6月20日(土)にサントリーホール大ホールにて日本初開催されるワンピース公式オーケストコンサートに、きただにひろし、大槻マキ、野々村彩乃が出演することが決まった。【チケット情報はこちら】「ウィーアー!」「ウィーゴー!」「OVER THE TOP」など『ONE PIECE』(ワンピース)の主題歌、アニメ名場面の数々を彩る音楽を手掛ける、田中公平。真骨頂であるオーケストラサウンドの世界とその真髄を味わう、珠玉のONE PIECE楽曲が響き渡る。きただにひろしは代表曲「ウィーアー!」、大槻マキは初代エンディング曲「memories」、ソプラノ歌手の野々村彩乃はホールケーキアイランド編「ソウルポーカス〜女王の言葉(うた)」を披露する。必聴のONE PIECEボーカルとオーケストラサウンドは、一夜限りの開催。チケットはチケットぴあにて発売中。<ONE PIECEオーケストラコンサート田中公平作家活動40周年記念>公演日時:6月20日(土)17:00開演(16:00開場)会場:サントリーホール 大ホール出演:田中公平、西村友(指揮)、東京フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)、きただにひろし、大槻マキ、野々村彩乃※未就学児入場不可※フルオーケストラによる生演奏となります。スクリーン映像による演出はございませんので予めご了承ください。
2020年04月21日リーボック(Reebok)の新作スニーカー「CL クラシックレザー スタンパー(CL LEATHER STOMPER)」が、2020年4月17日(金)に発売される。「クラシックレザー」と「エイリアンスタンパー」が融合した新作スニーカー本作は、1983年にランニングシューズとして発売された「クラシックレザー(CLASSIC LEATHER)」をベースに、1986年公開の映画『エイリアン 2』で主人公のエレン・リプリーが着用したスニーカーとして著名な「エイリアンスタンパー(ALIEN STOMPER)」のデザインを融合させたハイブリッドモデル。全体のシルエットは「クラシックレザー」をベースにしつつも、「エイリアンスタンパー」の代名詞的なパーツとなっている甲部分のストラップをドッキング。カラーリングも、くすんだホワイトを基調に赤を差し色として加えた、同モデルを踏襲したものだ。ランニングシューズならではの優れたフィッティング性やグリップ力はそのままに、ストラップをはじめとする「エイリアンスタンパー」のアイコニックなディテールを忠実に落とし込んだ、機能性とデザイン性を兼ね備えた一足となっている。商品情報リーボック「CL クラシックレザー スタンパー(CL LEATHER STOMPER)」発売日:2020年4月17日(金)価格:16,500円(税込)サイズ:23.0〜30.0cm取扱店舗:・リーボック オンラインショップ・リーボックストア 渋谷・リーボック クラシックストア(原宿、HEP FIVE、ダイバーシティ東京プラザ、あべの HOOP、ららぽーと立川立飛、横浜ビブレ、ららぽーと名古屋みなとアクルス)・ZOZOTOWNほか※リーボック オンラインショップおよびリーボック クラシックストア ららぽーと名古屋みなとアクルスを除く全てのリーボック直営店は臨時休業中。休業店舗における営業再開および本商品の販売については、2020年5月7日(木)以降を予定。【問い合わせ先】リーボック アディダスお客様窓口TEL:0570-033-033(電話受付 平日 9:30〜18:00)
2020年04月16日石けんの香りからインスピレーションを受けて、様々な‟清潔感“を表現した、シンプルな香りのコレクション「クリーンクラシック」。必要不可欠な原料のみを配合し、エココンシャスなパッケージと製造工程を経たレイヤリング可能な香りを展開しています。2020年3月18日(水)、その「クリーンクラシック」から、新フレグランス「クリーンクラシックフラワーフレッシュオードパルファム」が登場。清潔感のある香りをベースに、みずみずしく咲き誇る花々の甘さを感じるピュアで華やかな香りです。「フラワーフレッシュ」について暖かな光が肌を撫で、羽のように柔らかな花びらが、まばゆい空をひらめく。そんな自由なひとときに味わう無限の可能性・・・「フラワーフレッシュ」は、風に揺らめく野草のなかで日差しを浴びる喜びにインスパイアされた香り。ひと吹きするだけで、みずみずしく咲き誇る花々の甘さと春風をおもわせる爽やかな風を届けてくれます。ベルガモットとレモンゼストのスパークリングなシトラスノートが香り立ちます。続くミドルノートでは、みずみずしいリリーと透明感あふれるガーデニア、ジャスミンの芳醇な花々の香りが広がり、春の柔らかな陽射しを思わせるソーラームスクとホワイトアンバー、カシミアウッドが柔らかに束ねます。「クリーンクラシック」コレクション共通のシンプルかつスタイリッシュなボトルは、100%リサイクル可能なガラス素材を、そしてアウターボックスは、国際機関FSC®(ForestStewardshipCouncil®、森林管理協議会)の認証を受けた素材を採用しています。「フラワーフレッシュ」のガラスボトルに貼りつけたラベルとアウターボックスは、やわらかな風と麗らかな日差しの中、華やかに咲く花々を印象づけるような、優しいピンクカラーで彩りました。クリーンクラシックフラワーフレッシュオードパルファム30mL¥5,500(消費税別)2020年3月18日(水)発売【「フラワーフレッシュ」をもっと楽しむ!おすすめ香りのレイヤリング(重ね付け)】トップノートからラストノートまで香りの印象が変わらないピュアでシンプルな香りの構成が特徴の「クリーンクラシック」コレクション。お好みや気分に合わせて、「クリーンクラシック」の他の香りと重ね付けすることで、自分だけのパーソナルな香りもお楽しみいただけます。◎「フラワーフレッシュ」×「オリジナル」バスタイム後の安心感や至福館を思わせる「クリーンクラシックオリジナルオードパルファム」と組み合わせることで、爽やかでなフローラルの香りの中に、やわらかでクリーミーなシャボンが漂う香りをお楽しみいただけます。◎「フラワーフレッシュ」×「エアー」山の中で新鮮な空気を胸いっぱいに深呼吸した瞬間からインスピレーションを得た「クリーンクラシックエアーオードパルファム」。みずみずしい花々の香りに、ひんやりと軽やかな空気と豊かな木々の香りが重なり、よりフレッシュなエアリー感をお楽しみいただけます。クリーン クラシックについて(ブルーベル・ジャパン香水・化粧品事業本部)企業プレスリリース詳細へ TIMESトップへ
2020年03月31日『ウィーアー!』『ウィーゴー!』『OVER THE TOP』など『ONE PIECE』(ワンピース)の主題歌、アニメ名場面の数々を彩る音楽を手掛ける、田中公平。アニソンとゲーム音楽界の巨匠である彼が作曲した曲をふんだんに盛り込んだ、作家活動40周年を記念したコンサートを6月20日(土)にクラシックの殿堂、東京・サントリーホールで開催する。【チケット情報はこちら】田中公平の真骨頂であるオーケストラサウンドの世界とその真髄を味わう、珠玉のONE PIECE楽曲が響き渡る日本初の公式オーケストラコンサートとなる。スペシャルゲストも後日発表予定だ。先行販売はチケットぴあにて3月23日(月)昼12:00より受付開始する。■ONE PIECEオーケストラコンサート田中公平作家活動40周年記念公演日時:2020年6月20日(土)17:00開演(16:00開場)会場:サントリーホール 大ホール出演:田中公平、指揮:西村友、管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団、ほかゲストあり主催:東映アニメーション/イマジン/キョードー東京原作:尾田栄一郎(集英社『週刊少年ジャンプ』連載中)※未就学児入場不可※フルオーケストラによる生演奏となります。スクリーン映像による演出はございませんので予めご了承ください。
2020年03月23日名作ミュージカルの楽曲を、世界で活躍するトップスターとフルオーケストラの競演で楽しむコンサートシリーズ『ミュージカル・ミーツ・シンフォニー』。2020年9月17日(木)~19日(土)Bunkamuraオーチャードホールにて豪華出演者を迎えての開催が決定。【チケット情報はこちら】記念すべき第10回公演となる今回は、ロンドン、ロイヤル・アルバート・ホールにて限定3公演で開催された『オペラ座の怪人25周年記念公演inロンドン』の主要キャスト3名が9年ぶりに再集結。ファントム役を務めたラミン ・カリムルー、クリスティーヌ役を務めたシエラ・ボーゲス、ラウル役を務めたハドリー・フレイザーが集うのは、あの伝説のコンサート以来世界初となる。『オペラ座の怪人25周年記念公演inロンドン』とは、ミュージカル史上に燦然と輝く最高傑作『オペラ座の怪人』の初演から25周年を記念した特別公演。ロンドン、ロイヤル・アルバート・ホールにて2011年10月1日・2日、計3公演開催された。トータルで15,000人分のチケットは発売日に瞬く間に完売。世界各国の1,100スクリーンで衛星生中継された歴史的大イベントだ。『オペラ座の怪人』史上、最も豪華で最も感動を呼んだと言われる公演となった。本公演は『オペラ座の怪人』はもちろん、『ラブ・ネバー・ダイ』『レ・ミゼラブル』『ジーザス・クライスト=スーパースター』など、人気ミュージカル作品の名曲の数々を楽しめる。明日3月14日(土)10:00AMより、チケットぴあでぴあ独占最速先着先行がスタートする。<ミュージカル・ミーツ・シンフォニー2020 "The Reunion">日程:9月17日(木)19:00、9月18日(金)13:30、9月19日(土)12:00会場:Bunkamuraオーチャードホール※未就学児入場不可。
