になっていた。
テレビで深夜にやっている映画を観るともなしに観ていると、藤田は、主演女優が好きなのだ、と言った。あまりそういうことを言わない男だったので、乃莉はソファに寝そべったままふざけてじゃれつき、床に座った藤田の肩を器用につま先でつついたりした。
そして次に藤田に会うとき、その主演女優が着ていたのと同じような、黒いロングコートを着ていった。近所の古着屋で見つけた男物のコートだった。藤田は「似合う似合う」と笑った。
そして、その日が不意に訪れた。乃莉は、別の男に恋をしてしまったのだった。
乃莉と藤田が別れた、という話はまたたく間に友人関係に知れ渡った。藤田が行きつけの店で、酔って話したらしかった。
藤田には何の非もないし、藤田が浮気ひとつしない誠実な男だということは、誰もが知っていた。乃莉だって浮気などしない女だったが、これまで恋愛の話をしなかったことが仇となって「あの子、藤田さんのこと全然話さなかったもんね、あまり好きじゃなかったんじゃない?」「見た目は真面目そうなのにね」と、さんざんに言われている、と「仲がいいと思っていたはずの女友達」がわざわざ密告してくれた。
気分が悪くなるだけの話を、なぜわざわざ言いにくるのだろう、と思った。