子どものことを理解していても、きつく当たってしまう自分に気づいた。出典 : 夏休み、家族や親戚、お友だちと一緒にお出かけする機会も多いと思います。わが家も先日、身内10名ほどでお出かけと食事をしてきました。といっても、慣れない場所へ行くのは子どもたちが不安になるので、馴染みのあるショッピングモールでおもちゃ屋さんをのぞいたり、本屋さんでゆっくり本を選んだり。そうして、空いているお店で食事をとることにしたのです。その時点で、息子はかなり興奮していました。騒ぎ立てたりするということではなく、日常とは違う刺激的な出来事の連続で、感覚がとても過敏になっていたのです。注文した料理が一つひとつ運ばれるたびに、「僕のが来た!」と椅子から腰を浮かして喜んだかと思うと、「僕のじゃなかった」と机に突っ伏してがっくりし、「おじいちゃんのもまだだから大丈夫だよね?」と私に確認します。お腹が空いて早く食べたい気持ちと、「いつ自分の食事が運ばれてくるか分からない」という見通しの立たなさに対する不安、初めて注文したメニューへ不安、いろいろな気持ちが次から次へとあふれかえってきて、処理が追いつかない状態になっていたのだと思います。ようやく運んでもらった自分のご飯を一口食べるごとに、息子は椅子の上でぴょんぴょん跳びはねていました。「美味しい」「みんなと食べられて嬉しい」「たくさん食べて褒めてもらえた」息子の心の中にはそんな喜びがあふれたのでしょう。しかし、次の瞬間には「とんかつが苦手なソースに触れてしまった」ということに絶望し、目に涙を浮かべています。とにかく息子の心の中は上がったり下がったりの大騒動。その興奮を逃すために、ぴょんぴょん跳ねるという行動が息子には必要だったのです。一緒に出かけた身内は息子のことをよく知ってくれているので、、息子の行動を批判したり、顔をしかめられるようなことはありません。でも、もし「これを通りすがりの人が見たら、どう思うんだろう?」と、ふと考えてしまったのです。落ち着いて座って食べられないわが子は、おかしいと思われるんだろうか?それとも、親のしつけがなっていないと非難の目を向けられるんだろうか?やっぱり、私が責められるんだろうか・・・。そんなことを考えているうちに、具体的に誰に責められたわけでもないのに「世間の目」というプレッシャーに負け、「ちゃんとしなさい!」必要以上に息子にきつく当たってしまう私がいました。世間から冷やかな目を向けられている気がして…。出典 : 後になってみると、「どうしてあんな風に感じてしまったんだろう。息子の不安をゆっくりとを取り除いてあげれば良かった」と、反省しきりでした。とはいえ、子どもが幼い頃は「まだ小さいからね」と許してもらえていたことでも、子どもが成長するにつれ厳しいまなざしを向けられるようになることは、この先ますます増えていくような気がします。子どもに強く当たりたくない。しかし、世間から責められている気がしているのも事実。そこで、まず「世間から責められている気がしてつらい」という自分の気持ちを分解して、掘り下げてみることにしたのです。「私は、世間から『きちんと子どもをしつけることのできない母親だ』と思われたくないんだな」と頭の中で唱え、自分自身に問いかけてみます。そして、その裏にどんな気持ちが隠されているのかを考えてみました。「おそらく通常の子育て以上に身も心もすり減らして育てているのに」「ここまで連れてくるだけでも大変だったのに」そんな気持ちが、私史の中に隠れているような気がします。そしてそのさらに奥にある気持ちを考えます。「疲れきった私にまだ努力を強いるの?」「こんなにがんばっているのに認めてもらうどころか責められなきゃいけないの?」そんな気持ちも見えてきました。そこまで自分の気持ちを突き詰めたとき、はたと気づいたことがありました。これは発達障害のある子どもたちの気持ちを似ているんじゃないかなと思ったのです。子どもたちも、日々、自身と社会の接点について、同じように悩んでいます。「感覚刺激を持たない人よりも何倍も身も心もすり減っているのに」「慣れないお店に入るだけでも不安で胸がいっぱいなのに」「がんばっているのに認めてもらえない」「いつまでがんばればいいの?」なんだ、ママと一緒じゃない。すごくがんばってるじゃない。その頑張りを知っている、私だからこそ、必要以上に自分や子どもを追い詰めずにいたい。たとえ、「しつけができていない」と言われたとしても、謝るべきところは謝るけども、同時に精一杯生きている自分たちもきちんと認めて行こう。そんな風に思えたのです。大切なのは、子どもと自分の頑張りを認めてあげること。出典 : 世間では「普通」という枠組みの中にいることをよしとする風潮が強く、発達障害のある子どもたちにとって生きやすい世界とは言えません。だからこそ、親は子どもがいつか自立できるように、なんとかこの世界で生きて行けるように育てていかなければと、プレッシャーを感じながら過ごしています。でも、そのプレッシャーを子どもにきつく当たるという形で解消してはいけないな、と今回のことで強く感じました。いくら子どもにきつく当たって世間体を取り繕っても、一つも前に進んでいないからです。その場しのぎで無理矢理子どもの行動をコントロールしたとしても、それは子どもが親の不機嫌から逃れたいという一心で親の意に沿っているに過ぎません。本質的に行動を改善したいなら、その子にわかりやすい伝え方で、丁寧に何度も繰り返しインプットを続ける必要があるのです。たとえば、不安が高まってパニックを起こしてしまったのであれば、出掛ける前に「この安心グッズを持って行くから、必要になったら使おうね」とあらかじめ話をしておくことで、次はパニックを回避できるかもしれません。また、椅子の上でぴょんぴょん跳びはねていた息子のように、衝動を抑えられなくなったときは、いったんその場を離れて迷惑にならない場所で抱きしめ、乱高下の激しい心を落ち着かせるなどの手立てが取れるかもしれません。そして、落ち着いた日常の中で「ご飯を食べる時には座席にしっかりと腰をおろします」「食事を楽しむための場所でバタバタすると迷惑だと思う人がいます」など、どうすれば良いのか、なにが問題になるのかをゆっくりと伝えていきましょう。自分もがんばっている、子どももがんばっている。そう認めることで、子どもにきつく当たる回数を減らして、少しずつ前に進んでいけるといいですね。
2017年08月20日NHK「あさイチ」シリーズ発達障害“ほかの子と違う?”子育ての悩みNHKが1年を通してさまざまな番組で、発達障害の多様な姿を伝えていく「発達障害プロジェクト」7/24(月)にも「あさイチ」で特集が放送されました。今回のテーマは、「“ほかの子と違う?”子育ての悩み」朝の番組で、発達障害のある子どもの子育てを取り扱ったことから、特に保護者の方々の視聴・感想が多かった様子です。発達ナビ編集部でもTwitterで番組の内容を実況し、視聴していた方々の感想もまとめました。以下の、Twitter「モーメント」機能によるまとめをご覧ください。「あさイチ」シリーズ発達障害“ほかの子と違う?”子育ての悩みワガママと発達障害の境界線は…?番組で投げかけられた問いと、視聴者の声今回の番組では、発達障害のある小学生の子どもが二人いるご家庭が取材されました。小学6年生の女の子が、学校から帰って来た場面。直前までお友達とおしゃべりしていた内容が心に残って、なかなか気持ちや行動の切り替えをすることができない、結果、宿題を始めるまでに50分もかかったという様子が映されます。お子さんの発達に違和感を感じたのは3歳児の頃。癇癪が激しく周囲に相談したが、その時は周囲から「大丈夫だよ」と言われるだけで、お母さんはギャップに苦しんだそうです。その後4歳児になったとき病院を受診、発達障害と診断されました。お子さんが「宿題をなかなかやろうとしない」「学校に行きたがらない」といった状況や悩み自体は、子育てしているご家庭なら大抵、一度は直面することかもしれません。ですが、発達障害のあるお子さんの場合、気持ちや行動の切り替えの難しさ、困りごとが起こる頻度や程度には大きな差があり、なかなか簡単には困りごとは解消されません。番組で映されるお子さんとお母さんのやり取りから、診断されてから今に至るまでの日々、積み重ねて来た工夫や理解、お子さんの成長の足跡も感じられます。それでもやはり、思うようにいかなくて、パニックや癇癪を起こしてしまうこともある。同じく発達障害のあるお子さんを育てる保護者の方や、ご自身も幼少期に似たような状態になっていたと語る、成人の発達障害当事者の方など、視聴者の方々から共感の声が寄せられていました。一方、スタジオゲストの方からは、「これが単なるワガママなのか、発達障害によるものなのか、わからない」という意見も出てきました。ワガママと障害はどう違うのか。そんな疑問に対して、Twitter上でも視聴者のさまざまな声が寄せられます。番組中でも、一見して誰にでも起こるような困りごとでも、発達障害の場合は、生活に支障がでるぐらい、程度や頻度が大きいという説明がなされていました。ですが、程度や頻度は違えど、起こっている症状や困りごと自体は、どんな子どもにも見られうるものであるゆえに、周囲の人からすると一見してその違いはわかりにくいのでしょう。どこまでがワガママで、どこからが障害なのか…発達障害が身近でない人からそのような疑問が呈されること自体は、無理もないことかもしれません。また、性質や程度の違うさまざまな凸凹のある人々が、連続体(スペクトラム)のように存在していると言われる発達障害それ自体の特性からも、明確な線引きをすることは非常に難しいと言えます。目に見えにくい、わかりにくい障害としての発達障害の性質を示すようなエピソードだったように思います。こうしたジレンマに対して、具体的にはどのように対処すれば良いのか。番組のゲストコメンテーターとして出演された、鳥取大学大学院の井上雅彦教授のコメントがヒントとなります。わがままと障害の線引きはどこかと線引きすることは、厳密には難しい。それよりも大切なのは、周りがどういう風に対応して工夫すれば本人が頑張れるようになるのか、という観点だと井上先生は語ります。線引きをすること自体を目的としても、議論にキリをつけることは難しいですが、その子が何に困っていて、周囲の人たちには何ができるのかと、個別具体的な対応・行動をベースに考えることができれば、発達障害かどうかに関わらず、どんな子どもにとっても有効な困りごと解決のアプローチが見つけられるはずです。番組の後半には、下のような声も寄せられました。どんな状況であれ、お子さんも、親御さんも、それぞれのありのままを受け止めて認めて合うことを願う声です。あさイチ出演、古山さんより保護者の方々へのメッセージ最後に、今回の番組のVTRに出演された古山さんからのメッセージをご紹介します。番組終了後、発達ナビ編集部宛にご連絡をいただき、いま、子育てに頑張っている保護者の方々へ伝えたい思いを語ってくださいました。Upload By 発達ナビ編集部「7月24日のあさイチで取り上げて受けていただいた、古山です観ていただいた皆様、本当に本当にありがとうございます井上先生はじめ、スタジオの皆様が沢山協力して下さり、短い時間でしたが、濃い内容になっていたと思います放送後も沢山の反響をいただき驚いています発達障害の子育てをしているママの沢山の方が涙を流しながら共感してくださったメッセージをいただき、勇気を出して良かったと思っています我が子の姿をさらけ出すことに抵抗がなかったわけではありませんその中で取材を受けた理由は、育児に悩んでいるママに伝えたい想いがあったからです毎日毎日、育児に行き詰まり悩んでいるかもしれません発達障害の子育ては育児上級者コースを受講しちゃったと私は捉えていますだから、もう、毎日100点は目指さないでください今日が20点だった日も落ち込んだり自分を責めたりしないで20点だったなら次の日60点以上を目指せばいい一週間で平均60点取れたら、花マルだから、40点が続いたらお休みの日に80点目指せばいいんですそれだって、1人で頑張らないで家族総出でかき集めたっていいんですあ、失敗した、言いすぎたって時は、素直に謝っちゃえばいいんですママが悪かったです、言い直すからさっきの言葉、消しゴムで消して欲しいっていま、悩んでいるママたち毎日、育児に奮闘していると一人で闘っている気持ちになるかもしれません誰にもカミングアウト出来ず誰にも共感してもらえず苦しくて寂しくて辛い毎日を過ごしているかもしれません私もそんな風な光の見えないトンネルの中にいた経験がありますでも少し勇気を出して周りを見てみてくださいあなたには必ず味方がいるはずですあなたは毎日毎日、子供に向き合い悩みながら色々なことを選択していることでしょうもしかしたら世間一般的には間違いかもしれない選択をしていることもあるかもしれません私自身が、子供達に学校以外の場所に行かせることを決めたように…でもあなたが真剣に子供達の幸せを想いながら出した選択ならたとえ、間違いかもしれない選択だとしてもあなたの決めたことなら応援してくれる人がいるはずです私にとっての実母のように味方がいればたとえ一緒に生活していなくても頑張れるチカラになります勇気を出してみてくださいまたもしも味方がみつからなくても覚えていてくださいあなたが真剣に子供達と向き合い孤独と闘いながら子育てしているとき同じ空の下で私も同じように過ごしていますあなたが今日も上手く対応してやれなかったと子供達の寝顔を見ながら涙しているとき同じ空の下で私も同じように涙していますあなたが真剣に子供達の幸せを想いながら頑張っているなら私はあなたの味方ですあなたは一人ではありませんつらいときくるしいとき良かったら私を思い出してくださいあなたとお子様達の幸せを心から願っています」
2017年08月07日発達障害のある子どもにとって、夏休みの生活は悩みも多い!?出典 : ヶ月近く学校や幼稚園などがない、夏休み。普段できないようなイベントやレクリエーションなどに参加できる楽しみもありますが、学校がない分、生活リズムの崩れや体調の崩れが起こりやすい時期でもありますし、夏休みに出される宿題を自分の力で進める必要もあります。特に発達障害のある子どもにとって夏休みは、自由な時間が多いだけに何をしてよいかわからない、活動の切り替えができない、宿題を上手く進めることができないなどさまざまな困り感が生じやすく、生活パターンが崩れることも多くあるようです。そのため、夏休みとはいえ計画を立てて、メリハリのある生活を送ることが重要です。この先で詳しく、夏休みに起こりやすい発達障害のある子どもの困り事やその対処法、夏休みの計画の立て方についてご紹介します。夏休みがうまくいかない!3つの要因とは出典 : 発達障害のある子どもとパパ・ママが陥りやすい夏休みのトラブルは様々ですが、その背景には大きく以下の3つの問題が挙げられます。まずはその3大トラブルの解決法を考えてみましょう。多くの保護者の方は、夏休み中子どもと接する時間が増え、食事の用意などの育児負担も増えます。子どもと一緒に過ごせる時間が増えることは楽しいことでもありますが、ずっと子どもと過ごすことにストレスを感じてしまう保護者の方もいるかもしれません。そんな時、次のようなことを意識してみましょう。◇完璧を求めず時々手を抜くことも許容する「夏休み、しっかり計画だてて有意義にしよう!」と意気込むのは大切ですが、あまりに完璧な計画を立ててしまうと、計画倒れに終わってしまったり、親自身が疲れてしまったりすることもあります。時にはパートナー、祖父母、ご近所づきあいをはじめとした周りの人に頼るなどして、親もリラックスできるように心がけましょう。◇子どもに元気がありすぎて、家にいるのがストレスな場合、外で発散させる子どもによっては、元気が有り余っていて家にいるのがストレスで、外出したがったり、家の中で騒いでしまったりすることもあると思います。そんな子どものストレスは、やはり外で発散させることが一番です。発達障害のある子どもの場合、その特性を理解したうえで、子どもがのびのびできるような場所を一つでも見つけることが大切です。学校開放や学童、児童館をはじめ、夏なら福祉センターのプールなどもおすすめです。そのような場所を利用する場合、必ずその場所を使うルールやけが・事故の防止についてしっかり伝えるようにしましょう。また、子どもを連れていくにあたって不安がある場合、事前に施設の職員などに相談しておくとよりいっそう安心できますね。◇一人遊びできる時間をつくる子どもが家で過ごす時間が多い場合、何か1人でも遊べるおもちゃや道具を与えることも一つの手段です。読書好きなら興味のある本、絵を描くことが好きなら落書き帳やぬりえ本などを渡し、家の中でも親子それぞれの時間を過ごすことができるようにするのもおすすめです。学校や幼稚園のない夏休みは、睡眠が不規則になったり、運動不足になったりすることから生活リズムが乱れることが多くあります。発達障害のある子どもの中には、生活パターンが決まっていて、それをきっちり守る傾向がある子どももいれば、時間の感覚を上手くつかめず切り替えができないために生活が乱れやすい傾向がある子どももいます。このような生活リズムに関する困りごとには次のように対応しましょう。◇決まっている生活パターンをできるだけ崩さないようにサポートする発達障害の中でも、自閉症スペクトラム障害の場合、生活パターンが決まっている方が安心でき、本人もそれをきっちり守りたがる子どもが多いと言われています。このような特性を持つ子どもに対しては、今まで送ってきた生活リズムを夏休みに入っても維持することが重要です。予定変更がある場合はできるだけ変更内容を事前に伝えたり、変更があるたびに子どもの様子をよく観察したりすることを心がけましょう。不安やパニックが強く現れたら予定変更の伝え方やサポートの方法を変えて、子どもが少しずつでも変化が受け止められるように支えていくことが大切です。◇夏休みも普段の生活リズムを維持できるようにする生活リズムが乱れることによって、体調を崩す原因になったり、新学期が始まった時に元の生活になかなか戻れなくなったりする可能性があります。基本的に、夏休みに入っても学校や幼稚園がある日と同じ生活習慣を続けることが重要です。起床・就寝時間や昼寝の時間など、睡眠は特に生活リズムが崩れるきっかけになりやすいので気をつけるようにしましょう。また、夏は暑いため冷房の効いた室内で過ごす時間が増える子どもも多いと思います。ですが、それがきっかけで運動不足になって食欲や睡眠に悪影響が出ることもあります。暑いからといって家の中に居続けるだけでなく、夏のイベント参加も利用しながら適度に体を動かすことを心がけましょう。上野 一彦、月森 久江著『ケース別 発達障害のある子へのサポート実例集 小学校編』ナツメ社/2010ここでは自閉症スペクトラム障害(ASD)、ADHD(注意欠陥・多動性障害)、学習障害(LD)の3つに関して、親と子どもが夏休みの時期に抱えやすい困りごとについて挙げていきます。◇自閉症スペクトラム障害(ASD)自閉症スペクトラム障害の特徴として、対人関係・社会性やコミュニケーション能力に障害があり、物事への強いこだわりが挙げられます。また感覚が過敏(または鈍麻)であったり、柔軟に思考することや変化に対処することが難しかったりするという特徴もあります。夏休み期間では、次のような困りごとが起こることがあります。・やるべきこと(宿題など)へ取りかかるための切り替えが難しい・自由な時間に何をしてよいかわからない・好きなことだけをひたすらやり続けてしまうなど◇ADHD(注意欠陥・多動性障害)ADHD(注意欠陥・多動性障害)は、不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(考えずに行動してしまう)の3つの症状があります。ADHDの子どもは夏休みの間、このような困りごとが考えられます。・夏休みの宿題に取りかかろうとしても集中できない・することがなく、ずっと家にいるとイライラしてしまう・ケガや事故を顧みない行動をしてしまうなど◇学習障害(LD)学習障害は、全般的な知的発達に遅れはありませんが、読む・書く・聞く・計算などのある特定分野における理解・能力取得に極端な困難さがあります。学習障害の子どもは、その特性上、やはり夏休みの宿題に困ってしまうケースが多いようです。・夏休みの宿題を自分の力で進めることができない(計算ドリル、漢字書き取りワークなど)・特性ゆえに不得意な教科の宿題をやる気になれない・絵日記や作文などで上手に物事を整理して書き出すことが難しいなど発達障害がある子どもの場合、上記のような要因から困りごとが生じることがありますが、その子の特性を理解し、なぜその困りごとが起きるのかを考えることで、うまくいくことも多いのです。環境を調整したり、子どもへの接し方を変えたり、スキルトレーニングをしたり、さまざまな工夫をすることで、夏休みの悩みが軽減できるかもしれません。これから、発達障害の子どもとその親が抱えやすい具体的な困りごとと、その対処法を5つ紹介します!発達障害は人それぞれ特性や症状の程度に差があります。また、いくつかの発達障害を合併している人もいるため、全ての子どもにこのような症状・困りごとがあてはまるわけではないということに注意が必要ですが、その子に合う方法をぜひ探してみてください。【困りごと1】夏休みの計画がうまく立てられない出典 : 夏休みは1日のほとんどを子どもと過ごすというと、何かと不安や心配を感じる保護者の方も多いと思います。ですが、夏休みは自由な時間が多いだけに、子ども自身の生活力や自主性をトレーニングするチャンスでもあります。夏休みでもメリハリをつけた生活をするためには、発達障害の子どもに合わせた計画づくりを工夫することがポイントです。計画を立てる際には、具体的に次のようなポイントを心がけてみましょう。発達障害のある子どもは、「いつ何をするのかがわからないと不安」「生活における一つひとつの工程(着替える、顔を洗う、朝ごはんを食べる…)を頭の中で順序立てることが苦手」「時間の流れがうまくつかめず、作業を切り上げることができない」というように、生活のちょっとした場面でも困り感を抱くことが多くあります。そんな子どもたちのために、1日の予定が視覚的にわかるような予定表をつくることをおすすめします。写真やイラストを入れることで1日の中でやるべきことをパッとイメージすることができ、多くの自由な時間がある夏休みも生活リズムを崩さずに暮らすことが見込めます。特に夏休みは学校や幼稚園などへ行く時間などを気にする必要がなくなるので、いつもより時間をかけて、予定表に沿った行動が取れるように見守っていきましょう。目で見てわかりやすい予定表ってどのように作ればいいの?と感じている方は、次のコラムやアンケートの声を参考にしてみてください。【先輩教えて!】夏休み、30日もどうすればいい?起床時間やお手伝い、宿題…みんなの工夫を大募集!発達障害、特に自閉症スペクトラム障害の子どもは、前もって決められていた予定が変更になるとパニックになってしまったり、うまく切り替えることができなかったりすることがあります。予定表をつくったとしても、何かしらの予定変更を余儀なくされることもあるかと思います。その変更を急に子どもに伝えてしまっては、パニックや癇癪の原因になることもあります。ですので、予定変更が分かり次第、できるだけ早く子ども自身がわかりやすい方法で子どもに伝えるようにしましょう。変更点を子どもの目につく場所に書いて貼ったりするなどの工夫もおすすめです。時間のある夏休みに計画を立てることは大事、とは言っても、毎日予定をたくさん詰め込み過ぎていると、親の負担やストレスが溜まってしまうこともあります。また、夏休みの宿題など、家庭である程度の期限を設けたとしても、子どものその日の体調やモチベーションによっては、立てていた計画が崩れることも十分に考えられます。夏休みの計画を立てるうえでは、ある程度余裕をもたせて、無理のない計画を立てるということも大切です。親も子どもも無理のない範囲で夏休みの見通しをもつ、ということを心がけましょう。【困りごと2】自由な時間の過ごし方がわからない出典 : 発達障害の特性を持つ子どもにとって、何もすることがなかったり、何をすればよいのかわからなかったりする時間は苦痛に感じることが多いと言います。自由な時間には自分の好きに遊べばいい、と思ってしまいがちですが、発達障害の特性がある子どもの中には自分の自由に過ごすということがわからず、戸惑ったり苦しくなったりすることが少なくありません。この困りごとには対処法が3つ考えられます。【困りごと1】で紹介したようなスケジュール作りをもとに、することがなくなりそうな時間を事前に把握してみましょう。そしてその時間を読書やお絵描きなど1人遊びの時間、家族とお手伝いをする時間などに割り当てておくと、自由な時間にすることがわからないというような子どもの安心感につながります。子どもの自由な時間にお手伝いをお願いしてみると、自由な時間によって感じる苦痛を減らせるだけでなく、役割や仕事を与えられる嬉しさから積極的にお手伝いしてもらえるかもしれません。そしてそれが生活するための力を伸ばし、自信をつけることにつながることも多くあります。ある程度まとまった時間が空いてしまう場合は、子どもにあった習い事をさせてみるのもおすすめです。発達障害の特性がある子どもには、水泳、ピアノなどの音楽、絵画、習字のような自分のペースで取り組むことができ、勝ち負けがあまり明確でない習い事が向いていると言われています。習い事の教室の雰囲気や先生の性格、子どもの特性に対してサポートしてもらえるかを確認したうえで、子どもに取り組ませてみるのも良いでしょう。田中康雄/著『イラスト図解 発達障害の子どもの心と行動がわかる本』 西東社/2014【困りごと3】夏休みの宿題がスムーズにできない出典 : 勉強への集中力が続かない、夏休みの期間内で計画的に宿題を進めることが難しい、読み書きや計算が苦手でうまく進められないなど、夏休みの宿題に関しては子どもだけでなく親も困ってしまうことが多いかと思います。国語や算数などのドリルやワーク・プリントを進めるうえでまず大切なのは、ドリルやワークのやらなければならない部分がどのくらいあるのかを目に見えるように示すことです。全体像を把握することで、これだけの量を夏休み中にこなさなければいけないんだ、と子どもにとっても実感がわくので、取り組みやすくなることが多いです。また、ドリルやワークの場合、1日に取り組む分をきちんとできたらシールを貼ってあげるなど、達成した際のちょっとしたご褒美をあげるという工夫もおすすめです。自由研究はこれといったテーマが決まっていないことが多いため、子どもが興味を持ち、熱中して取り組めるように子ども自身の特性や関心に合ったものを選択することが大切です。科学や工作の子ども向けワークショップなど、夏休みには各地で自由研究にも生かせそうなイベントが多く開催されています。そのような場に出かけるついでに自由研究のネタ探しをするのもよいですね。読書感想文や絵日記、作文などは「本を読む気になれない」「いきなり書き出しては上手く書けずイライラしてしまう」、などなかなか手をつけづらくなってしまうことも多いかと思います。そのような場合の対策として、文章を書くための工程を細かくわけ、ステップを一つひとつクリアしていくうちに完成できるように子どもに声かけすることをおすすめします。例えば読書感想文の場合は次のようなステップで挑戦してみるのはいかがでしょうか。1.読んでみたいと思う本を図書館や書店で探す2.本を一通り読む(この際も、子どもが熱中して読めるようであれば子どものペースに委ね、どこまで読んでよいかわからない様子であれば1日に○章まで読む、などゴールを設定してあげると良いですね。)3.読んだ本の中でお気に入りの部分(ページ、セリフ、絵など)を書き出してみる4.読んだ本のタイトル、どんな内容だったかを作文用紙の初めに書けるだけ書いてみる5.お気に入りの部分を紹介、またどうして気に入ったのか書いてみるこのように小さなステップを設けて1つずつ子どもに挑戦させてみると、何をやればよいかわからないストレスが解消され、またステップを積み重ねるたびに子どもの自信にもつながります。夏休みの宿題を進める方法に関しても、子どもによって合うものと合わないものがあります。他の保護者の方がおすすめしている方法なども参考にしつつ、自分の子どもに合った方法を見つけていくことも大切です。【先輩教えて!】夏休み、30日もどうすればいい?起床時間やお手伝い、宿題…みんなの工夫を大募集!夏休みの宿題を親子でやりきるアイデア大募集!実践の工夫や、エピソードを教えて【困りごと4】きょうだいげんかが起きてしまう出典 : きょうだいがいる家庭は、子どもたちがみんな家にいることが多くなるため、どうしてもきょうだいげんかが増えることがあります。きょうだいげんかが頻繁に起きてしまうと、その度に親が仲裁に入らなければならなかったり、家の中の雰囲気が悪くなってしまったり、時にはけがの原因になったりすることがあります。きょうだいげんかによる子どもや親のストレスを和らげるためには、次のような工夫が考えられます。きょうだい同士が常に一緒にいると、どうしてもけんかも増えてきてしまいます。祖父母をはじめ、親戚や友達の家にきょうだい一人ずつ遊びに行かせてもらう機会をつくるなど、時にはそれぞれが1人で過ごす時間を設け、のびのびと過ごせるように工夫しましょう。【困りごと5】夏の思い出作りに何をしてあげればよいかわからない出典 : 発達障害の子どもをもつ保護者の方の中には、「せっかくの長期休みだから親子で外に出かけて、一緒に楽しい思い出を作りたい、でもお出かけの道中や目的地で子どもが疲れたり、辛くなってしまったりするかもしれない…」と悩んでいる方も少なくありません。そんな子どもとのお出かけについての不安や心配については、次のようなことを心がけてみてください。発達障害の子どもとお出かけするときは、事前に目的のイベントや施設に発達障害の特性がある子どもへの配慮やサポートがあるのかを確認することが大切です。また、子どもが楽しく元気にお出かけできるよう、子どもの特性から予想される困りごととその対処法を考えておくことも重要と言えます。発達ナビでも、障害のある子どもや、発達が気になる子どもへの配慮・サポートのある夏の子ども向けイベントを紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。また、どこかへ外出することももちろん夏の思い出になりますが、そこまでお出かけする時間・余裕がない…という方は、家の中で思い出作りをしてみてはいかがでしょうか。例えば子どもの食べたい料理やお菓子を一緒に作ってみたり、市販されている科学キットや工作キットなどを一緒に作ってみたりするなど、家の中でもちょっとしたイベントをするような感覚で、子どもとの思い出作りを楽しんでみることもおすすめです。まとめ出典 : 夏休みはおよそ1ヶ月もある、長い休暇期間です。夏休みならではのイベントや長期休みならではの過ごし方を楽しみにしているご家庭も多いのではないでしょうか?ですが同時に、学校や幼稚園がないだけに生活リズムの乱れや、子どもと過ごす時間の長さから、親の負担が大きくなってしまうこともあります。発達障害がある子どもの場合、子どもの特性を把握したうえで、夏休みに生活や体調が崩れないようにどう工夫するか考えたり、対策を知っておいたりすることが重要です。親子で元気いっぱいに楽しく夏休みを過ごせるよう、子どもに合わせた工夫を考え、試してみましょう!