2020年03月13日ポータークラシック(Porter Classic)が、関西初となる店舗「ポータークラシック 京都(Porter Classic Kyoto)」を、2020年3月10日(火)にオープンする。ポータークラシックでは、「世界基準のスタンダード」をコンセプトに、伝統や職人技術を取り入れ、 “メイド・イン・ジャパン”にこだわったバッグを展開している。 5年ぶりの店舗となる「ポータークラシック 京都」は、2階建の町家をまるごと改装した落ち着きのある建物。1階では、ブランドを代表する「PC KENDO」「PC SASHIKO」のアイテムに加えて、2020年春夏の新作や京都店限定アイテムを用意する。さらに、昭和西川の「ムアツ(muatsu)」ふとんをショルダーストラップに採用することで荷物の重量を軽く感じさせる「NEWTONBAG」もフルラインで取り揃える。一方2階には、展示内容を更新していくミュージアム、ポータークラシックをかたち作る書籍や資料を収めたライブラリー、ものづくりの過程を垣間見ることができるアトリエを設置する。【詳細】ポータークラシック 京都オープン日:2020年3月10日(火)住所:京都府京都市中京区柳馬場通錦上る十文字町453-6TEL:075-251-6790営業時間:11:00〜20:00
2020年03月07日7月に東京二期会オペラ劇場が17年ぶりに新演出上演するアルバン・ベルクの《ルル》(2幕版)は、20世紀オペラの傑作。2月22日、東京文化会館内で、演出のカロリーネ・グルーバーによるプレトークが開催された。【チケット情報はこちら】カロリーネ・グルーバーはオーストリア出身の女性演出家。世界中の歌劇場が熱い視線を送る彼女は、すでに二期会の舞台でもおなじみだが、年に数回はプライベートで来日するというほどの日本びいきで、この日のトークイベントも、旅行中に急きょ引っ張り出されたのだそう。彼女の演出の根底にあるのは、「自分の側から、つまり女性の視点で分析すること」という。「多くのオペラで女性が死ぬ。なぜ?男性が作曲しているから?それを理解することが使命になった」《ルル》はそんな彼女の「使命」にふさわしい作品だ。ルルは妖艶な魅力を放つ魔性の女。新聞社編集長のシェーン博士はじめ、彼女と結婚した男たちはその魅力に惑わされ、嫉妬し、次々と命を落とす。しかしグルーバーは、「ルルはけっしてモンスターではない」と言い切る。原作では、ルルは貧民街で育ち、シェーン博士に拾われて、彼好みの女性として育てられた生い立ちを持つ。「その幼少期の体験が、現在のルルを形作った。ある種彼女は犠牲者。#MeToo(セクハラの被害体験を告発するムーヴメント)の時代の今だからこそ、初めてそれを公にできる。その意味でこれは#MeTooオペラだ」「これまでの自分のオペラ演出の結論になるかもしれない」と意気込みを語ったグルーバー。「ルルの内面の感情、魂を表現したい」と、自身のオペラ演出では初めて、ダンサーを起用する(後日、事務局から、コンテンポラリー・ダンサー中村蓉の出演が発表された。振付も担当する)。また、映像作家の上田大樹もスタッフに加わる。最近では昨年のNHK大河ドラマ「いだてん」のタイトルバックなども手がけた気鋭のアートディレクター。《ルル》は20世紀の作品らしく、台本(作曲者自身)にあらかじめ映像の使用が指定されている。ニュースフィルムのような映像でルルの身に起こった出来事をフラッシュバックのように映して時間の経過を表すのだが、おそらくはその範疇を超えた、もっと舞台全般に関わる表現として、効果的なコラボレーションになるのだろう。東京二期会の《ルル》は7月10日(金)~12日(日)の3公演。東京文化会館で。ルル役(ソプラノ)は森谷真理と冨平安希子のWキャスト。指揮は、昨年の二期会《金閣寺》(黛敏郎)でもシュアな手腕を発揮したマキシム・パスカル。フランソワ=グザヴィエ・ロトの秘蔵っ子のフランスの新鋭だ。チケット発売中。取材・文:宮本明
2020年03月04日仲道郁代が、2027年の演奏活動40周年とベートーヴェン没後200年に向けて、2018年から10年間にわたり行っている「Road to 2027」。春にはベートーヴェンのピアノソナタを軸としたリサイタルシリーズを継続しており、来たる5月の公演では「ワルトシュタイン」中心に組み立てたプログラムを届ける。【チケット情報はこちら】テーマは「音楽における十字架」。聴くことで何を受け取ることになるのか、考えずにはいられない題目だ。「ワルトシュタインの1楽章では、同音連打による横線と、上下する音階の縦線が重要な役割を果たし、この二つの線を重ねると十字架が浮かび上がります。粛々と同じ営みを続けるような同音連打と、それを貫く剣のような上下動で、運命的な出来事とそれに抗う様が表されているとも受け取れます。ベートーヴェンは作品を通じ、芸術家として背負わねばならぬものについて考えたのではないでしょうか」併せて演奏するのは、ショパンとシューマン。「ショパンの、祖国に戻れず、それでも生きていかねばならない運命への忸怩たる想い。シューマンが、のちに妻となるクララとの結婚を反対される中抱いた、溢れる想いと苦しみ。各作曲家が背負った人生を、どう音楽に昇華させたのか。苦しみ抜いたのか、または時に夢を見たのか。心模様に思いを馳せてお聴きいただけたらと思います」すでに幾度もベートーヴェンのソナタ全曲演奏に取り組む仲道だが、「共感だけでは弾けない。構造的なものを踏まえないと説得力のある演奏ができない」作曲家だけに、昔は苦手意識があった。「でも、一度全曲演奏会をした後、音楽評論家の故・諸井誠先生とのレクチャー付きの全曲演奏会を行ったことで、ピアニストとして私は大きく変わりました。ある音をなぜそう弾くのか考える基礎を、徹底的に刷り込んでいただいたのです」ベートーヴェンは32曲のソナタの中で、生きることとは何かを追求した。「彼が背負った十字架が何だったのか、正しい答えはありません。聴く人それぞれが経験に応じて別のことを作品から共感できるのが、クラシック音楽のすばらしさです」そして最後となる2027年の公演には、ベートーヴェン「ハンマークラヴィーア」とショパン「葬送ソナタ」が置かれている。「実は葬送ソナタは、亡き母の出棺の時に弾いた曲。以来、私は舞台で弾けませんでした。でも、音楽家としてこれを乗り越えなくてはならないとプログラムに入れました。シリーズを終え、その先に見える景色がどんなものなのか、まだわかりません。皆様には、同時代を生きる演奏家がどう変容していくのか、また音楽から何を思うのか、共に感じていただけたら幸せです」取材・文:高坂はる香
2020年02月28日早いもので、今年で開館23年目のシーズンを迎える横浜みなとみらいホールだが、耐震やバリアフリー化のための修繕工事のため、2021年1月から2022年10月まで、1年10か月間にわたって休館する。2月に開かれたプレス懇談会では、休館前最後となる2020年シーズンの主催公演ラインナップ発表と併せて、3月末をもって退く池辺晋一郎館長の退任挨拶、および4月から就任する新井鴎子新館長の紹介が行なわれた。【チケット情報はこちら】まず挨拶に立ったのは現館長の池辺晋一郎。2007年4月の就任以来13年間の在任期間を振り返り、「悲喜こもごもを語ると1時間18分かかる」と笑いを取りつつ、「やりきったという気持ちはないが、やりきってないところで終わるのが物を作るということ」と述べたのは、つねに「次の作品」を見据える現役の作曲家としての率直な心情だろう。「これからもひとりの音楽家としてお目にかかりましょう」と結んだ。つづいて新館長・新井鴎子の紹介。「誇りを持って、公共ホールとしての使命を果たしていきたい」と挨拶した新井は、東京芸術大学楽理科および作曲科の出身。音楽構成作家として、数々のコンサートやテレビの音楽番組などの台本を手がける一方で、東京芸術大学特任教授として障害者支援プログラムの研究開発に携わるなど、さまざまな分野で音楽文化の新たな受容を模索する活動を繰り広げている。休館のため、2022年度の事業が新館長としての初シーズンとなるが、休館中にも、最新のVR技術を駆使する「移動型みなとみらい」で病院などを巡り、ふだんホールに来場することができない人々にホールを体感してもらいたいというプランを明かした。まだ計画段階だが、音楽ホールの新しいあり方を探る姿勢をさっそく示した格好。一方で、たとえば現代音楽の新作を委嘱する「Just Composed」など、池辺が手がけた意義ある企画はしっかり継承していきたいと約束してくれた。つづいて発表された2020年度の公演ラインナップでは、やはり2020年ならではの企画が特徴的だ。「Tokyo 2020」開催期間を含む7~9月を「MMMusic for 2020」と名付け、音楽ジャンルや伝達メディアを超えて体感するアート・プログラム「きこえる色、みえる音」や、子供たちのための参加型イベント「みなとみらい遊音地」などを開催する。そして生誕250年のベートーヴェンの「第九」をメインに据えたのが10~11月の秋シーズン。リスト編曲のピアノ版と、ピリオド楽器オーケストラ「オルケストル・アヴァン=ギャルド」による2つの「第九」が演奏される。年末の「第九」も併せると、主催公演に3つの「第九」。ベートーヴェン・イヤーならではの選択だ。そして大晦日恒例のジルヴェスターコンサートが休館前最後の公演。建物も陣容も一新された横浜みなとみらいホールが帰ってくるまで、しばしのお別れだ。取材・文:宮本明
