「若い頃に持っていた変な欲とか野心とかがなくなってくるんですよね。まあ、ひとつ言えるのは、いい作品がつくれて、観てくれた人が何らかしら満足をしてもらえるようなものになることが、今も昔も変わらない、僕にとっての大きな指針。それさえ守ることができれば、あとの物事はどうでもいいというか。年々、シンプルになってきた気がします」
“演じ分け”が前に出ないようにしなくちゃいけないと思っていた
そんな中で、では中村倫也はどのようにして役へアプローチしていったのか。俳優は、声や表情、姿勢に歩き方や仕草など、様々な素材を複合的に組み合わせ、役の人格を表現していく。その素材の中で、中村倫也が最も力点を置いているのはなんだろうか。
「そういうフィジカルな部分で言うと、重心ですね。重心によって呼吸の深さも変わるし、歩き方も姿勢も使う筋肉も変わる。
フィジカル面での土台になっているのが重心なんじゃないですか」
7役の中でも中心となる“火曜日”を例に、中村は説明を続ける。
「家にひとりでいるときは足取りが重いんですよね、アイツ。でも外に出ると、ちょっと重心が上がる。そこが火曜日の性格というか。外に出るとドギマギしているけど、家にいるときは、ある種、マイペース。