2017年08月07日先日、NHK 「あさイチ」 で「発達障害の子育て」についての特集が放送された。番組に出演した古山さん一家は、小6の長女と小3の長男が共に発達障害と診断されている。元気にあいさつしてリポーターを出迎える2人の姿は、障害があるとは思えないほどだが、3日間生活に密着しているうちに、「あれ?」と思うことが見えてくる。古山家のお母さんは、子どもとのコミュニケーションに、言葉ではなく筆談でそっと気持ちを伝えたり、タイマーを使って時間をわかりやすく提示するなど、随所に工夫を凝らしていた。また、お母さんは「長女の子育てに悩んだ末、4歳の時に1人で決めて1人で病院に行った」「旦那は診断を受け入れられず、障害者のレッテルを張ったのは私なのか? と悩んだ」とのこと。それから6年、今も整理できない気持ちを抱えながら、夫婦で手探りの子育てが続いているという。じつは筆者にも、8歳になる娘(定型発達)と4歳の息子(自閉症スペクトラム)がいる。決して感情的にならず、子どもの気持ちを受け止めて待つという古山家のお母さんの姿は、とても学ぶところが多かった。■子どもが発達障害と診断。その時、夫は……?しかし、今回の番組を見ていて私が一番気になったのは、子どもでもお母さんでもない。それは、お父さんの存在だ。当事者として出てくるのはほとんどがお母さんで、お母さんの話を通してからも、お父さんの存在があまり見えてこなかったのが気にかかった。個人的には「夫婦や家庭内の葛藤をもっと掘り下げて聞きたい!」と感じた。今回は放送時間の都合上、残念ながら「お父さんの存在」にはあまりフォーカスされていなかったようだ。次回以降のNHK「あさイチ」特集を含む、 NHK「発達障害」プロジェクト で、このテーマが深堀りされることを期待したい。「お父さんの存在」という問題。じつはこれ、療育ママの間では、よく聞く話である。「夫が子どもの障害を認めてくれない」「旦那が『就学先は絶対普通級』と言っている」「旦那が、幼稚園での発表会の様子を見てショックを受けちゃった…」などなど。他に、義理両親や自分の両親から理解してもらえないという話も時々聞く。「義理母に、あなたがちゃんと躾ければなおると言われた」「母親に、『あなたは甘やかしすぎ。このままじゃわがままな子になる』と注意された」などなど。こういう発言にはイラッとくるけれど、百歩譲って、祖父母世代に発達障害の理解は難しいのかもしれない。自分たちが子育てしていた頃には、きっと聞いたことのない話だろう。でも、同居していたらちょっとキツイ問題だけど、別々に住んでいるならうまくわかすこともできるし、子育てにそれほど強い影響もないはずだ。だが、夫の場合はそうはいかない。夫がきちんと向き合ってくれなければ、お母さんのストレスは2倍、いや数倍にも膨れ上がる。日々の小さなことまでフォローする必要はないと思うが、「ここぞ!」という時には、真剣に向き合ってほしい。意見が衝突することもあるかもしれないが、いざという時に一緒に本気で問題に取り組んでくれる同士(夫)がいると感じられれば、それは、お母さんにとって何よりも大きな心の支えになるはずだ。 ■他の子と比べすぎるお母さんと、比べすぎないお父さんまた、一般的に、子育てはお母さんが主役になることが多いので、同世代の友達と関わることも増えるが、お父さんは集団でのわが子の姿を見る機会がほとんどない。なので、年相応の発達状態を把握しにくく、「男の子なんてこんなもんじゃない?」とか「俺も子どもの頃そうだったよ」などと問題を見逃しがちな面がある。でも、これって悪い面もある反面、意外と良い面もあると思うのだ。わが家の場合は、私が他の子と比べてばかりいて、「普通」であることに縛られ、ふさぎ込んでしまっていた時期があった。だが、夫は、他の子と比べることは一切しなかった。「他の子と同じである必要はまったくない」、「比べることには何の意味もない。もし比べるなら、『他の子と』じゃなく『過去の息子と』」「『普通』の定義って何?」と、落ち込んでいる私を容赦なく詰めて(励まして?)くれたものだ。そんな夫に、「あなたは他の子のことを全然知らないからそんなに呑気なの!」と噛みついたこともあった。だが、文句を言いつつも、わが子のことだけをしっかり考えるという夫のブレない姿勢は、どこかで、とても心強い支えになっていたのだ。また、夫と私では子どもについての見方も全然違ったので、多面的に話し合えることもありがたいことだった。お父さんというポジションは、お母さんより、子育てを冷静かつ客観的に見られる位置にいると思う。お父さんには、ぜひそういう強みも活かしてほしいのだ。■「わがまま」と障害の線引きは?最後に、番組を見ていて、もう一つ気になったことがある。「わがまま」と障害の線引きは? ということだ。番組に出演した古山家のお父さんも、「どこまでが発達障害の特性なのか個性なのか切り分けが難しい」と葛藤していたし、スタジオの出演者たちもそのことについては判断つかないようだった。このことは、私も、よく健常児のママから聞かれるのだが、私も答えがわからずに困っている。専門家の井上雅彦さんも、「(線引きは)厳密には難しい」と言っていたので、かなり悩ましいテーマなのだろう。ただ、重要なのは、障害との線引きにこだわることではなく、「どう工夫すれば(生きにくさを感じている)子どもたちの努力が報われるか?周りがどう対応するか?ということの方に目を向けるべき」(井上雅彦さんコメント)とのこと。そう、私たちの目的は、子どもをカテゴリ分けしたり、レッテルを張ることではない。困っている子どもたちが、いかに生きやすくなるかを考えぬくことなのだ。まちとこ出版社N【発達障害についての記事一覧】▼大変だけど、不幸じゃない。発達障害の豊かな世界(全4回)▼「うちの子、発達障害かも!?」と思ったら(全9回)
2017年08月01日夏休み、子どもにたくさん思い出をつくってあげたい!出典 : もう季節は夏。子ども達にとって楽しみな夏休みも目前ですね!夏休みは子どもにとってかなり長い休暇です。また、保護者にとってもいつもより長い時間子どもと過ごすことになります。特に発達障害のあるお子さんの場合は、生活リズムが崩れやすかったり、夏休みの宿題がうまく進められず困ってしまったり、お出かけしても人が多くて疲れてしまったり…楽しい夏休みでも心配ごとが尽きない、という保護者の方も少なくないと思います。だけどせっかくの長期休み、親子で外に出かけて、一緒に楽しい思い出を作りたい…そこで!今回の記事では、障害があるお子さんや発達が気になるお子さんへの配慮やサポートのある夏の子ども向けイベント・2017年版を一挙にご紹介します!この夏のお出かけ先選びの参考にしていただければ嬉しいです。夏休み子ども向けイベント一挙ご紹介!出典 : 年の夏に開催が決定している子ども向けイベント情報をご紹介します。レジャーやアート、学習プログラムなどさまざまなイベントがあるので、子どもの興味に合わせて選んでみると楽しいですね!Upload By 発達ナビニュース日本有数の動物園である上野動物園で、障害のある子ども達とその家族に楽しいひとときを過ごしてもらうためのイベントが行われます。事前申込不要で、園内を自由に見て回ることができるだけでなく、小動物とのふれあいや東京動物園ボランティアーズによるガイド、「さわれる標本はくぶつかん」などの展示コーナーなど、さまざまな催しが企画されています。視覚障害者向けのプログラムや聴覚障害者向けの手話対応なども用意されているので、さまざまな子どもが思い思いにゆったりと動物園を楽しむことができます。【内容】動物園園内見学、動物とのふれあい体験など【対象】以下手帳などを持っている子どもとその家族及び介助者・身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・小児慢性疾患受給者証【開催場所】上野動物園(〒110-8711東京都台東区上野公園9-83)※当日、入園場所が東園表門と西園弁天門となっているのでご注意ください。【日時】2017年8月28日9:30~15:00(入園受付12:00まで)【費用】無料【予約】不要【問合せ】上野動物園教育普及係TEL:03-3828-5171上野動物園公式ホームページUpload By 発達ナビニュース上野動物園ドリーム・デイ・アット・ザ・ズー概要Upload By 発達ナビニュース子どもの時から美術・芸術にたくさん触れてほしい、でも美術館で静かに鑑賞することは自分の子どもにとっては難しいかも…そう思っている親御さんはいませんか?東京都美術館では、「キッズデー」という子どものためのイベントを夏に開催します。普段は休室日である月曜日を、子どもたちのために特別に開室し、周りを気にすることなくゆったりと過ごすことができる企画です。また、美術作品のスケッチを楽しめる「とびらボードでGO!」や、「とびラー」と呼ばれる美術館を楽しむ達人が作品展示を案内してくれる「とびとびスペシャル ボストン美術館」(申し込み締め切り:7月17日23:59まで)など、特別プログラムも用意されています。【内容】美術鑑賞【対象】中学3年生以下の子どもとその保護者※ただし、小学3年生以下の方は保護者同伴での入室をお願いします。【開催場所】東京都美術館 企画展示室【日時】2017年7月31日(月)9:30~16:00(入室は15:30まで)【費用】中学生以下は無料、保護者はボストン美術館の至宝展の観覧券(招待券・前売券も可、半券不可)が必要です。【予約】申し込みは不要です。 ただし、「とびとびスペシャル ボストン美術館」など、一部のプログラムは事前申し込みが必要です。詳細は以下のWebページをご覧ください。【問合せ】東京都美術館 アート・コミュニケーション係 キッズデー担当TEL:03-3823-6921(平日9:30~17:30)E-mail:acinfo@tobikan.jp東京都美術館キッズデーUpload By 発達ナビニュース東京都美術館では、特別展ごとに「障害のある方のための特別鑑賞会」(事前申込制)を実施しています。普段は混雑している特別展を障害のある方がゆっくり鑑賞できるよう、休室日に開催する鑑賞会です。今年の夏は、「ボストン美術館の至宝展-東西の名品、珠玉のコレクション」で特別鑑賞会が行われます。こちらでも「とびラー」による受付や移動のお手伝いや、展覧会を担当した学芸員による手話通訳付き展覧会ワンポイント・トークなど、障害のある方へのサポート体制が整っているため、安心して作品鑑賞を楽しめます。【内容】美術鑑賞【対象】身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳などをお持ちの方各回350名とその介助者【開催場所】東京都美術館 企画展示室【日時】2017年8月28日(月)10:00~16:00(受付終了時刻は15:00)【費用】無料【予約】ホームページに掲載されている「ご希望の受付時間の申込フォーム」ボタンより申込フォームへ進み、必要事項を入力のうえ、お申し込みを完了させてください。(申し込み締切7月24日)【問合せ】東京都美術館 アート・コミュニケーション係 アクセスプログラム担当TEL:03-3823-6921E-mail:access@tobikan.jp東京都美術館障害のある方のための特別鑑賞会Upload By 発達ナビニュース音楽文化療育士による、ちいさな子どもからパパ・ママまで楽しめる音楽コンサートが開催されます。音楽に合わせて楽しく踊ったり、絵本『だるまさんが』のマネっこ遊びをしたりして楽しめます!また、発達障害の子ども向けに絵本のお買いもの体験ができる、「そらマーケット」も同時開催されます。当日は授乳室やベビーカー置きも準備されているので、赤ちゃんがいるパパ・ママも安心して参加することができますね!【内容】音楽コンサート【対象】新生児~小学生(特に3~8歳程度)の子どもとその保護者中高生や、大人のみの参加なども可能【開催場所】東京都目黒区上目黒2-1-3中目黒GTプラザホール【日時】2017年7月22日(土)10:15~11:30(10:00受付開始)※要事前予約【費用】大人1000円小学生以下無料(当日現地支払い)【予約】以下で掲載している予約用URLから予約してください。【問合せ】スタジオそら(アース・キッズ株式会社)TEL:03-3403-4389スタジオそらリズムであそぼう!そらコンサート予約Upload By 発達ナビニュースゲームコーナーやちびっこ広場、手作りおもちゃコーナーなど、子どもが楽しめる催し物が盛りだくさん!食べ物・飲み物の販売や、マッサージ、囲碁コーナー、ビンゴ大会もあるので、家族全員で楽しめます。【内容】夏祭り【開催場所】京都市左京区高野玉岡町5番地【日時】2017年8月6日(日)11:00~16:00【費用】入場無料【予約】不要【問合せ】京都市障害者スポーツセンターTEL:075-702-3370京都市障害者スポーツセンター京都市障害者スポーツセンター夏祭りUpload By 発達ナビニュース障害がある人もない人も共に参加できるアートプログラムを提供しようと、クリエイティブ・アート実行委員会主催のさまざまな企画が夏、開催されます。サマー・アート・スクールでは、ダンスや演劇、音楽、絵画、造形などあらゆるアートが体験できるプログラムが5回開かれます。「演劇ワークショップ―音で遊ぶ、身体で遊ぶ、物語で遊ぶー 」(8月5日~8月6日10:00~16:00開催※子どもが参加できるのは午後の部14:00~16:00)、「動物を描く絵画ワークショップ」(7月29日~7月30日13:00~16:00開催)「視覚を超える造形ワークショップ」(8月19日~8月20日13:00~16:00開催)は子ども(対象年齢9歳以上)も参加できます。絵画と造形のワークショップに関しては、参加者の作品を飾る展覧コーナーも設けられています。【内容】アート活動プログラム【対象】子どもが参加する場合、9歳以上【開催場所】プログラムごとに異なりますので、以降に掲載したホームページをご参照ください。【日時】2017年7月22日~9月3日(※プログラムの開催日はイベントにより異なります。展覧コーナーは8月31日~9月3日)【費用】プログラムへの参加費用はそれぞれ異なりますので、ホームページをご覧ください。展覧コーナーでの鑑賞は無料です。【予約】メールあるいはファックスにて、ホームページに掲載されているフォーマットに沿って申し込んでください。【問合せ】クリエイティブ・アート実行委員会事務局ミューズ・カンパニーTEL:03-6426 -5182Fax:03-6426-5183ミューズ・カンパニー夏休みの宿題といえば読書感想文。本を読むのが苦手、文章を書くのが苦手など、読書感想文に毎年悩まされている方はいませんか?そんな親子にぴったりの、読書感想文講座が開催されます。物語・科学・社会の3種類の本から子どもの興味に合わせて選ぶことができ、「読書感想文のためのワークブック」を使って読書感想文にチャレンジします。【内容】読書感想文講座【対象】一般、賛助会員、正会員、及びそれぞれのきょうだいの受講も可能です。※親子での参加となります。【開催場所】名古屋市北区清水4-17-1北区総合庁舎内名古屋市総合社会福祉会館大会議室東【日時】2017年7月27日(木)10:30~14:30※要事前予約【費用】一般 3,000円賛助会員: 2,000円正会員: 1,000円(会員制度の詳細についてはアスぺ・エルデの会にお問い合わせください。)【予約】以下掲載の申込サイトから予約してください。【問合せ】NPO法人アスペ・エルデの会夏休み読書感想文セミナーお申し込み三河湾に浮かぶ愛知県日間賀島を会場にしてアスペ・エルデの会が毎年恒例で実施している、発達障害の子どもや青年、そのきょうだいを対象とした4泊5日の支援体験合宿です。中京大学の辻井正次教授をはじめ発達障害支援の専門家によるスキルトレーニングのほか、島の民宿に泊まり、おいしい海の幸や海水浴、キャンプファイヤーなど夏の思い出づくりもできます。たくさん遊びながら安心して過ごせるよう、子ども1人に支援スタッフが1人つき、特性や困りごとに合わせたセミオーダーのプログラムになっています。【内容】支援体験合宿【対象】発達障害のある子どもとそのきょうだい【開催場所】日間賀島(愛知県南知多町)内の民宿【日時】第1クール;2017年 8月16~20日、 第2クール;2017年 8月21~25日 (第1〜2クールを通した参加も可能)【日時】2017年7月27日(木)10:30~14:30※要事前予約。(参加には事前面接が必要です。2017年7月30日(日)10:00~14:30頃※会場:安城市民会館視聴覚室)【費用】一般 75,600円賛助会員: 64,800円正会員: 60,000円※スポーツ安全保険料別途(会員制度の詳細についてはアスぺ・エルデの会にお問い合わせください。)【予約】以下メールにて件名を『日間賀島合宿参加希望』として予約してください。(申し込み締切7月24日)メールアドレス:info@as-japan.jp【問合せ】NPO法人アスペ・エルデの会法人アスペ・エルデの会「話す」「聞く」「会話」をテーマに、ワークショップ形式のセミナーが開催されます。昨年度も開催されたSSTワークショップ、今年は対象を高校生まで広げた開催となります。人と何とはなしに会話するのが苦手、雑談・会話スキルの向上に興味がある、という人はぜひ参加してみてはいかがでしょうか。【内容】成人向けセミナー【対象】高校生~成人【開催場所】青葉台地域ケアプラザ多目的ホール(横浜市青葉区青葉台2丁目8-22)【日時】2017年8月26日14:00~15:30(開場13:30~)【費用】500円(資料代)【予約】ホームページまたはチラシ内のQRコードから予約してください。【問合せ】高校生〜大人向け SSTワークショップ「雑談セミナー」事務局メールアドレス:althaea117@gmail.com高校生〜大人向け SSTワークショップ「雑談セミナー」成人のためのSSTワークショップ雑談セミナーチラシUpload By 発達ナビニュース発達ナビを運営する株式会社LITALICOでは、「LITALICOワンダー」というIT×ものづくり教室を運営しています。プログラミングやロボット、デジタルファブリケーションといった、テクノロジーを活用したものづくりの機会を提供しているLITALICOワンダーで、「この夏、クリエイターデビュー!」をテーマに特別講習が行われます。最近プログラミングや科学教室が盛り上がりを見せていますが、LITALICOワンダーの特別講習は「本格ゲームサウンドをつくってみよう!」「3Dプリンタでビー玉迷路をつくろう!」というように本格的な創造活動に取り組める内容になっています。夏休みの自由研究のヒントになるだけでなく、子どもの「好き・得意」を探し、没頭できることへの発掘になるのではないでしょうか。【内容】サマーラボ(全19種類のIT×ものづくりワークショップ)【対象】年長、小学生、中学生、高校生(開催ワークショップごとに対象年齢・学年が異なりますので、詳しくは以下掲載のホームページをご覧ください)【開催場所】LITALICOワンダー渋谷、池袋、秋葉原、川崎、横浜(ワークショップによっては開催していない場所もあります)【日時】2017年7月17日から8月31日のうち希望する1日(多くのワークショップは1日あたり90分×2クラス受講ですが、90分1クラス、90分×3クラスのワークショップもあります)【費用】5,400円~15,120円(税込)(ワークショップごとに異なります)【予約】以下ホームページ中の「お申し込みはこちらから」からお申込みください。【問合せ】LITALICOワンダー渋谷、池袋、秋葉原、川崎、横浜ホームページ下部、開催会場より各教室にお問い合わせください。Upload By 発達ナビニュースワンダーSUMMER LABUpload By 発達ナビニュース障害への理解を深めるという趣旨のもと、滋賀県立障害者福祉センターにて夏まつりが行われます。和太鼓やオーケストラの演奏や大道芸のパフォーマンスから、縁日やフリーマーケット、フィナーレのエコ風船飛ばしなど、見て楽しい・参加して楽しい催しが盛りだくさんの夏まつりになっています!【内容】夏まつり【開催場所】滋賀県立障害者福祉センター(草津市笠山八丁目5番130号)【日時】2017年7月23日10:00~14:30【費用】入場無料【予約】不要【問合せ】滋賀県立障害者福祉センター夏まつり実行委員会事務局077-564-7327滋賀県立障害者福祉センター第27回夏まつり滋賀県立障害者福祉センター第27回夏まつり夏休みのイベントに参加する時に心がけたいことって?出典 : ご紹介したように、夏休みにはさまざまな団体や機関が楽しいイベントを開催しています。そんなイベントに、子どもが楽しく元気に参加できるためにはどのようなことを心がければよいのでしょうか。・事前にイベントに関して下調べをする特に発達障害のある子どもと一緒にイベントに参加する場合、イベントそのものだけでなく、開催場所へのアクセスやアクセス手段に関しても事前に調べておくことが大切です。事前に調べたり、問い合わせたりしておくことで、子どもの特性上考えられる困りごとがある程度予測でき、そしてその困りごとに対する対処法も考えることができます。また、発達障害のある子どもの中には、予定外のことが起こるとパニックを起こす子どもも少なくありません。下調べによってわかったことや計画立てたことを、事前に子どもにわかりやすく伝えておくことも良いでしょう。・子どもが拠り所になるようなグッズなどをもっていくイベントでは、普段子どもが過ごしている家や学校などとは雰囲気も参加している人も大幅に異なります。そのような空間で過ごしていると、子どもが疲れてきてしまったり、ストレスを感じてしまったり、パニックや混乱の元となったりすることがあります。そんな時のために、子どもがいつも使っているおもちゃや、身につけているものを持っていくことをおすすめします。もしパニックや混乱、癇癪(かんしゃく)などを起こしたとしても、いつも使っている物に触れるだけで落ち着きを取り戻すこともあります。また、公共交通機関でイベント会場へ向かうなど、他の人と行動を共にする場面でも、子どもが落ち着くようなグッズを渡してあげることでスムーズに行動できることがあります。・子どもの特性ゆえの困りごととその改善策を考えておく発達障害のある子どもはその特性からさまざまな困り感を抱くことがありますが、それはイベントなど非日常的な場面でもありえることです。例えばADHDの子どもで、じっと順番待ちをするのが難しかったり、自閉症スペクトラム障害の子どもで、突然の予定変更を受け入れられなかったりするなどの困り感が考えられます。そのような子どもの特性から考えられる困り感をあらかじめ予測するとともに、実際にそうなったらその困り感をどのようにやわらげてあげるかについても考えておくことが大切です。前もって困り感とその改善策を対応させておくことで、親御さんの不安やストレスも軽減することができます。まとめ出典 : 夏休みは子どもと過ごす時間が長い分、たくさんの魅力的なイベントが開催されています。発達障害はじめ、さまざまな障害がある子どもも安心して参加できるようなイベントもどんどん増えています。子どもを連れてイベントに参加する場合、子どもの特性を把握したうえで、イベントにスムーズに参加できるように、あらかじめ準備することが大切です。これからも随時イベント情報を更新していきますので、ぜひ夏休みの過ごし方、夏の思い出作りの参考にしてみてくださいね。
2017年07月26日7月24日(月)、NHK 「あさイチ」 では、子どもの発達障害についての特集が放送される。「あさイチ」からの事前情報によると、「これまで番組に寄せられたメールやファックスの中でも特に多かった、発達障害の子どもを持つ親の悩みに徹底的に向き合う」とのこと。じつは筆者にも、8歳になる娘(定型発達)と4歳の息子(自閉症スペクトラム)がいる。5月の NHKスペシャルの放送 から、ぜひ次回は、発達障害の子どもや子育て中の親にフォーカスした企画を! と思っていたので放送が楽しみだ。■当事者が語る、発達障害の子育てのリアル今回の放送では、3人(うち2人が発達障害)の子育て真っ最中の家庭を訪問し、発達障害の子育ての大変さや、それに対してどう向き合い、対応しているのかを伺っていくのだそう。子どもが診断された時の気持ちや、夫や祖父母、周囲の反応、子どもの将来への不安など、様々な角度から、当事者たちに発達障害の子育てをリアルに語ってもらうそうだ。さらに、番組では、ペアレントメンターなどの親を支援する仕組みなど、当事者の親に役立つ情報も紹介する予定だという。■娘とは桁違いの大変さだった、息子の子育て筆者のケースをお話しよう。定型発達児(娘)と発達障害児(息子)の両者を育ててみて思ったが、その子育ての大変さは、まさに桁違いだった。もちろん娘だって、成長の過程では、当然大変なこともあった。イライラして頭が沸騰しそうになったことだって、多々ある。でも、娘の怒りや泣きのツボはだいたい理解できたし、コミュニケーションもしっかり通じたので、私の理解の範囲内で対処することができた。ところが、息子の場合はまったく違った。指示が通らない。言葉の説明を理解してくれない。急に走り出したと思ったら、今度はテコでも動かないなど、動きが読めない。保育園ではイベント事が大の苦手で、隙あらば逃走。歯磨きやお医者さんの診察では毎回大暴れ…。何より困ったのは、コミュニケーションが通じないこと。変な言い方だが、言語も思考も違う異星人を相手にしているようで、本当にお手上げ状態であった(4歳過ぎた今では、ずいぶんマシになってくれたが)。■3歳で確定。「だから大変って言ったじゃん!」周囲に相談しても、「男の子なんてそんなもの」「上が女の子で楽だったんだよ~」などと言われ、なかなか理解してもらえなかった。だから、3歳で息子が自閉症スペクトラムと診断された時は、もちろんショックではあったが、同時に、「だから大変って言ったじゃん!」と、周囲にちょっと毒づきたいような気持ちも生まれた。今思うと、周囲は私が思い詰めないように、気を使ってくれていただけだろうに…。不健康な考え方に陥っていた当時は、ひねくれたとらえ方しかできなかった。 ■周囲にガードを張っていのは、私の方?息子は1歳半検診から疑いをかけられていたので、宙ぶらりんの期間が長かった分、私にとって診断は、腹をくくる良いきっかけになった。その頃には、この障害についてしっかり勉強して、一生向き合っていこう! という覚悟もできた。また、さまざまな専門書を読んで勉強するうちに、息子の特徴や対処法が少しずつわかるようになり、突飛な行動にも笑えるような余裕も出てきた。周囲にも、息子のことを説明しやすくなった。仲の良い園ママにはすでに話していたが、診断がおりるまでは、息子のことをクラス全体にどう説明したらいいのかわからなかった。保護者会で息子のことを説明した時はちょっと緊張したが、幸い、クラスのママたちからの理解も得られ、温かい言葉もかけてもらった。私の方も、長年抱えた秘密(?)をやっと言えたような気がしてとてもスッキリした。それまでは、保育園のイベントで息子が突飛な行動をするたびに、「他のお母さんにどう思われてるんだろう…」とビクビクしたり。お迎え時、他の子がお母さんと楽しそうにおしゃべりする姿を見るのが辛くて、園から逃げるように帰ったり。そんな日々の連続だった。だが、今にして思うと、周囲に対して変にガードを張っていたのは私の方で、私は、勝手に傷ついていただけだったのかもしれない。■自分の物差しだけに縛られない。意識して視野を広げることこうして振り返ってみると、一番辛かったのは、息子のことを周囲に話せず、ひとりで抱え込んでいた時期だった。そんな状況を変えてくれたのは、オープンにしたことと、やはり人との関わりであった。家族や両祖父母、療育の先生、取材で会った方々、そして、同じ悩みを持つお母さん仲間と繋がれたことはとても大きかった。発達障害の子育ては、子どもに手がかかる分、心も生活も余裕をなくし、周囲が見えにくくなってしまう。自分の偏った考えだけに浸食されて、それがすべてのように感じてしまいがちだ。でも、自分の物差しだけがすべて、なんてことは決してない。物事は、捉えようによって、どうにでも変わるし、世の中には変わった人(?)がいっぱいいて、いろんな考え方がある。発達障害の子育て中は、特に、自分とは違った考えを持つ人に会ったり、新しい考え方を学んだり、自分の視野を広げるという気持ちを、常に意識してもち続けた方が良いと思うのだ。今回の特集に関して、担当ディレクターからは「外からは『見えにくい障害』と言われる発達障害の子育ての苦労や、当事者のリアルな姿や声を伝えることで、少しでも誤解を解いていきたい」という、力強いメッセージをいただいた。また何か新しい発見があるかもしれないと、私も放送を心待ちにしている。・NHK「あさイチ」 シリーズ発達障害 「“ほかの子と違う?”子育ての悩み」 2017年7月24日(月)放送予定 ※内容は変更になる場合があります文:まちとこ出版社N【発達障害についての連載一覧】大変だけど、不幸じゃない。発達障害の豊かな世界(全4回)「うちの子、発達障害かも!?」と思ったら(全9回)