2020年02月26日世界最高峰のヴァイオリニスト、イツァーク・パールマンの日本におけるフェアウェル(お別れ)ツアーが、10月31日(土)名古屋・愛知芸術劇場コンサートホールを皮切りに開催されることが決定した。【チケット情報はこちら】イツァーク・パールマンは1945年イスラエル生まれ。テル・アヴィヴ音楽院を卒業後、ニューヨークに渡り、すぐに演奏活動をスタートさせ、ジュリアード音楽院を経て、1964年に権威あるレーヴェントリット国際コンクールで優勝したことを足掛かりに、世界中の名だたるオーケストラとの共演やリサイタルで、圧倒的な支持を獲得。日本への初来日は1974年で、これまでに毎回、鮮やかな超絶技巧と深いぬくもりを感じる音色で、日本の聴衆からも絶大な人気を誇っている。パールマンは「このツアーは、私の最後の日本ツアーになると思います。ですから、そのような今まで何年も何回も来日してきた時と同じような経験ができることを楽しみにしています。日本のお客様に私の音楽を分かち合いたい。待ちきれない気持ちで一杯です」と語っている。2020年秋の来日公演が、日本を愛する“キング・オブ・ヴァイオリン”=イツァーク・パールマンの万感胸に迫る日本でのラストステージとなるだろう。チケットの一般発売に先駆けて、チケットぴあでは5月9日(土)より東京公演の先行受付開始。■イツァーク・パールマン フェアウェルツアー202010月31日(土)愛知県芸術劇場コンサートホール(愛知県)11月1日(日)サントリーホール(東京都)11月3日(火・祝)ザ・シンフォニーホール(大阪府)11月7日(土)サントリーホール(東京都)11月8日(日)アクロス福岡(福岡県)演奏曲目:<曲目未定>曲目は後日発表いたします。東京公演チケット一般発売日:5月31日(日)10:00AMより
2020年02月20日フランス生まれの「ラ・フォル・ジュルネTOKYO」(LFJ)が今年も5月のGWにやってくる。東京・有楽町の東京国際フォーラムを中心に行なわれる有料無料合わせて300超のコンサートに43万人の来場が見込まれる大音楽祭。プロデューサーのルネ・マルタンが来日して、概要発表会見が開かれた(2月18日・東京国際フォーラム)。【チケット情報はこちら】今年のテーマは生誕250周年の「ベートーヴェン」。これはLFJが初上陸した2005年と同じ。交響曲やピアノ・ソナタの全曲演奏でベートーヴェンの生涯を通観できるのはもちろんのこと、レア作品を含む協奏曲全曲やピアノ三重奏曲全曲などの百科全書的な企画のほか、室内楽曲や歌曲・合唱曲、珍しいところでは劇音楽《エグモント》全曲の朗読付きと、全編がベートーヴェンずくめ。全公演が、ベートーヴェン・プロか、あるいはベートーヴェンに密接にリンクしたプログラムという、徹底したベートーヴェン祭りになる。会見でマルタンが力を込めたのが、「トランスクリプション(編曲)」という、独自の面白い切り口。ベートーヴェン自身による自作編曲もあるが、同時代から21世紀に至る作曲家たちが試みたさまざまなアプローチもたくさん。ベートーヴェンが時代を超えて影響を与えてきた証を示す。清く正しいロマン派音楽から抱腹絶倒のラテン版まで、ベートーヴェンの百面相。大きな注目が《第九》。この人類の宝にもさまざまな方向から光が当てられる。通常どおりの演奏以外に、リストやワーグナー、そしてベートーヴェンの同時代人カルクブレンナーの三人がピアノと合唱用に編曲した《第九》第4楽章を並べて一気に聴き比べるのは前代未聞。さらに、「第九大国」の日本ならではの企画が、5,000席のホールAの会場全員で合唱に参加してしまおうという「みんなの第九」。鼻歌でメロディを口ずさむレベルではなく、座席の多くはパート別に販売される合唱専用席だから、隣の人に負けじと熱唱可能。公式のリハーサルもあるが本番のみの参加OK。今年のGWは《第九》で締めよう。出演者は例年どおり多士済々、豪華絢爛。チケット代が原則として最高3,000円と安価に収められているのもうれしい限り。なお会見には、「LFJアンバサダー」に就任したタレントのふかわりょうさんも出席。昨年の流行語にかけて「にわかジュルネも大歓迎」とスローガンを掲げるも、報道陣の反応は今ひとつで、「ペンが動いていませんねえ…」と消沈。ふかわさん、書きましたよ!開幕が待ち遠しいLFJは5月2日(土)~4日(月祝)+前夜祭。チケット販売も始まった。ベートーヴェン漬けの3日間を体験すれば、クラシック初心者も筋金入りのベテランも、必ずやベートーヴェン度が急上昇する。間違いなくメモリアル・イヤーの目玉のひとつだ。しかしこの身はひとつ。全部は聴けないから、どの公演を選ぶか、ああ、例年にも増して悩ましい。取材・文:宮本明
2020年02月19日国内最高峰の音楽コンクールの覇者たちが集う「第88回日本音楽コンクール受賞者発表演奏会」が、2月26日、今年も東京オペラシティ・コンサートホールで開催される。今年度のピアノ部門を制したのは、年齢規定下限の17歳で参加した亀井聖矢だ。【チケット情報はこちら】──優勝おめでとうございます。予選を勝ち進むにつれて、手ごたえは感じていましたか?第三予選に進んだ頃から、ここまで来たらやっぱり1位を獲りたいなという気持ちにはなりました。でも本選も好きな曲でしたし、余計なことは考えないと決めたら、辛い苦しいというよりは、わりと楽な気持ちで楽しく臨めました。いま思えば、ですけど(笑)。──その本選の協奏曲は、サン=サーンスのピアノ協奏曲第5番《エジプト風》。レアな曲を選びましたね。3つの楽章のどれも魅力的で、最後に魅せることができる曲です。「えっ、サン=サーンス?」と思った人にも、いい曲だと感じてもらえるような演奏ができたらなと思いました。──音楽雑誌の記事に、演奏後の会場が、フィギュアスケートの羽生弓弦の演技後のような雰囲気になったと書かれていました。あはは(笑)。その時は興奮していてよくわかりませんでしたが、いい演奏ができたのかなと思います。──一転して、今度のコンサートでは、王道中の王道、チャイコフスキーのピアノ協奏曲 第1番(第1楽章)です。幼い頃から弾きたいと思っていた曲です。オーケストラも重厚で、派手で華やかなイメージがあると思うんですけど、実際勉強してみるとすごく繊細で、心の中でうごめくような感情、微妙な感情の変化を表現できたらなと思います。誰もが知っている曲なので、より難しくなるとは思うんですけれども。──聴いて影響を受けたピアニストの演奏はありますか?あまり誰の演奏という意識では聴かなくて……。いろいろ聴いてもレッスンを受けても、それぞれの解釈があるので、それらをうまく取り入れながら、自分の音楽にしていかないとならないので。──優勝から3か月あまり。周囲の環境がずいぶん変わったのではないですか?少しずつ本番が増えてきたり、忙しくなって、半分慣れないままですけれども、常に何かあったほうが自分のモチベーションになるので、今のところ楽しくやっています。その中で、本番に引っ張られるのではなくて、本番をうまく次に繋げていくためのステップにできるようにと考えています。若い勢いのある演奏だけでは、今後どこかで通用しなくなると思うので、誰もが弾くような曲でも、ひと味もふた味も違う、“あ、上手いな”と思わせる演奏ができるように、内面的な部分をもっと磨いていきたいと思います。昨年12月に18歳の誕生日を迎えた。通常なら高校3年生の年齢だが、飛び級入学で現在桐朋学園大学の1年生。コンクール優勝は「ゴールではなくスタート」ときっぱり。若武者の眼差しはしっかりと前だけを見据えている。取材・文:宮本明
2020年02月18日11年ぶりの新制作となる東京二期会の《椿姫》。初日が1週間後に迫った2月12日、公演の指揮者ジャコモ・サグリパンティによるプレトークが開かれた。赤丸急上昇中の若きオペラ指揮者はこれが初来日。詰めかけた約100人の熱心なファンを前に、軽妙に、しかし誠実に語った(自由学園明日館講堂)。【チケット情報はこちら】1982年生まれのサグリパンティは、目下世界の主要歌劇場を次々と制覇し続ける逸材。今回もバイエルン国立歌劇場でアンナ・ネトレプコ主演の《トゥーランドット》を指揮してきたばかりだ。2016年には英国の「オペラ・アワード」最優秀若手指揮者に選出されている。自らの正式なオペラ・デビューを、2010年イタリア南部の街マルティナ・フランカのヴァッレ・ディートリア音楽祭でのドニゼッティ《パリのジャンニ》と答えたサグリパンティ。この音楽祭は、知られざるベルカント・オペラを多数上演することで知られるが、彼自身、これまで40以上のベルカント・オペラを指揮しており、ヴェルディとベルカント・オペラには密接な関係があるのだと語った。「(ベッリーニの)《ノルマ》と(ヴェルディの)《ナブッコ》を、知らずに聴いたら、作者が逆だと思うほど似ています。ベッリーニをヴェルディが発展させたのです」《椿姫》でも、音楽的に難しいヴィオレッタ役に比べて他の役はシンプルで、たとえば有名なジェルモンの〈プロヴァンスの海と陸〉が平凡(!?)なのは、古い社会の象徴として(古い)ベルカント風に書いているからだと教えてくれた。《椿姫》の人気の理由として、どの時代にも起こりうる普遍的なテーマとメロディの美しさを挙げたサグリパンティ。なかでも聴きどころは「ワルツ」だという。「当時ヴェルディがパリで聴いたワルツがさまざまな場面に出てきます。有名な〈さようなら過ぎ去りし日々〉もワルツですね。私が1番泣ける美しいワルツが(第2幕でヴィオレッタがアルフレードに別れを告げる)〈私を愛してね。私があなたを愛しているのと同じくらい〉です。なぜ泣けるかといえば、あそこで初めて本当のヴィオレッタが描き出されるから。魂をえぐられるようなシーンです」ちょっとしたアクシデントもあった。トークの途中で震度1の小さな地震。すぐに収まったが、サグリパンティは「ちょっと怖かった」とお茶目に告白。「イタリアだったら全員が外に逃げたと思うよ!」と笑わせた。最後はソプラノの柴田紗貴子とテノールの澤原行正のふたりが《椿姫》から3曲を歌うミニ・コンサート付き。今回の《椿姫》では、宝塚歌劇団の新鋭演出家・原田諒を起用し、ダンサーとして元タカラジェンヌらが出演することもオペラ・ファンの話題だ。ヴィオレッタ役は日本を代表するプリマ大村博美と、初の大役に抜擢された新星・谷原めぐみのWキャスト。大きな注目を集める二期会《椿姫》は、2月19、20、22、23日の4公演。東京文化会館大ホールにて。チケット発売中。取材・文:宮本明
