です。恥ずかしい気持ちや罪の意識で孤立してしまったり、恐怖感や無力さを意識しすぎてしまい、人間関係でトラブルなどが見られる場合もあります。Upload By 発達障害のキホン・大人にできる支援社会的活動の場を用意することが大切です。体を動かし、人と関わり、楽しさや他者の役に立つ体験を増やしていきましょう。ご家庭では、子どもの話に耳を傾けるよう心がけてください。もし、激しい感情や行動の変化がある場合は、速やかに専門機関と連携をとってください。子どもの変化に早く気づくことができるように、日ごろから学校や友達といるときの様子に気を配っておくといいでしょう。また、親同様に、友達との関係・友達からのサポートなども重要になってきます。子どものPTSDの治療法子どものPTSDの治療法は大きく分けて3つあると言われています。1.精神療法2.行動療法3.選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のほか、ときに抗アドレナリン作動薬精神療法では、主にカウンセリングの一種である支持的精神療法が用いられます。特定の症状を示す患児に役立つことがありますが、全てのPTSD患児に適応するわけではありません。一方、行動療法は多くのPTSD患児の苦痛や機能障害を減少させるのに、効果的であるとわかっています。PTSDの治療に使われる代表的な行動療法には「曝露療法」があり、心の外傷体験後から続く恐怖を消すのに役立ちます。子どものトラウマに焦点化した認知行動療法として「TF-CBTトラウマフォーカスト認知行動療法」があります。TF-CBTは、米国のDeblinger、Cohen, Mannarinoにより開発され、子どものトラウマに焦点をあてた認知行動療法です。欧米のいくつかの治療ガイドラインにおいて、子どものトラウマ治療の第一選択として推奨ることの多いプログラムです。基本的に毎週1回、親子で通い、親子別々に課題に取り組む回や親子一緒に話し合う回などがあり、8~16週間定期的に通う場合が多いです。参考:TF-CBTトラウマフォーカスト認知行動療法|兵庫県こころのケアセンターSSRIは感情麻痺やフラッシュバックの軽減に役立ちます。抗アドレナリン作動薬は過剰な覚醒状態の緩和に役立つ場合がありますが、まだデータが十分にとれていないので注意が必要だと言われています。参考:小児および青年における急性および心的外傷後ストレス障害 (ASDおよびPTSD)|MSDマニュアル プロフェッショナル版PTSDとうつ病の関連性PTSDはうつ病が併発しやすい病気で、以前は楽しんでいたことに対する関心が薄れたりします。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬はうつ病を併発していなくてもPTSDの治療に用いられることがありますが、うつ病や不安症の併発している場合は特に効果的と言われています。ただ、子どもの場合は大人以上に原因が複雑で、うつ病かPTSDかの判別が難しいので注意してください。また、併発している場合に、うつ病とPTSDのどちらが一次症状でどちらが二次症状なのかを判断するのも簡単ではありません。判断が難しい場合は、受診して「出ている症状」を抑えることが大切です。参考:PTSD|厚生労働省・みんなのメンタルヘルスもしPTSDになりそうなシーンに遭遇してしまったらお子さんと一緒にいるときに重大な出来事に遭遇してしまったときに備え、次の3つを覚えておきましょう。1.安全と安心の保証を第一に!まずは、生命の安全(環境の安全)、身体の安全、心の安心を確保しましょう。特に、子どもの心の安心を守るためには「落ち着いて行動している姿を見せる」「正確な情報を伝える」「子どもの不安な感情を受け止める」ことが大切です。2.生活をなるべく普通に戻す出来事に遭遇する前の生活になるべく早く戻すことを心がけましょう。幼稚園や学校生活への復帰、親子関係や友人関係の回復、遊びの時間の確保などが特に大切です。3.気持ちをゆったりさせる出来事に遭遇したときの不安を長引かせないために、生活に気持ちを安定させる方法を取り入れてみましょう。ヨガ・ストレッチ・散歩・静かな音楽を聞くなどさまざまな方法がありますが、特におすすめなのは『呼吸法』です。鼻から吸って、口から吐き出す呼吸を、ゆっくり行いましょう。お子さんが小さくてうまくできない場合は、風船やシャボン玉などを利用する方法もあります。子どものPTSDは大人に比べ、外傷の影響が深刻になることがあるため、細やかな配慮が必要になります子どものPTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)は、心の外傷体験に対する反応が長期的に続いている状態です。子どものPTSDは大人に比べ、外傷の影響が深刻になることもあるため、細やかな配慮が必要になります。特に現代では、インターネットで衝撃的な映像を目にしてしまう機会も増えました。他者が傷ついている映像などを見ることも、PTSDの原因になる可能性があるので注意しましょう。もし、お子さんが心の外傷体験に遭遇してしまったり、PTSDではないかと感じる症状が見られたりした場合、まずは安全と安心の確保に努めることが大切です。その上で、症状が長いまたは重いと感じる場合は、速やかに専門家に相談してください。
2023年01月27日PTSDの治療法は?大人の場合と子どもの場合PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)は、つらいできごとがトラウマとなり、さまざまな症状を発症する疾患です。PTSD治療において、大切になるのは本人のペースに合わせて回復していくということです。周囲が無理に今すぐ治そうとしても、思い通りにはなかなかいきません。※この文章を読んで、自分のトラウマがよみがえってきたり、気持ちがつらくなった場合には、一旦画面を閉じましょう。可能であればゆっくりと深呼吸をして、今が安全であることを確認しましょう。気持ちが落ち着いたら、また再開してくださいね。Upload By マンガで分かる発達障害のキホンUpload By マンガで分かる発達障害のキホンUpload By マンガで分かる発達障害のキホンUpload By マンガで分かる発達障害のキホンPTSDの治療大人の場合このコラムでは、PTSDの治療法について、紹介していきます。大人と子どもでは、PTSDになるできごとが異なったり、大人のほうが精神的に発達していたりと、同じPTSDでも異なる点があります。まず、大人に対するPTSDの治療法について紹介します。PTSDの治療には、その症状や原因をよく理解することが重要です。PTSDは、トラウマ体験をした人であれば誰でも起こることがあります。しかしPTSDになる人の多くは、PTSDについて詳しく知らないことも多く、そのため、PTSDになったことに対して罪悪感を感じてしまうことがあります。治療の第一段階としては、PTSDについて正しく理解することで、罪悪感を軽減したり、自分の感情をコントロールする術を身につけたりすることが多いです。PTSDの研究の中で、薬による治療(薬物療法)が効果的であることが分かっており、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)をはじめとした抗うつ薬などが有効だと考えられています。PTSDはうつ病や強迫症などさまざまな精神障害と併せて発症することがあります。そのようなときには、合併している疾患への治療も踏まえて、薬を使用していくことになります。精神疾患の薬は使い方を誤ると、重篤な副作用がでることもあります。そのため、医師の指示のもと、綿密に相談しながら、薬と正しい付き合いをしていくようにしましょう。現在、もっとも有効だと考えられている治療法が、精神療法です。特に、トラウマに焦点を当てた認知行動療法の有効性が明らかになっています。このうちの一つの「持続エクスポージャー療法(Prolonged Exposure Therapy:PE)」は、現実世界や想像の中のトラウマ記憶に持続的に曝露していくことで、トラウマに対する恐怖を消去していくという方法です。このほか、「眼球運動による脱感作と再処理法(EMDR法)」という、治療者の指を追って目を動かしながら、同時にトラウマ体験を思い出していくという治療法もあります。いずれも有効性が認められた治療法ですが、実施できる施設は限られている場合があります。PTSDの治療子どもの場合PTSDの治療の大枠は、大人と子どもで変わりません。しかし、子どもは自分の感じていることを言葉で表現することが難しいため、トラウマやどのような症状があるのかを周囲の人が適切に把握するために工夫が必要になることがあります。