2017年07月21日臨床発達心理士とは?出典 : 臨床発達心理士とは、人の発達・成長・加齢に寄り添い、発達心理学等の専門的な知識を生かして健やかな育ちを支援する専門家です。また、赤ちゃんからお年寄り、子育て中の保護者や障害のある人など、幅広い世代、状況の人たちを支援対象としていて、人の生涯発達に関する臨床に携わる幅広い専門家に開かれた民間資格です。人は年齢を重ねていくなかで、自分自身や家族関係、友人関係、学校生活や就職などさまざまな悩みや問題に直面します。それらの問題は環境や時間の経過、またその時々の支援の在り方によっても変化していきます。したがって、生涯発達の中で出会うさまざまな問題の解決にあたっては、まず問題を正しく理解し、それに基づいて適切な支援を行う専門家が求められます。そこで誕生したのが「臨床発達心理士」の資格です。現在、「~心理士」「~カウンセラー」などの名がついた心理士の関連資格は70以上にものぼると言われています。そのうち「臨床」という名称を持つ資格はいくつかありますが、「発達」という名前が付いているのは臨床発達心理士だけです。つまり、さまざまな心理職のうち発達を専門とする資格ともいえるでしょう。参考:一般社団法人臨床発達心理士認定運営機構[編] 臨床発達心理士わかりやすい資格案内[第3版](金子書房.2017)参考:本郷一夫「臨床発達心理士の専門性と果たすべき役割」臨床発達心理士になるには?出典 : 「臨床発達心理士」資格は、学会連合資格「臨床発達心理士」認定運営機構が認定している民間資格です。臨床発達心理士の資格を取得するには、受験資格を満たしたうえで年に1度、9~12月にかけて行われる資格審査に合格しなければいけません。資格取得までの流れとしては、申請書類の購入、申請手続き、一次審査(書類/筆記/業績等)、二次審査(口述審査)、資格認定といったステップがあります。1. 発達心理学を中心とした心理学諸分野の科学的・理論的な知識2. 人間が実際に発達する場に関する社会的・実践的な知識3. 人間の発達をアセスメントし支援する臨床的な知識・技能これらを習得するための基礎となる学問領域は「発達心理学」または「発達心理学隣接諸科学」です。具体的には発達心理学、その他心理学、教育学、保育学、福祉学、小児科学、医学、看護学、リハビリテーション学、発達障害学、保健体育学、体育心理学、スポーツ健康科学、人間社会学、人間学、児童学、応用人間科学、コミュニケーション学、児童教育学社会学などです。2017年度から資格申請制度が新しくなり、申請タイプが5つにまとめられました。1. 発達心理学隣接諸科学の大学院修士課程在学中または終了後3年未満2. 臨床経験が3年以上あり、かつ発達心理学隣接諸科学の大学院を修了している3. 臨床経験が3年以上あり、かつ発達心理学隣接諸科学の学部を卒業している4. 大学や研究機関で研究職をしている5. 公認心理師を取得している変更点としては以下の2つがあげられます。・国家資格である「公認心理師」資格取得者が申請できること。・「公認心理師」資格が心理学系大学卒業以上を前提としていることから、発達心理学諸科学の大学や、短期大学や専門学校を卒業した人が申請できるタイプを廃したこと。ただし、公認心理師資格は2018年度以降習得可能であるため、経過措置として2019年度までは旧制度での申請も受け付けています。資格申請をするにあたって、自分の受けた教育歴と臨床発達支援に関する実践の経験年数に合わせて、以下に示す申請タイプの中から最も自分にあったタイプを適切に選びましょう。また、資格を取得すると、「日本臨床発達心理士会」に入会するとともに全国に20ある支部のどこかに所属することが義務づけられます。さらに、資格の有効期間は5年で資格更新をすることも義務付けられています。資格更新は、試験ではなく資格取得後に十分な研修を積んだか、高い専門性を保持することに努めたかがポイントに換算され審査されます。出典:資格取得までの流れ|一般社団法人臨床発達心理士認定運営機構出典:資格申請新制度のご案内|一般社団法人臨床発達心理士認定運営機構出典:資格更新ガイドライン|一般社団法人臨床発達心理士認定運営機構参考:一般社団法人臨床発達心理士認定運営機構[編]わかりやすい資格案内(金子書房.2017)p18~41臨床発達心理士スーパーバイザーとは、臨床発達心理士になろうとしている人や臨床発達心理士になった人(スーパーバイジー)に対して、スーパービジョン(指導者から教育を受ける過程)を通して支援し、育成する役割を担う人のことです。申請要件は以下の3つになります。1. 臨床発達心理士の有資格者2. 臨床発達心理士資格取得後、5年以上関連する業務・活動を継続3. 臨床発達心理士資格を1回以上更新している出典:臨床発達心理士スーパーバイザーとは|一般社団法人臨床発達心理士認定運営機構臨床発達心理士はどのような人を支援するの?出典 : 臨床発達心理士は赤ちゃんから高齢者までの年代の人を対象として発達を支援する人の資格です。そのため、支援の対象はとても幅広いです。具体的に以下のようなケースが支援の対象となることが多いです。・新生児、乳幼児と保護者・自閉症スペクトラム、知的障害、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥・多動性障害)などの発達障害・知的障害の診断を受けた人・育児不安、虐待、不登校、引きこもりなどの現代的問題を抱える人・「気になる子」、障害の有無/グレーゾーンかの判断に対して悩みを持つ人・社会適応や成人期・老年期の悩みを持つ人臨床発達心理士の活躍の場と具体的な支援出典 : 「臨床発達心理士」資格のある人が特定の職場にいるわけではありません。赤ちゃんから高齢者を対象として発達を支援する人のための資格であることから、資格を持つ人の活躍する場は多岐にわたります。以下では、支援対象の年代別に具体的な職場やどのような仕事をしているのかを紹介していきます。・新生児医療の場:育児不安の解消、愛着形成への援助など・保育所/幼稚園:保育者、保育カウンセラー、特別支援教育コーディネーターとしての業務など・家庭支援センター:親子広場スタッフ、子育て講座の講師、家庭相談スタッフなど・保育巡回相談:主に行政からの委託で保育所、幼稚園を巡回・乳児院/児童養護施設:カウンセリング、セラピーの実施など・保健所/保健センター:妊娠中に両親学級の講師やグループワークのスタッフ、乳幼児健診および発達が気になる子どものフォローなど・小中学校/高校/大学:教師として特別支援教育コーディネーターの業務など・スクールカウンセラー:校内相談業務、保護者支援、校内研修会講師など・教育委員会:教育相談、就職相談等の相談業務、心理検査の実施など・発達支援センター:障害児童やグレーゾーンの子どものアセスメント、相談、療育など・放課後デイサービス:指導員へのコンサルテーション、保護者支援など・学童保育所:指導員へのコンサルテーション、保護者支援など・学童相談室:大学等での学生相談室でのアセスメント・児童相談所:心理判定、相談、指導業務など・特別支援学校:教育のアセスメント、指導評価の実施、保護者支援、教育機関への巡回相談など・特別支援学級/通級指導教室/言葉の教室:教育のアセスメント、教育支援計画作成、校内特別支援コーディネーター業務など・障害者施設/作業所:セラピー、カウンセリング、家族支援など・高齢者施設:カウンセリング、セラピー、心理検査の実施など・企業:企業内相談業務、心理調査など・病院・クリニック(小児科・精神科・診療内科等):患者・保護者へのカウンセリング、患者へのセラピー、心理検査の実施など上記の職種以外に、臨床発達心理士以外の資格を保持しているひとは、職種の幅にも広がりがあります。臨床発達心理士の中には、他の資格や免許も有しながら職務に就いている場合も多いので、純粋に心理職として働いているケースばかりではありません。例えば、家庭裁判所で調査官として仕事をする人、震災時に現場に赴いて支援をする人、研究者として働く人の中にも、臨床発達心理士の資格を生かして仕事をしている人が多くいます。臨床発達心理士の視点を持って、両者の領域で培われた専門性を活かして活動しているのです。しかし、医師免許を有している場合でない限り、臨床発達心理士は医療行為全般(薬を用いた治療や障害かどうかの確定診断をすること)はできません。また医師にかかる場合は、健康保険が適用されますが、臨床心理士に相談する場合は基本的には健康保険が適用されません。参考:一般社団法人臨床発達心理士認定運営機構[編]わかりやすい資格案内[第3版](金子書房.2017)p89.90臨床発達心理士による発達障害に対するアセスメント出典 : 有効な支援を行うためには、その問題を解決するために情報を集め、それをもとにその人にあった支援の方法を計画していく必要があります。これをアセスメントと言います。ここでは、一つの例として発達障害の支援計画を立てるための代表的なアセスメントについて具体的に説明していきます。◇対象の支援ニーズに関する情報収集聞き取りや観察によって生育歴や育児についての情報や、発達の経過、現在の行動や状況など日常生活に関する情報を集め、支援ニーズを知ることから始まります。これは、保護者や保育者、家族などと共同で行うことが望ましいです。◇対象を取り巻く環境に関する情報収集園や施設に通っている場合は、それらの環境に関する情報を収集する必要があります。また、家庭環境や地域環境についての情報の収集も、支援を考える際に重要になっていきます。これらの情報をもとに問題の暫定的な把握をしたうえで、発達状態の情報を収集します。◇知能検査知能検査ではおもにIQ(知能指数)の値を指標とすることが多いです。従来は、精神年齢と生活年齢をもとにもとめる比例IQを用いることが多かったですが、最近では、同年代の平均との隔たりをもとにもとめる偏差IQが中心になってきています。知能検査を行う目的は認知発達の水準を科学的・客観的に評価することで、その人の得意分野、不得意分野を分析することです。知能検査の結果からわかるその人の得意、不得意分野から療法の方向性を決定するために使われます。代表的な知能検査に以下のようなものがあります。・ウェクスラー式知能検査・田中ビネー知能検査◇発達検査発達検査では日常生活や対人関係などにおける子どもの発達基準を数値で表したDQ(発達指数)を算出します。子どもが成長していくには、発達段階に適したアプローチが必要になります。そのため、発達段階を客観的に知るための手段として発達検査は使われます。ただし、発達指数の値だけで子どもの発達状態を判断をすることはありません。あくまでものさしの一つであり、発達検査から分かる能力のバランスや日常生活の様子などを総合して子どもの発達状態を把握します。代表的な発達検査には以下のようなものがあります。・新版K式発達検査・乳幼児精神発達診断法◇スクリーニング検査発達障害に関するスクリーニング検査は、どの精密検査を行うべきかの判断や潜在的な発達遅れや発達障害の可能性を検査するために行われます。スクリーニング検査は、たくさんある発達障害のうち、その子どもに当てはまる可能性がある障害を絞り込むためのものです。スクリーニング検査には網羅性が重要視されるため、正確性はそれほど高くはありません。仮に検査で陽性が出たとしても精密検査するかどうかの判断基準になるだけで、発達障害であることが確定するわけではないということに注意が必要です。スクリーニング検査は乳児健康診査、1歳6ヶ月健康診査、3歳児健康診査などの場でも活用されています。代表的なスクリーニング検査には以下のようなものがあります。・STRAW・M-チャート・ADHD-RS・LDI-R・PARS◇行動観察臨床発達心理士は言葉をかけた時の子どもの反応や、話し方、質問を正しく理解しているのかなどのさまざまな反応をできるだけ詳細に観察して、子どもの特徴やくせを見つけようとします。日常場面における観察だけでなく、臨床発達心理士が状況設定した場面における観察も行うこともあります。上記の生活情報と発達状態の情報をふまえて、それぞれの特徴にあった支援計画を立てていきます。本人に対する支援や保護者への支援だけでなく、施設との連携体制を確立させたり、担当保育者などへの支援計画を立てたりすることもあります。参考:藤崎 真知代「育児・保育現場での発達とその支援 (シリーズ臨床発達心理学) 」(ミネルヴァ書房.2002)p66-70臨床発達心理士と臨床心理士との違いは?出典 : これまでの説明にあるとおり、「臨床発達心理士」とは、赤ちゃんからお年寄り、子育て中の保護者や障害のある人など、幅広い世代、状況の人たちの発達・成長・加齢に寄り添い、人の健やかな育ちを支援する専門家です。それに対して、「臨床心理士」とは、同じ心理系の民間資格ですが、不登校や二次障害、精神障害などのこころの問題をかかえた人に対する心理療法や、こころの問題を予防するための研究にもとづいて、人のこころにアプローチする専門家です。つまり、得意とする支援対象やケースに違いがあります。しかし、どちらの資格も、医療・教育・保健・福祉分野においては活躍の場が同じこともあり、両方の資格を取得することでより広い視点でより広い職域において活躍することができます。支援を受ける人は、一人ひとりの発達の特徴に寄り添った支援をしてくれる専門家を見つけることが大切になってきます。出典:臨床心理士とは|日本臨床心理士資格認定協会臨床発達心理士と公認心理師出典 : いままでは、心理学系の国家資格はありませんでした。そのため近年、心理学系の国家資格をつくろうとする動きがありました。その結果、公認心理師法という法律が平成27年9月9日に成立して、9月16日に公布されました。公認心理師法は、公認心理師という国家資格を定めるとともに、国民の心の健康を増進させていくことを目的にした法律です。公認心理師法の大部分は公布の日から2年以内に施行されることになっています。厚生労働省によれば、平成29年9月15日までに施行される予定になっています。また、第1回国家試験は、平成30年までに実施する予定と発表されています。公認心理師はさまざまな分野にまたがる領域横断的な汎用性のある資格です。それに対して、臨床発達心理士は、臨床発達心理学・発達臨床支援の専門性を有する資格です。公認心理師の資格取得には以下のいずれかに該当する必要があります。1. 「公認心理師になるために必要な科目」を心理学関係の大学と大学院を出て修了する2. 大学で公認心理師になるために必要な科目を修めて卒業し、文部科学省令・厚生労働省令で定める施設で、規定の期間以上心理関係の仕事に従事するまた、公認心理師の職域としては、保健医療、福祉、教育、司法・法務・警察、産業・労働の5領域があげられています。この資格は、医師免許や法曹資格同様に、国家試験に合格し一度取得してしまえば終身その身分が保障されるという考えも多く、臨床発達心理士をはじめとした心理系の取得と併せて資格を取得する人が多くなることが予想されています。参考:公認心理師について|厚生労働省参考:一般社団法人臨床発達心理士認定運営機構[編]わかりやすい資格案内[第3版](金子書房.2017)p10-15まとめ出典 : 臨床発達心理士とは、人の発達・成長・加齢に寄り添い、発達心理学などの専門的な知識を生かして幅広い年代、状況の人たちの健やかな育ちを支援する専門家です。発達支援を必要としている方の困りごとにあった相談先や、サポートを受けられる場の選択肢のひとつとして、臨床発達心理士があるということを知っていただき、よりよい支援を受けられるきっかけになれば幸いです。また、資格制度の変更があったり、新しく公認心理師という国家資格が認定されたりと、手続きや選択が複雑に感じられますが、だからこそ今後より一層発達領域の専門資格として、臨床発達心理士の技能がとても重要な役割を担います。発達支援の仕事をしたいと考えている方が、その専門性の高さを活かしてご活躍されることを願います。
2017年07月12日「正しい発達障害理解」を追求しつづける当事者たちの戦いUpload By 宇樹義子ここ数年、世間での発達障害についての認知は高まりつづけているように感じる。今年に入るとついにNHKが1年がかりの発達障害特集を開始し、当事者界隈はたいそうざわついた。NHKは「とにかく当事者の声を届けたい」という熱意を前面に出していたので、私も本気になった。特に第1弾のNHKスペシャル生放送時には、ブログで事前の情報記事を用意し、当日はTwitterで実況。後日、感想をやはりブログでまとめた。そもそもテレビが苦手な私が、仕事そっちのけでかじりつくようにテレビを見つめ、仲間といっしょに、放送される内容の正誤やニュアンスについてTwitterで意見する。「えっ? 正しくは『自閉症スペクトラム』だよねえ?」「これは誤解を招くからやめてほしいなあ…」「取り上げられた人たちばかりが当事者なわけではない。もっとこういうケースにもフォーカスを!」タイムライン上をいつ終わるともしれず流れ続ける、「もっと完璧な、正しい発達障害理解を!」という叫び。よく考えたらあたりまえだけど、発達障害者についてであろうがなかろうが、私が100%満足できる番組なんて世の中に存在するわけないんだし、仲間たちにとってもそれはそうだったと思う。私自身も皆も、どこか「どこでやめたらいいのか」「こうする代わりにどうしたらいいのか」をつかめずに困っているようにも思えた。「敵」と戦った日々と、「敵」と手をつなぐまでの日々Upload By 宇樹義子そこからの私は、いま振り返ってもずいぶん必死だったと思う。テレビやネットの発達障害特集の内容に誤りがあれば指摘し、親や当事者の不安につけ込むニセ医学を批判し、成人発達障害当事者の生きづらさを理解してくれない社会にブログで警鐘を鳴らし…そうやって毎日、戦っていた。「自分と同じような思いをする人たちを一人でも減らしたい」。先に述べた思いの通り、これまで発信してきたこと自体は後悔していない。だけど、そうして戦いつづけている間、いつもどこか虚しさのようなものを感じていた。…いまここで告白すると、この記事を書かせてもらっているLITALICO(りたりこ)も大嫌いだった。過去に、LITALICOが運営する就労移行支援「LITALICOワークス」を利用したことがある。結論としては、当時の私が納得できる支援は受けられず、私の心には大きな傷が残った。ここ「LITALICO発達ナビ」でも、サイト立ち上げ当初にライターに立候補したものの断られたことがある。保護者向けのコンテンツが多く、私たち成人発達障害当事者が無視されているような気がして、悔しかった。それで私はますます、LITALICOに負けるものかと、たったひとりでの「戦い」に必死になった。「絶対に発達ナビよりもいいコンテンツを作ってやる。彼らが見捨てた成人当事者の益となるコンテンツを」… そんな気持ちを原動力に猛然と仕事した。だけどそのうち、そんなやりかたも限界だと思った。きっかけは、NHKの発達障害特集だ。Upload By 宇樹義子私が必死にNHKの番組を実況しているとき、当然発達ナビも大きなリソースを注いで実況していた。今や発達ナビは、世間の発達障害者へのイメージを左右するような影響力と、それを実現できる経済的人的資源を持ったメディアに成長していた。発信するコンテンツも、大人の発達障害者をもカバーするようになってきており、質も日々上がってきている。私がずっと望んできた、発達障害者が一般の人たちに広く理解される大きなチャンス。私がこの期に及んで発達ナビに対してそっぽを向き続けるなんて、バカバカしいし不自然じゃないか。もうこんなことはやめよう…ある夜突然、発達ナビの編集長の鈴木さんに連絡をとった。そしていま、こうしてここで書いている。たったひとりで「発達障害者代表」の看板を背負う必要なんてない以上は、「いち成人発達障害当事者としての宇樹義子」のごくごく個人的な物語だ。けれど、私と同じように、自分が「マイノリティ」であることへの意識が大きくなりすぎて、かえって自分を追い詰めたり、苦しめたりしている発達障害当事者は少なくないんじゃないかと思う。だからこそ伝えたい。仮にあなたが発達障害当事者であったとしても、たったひとりで当事者全体を「代表」して戦う必要なんてないんだ、と。社会の発達障害への関心が高まったことはいいことなんだと思う。誰もが生きやすい社会のために当事者として声を上げること、誤った情報に対して批判を加えていくことにも、ある程度の範囲内であれば大きな意味がある。けれど、最近までの私がそうだったように、自分自身がその狂乱に飲み込まれ、もしかすると手をつなぐことができるかもしれなかった人たちを「敵」として、24時間戦闘状態に陥ってしまっては本末転倒だ。Upload By 宇樹義子誰かが何かの属性の看板を背負い、「お前はここが違うから仲間じゃない」「お前にわかってもらえるはずがない」などと声を枯らして叫びつづけることは、皮肉にもコミュニティをバラバラにしていってしまうことがある。なぜって私たちは、何かの属性を持つ者たちである前に、バラバラな違った個人の集まりだから。戦闘的になって違った属性を指摘しつづけていったら、最後には誰も残らなくなってしまう。たまねぎの「皮」を剥き続けたら最後には消えてしまうのと同じだ。言葉づかいの丁寧さの問題じゃない。発信に向かうときの心の態度の問題だ。私はこの点で、長いこと間違ったことをしていた、と思う。言葉は丁寧なものの、私は間違いなく「看板を背負って戦っていた」からだ。私がこよなく尊敬する精神科医・臨床心理士であり、日本におけるPTSD治療の第一人者である白川美也子先生の本がある。この本ではまず、トラウマを抱えた人は「3つのF」と呼ばれる症状を示すようになると説明される。・Fight(戦う)・Flight(逃げる)・Freeze(固まる)Fight(戦う)の項ではこんな説明がされている。私は上のくだりを読んだとき、ああ、これは私と仲間たちにそっくりだと思い、ひとしきり涙が止められなかった。そして、そのあとに出てくるこんなメッセージに、とても楽になった。やがて自分の苦しさをそっちのけにして、同じような被害に遭う人をなくすため、果敢に立ち上がり、戦い始めます。その戦いによって自分の身近にいる人を暴力や虐待から守ることができたとしても、世界にはたくさんの傷ついた女性や子どもたちがいて苦しんでいることに気づきます。戦いには終わりがありません。大切なことは、被害者にも加害者にも、そしてそれを傍観する人にもならない、三角形の3つの角の真ん中にしっかりと立つことなんだよ回復の過程において、あなたが誰かに過去のトラウマ体験を語ることだけが、誰かを救うメッセージになるのではありません。それを生き延びたあなたの身体の動きや声や、あなたの創る詩や奏でる音楽や描く絵が、人に何かを伝えます。あなたが生きているだけで本当に十分なのです。私たち発達障害者は、生きてきた中でたぶん、人よりも少し多くの傷を抱えてきた。だから、つい戦いに身を投じてしまうこともある。もちろん、それは本当に切実な情熱と願いのこもった行動だ。だけど、もしそれがつらいとか、虚しいとか、疲れたとか思う瞬間があるのなら… ときどき、ゴールがあまりに遠く感じられたり、ますますゴールから遠ざかっていくような気がするのなら…私は、あなたは、重たい戦士の鎧を脱いでもいいはずだ。Upload By 宇樹義子そして、どこかに傷を抱え、それをなんとか乗りこなしている「ひとりの人間」として、もっと自由に、軽やかに生きたとき、きっといつか、私やあなたが、そして仲間たちが願った「ゴール」が近づいてくるんだと思う。
2017年07月10日「親の育て方の問題よ!」発達障害の子どもを育てる親を苦しめる一言こんにちは。モンズ―スーです。みなさんは自閉症児の光くんとお母さんの成長をつづったマンガ『光とともに…』を読んだことはありますか?このマンガに、私たち発達障害のある子どもを育てる親にとって、とても印象的なシーンがあります。光くんが自閉症の可能性を指摘されたばかりの頃、親子が慣れない法事に出席したときのエピソードです。普段から光くんのおばあちゃんに子育てを批判されていた母の幸子さん。親戚の前でなんとかお行儀よくしていてほしい、と願いますが、とうとう光くんは大声で泣き出し、親戚に白い目で見られてしまいます。お経の音や見知らぬ大人たちの話声に、感覚過敏のある光くんは耐えられなかったのでしょう。ところが、エスカレートしていく泣き声におばあちゃんは「テレビにお守りさせて、しつけもしないで手抜きばかり考えているからわがままになった」と幸子を責めます。ついに、幸子さんはおばあちゃんに「光くんに自閉症の疑いがある」ということを告げたのですが……Upload By モンズースー発達障害は先天性の脳機能障害。育て方や本人の努力不足が原因じゃないのに…自閉症を含む発達障害の原因ははっきりとはまだわかっていませんが、先天性の生まれ持った障害だと言われています。ですが以前は「自閉症は親の育て方でなる病気」と考えられていた時代があったこともあり、光くんのおばあちゃんのように「育て方のせい、子どもがちゃんとできないのは全部親が悪いからだ」と考えている方も少なくなかったようです。今でも、同じように発達障害児を育てているママ達から「幼稚園でしつけに問題があると言われた」「子どもの泣き方が激しく近所で虐待を疑われた」「義実家で育て方が悪いから自閉症になったと誤解されている」などというようなお話を聞いたことがあります。「発達障害は何のせい?」思い悩むなかで私が見つけたことUpload By モンズースーUpload By モンズースーUpload By モンズースーUpload By モンズースーただでさえ「育てにくい子」と表現されることの多い発達障害児育児、中には病院の医師に「この子を育てるのは定型発達の子ども3人を育てることと同じくらい大変」と言われたお母さんもいました。そんな大変な育児を頑張っているなかで、「この子が他の子と違うのは親の育て方のせい」などと責められ、光くんのお母さんのように辛い思いをしている方は少なくないのではないでしょうか?しかし、よくよく考えてみると、育て方で子どもが変わっていくというのは、発達障害のある子ない子も同じことだと思います。発達障害のある子は、生まれ持った特性の凸凹の大きさから、その子に合った関わり方や育て方を見つけていくのに時間がかかるため、定型発達の子ども達と比べてしまうとゆっくりではありますが、それぞれに成長していきます。周囲の方は「育て方のせい、親が悪い」などと責めるのではなく、その子なりの成長過程を見守ってくれたら嬉しいと私は思います。※このコラムは『光とともに・・・~自閉症児を抱えて~』の場面の中から発達障害の事例を取り上げてご紹介しています。秋田書店『フォアミセス』誌でも掲載しています。よかったらお手にとってご覧くださいね!フォアミセス|秋田書店Upload By モンズースー新装版 光とともに・・・~自閉症児を抱えて~Upload By モンズースー新装版 光とともに・・・~自閉症児を抱えて~
2017年06月02日こんにちは、ママライターの馬場じむこです。発達障害と診断された子どもがいる場合、小児精神医や臨床心理士といった心理の専門家に相談していくことも多いでしょう。しかし、専門家だけではなく、発達障害児の親という、同じような立場の方の話を聞いて参考にしたい場合、『ペアレントメンター』と呼ばれる存在に相談するという方法があります。今回は、東京都足立区から委託されてペアレントメンターの相談事業をしている、『一般社団法人ねっとワーキング』理事の町田彰秀さんにお話を伺いました。●“ペアレントメンター”とは同じような立場の経験者『ペアレントメンターとは、発達障害の子どもの養育に、迷いや不安を感じながら携わってきた経験者です。これまでの経験を活かして発達障害の子どもを持つ親の相談にのっています。カウンセラーとの違いは、専門家としての助言やアドバイスはしない、当事者の親の立ち位置で地域的に寄り添っていける ところです。また、足立区の事業のペアレントメンターは日本ペアレントメンター研究会の養成講座を受講している人という前提があります』(町田さん)子どもと接する上で親としての不安や迷いに沿ってほしいとき、また専門家や公的機関の相談先がわからない、相談してもしっくりいかないときにどうすればよいかという場合も意見をいただけるようです。私は子育てで悩んだとき、一番頼りになったのは自分の子どもよりも年齢が高いお子さんをもつ人からのアドバイスです。少し先を進んでいるので、道の案内人のように、学校の先生とはどう話していったらよいか、どのような専門機関に相談したらよいかと意見をもらい、とても頼りになりました。●ペアレントメンターに相談するにはどこに行けばいい?『自治体の事業でやっているところが増えていますので、まずは、お住まい近くの発達障害者支援センターに問い合わせてみる のがよいでしょう。もし、お住いの自治体に制度がなければ、足立区の例を出して、区議などに働きかけてこういった制度を作ってもらうのもおすすめです』(町田さん)厚生労働省で、発達障害支援の重要な政策と位置づけられて以来、全国の自治体で養成講座なども開かれ、ネットで“ペアレントメンター”と検索してみると、全国的にさまざまな場所で展開されている様子が見られます。ペアレントメンターに相談したいかたは、ぜひネットで検索、もしくは発達障害者支援センターなどに問い合わせをして調べてみてください。----------親だからこそ自分のこと以上に、子どものことに対して迷い、受け入れることに時間がかかる気持ちもあるでしょう。そんなとき、同じ立場だからこそ、よく理解し、気持ちに沿ってくれる人がいると孤独な子育てにならずにすみますよね。【取材協力/町田彰秀氏】障害特性のある子どもを持つ家族や養育者が地域でネットワークを築き、同じく障害特性のある子どもを持つ家族や養育者の相談などを行っている、一般社団法人ねっとワーキング理事。・一般社団法人ねっとワーキング●ライター/馬場じむこ(書評ブロガー)●モデル/藤本順子(風悟くん)
2017年05月31日神経発達症とは?出典 : 神経発達症(neurodevelopmental disorder)は、情動・学習能力・自己コントロール・記憶といった様々な知的活動に影響する、脳機能の障害です。この言葉は、米国精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)に採用されたことで、広く知られるようになりました。『DSM-5』の日本語版では、正式には「神経発達症群/神経発達障害群(neurodevelopmental disorders)」という形で使われています。「神経発達症」と「神経発達障害」が併記されている歴史的経緯については、「DSM-5」の記事をご覧ください。以下、この記事では「神経発達症」で統一します。神経発達症には、いくつかの障害が含まれます。『DSM-5』では、以下のような障害がまとめて神経発達症と呼ばれています。・知的能力障害群(知的障害)・コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群(吃音など)・自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害・注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害・限局性学習症/限局性学習障害(ディスレクシアなど、いわゆる「学習障害」)・運動症群/運動障害群(発達性協調運動障害、チックなど)・他の神経発達症群/他の神経発達障害群どうして、これらの障害がすべて「神経発達症」という一つの障害にまとめられるのでしょうか。それは、これらの障害は別々のものではなく、神経の発達阻害という共通の原因を持つ連続的な障害なのだという考え方に基づいています。「神経発達症」という言葉は、そうした連続的な障害の全体を指すための言葉です。近年、この考え方が広まりつつあります。神経発達症と発達障害は、どう違うの?出典 : これまで、自閉症スペクトラム障害・学習障害・ADHDをはじめとするいくつかの障害の総称として「発達障害」という言葉が使われてきました。発達障害という言葉も、神経発達症と同じように、いくつかの障害を統一的に理解するための言葉です。それでは、神経発達症はこれまでの発達障害と何が違うのでしょうか。結論から言えば、「神経発達症」は「発達障害」よりも広い範囲を指す言葉だと言ってよいでしょう。日本での「発達障害」の定義として、「発達障害者支援法」の中で使われている定義がよく知られています。それによると、発達障害とは「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」です。発達障害者支援法(2004年)|文部科学省「政令で定めるもの」とは、ここでリストアップされたもの以外の「心理的発達の障害並びに行動及び情緒の障害」です。発達障害者支援法施行規則(2007年) |厚生労働省「発達障害」という言葉の範囲は、それほどはっきりと決まっているわけではありません。実際には、リストアップされなかった障害も、必要に応じて「発達障害」に含められてきました。こうした多くの障害を、発生原因に注目してグループ化しなおすために持ち出されたのが「神経発達症」という言葉です。神経発達症の原因は?出典 : 障害と神経発達を関連付ける見方そのものは、『DSM-5』(2013年)で初めて現れたわけではありません。精神医学の中では、一部の障害が中枢神経系の発達阻害に関連しているという仮説が以前から持たれており、研究が進められてきました。近年とりわけ注目されているのは、神経発達症と染色体との関連です。たとえば、“Handbook of Neurodevelopmental and Genetic Disorders in Children”(編集部訳題『児童期の神経発達症・遺伝子疾患ハンドブック』)(初版1999年)では、個々の障害(自閉症やターナー症候群など、約20件)について、それぞれ神経の発達阻害をもたらす遺伝学的性質に関する研究がまとめられています。 Goldstein and Cecil R. Reynolds, eds., Handbook of Neurodevelopmental and Genetic Disorders in Children (New York: Guilford, 1999).こうした研究に関連して、昨年、大阪大学が発表したプレスリリースが話題になりました。この研究では、ある染色体の重複が多動に関連するということを、マウスを用いた実験で示すことに成功しました。もちろんこの研究は、神経発達症全体の原因を完全に明らかにするものではありません。しかし、原因の一部を明らかにする研究を積み重ねることによって、原因全体の解明に一歩ずつ近づいているということは確かです。 Fujitani, S. Zhang, R. Fujiki, Y. Fujihara, and T. Yamashita, ’A chromosome 16p13.11 microduplication causes hyperactivity through dysregulation of miR-484/protocadherin-19 signaling’, Molecular Psychiatry 22 (2017): 364–74.神経発達障害群の染色体重複による発症の機序を解明|RESOU Research at Osaka Universityところで、障害の原因を遺伝学的なものに求める立場は、歴史的にずっと中心的だったわけではありません。過去には、「子どもの発達障害は、親の育て方が悪いせいだ」という立場が主流だった時期もありました。自閉症研究のパイオニアであるレオ・カナーも、はじめは自閉症の原因が母親の育て方にあると考えていました。すなわち、母親が子どもに愛情を十分に注げなかったとき、子どもの情緒的発達に悪影響が出て自閉症になる、という見方でした。この考え方は「冷蔵庫マザー」と言う象徴的な言葉とともに広まりました。 