2020年02月17日「ホールアドバイザー」という複数の音楽家たちからなるアドバイザリー・スタッフによるサポート・システムは、ミューザ川崎のユニークな特徴のひとつ。そのひとりでオルガニスト松居直美の企画「言葉は音楽、音楽は言葉〈パイプオルガンとパントマイムが紡ぐ物語〉」(2月22日(土))には、タイトルとは裏腹に、声としての「言葉」は登場しない。演奏と実際のプログラム作成を委ねられたのが、在仏のオルガニスト青木早希。フランスを代表するパントマイム・ユニット「マンガノマシップ」のふたりと共演する。【チケット情報はこちら】「松居さんからは最初、言葉と音楽をテーマに異ジャンルとのコラボレーションを、というお話でした。相談しながらたどり着いたのが、身体を使った芸術であるダンス、それも抽象的なモダンダンスよりも、具体的な表現であるパントマイムです。私が教えている、ノルマンディ地方のブルゲビュという街の音楽学校でちょうどマンガノマシップのふたりを招聘する計画があり、彼らの活動を知っていたのです」青木の見立ては大当たりで、彼らも初体験のオルガンとのコラボに興味津々。「さまざまな曲を聴きながら、私が作品の歴史的背景や性格、作者のメッセージを説明すると、“それならこんなこともできる”と、彼らのほうからさまざまなアイディアを次々に提案してくれました」器楽奏者である青木だが、言葉と音楽は切り離せない関係と言い切る。「演奏はもちろん、教えるという場でも常に意識しています。フレーズや和声、テンポや呼吸。作曲家がそこに託した言葉を読み取ろうとする試みが演奏の基本であり醍醐味です。今回マイムと一緒に表現することで、その言葉を、より具体化しなければならないと感じています。彼らとコラボレーションすることで、ひとつひとつのフレーズがマイムの動作とつながって、より細かい単位で聴こえてくるようになり、演奏がより豊かに、より自由になっている気がします」コンサートは2幕構成で、第1幕は言葉本来の役割である「対話」をテーマに、第2幕はタイトルに「言葉」を持つ作品で構成。バッハから日本の現代作曲家・柿沼唯まで、時間と空間を縦横に行き来する。オルガンの魅力は、その膨大な「可能性」にあると青木は言う。長い歴史を誇るレパートリー。何千というパイプが奏でる無限の音色。そしてひとつとして同じ楽器が存在しないという魅力。オルガニストにとっては毎回が新しい出会いであり、新たな発見なのだ。「どの時代をとってもどこかで聞いたことのある作曲家のオルガン作品を見つけることができます。そんなオルガンの魅力を最大限に活かした、時代をひとっ飛びできる色彩豊かなプログラムです」「言葉」を、視覚的に表現するマイムと、聴覚的に表現する音楽。言葉の束縛から自由に解き放たれたふたつの芸術が出会い、無限の可能性が生まれる。取材・文:宮本明
2020年02月07日話し込むほどに、とてもよい音楽家だと感じさせる人だ。ヴァイオリニストの山根一仁が2月、埼玉、静岡、京都、そして東京をめぐるリサイタルを開く。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番《春》とフランクのヴァイオリン・ソナタを核に、シュニトケの《古い様式による組曲》、ストラヴィンスキーの《イタリア組曲》というプログラム(順不同)。【チケット情報はこちら】ベートーヴェンやロシア音楽は、彼の音楽との関わりの原点のような作品でもあるのだそう。「2~3歳の頃、音楽に興味を持ったきっかけが、家にあったプロコフィエフの《ピーターと狼》のバレエのビデオ。そして4歳でヴァイオリンを始めたきっかけが、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番。その後も、(ロシアの大ヴァイオリニストである)オイストラフ門下のオレグ・クリサ先生に教えていただいていたので、ロシア音楽にはずっと親近感を持っています」ベートーヴェンに夢中になったのも、音楽好きのご両親が録り溜めていたビデオがきっかけ。「小学1年生の頃、カルロス・クライバーが1986年に東京で指揮した交響曲第4&7番にハマりました。とくにティンパニ。親にスコアを買ってもらって、学校から帰ると毎日、菜箸で座布団を叩いてました(笑)」共演は同い年のピアニスト小林海都。昨秋、ミュンヘンの山根の自宅で、プログラムを相談しながら、いろんな曲を弾きまくった。「とにかく、ただ音楽に触れているような楽しい時間でした。海都くんは、互いに意見をぶつけることを楽しめる、大好きな相手です。ぶつける時間を取れること自体が大切で、効率を求めればぶつからない。でも妥協が生まれ始めたら、それは絶対にいい音楽につながりませんから。ふたりでこのプログラムを演奏できることが楽しみだし、全部の曲が、“僕ら”にすごく合っている。いい4曲が選べたかなと思っています」演奏家でも、作曲家・作品でも、表現者の人間性が強く出ていることに惹かれると話す。たとえばヴァイオリンのギドン・グレーメルや先述のクライバーの唯一無二の個性。「彼らは自分を出しきりながらも音楽を尊重しています。クレーメルが、『美しさを求めたことはない』というようなことを過去に話しているのですが、もちろん、彼は美しい音でも弾くんですけど、それは音楽を求めた結果だということなんですね。音楽の中の美しさを見つけるのが音楽家の仕事であって、美しさを求めたらダメなんです。音楽の中には、汚い部分、くさい部分もあります。それを出せる音楽家になりたいと思っています」「つねに音楽に正しくあれ」これが、現在ミュンヘンで師事するクリストフ・ポッペンの教えだという。演奏はもちろん、音楽を語ることにも、飾ることなく真摯に誠実に向き合う山根は、まさにそれを体現している。もちろん「正しさ」はひとつではないだろう。2月のリサイタルは、彼の現在の解答を示してくれるはずだ。取材・文:宮本明
2020年01月31日多くのファンに愛される「炎のコバケン」。指揮者の小林研一郎が4月に満80歳(傘寿)を迎える。これを祝う記念プロジェクト「マエストロ小林研一郎80th祝祭演奏会」についての会見が開かれ、マエストロ自ら意気込みや抱負を語った(1月28日・東京文化会館内)。【チケット情報はこちら】小林は会見冒頭、今年の大相撲初場所で33歳にして初優勝を果たした徳勝龍の「もう33歳ではなく、まだ33歳」という発言を引き、「私も同じ気持ち。80歳を迎え、そこからまたもうひとつ輝く世界、80歳の階段を登りつめたときに見える景色に期待しながら、そしてオーケストラという、とてつもない才能の集団の方々に、何か新しい光のようなものを(示す)、そのために作曲家の行間のうちを相当勉強しなければならないと思っています」と、変わらぬ真摯さで音楽に向き合う姿勢を語った。プロジェクトは3つのコンサート企画から構成され、すでに昨年9月、「VOL.1 ハンガリー放送交響楽団 日本公演」でスタートしている。そしていよいよ80歳イヤーの今年開催されるのが、4月のサントリーホールでの「VOL.2 チャイコフスキー交響曲 全曲チクルス」(管弦楽:日本フィル)と、11月の東京芸術劇場での「VOL.3 ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団 日本ツアー」。チャイコフスキーは小林が得意とする作曲家のひとり。最近では2013~2015年にロンドン・フィルとスタジオ録音した交響曲全集が大きな話題となった。小林が「命綱」と形容する強い絆で結ばれた日本フィルとともに演奏する今回は、5日間にわたって、もちろん《マンフレッド交響曲》も含めて全曲を網羅する完全版。公演2日目の4月9日が80歳のバースデー当日だ。チャイコフスキーは今年生誕180年なので「80年」つながりでもある。「チャイコフスキーの持っているペシミスティックな、あるいは救いようのない苦しみの世界。その苦しみの大叙事詩をお見せできたら、今までとまったく違うチャイコフスキー観が生まれるかもしれない」と小林。ハンガリー国立フィルとの共演歴も長い。1974年、小林が世界へ羽ばたくきっかけとなったブダペスト国際指揮者コンクールのホスト・オーケストラだったから(当時「ハンガリー国立交響楽団」)、すでに45年以上の付き合いだ。「彼らと新しいことをやる時には、なぜかいつもこの曲」というマーラーの交響曲第2番《復活》(ソプラノ:市原愛、アルト:山下牧子、合唱:東京音楽大学)や、ベートーヴェンの交響曲第7番などを演奏する。「炎のコバケン」という呼び名には恥じらいを感じるという小林。燃え上がるのではなく、自身は冷静に、むしろ炎に水をかけているのだと、独特の言い方で表現したが、いずれにしても「老いては益々壮(さか)んなるべし」。そのベースの炎の勢いは、80歳を迎えてなお、まったく衰えることはなさそうだ。取材・文:宮本明