例えば、子どもたちの遊んでいる様子や描いた絵から心情を推測します。治療を開始するときには、大人と同様にPTSDがどのような病気であるのかを理解できるようにします。その後、薬を用いたり、認知行動療法をしたりして治療していきます。ここでは、子どものPTSD治療において有効性が実証されているトラウマフォーカスト認知行動療法について紹介します。トラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT)の目的は、トラウマに関連した症状や問題のある子どもと保護者が社会生活をするにあたり、トラウマを適切に処理することを支援することです。個人療法として行われることが多く、週に1回、60~90分、8~16週かけて行います。TF-CBTには3つの段階があります。1.トラウマに向き合う準備をするTF-CBTでは、トラウマ克服だけでなく、教育的な面も多く含まれています。はじめの段階では、ストレスマネジメントや感情を表に出すこと、ものごとの捉え方などの学習を行います。これらの教育的要素が十分身についたら、次の段階へと移行します。2.トラウマ記憶に向き合う少しずつトラウマと向き合えるようにしていきます。そのために、子どもが主体的にトラウマの体験を言葉で表したりできるようなプログラムになっています。また、いきなりトラウマに向き合うことができなくても、不安の少ないものから徐々に慣れさせていき、最終的にトラウマに向き合えるような工夫がされています。3.定着と統合親子で学んだことを復習したり、子どもがトラウマに対して感じたことを親と共有するような時間になります。この段階では、プログラムの成果の定着を図ると共に、親子の絆が一層強くなることも期待されています。TF-CBTは、子どものPTSDに対して有効だとされていますが、まだ新しい取り組みであり日本でそれほど普及しているわけではありません。PTSDは患者さん一人ひとりで症状に幅があります。そのため、医師と相談しながら、一人ひとりにあった治療をしていくことになります。普段からトレーニングや治療をしていても、パニックになることがあります。そのときにどのような声かけや対応をすればいいのか子どもの年齢別に説明します。適切な声かけや対応をすることで、PTSDが悪化することを防ぐことができます。参考:TF-CBTトラウマフォーカスト認知行動療法|兵庫県こころのケアセンター・就学前の幼児から小学校低学年まだまだ周りで起こったことを正しく理解し、全てを的確に表現できるわけではありません。例えば、地震が起きて揺れがおさまってもずっと怖がっているときには、すでに揺れはおさまりもう安全であることを伝えましょう。怖い夢を見た次の日に恐怖で眠れないときには、絵本の読み聞かせをしたり、抱きしめたりするのも効果的です。・小学校中学年程度周囲で起きていることだけでなく、自分自身の内側で起きていることに対して不安を感じるようになります。「今、この瞬間はもう大丈夫だよ」と安全を保証すると共に、保護者や周囲の大人が子どものつらさやしんどさに十分に理解を示すことが大切です。本人が話したそうなときは、無理に引き出さずにその話に耳を傾けることが、助けになる場合があります。・小学校高学年から、中・高生中高生は自分でしっかりと考えることができる段階にあるものの、ネガティブな考えから抜け出せなくなったり、一人で解決できそうにない問題が生じているときには、周囲のサポートが必要になります。まずは苦しいときにはいつでも助けを求めていいことを伝えておきましょう。また、相談しても頭ごなしに否定されないことや、一緒に解決策を考えることを保証していくことも大切です。いずれの年代においても、子どもたちをサポートするためには、まずは周囲の大人が安全な環境が確保され、心身の状態が落ち着いていることが必要です。※上記は代表的な年齢区分ごとの対応を示していますが、子どもの発達状況によって時期は前後することがあります相談先--もしかしてPTSDかも?と思ったらトラウマになりそうな犯罪被害にあったり、いじめにあったりしたときには専門家に相談することも視野に入れるといいでしょう。友達や先生、家族には相談しにくいことであっても、カウンセラーや、類似体験をした当事者同士であれば話せることもあります。大人の場合には、・病院の精神科・心理カウンセラーなどに相談できます。子どもの場合には、これに付け加えて、・児童相談所・家庭福祉相談所・担任の先生やスクールカウンセラーなどに、相談できます。また、性的暴力や、いきなり暴行に遭ったなど犯罪被害の場合には、・全国被害者支援ネットワーク・被害者支援団体・警察庁犯罪被害者支援室といったグループを頼ることもできます。まとめ同じようなできごとに直面しても、PTSDになる人、ならない人がいるため、PTSDと診断される人はメンタルが弱いのではないかと言われることや、本人が罪悪感を持つことがあります。しかし、本人が責任を感じる必要はありません。また、周囲の人も「あのとき、こうしておけばよかったかもしれない」などと責任を感じる必要もありません。それよりも、安全な環境をつくったり、本人が話せるときに話を聞いたりすることが大切です。イラスト/カタバミ
2022年12月29日PTSDと発達障害の関連性とは?PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)は、つらい出来事がトラウマとなり、さまざまな症状を発症する疾患です。ADHDの症状の中にはPTSDの症状と似ている点があったり、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもの中にはPTSDだと診断されなくとも、こころの傷によって苦しんでいる場合もあります。※この文章を読んで、自分のトラウマがよみがえってきたり、気持ちがつらくなった場合には、一旦画面を閉じましょう。可能であればゆっくりと深呼吸をして、今が安全であることを確認しましょう。気持ちが落ち着いたら、また再開してくださいね。Upload By マンガで分かる発達障害のキホンUpload By マンガで分かる発達障害のキホンUpload By マンガで分かる発達障害のキホンUpload By マンガで分かる発達障害のキホンUpload By マンガで分かる発達障害のキホンADHDとPTSDの類似性ADHD(注意欠如・多動性障害)とPTSDの症状には、実は似ている点が多くあると言われています。ADHDのある子どもは、不注意、多動性、衝動性の特性があります。ADHDのある子どもに見られる行動として、・大人しく座っていられない・すぐにかんしゃくを起こす・診察中に突然、病室から飛び出すといったことがあります。ですが、PTSDの症状としても、これらと似たような症状が見られることがあります。そのため、子どもの行動から、その原因がADHDの特性によるものなのかPTSDの症状として出ているものなのかを区別することは、専門家であっても難しい場合があります。ADHDとPTSDを正しく見分けるためには、子どもの過去にどのようなことがあったのかや生育歴・発達歴の情報が大切になってきます。子どもと一番長い時間を過ごしてきたのは、医師や専門家、学校の先生ではなく家族です。少しでも気になる出来事があったり、ある日を境に急にADHDと思われるような症状・傾向が見られるようになったと感じたときは、医師に伝えるといいでしょう。自閉スペクトラム症とトラウマ自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもは、その特性から、苦しんでいることがあります。「タイムスリップ現象」と呼ばれる症状が自閉スペクトラム症のある子どもに多くみられます。タイムスリップ現象とは過去の楽しかったことやつらかった出来事を突然思い出す症状です。この現象が起こりやすいという面から、ASDのある子どもは、(楽しい記憶のみでなく)過去にいじめや暴力を受けたときのつらい記憶について急に思い出し、まるで今その経験をしているかのように振る舞ってしまうことがあります。自閉スペクトラム症のある子どもが、フラッシュバックまたはネガティブな記憶のタイムスリップ現象に関して抱えている問題には、・トラウマになるような経験をしやすい・自分の身体に起こっていることを説明することが難しい・気持ちの切り替えやコントロールが難しいといったことが要因として挙げられます。自閉スペクトラム症のある子どもは、定型発達の子どもに比べるとストレスを感じやすい環境で生活していることが多くあります。感覚過敏のある子どもにとっては、普段の教室にいるだけでもストレスがたまっていくことが珍しくありません。また、うまく友人との関係性が構築できないという苦痛や、安心できるルーティンが崩される苦痛を受けやすいことなども挙げられます。