【連載小説】この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。(最終話)
「いませんよ、そんな人」
「そうなの~?もったいなぁ、その歳ならまだまだいくらでも恋愛できるのに。支配人はバツ1だけど、かなりの優良物件なのよ」
明美さんは納得していない様子だったけど、それ以上追及してくることはなく、「気が向いたらデートしてあげてね」と私に念を押してから更衣室を後にした。
「……いくらでも恋愛できる、ね」
1人になって、ポツリと呟く。恋愛はもうこりごり。やっぱり私は恋愛に向いていなかった。だけど、ひとりの人を心の底から好きになれることを知った。
それを教えてくれた彼には感謝している。着替えを済ませた私は、いつも鞄の中に入れている手紙を取り出し、開いた。
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手紙
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この手紙を読んでくれることを信じて、筆を執ります。千紗が初めて僕を調査したあの日、尾行がバレていたと知った千紗の顔を今でもはっきり覚えているよ。真面目で律儀で責任感があるこの人なら信頼できると思ったんだ。
少しだけど、僕自身の話をするね。僕の両親は僕が物心ついた頃から不仲で、僕は祖父母に預けられて育ったんだ。
家には常にお金がなくたくさん苦労をしたから、僕は安定した生活を夢見て綾香と結婚したんだ。