2020年01月30日「天才」と呼ばれるピアニストは数多くいるが、今第一線で活躍している日本人で真っ先に名前が挙がるひとりがこの人ではないだろうか。――上原彩子による「2020年デビュー20周年に向けて」と題するコンサートの第1弾が、2月と3月に大阪と東京で開かれる。プログラムは、上原が敬愛するふたりの天才作曲家モーツァルトとチャイコフスキーの作品を集めたもの。【チケット情報はこちら】「ふたりとも出発点にオペラ、歌というものがあります。モーツァルトの時代にはイタリア・オペラが主流でしたし、チャイコフスキーもロシアに入ってきたイタリア・オペラに影響を受けて、そこから独自の音楽を創り上げた人。今回のプログラムは、そんな同じところから出発したふたりの音楽の、それでもやはり際立つ違いを聴いていただけるような曲目を選びました」チャイコフスキー国際コンクールピアノ部門で女性として、そして日本人として初めての第1位を獲得してから今年で18年。当初の「彗星のように登場した天才ピアニスト」のイメージはそのままに、近年はより豊かな表現を獲得してきているようにみえる。そのひとつが、今回取り上げるモーツァルトだ。「それまでロシアものを中心に演奏してきたので、初めてモーツァルトを勉強し始めた時には、そのシンプルさに戸惑いました。古楽器の先生に指導を受けてから、俄然面白くなってきたんです。古楽器は音色の変化がつけやすく、より細かい表現が可能です。ただそれをそのままモダン楽器でやっても上手くいかない。古楽器で学んだことをどうモダン楽器の演奏に活かせるのか。今回はその課題に取り組んだ成果を少しでもお聴かせできればと思っています」一方、チャイコフスキーは子どもの頃から親しんできた作曲家。「若い頃は交響曲『悲愴』に代表されるような暗さに惹かれていた」という上原だが、徐々に暗さだけでなく、明るさや切なさといった要素を見出すようになったという。「意外に思われるかもしれませんが、チャイコフスキーの魅力はシンプルで純粋なところだと思っています。特に小品にその魅力が溢れていますが、そんなチャイコフスキーを演奏する際にもっとも気をつけているのは、音色のコントロールです。これは(十代の頃から師事していた)ヴェラ・ゴルノスタエヴァ先生から教えられたことなのですが、ただ大きい音、迫力のある音を出すのではなく、音色の変化やバランスでスケール感を出す。それがロシア・ピアニスズムの真髄なんです」18年の間には、結婚・出産も経験した上原。子育て中はピアノどころではなかったそうだが、心の中にピアノ以外の場所ができたことで、逆に音楽にはふくよかな肉付きがついた。「天才」は次のステージに上がろうとしているのかもしれない。今回のコンサートでは、そんな上原彩子の「今」を存分に味わうことができるにちがいない。公演は2月1日(土)に大阪・いずみホール、3月25日(水)に東京オペラシティコンサートホール:タケミツメモリアルにて開催。取材・文:室田尚子
2020年01月28日毎年、海外の著名な指揮者やオーケストラの豪華共演を実現する『東芝グランドコンサート』。39回目となる2020年は、次世代を牽引する34歳の若きマエストロ、サントゥ=マティアス・ロウヴァリが、スウェーデンの名門エーテボリ交響楽団と至高の音楽を紡ぐ。ロウヴァリ指揮での演奏は日本初演となり、さらに、ソリストには世界的ヴァイオリニスト、三浦文彰の出演が決定した。公演に先駆け、楽団の本拠地エーテボリを訪ね、今回披露するショスタコーヴィチ「ヴァイオリン協奏曲第1番」を早々に手合わせしてきたという三浦。会見で楽団の印象と公演への意気込みを語った。「東芝グランドコンサート2020」チケット情報「現地で僕が一番驚いたのは、コンビの相性がすごくいいこと。オーケストラは指揮者のロウヴァリさんが大好きで、彼も楽団のみんなが大好き。ロウヴァリさんとは初対面でしたが、僕の楽屋を“ヤッホー!”と訪ねてくれて、とても明るい感じの方だなと(笑)。才能溢れる音楽作りが刺激的で、彼とは今後他のオーケストラでも一緒にやっていくんじゃないかな。一緒に演奏していてとても楽しかったです」と振り返る。このショスタコーヴィチの協奏曲は、三浦が小学生の頃、登下校中に愛聴していた一枚。初演を担った巨匠ダヴィッド・オイストラフのレコーディング盤を聴き込み、17歳で初めて演奏して以来レパートリーとなった。「ショスタコーヴィチはプロコフィエフと並ぶすばらしい作曲家。表現が制限された旧ソ連という難しい時代を生きた人で、実はいろんな作品を残している。ソナタ、室内楽などいろいろ演奏してきましたが音楽が深いですね。ロシアの本当の美しさや皮肉っぽさ、いろんな背景を感じて考えさせられる」。とりわけヴァイオリン協奏曲第1番は、4楽章制で40分以上の大作。変化に富んだ構成が聴きどころと語る。「例えば、第3楽章はすごく暗いところをドシドシ重苦しい気持ちで歩くところから始まって、続くカデンツァは急にひとりで演奏するソリストの見せ場。そこからフィナーレまではお祭りっぽく活発な感じになっていく。それぞれの楽章に全部違うキャラクターが詰まっているのが魅力です。今回はいま大注目のサントゥ=マティアス・ロウヴァリ指揮とエーテボリ交響楽団の演奏を聴ける貴重な機会。彼らも気合い十分に来ると思うので、僕自身ソリストとして演奏できることをうれしく思います。ぜひ多くの方に聴きに来ていただきたいなと思います」。公演は2月29日(土)に兵庫県立芸術文化センターにて<プログラムA>、3月8日(日)に東京・サントリーホールにて<プログラムB>を上演。その他、全8都市でツアー開催。チケット発売中。取材・文:石橋法子
2020年01月27日今年創立50周年を迎える神奈川フィルハーモニー管弦楽団。5月から始まる記念事業の発表会見を開き、常任指揮者の川瀬賢太郎や楽団顧問でもある黒岩祐治・神奈川県知事らが出席した(1月17日・神奈川県庁)。【チケット情報はこちら】従来の定期公演と並行して行なう記念事業は大きくふたつ。ひとつはマーラーの交響曲第8番《千人の交響曲》を演奏する祝賀演奏会(11月21日・横浜みなとみらいホール)。そしてもうひとつは県内10都市での巡回主催公演。どちらも、次の未来を見据える意味で、「フューチャー・コンサート」と名付けられている。マーラーの交響曲第8番について川瀬は、「(この曲を指揮するのが)長年の夢だった」と語る。今回が初挑戦となる。「僕がまだ幼稚園児の頃、最初に夢中になったクラシック音楽が、モーツァルトでもベートーヴェンでもなく、この曲」。そんな彼のマーラー愛はどうやら父親譲りで、父はマーラー協会に所属していたほどのマーラー・ファン。当時のマーラー協会会長は指揮者の故山田一雄で、1984年に川瀬が生まれたとき、お祝いに指揮棒をプレゼントしてくれたのだそう。山田は1949年に交響曲第8番を日本初演した指揮者だから(演奏の一部がニュース映像として残っている)、川瀬がこの作品を指揮することは、もしかしたらこの世に生まれた瞬間から宿命づけられていたのかもしれない。巨大なエネルギーの奔流のような作品だが、それだけではない、川瀬らしい、切れ味鋭い、そして丁寧なアプローチを見せてくれるはず。必ず聴きたいコンサートだ。ソリスト等の詳細は後日発表。県内巡回公演は、各地ゆかりの出演者や作品を交えて、多くの人に親しまれている名曲でプログラムを構成する。海老名、横須賀、茅ヶ崎、秦野、川崎、藤沢、小田原、相模原、鎌倉、大和の各市を巡る。「神奈川の地元オーケストラ」としての顔も神奈川フィルの大事な側面だが、県内で一定期間に集中してこれだけの都市で主催公演を開くのは初めてとのこと。会見では、楽団が財政的に苦境に立たされた時期のあったことや、それを官民一体となった支援で乗り越えてきたことも語られた。神奈川フィルは独立した公益財団法人だが、こうした自治体や県民の支援があったからこその50周年。楽員もそれをよく知っている。2014年の公益財団法人化に向けて5億円の資金を集めなければならなかった際、自ら「応援団長」としてホールのエントランスに立って募金を呼びかけたという黒岩知事は、楽員たちが次第に自主的に募金活動に参加するようになったことを語り、その意識の変化が演奏のクォリティ向上にもつながっていると力を込めた。創立50周年。もしかしたら、華々しく海外公演という考え方もあったかもしれないが、「外に目を向けるのではなく、県内各地で」と川瀬。会見中に何度も繰り返された「感謝」という言葉がふさわしい、足元を見つめた記念事業になりそうだ。取材・文:宮本明