自閉スペクトラム症のある子どもにとって、自分の身体で起きていることを正確に周囲に伝えることは困難を伴うことが多いです。子どもからのSOSがなく、親や学校の先生であっても、子どもがタイムスリップ現象で困っていることに気づけないことがあります。過去にいじめられたり、人間関係でうまくいかなかったりしたことを克服したように見えても、子どもが未だにその経験によって苦しんでいることもあります。自閉スペクトラム症のある子どもはパニックや癇癪、フリーズ(どうすればいいのか混乱してしまい、体と思考が凍りつく)を起こしやすかったり、気持ちの切り替えがうまくいかない傾向にあります。自閉スペクトラム症のある子どもが次のような行動をとったときには、トラウマが関連している可能性があるので、子どもに最近なにかあったか聞いてみるといいでしょう。・新たに、攻撃的・破壊的な行動をするようになったとき・夜、寝られなくなるなどの身体に変化が起きたとき・社会性、コミュニケーションにおいて、症状が悪化したとき・常同行動が増えたとき常同行動とは、手をひらひらしたり、体を揺らしたり、奇声を上げるなど、一見無目的に同じ行動を繰り返すことです。参考:友田 明美、杉山 登志郎、谷池 雅子/編集『子どものPTSD-診断と治療-』(診断と治療社、2014年)自閉スペクトラム症のある子どものPTSD予防のために自閉スペクトラム症のある子どもは、トラウマになるような経験をすることが多いと言われています。PTSDを予防するためには、大人子どもを問わず「安全な環境をつくること」「安全な人間関係をつくること」「自分に対するコントロール能力を回復すること」などが大事だと言われています。保護者が傍にいて安心できる環境を作ったり、家族や周りの人が心配し守っているということをきちんと伝えてあげることが、子どもが相談しやすい環境や安心へとつながります。また、なるべくそれまでの生活のパターンを変えずに、規則正しい生活を心がけて、自分に対するコントロール能力を回復するのを助けてあげることも重要です。イラスト/カタバミ参考:心の外傷とその対応|厚生労働省
2022年12月28日PTSDとは?概要や症状、原因を解説PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)は、ショック体験や強いストレスをきっかけに、こころにひどく傷を負うことで発症します。※この文章を読んで、自分のトラウマがよみがえってきたり、気持ちがつらくなった場合には、一旦画面を閉じましょう。可能であればゆっくりと深呼吸をして、今が安全であることを確認しましょう。気持ちが落ち着いたら、また再開してくださいね。Upload By マンガで分かる発達障害のキホンUpload By マンガで分かる発達障害のキホンUpload By マンガで分かる発達障害のキホンUpload By マンガで分かる発達障害のキホンUpload By マンガで分かる発達障害のキホンPTSDを発症すると、その出来事に関わる人・場所を過度に避けたり、常に気を張ったり、考え方が否定的になったりと、日常生活を送る上で支障が出てしまいます。時間が経つにつれて症状が軽くなることもありますが、数ヶ月、症状が長引くようであれば、専門家に相談することも必要になります。また、PTSD患者は、他の精神疾患を合併することが多いとされています。PTSDがある人が精神疾患を合併する割合は80%近くになります。合併することの多い精神疾患としては、うつ病、不安障害、アルコール中毒や薬物中毒といった物質使用障害です。PTSDは、誰しもがかかりうる疾患です。出典:日本精神神経学会/監修『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)PTSDの原因PTSDはショック体験や強いストレスがこころを傷つけ、トラウマになることで引き起こされる疾患です。人それぞれトラウマになる出来事はバラバラです。しかし、アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)によって、PTSDにつながるショック体験や強いストレスが定義されています。PTSDと診断するときには、以下のような経験をしたことを条件としています。A.実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による曝露:(1)心的外傷的出来事を直接体験する。(2)他人に起こった出来事を直に目撃する。(3)近親者または親しい友人に起こった心的外傷的出来事を耳にする。家族または友人が実際に死んだ出来事または危うく死にそうになった出来事の場合、それは偶発的なものでなくてはならない。(4)心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に曝露される体験をする。(例:遺体を収集する緊急対応要員、児童虐待の詳細に繰り返し曝露される警官)注:基準A4は、仕事に関連するものでない限り、電子媒体、テレビ、映像、または写真による曝露には適用されない。出典:アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)例えば、診断基準として上の条件を満たすような経験には、次のようなものがあります。・自然災害・殴られる、蹴られるなどの暴行・性的な虐待・手術中に意識を取り戻してしまうなどの医療事故・交通事故・大切な人の予期せぬ死これらの経験は、本人に失態があり、降りかかるようなものではありません。PTSDの原因になる経験は、日常生活を送る上で頻繁に起こるものではなく、非日常的な出来事であることが多いです。PTSDの症状PTSDは、過去に悲劇的な出来事があれば必ず発症するものではありません。過去にショック体験や強いストレスがあったことと、以下に挙げる特徴的な4つの症状が1ヶ月以上持続することを共に満たす場合にのみ、PTSDだと診断されます。・トラウマが突然、思い出される・トラウマに似た状況を避けようとする・自分自身や他者、世の中に対して否定的になる・いつも緊張状態にある特徴的な4つの症状について、一つずつ詳しく見ていきます。トラウマとなった記憶が急に思い出されて、さまざまな反応を引き起こすことをフラッシュバックと言い、場合によっては、突然反応がなくなったように見えることもあります。つらい記憶に似た状況に置かれたときに、記憶が急に思い出されるケースもあります。例えば、東日本大震災がトラウマになった子どもは、比較的小さな地震が起きたときにも、東日本大震災での記憶が呼び起こされます。PTSDがある人は、トラウマとなった出来事に関係する刺激を、常に避けようとします。多くの人は、トラウマを思い出さないように、つらい記憶について考えたり、会話したりすることや、トラウマに関係する場所、人を意図的に避ける努力をします。PTSDになると、否定的な感情を抱いたり、トラウマとなった出来事に対する認識がゆがんだりすることがあります。例えば、「私がすべて悪い」、「誰も信用できない」と考えてしまうこともあります。また本来、本人には一切の責任がないようなことであっても、原因が自分にあると思いこんでしまったりすることも少なくありません。PTSDがある人は、いつも気を張り詰めて緊張状態にあることがあります。日常の中で、ささいなことに苛立ちを覚えたり、電話がなると飛び上がるなど、予期しない刺激に過剰に反応してしまいます。このような症状が発症したとしても、数ヶ月のうちに自然におさまることも少なくありません。しかし、数ヶ月を超えても続く、あるいは段々とひどくなっていくという場合には病院で相談してみるといいかもしれません。また、半年以上経過してから発症する場合もありますので、時間が経ってからの症状にも注意が必要です。イラスト/カタバミ
