【連載小説】この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。(最終話)
「ありがとうございます。お先に失礼します」
「ご苦労様。また明日ね」
女将さんにお辞儀をしてから、離れにある更衣室へと向かう。その途中、窓の外に広がる青く穏やかな空を見上げ愛しい人の顔を思い浮かべた。今頃、どうしているかな……?
あれから故郷に帰った私は、祖母の伝手を頼って温泉旅館で働き始めた。初めは慣れないことばかりで大変だったけど、良い同僚に恵まれて何とか上手くやっている。祖母も退院して元気を取り戻し、心穏やかに慎ましく暮らす毎日だ。
「千紗ちゃん、お疲れ!これからランチに行かない?」
更衣室に入ると、先輩の明美(あけみ)さんが笑顔で声をかけてくれた。
「えーと、今日は……」
「たまにはいいでしょ?支配人がね、千紗ちゃんに気があるみたいなの。1回だけ、チャンスをあげてくれないかな」
「そういうのは、ちょっと」
「どうして~?なかなかイケメンだし、良い人なのは知ってるでしょ?千紗ちゃんとお似合いだと思うけどなぁ」
「ごめんなさい、本当に」
「もしかして好きな人がいるの?」
「え?」
「何となくだけど、そんな気がしたから。違う?」
なかなか鋭い質問に、心の中で苦笑する。