2020年01月21日フランソワ=グザヴィエ・ロト(1972~)、テオドール・クルレンツィス(1972~)という40代後半を迎えたふたりの指揮者が、今後30年、指揮の世界でフロントランナーとして業界を牽引していくことは、もはや世界中の評論家や熱心なファンの間で約束されているようなものだ。「フランソワ=グザヴィエ・ロト」出演公演のチケット情報40代後半なんて、まだそうした判断をするには早すぎると思われるだろうか? しかし、かつてニコラウス・アーノンクールがコンセルトヘボウ管弦楽団にデビューを果たし、モダン・オーケストラにも古楽の流れを持ち込み始めたのが46歳の年、あるいはサイモン・ラトルがベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者・芸術監督に就任したのが47歳だった。それまで“鬼才”や“異端児”として評価されてきた存在がメインストリームに受け入れられることで、後続のフォロワーが次々と登場。時代に変革を起こしたのが40代後半だったのだ。好き嫌いこそあれ、現代のオーケストラ芸術を語る上でアーノンクールやラトルの存在を無視できないように、今後のオーケストラの発展を考える上ではロトとクルレンツィスというふたりがそうした指揮者として認知されていくはずであろう。そのロトが2月2日と3日に都響の指揮台に登場する。2016年振り2度目のことだ。2018年に手兵である古楽オーケストラのレ・シエクルと《春の祭典》をメインプログラムに据えた来日公演が大成功を収めたことで、口コミやSNSでもその驚異的なパフォーマンスが話題になった。この時の演奏の何が凄まじかったかといえば、もう充分に知ったつもりでいたピリオド・アプローチに、まだまだ未知の可能性が拓かれていることを提示してくれた点にあった。そもそもロトは、単に作品が書かれた頃の楽器を使うのではなく、初演当時の楽器を復元しようと徹底したこだわりをみせるところが、それまでの古楽系指揮者と違っていた。また、複雑な楽曲ほど音程やリズムが甘くなったりすることも珍しくなかった古楽器でも、現代のモダン楽器と同等の正確さで演奏が可能なことを示してくれた。そして何より、その結果うまれてきたパフォーマンスが純粋に音楽として素晴らしく、ここまで語ってきたような小難しいことなしに、心震える音楽として我々聴衆の胸に突き刺さったのだ。私個人としてもあの日の興奮は、生涯決して忘れ得ぬ体験のひとつとなっている。現在、ベルリン・フィルやコンセルトヘボウ管をはじめとする世界トップクラスのモダン・オーケストラからも引く手あまたのロト。そんな多忙なスケジュールをぬって、都響のために何とか時間を確保してくれたのである。いまから楽しみでならない。好き嫌いを問わず、オーケストラ芸術の将来を知るためにも絶対に足を運んでほしい公演なのだ。文:音楽ライター 小室敬幸
2020年01月17日日本オペラ界を代表するソプラノ佐藤美枝子と、人気と実力を兼ね備えたテノール西村悟の初めてのデュオ・リサイタルが、この春、横浜みなとみらいホールで実現する。「実は、ずっと前から美枝子さんと共演したいと熱望していたんです」と胸の内を明かした西村は、今回のリサイタルにかける意気込みをこう語る。【チケット情報はこちら】「美枝子さんは教科書のような声の持ち主で、共演するということはいちばん近くでそのすべてを体験できるわけですからとても勉強になります。と同時に、僕にとっては大きなチャレンジであることも間違いない。このリサイタルが僕自身のステップアップにも繋がると思っています」一方の佐藤も、今回の西村との共演については並々ならぬ意欲を持っているようだ。「初めて彼の歌を聴いた時から、聴衆を惹きつけるカリスマ性に驚きました。華があると同時に、ほとばしる音楽性を持ったテノール。そんな西村さんと私の音楽のいちばん良いところが合わさることで、さらに完成度の高いものをお届けできるのではと考えています」プログラムは、誰もがどこかで1度は耳にしたことのあるようなおなじみの曲が並ぶ。佐藤いわく、「お客様がどれだけ楽しんでくださっているのか、という空気がとても大切なので、皆さんにお耳馴染みのある曲を選びました」と話す。前半は日本歌曲やカンツォーネ、後半はオペラ・アリアが中心で、その中でも白眉はラストに置かれたヴェルディの歌劇『リゴレット』からの二重唱「あなたは私の心の太陽」だろう。「美枝子さんとだったらこの曲をやりたいと思っていた」という西村の熱望が実現した形だ。他にも、最近ミュージカルに興味を持っているという西村による『ウエストサイド・ストーリー』からの「マリア」、そして実は佐藤のレパートリーだという『キャンディード』からの「着飾ってきらびやかに」という2曲のミュージカル・ナンバーも楽しみだ。「曲の間にはざっくばらんにMCを入れたい」と佐藤がいえば、「突然無茶ぶりをして美枝子さんがタジタジになるところが見てみたいかも」と西村が笑うなど、早くも2人の息はぴったりのようだ。日本を代表するトップ歌手ふたりが、名アリアやデュエットなどを次から次へと歌ってくれるこのコンサート。「オペラ・ファンだけでなく、色々な人に気軽に来ていただきたい」というふたりの熱のこもった言葉を聞きながら、たくさんの人の心を幸せな気分で満たしてくれるリサイタルになるに違いない、と確信した。公演は3月20日(金・祝)に神奈川・横浜みなとみらいホール 大ホールにて開催。チケットは発売中。取材・文室田尚子
2020年01月17日2月12日、オーチャードホール(渋谷)にて、東京交響楽団がオーケストラ・コンサート「サエグサシゲアキ1980s」を開催する。演奏曲目は「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」(以下,逆シャア)と「交響曲『動乱』」。1980年代に作曲家・三枝成彰氏が手掛けた2曲にフィーチャーした演奏会だ。【チケット情報はこちら】「(逆シャアの)サントラを高校生くらいのころ,通学中にウォークマンでずっと聴いていました。なので楽譜を見ると思わず顔がにやけてしまうくらいです」と語るのは、東京交響楽団・首席トランペット奏者の澤田真人氏。「スーパーロボット大戦」シリーズをはじめ,今なおさまざまな形でゲーム化され続け,根強い人気を持つ「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」(1988年)からは14曲が演奏される。「(映画「動乱」を)DVDで観ました。当時の超大作だったようで,スケール感がすごかったですね。とあるドキュメンタリー番組では,“吉永小百合の人生を変えた一作”と紹介されていました。楽曲はチェロのソロが印象的でした」と、首席トロンボーン奏者・鳥塚心輔氏。「機動戦士Zガンダム」のBGMへとつながるメロディーが散りばめられた劇伴が三楽章にまとめられ、オーケストラ用のパート譜を新たに作成して演奏される「交響曲『動乱』」の生演奏は貴重だ。録音された音源はすでに廃盤となっているため、実演は過去にほとんどない。両者とも、金管が大活躍する本コンサートには大変な意気込みだ。「これまでの演奏会で一番気合が入っています。ずっと演奏したかったんですけど,まさかやれるとは思っていませんでしたから。(中略)、「やったー!」という気持ち。」(鳥塚氏)「公演までに逆シャアを見返しておきたいですね。当日は演奏しながらも逆シャアの世界に浸りたいので、学生時代の気持ちに戻って、もう一度頭に叩き込んでおきます!」(澤田氏)。これは、聴き逃せない!取材・文:馬波レイ撮影:増田雄介 (4Gamer編集部)
2020年01月16日英国の名門フィルハーモニア管弦楽団。1月23日(木)からの来日公演にさきがけて、最新デジタル技術による「VR(ヴァーチャル・リアリティ)サウンド・ステージTokyo」を実施している。360度の3D映像とサラウンド音響で、リアルなオーケストラ演奏を間近に体感できるというもの。「フィルハーモニア管弦楽団」来日公演のチケット情報演目は2017年にロンドンのロイヤル・フェステイヴァル・ホールでライヴ収録したマーラーの交響曲第3番。1983年にサロネンが代役で急遽フィルハーモニア管を指揮し、その後の首席指揮者就任のきっかけとなった作品だ。会場内には15脚の回転椅子。VRゴーグルとヘッドフォンをつけると映像が始まる。冒頭に上述の出会いのエピソードを語るサロネンの肉声が流れ、すぐに演奏へ。いきなり目の前にサロネンが現れた。譜面台を挟んでサロネンと向かい合う位置に座った格好。このプログラムの売りが、視界360度の3D映像だ。そのための回転椅子。ぐるぐる回って周囲を見渡すと、自分がオーケストラに囲まれているのがわかる。演奏は第6楽章の最後の6分ほど。映像同様、音声もサラウンドなので、たとえばフルートの聴こえる方向を振り返れば、そこにフルート奏者がいる。弾いているパート、休んでいるパート、旋律の受け渡しなどが、文字どおり目に見えるようで、スコアを見ながら聴いているような感覚。あまりにリアルなので、奏者や客席最前列のお客さんがこちらを見ているような気がして、なんだか照れくさい。壮大なコーダで曲を閉じると、盛大な拍手に応えてオーケストラ全員が立ち上がる。自分だけ座ったままではまずい!と本気で焦った。「VRサウンド・ステージTokyo」は東京芸術劇場地下1階アトリエウエストで1月29日(水)まで(1月20日(月)・21日(火)は休館日)。1日14回上映されるが、各回限定15名。当日整理券またはWEB予約が必要。詳細はホールHPへ。さらに、東京芸術劇場前の池袋西口公園に誕生した野外劇場「グローバルリング」では、関連イベント「TOKYO MUSIC EVENING “YuBE”(ユーベ)」が開催中(1月31日(金)まで)。VRと同じマーラー交響曲第3番の通常の2D映像を大型スクリーンとサラウンド・スピーカーで上映するもので、こちらは第6楽章まるまる(約30分間)が流れる。VRと同じコンサートの映像で、さっきたしかに座っていた感覚のある場所に自分がいないのが、なんだか不思議。特殊なサラウンド音響効果を作り込んだりはしていないようだったが、マルチ・スピーカーのおかげで、リング内のどこで聴いても良好な音響で楽しめる。上映は期間中の毎晩、午後7時と午後8時30分の2回(予約不要・入場無料)。野外なので防寒対策はお忘れなく!そして1月23日(木)からは、いよいよ公演が始まる。サロネンとフィルハーモニア管弦楽団の集大成を、今度は生身で!取材・文:宮本明