Kanner, ‘Autistic Disturbances of Affective Contact’, Nervous Child 2 (1943): 217–50.「冷蔵庫マザー」論は、およそ1970年代までは一世を風靡していました。このことにより、自閉症の親たちは長く批判され責められてきました。しかし、その後はこの見方は多くの専門家によって否定され、またカナー自身もこの見方を自ら放棄しました。そして、自閉症をはじめとする障害の原因は、親子の情緒的関係にあるのではなく、子どもの神経発達のありかた(さらには、その発達を方向づける遺伝学的性質)にあるのではないかという考えが広まり、現在の研究につながっています。DSM-5でも、おおむねこの考え方が採用されています。実際の診断・臨床の場面における神経発達症出典 : 実際の診断では、「自閉症スペクトラム障害」や「限局性学習障害」といった言葉が使われていて、「神経発達症」よりも細かい診断がなされます。これは、「神経発達症」という言葉でいくつかの障害をまとめるという考え方がまだ新しく、今まで使われてきた言葉が浸透しているためであると思われます。しかし、2013年に『DSM-5』が発表されてから数年が経ち、「神経発達症」という言葉も徐々に広まりつつあります。これから先は、診断の中で「神経発達症」が使われていくかもしれません。古荘純一、磯崎祐介『神経発達症(発達障害)と思春期・青年期――「受容と共感」から「傾聴と共有」へ』明石書店、2014年。もともと、『DSM-5』は精神科医の診断マニュアルとして使われています。また、精神科医が実際に使うことを通して問題点を発見し、改訂することによって、精神医学の発展が目指されています。「神経発達症」のような言葉を使って障害をグループ分けすることには、精神医学を単なる精神科医の「カン」ではない体系的なものにする上で大きな意味があります。いくつかの障害に共通点があることがわかれば、それに対するアプローチを考えるにあたって大きなヒントになります。たとえば、自閉症スペクトラム障害は本人のやる気の問題なのか、それとも親の育て方の問題なのか、はたまた染色体の状態に関係しているのか――これがわかれば、障害のある子どもに対して周囲が何をできるのか、あるいは何をできないのかを知ることができます。神経発達症は治るの?出典 : 神経発達症には、根本的な治療法はありません。近年の研究によって、神経の発達阻害を引き起こす因子がいくつか特定されつつあります。しかし、これは神経発達症の原因の一部がわかるにすぎません。また、研究のレベルでわかったことが臨床の現場に応用されるまでには、さらに多くの研究が必要になります。「治す」ことは難しいですが、症状や困難を軽くすることはできます。その具体例として、ここでは3つの例を挙げます。1.環境調整本人の能力や特性に合わせて、接し方・環境・ルール・課題を変えることができれば、障害のある子どもが感じる困難は軽くなります。これまでも行われてきた「合理的配慮」は、神経発達症のある子どもにももちろん有効でしょう。「神経発達症」には様々な障害が含まれていますので、合理的配慮を考える上では、一人ひとりの特性に合わせるということが一層重要になります。2.療育とトレーニング本人の特性に合わせてトレーニングを行い、子どもが認知や行動についての能力を習得できれば、社会生活において感じる困難が軽減されます。この療育についても、今まで行なわれてきたものが同じく有効でしょう。3.薬物療法神経発達症に関連するいくつかの症状は、投薬によって症状を抑えることができます。重要なことは、投薬によって神経発達症そのものを治療できるわけではなく、症状を緩和することと、症状によって生じる不利益を避けることを狙っているということです。投薬による症状緩和についても、これまでと同じように、主治医の先生によく相談することをおすすめします。ここまで見てわかるように、神経発達症に対する向き合い方は、基本的にこれまでの発達障害と大きく変わりません。変わったのは、精神科医が使う診断マニュアル(DSM-5)で使われる名称にすぎません。神経発達症という名前がつくことそれ自体で、障害のある子どもたちの症状が変わったり、困りごとが軽くなったり重くなったりするわけではありません。このことは、神経発達症について考える上で、非常に重要な点です。おわりに出典 : 「神経発達症」という耳慣れない言葉に戸惑っている方は、少なくないでしょう。たとえば、お子さんに自閉症スペクトラム障害があって、そのお子さんの障害を説明するとき、「自閉症スペクトラム障害」「発達障害」「神経発達症」をどのように使い分ければ良いのでしょうか?重要なことは、障害の名前が変わっても、子どもたちの症状や困りごとまで変わるわけではないということです。とりわけ、発達障害は一人ひとり症状が少しずつ違うということが、これまで知られてきました。神経発達症という言葉が登場しても、そのことは同じです。一人ひとりの特性と能力に合わせたサポートが求められます。精神医学はまさに発展の途上にあり、今後も多くの言葉が新たに広まることが予想されます。その新しい専門用語は、実際のサポートにあまり関係ない場合もあれば、サポートのあり方を大きく変える場合もあるでしょう。簡単ではありませんが、こうした見極めが大切です。
2017年05月30日<目次> ■「枠からハミでる子」は、普通のママには異質なのか!? ■「まともな子ども」を評価する社会 ■「発達障害のない子になって欲しい」という気持ちはないか? ■活躍している人は個性的な人が多い 【木村先生がママたちに伝えたい20のこと】 毎日子育てに悩み、自分の子どもが「普通」になれないことに心を砕いているママがたくさんいます。「素人なのにプロ」を求められてしまうママ業。そこで「どうしたら、ママのプロになれるのか?」を木村 泰子先生にうかがいます。<木村 泰子先生とは>全国で多くの反響をよんだ不登校ゼロをめざした小学校のドキュメンタリー映画『みんなの学校』で初代校長を務める。普通の子と発達障害の子どもを「普通に育てる」ことに悩み続けた3人の子持ちであるライター楢戸ひかるが、木村先生と子育てについて話をします。木村先生が教えてくれる「ママたちに伝えたい20のこと」とは?■「枠からハミでる子」は、普通のママには異質なのか!?「枠からハミ出てしまう子(発達障害)」と「普通の子」を一緒の教室で学ぶことは、はたして本当に良いことなのでしょうか。大人が出す「あの子がいると迷惑」という空気を吸ってしまっている子は、めちゃくちゃ不幸だと木村先生は話します。木村:「枠からハミでた子」と「普通の子」が一緒に育つ良さについて理解するために、『みんなの学校』という映画が存在していると思うの。静かな環境で勉強してつく力と、いつも誰かが動きまわる環境の中、勉強してつく力。どちらの方が、より高い力がつくかを、ママさんたちに問いかけてみたらどう答えると思いますか?楢戸:おそらくいつも誰かが動き回っているうるさい環境で勉強したほうがより高い力がつくと答えると思います。木村:誰が考えても、そういうふうにわかるわけですよね。それだけではダメなの? 楢戸:そういったことを、多くのママたちにどうやって伝えていけばよいのだろうか? と考えています。わが家の場合で言うと、長男は品行方正な普通の子で、次男が発達障害なんです。■「まともな子ども」を評価する社会木村:そうやって、比較されてしまう子どもが不幸なんよ! あなたの次男は、二次障害(被害)、三次障害(被害)を受けているんじゃないかと心配になります。楢戸:でも、普通の子(定型発達の子)と、枠からハミ出た子(発達障害の子)は、「生き物として違うんじゃないか」と思いたくなるときがあるんです。これは実際に育ててみての実感です。木村:本人たちにしか、「自分がまとも」なんてわからないの。いまの世の中は、長男が評価される社会であるっていうだけの話。楢戸:長男は、「俺は、次男みたいなものをもっていないから、次男とずっと暮らしたい」と言っています。長男は、次男のことを、すごく評価しています。■「発達障害のない子になって欲しい」という気持ちはないか?木村:それは、長男がじゅうぶん育っている証拠じゃない。だから、ちゃんと次男を尊敬できる。そうしたら次男は、家庭の中では、絶対に安心して育つ。楢戸:正直に言えば、「長男も次男も安心して家庭で暮らしていられる」というのは、私のコンディション次第、という条件がついちゃうんです。木村:その心の根底にあるのは、発達障害があると診断されている次男に、母として「この子は、発達障害のない子になって欲しい」という気持ちがあるからじゃないの? ■活躍している人は個性的な人が多い楢戸:じつは、意外と、それはないんです。私がマスコミ業界で仕事をしていて、普通の職場でないというのもおおきく影響しているとは思うのですが。私が取材で出会う相手は、みな個性的な人が多いです。だから「あなたの話を聞かせてほしい」と思えるような人は、もしかしたらある意味、発達障害傾向があるんじゃないかと思っています。木村:私も、発達障害あると思いますよ。多動だし。めっちゃ、学習障害だし。みなさん、どう思っているかわからないけれどね。楢戸:ピンで活躍されている人は、普通とはどこかが異なっていると、取材を重ねた実感として言えます。だから、私自身は「発達障害」に対して、あまり悪いイメージはないんです。木村:発達障害という名前を、「素晴らしい能力を持った方々」にするっていうのは、どうでしょうね?次回は、「「この子は良い子」「この子は悪い子」と枠に入れたママの未来は?」 です【木村先生がママたちに伝えたい20のこと】15. 子ども本人たちにしか、「自分がまともかどうか」なんてわからない。いまの世の中が普通の子が評価されるというだけ。16. 静かな環境で勉強してつく力と、いつも誰かが動きまわって勉強してつく力。どちらの方が、より高い力がつくう?17. 発達障害という名前を、「素晴らしい能力を持った方々」にしませんか?≫「木村先生がママたちに伝えたい20のこと」については こちら ■今回取材にご協力いただいた木村 泰子先生の著書『 不登校ゼロ、モンスターペアレンツゼロの小学校が育てる 21世紀を生きる力 』木村 泰子,出口 汪/ 水王舎 ¥1,400(税別)木村 泰子先生プロフィール大阪市出身。大阪市立大空小学校初代校長として、「みんながつくるみんなの学校」を合い言葉に、すべての子どもを多方面から見つめながら、全教職員のチーム力で「すべての子どもの学習権を保障する学校をつくる」ことに情熱を注ぐ。その取り組みを描いたドキュメンタリー映画『みんなの学校』が話題に。2015年に退職後、現在は、全国各地で講演活動を行っている。
2017年05月26日先週末(2017年5月21日)、NHKスペシャルで発達障害の特集が放送された。( NHKスペシャル「発達障害 ~解明される未知の世界~」 )番組内では、最新の脳科学研究や当事者への聞き取りにより、発達障害の人にはどんな風に世界が見えているのかを映像化したり、発達障害の人がどんな悩みを抱えているか、ひとつひとつの事例を丁寧に紹介。発達障害でない人にとっても、とてもわかりやすい形で解説していた。筆者は発達障害の子を持つ親として放送を楽しみにしていたが、期待を裏切ることのない、とても良い内容だったと思う。当事者の親として私なりの感想をまとめてみた。■やっぱり映像の力はすごい!まず、「おぉ!」と思ったのは、発達障害当事者の視点を再現した映像力だ。発達障害は外見からはわかりにくい障害だ。それゆえ、よく「我慢が足りない」「わがまま」などと言われ、なかなか理解してもらえないことも多い。だが、今回の番組の映像化により、一般の人にとっても発達障害の人が見ている世界がどんなものかわかり、ずいぶんと認識が変わったのではないだろうか。■もしかして、あれが息子の見ている世界なの…?私自身も、大きな発見があった。自閉症スペクトラムでADHDの傾向もありと言われている筆者の4歳の息子は、集団に向けた一斉指示が入りにくい傾向がある。確かに同世代と比べると、言葉の理解度は低いところもある。だが、決して言葉の意味が分からないというわけでもない。その証拠に、療育などで先生が目の前で1対1で説明すれば、指示に従うことができる。番組では、教室でいろいろなものが気になってしまい黒板に集中できない女の子の例や、カフェの雑踏の中で相手の話がうまく聞き取れない女性の例などが紹介されていたが、あれが息子が見ている世界なのかもしれない……と考えさせられた。今、保育園のクラスで集まる時、息子はたいてい後ろではじっこの方に配置されている(おそらく、もう一人の先生がフォローに入りやすいという配慮でこの場所になったのだと思う)。もちろん先生方がいろいろ考えた上での場所であり、それもありがたいのだが、先生が遠くなると先生の声はますます聞きとりにくくなってしまうし、注意も向けにくくなってしまう。番組を見て、例えば、集まりの時は思い切って席を先生のど真ん前に配置したら、注意力が変わってくる可能性もあるのでは? などと、息子をとりまく環境について、改めて見直すきっかけをもらった気がした。「この子には無理」「この子はやる気がない」ではなく、子どもの状態に合わせて環境を変えてあげれば、解決できることがもっとあるかもしれない。そして、息子ももっと今より楽しい生活が送れるようになるかもしれない。■みんなが楽になれる配慮は、障害にかかわらず真似したいまた、番組にはモデルの栗原類さんをはじめ、発達障害と診断された当事者たちが出演していた。みな、なんらかコミュニケーションに苦手を抱えており、スタジオのセットをより心地よい環境に変えたり、ずっと相手の目を見ないで話してもOKというルールを作ったり、ぬいぐるみを抱っこして気持ちを落ち着かせるという工夫もされていた。これ、発達障害にかかわらず、もっと広げてもいいのでは?だって、程度の差こそあれ、健常の人だってコミュニケーションで苦手なことを抱えていると思うのだ。健常の人だって、思った以上にコミュニケーションで必死に気をつかって戦っていると思うのだ。■どこからが個性で、どこからが障害?自閉症スペクトラムのスペクトラムとは、連続体のことだ。よく、虹に例えられる。虹は微妙に色が変わっていくが、その境界線ははっきりせず、基本的には連続している。 「今(番組で)見てきたような特徴は、どんな人でも多かれ少なかれありますよね。問題は、それがどのくらい程度が大きいのかということと、一番重要なのは、それによって自分やまわりの人にどれくらい生活に支障があるかということだと思うのです。逆に言うと、本人に特徴が強くても、まわりが全面的に受け入れてくれるような生活環境ならばあまり苦痛にならない場合もあるんです。(中略)本人と環境との関係というのが大きいですよね」出典: (NHKスペシャル「発達障害 ~解明される未知の世界~」番組出演者・本田秀夫医師のコメントより) このことは、以前取材した放課後デイを経営されている(株)アイム代表の佐藤典雅さんの「発達障害の子育ても健常児の子育ても、本質的には何ら変わりはない」や「普通って何だろう?」という話に通じるところがあった。 参考:【連載】大変だけど、不幸じゃない。発達障害の豊かな世界 出演者たちも、「発達障害というものでひとくくりにしないでほしいこと。一人一人の特徴は違うということ」を繰り返し伝えていたように思う。発達障害に目を向けるということは、一人一人の特性にきちんと目を向けるということ。それはすべての人へとっての、生きやすい環境作りにつながるのではないだろうか?■「社会の役にたつから認めるっていうのは、ちょっと違う気がする」今回の番組では、自分のことをきちんと話せるような高機能な人たちを中心に、発達障害が紹介されたように思う。後半では、発達障害の人の能力に注目した就労支援の話にまで展開した。もちろん、その取り組み自体はとても素晴らしいことだと思う。だが、今回はあまり紹介されなかったが、発達障害の中にはどんなにがんばっても就労が困難な人たちもいるのに…と、ちょっとモヤッとしたところで、有働由美子アナウンサーのこのひと言。「(発達障害の)能力が注目されると、能力があって社会の役にたつから認めるっていうのがあって、それもまた違うのかな…?と思って」ちょっとめでたしめでたしで終わりそうな流れの中、こういう意見をしっかりはさんでくれる有働さんのコメント、個人的にとてもうれしかった。NHKが1年かけて取り組んでいくという「発達障害プロジェクト」、今後はぜひ、自己表現がまだうまくできない子どもや、知的障害を伴う発達障害、コミュニケーションをとることが難しいような重度の自閉症の世界なども、取り上げてほしいと思っている。そして、司会はぜひ有働由美子アナウンサーとイノッチのコンビに続けてほしいと願っている。文:まちとこ出版社N 【発達障害についての連載一覧】大変だけど、不幸じゃない。発達障害の豊かな世界(全4回)「うちの子、発達障害かも!?」と思ったら(全9回)
2017年05月26日視覚過敏とは出典 : 視覚過敏とは、視覚情報の処理に関するはたらきに偏りがあるために、光の刺激を過剰に受け取ってしまう状態のことを指します。視覚過敏のある人は、そうでない人にとっては気にならないような光に対して一見過剰に見える反応をしてしまったり、本を読むときに文字がゆがんで見え、読みにくさを感じたりします。また、人の顔がモザイク画のように見えたり、暗いところが苦手だったりすることもあります。知的機能に遅れがないのに、視覚過敏によって勉強することができず学習が遅れてしまったり、デパートを歩くだけでさまざまな視覚情報が目に入り疲れてしまったりと日常生活によくない影響を与えてしまうことも珍しくありません。そもそも視覚過敏というのは、感覚過敏の一つだと考えられています。感覚過敏は、自閉症スペクトラムやADHDをはじめとする、発達障害のある人が訴えることの多い症状です。感覚過敏は、感覚に偏りがあり、特定の刺激を過剰に受けとってしまうものです。視覚過敏の他にも、聴覚・嗅覚・触覚・味覚が過敏なこともあります。他にも、感覚が敏感ではなく、むしろ鈍感なケースも見られます。「感覚に偏りがある」といっても、すべての人が似たような偏りがあるわけではなく、一人ひとり感じ方が異なることが特徴です。視覚過敏は、視力のよさや目の異常が原因ではなく、中枢神経の異常であったり、なんらかの発達に支障があるために起こると考えられています。このように視覚過敏をはじめとする、感覚の偏りは本人の努力や慣れでどうにか克服できるものではありません。本人にとって好ましくない刺激をできるだけ遮断することや、周囲の環境を調整していくことが大切です。しかし、周囲の人が感覚過敏の人に見えている世界を理解することは難しいとされています。そのため最近ではVR技術などを用いて感覚過敏の人に見えている世界を体験できるような技術が発展してきています。以下の動画は、視覚過敏・聴覚過敏のある子どもから見るデパートを再現したものです。VRではない、パソコンやスマートフォンの画面でも体験できるものになっています。※ただし、感覚過敏のある子どもと言っても、一人ひとりの感じ方や症状は異なるため、あくまでイメージ動画としてご参考にしてください。動画のなかで、何度も蛍光灯がピカピカ光ったように見えたり、足音が気になったり、お母さんの言葉が聞き取りにくかったりしています。他にも、ピーっという音やお金を落としたときの音など、不快に感じる音も聞こえています。感じ方は症状は一人ひとり異なりますが、感覚過敏の子どもは、動画のように周囲の刺激に過剰に反応するためにパニックを起こしてしまうこともあります。視覚過敏の人にとっての日常生活出典 : 視覚過敏があると、蛍光灯がまるでディスコボールのように感じられたり、太陽の光や夜間の車のライトがまぶしすぎたりします。またそれだけではなく、視覚過敏のある子どもは、目から入ってくる情報の処理能力や一度見たものを覚えておく能力が高いとも言われています。このような能力は、美術の時間に非常にレベルの高い写生ができたり、多くの人には区別することができないような微妙な色の変化にも気づいたりと、プラスの面も少なくはありません。その一方で、視覚過敏があると、目からの情報を大量に処理してしまうことがあります。普段、ほとんどの人は目から入る情報を無意識のうちに必要な情報と不必要な情報に分けて考えています。そうしないと、頭が一度に処理できる情報量を越えてしまい、頭がパンクしてしまうからです。視覚過敏のある人は、環境によっては、まさに頭がパンクしている状態で日常生活を過ごすことになってしまいます。視覚過敏をはじめとする感覚過敏が一般的に知られるようになったのはごく最近です。そのきっかけになったのが、感覚過敏の人が自分自身が生活している世界をことばで表現し、発信するようになったことです。自らが生きている世界を自伝した第一人者であるドナ・ウィリアムズさんのメモに以下のような内容が残っていました。これは、彼女がスーパーマーケットで買い物をしているときの体験を書いたものです。雑誌売場を通ると、私の目には次々と雑誌の見出しが飛び込んできます。私の頭の中には私が理解できないほどのものすごいスピードで様々な文字が洪水のように入ってきてしまうのです。雑誌売場を離れても見出しの文字はまだ頭の中に残っています。そのため、緑色や葉っぱ状のものを見ても、それが野菜だということが理解できず、それを自分が買いたいのかどうかさえもわからなくなってしまいます。また他にも、視覚情報に敏感なため、多くの人が気づかないささいな変化に気がついたり、大きな変化があるとパニックになってしまったりすることがあります。そのため本来は楽しい場所であっても、今まで行ったことのない建物や部屋に入ることを嫌がったりすることがあります。学校生活や日常生活に慣れてくると、だんだん新たな場面に出くわすことが少なくなり、症状が軽くなったように感じられますが、運動会やクリスマスパーティーなどの特別な行事のときに再びパニックになることがあります。視覚過敏のある子どもは、一度見たものを記憶する能力が高いために、突然なにかを思い出すことがあります。いわゆるフラッシュバックと呼ばれているものです。フラッシュバックが起きると勉強をしていたはずなのにいきなり立ち上がっておもちゃを取りに行ったり、悲しいことを思い出して泣いてしまったりすることも珍しくありません。記憶する能力が高いことはすばらしいことですが、記憶にとらわれすぎて、目の前のことに集中できないと困ってしまうので、周囲がやるべきことを整理するなどの工夫が必要になります。参考書籍:熊谷高幸/著者『自閉症と感覚過敏ー特有な世界はなぜ生まれ、同支援すべきか?』(新曜社・2017)子どもが文字を読むのが難しい…視覚過敏が原因かも?出典 : 先の章では、主に生活面で困ることを紹介してきました。視覚過敏の人は生活面だけでなく、学習面でも困ることがあります。視覚過敏が原因となって、黒板の文字や教科書の文字が正しく読むことができなかったり、読むのに時間がかかり過ぎたりするからです。知的障害がないにもかかわらず、文字が読めない症状を総称してディスレクシアと呼ばれています。文字が読めないという症状は視覚過敏以外が原因となることもありますが、ここではディスレクシアを引き起こす可能性のある視覚過敏の症状を紹介します。視覚的な要因でディスレクシアが生じる場合、文章を読んでいるときに、どこを読んでいるのかが分からなくなってしまいます。視力が悪いわけではないのに、このようなことが起こるのは、文字の見え方そのものが異なるからです。一般的に、視覚過敏の子どもはゆがんだ見え方によって次のような困難を抱えています。・読む速度が遅い・効率のいい読み方ができない・文章を読んでいると、疲れて眠くなってしまう・長時間、読み続けることができない・読むことで、頭痛や吐き気が生じるでは、ゆがんだ見え方とはいったいどのような見え方なのでしょうか?視覚過敏のある人は具体的に次のような見え方で文字を読んでいると考えられています。◇洗浄現象文章を読むときに、白い部分が明るく見えすぎて黒い文字の部分を見えなくしてしまいます。たとえば、通常は区別することのできる、アルファベットの"b"と"d"が同じように見えることが起こります。◇光背現象洗浄現象と同じように、文字の周りの白い部分が原因で、読むことを難しくします。光背現象で困っていたアメリカの学校の教師は、すべての文字の周りの白い部分が燃えるような輝きをもって見えていたと話しています。◇リバー現象文章を読んでいるときに、仮に文字がダンスをしているかのように動いていたら読みにくいと思いませんか。リバー現象とは、まさにその状態です。それぞれの単語が波打つかのように動いていて、止まったかのように見えた瞬間にまた動き始めてしまいます。◇オーバーラップ現象オーバーラップ現象は言葉の通り、それぞれの文字や文が互いに重なり見えてしまう現象です。一つの文に着目し、それを読もうとすると単語と単語が重なって動いたり、文同士が交差したりして読むことが難しくなります。◇回転現象文字が上から下に動いたり、逆に下から上に動いたりと、それぞれの文字がばらばらの動きをしているように見えると言われています。場合によっては、すべての文字がまわっているように見えることもあります。◇シェイキー現象文字がゆがんで見える現象です。例えば、文字がらせん状にゆがんだり、3Dのように、浮かんで見えたりします。◇ぼやけ現象水に浸したように文字がにじんで見えたり、目が悪い状態のように文字が二重になったり、ぼやけて見えたりします。◇シーソー現象一つの文がシーソーのように上下に動いて見えます。そのため、行間隔が狭い文章を読むときには、上下の文が重なりあうように見えることもあります。◇トンネル現象文字に目をやるときに一度にわずか数文字しか判別できないような症状です。そのため、単語の途中で改行されている文章を読むことや、学校の教師が黒板の右端に達したら、左にもどって授業を進めていくような場面に遭遇すると困ってしまいます。人によっては本を読むことが、1文字しか書かれていないフラッシュカードをひたすら連続的に読んでいく作業に感じてしまうそうです。英語の動画ですが、30秒を経過したあたりから、ゆがんだ見え方が体験できるので参考にしてください。このような文字の見え方をしていると考えると、例えば学校の授業中に音読をすることになりうまく読めなかったとしても、怠けていたり、やる気がなかったりするせいだとは思わないでしょう。視覚過敏のせいで文字をうまく読むことができない人は、本人が一生懸命読もうとしているにもかかわらず、読むことができないのです。参考書籍:Helen Irlen/著者『アーレンシンドロームー「色を通して読む」光の感受性障害の理解と対応』(金子書房・2013)子どもが視覚過敏かなと思ったら出典 : 子どもの行動で気になる点があるときには、まずは行動をよく観察してみましょう。どのような状況で子どもが行動しているのか観察することで、子どもがどんな刺激に対して敏感なのかや、嫌悪感を抱いているのかを知る手がかりになります。子どもが不可思議な行動をとる背景には、なんらかの理由が隠れていると考えられます。視覚過敏の子どもにとっては、光がチカチカするのも文字が動いて見えるのも生まれながらの症状であるため、それが異常だと気づきにくいです。そのため、周囲の大人が子どもの感覚の特徴を知ることが重要になります。他にも、視覚過敏と似た症状であっても、視覚過敏ではない目の病気が背景に潜んでいることがあります。例えば、光に対して敏感になり、普段では気にならないような光を目があけられないほどまぶしく感じることがあります。このような症状は、緑内障や白内障などの目の病気あるいは、コンタクトの長期間利用やパソコンの見過ぎなどによって生じている場合があります。これらを素人が判断することは難しいため、専門家に相談するようにしましょう。視覚過敏に関する相談先としては、眼科や保健センター、子育て支援センター、児童発達支援事業所などが挙げられます。視覚過敏への対処法出典 : 視覚過敏の症状を根本治療する方法は、現状見つかっていません。しかし、工夫をすることで、子どもにとって生活しやすくなったり、文字を読むことが困難だった子どもがすらすら読めるようになるケースがあります。視覚過敏の子どもが生活していくうえで、子どもが安らぐことのできる空間を作ってあげるとよいでしょう。視覚を刺激するような光がなく、落ち着ける環境で、子どもが音楽を聞くことや、好きなことをできるような空間です。サングラスをかけることで、太陽の光などが気にならなくなることもあります。また、感覚過敏で苦しんでいる人の自伝の中で、片目ずつ別々のものを見ることで目に入ってくる情報を限定したり、逆にさらに強い刺激を自分に与えることでパニックになることを防いだりする方法が紹介されています。このような工夫は人それぞれなので、子どもに合った方法を探していくことが大切です。文字の読みにくさを解消する方法としては、色つきメガネを利用する方法と、文字の大きさなどを調整するなど手軽にできる方法があります。文字が大きくわかりやすい字体(フォント)にしたり、読みたい範囲以外を隠したり、長い文をスラッシュで区切ったりすることで文章を読みやすくできます。蛍光ペンで重要だと思われるところにだけ色を付けることで、読む情報量を調整できます。これにより、文章を読むことへの抵抗を減らせます。また、白黒のコントラストが原因で文章が読みにくい場合、紙の色を白から変えるだけで読みにくさが軽減されることもあります。参考書籍:山口真美/著者『発達障害の素顔ー脳の発達と視覚形成からのアプローチ』(講談社・2016)視覚過敏で文字が読めない人の中には、アーレン法と呼ばれる色つきメガネをかけることで、文字が読めるようになることがあります。56秒から2分05秒を見てみると、色つきメガネの有無で音読する速さに差があることが分かると思います。アーレン法では、一人ひとりにあう色つきメガネの色が異なるため、スクリーニング検査等をしたうえで、どの色がベストなのか調整していきます。アーレンシンドロームを知っていますか?|筑波大学附属学校教育局まとめ出典 : ここまで視覚過敏の人から見た世界や、視覚過敏の対処法を紹介してきました。視覚過敏の子どもを育てていると、音読がうまくできなかったり、楽しませようと思って連れて行った場所でパニックを起こしたりするかもしれません。しかし視覚過敏でいちばん大変な思いをしているのは、間違いなく視覚過敏のある子ども自身です。視覚過敏のある子どもが快適に生活していくためには、周囲が正しい理解をして、子どもが生活しやすい環境を整理したり、適切な配慮をしたりすることが大切になってきます。また、視覚過敏のある子どもは、これからずっと視覚過敏と付き合っていくことになります。日々生活していく中で、両親と子ども自身が協力しながら、その子なりの視覚過敏への対処法を見つけていけるといいのかもしれませんね。