2022年12月27日生きていれば、誰もが抱えている人生の痛み。ときには、対処法がわからずに悩み続けることもありますが、長年にわたってその苦しみと戦い続けてきたハリウッドスターが自らの半生を赤裸々に描いた話題作がまもなく日本での公開を迎えます。それは……。世界各国の映画祭で称賛の『ハニーボーイ』【映画、ときどき私】 vol. 316若くしてハリウッドのトップスターに上りつめたオーティス。ところが、撮影に忙殺されるストレスからアルコールに溺れるようになり、飲酒事故を起こしてしまう。更生施設に送られたオーティスに告げられたのは、PTSDの兆候があるという驚きの診断だった。原因を突き詰めるために、過去の記憶を辿るオーティスが真っ先に思い出したのは父のこと。人気子役として活躍していた12歳のオーティスは、前科者で無職の“ステージパパ”ジェームズの感情に振り回される日々を送っていたのだ。しかし、オーティスがカウンセラーに打ち明けたのは意外な言葉だった……。サンダンス映画祭で審査員特別賞に輝いたのをはじめ、辛口映画批評サイトでも絶賛されている本作。実力派として評価されているいっぽうで、“ハリウッドの問題児”としても知られている俳優シャイア・ラブーフが、リハビリ施設で治療の一環として書き上げた自伝的脚本が基になっていることでも注目を集めています。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。アルマ・ハレル監督ポン・ジュノ監督から「2020年代に注目すべき気鋭監督20人」の1人に選ばれるなど、新たな才能として期待されているイスラエル系アメリカ人のハレル監督。本作は、以前から交流のあったシャイアとの見事なコラボレーションによって誕生した傑作です。今回は、その背景や作品を通して得た気付きなどについて語っていただきました。―最初にシャイアさんから、父親との話を聞いたときの印象はいかがでしたか?監督もともとは、私の1作目のドキュメンタリーを見たシャイアが連絡をくれたことがきっかけで知り合い、その後は一緒にMVを作ったり、私の作品を彼がプロデュースしてくれたりという関係でした。そんななか、彼から脚本が送られてきて、お父さんとの話を聞かされたんですが、心をギュッとつかまれるような思いがしたのを覚えています。まるで彼らと同じ部屋にいるような感覚に陥ると同時に、「この映画を作らなきゃ!」と思わせる何かがそこにはありました。―オーティスとはシャイアさん自身を投影した役ということもあり、大人になったパートは自らが演じようと考えていたそうですね。ただ、それに対して監督が父親役を演じるようにシャイアさんに言ったそうですが、その意図を教えてください。監督それを決めたのは、シャイアが脚本の第一稿を送ってくれたときで、彼がまだリハビリ施設にいたころなので、かなり初期の段階でした。私がそうした理由は、脚本を読んだだけで実はシャイアが父親役を演じたいと考えて書いていることが伝わってきたからです。ただ、彼にはそれを後押ししてくれる最後の一押しが必要だったんですよ。過去にも彼はドキュメンタリーのなかで、自分の若い頃を演じることで心理的な浄化、つまりカタルシスのようなものを得ようしていたことがありますが、今回はその続きのような意味合いがあったように感じました。依存症や虐待との戦いは一生かかるもの―とはいえ、自身が抱えるトラウマを作品にし、自らそれを演じることはシャイアさんにとっては挑戦でもあったと思います。間近でご覧になっていて、変化を感じることはありましたか?監督もちろんありましたが、なかでも一番大きな変化を感じたのは、いろいろな国でプレスからのインタビューを受けているときでした。というのも、撮影中は本当に集中していましたし、彼はまるで自分のなかにいる“悪魔”に命を吹き込んでいるような状態でしたから。私も現場では、シャイアを通して彼のお父さんに会っているかのような感じがしたくらいです。それがインタビューを受け始めると、どこか柔らかくなったと感じる部分がありました。もしかしたら、彼自身が背負ってきたものの重さや父親の期待に応えるためにどれだけがんばってきたのか、ということに自分で気づけたんじゃないかなと思います。―それは父親役を自ら演じることで、シャイアさんがようやく得られた感情なのかもしれませんね。監督あとは、その頃はちょうど彼が断酒して1年経っていたときだったので、自分が取っていた行動が父親と重なるところがあり、いろいろな思いから解き放たれたように感じていたのかもしれないですね。依存症や虐待との戦いは、魔法のように急に治るものではなく、一生かかるもの。だからこそ、そういったことに光を当てることは重要なことだと思っています。シャイア自身もその戦いとしっかり向き合っている人ですから。シャイア以上の役者はいないと感じている―確かに、その葛藤は作品からも伝わってきました。では、アーティストとして、そして人としてシャイアさんからインスピレーションを受けた瞬間があれば、教えてください。監督まずは、彼には何にでも挑戦できる能力があるところ。そして、演技をするうえでは真実をつねに模索しているところがすばらしいと思っています。役者としては、彼と同じレベルの人はいるかもしれないけれど、彼以上の人はおそらくいないと思うほど、私にとってはベストな役者です。それほど瞬間的にその場所に存在し、真実に触れることができる力を持っている人だと感じています。あとは、彼は言語とのつながりが深いので、彼が選んで話している言葉を聞いていると、「あぁ、やっぱり物書きなんだな」ということがよくわかりますね。―そういった部分は、劇中のシャイア像を作り上げていくうえでも、参考になったのではないでしょうか?監督そうですね。それと彼の興味深いところは、いままで演じてきたすべてのキャラクターに影響を受けていること。私は20代のシャイアを演じたルーカス・ヘッジズと2人で、シャイアが出演したいままでの作品を観ながら、それらがどんなふうに彼に影響を与えたか分析しました。少年時代といまのシャイアが違うのは当然ですが、言葉使いなどを見てみると、これまでのキャラクターの堆積がいまのシャイアを作り上げている部分があることがわかったのです。3人の役者から若い男性の変遷を見ることができた―非常に興味深いポイントですね。そんななか、10代のシャイアを見事に演じ切ったのは、天才子役と言われるノア・ジュプくん。圧倒的な存在感でしたが、現場での彼に驚かされたことはありますか?監督ノアもシャイアと同じように、その瞬間に存在することができる役者のひとりなんですが、一番驚いたのは、「なんて健康的な子なんだろう」ということでした。というのも、子役と仕事をするときにいつも心配なのは、みんな大人っぽいので、つねに演技しているんじゃないだろうかということなんですよ。きちんと子ども時代を経験できずに大人になってしまう人が多いのは、子役によくある話ですし、今回は特にそういった内容に話でしたからね。余計に気になっていたんです。でも、ノアはちゃんと自分自身も周りも愛せる子で、家族もきちんとサポートしてくれているので、家族ともお互いの気持ちをしっかりと分かち合える環境にいます。その様子を見た私とシャイアは、「私たちは絶対にあんなふうにはなれないわね」と言っていたくらい(笑)。新しい世代だからというのもあるかもしれないですが、それほどノアは自分自身とも居心地のいい関係を保っていると感じています。ノアとルーカスとシャイアは、それぞれ約10歳ずつ年齢が離れていますが、彼らを見ていると、若い男性が社会に対して持っている意識の変遷のようなものが見えるようにも思いました。この作品で自分自身も成長を感じられた―なるほど。また、今回描かれているのは、人生における痛みについて。誰もが何かしらの痛みを抱えて生きており、その痛みは人を苦しめるいっぽうで、ときに人を強くする部分もあると思います。監督自身はそういった人生の痛みとどう向き合っていますか?監督すごくいい質問だと思いますが、撮影が終わってからも、作品ができてからも、その問題は私自身のなかで、チョロチョロと水が流れていくような影響を与え続けているような気がしています。特に、こういった題材だと物語のなかにあるダークな部分に自分も入っていかないといけないですからね。私の場合は、こうしてインタビューを受けているときに、いままで言えなかったことが話せるようになったり、父親との関係がより深くなったりするのを感じることがありました。そういう意味では少し気持ちが軽くなったところもあると思います。おそらくそれは、私の父もアルコール依存症で、一か所に定住しないような人だったというのもあるかもしれません。私が父と一緒に時間を過ごせるのは映画館だったので、私たち2人にとってのお家は映画館でした。そういったことも全部つながっているような作品なので、これまでの過程を通して、私もいまの自分にたどり着けましたし、自分自身が成長できたと思わせてくれる作品になったと思います。痛みの先にある“光”を見つける!役者の演技や映像美が観る者の心を掴んで離さない珠玉の1本。たとえ、内に抱える痛みやトラウマをすべて消し去ることはできなくとも、それらを胸に秘めたまま新たな希望を見つけることはできるもの。“ハリウッドスター” シャイア・ラブーフを通して感じる人生の光と影は、あなたの痛みにもそっと寄り添ってくれるものとなるはずです。琴線に触れる予告編はこちら!作品情報『ハニーボーイ』8月7日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開配給:ギャガ© 2019 HONEY BOY, LLC. All Rights Reserved.
