2021年10月24日 06:00
還暦過ぎてホテル社長に「女は教育不要」を跳ねのけた元専業主婦
今回の取材でも、そして、講演会に登壇しても、「専業主婦だったからこそ、いまの私はある」と力をこめる。
「複数の作業を同時に行うマルチタスクが求められる専業主婦ほど、クリエーティブな仕事はないんです。少子高齢化で人手不足のこの国で、専業主婦の持つ能力は、もっと注目されるべき。専業主婦は社会に眠っている財産です」
言葉どおり、社長に就任以来、観光業界で働いた経験のない多くの専業主婦やシングルマザーを、何人も採用してきた。彼女たちをサポートするため、職場に泊まり込むことも少なくない。
「オープン当初は毎晩、ホテルに泊まってました。毎日、ずーっと、ここにいましたよ」 こう言うとまた、薄井さんは朗らかに笑ってみせた。
■17年間磨いた専業主婦のスキルが「給食のおばちゃん」の仕事で大いに役立った
薄井さんは59年、フィリピン・マニラの華僑の家に生まれた。
金物商を営む父は、頑固で封建的な考えの持ち主だった。
「私は両親の最初の子でした。でも父は、生まれたのが娘と聞いて、病院に来ることすらなかったといいます。2歳下の弟が生まれたときは大喜びしていたのに……。幼いころ、弟と階段でふざけていると、私だけが怒られた。