2017年05月19日人口の9割が「定型発達症候群」!?NHKが発達障害プロジェクトをスタート「およそ20年前に、アメリカの研究所が残した報告から、全人口の9割以上がある深刻な症状にあることが判明しました。」Upload By 発達ナビニュースとあるニュース番組で、キャスターが紹介した「衝撃のレポート」以下のチェック項目に一つでも当てはまったら、人間関係に深刻な問題を引き起こしかねない、「定型発達症候群」の可能性があるというのです。・暇な時はなるべく誰かと一緒に過ごしたい・集団の和を乱す人を許せない・社会の慣習にはまず従うべきだ・はっきりと本音を言うことが苦手・必要なら平気でウソをつけるUpload By 発達ナビニュース…実はこれは、NHKが制作した架空のニュース動画なんです。NHKが2017年5月から1年をかけて展開する、「発達障害プロジェクト」のページ上で公開されています。Upload By 発達ナビニュース「発達障害プロジェクト」「定型発達症候群」という言葉にびっくりした人もいるかもしれませんが、これは、医学上の病名でも、公式に定められた障害の名前でもありません。1998年、発達障害のひとつASD(自閉スペクトラム症)と診断された海外の一般女性が、ASDに関するさまざまな報道への皮肉の意味で「創作」した言葉が発端であると言われています(諸説あり)。「定型発達」とは、発達障害と対比して、心身の発達が「定型(平均的)」という意味で、「発達障害ではない人」をさす言葉として用いられます。つまり「定型発達症候群」とは、発達障害の人から、いわゆる「普通の人」を見た視点です。でも、「普通」ってそもそもなんでしょうか?全人口の大半の人が定型的(平均的)に感じているから「フツウ」?それじゃあ、違った感じ方をしている人は「フツウ」ではないの?そんな問題提起の意味も込めて、冒頭の架空のニュース動画はつくられました。NHKの発達障害プロジェクトでは、これまで当たり前に考えられてきた「普通」の概念にとらわれず、発達障害のある人々の感じ方・考え方を様々な角度から紹介していくことで、発達障害のあるなしに関わらず、一人ひとりの多様な感じ方や生き方への理解の促進をめざしていきます。NHKスペシャル、あさイチ、ハートネットTVをはじめ、番組横断で、継続的に発達障害を取り上げていくことが今回のプロジェクトの特徴です。知ってるようで知らない発達障害のこと、みんなの投稿で“トリセツ”をつくろうUpload By 発達ナビニュース生まれつきの脳機能の発達のアンバランスさ・凸凹(でこぼこ)によって、社会生活に困難が発生する発達障害。「なんとなくは知っているけど、結局どういうことかわからない」「漠然としたイメージはあるけど、何に困っているのかわからない」という方も少なくないのではないでしょうか。プロジェクトページでは、「この際、はっきり知っておきませんか?」という呼びかけと共に、発達障害の定義や特徴、困りごとなどが、イラスト付きでわかりやすく紹介されています。コンテンツ監修は、LITALICO発達ナビの監修も務める、鳥取大学大学院の井上雅彦教授です。また、「みんなで作る発達障害の“トリセツ”」と題したコーナーでは、日常生活の様々な場面での困りごとや対応策を、発達障害の当事者やその家族、学校や職場などの周囲の人々の投稿を通して集め、公開していく企画もスタート。「生活・暮らし」「対人関係」「学校・職場」と、大きく3つのカテゴリーの中で、様々なテーマに対するみなさんの投稿を募集しています。サイトオープン時の2017年5月16日現在では、事前に集めた投稿の中から「聴覚過敏」に関するエピソードを18件公開しています。以下のリンクの投稿フォームから、それぞれのテーマに対する体験談を随時投稿することができます。Upload By 発達ナビニュースみんなで作る発達障害の"トリセツ"投稿フォーム5/21(日)21:00から「NHKスペシャル」で生放送特集!Upload By 発達ナビニューススペシャル, 「発達障害 ~解明される未知の世界~ (仮)」ウェブ上のプロジェクトページと連動して、NHKの様々な番組で、継続的・多角的に発達障害について取り上げていくのが、今回のプロジェクトの特徴。テレビ特集の第1弾は、NHKスペシャル「発達障害 ~解明される未知の世界~ (仮)」。初回放送は、2017年5月21日(日) 午後9時00分~9時59分です。これまで、主に社会性やコミュニケーションに問題がある障害として知られてきた発達障害ですが、最新の脳科学研究や当事者への聞き取りにより、生まれつき、独特の「世界の見え方・聞こえ方」をしているケースが多いことがわかってきました。多くの人にとっては何でもない日常空間が、耐えられないほどまぶしく見えたり、小さな物音が大音量に聞こえてパニックになったり…NHKスペシャルでは、こうした発達障害当事者の方々の独特の感覚・認知や、それによって生じる生きづらさを映像を通して再現し、「目に見えにくい」障害の実態を伝えることに挑戦します。番組中では、大阪大学と東京大学が共同研究・開発した「自閉症知覚シミュレータ」も登場。発達ナビでは、当事者やご家族の方をお招きしての体験会兼取材・撮影に協力しました。今回のNHKスペシャルの最大の特徴は、生放送・リアルタイムで視聴者からのコメントを紹介しながら展開していくこと。たとえ同じ診断名でも、一人一人の特性や感じ方は、本当に様々です。十把一絡げに「発達障害」をまとめてしまうのではなく、一人一人の多様な暮らしぶりや思いを紹介していくことこそが、発達障害への理解・関心を広げていく上で大切だという趣旨からの企画だそうです。ご自分の経験について伝えたい思いやご経験、発達障害に対する疑問や悩みがある方は、ぜひ以下のメールフォームからご投稿ください。スペシャル, 発達障害特集メール投稿フォームUpload By 発達ナビニュース 「発達障害プロジェクト」また、NHKスペシャルの生放送終了直後から、「発達障害プロジェクト」ページ上でライブストリーミングが始まり、番組のアフタートークが催されるようです。ここでは、生放送中に紹介し切れなかった視聴者からの投稿を追加で紹介していくとのこと。あなたの投稿も紹介されるかも…!?発達ナビTwitterでNHKスペシャル&アフタートークを実況中継!発達ナビ編集部では、5/21(日)21:00からのNHKスペシャル及びアフタートークを実況中継予定!Twitterをご利用の方は、ハッシュタグ #NHKスペシャル #発達障害 でぜひ感想をご投稿ください。番組前の予習に、発達ナビの関連記事はこちら!プレスルーム: 5月21日(日)放送 NHKスペシャル「発達障害~解明される未知の世界~」の制作にLITALICOが協力しました。
2017年05月17日私って発達障害?気づいたのは42歳の時でした。出典 : 子どもの発達障害の場合、まず親や周りが気づいて、子ども自身は何の検査をされているのかわからないまま、診断を受けることが多いと思います。診断を聞くのも受け入れるのもまず親で、そこからタイミングを図って告知するというのがよく見られる流れではないでしょうか。それに比べて大人の場合は、仕事や日常生活で「なんだか変だな。どうしてうまくいかないのだろう?ひょっとして『私って発達障害?』」と疑ったうえで、自分の意志で検査を受けることが多いと思います。私は娘がアスペルガー症候群と診断されてから2年後、42歳の時にコンビニでのバイト中にパニックを起こしたのがきっかけで、発達診断を受けることになりました。しかし、その結果を受け止め、自身のことを理解するまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。9年の付き合いの主治医の診断は・・・出典 : 当時の主治医は、それまで9年にわたって私を診察してきてくれた精神科の先生でした。でも、その主治医は発達検査の結果を見て「うーん、ヨーコさんが発達障害とは思えないんだけどなぁ」と言うだけでした。このままじゃらちが明かないと思った私は、同じ病院内にいる娘の主治医に事情を話して、検査結果を見てもらいました。ざっと目を通した先生は「ああ、アスペルガー症候群ですね」と言いました。その後、私の特性も説明してくれてとても納得したのですが、それを主治医に伝えても「そうかなぁ?」とまだ納得できない様子。私の主治医の先生は発達障害には詳しくない様子で、長い付き合いの間でも先生の口から「発達障害」という言葉を聞いたことがありませんでした。だから、今まで長い間見てきて私の様子から「発達障害とは思えない」と言ったのではないかと思っています。私はあきらめずに先生やカウンセラーに「こんな困りごとがあってずっと苦しかった」、「娘が診断を受けたときの説明がそのまま私に当てはまる」と訴え続けました。そして「精神障害者手帳を取りたい」と先生にお願いしたのです。その時出してもらった診断書を見ると「広汎性発達障害」という診断名が記載されていました。こうして私は診断書を得るところまでこぎ着けることができました。しかし私は、ちゃんとした診断の上で広汎性発達障害と言われたのか疑問を抱くことになりました。それは診断が出たとはいえ、発達障害に詳しくない先生からの診断であることと、半ば無理やり勝ち取った診断のように感じられたからです。私が「ちゃんとした診断」を求めたわけ出典 : ひとまず診断を受けた私は、仕事を辞め、障害者福祉を受けながら暮らしていく道を選ぶことにしました。そんなときに、相談支援員から気になる話を聞きました。ある病院に発達障害に詳しい医師がいて、その病院で発達検査を受けたら、ものすごく詳細な所見をもらえて、説明の時も自分の特性や向いている職業まで教えてくれるらしいというのです。私はその"完璧"とも言える診断にひどく心惹かれました。「広汎性発達障害」の診断は出ていたものの、改めて発達障害に詳しい医師にきちんと診てほしいと思っていたからです。それは、「あなたはこういう人ですよ」という自分に関する説明書が欲しかったからでもあります。それまでの人生は謎だらけでした。どうしてみんなのように友達と打ち解けて遊ぶことができるのか、どうして他の人は分からないことは適当にしておいたまま勉強していい成績をとれるのか。社会に出てからは、なぜ他の人は会社の方針に溶け込んで洗脳されたようにふるまえるのか、なぜ自分はみんなと同じように仕事ができないのか、なぜミスばかり繰り返してしまうのか…。私はなぜ、他の人と同じようにできないのかと何度何度も悩んだのです。ずっと苦しかった。ずっとさみしかった。その診断があれば、今までの謎が解けてこれからの人生が開けるかもしれないと思ったのです。そして、期待に満ちあふれてその病院に転院することしたのです。「こんなことまで聞かれるの!?」驚きながらも、その専門性に感動!出典 : その病院は今までとは違うところばかりでした。事前に渡される問診票では、ハイハイした月齢や喋りだした月齢など乳幼児期の様子も事細かく聞いてきます。「人の臭いや物の臭い、ものの見え方や感触や音に極端な興味を持つことが、これまでにありましたか?」など、0歳から5歳くらいまでの成育歴の質問が多いので、親に見せて聞きながら回答を書きこみました。病院に問診票を持っていくと、それを見ながら「何か好きな素材や逆にこれは受け付けないというものはありましたか?」「学校では得意・苦手な教科は何でしたか?」「忘れ物は多かったですか?」「臭いや光、味に敏感ですか?」「仲の良い友達はいますか」など次々と追加の質問を受けました。その答えを聞いた先生は納得したように頷き「今ついている診断で間違いないでしょう。それに加えて注意欠陥障害もあるでしょうね」と言われました。この診察に私は感銘を受けました。というのは、質問は自閉症の子どもに特有の症状について的確に尋ねられており、追加の質問でも問診の答えを確かめるように進めてゆくことが分かり、先生の専門性の高さに感心したからです。ただ正式な発達検査を受けることはできませんでした。これは発達検査に使われるWAIS-Ⅲは、一度受けたら次は2年間は空けなければいけない決まりがあるためです。療育手帳取得挑戦の際にすでにWAIS-Ⅲを受けたことがあった私は、この2年間のインターバルが経過していなかったのです。それでもなお、憧れの診断にこだわる私に、ソーシャルワーカーはこう言いました。「とことん気になる、知りたがるというのは、生きづらさにつながるアスペルガーの特性からきてると思う。憧れの診断書が手に入らなかったら次に何が欲しいの?」その問いは、私が医療に何を求めているのかを問うものでした。自分の説明書はやっぱり欲しいけれど、2年待たなければならないのはどうしようもない。その現実をこの問いで突きつけられたのです。このとき初めて前を向いて、いま困っていることを何とかしてもらうことが大事だと思うことができました。その上で私の答えは「今の心のしんどさをやわらげてほしい。発達障害であるという視点から二次障害の精神症状やうつの治療もしっかりしてほしい」でした。こうして、先生の専門性を信じてその病院に通い続けることを決めました。自分の特徴を知ることで、今までの謎が解けてゆくように出典 : 今は二次障害である精神症状やうつの治療を受けつつ、自分の困りごとの原因は何なのか、先生の解説で謎が解けていっている感じです。そして生きづらさの解消のため、それまで飲んでいた薬は大幅に見直され、ADHDの治療薬のストラテラを服用することに。新しい主治医を始め、ソーシャルワーカーなど理解ある人に関わってもらっているおかげで、自分の特性が生活や仕事のどんなところに影響を与えているのが理解することができるようになってきたのです。自身の弱点や、疲れ切ってキレてしまう前の予兆なども分かるようになり、意識して自分をコントロールすることできるようになったと感じています。診断を生かしていくために出典 : 発達障害の診断を受けたら、具体的な自分の特性をじっくりと説明してもらうことをお勧めします。そうすることで、今までの生きづらさの理由が氷解し、自分の特徴をしっかりと理解することができるはずです。その上で、医療や福祉の支援を受けて理解者・支援者を増やし、困っているときは助けてもらうことができれば、自分の直面した困難にくじけてしまうことも防げるはずです。繰り返しになりますが大切なのは、診断を受けっぱなしで終りではなく、自分の特徴を知り、より自分をコントロールできるようになることです。診断を受け、なにが自分の生きづらさを作っているのか。自分で工夫できるところはあるのか。どんなサポートを受けたらいいのか。それを知ることが、生きづらさの解消につながるのではないでしょうか。
2017年04月28日発達障害があると恋愛は難しいと、あきらめていませんか?出典 : 恋愛や結婚は、自分と相手がお互いに思いやりながら関係を築いていく必要があります。そのため楽しさや嬉しさの反面、辛いことや悲しいこともたくさんある、複雑で難しいものです。発達障害がある人は、その特性から対人関係やコミュニケーションに困難を感じることが多くありますが、これは恋愛に関しても多く当てはまります。苦手意識をもっていたり、半ば諦めてしまったりしている人もいるのではないでしょうか。パートナーが発達障害のある人の場合、その特性や個性ゆえに悩んでしまったり不満を抱えてしまったりすることもあるかもしれません。また、発達障害の子どもがいる親は、「自分の子どもに好きな人ができたら、どうなるの?交際、結婚はできるの?」と不安に思ったり、恋に悩む子どもをどう見守ったらよいか迷ったりするかもしれません。こうして見ると、「発達障害があったら恋愛や結婚は難しい?」と思ってしまうかもしれませんが、発達障害がある人で恋愛を楽しんでいたり、幸せな結婚生活を送ったりしている人はたくさんいます。本人やパートナーが少し意識したり、一工夫したりすることで、恋愛や結婚がうまくいくことは十分可能です。発達障害がある人やそのパートナーの、恋愛や結婚でよくある困りごとと解決方法について考えながら、素敵な恋愛ができるコツを一緒に探っていきましょう。発達障害のある人が恋愛で困ることって?出典 : 発達障害のある人は恋愛をするにあたって、具体的にどのようなことに困ったり、難しさを感じたりするのでしょうか。今回は発達障害の中でも、ADHDと自閉症スペクトラム(自閉症・アスペルガー症候群など)を中心に、その特性と恋愛における困りごとをご紹介します。ADHDとは、不注意(集中力がない・忘れっぽい)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(考えずに行動してしまう)の3つの症状がみられる発達障害のことです。この不注意、多動性、衝動性が恋愛においてもうまくいかない原因になっていることがあります。例えば、不注意性ゆえにデートや記念日を忘れて恋人を怒らせてしまう、衝動性ゆえに思いついたら相手に構わず行動したり発言したりしてしまう、というようなことが考えられます。自閉症スペクトラム障害とは、社会的コミュニケーションの困難と限定された反復的な行動や興味、活動が表れる障害のことです。診断基準によっては自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害などの診断名で呼ばれている場合もあります。恋愛をするうえでは、自閉症スペクトラムの症状の一つである、コミュニケーション能力の乏しさが困り感につながることがよくあります。自閉症スペクトラムの人は、相手の気持ちや感情を読み取ったり、目的のない雑談をしたりすることが苦手と感じることが多いと言われています。そのため、恋人の気持ちがわからず無意識に怒らせてしまったり、会話のやりとりがうまくできず、不満を与えてしまったりすることがあります。特定非営利活動法人(NPO法人)東京都自閉症協会恋愛したいと思ったら?発達障害の人が心がけるべきこととは?出典 : では、発達障害のある人が「恋愛をしたい、恋愛関係をうまく続けたい」と思った時、何に気をつければ良いのでしょうか。発達障害がある人が恋愛に関して悩みをもった場合、まずその原因を自分自身で理解することが大切です。自分自身で考えるのはもちろん、わからなかったら誰かに相談しつつ、うまくいかない背景を探ってみましょう。例えば、ADHDの人が「デートを約束した日時や場所を忘れることが多く、恋人に怒られてしまう」と悩んでいるとします。このような場合、ADHDがゆえの自分の特性と、恋愛面の悩みごとを照らし合わせてみましょう。「自分はADHDの不注意性が強く、忘れっぽいところがある。デートの約束をしても時間や場所をすぐ忘れてしまう。だから恋人を待たせ、嫌な気持ちにさせてしまっているんだ」と気づくことができます。困り感の背景にある自分の特性を理解することで「だからうまくいかなかったんだ!」と納得することができます。また、原因が分かれば解決策もおのずと見えてくる場合もあります。自分の中で困り感と特性が結びついたら、それを相手にも伝えてみましょう。自分の特性について相手にも理解してもらうことで、2人で協力して解決していくことができます。先のADHDの人がデートの日時や場所を忘れてしまう、という例の場合、「忘れっぽいのは自分の特性だから、忘れた時に思い出せるように記録を残しておけばよい」と考えることができます。カレンダーに日時や場所を書いておいたり、携帯電話やスマートフォンのリマインダー機能を活用したりして、すぐにデートとその詳細が思い出せるようにするといった工夫をすれば、悩みごとが改善できるかもしれません。また、恋人に「自分には忘れっぽいという特性があって、どうしてもデートの日時や場所を忘れてしまいやすいんだ」と伝えてみることで、「じゃあ当日や直前にもこまめに確認し合おうか」などと、2人で協力して、困り感を補うことが可能です。発達障害、特に自閉症スペクトラム障害の人は、相手の気持ちを読み取ることを難しいと感じている人が多くいます。恋愛をするうえでは、多少なりとも相手の気持ちを感じ取り、行動することが求められます。相手の気持ちになって理解する、ということに苦手意識がある場合、家族や友人など信頼できる人に相談してみましょう。相手の何が分からないのかを話してみると、「相手はこういう気持ちだったからあなたにそんな行動をしたんじゃない?」「あなたのこういうところが嫌だったから怒ったのでは?」などと考えられる相手の気持ちを教えてくれます。最初は相手の気持ちがわからないことが多くても、第三者に相談してみることで相手の気持ちと行動のパターンが見えてきたり、相手の感情を読み取ることを少しずつ習得できたりします。発達障害の子どもが恋愛で困ることは?親はどう接すればいいの?出典 : この記事を見ている人の中には、子どもが発達障害で、将来恋愛や結婚ができるのか不安、という親御さんもいるのではないでしょうか。ここでは、発達障害がある子どもが恋愛で困ること、親にできることをご紹介します。発達障害の有無に関わらず、思春期にさしあたると、異性や恋愛に興味が出てくる子どもがだんだん増えてきます。そのわりに、恋愛におけるマナーやルールは学校で詳しく教えてもらえるものではなく、体験や経験を重ねて自然と学んでいくことを暗に求められています。思春期の子どもは、恋愛がどのように進んでいくのか、相手の気持ちを考えるとはどういうことなのかがまだわかっていないことが考えられます。発達障害がある子どもの場合、周囲とコミュニケーションを苦手とすることが多いので、特にこのような傾向が多いと言えます。そのため、自分が相手のことを「好き」という一方向の気持ちだけで突っ走ってしまうことがあります。例えば、発達障害の子どもがいるご家庭で、子どもの恋愛に関するこんな体験談があったようです。最近告白して相手もOKだったらしく、息子はもうこの世の春だったんですが、何故か彼女が電話をしても全く出ない、LINEをしても既読スルー・・・もう、息子はパニックでずっとイライラしてて、とうとうこの前テレビのリモコンを投げて、それがテレビに当たってしまい壊れてしまいました…恋愛でうまくいかないことが、本人にとってもストレスとなり、家族にあたってしまうなど、家庭でトラブルになってしまうこともあるようです。出典 : 自分の子どもが恋愛で悩んでいる時、親として声をかけてサポートしてあげるべきなのか、それともただそっと見守るだけの方がよいのか迷いますよね。こんな悩みがある親御さんは少なくありません。息子君になにげなく「好きな子いるの?」と聞いたところ、素直に「いるよ」と言われたので、「中学校は忙しいから、そういうことは高校生になってからにしようね」と思わず言ってしまいました。今落ち着いて考えてみると、広汎性で人との付き合いが苦手な部分があるので、付き合ってみるのはどうかと勧めた方が、本人も人付き合いに自信が持てるようになるのかな?なんて思いました。今まで、小学校時代、ずっと問題児で子供だと思っていた息子君が、恋愛について話しているところをみると、やっと中学生になったんだなと実感しました。今後、こういう問題ってどう対処すれば良いのでしょうか?一番大事なことは、子どもが抱いている恋愛感情や恋愛に関する悩みを否定しないということ。そして、子どもの必要に応じて相談に乗ってあげたりアドバイスをしてあげたりするということです。親御さんの中には「うちの子に恋愛なんてできるのだろうか。うまくいかなくて傷つくだけなら止めた方が良いのではないか。」と心配してしまう方もいるかもしれません。恋愛は誰にとっても難しいものです。さらに発達障害の特性ならではの困りごとがあると、恋愛をすることがより難しく、高度なものに感じられるのも無理はありません。ですが、恋愛は相手を思いやったり、人とうまくやるにはどうしたらいいかを学ぶ良い機会であると言えます。もし恋愛に失敗して傷ついたとしても、そのプロセスも子どもを成長させます。自分の思い通りにいかないことを学ぶのも、子どもにとって非常に大事なことなのです。親はまず、子どもが抱く恋愛感情を受け入れてあげましょう。そのうえで、親に相談をしたいのか、気を紛らわせたいのか、それともそっとしておいてほしいのかというような子どものニーズを受け止め、それに合わせたサポートをしていきたいですね。■子どもの相談相手になる発達障害のある子どもの場合、まわりに信頼して話せる同年代の友人がいないことがあります。恋愛に関しては嬉しいことも悲しいことも話せる人がいた方が、本人の気持ちも楽になり、より恋愛がうまくいくことが多くあります。友達に恋愛相談することが難しく、子ども本人が望む場合、親が恋愛相談に乗ってあげるのも良いでしょう。この時、子どもの気持ちを否定せず、人生の経験者・先輩としてアドバイスしてあげるのがおすすめです。また、子どもが相談したいような素振りを見せない場合も、悩んでいる時に気分転換を促してあげたり、一緒にストレス発散ができるような機会を与えたりしてあげるだけでも子どもの支えになるでしょう。■わかりやすいルールを明示してあげる恋愛に関するマナーやルールは「何となく知っていく、暗黙の了解」として扱われていることがほとんどだと思います。ですが、発達障害のある子どもの中には「何とはなしに察する、感じ取る」ということを難しく感じている子が多数います。そのため、親から恋愛に関するルールをわかりやすく具体的に伝えてあげることもよいでしょう。例えば、以下のようなことを話してあげたら良いかもしれません。・自分が相手のことを好きだからといって、相手も自分のことが好きかどうかはわからない・気持ちを確かめる、伝える方法は色々ある・勇気を出して気持ちを告白したとしても、断られる場合もある・メールや電話は直接顔を合わせないが、相手のことを考えてする必要がある・相手の気持ちは言葉だけでは図ることができないなどまた、トラブルや犯罪を防ぐために、やってはいけないことは明確に伝える必要があります。子どもの心身の成長に寄り添いながら、このようなことも忘れずに伝えましょう。・許可なく急に異性に触らない・夜遅くまで子どもだけで出歩かない(門限を守る)・必ず、誰とどこに行くか、何時に帰るかを親に伝えてから出かけるなど年齢に応じて性に関することなども本人にわかりやすく伝えられるとよいでしょう。社団法人日本自閉症協会/著『自閉症ガイドブックシリーズ4成人期編』2006年成人になって恋愛で困ることは?うまくいく方法は?出典 : 成人になると、自分の意思で行動し、その行動に責任を持つ必要があります。これは恋愛に関しても同じことが言えます。恋愛だけでなくその先の結婚を考えに入れることもありますし、ただ「相手が好き」という感情だけではうまくいかないケースも増えてくるかもしれません。また、それまでの恋愛にまつわる失敗経験がある場合、それが影響して大人になってもなかなか恋愛に積極的になれない、恋愛が怖いと感じている人もいるかもしれません。繰り返しになりますが、発達障害があるからといって恋愛や結婚ができないというわけではありません。周りの力を貸してもらいながら自分の特性を理解し、自分にあったペースで恋愛をしていきたいですね。中には大人になって、素敵な異性と出会うきっかけがない、と感じている人もいるかもしれません。最近は障害のある人向けの婚活パーティーなど、真剣な恋愛を求めている人へ出会いのきっかけを与えてくれる場も増えてきています。このようなイベントに参加してみるのも、一つの手ではないでしょうか。障害者婚活という特性上、発達障害のことは最初から伝えた。それをわかっている上で「付き合わない?」と言ってくれたことが、なによりも嬉しかった。それに加え、もうお互いが30歳超えてるから、出会ってすぐ付き合うでもいっか、と思った。パートナーが発達障害だったら?出典 : では、恋愛や結婚のパートナーが発達障害のある人の場合、どのようにサポートしていけばよいのでしょうか。また、発達障害の特性により悩みや困りごとがある場合の解決策を見ていきましょう。「忘れっぽくて困っている」「こちらの考えや気持ちに対しておかまいなしに行動している」など、発達障害があるパートナーに対して、さまざまな不満や困り感を抱いている人は少なくないのではないでしょうか。このような不満と、パートナーの発達障害ゆえの特性を合わせてみてみると、共通していたり、関係性が見出せたりすることがあります。「どうしてこんな行動をするのだろう」と不満と疑問でモヤモヤしていたのが、「発達障害の特性が影響しているんだ!」とわかるだけでもすっきりとすることがあります。先ほどもご説明したように、発達障害がある人は相手の意図や感情を読み取るのが苦手な傾向があります。そのため、こちらが困った、直してほしいと思っていても、パートナーは悪気無くそのような行動や発言をしている可能性があります。もし嫌だな、直してほしいなと思うことがあったら、具体的に何が嫌だったのか、なぜ嫌だったのか、どうしてほしいのか(謝ってほしいのか、何かを手伝ってほしいのか、など)を一つひとつ丁寧に伝えることを心がけましょう。このように伝え方を工夫すれば、パートナーにも素直に受け入れてもらえたり、嫌だと思うところを直してくれたりするかもしれません。野波ツナ/著『旦那(アキラ)さんはアスペルガー‐うちのパパってなんかヘン!?‐』2011年/コスミック出版発達障害がある人、またそのパートナーの恋愛や結婚生活を描いた書籍や漫画がたくさん出版されています。読みやすい文と親しみやすいイラストが入った本や漫画を通して、発達障害への理解を深めることができます。また、発達障害があるパートナーと楽しく過ごしているエピソードもたくさん紹介されています。パートナーとの付き合い方の参考にできたり、共感できるエピソードに触れて元気がもらえるかもしれません。くらげ/著『ボクの彼女は発達障害』2013年/ヒューマンケアブックス逢坂みえこ/著『プロチチ(1)』2011年/イブニングKCある程度の距離を置くことで、抱えている悩みやストレスが改善する人もいます。夫婦や家族の場合、別居という形をとるなどしてストレスのもととなる対人関係から離れることで、気を休めることだけではなく、冷静になったり状況を見つめ直したりすることができる場合もあります。少し距離を置きたいな、と思った場合は、パートナーに何が不満だったのか、どうして距離を置きたいのかきちんと話すことを忘れないようにしましょう。突然何も言わずに距離を置いてしまうと、発達障害がある人は「今まで仲よくしていたのに、どうして?」と思い、あらゆる方法で理由を探ろうとしたり、嫌われたと思ってひどく落ち込んでしまったりすることがあります。発達障害のある人は、「距離を置きたい、少し1人になりたい」という言葉の裏側に、どのような気持ちがあるのか読み取ることを難しく感じている人が多くいます。丁寧に自分の気持ちを伝えることがパートナーとの関係を改善するきっかけにもなります。「そこまで言わせないで、察してよ!」と感じることもあるかもしれませんが、行動や発言に含まれた気持ちもきちんと伝えてあげるようにしましょう。カサンドラ症候群とは、アスペルガー症候群がある人とのコミュニケーションがうまくいかないことで心身の不調が生じる二次障害を指します。家族や友人、恋人など、アスペルガー症候群の人の身近にいる人が、悩みやストレスが解決されないままに悪化した結果、カサンドラ症候群を発症することがあります。症状は、偏頭痛や自律神経失調症といった身体的なものから、自己評価の低下や抑うつといった精神的なものまでさまざまあります。家族は毎日の生活の中で接する機会は多いですし、パートナーであればなおさら、愛する夫や妻、恋人と心を通わせたいと思う気持ちは強いでしょう。それが難しいときストレスを感じるのは、ある意味当然のことかもしれません。その結果、体調不良や抑うつといった症状に陥ってしまうのです。自分がカサンドラ症候群かもしれないと思ったら、専門機関や病院に相談したり、時には1人で落ち着ける時間をつくることをおすすめします。そして、無理のないペースで自分自身とも、相手とも向き合っていきましょう。宮尾 益知、滝口 のぞみ/著『夫がアスペルガーと思ったときに妻が読む本』2016年/河出書房まとめ出典 : 発達障害がある人で恋愛に悩んだり困ったりする人は多くいます。中には、自分の特性や経験から、「発達障害だから恋愛や結婚はできない…」と悩んでいる人もいるかもしれません。ですが、発達障害の方で恋愛をしたり結婚したりしている人は多くいます。発達障害であることで恋愛や結婚をあきらめる必要は全くないのです。自分が発達障害の場合も、パートナーが発達障害である場合も、恋愛において大事なのはそれぞれにある特性や個性、困り感をお互いに理解することです。こうされたら嬉しい、心地よいと思うこと、反対にどうしても苦手なことや嫌だと思うことを伝えあい、理解することが恋愛関係を深め、良いものにするために不可欠です。また、自分とパートナーだけではどうすればよいかわからない時には、周囲に相談するなどサポートを得ることも大切です。これらのことを意識しながら、素敵な恋愛を楽しんでいきたいですね。
