【連載小説】この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。
「綾香」
もう一発叩かれそうになったところで、悠真さんが綾香の腕を掴んだ。
「待ってくれ、僕と彼女は、」
「しらばっくれないでよぉ、全部調べたんだから」
調べた? それってまさか……。思わず息を飲んだ私に、綾香の鋭い視線が刺さる。こんな日が来ることを全く予測していなかったわけじゃない。それでも体が小刻みに震え出した。
「別の探偵を雇ったのか?」
悠真さんが綾香に尋ねた。ただ事ではない雰囲気を醸し出す私たちを、ロビーにいた人たちが好奇の目で見ている。
「そうよ、気付かなかった?あなたたち随分、油断していたものねぇ」
油断していたのかな。
でもまさか私に調査を依頼しておきながら、別の探偵も雇うなんて考えもしなかった。それに、SNSを見る限り私と悠真さんとの関係に気が付いている素振りなんて……あ、もしかして……。「わざとSNSに呑気な投稿をしてたの?」
「やっと分かったぁ?私が疑ってないと過信して、2人で旅行に行ったのも知ってるんだからね」
「そっか……」
じゃぁ、もう言い訳の余地もないね。
「ごめん、綾香」
「謝って済むことじゃないよねぇ」
「分かってる。分かってるけど、悠真さんと別れて」