2020年08月06日宇樹は発達障害と複雑性PTSDの当事者私は、発達障害(高機能自閉症)と、複雑性PTSDの当事者。30歳で発達障害を自覚、32歳で高機能自閉症の診断を受け、36歳のときに複雑性PTSDの傾向を指摘されました。そんな私が、初の単著『#発達系女子 の明るい人生計画』を発売しました。私がどんな人間であるかと、この本を書くに至った経緯、本に込めた想いについて語らせていただければと思います。私が発達障害を自覚したきっかけは、体調不良で通っていた鍼灸院で「耳が聞こえすぎている」と指摘されたことでした。「聴覚過敏」「感覚過敏」というキーワードでインターネット検索して出てきた例に、「これは私のことだ!」と目からウロコが落ちるような経験をして、発達障害の自覚に至ったのです。Upload By 宇樹義子発達障害の自覚当時、私は千葉県の実家で、精神疾患のある母と二人暮らしでした。自分自身の不調を抱えるなかで母の世話をするのは、私にとって大きな負担でした。毎日をなんとか過ごすだけで心身ともにクタクタで、発達障害について病院にかかる余裕はありませんでした。しかし、あるきっかけで急に実家を出て結婚することになった私は(詳しくは後述)、一年ほどかけて心身に多少の余裕を取り戻しました。そこで近所の心療内科を訪ね、高機能自閉症の診断を受けることになります。エビリファイという薬を処方され、飲んだところ、10年以上どうにもできずにいた昼夜逆転の症状がピタッとなくなり、とても驚きました。生活上のさまざまな段取りもスムーズに進むようになって、支援とつながることもできました。複雑性PTSD(複雑性心的外傷後ストレス障害)は、発達障害の二次障害と考えられます。服薬や環境調整で発達障害自体の症状はだいぶ乗り切れるようになったものの、人を信頼することができず、夫に対して要らぬケンカを吹っかけたりすることが続いたのです。「おそらくトラウマ(心の傷)が関係しているだろう」と、トラウマ治療の専門家にかかったところ、複雑性PTSDの傾向を指摘されました。Upload By 宇樹義子家庭での母との関係性も大きなトラウマでしたが、私の複雑性PTSDの直接的な原因となったトラウマは、小学校時代に児童から受けたいじめと、担任教師からの虐待だろうと、医師から指摘されています。あとで知ったことですが、発達障害のある人は、生きるにあたって大小の心の傷にみまわれることが多く、これらの傷の積み重ねだけでも慢性的なPTSDのような状態におちいることがあるそうです。私の場合、その中でも特に、実際にはっきりとしたトラウマとなるいじめや虐待を体験してきたタイプだったわけです。生きづらかった前半生いまの夫に助け出され、結婚するまでの私の人生は、生きづらさに満ちていました。小学校時代は周囲から浮きまくり、思春期以降は心身の調子を崩してしまって普通の生活が送れない。もともと狭かった周囲の人間関係が、年を追うごとに貧しさを増し、状況は悪化してゆくばかり。私は、気がついたときにはすでに、自分ではもう一歩も動けないほどに疲弊し、追いつめられていました。小学校時代は、地元の公立小学校で過ごしました。この6年間は、私にとって本当に苦痛なものでした。なんだか、自分だけが地面からちょっと浮いているような、自分とみんなの間に次元の境目があるような、深い孤立感のなかで暮らしていたのです。みんなが面白がっていることを面白いと思えない。でも、みんなが疑問を持たないことに疑問を持ってしまう。みんなが簡単にできることがどうしてもできない。でも、みんなができないようなことが簡単にできてしまう。 ……そして、そうした事実を素直に口に出しただけで、児童からも教師からも激しい攻撃を受けるのです。Upload By 宇樹義子学校での成績は、まったく勉強しなくても常にトップクラスでした(体育と算数除く)。そればかりか、学校の授業は簡単すぎるように感じて、退屈でした。みんなが家で親に尻を叩かれながら必死に勉強しても取れないような点数を、しれっと取ってしまう。「なんでわからないの? 考えればわかるじゃん」とか言ってしまう。授業中、ほおづえをついて「退屈だな―」みたいな顔をしてしまう。それでいて体格は周囲の子たちよりも一回り小さい。3学年ぐらい下の年齢に見えます。動作は鈍くてぎくしゃくしている。体幹がぐにゃぐにゃで姿勢が悪く、体育のたぐいはどれだけ練習してもうまくできない。国語は学年トップクラスなのに、算数だけはなぜか学年でビリっけつ。勉強ができることへの嫉妬や、できることとできないことの差が大きいことへの気味悪さも混じってでしょう、児童からは常にいじめられていましたし、教師からは常に叱責を受けていました。体育の時間は地獄そのものでした。Upload By 宇樹義子私は、誰かに何か矛盾やごまかしがあると敏感に察知し、相手が誰であろうとすぐに指摘するタイプでもありました。反抗的に見えるので、児童を力で支配したいタイプの教師からはすごく嫌われました。私には、ひたすら「人を尊敬するには合理的な理由が必要だ。彼らには尊敬してしかるべき理由が見当たらないから尊敬できない」としか考えられませんでした。大人たちを、単に大人だからという理由だけで尊敬し、従順にふるまう周囲の子どもを、むしろ不気味だと感じていたのです。下の画像は、私が32歳になって受けた知能検査(wais-Ⅲ)の結果の一部です。定型発達の人の場合、グラフはこれほどジグザグにならず、おおよそまっすぐになるそうなのですが、私の場合はご覧のとおりジグザグ。このジグザグ状態は、私の中で、分野によって得意・不得意の差が非常に大きいことを示しているそうです。Upload By 宇樹義子私は、小学校時代から20年以上経てこの検査を受けて初めて、小学校当時に自分の中にあった違和感や孤立感の原因を見たような気がしました。でも、当時は自分も周囲も、「発達障害」なんていう言葉を知る人はいない。私の、よくもわるくも平均から外れた部分は「わがまま」「努力不足」「甘え」「性格の悪さ」と判断され、私は常に叱責されたり嘲笑されたり、排除されたりしながら暮らしていたのです。中高は、私立の中高一貫お嬢様進学校でそれなりに幸せな学校生活を送った私。「『成績がよいこと』がいわゆるスクールカーストを上げる」「運動ができなくてもみんな似たようなものだから、大して目立たない」といった要素が良く影響したのかなと思います。しかし大学に入ると、だんだん雲行きが怪しくなっていきます。騒がしい都心への、長時間の通学。学校や親によって厳重に縛られていた高校までと比べて、あまりに自由度の高い学生生活。乗り切るのに周囲の学生とのコミュニケーション能力を必要とする、複雑な科目登録や単位取得のシステム。いま思えば、発達障害者にとって苦手な要素ばかりです。受験勉強で頑張りすぎたゆえの燃え尽きもあいまって、私は一気に生活リズムを崩していきました。夜に眠れず、朝に起きられない。身支度に何時間も時間がかかる。もともと強かった生理痛が、痛みで気を失うほどにひどくなり、PMSも悪化していきました。片頭痛も出るようになり、月の半分以上は体調が悪くて寝込んでいるような状態になったのです。Upload By 宇樹義子このころ、もともと精神的に不安定だった母が、本格的におかしな言動に出るようになっていました。並行するようにして、父や兄は、仕事を理由に家に寄りつかなくなります。こうして私はいつのまにか、母とほぼ二人暮らしとなり、家事や母の心身の世話にもエネルギーをとられはじめていました。気づけば、うつうつと寝て起きるだけでせいいっぱいで、ほとんど家を出られないような状態になっていたのです。いまの定義でいう「準ひきこもり」です。私はそれでも、「学校で成績がよかった」という、自分の過去の栄光にしがみついていました。なにかの拍子にふと沸いてくる、自分の人間としてのアンバランスさへの疑念を半ば無理やり払いのけながら、「私はこのまま、大企業に入ってエリートとして生きていくんだ」と思いこもうとしていたところがあります。そんな小さな抵抗も、大学3年次の就活でもろくも崩れさります。書類審査は通り、面接までは行ける。けれど、面接でことごとく落とされるのです。落とされるというか、面接では毎度、面接官を怒らせてしまったり、圧迫面接を受けてショックで怒ったり泣いたりして、最悪な終わり方をするのでした。ここは絶対に通る、と信じていたある会社の役員面接では、理不尽なことを言われつづけて泣きながら抗弁しました。当然、結果は不合格。父からも母からも「なんてバカなんだ、そういうときは素直にハイハイって言って従ってればいいんだ、面接ではそういうところを試しているんだ、常識だろう」みたいなことを言われ、本当にショックでした。それまで自分に向かって大きく開け放たれていたはずの社会への扉が、後ろ手にバタンと閉められる音を聞いたような感じでした。Upload By 宇樹義子私は怖い、この社会が怖い。そんな常識、私は誰にも教えてもらったことがない。私は小学校のころから変わっていない、いじめっ子のAちゃんが私に言ったとおり、私は「みんなが知らないことを知ってて、みんなが知ってることを知らない」んだ。私はどうやら人間として決定的な欠陥を抱えているみたいだ。でも、その欠陥の理由がなんなんだか、さっぱりわからない。