2017年04月27日こんにちは、ママライターの馬場じむこです。小学校までに発達障害と診断された子どもが中学校に進学する際、中学校側にどう伝えていくか悩む保護者の方は多いのではないでしょうか。積極的に話すことで、学校側に変に先入観を持たれてしまったらどうしようと心配する方もいらっしゃるでしょう。今回は、兵庫県尼崎市南武庫之荘で発達障害の6歳から18歳までのお子さんに学習支援を行う、放課後等デイサービス『みらい教室』を運営している平林景さんに“発達障害の子どもの保護者が中学校と連携をとっていく方法”についてお話を伺いました。●怠けているだらしない子と思われるのがいちばんNG『進学時、学校側に最初からレッテルを貼られたくないという気持ちになるのは分かります。専門家である臨床心理士や医師でも、最初から大げさに学校に言わないほうがいいとアドバイスする人もいるぐらいです。しかし、私は診断内容や困っていることを隠すことで、お子さんが悪意を持って怠けている、だらしない子と思われて、自己肯定感が傷つくような指導をされる方がデメリットが大きいと感じるので、診断内容や心配していることがあれば最初から学校側に伝えておいたほうが良い と思います。最近は、学校でも発達障害への理解が進んでいます。ちょっとした学校側の配慮で過ごしやすくなることも大きいですし、何よりもお子さんの理解者になる大人を一人でも増やすということで、お子さんや保護者の心の安定にもつながります』(平林さん)平林さんがおっしゃるとおり、発達障害について書かれている本でも、保護者が学校側に積極的に伝えるかどうかについては、意見は分かれていました。しかし、お子さんが苦手なことに対してツラい思いをしているのに、怠けや悪意を持った行動と誤解されて、人との信頼関係が損なわれることを考えると、最初から特性を知ってもらうほうが良いのではないかと感じます。●新学期になってすぐに校長先生も含めて話をする場を作る『では、いつ学校側に話をするかというと、できれば新学期に校長先生と担任の先生と一緒に話をする機会をもらえないか連絡しましょう。保護者から「校長先生も同席の上で」と申し出た場合、学校側は拒否できません。個人面談の季節を待つより、先に行動した方がよいです。この場合、校長先生にも同席してもらうことがとても重要 になります。なぜなら、学校での配慮の場合には校長先生の許可が必要なことがほとんどです。校長先生にわが子のことを早い段階から知ってもらっていると、配慮が必要な事態が生じたときに話が早いですし、もし、今後、学校になじめないといったことが生じて、日中にフリースクールといった外部機関を利用する場合も、出席扱いとする、内申になるべく不利にならないよう一筆書いてもらうのも、校長先生の判断によるところになるからです』(平林さん)新学期の学校が忙しそうなときに校長先生まで同席を申し出て面談となると、気が引ける保護者も多いと思います。しかし、校長先生に最初から直接話をすることでスムーズに決まることも多く、学校生活や今後の進学についての疑問があったら、その場ですぐ明確な回答をもらえるでしょう。ぜひ、多くの人にお子さんを知って、応援してもらおうという気持ちで臨んでください。----------早い段階から親が中学校と深く関わることで、先生方に理解を深めてもらって、子どもにとって充実した学校生活が送れるといいですね。【取材協力/平林景氏】『株式会社とっとリンク』代表取締役。兵庫県尼崎市南武庫之荘にて、発達障害の就学児童の学習支援を行う放課後等デイサービス『みらい教室』を運営。『学校法人三幸学園』に専門学校の教員として勤務し、その後、『東京未来大学こどもみらい園』副園長、『東京未来大学みらいフリースクール』副スクール長を兼務し、2017年1月に創業。・株式会社とっとリンク●ライター/馬場じむこ(書評ブロガー)●モデル/貴子(優くん、綾ちゃん)
2017年04月20日よく聞く、「小学校は別世界」という言葉出典 : 発達障害のある子どもを育てている親にとって、小学校入学というステージはとても不安なものだと思います。それまで楽しく遊んでいれば良かった幼稚園・保育園の頃と違い、学習という活動がメインとなるのが大きな理由でしょう。また、幼稚園や保育園では手厚い支援をしてもらい、とにかく褒めて育ててもらえていた状態だったお子さんにとって、集団のルールを守ることに重きが置かれている小学校では、息苦しさを感じることが多いのです。幼稚園・保育園ではのびのび楽しくやっていたのに、小学校に入ってから急に自信を失うようになって…というようなお話を、私は幾度となく発達障害児の保護者から聞いてきました。ですから、発達障害のある息子の小学校入学は私にとって緊張感が漂うものでもあったのです。今のところ、息子は小学校の先生たちに手厚く支援していただいているおかげで、毎日楽しく通っています。けれどもやはり、小学校生活のさまざまなことで混乱をしている様子。それは、幼稚園時代にはなかったことでした。トイレに行ってはいけない!?息子の混乱例えば、小学校から帰ってきた息子が、こんな相談をしてきたことがあります。「今日ね、授業中におしっこもらしそうになって。先生にトイレ行きたいです!って言ったんだ。そしたらね…」Upload By モビゾウ「『小学校ではトイレは休み時間に済ませましょう』って先生に言われたの。それなのにね…」Upload By モビゾウ「先生は休み時間に済ませましょうって言ったのに、『はい、じゃあ行ってらっしゃい』って言われたんだよ。意味が分からないでしょう?」なるほど、先生は「本当は休み時間に済ませるのがルールだけど、今日は特別に行ってもいいよ」ということを言いたかったのでしょう。けれども息子は、この「今日は特別に」という部分が先生の言葉から読み取れないのです。先生の言葉をそのまま理解するため、「行ってはいけない」「はい、行ってらっしゃい」という言葉を同時に言われたことに混乱してしまったのでした。Upload By モビゾウさらに息子は、「小学校ではトイレは休憩時間に済ませるってことは、授業中にお腹痛くなったり気持ち悪くなったりしてもトイレに行っちゃいけないのかあ。どうしようどうしよう。お腹痛くなったらどうしよう」と悩み始めたのです。息子の発達障害の特性の一つなのですが、言外の意味を読み取るのが苦手なだけではなく、思考が0か100の両極端に偏りやすいのです。息子は「トイレは休み時間に済ませましょう」という先生の一言を、「具合が悪くても、何があっても、授業中のトイレは我慢しなければならない」という風に、極端な形で解釈してしまうのでした。無数にある集団生活のルール。それを把握することの困難さ出典 : このように、小学校には集団生活を円滑に送るための無数のルールが散らばっています。さらに、そのルールには例外や変更が沢山あるのですが、発達障害児にはそれを把握することがなかなか難しいのですのびのび遊ぶこと、褒められることがメインだった幼稚園時代に比べて、小学校に入ると「こういうルールがあるからダメ」ということが増えていきます。発達障害児は、なんとなく周りとうまくやれる程度にルールを把握するということが苦手です。小学校が別世界というのはこういうことだったんだな、と毎日混乱する息子を見ながら、私もなんとなく理解できたのでした。
2017年04月20日息子のことをよく考えてくれる先生だったけど…Upload By モビゾウ発達障害のある息子は、苦手なことや、頑張ってもできないことがたくさんあります。また、聴覚や触覚などに過敏性があるため、教育の現場にいる先生方にはある程度の支援や配慮をお願いしなければなりません。ところが、一生懸命息子のことを考えてくださる先生が様々な支援や配慮をしてくれているにも関わらず、息子が激しい癇癪(かんしゃく)を起こしてばかりだった時期があります。私は、何かが息子のストレスになっているのだと感じてはいたものの、あの先生に支援して頂いているのだから…と思い、いろいろ詮索せずにいました。けれども、一生懸命息子を支援してくださる先生には、こんなセリフが多いことに気付いたのです。先生なりによく考えた結果の支援・配慮。でも…Upload By モビゾウ「たぶん、息子くんはこういうことはできませんよね」「大丈夫です、配慮します」「息子くんにはやらせないようにしますから、大丈夫ですよ!」この先生が「支援」や「配慮」をしてくださるたびに、息子の癇癪は増えていきました。「どうせ僕なんかダメなんだーーー」「どうせ僕はできないからもういい!!」この時期、何か行事があるたびに息子は酷く荒れました。行事では、負担にならないようにと、息子は常に端っこのほうに寄せられていました。光を当ててもらえる他のお友達に比べて、なぜ自分はいつも「たぶんできないから」と端っこに寄せられてしまうのか…。そういった扱いを受けるたびに、息子の自尊心はひどく傷つけられてきたようでした。そんなときの担任変更。だけど私は正直不安な気持ちに出典 : ある時期から別の先生が担任になることになりました。その先生に息子が発達障害であることを相談すると、「大丈夫、息子くんは能力があるから。からまった糸をほぐしてあげれば、必ずできる子だから」とおっしゃられていました。この言葉を聞いた時、正直私は不安になりました。息子を他の子どもたちと全く同列に扱って、負担をかけてしまうのではないかと思ったのです。けれどもそんな私の心配をよそに、その先生が担任になってから息子の態度はガラリと変わりました。他の先生の「支援」に触れてUpload By モビゾウその先生は、息子が苦手としていることに対して常に「こうしたらできるかもしれないよ」とヒントを与えてくださる方でした。息子もそのヒントをもとにやってみたら、できないと思っていたことができたり…ということが何度もあったようです。そして必ず、「大丈夫、君は出来る子だよ」と息子の能力を信じる言葉をかけてくださいました。あんなに「僕は出来ない子だ」と癇癪ばかり起こしていた息子が、行事のたびに「こんなことができるようになった」「こんなことが楽しかった」と話してくれるようになりました。毎日息子を見ている私にとって、その変化は目覚ましいもので、驚きを隠せませんでした。Upload By モビゾウそして最後の発表会。以前は端役をあてがわれてきた息子が主役を演じる姿がありました。舞台からは「僕は出来ない子なんかじゃない」という息子の言葉が聞こえてきそうでした。本当に必要な「支援」や「配慮」ってなんだろう?出典 : 息子の変化を見て分かったこと。それは、「支援」や「配慮」というのは「出来ないことをさせない」ということではないということです。「どうせ出来ないから」と言って苦手なことを免除してしまうのは、その子にとっての自信には決して繋がりません。「支援」や「配慮」とは、他の子とはちょっと違う教え方やお手伝いをすることで、発達障害児にとって難しいことを、少しでも楽に出来るようにしてあげることだと思います。「あ、なんだ、こうすれば少し楽にできる」と発見したとき、それが初めて子どもにとって「できた!」という自信に繋がっていくのだと感じています。
2017年04月13日「発達障害啓発週間」(4月2日~8日)にあわせ、発達ナビでアンケートを実施厚生労働省が定める「発達障害啓発週間」(4月2日~8日)にあわせ、LITALICO発達ナビでは発達障害に関する意識調査を実施しました。ご協力してくださった皆様どうもありがとうございました。この記事では、調査結果の一部を抜粋しお伝えします。<調査対象について>「LITALICO発達ナビ」会員へのメールから、アンケートフォームにて回答いただいた発達障害当事者:101名、発達障害の子どもをもつ保護者:788名の回答を集計しました。(調査期間:2017年3月7日~3月15日)※調査結果の構成割合は四捨五入をしているため、合計が100 にならない場合があります。発達障害児の子育てで困り感を感じている保護者は約8割お子様の発達障害の特性と思われることによって、保護者であるあなたご自身は、どの程度日常生活で困っていますか?という質問に対して、「とても困っている/やや困っている」と答えた保護者は80.7%、「全く困っていない/あまり困っていない」と答えた保護者は19.3%と、日常生活に困りを感じている保護者は8割を超えました。Upload By 発達ナビニュースどういったことに困りを感じているかに関しては、「障害の特性ゆえの言動が周囲から理解されず、しつけをしていないといつも白い目を向けられ精神的に追い詰められる場面が多い(ASD・6~12歳の親)」「他人について行く、母子分離が難しい、訓練会やセンターでも体操や手遊びを嫌がる(ASD・3~5歳の親)」「本人の生きづらさを変える手助けをしてやりたいが、その方法がわからない。気持ちが不安定になり荒れているのを見ても、寄り添って落ち着くのを待つしかできなくて苦しい。(ASD・13歳以上の親)」「将来が心配。毎日息子が朝ブツブツ文句を言って大変。何でも決めつける。こだわりが強すぎて疲れる。(ADHD・6~12歳の親)」「指示が入りにくいため、同じ事を何度も伝えなくてはいけないが、上手く伝わらない。思い立つと行動してしまうため迷子になることが多い。(ASD・6~12歳の親)」などといった意見があげられました。発達障害の診断を受けると楽になる?苦しくなる?お子様が発達障害と診断・告知された後の心境に、どのような変化がありましたか?という質問に対しては、「とても楽な気持ちになった」が12.1%、「やや楽な気持ちになった」が32.9%、「特に変化はなかった」が11.5%、「やや苦しい気持ちになった」が21.1%、「とても苦しい気持ちになった」が22.5%と、楽な気持ちになった親御さんは計44.9%、苦しい気持ちになった親御さんが43.5%とほぼ同数になりました。Upload By 発達ナビニュース楽な気持ちになった理由としては、「子どもの行動の理由がわかったから(ASD・13歳以上の親)」「今後の子育てをどのように進めていけばよいかがわかったから(ASD・3~5歳の親)」「自身の育て方に問題があったのではないことがわかったから(ASD・6~12歳の親)」などが挙げられました。苦しい気持ちになった理由としては、「もっと早く診断されていればよかったと思ったから(ADHD・13歳以上)」「子どもの将来が心配になったから(ASD・3~5歳)」などが挙げられました。周囲の無理解を感じる理由は…お子様の発達障害の特性について、周囲の人たちから理解されていると思いますか?という質問に対しては、「理解されている」が50.7%、「理解されていない」が49.3%と、ほぼ同数となりました。Upload By 発達ナビニュースどういうときに理解されていないと感じるかに対しては、「見た目がふつうに見られるから(ADHD・6~12歳の親)」「厳しく躾ければやれるようになると思われている(ASD・6~12歳の親)」「本人の困り感が見た目には分かりにくく、助けてもらえない。(ASD・6~12歳の親)」「勉強もでき、多動もないため一見なんともなく見えるため、親が気にしすぎだと考えられがち。(ADHD・6~12歳の親)」「見た目は普通なので、親が甘やかしているからワガママなだけなんじゃないかと思われる。(ASD・3~5歳の親)」などといった意見が挙げられました。発達障害のある子どもの保護者は、世間の発達障害に対するイメージをどう思ってる?発達障害に対する世間のイメージと実態にギャップを感じることはありますか?という質問に対しては、「ギャップを感じる」は80.8%、「ギャップを感じない」は19.2%と、約8割の保護者がギャップを感じているという結果になりました。Upload By 発達ナビニュースどのようなことにギャップを感じるかに関しては、「発達障害と診断されたらお先真っ暗と思っている方が多いけど、そんなことない!わかることでできるフォローがある!(ASD・3~5歳)」「考えるプロセスや、行動というアウトプットが異なるのでなく、そもそも感じ方というインプットの段階が異なっており、しつけや訓練でどうなるものでもないこと(ASD・6~12歳の親)」「1つの診断名でもいろんなタイプの人がいることを知らない人が多いなぁと思うし、自分も息子のことだけをみて発達障害を理解してはいけないなぁと自戒の念も含め思う。(ASD・6~12歳の親)」「発達障害そのものを知らない人が多いと思う。もっと重くてコミュニケーションがとれないような障害と思われているように思う。(ASD・6~12歳の親)」「発達障害は天才だと思われているせいで、親の育て方で変わると思われているところ(ASD・13歳以上)」などといった意見が挙げられました。さらなる調査結果はプレスリリースにてその他の回答に関してはLITALICOのプレスリリースに記載しています。発達障害の当事者・発達障害児の保護者へ意識調査を実施 過半数の当事者・保護者が「発達障害」に対する社会の理解は「進んでいない」と回答LITALICO発達ナビでは今後も発達の気になるお子さんや親御さん、当事者のさまざまなご意見やご経験を参考にしながら、よりよいサービスづくりと世の中に対する情報発信を続けていきます。今後ともLITALICO発達ナビをよろしくお願いします。
2017年04月07日「できること」を増やしたい!発達障害のある子どもを持つ親心出典 : 自分の子どもが発達障害だと診断を受けたならば…。「発達障害児でもできること」「発達障害児の発達を促すこと」を血眼になって探すのが、親心なのかもしれません。私もその1人でした。発達障害児を育てていると、どうしても出来ない部分ばかりが目についてしまいます。「協調運動ができない」「手先が不器用」「跳び箱やマット運動ができない」「字をマスの中におさまるように書けない」「きちんとした姿勢を維持できない」…他の子どもと並べては、「うちの子だけこんなこともできない…」と落ち込む日々が続いていました。「出来ることを褒めてあげて」と育児本には当たり前のように書いてあります。けれども、保育参観やちょっとした行事で「できない息子」を目の当たりにするたびに、「一体どこを褒めればいいんだろう…」という気持ちにすらなります。そんなとき、インターネットには心ひかれる文言が出典 : そんなどん底の気分になりながらも、「なんとか息子のできることを増やしたい」と思いネットを検索してみます。すると、キラキラときらめく言葉たちが並んでいるのです。「発達障害児向け○○!」「○○は発達障害児の発達を促してくれます!」「○○をすれば、発達障害は治る!!」こんな煌めくような魅力的な言葉たちが、私の親心をがっちり掴んでしまいました。「発達障害向け」の文言をみると居ても立っても居られなくなり、私はすぐに申し込みのメールを書き始めていました。それがどんな内容の習い事や塾であっても、息子に意思を確認することはありませんでした。これが原因で、私がしてしまった失敗を2つ、ご紹介します。出典 : ネットでの検索に取りつかれていたころ…私が一番に心惹かれてしまったのは、「発達障害を治す能力開発塾」でした。この「発達障害を治す」という触れ込みに惹かれてしまうのは私だけではなかったようで、中には新幹線や飛行機に乗って相談に訪れる人も後を絶たないそうです。ところが相談に伺ってみると、その塾の目標は「子どもを支援級に入れないこと」でした。私は当時、まだ小学校就学後のことまで考えてはいませんでした。その目標が果たして本当に適切かどうか、まだ分かっていなかったのです。その塾が何を目指しているのか、発達障害児がどう育っていくことを望んでいるのかという点について意見が合致しない場合は、私は入塾はやめたほうがいいと思いました。結果的に、入塾はお断りしました。「発達障害児向け」「発達障害が治る」という文言だけに飛びついてしまい、実態をきちんと把握していなかった失敗例です。出典 : 他にも、「これは発達障害児の発達に良い」「前頭前野の発達を促す」という言葉に、私は飛びついてしまいました。そんな私を突き動かしたのが、「乗馬は発達障害の発達に良い」「カヌーは発達障害児の発達に良い」という情報でした。私は息子を連れて、発達障害児を対象とした乗馬教室とカヌー教室に出かけました。その教室では他に参加する子どもたちもみんな同じように特性がある子どもたちだったため、息子だけが浮いてしまうこともないだろう…という期待もありました。ところが…。感覚が過敏な息子は、馬の臭いと大きさと肌触りにパニックです。泣いて泣いて暴れて暴れて、止まらなくなってしまいました。そんな息子を横目に、他のお子さんたちは悠々と馬に乗っています。カヌーはカヌーで、救命胴衣の感触にパニックになり大泣き。さらに、前日雨が降って川岸がぬかるんでいたのが嫌だったようで、足に泥がつくたびに大泣き。ここまで来て、こんなに息子を泣かせて、自分はいったい何がやりたかったんだろう…。私は帰りの車でため息しか出ませんでした。この教室以後、息子は馬が怖くなってしまい、今でも馬に近づけません。大切なのは、「発達障害児向け」ではなく「息子向け」だった出典 : 数え切れないほどの失敗を繰り返して、私が学んだのは、大切なのは「発達障害児向け」ではなく「息子向け」のものを選ぶことだということでした。いくら「発達障害児向け」と銘打ってあっても、息子に合った環境整備がされているとは限りません。いくらそのアクティビティ自体が発達障害児の発達に良いとしても、息子は盛大なパニックを起こし、それが失敗体験になってしまいました。逆に、発達障害児対象のアクティビティでなかったとしても、息子に合った環境整備がきちんとできていれば、息子は楽しくこなすことができます。成功体験につながることもあるでしょう。「発達障害児向け」「発達障害児の発達に良い」というのは、あくまでも理論的な話です。脳回路の話などが出てくると、どうしても飛びついてしまうのが親心。でも、理論と実践は違うのです。適切な環境整備と子どもに「やりたい」という気持ちが少しでもあれば、それが一番「その子の発達に良い」ことなのだということを忘れてはいけないのだと思います。
2017年03月30日特別なニーズにもこたえる、通信制サポート校「しんあい高等学院」って?出典 : 今春から大阪府大阪市に設立される通信制サポート校「しんあい高等学院」。日本でもまだ珍しい発達障害のある子どもたちの受け入れに特化した通信制サポート校です。これまでの通信制サポート校と、一体どのような違いがあるのでしょうか。しんあい高等学院/明蓬館SNEC 大阪・玉造入学試験には作文と心理検査結果の提出、そして子どもと保護者それぞれの面談があります。事前に障害特性・認知特性・学習特性などを見極めたもとで授業カリキュラムを作成していきます。入学前から生徒ひとり一人のニーズを見極め、万全な受け入れ態勢を作っています。もし心理検査を受けたことがない場合は、見学や入学相談とあわせて専門職員による検査を受けることも可能です。SNEC(スペシャルニーズ・エデュケーションセンター)とは、特別支援教育のための通信制サポートシステムです。このシステムは、「自閉症の僕が飛び跳ねる理由」で有名な東田直樹さんや、学習障害の理解を広げる活動を行っている講演家の南雲明彦さんなど社会で活躍している人たちを輩出した、福岡県にある明蓬館高等学校の日野校長によって発案されました。専門職員による面談・心理検査を通じ、入学前の検査結果をもとに個別のニーズにあわせて支援・指導計画を作成し、学習面を中心に身辺自立や人とのかかわり方、就労観など将来を見据えた訓練を含めてサポートをしていきます。また、進級にともなう試験も点数評価だけでなく各自にあわせた提出課題をつくることで着実に学習の定着をおこなっていけるようにしているのも特徴です。学習環境に関しても、通信制なので年1回(4日間)のスクーリング以外はサポート校への通学と自宅学習を自由に選ぶことができます。ひとクラスで一斉授業を行うのではなく、本人の望む環境で課題に集中することができる点は魅力的です。ただ高校に通うのではなく、それぞれの個性を生かせるような教育を目指しているのです。東田直樹オフィシャルウェブサイト南雲明彦オフィシャルウェブサイトそして何より注目したいのは、高校には臨床心理士・社会福祉士・特別支援の知識を持つ専門スタッフが常駐している点。学力面だけでなく生活支援もあわせたサポートを目的として動いてくれるので、思春期特有の問題があったとしてもすぐに相談できるところが魅力的です。気になる卒業後の進路もしっかりとバックアップする体制をつくっています。大学や専門学校への進学支援はもちろんのこと、就労の際は連携先の企業とのインターンシップ制度を用意していたり就労継続支援へつなぐこともできるようになっているのです。明蓬館高等学校品川・御殿山SNEC(スペシャルニーズ・エデュケーションセンター)学院長にインタビューしました学校を運営するのは法人事業で福祉に15年携わってきた真田明子学院長。今回、発達障害に特化した通信制サポート校を開設するに至った経緯について、発達ナビ編集部がインタビューを行いました。Upload By 発達ナビニュース―なぜ「しんあい高等学院」を設立しようとお考えになったのでしょうか?真田明子さん(以下、真田さん):わたしたちは15年間、福祉事業に携わってきました。2006年からは児童デイサービスを開始し発達障害のお子様や親御様と接する機会が増える中で、高校以降の進路があまり用意されてない現状に気付いたんです。そんなとき、明蓬館高等学校のSNECを知り、ぜひ関西でも同じような高校が作れないかと思いたちました。―これまで関西にはSNECのような発達障害のお子さんをサポートするような高校はなかったのですか?真田さん:実は、関西は全国で比べても通信制高校が多い地域なんです。発達障害や不登校のお子様は自然と通信制高校に進学する流れができていたので問題があまり表面化しなかったんですね。ですがその裏で、進学後に最後まで通えずまた不登校になってしまったというケースも、多く発生していたのです。その大きな要因は、お子様の障害ケースに合わせられる専門家がおらず、適切なサポートを受けられなかったからではないかと推測しています。―だから、SNECサポートシステムの通信制サポート校の設立が必要だったんですね。真田さん:そうですね。しんあい高等学院には、臨床心理士や社会福祉士などの専門資格を保有した職員を常に配置しています。教育面だけでなく生活面のサポートも行っており、お子様が困っていればすぐにこちらからフォローを入れられるようにしています。―とても手厚いサポートが受けられるようになっているんですね。なぜ、ここまで万全のサポート体制を敷いているのでしょうか?真田さん:SNECサポートシステムを考案した明蓬館高等学校の日野校長から、以前こう言われました。「多感な思春期こそ大切にしなくてはならない」と。10代に受けた考えや環境は後々大きな影響を及ぼします。この時期をしっかりサポートすることにより生徒たちが安心して社会に出られるようにしたい、と。この考えに非常に感銘を受けまして、本校でもその精神を大切にするため発達障害に詳しい専門スタッフをおくようになりました。今後も本校のように遠隔授業を用いてサポートできるような通信制サポート高校が全国に広がり、より多くの支援を必要としている子どもたちに届けばと考えております。これからの新しい通信制サポート校のカタチに期待出典 : 真田学院長にインタビューした際、このようなこともおっしゃられていました。「海外では不登校という概念自体がない国もあるんです。」学校に通うということ自体を目的とせず、どういう学び方ができるかを本質的に探っていくという考え方が根付いていれば、子どもが「不登校」かどうかを問題とする必要もなくなるのでしょう。しんあい高等学院のように「それぞれの発達にあわせた学び方」を掲げる高校が全国に広がり、新しい学びの選択肢として定着していけば、子どもたちの進路にも新しい道が開けていくのではないでしょうか。しんあい高等学院、入学についての詳細はこちら
2017年03月23日興味のあることしか覚えられない娘。嫌いな「社会」、どう勉強する?出典 : 視覚優位の傾向があるけれどそれが生かせるのは興味のあることだけ。これが、当時小学3年生だった娘に対する私の認識でした。実際、形を覚えて書き写すのは得意ですが、興味のないことはなかなか覚えられません。小学校の科目の中でも、「社会」が嫌いだという娘。そんな娘がが日本の都道府県を覚えられるようになるまでのあの手この手を、このコラムではご紹介します!娘の視覚優位を生かそう!ケータイアプリを駆使してみるも…社会の科目が嫌いな娘がまずは地図に慣れ親しめるよう、早くから地図のアプリなどを使わせていました。「あそんでまなべる日本地図パズル」は、日本地図の型に都道府県のピースをはめ込んでいくもので、視覚優位の娘はあっという間にスラスラと解くようになりました。Upload By SONOあそんでまなべる日本地図パズル(Android版)あそんでまなべる日本地図パズル(iOS版)それならと、姉妹品の「あそんでまなべる日本地図クイズ」も勧めてみました。こちらは都道府県名と県庁所在地がクイズ形式で出てくるのですが、こちらは嫌だと拒否。嫌なものは仕方がありません。あそんでまなべる日本地図クイズ(Andoroid版)あそんでまなべる日本地図クイズ(iOS版)スラスラ解けるようになったものはつまらないそうで、日本地図パズルも使わなくなりました。ゲーム性の高い「地図エイリアン」を勧めてみましたが、こちらはゲームのノリに合わず拒否…。周りの子たちが楽しそうにやっていても見向きもしませんでした。「とりあえず日本地図パズルができるってことは、結構覚えているってことだよね、形を覚えるのも得意だし…。」そう思って一旦地図学習は幕を閉じた娘小3の春でした。地図エイリアン(Andoroid版)地図エイリアン(iOS版)興味のないことは、やっぱりなかなか覚えられない!思考錯誤の末、辿りついた勉強法は…出典 : しかし小4冬休みの宿題で「(都道府県名を)5個しか書けなかったー」という結果に。やっぱり興味のないことは覚えないんだね…と思いつつ、対策を考えました。「またアプリで地図の勉強をやってみようよ~」と言ってみるものの、娘は「ヤダ」の一言。5個しか書けなかったということは、覚えるまで毎回何十個も分からないものがあるということだよね…。娘が日本地図を覚えるまでの苦痛を考えると、毎回分からなかったところを調べさせたり書き写させたりするのも心苦しい。しかもそれって効果あるのかな…?というよりますます地図嫌いになっちゃうかも!?私はしばらく考えました。そうだ!沢山じゃなくなればいいんじゃないの?私「地方に分けてやってみようか」娘「いいけどどうするの?」私「白地図を探してみるよ」調べてみると、地方別に印刷ができる白地図のページがありました。テクノコこれだと北海道は東北地方とは別の用紙、沖縄も沖縄と先島諸島で一枚で九州地方には入ってないけれど、ひとまずはこれでいいかな…娘に話すと「北海道と沖縄だったら1問だけで満点だね。キャッキャッキャ」と笑っていましたが、まんざらでもない空気になってきたので、東北地方からプリントしてあげました。Upload By SONO結果は6問中4問正解。宮城県は何とか思い出しましたが、静岡はそんな寒いところじゃありませんよ。都道府県記憶術、番外編。好きなもので覚えるのがイチバン!?そうそう、実は娘はお笑いコンビの「ラーメンズ」が好きなので、ちょっと各都道府県に失礼なところはありますが、「不思議の国のニポン」を何度も見ておりました。娘は「主食さくらんぼ、おかず西洋梨、おやつ…」と聞くと「将棋の駒!」と即答できるのに、「山形県」は覚えられないんですね。エピソード記憶の方は、しっかり残っているというのに…どの形の県がどこにあるかも覚えているようなので、あとは何県かを覚えればいいことになります。地方別にプリントしながら、エピソード記憶を結び付けていこうと思いました。いまや嬉々として県庁所在地を覚える娘。大切なのは子どもに合った勉強法を探すことUpload By SONO漢字への取り組みでも分かったことですが、なかなか覚えられないことでも何度も出会ううちに記憶が定着してきます。そして、定着できた記憶はそう簡単には消えません。娘は定着するまでに時間がかかるので、毎日少しずつ取り組むことがいいようです。定着したものが増えることによる負担の軽減と、少しずつ取り組むことによる負担の軽減が効果的でした。日本を一周するころには、北海道・東北地方、九州・沖縄地方のまとまったプリントのサイトも見つけました。最近リニューアル公開されて見やすいページになっています。小学校社会科問題集都道府県暗記用無料白地図&ミニテスト娘に見せたところ、「答え書くところが別でやりにくい」とのことでしたが、「学校で問題解く時も、地図の上じゃなくて回答欄に書くよね。その力も必要だよ。」と言うと納得してくれました。ワーキングメモリの少ない子は、問題の場所と回答欄が違うと解き辛いそうです。コグトレ(認知機能強化トレーニング)の「あいう算」などをしてみると、苦手さが分かったりトレーニングができたりするそうですよ。コグトレ研究会こうして年末から取り組むこと1月ちょっと。漢字まで完璧にとはいきませんが、娘は全ての都道府県を覚えました。そして、できるようになったことの嬉しさから「県庁所在地も覚える」といい1週間足らずで覚えています。県庁所在地を覚えようという時には工夫も見られました。「都道府県と同じ名前のところはどれくらいあるかな?」と、地図にマーカーで印を付けていました。苦手だからとあきらめていたら見ることは出来なかった娘の楽しそうな姿に、苦手を感じずにできる形の勉強法を探すことの大切さを学びました。
