2018年4月23日 16:00
90歳の現役弁護士 元気のヒミツはお能の「謡」と大好きなお肉
「あなたも、もっと早う、来とったらよかったのにねぇ」
取材の夜。九州最大の繁華街・天神のステーキ店で、カウンター席に並んで座る記者に向かって、彼女はこう言って笑った。
「90歳を過ぎたら、おしまいね(笑)。もうね、どんどん、忘れちゃうの。だから、私を取材するなら、せめてあと5年、早く来とかな、だめよ」
目の前の鉄板で、200グラムの肉の塊がジュージューと音を立てはじめた。シェフから焼き方を問われると、にっこり笑って、「中くらいで!」。
弁護士・湯川久子さん(90)は’57年、29歳のときに福岡市で開業。九州で第一号の女性弁護士だった。
それから60年余り。離婚問題や相続問題を中心に、扱った事件は優に1万件以上。卒寿を迎えたいまも現役で仕事を続けている。
湯川さんの声は、喧騒に包まれる店の中でも、よく通った。湯川さんの趣味は能楽。弁護士になってすぐ宝生流の先生について、「仕舞(踊り)」や「謡(歌)」の稽古を始めた。高じて自宅に能楽の稽古場まで作り、能舞台にも何度も立ってきたほどの熱の入れようなのだ。