私はこの社会でやっていける自信がない…… 私は、これまでに経験したことのない深い挫折感を覚えて、文字通り三日間泣き続けました。目がほんとうに開けられなくなるほどに腫れて、自分でも驚くほどでした。どうにか一社だけが私を拾ってくれました。しかし、この会社はいわゆるブラック企業でした。「こんな私を拾ってくれるような会社はここ以外にない」と思いつめた私は、必死にその会社に適応しようとしましたが、案の定、三ヶ月で心身の限界がきて、倒れてしまって辞めました。それからは、すべてが悪循環でした。夜はうつうつとして眠れず、朝はぐったりして起きられず、昼夜逆転が悪化していく。母の言動もどんどんおかしくなっていく。母も昼夜逆転でひたすらフラフラと寝起きするだけのなか、私はたったひとりで、日々の買い物や掃除、洗濯、食事の用意といった家事に加え、夜中の二時三時まで母の盲言の相手をする生活に追われました。日々の買い物のほかはほとんど外を出ない準ひきこもり生活のなか、心は焦りでいっぱいでした。刻々と大きくなっていく履歴書の空白を埋めようと、必死に仕事やアルバイトを見つけては、結局倒れて行けなくなり、やめてしまうのでした。Upload By 宇樹義子このころには、中高や大学の友人にも連絡をとりづらくなっていました。みんな、仕事で昇進したり、結婚して子どもを産んでいたりと、着実に人生を進めていっているように見えて、私だけが取り残されたような気分だったのです。あまりの余裕のなさに友人の幸せを素直に喜んであげられない自分も嫌だったし、現状を友人に話したとて、無為に心配をかけ、彼らの日常に水を差すだけだろうと思うと、つい連絡が遠のいてしまうのでした。あまりのストレスや絶望感にいよいよ追いつめられていた2011年3月、東日本大震災が起きました。もともと不安から突飛な言動に出る傾向だった母の調子は、さらに悪化しました。「このままでは私は近いうちに母と殺し合いになる」と感じる極限状態のなかで、私はほんとうに幸運にも、いまの夫となる人から助けを得て、同年5月に実家を脱出したのです。(詳細は本に書いています)それまでのあまりに強いストレスと疲弊、そして大きな環境変化のせいか、私には、夫のところに身を寄せてから半年ほどの記憶がほとんどありません。Upload By 宇樹義子心身ともに安全な環境でたっぷり休んで、ぼちぼち体調がマシになってきた12月、夫と入籍しました。いろいろな病院に行く元気も出てきて(逆にそれまでは病院に行く元気さえなかった)、翌年の2012年7月、32歳のとき、心療内科で高機能自閉症の診断を受けるに至ります。これが私の、深い心の傷からの回復のはじまりでした。「発達系女子」のみんなに、少しでも楽な近道をしてほしい現在39歳の私は、ほんとうにありがたいことに、たくさんの人に囲まれ、仕事にも恵まれて、とても元気に幸せに暮らしています。でも、ここに至るまでの道のりはつくづく大変なものでした。私は、31歳で夫のところに身を寄せて以来、現在に至るまで、一歩ずつ回復の道を歩んできました。発達障害のない人の人生にさえ、「こうしておけば正解」みたいな生き方の見えない時代です。なのに、私は障害者の中の、精神障害者の中の、さらに発達障害者。情報は、探せばあります。あるのですが、発達障害者の生活の役に立つ情報は、世の中のあっちこっちにバラバラと散らばっていて、ちょっとやそっとではたどりつけません。私が自分のなんとか幸せに生きていける道を探すためには、多くの人に頼り、無数のインターネット検索を積み重ねる必要があったのです。Upload By 宇樹義子生きづらさを軽減するためには、ともかく情報が必要なこと。信憑性のある情報をつかむためには、情報の探し方にコツがあること。いろいろな人に助けてもらうのが大事なこと。助けてくれる人にも、頼っていい人と、警戒しなければいけない人がいること。自分が苦しんでいる苦しみは、自分だけではない、きっと社会のみんなの苦しみであること。「結婚」や「モテ」だけが答えではないこと。発達障害者だけではない、世の中の誰にとっても、安心していられる「居場所」が必要なこと。自分を大事にし、元気にするために、もっともっとエネルギーを割いていいこと…。私は、実家を脱出したあと、8年ほどの時間をかけて、こういった、「発達系女子が楽に人間生活を乗り切るのに必要なこと」をひとつひとつ集めていきました。霧の立ち込めた石ころだらけの悪路を、杖をつきつきエンヤコラと歩いてきた8年間。あるとき突然目の前が開けて、自分がちょっとした丘のてっぺんに着いたことに気づきました。ふりかえれば、かすんでいたはずの風景は遠くまで見わたすことができます。自分の歩んできた道を見わたしてみて、「私はこんなに遠くまで来たのか!」と思うと同時に、「8年前の時点で、いや、もっとずっと前、たとえば30年とか前に、ここまでの道のりを描いた地図があったらよかったのに!」と、強い怒りや喪失感のようなものを覚えました。そのときの私には、多くの発達障害女性が、私と多かれ少なかれ似たような苦しみを抱き、似たような道を、それぞれバラバラに這い進んでいる姿が、ありありと想像できました。「いや、誰か助けてよ!! なんで誰も気づかないのよ!!」私はそう思い、次に、「ちょっと待って、私がやればいいんじゃない?」と気づきました。どうしたらいいだろう? 同じように五里霧中を歩んでいる仲間に、自分が苦労して集めてきた、発達障害女性の役に立つ情報を届けるにはどうすればいいんだろう?本を書くしかない、と思いました。私はもともと、人の役に立ちたい気持ちの強いタイプでした。何度も何度も「支援者になろうかな」と考えたのですが、そのたびに、「良くも悪くも繊細すぎる私は、きっと人を直接に支援する仕事には耐えられないだろう」と諦めてきたのです。幸い、私には文章が書けました。情報を集め、精査し、わかりやすく整理しなおして説明することが得意でした。なら、私が人の役に立てるとしたら、本を通して情報を渡すことなのではないか。そんなわけで、『#発達系女子 の明るい人生計画』の企画が動き出しました。Upload By 宇樹義子説得力のある企画書を出して版元を納得させなければならなかったため、念入りに市場調査や競合調査をしました。調査する中で、自分の考えている「発達障害女性の実生活にきちんと役立つ情報をたっぷり盛り込んだ実用書」が、企画当時の日本には全く存在しないと言っていいことがわかりました。ニーズは確実にあるのに、それに応えてくれている本がない。それなら、この本はなおさら、私が書かなければいけない ……そんな使命感のもと、企画から1年をかけて書き上げたのが、『#発達系女子 の明るい人生計画』です。『#発達系女子 の明るい人生計画』では、メインの読者を「成人の発達障害女性」と想定しています。でも同時に、「生きづらさを感じている/助けや生活のための情報を必要としている女性全般」にも役立ててもらえるような内容を広く盛り込んでいます。このため、この本は成人の発達障害女性以外にも、多くの人にお役立ていただけると思います。子育てに困りごとを抱えている人、経済的な苦労のある人、仕事や家に困っている人、周囲からの加害に悩んでいる人、母子家庭で大変な日々を送っている人、自分の娘に発達障害があって将来が不安な人、発達障害のある中高生女子、などなど ……多くの仲間の姿を具体的に思い浮かべながら書き進めました。自慢は分厚い巻末資料です。女性と子どもの支援に尽力されているソーシャルワーカーの鴻巣麻里香さんにご監修いただき、情報の正確性と網羅性を確保しています。正直言って、本編に描かれている私自身のケースなどはそれほど参考にならないと思うので(笑)、巻末資料だけでもめくってみていただきたいです。きっとお役に立てることと思います。宇樹義子「人のために書く」ことが、私自身を癒やしてくれた—ライターという仕事に出合って|LITALICO仕事ナビ
2019年12月16日歌手のアリアナ・グランデ(24)は、英マンチェスターでのコンサート直後に起きた爆弾テロの影響で、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患っていたそうだ。アリアナ・グランデ(C)BANG Media International昨年5月22日にマンチェスター・アリーナで開催されたアリアナのコンサート後のロビー付近で、22人が犠牲になり、100人以上が負傷した自爆テロが起きていたが、恐ろしい事件を体験したアリアナは、PTSDの予兆となるめまいや不安を感じていたという。アリアナはイギリス版ヴォーグ誌に「それを認めるのは嫌だけど、まさにそういう症状だった。みんな私に(PTSDだと)言っていたわ。たくさんの人がとても酷い喪失感に悩んでいるから話すのは辛いの」「でも、本当のことよ。被害者の家族やファン、そしてその場にいた誰もがその辛さを味わった」と明かした。他人の苦しみを考え、自分の経験についてはあまり語りたくないというアリアナだが、涙なしには語れないとは認めている。「時間が最大の薬よ。自分の体験についてなんて話すべきでないとさえ思うの。何も話さないべきだと。あのことについて泣かずにどう話していいのかなんてわかる日は来ない気がする」事件後、アリアナは被害者への支援を目的に、マイリー・サイラスなどが出演した「ワン・ラブ・マンチェスター」と銘打ったチャリティコンサートを開催しており、「憎しみ」を「素晴らしいもの」に変えてくれたと参加者たちを先日称賛していた。アリアナはフェーダー誌のサマーミュージック号で、「みんなで人類において最も憎むべきもの象徴を、素晴らしい団結力と愛情へと変えることが出来たという事実は、ただすごいこととしか言いようがない」「私たちは困難な時代にいるけど、皆それを受容や愛、多様性と情熱をもって立ち向かってる。この世代の人は皆、決起して、ノーと言われても諦めないのよ」と語った。(C)BANG Media International