2017年03月19日療育センターを舞台にした演劇、「わたしの、領分」わたしの、領分療育センターを舞台に、発達障害がある子どもにかかわる「心理士」の視点で描く、演劇『わたしの、領分』。2年前の初演で好評を博し、このたび再演が決定しました(3/28~4/2 東京・下北沢/小劇場楽園)。LITALICO発達ナビでは、公演に先立って、演出の松澤くれはさんにインタビューを行いました。Upload By 平澤晴花(発達ナビ編集部)松澤 くれは(まつざわ くれは)脚本家・演出家。1986年、富山県生まれ。早稲田大学第一文学部演劇映像専修卒業。演劇ユニット<火遊び>代表。芥川賞作家・中村文則氏『掏摸[スリ]』の舞台化にはじまり、『殺人鬼フジコの衝動』『天帝のはしたなき果実』『くるぐる使い』など、人気小説の舞台版を手がける。オリジナル作品では「あなたとわたしが[We]に近づく物語」をテーマに、言葉で分かり合おうとしながらも分かり合えないことを受け入れる、人間の生き方を一貫して描く。現実のような生々しい会話劇で、観客の日常につながるラストシーンを目指している。大学院を卒業し、都内の療育センターに配属されたばかりの心理士・萩野は、発達障害児を中心に面談を行っている。「いつか治りますよね?」「うちの子を障害者にする気か!」 親たちは口々に言いながら、救いを求める眼差しを彼女へ向ける。認識の齟齬から生じる軋轢に悩みつつも、萩野は実直に、進むべき道を探してゆく。ある日。定期面談を終えたはずの青年が、センターにやってくる。勤務先での生活を嬉々として語る彼に、まとわりつく悪意の存在。青年が起こした傷害事件は社会を巻き込んだ「自閉症をめぐる問題」 へと発展し、偏見と差別が膨らみ続けるなか、萩野は一人「こころ」と対峙する。世界のあいまいさを許容して生きるための。はるかから、わたしの物語。療育センターの心理士が紡ぐストーリー誕生のきっかけ出典 : 編集部(以下、編):はじめまして。今回療育センターを舞台にしたお芝居『わたしの、領分』再演ということで、ぜひお話を伺えたらと思います。まずはじめに、このお芝居を作るそもそものきっかけは何だったのでしょう。松澤くれはさん(以下、松):もともと、僕の知り合いに療育センター勤めの心理士がいたんです。その人から現場サイドの悩みや葛藤を知る機会がありました。そのときはじめて「支援する側にも葛藤や悩みがある」ということを知りました。療育施設という場所には常々舞台として関心があったのですが、そこでの話というと、既存のものはどうしても親御さんや子ども当人からの視点で描かれがちで。療育施設には心理士さんもいます。知人の話を聞いて「心理士の視点から書きあげることで新しい作品がつくれるんじゃないか」と思ったのです。もともと僕は作品を創るときに「視点を変える」ということにこだわってきました。別な角度、いわゆるニッチな視点ですね。うちが手掛けた他の作品でも、例えばオリンピックを描く時、ドーピング商品を選手に売るバイヤー視点でつくるなど取り組んできました。視点を変えて紡ぎだすことによって、新しい問題提起が何かみえてくるのではないかとは常に考えて素材を選んでいます。今回の作品の着想もその範疇(はんちゅう)で生まれました。「当事者意識」の境界線は?発達障害の子どもとその周縁をどう描いてゆくのか出典 : 編:既存のイメージから視点を変えて芝居を紡ぎ出すということですが、今回、療育センターの職員と発達障害の子どもという題材の中で、どのようなテーマを持たれていたのでしょうか。松:「当事者意識」というものに対する興味関心です。「当事者」という言葉はよく使われますが、一体、どこからどこまでが当事者なんだろう、と。たとえば発達障害のある本人がいて、その親御さんまでが当事者なのか、それとも支援にかかわるすべての人もふくめるのか…。実際、劇中でも「あなたに足りないのは当事者意識だ」というシーンがあるんですが、じゃあ、あなたはどうなんですか?と、問い返すこともできる。何があれば「当事者だ」と言えるのか…心の持ち方なのか、血が繋がってることなのか、本当は誰も定義できないからこそ、難しいのだと思います。本人がどれだけ相手を思って行動しても、「いや、あなたは部外者だ」と言われてしまえばそれまで、何もできないというもどかしさがある。その、定めきれない「当事者意識」の境界線を作品で描くには、なるべく広く関係性を作るべきだと思ったんです。子どもと子どもの親がいて、民間のセラピスト、センターの人、ドクター、心理士の夫、などなど。自分は当事者なのか?と悩みながらも相手にかかわっていく、あるいは、この人は当事者ではないと相手に思いながらも頼っている、この状態やそんな関係性そのものを描きたいと思ったのです。編:なるほど…では、劇中の登場人物たちがその人なりの「当事者性」を追求していくような形で物語が進んでいくのでしょうか?松:いえ、自分が当事者と思っているか思ってないかは、バラバラに設定しています。それぞれのシーンで、観る人が「『当事者』というものを考えることに直面する」ように演出しています。たとえば、「息子を障害者にするつもりか!」「あなたに足りないのは当事者意識だ」といった台詞を聞いたときに、ハッとする人もいるかもしれないし、疑問を持つ人もいるかもしれない。観る人それぞれが考える余地を残して、シーンを描いています。編:「これが当事者だ」と答えを出すというより、当事者性そのものを”考える”ために劇がすすむようにしているということですね。松:そうですね。基本的に答えを出したり作り手のメッセージを出していくタイプの劇は作っていないんです。登場人物の悩みそのものを持ち込み、悩みと悩みがぶつかり葛藤がおきる、人間関係のうまくいかなさ、その場面をそのまま提示していこうと。その中で、互いに争わず、妥協ではない前向きな折り合いをつけるにはどうするか、今この瞬間の現実の悩みをどうするかを、描いていきたいと思っています。そもそも80分の劇で人間の悩みなんて簡単に解決できないとも思っていますしね。稽古中、セリフにつまづいて黙ってしまう役者を褒めます。その訳は…Upload By 平澤晴花(発達ナビ編集部)編:役者さんとは普段どのようなコミュニケーションをとりながら稽古をしているのですか?松:「嘘はつかないでほしい」と、まず最初に言っています。セリフがあるからって言わないでほしい、言えないのに言わないでほしいと言っています。セリフを覚えてないわけでなく、うまく出なかった。そんな時には立ち止まって、なぜ出なかったのかを考えてほしいと伝えています。なんでその演技ができないのかということを考えてほしいんです。とりあえずで無理やり話を進めないで、セリフを言うきっかけを探してほしいって言っています。ピンとこないセリフがあったら、じゃあ今どんな気持ちになっているのかを共有して前段階から演技を考えていきます。なるべくお互いにごまかさない、その代わり稽古なんだから失敗していきましょうと。そう伝えると、ホントにセリフ言わない人も出てくるんですよ。そこからは、この人物がセリフを言う動機はどこにあるのか、どれくらいのイメージを持ってやっているのか、お互いのイメージをすり合わせるようにして進めていきます。編:松澤さんが今のような演出スタイルをとることになったきっかけはなんですか?松:そうですね。人はそれぞれ違う、という意識がそうさせたかもしれません。自分と他者という違いに少しずつ気付いてきた時期があって。昔は男主人公でやっていましたが、一挙手一投足が気になりすぎてしまって、役者にも細かく指摘し過ぎてしまうんですね。だんだん、「このままじゃ駄目だ」と思うようになって、女主人公の芝居にチャレンジしたんです。そしたら、女性のしぐさに対してなかなか想像が及ばず、わからないことだらけだったんです。そこで気づいたんです。そもそも演出家も役者も、芝居に挑むバックボーンが違うし、みんなバラバラの意思や体を持っているのだということに。でもそれは、一緒に芝居を作っていく上では、実は大した問題ではないんですよね。大事なのは同じ目標を持って、ひとつのことに向かうこと。そこに至るまでに各々が違う役割を全うすればいいだけ。そこから今のような演出スタイルや、役者とのコミュニケーション方法が築かれていきました。編:人はみんなバラバラで、違った意思を持っている。当たり前のことなのに、人はつい自分の信念や、一般的な社会通念にとらわれてしまう…発達障害のある人の中には、そんな周囲からのプレッシャーに苦しんでいる人も少なくないと思います。演出家、役者、監修者、一人ひとりの「ちがい」を前提として芝居をつくりあげていくスタイルは、きっとこのテーマにぴったりの手法なのだと感じました。自分のフィルターは、視点が異なる他者との密なかかわりで、外していけるUpload By 平澤晴花(発達ナビ編集部)編:今回の作品の話に戻りますが、創作していくうえで、松澤さんの築いたスタイルはどう生かされましたか?役者さんにとっては、発達障害のことや心理士の仕事は未知の世界でしょうし、イメージしにくいところからのスタートだと思うのですが。松:初演の稽古の際、きっかけになったできごとがあります。くまさんがいて、うさぎさんがいて、箱にビー玉を入れるという、子どもへの発達検査のシーンでのことです。最初は、検査で子どもが間違えてしまったことで生じた、発達障害の可能性に対して、両親が失望するという台本にしていたのです。しかし、父親役の役者の意見からは「間違えてしまった子どものことは、僕には正常に見えた。子どもだから複雑な指示に従えないのは当たり前だと思います」といったのです。そこで活路が見えました。こうなるから、こうとこだわらず、なるべく自分のフィルターをはずして、バラバラにして組み立てていくようにしたんです。実際に演じる役者さん、監修をしてくれた心理士、自分と視点が異なる他者の視点を取り入れていくことで、リアリティが生まれていきました。そんななかで、たとえば観客席の最後列から聞くと声が聞き取れない役なども出てきました。登場人物のテンションもそれぞれ違うので、役ごとにバラツキをもたせたのです。普通のお芝居だと、なるべくはっきり、後ろまで声が通るようにしますよね。でも今回、それをやらなかった。あと、余談ですがうちは円陣も組みません。そしたら同じテンションになっちゃうから。それではリアリティを消してしまいます。そこまですると演出がバラバラに見えることもあるかもしれません。しかし、現実では同じテンションはありえないんです。揃えてしまうことではリアリティは生み出せないことになります。なるべく誰かのペースに巻き込まれないでと、役者には言ってます。ストーリーばかりを勝手に進めないようにと。正しいと思ってなくても言ってほしい。自信のなさでもいいので、なるべく決めつけずに進めてほしい。だから達成感がない芝居だと役者から言われることもあるんですけどね(笑)。伝わりにくい「生きにくさ」の正体。観客に「いたたまれない…」と思わせる、ぎりぎりの表現を生み出すには出典 : 編:テーマにかかげてある「生きにくさ」を身体表現と会話劇で繰り広げるのは大変だと思いますが、どういう点で苦労しましたか?松:一般的には芝居って筋書きが決まっているものなので、稽古すればできるようになるじゃないですか。出来不出来はともかく、とりあえずストーリーは追えると思うんですよ。でも、それだけでは安定してしまう。だからぎりぎりを攻めてほしいと、役者さんに伝え続けました。セリフをとちってほしいというわけではないんですが、ぎりぎりまで忘れているんだけどぽろっとセリフが出てくる、それぐらいの状態でいてほしいと。そこでリアリティがでてくるので。矛盾と戦い続けることで出来るようになっていくことですよね。稽古していることを稽古していないことのようにやること。100回練習したことをはじめてやるかのようにやる。「生きにくさ」とは、「うまくいかなさ」ですからね。たとえば、ここで突然御二方(発達ナビ編集部員)に怒られたとするじゃないですか。インタビュー受けなきゃよかったな、早く帰りたいなぁ、言ったこと間違ってたのかなという気持ちになって、ここにいにくくなると思うんです。「いたたまれなさ」です。そのあり様をそのまま舞台上に、その気持ちで立ってもらいたいと思っています。やっぱりお芝居って、自分の出番で自信を持って体を大きく動かしてセリフをバシッということができるほうが気持ちいいんですよ。自分も役者だったんでわかるんです。そっちのほうがある種の安心感があるというか。でも目指すのはそっちじゃない。ここ全然うまくいってない、相手との掛け合いがうまくいってない、っていうときほど「今日よかったですね」って僕は言いますし、逆に役者が「今日は調子いいぞ」と思っているときほど駄目で、「今日は予定調和でした」と言いますね。演劇によっていろいろなジャンルがあるので、秒単位で筋書きが決まってるようなものでこういうことをやるのは駄目ですが、「わたしの、領分」のようにありのままを見せるような芝居では、その人自身がちゃんと傷ついてその場にいたくないという気持ちになることが大切だと思ってます。心のどこかで本当に「ここにいたくない」と思うことが大事なんです。そういうところが身体表現の大事なところなんじゃないかと思います。いるとき、いなくちゃいけないときの境目を分けてふるまうことも大事です。いなくていいときはすぐ舞台上から去ることも大切ですね。編:戸惑うお客さんもいるんでしょうね。松:芝居に親しんできた人は斬新にみえるらしいですね。現代口語演劇の延長線でやってきているので、それに親しんでいる人は受け入れられると思います。アンケートで、「私がいつも観ている帝国劇場より声がでてない」とか(笑)、「結論がない、結論を出せ」といわれることもあります。もともとある価値観を変えることはなかなかむずかしいし、それこそ多様性を認めろというのも押しつけでありエゴでもあります。でもこういう人がいるんだということを知るというのはいいと思っています。登場人物にどこか自分と共通した変なところが見えてくるといいと思います。たとえば、作中に登場する心理士も変な人が多くて、ちょっとずれてるところを持っていることが多いように描きました。登場人物の荻野もシャーペンのカチカチする音がきらいで、年の離れたドクターにおもわず切れてしまうことがあったり。それをお客さんもみて「ここわかる」「ここわからない」と自分の中にもある変わったところと重ねながら観てもらえたらと考えています。相模原殺傷事件の匿名報道への憤り。少しずつ歩き続けようと、すぐ再演を決めたUpload By 平澤晴花(発達ナビ編集部)編:少し話を社会的な事象の時系列から掘り下げて、作品の真相に迫っていきたいと思います。2015年に初演があって、その後、相模原障害者施設殺傷事件がありました。そして今2017年に再演することになったわけですが、松澤さんの中であの事件は偶然の重なりといえますか?どう事件を咀嚼して再演するにいたったのでしょうか?松:誤解を恐れずに言うと…ついに起きたかと思ったんですね、相模原は。ヘイトスピーチや優生思想が最近増えており、それに賛同する人が増え一定の共感を得てしまい社会に浸透しつつあったところでこの事件が起きました。その中での匿名報道、やっぱりそうなったかと思いました。遺族に配慮した、と言って19名全員の被害者名を警察が伏せたというのがそのような社会になってしまっていることの表れで。伏せざるを得ないのが社会の在り方なんだなと思いました。19名全員の遺族が出さないでくれといったわけではないのに、とっさにそのような判断がくだってしまうという。そこには顔がないと思うんですよ。命を奪われて、そのあとに冥福を祈るというときに「個」をはく奪されてしまう。被害者たちは、19という数字になってしまう。まだそういう社会なんだ、平気でそういう判断を下して「悲惨な事件でしたね」という感想で終わってしまう。その近くにいた人だけが解決しないまま問題意識を持っている状態になってしまう。それで、すぐ再演を決めたんですが、再演を決めた後もすぐに批判されたんですよ。「あなたが芝居して何が変わるんですか?」「お金儲けしたいだけでしょ」と言われて。そこに当事者意識の違いを感じました。被害者じゃなければ語れないのであれば、何も変わらないと思うんですよ。結局見て見ぬ振りを続けていく、ひどい事件が起きたね、終わり、にするわけにはいかない。何よりああいう犯人を出さないようにするためにも、あまり議論が尽くされない中での匿名報道などにも待ったをかけるように働きかけていかないといけないんじゃないかと思ったんですよね。そこで再演に関してですが、まず相模原事件が起きたあとに設定を変えたんです。現実に起きた事件をないがしろにできないので、名前は出してないのですがその事件の後だとわかるようにしています。なので時系列は2016年にしました。あとは、ラストシーンを変えました。初演を見た人はびっくりするくらいの全く別物になると思います。まったく見え方が変わるはずです。タイトルも変えたんです。「わたしの、領分。」だったのを「。」をとったり。この違いからこの作品の意味がわかってもらえたらと思います。初演は、立ち止まることが大事、というイメージでしたが、再演は、少しずつでいいから歩き続けよう、というイメージにしています。これは初演から2年たって変わった心境と思ってもらえるといいかもしれません。編:これまでお話を聞いていて、松澤さんが手掛けるお芝居は、非日常の娯楽というよりは、むしろ日常の延長の中にある芝居というような印象を受けます…松:芝居のラストシーンがお客さんの日常につながっていってほしいんですね。家に帰った時にじわじわ効いてきてほしい。演劇は新しい視点をお客さんにあたえることができると思ってます。芝居をみて、「心理士っていう仕事があるんだ」くらいの感想でもいい。あるいは、街中で発達障害かもしれないなという人を見かけたら、見て見ぬふりではなく「あ、昨日のお芝居で…」と思い出してもらえるなら嬉しい、ほんの一歩でもいいので、今まで自分の中になかったものを受け入れるキャパシティが広がれば、と願います。日常忙しい親御さんにも、肩の力を抜いて楽しんでもらいたい出典 : 編:発達ナビは発達が気になるお子さんの保護者の方向けメディアです。何か直接伝えたいことはありますか?松:ここで今、取り立てて伝えたいことはないんですよね。というのも、この芝居は終わる物語ではないので、メッセージも答えもないありのままのものなので。親御さんたちは、ご自分やお子さんに引きつけて見られる部分もあるとは思いますが、一方でまた別のお話、別の人生であると、少し離れて肩の力をぬいてみてもらえたらと思います。こういう生き方もあるんだ、こういう人もいるんだ、というふうに感じ取ってもらえたらいいなと思ってます。編:普段育児に忙しくしている方々も、少し肩の荷をおろせる時間になるといいですね。松:そこまで言い切れるかどうかはわからないんですが、きっと日常で悩みやご負担も多いと思うので、普段なかなか自分のことにかまえずにいるなかで、演劇を純粋に物語として見てもらい楽しんでもらえたらと思います。心理士と親御さんの面談シーンを第三者として見るってのもあまりないと思うので。編:本当に楽しみな舞台ですね。本日はお話ありがとうございました!インターネットを通じて様々なプロジェクトへの活動サポート・寄付ができるクラウドファンディングのプラットフォーム「CAMPFIRE」にて、「わたしの、領分」の公演規模拡大、地方公演の実施に向けた資金を募るプロジェクトを実施中です!わたしの、領分クラウドファウンディングUpload By 平澤晴花(発達ナビ編集部)わたしの、領分松澤くれはプロデュース『わたしの、領分』2017年3月28日(火)~4月2日(日)@小劇場 楽園作・演出松澤くれは出演者善知鳥いお岡村いずみ江幡朋子尾﨑菜奈倉冨尚人今駒ちひろ野下真歩早山可奈子坂内陽向宮川智司柴田淳(ブラックエレベータ)室田渓人(劇団チャリT企画)濱田龍司(ペテカン)スタッフ舞台監督:吉倉優喜舞台美術:小林裕介音響:葉暮呉一郎照明:タカハシカオリ小道具:定塚由里香宣伝美術:イラスト…谷川千佳/デザイン…milieu design制作:森永たえこ協力:特定非営利活動法人アートシアター株式会社アイビー・ウィーウォーターブルー株式会社大沢事務所株式会社スチール・ウッド・ガーデン株式会社パワー・ライズ(有)No.9UTYリベルタ(五十音順)製作:「わたしの、領分」製作委員会公演日程2017年3月28日(火)~4月2日(日)タイムテーブル3/28(火)19:303/29(水)19:303/30(木) 15:0019:303/31(金)19:304/1 (土) 14:0018:004/2 (日) 13:0017:00※上演時間は約80分を予定しています。※受付開始・当日券販売は開演の40分前、開場は30分前からです。※開演10分前までにお越しいただけない場合、キャンセル扱いとなる場合がございます。チケット前売り4,000円 / 当日券4,300円(全席自由席・日時指定)お問い合わせpro.watashi@gmail.com050-5319-3493(森永)
2017年03月16日発達障害とは?出典 : 発達障害とは、先天的な脳機能の障害で、想定される時期に年齢相応の発達が見られない、または年齢相応のスキルが獲得できないことで日常生活に様々な困難が生じ、それらが持続する状態を指します。その症状は、通常低年齢の発達期において発現します。発達障害はいくつかのカテゴリーに分類され、診断基準によって異なりますが、主なものとして「広汎性発達障害(PDD)」「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」「学習障害(LD)」があります。広汎性発達障害には自閉症やアスペルガー症候群などのコミュニケーションの障害が含まれますが、アメリカ精神医学会の診断基準である『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)という障害名に統合されています。また『DSM-5』ではADHDは注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害、学習障害は限局性学習症/限局性学習障害という診断名となります。これらは互いに重なり合っている場合もり、また知的障害が併存する場合もあります。出典 : 発達障害の診断・検査は受けるべき?出典 : 発達障害のある人が苦手とする年齢相応のスキルとは、言葉やコミュニケーションのスキルや、学習面での読む・書くなどの能力、集団生活でのルールを守るなど、一人ひとり多種多様ですが、それらの獲得が難しいことによって社会で暮らしていく上での困りごとが生じることがあります。身体障害などと違い、このような障害はなかなか第三者からわかりにくいことがあり、「見えない障害」と呼ばれることもあります。発達障害の症状や特性、困りごとは一人ひとり違います。そして周りからは困りごとが見えにくいこと、また発達障害自体が日本で広く知られるようになったのもここ20年ほどであり、誤解されてしまったり理解を得られないこともあるのです。ですが、専門機関に相談することで、それらの特性に気づき、早期にサポートをすることで困りごとが軽減できる場合もあります。持続的な支援のためには、検査や診断があった方が本人の状態がより専門的に把握でき、密な支援が受けられる場合があるのです。また、近年、発達障害者支援法をはじめ様々な法や制度も整備されつつあり、診断や検査を受けることによってそれらの支援や治療法の幅が広がります。本人の障害について理解し、困難に合わせた適切な支援につなげるために、検査や診断は有効な手段の一つだといえます。どのように診断・検査が行われるのか、くわしくご説明します。発達障害はいつ分かる?診断・検査の前の発症年齢は?出典 : 発達障害は、症状や困りごとが現れて初めてわかる疾患です。そのため、障害の種類や程度、性別によっても発症年齢や特徴は異なると言われています。また、必ずしも医療機関による診断がなくても受けられる支援もありますし、検査やアセスメントを受けることで困りごとや特性が把握できることもあります。医療機関を受診するかどうかや、そのタイミングを決めるのは本人や保護者の判断となります。なんらかの症状や困りごとが現れていないか、早期に気づき相談・診断を受け、適切な支援を受けることで、二次障害などを予防しやすくなります。発達障害は、その種類や症状にもよりますが、乳幼児期頃に疑われ始めることが多いと言われています。3~4歳頃には、保育園や幼稚園での集団生活も始まり、ことばやコミュニケーション面など、特徴的な行動や発達の遅れが目立ち始めます。地域の3歳児検診で指摘されたり、園から相談機関を紹介される場合もあります。乳児期の頃であっても、表情が乏しさや視線のあいにくさ、集団の遊びができなかったり、言葉に遅れが見えるなどといった症状から、何らかの違和感に気づくこともあります。また、学習障害(LD)の場合は、読み書きや算数といった学習が始まってから症状が明らかになるため、就学前後の年齢になってから気付く場合がほとんどです。乳幼児期は成長に従い症状や困りごとが軽減したり大きく変わりやすいこともあり、一度出た診断が見直されたり変わることもあります。以前よりは発達障害の認知度があがったものの、見えにくい症状の人もいて、支援の得られない状況で悪化したり、診断が遅くなったりしがちです。周りが障害に気づかず、見逃されている場合も少なくありません。大人になってから初めて判断が下る場合もあります。参考:東戸塚こども発達クリニック発達障害の診断・検査、医療機関での診断基準は?出典 : 発達障害の診断には、アメリカ精神医学会の診断基準である『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)やWHOの診断基準である『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版といった国際的な診断基準が使われている場合が多くあります。『DSM-5』と『ICD-10』では診断名や診断基準が異なる疾患も少なくありません。例えば、『ICD-10』でアスペルガー症候群という診断名は『DSM-5』にはなく、同じような症状を持つ場合、自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害という診断名に当てはまります。そしてカルテや診断書に使用する名称にどちらの診断基準のものを使用するかは医療機関や医師によって差があります。そのため、医療機関の適用する診断基準によっては、診断名が変わってくることもあります。また上でも述べましたが、最初の診断名から成長につれて診断名が変わる場合もあります。参考:『日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』2014年 医学書院/刊発達障害の診断・検査方法出典 : 発達障害の症状は、先天的な脳機能障害が原因となって生じますが、その詳細なメカニズムや、なぜその脳機能障害が引き起こされるのかは遺伝的要因と環境要因が相互に影響して脳機能障害が起きると考えられており、まだはっきりとは解明されてはいません。また、発達障害の症状は様々であり、原因も多様であると考えられ、全ての人に当てはまる唯一の原因はないのではないかとも言われています。このような中、現在の医学では妊娠中の羊水検査、血液検査、エコー写真などの出生前診断で判明することはありません。また、出生後も遺伝子検査や血液検査といった生理学的な検査では診断できません。今後も生理学的な検査方法を確立するのはかなり難しいとも言われています。また、症状の有無について、今のところ数値化された基準がありません。そのため、医療機関で診断を受ける場合、現れる症状について医師が問診や行動観察を行い、次に、問診で得た情報をもとに、心理検査や発達検査などを行います。それらの結果から、『DSM-5』や『ICD-10』などの診断基準を満たしているかどうか、また日常生活・社会生活に著しい不適応を起こしているかどうかなどを総合的にみて診断されます。診断に際しては、その症状が一定期間以上持続することが条件となっているため、何度か検査や経過を見て診断されることもあります。以下に具体的な検査法・診断方法をご紹介します。本人にどのような症状があり、どんな困りごとがあるか行動観察を行ったり、生育歴について問診を行います。子どもの場合は保護者に聞き取ることが多いです。■行動観察遊びの空間で子どもを遊ばせ、それを注意深く観察することと保護者の方へのインタビューに基づいて行われます。■生育歴生まれてから今までの社会性や対人コミュニケーション、言葉の発達、幼稚園・保育園での様子や1歳半健診・3歳児健診での様子などをヒアリングします。発達面で知的障害の疑いがありそうか、発達にどんな特性がありそうかなどを見立てていきます。発達検査とは、子どもの心身の発達の度合いを調べる検査のことです。本人にどのような発達の特性があるか、どこに困難があるかを客観的に見るために、用いられることが多い検査です。様々な側面から子どもの発達度合いを評価し数値化することによって、助けが必要な部分を見つけることができます。発達検査にはさまざまな種類があり、検査ごとに検査結果の表現方法や評価の仕方が異なります。現在、日本では「新版K式発達検査」や「遠城寺式乳幼児分析的発達診断検査」などが使用されることが多い発達検査です。さらに詳しく特性を調べる場合や支援の方法を探りたい場合、このほかの発達検査が用いられることもあります。発達障害には知的障害、てんかん、感覚過敏、鈍麻などのさまざまな合併症を伴う場合があります。合併する障害があるかアセスメントを行ったうえで検査する場合が多いです。また、ほかの障害や疾患によるものかどうかを鑑別するための検査が行われる場合もあります。■知能検査知能検査は心理検査のひとつであり、精神年齢、IQ(知能指数)、知能偏差値などによって測定されます。一般的には、ウェクスラー式知能検査、田中ビネー知能検査などがよく使われています。知能検査を行うことで、発達障害と知的障害の合併の有無を調べます。■脳波検査発達障害の中にはてんかんとの合併リスクがあるものもあるため、場合によっては脳に器質的な疾患や以上がないかどうかCTやMRIをとったり脳波検査を行うことがあります。自閉症スペクトラム障害の子どもの場合は狭い空間に入るとパニックになることもあるので、検査をする際には注意が必要です。■鑑別のための検査発達障害の症状と似ている障害と見分けるため、遺伝子検査や血液検査、その他の様々な検査を行う場合があります。また、精神疾患との合併症の疑いがみられる方には精神病に関する検査を行う場合があります。知能検査や発達検査などは児童発達支援センターや療育機関といった医療機関以外でも、検査を行っているところもあります。これらの検査だけでは確定診断は出ません。診断は、あくまで医師が問診や様々な検査結果から総合的に行います。発達障害の診断・検査をうけるには、どこへ行けばいいの?出典 : いきなり専門の医療機関に行くことは抵抗があるかもしれません。まずは無料で相談できる身近な専門機関の相談窓口を利用するのがおすすめです。子どもか大人かによって、行くべき機関が違うので、以下を参考にしてみてください。【子どもの場合】・保健センター・子育て支援センター・児童発達支援事業所など【大人の場合】・発達障害者支援センター・障害者就業・生活支援センター・相談支援事業所など自宅の近くに相談センターがない場合には、電話での相談にものってくれることもあります。まず身近な相談センターに行って、より専門的な相談や受診の必要があればそこから専門医を紹介してもらいましょう。発達障害者センター一覧|発達障害情報・支援センター【子どもの場合】小児科・児童精神科・小児神経科や発達外来などで受けることができます。たいていは大学病院や総合病院などで診断できます。子どもが通い慣れているかかりつけの個人病院で「発達相談」と記載があれば、まずは相談に行ってみても良いでしょう。【大人の場合】大人になって検査・診断を初めて受ける場合には、精神科や心療内科、発達障害専門の医療機関を受診することが一般的です。児童精神科・小児神経科の中にも大人を見てくれるところもあります。地域にもよりますが大人の発達障害を診断できる病院はまだ数が多くありません。問い合わせてみたり、上記の相談機関で紹介してもらったりするとよいでしょう。発達障害の専門機関は他の病気に比べると少ないですが、発達障害者支援法などの施行によって年々増加はしています。以下のリンクは発達障害の診療を行える医師の一覧です。日本小児神経学会 「発達障害診療医師名簿」診断に必要な持ち物は?出典 : 乳幼児期からの育成記録から特徴を確認するので、その頃の様子が記載された物や、大人の場合は過去の記録が分かるものや、自身で記録したもの、1日のスケジュールとその時の心理的な状況などをメモして持参します。日常生活で困っていることや、気になることもメモしておくとよいでしょう。子どもの場合、気になる行動などがあれば、動画をとっておいてもよいでしょう。以下は子どもの場合、問診の際にあるとよい資料になります。・母子手帳・成績表(通信簿)・保育園や幼稚園時代の連絡ノートなど・学校のプリント・ノートなど(学習障害の疑いのある場合)受診の際には保険証を持参します。問診票の記入が必要な場合もありますので、持ち物や準備は事前に受診する医療機関に確認しましょう。十津川市「発達障害の診断について」まとめ出典 : 発達障害は見過ごされ適切な支援を受けないままだと、症状や特徴的な行動によって誤解を招いたり、人間関係を構築できずに本人が悩むこともあります。また、うまくいかないことが続いたときに、叱咤・非難されるようなことが多ければ、自尊心を失ったり、やる気がなくなることで、本来できていたことも困難になってしまいます。これらを避けるためにもなるべく早めに対応法を考えたいものです。適切な治療やサポートを受けられない場合、思春期以降、上で述べたように知的障害の主症状とは異なる症状や状態を引き起こしてしまうことがあります。このような症状や状態を、一般的に「二次障害」と言うことがあります。二次障害が現れた場合には、それらに対する治療を行うことが必要となります。また、このような症状を引き起こさないためにも、発達障害の早期発見と、早期からの対処が理想です。“障害の検査・診断”というと身構えてしまう保護者もいるでしょうが、子育てをしている中で、子どもの気になる行動や強い困り感があった時には、ぜひ身近な相談機関に相談してみましょう。相談機関では、その行動の理解や対処法を教えてもらったり、必要に応じて専門機関や医療機関を紹介してもらったりすることも可能です。専門機関や医療機関では専門家の検査や診断を通じてお子さんの症状や特性、困りごとをより客観的に知ることができます。これらの情報をもとにお子さんに合った対応をすることで、お子さんの能力をより発揮させ、自信を高めることにもつながります。最初は不安もたくさんあると思いますが、一歩ずつ歩んでいきましょう。参考:岡明/著『発達障害とは何か』(『日本医師会雑誌第145巻・第11号』)日本医師会・2017年/刊参考:古荘純一/編『神経発達症(発達障害)と思春期・青年期』(明石書店・2014年/刊)
