2021年10月20日 16:42
【『最愛』感想 1話】 極限にそぎ落としたタイトルに込められた想い・ネタバレあり
抑えた声に滲む感情は時に優しく、深く悲しく、これは『すでに失われたなにか』の物語であることを最初に私たちに伝えてくる(松下洸平は、殺人事件の重要参考人となるヒロインの捜査にあたる刑事の宮崎大輝を演じる)。
それにしても、松下洸平の出世作となった朝ドラの『スカーレット』でも感じたが、松下の声は朴訥(ぼくとつ)とした方言と抜群に相性がいい。
そして初回ほぼすべての時間を割いて描かれるのは、陸上部のエースである大輝と、学生寮の明るい看板娘であるヒロイン朝宮梨央の、失われなかった頃の幸福である。
故郷の穏やかな景色も、古い家に差し込む柔らかい太陽の光も、全てが残酷なほどに美しい。
そんな無垢な幸福が壊されるきっかけになる禍々しい事件が、遠回しに、時にぼんやりとした描写で何度も差し込まれる。
このぼんやりとした表現の度合いが絶妙で、事件としての全体像は見ていればわかるものの、肝心の細部は全くわからない曖昧さ加減になっている。完全犯罪として隠蔽しようと思えばできるような、そして誰が犯人でもおかしくないような、事件ものの仕掛けとして実に秀逸なのである。
喪失の予感に満ちた過去のエピソードの中、父親(光石研)