2018年06月06日PTSDとは出典 : Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)は、ショック体験や強いストレスをきっかけに、こころにひどく傷を負うことで発症します。発症すると、そのできごとに関わる人・場所を過度に避けたり、常に気を張ったり、考え方が否定的になったりと、日常生活を送る上で支障が出てしまいます。時間が経つにつれて症状が軽くなることもありますが、数ヶ月、症状が長引くようであれば、専門家に相談することも必要になります。また、PTSD患者は、他の精神疾患を合併することが多いとされています。PTSD患者が、精神疾患を合併する割合は80%近くになります。合併することの多い精神疾患としては、うつ病、不安障害、アルコール中毒や薬物中毒といった物質使用障害です。出典:日本精神神経学会/監修『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)PTSDは、誰しもがかかりうる疾患です。アメリカでの調査によれば、約15人に1人は一生のうちにPTSDを発症します。また、PTSDを発症しないにしろ、約半数の人は、PTSDにつながる可能性のあるショック体験や強いストレスを経験しています。出典:友田 明美、杉山 登志郎、谷池 雅子/編集『子どものPTSD-診断と治療-』(診断と治療社、2014年)PTSDの原因出典 : はショック体験や強いストレスがこころを傷つけ、トラウマになることで引き起こされる疾患です。人それぞれトラウマになるできごとはバラバラです。しかし、アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)によって、PTSDにつながるショック体験や強いストレスが定義されています。PTSDにつながる経験は、以下の条件を満たしています。A.実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による曝露:(1)心的外傷的出来事を直接体験する。(2)他人に起こった出来事を直に目撃する。(3)近親者または親しい友人に起こった心的外傷的出来事を耳にする。家族または友人が実際に死んだ出来事または危うく死にそうになった出来事の場合、それは偶発的なものでなくてはならない。(4)心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に曝露される体験をする。(例:遺体を収集する緊急対応要員、児童虐待の詳細に繰り返し曝露される警官)注:基準A4は、仕事に関連するものでない限り、電子媒体、テレビ、映像、または写真による曝露には適用されない。出典:アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)例えば、上の条件を満たすような経験には、次のようなものがあります。・自然災害・殴られる、蹴られるなどの暴行・性的な虐待・手術中に意識を取り戻してしまうなどの医療事故・いじめられた経験や見て見ぬふりをした経験・ネグレクトなどの親からの虐待これらの経験は、本人に失態があり、振りかかるようなものではありません。PTSDの原因になる経験は、日常生活を送る上で頻繁におこるものではなく、非日常的なできごとであることが多いです。参考:アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)出典:明鏡国語辞典 第二版 (大修館書店)PTSDの症状出典 : は、過去に悲劇的なできごとがあれば必ず発症するものではありません。過去にショック体験や強いストレスがあったことと、以下に挙げる特徴的な4つの症状が1ヶ月以上持続することを共に満たす場合にのみ、PTSDだと診断されます。・トラウマが突然、思い出される・トラウマに似た状況を避けようとする・否定的になる・いつも緊張状態にある特徴的な4つの症状について、一つずつ詳しく見ていきます。つらい記憶が、無意識のうちに突然思い出されることがあります。この記憶が思い出されることは1回だけでなく、繰り返し何度も起こることが特徴的です。記憶が急に思い出されて、さまざまな反応を引き起こすことをフラッシュバックと言い、場合によっては、短い時間のあいだ意識を失うことさえあります。子どもの場合、つらい記憶に似た状況に置かれたときに、記憶が急に思い出されるケースがあります。例えば、東日本大震災がトラウマになった子どもは、比較的小さな地震が起きたときに、東日本大震災での記憶が呼び起こされます。PTSDの人は、トラウマとなったできごとに関係する刺激を、ほとんど常に避けようとします。多くの人は、トラウマを思い出さないように、つらい記憶について考えたり、会話したりすることや、トラウマに関係する場所、人を意図的に避ける努力をします。PTSDになると、否定的な感情を抱いたり、認知がゆがんだりすることがあります。例えば、「私がすべて悪い」、「誰も信用できない」と考えてしまうこともあります。また本来、本人には一切の責任がないようなことであっても、原因が自分にあると思いこんでしまったりすることも少なくありません。PTSDの人は、いつも気を張り詰めていることがあります。日常の中で、ささいなことに苛立ちを覚えたり、電話がなると飛び上がるなど、予期しない刺激に過剰に反応してしまいます。このような症状が発症したとしても、短期間でおさまればPTSDの可能性は低いと考えられます。しかし、1ヶ月以上にわたり症状が見られる場合には、病院で相談してみるといいかもしれません。参考:アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)参考:PTSD|みんなのメンタルヘルス厚生労働省ADHDとPTSDの類似性出典 : (注意欠陥・多動性障害)とPTSDの症状には、実は似ている点が多くあると言われています。そのため、ADHDだと診断されている子どもの中には、実はADHDではなくPTSDである子がいるかもしれません。ADHDの子どもは、不注意、多動性、衝動性の特性があります。ADHDのあるの子どもに見られる行動として、・大人しく座っていられない・すぐにかんしゃくを起こす・診察中に突然、病室から飛び出すといったことがあります。ですが、PTSDの症状としても、これらと似たような症状が見られることがあります。そのため、子どもの行動から、その原因がADHDの特性によるものなのかPTSDの症状として出ているものなのかを区別することは、専門家であっても難しい場合があります。ADHDとPTSDを正しく見分けるためには、子どもの過去にどのようなことがあったのかや生育歴・発達歴の情報が大切になってきます。子どもと一番長い時間を過ごしてきたのは、医師でも学校の先生でもなく家族です。少しでも気になるできごとがあったり、ある日を境に急にADHDと思われるような症状・傾向が見られるようになったと感じたときは、医師に伝えるといいでしょう。参考:友田 明美、杉山 登志郎、谷池 雅子/編集『子どものPTSD-診断と治療-』(診断と治療社、2014年)自閉症スペクトラムとトラウマ出典 : 自閉症スペクトラム(ASD)の子どもは、PTSDだと診断されなくとも、こころの傷によって苦しんでいることがあります。過去のできごとを突然思い出す、「タイムスリップ現象」と呼ばれる症状が自閉症スペクトラムの子どもに多くみられます。タイムスリップ現象とは、いじめや暴力を受けた時の記憶を急に思い出して、まるで今その経験をしているかのように振る舞う現象です。自閉症スペクトラムの子どもが、タイムスリップ現象に関して抱えている問題には、・トラウマになるような経験をしやすい・自分の身体に起こっていることを説明することが難しいといったことが要因として挙げられます。自閉症スペクトラムの子どもは、定型発達の子どもに比べるとストレスを感じやすい環境で生活しています。感覚過敏のある子どもにとっては、普段の教室にいるだけでもストレスがたまっていくことが珍しくありません。また、興味関心の偏りなどといった特性から、友だちとコミュニケーションをうまくとることができず、結果としていじめにつながってしまうこともあります。自閉症スペクトラムの子どもにとって、自分の身体で起きていることを正確に周囲に伝えることは困難を伴うことが多いです。子どもからのSOSがなく、親や学校の先生であっても、子どもがタイムスリップ現象で困っていることに気づけないことがあります。過去にいじめられたり、人間関係でうまくいかなかったりしたことを克服したように見えても、子どもが未だにその経験によって苦しんでいることもあります。