2020年01月15日三浦文彰、26歳。難関のハノーファー国際ヴァイオリン・コンクールに史上最年少の16歳で優勝し、注目を集めて10年。3年前の大河ドラマ『真田丸』のテーマ音楽演奏ではお茶の間の人気もがっちりと掴んだ。2020年2~3月の東芝グランドコンサートで、サントゥ=マティアス・ロウヴァリ指揮エーテボリ交響楽団と、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番を弾く。【チケット情報はこちら】「どの協奏曲を弾きたいか聞かれたら毎回必ずこの曲を挙げているのですが、なかなか採用されません。今回はそれが通って、ツアーで5回も弾くことができるのはすごくうれしいですね。演奏するたびに毎回見え方が違って、曲の深さがわかってくる。僕にとってはとても大事な曲です」1955年に初演された作品。三浦が師事したパヴェル・ヴェルニコフは、初演時のヴァイオリニスト、ダヴィッド・オイストラフの門下なので、いわば直伝で多くのことを学んだ。「一番は音のイメージです。強いだけじゃない、強くて重たいんだ、とか。それを言葉だけではなく、弾いて教えてくれました。あとは、ロシア文学を読めと。とくにこの曲の場合、ただ無意識に弾いていると運動会っぽくなっちゃうところがあるので。勘違いされやすいところかなと思うんですけど、ショスタコーヴィチは、人の声、叫びというか、金属的なカンカンした音ではない、木質の響きが必要です」すでに2019年10月に、来日公演と同じ顔合わせで、オーケストラの本拠エーテボリで共演してきた。「とてもいいオーケストラ。みんな本当によく聴いていて、ちゃんとアンサンブルができる。それに、彼らの感じているショスタコーヴィチというのがはっきりとあって、楽章ごとのキャラクターが際立っています。僕が何か仕掛けても、はっきりリアクションがあるので、やりがいがありました。(旧ソ連出身の)ネーメ・ヤルヴィが20年以上首席指揮者だったので、ロシア音楽の伝統も持っているのでしょうね。指揮者のサントゥも、その彼らがのびのび弾けるように振っている。すごく自然な音楽づくりだし、一緒にやっていて面白かったです。気が合うなと思いました。イージー・ゴーイングな性格で、打ち合わせでペちゃくちゃしゃべるのではなく、まずオケとやってみようよという感じ。僕もそのほうが好きなので」首席指揮者ロウヴァリは34歳。世代も近く、酒席もともにしてすっかり意気投合した様子。「日本でもどこか連れて行けと言われているので、考えなきゃ(笑)。メインのシベリウスの交響曲第2番もきっとすごくいいと思います。彼はフィンランド出身で、もちろんシベリウスを愛している男ですし、彼らはちょうどシベリウスの全曲録音を始めたところですから。プログラム全体が、大編成だし、聴きごたえ十分のコンサートだと思います」取材・文宮本明
2020年01月14日新国立劇場2020/2021シーズンラインアップの発表会見が開かれ、オペラ部門は、芸術監督として3シーズン目を迎える指揮者・大野和士が出席した(1月8日)。新制作上演は次の4本。●ブリテン《夏の夜の夢》(2020年10月)●藤倉大《アルマゲドンの夢》(2020年11月)※世界初演●ストラヴィンスキー《夜鳴きうぐいす》/チャイコフスキー《イオランタ》(2021年4月)●ビゼー《カルメン》(2021年7月)大野が芸術監督就任時に掲げた施策には、隔年で行なうプロジェクトが含まれており、来シーズンはその1年目の企画枠が戻ってくることになる。そのひとつが日本人作曲家への創作委嘱シリーズ。今回大野は、いま世界が最も注目する作曲家である藤倉大に狙いを定めた。《アルマゲドンの夢》は、20世紀初頭の「SFの父」H.Gウェルズの『世界最終戦争の夢』が原作。藤倉のオペラ3作目だが、日本で演出付きで舞台上演されるのはこれが初めて。指揮は大野和士。演出は2018年ザルツブルク音楽祭の《魔笛》が注目を浴びたアメリカの女性演出家リディア・シュタイアー。英語台本なので海外上演の可能性も含めて注目される。上演順が前後するが、シーズン開幕を飾るのはブリテンの《夏の夜の夢》。大野は「20世紀オペラは難解で敷居が高いと思われがちだが、底抜けに明るい喜劇、幸せになる現代オペラもあることをアピールしたい」と意図を述べた。プロダクションは2004年にベルギーのモネ劇場で初演され高評価を得ているデイヴィッド・マクヴィカー演出の舞台。新国立劇場が権利を買い取った。今後は他劇場へのレンタルも含めて、新国立劇場の所有レパートリーとなる。指揮はイングリッシュ・ナショナル・オペラ音楽監督でブリテンのスペシャリスト、マーティン・ブラビンス。2021年4月の《夜鳴きうぐいす》と《イオランタ》の2本立ても、隔年プロジェクトであるダブルビル第2弾。「童話」つながりの2作品だ。さらに今回は、これも大野が掲げる「ロシア・オペラの充実」という方針の一環でもある。新国立劇場として4度目の新制作となる《カルメン》の演出を手がけるのは、スペインのアレックス・オリエ。昨年の新国立劇場と東京文化会館共同制作の《トゥーランドット》では、スケール大きな舞台装置と、姫が自ら命を絶つショッキングなラストシーンが大きな話題となった。大野は「オリエは、室内楽的、内面的な精神の変化を描きたいと言っている。昨年の《トゥーランドット》とはまったく視点の異なるビジュアルの演出になるはず」と語った。レパートリー作品も、臼木あいのスザンナ、脇園彩のケルビーノと、日本人歌手の活躍に期待が募る《フィガロの結婚》や、わが国のワーグナーの第一人者で前芸術監督の飯守泰次郎が指揮する《ワルキューレ》はじめ、充実のラインアップ。取材・文:宮本明
2020年01月09日「音が自然に届く素晴らしい響きが大好きです」【チケット情報はこちら】横浜みなとみらいホールについてそう語るピアノの阪田知樹。少年時代からの地元でもある横浜で、2年連続となるリサイタルを開く(2020年3月1日・大ホール)。前回の全リスト・リサイタルに続き、《ピアノ・ソナタ》と《ラ・カンパネッラ》のリスト作品を今回もプログラムに入れた。「私の中で特別な作曲家ですし、《ピアノ・ソナタ》は人生をかけて勉強し続けるべき、自分の中でも常に進化している曲。10月にベートーヴェンの最後の3つのソナタに取り組んだのですが、リストのソナタは、ベートーヴェンの32曲のソナタの延長線上に存在する曲だと考えていて、特に最後の第32番のソナタとの類似点にはいろいろと気づいていました。それにあらためて直接触れたことで、目指すものがよりクリアになってきた気がしています」リサイタルは一般的な2部ではなく3部構成。第1部にモーツァルトのソナタ第5番とシューマンの《交響的練習曲》、第2部がリストのソナタ、第3部に《ラ・カンパネッラ》を含む、さまざまな編曲作品。「SP時代の巨匠たちのリサイタルを研究してみると、3部に分けていることが多いんです。第1部がクラシカルな作品。第2部がちょっと挑戦的な作品。第3部はアンコール的な意味合いも込めて、楽しく聴ける作品が続くという形です。今回はまさにその形。巨匠たちへのオマージュです」さらに新たな試みも。「彼らは、作品を弾く前に、つなぎの即興を入れることが多かったんですね。バックハウスやディヌ・リパッティがそうです。演奏者自身も聴き手も気持ちの準備ができる。それをやれたらなと思っています」作曲家でもある阪田ならではの発想かもしれない。「演奏会を、大きな枠で全体としてお届けしたいと思っています。植物のポプリのように。それをどういうふうに作ってプレゼントするのかが、私たちの表現です」リサイタルの翌週にはヴァイオリニストの諏訪内晶子がプロデュースする「国際音楽祭NIPPON 2020」の一環で「ベートーヴェン室内楽マラソンコンサート」(3月8日・東京オペラシティ)に出演。諏訪内とヴァイオリン・ソナタ第10番などを弾く。「諏訪内さんは、彼女ならではのパッションをもつ音楽家。その諏訪内さんがベートーヴェンとどう向き合われるのか、最も間近で聴くことにもなるのでうれしいですし、諏訪内さんのCDを子供の頃から聴いていたので、なんだか不思議な気持ちです」9時間を超える長丁場のコンサート。「作品1のピアノ三重奏曲も演奏します。後期のソナタ第10番と合わせて、ベートーヴェンの音楽の発展、変化を1日で体験できるのは楽しみです」2020年6月からはリスト編曲によるベートーヴェン交響曲全曲ツィクルス(全9回・Hakuju Hall)もスタート。彼のベートーヴェンとの向き合い方にもいっそう注目していきたい。取材・文:宮本明
