2015年3月20日 19:35
女の節目~人生の選択 (13) vol.13「初めての、詐称」【22歳】
と言った。別の上司は反対に、「落ち着いて見えるから大丈夫。眼鏡で出たらもっとベテランに見えるよ」と言った。最終的にテレビに映った自分は、金属チェーンの下がった眼鏡を掛け、低めの声で立派なことをボソボソしゃべる、推定40代前半くらいの偉いオバサンに見えた。
その会社にいた誰も「嘘」なんかついていない。名刺が刷り上がった日から私の肩書は本当に「プロデューサー」になったのだし、短いインタビューでは実年齢など訊かれないから答えなかっただけだし、身分を偽って何か悪いことをしたわけでもない。オンエア翌日になると、同僚は「うまくいったね!」と全国放送の宣伝効果を祝っていた。CMの世界では、ラーメンからたちのぼる湯気や、グラスにトクトク注がれるビールの音、女優の肌色を一変させるファンデーションなどは、すべて作り物の映像だという。
それと同じことをしただけだと思えば、たしかに面白い体験だった。
○ガラスの仮面、透明なレイヤー
掛け持ちしたアルバイトの数だけこうした「方便」があった。中学受験生向けの塾講師のバイトでは、「なんでも知ってるフリ」が求められた。小学生の生徒たちは、私が全科目のありとあらゆる疑問に答えられると思って話しかけてくる。