自閉症スペクトラムの子どもが次のような行動をとったときには、トラウマが関連している可能性があるので、子どもに最近なにかあったか聞いてみるといいでしょう。・新たに、攻撃的・破壊的な行動をするようになったとき・夜、寝られなくなるなどの身体に変化が起きたとき・社会性、コミュニケーションにおいて、症状が悪化したとき・常同行動が増えたとき常同行動とは、手をひらひらしたり、体を揺らしたり、奇声を上げるなど、一見無目的に同じ行動を繰り返すことです。自閉症スペクトラムの子どもは、トラウマになるような経験をすることが多く、場合によってはタイムスリップ現象につながることがあるかもしれません。しかし、ふだんからソーシャルスキルトレーニングなどを通して子どもが自分の考えや感覚を表現するスキルを向上するための支援を行ったり、ペアレントトレーニングなどを通して保護者が子どもの行動の見極め方や関わり方を学んだり、子どもが親や先生に相談しやすい環境を整えたりすることで、タイムスリップ現象やPTSDを未然に防いだり、発生した際にも早期発見・早期支援に繋げやすくなります。参考:友田 明美、杉山 登志郎、谷池 雅子/編集『子どものPTSD-診断と治療-』(診断と治療社、2014年)PTSDの治療大人編出典 : 治療において、大切になるのは本人のペースに合わせて回復していくということです。周囲が無理に今すぐ治そうとしても、思い通りにはなかなかいきません。そうではなく、本人が少しでも安心して、安全に生活できるような環境を整備することを意識するとよいかもしれません。PTSDの治療法について、紹介していきます。大人と子どもでは、PTSDになるできごとが異なったり、大人のほうが精神的に発達していたりと、同じPTSDでも異なる点があります。この章では、大人に対するPTSDの治療法について紹介します。PTSDの治療には、その症状や原因をよく理解することが重要です。PTSDは、トラウマ体験をした人であれば誰でも起こることがあります。しかしPTSDになる人の多くは、PTSDについて正しい知識を持っていません。そのため、PTSDになったことに対して罪悪感を感じてしまうことがあります。治療の第一段階としては、PTSDについて正しく理解することで、罪悪感を軽減したり、自分の感情をコントロールする術を身につけたりすることが多いです。PTSDの研究の中で、薬による治療が効果的であることがわかっています。PTSDの薬物療法は、それぞれの症状が見られたときに対症療法的に行われます。例えば、不眠や抑うつ状態などが見られたら、それを解消できるような薬が処方されます。PTSDはうつ病や強迫症などさまざまな精神障害と併せて発症することがあります。そのようなときには、合併している疾患への治療も踏まえて、薬を使用していくことになります。精神疾患の薬は使い方を誤ると、重篤な副作用がでることもあります。そのため、医師の指示のもと、綿密に相談しながら、薬と正しい付き合いをしていくようにしましょう。集団療法は、PTSDの主な治療法の一つであり、PTSD患者の持つ孤独感を軽減させたり、周囲の人を信頼したりする効果があります。集団療法には、トラウマについて各々が向き合う必要のあるものから、トラウマについて触れないようにするものからさまざまな種類があります。参考:エナド・B・フォア、テレンス・M・キーン、マシュー・J・フリードマン、ジュディス・A・コーエン/編集飛鳥井 望/監訳『PTSD治療ガイドライン 第2版』(金剛出版、2013年)参考:PTSD の薬物療法ガイドライン:プライマリケア医のためにPTSDの治療子ども編出典 : の治療の大枠は、大人と子どもで変わりません。しかし、子どもだと自分の感じていることを言葉で表現することが難しいため、トラウマやどのような症状があるのかを適切に知るために工夫が必要になることがあります。例えば、子どもたちの遊んでいる様子や描いた絵から心情を推測します。治療を開始するときには、大人と同様にPTSDがどのような病気であるのかを理解できるようにします。その後、薬を用いたり、認知行動療法をしたりして治療していきます。ここでは、子どものPTSD治療において有効性が実証されているトラウマフォーカスト認知行動療法について紹介します。TF-CBTの目的は、トラウマに関連した症状や問題のある子どもと保護者が社会生活をするにあたり、トラウマを適切に処理することを支援することです。個人療法として行われることが多く、週に1回、60~90分、8~16週かけて行います。TF-CBTには3つの段階があります。1.トラウマに向き合う準備をするTF-CBTでは、トラウマ克服だけでなく、教育的な面も多く含まれています。はじめの段階では、ストレスマネジメントや感情を表に出すこと、ものごとの捉え方などの学習を行います。これらの教育的要素が十分身についたら、次の段階へと移行します。2.トラウマ記憶に向き合う少しずつトラウマと向き合えるようにしていきます。そのために、子どもが主体的にトラウマの体験を言葉で表したりできるようなプログラムになっています。また、いきなりトラウマに向き合うことができなくても、不安の少ないものから徐々に慣れさせていき、最終的にトラウマに向き合えるような工夫がされています。3.定着と統合親子で学んだことを復習したり、子どもがトラウマに対して感じたことを親と共有するような時間になります。この段階では、プログラムの成果の定着を図るとともに、親子の絆が一層強くなることも期待されています。TF-CBTは、子どものPTSDに対して有効だとされていますが、まだ新しい取り組みであり日本でそれほど普及しているわけではありません。PTSDは患者さん一人ひとりで症状に幅があります。そのため、医師と相談しながら、一人ひとりにあった治療をしていくことになります。普段からトレーニングや治療をしていても、パニックになることがあります。そのときにどのような声かけや対応をすればいいのか子どもの年齢別に説明します。適切な声かけや対応をすることで、PTSDが悪化することを防ぐことができます。◇就学前の幼児から小学2年生これくらいの子どもだと、まだまだ周りで起こったことを正しく理解し、全てを的確に表現できるわけではありません。大人である親によって、何が起きているのかを説明してあげるとよいでしょう。また側にいたり、一緒に遊んだりすることで子どもが安心できるような環境を作ることも大切です。例えば、地震が起きて揺れがおさまってもずっと怖がっているときには、すでに揺れはおさまりもう安全であることを伝えましょう。怖い夢を見た次の日に恐怖で眠れないときには、絵本の読み聞かせをしたり、抱きしめたりするのも効果的です。◇小学3年生から小学5年生周囲で起きていることだけでなく、自分自身の内側で起きていることに対して不安を感じるようになります。親としては、子どもの話をしっかり聞いたうえで、苦しい気持ちに打ち勝てるように、前向きな行動を考えましょう。「大丈夫」や「心配ないよ」とだけ伝えても、この年齢の子どもたちは納得しないこともあります。そのため、「もし、また似たような状況になったらどうするか」など具体的な策を一緒に考えることが必要です。◇小学6年生、中学生、高校生中高生になると、衝動的に自分を傷つける行為をしたり、仕返し願望を持ったりすることがあります。中高生はもう自分の頭でそれなりに考えることができるため、答えを与えるよりも一人でじっくり考えるように促すといいでしょう。ただ、すべて子ども一人で解決させようとするのではなく、一人で解決できそうにない問題に対しては一緒に対応策を考えたり、苦しいときには助けを求めてもいいことを伝えたりすることも忘れてはいけません。参考:友田 明美、杉山 登志郎、谷池 雅子/編集『子どものPTSD-診断と治療-』(診断と治療社、2014年)相談先ーもしPTSDかもと思ったら出典 : にならなくとも、トラウマになりそうな犯罪被害にあったり、いじめにあったりしたときには専門家に相談することも視野に入れるといいでしょう。友達や先生、家族には相談しにくいことであっても、カウンセラーや、類似体験をした当事者同士であれば話せることもあります。大人の場合には、・病院の精神科・心理カウンセラーなどに相談できます。子どもの場合には、これに付け加えて、・児童相談所・家庭福祉相談所・担任の先生やスクールカウンセラーなどに、相談できます。また、性的暴力や、いきなり暴行に遭ったなど犯罪被害の場合には、・全国被害者支援ネットワーク・被害者支援団体・警察庁犯罪被害者支援室といったグループを頼ることもできます。参考:私がPTSDになったとき|みんなのメンタルヘルス厚生労働省まとめ出典 : 同じようなできごとに直面しても、PTSDになる人、ならない人がいるため、PTSDにかかる人はメンタルが弱いタイプだと思われたり、自分自身でも罪悪感を持ったりすることがあります。しかし、PTSDになったからといって、本人が責任を感じる必要は一切ありません。また、周囲の人が「あの時、こうしておけば」などの責任を感じる必要もありません。それよりも、PTSDの人が過去のトラウマを克服できるように、安全な環境を作ったり、話を聞いたりすることが大切です。
2017年09月13日