2019年12月26日2020年の東京オリンピックに向け、「オリンピックコンサート2020 プレミアムサウンドシリーズ」が年明け1月11日(土)の東京芸術劇場 コンサートホールを皮切りに、全国6都市7公演上演される。本公演は選りすぐりのオリンピック公式映像とフルオーケストラの生演奏が相まって、オリンピックの感動を伝えるもの。1997年より毎年上演され、自国開催となる2020年には、日本のスポーツ界を牽引する元オリンピック選手をゲストに招く。今回は2012年よりナビゲーターを務める俳優の藤本隆宏と、1月11日(土)と4月4日(土)の東京公演でゲスト出演する小谷実可子の元オリンピック選手2名に話を聞いた。【チケット情報はこちら】コンサートは2部構成。1部は「1964 to 2016輝き続けた夏の夢」と冠し、『オリンピック東京大会ファンファーレ』など5曲を背に、1964年の東京大会から前回リオ大会までの夏のオリンピックの変遷を映像でたどる。2部は「2020へ、その先の未来へ、輝く夢に向かって!」。注目は、ここでしか聞けない元オリンピック選手の裏話だ。ソウル、バルセロナの2大会で、それぞれシンクロナイズドスイミング、競泳の選手として参加した小谷と藤本。距離を縮めたのは引退後で、小谷は毎年プライベートでもこのコンサートを楽しんでいる。様々なアスリートの映像で涙する中、これまで小谷は上村愛子の映像で1番泣いたのだそう。「彼女は4回オリンピックに出て、8位入賞からひとつずつ順位を上げながらも、最後にメダルが取れなかった。そのクロニクルを取り上げた映像とエピソードが、ぴったりとリンクして号泣しましたね。オリンピアンといえども、ひとりの娘であるところが垣間見られたりして」。そこに藤本が話を付け加える。「映像は選手が勝負に勝った瞬間だけではありません。オリンピックまでの過程も流れるんですね。映像が盛り上がると生のオーケストラ演奏も高揚して、感動が何倍にもなって伝わってくる。私はナビゲーターをしながら、いつも感動して涙しては舞台袖で拭いています」。藤本が当日、小谷に聞きたいのは招致活動の裏側。それについて小谷は「2020年の招致は、総理、経済界・スポーツ界のトップも皆、肩書をかなぐり捨てて、1つの目標に向かっていました。これだけ勢いのあるチームで勝てなかったら、一生東京にオリンピックは来ないんじゃないかと思うくらい」と答える。気になる続きは、ぜひ会場で耳を傾けてほしい。「オリンピックコンサート2020 プレミアムサウンドシリーズ」は、1月11日(土)の東京公演より6都市7公演を開催。チケットは発売中。取材・文:横山由希路
2019年12月20日映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の公開35周年記念し「バック・トゥ・ザ・フューチャー」inコンサートが、4月29日(水・祝)に東京国際フォーラム・ホールA、5月1日(金) に大阪国際会議場(グランキューブ大阪)にて、開催することが決定した。【チケット情報はこちら】「バック・トゥ・ザ・フューチャー」inコンサートは、1985年製作の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の1作目をノーカットで舞台上の大スクリーンで上映。そして全編のサウンドトラック部分を映画に合わせてオーケストラが生演奏するシネマ・オーケストラ・コンサート(シネオケ(R)※注釈)となる。2015年5月の世界初演後、米・ハリウッドボール、ロンドン・アルバートホールをはじめ世界中で上演され、日本では2015年に東京と大阪、今年4月に東京で、総勢21,000人を動員した大ヒット公演。このコンサートのために、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の音楽を担当したアラン・シルヴェストリが元々のオーケストラスコアに加えて、新たに約15分のスコアを作曲した。映画の始まりからワクワクする音楽的演出が施されており、80名のフルオーケストラが迫力の生演奏で、観客をタイムトラベルへ誘う。さらに、映画公開35周年をお祝いして、コンサート当日、会場に映画に登場した『デロリアン』のレプリカ展示も決定。1950年代(70年前!) or 1980年代(40年前!)のファッションでコンサートに参加して、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の世界を思う存分楽しんで。チケットぴあでは2020年1月21日(火)11:00より先着先行を受付開始する。<公開35周年記念「バック・トゥ・ザ・フューチャー」 in コンサート>◇東京公演会場:東京国際フォーラム・ホールA日時:4月29日(水・祝)14:00開演(13:00開場)◇大阪公演会場:大阪国際会議場(グランキューブ大阪)メインホール日時:5月1日(金)19:00開演(18:00開場)※英語上映・日本語字幕あり※上演時間:約2時間30分予定(休憩1回含む)【出演】指揮:ニコラス・バック管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団(東京公演)/大阪交響楽団(大阪公演)
2019年12月09日日本を代表するチェリスト・長谷川陽子が2020年、精力的に新たな試みにチャレンジする。2月21日(金)に東京オペラシティコンサートホールにて、バンドネオン奏者の三浦一馬、ギタリストの大萩康司とのトリオによる「情熱と哀愁のリベルタンゴ」を開催。それに先立つ1月10日(金)には、同会場のホワイエにて0歳児を育児中の保護者を対象にしたコンサート「0歳児とおでかけ応援プロジェクト」を実施する。【チケット情報はこちら】「情熱と哀愁のリベルタンゴ」は、ピアソラの「リベルタンゴ」、ハチャトゥリアンの「剣の舞」をはじめ「踊りや歌に関する曲を選んだ」と“情熱”を前面に出した曲目になっており「私自身の気質としてもラテンの血わき肉おどるようなノリがあるので(笑)、熱いコンサートになります!」と力強く語る長谷川。三浦、大萩それぞれとの共演経験はあるが、3人が揃うのは初めて。「バンドネオンの特徴は、情感に訴える哀愁を帯びた音色。タンゴのイメージが強いけど、実はオルガンの要素が強いんです。この分厚く奥行きのある音に対し、チェロがどう舞い踊れるのか? 非常にスリリングです」と三浦のバンドネオンとの共演への期待を膨らませる。一方、ギターについては「数年前に福田進一さんとデュオCDを作って以来、ギターに魅了されました。ギターは弓で弾くチェロと違って、弾いた瞬間から音が消えていく儚さと美しさがある」とその魅力を熱く語り「それぞれの楽器によって私もチェロの弾き方、音の立ち上がりを変えていきます。信頼する2人との共演ですが、私にとっても挑戦になると思います!」と未知なるチャレンジへの意気込みを口にする。「0歳児と――」は、授乳やオムツ交換、ベビーカーでの移動などの苦労を懸念し、外出を躊躇してしまいがちな育児中の保護者に本格クラシックを楽しんでもらえるよう、2000円のチケット1枚で“0歳児”と保護者の大人2名が入場できる。託児室に預けるのではなく赤ちゃんと同じ空間でコンサートを楽しめる企画だ。自身も子育て経験があり「子どもが0歳の時はテーブルにマットを敷いて寝かせて練習していた」という長谷川。家族や周囲のサポートを受けながら演奏会も行なっていたと明かし、恩返しの思いも込めて参加を快諾したという。曲目はバッハの無伴奏チェロ組曲、武満徹の「翼」などで、あくまでも大人向けのクラシック演奏会となっており「赤ちゃんを育てていても、時に自分の時間を楽しんでいいし、明日への糧になれば。子育てを“希望”にしたい」と意気込みを口にした。チケットは両公演とも発売中。取材・文・撮影:黒豆直樹
2019年12月06日師走のクラシック音楽の風物詩といえばまずは「第九」が思い浮かぶ。でもクリスマスは《メサイア》のシーズンでもある。東京でも、東京芸術大学や立教大学、東京女子大学など、60年から70年近い歴史を持つ《メサイア》演奏会が少なくない。そんななか、2001年に始まったのが、サントリーホールのバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)の《メサイア》。今年で19年目。すでに新たな伝統だ。【チケット情報はこちら】「うれしいことですね。僕らが普段バッハを演奏していることは知らずに、毎年これだけを聴きに来るというお客様もいらっしゃいます(笑)」(BCJ音楽監督・鈴木雅明)バッハと同年生まれのヘンデルのオラトリオの代表作。その魅力は「わかりやすさ」だと語る。「非常にまとまりがあって、音楽的にも楽しめる。バッハみたいに複雑な対位法などはありませんから。バッハと同じぐらいの作曲技術はあったと思いますけど、難解なことは避けている。とても巧みで上手いんですね。けっして浅薄ではないですが娯楽的でわかりやすい。その意味では、すでにかなり(次の古典主義の時代の)啓蒙主義的な傾向にあるんですよ」「メサイア」は救世主のこと。イエスの生誕から受難、復活までを描く。「歌詞は聖書の言葉だけを使っているので、キリスト教の音楽であることは間違いありません。しかしバッハのカンタータや受難曲とはちがって、教会の典礼のための音楽ではなく、あくまで劇場用、演奏会のための作品なんですね。オペラにも似たストーリー性があるのもわかりやすさにつながっていると思います」一部をカットして演奏することも多いが、BCJは常に全曲演奏で、2時間40分ほど。「音楽も歌詞もつながりがあってできているので、カットすべきところがないんです。ヘンデルの他のオラトリオは平気で4時間を超えますから、それに比べたら非常にコンパクトだと言えます(笑)」ヘンデルが演奏のたび、おもに歌手の都合に合わせてさまざまな編曲を施したために多くの異版が存在する。BCJも19年の間にさまざまな版で演奏してきたが、あまりそこにこだわる必要はないと説く。「毎年議論はするのですが、ヘンデルが実際にどのように演奏したかがわからないので、どうやっても正統的な演奏にはならないんです。海外で、全部の版を演奏するというプロジェクトもあるらしいですが、そこにこだわり過ぎてはいけないと思います」つまり、妙に「通」を気取ることなく、ヘンデルの音楽の美しさを素直にじっくり味わうのが正しい楽しみ方のようだ。「実際《メサイア》は、〈ハレルヤ〉などのブリリアントな面だけでなく、じつは非常にしっとりとした部分が多いんですよ。クリスマスはパーティも楽しいですが、そんな美しい旋律、しかもシンプルでわかりやすい音楽を一緒に味わうのも、クリスマスのよい経験になると思います」取材・文:宮本明
2019年12月06日