【連載小説】この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。
「もしかして、綾香……?」
「あぁ」
苦い表情を浮かべた悠真さんは、スマホを取り耳に当てた。それから短い返事をいくつかしたあと、「すぐ帰る」と答え、通話を切った。
「ごめん、帰らないと」
「どうして? 朝まで一緒に居られるって言ったじゃない」
「綾香が不安がっているんだ」
「そんなの放っておけばいいでしょ!」
不安なのは、私だって同じなのに。寂しくて苦しくて、爆発しそうな思いをいつも抱えて耐えているのに。
「また時間を作るから」
「またっていつ?」
「千紗……」
「綾香と私、どっちが大事なの!?」
頭にカッと血が上って、思わず泣き叫ぶ。そんな私を、悠真さんは困ったように見つめていたけど、「あとで連絡する」と言い残して帰って行った。
どうしてこんなことになってしまったのだろう?さっきまで、すごく幸せだったのに。それからしばらく泣きながら部屋で過ごして涙が枯れた頃、インターフォンが鳴った。
もしかして、悠真さんが戻って来てくれた?慌てて玄関のドアを開けに行くと、そこに立っていたのは母だった。
「お母さん、どうして?」
「どうしたもこうしたもないよ。あの男……若い女と二股しやがって」