2017年02月28日発達障害があると「生きづらい」?出典 : 歳の発達障害の息子を育てていると、ごく当たり前のように「この子が生きづらくないように」と考えている自分がいます。「生きづらさ」という言葉は、発達障害児を育てていると頻繁に見聞きするものではないでしょうか。大人になっても「生きづらさ」を感じている人は沢山います。発達障害でなくても「生きづらさ」を感じている人は沢山います。でもやはり、発達障害の息子を見ていると、私はいつも「この子は生きづらいだろう」と感じてしまうのです。そして、「どうやったらこの子の生きづらさが取り除けるだろう」とそればかり考えています。では一体、発達障害児の「生きづらさ」って何なのでしょうか。発達障害特有の困難さは、支援で克服できることも増えてきた出典 : 息子には発達障害児特有の様々な困難があります。言葉の使い方が変わっているのでお友達に不思議がられたり、お友達の輪に入るのが好きではなかったり、聴覚や触覚が過敏だったり、運動が苦手だったり、手が不器用だったり…。これらの困難のために、息子は集団の中で様々な苦労をしているようですが、それは息子が自己肯定感を落とす直接的な原因になっていないようなのです。今は、支援方法がかなり確立されています。運動が苦手だったり、手先が不器用だったりしても、先生方や私たち親の工夫次第で結構頑張れてしまうようです。例えば息子は運動会で足が遅いことをずっと気に病んでいましたが、今は発達障害児専門のスポーツ支援の本などが結構出ています。先生方はそれに基づいて、息子に走り方の指導をしてくださいました。おかげで、運動が苦手なことで息子がひどく落ち込むようなことはありません。また、気にして見ていると、発達障害児向けの学習支援グッズなども沢山発売されています。私はそのようなグッズを探して購入したり、自分で作ってみたりしました。ですから、息子が手先の不器用さでひどく生きづらさを感じているようなことはありませんでした。また、私も幼稚園の先生も決して息子に友達の輪に入ることを強制しませんでした。周りが「この子はこういう子だ」と淡々としていれば、本人はそれほど気に病まないのです。運動や手先の不器用さなどについては支援で克服できることは結構多く、それが即息子の「生きづらさ」に繋がるわけではないように思いました。では何が「生きづらさ」につながっているのだろう。私が息子を見ていて気付いたこと出典 : けれども、どんなに支援をして息子の困難を取り除いても、私はやっぱり「この子は生きづらいだろうなあ」と感じてしまう瞬間があるのです。それは何かといえば、息子の「認知のズレ」です。例えば、息子とのやり取りで以下のようなことが毎日のように起こります。・誰かが息子の言ったことが可愛くて笑った。→「僕のことをバカにして笑っただろう」と激怒orパニック。・何かについて「ダメだよ」と注意された。→ 「この人は僕を嫌っている」と激怒。・何かの問題が難しくて解くことができなかった。→「僕はどうしようもないバカなんだ」と落ち込んで立ち直れない。・先生に「これはいけないよ」と注意される→「僕はいつも先生に叱られているダメな奴だ」と思う。・誰かが息子をからかう。→「みんなが自分を嫌っている」と落ち込む。このように、息子には認知のズレがあり、物事を過度に一般化したり、そうかと思えば突然自責の念にかられたりするところがあります。また、物事を白黒極端に捉える傾向もあり、「え?どうしてそんな風に考えちゃうの??」ということが頻繁にあります。その思考を助長するのが、相手に否定語で何か言われたり、ちょっと笑われたりということなのです。「認知のズレ」は支援することが難しい。私が息子に接するときに心がけていること出典 : 息子の生きづらさの根本的な原因について考えたとき、この「認知のズレ」が大きいのではないかと思うのです。そして、こういった認知のズレは、支援することがとても難しいです。手の不器用さや学習上の困難などは、支援グッズを使いながらなんとか解決の糸口を見つけ出すことができました。けれども、「認知のズレ」だけは、長い時間かけて手探りで修正していくしかないのです。支援グッズを使うでもなく、支援方法が確立しているでもない。私たち親ができることは、ただただ失敗したり落ち込んだりしている子どもに辛抱強く語りかけていくことだけです。だからこそ、認知のズレは親にとっても子ども本人にとっても「生きづらさ」へとつながっていくのかもしれません。けれども、だからこそ、発達障害の子には、なるべく大きな失敗をしないように環境調整をすることに意味があるのだと思います。私は息子の生きづらさを知ったうえで、人間関係や学習などで大きな失敗をさせない、挫折をさせない、本人が乗り越えられるハードルをうまく設定しながら成功体験を増やすことに集中しています。なかには、それは過保護だという人もいます。けれども、認知にズレがあるからこそ、ひとたび大きな挫折でボッキリと折れてしまうと、それを立て直すのに大変な労力がいるのです。また息子の場合、大きな失敗をすることで、他者への不要な憎しみや恨みが長いこと心に残ります。大きな失敗や挫折の体験は、発達障害の子どもの生きる糧にはなりづらいと私は思います。私は失敗を乗り越えさせることに力を振り絞ることよりも、成功体験を積ませることに力を使っていきたいです。発達障害の子どもにとって、小さな成功体験の積み重ねが心の体力になっていきます。心の体力があれば、多少の認知のズレがあっても、自分で態勢を立て直すことができるはずです。認知のズレそのものを修正するために躍起になるよりも、小さな成功体験を増やしていくことに重点を置いていくほうが、親も前向きに取り組むことができるのではないでしょうか。生きづらさは、心の体力で克服できるものだと私は信じています。
2017年02月23日こんにちは、親子でADHD(注意欠陥・多動性障害)をやっています、ママライターの木村華子です。息子の発達障害を疑ったのは、小学校へ入学してすぐのこと。夏休み前に行われた担任と保護者の二者面談で、私は息子の発達障害を疑っていること、 そして受けることのできる支援や相談窓口があれば教えてほしい旨を伝えました。ところが担任の口から発せられたのは、「発達障害だなんて!お母さん、そんなに思いつめなくても大丈夫ですよ」という慰め(?)の言葉。結局その後一年間、何のアプローチもないまま息子の不得意は放置 されてしまいました。当時の私は、「どんな支援があるのか分からない」「どこに相談すれば良いのか分からない」「そういう機関を利用する際には、学校を介さなければいけない気がする」などの疑問や思い込みから、「担任が気付いてくれなければ何もできない……」と動き出せずにいたのです。今考えると、その時点で親としてしてあげられることがあったのだと分かります。今回は、早期療育の大切さと、発達障害の相談窓口についてをお話しします。「うちの子もしかして……」と思い始めたパパ・ママへ、いち早くお子様へのアクションを起こすヒントにお役立てください。●早期療育の大切さ〜放置は二次障害の原因に!〜2年生になったばかりのころ、新しい担任から療育センターへ行くことを勧められ、ようやく息子への支援が行われるようになりました。発達障害を受け入れ支援に踏み切ることは、多くの親にとって勇気のいる決断ですが、息子の凹凸を考慮したアドバイスや指導により、私たち親子がこれまでの育児で乗り越えられなかった課題や問題が日々改善されていく様子 には、「もっと早く相談すれば良かった!」と思わせるだけのメリットがありました。と同時に、カウンセリング・検査・相談等の過程で相談員の方や支援学級の先生から何度も聞かされた「早期療育が大切」という言葉に、親としての反省と後悔も感じています。発達障害を放置し、適切な対応をせず過ごしていると、・できないことを友人になじられたり・先生や両親から怒られたり・いくら頑張っても成功しなかったり……という失敗経験を重ねて自己評価が低くなり、高い確率で別の障害(不安障害やうつ病、統合失調症など)を引き起こす原因になってしまう のだそうです。これを“二次障害”と言い、思春期の引きこもりや不登校、家庭内暴力、犯罪行為などにもつながると言われています。カウンセリングで「“もう手遅れ”ということはないけれど、療育をはじめるのは早いに越したことはありませんよ」というアドバイスを受け、私は子どもが1年生の段階で気が付いていたのに……と少し後悔しました。きっと、担任の動きを待つあいだにできることがあったはずです。発達障害の特性でつらい思いをするのは本人。二次障害を予防するためにも、ぜひ「うちの子もしかして……」と気が付いた段階で適切なアクションを起こしてあげたいものですね。●「うちの子もしかして……」と感じたときに相談できる窓口4つ「発達障害の支援を受けるには学校との連携が不可欠なのだから、相談も学校を介さなければいけない気がする……」と、特に行動をしないまま息子の1年生を過ごしてしまった私。しかし後になって、ダイレクトに相談できる機関がいくつも存在していることを知りました。もちろん、普段の様子を知っている学校や幼稚園、保育園の担任に相談することも大切です。しかし、私のように不安がうまく伝わらなかった場合や、「どこに相談すべきか……」とお悩みであれば、ぜひ以下の窓口で支援や相談の第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。●(1)発達障害者支援センター発達障害を持つ大人や子どもへの支援を総合的に行う専門機関。“発達障害”と名が付いていますが、「まだ診断されたわけじゃないんだけど……」という方でも相談や支援を受けることができます。●(2)児童相談所虐待児保護の印象が強い児童相談所ですが、業務には“児童に関するさまざまな問題について、家庭や学校などからの相談に応じる”という項目があり、0〜17歳の児童 を対象に発達障害の心身障害相談も行われています。●(3)市町村保険センター地域の母子保健・老人保健の拠点を担う施設。未就学児や小学生だけでなく、高校生や大人の発達障害にまつわる相談 も行われています。相談は予約制となるケースが多いので、利用の際は前もって問い合わせを。●(4)子育支援センター乳幼児(0歳〜就学前)のいる親子の交流や育児相談、情報提供などを行う子育支援センターでは、教育不安などの相談・指導を受けることもできます。発達障害児のサークル活動が行われているケースも。●早期発見で、二次障害を食い止めて!お子様の様子を誰よりも見ているパパ・ママが感じる「もしかして……」には、わが子からのSOSが隠れているのかもしれません。もしそうなら、一刻も早く最適な対応を施してあげたいものですよね。お子様を取り巻く環境をより良いものにするためには、周囲の大人が動きだすこと が必須です。ぜひ早期発見・早期養育をして、二次障害の予防につなげてあげてください。【参考リンク】・相談窓口の情報 | 発達障害情報・支援センター()・平成28年度全国児童相談所一覧 | 厚生労働省()●ライター/木村華子(ママライター)
2017年02月22日・ 【第1回】発達障害の子育てに「療育」よりも大切なこと ・ 【第2回】発達障害の子どもが、充実した人生を送るために必要なこと ・ 【第3回】発達障害の子育てを「辛い、苦しい」と感じたら のつづきです。「発達障害」をもっと理解するために必要なことを、『療育なんかいらない!』の著者であり、独自の理論で放課後デイサービスを展開する「アイム」の佐藤典雅さんにインタビュー。今回は、「発達障害の子育てを楽しむコツ」についてお話を伺った。佐藤典雅(さとう・のりまさ)さん川崎市で発達障害の子どもをサポートする放課後デイサービス「アインシュタイン放課後」「エジソン放課後」を運営している、(株)アイムの代表。自身の自閉症の息子さんの療育のために、息子さんが4歳の時に渡米して、ロサンゼルスで9年間過ごす。前職は、ヤフー・ジャパンのマーケティング、東京ガールズコレクションとキットソンのプロデューサーという異色の経歴の持ち主。福祉という範囲を超えた目線で、自身の息子さんの成長を見守りながら、発達障害児が社会で幸せに生きるための道を広げる挑戦をしている。著書: 『療育なんかいらない!』 (佐藤典雅・著/小学館 ¥1,296 税込)※放課後デイサービス(= 放課後デイ):6~18歳までの障害のある子どもが放課後や学校休業日に利用できる、就学時向けの福祉サービスのこと。■子どもの障害は親のせいではありません―― この連載もいよいよ最終回。いろいろ伺ってきましたが、ずばり、佐藤さんが思う発達障害の子育てを楽しむコツって何でしょうか?佐藤典雅さん(以下、佐藤さん): まず、親自身がハッピーであること、充実した楽しい人生を送ることです。人が他人を幸せにするのは無理。幸せって自分が作り出す状態だから。状態である以上、自分で作り出すしかないんですよ。―― 子どもの障害に対して、親は自分の人生すべてを捧げるべきという風潮がありますよね。そういう中、親は自分のことを優先しにくいのかもしれませんね。佐藤さん: でも、親が療育に必死になって、「子どもには充実した人生を送ってほしい」ってボロボロな状態になっていたら、それを見た子どもがうれしいわけがないよね? こんなの、子どもにとっては重荷でしかない。―― 自分を犠牲にしてまでがんばってしまうのは、もしかしたらお母さんは「自分に責任があったのでは?」と感じてしまうからかもしれません。「妊娠中に無理したのが良くなかったのかな?」とか「早くから預けて働いたのがいけなかったのかな?」とか、いろいろ考えて自分を責めてしまうのかもしれません(※)。※もちろん発達障害の原因にそんな根拠はありません。佐藤さん: 子どもの障害は親のせいではありませんよ。僕は、それぞれの人にはそれぞれの生まれ持った宿命と人生があるのだと思っています。そして、その子どもが自分の人生の使命をまっとうできるようにサポートするのが親の役割。後は、親自身が自分の人生を楽しむのが、親の仕事だと思っています。―― 障害者の親って他の保護者より制限があるように思えるのですが、人生を楽しむことってできるのでしょうか?佐藤さん: 大切なのは、子どもに障害があろうがなかろうが、いかに、自分が今の状態を楽しめるか? なんですよ。お母さんが自分の人生を謳歌していれば、子どももその姿を見ていて楽しくなるでしょう。もちろん、普通の子育てより大変なことは多いですよ。でも、地獄で幸せになれない人は、天国にいっても絶対幸せになれませんから!―― どういう意味でしょうか?佐藤さん: 地獄で「暑い、暑い」って言ってる人は、天国に行けったら、絶対「暇だ~、なんかつまんない~」とか言い出すから。―― おもしろい考えですね(笑)。また、お母さんが生き生きとするためには、お父さんの存在も欠かせませんよね?佐藤さん: もちろんです。でも、残念ながら、うちの放課後デイに親子が面談にやってくる時、夫婦そろって来られるのは一割以下。平日の昼間、お父さんは仕事だから仕方がないにしても、お母さんの話からお父さんの存在が見えない家庭が多いのです。―― 療育センターなんかでも、付き添いはお母さんばっかりですものね。佐藤さん: 父親がちゃんと関わってくれないと、母親のストレスは2倍になります。日々の小さいことまでフォローする必要はないのかもしれないけど、重要なことには決断を下し、時々、お母さんの頭の中を整理してあげてほしいと思います。それに、話を聞いていると、お父さんの意見は結構合理的で的を得ているんですよ。なので、お母さんたちも、もう少し素直にお父さんの意見を聞いてあげてほしいと思います。■先輩お母さんとつながろう。人脈をどんどん広げよう―― 旦那が一緒になって考えてくれる、それだけでお母さんは十分心強いと思います。あと、私が心強かったのは、同じ悩みを持つお母さん仲間とのつながりです。佐藤さん: ただ、療育センターでは同じ年頃の子どもを持つ親同士でしか接点がないよね? 特に、就学前は一番不安な時期だし、子どもの先の姿が想像できない。だから、同世代だけで集まると不安を交換しあって、不安だけが増幅してしまうという難点もあります。―― 確かに。いつも同じメンバーで、ぐるぐると同じ話になってしまいがちなところもありましたね。佐藤さん: 一番有効なのは、発達障害をもつ未就学児のお母さんは、同じ発達障害を持つ中学生の親から話を聞くこと。すでにいろいろ経験してきたお母さんたちは、いろいろな情報を持っているので役立つアドバイスをくれます。わが子の将来のイメージもつかみやすいので、お母さんもあんまりパニックにならないですむ。違う世代とつながりを持つことをおすすめします。―― でも、なかなか違う世代とつながる機会がないのですが……。佐藤さん: うちの放課後デイに遊びにいらっしゃい! いろんな先輩お母さんがいるから。みんな仲が良くて、よくバーベキューやクリスマスパーティーしたり、頻繁に交流会をしていますよ!ただ、おもしろいんだけど、うちのお母さんたちが集まっても、みんな誰も子どもの話をしないんですよ。子どもそっちのけで、爆笑トークで盛り上がってるの(笑)。でも、これこそが健全な姿だと思うわけ。―― みなさん、佐藤さん同様、笑い飛ばす力を持っているんですね!佐藤さん: 発達障害の子育てをする親は、特に、開かれた視点で物事をみつめなおす必要があります。療育に通うのに夢中になっていると、気づいたら、接するのは療育センターの先生か学校の先生かママ友だけになってしまいますよ。意識的に努力して、開かれたマインドをもっておかないと。―― 人脈もどんどん広げるべきなんですね。佐藤さん: 例えば、子どもが興味のある業種に人脈を作って、その企業にインターンできるようにするとか、どうでしょう? うちの長女は将来ゲームクリエイターになりたいと言っているので、僕はプロが使うAdobeのフォトショップを覚えさせたり、夏休みは友達の会社でインターンさせたりしています。もちろん、中学生だからたいしたことはできないんだけど、興味ある業界で普段接することのない大人と過ごすことができるのは刺激的でしょう。それができたのは、僕に人脈があったから。―― なるほど! 子どもの興味があることにつながる人脈力か……。佐藤さん: 世の中にはいろんな人います。いろんな人と会って話して、どんどん外の世界に出て行ってほしい。自分の親とか同じ学校とか、同じマンションとか、同じ世帯年収とか、そういう狭い世界だけでみて、こうあるべきだと決めつけないでほしい。臨機応変に考えられるように、いろいろな情報収集をしてほしいと思います。 ■運命を受け入れることも、大切―― ところで、ここの子どもたちはとても自由に寛いでいますね(取材中の様子を見ながら)。図鑑に没頭している子もいれば、ボール遊びをしている子もいるし、寝ている子もいれば、カラオケで熱唱している子もいる(笑)。佐藤さん: 僕は、自分の放課後デイを「川崎のNASA」と呼んでいます。なぜなら、発達障害の子は宇宙人みたいなものだから。僕の役割は地球側の外交官みたいなもので、彼らの地球滞在が充実したものとなるように努めること。そして、いつか彼らが宇宙船に乗って地上に降りてきた時に、「あの時はありがとう」と言ってくれればいいな、と妄想しています(笑)。―― その妄想、素敵です(笑)。佐藤さん: 発達障害はガンダムのニュータイプみたいなもんで、既成概念の外にいる子どもたちなのだから、親の方も子どもに常識を求めるのはナンセンス。期待すればするほどドツボにはまるだけ。そしてもっというと、親自身も「こうあるべき」「こう育つべき」っていう規制概念の呪縛から出る必要があります。―― そう考えると、発達障害の子どもたちは、親に、子育てで忘れがちな、とても大切なことを教えてくれているのかもしれませんね……。佐藤さん: ちょっと話それるけど、みんなよく「結婚して幸せになりたい」とか言うじゃない? でも、結婚したって離婚する人もいるし、結婚は幸せを保証するものじゃない。「結婚すれば老後がさみしくない」っていう人もいるけど、うちのお祖母ちゃんはお祖父ちゃんが早く死んじゃったから、30年間ひとりだったわけ。結婚はさみしくない老後も保証しない。つまり、人生は何が起こるかわからない。だから、一生懸命人生の方程式を作ったって無駄なんですよ。―― では、どこを目指したらいいのでしょうか?佐藤さん: 死ぬときに本人が充実した人生だったと納得して死ねるか、そこしかないと思うんです。だから、子どもに障害があっても、お母さんは自分の人生を思いっきり生きるべきなんですよ! ―― 「やりたいことがあったなら、とりあえずやっておけ!」と?佐藤さん:そう。そして、運命というのか宿命というのかわからないけど、ある程度、受け入れることも重要だと思っています。自分にそういうカードがまわってきたということは、巡り合わせだと。―― 佐藤さんがまったくの異業種から福祉の世界に入ったのも、運命なのですね。佐藤さん: 福祉が大嫌いだった僕が、今福祉の世界で仕事をしているのも、きっと何か理由があるから(笑)。だとしたら、グダグダ文句言ってないでしっかりやりきろう、と。今目の前のことをやりきらないと、次のステージは見えてきません。それに、僕は一生福祉の世界で生きていくつもりはないので、せめて「他の福祉施設よりも結果を出してから辞めてやる!」と思っています(笑)。長時間にわたり、自身の熱い思いをしゃべり倒してくれた、佐藤さん。時に、厳しい指摘もあったが、ユーモアたっぷりの話しぶりで、発達障害の子育ての凝り固まった偏見や閉塞感を気持ちよくブチ壊し、勇気を与えてくれた。そして、著者は何より、佐藤さんのポジティブな姿勢と、常に息子さんの幸せな人生を考え、全力で取り組んでいる行動力に深い感銘を受けた。「この子なりの楽しい生き方ってなんだろう?」「この子が充実した人生を送るために、親として何ができるだろうか?」発達障害の子育てで、本当に親が悩むべきところは、そこにあるはずだ(もちろん、普通の子育てだって変わらない)。そして、大切なことは「子育てを楽しむ」ということを、常に忘れないでいたい。取材・文・撮影/まちとこ出版社 【大変だけど、不幸じゃない。発達障害の豊かな世界】 全4回・ 【第1回】発達障害の子育てに「療育」よりも大切なこと ・ 【第2回】発達障害の子どもが、充実した人生を送るために必要なこと ・ 【第3回】発達障害の子育てを「辛い、苦しい」と感じたら ・ 【第4回】発達障害の子育てを楽しむコツ
2017年02月18日・ 【第1回】発達障害の子育てに「療育」よりも大切なこと のつづきです。わが子の発達が気になり、「もしかしてうちの子は発達障害なのでは?」と不安に思ったことがあるかもしれない。発達障害をもっと理解するために必要なことを、『療育なんかいらない!』の著者であり、独自の理論で放課後デイサービスを展開する「アイム」の佐藤典雅さんにインタビュー。今回も引き続き、「療育よりも大切なもの」についてお話を伺った。佐藤典雅(さとう・のりまさ)さん川崎市で発達障害の子どもをサポートする放課後デイサービス「アインシュタイン放課後」「エジソン放課後」を運営している、(株)アイムの代表。自身の自閉症の息子さんの療育のために、息子さんが4歳の時に渡米して、ロサンゼルスで9年間過ごす。前職は、ヤフー・ジャパンのマーケティング、東京ガールズコレクションとキットソンのプロデューサーという異色の経歴の持ち主。福祉という範囲を超えた目線で、自身の息子さんの成長を見守りながら、発達障害児が社会で幸せに生きるための道を広げる挑戦をしている。著書: 『療育なんかいらない!』 (佐藤典雅・著/小学館 ¥1,296 税込)※放課後デイサービス(= 放課後デイ):6~18歳までの障害のある子どもが放課後や学校休業日に利用できる、就学時向けの福祉サービスのこと。■いろいろなものに肌で感じる接点を持たせること―― 引き続き、佐藤さんが発達障害の子育てにおいて、療育よりも大切だと感じていることについて伺いたいと思います。佐藤典雅さん(以下、佐藤さん):いろいろなものに接点を持たせることだと思っています。「こんな場所があるんだ」「こういう大人もいるんだ」と、肌で感じさせること。それ自体がその子の人生を変えるわけではありませんが、肌で感じることの重要性はあると思っています。だから、うちは遠足でアップルストアとかに連れて行ったりしています。―― それは楽しそうですね! でも、子どもたちの高価な電子機器の扱いに不安はありませんでしたか?佐藤さん: それが、スタッフの心配をよそに、みんなちゃんとテーブルについて、iPadが配られると指示に従って操作していたんですよ! 普段教室ではみんな全然人の指示を聞かないのに(笑)。これには本当に驚きました。アップルストアも発達障害の子を受け入れるのは初めてだったらしいけど、「普通の子たちとまったく変わらないペースで体験プログラムができましたよ」って喜んでいました。―― 発達障害があってもなくても、子どもはみんなiPadやスマホをいじるのが大好きですよね。佐藤さん: 僕は、障害者だろうが健常者だろうが、子どもの頃から電子機器にどんどん触わらせるべきだと思っています。これからの世の中、仕事をするときにPCスキルがないことは致命的。だから、うちは電子機器がすごく充実しています。パソコンが8台にiPadも数台、それに最新のVRも。子どもたちがVRのゴーグルとつけると、みんな大興奮して遊んでいますよ。―― でも、子どもが電子機器やゲームに夢中になることに、否定的なお母さんも少なくないように思いますが?佐藤さん: うちに通っている親にも、子どもにパソコンやiPadをやらせることを嫌がるお母さんはいますよ。でも、そういうお母さんには、いつも「ビルゲイツが1日30分しかパソコンさわっていなかったら、マイクロソフトを作っていませんよ」と言っています。昔、「漫画を読むとバカになる」とか「ビートルズを聴くと不良になる」などということも言われていたけど、それと同じで、どの時代にも常に新しいものに対するアレルギーはあるものなんです。―― 私も息子を見ていて、電子機器との相性の良さを感じています。「いつどうやって覚えたの?」とビックリするほどiPadやスマホをスラスラと操っていたり、勝手に新しい知識を仕入れてきたり。でも、一人でiPadに没頭している姿を見ていると、ちょっと不安を覚えてしまうことも。やはり、子ども同士で交流を持って遊んでほしいという願望が湧いてしまうのですが(苦笑)。佐藤さん: うちに通う親からも、よく「同じ年頃の子どもと交流させたい」って言われるんだけど、うちの子たちにWiiを与えると、同世代の子たちが集まって遊びますよ。しかも、誰にも言われなくても、ちゃんと順番とルールも守って(笑)。それに、NHKスペシャルで東田直樹君(※)も言ってたじゃない?「大人は友達作れって言うけど、僕、いなくても幸せです」って。うちに通っている子どもたちも、一緒に遊んだりしなくても友達の名前は憶えているし、だいたい一緒にいるのが嫌だったら違う部屋に逃げるから。遊んでいないから交流してないというわけではない。それは、全部大人の既成概念の押しつけなんですよ。 ■子どもの将来を心配する前に、まず目の前のことに全力で取り組もう。―― その子なりの距離感があるはずだし、友達の定義だって人それぞれ違うはずですものね。自分の既成概念の枠の中で子どものことを見てしまう、この癖は意識して外す努力をした方がよさそうですね(苦笑)佐藤さん: 僕が放課後デイをやるようになって感じるのは、やればやるほど、日常の積み重ねでしかないということ。日々のトライ&エラーです。でも、僕は、小さいことの積み重ねが大きな奇跡を起こすと思っています。みんな、「ここの療育に通っていれば良くなる」って大きな奇跡を期待するけど、そんなのはない。いろいろやってきて、1年間振り返った時、「あれ? なんか最近言葉が増えた?」というふうに、奇跡って振り返って実感するものだと思っています。―― 発達障害の子どもも、スピードはゆっくりだけど成長します。今の子どもの姿がすべてではない。……でも、頭ではわかっているはずなのに、先のことばかり考えて不安になってしまうときも(苦笑)。佐藤さん: 子どもの将来に対して、そりゃ、僕だって不安はありますよ。でも、わからないこと悩んだって仕方ないでしょう? それは、独身の女性が「将来の私の旦那さんは……」って言っているのと同じだよね(笑)。人生には順序があって、AをクリアしなければBはこないんですよ。それをすっとばしてZのことを考えても仕方ない。まず、目の前のことをしっかり考えましょうよ!―― 先のことがわからないのは、発達障害の子育ても普通の子育ても一緒ですね。佐藤さん: そうです。親は、今自分の子どもには何ができるか? 何だったら期待していいか、また期待できないか? しっかり精査すること。例えば、動物が好きだったら動物図鑑をそろえてあげたり、パソコンが好きだったらある程度の環境設定をしてあげたり、その子が興味を持っている環境をそろえて、その子の進歩を促すことが大事だと思います。―― がっちゃんはもうすぐ高校生ですよね? 息子さんのために、今、佐藤さんが取り組んでいる目の前の課題は何ですか?佐藤さん: 僕は、アメリカから帰国した時、がっちゃんを通わせたいと思える施設がなかったから、自分で作ろうと思って、たまたま放課後デイから事業を始めました。だから、うちの子の成長に合わせて、フリースクールや就労支援の事業も計画しています。今年の4月には、フリースクールもオープンしますよ!―― 常に、息子さんが充実した人生を送るにはどうしたらいいのか、ということを考えて行動している、佐藤さん。その行動力、見習いたいものです!佐藤さん: 今は、普通に就職することが難しい子たちに対して、その受け皿は就労支援という一つしかない。だったら、うちでその受け皿も作ろう!と。もっと儲かりながら楽しい就労支援を計画しています。―― 確かに、今の就労支援で得られる報酬はほんのわずかです。このシステムでは障害者の自立は難しい……。佐藤さん: みんな、福祉は感動とか想いだと思っている。でも、そんなのは働き手の都合であって、僕は、福祉で一番重要なのはシステムだと思っています。例えば、駅で車いすの人が電車に乗りやすいように、エレベーターをつける。このエレベーターというのはシステム。やった人の感動や気分の問題ではないんです。社会の多くの一般の人と障害を持っている人とのギャップを埋めるシステムをどうやって福祉で作っていくか、そこを考えていきたい。発達障害と就労支援はとても難しいテーマだ、という佐藤さん。でも、もうすでに、具体的な就労支援の計画を3つも持っていた!(ただし、計画段階なのでまだ記事にはできません)ぜひ、この難題に対する答えを開拓し続けてほしいと思う。次回、第3回は、「発達障害の子育てにおいての親の心の持ち方」についてお伺いします。※東田直樹くん 「自閉症の僕が跳びはねる理由」 (エスコアール)や絵本、詩集など多数執筆。2016年12月11日(日)のNHKスペシャル「自閉症のきみがおしえてくれたこと」で出演されました。取材・文・撮影/まちとこ出版社
2017年02月13日